以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、以下に実施形態として記載されている内容又は図面に記載されている内容は、あくまでも例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、任意に変更して実施することができる。また、各実施形態は、2つ以上を任意に組み合わせて実施することができる。
また、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
図1は、本発明の一実施形態に係るタッチスイッチシステム100のブロック図である。タッチスイッチシステム100は、タッチスイッチ10と、タッチスイッチ10へのタッチ操作を検出するためのタッチスイッチコントローラ50とを備える。タッチスイッチコントローラ50は、タッチスイッチ10へのタッチ操作を検出したときに、当該タッチ操作による入力指示を外部機器70に伝達する。これにより、外部機器70が、タッチスイッチ10へのタッチ操作に基づいて制御される。なお、ここでいう外部機器70とは、例えばアミューズメント機器、家電、医療機器、セキュリティ関連機器、現金自動預け払い機、券売機等である。
図2は、本発明の一実施形態に係るタッチスイッチ10の上面図である。タッチスイッチ10は、相互容量方式の静電式タッチスイッチである。タッチスイッチ10は、ドライブライン電極11と、ドライブライン電極11に交差するレシーブライン電極12と、ドライブライン電極11とレシーブライン電極12との交差部分に形成されるスイッチ部13と、を備える。ドライブライン電極11とレシーブライン電極12とはマトリクス状に配置される。そして、タッチスイッチ10では、スイッチ部13が指等により押下されることで行われるタッチ操作が検出される。なお、本発明におけるタッチスイッチ10は、少なくとも前記ドライブライン電極11、前記レシーブライン電極12、及び指等により押下されるスイッチ部13を備えていればよく、例えばタッチパネル等も含まれる。
ドライブライン電極11は、後記する増幅回路53に接続される接続線11aと、ひし形(ダイヤモンド型)の電極11bとを備える。図2に示す例では、電極11bは左右方向に16個配置され、これらは接続線11aにより相互に接続される。また、ドライブライン電極11は、図2に示す例では、上下方向に8本配置されている。
レシーブライン電極12は、後記する電流電圧変換回路55に接続される接続線12aと、ひし形(ダイヤモンド型)の電極12bとを備える。図2に示す例では、電極12bは上下方向に9個配置され、これらは接続線12aにより相互に接続される。また、レシーブライン電極12は、図2に示す例では、左右方向に15本配置されている。
スイッチ部13は、上記のように、ドライブライン電極11とレシーブライン電極12との交差部分に形成される。具体的には、スイッチ部13は、ドライブライン電極11を構成する接続線11aと、レシーブライン電極12を構成する接続線12aとの交差部分に形成される。従って、タッチスイッチ10では、接続線11aと接続線12aとの交差部分に形成されるスイッチ部13へのタッチ操作(押下)が検出される。
図3は、本発明の一実施形態に係るタッチスイッチ10の分解斜視図である。タッチスイッチ10は、ドライブライン電極11を配置した透明なシート11cと、レシーブライン電極12を配置した透明なシート12cとを備えて構成される。これらのうち、ドライブライン電極11は、シート11cの紙面手前側の表面に配置される。また、レシーブライン電極12は、シート12cの紙面手前側の表面に配置される。そして、タッチスイッチ10は、ドライブライン電極11を配置したシート11cと、レシーブライン電極12を配置したシート12cとを重ね合わせることで構成される。そのため、上記の図2のようにシート11c,12cを重ね合わせた際には、ドライブライン電極11とレシーブライン電極12とは、シート12cを介して異なる面に配置される。
シート11cに配置されるドライブライン電極11は、透明シートの表面に透明電極材料をドライブライン電極11の形状に配置することで形成される。透明シートは、例えばガラスシートである。また、透明電極材料は、例えば酸化インジウムスズである。シート11cの作製に際して、透明シートへの透明電極材料の配置は、例えばフォトリソグラフィ法を使用し、接続線11a及び電極11bの電極パターンを形成することで、行うことができる。
また、シート12cに配置されるレシーブライン電極12も、透明シートの表面に透明電極材料をドライブライン電極11の形状に配置することで形成される。透明シート及び透明電極材料の具体例は、上記のドライブライン電極11と同様である。また、シート12cの作製も、上記のシート11cの作製と同様の方法により行うことができる。
図1に戻って、タッチスイッチコントローラ50は、交流信号送信部50Aと交流信号受信部50Bとを備える。交流信号送信部50Aは、タッチスイッチ10のドライブライン電極11に交流信号(第1交流信号)を送信するためのものであり、発振回路52と、増幅回路53とを備える。交流信号受信部50Bは、レシーブライン電極12から交流信号(第2交流信号)を受信するためのものであり、位相シフト回路54と、電流電圧変換回路55と、増幅回路56と、バンドパスフィルタ57と、掛算回路58,61と、ローパスフィルタ59,62と、AD変換回路60,63(アナログデジタル変換回路)とを備える。
また、これら以外にも、タッチスイッチコントローラ50は、交流信号を送信する対象となるドライブライン電極11、及び、交流信号を受信する対象となるレシーブライン電極12を切り替えるためのスイッチセレクタ64を備える。さらに、タッチスイッチコントローラ50は、詳細は後記するが、AD変換回路60,63の出力(後記する2つの直流信号)に基づいてスイッチ部13(図2参照)へのタッチ操作の有無を判定するためのタッチ判定部51e(図5参照)を含む演算制御部51を備える。
演算制御部51は、タッチスイッチコントローラ50における測定結果に基づいて、タッチスイッチ10へのノイズの有無及びタッチ操作の有無を判定するものである。また、演算制御部51は、判定結果に基づいて、外部機器70を制御するものである。ここで、はじめにタッチスイッチコントローラ50における信号の流れについて説明し、次いで、演算制御部51の機能について説明する。
まず、演算制御部51は、発振回路52に対し、正弦波(sinωt)を出力すべき旨の指令を送信する。同時に、演算制御部51は、位相シフト回路54に対し、発振回路52からの正弦波の位相をm及び(m+π/2)ずらして変更すべき旨の指令を送信する。即ち、詳細は後記するが、位相シフト回路54では、周波数が同じであるが異なる位相の信号が2つ生成する。そして、発振回路52は、正弦波を生成し、正弦波(交流信号)を増幅回路53及び位相シフト回路54に送信する。増幅回路53に送信された正弦波は、振幅が増幅された後、タッチスイッチ10のドライブライン電極11(図2参照)に送信される。増幅回路53によって増幅された振幅の信号をドライブライン電極11に送信することにより、タッチスイッチ10でのタッチ操作により生じる小さな静電結合を感度良く検出できる。
一方で、位相シフト回路54に送信された正弦波の位相は、上記のように、m及び(m+π/2)だけずらされる。そして、位相をmずらされた正弦波(sin(ωt+m))は、掛算回路58に送信される。また、位相を(m+π/2)ずらされた正弦波、即ち、余弦波(cos(ωt+m)。即ちsin(ωt+m+π/2))は掛算回路61に送信される。位相をmずらすことで、タッチ操作が行われたときの信号変化を検出し易くすることができる。なお、位相シフト回路54と、掛算回路58,61とは図示しない回路基板内で直接接続されているため、位相シフト回路54の正弦波及び余弦波は、増幅されずにそのまま掛算回路58,61に入力される。
なお、タッチスイッチ10では、スイッチセレクタ64により、ドライブライン電極11ごとに上記の正弦波が送信される。即ち、図2に示す例では、8本のドライブライン電極11のそれぞれに、1本ずつ正弦波が送信される。一方で、レシーブライン電極12(図2参照)に対しては、ドライブライン電極11から、位相差角α(後記する)だけずれた正弦波(sin(ωt+α))が伝達する。そこで、タッチスイッチ10では、スイッチセレクタ64により、レシーブライン電極12ごとに上記の正弦波が受信される。なお、位相差角αは、ドライブライン電極11とレシーブライン電極12との間の静電結合等に起因して生じるものである。位相差角αは、スイッチ部13へのタッチ操作が行われると変化し、また、例えばタッチスイッチ10の構成等の条件によっては位相差角αが発生しない(α=0)の場合もある。
このように、タッチスイッチ10では、ドライブライン電極11に対し、1本ごとに正弦波を送信する。その一方で、レシーブライン電極12からは、1本ごとに正弦波を受信する。即ち、1本のドライブライン電極11に正弦波が送信されている間、当該ドライブライン電極11に交差するレシーブライン電極12の1本ずつから、正弦波が受信される。このようにすることで、8本のドライブライン電極11と15本のレシーブライン電極12との交差部分に形成される120個のスイッチ部13へのタッチ操作の有無を判定することができる。
なお、8本のドライブライン電極11のうち、正弦波を送信する対象となるドライブライン電極11の選択は、スイッチセレクタ64によって行われる。具体的には、増幅回路53と8本のドライブライン電極11との間に配置された8個のアナログスイッチ(図示しない)のオンオフを切り替えることで、正弦波を送信する対象となるドライブライン電極11に対し、正弦波を送信することができる。そして、これらのアナログスイッチの切り替えは、スイッチセレクタ64によって行われる。
また、レシーブライン電極12での正弦波の受信も同様であり、15本のレシーブライン電極12のうち、正弦波を受信する対象となるレシーブライン電極12の選択は、スイッチセレクタ64によって行われる。具体的には、電流電圧変換回路55と15本のレシーブライン電極12との間に配置された15個のアナログスイッチ(図示しない)のオンオフを切り替えることで、正弦波を受信する対象となるレシーブライン電極12において、正弦波を受信することができる。そして、これらのアナログスイッチの切り替えは、スイッチセレクタ64によって行われる。
タッチスイッチ10を構成するレシーブライン電極12で受信した正弦波は、電流電圧変換回路55に入力される。電流電圧変換回路55には、静電結合によってレシーブライン電極12に誘導された微弱な電流が入力される。一方で、電流電圧変換回路55の後段(増幅回路56等)では、電圧の高低に基づく信号処理が行われる。そこで、電流電圧変換回路55において、タッチスイッチ10において生成した電流から電圧への変換が行われる。
そして、電流電圧変換回路55を経た正弦波(sin(ωt+α))は、増幅回路56で振幅を増幅されて振幅Aの正弦波(Asin(ωt+α))に変換された後、バンドパスフィルタ57で信号処理される。なお、ここでいう「A」の記載に関して、バンドパスフィルタ57に入力される信号は、増幅回路53,56、電流電圧変換回路55、タッチスイッチ10での容量結合等を経て得られた信号のため、その振幅を正確に把握することが難しい。そこで、便宜的に振幅をAとし、「Asin(ωt+α)」との表記を使用している。
タッチスイッチシステム100では、バンドパスフィルタ57と、バンドパスフィルタ57の後段に接続される掛算回路58,61及びローパスフィルタ59,62とにより、元の正弦波の周波数以外の成分(ノイズ)が良好に除去される。ただし、バンドパスフィルタ57は備えられることが好ましいが、備えられなくてもよい。以下、図4を参照しながら、掛算回路58,61及びローパスフィルタ59,62における信号処理について説明する。
図4は、掛算回路58,61及びローパスフィルタ59,62において行われる信号処理を説明する図である。図4では、説明の便宜上、位相シフト回路54、掛算回路58,61及びローパスフィルタ59,62の他にも、タッチスイッチ10を図示している。また、図4の説明においては、説明の便宜上、上記の図1〜図3の説明と重複することがある。
タッチスイッチコントローラ50では、上記のように、タッチスイッチ10のドライブライン電極11(図4では図示しない)及び位相シフト回路54に正弦波(sinωt、第1交流信号)が送信される。そして、ドライブライン電極11と交差するレシーブライン電極12では、タッチ操作に起因する位相差角αを有する正弦波(Asin(ωt+α)、第2交流信号)が受信され、この正弦波は、掛算回路58,61に送信される。
一方で、位相シフト回路54では、位相シフト回路54に入力された正弦波(第1交流信号)の位相をmずらした正弦波(sin(ωt+m)、第3交流信号)が出力される。これに加えて、位相シフト回路54では、位相シフト回路54に入力された正弦波(第1交流信号)の位相を(m+π/2)ずらした余弦波(cos(ωt+m)、第4交流信号)も出力される。これらのうち、正弦波(第3交流信号)は掛算回路58に送信され、余弦波(第4交流信号)は掛算回路61に送信される。
掛算回路58では、タッチスイッチ10から送信された正弦波(第2交流信号)と、位相シフト回路54から送信された正弦波(第3交流信号)とが乗じられる。これにより、以下の式(1)で表される余弦波が得られる。
ここで得られた余弦波(時間tで振幅が変化する)は、極めて低い周波数成分のみを通過させるローパスフィルタ59で処理される。ローパスフィルタ59での処理により、(A/2)×cos(α−m)のみが上記の第1直流信号として抽出される。(A/2)×cos(α−m)は時間によらず一定であるから、ローパスフィルタ59での処理により、交流信号が直流信号(第1直流信号)に変換される。変換された直流信号は、AD変換回路60(図1参照、図4では図示しない)において、数値化される。
一方で、掛算回路61では、タッチスイッチ10から送信された正弦波(第2交流信号)と、位相シフト回路54から送信された余弦波(第4交流信号)とが乗じられる。これにより、以下の式(2)で表される正弦波が得られる。
ここで得られた正弦波(時間tで振幅が変化する)は、極めて低い周波数成分のみを通過させるローパスフィルタ62で処理される。ローパスフィルタ62での処理により、(A/2)×sin(α−m)のみが上記の第2直流信号として抽出される。(A/2)×sin(α−m)は時間によらず一定であるから、ローパスフィルタ62での処理により、交流信号が直流信号(第2直流信号)に変換される。変換された直流信号は、AD変換回路63(図1参照、図4では図示しない)において、数値化される。
そして、AD変換回路60,63において数値化された2つの直流信号(第1直流信号及び第2直流信号)は、x軸(横軸)とy軸(縦軸)とを有する直交座標系に適用される。横軸であるx軸は、タッチスイッチ10及び位相シフト回路54に送信された正弦波(第1交流信号)と同位相である成分を表す。また、縦軸であるy軸は、タッチスイッチ10及び位相シフト回路54に送信された正弦波(第1交流信号)からπ/2位相がずれた成分を表す。
従って、説明の簡略化のためにmを考慮しなければ、スイッチ部13において、発振回路52の正弦波の位相からαずれた場合、位相差角αが例えば0<α<π/2の範囲であれば、得られる直流信号のプロットは、上記直交座標系で第1象限に存在する。なお、位相差角αに応じて、上記直交座標系におけるプロット位置の象限は変化する。また、ここでいう「発振回路52の正弦波」は上記の第1交流信号に相当する。さらには、説明の簡略化のためにmを考慮しなければ、スイッチ部13において、発振回路52の正弦波の位相から位相がずれなかった場合には、位相差角αは0である。そのため、得られる直流信号のプロットは、上記直交座標系でx軸上に存在する。
この直交座標系では、原点Oからの距離がレシーブライン電極12からの正弦波(第2交流信号)の振幅である。また、原点Oを中心としたx軸の正方向からの角度が、ドライブライン電極11に送信した正弦波(第1交流信号)に対する、レシーブライン電極12からの正弦波(第2交流信号)の位相である。例えば、原点Oから座標((A/2)×cos(α−m),(A/2)×sin(α−m))に向かうベクトルの長さ(A/2)が、交流信号の実効値の大きさに相当する。一方で、x軸の正方向と当該ベクトルとの為す角が、上記の位相差角αに相当する。そして、図1に示す演算制御部51は、これら2つの信号を上記直交座標系に適用し、ノイズの検出に使用する第1座標、第2座標及び判定対象座標(いずれも図8等を参照しながら後記する)を決定することで、タッチスイッチ10へのノイズを検出するようになっている。
このようにすることで、ローパスフィルタ59,62を使用して、4つの交流信号(第1交流信号、第2交流信号、第3交流信号及び第4交流信号)を、2つの直流信号(第1直流信号及び第2直流信号)に変換することができる。これにより、発振回路52で生成した交流信号(第1交流信号)と異なる周波数成分のノイズ(例えば、正側及び負側に同じ分布で振れるランダムノイズ)を除去できる。このため、上記直交座標系において、ノイズに起因する第1座標、第2座標及び判定対象座標の傾向の変化を抑制することができる。また、タッチ操作が行われているときに乗ってくるノイズの検出を容易に行うことができる。
なお、詳細は後記するが、2つの信号(第1直流信号及び第2直流信号)の取得は、少なくとも3回行われる。具体的には、ドライブライン電極11への交流信号の未送信時、かつ、スイッチ部13への無タッチ時(第1時点)と、ドライブライン電極11への交流信号の送信時、かつ、スイッチ部13への無タッチ時(第2時点)と、タッチ操作の有無の判定時(第3時点)との3回である。そして、後記する図8において、第1時点で取得された2つの信号を適用した座標が点Pの座標(第1座標)、第2時点で取得された2つの信号を適用した座標が点Qの座標(第2座標)、第3時点で取得された2つの信号を適用した座標が図8に示す点Rの座標(判定対象座標)である。
図5は、タッチスイッチコントローラ50に備えられる演算制御部51のブロック図である。演算制御部51は、スイッチ選択部51aと、送信指令部51bと、信号受信部51cと、データ記録部51dと、タッチ判定部51eと、外部機器通信部51fと、データベース51gとを備える。
スイッチ選択部51aは、交流信号を送信する対象となるドライブライン電極11(対象ドライブライン電極)に交流信号を送信できるように、対象ドライブライン電極に繋がるアナログスイッチ(図示しない)をオンに切り替えるものである。アナログスイッチのオンオフの切り替えは、上記のように、スイッチセレクタ64を介して行われる。そのため、スイッチ選択部51aは、対象ドライブライン電極に繋がるアナログスイッチをオンにするように、スイッチセレクタ64に指令を与えるようになっている。
また、スイッチ選択部51aは、交流信号の送信と同様に、交流信号を受信する対象となるレシーブライン電極12(対象レシーブライン電極)で交流信号を受信できるように、対象レシーブライン電極に繋がるアナログスイッチ(図示しない)をオンに切り替えるものでもある。そして、スイッチ選択部51aは、交流信号の送信と同様に、対象レシーブライン電極に繋がるアナログスイッチをオンにするように、スイッチセレクタ64に指令を与えるようになっている。
上記のように、スイッチ部13は、ドライブライン電極11とレシーブライン電極12との交差部分に形成される。そのため、対象ドライブライン電極と対象レシーブライン電極とが選択されることで、これらの交差部分に形成されるスイッチ部13が選択される。
送信指令部51bは、タッチスイッチ10のドライブライン電極11に交流信号を送信するように、上記の交流信号送信部50Aに指令を与えるものである。具体的には、送信指令部51bは、交流信号送信部50Aを構成する発振回路52を駆動させて、正弦波(sinωt)を生成させる。これにより、生成させた正弦波がドライブライン電極11に送信される。なお、送信指令部51bは、位相シフト回路54に正弦波の位相をm変更すべき旨の指令を送信する。位相シフト回路54は、発振回路52から送信された正弦波を、位相をmだけ変更し、位相を変更された正弦波(sin(ωt+m))、及び位相を変更された正弦波と同じ周波数であって、かつ位相がπ/2異なる、位相を変更された余弦波(cos(ωt+m))を生成させる。位相を変更された正弦波は掛算回路58に、位相を変更された余弦波は掛算回路61に送信される。
信号受信部51cは、交流信号受信部50Bで得られた直流信号(第1直流信号及び第2直流信号)を受信するためのものである。なお、交流信号受信部50Bは、上記のように、タッチスイッチ10のレシーブライン電極12で交流信号(sin(ωt+α))を受信するものである。そして、交流信号受信部50Bでは、受信した交流信号を直流信号に変換し、変換された直流信号が信号受信部51cに送信されるようになっている。
データ記録部51dは、信号受信部51cで受信した直流信号をデータベース51gに記録するためのものである。データ記録部51dは、スイッチセレクタ64により選択されたスイッチ部13毎に、受信した直流信号をデータベース51gに記録している。
タッチ判定部51eは、スイッチ部13へのタッチ操作の有無を判定するためのものである。タッチ操作の有無の判定の具体的な方法は、図7以降を参照しながら後記するが、タッチ判定部51eは、タッチ操作の有無の判定とともに、タッチスイッチシステム100へのノイズを検出するようになっている。従って、タッチ判定部51eは、ノイズ検出部(図示しない)としても機能するようになっている。
外部機器通信部51fは、上記のタッチ判定部51eによってスイッチ部13にタッチ操作があると判定された場合に、そのタッチ操作に応じて外部機器70(図1参照)と通信するものである。例えば、タッチスイッチ10がテンキーの場合には、外部機器通信部51fは、押下された数字を外部機器70に送信するようになっている。
図6は、タッチスイッチコントローラ50に備えられる演算制御部51を具体化するブロック図である。演算制御部51は、CPU(Central Processing Unit)511、ROM(Read Only Memory。例えばEEPROM、FlashROM等)512、RAM(Random Access Memory)513、I/F514(InterFace)等を備える。そして、演算制御部51は、ROM512に格納されている所定の制御プログラムがCPU511によって実行されることにより具現化される。
図7は、本発明の一実施形態に係るタッチスイッチ10へのノイズ及びタッチ操作の検出方法を示すフローチャートである。図7に示すフローチャートは、上記の図1に示す回路図において、上記の図5に示した演算制御部51により実行される。そこで、以下の説明では、図7のほか、適宜図1及び図5、及びさらには後記する図8〜図10をあわせて参照するものとする。
まず、ユーザ等が電源スイッチをオンにする等することで、タッチスイッチシステム100が起動される(ステップS1)。起動後、演算制御部51は、タッチスイッチ10への交流信号(sinωt)の送信前に、全レシーブライン電極12からの信号を受信し、記録する(ステップS2、信号受信ステップ)。具体的には、例えば、スイッチ選択部51aは、スイッチセレクタ64によって、全ドライブライン電極11に繋がるアナログスイッチをオフにし、かつ、全レシーブライン電極12に繋がるアナログスイッチをオンにする。
なお、ドライブライン電極11には交流信号が送信されないので、ノイズが乗っていない状態では、交流信号受信部50Bが受信する交流信号の大きさはほぼ0である(この点の詳細は後記する)。
そして、信号受信部51cは、交流信号受信部50Bにおいて上記の方法により変換された直流信号(第1直流信号及び第2直流信号)を受信する。そして、受信した直流信号は、データ記録部51dにより、各スイッチ部13の「無駆動のデータ」として、データベース51gに記録される。ここで、「無駆動のデータ」について、図8を参照しながら説明する。
図8は、無駆動、駆動無タッチ及び駆動タッチの各動作による直流信号の変化を示すグラフである。基準線及び点Sについては後記する。上記のように、信号受信部51cは、「(A/2)×sin(α−m)」及び「(A/2)×cos(α−m)」で表される2つの直流信号を受信する(図4参照)。受信した2つの直流信号は、データ記録部51dにより、スイッチ部13毎にデータベース51gに記録される。なお、「無駆動」の場合に受信した直流信号は、全レシーブライン電極12で生じたものであるが、同じ値を各スイッチ部13における「無駆動」時の直流信号として扱うものとする。ただし、全レシーブライン電極12に繋がるアナログスイッチを、個別のレシーブライン電極12ごとにオン(残りのレシーブライン電極12に繋がるアナログスイッチはオフ)にして測定した値を、各レシーブライン電極12に形成される各スイッチ部13の「無駆動」時の直流信号としてもよい。
そして、無駆動時に受信した直流信号を上記直交座標系に適用し、座標として表してプロットしたものが、図8の点Pである。また、この図8には、駆動無タッチ(点Q)及び駆動タッチ(点Ra〜点Rgにより構成される点R)の各動作による直流信号も一緒にプロットしている。
なお、x軸は、上記のように、タッチスイッチ10及び位相シフト回路54に送信された正弦波と同位相である成分を表す。無駆動の時点では、タッチスイッチ10には交流電流は送信されないが、位相シフト回路54には「sinωt」で表される正弦波(第1交流信号)が送信される。従って、x軸の正方向と線分POとのなす角は、位相シフト回路54に送信された正弦波と、レシーブライン電極12から受信された正弦波との位相差を表している。なお、位相シフト回路54に送信された正弦波と、レシーブライン電極12から受信された正弦波とが一致し、位相差が0である場合には、点Pはx軸上に位置する。
また、上記のように、ドライブライン電極11には交流信号が送信されないので、交流信号の大きさはほぼ0である。しかし、無駆動時を示す点Pは、ノイズが乗っていないとしても、通常は、上記直交座標系の原点Oとは重ならない。これは、次のような理由による。
交流信号受信部50Bにおいては、0Vから交流信号受信部50Bの電源電圧までの範囲の中で交流信号が扱われる。そのため、ローパスフィルタ59,62に入力される交流信号は、例えば、0Vと電源電圧との中間電位を中心に電圧が振動するように設計されることが多い。この結果、レシーブライン電極12が何も信号を受信しない場合には、ローパスフィルタ59,62から出力され、信号受信部51cが受信する直流信号は、0Vと電源電圧との中間電位付近になり、0Vとはならない。これにより、無駆動時を示す点Pは、ノイズが乗っていないとしても、通常は、座標系内の原点Oとは重ならないことになる。
点Pは、上記のように無駆動時のプロットである。そして、ドライブライン電極11への交流信号の送信が開始されると、信号受信部51cが受信する直流信号の値は変化する。そして、変化した直流信号を上記直交座標系に適用し、座標として表してプロットしたものが点Qである(駆動無タッチ)。詳細は後記するが、駆動無タッチの点Qは、各ドライブライン電極11にタッチ操作のない状態(例えばタッチスイッチシステム100が起動され、交流信号を送信し始めた直後等)で交流信号を送信した直後のデータを使用して得ることができる。そして、点P及び点Qのデータが得られた時点で、タッチ判定部51eは、タッチスイッチ10へのタッチ操作をスイッチ部13毎に待機する。即ち、タッチ判定部51eは、スイッチ選択部51aによって各ドライブライン電極11と各レシーブライン電極12とを切り替えながら、待機する。
タッチ操作の待機中、タッチ操作が行われたときのほか、ノイズの大きさ及び種類(いずれか一方でもよい)が変化したときにも、信号受信部51cで受信する直流信号は変化する。そのため、図8において点Rで示すように、点P及び点Qとは異なる直流信号が得られる。なお、図8では、直流信号の変化が複数回(例えば7回)検出されたと仮定し、複数の点Rを7つ(点Ra,Rb,Rc,Rd,Re,Rf,Rg)として示している。
ここで、本発明者が検討したところ、駆動無タッチ(点Q)の状態でタッチ操作が行われると、駆動タッチを示す点Rは、点Pと点Qとの間に配置されることがわかった。即ち、点Qから点Rに向かうベクトルは、点Pから点Qに向かうベクトルとは反対の方向を向くことがわかった。この理由は、本発明者が検討したところ、次のように考えられる。
即ち、無駆動状態(点P)から、駆動無タッチ(点Q)へ向かうベクトルの大きさは、ドライブライン電極11へ交流信号を送信したために、レシーブライン電極12が受信する信号が増加した増加分を示す。一方、駆動状態におけるタッチ操作により、ドライブライン電極11へ送信した交流信号のうちのいくらかを、タッチした指が受信する。このため、タッチ操作下では、レシーブライン電極12が受信する信号がその分少なくなり、駆動無タッチ(点Q)から無駆動状態(点P)へ戻るように見えるのだと考えられる。この結果、点P、点Q及び点R(点Ra〜Rg)の相対的な位置は、概ね図8に示すものになり、特にノイズのない状況下では、点Rは、点Pと点Qとを結ぶ直線の近傍に位置すると考えられる。
図7に戻り、上記のステップS2において、タッチスイッチへの信号送信前に全レシーブライン電極12から信号を受信すると、タッチ判定部51eは、スイッチ部13毎に、図8の点Pの位置(第1座標)を決定する。そして、送信指令部51bは、交流信号送信部50Aに指令を与え、ドライブライン電極11毎に交流信号への送信を開始する(ステップS3)。そして、信号受信部51cは、スイッチ部13毎にレシーブライン電極12からの信号を受信し、データベース51gに記録する(ステップS4、信号受信ステップ)。ここで、タッチ判定部51eは、スイッチ部13毎に、信号受信部51cにおいて最初に受信した直流信号に基づき、点Qの位置(第2座標、図8参照)を決定する。そして、タッチ判定部51eは、決定した点Qと上記の点Pとを通り、上記の図8に示す基準線を算出する(基準線算出ステップ)。
その後、タッチ判定部51eは、直流信号を受信しながら、スイッチ部13毎に待機を行う(ステップS5、信号受信ステップ)。待機中、タッチ判定部51eは、スイッチ部13毎に受信した信号を解析し、上記の図8に示した点Rの位置(判定対象座標)を決定する(ステップS6)。具体的には、タッチ判定部51eは、レシーブライン電極12から信号を受信するたびに点Rを決定する。従って、上記図8においては、7回の受信が行われたと仮定し、点Ra〜Rgにより構成される7つの点Rが示されている。
待機中、タッチ判定部51eは、図8に示す点Rが検出されるごとに、検出された点Rがノイズに起因する信号であるか否か(即ちタッチスイッチ10へのノイズの有無)を判定する(ステップS7、ノイズ検出ステップ)。即ち、タッチ判定部51eは、ノイズの有無の判定時点において、点Rから点Pと点Qとを通る基準線(図8参照)までの距離に基づいて、ノイズの有無を判定する。具体的には、タッチ判定部51eは、点Rから上記基準線までの距離がノイズ閾値を超えたときに、タッチスイッチ10へのノイズが存在すると判定する。なお、ノイズ閾値の決定方法については後記する。このように、ノイズ閾値を指標としてノイズの検出を行うことで、タッチスイッチ10のオンオフの判定に影響を及ぼさない程度のノイズについては無視でき、タッチスイッチコントローラ50による距離の計算(演算)を高速化することができる。これにより、検出感度の向上を図ることができる。
また、ステップS7において、点Rがノイズに起因する信号変化ではないと判定された場合、タッチ判定部51eは、点Rがタッチ操作に起因する信号であるか否かを判定する(ステップS8、タッチ操作検出ステップ)。具体的には、タッチ判定部51eは、上記基準線の垂線であって点Rを通る垂線と上記基準線との交点S(図8参照)から点Qまでの距離がタッチ閾値を超えたときに、スイッチ部13にタッチ操作が行われたと判定する。なお、タッチ閾値の決定方法については後記する。そして、点Rがタッチ操作に起因する信号変化であると判定された場合に、タッチ判定部51eは、スイッチ部13へのタッチ操作が検出されたと判定する(ステップS9)。このようにすることで、タッチ閾値以下の距離の場合にはタッチ操作は行われていないと判定し、タッチ操作を精度よく検出することができる。また、上記の方法に沿ってノイズの検出を行いつつ、タッチ操作の検出をさらに行うことで、ノイズの影響を考慮しながら、タッチスイッチへのタッチ操作を検出することができる。
ここで、上記のタッチ閾値及びノイズ閾値の決定方法について説明する。
タッチ閾値は、試験室等において外部ノイズが入らない状態で、指、又は基準として用いる人工指等によってタッチ操作を行い、その状態で測定した結果得られた点P、点Q及び点Rによって決定することができる。ノイズのない状態では、点Rは、点Pと点Qとを結ぶ基準線の近傍に位置する。そこで、タッチ閾値は、例えば点S(図8参照)から点Qまでの距離の例えば50%の距離(SQ間の距離に応じた数値)とすることができる。ただし、50%という数値は、用途等によって使用者等が任意に変更することができる。例えば、応答性を重視してより軽いタッチ操作で入力できるのが好ましいような用途では、タッチ閾値を小さくすることができる。一方、入力間違いを少なくするためにしっかりタッチ操作をするのが好ましいような用途では、タッチ閾値を大きくすることができる。
タッチ閾値に関して、タッチ操作の強さがタッチ閾値と同等程度であるようなタッチをされている場合、又は比較的低速でタッチ操作が行われるような場合には、頻繁にオン判定とオフ判定とが繰り返されることがある。そこで、このような場合には、例えば、オフ判定に用いるオフ閾値をタッチ閾値よりも小さい値に設定し、オンオフ動作にヒステリシスを持たせるようにすることができる。
また、ノイズ閾値は、試験室等において外部ノイズが入らない状態で、以下のようにして決定することができる。具体的には、まず、指、又は基準として用いる人工指等により、タッチスイッチ10に対してタッチ操作が行われる。そして、タッチ操作が行われた状態で、発振回路52(図1参照)から出力される正弦波の周波数(即ち駆動周波数)と同じ周波数のノイズが意図的に印加され、印加するノイズの強度が徐々に大きくされる。そして、点S(図8参照)から点Qまでの距離が上記のタッチ閾値を下回るような測定データが発生するようになったときの点Rから基準線までの距離(RS間の距離)を、ノイズ閾値とすることができる。このことを換言すれば、実際にタッチしているにもかかわらず「タッチ無し」と判定されたとき(誤判定されたとき)のノイズの値を、ノイズ閾値とすることができる。従って、このノイズ閾値を超えると、実際にタッチ操作があるにも関わらず、「タッチ無し」と誤判定される。
一方で、ノイズの影響により、タッチ操作がないにも関わらず、「タッチ有り」と判定される可能性もある。そこで、この可能性を考慮したノイズ閾値の決定を行うこともできる。具体的には、タッチ操作を行わないこと以外は上記の場合と同様にして、ノイズ閾値を決定することができる。そして、ここで決定されたノイズ閾値と、タッチ操作を行いながら決定した上記のノイズ閾値とを比較し、小さな方のノイズ閾値をタッチスイッチシステム100でのノイズ閾値として採用することができる。このようにすることで、タッチ操作が実際にあるにも関わらず「タッチ無し」と誤判定されたり、タッチ操作が実際にはないにも関わらず「タッチ有り」と誤判定されたりすることを抑制することができる。
ノイズ閾値の決定方法について、図8を参照しながらさらに詳細に説明する。ノイズのない状態でタッチ操作をしたときの点Rを、点Ra〜点Rgのうち、便宜的に、並びで中央の点である点Rdとする。ノイズを印加することにより、Re、Rf及びRgの方向へより大きく測定データが変化するが、Rc、Rb及びRaの方向へも、ノイズによる変化が生じる。このため、印加するノイズを大きくしていくと測定データが点Qに近づく。この結果、実際にタッチ操作をしている状態でも、点Sから点Qまでの距離がタッチ閾値を下回り、「タッチ無し」と誤判定してしまう場合が発生する。
そこで、そのようになる大きさのノイズよりも少し小さいノイズを印加した状態で、ノイズによりRdからRg及びRaのそれぞれの方向へ変化した測定データの中から、点Rから基準線までの距離の最大値を選択し、例えばそれをノイズ閾値とする。ここでいう「そのようになる大きさのノイズよりも少し小さいノイズ」とは、例えば、上記の試験室等において、タッチ閾値を超えたときのノイズの強度よりも例えば10%小さい強度のノイズであって、10%小さいことにより、タッチ閾値を超えなくなる強度のノイズをいう。このようにすれば、点Rから基準線までの距離がノイズ閾値よりも小さいようなノイズの場合には、交点Sから点Qまでの距離がタッチ閾値を下回ることはなく、オンオフの判定に影響を与えにくくなる。
タッチスイッチシステム100へのノイズの人工的な印加は、例えば、波形発生器で生成し、パワーアンプによって増幅した交流信号を、タッチスイッチシステム100の電源ケーブル等に、クランプ等を用いて注入すればよい。波形発生器の設定によってノイズの周波数を、さらには、パワーアンプの設定によってノイズの大きさを変更することができる。
さらに、上記の演算制御部51(図1参照)により位相シフト回路54(図1参照)に指示されるmの決定方法について説明する。上記のノイズ閾値は、ノイズを印加した際、ノイズによる影響が点Rから基準線までの距離が主に増加する現象として現れるように、決定される。そこで、位相シフト回路54には、このような現象が生じるような交流信号(第3交流信号及び第4交流信号)を送信できるように、演算制御部51によりmが送信される。より具体的には、ノイズによって生じる信号変化の方向が上記基準線から離れる方向になるように、mが決定される。このようなmは、例えば上記の試験室での確認試験等により決定することができる。なお、タッチ閾値、ノイズ閾値、及びmの値は、それぞれ、スイッチ部13ごとに設定されてもよく、全てのスイッチ部13において同じ値であってもよい。
本発明の一実施形態では、上記基準線と点Rとの位置関係により、ノイズの有無及びタッチ操作の検出が行われる。しかし、任意の方向を向く基準線と点Rとの関係を決定することは計算が煩雑になる可能性がある。そこで、本発明の一実施形態では、計算を簡略化するために、点P及び点Qを通る基準線及び点Rを含むグラフを位相回転させ、位相回転後のグラフに基づいて、ノイズの有無及びタッチ操作の検出が行われる。
図9は、位相回転の方法を説明する図である。図9において、破線で示すグラフは、上記の図8に示したグラフと同じもの、二点鎖線で示すグラフは、破線で示すグラフを平行移動させた後のグラフ、太実線で示すグラフは、二点鎖線で示すグラフを原点Oを中心として回転させた後のグラフである。
まず、上記の図1に示した交流信号受信部50Bで得られた信号をプロットした原データである破線のグラフが、点Qを原点Oに一致させるように平行移動される(図9に示す実線矢印A)。これにより、点Qが原点Oと一致する。なお、平行移動前の点P、点Q及び点Rは、それぞれ、平行移動後の点P1、点Q1及び点R1に相当する。
次いで、平行移動後のグラフ(二点鎖線で示すグラフ)が、原点O(点Q1と一致する)を回転中心として、位相回転される(図9に示す実線矢印B)。換言すれば、点P(第1座標)から点Q(第2座標)に向かう基準ベクトルと同じ向き及び長さのベクトル、及び、点P(第2座標)から点R(判定対象座標)に向かう判定対象ベクトルと同じ向き及び長さのベクトルが回転される。これにより、基準線がx軸と重なる。なお、位相回転前の点P1、点Q1及び点R1は、それぞれ、位相回転後の点P2、点Q2及び点R2に相当する。
位相回転の回転角度としては、点P及び点Qを通る基準線が例えばx軸と平行となる角度(即ち位相が0又はπとなる角度)である。位相回転の具体的方法としては、例えば、2次元アフィン変換を適用することができる。なお、位相回転の回転角度は、点P及び点Qを通る基準線が例えばy軸と平行となる角度(即ち位相がπ/2又は3π/2となる角度)にしてもよい。
図10は、位相回転後のグラフであり、ノイズの有無及びタッチ操作の検出を行う方法を説明する図である。上記のように、ノイズの有無は、上記の図8に示すように、点Rから上記基準線までの距離がノイズ閾値を超えたか否かで判定される。一方で、タッチ操作の検出は、上記の図8に示すように、上記基準線の垂線であって点R(判定対象座標)を通る垂線と上記基準線との交点Sから点Q(第2座標)までの距離がタッチ閾値を超えたか否かで判定される。ここで、上記の図8に示す点Rから上記基準線までの距離は、図10に示す点R2からx軸までの距離と等しい。そのため、点Rから上記基準線までの距離は、点R2におけるy軸方向の座標y1と一致する。
また、上記の図8に示す交点Sは、図10に示す交点S2に対応する。そのため、上記の図8に示す交点Sから点Qまでの距離は、図10に示す点S2から原点までの距離と等しい。従って、交点Sから点Qまでの距離は、点R2におけるx軸方向の座標x1と一致する。
そこで、本発明の一実施形態では、位相回転後に得られる点R2(位相回転前の判定対象座標である点Rに対応)の座標(x1,y1)に基づいて、ノイズの有無及びタッチ操作の検出を行うことができる。具体的には、点Rから基準線までの距離を表すy1が上記のノイズ閾値を超えたときに、タッチ判定部51eはタッチスイッチ10へのノイズが存在すると判定する。従って、回転後の上記基準ベクトルに重なる直線から、回転後の上記判定対象ベクトルの終点座標までの距離に基づいて、タッチスイッチ10へのノイズの有無が判定されるといえる。
一方で、上記基準線の垂線であって点Rを通る垂線と上記基準線との交点Sから点Qまでの距離を表すx1が上記のタッチ閾値を超えたときに、タッチ判定部51eはスイッチ部13にタッチ操作が行われたと判定する。このように、点Q(図9参照、図10では図示しない)を原点Oと一致させ、基準線をx軸(y軸でもよい)と一致させた状態で判定対象座標と基準線との関係を決定することで、上記直交座標系における判定対象座標から、x軸又はy軸から回転後の判定対象ベクトルの終点座標(回転前の点Rに対応)までの距離を容易に算出することができる。これにより、タッチスイッチコントローラ50による距離の計算(演算)を高速化することができ、検出感度の向上を図ることができる。
また、位相回転を行うに当たって行われる平行移動及び回転は、2次元アフィン変換の変換行列として、一つの変換行列にまとめることができる。このため、ある座標を位相回転するには、変換行列を一回適用すれば済む。また、座標に対して変換行列を適用する計算は単純な積和計算であるため、基準線が任意の方向を向いた状態で処理を行うのに比べると、計算負荷を低減させることができる。
図7に戻り、上記のステップS9において、タッチ操作が検出されると、外部機器通信部51fは、タッチ操作に関する情報を外部機器70に送信する(ステップS10)。これにより、タッチスイッチ10が例えばテンキーの場合には、スイッチ部13に対応する数字の情報が外部機器70に送信され、外部機器70は受信した数字に基づいて駆動する。
次いで、ユーザが電源ボタンを押下する等、タッチスイッチシステム100の駆動を停止する場合には(ステップS11のYes)、図7に示すフローは終了する。しかし、電源ボタンが押下されていない等、タッチスイッチシステム100の駆動が継続される場合には(ステップS11のNo)、タッチ判定部51eは、上記の上記ステップS4における受信(点Qを決定したときの受信)から所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS12)。
所定時間(例えば数秒〜数十秒)が経過しており、かつ、タッチ操作が行われていなければ(例えばタッチ閾値以下)(ステップS12のYes)、再度上記のステップS2を行い、点Pが再度決定される。即ち、所定時間(例えば数秒〜重々秒)ごとに、点Pの位置がリセットされる。また、ステップS2の後にはステップS4が行われるから、点Pに加えて点Qもリセットされる。点P及び点Qの位置がリセットされることで、タッチスイッチシステム100が置かれている環境の気温の変化等により、無駆動時及び無タッチ時の信号が変化するような現象に対応することができる。また、無駆動時の信号取得を行うことによってノイズに対し適切な対処が可能となる。一方で、所定時間経過前であれば、再度ステップS5以降が行われる。
また、上記のステップS7において、点R(判定対象座標)がノイズに起因する信号と判定された場合、タッチ判定部51eは、タッチスイッチ10へのノイズが存在すると判定する。この場合、タッチ判定部51eは、データベース51gに蓄積された過去のデータのうち、点R(判定対象座標)から基準線までの距離がノイズ閾値以下のときのデータであって直近のデータを使用して、スイッチ部13へのタッチ操作の有無を判定する(ステップS13、タッチ操作検出ステップ)。このようにすることで、タッチスイッチ10へのノイズが検出されたときでも、蓄積された過去のデータのうち、判定対象座標から基準線までの距離がノイズ閾値以下のときのデータであって直近のデータを使用して、スイッチ部13へのタッチ操作を検出することができる。これにより、ノイズが存在しても、タッチ操作を検出することができる。
以上のように、本発明の一実施形態に係るタッチスイッチシステム100では、タッチスイッチの構造等に起因してタッチスイッチごとに変化する基準線を決定することができる。そして、基準線により、ノイズの有無の判定時点(例えばタッチ操作時)における判定対象座標は、ノイズが存在しない場合には第1座標と第2座標とを結ぶ基準線上に存在し、ノイズが存在する場合にはノイズの大きさに基づいて基準線からの距離が変わる、という変化を読み取ることができる。この結果、タッチ操作を行っていないときのノイズは勿論のこと、タッチ操作時におけるノイズも検出することができる。
なお、上記の例では、掛算回路58,61、ローパスフィルタ59,62等を使用して、ノイズ及びタッチ操作の検出等が行われている。上記のように、掛算回路58,61、ローパスフィルタ59,62等により、発振回路52で生成した交流信号と異なる周波数成分のノイズを除去できる。そのため、掛算回路58,61、ローパスフィルタ59,62等を備えることが好ましいものの、発振回路52で生成した交流信号と異なる周波数は点P、点Q、点R及び基準線の位置に影響を及ぼしにくいことから、掛算回路58,61、ローパスフィルタ59,62等は備えられてなくてもよい。即ち、タッチスイッチ10からの交流信号を直接解析してもよい。この場合、第2交流信号の大きさ(振幅)が原点からの距離、第1交流信号に対する第2交流信号の位相(位相差角α)が横軸とのなす角に相当する。そして、得られた点P、点Q、点R及び基準線に基づき上記の距離を算出すれば、ノイズ及びタッチ操作を検出することができる。
また、上記の図9等を参照しながら説明したグラフの移動及び回転も、計算の簡略化のために好ましい形態ではあるが、移動及び回転のうちの少なくとも一方を行わずに直接基準線からの距離を算出し、ノイズ及びタッチ操作を検出することもできる。この場合、直交座標系において、直線から点までの距離を算出する任意の方法を使用することができる。