JP2019114664A - 異方性希土類磁石の製造方法 - Google Patents

異方性希土類磁石の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】500MHzから10GHzに至る周波数の電磁ノイズを吸収し、シートの表面が絶縁性であり、ミクロンレベルの厚みのシートを、安価に製造する。【解決手段】硬磁性で絶縁性である第二の金属酸化物に酸化される第一の金属酸化物からなる微粒子2が、熱分解で析出する有機金属化合物をアルコールに分散し、複素透磁率の虚部の周波数特性が互いに異なる複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉1の集まりを、アルコール分散液に混合し、この混合物を混合機に充填し、混合物を回転及び揺動させた後に、上下及び左右に振動させる。さらに、有機金属化合物を熱分解し、第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化させる。この後、熱処理した混合物を多段圧延機でミクロンレベルの厚みのシートに加工し、シートを巻き取り、連続してシートを製造する。【選択図】図1

Description

本発明は、電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法に関わる。電磁ノイズを吸収するシートは、電子機器の必要な部位に配置し、電子機器から放出される不要な電磁波が外部に漏洩する、あるいは、内部回路と干渉することを防ぐシートである。また、外部からの不要な電磁波が電子機器に入り込んで、内部回路と干渉することを防ぐシートでもある。
近年、高周波数信号を使用する携帯電話やパーソナルコンピュータなどの電子機器の普及が著しい。例えば、携帯電話や無線LANなどでは、数GHzから10GHzに及ぶ高周波数信号を用いるものがある。さらに、電子機器が使用する信号の高周波数化に加え、電子機器の小型化や薄型化、高性能化に伴って、電子機器内での電磁干渉による誤動作や機器外部への放射ノイズに依る障害が問題となっている。2005年に発行された国際無線障害特別委員会(CISPR)の規格CISPR22では、最高6GHzの電磁ノイズを規制している。
いっぽう、電磁ノイズの吸収エネルギーPは数式1で与えられる。第一項は軟磁性材料に依る電磁ノイズの吸収であり、複素透磁率の虚部μ”の大きさと周波数とに応じて磁気損失が発生し、磁気損失は熱に替わる。第二項は誘電体材料に依る電磁ノイズの吸収であり、複素誘電率の虚部ε”の大きさと周波数とに応じて誘電損失が発生し、この誘電損失も熱に替わる。第三項は導電性に依る電磁ノイズの吸収であり、高周波数の電界の表皮効果で表面に導電電流が流れて抵抗被膜を形成し、この抵抗被膜が導電率σの大きさに応じて抵抗損失を発生させ、この抵抗損失も熱に替わる。従って、電磁ノイズの周波数帯域で、軟磁性材料が一定の大きさの複素透磁率の虚部μ”を持てば、ないしは、誘電体材料が一定の大きさの複素誘電率の虚部ε”を持てば、一定の周波数帯域に及ぶ電磁ノイズが吸収される。数式1において、Eは電磁ノイズにおける電界の大きさ、Hは電磁ノイズにおける磁界の大きさ、fは電磁ノイズの周波数、σは導電率である。なお、磁性体(ないしは誘電体)が電磁ノイズにおける交番磁界(ないしは交番電界)を受信した時に、磁束密度(ないしは電束密度)の変化に位相の遅れが生じ、透磁率(ないしは誘電率)は、実部μ’と虚部μ”との差であるμ’−jμ”で与えられる(ないしは複素誘電率は実部ε’と虚部ε”との差ε’−jε”で与えられる)。
数1
P=πfμ”H+πfε”E+1/2・σE
従来、電磁ノイズを吸収するシートの性能は、シートを形成する軟磁性材料の透磁率に基づいて行われてきた。つまり、100MHz付近までの電磁ノイズに対して、軟磁性材料の複素透磁率の実部による磁束収束効果が、磁界を遮蔽して磁気シールド効果をもたらす。また、複素透磁率の虚部による磁気損失効果が、電磁ノイズを吸収して熱に替え、電磁ノイズを抑制する効果をもたらす。しかしながら、多くの軟磁性材料は、100MHzの手前の周波数から複素透磁率の実部が低下し、実部の値が大きいほど急激に低下する。この現象は、フェライト材料の複素透磁率の実部が大きいほど、10MHzを超えると実部が低下するスネークの限界として知られている。いっぽう、複素透磁率の虚部は、実部がピーク値を示す周波数の手前の周波数から急増し、一定の周波数でピーク値を示し、ピーク値を示す周波数から離れるほど低下し、500MHzを超える周波数帯域では必要な大きさを持たない。また、電磁ノイズの放射源、つまり電子部品と電磁ノイズを吸収するシートとの距離は、電磁ノイズの波長よりも短い近傍電磁界の領域であり、軟磁性材料の表面抵抗を増大させ、電磁ノイズがシートの表面で反射しないことが必要になる。
いっぽう、誘電体材料の複素誘電率の虚部が、500MHzを超える周波数帯域で一定の大きさを持てば、数式1に基づく誘電体材料の誘電損失によって、500MHzを超える周波数帯域の電磁ノイズが吸収される。つまり、誘電体の双極子(これを配向分極という)が500MHz以上の電界の変化に追随できず、誘電体の誘電率が低下する誘電分散が起こればよい。この現象は、3段落で説明した電磁ノイズの交番電界に、電束密度の変化に位相の遅れが生じる現象である。しかしながら、500MHz以上の周波数帯域において、殆どの誘電体の複素誘電率の虚部の値は小さい。このことを、電子レンジで用いている2.45GHzのマイクロ波における虚部の値で以下に説明する。
電磁ノイズを抑制する複合材料からなるシートについて、軟磁性材料を分散させる高分子材料の2.45GHzにおける複素誘電率の虚部は、フェノール樹脂が0.2−0.5で、尿素樹脂が0.16−0.23で、塩化ビニル樹脂が0.08−0.25で、ポリアミド樹脂が0.12−0.28で、セルロース樹脂が0.03−0.42で、合成ゴムが0.027−0.03で、ポリエチレン樹脂が1.2×10−3で、ポリプロピレン樹脂が4×10−4である。いずれの高分子材料の複素誘電率の虚部は小さい。いっぽう、代表的な極性分子である水の複素誘電率の虚部は22.0と大きい。2.45GHzにおける水の複素誘電率の虚部の大きさが、電レンジにおける食品の加熱の原理に利用される。つまり、食品に2.45GHzのマイクロ波を照射すると、食品に含まれる水分子は電界の変化に追随できず、誘電損失によってマイクロ波を吸収して熱に替える。いっぽう、氷の2.45GHzにおける複素誘電率の虚部は、2.8×10−4と小さく、マイクロ波の照射によって氷は溶けない。以上に説明したように、水やアルコールやアセトンといった極性分子からなる液体を除くと、500MHz以上の周波数帯域における複素誘電率の虚部の値は小さく、500MHz以上の周波数帯域における電磁ノイズを吸収できない。
また、金属酸化物からなるフェライトを除くと、金属ないしは合金からなる軟磁性材料は導電性であり、電磁ノイズを反射する。なお、Mn・Zn系フェライトは唯一導電性のフェライトである。従って、電子回路に電磁ノイズを吸収するシートを配置すると、回路が短絡する。このため、絶縁物との複合材料からなるシートにおいて、軟磁性材料の占有率を低減してシートの導電性を低下させると、軟磁性材料の占有率の低減に応じて、電磁ノイズの吸収能力が低下する。従って、軟磁性材料を主成分とするシートの上下に絶縁シートを積層し、軟磁性材料を主成分とするシートによる電磁波の反射を、絶縁シートで防ぐとともに、回路の短絡を防止する。しかし、3枚のシートを積層するため、電磁ノイズを吸収する費用が増える。また、携帯電話やデジタルスチルカメラなどの電子部品が高密度に実装された電子機器には余分なスペースがなく、積層シートが配置できない。
例えば、特許文献1には、誘電体及び/又は磁性体と共に、誘電率調整剤として黒鉛を含有したものを電磁ノイズの吸収剤として用い、この電磁ノイズ吸収剤をゴムや合成樹脂に分散させる技術が提案されている。つまり、高周波数帯域で材料組成物中に含有する誘電体材料の複素誘電率に着目し、電磁波吸収特性における誘電損失を重視した。
しかし、特許文献1の複合材料の比抵抗が低いため、電子部品の回路基板に貼りつけると、回路がショートする可能性があり、絶縁性の接着テープをシートの外側に貼り付ける必要がある。また、電磁ノイズを表面で反射する。さらに、磁性体と黒鉛とが電磁ノイズの吸収剤として作用するには、予め絶縁処理が必要になり、絶縁処理によってノイズ吸収剤の製造費用が高くなる。こうしたシートは、電子部品が高密度に実装された電子機器には余分なスペースがないため、シートが配置できない。
また、特許文献2には、軟磁性材料と炭素材料を合成樹脂中に分散させた複合シートを用い、ギガ周波数帯域の高周波数ノイズに対する抑制効果をもたせ、さらに、電子部品の回路基板に貼り付ける際のショート対策として、複合シートの片面ないしは両面に、表面抵抗が大きく、低周波ノイズに対する抑制効果を持つ軟磁性材料が合成樹脂に分散させた磁性シートを積層することが提案されている。
しかし、特許文献2は、ノイズ抑制シートの絶縁性を確保するために絶縁性の磁性シートを積層させるため、ノイズ抑制シートの絶縁性を確保する観点では、特許文献1と同様の範疇に入る。
特開2009−278137号公報 特開2013−182931号公報
電磁ノイズの周波数が500MHz以上に及ぶ場合は、電磁波を吸収することは難しい。この理由は5段落で説明した軟磁性材料の複素透磁率の虚部の値と、6段落で説明した誘電体材料の複素誘電率の虚部の値とが、500MHz以上の周波数帯域では必要な大きさを持たないことに依る。このため、500MHz以上の周波数帯域に及ぶ電磁ノイズは、新たな材料構成からなるシートで吸収するしか手段がない。
本発明の第一の課題は、500MHzから10GHzの周波数帯域に及ぶ電磁ノイズを吸収するシートを実現する。さらに、電磁ノイズを吸収するシートが電子回路を短絡させず、表面で電磁ノイズを反射しなければ、一枚のシートで電磁ノイズを吸収できる。従って、本発明の第二の課題は、シートの表面が絶縁性である。また、電磁ノイズは表皮効果によって、周波数が高いほどシートの表層にしか入り込まず、1GHzでは僅かに1.5μm程度の深さである。従って、電磁ノイズを吸収するシートが薄ければ、電磁ノイズの受信感度が高く、電磁ノイズを吸収する性能が高いシートが安価に製造できる。さらに、余分なスペースがない電子回路にも電磁ノイズを吸収するシートが配置できる。従って、本発明の第三の課題は、電磁ノイズを吸収するシートが、ミクロンレベルの厚みである。さらに、本発明の第四の課題は、安価な原料を用いて安価な費用でシートが製造できる。これによって、電磁ノイズを吸収するシートは汎用的な電子機器に配置できる。本発明が解決しようとする課題は、これら4つの課題を同時に解決することである。
電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法は、第一の金属酸化物が硬磁性と絶縁性とを兼備する第二の金属酸化物に酸化される該第一の金属酸化物からなる微粒子が、熱分解で析出する有機金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成し、複素透磁率の虚部の周波数特性が互いに異なる複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉の集まりを、前記アルコール分散液に混合して懸濁液を作成する、この後、加熱機能と加振機能とを併設した混合機に前記懸濁液を充填し、該混合機を回転および揺動させた後に、上下および左右に振動させる、さらに、前記懸濁液を前記有機金属化合物が熱分解する温度に昇温する第一の熱処理と、該熱処理で析出した前記第一の金属酸化物の微粒子を、前記第二の金属酸化物の微粒子に酸化させる第二の熱処理とを行う、この後、前記第二の熱処理がなされた懸濁液の集まりを、多段圧延機によってミクロンレベルの厚みからなるシートに加工し、該シートを巻き取ることによって、電磁ノイズを吸収するシートが連続して製造される、電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法である。
本製造方法によれば、極めて簡単な7つの処理を連続して実施すると、ミクロンレベルの厚みからなる電磁ノイズを吸収するシートが連続して製造される。第一に、有機金属化合物をアルコールに分散し、アルコール分散液を作成する。第二に、アルコール分散液に軟磁性の扁平粉の集まりを混合し、懸濁液を作成する。第三に、懸濁液を混合機に充填する。第四に、混合機を回転及び揺動させた後に、上下及び左右に振動させる。第五に、混合機内の懸濁液を有機金属化合物が熱分解する温度に昇温し、さらに、第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化させる熱処理を行う。第六に、混合機内の懸濁液を取り出し、室温で多段圧延機によって連続して熱処理された懸濁液を圧延する。第七に、ミクロンレベルの厚みに圧延されたシートを巻き取り機によって巻き取る。これら7つの簡単な処理を連続して実施すると、電磁ノイズを吸収するシートが連続して製造される。このため、安価な費用で電磁ノイズを吸収するシートが、連続して製造される。なお、軟磁性の扁平粉は、厚みがサブミクロンで、平均粒径が10μm前後で、厚みに対する長軸の比率である扁平率は20より大きな値を持つ。また、軟磁性の合金粉の扁平加工に伴う加工歪を除去する磁気焼鈍温度が、第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化させる温度に比べて500℃より高く、第一の金属酸化物が第二の金属酸化物に酸化させる熱処理を施しても、扁平粉の透磁率特性は変わらない。
本製造方法は、混合機に充填した懸濁液に対し、次の処理を行う。最初に、混合機を回転及び揺動させ、有機化合物のアルコール分散液中で、複数種類の扁平粉の集まりを3次元的に攪拌し、扁平粉をランダムに混合させる。この後、混合機を上下と左右とに振動させる。これによって、扁平粉の集まりは、アルコール分散液からなる液体中で、上下及び左右に揺すぶられ、扁平粉同士が直接接触しないため、液体中で容易に移動する。この際、扁平粉同士の間隙に、粒径が小さい扁平粉が入り込む扁平粉の再配列が継続し、また、全ての扁平粉は扁平面同士が重なり合って液体中で再配列する。この後、振動を止めると、扁平面同士が重なり合い、集積密度が高い扁平粉の集まりが、アルコール分散液中に沈む。
次に、有機金属化合物が熱分解する温度に懸濁液を昇温すると、昇温される温度に応じて次の現象が生じる。最初に、アルコールの沸点に達すると、懸濁液からアルコールが気化し、扁平粉の表面に有機金属化合物の微細結晶が析出し、扁平粉は微細結晶の集まりで覆われる。なお、微細結晶の大きさは、熱分解で析出する第一の金属酸化物の微粒子の大きさに近い。次に、有機金属化合物を構成する有機物の沸点に達すると、有機金属化合物が有機物と第一の金属酸化物とに分解する。有機物の密度が第一の金属酸化物の密度より小さいため、有機物が上層に第一の金属酸化物が下層に析出し、上層の有機物が気化した後に、第一の金属酸化物が10−100nmの間に入る粒状の微粒子として析出し、熱分解反応を終える。この後、第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化させる熱処理を継続して行う。第二の金属酸化物が硬磁性の性質を持つため、第二の金属酸化物の微粒子の集まりが互いに磁気吸着し、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりが、軟磁性の扁平粉の表面に磁気吸着し、扁平粉は磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを介して結合される。なお、第二の金属酸化物からなる微粒子は、10個以上の微粒子が積層して扁平粉の全体を覆い、扁平粉は絶縁性を示し、シートの表面も絶縁性になる。いっぽう、有機金属化合物の熱分解反応は、有機金属化合物の微細結晶が、第一の金属酸化物の微粒子に置き換わる反応であり、全ての扁平粉の表面に吸着した有機金属化合物の微細結晶が、第一の金属酸化物の微粒子に置き換わり、第一の金属酸化物の微粒子の析出によって、扁平面同士が重なり合った集積密度が高い扁平粉の配列は崩れない。この後、第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化する熱処理を行うと、第一の金属酸化物の粒状の微粒子が、第二の金属酸化物の粒状の微粒子に酸化される反応が、扁平粉の表面で起こり、この際も、扁平面同士が重なり合った集積密度が高い扁平粉の配列は崩れない。この結果、扁平面同士が重なり合った集積密度が高い扁平粉の集まりによって、シートが形成される。なお、有機金属化合物の熱分解が、扁平粉の表面を覆った状態で進み、扁平粉は外界に触れず、大気雰囲気の熱処理でも、扁平粉の活性度が高くても、扁平粉は酸化されない。また、扁平粉に付着した有機物の異物は、有機金属化合物が熱分解する際に、有機物の沸点に応じて気化するため、扁平粉を予め洗浄する必要はない。
さらに、熱処理された懸濁液を、多段圧延機で連続して圧延し、ミクロンレベルの厚みのシートを製造する。例えば、室温で20段の圧延機によって、懸濁液を連続圧延し、厚みが2μm前後シートに圧延する。必要に応じて、圧延されたシートにスリッター加工を加えると、シートの幅が自在に変えられる。この後、巻き取り機でシートを巻き取る。
いっぽう、熱処理された懸濁液は、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりが、軟磁性の扁平粉に磁気吸着し、こうした扁平粉の扁平面同士が重なり合い、集積密度が高い扁平粉の集まりを形成する。いっぽう、第二の金属酸化物が、質量を殆ど持たない微粒子であるため、微粒子同士が磁気吸着する磁気吸引力に比べ、第二の金属酸化物の微粒子の集まりが、軟磁性の扁平粉の表面に磁気吸着する磁気吸引力は小さい。また、扁平粉は軟磁性体であり自発磁化を持たないため、自らが磁気吸着しない。このような熱処理された懸濁液が、多段圧延機のロール間に挟まれて圧縮応力を受けると、扁平粉に作用する拘束力が小さいため、扁平粉は圧縮応力に垂直な扁平面の方向で、かつ、ロールの回転方向に優先的に滑ろうとし、これによって、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりが変形する。つまり、圧延機のロールに近い懸濁液の表層を形成する扁平粉から順番に、変形した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを伴って、扁平粉は扁平面方向で、かつ、ロールの回転方向に滑り、多段圧延機のロールの間隙に応じて厚みが徐々に薄くなる。このような圧延処理を繰り返し、最終的に2μm前後の厚みに圧延される。なお、サブミクロンの厚みからなる扁平粉が、扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりが、圧延時に扁平面の方向でロールの回転方向に滑るため、圧延処理で扁平粉は塑性変形しない。従って、扁平粉の保持力は変わらず、扁平粉は製造時の軟磁性体としての透磁率特性を維持する。
以上に説明したように、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを介して結合した扁平粉の集まりは、扁平面同士が重なり合い、重なり合った扁平面がシート面を形成するため、シートが電磁ノイズを受信する感度が高い。いっぽう、硬磁性の微粒子同士の磁気吸着力が大きいため、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを介して結合した扁平粉の集まりは、シートとしての機械的強度を持つ。より大きな機械的強度が必要になれば、シートに磁界を印加すれば、第二の金属酸化物同士の磁気吸着力が飛躍的に増大し、シートの機械的強度が著しく増大する。この際、扁平粉は軟磁性体であるため着磁されず、また、透磁率特性は変わらない。また、全ての扁平粉は、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりで覆われている。この第二の金属酸化物が絶縁性であるため、微粒子の集まりは電磁ノイズを反射しない。また、微粒子の大きさが、電磁ノイズの波長に比べ7桁以上も小さいため、電磁ノイズは微粒子の集まりを透過する。さらに、第二の金属酸化物が硬磁性であり、透磁率が小さいため、微粒子の集まりは電磁ノイズを吸収しない。この結果、シートに入射した電磁ノイズは、シート面で反射されず、シート面に最も近い第二の金属酸化物の微粒子の集まりを透過し、最初の扁平粉で吸収される。吸収しきれなかった電磁ノイズは、次の層をなす第二の金属酸化物の微粒子の集まりを透過し、第二の扁平粉で吸収される。電磁ノイズは、シートの内部で透過と吸収とを繰り返し、複数枚の扁平粉によって吸収される。なお、シートの厚みが2μm前後であれば、5ないし6枚の扁平粉の扁平面同士が積層され、電磁ノイズはシートの内部で吸収される。また、第二の金属酸化物は安定した物質であるため、扁平粉は大気から遮断され、シートが大気雰囲気に長期にさらされても、シートは経時変化しない。
いっぽう、扁平粉の集まりは、複数種類の合金の組成が互いに異なり、扁平粉における複素透磁率の虚部の周波数特性は互いに異なるため、シートの複素透磁率の虚部の周波数特性は、各々の扁平粉における複素透磁率の虚部の周波数特性が加算された特性になる。この結果、シートは、広い周波数帯域において、複素透磁率の虚部が一定の値を持ち、従来では困難であった500MHから10GHzの電磁ノイズをシートが吸収する。
つまり、軟磁性粉に磁化の容易軸方向である面方向に扁平処理を施すと、反磁界係数が縮小され、厚みに対する長軸の比率である扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部が増大する。いっぽう、電磁ノイズの表皮効果で、周波数が高いほど電磁ノイズが入り込む深さは浅く、10GHzの電磁ノイズでは軟磁性粉の1μm程度の深さまでしか入り込めない。従って、軟磁性粉を1μmより薄い厚みに扁平処理した扁平粉は、扁平粉の全体が電磁ノイズの吸収に参画し、この結果、シートは効率よく電磁ノイズを吸収する。
しかしながら、軟磁性の扁平粉の複素透磁率の虚部は、ピーク値を示す手前の周波数で立ち上がって増大し、一定の周波数でピーク値を示し、ピーク値の周波数から離れるほど減衰する。従って、複素透磁率の虚部が一定の大きさを持つ周波数帯域は限られ、1種類の扁平粉によって電磁ノイズを吸収できる周波数帯域は限られる。
これに対し、合金からなる軟磁性の扁平粉は次の3つの特徴を持ち、複数種類の合金からなる扁平粉の集まりでシートを構成すると、従来では不可能であった500MHzから10GHz帯域に及ぶ電磁ノイズをシートが吸収する。第一に、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が軟磁性のフェライト粉より高く、合金の組成によって虚部がピーク値を示す周波数が変わる。第二に、合金の組成によって合金の硬さが変わり、合金の硬さによって扁平処理における扁平率が変わり、扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部のピーク値が大きくなる。第三に、合金の組成によって合金の伸び率が変わり、合金の伸び率が大きいほど扁平処理における扁平粉の面積が広くなり、扁平粉の面積が広いほど電磁ノイズの受信感度が高まり、少ない扁平粉で電磁ノイズが吸収できる。従って、複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉の集まりについて、複素透磁率の虚部が広い周波数帯域で一定の大きさを持つように、扁平粉を組み合わせると、複数種類の扁平粉の扁平面同士が重なり合って結合した面で、各々の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性に応じて、様々な周波数帯域の電磁ノイズを吸収し、こうした結合面が積層されているため、500MHzから10GHz帯域に及ぶ電磁ノイズをシートの内部で吸収することができる。
この結果、本製造方法によれば、次の5つの作用効果を発揮するシートが連続して製造される。
第一の作用効果は、第二の金属酸化物が硬磁性であることに依る。つまり、有機金属化合物を熱分解させ、析出した第一の金属酸化物の微粒子を第二の金属酸化物の微粒子に酸化させると、自発磁化を持つ第二の金属酸化物の微粒子の集まりが互いに磁気吸着し、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりが、軟磁性の扁平粉の表面に磁気吸着する。これによって、扁平面同士が重なった扁平粉は、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを介して結合する。この結果、扁平粉の少ない量で厚みが薄いシートが形成でき、余分なスペースがない電子回路にもシートが配置できる。つまり、電磁ノイズは表皮効果によって、周波数が高いほど軟磁性粉の表層にしか入り込まず、1GHzでは1.5μm程度の表層の深さである。本製造方法に依れば、サブミクロンの厚みからなる扁平粉が、5−6層をなして扁平面同士が重なって結合し、2μm前後の厚みからなるシートを形成する。このため、シートは高い受信効率を持って電磁ノイズを吸収する。
つまり、軟磁性の扁平粉は自発磁化を持たず、自らが互いに磁気吸着しない。従って、従来の電磁ノイズを吸収するシートの製造方法では、扁平粉の集まりを高分子材料に混合させる際に、高分子材料が一定の粘度を持ち、扁平粉は面方向に揃わない。なお、高分子材料が一定の粘度を持たなければ、密度が大きい扁平粉の集まりを高分子材料中で均一に分散できない。このため、扁平粉の扁平率が大きいほど、電磁ノイズの周波数が高いほど、電磁ノイズの表皮効果で扁平粉の多くが電磁ノイズの吸収に参画できない。これによって、電磁ノイズの周波数が高くなるほど、電磁ノイズの受信感度が低下し、電磁ノイズを吸収する性能が低下する。また、高分子材料に扁平粉が分散されてシートが形成されるため、電磁ノイズを吸収しない高分子材料が扁平粉に介在し、電磁ノイズの受信感度が低下し、電磁ノイズを吸収する性能が低下する。
これに対し、本製造方法に依れば、混合機内で懸濁液に振動を加えると、液体中で全ての扁平粉が扁平面同士で重なり合う。さらに、有機金属化合物を熱分解させ、さらに、析出した第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化させると、扁平面同士が重なり合った状態の扁平粉の表面に、第二の金属酸化物の微粒子の集まりが析出して磁気吸着し、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを介して、扁平面が重なり合って扁平粉が結合する。この扁平粉の集まりに、多段圧延機によって圧延処理を連続して施す。この際、扁平粉は、変形した第二の金属酸化物の集まりを伴って、圧延機のロールに近い扁平粉から順に、扁平面の方向でロールの回転方向に扁平粉が滑り、厚みが薄いシートになる。この圧延処理を、多段圧延機の段数の数を繰り返すと、ミクロンレベルの厚みのシートが製造される。こうして製造されたシートは、扁平粉の扁平率が大きいほど、扁平粉の側面より扁平面に、圧倒的に多くの第二の金属酸化物の微粒子の集まりが磁気吸着する。この結果、扁平粉は磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりを介して、互いに面同士で結合する。扁平面同士が重なり合って結合した扁平粉の集まりは、電磁ノイズの受信感度が高く、電磁ノイズを吸収する性能が高いシートになる。
第二の作用効果は、第二の金属酸化物の微粒子が絶縁性であることに依る。つまり軟磁性の合金からなる扁平粉は導電性であるが、絶縁性の第二の金属酸化物の微粒子の集まりで覆われるため、シートの表面は、第二の金属酸化物に近い絶縁性を示す。これによって、次の4つの作用効果をもたらす。第一に、電磁ノイズを吸収するシートと絶縁性のシートとを重ねる必要はない。第二に、電子回路に直接シートを配置しても回路は短絡しない。第三に、シートの表面で電磁ノイズを反射しない。第四に、合金の扁平粉が酸化しやすいあるいは水蒸気で腐食しやすい性質でも、磁気吸着した第二の金属酸化物の微粒子の集まりが外界を遮断し、また、第二の金属酸化物は安定した物質であるため、合金の扁平粉の酸化や腐食は起こらない。
第三の作用効果は軟磁性の合金粉の扁平形状に依る。つまり、軟磁性の合金粉は磁化の容易軸方向の面方向に扁平化されるため、反磁場係数が小さくなり、扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部が増大する。このため、2μm前後の厚みのシートでも、扁平粉の扁平面同士が5ないし6層として積層されるため、電磁ノイズがシートの内部で吸収される。なお、軟磁性の合金粉の扁平処理は、ボールミルに依る長時間のバッチ処理に依らず、アトマイズ軟磁性粉をメディア撹拌型ミルに依ってアトライタ処理するため、短時間で連続して扁平粉が得られるため、扁平粉は安価な加工処理で製造される。さらに、本製造方法によれば、扁平粉の扁平面同士が重なり合ってシートを形成するため、扁平粉の扁平効果が最大限発揮できる。
第四の作用効果は、複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉を用いることに依る。つまり、合金からなる軟磁性の扁平粉は、次の3つの特徴を持ち、複数種類の合金の扁平粉でシートを形成すると、従来では不可能であった500MHzから10GHzの帯域に及ぶ電磁ノイズが吸収できる。第一に、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が、軟磁性のフェライト粉より高く、また、合金の組成によって複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が変わる。第二に、合金の組成によって合金の硬さが変わり、合金の硬さによって扁平処理における扁平率が変わり、扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部のピーク値が大きい。第三に、合金の組成によって扁平処理における合金の伸び率が変わり、合金の伸び率によって扁平粉の面積が変わり、扁平粉の面積が大きいほど電磁ノイズの受信感度が高くなる。このため、複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉について、複素透磁率の虚部が広い周波数範囲で一定の値を持つように、複数種類の扁平粉を組み合わせると、複数種類の扁平粉の集まりには、各々の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性が加算され、複素透磁率の虚部の値が広い周波数範囲で一定の大きさを持つ。この結果、シートは、500MHzから10GHzの周波数帯域に及ぶ電磁ノイズを吸収する。すなわち、本製造方法は、複数種類の扁平粉の集まりを、3次元的に攪拌させた後に振動を加え、全ての扁平粉を扁平面同士で重ね合わせ、さらに、有機金属化合物を熱分解させ、析出した第一の金属酸化物を第二の金属酸化物に酸化させると、扁平粉の扁平面同士が重なり合った状態で、第二の金属酸化物の微粒子の集まりが磁気吸着し、磁気吸着した金属酸化物の微粒子の集まりを介して、扁平面同士が重なり合って扁平粉が結合する。このため、複数種類の扁平粉の扁平面同士が重なり合って結合した面が、各々の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性に応じて、様々な周波数帯域の電磁ノイズを吸収し、こうした結合面が積層されているため、500MHzから10GHzの周波数帯域に及ぶ電磁ノイズがシートの内部で吸収できる。
第五の作用効果は、扁平粉の透磁率の特性を生かした電磁ノイズを吸収するシートが製造できる。すなわち、本製造方法によれば、懸濁液を圧延処理する際に、扁平粉が扁平面の面方向でロールの回転方向に滑ることで塑性変形せず、扁平粉の保持力は変わらない。このため、扁平粉の製造時における複素透磁率の特性を生かしたシートが製造できる。
第六の作用効果は、本製造方法によれば、安価な製造費用で電磁ノイズを吸収するシートが連続して製造される。すなわち、前記した7つの簡単な処理を連続して実施し、電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する。また、第一の金属酸化物の原料である有機金属化合物は、汎用的な有機酸からなる有機金属化合物であり、汎用的な工業用の薬品である。従って、安価な製造費用で電磁ノイズを吸収するシートが連続して製造される。
以上に説明したように、本製造方法に依れば、11段落に記載した4つの課題が同時に解決される。
前記した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法において、前記第二の金属酸化物の微粒子が、酸化第二鉄のガンマ相であるマグヘマイトからなる微粒子である、前記した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法である。
つまり、マグヘマイトは次の3つの性質を持ち、合金からなる軟磁性の扁平粉同士がマグヘマイトの微粒子の集まりを介して結合することで、電磁ノイズを吸収するシートに画期的な作用効果をもたらす。
第一に、比抵抗が10Ωmの絶縁体である。導電性の軟磁性材が高周波数の電磁ノイズを吸収すると、周波数の二乗に比例して渦電流が発生し、渦電流によって軟磁性材が発熱し、透磁率特性が変わる。マグへマイト微粒子の集まりで扁平粉を覆うことで、絶縁性になった扁平粉に発生する渦電流損失が低減でき、扁平粉が高周波の電磁ノイズを吸収しても、扁平粉の透磁率特性は変化しない。これによって、扁平粉の集まりからなるシートは、500MHzから10GHzの周波数帯域に及ぶ電磁ノイズを吸収する。いっぽう、合金の軟磁性の扁平粉の比抵抗は、10−6−10−7Ωmであり、渦電流損失は比抵抗に反比例するため、マグへマイト微粒子の集まりで覆われた扁平粉の渦電流損失は著しく小さくなる。また、扁平粉を絶縁化させることで、次の3つの作用効果がもたらされる。第一に、絶縁性シートが不要になる。第二に、電子回路に直接シートを配置しても回路は短絡しない。第三に、シートの表面で電磁ノイズが反射しない。
第二に、硬磁性の一種のフェリ磁性である。このため、自発磁化を持つマグへマイト微粒子は、軟磁性の扁平粉の表面に磁気吸着する。また、マグヘマイト微粒子同士も磁気吸着する。この結果、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりが、扁平粉の表面に磁気吸着する。これによって、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して、扁平粉同士が結合される。さらに、一度磁気吸着したマグへマイト微粒子は、重量を殆ど持たない微粒子であるため、マグヘマイト同士の磁気吸着を解除することは困難である。このため、扁平粉同士の結合が解除されず、シートは電磁ノイズを吸収するシートとしての機械的強度を持つ。なお、マグヘマイトは450℃近辺で、酸化第二鉄のアルファ相であるヘマタイトα−Feに相転移する。この相転移は不可逆変化である。ヘマタイトは10Ωmの比抵抗を持つ物質で、扁平粉の絶縁性がさらに一桁向上し、渦電流損失はさらに低減する。また、ヘマタイトは極めて安定した酸化物、つまり、不動態であり、融点である1566℃に近い耐熱性を有する。このため、電磁ノーズを吸収するシートは、高温の環境でも使用できる。
第三に、安定した金属酸化物で、鉄の不働態皮膜を形成する物質である。従って、マグヘマイトの微粒子の集まりで覆われた扁平粉は、活性度の高い合金であっても、マグヘマイト微粒子の集まりで保護され、大気雰囲気で長期に使用されても、電磁ノイズを吸収するシートは経時変化しない。
前記した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法において、前記マグヘマイトの微粒子は、ナフテン酸鉄の熱分解で酸化第一鉄の微粒子を生成し、さらに、前記酸化第一鉄の微粒子を大気雰囲気での熱処理でマグへマイトの微粒子に酸化させたマグヘマイト微粒子である、前記した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法である。
つまり、ナフテン酸鉄は、大気雰囲気の340℃で熱分解が完了し、酸化第一鉄FeOを生成する。さらに、昇温速度を抑えて380℃まで昇温し、380℃に一定時間放置すると、酸化第一鉄FeOにおける2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+に酸化され、酸化第二鉄Feのガンマ相であるマグヘマイトγ−Feになる。
ナフテン酸鉄は、ナフテン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって2価の鉄イオンに近づき、2価の鉄イオンに配位結合する錯体である。つまり、最も大きいイオンである2価の鉄イオンに酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。このため、2価の鉄イオンに配位結合する酸素イオンが、鉄イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つナフテン酸鉄は、ナフテン酸の主成分の沸点を超えると、ナフテン酸鉄におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、2価の鉄イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、2価の鉄イオンと酸素イオンとの化合物である酸化第一鉄とナフテン酸とに分解する。さらに、昇温すると、ナフテン酸が気化熱を奪って気化し、ナフテン酸の気化が完了すると、酸化第一鉄FeOが析出して熱分解を終える。ナフテン酸は5員環をもつ飽和脂肪酸からなる混合物で、一般式がC2n−1COOHで示され、主成分はC17COOHからなり、沸点が268℃で分子量が170である。なお、ナフテン酸鉄の熱分解反応は、窒素雰囲気より大気雰囲気の方が40℃近く低い温度で進む。
さらに、大気雰囲気で昇温速度を抑えて380℃まで昇温すると、酸化第一鉄における2価の鉄イオンが3価の鉄イオンになる酸化反応が進む。この酸化反応の初期段階では、酸化第一鉄を構成する2価の鉄イオンの一部が、3価の鉄イオンになってFeを形成し、組成式がFeO・FeからなるマグネタイトFeになる。
さらに酸化反応が進むと、酸化第一鉄の全てがマグネタイトFeになる。さらに、380℃に一定時間保持すると、マグネタイトFeO・Feを構成する2価の鉄イオンの全てが3価の鉄イオンになって酸化第二鉄Feを形成し、酸化反応を終える。この酸化第二鉄Feは、マグネタイトと同様の立方晶系である酸化第二鉄のガンマ相であるマグへマイトγ−Feである。なお、酸化第二鉄のアルファ相であるヘマタイトα−Feの結晶構造は三方晶系であり、マグネタイトとは結晶構造が異なる。
なお、ナフテン酸鉄は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。つまり、汎用的な有機酸であるナフテン酸を、強アルカリと反応させるとナフテン酸アルカリ金属化合物が生成され、ナフテン酸アルカリ金属化合物を無機鉄化合物と反応させると、ナフテン酸鉄が合成される。従って、有機酸鉄化合物の中で最も安価な化合物の一つである。また、原料となるナフテン酸は、有機酸の沸点の中で相対的に沸点が低いため、大気雰囲気で340℃程度の熱処理で酸化第一鉄が析出する。このような性質を持つナフテン酸鉄は、塗料・印刷インキ用のドライヤー、ゴム・タイヤの接着剤、潤滑油の極圧剤、ポリエステルの硬化剤、助燃剤や重合触媒などに汎用的に使用されている。
以上に説明したように、ナフテン酸鉄は、15段落に記載したマグへマイト微粒子の安価な原料になる。
磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まり2を介して、パーマロイからなる扁平粉1が結合された状態を、拡大して模式的に説明する図である。
実施形態1
本実施形態では、複素透磁率の虚部のピーク値を示す周波数とピーク値との観点から、どのような材質の合金からなる軟磁性の扁平粉が適切かを説明する。
軟磁性粉に磁化の容易軸方向である面方向に扁平処理を施すと反磁界係数が縮小され、厚みに対する長軸の比率である扁平率が大きいほど、複素透磁率の虚部が増大する。いっぽう、電磁ノイズの表皮効果で、周波数が高いほど電磁ノイズが入り込む深さは浅く、10GHzの電磁ノイズでは、軟磁性粉の1μm程度の深さまでしか入り込めない。従って、軟磁性粉を1μmより薄い厚みに扁平処理した扁平粉は、扁平粉の扁平面がシート面になるように配列させると、扁平粉の全体が電磁ノイズの吸収に参画し、電磁ノイズを吸収する性能が高いシートを形成する。
なお、軟磁性の扁平粉の複素透磁率の虚部は、ピーク値を示す手前の周波数で、虚部が立ち上がってピーク値を示し、ピーク値を示す周波数から離れるほど減衰する。従って、複素透磁率の虚部が一定の大きさを持つ周波数帯域は限られ、1種類の軟磁性の扁平粉によって電磁ノイズを吸収できる周波数帯域は限られる。
これに対し、合金からなる軟磁性の扁平粉は次の3つの特徴を持ち、複数種類の合金の扁平粉を用い、扁平粉の扁平面同士が積層されるように扁平粉を結合させると、従来では不可能であった500MHzから10GHzの周波数帯域に及ぶ電磁ノイズが吸収できる。第一に、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が、軟磁性のフェライト粉より高く、合金の組成に応じて複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が変わる。第二に、合金の組成によって合金の硬さが変わり、合金の硬さによって扁平処理における扁平率が変わり、扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部のピーク値が大きい。第三に、合金の組成によって合金の伸び率が変わり、合金の伸び率が大きいほど、扁平処理による扁平面の面積が広がり、扁平面の面積が広いほど、電磁ノイズの受信感度が高まり、少ない扁平粉で電磁ノイズを吸収するシートが形成できる。従って、複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉について、複素透磁率の虚部の値が広い周波数帯域で一定の値を持つように扁平粉を組み合わせ、扁平粉の扁平面が互いに積層されるように扁平粉を結合させると、各々の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性が加算された複素透磁率の虚部の特性を有する結合面が、広い周波数範囲の電磁ノイズを吸収し、この結合面がシート内に積層されているため、シートの内部で500MHzから10GHzの周波数帯域に及ぶ電磁ノイズが吸収できる。
いっぽう、合金からなる軟磁性材料には、鉄に少量のケイ素を加えたケイ素鋼と、鉄にニッケルを加えたパーマロイと、鉄にケイ素とアルミニウムとを加えたセンダストと、鉄にコバルトを加えたパーメンジュールと、鉄にクロムとケイ素とを加えた電磁ステンレス鋼がある。このうち、ケイ素鋼はケイ素の含有量が増えると脆くなり、扁平処理ができなくなり、ケイ素の添加量を10%以下に抑える必要がある。また、ケイ素の添加量に応じて、ケイ素鋼の透磁率特性は変わる。さらに、パーマロイはニッケルの添加量が多くなるほど製造コストが高くなるが、ニッケルの添加量が少ないと透磁率が低下し、ニッケルの量を50%程度に抑える必要がある。また、センダストは硬度が高いため扁平処理が困難である。さらに、パーメンジュールはコバルトとの合金であるため製造コストが高く、電磁ノイズを吸収するシートの原料には適さない。また、電磁ステンレス鋼は扁平処理をしやすくするため、アルミニウムを添加する。この理由から、ケイ素を3%と6%を加えた2種類のケイ素鋼と、ニッケルを50%加えたパーマロイと、鉄に7%のクロムと1%のケイ素と1.6%のアルミニウムとを加えた電磁ステンレス鋼とからなる4種類の合金からなる軟磁性の扁平磁粉について、透磁率の虚部の特性を検討した。しかしながら、軟磁性の合金の扁平粉は、これら4種類に限定されない。つまり、パーマロイではニッケルの添加量に応じて、ケイ素鋼ではケイ素の添加量に応じて、電磁ステンレス鋼ではクロムの添加量に応じて、複素透磁率の虚部の特性が変わる。また、こうした合金の扁平粉の製造はいずれも容易である。従って、上記した4種類の合金は一例に過ぎない。
ところで、合金からなる軟磁性の扁平粉は、最初に、アルゴンガス雰囲気におけるアトマイズ処理で、球状の合金粉末を製造する。次に、メディア撹拌型粉砕機に依って、合金粉末を連続してアトライタ処理し、扁平化が飽和状態になるまで扁平処理を続ける。この後、扁平処理による加工歪を取り除く磁気焼鈍を水素雰囲気で行い、扁平粉を製造する。この磁気焼鈍温度は、パーマロイが1100−1200℃で、ケイ素鋼が1200℃前後で、電磁ステンレス鋼が950℃前後と高い。また、これらの焼鈍温度は、酸化第一鉄を酸化第二鉄のガンマ相に酸化させる温度より550℃以上高いため、酸化第一鉄を酸化第二鉄のガンマ相に酸化させても、扁平粉の透磁率特性は変わらない。いっぽう、合金粉末は、硬さに応じて扁平化が進み、硬度が低いほど扁平率が大きい。いっぽう、合金の伸び率が大きいほど、扁平面の面積、すなわち、粒径が大きい。前記した4種類の合金は、パーマロイ、ケイ素が3%のケイ素鋼、電磁ステンレス鋼、ケイ素が6%のケイ素鋼の順で硬度が低く、この順番で、扁平率が38、34、29、23の扁平粉が得られる。また、前記した4種類の合金では、パーマロイ、電磁ステンレス鋼、ケイ素が3%のケイ素鋼、ケイ素が6%のケイ素鋼の順で伸び率が大きく、この順番で、平均粒径が14μm、12μm、9μm、8.5μmからなる扁平粉が得られる。これら扁平粉の厚みの平均値は、パーマロイが0.37μmで、電磁ステンレス鋼が0.41μmで、ケイ素が3%のケイ素鋼が0.26μmで、ケイ素が6%のケイ素鋼が0.37μmとなり、いずれも厚みが1μmより薄く、10GHzの電磁ノイズでも、扁平面から扁平粉の全体に入り込み、扁平粉は効率よく電磁ノイズを吸収する。
いっぽう、本発明の電磁ノイズを吸収するシートは、複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉を用い、磁気吸着したマグヘマイトの微粒子の集まりを介して、扁平粉の扁平面同士が結合されてシートを形成するため、合金の扁平粉を混合する際の配合割合に応じて、吸収できる電磁ノイズの周波数帯域と性能とが大きく変わる。
実施形態2
本実施形態では、前記した4種類の合金からなる軟磁性の扁平粉について、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数とピーク値との観点から、これら扁平粉のどのような配合割合が、吸収できる電磁ノイズの周波数帯域を広げることに貢献できるかを説明する。
ここで、前記した4種類の合金からなる軟磁性の扁平粉について、ネットワークアナライザーによるSパラメータ法で、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数とピーク値とを測定した。パーマロイは3.3GHzで8.8の値を持ち、ピーク値を示す周波数が最も低く、虚部の値が最も大きい。ケイ素が3%のケイ素鋼は5.9GHzで8.7の値を持ち、ピーク値を示す周波数が高く、ピーク値も大きい。電磁ステンレス鋼は4.8GHzで7.5の値を持ち、パーマロイと3%のケイ素鋼との中間的な周波数領域で、複素透磁率の虚部が比較的大きな値を持つ。ケイ素が6%のケイ素鋼は6.0GHzで5.7の値を持ち、ピーク値を示す周波数が最も高いが、虚部の値が小さい。
さらに、パーマロイの複素透磁率の虚部の値は、4.7GHzでケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚部の値と交差する。従って、4.7GHzまでの周波数帯域では、パーマロイの複素透磁率の虚部の値が最も大きい。このため、パーマロイの配合比率を高めるほど、相対的に低い周波数帯域の電磁ノイズが吸収される。これに対し、ケイ素が3%のケイ素鋼は、5.9GHz以上の周波数帯域では複素透磁率の虚部の値が最も大きい。従って、ケイ素が3%のケイ素鋼の配合比率を高めるほど、相対的に高い周波数帯域の電磁ノイズが吸収できる。いっぽう、電磁ステンレス鋼は、パーマロイとケイ素が3%のケイ素鋼との中間的な周波数である4.8GHzでピーク値を示し、ピーク値は7.5と低くない。従って、電磁ステンレス鋼の配合比率を高めると、2−8GHzに至る中間の周波数帯域の電磁ノイズを吸収することに貢献する。いっぽう、ケイ素が6%のケイ素鋼は、6.0GHzにおける複素透磁率の虚部のピーク値が5.7と低く、ケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚部のピーク値がより小さいため、相対的に高い周波数帯域の電磁ノイズを吸収する役割は、ケイ素が3%のケイ素鋼に劣る。従って、ケイ素が6%のケイ素鋼は、本発明の趣旨である500MHzから10GHz帯域に及ぶ電磁ノイズを吸収する扁平粉としての貢献度は低い。
実施形態3
本実施形態では、前記の3種類の合金からなる軟磁性の扁平粉について、扁平粉の複素透磁率の虚部の周波数特性の観点から、どの周波数帯域における電磁ノイズを吸収するのが適切かを、3つの周波数帯域から説明する。
第一の事例は、相対的に低い周波数帯域の電磁ノイズを吸収する事例である。前記したパーマロイは、最も硬度が低いため最も扁平率が大きく、かつ、最も伸び率が大きいため最も平均粒径が大きい。さらに、4.7GHz以下の周波数帯域では複素透磁率の虚部の値が最も大きく、1GHzにおいても複素透磁率の虚部が5.6の値を持つ。このため、4.7GHz以下の周波数帯域の電磁ノイズを吸収するシートに、前記したパーマロイを用いるのが適切である。
第二の事例は、相対的に高い周波数帯域の電磁ノイズを吸収する事例である。前記したケイ素が3%のケイ素鋼は、伸び率が小さいため平均粒径は3番目であるが、前記のパーマロイの複素透磁率の虚部の値と交差する4.7GHz以上の周波数帯域では、電磁ステンレス鋼の複素透磁率の虚部の値より大きく、10GHzにおいても複素透磁率の虚部が5.8の値を持つ。従って、4.7GHz以上の周波数帯域の電磁ノイズを吸収するシートには、ケイ素が3%のケイ素鋼を用いるのが適切である。
第三の事例は、広い周波数帯域の電磁ノイズを吸収する事例である。パーマロイが示す複素透磁率の虚部の値が、ケイ素が3%のケイ素鋼が示す複素透磁率の虚部の値と交差する周波数は4.7GHzであり、4.7GHz以下の周波数帯域ではパーマロイの複素透磁率の虚部の値が最も大きく、4.7GHz以上の周波数帯域ではケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚部の値が最も大きい。これに対し、電磁ステンレス鋼は、ケイ素が3%のケイ素鋼より平均粒径が1.3倍大きい。また、電磁ステンレス鋼が示す複素透磁率の虚部の値が、パーマロイが示す複素透磁率の虚部の値と交差する周波数は5.2GHzであり、5.2GHz以上の周波数帯域では、ケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚部の値が、電磁ステンレス鋼の複素透磁率の虚部の値より大きい。従って、電磁ステンレス鋼からなる扁平粉を、パーマロイの扁平粉とケイ素が3%のケイ素鋼の扁平粉とに加え、3種類の合金からなる扁平粉を用いると、2−8GHzに至る中間的な周波数帯域の電磁ノイズを吸収する性能を底上げする。特に、電磁ステンレス鋼によって、パーマロイの複素透磁率の虚部がピーク値を示す3.3GHzから、ケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚部がピーク値を示す4.8GHzまでの周波数帯域における電磁ノイズを吸収する性能を向上させる役割は大きい。この結果、3種類の合金の扁平粉を用いることで、500MHzから10GHzまでの電磁ノイズを吸収することができる。
実施例1
本実施例では、パーマロイの扁平粉が、マグヘマイトの微粒子の集まりで結合されたシートを製造する。扁平粉として、ニッケルが50%からなるパーマロイの扁平粉(例えば山陽特殊製鋼の開発品)を用いた。扁平粉の扁平率は38で、平均粒径は14μmである。複素透磁率の虚部は、10MHz付近から鋭く立ち上がり、3.3GHzでピーク値の8.8を示し、4GHzからなだらかに減少し、10GHzで3.5の値を持つ。また、マグヘマイトの原料としてナフテン酸鉄(例えば東栄化工株式会社の製品)を用いた。さらに、混合機は、遠赤外線によるヒータが内蔵され、回転による拡散混合と揺動による移動混合とを同時に行う装置(例えば、愛知電機株式会社のロッキングミキサーRMH−HT)を用い、この混合機の下部に加振機を併設させた。また、圧延機として、20段の冷間圧延機(例えば、竹内金属箔粉工業株式会社の装置)を用いた。
最初に、ナフテン酸鉄の1モルに相当する400gをメタノールに10重量%として分散させ、このメタノール分散液に、パーマロイの扁平粉の500gを混合し、懸濁液を作成した。なお、全てのマグヘマイト微粒子が、パーマロイの扁平粉に磁気吸着すると、マグヘマイト微粒子がシートに占める体積は50%に相当する。作成した懸濁液を混合機に充填した。懸濁液に回転と揺動を同時に10分間加え、この後、左右方向と上下方向との振動を1分間加えた。さらに、ヒータを作動させて2つの熱処理を継続して行った。最初に、懸濁液を65℃に昇温してメタノールを気化させ、ナフテン酸鉄の微細結晶をパーマロイの扁平粉の表面に析出させた。次に、懸濁液を40℃/分の昇温速度で340℃まで昇温し、340℃に5分間放置してナフテン酸鉄を熱分解し、酸化第一鉄FeOの微粒子をパーマロイの扁平粉の表面に析出させた。この後、1℃/分の昇温速度で380℃まで昇温し、さらに380℃に30分間放置し、酸化第一鉄を酸化第二鉄のガンマ相であるマグヘマイトに酸化させ、磁気吸着したマグヘマイトの微粒子の集まりで、パーマロイの扁平粉を結合させた。この後、混合機内のカプセルを外し、カプセルから熱処理した懸濁液を取り出し、20段の冷間圧延機で連続して圧延し、2.8μmの厚みのシートを得た。
次に、製作したシートを切り取り、このシートの表面抵抗を表面抵抗計(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST−4)によって測定した。表面抵抗値は、1×1013Ω/□以上であったため、シートの表面は高い絶縁性を有する。
さらに、シートを長さ方向に対し垂直に切断し、複数の切断面を電子顕微鏡で観察し、シートの構造を調べた。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行なった。40−60nmの大きさの粒状微粒子の10−12個が積み重なって、0.37μm前後の厚みからなる物質を覆い、この物質の扁平面同士が重なって5層に積層されていた。
さらに、0.37μm前後の厚みからなる物質と、40−60nmの大きさの粒状微粒子との双方について、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって微粒子の材質を観察した。双方とも濃淡が認められたため、複数種類の元素から形成されていることが分かった。
次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し元素を分析した。0.37μm前後の厚みからなる物質は、鉄原子とニッケル原子との双方が均一に1対1の割合で存在し、偏在する箇所が見られなかったため、パーマロイであることが分かった。また、粒状微粒子は、鉄原子と酸素原子との双方が均一に存在し、偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなることが分かった。さらに、SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、結晶構造の解析を行なった。この結果、粒状微粒子が、酸化第二鉄のガンマ相であるマグへマイトγ−Feであることが確認できた。
この結果から次のことが分かった。10−12個のマグヘマイトの粒状微粒子が、積み重なってパーマロイの扁平粉を覆い、この扁平粉の扁平面同士が5枚重なって積層し、2.8μmの厚みのシートを形成した。図1に結果を模式的に図示する。パーマロイの扁平粉1が、磁気吸着したマグヘマイトの微粒子の集まり2で覆われ、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まり2で覆われたパーマロイの扁平粉1が、扁平面同士が5枚重なって積層した状態を模式的に図示した。
製作したシートを、マイクロストリップライン上に配置し、電磁ノイズを吸収する性能を評価した。長さが140mm、幅が30mmで特性インピーダンスが50Ωに調整されたマイクロストリップラインを施工した基板に、マイクロストリップラインの長さ方向にシートの長さ方向を合わせ、それぞれの中心が一致するようにシートを配置し、ノイズを吸収するシートとした。この後、マイクロストリップラインに接続したネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー(株)の製品N5230A)を用いてSパラメータを測定した。なお、反射によるSパラメータS11と透過によるSパラメータS12とから下記の数式2により、マイクロストリップラインにおける伝送損失が、電磁ノイズの吸収量となる。
測定結果は、500MHzにおいて反射量が−36dBで吸収量が15%、1GHzにおいて反射量が−34dBで吸収量が20%、3.3GHzで吸収量が−32dBで吸収量が28%、9.5GHzで反射量が−32dBで吸収量が15%、10GHzで反射量が−30dBで吸収量が18%であった。500MHzから9.5GHzの周波数帯域において15%以上の吸収量であった。また、シートの表面が絶縁性であるため、電磁ノイズの反射量はわずかである。
数2
反射量(dB)=20log|S11
透過量(dB)=20log|S12
吸収量(%)=(1−|S11−|S12)×100
実施例2
本実施例は、軟磁性の扁平粉として、ケイ素が3%のケイ素鋼からなる扁平粉(例えば山陽特殊製鋼の開発品)を用いる。このケイ素が3%のケイ素鋼からなる扁平粉は、扁平率は34で、平均粒径は9μmである。また、複素透磁率の虚部は、実施例1のパーマロイとは対照的に高周波数帯域で大きな値を持つ。すなわち、10MHz付近から緩やかに増大し、1GHzで2.3の値を持ち、4.7GHzでパーマロイの複素透磁率の虚部の値と交差し、5.9GHzでピーク値の8.7を示し、6.3GHz付近からなだらかに減少し、10GHzでも5.9の値を持ち、12GHzで3.7の値を持つ。このため、4.7GHz以上では、パーマロイより複素透磁率の虚部の値が大きい。
実施例1と同様に、ナフテン酸鉄の1モルに相当する400gを、メタノールに10重量%として分散させ、このメタノール分散液に、ケイ素が3%のケイ素鋼の450gを混合し、懸濁液を作成した。なお、全てのマグヘマイト微粒子が、ケイ素鋼の扁平粉に磁気吸着すると、マグヘマイト微粒子がシートに占める体積は50%に相当する。この懸濁液を混合機に充填した。実施例1と同様に、懸濁液に回転と揺動を同時に加え、この後、左右方向と上下方向との振動を加えた。さらに、実施例1と同様に、ヒータを作動させて2つの熱処理を継続して行った。この後、混合機内のカプセルを外し、カプセルから熱処理した懸濁液を取り出し、20段の冷間圧延機で連続して圧延し、2μmの厚みのシートを得た。
次に、製作したシートを切り取り、実施例1と同様に、このシートの表面抵抗を表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は、1×1013Ω/□以上であったため、シートの表面は高い絶縁性を有する。
さらに、シートを長さ方向に対し垂直に切断し、複数の切断面を実施例1と同様に電子顕微鏡で観察し、電磁ノイズを吸収するシートの構造を調べた。
この結果、ケイ素鋼の扁平粉は、10−12個のマグヘマイトの粒状微粒子の集まりが積み重なって扁平粉を覆い、扁平粉の扁平面同士が5枚重なって積層し、2μmの厚みをなしてシートを形成した。この結果は、図1に類似しているため、図示しない。
次に、実施例1と同様に、製作したシートを、マイクロストリップライン上に配置し、電磁ノイズを吸収する性能を評価した。
測定結果は、500MHzにおいて反射量が−36dBで吸収量が8%、1GHzにおいて反射量が−34dBで吸収量が12%、3GHzで吸収量が−32dBで吸収量が21%、5.9GHzで反射量が−30dBで吸収量が28%、10GHzで反射量が−28dBで吸収量が21%であった。この結果、1.7−11.6GHzの周波数帯域において、15%以上の吸収量であった。また、シートの表面が絶縁性であるため、電磁ノイズの反射量はわずかである。
実施例3
本実施例は、合金の軟磁性の扁平粉として、実施例1のパーマロイと実施例2のケイ素が3%のケイ素鋼に、電磁ステンレス鋼を加え、3種類の扁平粉を用いる実施例である。また、鉄に7%のクロムと1%のケイ素と1.6%のアルミニウムとを加えた電磁ステンレス鋼からなる扁平粉(例えば、山陽特殊製鋼の開発品)は、扁平率は29で平均粒径は12μmである。また、複素透磁率の虚部は、10MHz付近から急激に増大し、1GHzで3.4の値を持ち、4.2GHzでケイ素が3%のケイ素鋼の虚部と交差し、4.8GHzでピーク値の7.5を示し、5.5GHz付近からなだらかに減少し、10GHzでも4.8の値を持ち、12GHzで3.1の値を持つ。このため、電磁ステンレス鋼の扁平粉を、パーマロイの扁平粉とケイ素が3%のケイ素鋼の扁平粉とに加え3種類の扁平粉を混合すると、2−8GHzに至る中間の周波数帯域の電磁ノイズを吸収する性能が向上し、特に、パーマロイの複素透磁率の虚部がピーク値を示す3.3GHzから、ケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚部がピーク値を示す4.8GHzまでの周波数帯域における電磁ノイズを吸収する性能が向上する。
実施例1と同様に、ナフテン酸鉄の1モルに相当する400gを、メタノールに10重量%として分散させ、このメタノール分散液に、パーマロイの扁平粉の150gと、ケイ素が3%のケイ素鋼の扁平粉の150gと、電磁ステンレス鋼の扁平粉の200gとを混合し、懸濁液を作成した。なお、全てのマグヘマイト微粒子が、3種類の扁平粉に磁気吸着すると、マグヘマイト微粒子がシートに占める体積は、50%に相当する。この懸濁液を混合機に充填した。実施例1と同様に、懸濁液に回転と揺動を同時に加え、この後、左右方向と上下方向との振動を加えた。さらに、実施例1と同様に、ヒータを作動させて2つの熱処理を連続して行った。この後、混合機内のカプセルを外し、カプセルから熱処理した懸濁液を取り出し、20段の冷間圧延機で連続して圧延し、3μmの厚みのシートを得た。
次に、製作したシートを切り取り、実施例1と同様に、このシートの表面抵抗を表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は、1×1013Ω/□以上であったため、シートの表面は高い絶縁性を有する。
さらに、シートを長さ方向に対し垂直に切断し、複数の切断面を実施例1と同様に電子顕微鏡で観察し、電磁ノイズを吸収するシートの構造を調べた。
この結果、3種類の扁平軟磁性粉は、10−12個のマグヘマイトの粒状微粒子の集まりが積み重なって扁平粉を覆い、扁平粉の扁平面同士が5枚重なって積層し、3μmの厚みをなしてシートを形成した。なお、マグヘマイト微粒子の集まりがシートに占める体積は、50%に相当する。この結果は、図1に類似しているため、図示しない。
次に、実施例1と同様に、製作したシートを、マイクロストリップライン上に配置し、電磁ノイズを吸収する性能を評価した。
測定結果は、500MHzにおいて反射量が−36dBで吸収量が18%、1GHzにおいて反射量が−34dBで吸収量が24%、3.3GHzで反射量が−32dBで吸収量が36%、4.7GHzで反射量が−30dBで吸収量が38%、5.9GHzで反射量が−28dBで吸収量が37%、10GHzで反射量が−26dBで吸収量が28%であった。この結果、500MHzから11.6GHzの広い周波数帯域において18%以上の高い吸収量で、さらに、1−10GHzの広い周波数帯域において24%以上の高い吸収量であった。また、シートの表面が絶縁性であり、電磁ノイズの反射量はわずかである。
実施例3では、複素透磁率の虚部の周波数特性が異なる3種類の合金の扁平粉を用い、これら扁平粉を扁平面同士が重なり合ってランダムに結合させたため、実施例1と実施例2との1種類の合金の扁平粉を磁気吸着させた事例より、吸収できる電磁ノイズの周波数範囲が格段に広がるとともに、ノイズの吸収量も格段に増加した。これによって、従来は困難であった500MHzから10GHzを超える広い周波数帯域における電磁ノイズを吸収することが可能になった。また、絶縁性のマグヘマイト微粒子の10−12個が積み重なって扁平粉を覆ったため、シート面は高い絶縁性を示した。この結果、500MHzから10GHzを超える広い周波数帯域において、電磁ノイズの反射量が低く、かつ、電磁ノイズの吸収量が高い画期的なシートが実現できた。また、扁平粉の集まりは、2−3μmの厚みであっても電磁ノイズを効率よく吸収することが確認できた。このため、わずかな使用量の扁平粉でも、扁平面同士を重ね合って結合させることで、画期的な性能を持つシートが実現できることが確認できた。
なお、複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉を組み合わせる事例は、実施例3に限らない。つまり、複素透磁率の虚部が広い周波数帯域で一定の値を持つように、扁平粉を組み合わると、扁平面同士が重なり合って結合した表面が絶縁化された扁平粉の集まりは、各々の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性が加算された複素透磁率の虚部の特性を示し、この結果、広い周波数帯域において、電磁ノイズの反射量が低く、かつ、電磁ノイズの吸収量が高いシートが実現できる。
1 パーマロイの扁平粉 2 磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まり
その他
平成29年11月15日付で提出しました明細書において、「課題を解決する手段」の記載が漏れていましたので、12段落の前に「課題を解決するための手段」を記載しました。

非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物が熱分解で析出する有機金属化合物を、希土類磁石の原料である合金微粒子の表面に吸着させる。この合金微粒子の集まりを金型に充填し、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解させる。この後、合金微粒子の集りに、一定の磁場を同一方向に印加し、徐々に増大する圧縮応力を加え、圧縮成形体からなる異方性希土類磁石を金型内に製造する、異方性希土類磁石の製造方法に係わる発明である。
希土類磁石は、一般的に希土類元素R、鉄元素(Fe)またはコバルト元素(Co)等の遷移金属元素Tおよびホウ素元素(B)を含有するR−T−B系で表され、従来の合金磁石やフェライト磁石の磁気特性を著しく上回る磁気特性を有することが知られている。
焼結と熱処理との処理を伴う異方性希土類磁石の中で、強磁性の主相がNdFe14Bの組成式からなるネオジウム磁石は、最大エネルギー積が永久磁石の中で最も大きい。ネオジウム磁石の最大エネルギー積をさらに向上させるため、微量のアルミニウムや銅などの金属元素を添加したネオジウム磁石がある。また、ネオジウム磁石の保磁力を高めるため、ネオジウムNdの一部を希土類元素のジスプロシウムDyで置き換えたネオジウム磁石もある。こうしたネオジウム磁石以外の異方性希土類磁石に、希土類元素であるプラセオジムPrを含み、強磁性の主相がネオジウム磁石と同じ組成式ReFe14B(Reは希土類元素)を持つプラセオジム磁石PrFe14Bと、希土類元素としてNdとPrとのジシム合金を用いるジシム合金磁石(NdPr1−xFe14Bがある。
このような異方性希土類磁石は、磁石の組成からなる合金のインゴットを、微細な合金微粒子に粉砕し、この合金微粒子の集まりを磁場成形機に充填し、磁場を加えて圧縮成形し、さらに、焼結と熱処理との処理を加えて異方性希土類磁石を製造する。
他の異方性希土類磁石として、強磁性の主相がSmCo17の組成式からなるサマリウムコバルト磁石がある。この磁石は、磁気キュリー点がネオジウム磁石より500℃以上高く、ネオジウム磁石より錆びにくい性質を持つ。しかし、抗折強度が15kgf/mmで、ネオジウム磁石の25kgf/mmより低く壊れやすいため、350℃を超える高温で使用される用途以外には使われる頻度は低い。このサマリウムコバルト磁石も、焼結と熱処理との処理を伴って製造される異方性希土類磁石である。
さらに、サマリウム元素を含む希土類磁石として、サマリウム鉄窒素磁石がある。しかし、サマリウム鉄窒素化合物が550℃付近で熱分解するため、合金微粒子の焼結固化が困難になる。このため、サマリウム鉄窒素化合物からなる合金微粒子を、合成樹脂と共に射出成形ないしは圧縮成形し、等方性のプラスチックボンド磁石として製造する。このボンド磁石は、サマリウム鉄窒素化合物の磁気キュリー点が、ネオジウム鉄ボロン化合物の磁気キュリー点より150℃以上高いため、下記に説明するネオジウム鉄ボロン化合物の等方性ボンド磁石より、高温での使用が可能になる。しかし、等方性磁石で、かつ、非磁性の合成樹脂の配合割合に応じて、磁石の最大エネルギー積が低下する。
いっぽう、ネオジウム鉄ボロン化合物からなる合金の溶湯を、急冷によって薄帯を作成し、この薄帯を微細な薄片状の粒子に粉砕し、この薄片状の合金粒子を原料として磁石を製造するネオジウム磁石がある。こうしたネオジウム磁石に、薄片状の粒子を合成樹脂と共に射出成形ないしは圧縮成形し、等方性のプラスチックボンド磁石として製造する磁石がある。焼結磁石に比べて、腐食しにくく、複雑な形状に成形できる長所があるが、等方性磁石で、かつ、非磁性の合成樹脂の配合割合に応じて、磁石の最大エネルギー積が低下するため、大きな磁力が不要な小型磁石として使用されている。
また、上記の薄片状の合金粒子の集まりを金型でホットプレスし、合金の密度に近い等方性の磁石とし、この等方性の磁石を、熱間押出しによって異方性ラジアルリング磁石を製造するネオジウム磁石がある。この磁石は、ラジアル方向の最大エネルギー積は焼結のネオジウム磁石に近く、保磁力が燒結のネオジウム磁石より大きく、高温での使用が可能になるが、形状がリング磁石に制約される。
前記した燒結と熱処理との処理を伴う異方性ネオジウム磁石は腐食しやすい。つまり、熱処理工程によって、ネオジウム元素が多く存在するNdリッチ相と、ホウ素元素が多く存在するBリッチ相とからなる非磁性相が、強磁性である主相のNdFe14B相の粒界相を形成する結晶の微細構造を形成し、磁石の保磁力を発現させる。いっぽう、Ndリッチ相は酸素や水蒸気との反応で、酸化物Ndや水酸化物Nd(OH)が形成され、酸化物や水酸化物の形成で、Ndリッチ相が体積膨張して粒界破壊が起こり、焼結体から強磁性の主相を含む結晶粒が剥がれ落ちる。結晶粒が脱落すると、表面に現れた新たなNdリッチ相が腐食し、脱落した結晶粒に隣接する結晶粒が脱落する。こうした粒界破壊がどこまでも進む。同様に、プラセオジム元素Prを含む異方性希土類磁石も、腐食による粒界破壊が進む。
しかし、強磁性の主相を取り囲むNdリッチ相の中で、非磁性のNdリッチ相は、磁石の保磁力を発現させる上で欠かせない。従って、焼結と熱処理との処理を伴うネオジウム磁石には、耐食性の処理が必須になる。また、プラセオジム磁石についても同様である。
異方性ネオジウム磁石の腐食を防止する方法として、希土類磁石の表面に、射出成形、押出し成形、トランスファー成形などによって合成樹脂の保護膜を形成する方法、樹脂の溶液を塗布して被膜を形成する方法、ニッケルメッキの被膜を施す方法などが、希土類磁石メーカの製品カタログに記載されている。しかし、磁石の表面に非磁性の保護膜を形成する方法では膜厚が厚くなり、希土類磁石の表面からの漏れ磁束量が低減し、磁気エネルギーの損失が大きくなる。一方、膜厚を薄くした場合は、膜の内部にあるボイド等の構造欠陥部が温度衝撃等の熱応力を受けて破壊され、希土類磁石が腐食される恐れがある。樹脂の溶液を塗布する方法では、複数回塗布することによって塗膜の厚みを確保するが、このような塗膜も内部にボイド等の欠陥を有し、温度衝撃等の熱応力によって塗膜の内部が破壊されるため、磁石の使用環境条件が限定されていた。
さらに、燒結の処理を伴う希土類磁石は、焼結の際に体積が燒結前の70%程度まで収縮する。このため、焼結を伴って製造した磁石は機械加工によって寸法精度を確保する。しかし、希土類磁石は硬度が高く、例えばネオジウム磁石のビッカース硬度は600HVで、機械加工を施すと、加工面に物理的欠陥層が形成され、この欠陥層が僅かな応力で脱落する。このため、予め表面の物理的欠陥層をバレル研磨により脱落させ、研磨、洗浄、乾燥からなる事前処理を行なった後、前記した様々な材質と構造とからなる耐食性被膜を形成する。従って、耐食性の被膜を形成する費用が、希土類磁石の製造費用の全体の3割近くに及び、研磨が不要な方法で耐食性をもたらす技術が求められている。いっぽう、腐食しない希土類磁石が最も望ましいが、保磁力を発現させるには、主相の粒界相として、非磁性の粒界相が必須になり、熱処理を伴う異方性希土類磁石の腐食は回避できない。
いっぽう希土類磁石は、原料が合金であるため導電性を示す。例えば、ネオジウム鉄ボロン磁石の比抵抗は1.3×10−4Ωcmで、サマリウムコバルト磁石の比抵抗は0.9×10−4Ωcmである。ちなみに、銅の比抵抗は1.68×10−6Ωcmであり、ネオジウム鉄ボロン磁石の比抵抗は銅の77倍に過ぎない。このため、希土類磁石は、合金の導電性に応じた渦電流損失を生じる。特に、ハイブリッド自動車用モータ、電気自動車用モータ、鉄道車両用モータや風力発電機用モータでは、大型の希土類磁石を使い、モータの回転数が高いため、モータの連続動作では渦電流損失による発熱が継続し、これによって、希土類磁石の保磁力が低下し、希土類磁石は減磁する。例えば、20℃で12kOeの保磁力を持つ異方性希土類磁石が、200℃でわずかに2kOeまで保磁力が低下し、減磁する磁石が存在する。これによって、モータの出力が大きく低下する。
こうした希土類磁石の渦電流損失の課題に対し、磁石の原料である合金粒子を絶縁化する技術がある。例えば、特許文献1には、合金粒子の表面に、アルカリ土類金属ないしは希土類金属の弗化物を形成させる技術が開示されている。弗化物の形成は、スパッタリング、蒸着、溶射、溶液の塗布などの方法によることが記載されている。
しかし、磁石の原料である合金粒子は活性状態にある。従って、活性状態にある合金粒子の表面にフッ化物を形成する際に、合金粒子の表面に酸化物ないしは水酸化物が容易に形成される。こうした合金粒子を用いて製造した磁石は、前記した腐食が進行する。
いっぽう、渦電流損失による減磁の課題は、保磁力を向上させることで解決される。保磁力を向上させる取り組みとして、主相である強磁性相の粒界に、異方性磁界が大きいジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素を拡散させる技術、あるいは、主相の希土類元素の一部をジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素に置き換える技術が知られている(例えば、特許文献2−3を参照)。しかしながら、このような希土類磁石も、腐食による粒界破壊が進行するため、耐食性の処理が必要になる。
いっぽう、ジスプロシウムDyやテルビウムTbの地下資源が特定の国に偏在し、将来の安定供給の観点から、ジスプロシウムDyやテルビウムTbを用いない希土類磁石が必要とされている。このため、ジスプロシウムDyやテルビウムTbを用いない希土類磁石の技術開発が行われている(例えば、非特許文献1−3を参照)。
さらに、サマリウム鉄窒素化合物が550℃程度で熱分解する性質に対し、高加圧通電焼結法という低温燒結技術の開発によって、400℃でサマリウム鉄窒素粉末を焼結する等方性磁石の技術開発が行われている(非特許文献4を参照)。
ここで、焼結と熱処理の処理を伴う異方性希土類磁石の製造方法を説明する。最初に、希土類磁石の組成に応じて、複数種類の原料を秤量し、この原料を真空中ないしはアルゴンガス中で溶解し、合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で500−600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmからなる粉末に微粉砕する。この微粉末を磁石の原料となる合金微粒子として用い、窒素ガスの雰囲気に置かれた金型に充填し、磁場を印加し、合金微粒子の磁化を磁場方向に配向させ、かつ、圧縮応力を加え、必要な形状に成形する。しかし、成形品の密度が合金の真密度の50−60%程度であるため、焼結によって密度を真密度に近づけ、磁石の残留磁束密度と機械的強度とを確保する。焼結は真空ないしはアルゴンガスの雰囲気において、熱処理炉を1100℃付近まで昇温し、一定時間放置して合金微粒子の焼結を進め、この後、熱処理炉を急冷する。焼結によって、成形体の結晶は成長する。さらに、焼結体における結晶の微細構造を、強磁性相が非磁性の物質で囲まれる構造とし、磁石の保磁力を発現させるため、熱処理を2段階に分けて行う。すなわち、再度、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置し、その後、550℃付近に一定時間放置し、この後急冷する。こうして異方性希土類磁石が製造される。従って、磁石の原料である合金微粒子を製造する製造費用と共に、焼結工程と熱処理工程とにおける処理費用が、磁石の製造費用の大半を占めることになる。
上記した焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石の製法上の課題を説明する。
第一に、インゴットを微粉砕した合金微粒子の表面に酸化物や水酸化物が形成される。このため、合金微粒子は酸素ガスや水蒸気が排除された雰囲気での処理を継続して行う。これによって、希土類磁石の製造コストが高まる。従って、合金微粒子の表面が不活性化できれば、合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが下がる。さらに、不活性な物質で覆われた合金微粒子は、外界から遮断され、この合金微粒子を原料として用いて製造した磁石は腐食しにくい。また、合金微粒子の表面が絶縁性物質で不活性化できれば、こうした合金微粒子を用いて製造した磁石の渦電流損失は大幅に低減する。
第二に、成形機による成形密度がある。つまり、合金微粒子は硬く、かつ、活性状態にあるため、圧縮成形時に合金微粒子同士の接触部に過大な摩擦力が発生し、成形体の密度が真密度の50−60%程度に抑制される。このため、合金の真密度に近づける焼結処理が必須となり、磁石の製造コストを高める。従って、圧縮成形時に、合金微粒子を覆う物質が、合金微粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに、合金微粒子の移動を妨げられなければ、合金の真密度に近い成形体が成形できる。これによって、焼結過程が不要になり、磁石の製造コストが大幅に下がる。また、焼結に依る成形体の収縮がなく、磁石の機械加工が不要になる。さらに、焼結に依る合金微粒子の成長がない。従って、圧縮成形体をフル着磁した異方性希土類磁石では、合金微粒子同士が強固に磁気吸着し、磁石を落下させても、重量が極わずかである合金微粒子が磁気吸着力で剥がれず、焼結を伴う異方性希土類磁石より、機械的強度が増大する。
第三に、保磁力を発現させる機構がある。ところで、強磁性相のみで構成された合金微粒子を磁石の原料として用いて製造した磁石に、逆磁界を印加させると、強磁性相の磁化の反転を妨げる非磁性相が存在しないため、磁石は保磁力を持たない。このため、焼結後の成形体に熱処理を施し、保磁力を発現させることが必須になる。つまり、第二の課題で説明したように、圧縮成形しただけでは、成形体の密度が合金の50−60%でしかないため、1100℃に近い温度で焼結を行ない、成形体の密度を合金の密度に近づけた。いっぽう、保磁力を発現させる熱処理は、焼結温度より低い。このため、保磁力をもたらす熱処理は、焼結の後工程にしなければならい。従って、磁石の組成からなる合金に、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させる熱処理を施し、この合金からなる微粒子を、磁石の原料として用いても、熱処理温度より高い焼結処理によって成形体の密度を高めるため、熱処理に依る保持力を発現させる結晶の微細構造は、焼結によって消滅する。このため、異方性希土類磁石の製造には、焼結工程と熱処理工程とが不可欠になり、磁石の製造コストを押し上げる。
これに対し、合金微粒子の焼結工程が不要になれば、つまり、圧縮成形で合金の密度に近い成形体が得られれば、磁石の組成からなる合金に対し、保磁力を発現させる結晶の微細構造を実現させる熱処理を行なうことができる。こうした合金を粉砕した合金微粒子を原料とした磁石は保磁力を持つ。これによって、焼結と熱処理とが不要になり、異方性希土類磁石の製造コストが大幅に下がる。なお、合金微粒子における非磁性相の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。また、合金微粒子に希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性化できれば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、合金微粒子を非磁性の物質で覆えば、圧縮成形体における合金微粒子は非磁性の物質で囲まれる。このような成形体で磁石を構成し、磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層が、その内側にある合金微粒子の磁化を飽和させる障害になり、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。
次に、熱間加工による異方性ラジアルリング磁石の製造方法を説明する。磁石の保磁力を発現するため、非磁性の希土類元素のリッチ相を粒界相として出現させ、また、希土類元素のリッチ相が存在することで磁石の熱間押出しの成形性が向上するため、NdFe14Bの化学量論比より希土類元素が多い組成からなる合金を、真空中ないしはアルゴンガス中で溶解させて溶湯を作る。この溶湯を窒素ガスの雰囲気で高速回転するロールに噴射させ、溶湯が急冷して、30nm程度の結晶粒の集まりからなる薄帯が製造される。さらに、薄帯を窒素ガス中で150μm程度の薄片に機械的に粉砕する。薄片は、前記した焼結と熱処理との処理を伴う異方性希土類磁石の原料となる合金微粒子と比べると、粒子の大きさが2桁大きく、結晶粒は1桁小さい。この薄片状の合金粒子を磁石の原料として用い、真空ないしはアルゴンガスの雰囲気において、合金粒子の集まりを冷間プレスした後に、800℃前後で熱間プレスすると、真密度に近い等方性磁石が得られる。この後、合金粒子に異方性を発現させるため、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる。つまり真空ないしはアルゴンガス雰囲気において、再度、等方性磁石を800℃前後まで加熱し、熱間塑性加工に必要な液相を発生させ、この後、熱間押出しを行う。合金粒子が押出応力を受けると、結晶粒のc軸と垂直な方向に、結晶粒が異方成長し、これに伴い、結晶粒が粒界で滑り、結晶粒が回転することで、応力を加えた方向(円周方向)と同じ方向に、結晶粒のc軸が配向する。これによって、結晶粒は、幅が50nm程度で長さが200−500nmからなる細長い円盤状の形状となり、厚み方向と結晶粒のc軸とが一致する。この円盤状の結晶粒のc軸は50nmと狭く、磁化がc軸方向に拘束されるため、15kOeを超える保磁力を持つ磁石が製造でき、耐熱性に優れたネオジウム磁石になる。しかし、結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段が、熱間押出しに限定されるため、製造できる磁石はラジアル異方性のリング磁石に限定される。また、熱間プレスと熱間塑性加工における処理が、リング磁石の製造費の大部分を占める。
上記した熱間加工によるラジアル異方性のリング磁石の製造上の課題を説明する。
第一に、薄片状の合金粒子が活性状態にある。このため、合金粒子の表面に酸化物や水酸化物が容易に形成される。このため、合金粒子は、酸素ガスや水蒸気が排除された雰囲気での処理を継続して行う。これによって、磁石の製造コストが高まる。合金粒子を不活性化すれば、合金微粒子の処理が容易になり、磁石の製造コストが下がる。さらに、不活性な物質で合金粒子を覆えば、合金粒子の表面が外界から遮断され、この合金粒子を原料として用いて製造した磁石は腐食しにくい。さらに、合金粒子を絶縁性の物質で不活性化すれば、合金粒子を原料として用いて製造した磁石の渦電流損失は大きく低減する。
第二に、熱間プレスによる成形密度である。つまり、薄片状の合金粒子は活性状態にあるため、10段落で説明した焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石における合金微粒子と同様に、圧縮成形時に薄片状の合金粒子同士の接触部に過大な摩擦力が発生し、圧縮成形体の成形密度が抑制される。このため、800℃前後まで昇温し、薄片状の合金粒子を液相化させ、熱間プレスによって、合金密度に近い等方性磁石を作成した。いっぽう、磁石の組成からなる溶湯を急冷して製造した薄帯における結晶粒が、僅かに30nm程度である。こうした薄帯を原料として異方性の希土類磁石を製造するには、薄帯を150μm程度の薄片に粉砕し、この薄片の集まりを、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段しかないため、800℃に近い温度で熱間押出しによって、異方性のリング磁石を製造することになった。いっぽう、薄片状の合金粒子を不活性な物質で覆い、この合金粒子の集まりを圧縮した際に、薄片状の合金粒子を覆う不活性な物質が、合金粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに、合金粒子の移動を妨げられなければ、合金の真密度に近い成形体が成形でき、磁石の残留磁束密度が高まる。これによって、熱間プレス工程が不要になり、磁石の製造コストが下がる。
第三に、磁石の異方性と保磁力とを発現させる機構である。第二の課題で説明したように、僅かに30nm程度の結晶粒からなる薄帯を原料とし、異方性の希土類磁石を製造するには、薄帯を150μm程度の薄片に粉砕し、この薄片の集まりを、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段しかない。このため、800℃に近い温度で熱間押出しによって、合金粒子の結晶粒のc軸方向に磁化が拘束され、磁石に必要な異方性と保持力とが得られるようになる。しかし、熱間押出しの処理が必須になり、磁石の製造コストを高め、また、熱間押出しの製法上の制約で、磁石がリング磁石に限定される。
いっぽう、薄片状の合金粒子が、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持てば、保磁力が発現する。さらに、薄片状の合金粒子を不活性な物質で覆い、合金粒子の集まりに磁場を印加して圧縮した際に、不活性な物質が合金粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに合金粒子の移動を妨げられなければ、合金粒子の磁化が磁場方向に配向されるとともに、合金の真密度に近い成形体が成形できる。これによって、異方性の希土類磁石が製造できる。この結果、熱間押出し加工が不要になり、また、磁石形状がリング状に制約されない。なお、薄片状の合金粒子における不活性な物質の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。また、合金粒子には希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性な物質で覆えば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、薄片状の合金粒子を、焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石における合金微粒子と同様の大きさに微粉砕し、この合金微粒子を非磁性物質で覆い、この合金微粒子の集まりを、磁界を印加して圧縮成形し、さらに、より大きな磁界を印加し、合金微粒子の磁化を飽和させて異方性希土類磁石とする。このような異方性希土類磁石に、逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層の存在で、その内側に存在する合金微粒子の磁化を飽和させるには、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。
次に、サマリウム鉄窒素化合物を原料とする磁石の製法上の課題を説明する。
ところで、サマリウム鉄窒素化合物において、SmFe17の組成からなる化合物は、自発磁化が1.57Tで、異方性磁界が20.69MA/mで、磁気キュリー点が476℃である。また、SmFe1.5の組成からなる化合物は、自発磁化が1.70Tで、異方性磁界が6.13MA/mで、磁気キュリー点が520℃である。これに対し、ネオジウム磁石の強磁性の主相を構成するNdFe14Bの組成からなる化合物は、自発磁化は1.61Tで、異方性磁界は6.13MA/mで、磁気キュリー点が312℃である。このように、サマリウム鉄窒素化合物は、ネオジウム鉄ボロン化合物より磁気物性に優れ、磁気キュリー点が150℃以上高いため、ジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素を用いなくても、高温時の保磁力が確保できる長所を持つ。従って、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルは、ネオジウム磁石の実力より高いが、以下に説明する課題を持つ。
第一の課題は、サマリウム鉄窒素化合物が550℃付近で熱分解する。このため、サマリウム鉄窒素化合物の焼結に依る固化が困難であると考えられてきた。しかし、最近、高加圧通電焼結技術の開発によって400℃で焼結固化が可能になり、最大エネルギー積が16.2MGOeを持つ等方性磁石が得られている。この最大エネルギー積は、ネオジウムの等方性磁石の最大エネルギー積より大きい(非特許文献4を参照)。
第二の課題は、高加圧通電焼結技術は、まだ実験室レベルの技術である。つまり、真空チャンバー内に配置された金型に充填された合金微粒子に、1GPaを超える巨大な圧力を加え、金型にパルス電流を流して合金微粒子同士を焼結する。この際、全ての合金微粒子に均等に圧縮応力が加わり、全ての合金微粒子の周囲が合金微粒子と接し、合金微粒子同士が接する面が再現性良く焼結することに依って、真密度に近い焼結体が得られる。しかし、再現性を持って等方性のサマリウム鉄窒素磁石を製作する製造上の課題はいまだ多い。また、高加圧通電焼結技術が、特殊な環境と特殊な条件とによって、合金微粒子が焼結されるため、磁石を製造するコストを引き上げる。
第三に、高加圧通電焼結技術では、製造できる磁石が等方性に制限される。上記したように、サマリウム鉄窒素化合物はネオジウム鉄ボロン化合物より磁気物性が優れるため、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルは、ネオジウム磁石の実力より高い。従って、異方性磁石であれば、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルが発揮でき、異方性ネオジウム磁石の最大エネルギー積を超える磁石が実現でき、最大エネルギー積が最も大きい永久磁石が実現できる。また、磁気キュリー点が高いため、高温でも減磁しない。
第四は、焼結によって磁石を製造する。このため、上記した高加圧通電焼結技術のような特殊な技術が必要になり、磁石の製造コストが増大する。
ここで、サマリウム鉄窒素化合物からなる磁石の原料の製造方法を説明する。最初に、原料となる酸化サマリウム、鉄、カルシウムからなる粉体を混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉において混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムによって還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムになる。還元されたサマリウムは、鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除くと、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子が得られる。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理すると、窒素がサマリウム鉄合金に拡散してサマリウム鉄窒素化合物からなる微粒子が得られる。さらに、窒素雰囲気で微粒子を平均粒径が2−3μmからなる微粒子に微粉砕し、磁石の原料を得る。
いっぽう、10段落と12段落で説明したように、活性状態にある合金微粒子の表面を不活性化させ、この合金微粒子の集まりを、磁界を印加して圧縮成形する際に、合金微粒子の磁化を磁場の印加方向に配向させ、かつ、合金の真密度に近い成形体が得られれば、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が製造できる。これによって、焼結工程が不要になる。また、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持たせる熱処理を、サマリウム鉄窒素合金に施し、こうした合金を粉砕した合金微粒子を原料として製造した磁石は保磁力を持つ。なお、合金微粒子における非磁性相の組成割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。合金微粒子に希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性化できれば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、合金微粒子を非磁性の物質で覆えば、圧縮成形体における合金微粒子は非磁性の物質で囲まれる。このような成形体で磁石を構成し、磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層が、その内側にある合金微粒子の磁化を飽和させる障害になり、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。また、不活性化する物質が絶縁性であれば、圧縮成形で製造した磁石の渦電流損失は大幅に低減する。
この結果、異方性ネオジウム磁石の性能を凌駕する異方性サマリウム鉄窒素磁石が実現でき、さらに、磁石の製造コストが大幅に下がる。
特開2006−66870号公報 特開2003−77717号公報 再表2007−102391号公報
Nd−Fe−B磁石の高保磁力化をめざした微細組織制御 日本金属学会誌 76巻1号 2−11(2012) Nd−Fe−B焼結磁石 Low Dy Series、日立金属技報 Vol.31 p48(2015) Dyフリー熱間加工磁石の磁区構造、電気製鋼/大同特殊鋼技報 86巻2号 p83(2016) 産総研TODAY 12(6) 22(2012)
ここで、焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石の製法上の課題を改めて整理する。
第一の課題は、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子が活性状態にある。この課題は、合金微粒子を不活性な物質で覆えば解決される。これによって合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、圧縮成形した成形体の密度は、合金の真密度の50−60%程度に抑制される。このため、焼結工程によって成形体の密度を真密度に近づけた。つまり硬度が高く、活性状態にある合金微粒子の集まりを圧縮成形すると、微粒子の接触部に過大な摩擦力が発生し、圧縮成形に依る密度が真密度の50−60%程度に抑制された。いっぽう、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。従って、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向され、かつ、合金の密度に近い密度を持つため、第三の課題が解決できる。このような成形体に、合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を加えると、必要となる最大エネルギー積を持つ異方性希土類磁石が得られる。これによって、焼結工程が不要なり、焼結による成形体の収縮がなくなり、磁石の機械加工も不要になり、磁石の製造コストが大幅に下がる。
第四の課題は、熱処理以外の手段で保磁力を発現させる。つまり、熱処理によって、非磁性の希土類元素リッチ相と非磁性のボロンリッチ相とが、強磁性の主相が形成する粒界相として形成され、この結晶の微細構造で保磁力が発現した。この課題は、希土類磁石の組成からなる合金に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この合金を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。しかし、成形体の密度を高める焼結の処理を実施しないことが前提になる。つまり、熱処理温度が焼結温度より低く、焼結処理を実施すると、合金に実施した熱処理の効果は消滅する。従って、第三の課題が解決できれば、第四の課題も解決できる。これによって、熱処理が不要になり、磁石の製造コストが下がる。なお、合金微粒子における非磁性相の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。いっぽう、合金微粒子を覆う不活性な物質を非磁性の物質で構成すれば、合金微粒子が非磁性の物質の層で覆われ、非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、新たな機構による保磁力が発現し、保磁力が増大する。また、非磁性の物質の層で覆われた合金微粒子の集りからなる磁石は錆びにくい。これによって、第一と第二の課題も同時に解決される。従って、第一から第四の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要である。
第五の課題は、磁石における渦電流損失の発生である。磁石の原料である合金微粒子が導電性であるため、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば解決される。
上記した5つの課題を解決する異方性希土類磁石を製造する新たな製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、焼結と熱処理との過程が不要になり、製造後の磁石の機械加工も不要になり、異方性希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。また、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。さらに、製造された磁石は腐食しにくい。本発明が解決しようとする課題は、これら5つの課題を同時に解決する異方性希土類磁石の新たな製造方法を実現することである。
次に、希土類磁石の組成からなる合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した薄片を、希土類磁石の原料として用いる異方性希土類磁石の製法上の課題を改めて整理する。
第一の課題は、原料の合金粒子が活性状態にある。この課題は、合金微粒子を不活性な物質で覆えば解決される。これによって合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、合金粒子の磁化の異方性を熱間押出し以外の方法で実現する。これによって、磁石がリング形状に限定されない。つまり、150μm程度の大きさからなる合金粒子を熱間押出しによって、結晶粒のc軸方向に磁化を配向できるため、磁石はリング形状に限定された。従って、熱間押出し以外の方法で、合金粒子の磁化が配向できれば、磁石はリング形状に限定されない。このため、薄帯を微粉砕した合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮成形した際に、合金微粒子の磁化が磁場方向によって配向できれば、第三の課題が解決される。
第四の課題は、熱間プレス以外の方法で、合金の密度に近い成形体を得る。つまり、薄片状の粒子を800℃前後まで昇温して液相化させ、この後熱間プレスで、合金の密度に近い等方性磁石を得た。ところで、150μm程度の大きさからなる薄片を、2桁小さい合金微粒子に粉砕し、合金微粒子の集まりを圧縮するだけで、合金の密度に近い成形体が得られれば、熱間プレスの処理が不要になる。このため、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。さらに、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、かつ、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を加えると、必要となる最大エネルギー積を持つ異方性希土類磁石になる。これによって、第三と第四の課題とが同時に解決される。
第五の課題は、熱間押出し以外の方法で保磁力を発現する。この課題は、合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した薄片に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この薄片を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。
さらに、合金微粒子を覆う不活性な物質を非磁性の物質で構成し、合金微粒子の集まりに磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、かつ、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、異方性希土類磁石になる。さらに、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層によって、新たな保磁力が発現し、保磁力が増大する。これによって、熱間押出しの工程が不要になり、磁石形状がリング磁石に限定されない。また、合金微粒子には、希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を非磁性の物質で覆うため、合金微粒子は腐食しにくい。この結果、第五の課題が解決されるとともに、第一からと第四の課題も同時に解決される。従って、第一から第四の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要になる。
第六の課題は、磁石に渦電流が発生する。つまり、原料である合金微粒子が導電性で、これによって、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば解決される。
上記した6つの課題を解決する異方性希土類磁石の製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、熱間プレスと熱間押出しとが不要になり、希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。また、磁石はリング形状に限定されない。さらに、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。また、磁石は腐食しにくい。本発明が解決しようとする課題は、前記した5つの課題を同時に解決する異方性希土類磁石の新たな製造方法を実現することである。
サマリウム鉄窒素化合物を原料とする異方性希土類磁石の製造上の課題を整理する。
第一の課題は、インゴットを微粉砕した合金微粒子と、溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した合金微粒子と同様に、原料の合金微粒子が活性状態にある。従って、合金微粒子を不活性な物質で覆えば、この課題は解決される。これによって、合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、異方性磁石を実現する。これによって、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が得られる。磁石の原料として用いる合金微粒子の磁化が、磁場を印加した方向に配向されれば、この課題は解決される。
第四の課題は、焼結以外の方法で合金の密度に近い成形体を得る。これによって、高加圧通電焼結技術という特殊な焼結処理が不要になる。さらに、焼結による成形体の収縮がなく、製造した磁石の機械加工も不要になる。このため、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。さらに、合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、異方性希土類磁石になる。
第五の課題は、異方性磁石に保磁力が発現する。この課題は、磁石の組成からなるサマリウム鉄窒素合金に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この合金を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。しかし、成形体の密度を高める焼結の処理を実施しないことが前提になる。つまり、熱処理温度が焼結温度より低いため、焼結処理を実施すると、合金に実施した熱処理の効果は消滅する。従って、第四の課題が解決できれば、第五の課題も解決できる。さらに、熱処理された合金を粉砕して微粒子とし、この合金微粒子を非磁性の物質の層で覆い、この合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮成形し、さらに、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が製造できる。さらに、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層によって新たな保磁力が発現し、保磁力が増大する。さらに、非磁性の物質で覆われた合金微粒子は錆びにくい。これによって、第五の課題が解決するとともに、第一から第四の課題が同時に解決される。従って、第一から第五の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要になる。
第六の課題は、磁石に渦電流が発生する。つまり、磁石の原料である合金微粒子が導電性であり、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば、この課題は解決される。
本発明が解決しようとする課題は、前記した6つの課題を同時に解決するサマリウム鉄窒素化合物を原料とする新たな異方性磁石の製造方法を実現することである。
上記した6つの課題を解決するサマリウム鉄窒素化合物を原料とする磁石の新たな製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、焼結工程が不要になり、製造後の磁石の機械加工も不要になり、これらによって、異方性希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。さらに、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性が、異方性磁石として発現される。また、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。
異方性希土類磁石の製造方法は、熱分解で非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子を析出する有機金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成する、この後、90%より多い体積を合金からなる強磁性の主相が占める一の特徴と、前記金属酸化物の微粒子より硬度が高い微粒子である第二の特徴と、前記金属酸化物の微粒子の大きさより2桁大きい微粒子である第三の特徴とを兼備する合金微粒子の集まりを、前記アルコール分散液に混合して懸濁液を作成する、さらに、前記懸濁液を容器に移し、該容器を真空チャンバーに配置する、この後、前記真空チャンバー内の圧力を減圧し、前記懸濁液からアルコールを気化させ、前記合金微粒子の表面を前記有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆う、さらに、前記真空チャンバー内の圧力を大気圧に戻し、前記有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆われた合金微粒子の集まりを前記容器から金型に移し、該金型を前記有機金属化合物が熱分解する温度に昇温し、前記有機金属化合物を熱分解し、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子の集まりを、前記合金微粒子の表面に析出させ、該合金微粒子を前記金属酸化物の微粒子の集まりで覆う、この後、該金型を室温に戻す、さらに、前記金型内の前記金属酸化物の微粒子の集まりで覆われた合金微粒子の集まりに、一定の磁場を同一方向に印加するとともに、徐々に増大する圧縮応力を加え、該金型内に圧縮成形体を成形する、この後、前記圧縮成形体に、前記合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を印加し、方性希土類磁石を製造する、異方性希土類磁石の製造方法である
磁石の原料として用いる合金微粒子は、90%より多い体積を強磁性の主相が占める合金であり、希土類元素がリッチな相が存在するため、大気雰囲気で水酸化物や酸化物が形成される。また、比表面積が大きい微粒子で、不純物を含まない活性な合金であるため、合金微粒子同士が大気中で接触すると、摩擦によって合金微粒子が発火する恐れがある。このため、合金微粒子は窒素ガスと共に容器に封入される。なお、合金微粒子は、平均粒径が2−5μmの範囲に入る微粒子である。
本製造方法における磁石の原料である合金微粒子の第一の処理は、窒素ガスと共に封入された合金微粒子の集まりを、アルコールが過剰な有機金属化合物のアルコール分散液に直接混合し、懸濁液を作成する。このため、合金微粒子同士が大気雰囲気で接触することはない。第二の処理は、真空チャンバーの圧力を減圧し、アルコールを気化させる。アルコールが沸騰する際に懸濁液が撹拌され、アルコールが気化した後は、合金微粒子の表面は、有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆われる。これによって、合金微粒子が外界から遮断され、以降の処理は、大気雰囲気での処理が可能になる。なお、有機金属化合物の微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属酸化物の粒状微粒子の大きさに近い。また、有機金属化合物は吸湿性を持たない。いっぽう、懸濁液を作成する際に、水蒸気や有機物などの異物が、懸濁液に混入したとしても、真空チャンバーを減圧する際に全ての異物は気化し、合金微粒子は有機金属化合物の微細結晶で覆われ、一切の異物が付着しない。また、合金微粒子に酸化物や水酸化物が形成されない。
次に、合金微粒子の集まりを、真空チャンバーから金型に移す。さらに、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解し、合金微粒子の表面に、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子の集まりが析出し、全ての合金微粒子が金属酸化物の微粒子で覆われる。この有機金属化合物の熱分解は、合金微粒子の表面で起こる。つまり、熱分解温度に近づくと、有機金属化合物が金属酸化物と有機物とに分解し、有機物の密度が金属酸化物の密度より小さいため、有機物が上層に金属酸化物が下層になるように析出し、上層の有機物が気化した後に、金属酸化物が、10−100nmの間に入る粒状の微粒子を析出して熱分解反応を終え、金属酸化物の微粒子より2桁大きい合金微粒子の表面は、金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。金属酸化物は安定な物質で、合金微粒子の表面と反応しない。このように、有機金属化合物の熱分解が、合金微粒子の表面を覆った状態で進むため、合金微粒子の表面は外界に触れない。このため、合金微粒子に酸化物や水酸化物が形成されない。また、合金微粒子の集まりを、真空チャンバーから金型に移す際に、水蒸気や有機物などの異物が混入したとしても、有機金属化合物を熱分解する際に、異物は気化する。このため、合金微粒子は、金属酸化物の微粒子のみで覆われ、異物は一切存在しない。
さらに金型を室温に戻し、金型に一定の磁場を同一方向に印加し、徐々に増大する圧縮応力を、金型内の合金微粒子の集まりに加える。こうして、金属酸化物の微粒子で覆われた合金微粒子の集まりからなる圧縮成形体が金型内に形成される。この圧縮成形体の密度は、下記に説明するように合金の密度に近い。このような圧縮成形体に大きな磁界を印加し、強磁性の主相の磁化を飽和させると、異方性希土類磁石が製造される。なお、圧縮成形体は、金属酸化物の微粒子が1%より少ない体積で、合金微粒子が99%より多い体積を占めるように、有機金属化合物を合金微粒子に吸着させる。このため、アルコールに分散された有機金属化合物の分散濃度は極めて低く、全ての合金微粒子の表面が、有機金属化合物のアルコール分散液と接触する。
こうして製造された異方性希土類磁石は、合金微粒子が金属酸化物の微粒子で覆われているため、異方性希土類磁石を液体中で使用することができる。液体中で使用する際に、希土類磁石の表面の合金微粒子を覆う金属酸化物の微粒子のみが脱落するため、表面の合金微粒子のみが腐食されるが、圧縮成形体を着磁した後においては、合金微粒子同士が強固に磁気吸着するため、金属酸化物の微粒子の集まりが障害になり、その他の合金微粒子への腐食は進行しない。さらに、金属酸化物が絶縁性であり、異方性希土類磁石には渦電流損失が発生せず、希土類磁石の発熱がないため、保磁力が低下しない。
ここで、圧縮成形時における、金型内の合金微粒子の挙動を説明する。合金微粒子は、高圧で超音速の窒素気流ないしはヘリウム気流によるジェットミルなどの手段で機械的に微粉砕されたものを用いる。従って、合金微粒子同士が、超音速で衝突を繰り返すことで微細化されるため、合金微粒子は様々な異形形状で構成され、大きさにも偏差がある。このような合金微粒子を有機金属化合物の微細結晶で覆い、合金微粒子の集まりを金型に充填すると、ランダムに混じり合った合金微粒子の集まりには、僅かな大きさであるが、非常に多くの空隙が形成される。さらに、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解すると、大きさが合金微粒子より2桁小さい金属酸化物の微粒子が、空隙を埋めるように合金微粒子の表面に一斉に析出し、全ての合金微粒子は金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。さらに、金型に一定の磁場を同一方向に印加しながら、合金微粒子に加える応力を少しずつ増大して圧縮する。合金微粒子は金属酸化物の微粒子で覆われているため、合金微粒子同士は直接接触せず、合金微粒子に摩擦力が発生せず、金属酸化物の微粒子を伴って、空隙を埋めるように、合金微粒子が僅かに回転を伴って移動する。なお、磁場が同一方向に継続して印加されるため、合金微粒子が回転を伴って移動しても、合金微粒子の主相の磁化は磁場方向に継続して配向する。合金微粒子が移動できる大きさの空隙がなくなると、圧縮応力は金属酸化物の微粒子に加わり、金属酸化物の微粒子の硬度が合金微粒子の硬度より低いため、金属酸化物の微粒子が優先して破壊され、より微細な微粒子となって空隙を埋める。空隙が金属酸化物の破壊で埋められない数ナノ程度の大きさになると、金属酸化物の微粒子の破壊が停止し、合金微粒子に圧縮応力が加わる。さらに圧縮応力が増大すると、合金微粒子の塑性変形が始まり、金属酸化物の微粒子の集まりを介して、合金微粒子が絡み合いを始める。この段階で圧縮応力の印加を停止する。こうして製造された圧縮成形体は、数ナノから数十ナノの様々な大きさからなる金属酸化物の微粒子の数十個が合金微粒子を取り囲み、空隙が数ナノ程度の大きさである稠密構造となる。また、金属酸化物の微粒子が1%より少ない体積で、合金微粒子が99%より多い体積を占める、稠密構造からなる成形体が製造され、成形体の密度は合金の密度に近い。この圧縮成形体は、衝撃力以外の応力に耐えられる一定の機械的強度を持つ。なお、前記した合金微粒子の集まりの金型内における挙動は、圧縮応力を加えた際の金型が受ける反発力の大きさから判断でき、合金微粒子の塑性変形が開始された際に反発力が最大となり、この時点で圧縮応力の印加を停止する。従って、合金微粒子には圧縮応力の印加に依る磁気歪は残留しない。
いっぽう、圧縮成形体は、モータなどに組み込む際に破壊しない程度の機械的強度が必要になる。この機械的強度が不十分であれば、圧縮成形体を着磁する際に加える磁場の1/5程度の磁界を加えれば、圧縮成形体は十分な機械的強度を持つ。つまり、圧縮成形体は、モータなどに組み込んだ後に着磁し、合金微粒子の主相の磁化を飽和させ、合金微粒子の磁力を最大限発揮させ、異方性希土類磁石とする。この際、合金微粒子に大きな磁界が加わり、主相の磁化が飽和した合金微粒子は、強力な磁気吸引力で互いに磁気吸着し、重量が極僅かな合金微粒子は、磁化を消磁させない限り、磁気吸着力で剥がれない。また合金微粒子は、ミクロンの大きさになるまで十分な時間をかけて粉砕しているため、異方性希土類磁石を落下させても、磁気吸着力で合金微粒子が剥がれず、また、合金微粒子は破棄されない。従って、異方性希土類磁石は、磁石として必要な機械的強度を有する。
以上に説明したように、本製造方法に依れば、従来のネオジウム磁石とサマリウムコバルト磁石とサマリウム鉄窒素磁石とにおける焼結工程と、従来のネオジウム磁石とサマリウムコバルト磁石とにおける熱処理工程と、異方性ラジアルリング磁石における熱間プレス工程と熱間押出し工程とが不要になる。このため、従来に比べて著しく安価な異方性希土類磁石が製造できる。さらに、焼結に伴う成形体の収縮がないため、圧縮成形体を機械加工する必要がない。なお、金属酸化物を析出する有機金属化合物の熱分解温度は、最高でも330℃程度で、従来の熱処理と熱間プレス処理より450℃以上低く、かつ、大気雰囲気での熱処理であり、熱処理費用は著しく安価で済む。また、圧縮成形時に、同一方向の磁場を継続して印加するため、全ての主相の磁化は磁場の印加方向に配向する。この後、着磁によって強磁性の主相の磁化を飽和させ、異方性希土類磁石が製造される。
ここで、製造した異方性希土類磁石の性能を説明するにあたり、永久磁石の残留磁束密度と保持力との定義を説明する。永久磁石に外部磁場を印加すると、磁場と磁化との関係が、よく知られた角形のヒステリシスループを描く。すなわち、正の方向の外部磁場を、磁石の正の方向の磁化が飽和するまで徐々に増大し、この後、正の方向の外部磁場の大きさを徐々に低下させ、外部磁場をゼロに戻す。この後、負の方向の外部磁場を、磁石の負の方向の磁化が飽和するまで徐々に増大し、この後、負の方向の外部磁場の大きさを徐々に低下させ、外部磁場をゼロに戻す。再度、正の方向の外部磁場を徐々に増やすと、磁場と磁化との関係が、よく知られた角形のヒステリシスループを示す。このヒステリシスループにおいて、外部磁場がゼロにおいて磁石が発生する磁化の大きさが、残留磁束密度である。従って、残留磁束密度の大きさに応じて、磁石は磁束を外界に漏らし、磁石の磁力は残留磁束密度で決まる。さらにヒステリシスループにおいて、磁化がゼロにおける磁場の大きさが保磁力であり、磁石内部の磁化の半分が反転して磁化を打ち消し、磁石の磁化がゼロになる外部磁場の大きさを意味する。このため、保磁力以上の磁場が磁石に加わると、磁石の特性が不可逆変化し、減磁という現象を引き起こす。減磁した磁石は、再度着磁する、つまり、磁石の磁化が再度飽和する大きさの磁場を加えると、磁石の磁気特性が復元する。しかし、磁石をモータから取り外して、再度着磁する必要がある。
次に、本製造方法に依る異方性希土類磁石の残留磁束密度を説明する。圧縮成形体を着磁する際に、強磁性の主相が持つ固有の物性である、異方性磁界より大きな磁界を圧縮成形体に加え、主相の磁化を飽和させる。ところで、圧縮成形体における金属酸化物の微粒子が占める体積割合は1%より少なく、99%より多い体積が合金微粒子で占められる。従って、異方性希土類磁石の残留磁束密度の大きさは、飽和された主相の磁化の総和に近く、主相が持つ固有の物性である自発磁化の大きさの総和に近づく。この結果、従来の異方性希土類磁石に近い残留磁束密度が得られる。なお、合金微粒子を覆う非磁性の金属酸化物の層が存在するため、圧縮成形体を着磁する際には、従来の希土類磁石より大きな磁界を印加させ、合金微粒子の磁化を飽和させる必要がある。また、異方性希土類磁石の表面から漏れる磁束密度の大きさは、金属酸化物の微粒子が占める体積割合は1%より少ないため、金属酸化物の存在による漏れ磁束の低減は、極わずかである。
次に、本製造方法に依る異方性希土類磁石の保磁力を説明する。従来の異方性希土類磁石は、圧縮成形体を焼結した後に、熱処理を施すことで、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、保磁力を発現させた。この非磁性相の大きさは数ナノである。つまり、数ナノの大きさの非磁性相が、2桁大きい強磁性の主相に隣接して粒界相を形成することで、磁化の反転が妨げられた。
いっぽう、本製造方法で製作した圧縮成形体においては、数ナノから数十ナノの大きさからなる金属酸化物の微粒子の数十個が、稠密構造によって合金微粒子を囲む。従って、従来の異方性希土類磁石の粒界相の大きさより、2ないし3桁厚みが大きい非磁性層が、合金微粒子を囲む。このような圧縮成形体に、合金微粒子の強磁性の主相の磁化を飽和させるのに十分な磁界を印加し、異方性希土類磁石を製作する。こうして製造された異方性希土類磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を囲む非磁性の層が、その内側に存在する合金微粒子の磁化を反転させる障害となり、異方性希土類磁石の保磁力が発現する。
ここで、本発明の異方性希土類磁石の製造方法がもたらす作用効果を整理する。
第一に、真空チャンバー内で、合金微粒子を有機金属化合物の微細結晶で覆うため、合金微粒子に酸化物や水酸化物などが形成されない。さらに、有機金属化合物の微細結晶で覆われた合金微粒子は、外界から遮断され、有機金属化合物の熱分解と圧縮成形とが大気雰囲気で行え、製造コストが大幅に抑えられる。
第二に、懸濁液からアルコールが気化する際と、有機金属化合物が熱分解する際に、水蒸気や有機物からなる異物が気化し、圧縮成形体には一切の異物が存在せず、また、合金微粒子の表面は腐食しない。このため、合金微粒子の磁気特性が反映された異方性希土類磁石が製造できる。
第三に、合金微粒子の集まりを圧縮成形する際に、一定の磁場を同一方向に継続して印加するため、異方性希土類磁石が製造できる。
第四に、合金微粒子の集まりを圧縮成形する際に、合金微粒子同士が直接接触せず、摩擦力が発生しない。また、金属酸化物の微粒子が破壊されて空隙を埋めるため、金属酸化物の微粒子が破壊されない、数ナノの大きさからなる空隙しか存在しない稠密構造が、圧縮成形体として形成される。さらに、圧縮成形体における金属酸化物が占める体積割合は1%より少なく、99%より多い体積を合金微粒子が占めるため、圧縮成形体は合金の密度に近づく。圧縮成形で合金の密度に近い成形体が得られるため、従来の焼結や熱処理や熱間圧延や熱間押出し処理などの熱処理が一切不要になり、異方性希土類磁石の製造コストが大幅に下がる。また、焼結処理に伴う成形体の収縮がなく、機械加工が不要になる。
第五に、合金微粒子が非磁性で絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆われ、合金微粒子同士が強固に磁気吸着するため、異方性希土類磁石は錆びにくく、また、渦電流損失が大幅に低減する。
第六に、圧縮成形体は、金属酸化物の微粒子が1%より少なく、99%より多い体積が合金微粒子で占められ、また、合金微粒子は、主相が90%より多い体積を占める合金で構成されるため、異方性希土類磁石の残留磁束密度の大きさは、飽和された主相の磁化の総和に近く、主相が持つ固有の物性である自発磁化の大きさの総和に近づく。このため、異方性希土類磁石の最大エネルギー積は、従来の異方性希土類磁石と劣らない。
第七に、逆磁界を異方性希土類磁石に印加した際に、合金微粒子を囲む非磁性の層が、内側に存在する合金微粒子の磁化を反転させる障害となり、保磁力が発現する。しかし、従来の異方性希土類磁石より高温で使用できる高保磁力の異方性希土類磁石としては、さらなる保磁力の増大が必要になる。
以上に説明した本発明の異方性希土類磁石の製造方法がもたらす作用効果によって、16−18段落に記載した異方性希土類磁石における課題の内、さらなる保磁力の増大を除く課題が解決された。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は前記合金微粒子として、強磁性の主相が形成する粒界相が、熱処理によって非磁性の物質で形成され合金の微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する製造方法である。
つまり、合金微粒子を構成する合金が、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持つことで、この合金を微粉砕した微粒子の集まりによって製造した異方性希土類磁石に保磁力が発現される。この保磁力は、20段落で説明した合金微粒子を取り囲む非磁性の層が発現する保磁力に加算され、従来の異方性希土類磁石より大きな保磁力が発現され、異方性希土類磁石がより高温で使用することができる。従って、16−18段落に記載した異方性希土類磁石における全ての課題が解決される。
保磁力を発現させる結晶の微細構造を持つ4種類の合金微粒子は、以下に説明する方法で製造し、異方性希土類磁石の原料として使用する。
第一の原料は、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子である。NdFe14Bの組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、ネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金を秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加して溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込んで合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕する。この後、合金粒子の集まりを、アルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置した後に、さらに550℃に一定時間放置し急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmに入る粉末に微粉砕し、異方性ネオジウム磁石の原料として用いる。従って、従来の磁石の原料である合金微粒子の製造方法に比べ、800℃と550℃での2段階の熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第二の原料も、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子である。SmCo17の組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、サマリウムとコバルトを秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込んで合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で500−600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し合金粒子を作成する。この後、合金粒子の集まりを、真空ないしはアルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置した後に急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmに入る粉末に微粉砕し、異方性サマリウムコバルト磁石の原料として用いる。従って、従来の磁石の原料である合金微粒子の製造方法に比べ、800℃近辺での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第三の原料は、合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を微粉砕した合金微粒子である。NdFe14Bの組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、ネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金を秤量し、真空中ないしはアルゴンガス中で溶解させて溶湯を作る。この溶湯を窒素ガスの雰囲気で高速回転するロールに噴射させ、溶湯を急冷させて薄帯を製造する。さらに、薄帯を窒素ガス中で150μm程度の薄片に機械的に粉砕する。この薄片の集まりを、真空ないしはアルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を600℃付近まで昇温し、一定時間放置し、この後急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が2−3μmに入る粉末に微粉砕し、異方性希土類磁石の原料として用いる。この合金微粒子の製造方法も、従来の合金微粒子の製造方法に比べ、600℃付近での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第四の原料は、サマリウム鉄窒素化合物合金を微粉砕した合金微粒子である。SmFe17の組成、ないしは、SmFe1.5の組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、酸化サマリウム、鉄およびカルシウムからなる粉体を秤量して混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉において混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムによって還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムとする。還元されたサマリウムは、鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除き、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子を得る。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理すると、窒素がサマリウム鉄合金に拡散し、サマリウム鉄窒素化合物からなる微粒子が得られる。さらに、微粒子の集まりを、アルゴンガス雰囲気で熱処理炉450℃付近まで昇温し、一定時間放置し、この後急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が2−3μmに入る粉末に微粉砕し、希土類磁石の原料として用いる。この合金微粒子の製造方法も、従来の合金微粒子の製造方法に比べ、450℃での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
以上に説明した保磁力を発現する熱処理は、異方性希土類磁石の原料である合金微粒子を製造する一環として行われる。これに対し、従来の異方性希土類磁石の製造における保磁力を発現する熱処理は、異方性希土類磁石を製造する一環として行われる。従って、同様の熱処理であっても、磁石の原料となる大量の合金微粒子に熱処理を施すため、異方性希土類磁石の原料である合金微粒子に加える熱処理費用の方が安価になる。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は、前記合金微粒子は、強磁性の主相が、NdFe14Bの組成、SmFe17の組成、SmFe1.5の組成、ないしは、SmCo17の組成のいずれかの組成からなる強磁性の主相である合金の微粒子であ該合金微粒子の主相に、前記した熱処理によって非磁性の物質からなる粒界相を形成し、該合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する製造方法である。
つまり、磁石の原料である合金微粒子を構成する合金が、90%より多い体積を強磁性の主相が占める合金は、次に説明する方法で4種類の合金を製造する。この合金微粒子の集まりを用いて製造した異方性希土類磁石は、合金における強磁性の主相の組成割合に応じた残留磁束密度を持つ。
第一の合金微粒子を製造する際に製造する合金のインゴットは、NdFe14Bの組成が、90%より多い体積を占める合金のインゴットである。つまり、原料であるネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金の各々を、合金の組成に応じて秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込むと、NdFe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットが製造される。この合金のインゴットを、22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が4−5μmに入る微粒子を製作し、この合金微粒子を原料として用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、第一の異方性ネオジウム磁石が製造される。
第二の合金微粒子を製造する際に製造する合金の溶湯は、NdFe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金の溶湯である。原料であるネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金の各々を、合金の組成に応じて秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化したNdFe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金の溶湯が得られる。この溶湯を、ストリップキャスト法で急冷させて合金の薄帯を製造し、この薄帯を22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が2−3μmに入る微粒子を製作する。この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、第二の異方性ネオジウム磁石が製造される。
第三の合金微粒子における合金は、SmFe17の組成、ないしは、SmFe1.5の組成が、90%より多い体積を占めるサマリウム鉄窒素化合物である。最初に、酸化サマリウム、鉄およびカルシウムの粉体を、合金の組成に応じて秤量して混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉で混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムで還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムになる。さらに、還元されたサマリウムは鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除くと、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子が得られる。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理し、窒素がサマリウム鉄合金に拡散し、SmFe17の組成、ないしは、SmFe1.5の組成が、90%より多い体積を占めるサマリウム鉄窒素化合物の微粒子が得られる。このサマリウム鉄窒素化合物の微粒子を、22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が2−3μmに入る微粒子を製作し、この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、異方性サマリウム鉄窒素磁石が製造される。
第四の合金微粒子における合金のインゴットは、主相のSmCo17の組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットである。この合金インゴットは、原料であるサマリウムとコバルトを合金の組成に応じて秤量して坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込むと、SmCo17の組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットが製造される。この合金インゴットを、22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が4−5μmに入る合金の微粒子を製作し、この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、異方性サマリウムコバルト磁石が製造される。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は、前記有機金属化合物として、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する製造方法である。
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、熱分解によって金属酸化物を析出する。このため、19段落に記載した異方性希土類磁石の製造方法で、有機金属化合物をカルボン酸金属化合物で構成し、合金微粒子をカルボン酸金属化合物の微細結晶で覆い、カルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、最高でも330℃程度の温度で、カルボン酸金属化合物が熱分解し、大きさが10−100nmの範囲に入る粒状の金属酸化物の微粒子の集まりが、合金微粒子の表面に析出する。この結果、合金微粒子の材質や大きさや形状に係わらず、合金微粒子の表面が金属酸化物の微粒子で覆われる。さらに、磁場を印加させながら、合金微粒子の集まりを圧縮成形すると、金型内に圧縮成形体からなる異方性希土類磁石が製造される。なお、カルボン酸金属化合物の大気雰囲気での熱分解は、窒素雰囲気での熱分解より30−50℃低いため、大気雰囲気での熱分解の方が、熱処理費用が安価で済む。
すなわち、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンに酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカルボン酸とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などがある。
また、カルボン酸金属化合物は、いずれも容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、汎用的なカルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させることで、カルボン酸金属化合物が合成される。また、原料となるカルボン酸は、有機酸の沸点の中で相対的に低い沸点を有する有機酸であるため、大気雰囲気においては330℃程度の低い熱処理で金属酸化物の微粒子が析出する。
以上に説明したように、19段落の異方性希土類磁石の製造方法において、合金微粒子の表面が金属酸化物の微粒子の集まりで覆われるため、19段落の異方性希土類磁石の製造方法において、カルボン酸金属化合物は有機金属化合物を構成する。
なお、鉄の酸化物であるマグネタイトFeを除く金属酸化物は、不純物を含まなければ絶縁性であり、酸化錫SnOと酸化チタンTiOとは、不純物として金属をドーピングすることで半導体性を持つ。また、多くの金属酸化物は非磁性であり、鉄の酸化物であるマグネタイトFeとマグヘマイトγ―Feと、各種フェライトは強磁性の性質を持つ。従って、前記したカルボン酸金属化合物の熱分解で析出した多くの金属酸化物は、非磁性で絶縁性である。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は、前記非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物が、酸化マンガンMnO、酸化銅CuO、酸化ニッケルNiO、ないしは、酸化亜鉛ZnOからなるいずれかの金属酸化物の微粒子を熱分解で析出する有機金属化合物であ該有機金属化合物を前記有機金属化合物として用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する製造方法である。
つまり、本製造方法による異方性希土類磁石の製造に当たっては、合金微粒子の表面を覆う金属酸化物は、以下の5つの性質を兼備することが望ましい。
第一に、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物である。
第二に、前記した酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物からなるカルボン酸金属化合物は、アルコールに分散し、アルコールを気化させた後に、カルボン酸金属化合物を熱分解すると、金属酸化物が析出する。いっぽう、酢酸金属化合物の多くはアルコールに溶解するため、カルボン酸金属化合物として望ましくない。また、安息香酸金属化合物は、酸素イオンが金属イオンに近づいて配位結合して複核錯塩を形成するが、熱分解の途上においては不安定な物質を生成する安息香酸金属化合物がある。このため、熱分解で金属酸化物を析出するカルボン酸金属化合物は、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物が望ましい。従って、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物の合成が容易で、熱分解で金属酸化物を析出することが望ましい。
第三に、加水分解性を有する、あるいは、水との反応を伴う、アルカリ金属とアルカリ土類金属の金属酸化物は望ましくない。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化物の多くは、アルコールに溶解する。
第四に、磁石の原料である合金微粒子より硬度が低いことが望ましい。つまり、金属酸化物微粒子の硬度が、合金微粒子より低ければ、圧縮成形時に金属酸化物微粒子が、より微細な微粒子に破壊され、圧縮成形体における空隙を、破壊された金属酸化物の微粒子が埋め尽くし、稠密構造からなる圧縮成形体が容易に製造できる。また、成形時に過度な圧縮応力が不要になるため、合金微粒子の磁気特性を低減させる磁気歪が残留しない。
いっぽう、ネオジウム磁石の原料の合金微粒子は、ビッカース硬度が600HVで、サマリウムコバルト磁石の原料の合金微粒子は、ビッカース硬度が550HVである。これに対し、金属酸化物の粒子は、酸化アルミ二ウムAl、酸化ケイ素SiO、酸化錫SnO、酸化クロムCr、酸化マグネシウムMgOおよび酸化チタンTiOの順で硬度が高く、また、希土類磁石の原料である合金微粒子より硬度が高い。
第五に、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物が安価に合成できる。このため、銅を除く貴金属元素、白金族元素及び重金属元素からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物は、高価な有機金属化合物であるため望ましくない。なお酸化鉄FeOは、非磁性でかつ絶縁性で脆い性質を持つが、熱力学的に不安定な物質で、導電性のマグネタイトFeに徐々に変化する性質を持つため、望ましくない。
以上に説明した5つの性質を兼備する金属酸化物として、酸化マンガンMnO、酸化銅CuO、酸化ニッケルNiO、ないしは、酸化亜鉛ZnOがある。また、こうした金属酸化物を熱分解で析出するカプリル酸金属化合物とナフテン酸金属化合物とは、合成が容易であるため、金属酸化物の安価な原料になる。
酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くしている状態を模式的に示した説明図である。
本実施形態は、熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物に関する実施形態である。
熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散する性質と、第二に合金微粒子の表面で、金属酸化物微粒子の集まりを析出する性質とを兼備する。以下の説明では、酸化ニッケルNiOを析出する原料を例として説明する。
無機ニッケル化合物は、熱分解で酸化ニッケルを析出しないため、アルコールに分散する有機ニッケル化合物が望ましい。また、有機ニッケル化合物から酸化ニッケルが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機ニッケル化合物を昇温するだけで、熱分解によって酸化ニッケルが析出する。さらに、有機ニッケル化合物の合成が容易でれば、有機ニッケル化合物が安価に製造できる。これら2つの性質を兼備する有機ニッケル化合物に、カルボン酸ニッケル化合物がある。
つまり、カルボン酸ニッケル化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質はニッケルイオンNi2+である。いっぽう、ニッケルイオンNi2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合するカルボン酸ニッケル化合物は、ニッケルイオンと酸素イオンとの距離が最大になる。この理由は、ニッケルの共有結合半径は110pmであり、酸素の単結合の共有結合半径は63pmであり、炭素の二重結合の共有結合半径は67pmであることによる。このため、ニッケルイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸ニッケル化合物は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長いニッケルイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、ニッケルとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にニッケルが析出する。従って、熱分解で酸化ニッケルNiOを析出するカルボン酸ニッケル化合物は、ニッケルイオンNi2+と結合する酸素イオンOとの距離が短く、酸素イオンOがニッケルイオンNi2+の反対側で結合するイオンと結合する距離が長い分子構造上の特徴を持つ必要がある。これによって、酸素イオンOがニッケルイオンNi2+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最初に切れ、酸化ニッケルNiOとカルボン酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸ニッケル化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンOが配位子になってニッケルイオンNi2+に近づいて配位結合するカルボン酸ニッケル化合物がある。
また、カルボン酸ニッケル化合物は合成が容易で、安価な有機ニッケル化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液と反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。カルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸ニッケルなどの無機ニッケル化合物と反応させると、カルボン酸ニッケル化合物が生成される。さらに、カルボン酸の沸点が低いため熱分解温度が相対的に低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸ニッケルは、安価な化学薬品であり、熱処理費用も安価で済む。こうしたカルボン酸ニッケルとして、カプリル酸ニッケル、安息香酸ニッケル、ナフテン酸ニッケルなどが挙げられる。なお、酢酸ニッケルは、アルコールに溶解するため望ましくない。また、安息香酸ニッケルは、熱分解の途上においては不安定な物質を生成する。従って、酸化ニッケルの原料として、カプリル酸ニッケルないしはナフテン酸ニッケルが望ましい。
実施例1
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性ネオジウム磁石を製造する実施例である。合金微粒子は、90%より多い体積をNdFe14Bの組成からなる主相が占める合金のインゴットに、水素ガスを吸蔵させ、この後、窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、この後アルゴンガス雰囲気で、800℃と550℃とに1時間ずつ放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が5μmに機械的に微粉砕して製造した合金微粒子(日立金属株式会社の供試品)を用いた。有機金属化合物として、カプリル酸ニッケルNi(C15COO)(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
最初に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールが充填された容器に混合し、分散液を作成した。この分散液に、窒素ガスと共に封入された合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。さらに、懸濁液が入った容器を真空チャンバーに配置し、真空チャンバーを減圧し、n−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールを回収した。この後真空チャンバーを大気圧に戻し、容器内の合金微粒子の集まりを金型に移した。金型は、直径が4cmで、高さが2cmの円柱形状の成形体が成形される形状を持つ。この金型を、磁場中成形油圧プレス(株式会社玉川製作所の製品)に取り付けた。最初に、円柱形状の厚み方向に、12キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃まで昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、金型内の合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、合金微粒子を成形した。プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、円柱形状からなる圧縮成形体の厚み方向に、35キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。なお、190gの合金微粒子の集まりに、2.4gのカプリル酸ニッケルが熱分解して酸化ニッケルの微粒子が覆うと、酸化ニッケルの微粒子が異方性希土類磁石に占める体積割合は、0.3%と極めて少ない。
次に、製作した圧縮成形体の観察と分析とを行なった。圧縮成形体を厚み方向に2つに切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特徴を有する。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、切断面を観察した。5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる粒状の微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づく箇所で、様々な大きさの30−40個の粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の粒状微粒子が存在した。次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。ニッケル原子と酸素原子の双方が均一に分散して存在し、特段に偏在する箇所が見られないため、酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くしていることが確認できた。図1に、切断面の一部を拡大した様子を模式的に示す。1は合金微粒子で、2は酸化ニッケルの微粒子である。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を測定した。測定装置は、東英工業株式会社のパルス励磁型磁気特性測定装置を用いた。残留磁束密度Brは1.4テスラで、保磁力Hcjは21キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は38MGOeであった。これらの磁気特性は従来の異方性ネオジウム焼結磁石の性能に劣らない。
実施例2
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性ネオジウム磁石を製造する実施例である。合金微粒子として、90%より多い体積をNdFe14Bの組成からなる主相が占める合金の溶湯を急冷して作成した薄帯を、窒素ガス中で薄片に機械的に粗粉砕し、さらに、アルゴンガス雰囲気で600℃に1時間放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が4μmに機械的に微粉砕した合金微粒子(大同特殊鋼株式会社の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、これに合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化した後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、実施例1と同様に、合金微粒子の集りに12キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、実施例1と同様に、円柱形状からなる圧縮成形体の厚み方向に、35キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、製作した圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.2テスラで、保磁力Hcjは19キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は35MGOeであった。これらの磁気特性は従来のラジアル異方性ネオジウム磁石の性能より優れる。
実施例3
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性サマリウム鉄窒素磁石を製造する実施例である。合金微粒子として、90%より多い体積をSmFe17の組成からなる平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子を作成し、さらに、アルゴンガス雰囲気で450℃付近まで昇温し、1時間放置し、急冷した後に、窒素雰囲気で平均粒径が3μmに機械的に粉砕した合金微粒子(住友金属鉱山株式会社の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、これに合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化した後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、合金微粒子の集まりに18キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、実施例1と同様に、円柱形状の成形体の厚み方向に、50キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、製作した圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.3テスラで、保磁力Hcjは28キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は35MGOeであった。これらの磁気特性は従来の等方性サマリウム鉄窒素焼結磁石の性能より優れる。
実施例4
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性サマリウムコバルト磁石を製造する実施例である。合金微粒子は、90%より多い体積をSmCo17の組成からなる主相が占める合金のインゴットに、水素ガスを吸蔵させ、この後、窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、この後アルゴンガス雰囲気で、800℃付近に1時間放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が5μmに機械的に微粉砕した合金微粒子(株式会社三徳の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、さらに合金微粒子の210gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化させた後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、合金微粒子の集りに15キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、合金微粒子を成形した。プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、円柱形状の圧縮成形体の厚み方向に、40キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状の微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.0テスラで、保磁力Hcjは23キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は28MGOeであった。これらの磁気特性は、従来の異方性サマリウムコバルト焼結磁石の性能より劣らない。
非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物が熱分解で析出する有機金属化合物を、希土類磁石の原料である合金微粒子の表面に吸着させる。この合金微粒子の集まりを金型に充填し、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解させる。この後、合金微粒子の集りに、一定の磁場を同一方向に印加し、金型からの反発力が最大になるまで、徐々に増大する圧縮応力を加え、圧縮成形体からなる異方性希土類磁石を金型内に製造する、異方性希土類磁石の製造方法に係わる発明である。
希土類磁石は、一般的に希土類元素R、鉄元素(Fe)またはコバルト元素(Co)等の遷移金属元素Tおよびホウ素元素(B)を含有するR−T−B系で表され、従来の合金磁石やフェライト磁石の磁気特性を著しく上回る磁気特性を有することが知られている。
焼結と熱処理との処理を伴う異方性希土類磁石の中で、強磁性の主相がNdFe14Bの組成式からなるネオジウム磁石は、最大エネルギー積が永久磁石の中で最も大きい。ネオジウム磁石の最大エネルギー積をさらに向上させるため、微量のアルミニウムや銅などの金属元素を添加したネオジウム磁石がある。また、ネオジウム磁石の保磁力を高めるため、ネオジウムNdの一部を希土類元素のジスプロシウムDyで置き換えたネオジウム磁石もある。こうしたネオジウム磁石以外の異方性希土類磁石に、希土類元素であるプラセオジムPrを含み、強磁性の主相がネオジウム磁石と同じ組成式ReFe14B(Reは希土類元素)を持つプラセオジム磁石PrFe14Bと、希土類元素としてNdとPrとのジシム合金を用いるジシム合金磁石(NdPr1−xFe14Bがある。
このような異方性希土類磁石は、磁石の組成からなる合金のインゴットを、微細な合金微粒子に粉砕し、この合金微粒子の集まりを磁場成形機に充填し、磁場を加えて圧縮成形し、さらに、焼結と熱処理との処理を加えて異方性希土類磁石を製造する。
他の異方性希土類磁石として、強磁性の主相がSmCo17の組成式からなるサマリウムコバルト磁石がある。この磁石は、磁気キュリー点がネオジウム磁石より500℃以上高く、ネオジウム磁石より錆びにくい性質を持つ。しかし、抗折強度が15kgf/mmで、ネオジウム磁石の25kgf/mmより低く壊れやすいため、350℃を超える高温で使用される用途以外には使われる頻度は低い。このサマリウムコバルト磁石も、焼結と熱処理との処理を伴って製造される異方性希土類磁石である。
さらに、サマリウム元素を含む希土類磁石として、サマリウム鉄窒素磁石がある。しかし、サマリウム鉄窒素化合物が550℃付近で熱分解するため、合金微粒子の焼結固化が困難になる。このため、サマリウム鉄窒素化合物からなる合金微粒子を、合成樹脂と共に射出成形ないしは圧縮成形し、等方性のプラスチックボンド磁石として製造する。このボンド磁石は、サマリウム鉄窒素化合物の磁気キュリー点が、ネオジウム鉄ボロン化合物の磁気キュリー点より150℃以上高いため、下記に説明するネオジウム鉄ボロン化合物の等方性ボンド磁石より、高温での使用が可能になる。しかし、等方性磁石で、かつ、非磁性の合成樹脂の配合割合に応じて、磁石の最大エネルギー積が低下する。
いっぽう、ネオジウム鉄ボロン化合物からなる合金の溶湯を、急冷によって薄帯を作成し、この薄帯を微細な薄片状の粒子に粉砕し、この薄片状の合金粒子を原料として磁石を製造するネオジウム磁石がある。こうしたネオジウム磁石に、薄片状の粒子を合成樹脂と共に射出成形ないしは圧縮成形し、等方性のプラスチックボンド磁石として製造する磁石がある。焼結磁石に比べて、腐食しにくく、複雑な形状に成形できる長所があるが、等方性磁石で、かつ、非磁性の合成樹脂の配合割合に応じて、磁石の最大エネルギー積が低下するため、大きな磁力が不要な小型磁石として使用されている。
また、上記の薄片状の合金粒子の集まりを金型でホットプレスし、合金の密度に近い等方性の磁石とし、この等方性の磁石を、熱間押出しによって異方性ラジアルリング磁石を製造するネオジウム磁石がある。この磁石は、ラジアル方向の最大エネルギー積は焼結のネオジウム磁石に近く、保磁力が燒結のネオジウム磁石より大きく、高温での使用が可能になるが、形状がリング磁石に制約される。
前記した燒結と熱処理との処理を伴う異方性ネオジウム磁石は腐食しやすい。つまり、熱処理工程によって、ネオジウム元素が多く存在するNdリッチ相と、ホウ素元素が多く存在するBリッチ相とからなる非磁性相が、強磁性である主相のNdFe14B相の粒界相を形成する結晶の微細構造を形成し、磁石の保磁力を発現させる。いっぽう、Ndリッチ相は酸素や水蒸気との反応で、酸化物Ndや水酸化物Nd(OH)が形成され、酸化物や水酸化物の形成で、Ndリッチ相が体積膨張して粒界破壊が起こり、焼結体から強磁性の主相を含む結晶粒が剥がれ落ちる。結晶粒が脱落すると、表面に現れた新たなNdリッチ相が腐食し、脱落した結晶粒に隣接する結晶粒が脱落する。こうした粒界破壊がどこまでも進む。同様に、プラセオジム元素Prを含む異方性希土類磁石も、腐食による粒界破壊が進む。
しかし、強磁性の主相を取り囲むNdリッチ相の中で、非磁性のNdリッチ相は、磁石の保磁力を発現させる上で欠かせない。従って、焼結と熱処理との処理を伴うネオジウム磁石には、耐食性の処理が必須になる。また、プラセオジム磁石についても同様である。
異方性ネオジウム磁石の腐食を防止する方法として、希土類磁石の表面に、射出成形、押出し成形、トランスファー成形などによって合成樹脂の保護膜を形成する方法、樹脂の溶液を塗布して被膜を形成する方法、ニッケルメッキの被膜を施す方法などが、希土類磁石メーカの製品カタログに記載されている。しかし、磁石の表面に非磁性の保護膜を形成する方法では膜厚が厚くなり、希土類磁石の表面からの漏れ磁束量が低減し、磁気エネルギーの損失が大きくなる。一方、膜厚を薄くした場合は、膜の内部にあるボイド等の構造欠陥部が温度衝撃等の熱応力を受けて破壊され、希土類磁石が腐食される恐れがある。樹脂の溶液を塗布する方法では、複数回塗布することによって塗膜の厚みを確保するが、このような塗膜も内部にボイド等の欠陥を有し、温度衝撃等の熱応力によって塗膜の内部が破壊されるため、磁石の使用環境条件が限定されていた。
さらに、燒結の処理を伴う希土類磁石は、焼結の際に体積が燒結前の70%程度まで収縮する。このため、焼結を伴って製造した磁石は機械加工によって寸法精度を確保する。しかし、希土類磁石は硬度が高く、例えばネオジウム磁石のビッカース硬度は600HVで、機械加工を施すと、加工面に物理的欠陥層が形成され、この欠陥層が僅かな応力で脱落する。このため、予め表面の物理的欠陥層をバレル研磨により脱落させ、研磨、洗浄、乾燥からなる事前処理を行なった後、前記した様々な材質と構造とからなる耐食性被膜を形成する。従って、耐食性の被膜を形成する費用が、希土類磁石の製造費用の全体の3割近くに及び、研磨が不要な方法で耐食性をもたらす技術が求められている。いっぽう、腐食しない希土類磁石が最も望ましいが、保磁力を発現させるには、主相の粒界相として、非磁性の粒界相が必須になり、熱処理を伴う異方性希土類磁石の腐食は回避できない。
いっぽう希土類磁石は、原料が合金であるため導電性を示す。例えば、ネオジウム鉄ボロン磁石の比抵抗は1.3×10−4Ωcmで、サマリウムコバルト磁石の比抵抗は0.9×10−4Ωcmである。ちなみに、銅の比抵抗は1.68×10−6Ωcmであり、ネオジウム鉄ボロン磁石の比抵抗は銅の77倍に過ぎない。このため、希土類磁石は、合金の導電性に応じた渦電流損失を生じる。特に、ハイブリッド自動車用モータ、電気自動車用モータ、鉄道車両用モータや風力発電機用モータでは、大型の希土類磁石を使い、モータの回転数が高いため、モータの連続動作では渦電流損失による発熱が継続し、これによって、希土類磁石の保磁力が低下し、希土類磁石は減磁する。例えば、20℃で12kOeの保磁力を持つ異方性希土類磁石が、200℃でわずかに2kOeまで保磁力が低下し、減磁する磁石が存在する。これによって、モータの出力が大きく低下する。
こうした希土類磁石の渦電流損失の課題に対し、磁石の原料である合金粒子を絶縁化する技術がある。例えば、特許文献1には、合金粒子の表面に、アルカリ土類金属ないしは希土類金属の弗化物を形成させる技術が開示されている。弗化物の形成は、スパッタリング、蒸着、溶射、溶液の塗布などの方法によることが記載されている。
しかし、磁石の原料である合金粒子は活性状態にある。従って、活性状態にある合金粒子の表面にフッ化物を形成する際に、合金粒子の表面に酸化物ないしは水酸化物が容易に形成される。こうした合金粒子を用いて製造した磁石は、前記した腐食が進行する。
いっぽう、渦電流損失による減磁の課題は、保磁力を向上させることで解決される。保磁力を向上させる取り組みとして、主相である強磁性相の粒界に、異方性磁界が大きいジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素を拡散させる技術、あるいは、主相の希土類元素の一部をジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素に置き換える技術が知られている(例えば、特許文献2−3を参照)。しかしながら、このような希土類磁石も、腐食による粒界破壊が進行するため、耐食性の処理が必要になる。
いっぽう、ジスプロシウムDyやテルビウムTbの地下資源が特定の国に偏在し、将来の安定供給の観点から、ジスプロシウムDyやテルビウムTbを用いない希土類磁石が必要とされている。このため、ジスプロシウムDyやテルビウムTbを用いない希土類磁石の技術開発が行われている(例えば、非特許文献1−3を参照)。
さらに、サマリウム鉄窒素化合物が550℃程度で熱分解する性質に対し、高加圧通電焼結法という低温燒結技術の開発によって、400℃でサマリウム鉄窒素粉末を焼結する等方性磁石の技術開発が行われている(非特許文献4を参照)。
ここで、焼結と熱処理の処理を伴う異方性希土類磁石の製造方法を説明する。最初に、希土類磁石の組成に応じて、複数種類の原料を秤量し、この原料を真空中ないしはアルゴンガス中で溶解し、合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で500−600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmからなる粉末に微粉砕する。この微粉末を磁石の原料となる合金微粒子として用い、窒素ガスの雰囲気に置かれた金型に充填し、磁場を印加し、合金微粒子の磁化を磁場方向に配向させ、かつ、圧縮応力を加え、必要な形状に成形する。しかし、成形品の密度が合金の真密度の50−60%程度であるため、焼結によって密度を真密度に近づけ、磁石の残留磁束密度と機械的強度とを確保する。焼結は真空ないしはアルゴンガスの雰囲気において、熱処理炉を1100℃付近まで昇温し、一定時間放置して合金微粒子の焼結を進め、この後、熱処理炉を急冷する。焼結によって、成形体の結晶は成長する。さらに、焼結体における結晶の微細構造を、強磁性相が非磁性の物質で囲まれる構造とし、磁石の保磁力を発現させるため、熱処理を2段階に分けて行う。すなわち、再度、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置し、その後、550℃付近に一定時間放置し、この後急冷する。こうして異方性希土類磁石が製造される。従って、磁石の原料である合金微粒子を製造する製造費用と共に、焼結工程と熱処理工程とにおける処理費用が、磁石の製造費用の大半を占めることになる。
上記した焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石の製法上の課題を説明する。
第一に、インゴットを微粉砕した合金微粒子の表面に酸化物や水酸化物が形成される。このため、合金微粒子は酸素ガスや水蒸気が排除された雰囲気での処理を継続して行う。これによって、希土類磁石の製造コストが高まる。従って、合金微粒子の表面が不活性化できれば、合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが下がる。さらに、不活性な物質で覆われた合金微粒子は、外界から遮断され、この合金微粒子を原料として用いて製造した磁石は腐食しにくい。また、合金微粒子の表面が絶縁性物質で不活性化できれば、こうした合金微粒子を用いて製造した磁石の渦電流損失は大幅に低減する。
第二に、成形機による成形密度がある。つまり、合金微粒子は硬く、かつ、活性状態にあるため、圧縮成形時に合金微粒子同士の接触部に過大な摩擦力が発生し、成形体の密度が真密度の50−60%程度に抑制される。このため、合金の真密度に近づける焼結処理が必須となり、磁石の製造コストを高める。従って、圧縮成形時に、合金微粒子を覆う物質が、合金微粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに、合金微粒子の移動を妨げられなければ、合金の真密度に近い成形体が成形できる。これによって、焼結過程が不要になり、磁石の製造コストが大幅に下がる。また、焼結に依る成形体の収縮がなく、磁石の機械加工が不要になる。さらに、焼結に依る合金微粒子の成長がない。従って、圧縮成形体をフル着磁した異方性希土類磁石では、合金微粒子同士が強固に磁気吸着し、磁石を落下させても、重量が極わずかである合金微粒子が磁気吸着力で剥がれず、焼結を伴う異方性希土類磁石より、機械的強度が増大する。
第三に、保磁力を発現させる機構がある。ところで、強磁性相のみで構成された合金微粒子を磁石の原料として用いて製造した磁石に、逆磁界を印加させると、強磁性相の磁化の反転を妨げる非磁性相が存在しないため、磁石は保磁力を持たない。このため、焼結後の成形体に熱処理を施し、保磁力を発現させることが必須になる。つまり、第二の課題で説明したように、圧縮成形しただけでは、成形体の密度が合金の50−60%でしかないため、1100℃に近い温度で焼結を行ない、成形体の密度を合金の密度に近づけた。いっぽう、保磁力を発現させる熱処理は、焼結温度より低い。このため、保磁力をもたらす熱処理は、焼結の後工程にしなければならい。従って、磁石の組成からなる合金に、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させる熱処理を施し、この合金からなる微粒子を、磁石の原料として用いても、熱処理温度より高い焼結処理によって成形体の密度を高めるため、熱処理に依る保持力を発現させる結晶の微細構造は、焼結によって消滅する。このため、異方性希土類磁石の製造には、焼結工程と熱処理工程とが不可欠になり、磁石の製造コストを押し上げる。
これに対し、合金微粒子の焼結工程が不要になれば、つまり、圧縮成形で合金の密度に近い成形体が得られれば、磁石の組成からなる合金に対し、保磁力を発現させる結晶の微細構造を実現させる熱処理を行なうことができる。こうした合金を粉砕した合金微粒子を原料とした磁石は保磁力を持つ。これによって、焼結と熱処理とが不要になり、異方性希土類磁石の製造コストが大幅に下がる。なお、合金微粒子における非磁性相の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。また、合金微粒子に希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性化できれば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、合金微粒子を非磁性の物質で覆えば、圧縮成形体における合金微粒子は非磁性の物質で囲まれる。このような成形体で磁石を構成し、磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層が、その内側にある合金微粒子の磁化を飽和させる障害になり、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。
次に、熱間加工による異方性ラジアルリング磁石の製造方法を説明する。磁石の保磁力を発現するため、非磁性の希土類元素のリッチ相を粒界相として出現させ、また、希土類元素のリッチ相が存在することで磁石の熱間押出しの成形性が向上するため、NdFe14Bの化学量論比より希土類元素が多い組成からなる合金を、真空中ないしはアルゴンガス中で溶解させて溶湯を作る。この溶湯を窒素ガスの雰囲気で高速回転するロールに噴射させ、溶湯が急冷して、30nm程度の結晶粒の集まりからなる薄帯が製造される。さらに、薄帯を窒素ガス中で150μm程度の薄片に機械的に粉砕する。薄片は、前記した焼結と熱処理との処理を伴う異方性希土類磁石の原料となる合金微粒子と比べると、粒子の大きさが2桁大きく、結晶粒は1桁小さい。この薄片状の合金粒子を磁石の原料として用い、真空ないしはアルゴンガスの雰囲気において、合金粒子の集まりを冷間プレスした後に、800℃前後で熱間プレスすると、真密度に近い等方性磁石が得られる。この後、合金粒子に異方性を発現させるため、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる。つまり真空ないしはアルゴンガス雰囲気において、再度、等方性磁石を800℃前後まで加熱し、熱間塑性加工に必要な液相を発生させ、この後、熱間押出しを行う。合金粒子が押出応力を受けると、結晶粒のc軸と垂直な方向に、結晶粒が異方成長し、これに伴い、結晶粒が粒界で滑り、結晶粒が回転することで、応力を加えた方向(円周方向)と同じ方向に、結晶粒のc軸が配向する。これによって、結晶粒は、幅が50nm程度で長さが200−500nmからなる細長い円盤状の形状となり、厚み方向と結晶粒のc軸とが一致する。この円盤状の結晶粒のc軸は50nmと狭く、磁化がc軸方向に拘束されるため、15kOeを超える保磁力を持つ磁石が製造でき、耐熱性に優れたネオジウム磁石になる。しかし、結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段が、熱間押出しに限定されるため、製造できる磁石はラジアル異方性のリング磁石に限定される。また、熱間プレスと熱間塑性加工における処理が、リング磁石の製造費の大部分を占める。
上記した熱間加工によるラジアル異方性のリング磁石の製造上の課題を説明する。
第一に、薄片状の合金粒子が活性状態にある。このため、合金粒子の表面に酸化物や水酸化物が容易に形成される。このため、合金粒子は、酸素ガスや水蒸気が排除された雰囲気での処理を継続して行う。これによって、磁石の製造コストが高まる。合金粒子を不活性化すれば、合金微粒子の処理が容易になり、磁石の製造コストが下がる。さらに、不活性な物質で合金粒子を覆えば、合金粒子の表面が外界から遮断され、この合金粒子を原料として用いて製造した磁石は腐食しにくい。さらに、合金粒子を絶縁性の物質で不活性化すれば、合金粒子を原料として用いて製造した磁石の渦電流損失は大きく低減する。
第二に、熱間プレスによる成形密度である。つまり、薄片状の合金粒子は活性状態にあるため、10段落で説明した焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石における合金微粒子と同様に、圧縮成形時に薄片状の合金粒子同士の接触部に過大な摩擦力が発生し、圧縮成形体の成形密度が抑制される。このため、800℃前後まで昇温し、薄片状の合金粒子を液相化させ、熱間プレスによって、合金密度に近い等方性磁石を作成した。いっぽう、磁石の組成からなる溶湯を急冷して製造した薄帯における結晶粒が、僅かに30nm程度である。こうした薄帯を原料として異方性の希土類磁石を製造するには、薄帯を150μm程度の薄片に粉砕し、この薄片の集まりを、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段しかないため、800℃に近い温度で熱間押出しによって、異方性のリング磁石を製造することになった。いっぽう、薄片状の合金粒子を不活性な物質で覆い、この合金粒子の集まりを圧縮した際に、薄片状の合金粒子を覆う不活性な物質が、合金粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに、合金粒子の移動を妨げられなければ、合金の真密度に近い成形体が成形でき、磁石の残留磁束密度が高まる。これによって、熱間プレス工程が不要になり、磁石の製造コストが下がる。
第三に、磁石の異方性と保磁力とを発現させる機構である。第二の課題で説明したように、僅かに30nm程度の結晶粒からなる薄帯を原料とし、異方性の希土類磁石を製造するには、薄帯を150μm程度の薄片に粉砕し、この薄片の集まりを、熱間塑性加工で結晶粒のc軸を圧延方向に配向させる手段しかない。このため、800℃に近い温度で熱間押出しによって、合金粒子の結晶粒のc軸方向に磁化が拘束され、磁石に必要な異方性と保持力とが得られるようになる。しかし、熱間押出しの処理が必須になり、磁石の製造コストを高め、また、熱間押出しの製法上の制約で、磁石がリング磁石に限定される。
いっぽう、薄片状の合金粒子が、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持てば、保磁力が発現する。さらに、薄片状の合金粒子を不活性な物質で覆い、合金粒子の集まりに磁場を印加して圧縮した際に、不活性な物質が合金粒子同士を直接接触させず、これによって、摩擦力が発生せず、さらに合金粒子の移動を妨げられなければ、合金粒子の磁化が磁場方向に配向されるとともに、合金の真密度に近い成形体が成形できる。これによって、異方性の希土類磁石が製造できる。この結果、熱間押出し加工が不要になり、また、磁石形状がリング状に制約されない。なお、薄片状の合金粒子における不活性な物質の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。また、合金粒子には希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性な物質で覆えば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、薄片状の合金粒子を、焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石における合金微粒子と同様の大きさに微粉砕し、この合金微粒子を非磁性物質で覆い、この合金微粒子の集まりを、磁界を印加して圧縮成形し、さらに、より大きな磁界を印加し、合金微粒子の磁化を飽和させて異方性希土類磁石とする。このような異方性希土類磁石に、逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層の存在で、その内側に存在する合金微粒子の磁化を飽和させるには、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。
次に、サマリウム鉄窒素化合物を原料とする磁石の製法上の課題を説明する。
ところで、サマリウム鉄窒素化合物において、SmFe17の組成からなる化合物は、自発磁化が1.57Tで、異方性磁界が20.69MA/mで、磁気キュリー点が476℃である。また、SmFe1.5の組成からなる化合物は、自発磁化が1.70Tで、異方性磁界が6.13MA/mで、磁気キュリー点が520℃である。これに対し、ネオジウム磁石の強磁性の主相を構成するNdFe14Bの組成からなる化合物は、自発磁化は1.61Tで、異方性磁界は6.13MA/mで、磁気キュリー点が312℃である。このように、サマリウム鉄窒素化合物は、ネオジウム鉄ボロン化合物より磁気物性に優れ、磁気キュリー点が150℃以上高いため、ジスプロシウムDyやテルビウムTbなどの希土類元素を用いなくても、高温時の保磁力が確保できる長所を持つ。従って、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルは、ネオジウム磁石の実力より高いが、以下に説明する課題を持つ。
第一の課題は、サマリウム鉄窒素化合物が550℃付近で熱分解する。このため、サマリウム鉄窒素化合物の焼結に依る固化が困難であると考えられてきた。しかし、最近、高加圧通電焼結技術の開発によって400℃で焼結固化が可能になり、最大エネルギー積が16.2MGOeを持つ等方性磁石が得られている。この最大エネルギー積は、ネオジウムの等方性磁石の最大エネルギー積より大きい(非特許文献4を参照)。
第二の課題は、高加圧通電焼結技術は、まだ実験室レベルの技術である。つまり、真空チャンバー内に配置された金型に充填された合金微粒子に、1GPaを超える巨大な圧力を加え、金型にパルス電流を流して合金微粒子同士を焼結する。この際、全ての合金微粒子に均等に圧縮応力が加わり、全ての合金微粒子の周囲が合金微粒子と接し、合金微粒子同士が接する面が再現性良く焼結することに依って、真密度に近い焼結体が得られる。しかし、再現性を持って等方性のサマリウム鉄窒素磁石を製作する製造上の課題はいまだ多い。また、高加圧通電焼結技術が、特殊な環境と特殊な条件とによって、合金微粒子が焼結されるため、磁石を製造するコストを引き上げる。
第三に、高加圧通電焼結技術では、製造できる磁石が等方性に制限される。上記したように、サマリウム鉄窒素化合物はネオジウム鉄ボロン化合物より磁気物性が優れるため、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルは、ネオジウム磁石の実力より高い。従って、異方性磁石であれば、サマリウム鉄窒素磁石のポテンシャルが発揮でき、異方性ネオジウム磁石の最大エネルギー積を超える磁石が実現でき、最大エネルギー積が最も大きい永久磁石が実現できる。また、磁気キュリー点が高いため、高温でも減磁しない。
第四は、焼結によって磁石を製造する。このため、上記した高加圧通電焼結技術のような特殊な技術が必要になり、磁石の製造コストが増大する。
ここで、サマリウム鉄窒素化合物からなる磁石の原料の製造方法を説明する。最初に、原料となる酸化サマリウム、鉄、カルシウムからなる粉体を混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉において混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムによって還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムになる。還元されたサマリウムは、鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除くと、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子が得られる。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理すると、窒素がサマリウム鉄合金に拡散してサマリウム鉄窒素化合物からなる微粒子が得られる。さらに、窒素雰囲気で微粒子を平均粒径が2−3μmからなる微粒子に微粉砕し、磁石の原料を得る。
いっぽう、10段落と12段落で説明したように、活性状態にある合金微粒子の表面を不活性化させ、この合金微粒子の集まりを、磁界を印加して圧縮成形する際に、合金微粒子の磁化を磁場の印加方向に配向させ、かつ、合金の真密度に近い成形体が得られれば、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が製造できる。これによって、焼結工程が不要になる。また、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持たせる熱処理を、サマリウム鉄窒素合金に施し、こうした合金を粉砕した合金微粒子を原料として製造した磁石は保磁力を持つ。なお、合金微粒子における非磁性相の組成割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。合金微粒子に希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を不活性化できれば、合金微粒子は腐食しない。
さらに、合金微粒子を非磁性の物質で覆えば、圧縮成形体における合金微粒子は非磁性の物質で囲まれる。このような成形体で磁石を構成し、磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、その内側に存在する合金微粒子に逆磁界が印加されにくくなり、新たな機構による保磁力が発現し、異方性希土類磁石における保磁力が増大する。いっぽう、合金微粒子の磁化を飽和させる際に、非磁性の物質の層が、その内側にある合金微粒子の磁化を飽和させる障害になり、より大きな磁界の印加が必要になるが、着磁の処理コストは上がらない。また、不活性化する物質が絶縁性であれば、圧縮成形で製造した磁石の渦電流損失は大幅に低減する。
この結果、異方性ネオジウム磁石の性能を凌駕する異方性サマリウム鉄窒素磁石が実現でき、さらに、磁石の製造コストが大幅に下がる。
特開2006−66870号公報 特開2003−77717号公報 再表2007−102391号公報
Nd−Fe−B磁石の高保磁力化をめざした微細組織制御 日本金属学会誌 76巻1号 2−11(2012) Nd−Fe−B焼結磁石 Low Dy Series、日立金属技報 Vol.31 p48(2015) Dyフリー熱間加工磁石の磁区構造、電気製鋼/大同特殊鋼技報 86巻2号 p83(2016) 産総研TODAY 12(6) 22(2012)
ここで、焼結と熱処理とを伴う異方性希土類磁石の製法上の課題を改めて整理する。
第一の課題は、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子が活性状態にある。この課題は、合金微粒子を不活性な物質で覆えば解決される。これによって合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、圧縮成形した成形体の密度は、合金の真密度の50−60%程度に抑制される。このため、焼結工程によって成形体の密度を真密度に近づけた。つまり硬度が高く、活性状態にある合金微粒子の集まりを圧縮成形すると、微粒子の接触部に過大な摩擦力が発生し、圧縮成形に依る密度が真密度の50−60%程度に抑制された。いっぽう、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。従って、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向され、かつ、合金の密度に近い密度を持つため、第三の課題が解決できる。このような成形体に、合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を加えると、必要となる最大エネルギー積を持つ異方性希土類磁石が得られる。これによって、焼結工程が不要なり、焼結による成形体の収縮がなくなり、磁石の機械加工も不要になり、磁石の製造コストが大幅に下がる。
第四の課題は、熱処理以外の手段で保磁力を発現させる。つまり、熱処理によって、非磁性の希土類元素リッチ相と非磁性のボロンリッチ相とが、強磁性の主相が形成する粒界相として形成され、この結晶の微細構造で保磁力が発現した。この課題は、希土類磁石の組成からなる合金に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この合金を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。しかし、成形体の密度を高める焼結の処理を実施しないことが前提になる。つまり、熱処理温度が焼結温度より低く、焼結処理を実施すると、合金に実施した熱処理の効果は消滅する。従って、第三の課題が解決できれば、第四の課題も解決できる。これによって、熱処理が不要になり、磁石の製造コストが下がる。なお、合金微粒子における非磁性相の割合に応じて、異方性希土類磁石の飽和磁束密度が下がる。いっぽう、合金微粒子を覆う不活性な物質を非磁性の物質で構成すれば、合金微粒子が非磁性の物質の層で覆われ、非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、新たな機構による保磁力が発現し、保磁力が増大する。また、非磁性の物質の層で覆われた合金微粒子の集りからなる磁石は錆びにくい。これによって、第一と第二の課題も同時に解決される。従って、第一から第四の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要である。
第五の課題は、磁石における渦電流損失の発生である。磁石の原料である合金微粒子が導電性であるため、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば解決される。
上記した5つの課題を解決する異方性希土類磁石を製造する新たな製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、焼結と熱処理との過程が不要になり、製造後の磁石の機械加工も不要になり、異方性希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。また、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。さらに、製造された磁石は腐食しにくい。本発明が解決しようとする課題は、これら5つの課題を同時に解決する異方性希土類磁石の新たな製造方法を実現することである。
次に、希土類磁石の組成からなる合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した薄片を、希土類磁石の原料として用いる異方性希土類磁石の製法上の課題を改めて整理する。
第一の課題は、原料の合金粒子が活性状態にある。この課題は、合金微粒子を不活性な物質で覆えば解決される。これによって合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、合金粒子の磁化の異方性を熱間押出し以外の方法で実現する。これによって、磁石がリング形状に限定されない。つまり、150μm程度の大きさからなる合金粒子を熱間押出しによって、結晶粒のc軸方向に磁化を配向できるため、磁石はリング形状に限定された。従って、熱間押出し以外の方法で、合金粒子の磁化が配向できれば、磁石はリング形状に限定されない。このため、薄帯を微粉砕した合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮成形した際に、合金微粒子の磁化が磁場方向によって配向できれば、第三の課題が解決される。
第四の課題は、熱間プレス以外の方法で、合金の密度に近い成形体を得る。つまり、薄片状の粒子を800℃前後まで昇温して液相化させ、この後熱間プレスで、合金の密度に近い等方性磁石を得た。ところで、150μm程度の大きさからなる薄片を、2桁小さい合金微粒子に粉砕し、合金微粒子の集まりを圧縮するだけで、合金の密度に近い成形体が得られれば、熱間プレスの処理が不要になる。このため、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。さらに、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、かつ、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化を飽和させる磁場を加えると、必要となる最大エネルギー積を持つ異方性希土類磁石になる。これによって、第三と第四の課題とが同時に解決される。
第五の課題は、熱間押出し以外の方法で保磁力を発現する。この課題は、合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した薄片に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この薄片を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。
さらに、合金微粒子を覆う不活性な物質を非磁性の物質で構成し、合金微粒子の集まりに磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、かつ、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、異方性希土類磁石になる。さらに、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層によって、新たな保磁力が発現し、保磁力が増大する。これによって、熱間押出しの工程が不要になり、磁石形状がリング磁石に限定されない。また、合金微粒子には、希土類元素がリッチな非磁性相が存在するが、合金微粒子を非磁性の物質で覆うため、合金微粒子は腐食しにくい。この結果、第五の課題が解決されるとともに、第一からと第四の課題も同時に解決される。従って、第一から第四の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要になる。
第六の課題は、磁石に渦電流が発生する。つまり、原料である合金微粒子が導電性で、これによって、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば解決される。
上記した6つの課題を解決する異方性希土類磁石の製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、熱間プレスと熱間押出しとが不要になり、希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。また、磁石はリング形状に限定されない。さらに、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。また、磁石は腐食しにくい。本発明が解決しようとする課題は、前記した5つの課題を同時に解決する異方性希土類磁石の新たな製造方法を実現することである。
サマリウム鉄窒素化合物を原料とする異方性希土類磁石の製造上の課題を整理する。
第一の課題は、インゴットを微粉砕した合金微粒子と、溶湯を急冷させて作成した薄帯を粉砕した合金微粒子と同様に、原料の合金微粒子が活性状態にある。従って、合金微粒子を不活性な物質で覆えば、この課題は解決される。これによって、合金微粒子の取り扱いが容易になり、磁石の製造コストが引き下がる。
第二の課題は、希土類磁石が腐食する。合金微粒子が不活性な物質で覆えば、上記の課題と同様に解決できる。
第三の課題は、異方性磁石を実現する。これによって、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が得られる。磁石の原料として用いる合金微粒子の磁化が、磁場を印加した方向に配向されれば、この課題は解決される。
第四の課題は、焼結以外の方法で合金の密度に近い成形体を得る。これによって、高加圧通電焼結技術という特殊な焼結処理が不要になる。さらに、焼結による成形体の収縮がなく、製造した磁石の機械加工も不要になる。このため、不活性な物質で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮すると、合金微粒子同士が直接接触せず、これによって、摩擦力が発生せず、かつ、圧縮の際に発生する空隙を埋めるように合金微粒子が移動すれば、合金の密度に近い成形体が得られる。さらに、合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮した成形体は、合金微粒子の磁化が磁場方向に配向し、合金の密度に近い密度を持つ。このような成形体に、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、異方性希土類磁石になる。
第五の課題は、異方性磁石に保磁力が発現する。この課題は、磁石の組成からなるサマリウム鉄窒素合金に対し、熱処理によって、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、この合金を粉砕した合金微粒子を、希土類磁石を製造する際の原料として用いることで解決する。しかし、成形体の密度を高める焼結の処理を実施しないことが前提になる。つまり、熱処理温度が焼結温度より低いため、焼結処理を実施すると、合金に実施した熱処理の効果は消滅する。従って、第四の課題が解決できれば、第五の課題も解決できる。さらに、熱処理された合金を粉砕して微粒子とし、この合金微粒子を非磁性の物質の層で覆い、この合金微粒子の集まりに、磁場を印加して圧縮成形し、さらに、合金微粒子の磁化が飽和する磁場を加えると、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性を発揮する異方性磁石が製造できる。さらに、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層が、内側に存在する合金微粒子に、逆磁界が印加される障害となり、合金微粒子を覆う非磁性の物質の層によって新たな保磁力が発現し、保磁力が増大する。さらに、非磁性の物質で覆われた合金微粒子は錆びにくい。これによって、第五の課題が解決するとともに、第一から第四の課題が同時に解決される。従って、第一から第五の課題を解決する上で、合金微粒子を不活性な非磁性の物質で覆う事が最も重要になる。
第六の課題は、磁石に渦電流が発生する。つまり、磁石の原料である合金微粒子が導電性であり、磁石が渦電流損失で発熱し、保磁力が低減し、磁石が減磁する。この課題は、合金微粒子を不活性化させる物質が絶縁性であれば、この課題は解決される。
本発明が解決しようとする課題は、前記した6つの課題を同時に解決するサマリウム鉄窒素化合物を原料とする新たな異方性磁石の製造方法を実現することである。
上記した6つの課題を解決するサマリウム鉄窒素化合物を原料とする磁石の新たな製造方法は、合金微粒子の取り扱いが容易で、焼結工程が不要になり、製造後の磁石の機械加工も不要になり、これらによって、異方性希土類磁石の製造コストは大幅に低減される。さらに、サマリウム鉄窒素化合物の優れた磁気物性が、異方性磁石として発現される。また、渦電流損失に依る磁石の減磁が起きない。
異方性希土類磁石の製造方法は、熱分解で非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子を析出する有機金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成する、この後、90%より多い体積を合金からなる強磁性の主相が占める一の特徴と、前記金属酸化物の微粒子より硬度が高い微粒子である第二の特徴と、前記金属酸化物の微粒子の大きさより2桁大きい微粒子である第三の特徴とを兼備する合金微粒子の集まりを、前記アルコール分散液に混合し、該合金微粒子が前記アルコール分散液と接する懸濁液を作成する、さらに、前記懸濁液を容器に移し、該容器を真空チャンバーに配置する、この後、前記真空チャンバー内の圧力を減圧し、前記懸濁液からアルコールを気化させ、前記合金微粒子の表面を前記有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆う、さらに、前記真空チャンバー内の圧力を大気圧に戻し、前記有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆われた合金微粒子の集まりを前記容器から金型に移し、該金型を前記有機金属化合物が熱分解する温度に昇温し、該有機金属化合物の熱分解によって、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子の集まりが析出し、該金属酸化物の微粒子が、前記金型内の空隙を埋めるとともに、前記合金微粒子の表面を覆う、この後、該金型を室温に戻す、さらに、前記金型内の前記金属酸化物の微粒子の集まりで覆われた合金微粒子の集まりに、一定の磁場を同一方向に印加するとともに、前記金型からの反発力が最大になるまで、該金型に徐々に増大する圧縮応力を加えこれによって、前記金属酸化物の微粒子の破壊が進み、破壊が進行した該金属酸化物の微粒子が前記金型内の空隙を埋め尽くし、該金型内に圧縮成形体成形される、この後、圧縮成形体に磁場を印加し、前記合金微粒子の磁化を飽和させ、該合金微粒子同士が磁気吸着した該合金微粒子の集まりからなる異方性希土類磁石が前記金型内に製造される、異方性希土類磁石の製造方法。
磁石の原料として用いる合金微粒子は、90%より多い体積を強磁性の主相が占める合金であり、希土類元素がリッチな相が存在するため、大気雰囲気で水酸化物や酸化物が形成される。また、比表面積が大きい微粒子で、不純物を含まない活性な合金であるため、合金微粒子同士が大気中で接触すると、摩擦によって合金微粒子が発火する恐れがある。このため、合金微粒子は窒素ガスと共に容器に封入される。なお、合金微粒子は、平均粒径が2−5μmの範囲に入る微粒子である。
本製造方法における磁石の原料である合金微粒子の第一の処理は、窒素ガスと共に封入された合金微粒子の集まりを、アルコールが過剰な有機金属化合物のアルコール分散液に直接混合し、懸濁液を作成する。このため、合金微粒子同士が大気雰囲気で接触することはない。第二の処理は、真空チャンバーの圧力を減圧し、アルコールを気化させる。アルコールが沸騰する際に懸濁液が撹拌され、アルコールが気化した後は、合金微粒子の表面は、有機金属化合物の微細結晶の集まりで覆われる。これによって、合金微粒子が外界から遮断され、以降の処理は、大気雰囲気での処理が可能になる。なお、有機金属化合物の微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属酸化物の粒状微粒子の大きさに近い。また、有機金属化合物は吸湿性を持たない。いっぽう、懸濁液を作成する際に、水蒸気や有機物などの異物が、懸濁液に混入したとしても、真空チャンバーを減圧する際に全ての異物は気化し、合金微粒子は有機金属化合物の微細結晶で覆われ、一切の異物が付着しない。また、合金微粒子に酸化物や水酸化物が形成されない。
次に、合金微粒子の集まりを、真空チャンバーから金型に移す。さらに、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解し、合金微粒子の表面に、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子の集まりが析出し、全ての合金微粒子が金属酸化物の微粒子で覆われる。この有機金属化合物の熱分解は、合金微粒子の表面で起こる。つまり、熱分解温度に近づくと、有機金属化合物が金属酸化物と有機物とに分解し、有機物の密度が金属酸化物の密度より小さいため、有機物が上層に金属酸化物が下層になるように析出し、上層の有機物が気化した後に、金属酸化物が、10−100nmの間に入る粒状の微粒子を析出して熱分解反応を終え、金属酸化物の微粒子より2桁大きい合金微粒子の表面は、金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。金属酸化物は安定な物質で、合金微粒子の表面と反応しない。このように、有機金属化合物の熱分解が、合金微粒子の表面を覆った状態で進むため、合金微粒子の表面は外界に触れない。このため、合金微粒子に酸化物や水酸化物が形成されない。また、合金微粒子の集まりを、真空チャンバーから金型に移す際に、水蒸気や有機物などの異物が混入したとしても、有機金属化合物を熱分解する際に、異物は気化する。このため、合金微粒子は、金属酸化物の微粒子のみで覆われ、異物は一切存在しない。
さらに金型を室温に戻し、金型に一定の磁場を同一方向に印加し、徐々に増大する圧縮応力を、金型内の合金微粒子の集まりに加える。こうして、金属酸化物の微粒子で覆われた合金微粒子の集まりからなる圧縮成形体が金型内に形成される。この圧縮成形体の密度は、下記に説明するように合金の密度に近い。このような圧縮成形体に大きな磁界を印加し、強磁性の主相の磁化を飽和させると、異方性希土類磁石が製造される。なお、圧縮成形体は、金属酸化物の微粒子が1%より少ない体積で、合金微粒子が99%より多い体積を占めるように、有機金属化合物を合金微粒子に吸着させる。このため、アルコールに分散された有機金属化合物の分散濃度は極めて低く、全ての合金微粒子の表面が、有機金属化合物のアルコール分散液と接触する。
こうして製造された異方性希土類磁石は、合金微粒子が金属酸化物の微粒子で覆われているため、異方性希土類磁石を液体中で使用することができる。液体中で使用する際に、希土類磁石の表面の合金微粒子を覆う金属酸化物の微粒子のみが脱落するため、表面の合金微粒子のみが腐食されるが、圧縮成形体を着磁した後においては、合金微粒子同士が強固に磁気吸着するため、金属酸化物の微粒子の集まりが障害になり、その他の合金微粒子への腐食は進行しない。さらに、金属酸化物が絶縁性であり、異方性希土類磁石には渦電流損失が発生せず、希土類磁石の発熱がないため、保磁力が低下しない。
ここで、圧縮成形時における、金型内の合金微粒子の挙動を説明する。合金微粒子は、高圧で超音速の窒素気流ないしはヘリウム気流によるジェットミルなどの手段で機械的に微粉砕されたものを用いる。従って、合金微粒子同士が、超音速で衝突を繰り返すことで微細化されるため、合金微粒子は様々な異形形状で構成され、大きさにも偏差がある。このような合金微粒子を有機金属化合物の微細結晶で覆い、合金微粒子の集まりを金型に充填すると、ランダムに混じり合った合金微粒子の集まりには、僅かな大きさであるが、非常に多くの空隙が形成される。さらに、金型を昇温して有機金属化合物を熱分解すると、大きさが合金微粒子より2桁小さい金属酸化物の微粒子が、空隙を埋めるように合金微粒子の表面に一斉に析出し、全ての合金微粒子は金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。さらに、金型に一定の磁場を同一方向に印加しながら、合金微粒子に加える応力を少しずつ増大して圧縮する。合金微粒子は金属酸化物の微粒子で覆われているため、合金微粒子同士は直接接触せず、合金微粒子に摩擦力が発生せず、金属酸化物の微粒子を伴って、空隙を埋めるように、合金微粒子が僅かに回転を伴って移動する。なお、磁場が同一方向に継続して印加されるため、合金微粒子が回転を伴って移動しても、合金微粒子の主相の磁化は磁場方向に継続して配向する。合金微粒子が移動できる大きさの空隙がなくなると、圧縮応力は金属酸化物の微粒子に加わり、金属酸化物の微粒子の硬度が合金微粒子の硬度より低いため、金属酸化物の微粒子が優先して破壊され、より微細な微粒子となって空隙を埋める。空隙が金属酸化物の破壊で埋められない数ナノ程度の大きさになると、金属酸化物の微粒子の破壊が停止し、合金微粒子に圧縮応力が加わる。さらに圧縮応力が増大すると、合金微粒子の塑性変形が始まり、金属酸化物の微粒子の集まりを介して、合金微粒子が絡み合いを始める。この段階で圧縮応力の印加を停止する。こうして製造された圧縮成形体は、数ナノから数十ナノの様々な大きさからなる金属酸化物の微粒子の数十個が合金微粒子を取り囲み、空隙が数ナノ程度の大きさである稠密構造となる。また、金属酸化物の微粒子が1%より少ない体積で、合金微粒子が99%より多い体積を占める、稠密構造からなる成形体が製造され、成形体の密度は合金の密度に近い。この圧縮成形体は、衝撃力以外の応力に耐えられる一定の機械的強度を持つ。なお、前記した合金微粒子の集まりの金型内における挙動は、圧縮応力を加えた際の金型が受ける反発力の大きさから判断でき、合金微粒子の塑性変形が開始された際に反発力が最大となり、この時点で圧縮応力の印加を停止する。従って、合金微粒子には圧縮応力の印加に依る磁気歪は残留しない。
いっぽう、圧縮成形体は、モータなどに組み込む際に破壊しない程度の機械的強度が必要になる。この機械的強度が不十分であれば、圧縮成形体を着磁する際に加える磁場の1/5程度の磁界を加えれば、圧縮成形体は十分な機械的強度を持つ。つまり、圧縮成形体は、モータなどに組み込んだ後に着磁し、合金微粒子の主相の磁化を飽和させ、合金微粒子の磁力を最大限発揮させ、異方性希土類磁石とする。この際、合金微粒子に大きな磁界が加わり、主相の磁化が飽和した合金微粒子は、強力な磁気吸引力で互いに磁気吸着し、重量が極僅かな合金微粒子は、磁化を消磁させない限り、磁気吸着力で剥がれない。また合金微粒子は、ミクロンの大きさになるまで十分な時間をかけて粉砕しているため、異方性希土類磁石を落下させても、磁気吸着力で合金微粒子が剥がれず、また、合金微粒子は破棄されない。従って、異方性希土類磁石は、磁石として必要な機械的強度を有する。
以上に説明したように、本製造方法に依れば、従来のネオジウム磁石とサマリウムコバルト磁石とサマリウム鉄窒素磁石とにおける焼結工程と、従来のネオジウム磁石とサマリウムコバルト磁石とにおける熱処理工程と、異方性ラジアルリング磁石における熱間プレス工程と熱間押出し工程とが不要になる。このため、従来に比べて著しく安価な異方性希土類磁石が製造できる。さらに、焼結に伴う成形体の収縮がないため、圧縮成形体を機械加工する必要がない。なお、金属酸化物を析出する有機金属化合物の熱分解温度は、最高でも330℃程度で、従来の熱処理と熱間プレス処理より450℃以上低く、かつ、大気雰囲気での熱処理であり、熱処理費用は著しく安価で済む。また、圧縮成形時に、同一方向の磁場を継続して印加するため、全ての主相の磁化は磁場の印加方向に配向する。この後、着磁によって強磁性の主相の磁化を飽和させ、異方性希土類磁石が製造される。
ここで、製造した異方性希土類磁石の性能を説明するにあたり、永久磁石の残留磁束密度と保持力との定義を説明する。永久磁石に外部磁場を印加すると、磁場と磁化との関係が、よく知られた角形のヒステリシスループを描く。すなわち、正の方向の外部磁場を、磁石の正の方向の磁化が飽和するまで徐々に増大し、この後、正の方向の外部磁場の大きさを徐々に低下させ、外部磁場をゼロに戻す。この後、負の方向の外部磁場を、磁石の負の方向の磁化が飽和するまで徐々に増大し、この後、負の方向の外部磁場の大きさを徐々に低下させ、外部磁場をゼロに戻す。再度、正の方向の外部磁場を徐々に増やすと、磁場と磁化との関係が、よく知られた角形のヒステリシスループを示す。このヒステリシスループにおいて、外部磁場がゼロにおいて磁石が発生する磁化の大きさが、残留磁束密度である。従って、残留磁束密度の大きさに応じて、磁石は磁束を外界に漏らし、磁石の磁力は残留磁束密度で決まる。さらにヒステリシスループにおいて、磁化がゼロにおける磁場の大きさが保磁力であり、磁石内部の磁化の半分が反転して磁化を打ち消し、磁石の磁化がゼロになる外部磁場の大きさを意味する。このため、保磁力以上の磁場が磁石に加わると、磁石の特性が不可逆変化し、減磁という現象を引き起こす。減磁した磁石は、再度着磁する、つまり、磁石の磁化が再度飽和する大きさの磁場を加えると、磁石の磁気特性が復元する。しかし、磁石をモータから取り外して、再度着磁する必要がある。
次に、本製造方法に依る異方性希土類磁石の残留磁束密度を説明する。圧縮成形体を着磁する際に、強磁性の主相が持つ固有の物性である、異方性磁界より大きな磁界を圧縮成形体に加え、主相の磁化を飽和させる。ところで、圧縮成形体における金属酸化物の微粒子が占める体積割合は1%より少なく、99%より多い体積が合金微粒子で占められる。従って、異方性希土類磁石の残留磁束密度の大きさは、飽和された主相の磁化の総和に近く、主相が持つ固有の物性である自発磁化の大きさの総和に近づく。この結果、従来の異方性希土類磁石に近い残留磁束密度が得られる。なお、合金微粒子を覆う非磁性の金属酸化物の層が存在するため、圧縮成形体を着磁する際には、従来の希土類磁石より大きな磁界を印加させ、合金微粒子の磁化を飽和させる必要がある。また、異方性希土類磁石の表面から漏れる磁束密度の大きさは、金属酸化物の微粒子が占める体積割合は1%より少ないため、金属酸化物の存在による漏れ磁束の低減は、極わずかである。
次に、本製造方法に依る異方性希土類磁石の保磁力を説明する。従来の異方性希土類磁石は、圧縮成形体を焼結した後に、熱処理を施すことで、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を実現させ、保磁力を発現させた。この非磁性相の大きさは数ナノである。つまり、数ナノの大きさの非磁性相が、2桁大きい強磁性の主相に隣接して粒界相を形成することで、磁化の反転が妨げられた。
いっぽう、本製造方法で製作した圧縮成形体においては、数ナノから数十ナノの大きさからなる金属酸化物の微粒子の数十個が、稠密構造によって合金微粒子を囲む。従って、従来の異方性希土類磁石の粒界相の大きさより、2ないし3桁厚みが大きい非磁性層が、合金微粒子を囲む。このような圧縮成形体に、合金微粒子の強磁性の主相の磁化を飽和させるのに十分な磁界を印加し、異方性希土類磁石を製作する。こうして製造された異方性希土類磁石に逆磁界を印加すると、合金微粒子を囲む非磁性の層が、その内側に存在する合金微粒子の磁化を反転させる障害となり、異方性希土類磁石の保磁力が発現する。
ここで、本発明の異方性希土類磁石の製造方法がもたらす作用効果を整理する。
第一に、真空チャンバー内で、合金微粒子を有機金属化合物の微細結晶で覆うため、合金微粒子に酸化物や水酸化物などが形成されない。さらに、有機金属化合物の微細結晶で覆われた合金微粒子は、外界から遮断され、有機金属化合物の熱分解と圧縮成形とが大気雰囲気で行え、製造コストが大幅に抑えられる。
第二に、懸濁液からアルコールが気化する際と、有機金属化合物が熱分解する際に、水蒸気や有機物からなる異物が気化し、圧縮成形体には一切の異物が存在せず、また、合金微粒子の表面は腐食しない。このため、合金微粒子の磁気特性が反映された異方性希土類磁石が製造できる。
第三に、合金微粒子の集まりを圧縮成形する際に、一定の磁場を同一方向に継続して印加するため、異方性希土類磁石が製造できる。
第四に、合金微粒子の集まりを圧縮成形する際に、合金微粒子同士が直接接触せず、摩擦力が発生しない。また、金属酸化物の微粒子が破壊されて空隙を埋めるため、金属酸化物の微粒子が破壊されない、数ナノの大きさからなる空隙しか存在しない稠密構造が、圧縮成形体として形成される。さらに、圧縮成形体における金属酸化物が占める体積割合は1%より少なく、99%より多い体積を合金微粒子が占めるため、圧縮成形体は合金の密度に近づく。圧縮成形で合金の密度に近い成形体が得られるため、従来の焼結や熱処理や熱間圧延や熱間押出し処理などの熱処理が一切不要になり、異方性希土類磁石の製造コストが大幅に下がる。また、焼結処理に伴う成形体の収縮がなく、機械加工が不要になる。
第五に、合金微粒子が非磁性で絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆われ、合金微粒子同士が強固に磁気吸着するため、異方性希土類磁石は錆びにくく、また、渦電流損失が大幅に低減する。
第六に、圧縮成形体は、金属酸化物の微粒子が1%より少なく、99%より多い体積が合金微粒子で占められ、また、合金微粒子は、主相が90%より多い体積を占める合金で構成されるため、異方性希土類磁石の残留磁束密度の大きさは、飽和された主相の磁化の総和に近く、主相が持つ固有の物性である自発磁化の大きさの総和に近づく。このため、異方性希土類磁石の最大エネルギー積は、従来の異方性希土類磁石と劣らない。
第七に、逆磁界を異方性希土類磁石に印加した際に、合金微粒子を囲む非磁性の層が、内側に存在する合金微粒子の磁化を反転させる障害となり、保磁力が発現する。しかし、従来の異方性希土類磁石より高温で使用できる高保磁力の異方性希土類磁石としては、さらなる保磁力の増大が必要になる。
以上に説明した本発明の異方性希土類磁石の製造方法がもたらす作用効果によって、16−18段落に記載した異方性希土類磁石における課題の内、さらなる保磁力の増大を除く課題が解決された。
前記した異方性希土類磁石の製造方法、前記した合金微粒子として、強磁性の主相が形成する粒界相が、熱処理によって非磁性の物質形成された合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する、前記した異方性希土類磁石の製造方法である。
つまり、合金微粒子を構成する合金が、強磁性の主相が形成する粒界相が、非磁性の物質で形成される結晶の微細構造を持つことで、この合金を微粉砕した微粒子の集まりによって製造した異方性希土類磁石に保磁力が発現される。この保磁力は、20段落で説明した合金微粒子を取り囲む非磁性の層が発現する保磁力に加算され、従来の異方性希土類磁石より大きな保磁力が発現され、異方性希土類磁石がより高温で使用することができる。従って、16−18段落に記載した異方性希土類磁石における全ての課題が解決される。
保磁力を発現させる結晶の微細構造を持つ4種類の合金微粒子は、以下に説明する方法で製造し、異方性希土類磁石の原料として使用する。
第一の原料は、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子である。NdFe14Bの組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、ネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金を秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加して溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込んで合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕する。この後、合金粒子の集まりを、アルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置した後に、さらに550℃に一定時間放置し急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmに入る粉末に微粉砕し、異方性ネオジウム磁石の原料として用いる。従って、従来の磁石の原料である合金微粒子の製造方法に比べ、800℃と550℃での2段階の熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第二の原料も、合金のインゴットを微粉砕した合金微粒子である。SmCo17の組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、サマリウムとコバルトを秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込んで合金のインゴットを作成する。次に、インゴットに水素ガスを吸蔵させ、水素ガスの吸蔵に依る体積膨張で無数のクラックを発生させる。この後、減圧状態で500−600℃に昇温し、インゴットの内部に存在する水素ガスを取り除く。さらに、インゴットを窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し合金粒子を作成する。この後、合金粒子の集まりを、真空ないしはアルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を800℃付近まで昇温し、一定時間放置した後に急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が4−5μmに入る粉末に微粉砕し、異方性サマリウムコバルト磁石の原料として用いる。従って、従来の磁石の原料である合金微粒子の製造方法に比べ、800℃近辺での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第三の原料は、合金の溶湯を急冷させて作成した薄帯を微粉砕した合金微粒子である。NdFe14Bの組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、ネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金を秤量し、真空中ないしはアルゴンガス中で溶解させて溶湯を作る。この溶湯を窒素ガスの雰囲気で高速回転するロールに噴射させ、溶湯を急冷させて薄帯を製造する。さらに、薄帯を窒素ガス中で150μm程度の薄片に機械的に粉砕する。この薄片の集まりを、真空ないしはアルゴンガス雰囲気で、熱処理炉を600℃付近まで昇温し、一定時間放置し、この後急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が2−3μmに入る粉末に微粉砕し、異方性希土類磁石の原料として用いる。この合金微粒子の製造方法も、従来の合金微粒子の製造方法に比べ、600℃付近での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
第四の原料は、サマリウム鉄窒素化合物合金を微粉砕した合金微粒子である。SmFe17の組成、ないしは、SmFe1.5の組成からなる強磁性の主相が、90%より多い体積を占めるように、酸化サマリウム、鉄およびカルシウムからなる粉体を秤量して混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉において混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムによって還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムとする。還元されたサマリウムは、鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除き、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子を得る。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理すると、窒素がサマリウム鉄合金に拡散し、サマリウム鉄窒素化合物からなる微粒子が得られる。さらに、微粒子の集まりを、アルゴンガス雰囲気で熱処理炉450℃付近まで昇温し、一定時間放置し、この後急冷する。さらに、高圧で超音速の窒素気流によるジェットミルで、平均粒径が2−3μmに入る粉末に微粉砕し、希土類磁石の原料として用いる。この合金微粒子の製造方法も、従来の合金微粒子の製造方法に比べ、450℃での熱処理が追加される。これによって、合金微粒子に保磁力を発現させる結晶の微細構造が形成される。
以上に説明した保磁力を発現する熱処理は、異方性希土類磁石の原料である合金微粒子を製造する一環として行われる。これに対し、従来の異方性希土類磁石の製造における保磁力を発現する熱処理は、異方性希土類磁石を製造する一環として行われる。従って、同様の熱処理であっても、磁石の原料となる大量の合金微粒子に熱処理を施すため、異方性希土類磁石の原料である合金微粒子に加える熱処理費用の方が安価になる。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は前記した合金微粒子は、強磁性の主相が、NdFe14Bの組成、SmFe17の組成、SmFe1.5の組成、ないしは、SmCo17の組成のいずれかの組成からなる合金微粒子で、該合金微粒子の強磁性の主相に、前記した熱処理によって非磁性の物質からなる粒界相を形成し、該非磁性の物質の粒界相を形成した合金微粒子を、前記した合金微粒子として用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する、前記した異方性希土類磁石の製造方法である。
つまり、磁石の原料である合金微粒子を構成する合金が、90%より多い体積を強磁性の主相が占める合金は、次に説明する方法で4種類の合金を製造する。この合金微粒子の集まりを用いて製造した異方性希土類磁石は、合金における強磁性の主相の組成割合に応じた残留磁束密度を持つ。
第一の合金微粒子を製造する際に製造する合金のインゴットは、NdFe14Bの組成が、90%より多い体積を占める合金のインゴットである。つまり、原料であるネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金の各々を、合金の組成に応じて秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込むと、NdFe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットが製造される。この合金のインゴットを、22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が4−5μmに入る微粒子を製作し、この合金微粒子を原料として用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、第一の異方性ネオジウム磁石が製造される。
第二の合金微粒子を製造する際に製造する合金の溶湯は、NdFe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金の溶湯である。原料であるネオジウム、電解鉄およびフェロボロン合金の各々を、合金の組成に応じて秤量し、これらを坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化したNdFe14Bの組成が90%より多い体積を占める合金の溶湯が得られる。この溶湯を、ストリップキャスト法で急冷させて合金の薄帯を製造し、この薄帯を22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が2−3μmに入る微粒子を製作する。この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、第二の異方性ネオジウム磁石が製造される。
第三の合金微粒子における合金は、SmFe17の組成、ないしは、SmFe1.5の組成が、90%より多い体積を占めるサマリウム鉄窒素化合物である。最初に、酸化サマリウム、鉄およびカルシウムの粉体を、合金の組成に応じて秤量して混合する。次に、還元雰囲気の熱処理炉で混合粉を加熱し、酸化サマリウムをカルシウムで還元してサマリウムとし、カルシウムは酸化されて酸化カルシウムになる。さらに、還元されたサマリウムは鉄に拡散し、サマリウム鉄合金が生成される。この後、酸化カルシウムを取り除くと、平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子が得られる。この後、サマリウム鉄合金の微粒子を窒素雰囲気で熱処理し、窒素がサマリウム鉄合金に拡散し、SmFe17の組成、ないしは、SmFe1.5の組成が、90%より多い体積を占めるサマリウム鉄窒素化合物の微粒子が得られる。このサマリウム鉄窒素化合物の微粒子を、22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が2−3μmに入る微粒子を製作し、この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、異方性サマリウム鉄窒素磁石が製造される。
第四の合金微粒子における合金のインゴットは、主相のSmCo17の組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットである。この合金インゴットは、原料であるサマリウムとコバルトを合金の組成に応じて秤量して坩堝に入れ、真空溶解炉で坩堝に高周波を印加させて溶解し、均質に合金化した溶湯を鋳型に流し込むと、SmCo17の組成が90%より多い体積を占める合金のインゴットが製造される。この合金インゴットを、22段落で説明した製造方法に準じて、平均粒径が4−5μmに入る合金の微粒子を製作し、この合金微粒子を用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に基づいて磁石を製造すると、異方性サマリウムコバルト磁石が製造される。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は前記した有機金属化合物として、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物を用い前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する、前記した異方性希土類磁石の製造方法である。
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、熱分解によって金属酸化物を析出する。このため、19段落に記載した異方性希土類磁石の製造方法で、有機金属化合物をカルボン酸金属化合物で構成し、合金微粒子をカルボン酸金属化合物の微細結晶で覆い、カルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、最高でも330℃程度の温度で、カルボン酸金属化合物が熱分解し、大きさが10−100nmの範囲に入る粒状の金属酸化物の微粒子の集まりが、合金微粒子の表面に析出する。この結果、合金微粒子の材質や大きさや形状に係わらず、合金微粒子の表面が金属酸化物の微粒子で覆われる。さらに、磁場を印加させながら、合金微粒子の集まりを圧縮成形すると、金型内に圧縮成形体からなる異方性希土類磁石が製造される。なお、カルボン酸金属化合物の大気雰囲気での熱分解は、窒素雰囲気での熱分解より30−50℃低いため、大気雰囲気での熱分解の方が、熱処理費用が安価で済む。
すなわち、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンに酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカルボン酸とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などがある。
また、カルボン酸金属化合物は、いずれも容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、汎用的なカルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させることで、カルボン酸金属化合物が合成される。また、原料となるカルボン酸は、有機酸の沸点の中で相対的に低い沸点を有する有機酸であるため、大気雰囲気においては330℃程度の低い熱処理で金属酸化物の微粒子が析出する。
以上に説明したように、19段落の異方性希土類磁石の製造方法において、合金微粒子の表面が金属酸化物の微粒子の集まりで覆われるため、19段落の異方性希土類磁石の製造方法において、カルボン酸金属化合物は有機金属化合物を構成する。
なお、鉄の酸化物であるマグネタイトFeを除く金属酸化物は、不純物を含まなければ絶縁性であり、酸化錫SnOと酸化チタンTiOとは、不純物として金属をドーピングすることで半導体性を持つ。また、多くの金属酸化物は非磁性であり、鉄の酸化物であるマグネタイトFeとマグヘマイトγ―Feと、各種フェライトは強磁性の性質を持つ。従って、前記したカルボン酸金属化合物の熱分解で析出した多くの金属酸化物は、非磁性で絶縁性である。
前記した異方性希土類磁石の製造方法は前記した熱分解で非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物の微粒子を析出する有機金属化合物が、酸化マンガンMnO、酸化銅CuO、酸化ニッケルNiO、ないしは、酸化亜鉛ZnOからなるいずれかの金属酸化物の微粒子を析出する有機金属化合物であ該有機金属化合物を前記した有機金属化合物として用い、前記した異方性希土類磁石の製造方法に従って異方性希土類磁石を製造する、前記した異方性希土類磁石の製造方法である。
つまり、本製造方法による異方性希土類磁石の製造に当たっては、合金微粒子の表面を覆う金属酸化物は、以下の5つの性質を兼備することが望ましい。
第一に、非磁性と絶縁性とを兼備する金属酸化物である。
第二に、前記した酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物からなるカルボン酸金属化合物は、アルコールに分散し、アルコールを気化させた後に、カルボン酸金属化合物を熱分解すると、金属酸化物が析出する。いっぽう、酢酸金属化合物の多くはアルコールに溶解するため、カルボン酸金属化合物として望ましくない。また、安息香酸金属化合物は、酸素イオンが金属イオンに近づいて配位結合して複核錯塩を形成するが、熱分解の途上においては不安定な物質を生成する安息香酸金属化合物がある。このため、熱分解で金属酸化物を析出するカルボン酸金属化合物は、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物が望ましい。従って、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物の合成が容易で、熱分解で金属酸化物を析出することが望ましい。
第三に、加水分解性を有する、あるいは、水との反応を伴う、アルカリ金属とアルカリ土類金属の金属酸化物は望ましくない。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化物の多くは、アルコールに溶解する。
第四に、磁石の原料である合金微粒子より硬度が低いことが望ましい。つまり、金属酸化物微粒子の硬度が、合金微粒子より低ければ、圧縮成形時に金属酸化物微粒子が、より微細な微粒子に破壊され、圧縮成形体における空隙を、破壊された金属酸化物の微粒子が埋め尽くし、稠密構造からなる圧縮成形体が容易に製造できる。また、成形時に過度な圧縮応力が不要になるため、合金微粒子の磁気特性を低減させる磁気歪が残留しない。
いっぽう、ネオジウム磁石の原料の合金微粒子は、ビッカース硬度が600HVで、サマリウムコバルト磁石の原料の合金微粒子は、ビッカース硬度が550HVである。これに対し、金属酸化物の粒子は、酸化アルミ二ウムAl、酸化ケイ素SiO、酸化錫SnO、酸化クロムCr、酸化マグネシウムMgOおよび酸化チタンTiOの順で硬度が高く、また、希土類磁石の原料である合金微粒子より硬度が高い。
第五に、カプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物が安価に合成できる。このため、銅を除く貴金属元素、白金族元素及び重金属元素からなるカプリル酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物は、高価な有機金属化合物であるため望ましくない。なお酸化鉄FeOは、非磁性でかつ絶縁性で脆い性質を持つが、熱力学的に不安定な物質で、導電性のマグネタイトFeに徐々に変化する性質を持つため、望ましくない。
以上に説明した5つの性質を兼備する金属酸化物として、酸化マンガンMnO、酸化銅CuO、酸化ニッケルNiO、ないしは、酸化亜鉛ZnOがある。また、こうした金属酸化物を熱分解で析出するカプリル酸金属化合物とナフテン酸金属化合物とは、合成が容易であるため、金属酸化物の安価な原料になる。
酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くしている状態を模式的に示した説明図である。
本実施形態は、熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物に関する実施形態である。
熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散する性質と、第二に合金微粒子の表面で、金属酸化物微粒子の集まりを析出する性質とを兼備する。以下の説明では、酸化ニッケルNiOを析出する原料を例として説明する。
無機ニッケル化合物は、熱分解で酸化ニッケルを析出しないため、アルコールに分散する有機ニッケル化合物が望ましい。また、有機ニッケル化合物から酸化ニッケルが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機ニッケル化合物を昇温するだけで、熱分解によって酸化ニッケルが析出する。さらに、有機ニッケル化合物の合成が容易でれば、有機ニッケル化合物が安価に製造できる。これら2つの性質を兼備する有機ニッケル化合物に、カルボン酸ニッケル化合物がある。
つまり、カルボン酸ニッケル化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質はニッケルイオンNi2+である。いっぽう、ニッケルイオンNi2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合するカルボン酸ニッケル化合物は、ニッケルイオンと酸素イオンとの距離が最大になる。この理由は、ニッケルの共有結合半径は110pmであり、酸素の単結合の共有結合半径は63pmであり、炭素の二重結合の共有結合半径は67pmであることによる。このため、ニッケルイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸ニッケル化合物は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長いニッケルイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、ニッケルとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にニッケルが析出する。従って、熱分解で酸化ニッケルNiOを析出するカルボン酸ニッケル化合物は、ニッケルイオンNi2+と結合する酸素イオンOとの距離が短く、酸素イオンOがニッケルイオンNi2+の反対側で結合するイオンと結合する距離が長い分子構造上の特徴を持つ必要がある。これによって、酸素イオンOがニッケルイオンNi2+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最初に切れ、酸化ニッケルNiOとカルボン酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸ニッケル化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンOが配位子になってニッケルイオンNi2+に近づいて配位結合するカルボン酸ニッケル化合物がある。
また、カルボン酸ニッケル化合物は合成が容易で、安価な有機ニッケル化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液と反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。カルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸ニッケルなどの無機ニッケル化合物と反応させると、カルボン酸ニッケル化合物が生成される。さらに、カルボン酸の沸点が低いため熱分解温度が相対的に低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸ニッケルは、安価な化学薬品であり、熱処理費用も安価で済む。こうしたカルボン酸ニッケルとして、カプリル酸ニッケル、安息香酸ニッケル、ナフテン酸ニッケルなどが挙げられる。なお、酢酸ニッケルは、アルコールに溶解するため望ましくない。また、安息香酸ニッケルは、熱分解の途上においては不安定な物質を生成する。従って、酸化ニッケルの原料として、カプリル酸ニッケルないしはナフテン酸ニッケルが望ましい。
実施例1
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性ネオジウム磁石を製造する実施例である。合金微粒子は、90%より多い体積をNdFe14Bの組成からなる主相が占める合金のインゴットに、水素ガスを吸蔵させ、この後、窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、この後アルゴンガス雰囲気で、800℃と550℃とに1時間ずつ放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が5μmに機械的に微粉砕して製造した合金微粒子(日立金属株式会社の供試品)を用いた。有機金属化合物として、カプリル酸ニッケルNi(C15COO)(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
最初に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールが充填された容器に混合し、分散液を作成した。この分散液に、窒素ガスと共に封入された合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。さらに、懸濁液が入った容器を真空チャンバーに配置し、真空チャンバーを減圧し、n−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールを回収した。この後真空チャンバーを大気圧に戻し、容器内の合金微粒子の集まりを金型に移した。金型は、直径が4cmで、高さが2cmの円柱形状の成形体が成形される形状を持つ。この金型を、磁場中成形油圧プレス(株式会社玉川製作所の製品)に取り付けた。最初に、円柱形状の厚み方向に、12キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃まで昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、金型内の合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、合金微粒子を成形した。プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、円柱形状からなる圧縮成形体の厚み方向に、35キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。なお、190gの合金微粒子の集まりに、2.4gのカプリル酸ニッケルが熱分解して酸化ニッケルの微粒子が覆うと、酸化ニッケルの微粒子が異方性希土類磁石に占める体積割合は、0.3%と極めて少ない。
次に、製作した圧縮成形体の観察と分析とを行なった。圧縮成形体を厚み方向に2つに切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特徴を有する。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、切断面を観察した。5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる粒状の微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づく箇所で、様々な大きさの30−40個の粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の粒状微粒子が存在した。次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。ニッケル原子と酸素原子の双方が均一に分散して存在し、特段に偏在する箇所が見られないため、酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くしていることが確認できた。図1に、切断面の一部を拡大した様子を模式的に示す。1は合金微粒子で、2は酸化ニッケルの微粒子である。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を測定した。測定装置は、東英工業株式会社のパルス励磁型磁気特性測定装置を用いた。残留磁束密度Brは1.4テスラで、保磁力Hcjは21キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は38MGOeであった。これらの磁気特性は従来の異方性ネオジウム焼結磁石の性能に劣らない。
実施例2
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性ネオジウム磁石を製造する実施例である。合金微粒子として、90%より多い体積をNdFe14Bの組成からなる主相が占める合金の溶湯を急冷して作成した薄帯を、窒素ガス中で薄片に機械的に粗粉砕し、さらに、アルゴンガス雰囲気で600℃に1時間放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が4μmに機械的に微粉砕した合金微粒子(大同特殊鋼株式会社の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、これに合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化した後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、実施例1と同様に、合金微粒子の集りに12キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、実施例1と同様に、円柱形状からなる圧縮成形体の厚み方向に、35キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、製作した圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.2テスラで、保磁力Hcjは19キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は35MGOeであった。これらの磁気特性は従来のラジアル異方性ネオジウム磁石の性能より優れる。
実施例3
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性サマリウム鉄窒素磁石を製造する実施例である。合金微粒子として、90%より多い体積をSmFe17の組成からなる平均粒径が30μmに近いサマリウム鉄合金の微粒子を作成し、さらに、アルゴンガス雰囲気で450℃付近まで昇温し、1時間放置し、急冷した後に、窒素雰囲気で平均粒径が3μmに機械的に粉砕した合金微粒子(住友金属鉱山株式会社の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、これに合金微粒子の190gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化した後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、合金微粒子の集まりに18キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、実施例1と同様に、円柱形状の成形体の厚み方向に、50キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、製作した圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.3テスラで、保磁力Hcjは28キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は35MGOeであった。これらの磁気特性は従来の等方性サマリウム鉄窒素焼結磁石の性能より優れる。
実施例4
本実施例は、酸化ニッケルNiOの微粒子で覆われた合金微粒子の集まりを圧縮成形して、異方性サマリウムコバルト磁石を製造する実施例である。合金微粒子は、90%より多い体積をSmCo17の組成からなる主相が占める合金のインゴットに、水素ガスを吸蔵させ、この後、窒素ガス中で100μm程度に機械的に粗粉砕し、この後アルゴンガス雰囲気で、800℃付近に1時間放置し、急冷した後に、窒素ガスの雰囲気で平均粒径が5μmに機械的に微粉砕した合金微粒子(株式会社三徳の供試品)を用いた。また、有機金属化合物として、実施例1のカプリル酸ニッケルを用いた。
実施例1と同様に、カプリル酸ニッケルの2.4gを、100ccのn−ブタノールに分散し、さらに合金微粒子の210gを混合し、懸濁液を作成した。n−ブタノールを気化させた後に、カプリル酸ニッケルの微細結晶で覆われた合金微粒子の集まりを、実施例1と同じ形状の金型に移した。さらに、合金微粒子の集りに15キロエルステッドの磁界を、合金微粒子の集まりの圧縮成形が完了するまで加えた。次に、金型を290℃に昇温し、290℃に1分間放置し、カプリル酸ニッケルを熱分解した。金型を室温に戻した後に、合金微粒子の集りに、10MPa/分の昇圧速度で圧力を加え、合金微粒子を成形した。プレス機が受ける反発力が増大した時点で昇圧を停止し、圧縮成形体を製作した。
この後、円柱形状の圧縮成形体の厚み方向に、40キロエルステッドの磁界を加えて着磁し、異方性ネオジウム磁石を製作した。
次に、実施例1と同様に、圧縮成形体の断面の観察と分析とを、電子顕微鏡を用いて行なった。実施例1と同様に、5−60nmに及ぶ様々な大きさからなる酸化ニッケルの粒状の微粒子が、合金微粒子の間隙を満遍なく埋め尽くし、4nm以下の大きさからなる空隙が、ランダムに多くの場所で形成されていることが確認できた。また、隣り合う合金微粒子が最も近づいている箇所で、様々な大きさの30−40個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在し、合金微粒子で囲まれた箇所では、様々な大きさの50−100個の酸化ニッケルの粒状微粒子が存在した。
次に、異方性ネオジウム磁石の磁気特性を、実施例1と同様に測定した。残留磁束密度Brは1.0テスラで、保磁力Hcjは23キロエルステッドで、最大エネルギー積(BH)max.は28MGOeであった。これらの磁気特性は、従来の異方性サマリウムコバルト焼結磁石の性能より劣らない。
1 合金微粒子 2 酸化ニッケル微粒子

Claims (3)

  1. 電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法は、第一の金属酸化物が硬磁性と絶縁性とを兼備する第二の金属酸化物に酸化される該第一の金属酸化物からなる微粒子が、熱分解で析出する有機金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成し、複素透磁率の虚部の周波数特性が互いに異なる複数種類の合金からなる軟磁性の扁平粉の集まりを、前記アルコール分散液に混合して懸濁液を作成する、この後、加熱機能と加振機能とを併設した混合機に前記懸濁液を充填し、該混合機を回転および揺動させた後に、上下および左右に振動させる、さらに、前記懸濁液を前記有機金属化合物が熱分解する温度に昇温する第一の熱処理と、該熱処理で析出した前記第一の金属酸化物の微粒子を、前記第二の金属酸化物の微粒子に酸化させる第二の熱処理とを行う、この後、前記第二の熱処理がなされた懸濁液の集まりを、多段圧延機によってミクロンレベルの厚みからなるシートに加工し、該シートを巻き取ることによって、電磁ノイズを吸収するシートが連続して製造される、電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法。
  2. 請求項1に記載した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法において、前記第二の金属酸化物の微粒子が、酸化第二鉄のガンマ相であるマグヘマイトの微粒子である、請求項1に記載した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法。
  3. 請求項2に記載した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法において、前記マグヘマイトの微粒子は、ナフテン酸鉄の熱分解で酸化第一鉄の微粒子を析出させ、さらに、該酸化第一鉄の微粒子を、大気雰囲気での熱処理でマグへマイトに酸化させたマグヘマイトの微粒子である、請求項2に記載した電磁ノイズを吸収するシートを連続して製造する製造方法。
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