JP2019099397A - レンズの表面処理方法 - Google Patents

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【課題】レンズ表面の耐薬品性を維持しつつ、レンズ表面に対し高い親水性を付与することができる表面処理方法を提供する。【解決手段】レンズの表面にフッ素系ガスによるドライエッチング処理を行い、当該表面に微細な凹凸を付与するレンズの表面処理方法であって、前記レンズの表面は、SiO2を65〜85質量%含有するケイ酸塩ガラスからなり、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの1.3倍以上であり、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、1〜20nmである、レンズの表面処理方法である。【選択図】図1

Description

本発明は、レンズの表面処理方法に関する。本発明に係る表面処理が施されたレンズは、医療用内視鏡、ビデオスコープ、顕微鏡、メガネなど、レンズを通して目的物を観察するために用いられる医療機器、工業用検査機器、実験装置、日用品等に適用されうる。
近年、医療の現場においては、内視鏡下手術が増加傾向にある。内視鏡下手術は、管腔内に内視鏡を挿入し、内部を観察しながら処置を行うことができる手術法であり、開腹手術に比べて小さなキズで済み、術後の痛みが軽いという利点がある。
しかしながら、医療用内視鏡に用いられるレンズは、内視鏡と体内との温度差により表面に結露が発生し、視野が狭くなるという課題がある。内視鏡が挿入される体内は、約35〜37℃、湿度100%に近い環境下にあり、レンズのある内視鏡先端は、通常、体内温度よりも低温であるため、挿入されたレンズ表面が曇り、観察及び手術の妨げとなりうる。
内視鏡レンズの曇り防止を図る手段としては、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1では、内視鏡の対物レンズの表面に親水性処理を施すとともに、そのレンズ表面を加熱するヒーターを備えた内視鏡装置を用いることにより、処置中であっても対物レンズの表面が曇ることを防止することができる。親水性処理としては、酸化チタンなどの光触媒を含む薄膜を形成する手段がとられている。
しかし、酸化チタンなどの光触媒は、高い親水性は得られるものの、レンズの機械的強度及び反射率に課題がある。特許文献2はメガネレンズが対象であるが、上記課題に着目し、基材レンズの表面に、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタンを含有する金属酸化物によって無機親水性硬質層を形成し、その表面に微細な凹部を形成し、その微細な凹部に界面活性剤を含有させている。これにより、長期に渡って親水性及び親媒性が示され、レンズの曇り防止が可能とされている。特許文献2において微細な凹部を有する無機親水性硬質層を形成する方法としては、金属酸化物を析出可能な水溶液を形成し、この水溶液から所望の金属酸化物を基材レンズ上に析出させ、その後乾燥させるLPD法(水溶液析出法)が望ましいとしている。
一方、内視鏡レンズやメガネレンズなどのレンズ表面には、反射防止性や耐擦傷性も要求される。耐擦傷性に優れた反射防止膜を備える光学素子を得る方法として、特許文献3では、ゾル−ゲル法等によって光学部材の表面に低屈折率の微細構造膜(具体的には、ナノポーラスシリカ膜)を形成し、更にその微細構造膜上にLPD法によって酸化ケイ素を主成分とする無機硬質膜を形成する手段がとられている。
特開2006−282号公報 特開2004−144944号公報 特開2009−98305号公報
このように、目的に応じてレンズ表面には様々な特性が要求されるが、曇り防止の面では表面に親水性を付与することが効果的である。また、医療用内視鏡は体内に挿入して使用されるため使用後にレンズ表面に血液や脂肪成分が付着することがあるが、レンズ表面が高い親水性を有しているとセルフクリーニング作用で汚れが落ちやすいという利点がある。
レンズ表面に親水性を付与する手段としては、上述のように種々のコーティングが試されているが、これらのコーティングには持続性が必要である。特に、医療用内視鏡レンズでは使用後の洗浄のために洗浄液として次亜塩素酸、過酢酸、酵素剤などが広く利用されているが、親水性を付与するためのコーティングがこれらに耐えられるものでなければならない。
特許文献1では、親水性処理として酸化チタンなどの光触媒を含む薄膜を利用しているが、上記のとおり機械的強度及び反射率に課題がある。また、曇り防止のためにヒーター用の電気配線を内視鏡近傍まで引く必要があるため、手術の邪魔になるおそれがある。
特許文献2では、レンズの曇り防止として界面活性剤を使用しているが、あくまでメガネレンズとしての使用であり、界面活性剤が洗浄液に耐えられないため内視鏡レンズとしては使用することができない。
特許文献3では、レンズ表面に対し反射防止性及び耐擦傷性を付与することを目的としており、親水性を付与するための処置はとられていない。
本発明は、従来技術が抱えている上述したような問題点を解決するためになされたものであって、耐薬品性を維持しつつ、高い親水性を付与するレンズの表面処理方法を提供することを目的とする。
上述の問題点を解決する手段として、本発明者らは以下の表面処理方法を開発した。本発明は、レンズの表面にフッ素系ガスによるドライエッチング処理を行い、当該表面に微細な凹凸を付与するレンズの表面処理方法であって、前記レンズの表面は、SiOを65〜85質量%含有するケイ酸塩ガラスからなり、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの1.3倍以上であり、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、1〜20nmである、レンズの表面処理方法である。
また、本発明のレンズの表面処理方法のより詳細な特徴としては、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの10倍以下であること、及び前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の最大高さ粗さRzは、8〜90nmであることが挙げられる。
本発明によれば、レンズ表面の耐薬品性を維持しつつ、レンズ表面に対し高い親水性を付与することができる。
本発明の実施形態による表面処理を行ったレンズが適用されるビデオスコープの一例を示す模式図である。 セルフクリーニングが起こるモデルを表す概念図である。 実施例における各サンプルのSEM表面写真である。 実施例における各サンプルのAFM断面プロファイル写真である。 水蒸気曝露試験後の各サンプルの写真である。 洗浄試験後の各サンプルの写真である。
以下に、本発明の一実施形態について詳しく述べるが、本発明は下記実施形態に限定されるわけではない。
本実施形態において表面処理されるレンズは、例えば、図1に示すような内視鏡ビデオスコープ10の対物レンズ1として使用される。内視鏡ビデオスコープ10は、モニターにつながる接続部11と、患部に挿入される挿入部12とを有しており、対物レンズ1は挿入部12の先端部13に埋め込まれている。
本実施形態に係るレンズの表面処理は、フッ素系ガスによるドライエッチング処理により行う。ドライエッチング処理としては、プラズマエッチング処理が好適である。フッ素系ガスとしては、C、CFなどのフッ化炭素や、NFなどのフッ化窒素が挙げられる。
本実施形態で使用するレンズは、SiOを65〜85質量%含有するケイ酸塩ガラスからなる。ケイ酸塩ガラスは、透光性を有するとともに、高い耐薬品性を有している。SiOが65質量%未満であると、表面が親水性を持ちにくくなる。一方、SiOの含有量が85質量%を超えると、一様にエッチングが起こり、微細な凹凸をランダムに付与することが難しくなる。
レンズ表面に微細な凹凸をランダムに付与するために、上記ケイ酸塩ガラスは、NaO、KO、CaO、MgO、BaO、B、Alのいずれか又は複数を含んでいることが好ましい。各成分の好適な含有量は、NaOが0〜16質量%、CaOが0〜13質量%、MgOが0〜4.0質量%、BaOが0〜1.0質量%、Bが0〜28質量%、Alが0.5〜2.5質量%である。
上記ケイ酸塩ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸塩ガラスが挙げられる。SiOが95質量%以上含まれる石英ガラス(シリカガラス)は、ドライエッチング処理によりレンズ表面に微細な凹凸をランダムに付与するには不向きである。
本実施形態においてガラスレンズの表面に微細な凹凸を付与する目的は、親水性の向上である。Wenzelの理論で示されるとおり、表面積を増やすことで親水性(濡れ性)が向上する。親水性が向上すると、ガラス表面が曇りにくくなり、視界が良好になる。図2はガラスレンズ1の表面の親水面1aで、セルフクリーニングが起こるモデルを表す概念図である。親水力(基材表面に濡れようとする力)が汚れの付着力よりも大きいと、図2に示すように水20が汚れ21の下に侵入し、汚れ21を表面から除去するセルフクリーニングの効果が得られる。
本実施形態において、ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの1.3倍以上である。親水性が発現するか否かは、ドライエッチング処理によって付与される凹凸の程度が大きく影響する。
また、医療用内視鏡のように血液や油脂成分が付着するような状況下では、このような凹凸はナノオーダーのごく小さなものであることが求められる。そのため、本実施形態におけるドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、1〜20nmであり、より高い防曇性及びセルフクリーニング性を得る観点からは、2〜10nmであることが好ましく、5〜7nmであることがより好ましい。
ナノオーダーの凹凸を有するガラス表面が防曇性を発揮するためにドライエッチング処理によって付与される凹凸の程度は微量でよく、具体的には、初期算術平均粗さRaの1.3倍以上あればよい。ただし、より高い防曇性を付与する観点からは、ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの2倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましい。
一方、ドライエッチング処理によって付与される凹凸の程度が大きすぎると、セルフクリーニング性が落ちる傾向にある。具体的には、処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの10倍以下であることが好ましく、7倍以下であることがより好ましい。これは、凹凸が大きすぎると、汚れが凹凸の隙間に入り、水が汚れの下に侵入しにくくなるためと考えられる。
また、ドライエッチング処理後のレンズ表面の最大高さ粗さRzは、8〜90nmであることが好ましい。最大高さ粗さRzが8nm未満であると表面凹凸に基づく親水性が得られにくく、最大高さ粗さRzが90nmを超えると血液等が残りやすくなる。その意味で、ドライエッチング処理後のレンズ表面の最大高さ粗さRzは、20〜70nmであることがより好ましく、30〜50nmであることがさらに好ましい。
以下に、本発明に基づき実際にレンズの表面処理を行った実施例について詳しく述べる。
ソーダ石灰ガラスからなるスライドガラスを複数枚用意し、PBIID(Plasma Based Ion Implantation Deposition)装置を用いてプラズマエッチング処理を行い、各スライドガラスの表面に微細な凹凸を付与した。エッチング処理条件は、ガス種:C、処理時間:15〜60分、CV真空度:0.5Pa、ガス流量:6sccmとした。
処理時間が0分のもの(未処理)をサンプルA、処理時間が15分のものをサンプルB、処理時間が30分のものをサンプルC、処理時間が45分のものをサンプルD、処理時間が60分のものをサンプルEとし、各サンプルをSEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)で表面観察を行った後、AFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)を用いて各サンプル表面の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzを測定した。図3は各サンプルのSEM写真であり、図4は各サンプルのAFM断面プロファイル写真である。図3及び図4はそれぞれ、(a)がサンプルA、(b)がサンプルB、(c)がサンプルC、(d)がサンプルD、(e)がサンプルEを示している。また、各サンプルのヘーズ値を日本電色工業(株)製ヘーズメータNDH5000で測定した。結果を表1にまとめる。
図3及び図4に示すように、短い処理時間でもガラス表面には微少な凹凸が付与されており、処理時間が長いほど、算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzが大きくなる傾向にあることがわかる。また、測定したいずれのサンプルもヘーズ値は許容範囲であることが確認された。
ガラス表面に付与された凹凸による防曇性の効果を確認するために、水蒸気曝露試験を行った。具体的には、沸騰したお湯を貯めた浴槽の上方に各サンプルを配置し、1分間、水蒸気に曝した。結果を図5に示す。
図5に示すように、エッチング処理を行っていないサンプルAは表面が曇り、ガラスの反対側が見えにくくなっている。一方、サンプルBでは一部が曇っているものの改善効果が見られ、サンプルC〜Eは全く曇っておらず優れた防曇効果を示した。
ガラス表面に付与された凹凸によるセルフクリーニング性を確認するために、洗浄試験を行った。具体的には、各サンプルに牛保存血液を10μl滴下し、100℃で2時間乾燥させた後、純水に1分間浸漬させ、さらに5分間の超音波洗浄を行い、固着した血液が除去されるかどうか検証した。結果を図6に示す。
図6に示すように、エッチング処理を行っていないサンプルAは固着した血液がそのまま残った。一方、サンプルB、Eでは、固着した血液を完全に取り去ることができなかったものの、ある程度の改善効果が見られた。また、サンプルC、Dでは血液を完全に除去することができた。
なお、比較例として、石英ガラスの表面をエッチング処理した結果を下記表2に示す。上記サンプルB〜Eにおける条件と同様の条件でエッチング処理を行い、エッチング処理後の各サンプルF〜J表面の算術平均粗さRaをAFMで測定した。その結果、エッチング処理前と後で算術平均粗さRaはほぼ変化がないことが確認された。
10 内視鏡ビデオスコープ
11 接続部
12 挿入部
13 先端部
1 レンズ(対物レンズ)
1a 親水面
20 水
21 汚れ

Claims (3)

  1. レンズの表面にフッ素系ガスによるドライエッチング処理を行い、当該表面に微細な凹凸を付与するレンズの表面処理方法であって、
    前記レンズの表面は、SiOを65〜85質量%含有するケイ酸塩ガラスからなり、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの1.3倍以上であり、前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、1〜20nmである、レンズの表面処理方法。
  2. 前記ドライエッチング処理後のレンズ表面の算術平均粗さRa’は、ドライエッチング処理前のレンズ表面の算術平均粗さRaの10倍以下である請求項1に記載のレンズの表面処理方法。
  3. 前記ドライエッチング処理後におけるレンズ表面の最大高さ粗さRzは、8〜90nmである請求項1又は2に記載のレンズの表面処理方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2012141311A1 (ja) * 2011-04-15 2012-10-18 旭硝子株式会社 反射防止性ガラス基体

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