JP2019098501A - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】硬質被覆層の耐剥離性にすぐれた表面被覆切削工具を提供する。【解決手段】工具基体の表面に、0.5〜50nmのA層とB層の交互ナノ積層からなる上部層と、C層とD層の交互ナノ積層からなる下部層が形成され、A層は(Ti1−xAlx)N層、B層は(Ti1−yAly)N層、C層は(Ti1−α−γAlαMγ)N層(但し、Mは、Co及び/又はNi)、D層は(Ti1−β−γAlβMγ)N層(但し、Mは、Co及び/又はNi)であり、好ましくは、硬質被覆層表面近傍の上部層の結晶粒の平均粒径DAB(nm)と工具基体表面近傍の下部層の結晶粒の平均粒径DCD(nm)は、4×DCD<DABの関係を満足する表面被覆切削工具。【選択図】図1

Description

本発明は、硬質被覆層がすぐれた耐剥離性を有する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関する。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサート、被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、またインサートを着脱自在に取り付けてソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
従来、被覆工具としては、例えば、WC基超硬合金、TiCN基サーメット等を工具基体とし、これに硬質被覆層を形成した被覆工具が知られており、切削性能の改善を目的として種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、母材の表面に、層厚0.04〜0.2μmのTiN層(A層)とAlN層(B層)を交互に10層以上積層して全体の層厚が0.5〜8μmである被覆層を設けた切削工具用表面被覆超硬部材が提案されている。
そして、この被覆層によれば、TiN(A層)が被覆層の硬度を高めながら母材との密着性を改善し、一方AlN(B層)が被覆層の耐欠損性を向上させ且つTiNの結晶粒を微細なものにするなど、各TiN層(A層)とAlN層(B層)が相乗的に作用することによって、全体として優れた耐摩耗性、耐溶着性及び耐欠損性を兼ね備えた被覆工具が得られるとされている。
また、特許文献2には、切削工具の硬質被覆層に適した超薄膜積層体として、Ti、AlおよびNによって構成されるTiAl1−xNおよびTiAl1−yN(0≦x<0.5、0.5<y≦1)で表される2種類の化合物からなるA層、B層を交互に繰り返し積層し、その繰り返しの積層周期λを0.5nm〜20nmとし、全体の膜厚を0.5μm〜10μmとしたA層とB層の交互積層構造からなる超薄膜積層体が提案されている。
そして、この超薄膜積層体は、高硬度と耐酸化性とを同時に併せ持つため、基材強度を維持したままで優れた耐摩耗性を有し、特に高速切削や高硬度材料の切削用途において、切削寿命を大きく延長させることができるとされている。
特許第2861113号公報 特開平7−97679号公報
前記従来技術で提案されている積層構造からなる硬質被覆層を有する被覆工具は、鋼や鋳鉄の通常の切削条件ではすぐれた硬さ、耐熱性を備えるとともにすぐれた耐摩耗性を発揮するが、これを、切れ刃に断続的な高負荷が作用する断続切削加工に供した場合には、工具基体と硬質被覆層、あるいは、硬質被覆層の各層間での付着強度が低いために、剥離等の異常損傷が発生し易く、そのため、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができないという問題点があった。
そこで、切れ刃に断続的な高負荷が作用する断続切削加工条件下であっても、長期にわたって安定した耐摩耗性を発揮するような被覆工具が求められている。
本発明者らは、前記課題を解決すべく硬質被覆層の構造について鋭意検討したところ、次のような知見を得たのである。
前記従来技術に示されるように、工具基体表面に、成分系の異なる層あるいは同一成分系で組成の異なる層を交互に被覆し、交互積層構造の硬質被覆層を形成すると、切削加工時の切れ刃に作用する負荷によって、工具基体と硬質被覆層の界面、あるいは、交互積層を構成する薄層間でクラックが発生しても、積層界面方向へのクラック分散効果により、ある程度、剥離、チッピング、欠損等の異常損傷の発生を改善することができる。
しかし、断続切削加工のような断続的・衝撃的高負荷が切れ刃に作用する切削加工条件においては、上記交互積層構造のみでは、十分に満足できる耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性が発揮されるとはいえない。
本発明者らは、交互積層構造からなる硬質被覆層において、相対的にAl量の少ないA層と相対的にAl量の多いB層とのナノメートルオーダーの交互積層を構成することにより、B層内に発生する内部応力の緩和を図ることができるため、硬質被覆層全体としての硬度、耐摩耗性の低下を招くことなく、A層とB層間の密着性を高め、耐剥離性を向上させ得ることを見出した。
さらに、上記の作用に加えて、工具基体表面近傍に位置するA層及びB層については、各層の成分として、Co及びNiのうちの少なくとも一種を含有する層組成とすることにより、工具基体表面近傍に位置するA層及びB層における結晶粒の微細化を図り、A層及びB層の靱性を高めることができるため、硬質被覆層と工具基体間の密着性が向上し、耐剥離性が向上することを見出した。
したがって、上記の硬質被覆層を備える本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削加工条件下でも、耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性等の耐異常損傷性を格段に向上させ得ることを見出したのである。
本発明は、前記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1)WC超硬合金またはTiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、0.5〜10μmの平均層厚の硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、交互積層構造からなる上部層と交互積層構造からなる下部層を含み、
(b)前記交互積層構造からなる上部層は、一層平均層厚がそれぞれ0.5〜50nmのA層とB層が交互に積層され、
前記A層は、
組成式:(Ti1−xAl)N(但し、xは原子比で、0.50<x<0.75)を満足するTiとAlの窒化物層であり、
前記B層は、
組成式:(Ti1−yAl)N(但し、yは原子比で、0.50<y<0.95かつx<y)を満足するTiとAlの窒化物層であり、
(c)前記交互積層構造からなる下部層は、一層平均層厚がそれぞれ0.5〜50nmのC層とD層が交互に積層され、下部層の合計平均層厚は200〜350nmであり、
前記C層は、
組成式:(Ti1−α−γAlαγ)N(但し、Mは、CoまたはNiのいずれか一種または二種であって、α、γは原子比で、0.50<α<0.75、0.005≦γ≦0.10)を満足するTiとAlとMの窒化物層であり、
前記D層は、
組成式:(Ti1−β−γAlβγ)N(但し、Mは、CoまたはNiのいずれか一種または二種であって、β、γは原子比で、0.50<β<0.95、0.005≦γ≦0.10かつα<β)を満足するTiとAlとMの窒化物層であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記硬質被覆層には、六方晶構造のAlN相が5面積%以下存在することを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記上部層の表面から上部層の内部へ200nmまでの深さ領域において測定したTiとAlの窒化物結晶粒の平均粒径(nm)をDABとし、また、工具基体表面と下部層との界面から下部層の内部へ200nmまでの深さ領域において測定したTiとAlとMの窒化物結晶粒の平均粒径(nm)をDCDとした場合、4×DCD<DABの関係を満足することを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
ここで、本発明の被覆工具について、より詳しく説明する。
図1の模式図に示すように、本発明被覆工具は、工具基体表面に、上部層と下部層とを含む硬質被覆層が被覆形成されており、該上部層と下部層は、いずれも、ナノメートルオーダーの層厚の交互積層構造からなる。
前記上部層は、A層とB層が交互にナノ積層された層構造を有し、また、下部層は、C層とD層が交互にナノ積層された層構造を有する。
硬質被覆層の層厚は、長期にわたる耐摩耗性の維持・確保、また、耐異常損傷性の低減という観点から、0.5〜10μmの平均層厚とすることが望ましい。
また、本発明の硬質被覆層は、前記上部層と下部層ばかりでなく、硬質被覆層の最表面層として、耐摩耗性や密着力に優れる他の窒化物層もしくは炭窒化物層をさらに形成することを妨げるものではない。好ましい最表面層としては、例えばTiN層、Ti(C,N)層、TiSiN層、TiSi(C,N)層、AlTi(C,N)層、AlCrN層、AlCr(C,N)層などを挙げることができる。
上部層:
上部層は、相対的にAl含有割合が少ないA層と、相対的にAl含有割合が多いB層の交互ナノ積層からなる。
より具体的にいうと、A層は、組成式:(Ti1−xAl)N(但し、xは原子比で、0.50<x<0.75)を満足する0.5〜50nmの一層平均層厚を有するTiとAlの窒化物(以下、「低Al−TiAlN」という場合がある)層からなる。
また、B層は、組成式:(Ti1−yAl)N(但し、yは原子比で、0.50<x<0.95)を満足する0.5〜50nmの一層平均層厚を有するTiとAlの窒化物(以下、「高Al−TiAlN」という場合がある)層からなる。
ここで、A層におけるAlの含有割合xと、B層におけるAlの含有割合yは、x<yの関係を満足することが必要である。
A層におけるAlの含有割合xおよびB層におけるAlの含有割合yを、それぞれ0.50より大きくしているのは、xあるいはyが0.50以下になるとA層およびB層ともに硬さが十分でなくなるため、ステンレス鋼、鋳鉄等の高速切削、高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が低下傾向を示すためである。
一方、B層のAlの含有割合yが0.95を超えると、硬さを確保する上で重要なNaCl型の面心立方構造(以下、単に、「面心立方構造」という)を維持するのが難しく、硬さに劣る六方晶構造のAlN結晶粒が生成するようになるため、硬さが低下し、耐摩耗性が低下することから、B層のAlの含有割合xは、0.50<x<0.95と定めた。
また、A層は、B層に比して、相対的にAlの含有割合xを0.75未満と少なくし、さらに、x<yとしているが、これは、A層で、B層に比して相対的にTiの含有割合を高めることによって靱性を高めるためであるが、このようなA層と、Ti含有割合が少なく硬度の高いB層を交互にナノ積層することによって、A層とB層との界面での応力緩和が図られ、切削加工時の高熱・高負荷によって上部層に熱亀裂が発生した場合でも、この熱亀裂の工具基体方向への伝播・進展が抑制されるため、硬質被覆層全体としての耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性が高められる。
なお、前記A層及びB層、さらに、後記するC層およびD層は、必ずしも面心立方構造の結晶粒のみによって構成されているわけではなく、六方晶構造のAlN相が微量生成する場合がある。
これは、硬質被覆層をX線回折した際に、六方晶構造のAlNに対応する回折ピークが検出されることからも明らかである。
しかし、六方晶構造のAlN相の存在割合が5面積%を超えない限り、硬質被覆層全体としての硬度の低下、耐摩耗性の低下に大きな影響を与えることはないから、硬質被覆層中に、六方晶構造のAlN相が5面積%以下存在することは許容される。
本発明では、上部層のナノ積層を構成するA層、B層、また、後記する下部層のナノ積層を構成するC層、D層の一層平均層厚を0.5〜50nmとしているが、これは、それぞれの層の一層平均層厚が0.5nm未満であると、格子不整合によるひずみが増大し、自壊し易くなり、一方、一層平均層厚が50nmを超えると、クラックの分散効果、進展抑制効果が十分に得られなくなるという理由による。
なお、本発明におけるA層、B層、また、後記するC層、D層では、金属成分と非金属成分の比(即ち、(Ti+Al):N、あるいは、(Ti+Al+Ni+Co):N)を表現上1:1で記載しているが、上記の比は、化学量論比である1:1には限定されず、例えば、1:0.5〜1:1.2の範囲内であれば、1:1の場合と同一の結晶構造が維持され、同様な効果を得ることができる。
下部層:
下部層は、相対的にAl含有割合が少ない前記A層のような低Al−TiAlN層において、層構成成分としてさらにCo及びNiの一種または二種が含有されたC層と、相対的にAl含有割合が多い前記B層のような高Al−TiAlN層において、層構成成分としてさらにCo及びNiの一種または二種が含有されたD層の交互ナノ積層からなる。
より具体的にいうと、C層は、組成式:(Ti1−α−γAlαγ)N(但し、Mは、CoまたはNiのいずれか一種または二種であって、α、γは原子比で、0.50<α<0.75、0.005<γ<0.10)を満足するTiとAlとMの窒化物(以下、「低Al−TiAlCoNiN」という場合がある)層からなる。
また、D層は、組成式:(Ti1−β−γAlβγ)N(但し、Mは、CoまたはNiのいずれか一種または二種であって、β、γは原子比で、0.50<β<0.95、0.005≦γ≦0.10)を満足するTiとAlとMの窒化物(以下、「高Al−TiAlCoNiN」という場合がある)層からなる。
さらに、C層におけるAlの含有割合αと、D層におけるAlの含有割合βは、α<βの関係を満足することが必要である。
前記C層におけるAlの含有割合αおよび前記D層におけるAlの含有割合βを、それぞれ
0.50より大きくしているのは、前記A層、B層の場合と同様に、αあるいはβが0.50以下になるとC層およびD層共に硬さが十分でなくなるため、ステンレス鋼、鋳鉄等の高速切削、高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が低下傾向を示すためである。
また、D層のAlの含有割合βを0.50<β<0.95と定めた理由は、前記B層の場合と同様、D層の硬さの低下を防止し、耐摩耗性を維持するためである。
C層は、D層に比して、相対的にAlの含有割合xを0.75未満と少なくし、Tiの含有割合を高めることによって靱性を高めた層であるが、前記A層の場合と同様に、Ti含有割合が少なく硬度の高いD層を交互にナノ積層することによって、C層とD層との界面での応力緩和を図るとともに、切削加工時の高熱・高負荷によって下部層内に熱亀裂が発生した場合でも、この熱亀裂の工具基体方向への伝播・進展を抑制し、硬質被覆層全体としての耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性向上させるためである。
本発明のC層、D層は、層構成成分MとしてCo及びNiの一種または二種を含有している点で、前記A層、B層とはその成分系が異なっている。
本発明のC層、D層において、層構成成分MとしてCo、Niを含有させる理由の一つは、本発明の被覆工具の工具基体であるWC基超硬合金あるいはTiCN基サーメットにおいては、そのバインダー成分としてCo及び/又はNiを含有していることによる。
つまり、工具基体表面近傍のC層、D層が、工具基体のバインダー成分と同じ成分を含有していることによって、工具基体表面と下部層との間における密着性を向上させることができる。
さらに、工具基体表面近傍のC層、D層がCo、Niを含有することによって、工具基体表面から硬質被覆層内部へ200nmまでの深さ領域に存在するC層、D層の結晶粒の大きさを微細化することができ、その結果、C層、D層の靱性を向上させることができる。
具体的にいえば、工具基体表面と下部層との界面から下部層内部へ200nmまでの深さ領域に存在するC層、D層を構成する結晶粒の平均粒径をDCDとし、一方、上部層表面から上部層内部へ200nmまでの深さ領域に存在するA層、B層を構成する結晶粒の平均粒径をDABとした時、4×DCD<DABの関係を満足するようにC層、D層の結晶粒が微細化されている場合に、C層、D層の靱性向上が図られる。
より具体的には、DABは20〜200nmであって、DCDは、4〜50nmであり、かつ、4×DCD<DABを満足することが望ましい。
なお、4×DCD≧DABとなった場合には、C層、D層を構成する結晶粒の粗大化により、工具基体との密着性低下、C層、D層の靱性低下により、剥離、チッピング、欠損等の異常損傷が発生しやすくなる。
そして、前記の工具基体表面と硬質被覆層との界面での密着性向上効果およびC層、D層の靱性向上効果が相俟って、本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削条件に供した場合でも、すぐれた耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性を発揮する。
ただ、M成分としてC層、D層に含有されるNi、Coの含有割合γが0.005未満ではM成分添加による効果を期待することはできず、一方、γが0.10を超えると、被膜硬度が維持できなくなり、容易に塑性変形を起こし、膜破壊を起こすことから、Ni、Coの含有割合γは、0.005≦γ≦0.10とする。
なお、C層、D層について、その一層平均層厚は0.5〜50nmとするが、これは、A層、B層について述べたと同様な理由による。
また、C層、D層からなる下部層膜厚が200nmより小さい場合、密着性向上効果が不十分であり、一方、350nmよりも大きい場合、膜内に塑性変形が生じて、膜破壊が起こることから、下部層の膜厚を200〜350nmとする。
本発明の上部層を構成するA層、B層、また、下部層を構成するC層、D層の各層の組成、一層平均層厚及び平均粒径については、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた断面測定により、測定することができる。
また、A層、B層、C層、D層がそれぞれ明確な層を形成してナノ積層を構成していることはXRDやTEMの電子線回折図形から確認できる。
六方晶構造のAlN相の同定法及び含有割合についてはSEM、後方散乱電子回折(Electron BackScattering Diffraction:EBSD)及びTEMにより測定することが出来る。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層として、A層とB層の交互積層構造からなる上部層と、C層とD層の交互積層構造からなる下部層を含み、A層は、低Al−TiAlN層であり、B層は、高Al−TiAlN層であるから、A層とB層のナノ積層で上部層を構成することにより、熱亀裂の伝播・進展が抑制されるため、硬質被覆層全体としての耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性が高められる。
また、C層は、Co、Niを含有する低Al−TiAlCoNiN層であり、D層は、Co、Niを含有する高Al−TiAlCoNiN層であるから、前記熱亀裂の伝播・進展抑制効果に加え、工具基体と硬質被覆層との界面における密着性を高め、剥離、チッピング、欠損等の耐異常損傷性を向上させる。
さらに、工具基体表面と下部層の界面から下部層の内部200nmまでの深さ領域におけるC層、D層の結晶粒の微細化により、C層、D層の靱性を高めることができ、より一段と耐異常損傷性を向上させることができる。
よって、本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削加工条件下でも、すぐれた耐剥離性をそなえるとともに、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を示し、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮する。
本発明被覆工具の硬質被覆層の断面概略模式図を示す。 被覆工具の硬質被覆層を蒸着形成するためのアークイオンプレーティング装置の概略図であり(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
工具基体の作製::
原料粉末として、いずれも0.5〜5μmの平均粒径を有する、Co粉末、VC粉末、Cr粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を、表7に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形し、これらの圧粉成形体を焼結し、所定寸法となるように加工して、ISO規格SEEN1203AFTN1のインサート形状をもったWC基超硬合金工具基体A1〜A3を製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、MoC粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末及びNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2で示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成型し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体B1、B2を製造した。
硬質被覆層の成膜:
前述の工程によって作製した工具基体A1〜A3、B1〜B2に対して、図2に示すAIP装置(アークイオンプレーティング装置)を用いて、硬質被覆層を形成した。
AIP装置には、図2に示すように、A層形成用低Al−TiAl合金ターゲット(カソード電極(蒸発源))、B層形成用高Al−TiAl合金ターゲット(カソード電極(蒸発源))、C層形成用低Al−TiAlCoNi合金ターゲット(カソード電極(蒸発源))、D層形成用高Al−TiAlCoNi合金ターゲット(カソード電極(蒸発源))を配備する。
なお、前記各ターゲット(カソード電極(蒸発源))としては、目標とする各層の組成に応じたターゲット(カソード電極(蒸発源))を配備する。
(a)工具基体1〜3を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、0.5〜2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−400〜−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによって5〜30分間ボンバード処理する。
(c)次いで、まず、C層とD層のナノ積層からなる下部層を次のようにして形成した。
まず、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示す2〜10Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表3に示す装置内温度に維持し、また、同じく表3に示す回転テーブルの回転数に制御し、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表3に示す−25〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、C層形成用カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表3に示す60〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させると同時に、D層形成用カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に同じく表3に示す60〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させ、工具基体A1〜A3、B1〜B2の表面に、それぞれ表5に示される目標組成、一層目標平均層厚のC層とD層のナノ積層からなる下部層を蒸着形成した。
(d)次いで、前記下部層の上に、A層とB層のナノ積層からなる上部層を形成した。
まず、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示す2〜10Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表3に示す装置内温度に維持し、また、同じく表3に示す回転テーブルの回転数に制御し、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表3に示す−25〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、A層形成用カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表3に示す60〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させると同時に、B層形成用カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に同じく表3に示す60〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させ、工具基体A1〜A3、B1〜B2の表面に、それぞれ表5に示される目標組成、一層目標平均層厚のA層とB層のナノ積層からなる上部層を蒸着形成した。
前記工程(a)〜(d)により、工具基体表面に、硬質被覆層として、C層とD層のナノ積層からなる下部層およびA層とB層のナノ積層からなる上部層を形成することにより、表5に示す本発明被覆工具(「本発明工具」という)1〜10を作製した。
比較のため、工具基体A1〜A3、B1〜B2に対して、表4に示す条件で、同じく表4に示す各層を蒸着形成することで、A層とB層の交互積層構造からなる比較例被覆工具、C層とD層の交互積層構造からなる比較例被覆工等、表6に示す種々の比較例被覆工具(「比較例工具」という)1〜10を作製した。
なお、比較例工具1〜10については、硬質被覆層として、本発明と同様なA層〜D層が被覆されているわけではないが、対比をわかりやすくするために、比較例工具1〜10で被覆されている硬質被覆層についても、A層、B層・・等と称した。
また、比較例工具1、8、9については、C層、D層が存在せず、比較例工具6についてもB層、D層は存在しない。
上記で作製した本発明工具1〜10および比較例工具1〜10について、硬質被覆層の縦断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた断面測定により、A層、B層、C層、D層の組成、一層層厚を複数箇所で測定し、これを平均することにより、平均組成、一層平均層厚を算出した。
また、工具基体表面と下部層の界面から下部層の内部へ200nmまでの深さ領域に存在するC層、D層を構成する結晶粒の平均粒径DCD、また、上部層表面から上部層の内部へ200nmまでの深さ領域に存在するA層、B層を構成する結晶粒の平均粒径DABについても、SEMを用いて、幅1μm、高さ200nmの範囲で観察した際に各結晶粒の最も長い長さを長軸とし、前記長軸と直行する方向の最大長さを結晶粒径として、観察範囲で測定した結晶粒径の平均値を平均粒径として求めた。
測定したDCD、DABから、4×DCD<DABの関係を満足するか否か判定した。
さらに、SEM、TEMにより、硬質被覆層中に六方晶構造のAlNが存在するか否かを確認するとともに、六方晶構造のAlNの存在割合を測定した。
表5、表6に、上記で測定した値等を示す。
次いで、本発明工具1〜6および比較例工具1〜6について、SE445R0506Eのカッタを用いて、以下の切削条件A及び切削条件Bで単刃の高速正面フライス切削加工試験を実施した。
≪切削条件A≫
被削材:JIS・SCM440の幅60mm×長さ400mmのブロック材
切削速度:300 m/min.、
切り込み:2.0mm、
送り:0.25 mm/tooth、
の高速連続切削条件(通常の切削速度は、150〜250 m/min.)で切削試験を行い、切削長5.0mまで切削し、逃げ面摩耗幅を測定し、刃先の損耗状態を観察した。
表7にその結果を示す。
≪切削条件B≫
被削材:JIS・FCD600の幅60mm×長さ250mmのブロック材
切削速度:350 m/min.、
切り込み:1.8 mm、
送り:0.35 mm/刃、
の高速断続切削条件(通常の切削速度は、150〜250m/min.)で、切削長2.0mまで切削し、逃げ面摩耗幅を測定し、刃先の損耗状態を観察した。
表8にその結果を示す。

また、本発明工具7〜10および比較例工具7〜10について、SE445R0506Eのカッタを用いて、以下の切削条件Cで単刃の正面フライス切削加工試験を実施した。
≪切削条件C≫
被削材:JIS・SUS304の幅60mm×長さ200mmのブロック材
切削速度:150 m/min.、
切り込み:2.5mm、
送り:0.30 mm/tooth、
の連続切削条件で切削試験を行い、切削長2.0mまで切削し、逃げ面摩耗幅を測定し、刃先の損耗状態を観察した。
表9にその結果を示す。
表7、表8の結果によれば、本発明工具1〜6では、剥離発生がなく、しかも、表7の逃げ面摩耗幅の平均は約0.16mm、表8の逃げ面摩耗幅の平均は約0.20mmであるのに対して、比較例工具1〜6は逃げ面摩耗が進行し、また、剥離、チッピング、欠損等の異常損傷の発生により短時間で寿命となった。
また、表9の結果によれば、本発明工具7〜10では、剥離発生がないばかりか、逃げ面摩耗幅の平均は約0.14mmであるのに対して、比較例工具7〜10は逃げ面摩耗が進行し、また、剥離、欠損等の異常損傷の発生により短時間で寿命となった。
この結果から、本発明工具は、比較例工具に比して、耐剥離性ばかりか、耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性のいずれにも優れていることが分かる。
本発明の表面被覆切削工具は、各種被削材の通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、高熱発生を伴い、しかも、切刃に高負荷が作用するステンレス鋼、鋳鉄などの高速連続切削加工、高速断続切削加工においても、すぐれた耐剥離性、耐チッピング性、耐欠損性および耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (3)

  1. WC超硬合金またはTiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、0.5〜10μmの平均層厚の硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
    (a)前記硬質被覆層は、交互積層構造からなる上部層と交互積層構造からなる下部層を含み、
    (b)前記交互積層構造からなる上部層は、一層平均層厚がそれぞれ0.5〜50nmのA層とB層が交互に積層され、
    前記A層は、
    組成式:(Ti1−xAl)N(但し、xは原子比で、0.50<x<0.75)を満足するTiとAlの窒化物層であり、
    前記B層は、
    組成式:(Ti1−yAl)N(但し、yは原子比で、0.50<y<0.95かつx<y)を満足するTiとAlの窒化物層であり、
    (c)前記交互積層構造からなる下部層は、一層平均層厚がそれぞれ0.5〜50nmのC層とD層が交互に積層され、下部層の合計平均層厚は200〜350nmであり、
    前記C層は、
    組成式:(Ti1−α−γAlαγ)N(但し、Mは、CoまたはNiのいずれか一種または二種であって、α、γは原子比で、0.50<α<0.75、0.005≦γ≦0.10)を満足するTiとAlとMの窒化物層であり、
    前記D層は、
    組成式:(Ti1−β−γAlβγ)N(但し、Mは、CoまたはNiのいずれか一種または二種であって、β、γは原子比で、0.50<β<0.95、0.005≦γ≦0.10かつα<β)を満足するTiとAlとMの窒化物層であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記硬質被覆層には、六方晶構造のAlN相が5面積%以下存在することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記上部層の表面から上部層の内部へ200nmまでの深さ領域において測定したTiとAlの窒化物結晶粒の平均粒径(nm)をDABとし、また、工具基体表面と下部層との界面から下部層の内部へ200nmまでの深さ領域において測定したTiとAlとMの窒化物結晶粒の平均粒径(nm)をDCDとした場合、4×DCD<DABの関係を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。




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