JP2019089076A - 抵抗スポット溶接方法及び溶接継手 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐遅れ破壊特性を有する溶接継手を形成することができる抵抗スポット溶接方法を提供する。【解決手段】少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の鋼板を抵抗スポット溶接する方法において、A:加圧力を付与しながら通電して溶融部を形成する工程、B:溶融金属の形成後加圧力を付与したまま通電し複数枚の鋼板を冷却する工程、C:溶接電極に通電しながら加圧力を一定時間付与し、その後直ちに加圧力を下げ、加圧力を一定時間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返す工程、D:加圧力を解放して溶接電極を移動し、溶接電極に通電しながら加圧力を一定時間付与し、その後直ちに加圧力を下げ、加圧力を一定時間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返す工程、E:通電を終了し、加圧力を解放する工程を備える抵抗スポット溶接方法。【選択図】図2

Description

本発明は、高強度鋼板の抵抗スポット溶接方法及び溶接継手に関し、特に、自動車用部品や車体等における抵抗スポット溶接方法及び溶接継手に関するものである。
自動車の分野では、環境保全のため、車体の軽量化による燃費の向上とともに、衝突安全性の向上が求められている。そのため、高強度鋼板を使用して薄肉化するとともに、車体構造を最適化して、車体の軽量化と衝突安全性の向上を図るために、これまで種々の取組みがなされている。
自動車等の部品の製造や車体の組立における溶接では、抵抗スポット溶接(以下、「スポット溶接」ということもある)が主に使用されている。スポット溶接により形成された溶接継手の品質指標としては、引張強さと疲労強さがある。溶接継手の引張強さには、せん断方向に引張荷重を負荷して測定する引張せん断強さ(TSS)と、剥離方向に引張荷重を負荷して測定する十字引張強さ(CTS)がある。また、溶接継手の疲労強さには、せん断方向に引張荷重を負荷して測定する引張せん断疲労強度と、剥離方向に引張荷重を負荷して測定する十字引張疲労強度がある。
一方、高強度鋼板をスポット溶接した場合において、遅れ破壊(水素脆化)の問題がある。この遅れ破壊は、鋼板の硬さ、残留応力、そして鋼板中の水素量の3因子に主に支配される。
高強度鋼板は、その強度を達成するために、C以外にもSi、Mn等の焼き入れ性の高い元素を多く含有しており、高強度鋼板にスポット溶接して形成された溶接継手の溶接部は、溶接の加熱冷却過程を経て焼きが入り、マルテンサイト組織となり、硬くなっている。また、溶接部の端部では、局部的に生じる変態膨張と収縮により、溶接継手の引張残留応力が大きくなっている。
このため、高強度鋼板にスポット溶接して形成された溶接継手の溶接部は、硬度が高く、引張残留応力が大きくなっているので、水素侵入が起これば、遅れ破壊を引き起こしやすい部位である。このような遅れ破壊が発生すると、前述の溶接継手の品質指標である引張強さと疲労強さにおいて、十分な強さが得られず、また、その部分(割れ)に水分が浸入すると、腐食が発生して強度がさらに低下するという問題が生じる。これらの問題が、高強度鋼板の適用による車体の軽量化(薄肉化)を阻害する一因である。
このような状況のもと、スポット溶接の通電が終了して一定時間が経過した後にテンパー通電を行ったり、高周波で加熱したりして、溶接部を焼戻して、溶接部の硬さを低下させる技術が知られている。しかし、この技術では、溶接工程が長時間となり、生産性が低下することや、焼戻しによる溶接部の軟化程度が安定しない場合があった。
それに対して、特許文献1には、スポット溶接のナゲット形成時の溶接電極による初期加圧力よりも、通電時間終了後の保持時間中の溶接電極による後期加圧力を上昇させて、溶接部周辺に圧縮残留応力を導入する技術が開示されている。
特開2010−110816号公報
特許文献1に開示の技術は、溶接部の引張残留応力を低減できるため、遅れ破壊抑制に対して、有効な技術であるが、更に、遅れ破壊の抑制を向上させることが望まれていた。
本発明では、このような実情に鑑み、高い耐遅れ破壊特性を有する溶接継手を安定して形成することができる、抵抗スポット溶接方法及び溶接継手を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した。本発明者らは、スポット溶接継手の耐遅れ破壊特性を向上させるには、溶接部周辺の引張残留応力を低減させることが極めて重要であると考えた。そこで、溶接部周辺の引張残留応力に影響を与える、ナゲット形成後の溶接電極による溶接部の加圧条件について検討した。
その結果、ナゲット形成後に通電しながら、溶接部への加圧力の上昇と下降を繰り返す処理(以下、「ピーニング処理」という)を行うことにより、ナゲット近傍の温度を高温に保ちつつ衝撃を与え、ナゲット近傍の塑性変形を促進することができ、その結果、ナゲット端部の引張残留応力を低減、あるいは圧縮応力へと変更でき、溶接継手の耐遅れ破壊特性を向上できることを見出した。
さらに、溶接部への加圧力の上昇と下降は、ナゲットの周囲で位置を変えながら行うことで、より溶接継手の耐遅れ破壊特性の向上に有効であることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[1]少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の鋼板を抵抗スポット溶接する方法において、上記複数枚の鋼板は、少なくとも引張強さが980MPa以上の鋼板を1枚以上含み、上記方法は、
A:上記複数枚の鋼板に溶接電極により加圧力P1(kN)を付与しながら、通電電流I1(kA)で通電して溶融部を形成する工程、
B:上記溶融金属の形成後、上記加圧力P1を付与したまま、冷却時間tc(s)の間、通電電流Ic(kA)として上記複数枚の鋼板を冷却する工程、
C:上記溶接電極に通電電流I2(kA)で通電しながら、上記複数枚の鋼板に上記溶接電極により加圧力P2(kN)を加圧時間tf(s)の間付与し、その後直ちに加圧力P3(kN)を加圧時間ti(s)の間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返す工程、
D:加圧力を解放して上記溶接電極を移動し、上記複数枚の鋼板に上記溶接電極により加圧力P2(kN)を加圧時間tf(s)の間付与し、その後直ちに加圧力P3(kN)を加圧時間ti(s)の間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返す工程、
E:通電を終了し、加圧力を解放する工程
を備え、上記工程は、A,B,C,D,Eの順に行い、C工程は、0回以上、D工程は、1回以上行い、上記Ic、I1、I2、P1、P2、P3、tf、tiは下記式(1)〜(6)を満たすことを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
0≦Ic<I1 ・・・(1)
0.3≦I2/I1<1.0 ・・・(2)
1.2≦P2/P1 ・・・(3)
tf≦0.2 ・・・(4)
ti≦0.2 ・・・(5)
P3<P2 ・・・(6)
[2]少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の鋼板を含む溶接継手であって、上記重ね合わされた鋼板の外側に凹部を有し、上記重ね合わされた鋼板の内部にナゲットを有し凹部の半径ri、ナゲットの半径rnが1.2≦ri/rn<3.0を満たすことを特徴とする溶接継手。ここで、凹部の半径は、ナゲットの中心から、最も遠い凹部の端までの距離である。
[3]前記凹部の鋼板表面からの平均深さが0.03mm以上であることを特徴とする前記[2]の溶接継手。
[4]前記凹部の鋼板表面からの平均深さが、凹部が設けられた鋼板の板厚の15%以下であることを特徴とする前記[2]又は[3]の溶接継手。
本発明によれば、ナゲット形成後に、溶接部の周囲にピーニング処理を施すことによって、溶接継手の耐水素脆化特性を向上させることができる。
本発明の溶接法の概略を示す図である。 溶接電極の加圧力及び通電電流のパターンの例を示す図である。 ピーニング処理時の溶接電極の移動パターンの例を示す図である。 ナゲットとピーニング処理による凹部を示す図である。
本発明の抵抗スポット溶接方法(以下、「本発明の溶接法」という)は、少なくとも引張強さが980MPa以上の鋼板を1枚以上含む複数枚の鋼板を抵抗スポット溶接する方法であり、ナゲット形成後に、溶接電極により溶接部の周囲で加圧力の上昇下降を繰り返し行うピーニング処理を施す方法である。
次に、本発明の溶接法の流れについて説明するとともに、本発明の溶接法の基本構成について説明する。
図1に、本発明の溶接法の概略を示す。図1は、被溶接部材を板厚方向に切断した断面図を示している。
まず、本発明の製法では、被溶接部材として、複数枚の鋼板(以下、「板組」ともいう)を準備する。該板組には、少なくとも引張強さが980MPa以上の鋼板(以下、「高強度鋼板」ともいう)を1枚以上含むものとする。そして、以下のA〜Fの工程を順に行い、被溶接部材を抵抗スポット溶接する。
[A工程]
図1に示すように、2枚の鋼板1を重ね合わせ、両側から2枚の鋼板の溶接箇所を挟み込むように、銅合金等からなる溶接電極2により加圧しながら、電流を通電し、溶融金属を形成する。
[B工程]
溶融金属を形成した後、加圧力を付与したまま、通電電流を下げ、水冷された溶接電極2による抜熱や鋼板自体への熱伝導によって、2枚の鋼板1の間に断面楕円形状の溶接金属(ナゲット)3を形成する。また、鋼板表面から観察すると、くぼみ(凹部)が形成される。インデンテーションともよばれる(図3の30)。
板組が高強度鋼板を1枚以上含む場合、スポット溶接して得られた溶接継手の溶接部、ナゲット3及びその周辺の熱影響部は、冷却過程で焼きが入り、マルテンサイト組織となる。また、冷却過程で熱収縮が起き、特にナゲット3の端部は引張応力が残留した状態になる。
[C工程]
スポット溶接によるナゲット形成後に、電流を通電しながら、複数枚の鋼板に溶接電極により加圧力を一定時間付与し、その後直ちに、加圧力を下げ、加圧力を一定時間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返すピーニング処理を施す。
なお、C工程は、溶融部形成後、溶接電極を移動させずに同一箇所でピーニング処理を施すものであるが、必須の工程ではなく、実施せずにD工程へ移ってもよい。
[D工程]
加圧力を解放して、溶接電極を移動する。加圧力が解放される間は通電はされない。溶接電極を移動する際には、ピーニングによって形成される凹部がB工程で形成されたインデンテーション30と重なる部分が存在するようにする。
その後、溶接電極により加圧力を一定時間付与し、その後直ちに、加圧力を下げ、加圧力を一定時間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返すピーニング処理を施す。これにより、インデンテーション30とは別に、新たにくぼみ(凹部)が形成される(図3の31など)。
D工程は1回のみ行ってもよいが、位置を変えて2回以上行ってもよい。D工程を位置を変えて行うと、さらに新たなくぼみ(凹部)が形成される(図3の31など)。
[E工程]
D工程によりピーニング処理を1回以上施した後、通電を終了し、加圧力を解放する。
スポット溶接及びピーニング処理の際の溶接電極の加圧力及び通電電流のパターンについて、図2を参照して詳細に説明する。図2は、A工程、B工程を経た後、C工程で加圧力の上昇、下降を3回繰り返し、D工程に移り、時刻Tmで溶接電極を移動し、移動後加圧力の上昇、下降を3回繰り返し、通電を終了し、加圧力を解放する例である。図2は、加圧力、通電電流の一例であり、加圧、通電パターンはこれに限定されるものではない。
まず、ナゲットを形成するスポット溶接の際の加圧力及び通電電流のパターンについて説明する。
[A工程]
鋼板に対して溶接電極により加圧力がP1(kN)となるように加圧する。加圧力がP1(kN)に達した後に、電流値を通電電流I1(kA)とし、この状態を通電時間t1(s)の間保持して、溶融金属を形成する。
[B工程]
通電時間t1(s)を経過した後、加圧力P1(kN)を付与したまま、冷却時間tc(s)の間、通電電流をIc(kA)として、溶融金属を冷却、凝固して溶接金属(ナゲット)を形成する。このとき、通電電流Ic(kA)は、0≦Ic<I1を満足するように設定する。
次に、溶融部でのピーニング処理の際の加圧力及び通電電流のパターンについて説明する。
[C工程]
冷却時間tc(s)を経過した後、電流値を通電電流I2(kA)とし、加圧力をP2(kN)に上昇する。通電電流I2は、0.3≦I2/I1<1.0を満足するように、加圧力P2は、1.2≦P2/P1を満足するように設定する。ここで、通電電流のIcからI2への変更、加圧力のP1からP2への変更は同時に行ってもよいし、先に通電電流をI2に変化させて鋼板を加熱し、その後加圧力をP2にするというように、変更のタイミングが多少ずれてもよい。
加圧時間tf(s)の間加圧力を付与した後、直ちに加圧力をP3(kN)に下降し、加圧時間ti(s)の間付与するピーニング処理を施す。加圧力のP2への上昇及びP3への下降は、2回以上繰り返す。加圧時間tf,tiは0<tf≦0.2、0<ti≦0.2を満たすように、加圧力P2,P3は、P3<P2を満たすように設定する。
なお、C工程は必須の工程ではなく、実施せずにD工程へ移ってもよい。
次に、溶融部周辺でのピーニング処理の際の加圧力及び通電電流のパターンについて説明する。
[D工程]
C工程のピーニング処理の終了後(C工程を行わない場合はB工程の冷却の終了後)、溶接電極の加圧力を解放し、溶接電極を移動する。このとき、ピーニングによって形成される凹部がB工程で形成された凹部(インデンテーション)30の外側に離れて位置しないよう、電極位置を調整する。ピーニング工程で形成される凹部は、少なくとも一部が、B工程で形成された凹部(インデンテーション)30と重なるようにする。
溶接電極の移動後、溶接電極により加圧力P2(kN)をtf(s)の間付与し、その後直ちに、加圧力P3(kN)を加圧時間ti(s)の間付与する。C工程と同様に、加圧力のP2への上昇及びP3への下降は、2回以上繰り返し、加圧時間tf,ti、加圧力P2,P3は、0<tf≦0.2、0<ti≦0.2、P3<P2を満たすように設定する。
D工程は1回のみ行ってもよいが、位置を変えて2回以上行ってもよい。ピーニングを行う箇所は、ピーニングによって形成される凹みの位置がB工程で形成された凹部(インデンテーション)と一部が重なるようにすれば、特に限定されないが、B工程で形成された凹部(インデンテーション)30の端部で引張残留応力が高い箇所で優先的に行うのがよい。
溶接電極の移動のパターンは特に限定されるものではない。
図3に溶接電極の移動の一例を示す。図3は、D工程を6回行う場合の例であり、溶接電極を、インデンテーション30の周囲で、加圧位置(凹部31が形成される。)、加圧位置(凹部32が形成される。)、加圧位置(凹部33が形成される。)、加圧位置(凹部34が形成される。)、加圧位置(凹部35が形成される。)、加圧位置(凹部36が形成される。)と、順に移動させピーニング処理を行う。
ピーニング処理は、必ずしも図3のようにインデンテーション30を中心として対称の位置で行う必要はない。溶接部で引張応力が大きく負荷される箇所が予め分かっていれば、その箇所を中心に打撃すればよい。
応力負荷の個所が不明であれば、ナゲットの周囲を一周にわたり処理することが好ましい。この場合も、全周に渡って密にピーニング処理する必要は無く、処理した箇所が少しずつ、インデンテーション30と重なり部分があればよい。ピーニング処理で形成される凹部の半径の10%以上が、インデンテーション30に重なると好ましい。
このように、ナゲット形成後に、ピーニング処理を実施することで、溶接継手の耐遅れ破壊特性が向上し、さらには疲労強さも向上させることができる。この耐遅れ破壊特性向上の理由は明らかではないものの、溶接部をある一定の温度下で、ピーニング処理、即ち、加圧力の上昇下降の繰り返しを施すことで、例えば溶接後のプラテンによる加圧又は超音波打撃処理のように溶接部に塑性変形を加えて引張残留応力を低減できるものと考えられる。
本実施形態における抵抗スポット溶接方法は、ピーニング処理時に通電電流I2を流すため、溶接部は高温となって降伏強度が低減され、ピーニング時の塑性変形が容易となる。この際に加圧力の上昇下降を繰り返して電流密度を上下させることで、被溶接材への加圧力の増減を複数回繰り返している間であってもナゲット周辺の温度を、塑性変形を容易とする温度範囲内に保つことができる 。このため、引張残留応力の低減が促進されると考えられる。
さらに、ピーニング時に加圧力を増減させるため、電極と溶接部の接触面積が増減することとなる。接触面積当たりの荷重、即ち応力が電流密度すなわち温度が適正な範囲内の状態で局所で増減するため、塑性変形が一層進行すると思われる。加えて、溶接部の組織微細化や、脆化元素の凝固偏析部分断等が起こり、耐遅れ破壊特性が向上すると推測される。
[E工程]
以上のようにピーニング処理を施した後、通電を終了し、加圧力を解放する。
本発明は、以上のような基本構成を有するものであり、そのような本発明について、さらに、必要な要件や好ましい要件について順次説明する。
<複数枚の鋼板>
(鋼板の引張強さ)
スポット溶接する被溶接部材である鋼板は、少なくとも1枚が、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板とする。引張強度が980MPa未満の場合には、溶接部で発生する引張残留応力の値も低いため、遅れ破壊の問題が生じ難い。そのため、引張強度が980MPa以上の鋼板を1枚以上含む板組を本発明の溶接法の適用対象とする。また、高強度鋼板の引張強度の上限は、特に限定されるものでない。
板組は、全ての鋼板が引張強度980MPa以上のものである場合のみならず、少なくとも何れか1枚のみが上記引張強さを有する場合を含むものである。例えば、980MPa以上の引張強さを有する鋼板と、980MPa未満の引張強さを有する鋼板とを溶接する場合であってもよい。
(鋼板の鋼種、成分組成)
鋼板の鋼種及び成分組成は、特に限定されるものでない。鋼板の成分組成は、前述した高強度鋼板においては、引張強さ(980MPa以上)を確保できる成分組成を選択すればよい。また、鋼板の炭素当量Ceqは、特に限定されるものでなく、0.20質量%以上が例示される。ここでは、Ceq=C+Si/24+Mn/6とする。これは、WESのCeqを参考とした。上記元素名には、鋼板の組成を質量%で代入する。
(鋼板の板厚)
鋼板の板厚は、特に限定されるものでなく、0.5〜3.2mmの範囲とすることができる。板厚が0.5mm未満であっても、溶接部の遅れ破壊特性の向上の効果は得られるが、引張試験時における溶接部への応力負荷が低く、また、溶接部で発生する引張残留応力の値が低いため、遅れ破壊が生じ難い。また、板厚が3.2mm超であっても、溶接部の遅れ破壊特性の向上の効果は得られるが、部材の軽量化がし難くなることがある。
(鋼板の表面処理皮膜)
複数枚の鋼板は、少なくとも溶接箇所の両面又は片面に表面処理皮膜を形成した鋼板を1枚以上含んでいてもよい。表面処理皮膜は、めっき皮膜を含むものであり、更に、塗装皮膜等を含むものとすることができる。めっき皮膜としては、例えば、亜鉛めっき、アルミニウムめっき、亜鉛・ニッケルめっき、亜鉛・鉄めっき、亜鉛・アルミニウム・マグネシウム系めっき等であり、めっきの種類としては、溶融めっき、電気めっき等である。
(鋼板の形態)
鋼板の形態は、少なくとも溶接箇所が板状であればよく、全体が板状でなくてもよい。例えば、断面ハット形の特定の形状にプレス成型された部材のフランジ部等を含むものである。重ね合わせる鋼板の枚数は、2枚に限らず、3枚以上としてもよい。また、各鋼板の、鋼種、成分組成及び板厚は、全て同じとしても、相互に異なっていてもよい。また、別々の鋼板から構成されるものに限定されず、1枚の鋼板を管状などの所定の形状に成形して、端部を重ね合わせたものであってもよい。
<スポット溶接>
複数枚の鋼板に行うスポット溶接は、複数枚の鋼板の溶接箇所を挟み込むように、電極を押し付けつつ通電して、溶融金属を形成し、通電の終了後に水冷された電極による抜熱や鋼板自体への熱伝導によって、溶融金属を急速に冷却して凝固させ、鋼板の間に、断面楕円形状のナゲットを形成する。
このスポット溶接の条件は、特に限定されるものでなく、例えば、電極をドームラジアス型の先端直径6〜8mmのものとし、加圧力1.5〜6.0kN、通電時間0.1〜1.0s(5〜50サイクル、電源周波数50Hz)、通電電流4〜15kAとすることができる。ナゲット直径は、最も薄い鋼板の板厚をt(mm)とすると、3.0√t〜8.0√tとすることができる。ナゲット径の測定は、スポット溶接後の鋼板をインデンテーション30の中心をとおって、板面に垂直に鋼板を切断し、切断面を研磨し、(わかりやすいように化学エッチングして)拡大鏡で観察して行う。
スポット溶接する際の基本加圧及び通電パターンは、特に限定されるものでなく、上記の加圧力、通電時間、通電電流の範囲としたうえで、被溶接部材に応じて適宜最適条件に調整すればよい。基本加圧及び通電パターンは、必要なナゲット径が実現でき、チリが発生しない条件とすればよく、最適条件は鋼板強度や板厚等によって変わる。なお、通電の開始時の電流値は、直ちに通電電流とせず、電流値が通電電流になるまで、電流値を0(ゼロ)又は0超の低い電流から漸増(アップスロープ)させてもよい。
<冷却時間tc、冷却時間中の通電電流Ic>
スポット溶接における通電時間が経過後、溶接電極の加圧力を保持したまま、通電電流値を下げる。溶融金属の凝固が進行する程度の低い電流とし、溶接部を冷却する。この冷却時間tcは、特に限定されるものでなく、溶接金属(ナゲット)が形成されればよく、鋼板の板厚にも依存するものの、0.04〜0.4sが例示される。
冷却時間中の通電電流Icは、0≦Ic<I1を満たす必要がある。打撃処理時には、鋼板の温度が一定値以下(概ね800℃以下)となる必要がある。鋼板の温度が高すぎると、溶接部の引張残留応力の低減が困難になる。そこで、鋼板を溶融する本通電の後に、IcをI1未満に低下して鋼板を冷却することにより、溶融金属を凝固させ、一定値以上の降伏強度とする。これにより、その後の打撃処理によって溶接部の引張応力を低減、あるいは溶接部に圧縮残留応力を付与することが可能となる。IcはI1の0.2倍以下が好ましく、0(kA)が最も好ましい。
<ピーニング処理>
スポット溶接後に行うピーニング処理は、溶接電極に通電電流I2で通電しながら、加圧力を解放して溶接電極を移動し、その後直ちに、鋼板に溶接電極により加圧力P2を加圧時間tfの間付与する加圧力の解放、上昇を2回以上繰り返し行い、その後、加圧力を解放するとともに、通電を終了させるものである。
(通電電流I2)
ピーニング処理の間は、溶接電極に通電した状態とする。その際の通電電流I2は、上記(2)を満足するものとする。ピーニング処理での溶接部の温度が適切となり、溶接部の塑性変形が容易となり、溶接部の引張残留応力が低減する。
また、通電電流I2をスポット溶接の際の通電電流I1未満とすることで、ピーニング処理においてナゲットの拡大を抑制する。ナゲットを拡大させつつピーニング処理を実行すると、ナゲットの凝固が不安定となって、散りが生じたり、溶接部が窪んだり、エネルギーが無駄になったりすることがある。
加圧力を付与する際の鋼板の降伏強度を十分保つために、I2はI1の0.8倍以下とすることが好ましく、I1の0.7倍以下とすることがさらに好ましい。I2をこのような値とすることにより、加圧力を付与する際の溶接部の温度を確実に800℃以下とすることができる。溶接部の温度が800℃以上になると、その温度域では、鋼板の降伏強度が低くなる。残留応力の絶対値は降伏強度との相関が強いため、鋼板の降伏強度が低下することで、打撃時に導入できる圧縮応力が低下してしまう。その結果、その後の冷却過程における溶接部の熱収縮量が大きくなり、溶接部に高い引張応力が導入されるおそれがある。さらに、鋼板表層の塑性変形が容易となり、打撃処理によって生じる凹みが過大となり、継手強度が低下するおそれがある。複数のピーニング処理工程において、I2がすべて同じである必要はない。I2を全て同じにすると、作業効率上好ましい。
また、I2はI1の0.3以上とする。I2をこのような範囲とすることにより、ピーニング処理による引張残留応力低減効果を十分に得ることができる。
(溶接電極の移動時間)
溶接電極の移動時間の上限は、生産性の観点から極力短時間とするのが好ましいため、0.4sとすることが好ましい。下限は、装置能力、即ち加圧力制御の安定性を考慮し、0.02sとすることが好ましい。
(加圧力P2、P3、加圧時間tf、ti)
ピーニング処理の際の加圧力P2は、引張残留応力を低減させるために、スポット溶接時の加圧力P1の1.2倍以上とする。好ましくは、1.3倍以上である。上限は、特に限定されるものでないが、溶接部への過度の加圧を避けるために2.5倍以下が好ましい。P3はP2よりも小さい値とする。また、加圧時間tf、tiの上限は、溶接部の引張残留応力を低減させるため、0.2sとする。好ましくは0.1sである。下限は、0.02sが好ましい。
ピーニング処理の際の加圧力P2、P3は一定でもよく、たとえば段階的に上げる等、変化させてもよい。P2、P3の値は、通常溶接電極に使用されるCuと、高温となる被溶接材の鋼との強度のバランスで適宜定めることができる。
(加圧力の解放、上昇の繰り返し回数)
加圧力の解放、上昇の繰り返し回数(1つの加圧解放と、次の1つのP2への加圧力上昇で1回)は、2回以上とする。繰り返し回数の上限は、特に限定されるものでないが、作業時間を短縮するために20回とすることが好ましい。
繰り返しの加圧力P2、P3は、上述した式の範囲内であれば、全て同じ加圧力であっても、異なる加圧力であってもよく、加圧時間tf、tiも、上述した式の範囲内であれば、全て同じ加圧時間であっても、異なる加圧時間であってもよい。ただし、この繰り返し工程における加圧力及び加圧時間は、全て同じにすると、作業効率上好ましい。
図4に示すように、スポット溶接により重ね合わせ溶接された鋼板の内側にはナゲットが、鋼板の外側にはピーニングの打撃処理による凹部が形成される。打撃処理径di(上記凹部の半径)は、ナゲット径の1.2以上、3.0倍未満となるように加圧力、電流値を制御し、溶接電極を移動させると、継手強度の面から好ましい。また、凹部の鋼板表面からの平均深さは0.03mm以上であると好ましく、さらに、平均深さは鋼板の板厚の15%以下であることが好ましい。
ここで凹部の深さは、以下の測定法により求める。ナゲットの中心から、ピーニング処理して形成された凹部のうちで最も遠い凹部の端に掛けて、直線状にレーザ変位計でその表面形状を計測する。最も遠い凹部の端は鋼板表面に一致し、つまり凹んでいないため、そこが基準位置(原点)となる。この形状計測結果を鋼板表面からの凹みに換算し、凹みをその測定領域内に渡って平均化すれば、平均深さが得られる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1に示す合金化溶融亜鉛(GA)めっき鋼板を準備した。表2にスポット溶接の条件を示し、表3にピーニング処理の条件を示す。各試験番号において、同じ鋼板番号の2枚の鋼板を溶接して試験片を作製した。また、スポット溶接では、直径16mm、先端6mmのドームラジアス型電極を用いた。
表3の工程Cのあり、なしは、溶接部作成後のその位置でのピーニング処理の有無を示す。工程Dは、「31のみ」は、図3に示す31の位置でピーニング処理が行われたことを、「31〜36,6箇所」は、図3に示す31〜36の6箇所の位置で順にピーニング処理が施されたことを示す。P2,P3上下の繰り返し数は、加圧力P2を加圧時間tfの間付与し、その後加圧力P3を加圧時間tiの間付与することを1サイクルとしたときのサイクルの回数である。
Figure 2019089076
Figure 2019089076
Figure 2019089076
試験片に対して、塩酸浸漬試験を行った。この試験では、試験片を0.15規定の塩酸中に100時間浸漬した後の割れの有無を調べることにより行った。割れの有無は、スポット溶接して形成されたスポット溶接継手を、板表面に垂直でナゲットの中心を通る断面で切断し、この切断片からナゲットを含む試験片を切り出し、切断面を研磨し、研磨された切断面を光学顕微鏡で観察して行った。この試験を10片の試験片に実施し、その際の割れ数を確認した。
表4に、形成された溶接継手のナゲット半径rn、鋼板表面の凹部の半径ri、ri/rn、凹部の平均深さ、及び塩酸浸漬試験の結果を示す。試験片10片のうち、割れ数が3以下を合格とした。
Figure 2019089076
表4に示すように、本発明の構成を満足する処理番号2、3、7、8、11、13〜14では、塩酸浸漬試験では割れの発生はなく、遅れ破壊特性に優れたスポット溶接継手が得られた。
それに対して、処理番号1は、加圧力P1に対するP2の比が適切でなく、処理番号4及び9は、通電電流I1に対する通電電流I2の関係が適切でなく、処理番号5及び10,12は、加圧力P2の上昇の繰り返し回数が適切でなく、処理番号6は、加圧力P3より加圧力P2が低い値で、かつ加圧力P1に対するP2の比が適切でなく、処理番号15は、加圧力の上昇下降が行われておらず、塩酸浸漬試験では割れが発生し、十分な遅れ破壊特性が得られなかった。
本発明によれば、スポット溶接後に、溶接部の周囲にピーニング処理を施すので、溶接継手の耐水素脆化特性を向上させることができる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。
1 鋼板
2 溶接電極
3 ナゲット
30 インデンテーション
31〜36 凹部(くぼみ)
40 鋼板
41 ナゲット
I 通電電流
I1 スポット溶接の際の通電電流
I2 ピーニング処理の際の通電電流
Ic 冷却時間における通電電流
P 加圧力
P1 スポット溶接時の加圧力
P2 加圧力上昇時の加圧力
t1 スポット溶接の際の通電時間
t2 ピーニング処理の際の通電時間
tc 冷却時間
tf 加圧力上昇時の加圧時間
ti 溶接電極の移動時間
dn ナゲット径
di 打撃処理径

Claims (4)

  1. 少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の鋼板を抵抗スポット溶接する方法において、
    上記複数枚の鋼板は、少なくとも引張強さが980MPa以上の鋼板を1枚以上含み、
    上記方法は、
    A:上記複数枚の鋼板に溶接電極により加圧力P1(kN)を付与しながら、通電電流I1(kA)で通電して溶融部を形成する工程、
    B:上記溶融金属の形成後、上記加圧力P1を付与したまま、冷却時間tc(s)の間、通電電流Ic(kA)として上記複数枚の鋼板を冷却する工程、
    C:上記溶接電極に通電電流I2(kA)で通電しながら、上記複数枚の鋼板に上記溶接電極により加圧力P2(kN)を加圧時間tf(s)の間付与し、その後直ちに加圧力P3(kN)を加圧時間ti(s)の間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返す工程、
    D:加圧力を解放して上記溶接電極を移動し、上記複数枚の鋼板に上記溶接電極により加圧力P2(kN)を加圧時間tf(s)の間付与し、その後直ちに加圧力P3(kN)を加圧時間ti(s)の間付与する加圧力の上昇下降を2回以上繰り返す工程、
    E:通電を終了し、加圧力を解放する工程
    を備え、
    上記工程は、A,B,C,D,Eの順に行い、
    C工程は、0回以上、D工程は、1回以上行い、
    上記Ic、I1、I2、P1、P2、P3、tf、tiは下記式(1)〜(6)を満たす
    ことを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
    0≦Ic<I1 ・・・(1)
    0.3≦I2/I1<1.0 ・・・(2)
    1.2≦P2/P1 ・・・(3)
    0<tf≦0.2 ・・・(4)
    0<ti≦0.2 ・・・(5)
    P3<P2 ・・・(6)
  2. 少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の鋼板を含む溶接継手であって、
    上記重ね合わされた鋼板の外側に凹部を有し、
    上記重ね合わされた鋼板の内部にナゲットを有し
    凹部の半径ri、ナゲットの半径rnが
    1.2≦ri/rn<3.0
    を満たすことを特徴とする溶接継手。
    ここで、凹部の半径は、ナゲットの中心から、最も遠い凹部の端までの距離である。
  3. 前記凹部の鋼板表面からの平均深さが0.03mm以上であることを特徴とする請求項2に記載の溶接継手。
  4. 前記凹部の鋼板表面からの平均深さが、凹部が設けられた鋼板の板厚の15%以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の溶接継手。
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