JP2019072770A - 鉛フリーはんだ合金と車載電子回路 - Google Patents
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Abstract
【課題】基板とはんだ付け部や部品とはんだ付け部などの接合界面でのクラックだけでなく、接合したはんだ内部のSnマトリックス中のクラックの発生を抑制する、はんだ合金の提供。【解決手段】Agが1〜4質量%(但し、3.2〜3.8質量%を除く)、Cuが0.5〜0.6質量%未満、Sbが2〜5質量%、Niが0.01〜0.2質量%、Biが3.2〜5.5質量%、Coが0.001〜0.1質量%、残部Snの鉛フリーはんだ合金を用いる事で、低温が−40℃、高温が125℃というような厳しい温度サイクル特性に長期間耐えられるだけでなく、縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間に耐える事が可能な、はんだ合金およびそのはんだ合金を使用した車載電子回路装置を得ることができる。【選択図】なし
Description
本発明は、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金と、車載電子回路装置とに関する。
自動車には、プリント回路基板(以降プリント基板という)に半導体やチップ抵抗部品などの電子部品をはんだ付けした電子回路(以下、車載電子回路という)が搭載されている。車載電子回路は、エンジン、パワーステアリング、ブレーキ等を電気的に制御する装置に使用されており、そのような装置は自動車の走行にとって非常に重要な保安部品となっている。特に、燃費向上のためにコンピューターで自動車の走行、特にエンジンの作動を制御する電子回路を備えた、ECU(Engine Control Unit)と呼ばれる車載電子回路装置は、長期間に渡って故障がなく安定した状態で稼働できるものでなければならない。このECUは、一般的にエンジン近傍に設置されているものが多く、使用環境としては、かなり厳しい。本明細書では、この車載電子回路装置を単に「ECU」ともいい、「ECU電子回路装置」ともいう。
このような車載電子回路が設置されるエンジン近傍は、エンジンの回転時には125℃以上という非常な高温となる。一方、エンジンの回転を止めたときには外気温度、例えば北米やシベリヤなどの寒冷地であれば冬季に−40℃以下という低温になる。従って、車載電子回路は エンジンの運転とエンジンの停止の繰り返しで−40℃以下〜+125℃以上というヒートサイクルに曝される。
車載電子回路がそのように温度が大きく変化する環境に長期間置かれると、電子部品とプリント基板がそれぞれ熱膨張・収縮を起こす。しかしながら、主にセラミックスでできている電子部品の線熱膨張係数とガラスエポキシ基板できているプリント基板の線熱膨張係数の差が大きいため、上記環境下での使用中に一定の熱変位が電子部品とプリント基板とを接合しているはんだ付け部(以下、「はんだ接合部」という。)に起こり、はんだ接合部にはそのような温度変化によって繰り返し応力(ストレス)が加わる。すると、そのようなストレスで、最終的にははんだ接合部の接合界面等が破断してしまう。電子回路では、はんだ接合部が完全破断しないまでも99%以下のクラック率でもはんだ接合部にクラックが入ることによって、電気的には導通しているとしても、回路の抵抗値が上昇して、誤動作することも考えられる。はんだ接合部にクラックが発生して、車載電子回路装置、特にECUが誤動作を起こすことは、避けなければならない。このように、車載電子回路装置、特にECUにとって温度サイクル特性が特に重要であり、それに使用されるはんだ接合部、つまりはんだ合金も考えられる限りの厳しい温度条件でも使用できることが要求される。
この使用条件の厳しい、車載電子回路装置、特にECU用のはんだとして、Ag:2.8〜4質量%、Bi:1.5〜6質量%、Cu:0.8〜1.2質量%、Ni、FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で0.005〜0.05質量%、残部Snからなることを特徴とする車載用鉛フリーはんだ(WO2009/011341A、特許文献1)等が開示されている。
また、単なるはんだ合金組成として、主成分としてのSn(錫)に加えて、10重量%またはそれ未満のAg(銀)、10重量%またはそれ未満のBi(ビスマス)、10重量%またはそれ未満のSb(アンチモン)および3重量%またはそれ未満のCu(銅)を含んでなる合金を含んでなり、合金がさらに、1.0重量%またはそれ未満のNi(ニッケル)を含んでなるはんだ物質(特開2006−524572号公報、特許文献2)も開示されている。
ハイブリッド自動車や電気自動車の普及に見られるように、自動車に於けるメカ部品から電子部品への移行は進んでおり、それに伴いサイズの余裕があった自動車用の電子回路でも小型化が求められている。そのため、従来はリフローソルダリングの後、フローソルダリングではんだ付けされていた車載電子回路が、近年は両面ともソルダぺーストで面実装する両面リフローはんだ付けされることが当然となっている。これは車載電子回路の高密度化をもたらし、これまで見られなかったクラックモードの不具合が現れるようになった。
ところで、特許文献1の発明は厳しい環境での寿命が長いはんだ合金を開示したものであったが、自動車は輸送手段として用いられるものであるので、一箇所に静置されることは少なく、道路等で使用される事が多い。このような道路で使用されるときは、悪路により車載電子回路装置には常時振動が加わり、また縁石への乗り上げや前の車との衝突など、車載電子回路装置は外部からの力が加わる事が多く発生する。車の衝突でも大事故であれば、車載電子回路装置ごと交換することが多いが、単なる接触事故では車の外装の交換だけで済まされることが多く、車載電子回路装置には、厳しい環境に耐えられるだけでなく、外部からの加わる力にも耐えられ無ければならない。
特に、最近の自動車は、電気自動車やハイブリッド自動車の普及など、電子化が進み、車載電子回路装置も小型化、高密度化が進んできた。そのため、車載電子回路のはんだ接合部のはんだ量も減少し、例えば、3216サイズのチップ部品では、はんだ接合部のはんだ量が片側で標準1.32mgであるのに対し、車載電子回路用では片側で0.28mg未満という微細なはんだ量しかない。そのため、従来の電子回路では図1のようにチップ部品側面にはんだフィレット部分が突き出しているが、車載電子回路のはんだ接合部では図2のようにチップ部品側面にはんだフィレットがほとんどない。よって、車載電子回路のはんだ接合部では、図2のようにほぼ一直線にクラックが伝播するという新たなクラックモードが生じ、誤動作をもたらすことが問題となってきた。
本発明が解決しようとする課題は、低温が−40℃、高温が125℃というような厳しい温度サイクル特性に長期間耐えられるだけでなく、縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間に耐える事が可能なはんだ合金およびそのはんだ合金を使用した車載電子回路装置を開発することである。
本発明者らは、長期間の温度サイクル後の外部からの力に耐えるには、Sn相に固溶する元素を添加して固溶強化型の合金を作ることが有効なこと、固溶析出強化型の合金を作るにはSbが最適な元素であること、さらにSnマトリックス中のSbの添加は微細なSnSb金属間化合物が形成され、析出分散強化の効果も現すことを見い出し、本発明を完成させた。
本発明は、Agが1〜4質量%(但し、3.2〜3.8質量%を除く)、Cuが0.5質量%以上0.6質量%未満、Sbが2〜5質量%、Niが0.01〜0.2質量%、Bi:3.2〜5.5質量%、Co:0.001〜0.1質量%、残部がSnの鉛フリーはんだ合金である。
ここに、本発明にかかる合金の冶金学的組織上の特徴は、はんだ合金がSnマトリックス中にSbが固溶している組織からなり、該組織は、例えば125℃の高温ではSbが安定して固溶した状態を呈するが、温度低下に伴って、Snマトリックスに対してSbが、徐々に、過飽和状態で固溶するようになり、そして、例えば−40℃という低温では、SnSb金属間化合物としてSbが析出する組織である。
さらに本発明は、上述のはんだ合金を使ってはんだ付けを行って得た車載電子回路およびそのような電子回路を備えた車載電子回路装置である。
ここに、「車載」または「車載用」というのは、自動車に搭載されるということであり、具体的には、過酷な使用環境、すなわち、−40℃から125℃という温度環境に繰り返し曝されて使用されても所定の特性を確保でき、自動車に搭載可能であるということである。より具体的には、そのような温度環境下でも3000サイクルのヒートサイクル試験に耐え得て、その条件下でも外部からの力を評価するシェア試験に対して耐性を有するということである。
ここに、「車載」または「車載用」というのは、自動車に搭載されるということであり、具体的には、過酷な使用環境、すなわち、−40℃から125℃という温度環境に繰り返し曝されて使用されても所定の特性を確保でき、自動車に搭載可能であるということである。より具体的には、そのような温度環境下でも3000サイクルのヒートサイクル試験に耐え得て、その条件下でも外部からの力を評価するシェア試験に対して耐性を有するということである。
本発明のはんだ合金が、温度サイクルに曝された後も微細なSbの析出物を作り、化合物の粗大化といった組織劣化が生じない理由は次のように考えられる。
リフローはんだ付けで接合する車載用はんだ合金は、低温は冷寒地、高温はエンジンルームを模式して、−40℃〜+125℃の温度サイクル試験が課せられる。本発明のはんだ合金では、添加したSbが、例えば125℃という高温状態でSnマトリックス中に再固溶し、例えば−40℃という低温状態でSnSb金属間化合物が析出するという工程が繰り返されることによって、SnSb金属間化合物の粗大化が止まり、温度サイクル試験を実施する中で、一度粗大化したSnSb金属化合物も高温側でSnマトリックス中に再溶解するので、微細なSnSb金属間化合物が形成され、析出分散強化型のはんだ合金が維持させる。
リフローはんだ付けで接合する車載用はんだ合金は、低温は冷寒地、高温はエンジンルームを模式して、−40℃〜+125℃の温度サイクル試験が課せられる。本発明のはんだ合金では、添加したSbが、例えば125℃という高温状態でSnマトリックス中に再固溶し、例えば−40℃という低温状態でSnSb金属間化合物が析出するという工程が繰り返されることによって、SnSb金属間化合物の粗大化が止まり、温度サイクル試験を実施する中で、一度粗大化したSnSb金属化合物も高温側でSnマトリックス中に再溶解するので、微細なSnSb金属間化合物が形成され、析出分散強化型のはんだ合金が維持させる。
ところが、Sbの量を、5質量%を超えて、例えば8質量%添加すると、温度サイクル試験の初期でのSnSb化合物の粒径が大きく微細にならず、また、液相線温度が上昇するので、はんだ合金に添加したSbが高温側でも再溶解せずに元のSnSbの結晶粒のままである。したがって、上述のような温度サイクル下での使用を繰り返えしても微細なSnSb金属間化合物が形成することはない。
さらに、Sbの量を5質量%を超えて添加すると、はんだ合金の液相線温度が上昇してしまうので、リフロー加熱の温度を上昇させないとはんだ付けすることができない。このように、リフロー条件を上昇させるとプリント基板の表面に配線させているCuがはんだ中に溶融して、Cu6Sn5等のSnCuの金属間化合物層がプリント基板とのはんだ付け部に厚く形成され易くなり、プリント基板とはんだ接合部が破壊され易くなる。
本発明において、はんだ合金中に添加したSbは、はんだ合金のSnマトリックス中にSnSbという化合物の形で微細な析出物となり、−40〜+125℃の温度サイクルを3000サイクル近く繰り返しても、Snマトリックス中でSnSb金属間化合物の微細析出物の状態を維持することができる。このことにより、セラミックス等の電子部品とはんだ接合部の界面に発生し易いクラックをSnSbの析出物が邪魔する。
本発明によれば、上述の温度サイクル試験経過後であっても、Snマトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子径は、試験開始前の粒径のSnSb金属間化合物の粒子とほぼ同じ0.6μm以下であり、粗大化が抑制された粒径となる。したがって、はんだ中に部分的にクラックが入っても、微細なSnSb金属間化合物がそのようなクラックの伝播を阻害することで、クラックがはんだの内部に広がることを抑制できる。
本発明にかかるはんだ合金は、−40℃から+125℃の温度サイクル試験を3000サイクル近く繰り返しても、微量なはんだ量のはんだ接合部にもクラックが発生せず、また、クラックが発生した場合においても、クラックがはんだ中を伝播することを抑制した、優れた温度サイクル特性を発揮できる。
本発明にかかるはんだ合金を、微少なはんだ量で、はんだフィレットがほとんどなく薄いはんだ接合部を有する車載電子回路のはんだ付けに用いることで、−40から+125℃の温度サイクルに曝される使用環境下で使用しても、はんだ接合部にクラックが発生せず、例えクラックが発生したとしても、はんだ中を伝播することが抑制されるため、信頼性の高い車載電子回路および車載電子回路装置を得ることができる。
また、本発明のはんだ合金は、接合界面で発生するクラックも抑制されており、特にECU装置のはんだ付けに適した特性を有している。
本発明にかかるはんだ合金を、微少なはんだ量で、はんだフィレットがほとんどなく薄いはんだ接合部を有する車載電子回路のはんだ付けに用いることで、−40から+125℃の温度サイクルに曝される使用環境下で使用しても、はんだ接合部にクラックが発生せず、例えクラックが発生したとしても、はんだ中を伝播することが抑制されるため、信頼性の高い車載電子回路および車載電子回路装置を得ることができる。
また、本発明のはんだ合金は、接合界面で発生するクラックも抑制されており、特にECU装置のはんだ付けに適した特性を有している。
本発明のはんだ合金に添加されるSbが1質量%未満では、Sb量が少なすぎてSnマトリックス中にSbが分散する形態が現れず、さらに固溶強化の効果も現れない。さらに、はんだ接合部のシェア強度も低くなる。また、Sbが5質量%を超えるようなSbの添加では、液相線温度が上昇するので、炎天下のエンジン稼働時等に現れる125℃を超す高温時にSbが再溶融しないので、SnSb金属間化合物の粗大化が進み、はんだ中にクラックが伝播することを抑制することができない。さらに、液相線温度が上がると実装時の温度ピークが上がるので、プリント基板の表面に配線されているCuがはんだ中に溶融して、Cu6Sn5等のSnCuの金属間化合物層がプリント基板とのはんだ付け部に厚く形成され易くなり、プリント基板とはんだ接合部が破壊され易くなる。
したがって、本発明のSbの量は1〜5質量%であり、好ましくは3〜5質量%である。後述するBiが配合される場合には、Sbの量は3超〜5%が好ましい。
したがって、本発明のSbの量は1〜5質量%であり、好ましくは3〜5質量%である。後述するBiが配合される場合には、Sbの量は3超〜5%が好ましい。
本発明のはんだ合金では、はんだ中におけるクラックの発生と伝播を抑制すると共に、セラミック部品とはんだ接合部のはんだ接合界面でのクラックの発生も抑制している。例えば、Cuランドにはんだ付けするとCu6Sn5の金属間化合物がCuランドとの接合界面に発生するが、本発明のはんだ合金はNiを0.01〜0.2質量%含有しており、この含有しているNiは、はんだ付け時にはんだ付け界面部分に移動して、Cu6Sn5ではなく(CuNi)6Sn5が発生して、界面の(CuNi)6Sn5の金属間化合物層のNi濃度が高くなる。これにより、はんだ付け界面にCu6Sn5よりも微細で、粒径が揃った(CuNi)6Sn5の金属間化合物層が形成される。微細な(CuNi)6Sn5の金属間化合物層は、界面から伝播するクラックを抑制する効果を有する。これは、Cu6Sn5のような大きな粒径がある金属間化合物層では、発生したクラックが大きな粒径に沿って伝播するので、クラックの進展が早い。ところが粒径が微細なときは、発生したクラックの応力が多くの粒径方向に分散するので、クラックの進展を遅くすることができる。
このように、本発明のはんだ合金では、Niを添加することで、はんだ付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属間化合物を微細化して、クラックの発生を抑制するとともに、一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをしている。そのため、本発明のはんだ合金は接合界面からのクラックの発生や伝播の抑制も可能である。
Niの量が0.01質量%未満では、はんだ付け界面のNiの量が少ないため、はんだ接合部界面の改質効果が不十分であるためクラック抑止効果がなく、Niの量が0.2質量%を超えてしまうと、液相線温度が上昇するため、本発明に添加したSbの再溶融が発生せず、微細なSnSb金属間化合物の粒径維持の効果を阻害してしまう。
したがって、本発明のNiの量は、0.01〜0.2質量%が好ましく、より好ましくは0.02〜0.1質量%である。さらに好ましくは、0.02〜0.08%である。
Niの量が0.01質量%未満では、はんだ付け界面のNiの量が少ないため、はんだ接合部界面の改質効果が不十分であるためクラック抑止効果がなく、Niの量が0.2質量%を超えてしまうと、液相線温度が上昇するため、本発明に添加したSbの再溶融が発生せず、微細なSnSb金属間化合物の粒径維持の効果を阻害してしまう。
したがって、本発明のNiの量は、0.01〜0.2質量%が好ましく、より好ましくは0.02〜0.1質量%である。さらに好ましくは、0.02〜0.08%である。
本発明に添加されているAgは、はんだのぬれ性向上効果とはんだマトリックス中にAg3Snの金属間化合物のネットワーク状の化合物を析出させて、析出分散強化型の合金を作り、温度サイクル特性の向上を図る効果が発揮される。
本発明のはんだ合金で、Agの含有量が1質量%未満では、はんだのぬれ性の向上効果が発揮されず、Ag3Snの析出量が少なくなり、金属間化合物のネットワークが強固とはならない。また、Agの量が4質量%より多くなると、はんだの液相線温度が上昇して、本発明にしたがって添加したSbの再溶融が起らず、SnSb金属間化合物の微細化の効果を阻害してしまう。
したがって、本発明に添加するAgの量は、1〜4質量%が好ましい。より好ましくは、Agの量が3.2〜3.8質量%である。
本発明のはんだ合金で、Agの含有量が1質量%未満では、はんだのぬれ性の向上効果が発揮されず、Ag3Snの析出量が少なくなり、金属間化合物のネットワークが強固とはならない。また、Agの量が4質量%より多くなると、はんだの液相線温度が上昇して、本発明にしたがって添加したSbの再溶融が起らず、SnSb金属間化合物の微細化の効果を阻害してしまう。
したがって、本発明に添加するAgの量は、1〜4質量%が好ましい。より好ましくは、Agの量が3.2〜3.8質量%である。
本発明のはんだ合金に添加されているCuは、Cuランドに対するCu食われ防止効果とはんだマトリックス中に微細なCu6Sn5の化合物を析出させて温度サイクル特性を向上させる効果がある。
本発明のはんだ合金のCuが0.6質量%未満では、Cuランドに対するCu食われ防止が現れず、Cuが0.8質量%を超えて添加するとCu6Sn5の金属間化合物が接合界面にも多く析出するので、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明のはんだ合金のCuが0.6質量%未満では、Cuランドに対するCu食われ防止が現れず、Cuが0.8質量%を超えて添加するとCu6Sn5の金属間化合物が接合界面にも多く析出するので、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明のはんだ合金では、Biを添加することで、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。本発明で添加したSbは、SnSb金属間化合物を析出して析出分散強化型の合金を作るだけでなく、原子配列の格子に入り込み、Snと置換することで原子配列の格子を歪ませてSnマトリックスを強化することで、温度サイクル特性を向上させる効果も有している。このときに、はんだ中にBiが入っていると、BiがSbと置き換わるので、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。BiはSbより原子量が大きく、原子配列の格子を歪ませる効果が大きいからである。また、Biは、微細なSnSb金属間化合物の形成を妨げることがなく、析出分散強化型のはんだ合金が維持される。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量が、1.5質量%未満ではSbとの置換が起き難く、微細なSnSb金属間化合物の量が少なくなるため、温度サイクル向上効果が現れない、また、Biの量が5.5質量%を超えて添加するとはんだ合金自体の延性が低くなって堅く硬く、もろくなるので、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量は、1.5〜5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3〜5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2〜5.0質量%である。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量が、1.5質量%未満ではSbとの置換が起き難く、微細なSnSb金属間化合物の量が少なくなるため、温度サイクル向上効果が現れない、また、Biの量が5.5質量%を超えて添加するとはんだ合金自体の延性が低くなって堅く硬く、もろくなるので、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量は、1.5〜5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3〜5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2〜5.0質量%である。
さらに、本発明のはんだ合金では、CoまたはFe、またはその両方を添加することで、本発明のNiの効果を高めることができる。特に、Coは優れた効果を現す。
本発明のはんだ合金に添加するCoとFeの量は、合計量で、0.001質量%未満では接合界面に析出して界面クラックの成長を防止する効果が現れず、0.1質量%を超えて添加されると界面に析出する金属間化合物層が厚くなり、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明に添加するCoまたはFe、その両方を添加する量は、0.001〜0.1質量%が好ましい。
本発明のはんだ合金に添加するCoとFeの量は、合計量で、0.001質量%未満では接合界面に析出して界面クラックの成長を防止する効果が現れず、0.1質量%を超えて添加されると界面に析出する金属間化合物層が厚くなり、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明に添加するCoまたはFe、その両方を添加する量は、0.001〜0.1質量%が好ましい。
本発明にかかるはんだ合金は、これまでの説明からも明らかなように、ヒートサイクル性に優れており、はんだ中のクラックの発生や伝播が抑制されるから、絶えず振動を受けている状態で使用される自動車用、つまり車載用として使用されても、クラックの成長や進展が促進されることはない。したがって、そのような特に顕著な特性を備えていることから、本発明にかかるはんだ合金は、自動車に搭載する電子回路のはんだ付けに特に適していることがわかる。
ここに、本明細書でいう「ヒートサイクル性にすぐれている」とは、後述する実施例でも示すように−40℃以下+125℃以上というヒートサイクル試験を行っても、3000サイクル後のクラック発生率が90%以下であり、同じく、3000サイクル後のシェア強度残存率が、30%以上を言う。
このような特性は、上記ヒートサイクル試験のような非常に過酷な条件で使用されても、車載電子回路が破断しない、つまり使用不能あるいは誤動作をもたらさないことを意味しており、特にECU用のはんだ付けに用いられるはんだ合金としては信頼性の高いはんだ合金である。さらに、本発明のはんだ合金は、温度サイクル経過後のシェア強度残存率に優れている。つまり、長期間使用しても衝突や振動等の外部から加わる外力に対してシェア強度等の外力に対する耐性が低下しない。
このように、本発明にかかるはんだ合金は、より特定的には、車載電子回路のはんだ付けに用いられ、あるいは、ECU電子回路のはんだ付けに用いられて優れたヒートサイクル性を発揮するはんだ合金である。
このように、本発明にかかるはんだ合金は、より特定的には、車載電子回路のはんだ付けに用いられ、あるいは、ECU電子回路のはんだ付けに用いられて優れたヒートサイクル性を発揮するはんだ合金である。
「電子回路」とは、それぞれが機能を持っている複数の電子部品の電子工学的な組み合わせによって、全体として目的とする機能を発揮させる系(システム)である。
ここにそのような電子回路を構成する電子部品としては、チップ抵抗部品、多連抵抗部品、QFP、QFN、パワートランジスタ、ダイオード、コンデンサなどが例示される。これらの電子部品を組み込んだ電子回路は基板上に設けられ、電子回路装置を構成するのである。
ここにそのような電子回路を構成する電子部品としては、チップ抵抗部品、多連抵抗部品、QFP、QFN、パワートランジスタ、ダイオード、コンデンサなどが例示される。これらの電子部品を組み込んだ電子回路は基板上に設けられ、電子回路装置を構成するのである。
本発明において、そのような電子回路装置を構成する基板、例えばプリント配線基板は特に制限されない。またその材質も特に制限されないが、耐熱性プラスチック基板(例:高Tg低CTEであるFR−4)が例示される。プリント配線基板はCuランド表面をアミンやイミダゾール等の有機物(OSP: Organic Surface Protection)で処理したプリント回路基板が好ましい。
本発明に係る鉛フリーはんだの形状は、微細なはんだ部の接合に用いられるので、リフローはんだ付けに用いられ、ソルダペーストとして使用させるのが通常であるが、ボール状、ペレットもしくはワッシャーなどの形状のはんだプリフォームとして用いられても良い。
表1では、表1の各はんだ合金について、液相線温度、温度サイクル試験の初期値と1500サイクル後のSnSb粒径、クラック率を測定を以下の方法で測定した。
(はんだの溶融試験)
表1の各はんだ合金を作製して、はんだの溶融温度を測定した。測定方法は、固相線温度はJIS Z3198−1に準じて行った。液相線温度は、JIS Z3198−1を採用せずに、JIS Z3198−1の固相線温度の測定方法と同様のDSCによる方法で実施した。
結果を表1の液相線温度に示す。
表1の各はんだ合金を作製して、はんだの溶融温度を測定した。測定方法は、固相線温度はJIS Z3198−1に準じて行った。液相線温度は、JIS Z3198−1を採用せずに、JIS Z3198−1の固相線温度の測定方法と同様のDSCによる方法で実施した。
結果を表1の液相線温度に示す。
(温度サイクル試験)
表1のはんだ合金をアトマイズしてはんだ粉末とした。松脂、溶剤、活性剤、チキソ剤、有機酸等からなるはんだ付けフラックスと混和して、各はんだ合金のソルダペーストを作製した。ソルダペーストは、6層のプリント基板(材質:FR−4)に150μmのメタルマスクで印刷した後、3216のチップ抵抗器をマウンターで実装して、最高温度235℃、保持時間40秒の条件でリフローはんだ付けをし、試験基板を作製した。
各はんだ合金ではんだ付けした試験基板を低温−40℃、高温+125℃、保持時間30分の条件に設定した温度サイクル試験装置に入れ、初期値、1500サイクル後に各条件で温度サイクル試験装置から取り出し、3500倍の電子顕微鏡で観察して、はんだ合金のSnマトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子の平均粒径を測定した。
結果を表1のクラック率とSnSb粒径に示す。
ここで、表1中の※1はSnSb金属間化合物が見えず測定ができなかったことを示し、※2ははんだの液相線温度が高く、リフロー条件の235℃でははんだ付けできなかったことを示す。
表1のはんだ合金をアトマイズしてはんだ粉末とした。松脂、溶剤、活性剤、チキソ剤、有機酸等からなるはんだ付けフラックスと混和して、各はんだ合金のソルダペーストを作製した。ソルダペーストは、6層のプリント基板(材質:FR−4)に150μmのメタルマスクで印刷した後、3216のチップ抵抗器をマウンターで実装して、最高温度235℃、保持時間40秒の条件でリフローはんだ付けをし、試験基板を作製した。
各はんだ合金ではんだ付けした試験基板を低温−40℃、高温+125℃、保持時間30分の条件に設定した温度サイクル試験装置に入れ、初期値、1500サイクル後に各条件で温度サイクル試験装置から取り出し、3500倍の電子顕微鏡で観察して、はんだ合金のSnマトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子の平均粒径を測定した。
結果を表1のクラック率とSnSb粒径に示す。
ここで、表1中の※1はSnSb金属間化合物が見えず測定ができなかったことを示し、※2ははんだの液相線温度が高く、リフロー条件の235℃でははんだ付けできなかったことを示す。
(クラック率)
クラック発生率は、クラックが想定クラック長さに対して、クラックが生じた領域がどの程度かの指標となる。SnSbの粒径測定後に、150倍の電子顕微鏡を用いて、クラックの状態を観察して、クラックの全長を想定し、クラック率を測定した。
クラック率(%)= クラック長さの総和 ×100
想定線クラック全長
ここに、「想定線クラック全長」とは、完全破断のクラック長さをいう。
クラック率は、図5に示した複数のクラック7の長さの合計を、クラック予想進展経路8の長さで割った率である。
結果は、表1に記載する。
クラック発生率は、クラックが想定クラック長さに対して、クラックが生じた領域がどの程度かの指標となる。SnSbの粒径測定後に、150倍の電子顕微鏡を用いて、クラックの状態を観察して、クラックの全長を想定し、クラック率を測定した。
クラック率(%)= クラック長さの総和 ×100
想定線クラック全長
ここに、「想定線クラック全長」とは、完全破断のクラック長さをいう。
クラック率は、図5に示した複数のクラック7の長さの合計を、クラック予想進展経路8の長さで割った率である。
結果は、表1に記載する。
表1からは、温度サイクル試験の1500サイクル後も、SnSbの結晶粒が粗大化せずに、初期値と変わらないままの状態で維持されていることがわかる。
図3に、実施例5のはんだ合金について、3500倍の電子顕微鏡で撮った、温度サイクル試験における3000サイクル後のSnSb金属間化合物7の状態を示す。実施例5のSnSb金属間化合物は微細であり、はんだ中に万遍なく散在している。そのため、クラックが入っても、SnSb金属間化合物にクラックが入るのを阻害する。
図4に比較例4のはんだ合金について、3500倍の電子顕微鏡で撮った、温度サイクル試験における3000サイクル後のSnSb金属間化合物7の状態を示す。比較例のSnSb金属間化合物は肥大しており、SnSb金属間化合物の中のクラックの発生を抑制できない。
次に、表2では、表2の各はんだ合金について、温度サイクル試験での3000サイクル後のクラック発生率とシェア強度残存率を測定した。クラック発生率の測定方法は、表1と同じだが、サイクル数は3000サイクルとした。シェア強度残存率の測定方法は以下の通りである。
(シェア強度残存率)
シェア強度残存率は、初期状態のはんだ付け部のシェア強度に対して温度サイクル試験にどの程度の強度が維持されているかの指標となる。
シェア強度試験は、継手強度試験機STR‐1000を用いて、室温下で、試験速度6mm/min、試験高さは50μmの条件で行った。
結果はまとめて表2に示す。
シェア強度残存率は、初期状態のはんだ付け部のシェア強度に対して温度サイクル試験にどの程度の強度が維持されているかの指標となる。
シェア強度試験は、継手強度試験機STR‐1000を用いて、室温下で、試験速度6mm/min、試験高さは50μmの条件で行った。
結果はまとめて表2に示す。
表2より、Sn−Ag−Cu−Ni−Sb系のはんだ合金について、Sb含有量に対して、クラック発生率とシェア強度残存率をプロットしたグラフを図6に示す。Sb量が本発明の範囲内である1.0〜5.0%の時に、クラック発生率は90%以下で、且つ、シェア強度残存率は30%以上であり、本発明のはんだ合金によって、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強いはんだ合金が得られる。
表2より、Sn−Ag−Cu−Ni−Sb−Bi系のはんだ合金に対して、Bi含有量に対して、Sb量別に、クラック発生率をプロットしたグラフを図7に示す。Bi量が本発明の範囲内である1.5〜5.5%で、且つ、Sb量が1〜5%の時に、クラック発生率が90%以下となり、温度サイクル特性に優れ、クラック発生を抑制することができる。
表2より、Sn−Ag−Cu−Ni−Sb−Bi系のはんだ合金に対して、Bi含有量に対して、Sb量別に、シェア強度残存率をプロットしたグラフを図8に示す。Bi量が本発明の範囲内である1.5〜5.5%で、且つ、Sb量が1〜5%の時に、シェア強度残存率が30%以上となり、衝突などの衝撃に強く、クラック発生を抑制することができる。
結論として、本願発明のはんだ合金は、−40〜+125℃の自動車のECU基板に必要な過酷な温度条件でも、SnSbの結晶粒が粗大化せずに、初期値と変わらないままの状態で維持されており、その結果としてはんだ中から発生するクラックの発生も、他のはんだ合金に比較して少なくすることができる。
本発明に係る鉛フリーはんだ合金は、リフローソルダリングだけでなく、フローソルダリングの形状であるインゴット状、棒状、線状のはんだや、マニュアルソルダリングの形状である脂入りはんだなどとしても良い。
1 チップ部品
2 はんだ合金
3 基板
4 Cuランド
5 金属間化合物層
6 クラック進展経路
7 SnSb金属間化合物
8 クラック予想進展経路
2 はんだ合金
3 基板
4 Cuランド
5 金属間化合物層
6 クラック進展経路
7 SnSb金属間化合物
8 クラック予想進展経路
Claims (7)
- Ag:1〜4質量%(但し、3.2〜3.8質量%を除く)、Cu:0.5〜0.6質量%未満、Sb:2〜5質量%、Ni:0.01〜0.2質量%、Bi:3.2〜5.5質量%、Co:0.001〜0.1質量%、残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
- 請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金であって、温度サイクル試験の3000サイクル後の初期値に対するシェア強度残存率が30%以上であることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
- 請求項1または2に記載の鉛フリーはんだ合金であって、Cu−OSP処理を施した基板と接合されることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ接合部を有する車載電子回路。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ接合部を有するECU電子回路。
- 請求項4に記載の電子回路を備えた車載電子回路装置。
- 請求項5に記載のECU電子回路を備えたECU電子回路装置。
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