以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
<円錐ころ軸受の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。図2は、図1に示した円錐ころ軸受の保持器の展開平面図である。図3は、図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。図4は、図1および図3に示した円錐ころ軸受の設計仕様を示す断面模式図である。図5は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受においてころの基準曲率半径を説明するための断面模式図である。図6は、図5に示される領域VIを示す部分断面模式図である。図7は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受においてころの実曲率半径を説明するための断面模式図である。図1〜図7を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
図1に示す円錐ころ軸受10は、外輪11と、内輪13と、複数の円錐ころ12と、保持器14とを主に備えている。外輪11は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面11Aを有している。内輪13は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面13Aを有している。内輪13は、内輪軌道面13Aが外輪軌道面11Aに対向するように外輪11の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受10の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
円錐ころ12はころ転動面12Aを有し、当該ころ転動面12Aにおいて内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aに接触する。複数の円錐ころ12は金属製の保持器14により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、円錐ころ12は、外輪11および内輪13の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受10は、外輪軌道面11Aを含む円錐、内輪軌道面13Aを含む円錐、および円錐ころ12が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点(図4の点O)で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受10の外輪11および内輪13は、互いに相対的に回転可能となっている。内輪13は、内輪軌道面13Aの大径側に大鍔部41、小径側に小つば部42を有する。なお、保持器14は金属製に限らず、樹脂製であってもよい。
ころ係数:
円錐ころ軸受10は、ころ係数γ>0.90となっている。ここで、ころ係数γは、ころ本数Z、ころ平均径DA、ころピッチ円径PCDとして、関係式γ=(Z・DA)/(π・PCD)で定義される。
保持器の形状:
図2に示すように、上記保持器14は、円錐ころ12の小径端面側で連なる小環状部14aと、円錐ころ12の大径端面側で連なる大環状部14bと、これらの小環状部14aと大環状部14bを連結する複数の柱部14cとを含む。保持器14には、周方向に所定の間隔で配置されている複数のポケット14dが形成されている。複数のポケット14dは、複数の円錐ころ12を保持している。保持器14は、径方向において、内輪13よりも外輪11に近い位置に配置されている。
図3に示されるように、ポケット14dの窓角θ、すなわちポケット14dを挟んで隣り合う2つの柱部14cのポケット14dに面している各柱面が成す角度は、46°以上80°以下である。窓角θの下限値を46°以上としたのは、ころとの良好な接触状態を確保するためであり、窓角が46°未満とするところとの接触状態が悪くなる。すなわち、窓角を46°以上とすると、保持器強度を確保した上でγ>0.90として、かつ、良好な接触状態を確保できる。また、窓角θの上限値を80°以下としたのは、窓角が80°超えとすると半径方向への押し付け力が大きくなり、自己潤滑性の樹脂材であっても円滑な回転が得られなくなる危険性が生じるからである。
本発明者らは、寿命試験を行い、ころ係数が寿命と関係することを確認した。表1に、本寿命試験の結果を示す。
表1中、試料3が保持器と外輪とが離れており、ころ係数が0.90以下である典型的な従来の円錐ころ軸受、試料1が従来品としての試料3に対してころ係数γのみを0.90超えとした円錐ころ軸受、試料2がころ係数γを0.90超えとし、かつ、窓角を46度以上65度以下の範囲にした本発明の円錐ころ軸受である。試験は、過酷潤滑、過大負荷条件下で行なった。表1より明らかなように、試料1は試料3の2倍以上の長寿命であった。特に、近年のトランスミッション又はデファレンシャル等の自動車の動力伝達装置では、使用される潤滑油の粘度が低下しているため、円錐ころ軸受が従来に比べて過酷な潤滑環境下に置かれる傾向にある。そこで、ころ係数γが0.90を超える範囲に設定することで、上記のような低粘度の潤滑油が使用される装置に組み込まれたとしても、円錐ころ軸受10を長寿命化することができる。さらに、試料2の軸受はころ係数が試料1と同じ0.96であるが、寿命時間は試料1の約5倍以上であった。なお、試料3、試料1および試料2の寸法はφ45×φ81×16(単位mm)、ころ本数は24本(試料3)、27本(試料1、試料2)、油膜パラメータΛ=0.2である。
外輪11、内輪13、円錐ころ12を構成する材料は、たとえばJIS規格に規定される高炭素クロム軸受鋼、より具体的にはJIS規格SUJ2により構成されている。
図3に示すように、外輪11の軌道面11Aおよび内輪13の軌道面13Aには、窒素富化層11B、13Bが形成されている。内輪13では、窒素富化層13Bが軌道面13Aから小鍔面19および大鍔面18にまで延在している。窒素富化層11B、13Bは、それぞれ外輪11の未窒化部11Cまたは内輪13の未窒化部13Cより窒素濃度が高くなっている領域である。内輪13の小鍔面19は、軌道面13Aに配列された円錐ころ12の小端面17と平行な研削加工面に仕上げられている。内輪13の大鍔面18は、円錐ころ12の大端面16に沿って延びる研削加工面に仕上げられている。内輪軌道面13Aと大鍔面18とが交わる隅部には逃げ部25Aが形成されている。
また、円錐ころ12の転動面12Aを含む表面、大端面16及び小端面17には窒素富化層12Bが形成されている。窒素富化層12Bは、ころ12の未窒化部12Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層11B、12B、13Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
なお、円錐ころ12のみに窒素富化層12Bを形成してもよいし、外輪11のみに窒素富化層11Bを形成してもよいし、内輪13のみに窒素富化層13Bを形成してもよい。あるいは、外輪11、内輪13、円錐ころ12のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
窒素富化層の厚さおよび窒素濃度:
窒素富化層11B、12B、13Bの厚さは0.2mm以上である。具体的には、外輪11の表面層の最表面としての外輪軌道面11Aから窒素富化層11Bの底部までの距離は0.2mm以上である。円錐ころ12の表面層の最表面の一部としての転動面12Aから窒素富化層12Bの底部までの距離は0.2mm以上であってもよい。円錐ころ12の表面層の最表面の一部としての大端面16または小端面17から窒素富化層12Bの底部までの距離は0.2mm以上である。内輪13の表面層の最表面の一部としての内輪軌道面13Aから窒素富化層13Bの底部までの距離は0.2mm以上である。内輪13の表面その最表面の一部としての大鍔面18から窒素富化層13Bの底部までの距離は0.2mm以上である。
上記円錐ころ軸受10において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層11B、12B、13Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上であってもよい。
円錐ころ12の大端面16の曲率半径Rと、点Oから内輪13の大鍔面18までの距離RBASEとの比R/RBASE:
図4に示すように、円錐ころ12と、外輪11および内輪13の各軌道面11A、13Aの各円錐角頂点は、円錐ころ軸受10の中心線上の一点Oで一致する。円錐ころ12の大端面16の曲率半径(設定曲率半径とも呼ぶ)Rと、点Oから内輪13の大鍔面18までの距離RBASEとの比率R/RBASEは、0.75以上0.87以下とする。
円錐ころ12の大端面16の形状:
円錐ころ12の大端面16の研削加工後の実曲率半径をRprocessとしたとき、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比率Rprocess/Rは0.5以上とされる。以下、具体的に説明する。
図5および図6は、研削加工が理想的に施された場合に得られる円錐ころ12の転動軸に沿った断面模式図である。研削加工が理想的に施された場合、得られる円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点である点O(図4参照)を中心とする球面の一部となる。図5および図6に示されるように、凸部16Aの一部を残すような研削加工が理想的に施された場合には、凸部16Aの端面を有する円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部となる。この場合、円錐ころ12の転動軸(自転軸)を中心とする径方向における上記凸部16Aの内周端は凹部16Bと点C2,C3を介して接続されている。上記凸部16Aの外周端は面取り部16Cと点C1,C4を介して接続されている。理想的な大端面では、点C1〜C4は、上述のように1つの球面上に配置されている。
一般的に、円錐ころは、円柱状のころ素形材に対し、圧造加工、クラウニング加工を含む研削加工が順に施されることにより、製造される。圧造加工により得られた成形体の大端面となるべき面の中央部には、圧造装置のパンチの形状に起因した凹部が形成されている。当該凹部の平面形状は例えば円形状である。
ここで、円錐ころ12の大端面16の曲率半径(設定曲率半径)Rは、図5に示す円錐ころ12の大端面16が設定した理想的な球面であるときのR寸法である。具体的には、図6に示すように、円錐ころ12の大端面16の端部の点C1、C2、C3、C4、点C1、C2の中間点P5、C3、C4の中間点P6を考える。そして、大端面16が上記理想的な球面である場合、図6に示した断面において、大端面16は、点C1、P5、C2を通る曲率半径R152、点C3、P6、C4を通る曲率半径R364及び点C1、P5、P6、C4を通る曲率半径R1564についてR152=R364=R1564という条件が成り立つ、理想的な単一円弧曲線となる。なお、点C1、C4は、凸部16Aと面取り部16Cとの接続点であり、点C2、C3は、凸部16Aと凹部16Bとの接続点である。ここで、R=R152=R364=R1564が成り立つ理想的な単一円弧曲線の曲率半径を設定曲率半径と呼ぶ。なお、設定曲率半径Rは、後述のように実際の研削加工により得られた円錐ころ12の大端面16の曲率半径として測定される実曲率半径Rprocessとは異なるものである。なお、点C2,C3の位置は、図5の位置に限らない。例えば、点C2は点C1側に、点C3は点C4側にわずかにずれた位置でもよい。
図7は、実際の研削加工により得られる円錐ころの転動軸に沿った断面模式図である。図7では、図6に示される理想的な大端面は点線で示されている。図7に示されるように、上記のような凹部および凸部が形成されている成形体を研削加工して、実際に得られる円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部とならない。実際に得られる円錐ころ12の上記凸部の点C1〜C4は、図6に示される上記凸部16Aと比べて、各点C1〜C4がダレた形状を有している。すなわち、図7に示される点C1,C4は、図6に示される点C1,C4と比べて、転動軸の中心に対する径方向において外周側に配置されているとともに、転動軸の延在方向において内側に配置されている(大端面16全体のR1564に対して片側のR152が同一ではなく、小さくできてしまう)。
図7に示される点C2,C3は、図6に示される点C2,C3と比べて、転動軸の中心に対する径方向において内周側に配置されているとともに、転動軸の延在方向において内側に配置されている(大端面16全体のR1564に対して片側のR364が同一ではなく、小さくできてしまう)。なお、図7に示される中間点P5,P6は、例えば図6に示される中間点P5,P6と略等しい位置に形成されている。
図7に示されるように、研削加工により実際に形成される大端面では、頂点C1および頂点C2が1つの球面上に配置されており、かつ頂点C3および頂点C4が他の1つの球面上に配置されている。一般的な研削加工によっては、一方の凸部上に形成された大端面の一部が成す1つの円弧の曲率半径は、他方の凸部上に形成された大端面の一部が成す円弧の曲率半径と、同等程度となる。すなわち、図7に示される円錐ころ12の大端面16の加工後の一方側のR152は、他方側のR364に略等しい。ここで、ころ12の大端面16の加工後の片側のR152、R364を実曲率半径Rprocessと呼ぶ。上記実曲率半径Rprocessは上記設定曲率半径R以下となる。
本実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころ12は、上述したように設定曲率半径Rに対する上記実曲率半径Rprocessの比率Rprocess/Rが0.5以上である。
なお、図7に示されるように、研削加工により実際に形成される大端面において、頂点C1,中間点P5、中間点P6、および頂点C4を通る仮想円弧の曲率半径Rvirtual(以下、仮想曲率半径という)は、上記設定曲率半径R以下となる。つまり、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころ12は、当該仮想曲率半径Rvirtualに対する上記実曲率半径Rprocessの比率Rprocess/Rvirtualが0.8以上である。
円錐ころ12の大端面16の表面粗さ:
大端面16の算術平均粗さRaは0.10μmRa以下であってもよい。以下、図5を参照しながら説明する。大端面16は面取り部16Cと凸部16Aと凹部16Bとを含む。大端面16では最外周に面取り部16Cが配置される。面取り部16Cの内周側に環状の凸部16Aが配置される。凸部16Aの内周側に凹部16Bが配置される。凸部16Aは凹部16Bより突出した面である。面取り部16Cは凸部16Aと円錐ころ12の側面である転動面とを繋ぐように形成されている。上述した大端面16の算術平均粗さRaは、実質的には凸部16Aの表面粗さを意味する。また、円錐ころ12の大端面16において、大鍔面18と接触する円周状の表面領域である凸部16Aの算術平均粗さ算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は0.02μm以下であってもよい。これにより、大端面16の円周状の表面領域の表面粗さRaのばらつきを十分小さくでき、上記比率R/RBASEの数値範囲および比率Rprocess/Rの数値範囲との相乗効果により、結果的に上記接触部における十分な油膜厚さを確保できる。
大鍔面18は、例えば0.12μmRa以下の表面粗さに研削加工されている。好ましくは、大鍔面の算術平均粗さRaは0.063μmRa以下である。
窒素富化層の結晶組織:
窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。ここで、図8は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図9は、従来の焼入れ加工された軸受部品の旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図8は、窒素富化層12Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層12Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、図9に示される従来の一般的な焼入れ加工品の旧オーステナイト結晶粒径と比べても十分に微細化されている。
円錐ころ12の転動面と内輪軌道面との当たり位置:
図10に示すように、円錐ころ12の転動軸の延在方向における転動面12Aの幅をL、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の中心Cの、延在方向における転動面12Aの中点Nから大端面16側へのずれ量をαとしたとき、円錐ころ軸受10では、幅Lとずれ量αとの比率α/Lが0%以上20%未満であってもよい。
本発明者らは、上記比率α/Lが0%以上20%未満であり、かつ、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置の中心Cが転動軸の延在方向における転動面の中点Nまたは該中点Nよりも大端面16側にあることにより、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置の中心Cが転動軸の延在方向における転動面の中点Nよりも小端面17側にある場合と比べて、スキュー角を低減し、回転トルクの増大を抑制し得ることを確認した。
表2に、上記ずれ量αが0であるとき、すなわち内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aと円錐ころ12の転動面12Aとの当たり位置の中心Cが転動軸の延在方向における転動面12Aの中点Nに位置しているときのスキュー角φ0、回転トルクM0に対する、ずれ量αを変化させたときのスキュー角φ、回転トルクMの各比率の計算結果を示す。なお、表2において、ずれ量αは、円錐ころ12の転動面12Aの幅Lに対するずれ量αの比率(α/L)として示している。また、上記当たり位置が上記中点Nよりも小端面17側にずれているときのずれ量を負の値で示す。スキュー角φ0およびトルクM0は、ずれ量αが0の時の値である。
表2に示すように、スキュー角φは、ずれ量αに関する比率α/Lが0%のときよりも大径側当りとした方が小さいことが分かる。また、回転トルクMは、ずれ量αが大きくなる程増大するが、大径側当りよりも小径側当りの方がその影響が大きい。ずれ量αに関する上記比率α/Lが−5%でスキュー角は1.5倍と大きくなることから、発熱への影響が無視できなくなり、実用不可(NG)と判定した。また、上記比率α/Lが20%以上になると、円錐ころ12の転動面12Aにおけるすべりが大きくなることで回転トルクMが増大し、別のピーリング等の不具合を引き起こすため、実用不可(NG)と判定した。
以上の結果より、スキュー角φと回転トルクMとを小さくするためには、ずれ量αに関する比率α/Lは0%以上20%未満であることが望ましい。また好ましくは、比率α/Lは0%を越える。さらに、比率α/Lは0%を越え15%未満であってもよい。
比率α/Lが0%超えとなる構成は、たとえば図10および図11に示される。図10および図11は、円錐ころ軸受において、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の変更方法の例を示す断面模式図である。
図10に示されるように、円錐ころ12の転動面12Aに形成されたのクラウニング、および内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aに形成されたクラウニングの各頂点の位置を相対的にずらすことにより、実現され得る。
また、比率α/Lが0%超えとなる構成は、図11に示されるように、内輪軌道面13Aが内輪の軸方向に対して成す角度と、外輪軌道面11Aが外輪11の軸方向に対して成す角度とを相対的に変えることより、実現され得る。具体的には、図11中に点線で示される上記当たり位置のずれ量αがゼロである場合と比べて、内輪軌道面13Aが内輪13の軸方向に対して成す角度を大きくする、および外輪軌道面11Aが外輪11の軸方向に対して成す角度を小さくする、の少なくともいずれかの方法により、比率α/Lが0%超えとなる構成は実現され得る。
円錐ころ12の転動面の形状:
図12に示すように、円錐ころ12の転動面12A(図3参照)は、両端部に位置し、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24と、このクラウニング部22、24の間を繋ぐ中央部23とを含む。中央部23にはクラウニングは形成されておらず、円錐ころ12の回転軸である中心線26に沿った方向での断面における中央部23の形状は直線状である。円錐ころ12の小端面17とクラウニング部22との間には面取り部21が形成されている。円錐ころ12の大端面16とクラウニング部24との間にも面取り部16Cが形成されている。
ここで、円錐ころ12の製造方法において、窒素富化層12Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、円錐ころ12にはクラウニングが形成されておらず、円錐ころ12の外形は図14の点線で示される加工前表面12Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として図14の矢印に示すように円錐ころ12の側面が加工され、図12及び図14に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24が得られる。
窒素富化層の厚さの具体例:
円錐ころ12における窒素富化層12Bの深さ、すなわち窒素富化層12Bの最表面から窒素富化層12Bの底部までの距離は、上述のように0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部21とクラウニング部22との境界点である第1測定点31、小端面17から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点32、円錐ころ12の転動面12Aの中央である第3測定点33において、それぞれの位置での窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層12Bの深さとは、円錐ころ12の中心線26に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層12Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部21、16Cの形状やサイズ、さらに窒素富化層12Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図14に示した構成例では、上述のように窒素富化層12Bが形成された後にクラウニング22Aが形成されるため、窒素富化層12Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
また、外輪11および内輪13における窒素富化層11B、13Bについても、その最表面から窒素富化層11B、13Bの底部までの距離である窒素富化層11B、13Bの厚さは上述したように0.2mm以上である。ここで、窒素富化層11B、13Bの厚さは、窒素富化層11B、13Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層11B,13Bまでの距離を意味する。
クラウニングの形状:
円錐ころ12のクラウニング部22、24に含まれる(中央部23に連なり内輪軌道面13Aに接触する部分である)接触部クラウニング部分27に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、円錐ころ12の転動面12Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K1,K2,zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
ここで、円錐ころ12のクラウニング部22、24の形状は、上記の数式によって求められた対数曲線クラウニングとしている。しかし、上記の数式に限られるものではなく、他の対数クラウニング式を用いて対数曲線を求めてもよい。
内輪軌道面および外輪軌道面の形状:
次に、内輪軌道面13Aの母線方向の形状を図14〜図16に基づいて説明する。図14は内輪13の詳細形状を示す部分断面模式図である。図15は、図14の領域XVの拡大模式図である。図16は、図14に示した内輪軌道面13Aの母線方向の形状を示す模式図である。図14および図15では、円錐ころ12の大端面16側の一部輪郭を2点鎖線で示す。
図14〜図16に示すように、内輪軌道面13Aは、緩やかな円弧のフルクラウニング形状に形成され、逃げ部25A、25Bに繋がっている。緩やかな円弧のフルクラウニングの曲率半径Rcは、内輪軌道面13Aの両端でたとえば5μm程度のドロップ量が生じる極めて大きなものである。図14に示すように、内輪軌道面13Aには逃げ部25A、25Bが設けられているので、内輪軌道面13Aの有効軌道面幅はLGとなる。
図15に示すように、大鍔面18の半径方向の外側には、大鍔面18に滑らかに接続する逃げ面18Aが形成されている。逃げ面18Aと円錐ころ12の大端面16との間に形成される楔形隙間によって、潤滑油の引き込み作用を高め、十分な油膜を形成することができる。内輪軌道面13Aの母線方向の形状は、緩やかな円弧のフルクラウニング形状を例示したが、これに限られず、ストレート形状としてもよい。
以上では、内輪13の内輪軌道面13Aの母線方向の形状を説明したが、外輪軌道面11Aの母線方向の形状も同様であるので、説明は繰り返さない。
ここで、円錐ころ12の転動面12Aを対数クラウニング形状(中央部23はストレート形状)とすると共に、内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aをストレート形状又は緩やかな円弧のフルクラウニング形状とした本実施形態に至った検証結果を次に説明する。
自動車のトランスミッション用円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ62mm、幅18mm)で、ミスアライメントがある低速条件(1速)の場合と、ミスアライメントがない高速条件(4速)の場合とにおける外輪軌道面11Aの接触面圧と、円錐ころ12の転動面12Aの有効転動面幅L(図12参照)に対する接触楕円の比を検証した。検証に用いた試料を表3に示す。
検証結果を表4に示す。
ミスアライメント無しで高速条件では、荷重条件が比較的軽いため、表4に示すように、試料4、試料5のいずれもエッジ面圧(PEDGE)の発生はない。一方、試料5では、外輪のフルクラウニングのドロップ量が大きく、接触楕円(長軸半径)が短くなるので、接触領域が長い場合に比べて、当り位置の中心Cのばらつきが大きくなり、円錐ころのスキューを誘発しやすくなり、実用不可(NG)とした。
一方、ミスアライメントありで低速条件では、高荷重であるため、試料5では、ころ有効転動面幅Lに対する接触楕円の比は100%となり、外輪にはエッジ面圧が発生する。さらに、エッジ当りとなることで、円錐ころの小端面側で接触駆動されるようになることから、大きなスキューを誘発してしまい、実用不可(NG)とした。
以上より、スキューを抑制するためには、外輪に大きなドロップ量のフルクラウニングを施すことは好ましくないことが検証され、試料4の有意性が確認できた。
<各種特性の測定方法>
窒素濃度の測定方法:
外輪11、円錐ころ12、内輪13などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層11B,12B、13Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、円錐ころ12については、図12に示した第1測定点31〜第3測定点33のそれぞれの位置から、中心線26と垂直な方向に円錐ころ12を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、円錐ころ12の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を円錐ころ12の窒素濃度とする。
また、外輪11および内輪13については、たとえば軌道面11A、13Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
外輪11および内輪13については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。加熱温度500℃×加熱時間1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受10において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
また、円錐ころ12については、図12に示した第1測定点31での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
ころの大端面の曲率半径の測定方法:
図7に示した円錐ころ12の大端面16における実曲率半径Rprocessおよび仮想曲率半径Rvirtualは、研削加工により実際に形成された円錐ころに対して任意の方法により測定され得るが、例えば表面粗さ測定機(例えばミツトヨ製表面粗さ測定機サーフテストSV‐3100)を用いて測定され得る。表面粗さ測定機を用いた場合には、まず転動軸を中心とする径方向に沿って測定軸を設定し、大端面の表面形状(母線方向の形状)を測定する。得られた大端面プロファイルに、上記頂点C1〜C4および中間点P5およびP6をプロットする。上記実曲率半径Rprocessは、プロットされた頂点C1、中間点P5および頂点C2を通る円弧の曲率半径として算出される。上記仮想曲率半径Rvirtualは、プロットされた頂点C1、中間点P5,P6および頂点C4を通る円弧の曲率半径として算出される。あるいは、大端面16全体の仮想曲率半径Rvirtualは、「複数回入力」というコマンドを用いて4点を取った値で近似円弧曲線半径を算出することで決定してもよい。大端面16の母線方向の形状は、直径方向に1回の測定とした。
一方で、設定曲率半径Rは、実際の研削加工により得られた円錐ころの各寸法等から、例えばJIS規格等の工業規格に基づいて見積もられる。
表面粗さの測定方法:
円錐ころ12の大端面16の算術平均粗さRaは任意の方法により測定できるが、たとえば表面粗さ測定機(例えばミツトヨ製表面粗さ測定機サーフテストSV‐3100)を用いて測定され得る。大端面の算術平均粗さ算術平均粗さRaは、たとえば上記測定機のスタイラスを円錐ころ12の大端面16に接触させる方法により測定できる。また、大端面16において、大鍔面と接触する円周状の表面領域である凸部16Aの算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は、当該凸部16Aの任意の4か所について表面粗さ測定機を用いて算術平均粗さRaを測定し、当該4か所の表面粗さの最大値と最小値との差を算出することにより求めることができる。
<円錐ころ軸受の作用効果>
本発明者は、円錐ころ軸受に関する以下の事項に着目し、上述した円錐ころ軸受の構成に想到した。
(1)円錐ころの大端面の設定曲率半径と加工後の実曲率半径との比率
(2)ころ係数γ
(3)円錐ころのスキューを抑制する内外輪の軌道面の形状
(4)円錐ころの転動面への対数クラウニングの適用
(5)円錐ころ、内輪および外輪への窒素富化層の適用
以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
設定曲率半径Rと距離RBASEの比率R/RBASEの値を上述のように設定することで、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部において十分な油膜厚さを確保して円錐ころ12と大鍔面18との接触および摩耗の発生を抑制し、当該接触部での発熱を抑制できる。
なお、比率R/RBASEの値については、以下の知見を参考として決定した。図17は、内輪13の大鍔面18と円錐ころ12の大端面16との間に形成される油膜厚さtを、Karnaの式を用いて計算した結果を示す。縦軸は、R/RBASE=0.76のときの油膜厚さt0に対する油膜厚さtの比t/t0である。油膜厚さtはR/RBASE=0.76のとき最大となり、R/RBASEが0.87を越えると急激に減少する。
図18は、内輪13の大鍔面18と円錐ころ12の大端面16間の最大ヘルツ応力Pを計算した結果を示す。縦軸は、図17と同様に、R/RBASE=0.76のときの最大ヘルツ応力P0に対する比P/P0で示す。最大ヘルツ応力Pは、R/RBASEの増大に伴って単調に減少する。内輪13の大鍔面18と円錐ころ12の大端面16間の辷り摩擦によるトルクロスと発熱とを低減するためには、油膜厚さtを厚く、最大ヘルツ応力Pを小さくすることが望ましい。本発明者らは、図17および図18の計算結果を参考とし、耐焼付き試験結果および製造時の交差レンジなどを考慮して上記比率R/RBASEの条件を決定した。
ここで、図17に示すように設定曲率半径Rと距離RBASEとの関係は、Karnaの式により油膜厚さtとの関係が一義的に決定される。しかし、後述するようにRBASEが大きくなるにつれ、ころのスキュー角度が大きくなる傾向がある。そのため、当該スキュー角度の影響を考慮し、比率R/RBASEの数値範囲を設定した。
なお、ここでは図17に示したようにKarnaの式を用いて比率R/RBASEと油膜厚さとの関係を特定しているが、当該関係に影響を及ぼす因子としては軸受の回転速度や荷重、潤滑油の粘度などの軸受の使用条件が考えられる。発明者が検討したところ、このような他の因子を総合的に考慮すると比率R/RBASEの値が0.8程度であれば、平均的に最も油膜厚さが十分に維持できる。そのため、上述したように上記比率R/RBASEの値については0.8を中央値としてその範囲を決定している。
また、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比率Rprocess/Rの値を上述のように設定することで、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触面圧を低減できる。さらに、円錐ころ12のスキューを抑制し大端面16と大鍔面18との接触部での油膜厚さを安定して確保することができる。
さらに、円錐ころ軸受10は、ころ係数が0.90を超えている。円すいころ軸受のころ係数γをγ>0.90にすることにより、負荷容量が向上するばかりでなく、軌道面の最大面圧を低下させることができるため、過酷潤滑条件下での極短寿命での表面起点剥離を防止することができる。
上記円錐ころ軸受10では、外輪11、内輪13、円錐ころとしてのころ12の少なくともいずれか1つにおいて窒素富化層11B、12B、13Bが形成されていてもよい。このような円錐ころ軸受10は、転動疲労寿命が向上して長寿命かつ高い耐久性を有する。さらに、当該窒素富化層11B、12B、13Bが形成されたことにより焼き戻し軟化抵抗性が向上することから、大端面16と大鍔面18との接触部が滑り接触により昇温された場合でも高い耐焼付き性を示すことができる。窒素富化層12B、13Bは大端面16と大鍔面18との両方に形成されてもよい。窒素富化層12Bは大端面16における上記円周状の表面領域(凸部16A)に形成されていてもよい。
上記円錐ころ軸受10では、窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上であってもよい。この場合、旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層11B、12B、13Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させた円錐ころ軸受10を得ることができる。
上記円錐ころ軸受10では、円錐ころ12の転動軸の延在方向における転動面の幅をL、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の、上記延在方向における転動面12Aの中点Nから大端面16側へのずれ量をαとしたとき、幅Lとずれ量αとの比率α/Lが0%以上20%未満であってもよい。異なる観点から言えば、当該当たり位置が、転動軸の延在方向における転動面12Aの中央位置または該中央位置よりも大端面16側にあることが好ましい。この場合、当該当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中央位置よりも小端面側にある場合と比べて、ころにスキューを発生させる接線力の発生位置(大端面16と内輪13の大鍔面18との接点位置)から当該当たり位置までの距離を小さくできるので、ころのスキュー角を低減でき、回転トルクの増大を抑制し得る。
上記円錐ころ軸受10では、内輪13において、内輪軌道面13Aと大鍔面18とが交わる隅部には逃げ部25Aが形成されていてもよい。この場合、円錐ころ12の転動面12Aにおける大端面16側の端部が逃げ部25Aに位置することで、当該端部が内輪13と接触することを防止できる。
上記円錐ころ軸受10では、内輪13の中心軸を通る断面において、内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aは直線状または円弧状であってもよい。円錐ころ12の転動面12Aにはクラウニングが形成されてもよい。クラウニングのドロップ量の和は、円錐ころ12の転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K1,K2,zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころ12の転動面12Aの母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたときに、式(1)で表されてもよい。
この場合、ころ12の転動面12Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、円錐ころ12の転動面12Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
また、内輪13の中心軸を通る断面において、内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aが直線状または円弧状となっており、円錐ころ12の転動面12Aは中央部がたとえばストレート面となっており当該ストレート面に連なっていわゆる対数クラウニングが設けられているので、円錐ころ12の転動面12Aと内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aとの接触領域の寸法(たとえば接触楕円の長軸寸法)を長くすることができ、結果的にスキューを抑制できる。さらに、内輪軌道面13Aまたは外輪軌道面11Aと転動面12Aとの当たり位置のばらつきを小さくできる。
また、上述のように転動面12Aと内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aとの接触領域の寸法(たとえば接触楕円の長軸寸法)を長くすると、モーメント荷重が作用するような使用条件ではころに従来のようなフルクラウニングを形成している場合、母線方向の端部においてエッジ面圧が発生する恐れがある。しかし上記円錐ころ軸受10では円錐ころ12に対数クラウニングが適用されているため、必要な接触領域の寸法を確保しつつ、このようなエッジ面圧の発生を抑制できる。
ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。図19は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図20は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図19および図20の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。図19および図20の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。図19および図20の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、図20に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、油膜切れや表面損傷を招く恐れがある。十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば図19に示すように、図20の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、図19及び図20には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受10を実現できる。
上記円錐ころ軸受10において、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比率Rprocess/Rが0.8以上であってもよい。
この場合、自動車のトランスミッションに適用された円錐ころ軸受10では他の機械装置(たとえばデファレンシャル装置など)に適用された場合より潤滑環境が良好ではないため、上記比率Rprocess/Rを0.8以上とすることで、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部における油膜厚さを十分に厚くできる。
上記円錐ころ軸受10において、円錐ころ12の大端面16の算術平均粗さ算術平均粗さRaが0.10μmRa以下であってもよい。この場合、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部における油膜厚さを十分に確保できる。
ここで、円錐ころ12のスキュー角と比率R/RBASEとの関係について検討する。比率R/RBASEは、円すいころ12の大端面16が、設定した理想的な球面(加工誤差を含まない)での接触状態であることを条件とする。比率R/RBASEと円錐ころ12のスキュー角との関係を表5に示す。
表5に示すように、ころのR/RBASE比が小さくなる程、スキュー角は大きくなる。一方、すでに説明した図5に示した円錐ころ12の大端面16の曲率半径Rは大端面16が理想的な球面でできていた時の曲率半径であり、大端面16は図6に示すようにR152=R364=R1564という条件が成り立つ、理想的な単一円弧曲線となる。しかし、実際には図7に示すように円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部とならない。図7に示すように、大端面16全体のR1564に対して片側のR152は同一ではなく、R1564より小さくなる。
図7に示すように円錐ころ12の大端面16における両端面がダレた場合、大端面16と内輪13の大鍔面18とは大端面16の片側(凸部16A)においてしか接触しない。このため、計算上の大端面16のR寸法はR152(図7の実曲率半径Rprocess)となり、理想的なR寸法(設定曲率半径R)に対して小さくなる(比率Rprocess/Rが小さくなる)。この結果、大鍔面18と大端面16との接触面圧が上昇すると同時にスキュー角も増加する。スキュー角が増大すると、円錐ころ12と大鍔面18との接触部で生じる接触楕円が大鍔面18をはみ出すことで油膜が切れ、結果的にかじり疵や焼付きが発生す場合がある。
ここで、潤滑状態が十分ではない環境下では、円錐ころ12のスキュー角が増加し、更に大鍔面18と大端面16との接触部における接触面圧も上昇すると、円錐ころ12と大鍔面18間の油膜パラメータΛが低下する。油膜パラメータΛが1を切ると金属接触が始まる境界潤滑となる。この結果、円錐ころ12の大端面16と内輪の大鍔面18との接触部では摩耗が生じ始め、この状態が続くと更に摩耗が促進され、焼付きの発生の懸念が高まる。
ここで、油膜パラメータΛとは「弾性流体潤滑理論により求まる油膜厚さhところの大端面および内輪の大鍔面の二乗平均粗さの合成粗さσとの比」で定義される。すなわち油膜パラメータΛ=h/σである。また、算術平均粗さRaと自乗平均粗さRqには一般にRq=1.25Raの関係があり、ころの大端面の自乗平均粗さをRq1と、大鍔面の自乗平均粗さをRq2とすると、合成粗さσはこのRqを用いて、σ=√((Rq1 2+Rq2 2)/2)と表せる。
油膜パラメータΛは合成粗さσに依存し、σの値が小さいほど油膜厚さを厚くすることができる。このため、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18の表面粗さは超仕上げ相当の粗さであり、σの値は0.09μmRq以下であることが望ましい。
上述した研削加工に伴う、設定曲率半径Rと円錐ころの大端面の曲率半径(実曲率半径Rprocess)の差による影響についての検討結果より、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比に着目し、大端面と大鍔面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータとの関係を検証した。さらに、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の実用可能な範囲の検証には、すべり接触となる内輪の大鍔面と円錐ころの大端面との間の潤滑油使用温度のピーク時における潤滑状態の厳しさのレベルが影響することが判明した。
このため、内輪の大鍔面と円錐ころの大端面との間の潤滑油使用温度のピーク時における潤滑状態の厳しさのレベルを表す指標を次のように検討した。(1)内輪の大鍔面と円錐ころの大端面との間の潤滑状態は、大鍔円錐ころの大端面の曲率半径(実曲率半径Rprocess)と潤滑油の使用温度により決まることに着目した。(2)また、トランスミッションやデファレンシャル用途で想定される使用潤滑油粘度に着目し、実用使用を加味し検討した。(3)そして、潤滑油使用温度のピーク時の最大条件として、120℃で3分(180秒)間継続する極めて厳しい温度条件を想定した。この温度条件は、ピーク時の最大条件であり、おおよそ3分を経過すれば、定常状態に戻るという意味を有し、この温度条件を本明細書において「想定ピーク温度条件」という。この「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態において急昇温を生じない実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比を設定するための閾値が求められることを見出した。
以上の知見に基づいて、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度を加味した潤滑状態により、潤滑状態の厳しさのレベルを表す指標が次式で求められることを考案した。この指標を本明細書において「つば部潤滑係数」という。
「つば部潤滑係数」=120℃粘度×(油膜厚さh)2/180秒
ここで、油膜厚さhは、例えば、Karnaの以下の式から求められる。
ここで、今回設定した「つば部潤滑係数」は、円錐ころ軸受のつば部潤滑限度を判明できる絶対評価指標値であると言える。自動車用途での上記とは別の条件での使用、または自動車用途以外の他の用途で使用される場合においては、潤滑油の最高温度、粘度又は想定ピーク温度条件を適宜変更して「つば部潤滑係数」を算出し、後述する閾値と比較し潤滑状態の厳しさを判別できる。更には、内輪の大鍔面が本発明のような概略直線ではなく曲面(中凹側)であったとしても、その曲面である大鍔面ところの大端面とで構成される幾何形状組合せにより算出される油膜厚さで「つば部潤滑係数」を導けば後述の閾値と比較し判別できる。すなわち、本明細書において、「つば部潤滑係数」は、油膜厚さ使用条件に基づいた絶対評価として表される円錐ころ軸受の潤滑状態の厳しさを評価した指標値である。本発明者は、円すいころ軸受の耐焼き付き性を向上するために、円すいころの大端面の最適な曲率半径と加工後の実曲率半径との比率を規定するとの新たな着想に至り、当該比率の最適化にあたっては、前述の通り実使用で絶対評価を可能とした「つば部潤滑係数」を導入して評価を行った。この評価によって、用途を限らない円すいころ軸受の耐焼き付き性向上に寄与する上記比率の規定を一般化し導き出すことができた。
次に、本発明の実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受を説明する。本実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受は、一般的な円錐ころ軸受に比べて、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態の厳しさのレベルが、若干緩和されたレベルで使用されることと、円錐ころの大端面の実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の実用可能な範囲が拡大された点が異なる。その他の構成及び技術内容については、上述した実施の形態に係る円錐ころ軸受と同じであるので、上述した実施の形態に係る円錐ころ軸受に関する説明のすべての内容を準用し、相違する点のみ説明する。
本実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受では、デファレンシャルによく使用されるギヤオイルであるSAE 75W−90を試料とし、「つば部潤滑係数」を算出した。75W−90の120℃粘度は10.3cSt(=10.3mm2/s)で、式(2)より求めた油膜厚さhは、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の各値に対して表6のとおりである。
75W−90の120℃粘度は、VG32に比べて若干高く、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態は、上述した実施の形態の場合に比べて若干緩和された条件となる。この潤滑状態を本明細書において「厳しい潤滑状態」という。
本発明の実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受について、回転試験機を用いた耐焼付き試験を実施した。耐焼付き試験の試験条件は以下のとおりである。
<試験条件>
・負荷荷重:ラジアル荷重4000N、アキシアル荷重7000N
・回転数:7000min−1
・潤滑油:SAE 75W−90
・供試軸受:円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ74mm、幅18mm)
実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、大端面と大鍔面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータ、「つば部潤滑係数」の結果を表7に示す。表7は接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータのそれぞれを比で表しているが、基準となる分母は、実曲率半径Rprocessが設定曲率半径Rと同一寸法に加工できた場合の値とし、各符号に0を付加している。
表7中の試験結果(1)〜(6)、総合判定(1)〜(6)の詳細を表8に示す。
表7および表8の結果より、デファレンシャル等のギヤオイルである75W−90が使用される「厳しい潤滑状態」では、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rは、0.5以上であることが望ましいという結論に至った。したがって、本実施の形態は、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rを0.5以上としている。このように、潤滑状態の厳しさのレベルを表す指標として「つば部潤滑係数」を導入することにより、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の実用可能な範囲を拡大することができる。これにより、使用条件に応じて、適正な軸受仕様を選定することができる。
実用可能な実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比を設定する際、閾値近辺のみを試験確認してもよい。これにより、設計工数を削減できる。なお、表7の「厳しい潤滑状態」では、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rが0.4の場合でも十分な「つば部潤滑係数」が得られたが、表7よりも若干粘度の低い潤滑油を使用するような「厳しい潤滑状態」において、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rが0.4の場合では、閾値8×10−9以上を満足しない可能性が考えられ、かつ、スキュー角も大きくなってしまうため、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rとしては0.5以上が適正である。
また、本発明の実施の形態の他の変形例に係る円錐ころ軸受について、トランスミッションによく使用される潤滑油であるタービン油ISO粘度グレード VG32を試料とし、「つば部潤滑係数」を算出した。VG32の120℃粘度は7.7cSt(=7.7mm2/s)で、油膜厚さhは式(2)より求めた。実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、油膜厚さhは表9のとおりである。
VG32の120℃粘度は低く、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度を加味した潤滑状態は極めて厳しい条件となる。この潤滑状態を本明細書において「極めて厳しい潤滑状態」という。
併せて、回転試験機を用いた耐焼付き試験を実施した。耐焼付き試験の試験条件は以下のとおりである。
<試験条件>
・負荷荷重:ラジアル荷重4000N、アキシアル荷重7000N
・回転速度:7000min−1
・潤滑油:タービン油ISO VG32
・供試軸受:円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ74mm、幅18mm)
実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、大端面と大鍔面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータ、「つば部潤滑係数」の結果を表10に示す。表10は接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータのそれぞれを比で表しているが、基準となる分母は、実曲率半径Rprocessが設定曲率半径Rと同一寸法に加工できた場合の値とし、各符号に0を付加している。
表10中の試験結果(1)〜(6)、総合判定(1)〜(6)の詳細を表11に示す。
表10、表11の結果より、トランスミッションオイルである低粘度のVG32が使用される「極めて厳しい潤滑状態」では、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rは、0.8以上であることが望ましいという結論に至った。したがって、本実施の形態の他の変形例に係る円錐ころ軸受では、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rを0.8以上としている。
表10、表11の結果から次のことが判明した。算出した「つば部潤滑係数」と耐焼付き試験の結果を照合すると、「つば部潤滑係数」が8×10−9を超えるように実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rを設定すると実用可能であることが確認できた。これにより、実用可能な実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比Rprocess/Rを設定するための閾値として「つば部潤滑係数」=8×10−9を用いることができる。
<円錐ころ軸受の製造方法>
図21は、図1に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図22は、図21の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図23は、図22に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。以下、円錐ころ軸受10の製造方法を説明する。
図21に示すように、まず部品準備工程(S100)を実施する。この工程(S100)では、外輪11、内輪13、円錐ころ12、保持器14などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、円錐ころ12となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は図13の点線で示した加工前表面12Eとなっている。
次に、熱処理工程(S200)を実施する。この工程(S200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪11、円錐ころ12、内輪13、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層11B、12B、13Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S200)における熱処理パターンの一例を図22に示す。図22は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図23は、焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層11B、12B、13Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図9に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図8に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
次に、加工工程(S300)を実施する。この工程(S300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。円錐ころ12については、図13に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング22Aおよび面取り部21を形成する。
次に、組立工程(S400)を実施する。この工程(S400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、図1に示した円錐ころ軸受10を得る。このようにして、図1に示した円錐ころ軸受10を製造することができる。
<円錐ころ軸受の用途の例>
次に、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。本実施形態に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、本実施形態に係る円錐ころ軸受は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。図24は、上述した円錐ころ軸受10を使用した自動車のデファレンシャルを示す。このデファレンシャルは、プロペラシャフト(図示省略)に連結され、デファレンシャルケース121に挿通されたドライブピニオン122が、差動歯車ケース123に取り付けられたリングギヤ124と噛み合わされ、差動歯車ケース123の内部に取り付けられたピニオンギヤ125が、差動歯車ケース123に左右から挿通されるドライブシャフト(図示省略)に連結されるサイドギヤ126と噛み合わされて、エンジンの駆動力がプロペラシャフトから左右のドライブシャフトに伝達されるようになっている。このデファレンシャルでは、動力伝達軸であるドライブピニオン122と差動歯車ケース123が、それぞれ一対の円錐ころ軸受10a、10bで支持されている。なお、円錐ころ軸受10は、自動車のデファレンシャルに限らず、トランスミッションに用いてもよい。
ところで、自動車の動力伝達装置であるトランスミッション又はデファレンシャル等においては、省燃費化のために、潤滑油(オイル)の粘度を低下させたり、少油量化を図る傾向にあり、円錐ころ軸受において、十分な油膜が形成され難いことがある。よって、寿命が向上した上記の円錐ころ軸受10をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
以上のように本発明の実施の形態について説明を行ったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。