以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。本実施形態に係る複合アンテナ装置1は、以下の説明の通り、第1周波数帯の電波を送信するとともに、第2周波数帯の電波を送受信する装置である。送受信の対象とする2つの周波数帯のうち、相対的に低いほうが第1周波数帯に該当し、相対的に高いほうが第2周波数帯に該当する。
なお、他の態様として複合アンテナ装置1は、第1周波数帯の電波を受信するように構成されていても良い。また、複合アンテナ装置1は、第1周波数帯の電波の送信と受信の両方を実施可能に構成されていても良い。第1周波数帯の電波を送受信可能な構成には、第1周波数の電波の送信のみを行う構成や、受信のみを行う構成も含まれるものとする。電波の送受信には可逆性があるため、或る周波数帯の電波を送信可能な構成は、当該周波数の電波を受信可能な構成でもある。第2周波数の電波を送受信可能な構成についても同様である。
ここでは一例として、複合アンテナ装置1は、車両用電子キーシステムで使用される低周波数(以降、LF:Low Frequency)帯に属する所定の周波数の電波を送信可能であり、且つ、極超短波(以降、UHF:Ultra High Frequency)帯において近距離無線通信で使用される所定の周波数帯の電波を送受信可能に構成されているものとする。この場合、LF帯が前述の第1周波数帯に相当し、UHF帯が前述の第2周波数帯に相当する。
LF帯において車両用電子キーシステムで使用される周波数とは例えば125kHzや134kHzである。UHF帯において近距離無線通信で使用される所定の周波数帯とは、例えば、2400MHzから2480MHzまでの帯域(以降、2.4GHz帯)である。以降では、より具体的な開示として、複合アンテナ装置1は、134kHzの電波を送信可能であり、且つ、2.4GHz帯の電波を送受信可能に構成されている場合を例にとって、複合アンテナ装置1の構成について説明する。複合アンテナ装置1が動作する第2周波数帯は、第1周波数帯のうちの複合アンテナ装置1が動作する周波数に比べて十分に(例えば100倍以上)高い周波数帯に設定されていることが好ましい。
なお、ここでの車両用電子キーシステムとは、車両に搭載された装置(以降、車載器)が、車両のユーザによって携帯される車両用携帯機と無線通信を実施することで車両ドアの施開錠等の車両制御を実行するシステムである。車両用電子キーシステムには、周知のキーレスエントリーシステムが含まれる。また、車両用電子キーシステムには、車載器と車両用携帯機とが無線通信による認証処理を実施し、当該認証処理が成功したことに基づいて車載器が所定の車両制御を実行するシステム(いわゆるスマートエントリーシステム)も含まれる。
一般的に、車載器から車両用携帯機への信号送信には、セキュリティの観点から通信エリアを車両近傍に限定するために、LF帯(例えば134kHz)の電波が使われる。なお、車両用携帯機から車載器への信号送信には、UHF帯(例えば300MHz帯)が使われる場合が多い。
また、ここでの近距離無線通信とは、通信範囲が例えば最大でも数十メートル程度となる所定の近距離無線通信規格に準拠した無線通信である。近距離無線通信規格としては、例えばBluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)や、Wi−Fi(登録商標)、ZigBee(登録商標)等を採用することができる。
複合アンテナ装置1は、例えば図1に示すように、車両のドアハンドル2の内部に収容されて使用される。ドアハンドル2は、例えば運転席用のドアや、助手席用のドア、後部座席用のドアといった種々のドアに配されているドアハンドルとすることができる。また、ドアハンドル2はトランク用のドアハンドルであってもよい。本実施形態では図1に示すようにドアハンドル2の長手方向が車両前後方向に沿うようにドアハンドル2が取り付けられて使用される形態を想定して、複合アンテナ装置1の構成について説明する。他の態様としてドアハンドル2は、その長手方向が車両の高さ方向に沿うように配置されていてもよい。
以降では便宜上、それぞれが互いに直交するX、Y、Z軸を備える右手系3次元座標系の概念を適宜導入して、複合アンテナ装置1の構成を説明する。Y軸は、ドアハンドル2の長手方向に平行な軸である。ここでは一例としてY軸は、ドアハンドル2が車両に取り付けられた状態において、車両の前端から後端に向かう方向を正方向とする軸とする。Z軸は、ドアハンドル2が車両に取り付けられた状態において、且つ車室内から車室外方向を正方向とする軸である。
X軸は、右手系3次元座標系において上記のY軸、Z軸の定義から定まる方向を正方向とする軸である。X軸は、ドアハンドル2が車両前後方向に沿って配置される場合には、車両の高さ方向に平行な軸となる。本実施形態のようにY軸が車両後方を正方向とする場合、X軸は車両下方向を正方向とする軸となる。
複合アンテナ装置1は、図2に示すように、第1アンテナ11、第2アンテナ12、送受信回路部13、第1給電ライン14、及び第2給電ライン15を備える。なお、第1アンテナ11、第2アンテナ12、及び送受信回路部13は、ドアハンドル2内部での位置や姿勢が変化しないように図示しない部材によってドアハンドル2に対して固定されている。第1アンテナ11、第2アンテナ12、及び送受信回路部13を支持する部材(以降、支持部材)は例えば樹脂等によって実現されれば良い。支持部材は、これらを収容するケースとして構成されていても良い。また、別の観点によれば、ドアハンドル2自体が複合アンテナ装置1を収容するケースと見なすこともできる。
第1アンテナ11は、LF帯の電波(ここでは134kHzの電波)を送信するためのアンテナである。第1アンテナ11は、磁界型アンテナであって、直方体形状の磁性体コア111と、磁性体コア111に巻回されるコイル112を備える。磁性体コア111の主材には、例えば、Ni−Zn系フェライトコアやMn−Zn系フェライトコア、金属系磁性体コア、アモルファス磁性体コアなどを用いることができる。
コイル112は、磁性体コア111に、導電線を巻き付けることによって実現することができる。磁性体コア111をコイル112の内部に配することで、同一サイズの空芯コイルと比べて磁場エネルギーを効率よく集めることができる。バーアンテナのコイル112には同一サイズの空芯コイルの透磁率倍の電流が誘起されるためである。また、第1アンテナ11をバーアンテナとする態様によれば、空芯コイルを用いて実現する態様に比べて第1アンテナ11自身のサイズを小型化できる。
なお、Mn−Zn系フェライト等の比抵抗が小さい磁性材料を磁性体コア111の主材料に採用する場合には、絶縁性樹脂等で形成されたボビンや絶縁テープ等を磁性体コア111とコイル112の間に介在させて、磁性体コア111とコイル112の間に高い絶縁性を確保することが好ましい。コイル112と磁性体コア111の絶縁性の確保は、コイル112の表面に絶縁樹脂をコーティングすることによって実現することもできる。
この第1アンテナ11は全体として棒状(換言すればバー状)に形成された磁界型アンテナ(いわゆるバーアンテナ)である。第1アンテナ11の長さ(以降、第1アンテナ長)は、磁性体コア111の長さ(以降、コア長)L1に相当する。コア長L1は、ドアハンドル2の内部空間の大きさに応じて適宜設計されれば良い。コイル112は巻数や巻線の直径等に応じた長さを備える。なお、本実施形態では一例として第1アンテナ11は、コイル112の長さ(以降、コイル長)L2がコア長L1よりも短くなるように形成されているものとするが、これに限らない。第1アンテナ11はコイル長L2とコア長L1とが一致するように形成されていても良い。ここでの一致が指す状態は、完全な一致に限らない。微小量(例えばコア長L1の20分の1程度)ずれている状態も含めることができる。
なお、コア長L1はコイル長L2よりも長いことが好ましいが、磁性体コア111はコア長L1がコイル長L2よりも短くなるように形成されていてもよい。コア長L1がコイル長L2よりも短い場合には、コイル長L2が第1アンテナ長に相当する。つまり、コア長L1とコイル長L2のうち、相対的に長いほうが第1アンテナ長に相当する。
ところで、本実施形態では第1アンテナ11は磁性体コア111とコイル112とを備えるものとするがこれに限らない。第1アンテナ11は磁性体コア111を備えていなくともよい。つまり第1アンテナ11は、空芯コイルでもよい。その場合の第1アンテナ11は所定の長さを有する円筒形状の磁界型アンテナに相当する。第1アンテナ11は、所定の長さを有するコイルを用いて実現されている磁界型アンテナであればよい。
第1アンテナ11は、ドアハンドル2の内部に設けられた空間(以降、ハンドル内空間)21において、コイル112の巻線方向がドアハンドル2の長手方向(つまりY軸方向)に概ね沿うように配置される。なお、図2に示すドアハンドル2の形状は概念的なものであって、XY平面におけるドアハンドル2の形状等は適宜設計されればよい。他の図におけるドアハンドル2はその存在を概念的に示すものであり、具体的な形状は図示している形状に限定されない。
コイル112が備える2つの端部は、第1給電ライン14を介して別途後述する送受信回路部13と電気的に接続されている。第1給電ライン14は、第1アンテナ11に給電するための構成であって、送受信回路部13と第1アンテナ11とを電気的に接続する構成である。第1給電ライン14は、接地電位を提供する接地ラインと、信号が流れる信号ラインとを備える。コイル112の一端は接地ラインと接続されており、他端は、信号ラインと接続されている。これにより第1アンテナ11は、送受信回路部13から入力された電気信号をLF帯の電波に変換して放射する。
第1給電ライン14は、同軸ケーブルを用いて実現されていても良いし、プリント基板に形成された導電線路(いわゆるパターン)を用いて実現されていても良い。仮に同軸ケーブルを用いて給電ラインを実現する場合には、同軸ケーブルの内部導体が信号ラインに相当し、外部導体が接地ラインに相当する。
なお、第1アンテナ11が送受信回路部13からの入力に基づき放射した電波は、ドアハンドル2から車体外側に伝搬していく。この第1アンテナ11は、車両用電子キーシステムにおけるリクエスト信号等の送信に供される。リクエスト信号は、ユーザによって携帯される車両用携帯機に対して所定のコード等を含む応答信号の返送を要求する信号である。
第2アンテナ12は、近距離無線通信に用いられる電波、すなわち、UHF帯の電波を送信するためのアンテナである。本実施形態では一例として第2アンテナ12は、2400MHz〜2480MHz(以降、2.4GHz帯)の電波を送受信可能に構成されているものとする。この第2アンテナ12は、周知の種々の電界型アンテナによって実現することができる。本実施形態では一例として、第2アンテナ12はダイポールアンテナとして構成されている。第2アンテナ12としてのダイポールアンテナは、2つの線状導体素子を備える。
なお、ここでの電界型アンテナとは、送信系でいえば、電圧の変化により電界を発生させるアンテナであり、磁界型アンテナとは電流の変化により磁界を発生させるアンテナである。また、別の観点によれば電界型アンテナは放射素子の近傍において磁界成分よりも電界成分のほうが強くなるアンテナであり、磁界型アンテナは放射素子の近傍において、電界成分よりも磁界成分のほうが強くなるアンテナである。ここでの近傍とは、いわゆる近傍界と呼ばれる範囲であって、放射素子からの距離がλ/2π以内となる範囲に相当する。なお、λは送受信の対象とする電波の波長である。さらに別の観点によれば、電界型アンテナは近傍界における、電界と磁界の比率である波動インピーダンス(換言すれば空間インピーダンス)がハイインピーダンスとなるアンテナであり、磁界型アンテナは近傍界で波動インピーダンスが低インピーダンスとなるアンテナである。なお、電界型アンテナと磁界型アンテナの何れのタイプのアンテナも、放射素子からの距離がλ/2π以上となる遠方界では波動インピーダンスは電波が伝搬する空間の誘電率と透磁率によって定まる一定値(空気中では約377Ω)に収斂する。
第2アンテナ12は、図3に示すように、ハンドル内空間Spの第1アンテナ11の側方となる領域のうち、さらに、第1アンテナ11の端部から所定の離隔距離Lx以上、第1アンテナ11の中心側となる領域である配置可能領域に配置されている。第1アンテナ11にとっての側方領域とは、図3に示すように第1アンテナ11の一端(以降、第1端部)11Aを通って第1アンテナ11に直交する第1平面Paと、他端(以降、第2端部)11Bを通って第1アンテナ11に直交する第2平面Pbとで挟まれる領域である。別の観点によれば、第1アンテナ11の側方領域とは、第1アンテナ11から見てコイル112の巻線方向に直交する方向に存在する領域である。
第1アンテナ11の側方領域のうち、第1アンテナ11の端部から所定の離隔距離Lx以上、第1アンテナ11の中心側となる領域とは、第1平面Paから所定の離隔距離Lxだけ第2平面Pb側に位置する第1平面Paに平行な第1内側平面Pcと、第2平面Pbから離隔距離Lxだけ第1平面Pa側に位置する第2平面Pbに平行な第2内側平面Pdとで挟まれる領域である。つまり、配置可能領域とは、ハンドル内空間Spにおいて第1内側平面Pcと第2内側平面Pdとで挟まれる領域である。
離隔距離Lxの具体的な値は適宜設計されれば良く、例えば第1アンテナ長としてのコア長L1の10分の1や20分の1などとすればよい。もちろん離隔距離Lxはコア長L1の2分の1よりも小さい値に設定される。図3におけるハッチングを施している領域は、側面視において第1アンテナ11の端部からの距離が離隔距離Lx未満となる領域、つまり、第2アンテナ12を配置することを禁止する領域(以降、禁止領域)を示している。なお、他の態様として禁止領域を設定しなくともよい。換言すれば、離隔距離Lxは0であってもよい。少なくとも第2アンテナ12は第1アンテナ11の側方領域に配置されればよい。
上記の第2アンテナ12の配置態様は、第2アンテナ12を第1アンテナ11の端部付近には配置しない態様である。第1アンテナ11はバーアンテナであるため、第1アンテナ11の励振に寄与する磁界は、第1アンテナ11の両端付近で密となる一方、第1アンテナ11の側方領域では疎となる。特に、第1アンテナ11の側方領域のうち、第1アンテナ11の中央部に対向する領域での磁束密度は最も疎となる。
つまり、第2アンテナ12は相対的に第1アンテナ11の励振によって生じる磁束線が疎となる領域に配置されている。このような配置態様によれば、第1アンテナ11が形成する磁界が第2アンテナ12の動作に与える影響を低減することができる。また、第2アンテナ12は第1アンテナ11の励振に伴って発生する磁束が疎となる領域に配置されるため、第2アンテナ12が第1アンテナ11を励振するための磁界を遮断することによって第1アンテナ11の性能を劣化させる恐れも抑制できる。つまり、第2アンテナ12による第1アンテナ11の性能の劣化を抑制することができる。
このように、第1アンテナ11にとっての側方領域であって、且つ、端部から所定の離隔距離Lx以上中央寄りとなる位置に第2アンテナ12を配置することで、第1アンテナ11と第2アンテナ12とのアイソレーションを高めることができる。また本実施形態ではより好ましい態様として、第2アンテナ12を第1アンテナ11の中央部と対向する位置に配置している。このような態様によればより一層、アイソレーションを高めることができる。
また、ダイポールアンテナとして実現されている第2アンテナ12は、上記の配置可能領域内において、Y軸に平行に配置されている。なお、第2アンテナ12をY軸に平行に配置する構成は、別の観点によれば第2アンテナ12を、磁性体コア111やコイル112と対向するように配置した構成に相当する。
このような配置態様によれば、複合アンテナ装置1のXZ平面でのサイズ(換言すれば太さ)を抑制することができる。なお、ここでの平行とは完全な平行に限らない。数度から十度程度傾いていても良い。つまり概ね平行である状態である略平行な状態を含みうる。対向配置が示す状態についても概ね対向している状態を含みうる。
ところで、第2アンテナ12は、第1アンテナ11にとっての側方領域であって、且つ、端部から所定の離隔距離Lx以上中央寄りとなる位置に配置されていればよい。第2アンテナ12の設置位置や姿勢は、上記の条件を満たす範囲において、第2アンテナ12の指向性に応じて適宜設計されれば良い。本実施形態では図4に示す通り、第2アンテナ12は第1アンテナ11よりもZ軸正方向となるように配置されているが、これに限らない。例えば、第2アンテナ12は、第1アンテナ11の下側や上側に配置されていても良い。ここでの下側とはX軸正方向であり、上側とはX軸負方向をさす。図4における符号12Aは、第2アンテナ12を第1アンテナ11の下側に配置する場合の設置位置の一例を示している。また、符号12Bは、第2アンテナ12を第1アンテナ11の上側に配置する場合の設置位置の一例を示している。なお、図4では、支持部材や送受信回路部13等の図示は省略している。
第2アンテナ12は、第2給電ライン15を介して送受信回路部13と電気的に接続されている。第2給電ライン15は、第2アンテナ12に給電するための構成であって、送受信回路部13と第2アンテナ12とを電気的に接続する構成である。第2給電ライン15は、第1給電ライン14と同様に接地電位を提供する接地ラインと、信号が流れる信号ラインとを備える。
第2アンテナ12としてのダイポールアンテナが備える1つの線状導体素子は接地ラインと接続されており、他方の線状導体素子は、信号ラインと接続されている。図中の符号121は、第2アンテナ12と第2給電ライン15との接続部(いわゆる給電点)を表している。これにより第2アンテナ12は、送受信回路部13から入力された電気信号を2.4GHz帯の電波に変換して放射する。また、2.4GHz帯の電波を受信し、電気信号に変換して送受信回路部13に出力する。
第2給電ライン15は、第1給電ライン14と同様に同軸ケーブルを用いて実現されていても良いし、プリント基板に形成された導電線路(いわゆるパターン)を用いて実現されていても良い。本実施形態では第2給電ライン15は、第1給電ライン14とは別に設けられている。なお、別途、変形例5として後述するように、第1アンテナ11用と第2アンテナ12用の給電ラインは共通化されていても良い。
送受信回路部13は、第1アンテナ11からLF帯の電波を送信したり、第2アンテナ12を介して2.4GHz帯の電波を送受信したりするための構成である。送受信回路部13は、例えば上記目的を実現するための種々の電子部品を基板に配置することによって実現されている。
送受信回路部13は図5に示すように、低周波数用モジュール16、高周波数用モジュール17、低周波数用ポート18、及び高周波数用ポート19を備える。低周波数用モジュール16は、第1アンテナ11からLF帯の電波を送信するための回路モジュールであり、高周波数用モジュール17は、第2アンテナ12を介して2.4GHz帯の電波を送受信するための構成である。
低周波数用ポート18は、例えば車両用電子キーシステムを構成する車載器3と低周波数用モジュール16とを通信接続するための端子である。複合アンテナ装置1が車両に搭載されている場合、送受信回路部13は、低周波数用ポート18を介して車載器3と接続される。高周波数用ポート19は、車両に搭載されている図示しない電子制御装置(以降、ECU:Electronic Control Unit)と高周波数用モジュール17とを通信接続するための端子である。ここでのECU4には、前述の車載器3も含まれうる。つまり、ECU4は車載器3であってもよい。複合アンテナ装置1が車両に搭載されている場合、送受信回路部13は、高周波数用ポート19を介してECU4と接続される。
低周波数用モジュール16は、より細かくは図5に示すように、マイコン161、送信IC162、増幅回路163、及び整合回路164を備える。マイコン161は低周波数用モジュール16(特に送信IC162)の動作を制御するマイクロコンピュータである。マイコンはマイクロコンピュータの略である。また、マイコン161は、低周波数用ポート18を介して車載器3と相互通信可能に構成されている。マイコン161はMPUやRAM等を用いて実現されている。マイコン161は、例えば車載器3からの指示に基づいて、送信IC162を駆動して所定の信号(例えばリクエスト信号)を送信させる処理を実施する。より具体的には、車載器3からの指示に基づいて、送信データに相当するベースバンド信号を生成して送信IC162に出力する。また、マイコン161は、高周波数用モジュール17が備えるマイコン171と相互通信可能に構成されており、互いの動作状況を共有し、例えば相手側が正常に動作しているか否かを判定する処理を実施する。
送信IC162はマイコン161から入力されたベースバンド信号に対してデジタルアナログ変換や変調などの所定の処理を施すことにより送信信号を生成し、増幅回路163に出力する集積回路(つまりIC:Integrated Circuit)である。送信IC162は、マイコン161からの指示に基づいて駆動する。
増幅回路163は送信IC162から出力される送信信号を増幅する回路である。増幅回路163はオペアンプ等の周知の増幅器を用いて実現することができる。増幅回路163は任意の要素である。整合回路164は、低周波数用モジュール16と第1アンテナ11とのインピーダンスを整合させるための回路である。なお、本実施形態では一例として第1給電ライン14と送信IC162との間に整合回路164を設けた構成、換言すれば、送受信回路部13が整合回路164を備える構成を採用しているが、これに限らない。整合回路164は、第1アンテナ11と第1給電ライン14との接続部分に設けられていても良い。
高周波数用モジュール17は、マイコン171、送受信IC172、ノイズフィルタ部173、及び整合回路174を備える。マイコン171は送受信IC172等の動作を制御するマイクロコンピュータである。また、マイコン171は、高周波数用ポート19を介してECU4と相互通信可能に構成されており、ECU4とのデータの受け渡しを制御する役割を担う。マイコン171はMPUやRAM等を用いて実現されている。
マイコン171は、ECU4からの指示に基づいて、送受信IC172を駆動させ、所定の信号を送信させる。また、マイコン171は送受信IC172から出力される受信データをECU4に出力する。なお、本実施形態の第2アンテナ12は、例えばBluetooth Low Energy等の近距離無線通信用のアンテナである。故にマイコン171は、例えば周辺デバイスの検索等といった、近距離無線通信に係る処理を実施するマイクロコンピュータに相当する。なお、本実施形態では、LF帯の電波送信に係るマイコンと近距離無線通信用のマイコンを、マイコン161、171として別々に設ける構成を採用しているがこれに限らない。マイコン161、171が提供する機能は1つのマイクロコンピュータによって提供されていても良い。
送受信IC172は、所定の近距離無線通信規格の準拠した変調処理や復調処理等を実施する集積回路(つまりIC:Integrated Circuit)である。例えば送受信IC172は、マイコン171から入力されたベースバンド信号に対して変調やデジタルアナログ変換等の所定の処理を施すことにより2.4GHz帯の送信信号を生成し、ノイズフィルタ部173に出力する。また、送受信IC172は、ノイズフィルタ部173から入力される信号に対してアナログデジタル変換や復調等の所定の処理を実施することで受信信号に対応するデータ(つまり受信データ)を取得し、マイコン171に出力する。送受信IC172は、マイコン171からの指示に基づいて駆動する。
ノイズフィルタ部173は、近距離無線通信に使用される周波数(つまり2.4GHz)よりも十分に低い周波数の信号を遮断する回路(いわゆるハイパスフィルタ)である。ここでは一例としてノイズフィルタ部173は、所定の静電容量を有するコンデンサ173aを回路に直列に接続することによって実現されているものとする。コンデンサ173aの静電容量は適宜設計されればよい。本実施形態では一例としてコンデンサ173aの静電容量は1000pFに設定されているものとする。ノイズフィルタ部173は信号線としての給電ライン14に重畳しているノイズが、送受信IC172等に伝達することを抑制する。
ノイズフィルタ部173は、コンデンサと抵抗器を組み合わせたCRフィルタとして実現されていても良いし、コンデンサとインダクタを組み合わせたCLフィルタとして実現されていても良い。また、コンデンサとオペアンプを組み合わせて実現されていても良い。なお、送受信IC172が出力する送信信号は2.4GHz帯の信号であるため、ノイズフィルタ部173によって遮断されることはない。ノイズフィルタ部173は整合回路174と第2給電ライン15との間に設けられていてもよい。例えばノイズフィルタ部173は送受信IC172よりも第2アンテナ12側に配置されていれば良い。
整合回路174は、高周波数用モジュール17と第2アンテナ12とのインピーダンスを整合させるための回路である。なお、整合回路174は、第2アンテナ12と第2給電ライン15との接続部分に設けられていても良い。
<実施形態のまとめ>
以上の構成では、第1アンテナ11にとっての側方領域、つまり第1アンテナ11の励振によって発生する磁束の経路外に、第2アンテナ12を配置する。このような構成によれば磁界型アンテナとしての第1アンテナ11の性能の劣化を抑制することができる。特に、上述した実施形態ではより好ましい態様として、第2アンテナ12を第1アンテナ11にとっての側方領域であって、且つ、各端部からの距離が所定の離隔距離Lx以上中央寄りとなる位置に配置する。このような態様によればより一層アンテナ同士のアイソレーションを高めることができる。
また、上記の構成では、特許文献1のような、第2アンテナ12に対する第1アンテナ11の電磁気的な干渉を抑制するための金属部材を、第2アンテナ12を間に挟んで第1アンテナ11とは反対側に配置する必要がない。その結果、複合アンテナ装置1としてのサイズを抑制できる。つまり、上記の構成によればコイルを用いた磁界型アンテナである第1アンテナ11と、第2アンテナ12とを備える複合アンテナ装置1において、第1アンテナ11の性能の劣化を抑制しつつ、小型化することができる。
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は矛盾が生じない範囲において組み合わせて実施することができる。
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
[変形例1]
上述した実施形態では、第2アンテナ12をダイポールアンテナとして構成する態様を開示したが、これに限らない。第2アンテナ12は、図6及び図7に示すように、パッチアンテナとして構成されていても良い。図6は、複合アンテナ装置1をZ軸正方向から見た時の第1アンテナ11及び第2アンテナ12を示す図である。図7は、複合アンテナ装置1をY軸正方向から見た時の第1アンテナ11及び第2アンテナ12を示す図である。何れの図においても送受信回路部13等の一部の部材の図示は省略している。
パッチアンテナとしての第2アンテナ12は、地板122とパッチ部123とを備える。地板122は、第2給電ライン15の接地ラインと接続されている導電性の板状部材である。パッチ部123は、第2給電ライン15の信号ラインと接続されている導電性の板状部材である。パッチ部123は地板122に対して対向する姿勢で配置されている。
なお、一般的にパッチアンテナは地板122からパッチ部123に向かう方向に指向性を有する。故に、パッチアンテナとしての第2アンテナ12は、地板122からパッチ部123に向かう方向がZ軸正方向と一致するように配置されることが好ましい。図6等ではパッチ部123の形状を正方形とする態様を図示しているが、パッチ部123の形状は長方形や円形などであっても良い。
[変形例2]
第2アンテナ12は、図8、図9及び図10に示すように、放射素子が板状に形成されている逆Fアンテナ(いわゆる板状逆Fアンテナ)として構成されていても良い。図8は、複合アンテナ装置1をZ軸正方向から見た時の第1アンテナ11及び第2アンテナ12を示す図である。図9は、複合アンテナ装置1をY軸正方向から見た時の第1アンテナ11及び第2アンテナ12を示す図である。図10は、複合アンテナ装置1をZ軸正方向から見た時の第1アンテナ11及び第2アンテナ12を示す図である。何れの図も送受信回路部13等の図示は省略している。
板状逆Fアンテナとしての第2アンテナ12は、地板122、板状放射素子124、短絡板125、及び給電部126を備える。地板122は、変形例1と同様に、第2給電ライン15の接地ラインと接続されている導電性の板状部材である。
板状放射素子124は、給電部126を介して第2給電ライン15の信号ラインと接続されている導電性の板状部材である。板状放射素子124は地板122に対して対向するように配置されている。板状放射素子124と地板122との間隔は、第1アンテナ11のZ軸方向の長さよりも大きく設定されている。
板状放射素子124は矩形状に形成されている。板状放射素子124は、短辺と長辺の長さの合計値が電気的に第2周波数帯の電波の波長の1/4に相当する長さに設定されていればよい。ここでの電気的な長さとは、当技術分野において周知の通り、誘電体による波長短縮効果やフリンジング電界等の影響によって定まる実効長である。
板状放射素子124は1組の互いに対向する縁部がX軸に平行となり、他の組の縁部がY軸と平行となるように配置されるものとする。また、板状逆Fアンテナとして第2アンテナ12は、地板122からパッチ部123に向かう方向がZ軸方向と一致するように配置されている。
短絡板125は、板状に形成されている導電性の部材である。短絡板125は、板状放射素子124が備えるY軸に平行な縁部から地板122に向かって立設されている。短絡板125のY軸方向の長さは、板状放射素子124のY軸方向の長さの4分の1程度の値に設定されていれば良い。短絡板125の一端は、板状放射素子124が備えるY軸に平行な1つの縁部の隅部と接続されており、他端は地板122と接続されている。
給電部126は、導電性の部材であって、ピン状或いは所定の幅を有する板状に形成されている。給電部126は、板状放射素子124において短絡板125が配置されている縁部の任意の位置から、地板122が存在する方向に向かって立設されている。短絡板125と給電部126との離隔は適宜設計されればよいが、板状放射素子124のY軸方向の長さの4分の1程度に設定されていることが好ましい。
給電部126は地板122とは接続しないように構成されている。本実施形態の給電部126のZ軸方向の長さが地板122と板状放射素子124との離隔よりも短く形成されることよって、地板122と給電部126との電気的な絶縁性を確保している。給電部126の地板122側の端部は、給電ライン15の信号ラインと接続されている。
図11は、本変形例2での第1アンテナ11の周波数特性と、第2アンテナ12を除去した構成(以降、比較構成)での第1アンテナ11の周波数特性のそれぞれを試験した結果を示すグラフである。図11に示すグラフの横軸は周波数を表しており、縦軸はインピーダンスを表している。一点鎖線が比較構成における第1アンテナ11の周波数毎のインピーダンスを表しており、実線が本変形例2として開示の構成(以降、提案構成)における第1アンテナ11の周波数毎のインピーダンスを表している。比較構成は、第2アンテナ12を備えない点以外は提案構成と同じものとしている。
図11に示す通り、提案構成は比較構成と同様の周波数特性を備えており、第2アンテナ12を配置しても共振周波数はほぼ変化しない。つまり、上記の構成によれば第2アンテナ12は、第1アンテナ11の特性(具体的には磁界の生成)には影響を与えない事がわかる。つまり、以上のように第2アンテナ12を板状逆Fアンテナとして実現した場合であっても、上述した実施形態と同様の効果を奏する。
また、図12は、提案構成での第2アンテナ12の周波数毎の電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)を、車両ドアに取り付けていない状態(以降、ドア非取付時)と、車両ドアに取り付けた状態(以降、ドア取付時))とで計測した結果を示すグラフである。図12のグラフの横軸は周波数を、縦軸はVSWRをそれぞれ示している。破線で示すグラフは、ドア非取付時のVSWRを示しており、実線は、ドア取付時のVSWRを示している。グラフ中にドットパターンのハッチングを施している周波数帯は、近距離無線通信で使用される周波数帯、すなわち、2400MHz〜2480MHzを示している。
当技術分野では一般的に、VSWRが3以下となる範囲が実用可能な周波数と見なされる事が多い。そのような当技術分野において慣用されている基準に則れば、提案構成は、近距離無線通信用のアンテナとして十分に実用可能なレベルで動作することがわかる。また、提案構成によれば、ドア取付時とドア非取付時との何れの状態においても、概ね2300MHz〜2630MHzまでの周波数帯で、VSWRが3以下となる。つまり、VSWRが3以下となる範囲をアンテナの動作帯域(換言すれば信号の送受信に使用可能な周波数帯域)と見なす場合、300MHz以上の動作帯域を実現できている。
なお、ドア非取付時の第2アンテナ12の共振周波数は2450.6MHzであり、ドア取付時の第2アンテナ12の共振周波数は2428.1MHzである。いずれも近距離無線通信で使用される周波数帯に共振周波数が属しており、所望のアンテナ特性となっている。また、提案構成の複合アンテナ装置1は、2.4GHz帯においては車両ドアに取り付けられた状態であっても、車両ドアに取り付けていない状態と同レベルのVSWR特性を提供することができる。
さらに、提案構成において、第2アンテナ12の指向性を実測した結果を図13、図14、及び図15に示す。図13は2402MHzでの指向性を試験した結果を示しており、図14は2441MHzでの指向性を試験した結果を示しており、2480MHzでの指向性を試験した結果を示している。
図13〜図15の何れの図においても(A)はYZ平面での指向性を表しており、(B)はZX平面での指向性を表している。(C)はXY平面での指向性を表している。なお、ここでのYZ平面、ZX平面、及びXY平面は、上述した3次元座標系の原点を、第2アンテナ12の地板122の中心に設定した場合のX軸、Y軸、及びZ軸から定まる平面である。
また、図13〜図15における一点鎖線は垂直偏波の利得を示しており、二点鎖線は水平偏波の利得を示している。実線は、垂直偏波と水平偏波を合成した利得(つまり合成利得)を示している。2402MHzにおけるYZ平面での指向性は、図13の(A)に示す通りであって、広範囲に及ぶヌルを備えない。つまり、略円形となっている。なお、2402MHzにおけるYZ平面での垂直偏波の平均利得は−9.8dBiであり、水平偏波の平均利得は−3.6dBiである。合成利得は−3.6dBiである。
また、2402MHzにおけるZX平面での指向性は図13の(B)に示す通り、広範囲に及ぶヌルを備えない。つまり、略円形となっている。なお、2402MHzにおけるZX平面での垂直偏波の平均利得は−8.5dBiであり、水平偏波の平均利得は−10.0dBiである。合成利得は−6.2dBiである。
2402MHzにおけるXY平面での指向性は図13の(C)に示す通り、広範囲に及ぶヌルを備えない。つまり、略円形となっている。なお、2402MHzにおけるXY平面での垂直偏波の平均利得は−5.4dBiであり、水平偏波の平均利得は−7.1dBiである。合成利得は−3.1dBiである。
以上では2402MHzにおける各平面での指向性について詳細に記載したが、2441MHzや、2480MHzといった、他の周波数での平面毎の指向性は、2402MHzと同様の傾向を備える。
なお、YZ平面での総合的な平均利得は、−3.73dBiである。YZ平面での総合的な平均利得とは、2402MHz、2441MHz、及び2480MHzのそれぞれでのYZ平面での合成利得の平均値である。また、ZX平面での総合的な平均利得は−6.27dBiであり、XY平面での総合的な平均利得は−3.3dBiである。
3平面の平均利得は−4.2dBiであり、十分に実用可能な利得なっている。また、何れの平面においても実線で示す合成利得としては大きなヌルを備えない。合成利得は略球状となっている。つまり、無指向性アンテナとして動作する。
[変形例3]
なお、以上では第2アンテナ12をダイポールアンテナや、パッチアンテナ、逆Fアンテナとして構成する態様を例示したが、第2アンテナ12はその他の種類のアンテナであっても良い。例えば第2アンテナ12は、モノポールアンテナであってもよいし、0次共振を利用するメタマテリアルアンテナであってもよい。
0次共振を利用するアンテナとは、地板と、当該地板に対向するように配置されるとともに任意の位置に給電点が設けられた平板状の金属導体(以降、対向導体)と、対向導体の中心と地板とを電気的に接続する短絡部とを用いてなるアンテナである。この種のアンテナでは、地板と対向導体との間に形成される静電容量と、短絡部が備えるインダクタンスとによって、その静電容量とインダクタンスに応じた周波数において並列共振を生じさせる。その他、第2アンテナ12は磁界アンテナであってもよい。
[変形例4]
第2アンテナ12は、送受信回路部13が形成されている基板にパターン形成されていてもよい。その場合、第2アンテナ12と送受信回路部13とを備える基板は、第1アンテナ11の側方において、基板の一面が第1アンテナ11と対向するように配置されていればよい。基板上に配置されている第2アンテナ12が第1アンテナ11にとっての側方領域に該当する位置に存在するように配置されていればよい。このような構成は、第2アンテナ12と送受信回路部13とを一体的に備えるモジュール(実体的には基板)を、第1アンテナ11の側方に配置した構成に相当する。また、送受信回路部13を第1アンテナ11の側方領域に配置した構成に相当する。
[変形例5]
第2アンテナ12の動作周波数が第1アンテナ11の動作周波数に対して十分に高く、且つ、第2アンテナ12が第1アンテナ11の動作周波数での入力インピーダンスが第1アンテナ11自身の入力インピーダンスに対して十分に大きい値となるタイプのアンテナ(以降、低周波高抵抗型アンテナ)によって実現されている場合には、第1給電ライン14と第2給電ライン15とは共通化することができる。以下、上記の技術的な思想に基づく構成の一例を変形例5として説明する。
なお、第2アンテナ12の動作周波数が第1アンテナ11の動作周波数に対して十分に高い場合とは、例えば第2アンテナ12の動作周波数が第1アンテナ11の動作周波数の100倍以上(より好ましくは1000倍以上)の周波数となっている場合である。第1アンテナ11の入力インピーダンスに対して十分に大きい値とは、例えば第1アンテナ11の入力インピーダンスの100倍以上の値である。
低周波高抵抗型アンテナとは、例えばダイポールアンテナや、パッチアンテナ、モノポールアンテナ、逆L型アンテナなどである。なお、低周波高抵抗型アンテナは、別の観点によれば、信号ラインに接続されている導体(つまり放射素子)が、接地ラインに接続されている導体(例えば地板122)に短絡されていないアンテナ(以降、非短絡型アンテナ)である。非短絡型アンテナは、アンテナ単体において給電点と接地電位が開放されている電界型アンテナに相当する。
図16は、変形例5の複合アンテナ装置1の電気的な接続関係を示したものである。本変形例5における第2アンテナ12は一例として実施形態と同様に、ダイポールアンテナとして構成されている。ダイポールアンテナとしての第2アンテナ12は、第1アンテナ11に給電するための給電ライン14と接続されている。つまり、1つの給電ライン14に、第1アンテナ11と第2アンテナ12とが接続している。送受信回路部13内における給電ライン14は、低周波数用モジュール16と接続される経路と、高周波数用モジュール17と接続される経路とが分岐する分岐点14aを備える。
また、本変形例における送受信回路部13は、マイコン161からの指示信号に基づいて接続状態が切り替わるスイッチ20を備える。給電ライン14はスイッチ20を介して低周波数用モジュール16と接続されている一方、高周波数用モジュール17とは直接接続されている。スイッチ20は分岐点14aと低周波数用モジュール16との間に配置されている。
マイコン161は、LF帯の電波を送信させる必要がない場合、スイッチ20をオフ状態に設定する。スイッチ20がオフ状態に設定されている場合、送信IC162等のLF帯の電波送信に係る構成は、給電ライン14から切り離される。故に、第2アンテナ12が受信した2.4GHz帯の信号や、送受信IC172が出力した2.4GHz帯の送信信号が低周波数用モジュールに吸い込まれる恐れはない。以降では便宜上、2.4GHz帯の信号のことを高周波信号と称するとともに、LF帯の信号のことを低周波信号と称する。
一方、マイコン161は、送信IC162を駆動してLF帯の電波を送信させる場合には、送信IC162からの信号が第1アンテナ11に伝達されるように、スイッチ20に対して制御信号を出力し、スイッチ20をオン状態に設定する。なお、LF帯の電波を送信させる場合とは、例えば車載器3からリクエスト信号等の送信指示が入力された場合などである。
また、マイコン161は、マイコン171と互いの動作状況に関する情報をやり取りし、互いの動作を調停する。具体的には、マイコン161はLF帯の電波を送信させる場合、マイコン171に対して高周波信号の送信を停止するように要求する信号(以降、停止要求信号)を出力する。例えば、停止要求信号は、ハイレベル信号又はローレベル信号とすることができる。マイコン171はマイコン161から停止要求信号が入力されている場合、高周波信号の送信に係る処理を停止する。
また、マイコン161は、LF帯の電波の送信が完了すると停止解除信号を送信する。マイコン171は停止要求信号を受信してから停止解除信号を受信するまで高周波信号の送信に係る処理を停止する。なお、マイコン171は、停止要求信号を受信してから所定の待機時間経過したタイミングで高周波信号の送信を実行可能な状態に移行するように構成されていても良い。
なお、他の態様としてマイコン161は、LF帯の電波の送信が完了するまで停止要求信号としてのハイレベル信号又はローレベル信号を出力し続ける構成としてもよい。その場合、マイコン171は停止要求信号の入力が解除されるまで、2.4GHzの電波の送信を停止し続ける。
ただし、マイコン171がマイコン161からの指示があるまで高周波信号の送信を停止する構成では、マイコン171が、緊急性や重要度の高い信号を送信する必要がある場合であってもすぐには送信できなくなってしまう。つまり、緊急性や重要度の高い高周波信号の送信遅延が問題となりうる。
故に、マイコン171は、マイコン161からの要求に基づき信号送信を停止している状況において、予め定められた特定のデータに対応する信号を第2アンテナ12から送信させる必要が生じた場合には、マイコン161に対して停止要求信号を送信するとともに、高周波信号の送信を実行するように構成されていてもよい。そのような構成においては、マイコン161は、マイコン171からの要求に基づき低周波信号の送信に係る処理を停止するとともに、スイッチ20をオフ状態に設定する。
以上の構成における複合アンテナ装置1の作動として、低周波信号を送信する場合の作動と、高周波信号を送受信する場合の作動のそれぞれについて順に説明する。まずは、低周波信号を送信する場合の複合アンテナ装置1の作動について述べる。
マイコン161が低周波信号を送信する場合、スイッチ20がオン状態となって送信IC162から出力された低周波信号が給電ラインに流れる。このとき、低周波信号にとって、高周波数用モジュール17が備えるノイズフィルタ部173のインピーダンスZ1は、下記式1により、ハイインピーダンス(具体的には約1.2MΩ)となり、低周波信号は高周波数用モジュール17には流入しない。
式1:Z1=1/2πfC=1/(2π×134×10^3×1000×10^−12)
また、第2アンテナ12自体も、2.4GHzで励振するように構成されており、低周波信号にとっては入力インピーダンスが約1.0MΩの回路として振る舞う。故に、低周波信号は第2アンテナ12にも流入しない。つまり、低周波信号にとっては、高周波数用モジュール17及び第2アンテナ12の存在は無視することができる。故に、送信IC162から出力された低周波信号は、第2アンテナ12等に吸い込まれることなく、第1アンテナ11を励振させ、LF帯の電波となって放射される。
一方、低周波信号を送信しない場合には、マイコン161はスイッチ20をオフにする。スイッチ20がオフとなっている状況においては、送信IC162等のLF帯の電波送信に係る構成は給電ライン14から切り離される。故に、第2アンテナ12が受信した高周波信号や、送受信IC172が出力した送信信号としての高周波信号が低周波数用モジュールに吸い込まれる恐れはない。
また、第1アンテナ11は磁界型アンテナであって、相対的に大きいインダクタンス(例えば100μH)を備える。故に、高周波信号にとって、第1アンテナ11のインピーダンスZ2は、下記式2により、約1.5MΩとなり、低周波信号は高周波数用モジュール17には流入しない。
式2:Z2=2πfL=2π×2.4×10^9×100×10^−6
故に、高周波信号は第1アンテナ11には流入しない。つまり、高周波信号の送受信時には、低周波数用モジュール16及び第1アンテナ11の存在は無視することができる。故に、送受信IC172は第2アンテナ12を介して高周波信号を送受信することができる。
以上の構成によれば、実施形態として開示の構成に比べて給電ラインの数を減らすことができる。仮に給電ラインを同軸ケーブルなどのケーブルによって実現する場合には、ケーブル数を低減できる。ケーブル数を削減できれば、その分だけ、小型化及び製造コストの低減を図ることができる。
また、給電ラインの数の削減に伴い、給電ラインとしてのケーブルの引き回しやパターン形成の複雑さを抑制できる。その結果、複合アンテナ装置1の構成を簡素化することができる。
なお、以上では高周波信号が低周波数用モジュール16に流入することを抑制するための構成(以降、遮断部)として、給電ライン14の分岐点14aと低周波数用モジュール16の間にスイッチ20を設けた構成を開示したが、遮断部の実現方法はこれに限らない。
図17に示すように、高周波信号を遮断するとともに低周波信号を通過させるローパスフィルタ21をスイッチ20の代わりに設けても良い。そのような構成によればマイコン161はスイッチ20の接続状態を制御する必要がなくなり、マイコン161の処理負荷を軽減したりマイコン161の機能を削減したりすることができる。また、マイコン161とスイッチ20とを接続する信号線を配置する必要もなくなる。さらに、遮断部としてスイッチ20を用いる構成では、スイッチ20がオン状態となっている場合、第2アンテナ12が受信した高周波信号が低周波数用モジュール16に流入することによって、当該高周波信号の受信に失敗してしまう恐れがある。対して、ローパスフィルタ21を用いる構成によればそのような問題も低減できる。
なお、ローパスフィルタ21は、所定のインダクタンスを有するインダクタ21aを図17に示すように回路に直列に接続することによって実現されればよい。インダクタ21aのインダクタンスは、適宜設計されればよい。インダクタ21aを回路の直列接続することによってローパスフィルタ21を実現する構成によれば高周波信号が接地ラインに流出することを抑制できる。ローパスフィルタ21は第2アンテナ12が受信した高周波信号や、送受信IC172が送信した高周波信号が低周波数用モジュール16に流入することを抑制する。
なお、ローパスフィルタ21の代わりにバンドパスフィルタを配置してもよい。ただし、何れの場合も信号ラインと接地ラインとをコンデンサによって接続するタイプのフィルタ回路は採用しないことが好ましい。信号ラインと接地ラインとを接続するコンデンサが存在する場合、高周波信号が接地ラインに流出してしまい、第2アンテナ12の利得が低下してしまうためである。なお、上記の事情による損失が所定の許容範囲に収まる限りにおいては、ローパスフィルタ21等として、信号ラインと接地ラインとを接続するコンデンサを備えるタイプのフィルタ回路を採用しても良い。
[変形例6]
以上では複合アンテナ装置1をドアハンドル2の内部に配置した構成を開示したが、これに限らない。車室内のインストゥルメントパネルやセンターコンソール、天井内に配置されていてもよい。
[変形例7]
以上では第1アンテナ11を、LF帯の電波を送信するものとしたがこれに限らない。第1アンテナ11は例えば超長波(VLF:Very Low Frequency)帯の電波(例えば20〜30kHzの電波)を送信するように構成されていても良い。また、第1アンテナ11は、中波(MF:Medium Frequency)帯の電波を受信するように構成されていてもよい。より具体的には中波ラジオ(いわゆるAMラジオ)放送の電波を受信するように構成されていてもよい。
[変形例8]
以上では、第2アンテナ12が送受信の対象とする電波は2.4GHz帯の電波とする態様を開示したがこれに限らない。第2アンテナ12が送受信の対象とする電波(以降、対象電波)は、適宜設計されれば良く、他の態様として例えば760MHzや、900MHz、1.17GHz、1.28GHz、1.55GHz、5.8〜5.9GHz等の電波としてもよい。
また、以上では第2アンテナ12を近距離無線通信用のアンテナとする態様を開示したが、これに限らない。第2アンテナ12は、車両用電子キーシステムを構成する車両用携帯機から車載器への信号送信に使用される周波数帯の電波を受信するためのアンテナとしてもよい。車両用携帯機から車載器への信号送信に使用される周波数帯とは例えば300MHz〜400MHz帯である。
さらに第2アンテナ12は、5.8GHz帯等を用いた狭域通信(いわゆるDSRC:Dedicated Short Range Communications)用のアンテナとしてもよい。なお、狭域通信は、通信範囲による分類によれば近距離無線通信に含まれうる。また、第2アンテナ12は、13.56MHz帯の電波を用いた近接場通信(いわゆるNFC:Near Field Communication)用のアンテナとしてもよい。ここでの近接場通信とは、近距離通信よりも通信可能な距離が十分に小さい通信方式による通信を指す。例えば、近接場通信は、通信可能な距離が数cmから数十cm程度となる通信を指す。近接場通信は、ISO/IEC 14443やISO/IEC 18092といった、周知の通信規格に準拠する無線通信である。本開示における近距離無線通信は近接場通信とは通信可能な距離等の観点において異なるものである。
その他、第2アンテナ12は全球測位衛星システム(以降、GNSS:Global Navigation Satellite System)が備える測位衛星が送信する電波を受信するものでもよいし、ミリ波を送受信するためのアンテナでもよい。第2アンテナ12の用途は適宜設計されれば良い。第2アンテナ12は磁界型アンテナであってもよい。