以下、図面を参照して本開示の実施の形態に係る光変調素子および真贋判定装置について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や、長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
以下の実施形態の光変調素子は、入射光の位相を変調することで光像を再生する要素素子を備えている。要素素子は、回折格子によって構成されている。具体的には、要素素子は、ホログラム構造体によって構成されており、特にフーリエ変換ホログラムによって構成されている。フーリエ変換ホログラムは、原画像のフーリエ変換像の波面情報を記録することで作製されるホログラムであり、いわゆるフーリエ変換レンズとして機能する。特に位相変調型のフーリエ変換ホログラムは、フーリエ変換像の位相情報を多値化して深さとして媒体に記録することで作製される凹凸面を有するホログラムであり、媒体の光路長差に基づく回折現象を利用して再生光から原画像の光像を再生する。このフーリエ変換ホログラムは、例えば、所望の光像(すなわち原画像)を精度良く再生できる一方で、比較的簡単に作製することができる点で有利である。ただし、本発明を適用可能な光変調素子の要素素子は、フーリエ変換ホログラムには限定されず、他の方法で光像を再生するホログラムや他の構造を有する光変調素子に対しても本発明を適用することが可能である。
以下の説明では、特に断りがない限り、光変調素子に対する入射光の入射角度が0°(すなわち光変調素子の入射面の法線方向に沿った角度)の場合を想定している。また本明細書において示される屈折率の具体的な値は、特に断りがない限り、波長589.3nmの光を基準としている。また以下の説明では、光変調素子に関して示される屈折率や凹凸面の特性値は、特に断りがない限り、屈折率が1.0の空気環境下において光変調素子が使用される場合を想定して導き出された値である。
光変調素子は、図6に示すように観察者および光源が光変調素子に対して同じ側に配置され、光変調素子についての反射による回折光を観察することが意図された反射型の光変調素子と、観察者および光源が光変調素子を介して相互に異なる側に配置され、光変調素子についての透過による回折光を観察することが意図された透過型の光変調素子と、に分類できる。反射型の光変調素子としては、例えば図2に示す反射層2のような再生光を反射するための追加の層が設けられる構造体の他に、追加の反射層を設けずにホログラム層1の凹凸面1aを空気に露出させて、UV硬化樹脂などのホログラム層1と空気との間の屈折率の差を利用して再生光を反射させる構造体がある。一方、透過型の光変調素子にはそのような反射層が設けられない。ただし、ホログラム層1に凹凸面1aが形成され、その凹凸面1aの光路長差に起因する回折現象によって所望の光像を再生する点で、反射型の光変調素子および透過型の光変調素子は共通する。なお凹凸面1aの具体的な凹凸深さについては、透過型の光変調素子および反射型の光変調素子のそれぞれに関して最適な値が存在する。以下において、反射型の光変調素子および透過型の光変調素子のいずれか一方についてのみ説明されている内容は、特に断りがない限り、基本的に反射型の光変調素子および透過型の光変調素子の両方に対して応用が可能である。
また本明細書において、「同一の形状」を有する2以上の光像の概念には、大きさが相互に同一であり且つ形状(全体の形)が同じ2以上の光像だけではなく、光像の構成波長が異なるために再生される大きさが相互に僅かに異なる2以上の光像も含まれる。
また本明細書において、「点対称」の関係を有する2つの光像の概念には、大きさが相互に同一であり且つ形状(全体の形)が同じ2つの光像だけではなく、大きさが相互に異なり且つ形状が同じ2つの光像も含まれる。すなわち、同一の形状を有する2つの光像は、形状が同じであり、且つ再生位置及び再生向きが点対称性を有していれば、大きさが互いに同じか否かは問われない。そのため、例えば互いに相似の関係性を有する2つの光像であって、再生位置及び再生向きが点対称性を有する2つの光像は「互いに点対称の関係を有する2つの光像」に該当する。したがって、光像の構成波長が異なるために再生される大きさが相互に異なる2以上の光像は、形状が同じであり、再生位置及び光像の向きが点対称を有していれば、「互いに点対称の関係を有する2つの光像」に該当する。
以下、図面を参照して本実施形態の光変調素子について詳細に説明する。
本実施形態の光変調素子は、特定の波長域の光をフィルタリングした光を入射させた場合、あるいは、再生光のうち特定の波長域の光をフィルタリングした場合や再生光の画像解析を行った場合にのみ意図した光像が得られ、その他の場合には意図した光像と異なる光像が得られるようにするための工夫がなされている。このような光変調素子は、識別(例えば真贋判定)や意匠性において優れている。
まず、図1および図2を参照して、光変調素子11の構造について説明する。図1は、光変調素子保持体10の典型例を示す概略平面図である。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
図1および図2に示す光変調素子保持体10は、ホログラム層1と、ホログラム層1の一方の面上に積層される反射層2と、ホログラム層1の他方の面上に積層された基材4とを備える。この光変調素子保持体10の一部には反射型の光変調素子11が設けられている。この光変調素子11では、ホログラム層1の一方の面が凹凸面1aを形成し、この凹凸面1aを被覆する反射層2も凹凸形状を有する。光変調素子11が有する凹凸面1aは、原画像のフーリエ変換画像に対応した凹凸パターンを有し、フーリエ変換画像の画素毎に対応の凹凸深さを有する。例えば、基材4(例えばPET:ポリエチレンテレフタラート)上にホログラム層1を構成する樹脂(例えばUV硬化樹脂や熱可塑性樹脂)を塗布などで形成し、当該ホログラム層1を構成する樹脂に対して、UV硬化処理や熱圧処理とともに原版の凹凸面を押し当てる凹凸賦形処理が行われ、その後、当該ホログラム層1の凹凸面1a上に反射層2(例えばAl、ZnS、或いはTiO2など)を形成することにより、図1および図2に示す光変調素子保持体10を製造することができる。なお図示は省略するが、反射層2上に、粘着材、接着剤、及び/又はヒートシール層等の他の部材が更に形成されてもよい。
このような光変調素子11に対して点光源やレーザー光源で構成された平行光源からの光や太陽光が入射すると、凹凸面1aの凹凸パターンに応じた光像(すなわち原画像)が再生される。この種の光変調素子は、光像を投影するためのスクリーン等が不要であり、また点光源や平行光源等の特定の光源からの光が入射する場合にとりわけ良好に光像を再生するため、意匠用途、真贋判定などのセキュリティ用途、或いはその他の用途に対して利便性良く広範に利用可能である。このような光変調素子によって再生可能な光像は特に限定されず、例えば文字、記号、線画、絵柄、模様(パターン)およびこれらの組み合わせ等を、原画像および再生可能な光像としうる。
図3は、光変調素子11の平面構造を示す概念図である。本実施形態の光変調素子11は、二次元的に規則的に配置された複数の要素素子(「ホログラムセル」とも呼ばれる)21を含む。各要素素子21は、上述の凹凸面1aを有するとともに、数nm〜数mm四方(例えば2mm四方)の平面サイズを有し、再生光の位相を変調して光像を再生する。
凹凸面1aは多段形状を有し、3段階以上の異なる高さを含む。3段階以上の異なる高さを含むのであれば、凹凸面1aの段数は特に限定されない。複雑な構図を持つ原画像を高精細に再生する場合、凹凸面1aは、4段階以上の異なる高さを含むことが好ましい。
図4および図5は、凹凸面1aの段構造の概略を示す要素素子21の断面図である。図4は8段階の異なる高さを含む凹凸面1aを示し、図5は4段階の異なる高さを含む凹凸面1aを示す。なお図4および図5には、相互に同じ段形状の凹凸面1aを有する要素素子21が示されているが、実際の凹凸面1aは再生される光像(すなわち原画像)に応じた段形状を有する。なお凹凸面1aの凹凸パターンのピッチ(すなわち画素ピッチ(図4および図5に示す符合「P」参照))は、光像を精度良く再生する観点からは0.1μm〜80.0μmの範囲にあることが好ましく、通常は1μm以上であることが好ましい。
図6は、図3に示す光変調素子11に白色光を入射させた場合に得られる光像を説明するための図である。図6において、符号「151」は白色光光源装置を示す。図7は、図3に示す光変調素子を備えた真贋判定装置において、特定の波長域の光を光変調素子に入射させた場合に得られる光像を説明するための図である。図7において符号「300」は真贋判定装置を示し、符合「251」は、真贋判定装置が備える真贋判定用光源装置を示す。
図7に示す真贋判定装置300は、光変調素子11と真贋判定用光源装置251とを備える。真贋判定用光源装置251は、第1波長を含む第1波長域の光および第2波長を含む第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を射出する。ここでいう「一方を含み他方を含まない」とは、一方の光の10%未満の光束で他方の光が含まれる場合にも当てはまる。図7に示す例においては、真贋判定用光源装置251は、第1波長域の光を含み第2波長域の光を含まない光を射出する。とりわけ図7に示す例においては、真贋判定装置300が後述する図8に示す回折効率特性を有する光変調素子11を備えるため、真贋判定用光源装置251は、第1波長域の光を含む光であって、第2波長域の光および第3波長を含む第3波長域の光を含まない光を射出する。
図7に示すように、光変調素子11は、真贋判定装置300において真贋判定用光源装置251からの光が入射すると、明瞭な「OK」の文字の光像200aを得ることができる。一方、光変調素子11は、白色光が入射すると、図6に示すように光像200aとは異なる光像100が得られる。以下、図8〜図9Cを参照して、図6および図7に示す光変調素子の特性についてさらに詳細に説明する。
図8は、380nm以上780nm以下の波長域の入射光に対する、光変調素子11を構成する要素素子21での1次回折光および−1次回折光の波長分布を示すグラフである。図8において、横軸が波長[単位:nm]を示し、縦軸が回折効率[単位:%]を示す。回折効率は、ある方向へ回折する光の放射束[単位:μWもしくはμJ/cm2]を各要素素子21に入射する光の放射束で割った量で表され、ある方向への回折放射束をPで表し、入射放射束をP0で表した場合、回折効率ηは「η=P/P0」で表される無次元数である。図8および後述する図10〜図13では、1次回折光の波長分布は「W1」で示され、−1次回折光の波長分布は「W−1」で示されている。
図9Aは、図8に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11に第1波長域の光(具体的には第1波長520nmを含む波長域の光)を入射させた場合に得られる第1光像200aを示している。また、図9Bは、図8に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11に第2波長域の光(具体的には第2波長665nmを含む波長域の光)を入射させた場合に得られる第2光像200bを示している。図9Cは、図8に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11に第3波長域の光(具体的には第3波長420nmを含む波長域の光)を入射させた場合に得られる第3光像200cを示している。
なお、要素素子21で回折される光のうち、図9A〜図9Bに示す光像200aおよび光像200b,200cの再生に主として寄与するのは、それぞれ1次回折光および−1次回折光である。要素素子21での2次以上の高次の回折光は、光像200a,200b,200cの明瞭な再生には寄与しない。また、要素素子21に入射する入射光の一部は、要素素子21で回折されることなく要素素子21を透過して0次光となるが、0次光は点の光像を生成するだけであり、光像200a,200b,200cの再生に寄与しない。
図8に示すように、光変調素子11を構成する要素素子21は、波長に応じて特有の回折効率を示す。具体的には、要素素子21は、第1波長域の光(具体的には第1波長520nmを含む波長域の光)が1次回折光に関して高い回折効率を示す。これは、要素素子21では、1次回折光が第1波長域において効率よく回折されることを示す。そして、要素素子21での1次回折光は、第1波長域の光で、図9Aに示す「OK」の文字の第1光像200aを再生する。なお、第1波長域の光は、第1光像200aを再生するが、第2光像200bおよび第3光像200cを再生しない。ここで本明細書において光像を「再生する」とは、要素素子21において50%以上の回折効率で回折された1次回折光または−1次回折光によって光像を生成することを言うものとする。したがって、例えば図8に示す例において、第1波長域の光とは、500nm以上545nm以下の波長の光である。
また、光変調素子11を構成する要素素子21は、第1波長域とは異なる第2波長域の光(具体的には第2波長665nmを含む波長域の光)が−1次回折光に関して高い回折効率を示す。これは、要素素子21では、−1次回折光が第2波長域において効率よく回折されることを示す。そして、要素素子21での−1次回折光は、第2波長域の光で、図9Bに示す「OK」の文字の第2光像200bを再生する。図9Aおよび図9Bから理解されるように、第2光像200bは、第1光像200bと点対称な像である。なお、第2波長域の光は、第2光像200bを再生するが、第1光像200aおよび第3光像200cを再生しない。図8に示す例において、第2波長域の光とは、630nm以上705nm以下の波長の光である。
また、第2光像200bは、第1光像200aと重なる位置に再生される。これにより、例えば白色光のような第1波長域の光と第2波長域の光とを含む光を光変調素子11に入射させた場合、第1光像200aと第2光像200bとが重なり合って、第1光像200aとは異なる光像が得られる。
なお、図8に示す例においては、光変調素子11を構成する要素素子21は、第1波長域とも第2波長域とも異なる第3波長域の光(具体的には第3波長420nmを含む波長域の光)も、−1次回折光に関して高い回折効率を示す。これは、要素素子21では、−1次回折光が第3波長域においても効率よく回折されることを示す。そして、要素素子21での−1次回折光は、第3波長域の光で、図9Cに示す「OK」の文字の第3光像を再生する。図9Aおよび図9Cから理解されるように、第3光像200cは、第1光像と点対称な像である。なお、第3波長域の光は、第3光像200cを再生するが、第1光像200aおよび第2光像200bを再生しない。また、第3波長域の光とは、410nm以上440nm以下の波長の光である。
また、図6に示すように、第3光像200cも第1光像200aと重なる位置に再生される。これにより、例えば白色光のような第1波長域の光と第3波長域の光とを含む光を光変調素子11に入射させた場合、第1光像200aと第3光像200cとが重なり合って、第1光像200aとは異なる光像が得られる。
以上から理解されるように、図8に示す例では、白色光を光変調素子11に入射させた場合に得られる図6に示す光像100は、第1光像200aと第2光像200bと第3光像200cとが重なり合って構成された光像である。
図8に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11に、図7に示す真贋判定装置300において第1波長域の光を含むが第2波長域および第3波長域の光を含まない光を入射させると、図7に示すような「OK」の文字の第1光像200aが明瞭に観察される。一方、図6に示すように、光変調素子11に白色光を入射させた場合には、光像200a,200b,200cが重なり合って、第1光像200aとは異なる光像100が観察される。
図8に示す回折効率特性は、光変調素子11を構成する要素素子21を屈折率nが1.5の材料で構成し、その凹凸面1aにおける段数を4段、1段当たりの深さを390nmとして要素素子21を設計した場合に得られる。しかしながら、第1波長域の光により第1光像が得られ、第1波長域とは異なる第2波長域の光により第2光像が得られる光変調素子11としては、上述のように設計された光変調素子11に限られない。
例えば、光変調素子11を構成する要素素子21を屈折率nが1.5の材料で構成し、その凹凸面1aにおける段数を4段、1段当たりの深さを400nmとして光変調素子11を設計した場合、要素素子21は、図10に示すような回折効率特性を有する。すなわち、要素素子21は、第1波長域の光(具体的には第1波長520nmを含む510nm以上550nm以下の波長域の光)が1次回折光に関して高い回折効率を示す。また、要素素子21は、第2波長域の光(具体的には第2波長680nmを含む655nm以上710nm以下の波長域の光)および第3波長域の光(具体的には第3波長430nmを含む425nm以上450nm以下の波長域の光)が−1次回折光に関して高い回折効率を示す。
図10に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11によっても、光変調素子11での1次回折光は、第1波長域の光で図9Aに示す第1光像200aを再生し、光変調素子11での−1次回折光は、第2波長域の光で図9Bに示す第2光像200bを、第3波長域の光で図9Cに示す第3光像200cを再生することができる。したがって、光変調素子11に、図7に示す真贋判定装置300において第1波長域の光(具体的には510nm以上550nm以下の波長域の光)を含むが第2波長域の光(具体的には655nm以上710nm以下の波長域の光)および第3波長域の光(具体的には425nm以上450nm以下の波長域の光)を含まない光を入射させると、図7に示すような「OK」の文字の第1光像200aが明瞭に観察される。一方、図6に示すように、光変調素子11に白色光を入射させた場合には、光像200a,200b,200cが重なり合って、光像200aとは異なる光像100が観察される(図6参照)。
また、光変調素子11を構成する要素素子21を屈折率nが1.5の材料で構成し、その凹凸面1aにおける段数を8段、1段当たりの深さを200nmとして要素素子21を設計した場合、要素素子21は、図11に示すような回折効率特性を有する。すなわち、要素素子21は、第1波長域の光(具体的には第1波長530nmを含む510nm以上550nm以下の波長域の光)が1次回折光に関して高い回折効率を示す。また、要素素子21は、第2波長域の光(具体的には第2波長680nmを含む650nm以上710nm以下の波長域の光)が−1次回折光に関して高い回折効率を示す。
図11に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11によっても、光変調素子11での1次回折光は、第1波長域の光で図9Aに示す第1光像200aを再生し、光変調素子11での−1次回折光は、第2波長域の光で図9Bに示す第2光像200bを再生することができる。したがって、光変調素子11に、図7に示す真贋判定装置300において第1波長域の光(具体的には510nm以上550nm以下の波長域の光)を含むが第2波長域の光(具体的には650nm以上710nm以下の波長域の光)を含まない光を入射させると、図7に示すような「OK」の文字の第1光像200aが明瞭に観察される。一方、図6に示すように、光変調素子11に白色光を入射させた場合には、光像200a,200bが重なり合って、光像200aとは異なる光像が観察される。
また、光変調素子11を構成する要素素子21を屈折率nが1.5の材料で構成し、その凹凸面1aにおける段数を4段、1段当たりの深さを190nmとして要素素子21を設計した場合、要素素子21は、図12に示すような回折効率特性を有する。すなわち、要素素子21は、第1波長域の光(具体的には第1波長460nmを含む420nm以上490nm以下の波長域の光)が1次回折光に関して高い回折効率を示す。また、光変調素子11は、第2波長域の光(具体的には第2波長750nmを含む690nm以上780nm以下の光)が−1次回折光に関して高い回折効率を示す。
図12に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成された光変調素子11によっても、光変調素子11での1次回折光は、第1波長域の光で図9Aに示す第1光像200aを再生し、光変調素子11での−1次回折光は、第2波長域の光で図9Bに示す第2光像200bを再生することができる。したがって、光変調素子11に、図7に示す真贋判定装置300において第1波長域の光(具体的には420nm以上490nm以下の波長域の光)を含むが第2波長域の光(具体的には690nm以上780nm以下の光)を含まない光を入射させると、図7に示すような「OK」の文字の第1光像200aが明瞭に観察される。一方、図6に示すように、光変調素子11に白色光を入射させた場合には、光像200a,200bが重なり合って、光像200aとは異なる光像が観察される。
また、光変調素子11を構成する要素素子21を屈折率nが1.5の材料で構成し、その凹凸面1aにおける段数を4段、1段当たりの深さを280nmとして要素素子21を設計した場合、要素素子21は、図13に示すような回折効率特性を有する。すなわち、要素素子21は、第1波長域の光(具体的には第1波長650nmを含む625nm以上710nm以下の波長域の光)が1次回折光に関して高い回折効率を示す。また、要素素子21は、第2波長域の光(具体的には第2波長480nmを含む460nm以上495nm以下の波長域の光)が−1次回折光に関して高い回折効率を示す。
図13に示す回折効率特性を有する要素素子21によって構成された光変調素子11によっても、光変調素子11での1次回折光は、第1波長域の光で図9Aに示す第1光像200aを再生し、光変調素子11での−1次回折光は、第2波長域の光で図9Bに示す第2光像200bを再生することができる。したがって、光変調素子11に、図7に示す真贋判定装置300において第1波長域の光(具体的には625nm以上710nm以下の波長域の光)を含むが第2波長域の光(具体的には460nm以上495nm以下の波長域の光)を含まない光を入射させると、図7に示すような「OK」の文字の第1光像200aが明瞭に観察される。一方、図6に示すように、光変調素子11に白色光を入射させた場合には、光像200a,200bが重なり合って、光像200aとは異なる光像が観察される。
なお、真贋判定装置300は、光変調素子11と、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含まない光を透過するフィルタと、を備えていてもよい。この場合も、光変調素子11で回折された光をフィルタでフィルタリングすることにより、第1光像200aまたは第2光像200bを得ることができる。もちろん、光変調素子11が、図8または図10に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成されている場合、上述のフィルタは、第1波長域、第2波長域および第3波長域のうちから選択された1つまたは複数の波長域の光を含まない光を透過するフィルタであってよく、例えば第2波長域の光および第3波長域の光を含まない光を透過するフィルタであってよい。
また、真贋判定装置300は、光変調素子11と、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を取り込む画像解析装置と、を備えていてもよい。この場合も、光変調素子11で回折された光を画像解析装置で選択的に取り込むことにより、第1光像200aまたは第2光像200bを得ることができる。もちろん、光変調素子11が、図8または図10に示す回折効率特性を有する要素素子21で構成されている場合、上述の画像解析装置は、第1波長域、第2波長域および第3波長域のうちから選択された1つまたは複数の波長域の光を含まない光を取り込むものであってよく、例えば第2波長域の光および第3波長域の光を含まない光を取り込むものであってよい。
なお上述の図9A〜図9Cに示した光像200a,200b,200cは、本実施形態の光変調素子11によって再生可能な光像の例に過ぎず、光変調素子11は他の形状の光像を再生するものであってもよい。
また、上述してきた実施形態において、入射光の波長域は380nm以上780nm以下であり、したがって第1波長域および第2波長域も380nm以上780nm以下であった。この場合、光像200a,200b,200cおよび光像100を、視覚によって認識することが可能である。しかしながら、第1波長域および第2波長域は上述の波長域に限られず、いわゆる可視光域外の波長域であってもよい。とりわけ真贋判定装置300が上述の画像解析装置を含む場合、光像200a,200b,200c,100は視覚を用いて認識されなくてもよく、画像解析装置での解析結果によって把握されてもよい。
次に、光変調素子11(特に凹凸面1a)の製造方法の一例について説明する。以下に説明する方法は一例に過ぎず、所望の凹凸面1aを含む光変調素子11を適切に製造可能な他の方法を採用することが可能である。また反射型の光変調素子および透過型の光変調素子のいずれに対しても、以下に説明する製造方法は適用可能である。
まず、原画像の2次元画像がコンピュータによって読み込まれる(Step1)。そしてコンピュータは、読み込んだ2次元画像の各画素値を振幅値とするとともに、各画素に対して0から2πの間のランダムな値を位相値として割り当てることにより、2次元複素振幅画像を得る(Step2)。そしてコンピュータは、この2次元複素振幅画像の2次元フーリエ変換を行うことによって、2次元フーリエ変換画像を得る(Step3)。なおコンピュータは、必要に応じて、繰り返しフーリエ変換法や遺伝的アルゴリズムなどの任意の最適化処理を行ってもよい(Step4)。そしてコンピュータは、2次元フーリエ変換画像の各画素の位相値を、複数段階(例えば「0」、「π/2」、「π」および「3π/2」の4段階、或いは「0」、「π/4」、「π/2」、「3π/4」、「π」、「5π/4」、「3π/2」および「7π/4」の8段階)に離散化する(Step5)。
そして、離散化された対応の位相値に応じた深さを各画素が有するように、2次元フーリエ変換画像に対応する光変調素子11(特に凹凸面1a)が作製される(Step6)。例えば、上述のStep5において2次元フーリエ変換画像の画素値が4段階に離散化された場合には、Step6において4段階の深さを持つ凹凸面1a(図5参照)がホログラム層1に形成される。凹凸面1aの深さは、実現しようとする回折効率特性だけではなく、様々な他の関連パラメータ(例えば光変調素子11(特にホログラム層1)を構成する材料の屈折率)も考慮されてコンピュータにより決定される。なお、反射型の光変調素子11および透過型の光変調素子11はそれぞれ特有の凹凸面1aの深さ構造を有し、例えば同様の回折特性を実現しようとする場合であっても、光変調素子11の凹凸面1aの深さの具体的な値は反射型と透過型との間で異なる。
光変調素子11の製造装置は特に限定されず、例えば上述のStep1〜5を実行するコンピュータによって制御される装置であってもよいし、当該コンピュータとは別個に設けられた装置であってもよい。また必要に応じて、上述の光変調素子11(特に凹凸面1a)の構造に対応する母型(すなわちマスター原版)を、フォトリソグラフィ技術に基づく露光装置や電子線描画装置等により作ってもよい(Step7)。例えば、母型に液状の紫外線硬化性樹脂を滴下し、基材フィルム(例えばPETフィルム(ポリエチレンテレフタラートフィルム))と母型とによって挟まれた状態の紫外線硬化性樹脂に対して紫外線を照射して硬化させ、その後、基材フィルムとともに紫外線硬化性樹脂を母型から剥離することによって、所望の凹凸面1aを有する光変調素子11を作製できる。他の方法として、例えば、熱可塑性の紫外線硬化性樹脂を用いる方法、熱可塑性樹脂を用いる方法、熱硬化性樹脂を用いる方法、および電離放射線硬化性樹脂を用いる方法が採用されてもよい。このように母型を使うことで、所望の凹凸面1aを有する光変調素子11を簡単且つ大量に複製することが可能である。
反射型の光変調素子11の場合、凹凸面1a上に反射層2(例えばAlやZnSによって構成される反射層或いはTiO2によって構成される反射層(高屈折率層))が製造装置によって更に形成されてもよい。ただし、ホログラム層1と空気との間の屈折率の差を利用して再生光を反射させる光変調素子11の場合には、反射層2を追加的に設けることなく、ホログラム層1の凹凸面1aを空気に露出させたままでもよい。さらに必要に応じて、接着層等の他の機能層(例えばヒートシール層や隣接層間の密着性を高めるためのプライマー層など)がホログラム層1に対して形成されてもよい。また例えば、ホログラム層1の凹凸面1a上に反射層2を形成する場合、凹凸形状を有する反射層2の表面(ホログラム層1とは反対側の表面)上に接着層を形成し、当該接着層によって反射層2の表面の凹部を埋めるようにしてもよい。
なお上述の光変調素子11によって再生される光像の色(波長帯域)は、屈折率が1.0の空気環境下で使用される場合を想定している。また観察者が上述の光変調素子11によって再生される光像100を観察する場合、ホログラム層1の凹凸面1aが観察者とは反対側に配置され、観察者はホログラム層1を通して凹凸構造(すなわち凹凸面1a)を観察することになる。なお、ホログラム層1の凹凸面1aが観察者と同じ側に配置される場合、観察者が観察する光変調素子11からの反射像は、ホログラム層1を通過することなく表面で反射した光によって構成されるため、ホログラム層1の屈折率に基づく回折現象とは無関係な像であり、所望像とはならない。
以上のような実施形態によれば、光変調素子11は、入射光の位相を変調することで光像を再生する要素素子21を備え、要素素子21は、3段階以上の異なる高さを含む凹凸面1aを有し、第1波長域の光により第1光像200aが得られ、第1波長域とは異なる第2波長域の光により第1光像200aと重なる位置に第2光像200bが得られる
このような光変調素子11によれば、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を光変調素子11に入射させることにより、図7に示すように、第1光像200aおよび第2光像200bの一方を明瞭に得ることができる。一方で、このような光変調素子11によれば、第1波長域の光および第2波長域の光を含む光(例えば白色光のような様々な波長の光を含む光)を入射させると、図6に示すような、第1光像200aと第2光像200bとが重なった光像が得られる。このような性質を有する光変調素子11は、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を入射させた場合にのみ特定の光像200a,200bを得ることができるため、光変調素子保持体10の識別(例えば真贋判定)に利用することができる。また、このような性質を有する光変調素子11によれば、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光が入射した場合と、第1波長域の光および第2波長域の光を含む光(例えば白色光のような光)が入射した場合とで、異なる光像を得ることができるため、光変調素子保持体10の意匠性を向上させることができる。
また、本実施形態の光変調素子11において、各要素素子21は、フーリエ変換ホログラムとして構成されている。これにより、所望の光像200a,200bを精度良く再生可能な要素素子21を、比較的簡単に作製することができる。
また、本実施形態の光変調素子11において、要素素子21は、第1波長域の光により第1光像200aを再生し、第2波長域の光により第1光像200aと点対称な第2光像200bを再生する。これにより、光変調素子11に第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光が入射した場合に得られる光像200a,200cと、光変調素子11に第1波長域の光および第2波長域の光を含む光(例えば白色光のような光)が入射した場合に得られる光像と、を異ならせることが容易である。
また、本実施形態の光変調素子11において、上述の第1波長域および第2波長域は、380nm以上780nm以下である。この場合、光変調素子11での回折光により得られる光像100,200a,200bの変化を、視認することが可能である。
また、以上のような実施形態によれば、真贋判定装置300は、上述の光変調素子11と、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を射出する光源装置251、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を透過するフィルタ、および、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を取り込む画像解析装置の少なくともいずれかと、を備えている。このような真贋判定装置300によれば、真贋判定を行うことが容易である。
[変形例]
次に、図14〜図15Bを参照して、図1〜図13に示す実施形態の変形例について説明する。図1〜図13に示す例において光変調素子は、光変調素子を構成する要素素子の各々が、第1光像の再生および第2光像の再生のいずれにも寄与していた。しかしながら、本変形例の光変調素子は、第1光像の再生に寄与する要素素子と第2光像の再生に寄与する要素素子とが異なっている。以下、図面を参照して、本変形例の光変調素子について詳細に説明する。
図14は、本変形例の光変調素子の構成を示す図である。図15Aおよび図15Bは、図14の光変調素子を構成する第1要素素子および第2要素素子により得られる光像を説明するための図である。
図14に示すように、本変形例の光変調素子11は、第1波長域の光により第1光像300aを再生する第1要素素子121と、第2波長域の光により第2光像300bを再生する第2要素素子221と、を備える。図14に示す例においては、複数の第1要素素子121および複数の第2要素素子221が、同一平面上に市松模様状に並べて配置されている。
図14に示す第1要素素子121および第2要素素子221は、屈折率nが1.5の材料で構成され、その凹凸面1aにおける段数は8段であり、1段当たりの深さは200nmである。第1要素素子121および第2要素素子221は、図11に示す回折効率特性を有している。
また、図14に示す第1要素素子121では、白色光のような第1波長域の光および第2波長域の光を含む光が入射すると、図15Aに示すように、第1波長域の光(具体的には510nm以上550nm以下の波長域の光)が回折されて、「O」の文字の第1光像300aが再生され、第2波長域の光(具体的には650nm以上710nm以下の波長域の光)が回折されて、第1光像300aと点対称の「O」の文字の第3光像300cが再生される。また、図14に示す第2要素素子221では、白色光のような第1波長域の光および第2波長域の光を含む光が入射すると、図15Bに示すように、第1波長域の光(具体的には510nm以上550nm以下の波長域の光)が回折されて、「K」の文字の第4光像300dが再生され、第2波長域の光(具体的には650nm以上710nm以下の波長域の光)が回折されて、第4光像300dと点対称の「K」の文字の第2光像300bが再生される。そして、第1光像300aと第2光像300bとが重なる位置に得られ、第3光像300cと第4光像300dとが重なる位置に得られる。
このような光変調素子111によっても、図3に示す光変調素子11と同様の効果を得ることができる。すなわち、真贋判定装置300において光変調素子111に第1波長域の光(具体的には510nm以上550nm以下の波長域の光)および第2波長域の光(具体的には650nm以上710nm以下の波長域の光)の一方を含み他方を含まない光を入射させることにより、第1光像300aおよび第2光像300bのいずれか一方を得ることができる。同時に、第4光像300dおよび第3光像300cのいずれか一方を得ることができる。したがって、第1波長域の光および第2波長域の光の一方を含み他方を含まない光を入射させることにより、第1光像300aと第4光像300dとが再生され、あるいは、第2光像300bと第3光像300cとが再生されて、図7に示すような「OK」の文字の光像を得ることができる。一方で、光変調素子111に第1波長域および第2波長域の光を含む光(例えば白色光のような光)が入射すると、第1光像300aと第2光像300bとが重なった光像、および、第3光像300cと第4光像300dとが重なった光像が得られる。
なお上述の図14に示す光変調素子111において第1要素素子121および第2要素素子221は、同一平面上に市松模様状に並べて配置されているが、第1要素素子121および第2要素素子221の配置態様は特に限定されない。例えば、光変調素子11は、同一平面上にストライプ状に並べて配置された第1要素素子121および第2要素素子221を含んでいてもよい。
このように本変形例の光変調素子111は、第1波長域の光により第1光像300aを再生する第1要素素子121と、第2波長域の光により第2光像300bを再生する第2要素素子221と、を備える。このような光変調素子111によれば、特定の波長域の光(すなわち第1波長域の光または第2波長域の光)を光変調素子111に入射させることにより、図15Aおよび図15Bに示す第1光像300aおよび第2光像300bの一方を明瞭に得ることができる。一方で、このような光変調素子111によれば、第1波長域の光と第2波長域の光を含む光(例えば白色光のような光)を光変調素子111に入射させることにより、第1光像300aと第2光像300bとが重なって、第1光像300aとも第2光像300bとも異なる光像を得ることができる。このような性質を有する光変調素子111は、光変調素子保持体10の識別(例えば真贋判定)に利用することができ、また、光変調素子保持体10の意匠性を向上させることができる。
[用途]
上述の光変調素子11,111および光変調素子保持体10の使用形態や用途は特に限定されず、例えば、キャラクター像を再生するなどエンターテイメント用途および意匠用途として使用することが可能である。またセキュリティ用途では、例えば以下の対象に対して光変調素子11,111を適用可能である。光変調素子保持体10を情報記録媒体として使用する場合、例えばパスポート、ID証、紙幣、クレジットカード、金券、商品券、その他のチケット、公的文書、個人情報や機密情報などの各種の情報を記録したその他の媒体、および金銭的価値のある他の媒体等に対し、本発明に係る光変調素子を応用することが可能であり、これらの偽造を防ぐことができる。ここでいうID証には、例えば国民ID証、免許証、会員証、社員証および学生証などが含まれる。光変調素子保持体10において、光変調素子11,111を保持する基材(図2の符合「4」参照)は、例えば紙、樹脂、金属、合成繊維、或いはこれらの組み合わせによって構成可能である。また基材に開口部(図2の符合「4a」参照)が形成される場合、当該開口部の全域を光変調素子11,111で覆っていてもよいし、当該開口部の一部のみを光変調素子11,111を配置してもよい。この光変調素子11,111は、外観上は、透明部材として構成されうる。例えば、透過型の光変調素子11,111を保持する光変調素子保持体10の裏面側に点光源を配置し、観察者が光変調素子保持体10の表面側から光変調素子11,111を通して、特定の波長域の点光源等を観察することで、観察者は、光変調素子11,111に記録されたセキュリティ情報を視認することができる。このセキュリティ情報は、例えば、光変調素子保持体10の真贋判定などに利用できる。
また、上述の光変調素子保持体10に対して本発明に係る光変調素子を任意の方法で適用することが可能であり、例えば、光変調素子保持体10の表面への凹凸形成、転写、貼付、挟み込み、或いは埋め込み等の技法を使って、本発明に係る光変調素子を任意の物(すなわち光変調素子保持体10)に保持させることができる。したがって、光変調素子保持体10を構成する部材の一部を利用して光変調素子11,111を形成してもよいし、光変調素子保持体10に対して光変調素子11,111を付加的に設けてもよい。
また上述の光変調素子11は、単独で各種用途に利用されてもよいし、印刷層等の他の機能層と一緒に使用されて各種用途に利用されてもよい。
[ホログラム層の構成材料]
ホログラム層1を構成する材料は特に限定されないが、上述のように、各種樹脂によってホログラム層1を構成することが可能である。以下に、各種樹脂の具体例について列挙する。
ホログラム層1を構成する熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)、ポリ塩化ビニル(PVC)、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル変性ウレタン樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、ホログラム層1を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独重合体であっても2種以上の構成成分からなる共重合体であってもよい。また、これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上述の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂は、各種イソシアネート化合物、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛等の金属石鹸、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等の有機過酸化物、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アントラキノン、ナフトキノン、アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルスルフィド等の熱或いは紫外線硬化剤を含んでいてもよい。
ホログラム層1を構成する電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタン変性アクリレート樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂等が挙げられ、中でもウレタン変性アクリレート樹脂が好ましく、特に特開2007−017643号公報で示される化学式で表されるウレタン変性アクリル系樹脂が好ましい。
上記電離放射線硬化性樹脂を硬化させる際には、架橋構造、粘度の調整等を目的として、単官能または多官能のモノマー、オリゴマー等を併用することができる。上記単官能モノマーとしては、例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート等のモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、2官能以上のモノマーとしては、骨格構造で分類するとポリオール(メタ)アクリレート(例えば、エポキシ変性ポリオール(メタ)アクリレート、ラクトン変性ポリオール(メタ)アクリレート等)、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、その他ポリブタジエン系、イソシアヌール酸系、ヒダントイン系、メラミン系、リン酸系、イミド系、ホスファゼン系等の骨格を有するポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、紫外線、電子線硬化性である種々のモノマー、オリゴマー、ポリマーが利用できる。
更に詳しくは、2官能のモノマーやオリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。3官能のモノマー、オリゴマー、ポリマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、脂肪族トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。4官能のモノマーやオリゴマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、脂肪族テトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。5官能以上のモノマーやオリゴマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、ポリエステル骨格、ウレタン骨格、ホスファゼン骨格を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。官能基数は特に限定されるものではないが、官能基数が3より小さいと耐熱性が低下する傾向があり、また、20を超える場合には柔軟性が低下する傾向があるため、特に官能基数が3〜20の範囲内のものが好ましい。
上記のような単官能または多官能のモノマーやオリゴマーの含有量は適宜調整可能だが、通常、電離放射線硬化性樹脂100重量部に対して50重量部以下とすることが好ましく、中でも0.5重量部〜20重量部の範囲内が好ましい。
また、ホログラム層1には必要に応じて、光重合開始剤、重合禁止剤、劣化防止剤、可塑剤、滑剤、染料や顔料などの着色剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、およびチクソトロピー性付与剤等の添加剤が適宜加えられてもよい。
ホログラム層1の膜厚は、ホログラム層1が自己支持性を有する場合、0.05mm〜5mmの範囲内が好ましく、中でも0.1mm〜3mmの範囲内であることが好ましい。一方、ホログラム層1が自己支持性を有さずに透明基材上に形成される場合、ホログラム層1の膜厚は、0.1μm〜50μmの範囲内が好ましく、中でも2μm〜20μmの範囲内とすることが好ましい。また、ホログラム層1のサイズ(例えば平面視サイズ)は、光変調素子11の用途に応じて適宜設定可能である。
[他の変形例]
上述の各実施形態および各変形例で用いられる光変調素子11,111は、それぞれ、図3及び図14に示すように複数の要素素子21あるいは複数の第1要素素子121および複数の第2要素素子221から構成されているが、単一の要素素子21あるいは単一の第1要素素子121および単一の第2要素素子221によって光変調素子11,111が構成されていてもよい。
また各要素素子21,121,221の平面視サイズおよび平面視形状も特に限定されず、各要素素子21,121,221は任意のサイズおよび形状を有しうる。例えば、各要素素子21,121,221の平面視形状を、正方形、長方形、台形等の四角形、他の多角形状(例えば三角形、五角形、六角形等)、真円、楕円、他の円形、星型形状、或いはハート型形状等であってもよく、光変調素子11,111は2種類以上の平面視形状の要素素子21を有していてもよい。
また光変調素子11,111には、任意の機能層が付加されてもよく、例えば透明蒸着層によって光変調素子11,111を覆ってもよい。特に光沢を持たない透明蒸着層を設けることによって、光変調素子11,111が光沢を持つことを防いで、光変調素子11,111を隠蔽することもできる。光変調素子11,111を隠蔽する観点から、そのような透明蒸着層の全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、とりわけ90%以上であることがより好ましい。また反射型の光変調素子11,111では反射性の蒸着層(図2の反射層2参照)によって光変調素子11,111を覆うことができる。反射性蒸着層の構成材料として、例えばMg、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Se、Rb、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Au、Pb、もしくはBi等の金属が挙げられる。また、透明蒸着層の構成材料として、例えば、上記金属の酸化物が挙げられる。これらの材料を単独で用いて蒸着層が構成されてもよいし、2以上の材料が組み合わされて蒸着層が構成されてもよい。
ホログラム層1上(特に凹凸面1a上)に設けられる蒸着層の厚みは、所望の反射性、色調、デザインおよび用途等の観点から適宜に設定でき、例えば50Å〜1μmの範囲内であることが好ましく、中でも100Å〜1000Åの範囲内であることが好ましい。特に、蒸着層の透明性を優先する場合には蒸着層の厚みは200Å以下であることが好ましい一方で、蒸着層の隠蔽性を優先する場合には蒸着層の厚みは200Åを超える厚みであることが好ましい。また蒸着層の形成方法としては、蒸着層の一般的な形成方法を採用でき、例えば真空蒸着法、スパッタリング法およびイオンプレーティング法等が挙げられる。
[比較例]
次に、図16および図17を参照して、上述の実施形態の比較例について説明する。
図16は、本比較例の光変調素子を示す図である。図17は、本比較例の光変調素子を構成する要素素子の回折効率特性を示すグラフである。
図16に示す光変調素子311は、従来型の光変調素子である。図17に示す例において、光変調素子311を構成する要素素子は、屈折率nが1.5の材料で構成され、その凹凸面301aは4段の段数を有し、その凹凸面301aの1段当たりの段差dは46.25nmである。そして、光変調素子311を構成する要素素子は、図17に示すような回折効率特性を有している。すなわち、各要素素子は、380nm以上780nm以下の波長域の全体にわたって1次回折光を概ね50%以上の回折効率で回折する。このことは、図16に示す光変調素子311では、380nm以上780nm以下のいずれの波長域の光を入射させた場合であっても、白色光を入射させた場合に得られる光像400と同じ光像が得られることを示している。一方、各要素素子は、380nm以上780nm以下の波長域の全体にわたって−1次回折光を10%以下の回折効率で回折する。したがって、380nm以上780nm以下のいずれの波長域の光を入射させても、光変調素子311での−1次回折光による光像を観察することができないことを示している。このような光変調素子311によっては、特定の波長域の光を入射させた場合と白色光のような様々な波長の光を含む光を入射させた場合とで、異なる光像を得ることができない。
本発明は、上述の実施形態および変形例には限定されない。例えば、上述の実施形態および変形例の各要素に各種の変形が加えられてもよい。また、上述の構成要素および/または方法以外の構成要素および/または方法を含む形態も、本発明の実施形態に含まれうる。また、上述の構成要素および/または方法のうちの一部の要素が含まれない形態も、本発明の実施形態に含まれうる。また、本発明のある実施形態に含まれる一部の構成要素および/または方法と、本発明の他の実施形態に含まれる一部の構成要素および/または方法とを含む形態も、本発明の実施形態に含まれうる。したがって、上述の実施形態および変形例、および上述以外の本発明の実施形態の各々に含まれる構成要素および/または方法同士が組み合わされてもよく、そのような組み合わせに係る形態も本発明の実施形態に含まれうる。また、本発明によって奏される効果も上述の効果に限定されず、各実施形態の具体的な構成に応じた特有の効果も発揮されうる。このように、本発明の技術的思想および趣旨を逸脱しない範囲で、特許請求の範囲、明細書、要約書および図面に記載される各要素に対して種々の追加、変更および部分的削除が可能である。