以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の構成の概要を示す図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、燃料処理部2と、酸化剤ガス加熱部3と、燃焼器4と、制御部5と、を備える。
燃料電池スタック1は複数の燃料電池又は燃料電池単位セルを積層して構成され、発電源である個々の燃料電池は、例えば固体酸化物型燃料電池(SOFC)である。燃料電池スタック1は、燃料電池のアノード極に燃料ガス(アノードガス)を供給するアノードガス通路11と、アノード極から排出される発電反応後のアノードオフガスを流すアノードオフガス通路12(図2参照)と、燃料電池のカソード極に酸化剤ガス(カソードガス)を供給するカソードガス通路13と、カソード極から排出される発電反応後のカソードオフガスを流すカソードオフガス通路14(図2参照)と、を備える。
燃料処理部2は、アノードガス通路11に設けられ、原燃料である液体燃料の供給を受ける。燃料処理部2は、液体燃料を処理し、燃料電池での発電反応に用いられるアノードガスを生成する。液体燃料は、例えば水とエタノールの混合液である含水エタノールである。燃料処理部2よりも上流側のアノードガス通路11には、液体燃料を噴射供給する第1の噴射器として、例えばインジェクタ71(第1インジェクタ)が設けられている。
酸化剤ガス加熱部3は、カソードガス通路13に設けられ、カソードガスを加熱する。カソードガスは、例えば空気である。カソードガス通路13の上流端には大気中の空気を取り込むエアコンプレッサ61が設けられており、エアコンプレッサ61を介して空気が酸化剤ガス加熱部3に供給される。なお、空気を吸入する装置としては、エアコンプレッサ61の代わりに、ブロアを用いてもよい。
燃焼器4は、第2の噴射器から供給される液体燃料を燃焼させ、燃焼ガスを生成する。第2の噴射器は、例えばインジェクタ72(第2インジェクタ)により構成される。燃焼器4において生成された燃焼ガスの熱は、太い点線矢印に示すように、燃料処理部2及び酸化剤ガス加熱部3に供給される。なお、燃焼器4及び第2インジェクタ72は燃料供給装置70の一部を構成する。
制御部5は、燃料処理部2、酸化剤ガス加熱部3及び燃焼器4に対する液体燃料及び空気の供給を制御するものであり、電子制御ユニットとしてのコントローラ51を含んで構成されている。コントローラ51は、燃料電池システム100の起動時等に、液体燃料の温度を早期に昇温させるための燃料供給制御を実行する。
図2は、燃料電池システム100の具体的な構成を示す図である。
図2に示す燃料電池システム100は、例えば車両に搭載されるシステムである。燃料電池システム100は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)を積層して構成された燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1の発電に用いられる液体燃料を蓄える燃料タンク8と、を備えている。
燃料電池スタック1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて発電する電池である。燃料電池スタック1の発電電力は、車両に搭載されたバッテリを充電したり、電動モータ等を駆動したりするために用いられる。
燃料タンク8は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスを生成したり、システム構成部品等を暖機する際に利用される燃焼ガスを生成したりするために必要な液体燃料を貯蔵する。液体燃料は、例えば、水とエタノールからなる燃料(例えば、45体積%のエタノールを含有する含水エタノール)である。液体燃料は、含水エタノールに限られず、ガソリン又はメタノール等を含む液体燃料であってもよい。
燃料タンク8と燃料電池スタック1とは、アノードガス通路11を通じて接続されている。アノードガス通路11には、流れの方向に関して上流側から順に、蒸発器21、燃料熱交換器22、及び改質器23が設けられている。蒸発器21、燃料熱交換器22、及び改質器23は、燃料電池スタック1が発電するために必要な補機として機能するものであって、図1において示した燃料処理部2を構成する。
蒸発器21の上流側においてはアノードガス通路11から燃料供給路15が分岐しており、燃料供給路15はアノードガス通路11と触媒燃焼器40とを接続する。
燃料供給路15の分岐点と蒸発器21との間のアノードガス通路11には第1インジェクタ71が設けられており、燃料供給路15には第2インジェクタ72が設けられている。これにより、アノードガス通路11と燃料供給路15との間で液体燃料の流れを切り換えることが可能となっている。第1インジェクタ71は、コントローラ51からの指令信号に応じて作動し、蒸発器21に対して液体燃料を連続的又は間欠的に噴射供給するよう構成されている。また、第2インジェクタ72は、コントローラ51からの指令信号に応じて作動し、触媒燃焼器40に対して液体燃料を連続的又は間欠的に噴射供給するよう構成されている。
蒸発器21は、第1インジェクタ71から供給された液体燃料(含水エタノール)を加熱し、エタノールガスを生成する。蒸発器21は、触媒燃焼器40から燃焼ガス通路17を通じて供給されるガスとの熱交換により、液体燃料を加熱する。
燃料熱交換器22は、触媒燃焼器40での燃焼により生じた燃焼ガスの熱を受け、エタノールガスをさらに加熱する。
改質器23は、改質用触媒を内蔵しており、燃料熱交換器22から供給されるガスを改質し、水素等を含むアノードガスを生成する。改質器23で生成されたアノードガスは、燃料電池スタック1に供給される。
カソードガス通路13には、空気熱交換器31が設けられている。空気熱交換器31は、触媒燃焼器40から燃焼ガス通路17を通じて供給される燃焼ガスとの熱交換により、カソードガス通路13を流れるカソードガス(空気)を加熱する。本実施形態では、カソードガス通路13の開放端付近にエアコンプレッサ61が設置されており、カソードガスとして大気中の空気が、エアコンプレッサ61を通じてカソードガス通路13に吸入される。カソードガスは、空気熱交換器31を通過する際に加熱され、燃料電池スタック1に供給される。空気熱交換器31は、燃料電池スタック1が発電するために必要な補機として機能するものであって、図1において示した酸化剤ガス加熱部3を構成する。
エアコンプレッサ61の下流側においてはカソードガス通路13から空気供給路16が分岐しており、空気供給路16はカソードガス通路13と触媒燃焼器40とを接続する。空気供給路16には、触媒燃焼器40に供給される空気の流量を調整するための流量制御弁62が設置されている。
触媒燃焼器40は、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等を含む燃焼用触媒を内蔵している。触媒燃焼器40は、燃料供給路15及び空気供給路16を通じて供給される液体燃料及び空気を燃焼させることにより燃焼ガスを生成する。なお、触媒燃焼器40は、図1に示した燃焼器4に相当する。
燃料電池システム100では、触媒燃焼器40は燃焼ガス通路17を介して空気熱交換器31及び蒸発器21に接続されており、燃焼ガスの熱により空気熱交換器31及び蒸発器21を加熱する。他方で、燃料熱交換器22及び改質器23が触媒燃焼器40と共用のケース(図2の一点鎖線L)に収容されており、ケースLの内部において触媒燃焼器40の熱が燃料熱交換器22及び改質器23に伝達するように構成されている。
また、燃料電池システム100では、燃料電池スタック1と触媒燃焼器40とがアノードオフガス通路12及びカソードオフガス通路14によって接続されている。触媒燃焼器40は、燃料電池スタック1から排出されたアノードオフガス及びカソードオフガスを触媒燃焼させて燃焼ガスを生成することもできるよう構成されている。
上記した燃料電池システム100においては、システム起動時等に、第2インジェクタ72により液体燃料を触媒燃焼器40に供給するとともに、エアコンプレッサ61を作動させて流量制御弁62を開くことで空気を触媒燃焼器40に供給する。これにより、液体燃料の燃焼により生じた燃焼ガスにより燃料熱交換器22等を加熱することができ、燃料電池システム100全体の暖機を行うことが可能となる。一方、暖機完了後の通常時においては、燃料電池スタック1から排出されたアノードオフガスとカソードオフガスを触媒燃焼器40で燃焼させることで、燃料電池システムS全体を運転に必要な温度に維持することが可能となる。
次に、図3を参照して、触媒燃焼器40に液体燃料を供給する燃料供給装置70について説明する。図3は、本実施形態による燃料供給装置70の概略構成図である。
燃料供給装置70は、触媒燃焼器40と、触媒燃焼器40に液体燃料を噴射供給する第2インジェクタ72と、液体燃料を貯留する燃料タンク8と、コントローラ51と、を備えている。
触媒燃焼器40は例えば筒状体として構成されており、触媒燃焼器40の内部には、液体燃料を加熱する加熱器41と、加熱後の燃料を燃焼させる触媒42とが設けられている。触媒燃焼器40の上流側には加熱器41に向けて液体燃料を噴射供給する第2インジェクタ72が配置されており、触媒燃焼器40の下流側には燃焼ガス通路17が接続されている。触媒燃焼器40は、第2インジェクタ72から噴射された燃料を受け入れる燃料噴射室として機能する。なお、第2インジェクタ72は、触媒燃焼器40の端部中央に設けられているが、加熱器41に向けて液体燃料を噴射することができる位置に設けられていればよい。
加熱器41は、本体部としてのハニカム構造体41Aと、ハニカム構造体41Aの外周に設けられる電極部41Bとから構成されている。ハニカム構造体41Aは、金属製の円筒状部材として構成されており、触媒燃焼器40内に固定されている。電極部41Bは触媒燃焼器40の内部から外側に露出するように設けられており、この電極部41Bに通電することでハニカム構造体41Aが加熱される。
触媒42は触媒燃焼器40内に収容されており、触媒42の上流側端面と加熱器41の下流側端面とが接触するように並んで配置されている。触媒42は、担体としてのハニカム構造体42Aの表面に触媒材料が担時された部材である。ハニカム構造体42Aは金属製の円筒状部材として構成されており、ハニカム構造体42Aに担持される触媒材料には白金(Pt)やパラジウム(Pd)等が用いられる。
なお、本実施形態では、加熱器41と触媒42を別体として構成されているが、加熱器41と触媒42とが一体形成されてもよい。例えば、加熱器41のハニカム構造体41Aを担体として活用し、ハニカム構造体41Aの表面に触媒材料を担時することで、加熱器41自体に触媒機能を付加することができる。このように一体形成することで、触媒燃焼器40の構成を簡素化することが可能となる。
燃料供給装置70においては、第2インジェクタ72と燃料タンク8とが燃料供給路15により接続されおり、燃料タンク8には液体燃料を第2インジェクタ72に供給するための供給ポンプ8Aが設けられている。燃料供給装置70では、システム起動時等に液体燃料が第2インジェクタ72から触媒燃焼器40(燃料噴射室)に供給され、この液体燃料が加熱器41で加熱されて気化し、加熱後の気化燃料が触媒42で燃焼することで、燃焼ガスが生成される。この燃焼ガスは、燃焼ガス通路17を通じて蒸発器21や空気熱交換器31等の補機を暖気する。
上記した燃料供給装置70は、加熱器41に向けて噴射供給された液体燃料のうち、気化せずに触媒燃焼器40内に残留した液体燃料を回収する燃料回収部をさらに有している。燃料回収部は、システム起動時等、液体燃料の温度が低い状態となっている場合に、液体燃料の温度を早期に昇温させるために利用されるものである。この燃料回収部は、還流路80と、開閉弁81と、還流ポンプ82と、フィルタ83とを備えている。
還流路80は、触媒燃焼器40と燃料供給路15とを接続する通路である。還流路80の燃料取込口80Aは、加熱器41と第2インジェクタ72との間の触媒燃焼器40(燃料噴射室)に連通するよう設けられ、例えば加熱器41よりも上流側の触媒燃焼器40の下部に設けられる。本実施形態では、触媒燃焼器40の底部に燃料取込口80Aが設けられている。このように、触媒燃焼器40に設けられる燃料取込口80Aは、触媒燃焼器40の頂部と底部との中間位置(1/2)から底部までの範囲(下部)、好ましくは、触媒燃焼器40の底部に形成される。触媒燃焼器40内に多くの液体燃料が残留して加熱器41の表面を覆ってしまうと、液体燃料の加熱効果が低下してしまう。しかしながら、触媒燃焼器40の下部又は底部に燃料取込口80Aは配置すると、液体燃料が還流路80に流入しやすくなり、加熱器41が液体燃料で覆われにくくなるので、加熱器41による液体燃料の加熱を維持することが可能となる。
このように、燃料取込口80Aは、加熱器41直前であって、触媒燃焼器40内において液体燃料が溜まりやすい位置に設けられる。還流路80の排出口80Bは、燃料供給路15に接続され、例えば第2インジェクタ72と燃料タンク8との間において第2インジェクタ72寄りの位置に配置される。
なお、還流路80は触媒燃焼器40と燃料供給路15とを接続する通路として構成されているが、これに限られるものではない。図3の破線で示すように、還流路80は、触媒燃焼器40と燃料タンク8とを接続する通路として構成されてもよい。また、還流路80は、下流側において二本の通路に分岐する形状を有し、触媒燃焼器40と、燃料タンク8及び燃料供給路15とを接続するように構成されてもよい。
開閉弁81は、還流路80に設けられる。開閉弁81は、還流路80を開閉することで還流路80の連通状態を制御する電磁式開閉弁である。還流ポンプ82は、開閉弁81よりも下流側の還流路80に設けられる。還流ポンプ82は、触媒燃焼器40内に残留する液体燃料を吸い込み燃料供給路側へと圧送する。これら開閉弁81及び還流ポンプ82は、還流路80を通過する液体燃料の流量を調整する流量調整部として機能する。
フィルタ83は、還流ポンプ82よりも下流側の還流路80に設けられ、還流路80内を流れる液体燃料に含まれる異物を除去する部材である。
上記の通り、還流路80には、上流側から順番に開閉弁81、還流ポンプ82、及びフィルタ83が設けられているが、これらの配置順序は適宜変更が可能である。また、還流ポンプ82が設けられている場合には、開閉弁81の設置を省略してもよい。
第2インジェクタ72や開閉弁81、還流ポンプ82、加熱器41、その他の燃料電池システム100の運転に用いられる各種装置の動作は、コントローラ51により制御される。コントローラ51は、中央演算回路、ROM及びRAM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータからなる電子制御ユニットとして構成されている。
コントローラ51には、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度及び濃度を検出する温度センサ101及び濃度センサ102からの信号や、その他、燃料電池システム100の動作状態を検出する各種センサからの信号が入力される。
液体燃料の温度は、第2インジェクタ72から噴射される前の液体燃料の温度を示す指標であり、本実施形態では第2インジェクタ72に設置された温度センサ101によって検出される。また、液体燃料の濃度は、第2インジェクタ72から噴射される前の液体燃料の濃度を示す指標であり、本実施形態では第2インジェクタ72に設置された濃度センサ102によって検出される。
なお、温度センサ101及び濃度センサ102は、必ずしも第2インジェクタ72に設けられる必要はなく、燃料供給路15等に設けられてもよい。また、液体燃料の温度及び濃度は、センサを用いて実測するのではなく、温度及び濃度と相関する他のパラメータを用いて推定してもよい。
本実施形態による燃料電池システム100では、システム起動時において蒸発器21及び空気熱交換器31等を暖機するため、第2インジェクタ72から触媒燃焼器40に液体燃料を供給して燃焼ガスを生成させる。しかしながら、燃料が含水エタノールのような液体燃料である場合には、燃料温度が低いと液体燃料の動粘度が大きくなるため、第2インジェクタ72から噴射される燃料が微粒化されず、第2インジェクタ72の噴射特性が悪化してしまう。固体酸化物型燃料電池の動作温度は800〜1000℃と高いため、システム起動後にはシステム構成部品等の暖気を早期に完了することが望ましいが、第2インジェクタ72の噴射特性が悪化すると、触媒燃焼器40での触媒燃焼が安定せず、暖気が遅れてしまう。
そこで、本実施形態による燃料供給装置70のコントローラ51は、システム起動時に液体燃料の温度を早期に上昇させる燃料供給制御を実行するように構成されている。
図4を参照して、燃料供給装置70のコントローラ51が実行する燃料供給制御について説明する。図4は、燃料供給制御の流れを示すフローチャートである。燃料供給制御は、燃料電池システム100に対する起動要求(運転者のキーオン操作等の起動要求)後に繰り返し実行される。コントローラ51は、起動要求信号を受信した場合に、図4のフローチャートに示す手順にしたがって燃料供給制御を実行するようにプログラムされている。なお、図4の各処理手順は、必要に応じて順番を入れ替えてもよいし、省略してもよい。
図4に示すように、燃料電池システム100が起動されると、コントローラ51はステップ101(S101)の処理を実行する。S101では、コントローラ51は、触媒燃焼器40の加熱器41に電力を供給し、加熱器41を加熱させる。加熱器41は、所定の設定温度(例えば数百度)まで加熱され、設定温度に到達した後はその温度を維持するように制御される。
S102では、コントローラ51は、温度センサ101により検出された液体燃料の温度Tが、予め設定された基準温度T1よりも大きいか否かを判定する。基準温度T1は、第2インジェクタ72の噴射特性が安定するように設定される任意の値であり、本実施形態では例えば60℃に設定される。
S102において、液体燃料の温度Tが基準温度T1よりも大きいと判定された場合には、コントローラ51は燃料温度が十分に高いと判断し、S103〜S104の処理を実行する。
S103では、コントローラ51は、開閉弁81を閉じ、還流ポンプ82を停止させる。これにより、還流路80による触媒燃焼器40と燃料供給路15との連通が遮断される。
S104では、コントローラ51は、通常時燃料噴射制御を実行し、第2インジェクタ72から触媒燃焼器40に液体燃料を噴射供給する。触媒燃焼器40においては、第2インジェクタ72から供給される燃料と、エアコンプレッサ61から供給される空気を触媒燃焼させるが、通常時燃料噴射制御では空気と燃料とがほぼ完全燃焼するよう、つまり空気過剰率が1となるよう第2インジェクタ72から噴射される燃料供給量が制御される。
液体燃料の温度Tが基準温度T1を上回っている場合、第2インジェクタ72から噴射される液体燃料は適切に微粒化されて触媒燃焼器40に供給されるため、触媒燃焼器40内に液体燃料のまま残留することはほとんどない。したがって、微粒化された燃料は加熱器41で加熱された後に触媒42で燃焼し、触媒燃焼器40にて生成された燃焼ガスが燃焼ガス通路17へと排出される。燃焼ガスは、蒸発器21等を暖機した後、外部へと排出される。
一方、S102において液体燃料の温度Tが基準温度T1以下であると判定された場合には、コントローラ51は燃料温度を昇温させる必要があると判断し、S105〜S107の処理を実行する。
S105では、コントローラ51は、濃度センサ102により検出された液体燃料の濃度Dが、予め設定された基準濃度D1よりも大きいか否かを判定する。基準濃度D1は、触媒燃焼器40での燃焼が安定するように設定される任意の値である。
S105において液体燃料の濃度Dが基準濃度D1よりも大きいと判定された場合には、コントローラ51は、触媒燃焼器40での燃焼に悪影響を与えないと判断し、ステップS106の処理を実行する。
S106では、コントローラ51は、開閉弁81を開き、還流ポンプ82を駆動させる。これにより、触媒燃焼器40と燃料供給路15とが還流路80を通じて連通する状態となる。
S107では、コントローラ51は、低温時燃料噴射制御を実行し、第2インジェクタ72から触媒燃焼器40に液体燃料を噴射供給する。低温時燃料噴射制御では、空気過剰率が1より小さくなるよう、つまり通常時燃料噴射制御の場合よりも燃料供給量(噴射量)が増加するように第2インジェクタ72が制御される。
液体燃料の温度Tが基準温度T1よりも低い場合には、第2インジェクタ72から噴射された液体燃料の一部が触媒燃焼器40内に残留するが、この残留燃料は加熱器41に一度吹き当たっているため、噴射前よりも燃料温度が上昇している。このように加熱器41によって加熱された液体燃料は、還流ポンプ82により圧送され、還流路80を通じて燃料供給路15に還流される。このように加熱器41により一旦加熱された液体燃料が燃料供給路15内に還流されることで、第2インジェクタ72に供給される燃料の温度を早期に基準温度T1まで上昇させることができ、第2インジェクタ72の噴射特性の悪化を抑制することが可能となる。
低温時燃料噴射制御(燃料還流時)においては、通常時(燃料非還流時)よりも第2インジェクタ72の燃料供給量を増加させるため、触媒燃焼器40内に残留する液体燃料量を増加させることができる。これにより、燃料供給路15に還流させることができる液体燃料量を増やすことができ、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の昇温効果を高めることが可能となる。
なお、S105において液体燃料の濃度Dが基準濃度D1以下と判定された場合には、コントローラ51は、燃料濃度の低下により触媒燃焼器40での燃焼性が悪化すると判断し、S103以降の処理を実行する。
S106及びS107において液体燃料の還流を行う場合には、液体燃料が触媒燃焼器40の加熱器41で加熱されているため、液体燃料に含まれるエタノールが蒸発しやすい。そのため、触媒燃焼器40内に残留している液体燃料においてはエタノール濃度が低下しており、このような燃料を燃料供給路15の還流し続けると、第2インジェクタ72に供給される液体燃料のエタノール濃度も低下してしまう。したがって、液体燃料の濃度Dが低下した場合には、S106以降の制御を一旦中断し、液体燃料の濃度Dが回復するまでの間S103以降の通常制御を実行することで、触媒燃焼器40での燃焼性の悪化を抑制する。
なお、燃料電池システム100の運転状態によっては、触媒燃焼器40内に液体燃料が残留していても当該液体燃料を還流しないこともあるが、このような場合、残留液体燃料は時間経過とともに触媒燃焼器40内で気化して触媒42にて燃焼される。
上記した本実施形態の燃料供給装置70によれば、以下の効果を得ることができる。
燃料供給装置70は、燃料電池スタック1の発電に利用される液体燃料を供給する装置であって、第2インジェクタ72を介して触媒燃焼器40(燃料噴射室)に液体燃料を噴射供給する。触媒燃焼器40は、噴射供給された液体燃料を加熱する加熱器41を有しており、加熱後燃料を蒸発器21等の補機に供給可能に構成されている。そして、触媒燃焼器40と、第2にインジェクタ72に液体燃料を供給する燃料供給路15とは、還流路80を介して接続される。なお、還流路80は、触媒燃焼器40と、燃料供給路15及び燃料タンク8との少なくとも一方とを接続する通路であってもよい。
このように構成される燃料供給装置70では、触媒燃焼器40に供給された液体燃料のうち、触媒燃焼器40内において気化せずに残留した液体燃料を燃料供給路15及び燃料タンク8の少なくとも一方に還流させることができる。加熱器41によって一旦加熱された残留液体燃料を還流させることで、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度を効率的かつ早期に所望温度まで上昇させることができる。これにより、システム始動後すみやかに第2インジェクタ72の噴射特性の悪化を抑制することが可能となる。
なお、第2インジェクタ72から噴射供給される液体燃料は、噴射前よりも表面積が増大した状態で加熱器41により加熱されるため、加熱器41からの熱を受熱しやすい。そのため、触媒燃焼器40内に残留する液体燃料は高温になりやすく、還流後の液体燃料の昇温効果を高めることができる。
また、燃料供給装置70の触媒燃焼器40は、加熱器41で加熱されて気化した燃料(加熱後燃料)を燃焼させる触媒42を備えている。なお、加熱器41と触媒42とは一体形成されていてもよく、この場合には加熱器41のハニカム構造体41Aの表面に触媒材料が担持されることとなる。このように構成される燃料供給装置70では、触媒42により燃焼ガスを生成でき、燃焼ガスによりシステム構成部材を暖機することが可能となる。本実施形態では、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度を早期に上昇させることで、第2インジェクタ72の噴射特性を安定させることができるため、システム始動後の触媒燃焼も安定する。その結果、燃料電池システム100の暖機時間を短縮することが可能となる。
さらに、燃料供給装置70では、還流路80の燃料取込口80Aは、加熱器41と第2インジェクタ72との間における触媒燃焼器40に接続される。より具体的には、燃料取込口80Aは、加熱器41前における触媒燃焼器40の底部に接続される。このように構成される燃料供給装置70では、触媒燃焼器40内に残留した液体燃料をより確実に還流路80に導入することができ、還流後の液体燃料の昇温効果をより高めることが可能となる。
さらに、燃料供給装置70では、還流路80にフィルタ83が設けられる。このように構成される燃料供給装置70では、還流路80を通過する液体燃料に含まれる異物をフィルタ83より除去することができる。これにより、液体燃料を還流しても、第2インジェクタ72等における異物詰まりを防止することが可能となる。
さらに、燃料供給装置70では、開閉弁81及び還流ポンプ82が還流路80に設けられる。これら開閉弁81及び還流ポンプ82は、還流路80を通過する液体燃料の流量を調整する流量調整部として機能する。還流される液体燃料の流量を流量調整部により制御することで、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度を適切に制御することが可能となる。
さらに、燃料供給装置70は開閉弁81等の流量調整部を制御するコントローラ51を備えており、コントローラ51は、第2インジェクタ72から噴射される前の液体燃料の温度を取得し、液体燃料温度Tが基準温度T1以下の場合に、触媒燃焼器40内に残留している液体燃料を還流するよう開閉弁81等の流量調整部を制御する。これにより、システム始動直後等、液体燃料温度が低い場合に、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度を早期に上昇させることが可能となる。
さらに、燃料供給装置70では、コントローラ51は、第2インジェクタ72から噴射される前の液体燃料の濃度を取得し、液体燃料濃度Dが基準濃度D1以下の場合に、液体燃料の還流を停止するよう開閉弁81等の流量調整部を制御する。これにより、還流後の液体燃料の濃度低下に起因する触媒燃焼器40での燃焼性の悪化を抑制することが可能となる。
さらに、燃料供給装置70では、コントローラ51は、液体燃料還流時の第2インジェクタ72からの液体燃料の供給量が液体燃料非還流時の供給量よりも増加するよう第2インジェクタ72を制御する。これにより、燃料供給路15等に還流させることができる液体燃料量を増やすことができ、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の昇温効果を高めることが可能となる。
さらに、燃料供給装置70では、コントローラ51は、加熱器41の加熱開始後に液体燃料を噴射するよう第2インジェクタ72を制御する。これにより、第2インジェクタ72から噴射された液体燃料をより確実に加熱することでき、触媒燃焼器40内に残留する液体燃料の温度を効率的に高めることが可能となる。
以下では、図5、図6A及び図6Bを参照して、本実施形態による燃料供給装置70の変形例について説明する。
まず、図5を参照して、本実施形態の一変形例による燃料供給装置70について説明する。図5は、一変形例による燃料供給装置70の概略構成図である。
図5に示すように、本変形例では、燃料供給装置70が車両に搭載された状態において、燃料タンク8は、触媒燃焼器40(燃料噴射室)の底部よりも低い位置、つまり触媒燃焼器40の下方に配置される。
還流路80は、触媒燃焼器40と燃料タンク8とを連通するよう、上下方向に延設されている。還流路80の燃料取込口80Aは触媒燃焼器40の底部に接続され、還流路80の排出口80Bは燃料タンク8の上部に接続される。この還流路80には、開閉弁81及びフィルタ83が配置されている。
本変形例による燃料供給装置70では還流路80に還流ポンプ82は設けられておらず、コントローラ51は開閉弁81(流量調整部)の開閉のみで液体燃料の還流量を制御するように構成されている。コントローラ51は、図4に示した燃料噴射制御を実行するが、図4のS103及びS106の処理においては開閉弁81の制御のみを実行する。
コントローラ51は、触媒燃焼器40内に残留している液体燃料を還流させる必要がある場合に、開閉弁81を開弁する。開閉弁81が開弁されると、触媒燃焼器40内に残留している液体燃料は自重により還流路80内に流入し、フィルタ83を通過して燃料タンク8の上部から燃料タンク8内に還流される。還流された液体燃料は燃料タンク8内の燃料と混合され、再び第2インジェクタ72へと導かれる。このように触媒燃焼器40内に残留した液体燃料を還流させることによっても、第2インジェクタ72に供給される燃料を早期に昇温させることができる。
なお、本変形例による燃料供給装置70は、触媒燃焼器40内に残留した液体燃料を重力を利用して還流するよう構成されているが、開閉弁81とフィルタ83との間の還流路80に還流ポンプ82を設置してもよい。また、必要に応じて、還流路80への開閉弁81、還流ポンプ82、フィルタ83のいずれかを設けるようにしてもよいし、これら全てを省略してもよい。開閉弁81、還流ポンプ82及びフィルタ83の設置を省略した場合には、コントローラ51で開閉弁81等を制御しなくても、触媒燃焼器40内に残留している液体燃料を燃料タンク8へと還流することができる。
また、図5において、還流路80は上下方向に直線的に延設される通路として開示されているが、このような形態に限られるものではない。還流路80は、触媒燃焼器40内に残留した液体燃料が自重により燃料タンク8に還流されるような形状であればよく、上下方向に対して傾斜していたり、湾曲部位や屈曲部位を有していたりしてもよい。
次に、図6A及び図6Bを参照して、本実施形態の他の変形例による燃料供給装置70について説明する。図6Aは他の変形例による燃料供給装置70の触媒燃焼器40の概略断面図であり、図6Bはさらに別の変形例による燃料供給装置70の触媒燃焼器40の概略断面図である。図6A及び図6Bに示した触媒燃焼器40は、図3及び図5に示した燃料供給装置70における触媒燃焼器に適用することができる。
図6Aに示すように、触媒燃焼器40(燃料噴射室)の底部には還流路80の燃料取込口80Aが接続されている。そして、本変形例による触媒燃焼器40の内部には、底部を含む下部領域において傾斜部40Aが形成されている。傾斜部40Aの上面は触媒燃焼器40の上流端から加熱器41側に向かって下り傾斜する傾斜面40Bとして形成されており、傾斜面40Bは触媒燃焼器40内に残留した液体燃料を還流路80の燃料取込口80Aへと誘導するように構成されている。
上記の通り、触媒燃焼器40は液体燃料を還流路80へと導くための傾斜面40Bを有しているため、触媒燃焼器40内に残留するほとんどの液体燃料を還流路80を介して還流させることができる。その結果、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度をより早期に昇温させることができる。
なお、触媒燃焼器40の内部に傾斜部40Aを形成する代わりに、図6Bに示すように、傾斜部40Aを有していない触媒燃焼器40を傾斜状態で車両に配置するようにしてもよい。つまり、下流側が上流側よりも低くなるように触媒燃焼器40を傾斜させることで、触媒燃焼器40の内部底面が傾斜面40Cとして機能する。傾斜面40Cは、触媒燃焼器40内に残留した液体燃料を還流路80の燃料取込口80Aへと誘導する。
したがって、図6Bのように触媒燃焼器40を傾斜して配置することによっても、触媒燃焼器40内に残留するほとんどの液体燃料を還流路80を介して還流させることができ、液体燃料の温度をより早期に昇温させることが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更及び修正が可能である。
本実施形態による燃料供給装置70では、還流路80の連通状態を制御する部材として開閉弁81が設けられているが、開閉弁81は電磁式の開閉弁として構成されてもよいし、バイメタル式の開閉弁として構成されてもよい。
バイメタル式開閉弁は、バイメタルにより形成された弁体を備えており、残留液体燃料の温度に応じて還流路80を開閉する。つまり、バイメタル式開閉弁は、残留液体燃料の温度が基準温度以下の場合に開弁し、当該温度が基準温度より大きい場合に閉弁するように構成される。バイメタル式開閉弁を、還流路80を通過する液体燃料の流量を調整する流量調整部として機能させることで、図4のS103及びS106において説明したコントローラ51による開閉弁制御が不要となる。これにより、燃料供給装置70のシステム構成を簡素化でき、コントローラ51の演算負荷等も低減することができる。
本実施形態による燃料供給装置70では、図4のS101、S104及びS106に示したように、加熱器41の加熱後に第2インジェクタ72から液体燃料を噴射するが、加熱器41の加熱開始と同時に第2インジェクタ72から液体燃料を噴射してもよい。
本実施形態による燃料供給装置70では、加熱器41は所定の設定温度まで加熱されるように構成されている。加熱器41の設定温度は、供給される液体燃料の種類等に応じて予め設定される温度となるが、例えば加熱器41に噴射された液体燃料についてライデンフロスト現象が発生する温度(ライデンフロスト温度)が設定温度として採用されてもよい。このように加熱器41の設定温度をライデンフロスト温度とすると、噴射された液体燃料が加熱器41に吹き当たってもすぐには蒸発せず、燃料が液相状態のまま加熱器41からの熱を受熱することとなり、触媒燃焼器40内に比較的高温の液体燃料を多く残留する。その結果、多量の液体燃料を還流させることができ、第2インジェクタ72に供給される液体燃料の温度をより早期に昇温させることが可能となる。
本実施形態による燃料供給装置70は、燃料電池スタック1の発電に寄与する補機としての触媒燃焼器40に液体燃料を供給する装置であるが、燃料供給装置70の燃料供給対象は触媒燃焼器40に限られない。例えば、燃料供給装置は、燃料電池スタック1のアノードガス通路11に設けられる蒸発器21に対して、第1インジェクタ71から液体燃料を噴射供給する装置として構成されてもよい。この場合には、蒸発器21と、第1インジェクタ71に液体燃料を供給する通路及び燃料タンク8の少なくとも一方とが還流路を介して接続され、燃料供給装置70と同様に開閉弁等も還流路80に設けられる。
蒸発器21は、内部に設けられた加熱器により液体燃料を加熱し、燃料電池スタック1の発電に必要なアノードガスの原料となる気化燃料を生成するものであるから、燃料電池システム100において第1インジェクタ71に供給される液体燃料の温度を管理することも重要である。したがって、燃料供給対象を蒸発器21とする燃料供給装置では、蒸発器21に設けられた加熱器で加熱された液体燃料のうち蒸発器21内に液状のまま残留した燃料を燃料タンク8等に還流することで、第1インジェクタ71に供給される液体燃料の温度を早期に昇温させることができる。その結果、第1インジェクタ71の噴射特性の悪化を抑制することが可能となる。