JP2019005102A - ゴルフボール - Google Patents

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宏隆 篠原
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Abstract

【解決手段】本発明は、コアと1層以上のカバーとを具備し、該カバーの表面には塗膜層が形成されるゴルフボールであって、上記塗膜層の弾性仕事回復率が60%以上であり、該塗膜層と接するカバー層の材料硬度がショアDで55以上であり、且つ、上記塗膜層の弾性仕事回復率(%)をM、上記カバー層の材料硬度(ショアD硬度)をNとしたとき、M−N>0であることを特徴とするゴルフボールを提供する。
【効果】本発明のゴルフボールは、ボール表面が傷付き難く耐久性に優れており、ドライバーやロングアイアンでの低スピン化を実現して飛距離を向上させることができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、コアと1層以上のカバーとを具備し、該カバーの表面には塗膜層が形成されるゴルフボールに関する。
ゴルフボールの表面を保護する目的で、又は美的外観を良好に維持する目的により、該ボール表面部分に塗料組成物による塗装が施されていることが多い。このようなゴルフボール用塗料組成物としては、大きな変形及び衝撃、摩擦に耐え得るなどの理由から、ポリオールとポリイソシアネートとを使用直前に混合して用いる2液硬化型ポリウレタン塗料が好適に使用されている(例えば特許文献1)。
最近のゴルフボールの開発で多く見られるのは、ドライバーによるフルショット時のスピンをより一層低下させることであり、このような低スピン化の流れから、最外層であるカバーは硬質化する傾向にある。
また、多くのゴルフボールは、コアと、該コアの外側に位置するカバーと、該カバーの外側に位置する塗膜層とを備えている。この塗膜層を軟質にすることにより、ゴルフボールのスピン速度の安定性に寄与したり、耐久性に優れたりするなどの一定の効果があることも多い(例えば特許文献2)。
しかしながら、上記特許文献2は、塗膜層の傷付き性能については考慮されていない。塗膜層に傷がつくとその部分から塗膜が剥がれやすくなり、塗膜の耐久性が悪くなるおそれがある。また、塗膜の傷付き性に関しては、下地であるカバー材の影響を受けることが分かっており、カバー硬度が硬くなればなる程、耐傷付き性能が低下し、塗膜の耐久性は悪くなる傾向にある。また、ゴルフボールに対するゴルファーの最大の要求は飛距離であり、飛距離増大を主目的としてコアやカバーの硬度及び厚さ等を調整されるゴルフボールが多い。ゴルファーは、特にドライバーショットでの飛距離を重視する。ドライバーショットの飛距離は、ゴルフボールの反発性能と相関するものであり、比較的硬質であるカバーが採用され、反発性能が高められたゴルフボールが多く市販されている。このため、塗膜層を有するゴルフボールについては、塗膜層と硬質カバー層との関係が重要となり、傷付き性能や耐久性を改善するだけではなく、ドライバーショット等での飛距離に優れることが大きな課題であった。
特開2003−253201号公報 特開2011−67595号公報 特開2002−53799号公報
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ボール表面が傷付き難く耐久性に優れており、ドライバーやロングアイアンでの低スピン化を実現して飛距離を向上させるゴルフボールを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、コアと1層以上のカバーとを具備し、該カバーの表面に塗膜層を形成するゴルフボールについて、上記塗膜層の弾性仕事回復率を60%以上とすると共に、塗膜層と接するカバー層をショアD硬度で55以上の樹脂材料により形成し、更に、塗膜層の弾性仕事回復率(%)をM、上記カバー層の材料硬度(ショアD硬度)をNとしたとき、M−N>0となるようにゴルフボールを設計することにより、塗膜層とこの内側に位置するカバー層(最外層)との組み合わせが良好となり、ドライバーでの低スピン化と高反発性を実現して飛距離を向上させると共に、ボール表面が傷付き難く耐久性に優れることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
〔1〕コアと1層以上のカバーとを具備し、該カバーの表面には塗膜層が形成されるゴルフボールであって、上記塗膜層の弾性仕事回復率が60%以上であり、該塗膜層と接するカバー層の材料硬度がショアDで55以上であり、且つ、上記塗膜層の弾性仕事回復率(%)をM、上記カバー層の材料硬度(ショアD硬度)をNとしたとき、M−N>0であることを特徴とするゴルフボール。
〔2〕上記のM−Nの値が5以上となる〔1〕記載のゴルフボール。
〔3〕上記塗膜層の厚さが6μm以上である〔1〕又は〔2〕記載のゴルフボール。
〔4〕上記塗膜層の厚さをX(μm)としたとき、N−X2<20である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のゴルフボール。
〔5〕上記カバー層がアイオノマー樹脂を主材として形成される〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のゴルフボール。
〔6〕上記塗膜層が、異なる2種類のポリエステルポリオールを主材として形成される〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のゴルフボール。
本発明のゴルフボールは、比較的硬い樹脂材料を用いてカバー層を形成しても、ボール表面が傷付き難く耐久性に優れており、ドライバーやロングアイアンでの低スピン化を実現して飛距離を向上させることができる。
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、特に図示してはいないが、コアと1層以上のカバーとを具備し、該カバーの表面に塗膜層が形成されるものである。本発明で用いられるカバーは、1層のほか、2層や3層以上の複数層に形成することができる。本明細書においては、カバーの各層を「カバー層」と称し、該カバー層の全てを「カバー」と称する。
コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス−1,4−ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。また、ポリブタジエンは、チタン系、コバルト系、ニッケル系、ネオジウム系等のチーグラー系触媒,コバルト及びニッケル等の金属触媒により合成することができる。
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤、ジクミルパーオキサイドや1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
上記カバーは、少なくとも1層有し、例えば、2層のカバーや3層のカバー等のものが挙げられる。2層のカバーの場合、カバー層は、内側を中間層、外側を最外層と称することがある。また、3層のカバーの場合、カバー層は、内側から順に、包囲層、中間層及び最外層と称することがある。なお、上記最外層の外表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルが多数形成される。
カバー層の材質については、特に制限はなく、各種の熱可塑性樹脂材料を好適に採用することができ、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂や、ポリアミド樹脂、更にはポリウレタン樹脂により形成することができる。特には、後述するように比較的硬い材料で高反発な樹脂材料を得るためには、高中和型樹脂混合材料やアイオノマー樹脂材料を使用することが好適である。
上記の樹脂としては、市販品を使用することができ、具体的には、ハイミラン1605、ハイミラン1601及びAM7318(いずれも三井デュポンポリケミカル社製)、サーリン8120(Dupont社製)等のナトリウム中和型アイオノマー樹脂やハイミラン1557、ハイミラン1706及びAM7317(いずれも三井デュポンポリケミカル社製)等の亜鉛中和型アイオノマー樹脂、Dupont社製の商品名「HPF 1000」「HPF 2000」、「HPF AD1027」、実験用「HPF SEP1264−3」等を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上併用することができる。
カバー層の厚さは、特に制限はないが、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上であり、上限としては、好ましくは2.0mm以下、好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.2mm以下である。
カバー層の硬度は、特に制限されるものではないが、ショアD硬度で、好ましくは55以上であり、より好ましくは57以上であり、上限としては、好ましくは70以下、より好ましくは68以下、さらに好ましくは65以下とすることができる。
本発明では、後述する塗膜層と接するカバー層の材料硬度がショアDで55以上である。即ち、本発明では、高い反発性を付与してドライバーやロングアイアン等のフルショット時の飛距離増大を図るために比較的硬いカバー材料を用い、且つ、後述するように塗膜層との層間関係を良好なものとして優れた塗膜耐久性を付与するものである。
塗膜層と接するカバー層の材料については、上述したカバー層の材質と同様であるが、特に、高い反発性と低スピン化を両立できる点から、アイオノマー樹脂を主材としたものが好適である。
カバー層の形成方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、予め作製したコアまたはカバー層を被覆した被覆球体を金型内に配置し、上記で調製した樹脂材料を射出成形する方法等を採用できる。
カバーのうち最外層にあたるカバー層の外表面には1種類又は2種以上の多数のディンプルを形成することができる。
上記カバー表面には塗膜層が形成される。この塗膜層は、各種塗料を用いて塗装することができ、塗料としては、ゴルフボールの過酷な使用状況に耐えうる必要から、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料用組成物を用いることが好適である。
上記ポリオール成分としては、アクリル系ポリオールやポリエステルポリオールなどが挙げられる。なお、これらのポリオールには、ポリオールの変性体が含まれ、更に作業性を向上させるため、他のポリオールを追加することもできる。
アクリルポリオールとしては、イソシアネートと反応する官能基を有するモノマーの単独重合体または共重合体が挙げられ、このようなモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併用することができる。
また、アクリルポリオールの変性体としては、例えば、ポリエステル変性アクリルポリオール等が使用できる。他のポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG),ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジペート(PEA),ポリブチレンアジペート(PBA)及びポリヘキサメチレンアジペート(PH2A)のような縮合系ポリエステルポリオール、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール、ポリヘキサメチレンカーボネートのようなポリカーボネートポリオール等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併用することができる。また、これらポリオールのアクリル系ポリオール全量に対する比率は、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
ポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス−2−カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。
ポリオール成分としては、2種類のポリエステルポリオールを併用することが好適である。この場合、2種類のポリエステルポリオールを(A)成分及び(B)成分とすると、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000〜23,000であり、より好ましくは15,000〜22,000である。また、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の数平均分子量(Mw)は、好ましくは1,100〜2,000であり、より好ましくは1,300〜1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、塗膜層の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。
上記2種類のポリエステルポリオール(A),(B)成分の配合量は、特に制限はないが、(A)成分の配合量が、主剤全量に対して20〜30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2〜18質量%であることが好ましい。
一方、ポリイソシアネートについては、特に制限はなく、一般的に用いられている芳香族、脂肪族、脂環式などのポリイソシアネートであり、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−4−イソシアナトメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは、単独で或いは混合して使用することができる。
上記のヘキサメチレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリエステル変性体やウレタン変性体などが挙げられる。上記のヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(イソシアヌレート体)やビュレット体、アダクト体が挙げられる。
ポリオールが有する水酸基(OH基)とポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)については、0.5〜1.5の範囲になるようにする必要があり、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは1.0〜1.2である。0.5未満の場合には未反応の水酸基が残り、塗膜層としての性能及び耐水性が悪くなるおそれがある。一方,1.5を超えるとイソシアネート基が過剰となるため、水分との反応でウレア基(脆い)が生成することになり、その結果、塗膜層の性能が低下するおそれがある。
硬化触媒(有機金属化合物)として、アミン系触媒や有機金属系触媒を使用することができ、この有機金属化合物としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ等の金属石鹸等、従来から2液硬化型ウレタン塗料の硬化剤として配合されているものを好適に使用することができる。
塗料組成物には、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリッピング剤、顔料等を適量配合することができる。
上記塗料組成物からなる塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、通常5〜40μm、好ましくは10〜20μmである。なお、ここで言う塗膜層の厚さとは、ディンプル内に形成される塗膜層ではなく、ディンプル以外のボール表面(即ち、陸部又は土手部とも言う。)に形成される塗膜の厚さを意味する。
本発明では、上記塗料組成物からなる塗膜層の弾性仕事回復率が60%以上とすることを要し、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。この塗膜層の弾性仕事回復率が上記範囲であれば、塗膜層が高弾性力を有するため自己修復機能が高く、耐摩耗性に非常に優れる。また、上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールの諸性能を向上させることができる。上記の弾性仕事回復率の測定方法については以下のとおりである。
弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗膜層の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、精度高く塗膜層の物性を評価することができると考えられる。ボール表面の塗膜層がドライバーや各種のクラブの打撃により大きな影響を受け、塗膜層がゴルフボールの物性に及ぼす影響は小さくないことから、塗膜層を超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
上記の塗料組成物を使用する際は、公知の方法で製造されたゴルフボールに対し、本発明の塗料組成物を塗装時に調整し、通常の塗装工程を採用して表面に塗布し、乾燥工程を経てボール表面に塗膜層を形成することができる。この場合、塗装方法としては、スプレー塗装法、静電塗装法、ディッピング法などを好適に採用することができ、特に制限はない。
本発明は更に、塗膜層の弾性仕事回復率(%)をM、塗膜層と接するカバー層の材料硬度(ショアD硬度)をNとしたとき、M−N>0であることを特徴とする。即ち、カバー層の材料硬度よりも塗膜層の弾性仕事回復率(%)を高く設定することにより、カバー硬度が硬くなっても塗膜摩耗性を維持することができる。M−Nの好ましい値としては、5以上、より好ましくは10以上である。
また、上記塗膜層の厚さをX(μm)としたとき、塗膜層と接するカバー層の材料硬度(ショアD硬度)をNとしたとき、N−X2<20であることが好適である。即ち、カバー層の硬さと塗膜層の厚さとの関係を上記式のように特定することにより塗膜耐久性を良好なものにすることができる。上記式において塗膜層の厚さの二乗X2は塗膜耐久性を示し、上記式の値が小さい程(即ち、カバー材料硬度が低くなったり、塗膜層が厚くなったりする程)、塗膜耐久性が良好となる。なお、塗膜層の厚さXは、特に図示してはいないがディンプル内の最深部上の塗膜の厚さではなく、陸部(土手部)上に形成される塗膜の厚さを示す。ディンプル内部には傾斜があるため、塗料がダレて底部に溜まりやすく塗膜の厚さが必ずしも均一ではなく、従って、塗膜の厚さの定義として、ディンプル以外のボール表面上に形成される塗膜の厚さを用いる。
ゴルフボールを荷重負荷した時のたわみ量、即ち、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量は、下限値としては、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは2.5mm以上であり、上限値としては、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下である。このボールのたわみ量が小さ過ぎると、打感を著しく損なう場合があり、或いはスピン量が過度に増加して所望の飛距離が出なくなる場合がある、逆に、上記のたわみ量が大き過ぎると、初速が出なくなり、または著しく耐久性を損なう場合がある。なお、上記のゴルフボールの所定荷重負荷時のたわみ量は、カバー(最外層)表面に塗膜層を形成して完成されたゴルフボールの状態で測定されるたわみ量を意味する。
ボール質量(重さ)、直径等のボール規格はゴルフ規則に従って適宜設定することができる。
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〜7、比較例1〜5〕
表1に示す配合により各例のコア用のゴム組成物を調製した後、155℃、15分間により加硫成形することにより直径39.7mmのコアを作製した。
Figure 2019005102
上記コアの材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
「ポリブタジエンA」:商品名「BR01」JSR社製
「ポリブタジエンB」:商品名「BR51」JSR社製
「有機過酸化物」:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」日油社製
「硫酸バリウム」:商品名「バリコ#100」ハクスイテック社製
「酸化亜鉛」:商品名「酸化亜鉛3種」堺化学工業社製
「アクリル酸亜鉛」:日本触媒社製
「水」:蒸留水、和光純薬工業社製
「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」:和光純薬工業社製
次に、下記表2に示す各種の樹脂材料を配合した厚さ1.5mmの単層のカバー層を射出成形法により被覆してツーピースソリッドゴルフボールを作製した。なお、特に図示してはいないが、カバーの外表面には多数のディンプルが射出成形と同時に形成された。
Figure 2019005102
カバー材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
・「ハイミラン1557,ハイミラン1601」:三井・デュポンポリケミカル社製のアイオノマー
・「AM7318,AM7327」:三井・デュポンポリケミカル社のアイオノマー
・「AN4319」:三井・デュポンポリケミカル社製の「(商標)ニュクレル」、未中和のエチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル3元共重合体
・酸化チタン:石原産業社製「R−550」
・ステアリン酸マグネシウム:日油社製「マグネシウムステアレートG」
塗膜層の形成
次に、下記表3及び表4に示す塗料配合において、ディンプルが多数形成されたカバー層の表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装した。ディンプル以外のボール表面(即ち、陸部)に形成される塗膜層の厚さが、表5に示す各例の厚さとなるように、塗膜層を形成し、各例のゴルフボールを作製した。
弾性仕事回復率
塗料の弾性仕事回復率の測定には、厚み50μmの塗膜シートを使用して測定する。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT−2100」が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
Figure 2019005102
[ポリエステルポリオール(A)の合成例]
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200〜240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4,水酸基価170,重量平均分子量(Mw)28,000の「ポリエステルポリオール(A)」を得た。
次に、上記の合成したポリエステルポリオール(A)を酢酸ブチルで溶解させ、不揮発分70質量%のワニスを調整した。
「塗料配合No.1」は、上記ポリエステルポリオール溶液23質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の飽和脂肪族ポリエステルポリオール「NIPPOLAN 800」、重量平均分子量(Mw)1,000、固形分100%)を15質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分38.0質量%であった。
「塗料配合No.2」は、上記ポリエステルポリオール溶液25質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の「NIPPOLAN 800」、固形分100%)を8質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分33.0質量%であった。
「塗料配合No.3」は、上記ポリエステルポリオール溶液26質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の「NIPPOLAN 800」、固形分100%)を4質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分30.0質量%であった。
「塗料配合No.4」は、比較例1では、上記「ポリエステルポリオール(B)」を混合せず、表1に示すように、主剤として「ポリエステルポリオール(A)」のみを酢酸ブチルで溶解させた。この溶液は、不揮発分27.5質量%であった。
次に、「塗料配合No.1〜No.4」の硬化剤として表3に示すイソシアネートを有機溶剤に溶解させて使用した。「塗料配合No.1〜No.4」については、表3に示す配合割合になるように、HMDI系ヌレート(旭化成(株)製の「デュラネートTPA−100」NCO含有量23.1質量%、不揮発分100質量%)と、有機溶剤として酢酸エチル及び酢酸ブチルを加え、塗料を調製した。
「塗料配合No.5」については、下記表4に示すようにポリオール成分としてアクリルポリオールを主剤とする塗料組成物を用いた。
Figure 2019005102
[アクリル系ポリオールの合成例]
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、および滴下装置を備えた反応器に、酢酸ブチルを1,000質量部仕込み、撹拌しながら100℃まで昇温した。そこに、ポリエステル含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFM−3)220質量部、メチルメタクリレート610質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート170質量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル30質量部からなる混合物を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後、酢酸ブチル180質量部,ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルL205AL)150質量部仕込み、混合して固形分50%、粘度100mPa・s(25℃)、重量平均分子量10,000、水酸基価113mgKOH/g(固形分)の、透明なアクリル系ポリオール樹脂溶液を得た。
実施例1〜7及び比較例1〜5のカバー及び塗料組成物の構成について下記表5に示す。また、各例のゴルフボールにつき、カバー層の材料硬度、ボールのたわみ量、飛び性能、砂摩耗試験後のボール表面の傷付き評価及び塗膜耐久性を下記の基準に従って評価した。その結果を表5に示す。
カバー層の材料硬度
カバー層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアD硬度はASTM D2240−95規格に準拠して計測した。
ボールのたわみ量
ゴルフボールを硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときまでのたわみ量を計測した。なお、上記のたわみ量は23.9℃に温度調整した後の測定値である。
飛び性能(W#1打撃)
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)、ブリヂストンスポーツ社製、「TourStage X−Drive415」(ロフト角:10.5°)を装着し、ヘッドスピード(HS)46m/sで打撃した時の飛距離(キャリー)を測定すると共に、下記の基準で評価した。また、スピン量は同様に打撃した直後のボールを初期条件計測装置により測定した。
砂摩耗試験後のボール表面の外観評価
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約4kg入れ、該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルにて50〜60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ボールをポットミルから取り出し、下記の基準により、ボール外観を評価した。
〔判定基準〕
◎:ボール表面には、傷や汚れなど目立った外傷なし
○:ボール表面には、小さな傷や汚れが見られる
△:ボール表面には、中程度の傷や汚れが見られる
×:ボール表面には、摩耗による大きな傷、又は汚れや艶の減退などが目立つ
塗膜耐久性の評価
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約1.7Lと、水を1.7L入れ、該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルにて50〜60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ボールをポットミルから取り出し、下記の基準により塗膜の剥離の程度を評価した。
〔判定基準〕
◎:ボール表面の剥離面積が60mm2未満
○:ボール表面の剥離面積が60〜119mm2
△:ボール表面の剥離面積が120〜499mm2
×:ボール表面の剥離面積が500mm2以上
Figure 2019005102
表5の結果から比較例1〜5は、以下の点が考察される。
比較例1は、カバー硬度に対して弾性回復率が低すぎるため、傷付き性が満足していない。
比較例2は、カバー硬度に対して弾性回復率が低すぎるため、傷つき性が満足していない。更にカバー硬度に対する膜厚が薄いため、塗膜耐久性も満足していない。
比較例3は、カバー硬度が軟らかすぎるため、適正なスピン量を得ることができず飛距離性能が劣る。
比較例4は、カバー硬度に対して弾性回復率が低すぎるため、傷つき性が満足していない。更にカバー硬度に対する膜厚が薄いため、塗膜耐久性も満足していない。
比較例5は、カバー硬度が軟らかすぎるため、飛距離性能に劣る。更にカバー硬度に対する膜厚が薄いため、塗膜耐久性も満足していない。

Claims (6)

  1. コアと1層以上のカバーとを具備し、該カバーの表面には塗膜層が形成されるゴルフボールであって、上記塗膜層の弾性仕事回復率が60%以上であり、該塗膜層と接するカバー層の材料硬度がショアDで55以上であり、且つ、上記塗膜層の弾性仕事回復率(%)をM、上記カバー層の材料硬度(ショアD硬度)をNとしたとき、M−N>0であることを特徴とするゴルフボール。
  2. 上記のM−Nの値が5以上となる請求項1記載のゴルフボール。
  3. 上記塗膜層の厚さが6μm以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。
  4. 上記塗膜層の厚さをX(μm)としたとき、N−X2<20である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴルフボール。
  5. 上記カバー層がアイオノマー樹脂を主材として形成される請求項1〜4のいずれか1項記載のゴルフボール。
  6. 上記塗膜層が、異なる2種類のポリエステルポリオールを主材として形成される請求項1〜5のいずれか1項記載のゴルフボール。
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