本開示は一般に、疾患を処置するための細胞療法、ならびに障害および/または疾患、特に、遅発性障害および/または疾患をモデル化するための、細胞ベースの系に関する。より具体的には、本明細書では、初代細胞(下記で定義される)の場合もあり、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞、またはヒト対象もしくは動物対象から回収された幹細胞など、未分化の(幹)細胞に由来する場合もある、体細胞およびこのような細胞を産生するための方法が提供される。体細胞は、細胞年齢、成熟、および/または疾患に特徴的な1つまたは複数のマーカーであって、1もしくは複数の細胞内マーカーもしくは形態マーカーを検出することにより確認することもでき、かつ/または細胞内の経時的マーカーシグネチャーを構成する1もしくは複数のマーカーを含む、1もしくは複数の細胞内マーカーの非存在を検出することにより確認することもできる、1つまたは複数のマーカーを呈示する。
本明細書で開示される細胞およびこれらの細胞を産生するための方法は、初代体細胞の再プログラム化または脱分化から生じる人工多能性幹細胞(iPSC)は、細胞年齢、成熟、および/または疾患に特徴的な1つまたは複数のマーカーを失うことが観察されている(Freije, J.M.およびLopez−Otin, C.(2012年)、Current Opinion in Cell Biology、24巻、757〜764頁)が、所望の細胞型への分化の前または後において、iPSCをプロジェリン様タンパク質と接触させることにより、このようなiPSCに、細胞年齢、成熟、および/または疾患に特徴的な1つまたは複数のマーカーを発現させうるという発見に基づく。細胞は、プロジェリン様タンパク質と接触させ、これにより、1つまたは複数の経時的マーカーシグネチャーを呈示させる前または呈示させた後において、iPSCを分化させることにより産生される。このような「年齢相応」細胞は、障害および/または疾患を処置するための方法において使用することができ、遅発性障害および/または疾患を含む障害および/または疾患を研究するためのin vitroモデル系として使用することもできる。
体細胞の、人工多能性幹細胞(iPSC)への、従来の再プログラム化では、それらの表現型が、胎児年齢まで戻すようにリセットされ、したがって、遅発性障害をモデル化するのに、著明な障害が提示されている。加えて、ヒト対象から回収された幹細胞およびこのような幹細胞に由来する体細胞はまた一般に、年齢も欠き、また、遅発性疾患の場合の疾患マーカーも欠くことが多い。本明細書で記載される通り、幹細胞由来の体細胞であって、限定なしに述べると、ヒトiPSC由来の細胞系統を含む体細胞内で適切な経時的マーカーシグネチャーを誘導し、これにより、疾患モデルとして適する年齢相応細胞培養物を発生させるための方法が開示される。培養物中で体細胞を増殖させることが可能な場合、このような疾患モデルは、「若齢」マーカーシグネチャーを発現させる体細胞内で、老化経時的マーカーシグネチャー(必ずしも幹細胞の分化を誘導することにより導出されるわけではない)を誘導することにより開発することができる。この戦略を、アルツハイマー病(AD)もしくはパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患、心筋細胞関連疾患、膵臓疾患、および/または造血器疾患を含むがこれらに限定されない、遅発性疾患および/または障害を伴う患者に由来する細胞培養物へと適用して、患者年齢をより正確に表し、したがって、疾患状態をより正確に表す、年齢相応細胞培養物を導出することができる。本開示の方法はまた、これらの老化iPSC由来細胞を使用する、遅発性疾患に関与性の薬物スクリーニングまたは他の任意の実験に活用される細胞へも適用することができる。例えば、年齢改変を伴わないiPSC由来細胞を使用する薬物スクリーニングは、ALSのための薬物をスクリーニングするのに使用されている(Yang Y.M.ら、2013年、Cell Stem Cell、12巻、713〜726頁)。また、上記で言及した疾患のためのiPSC由来細胞であって、プロジェリン誘導性老化を経た細胞も、薬物スクリーニングに使用することができる。
開示される方法は、iPSC細胞系統の細胞などの体細胞の、プロジェリンまたは他のプロジェリン様タンパク質への曝露、および培養物中で細胞の老化の加速化を誘導するその能力を伴う。開示される方法はまた、体細胞の、培養物中のこれらの細胞の成熟を加速化するプロジェリン様タンパク質への曝露にも関する。本明細書で提示されるデータは、iPSC由来の細胞培養物(例えば、iPS細胞から導出された線維芽細胞およびiPS細胞から導出されたニューロン)を、プロジェリン様タンパク質と接触させることにより、1つまたは複数の経時的マーカーシグネチャー、ならびに成熟細胞および/または老齢細胞などの年齢相応細胞の他の特徴を構成する1つまたは複数の経時的マーカーが誘導されることを裏付ける。
一部の実施形態では、本開示は、in vivoにおける寿命が長い細胞であって、ニューロンおよび心筋細胞など、万一損傷または罹患したらすぐには補充されないことが典型的な細胞、ならびに老化状態にあるこのような細胞を得る方法に関する。これらの細胞は、in vitroで培養する場合は通例、それらのin vivoにおける対応物を表す老化および/または成熟マーカーを呈示するのに、長い培養時間を必要とする。このような手順は、利用可能であっても、時間がかかり、費用がかさむ。一部の実施形態では、本開示は、このような細胞を、in vitroで、プロジェリン様タンパク質と接触させて、それらの成熟もしくは老化またはこれらの両方を加速化し、これにより、年齢相応細胞をもたらす方法に関する。一部の実施形態では、これらの細胞を使用して、神経変性疾患、アテローム性動脈硬化、および他の慢性代謝性疾患など、遅発性疾患をモデル化することができる。
一部の実施形態では、本開示は、このような細胞をプロジェリン様タンパク質と接触させることによる、細胞培養物中の、哺乳動物細胞の制御された成熟および/または老化に関する。単独で使用されても、他の試薬(iPSC細胞のための細胞分化プロトコールなど)と組み合わせて使用されても、本開示による方法は、細胞の成熟および/または老化を、細胞を接触させるプロジェリン様タンパク質の用量を調整することにより操作されうる制御された速度で加速化する能力を付与する。例えば、本開示の方法による細胞の成熟および/または老化は、プロジェリン様タンパク質の用量を低減することにより緩徐化することもでき、曝露時間を縮減することにより緩徐化することもでき、タンパク質の効力を低減することにより緩徐化することもできる。代替的に、プロジェリン様タンパク質の曝露は、プロジェリン様タンパク質を除去することにより停止させることもでき、タンパク質の阻害性因子(例えば、RNAサイレンシング、mAbなど)を導入することにより停止させることもできる。成熟させた細胞は、さらなる手順にかけることもでき、成熟細胞の使用が重要な実験で使用することもでき、細胞療法で使用することもできる。
本開示のこれらの態様および他の態様は、以下の非限定的な定義を参照することによりよりよく理解することができる。
定義
下記で定義される用語は、文脈によりそうでないことが明確に指し示されない限り、それらに帰せられる意味を有するものとする。定義された用語は、その同類語を含むものとする。
本明細書で使用される「患者」という用語は、ヒト、非ヒト霊長動物、齧歯動物などを含むがこれらに限定されない、任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。本明細書で使用される、「対象」という用語と「患者」という用語とは、互換的である。
個体に言及して本明細書で使用される「若齢」という用語は、早い経時的年齢を指し、これは、ヒトでは、数年間にわたる年齢を指す。細胞に言及する場合の「若齢」という用語は、iPSC由来の若齢体細胞、すなわち、iPSCをもたらした元の初代細胞のドナーの年齢に関わらず、若齢ドナーから単離された細胞のマーカーシグネチャーを提示する細胞など、未成熟細胞などの細胞状態を指す。これは、iPSC由来の「老齢」体細胞、または、実際のところ、老齢ドナーから単離された細胞のマーカーシグネチャーを提示する任意の体細胞と対照される。iPSC由来の老齢体細胞の例は、再プログラム化の後で、iPSC由来の体細胞をプロジェリンに接触させる場合に産生される体細胞である(ここでもまた、iPSCをもたらした初代細胞のドナーの年齢に関わらない)。若齢細胞はまた、「初代若齢線維芽細胞」における通り、経時的年齢が若いドナーから導出された初代若齢細胞など、「若齢細胞」の集団も指す場合がある。
個体に言及して本明細書で使用される「老齢」という用語は、ヒトでは、数年間にわたる年齢を指す、経時的年齢を指す。細胞に言及する場合の「老齢」という用語は、細胞が、老化細胞と関連する1つまたは複数の経時的マーカーを発現させる細胞状態、または老齢ドナーに由来する初代体細胞を指す。老齢細胞はまた、「初代老齢線維芽細胞」における通り、経時的年齢が老いたドナーから導出された初代老齢細胞など、「老齢細胞」の集団も指す場合がある。
本明細書で使用される「ドナー個体」または「ドナー」という用語は、初代細胞培養物をもたらすように細胞をそこから得た、任意の生物、ヒトまたは非ヒトを指す。ドナー個体は、任意の年齢であることが可能であり、罹患していない場合もあり、罹患している場合もある。ドナーは、生検、皮膚生検、血液細胞などを含む生物学的試料を提供することにより、本方法における使用のための細胞を提供しうる。
本明細書で使用される「疾患」という用語は、生存する動物体もしくは植物体またはその部分のうちの1つの正常状態に対する任意の機能障害であって、死活的機能の性能を中断または改変する機能障害を指す。徴候および症状を識別することにより顕在化することが典型的であるが、疾患は通例、i)環境因子(栄養不良、工業災害、または気候など);ii)特殊な感染性作用物質(蠕虫、細菌、またはウイルスなど);iii)生物の遺伝性欠損または後天性欠損(遺伝的異常または後成的異常など);および/またはiv)これらの因子の組合せに対する応答である。
本明細書で使用される「遅発性疾患」という用語は、中間齢患者および老齢患者における臨床的状態として顕在化する、患者の疾患または医学的状態を指す。したがって、遅発性疾患は、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、ハンチントン病など、神経変性疾患などの変性疾患、および心肥大、心臓線維症、II型糖尿病、加齢黄斑変性を含む他の細胞系統の疾患、例えば、乳がん、結腸がん、および卵巣がん、家族性腺腫様ポリープ(FAP)、心疾患などを含むがんを含みうるがこれらに限定されない。参照により組み込まれる、Wrightら、Trends Genet、19巻:97〜106頁(2003年)を参照されたい。
本明細書で使用される「細胞培養物」という用語は、任意のin vitroにおける細胞培養物を指す。この用語には、連続細胞系(例えば、不死表現型を伴う)、初代細胞培養物、有限細胞系(例えば、非形質転換細胞)、ならびに卵細胞および胚を含む、in
vitroで維持される他の任意の細胞集団が含まれる。
本明細書で使用される「欠損」という用語は、遺伝子のmRNA、遺伝子のタンパク質産物、またはこれらの両方を発現させない(すなわち、このような発現を欠く)細胞、またはそれらを低減されたレベルで発現させる細胞を指す。
本明細書で使用される「ニューロン成熟培地」または「BAGCT培地」という用語は、N2培地を含み、中脳運命FOXA2/LMX1A+ ドーパミン(DA)ニューロンを分化させるための、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸(AA)、グリア細胞系由来神経栄養因子、ジブチリルcAMP、およびβ3型形質転換増殖因子をさらに含む培養培地を指す。
本明細書で使用される、「精製された」、「精製する」、「精製」、「単離された」、「単離する」、「単離」という用語、および本明細書で使用されるこれらの文法的同等物は、試料に由来する少なくとも1つの夾雑物の量の低減を指す。例えば、細胞型は、望ましくない細胞型の量の、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、および最も好ましくは少なくとも90%の低減により精製される。したがって、細胞型の精製は、「濃縮」、すなわち、細胞培養物中の細胞型の量の増大を結果としてもたらす。
本明細書で使用される「プロジェリン」という用語は、ハッチンソン−ギルフォード早老症候群(HGPS)に関与する、ラミンAタンパク質の切断形または他の形の改変形を指す。C1824T、G433A、G1968A、およびG1821Aを含むがこれらに限定されない、ラミンA遺伝子(LMNA)の多数の突然変異は、プロジェリンの高い発現レベルをもたらすことができ、これにより、HGPSが引き起こされる。プロジェリンはまた、切断型分子だけを発現させるような、ラミンA遺伝子内のクリプティックスプライス部位の活性化を介して、健常個体においても転写されうる。
本明細書で使用される「プロジェリン様タンパク質」という用語は、上記で定義したプロジェリンのほか、ラミンAタンパク質の切断形または他の形の改変(突然変異)形である別のポリペプチドも包摂する。例えば、切断は、C末端切断部位の欠失を含みうる。このような欠損性ラミンAタンパク質は、適正にプロセシングされず、したがって、核ラミナへと適正に組み込まれず、細胞へと、形態的異常、構造的異常、分子的異常、または細胞的異常であって、プロジェリンの影響と機能的に同様な異常を引き起こす。これらの異常は、核膜で捕捉されたファルネシル化タンパク質の核内蓄積、核の変形、ならびに核質足場構造および/または細胞質足場構造の破壊を含むがこれらに限定されない。幹細胞由来の体細胞に関して、プロジェリン様タンパク質の影響は、限定なしに述べると、(細胞型に応じて)核形態に影響を及ぼす年齢関連表現型の誘導および核組織化タンパク質の発現のほか、ヘテロクロマチンマーカー、DNA損傷および反応性酸素分子種、樹状突起の変性、年齢関連神経メラニンの形成、AKTの調節異常、TH陽性ニューロン数の選択的低減、ならびにミトコンドリアの腫脹および封入体の超微細構造的証拠を含む。まとめると、プロジェリン様タンパク質とは、本段落で例示したプロジェリンの影響のうちの1つまたは複数を及ぼす、ラミンAの変異体である。
本明細書で使用される「分化剤」または「分化誘導性化合物」という用語は、幹細胞を、体細胞をもたらす細胞経路にコミットさせる特性を有する、生体分子の場合もあり、低分子の場合もあり、物質の混合物の場合もある物質を指す。例えば、このような誘導性化合物は、Wnt活性化剤またはSMAD阻害剤を含みうるがこれらに限定されない。
本明細書で使用される「ソニックヘッジホッグタンパク質またはSHH」という用語は、ヘッジホッグと呼ばれる哺乳動物のシグナル伝達経路ファミリー内の3つのタンパク質のうちの1つを指す。SHHは、四肢の指の成長および脳の組織化など、脊椎動物の器官形成の調節において役割を果たすと考えられている。したがって、ソニックヘッジホッグタンパク質は、拡散して、濃度勾配を形成し、その濃度に応じて、発生しつつある胚細胞に異なる影響を及ぼすモルフォゲンである。SHHはまた、成年幹細胞の細胞分裂も制御する可能性があり、一部のがんの発生に関与している。
本明細書で使用される「Small Mothers against Decapentaplegic」または「SMAD」という用語は、細胞外シグナルを、形質転換増殖因子ベータのリガンドから、核へと伝達し、そこで、下流における遺伝子転写を活性化させる細胞内タンパク質であり、幹細胞の方向付けられた分化をモジュレートすることが可能なシグナル伝達分子のクラスのメンバーである。
本明細書で使用される「〜を接触させること」という用語は、細胞を、化合物または物質が、その活性を細胞へと及ぼすことを可能とする様式で、かつ/またはそのような位置において、化合物または物質へと曝露することを指す。接触は、任意の適する方法を使用して達成することができ、細胞外の場合もあり、細胞内の場合もある。例えば、一実施形態では、接触は、化合物/物質を、それ自体として細胞内に導入することを介するか、または化合物もしくは物質を発現させるように、細胞を遺伝子改変することを介する。接触は、細胞を、分子または分子を含有する媒体へと曝露する方法、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、トランスフェクションにより細胞へと送達する方法を含む、様々な方法で達することができる。接触はまた、接触が、細胞外膜上で生じるように、化合物または物質を細胞培養物へと添加することにより達成することもできる。接触はまた、細胞内の組換えタンパク質の産生により(例えば、プロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質をコードするmRNAの過剰発現により)、所与の細胞内で達成することもできる。
本明細書で使用される「再プログラム化すること」、「再プログラム化された」という用語は、「初代細胞」または「初代分化細胞」または「初代体細胞」の、人工多能性幹(iPS)細胞など、未分化細胞への転換を指す。例えば、初代細胞の体細胞培養物(例えば、ある特定の年齢のドナーから単離された初代線維芽細胞またはハッチンソン−ギルフォード早老症候群(HGPS)などの疾患を有する患者から単離された初代線維芽細胞、例えば、HGPS線維芽細胞など)であって、細胞系を含む初代細胞の体細胞培養物を、人工多能性幹細胞へと再プログラム化することができる。次いで、さらに、初代体細胞培養物中に出現する年齢関連マーカーシグネチャーを、再プログラム化された未分化細胞内で変化させる。場合によって、分化させた体細胞培養物中に出現する疾患マーカーシグネチャー(すなわち、例えば、HGPSマーカーシグネチャー)は、転換された未分化細胞内に存在しない可能性もあるが、正確なシグネチャーは、異なる初代体細胞ドナーから産生されたiPS細胞の間で異なりうる。初代細胞は、ドナー、すなわち、生検、皮膚生検、採血など、細胞系など、任意の供給源から得ることができる。
体細胞に言及して本明細書で使用される「分化させた」という用語は、細胞型に特徴的なマーカーシグネチャーなど、よりコミットした細胞型の特徴を有する細胞を指す。iPS細胞由来の体細胞に言及する「分化させた」とは、iPSC内に存在しない少なくとも1つのマーカーシグネチャー、例えば、特化細胞のマーカーシグネチャーを有する細胞を指す。本明細書で使用される「分化の誘導」という用語は、分化剤として作用する化合物であって、Wnt阻害剤、ソニックヘッジホッグタンパク質および/もしくはソニックヘッジホッグ活性化剤、ならびに/またはSMAD阻害剤分子を含むがこれらに限定されない化合物により誘発される過程を指す。このような薬剤は、大部分が遺伝子的に制御された分化過程であって、未分化細胞(胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、初代幹細胞など)を、さらなる分化を許容する場合であれ、許容しない場合であれ、より顕著に異なる形態および機能を有する特化細胞の表現型である、コミットした体細胞表現型へと転換する分化過程を誘発または促進する。例えば、人工多能性幹細胞は、iPSC由来の線維芽細胞、または限定なしに述べると、特異的な種類のジャンクション、特異的な範囲の送電速度、特異的な種類の神経化学的産生および/または神経化学的分泌などを伴うニューロンを含む、iPSC由来ニューロンへと転換することができる。細胞または細胞集団に言及して本明細書で使用される「老化」という用語は、若齢マーカーシグネチャーの発現から、老齢マーカーシグネチャーの発現への進行中の任意の段階を指す。老化の1つの例は、分子的マーカーおよび形態的マーカーを特徴とする、細胞内の天然の老化過程であって、ゲノムの不安定性、テロメアの短縮、タンパク質恒常性の喪失、ヘテロクロマチンの喪失、および遺伝子転写の変化、ミトコンドリアの機能不全、細胞の老化、および幹細胞の消耗など、老化細胞と関連する老化過程である。本明細書では、若齢細胞培養物の、プロジェリン様タンパク質による処理の後における誘導性老化の例を示す。老化はまた、成年細胞の、さらなる分子的特性、物理的特性、および機能的特性(経時的マーカーシグネチャーを含む)を発現させる成熟も包摂しうる。これは、例えば、細胞を老化させるのに要求される用量より低用量のプロジェリンおよび/または細胞を老化させるのに要求される時間より短いプロジェリンとの接触時間により誘導することができる。実際、一実施形態では、iPSC由来ニューロンをプロジェリンで処理することにより、変性と関連する年齢関連マーカーが誘導され、また、神経メラニンの蓄積、樹状突起の短縮、テロメアの短縮、ならびにDNA損傷、ヘテロクロマチンの喪失、およびミトコンドリアにおけるストレスによる他の結果などの成熟マーカーも誘導された。
本明細書で使用される「細胞老化の加速化」という用語は、iPSC由来の体細胞内の年齢関連マーカーシグネチャーであって、iPSC由来の「老化した」体細胞を創出するように、分化だけにより創出されるシグネチャーと比べて、異なる年齢を特徴付けるシグネチャーの確立を指す。例えば、この過程は、プロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質をコードするmRNAの、iPSC由来の体細胞への導入、およびその後における機能的なプロジェリンポリペプチドへの翻訳により媒介することができる。プロジェリンを過剰発現させるためのさらなる方法(誘導的でありうる)は、プロジェリンの発現が、DNAレベル、RNAレベル、および/またはタンパク質レベルで、一過性にまたは長期的に影響を受けるように、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、レトロウイルス、DNAプラスミドなど、多様なベクターのトランスフェクションを含むがこれらに限定されない。本明細書で記載される通り、この過程は、再プログラム化されたiPSC由来の体細胞/分化させたiPSC由来の体細胞を、老化したiPSC由来の体細胞へと誘導する。
本明細書で使用される「経時的マーカーシグネチャー」という用語は、ドナー個体または細胞の具体的な年齢に特徴的な任意の細胞内構造であって、その状態を決定するのに十分であるような細胞内構造を指す。単一のマーカーシグネチャーは、ドナーに由来する初代細胞の年齢または細胞(とりわけ、ドナー個体の年齢特徴を有さない幹細胞、または再プログラム化中およびその後の分化中などにおいて年齢特徴を失った幹細胞から分化した細胞)の年齢表現型であって、年齢関連表現型が誘導されている年齢表現型を特徴付けるのに十分な場合もあり、複数の異なるマーカーシグネチャーのプロファイルを査定して、ドナーの年齢、もしくは、実際のところ、他の任意の細胞の年齢を特徴付ける場合もある。
本明細書で使用される「マーカー」という用語は、細胞の状態に特徴的であり、したがって、単独で、または他のマーカーと組み合わせて、その状態を指し示すのに有用な、分子的形質または形態的形質を指す。「マーカー」は、「年齢関連マーカー」および「成熟関連マーカー」を含む、「経時的マーカー」でありうる。「マーカー」はまた、「遅発性疾患マーカー」を含む「疾患関連マーカー」でもありうる。単一のマーカー(またはマーカーの組合せ)が、細胞の状態を指し示すのに十分であれば、それは、下記でさらに説明する通り、マーカーシグネチャーを構成する。
本明細書で使用される「年齢関連マーカーシグネチャー」という用語は、天然の老化過程に特徴的な、任意の経時的マーカーシグネチャー(1つまたは複数のマーカーを含む)を指す。単一の年齢関連マーカーシグネチャーは、ドナーに由来する初代細胞の年齢または細胞の表現型段階であって、年齢表現型が誘導されている表現型段階を特徴付けるのに十分な場合もあり、複数の異なるマーカーシグネチャーのプロファイルを査定して、ドナーに由来する初代細胞の年齢、または細胞の表現型段階であって、年齢表現型が誘導されている表現型段階、または細胞の表現型年齢を特徴付ける場合もある。
本明細書で使用される「成熟関連マーカーシグネチャー」という用語は、天然の成熟過程に特徴的な、任意の経時的マーカーシグネチャーを指す。単一の成熟関連マーカーシグネチャーは、初代細胞の成熟段階または細胞の表現型段階であって、年齢表現型が誘導されている表現型段階を特徴付けるのに十分な場合もあり、複数の異なるマーカーシグネチャーのプロファイルを査定して、初代細胞の成熟段階または細胞の表現型段階であって、年齢表現型が誘導されている表現型段階を特徴付ける場合もある。
本明細書で使用される「疾患関連マーカーシグネチャー」という用語は、特異的な疾患に特徴的な、任意の細胞構造(分子的または形態的)を指す。単一のマーカーシグネチャーは、疾患を特徴付けるのに十分な場合もあり、複数の異なるマーカーシグネチャーのプロファイルを査定して、疾患状態を特徴付けることが必要な場合もある。
本明細書で使用される「細胞」という用語は、単一の細胞のほか、細胞の集団(すなわち、複数の細胞)も指す。集団は、ニューロンの集団または未分化の胚性幹細胞の集団など、1つの細胞型を含む均一の集団でありうる。代替的に、集団は、複数の細胞型、例えば、ニューロンおよびグリア細胞を含む混合神経細胞集団も含みうる。集団内の細胞の数を限定することは意図せず、例えば、細胞の混合集団は、少なくとも1つの分化細胞を含みうる。一実施形態では、混合集団は、少なくとも1つの分化細胞および少なくとも1つの幹細胞を含みうる。本開示では、細胞集団が含みうる細胞型の数に対する限定はなされない。
本明細書で使用される「初代細胞」または「初代体細胞」という用語は、対象から直接培養された細胞であって、本明細書で開示される方法に従い、かつ/または適切な条件下で、すなわち、適正な増殖因子、化合物、細胞外シグナル、細胞内シグナルと接触させた場合、再プログラム化遺伝子(因子)をトランスフェクトした場合などに、未分化のiPSCを発生させるために、再プログラム化されうる細胞を指す。例えば、初代細胞(培養物)は、線維芽細胞、分化初代体細胞、幹細胞系などを含む。一部の実施形態では、初代細胞は、患者から単離する。一部の実施形態では、初代細胞は、細胞系である。一部の実施形態では、初代細胞は、幹細胞系である。一部の実施形態では、初代細胞は、胚性幹細胞である。一部の実施形態では、初代細胞は、健常ボランティア、患者、臨床兆候に関わらず、特定の疾患または医学的状態を有する患者、すなわち、ある特定の遺伝子型または表現型を有する患者などに由来する供給源から単離する。一部の実施形態では、初代細胞は、哺乳動物から単離する。一部の実施形態では、初代細胞は、動物から単離する。
体細胞(iPSC由来の体細胞であれ、iPSC由来でない体細胞であれ)に言及して本明細書で使用される「許容状態」という用語は、細胞が老化可能であり、かつ/または存在する場合に疾患表現型を顕在化させることが可能な場合に、プロジェリン様タンパク質と接触させた細胞であって、結果として、成熟または老齢の「年齢」マーカーを発現させることが可能な細胞を指す。例えば、プロジェリン様タンパク質は、iPSC由来の体細胞を、許容状態に到達するように誘導して、遅発性疾患のモデル化を可能とする。
本明細書で使用される「体細胞」という用語は、生物の任意の細胞であって、配偶子、生殖細胞、生殖母細胞、または未分化の幹細胞以外の、組織、皮膚、骨、血液、または器官の構成単位である細胞を指す。体細胞は、前駆細胞を含み、最終的には、分化細胞を含む。このような体細胞は、ニューロン、線維芽細胞、心筋細胞、上皮細胞、神経内分泌細胞、膵臓細胞、星状細胞、造血細胞、中脳ドーパミンニューロン、運動ニューロン、および/または大脳皮質ニューロンを含むがこれらに限定されない。本明細書で使用される「神経細胞培養物」という用語は、ニューロンおよび/またはグリア細胞の細胞培養物であって、細胞が、中枢神経系および/または末梢神経系の細胞の特徴を提示する細胞培養物を指す。
本明細書で使用される「幹細胞」という用語は、全能性または多能性または多分化能であり、胚性幹細胞、または器官から単離された幹細胞、例えば、間葉系幹細胞もしくは皮膚幹細胞もしくは人工多能性幹細胞など、1つまたは複数の異なる細胞型へと分化することが可能な細胞を指す。本明細書で使用される「胚性幹細胞」という用語は、胚または胎盤または臍帯から単離された細胞を指す。本明細書で使用される「人工多能性幹細胞」または「iPSC」という用語は、胚性幹細胞と類似するが、体細胞(例えば、成年細胞)を、胚性幹細胞(ESC)の「幹細胞性」、すなわち、異なる分化経路にコミットするように導かれるそれらの能力を維持するために重要な因子を発現させるように強いられることにより、胚性幹細胞様状態に入るように再プログラム化する場合に創出される種類の多能性幹細胞を指す。細胞に言及して本明細書で使用される「前駆体」という用語は、前記細胞が、もはや多能性幹細胞でないが、また、いまだ完全にコミットした細胞でもない、中間の細胞段階を指す。本開示における前駆細胞は、体細胞内に含まれる。
本開示による幹細胞は、「全能性」幹細胞の場合もあり、「多能性」幹細胞の場合もあり、かつ/または「多分化能」幹細胞の場合もある。本明細書で使用される「全能性」という用語は、分化した生物内の任意の細胞型のほか、胎盤など、胚体外素材の細胞へも分化する細胞の能力を指す。本明細書で使用される「多能性」という用語は、任意の分化細胞型へと分化することが可能な細胞または細胞系を指す。本明細書で使用される「多分化能」という用語は、少なくとも2つの分化細胞型へと分化することが可能な細胞または細胞系を指す。
マウスiPSCは、2006年に報告され(TakahashiおよびYamanaka、Cell、126巻:663〜676頁(2006年))、ヒトiPSCは、2007年の後半に報告された(Takahashiら、Cell、2007年11月30日、131巻(5号):861〜72頁)。マウスiPSCは、幹細胞マーカーの発現を含む、多能性幹細胞の重要な特徴を裏付ける。また、ヒトiPSCおよび動物iPSCも、幹細胞マーカーを発現させ、3つの胚葉全てに特徴的な細胞を発生させることが可能である。胚性幹細胞とは異なり、iPSCは、ある特定の胚性遺伝子(OCT4トランス遺伝子、SOX2トランス遺伝子、およびKLF4トランス遺伝子など)を、体細胞へと導入することにより人工的に形成される。例えば、TakahashiおよびYamanaka、Cell、126巻:663〜676頁(2006年)ならびにAgarwalら、Nature、292〜296頁(2010年)を参照されたい。iPSCは、例えば、OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、および/またはKLF4のうちの1つまたは複数など、1つまたは複数の遺伝子をトランスフェクトされた成年ヒト皮膚細胞または成年ヒト線維芽細胞から産生することができる。Yuら、Science、324巻:797〜801頁(2009年)を参照されたい。代替的に、それらは、血液または角化細胞など、他の種類の体細胞からも産生することができる。
本明細書で使用される「iPSC由来の年齢相応体細胞」という用語は、第1の幹細胞を分化させ(初代体細胞の再プログラム化に由来しうる)た後で、プロジェリン、プロジェリン様タンパク質、または他の機能的に同等な突然変異ラミンAタンパク質と接触させることから導出された、任意の細胞を指す。iPSC由来の年齢相応体細胞は、それらが由来する第1の細胞の経時的マーカーシグネチャーを必ずしも特徴とせず、未成熟関連マーカーシグネチャーを提示する場合もあり、若齢関連マーカーシグネチャーを提示する場合もあり、成熟関連マーカーシグネチャーを提示する場合もあり、老齢関連マーカーシグネチャーを提示する場合もある。これらの細胞は、それらの意図される使用に適切な細胞年齢のマーカーを提示する点で「年齢相応」である。例えば、老齢細胞ではない成熟細胞は、老齢個体ではない成年個体の細胞モデルを確立するのに適切である。
本明細書で使用される「in vitro」という用語は、人工的な環境および人工的な環境内で生じる過程または反応を指す。in vitro環境は、試験管および細胞培養物を含むがこれらに限定されない。
本明細書で使用される「in vivo」という用語は、天然の環境(例えば、動物における環境)および胚性発生、細胞分化、神経管形成など、天然の環境内で生じる過程または反応を指す。
本明細書で使用される「培養細胞」という用語は一般に、in vitroで維持された細胞を指す。培養細胞は、「細胞系」および「初代培養細胞」を含む。「細胞培養物」という用語は、任意のin vitroにおける細胞培養物を指す。この用語には、連続細胞系(例えば、不死表現型を伴う)、初代細胞培養物、有限細胞系(例えば、非形質転換細胞)、およびin vitroで維持された他の任意の細胞集団であって、胚、多能性幹細胞を含む細胞集団(とりわけ、ニューロン)が含まれる。
本明細書で使用される「培養培地」および「細胞培養培地」という用語は、in vitroにおける細胞(すなわち、細胞培養物、細胞系など)の成長を支援するのに適する培地を指す。用語を任意の特定の培養培地に限定することは意図されない。例えば、定義は、成長培地のほか、維持培地も包摂することが意図される。実際、用語は、目的の細胞培養物および細胞の成長または維持に適する任意の培養培地を包摂することが意図される。
本明細書で使用される「低分子」という用語は、医薬において一般に使用される有機分子とサイズが同等な、任意の有機分子を指す。用語は、生体高分子(例えば、ペプチド、タンパク質、核酸など)を除外する。好ましい低分子は、約10Da〜約5000Daまで、より好ましくは2000Daまで、および最も好ましくは約1000Daまでのサイズの範囲にある。
iPSC由来細胞内で老化を誘導するための方法
ある特定の実施形態では、本開示は、iPSC由来の体細胞など、iPSC由来細胞内で老化の加速化を誘導するための方法であって、iPSC由来細胞をプロジェリン様タンパク質と接触させ、これにより、細胞内で1つまたは複数の経時的マーカーシグネチャーおよび/または他の年齢関連特徴を誘導するステップを含む方法を提示する。これらの実施形態の一部の態様では、マーカーシグネチャーおよび/または特徴は、老化および/または1もしくは複数の疾患表現型と関連する。
例えば、細胞型特異的経時的マーカーシグネチャーは、表1および2で提示される経時的マーカーのうちの1つまたは複数の組合せ、ならびに/または表1および2で提示される経時的マーカーのうちの1つまたは複数の非存在を含みうるがこれらに限定されない。細胞型に特異的な特徴は、例えば、老化したiPSC由来のドーパミンニューロン内の神経メラニンの蓄積など、1つまたは複数の表現型を含みうるがこれらに限定されない。ニューロン内の疾患表現型(パーキンソン病に関連する)は、樹状突起の顕著な変性、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)発現の進行性の喪失、および/またはミトコンドリアの肥大もしくはレビー小体先駆体の封入を含むがこれらに限定されない。パーキンソン病(PD)iPSC由来のドーパミンニューロンのプロジェリン誘導性老化は、遺伝的感受性に基づきうる、疾患表現型を顕在化させた。
したがって、疾患表現型は、場合によって、老化感受性および/または遺伝的感受性に基づきうることが理解されるであろう。したがって、本開示は、1つまたは複数の経時的マーカーシグネチャーの誘導および提示を特徴とし、任意選択で、1つまたは複数の疾患シグネチャー(例えば、遺伝的素因を含む)の誘導および提示を特徴とする、hiPSCベースの年齢相応細胞培養物モデルにおいて、老化を誘導して、遅発性疾患および/または障害を検討するための方法を提示する。
本発明の方法は、老化細胞または成熟細胞の、体細胞(iPSC由来であれ、初代細胞由来であれ)または幹細胞または完全分化細胞もしくは部分的分化細胞からの産生に適用することができる。
本開示はまた、(1)「若齢」細胞または「未成熟」細胞のマーカーシグネチャーを提示する体細胞、幹細胞、および/または幹細胞誘導性体細胞を含む細胞内で、成熟または老化を誘導するための方法;(2)細胞培養物(体細胞培養物であれ、幹細胞培養物であれ、iPSC由来であれ、初代細胞由来であれ、分化途上の細胞であれ)中の誘導性老化を使用して、年齢相応細胞の培養物中の、パーキンソン病(PD)など、遅発性疾患および/または障害における時系列効果について研究するための方法;ならびに(3)1もしくは複数の経時的マーカーを産生するiPSC由来年齢相応細胞、または1もしくは複数の経時的マーカーを産生しないiPSC由来年齢相応細胞であって、これらの経時的マーカーの存在または非存在が、経時的マーカーシグネチャーおよび/または特定の細胞表現型に特徴的なiPSC由来年齢相応細胞を含むiPSC由来細胞(表1を参照されたい)も提示する。
本開示の一部の実施形態は、ドナー線維芽細胞などのドナー細胞の経時的年齢と緊密に相関する細胞マーカーのセットであって、細胞マーカーが、核内組織化、ヘテロクロマチン、DNA損傷、およびミトコンドリアにおけるストレスのマーカーを含むがこれらに限定されないセットを使用するための方法を提示する。理論に束縛されずに述べると、1つまたは複数の年齢関連マーカーは、元のドナーの細胞の年齢と関連し、再プログラム化すると、失われると考えられる。さらに、老化のある特定の特徴は、分化させると、iPSC由来の細胞系統により再獲得されない。したがって、プロジェリン様タンパク質へと曝露された、見かけ上の健常非HGPS細胞は、iPSCの誘導の前に、ドナー細胞の年齢を規定する1つまたは複数の年齢関連マーカーを誘導する。
したがって、本開示は、細胞内で老化を誘導するための方法であって、その老化が、iPSC由来の細胞系統内で、正常な老化の複数の側面を模倣するが、加速化されている方法を提示する。iPSC由来細胞は、線維芽細胞を含むがこれに限定されない。加えて、本開示は、パーキンソン病などの遅発性障害をモデル化するための、開示される方法および細胞の1つの有用性も裏付け、他の疾患についての同様のモデルの確立についても教示する。プロジェリン様タンパク質へと曝露される細胞は、iPSCの場合もあり、iPSCに由来する場合もあり、胚性幹細胞、成年個体に由来する皮膚幹細胞、間葉幹細胞、造血幹細胞など、別の種類の幹細胞の場合もあり、別の種類の幹細胞に由来する場合もある。実際、プロジェリン様タンパク質を使用して、由来に関わらず、ニューロンなど、HGPS患者においてさえ、プロジェリンを発現させない細胞であってもなお、任意の種類の体細胞内で老化を誘導することができる。しかし、健常ドナーに由来するニューロンを得ることは困難であるので、幹細胞の分化とプロジェリン様タンパク質への曝露との組合せが、「老齢」経時的マーカーシグネチャーを発現させるニューロンを得るのに好ましい方法である。
表2は、老化ドナーに由来する初代線維芽細胞内で見出される年齢関連マーカーのセットであって、線維芽細胞のiPSCへの再プログラム化中に失われ、このようなiPSCを、線維芽細胞様細胞またはmDAニューロンなどの分化細胞へと分化させても産生されないマーカーのセットを提示する。すなわち、再プログラム化/分化は、体細胞ドナーの年齢に関わらず、「若齢」表現型(これは、遅発性疾患を研究するには年齢不相応であろう)を有する細胞を発生させる。しかし、年齢関連マーカーは、プロジェリン様タンパク質と接触させ、かつ/またはプロジェリン様タンパク質を過剰発現させると、再確立することができ、これにより、年齢相応なiPSC由来の「老齢」細胞または成熟iPSC由来細胞であって、成熟細胞もしくは遅発性疾患を研究するための、または成熟細胞の場合は、治療における使用のための、iPSC由来の「老齢」細胞または成熟iPSC由来細胞をもたらすことができる。
例えば、パーキンソン病(PD)患者および見かけ上の健常ドナーに由来するiPSCは、それらの遺伝子型の差異にも拘らず、表現型では同一であると考えられる。mDAニューロンへと分化させたところ、PD細胞と対照細胞との間で観察されたのは、わずかな差異(疾患シグネチャーを伴わない/軽微な疾患シグネチャー)だけであった。プロジェリンは、iPSC由来のmDAニューロン細胞内のmDAの老化様シグネチャーを誘発し、また、PD iPSC由来のmDAニューロン内の、遺伝子型と表現型との間の相互作用を有する、複数の疾患関連(PD関連)表現型も顕在化させる(すなわち、疾患シグネチャーの増強)。
体細胞ドナーの年齢を予測するマーカーであって、再プログラム化中、分化中、および誘導性老化中に細胞年齢をモニタリングするのに使用されうるマーカーは、細胞が老化するのに応じて短縮され、再プログラム化および結果として得られる機能的なテロメラーゼの産生により回復されるテロメア長を含む(Agarwalら、Nature、464巻:292〜296頁(2010年);およびMarionら、Cell Stem Cell、141〜154頁(2009年))。同様に、iPSCの誘導は、老化細胞のミトコンドリアを若返らせる(Prigioneら、Stem Cells、721〜733頁(2010年)およびSuhrら、PloS One、5巻:e14095頁(2010年))。しかし、これらの研究は、高度に顕異する細胞型の間(線維芽細胞対iPSC)の個々の表現型の比較に限定されていた。これに対し、本開示は、ある範囲にわたる年齢関連マーカーであって、細胞年齢および対応する細胞運命と相関するマーカー(ドナーの線維芽細胞をiPSC由来の線維芽細胞と対比させる)を提示する。
さらなる適切なマーカーは、複数の組織にわたりドナー年齢を予測する、特定のCpG部位におけるメチル化レベル(Hannumら、Mol. Cell.、49巻:359〜367頁(2013年);ならびにKochおよびWagner、Aging、3巻:1018〜1027頁(2011年))、およびiPSC内の、ドナー細胞運命の後成的記憶を反映するメチル化パターン(Kimら、Nature、467巻:285〜290頁(2010年);およびPoloら、Nat Biotechnol、28巻:848〜855頁(2010年))を含むがこれらに限定されない。
本開示の一部として、プロジェリンレベルは、年齢関連表現型が出現するタイミングに影響を及ぼしうることが観察された。例えば、改変RNAを援用して、極めて高レベルの発現を迅速に誘導し、数日間以内に、線維芽細胞内(3日間)およびニューロン内(5日間)で、年齢関連マーカーの発現を誘発することができる。これに対し、ニューロン特異的プロモーターの制御下におけるレンチウイルスの発現は、はるかに低レベルの発現をもたらし、移植の1カ月後において、明白な表現型を誘発しなかったが、移植の3および6カ月後において、頑健で進行性の表現型が観察された。したがって、神経変性表現型は、in vitroおよびin vivoのいずれにおいても、正常な老化中に生じる速度を実質的に超える速度で誘導することができる。したがって、本明細書で開示される誘導老化法は、遅発性病態を評価し、遅発性病態に影響を及ぼすのに適するモデルをもたらす。本明細書で開示される誘導老化法はまた、とりわけ、プロジェリン様タンパク質発現を誘導し、次いで、オフにしうる場合には、細胞の成熟の誘導にも関与する。
改変RNAを使用するプロジェリンの発現またはニューロン特異的プロモーター下における発現は、HGPS患者の多様な組織間で見出される示差的なプロジェリンレベルをもたらさない。A型ラミンの組織特異的発現は、疾患が器官系に及ぼす影響が同等でない理由である可能性が高い(Roeberら、Development、105巻:365〜378頁(1989年))。特に、CNSは、ラミンAおよびプロジェリンはターゲティングするが、ラミンCはターゲティングしない、miR−9の発現により保護されると考えられている(Nissanら、Cell Rep.、2巻:1〜9頁(2012年))。したがって、HGPS iPSC由来ニューロンは、プロジェリン媒介型のin vitroにおけるニューロンの老化の使用に対する適切な代替物ではない。
本開示は、異なる細胞系統内の細胞型特異的応答の誘導を裏付ける(表2)。さらに、本明細書では、プロジェリンへの曝露により、線維芽細胞内の年齢を再確立し、移植されたmDAニューロン内の神経メラニンの存在、プロジェリンへの曝露後におけるmDAニューロンの包括的な転写の変化、およびプロジェリンにより誘導される、in vitroにおける樹状突起の変性表現型など、正常なニューロン老化のある特定の側面を表現型複写しうることが裏付けられる。変性応答としてのプロジェリン媒介型の変化は、極めて広範な線維ネットワークが確立された後で生じる、神経突起の機能停止および表現型の進行性の性格をもたらすことが考えられる。これらの基準は、「神経変性」表現型もまた反映しうる、初代神経線維の成長の低減(Sanchez−Danesら、EMBO Molecular Medicine、4巻:380〜395頁(2012年))とは顕著に異なる。
本開示はまた、様々な細胞系統の老化を誘導するのにも適用することができる。これらの細胞は、脳、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、筋肉、皮膚、肺、血液、動脈、眼、骨髄、およびリンパ系を含むがこれらに限定されない、様々な組織内および器官内で見出される主要な細胞型を含む。例えば、表3は、in vitroにおける、プロジェリン誘導性の老化または成熟から利益を得る可能性がある、さらなる細胞型およびそれらの老化マーカー(例えば、A. Sheydinaら、Clinical Science(2011年)、121巻、315〜329頁;U. GunasekaranおよびM. Gannon、2011年、Aging、3巻(6号):565〜575頁を参照されたい)を列挙する。加えて、iPSC由来細胞は、ALS、パーキンソン病、およびアルツハイマー病を含む表7にまとめられる神経変性疾患について研究するのに使用されているが、これらのiPSC由来ニューロンは、年齢改変されておらず、したがって、これらの遅発性疾患におけるニューロンを十分に表していない可能性がある。
本明細書で開示される通り、プロジェリンまたは他のプロジェリン様タンパク質との接触は、老化様状態を有する細胞であって、PDなどの遅発性疾患をモデル化するのに適する細胞を産生するための本方法のための基盤である、正常な老化を模倣しうる。例えば、誘導老化戦略を使用して、少なくとも2つの遺伝性PD−iPSCモデルにおいて、頑健な変性表現型が観察された。プロジェリンの発現は、in vivoにおいて長期にわたり曝露すると、TH+ニューロン数の進行性の低減を誘導することにより、PDの少なくとも1つの側面を模倣する。
本明細書で開示される通り、本方法は、外因性のプロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質を、細胞の老化の加速化を誘導するのに十分な投与量で、細胞へと導入するステップを施す。プロジェリンは、qPCRにより、HGPS患者の線維芽細胞内では、健常若齢ドナーの線維芽細胞内および健常老齢ドナーの線維芽細胞内で発現する内因性レベルの40〜100倍で発現する(McClintock Dら、PLoS ONE.、2007年、2巻(12号):e1269頁を参照されたい)。現行の曝露では、プロジェリンを、iPSC由来の線維芽細胞内、iPSC由来のmDAニューロン内において、HGPS iPSC由来の線維芽細胞内で見出されるプロジェリンの1〜5倍で過剰発現させる。一部の実施形態では、外因性のプロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質の発現は、前記細胞内の内因性プロジェリンの発現の約10倍〜約5000倍である。一部の好ましい実施形態では、外因性のプロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質の発現は、前記細胞内の内因性プロジェリンの発現の約40倍〜約500倍である。範囲を狭めると、細胞内の内因性プロジェリンの発現の約40倍〜約200倍である。
本明細書ではまた、分化させたiPS細胞を成熟させるための方法であって、低レベルのプロジェリンの発現により、分化させたiPS細胞の成熟を容易としうるという観察に基づく方法も開示される。例えば、当技術分野で公知のiPS細胞法であって、細胞運命および細胞年齢の両方のプログラム化を含む方法に補完的な誘導老化法が提供される。
人工多能性幹細胞由来の体細胞の、プロジェリン媒介型の老化の加速化
プロジェリンとは、ラミンAの突然変異体形態であり、C末端近傍の50アミノ酸を欠く。この突然変異は、プロジェリンが核周縁部に蓄積するように、ファルネシル基の除去を防止する。プロジェリンは、ハッチンソン−ギルフォード早老症候群(HGPS)と関連する核ラミナタンパク質である。ラミンAはまた、正常な老化にも関与すると考えられている(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年))。HGPSは、極めてまれであり、de novoの突然変異から生じる(出生800万件当たり1例であり、医療歴中の症例140例であり、既知の症例80例が現在生存している)。最も一般的な突然変異は、クリプティックスプライス部位を活性化させる、サイレントのp.Gly608Gly突然変異をもたらす1824C>Tである。HGPSは通例、致死性であり、死亡の平均年齢は13歳である。臨床症状は、心血管系変性、筋骨格系変性、関節硬化、または脱毛を含むがこれらに限定されない。しかし、死亡時まで、明白な神経変性症状は見られない。HGPSのような、他の疾患も早老の症状で公知である。表4を参照されたい。
本明細書で提示されるデータは、細胞年齢の再プログラム化が、培養物中のiPSC細胞などの幹細胞、およびiPSC由来の体細胞など、幹細胞由来の細胞系統が、パーキンソン病などの遅発性障害を正確にモデル化することを妨げうることを裏付けている。ハッチンソン−ギルフォード早老症候群(HGPS)患者に由来する線維芽細胞内の候補年齢関連細胞マーカーのセットについて記載されている(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年)、Scaffidiら、In Nat Med、11巻(4号):440〜445頁(2005年))。HGPSは、多様な組織の早老を特徴とするまれな遺伝性障害であって、平均余命を13年間とする早期の死亡を結果としてもたらす遺伝性障害である(Hennekam、Am J Med Genet A、140巻:2603〜2624頁(2006年))。
核膜タンパク質であるラミンAをコードする遺伝子である、LMNA内の突然変異は、プロジェリンとして公知の短い転写物を産生する、クリプティックスプライス部位の活性化を結果としてもたらす。プロジェリンタンパク質は、核膜内に異常に蓄積され、クロマチンの組織化、ヘテロクロマチンの形成、DNA損傷応答、細胞周期、および遺伝子転写を含む、核内の複数の過程を調節する重要な足場形成タンパク質としての正常なラミンA機能に干渉し、テロメア長またはテロメア機能および細胞の老化など、正常な老化に関与している他の過程に影響を及ぼす(Dechatら、Genes Deve、22巻:832〜853頁、2008年において総説されている)。興味深いことに、低レベルのプロジェリンはまた、健常個体においても発現し、同様の年齢関連プロファイルが、正常な老化ドナーに由来する線維芽細胞内でも観察されている(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年))。
ある特定の実施形態では、本開示は、ドナー年齢、例えば、線維芽細胞ドナーの年齢と相関する経時的マーカーシグネチャーであって、核形態および核組織化タンパク質発現についてのマーカーのほか、ヘテロクロマチン、DNA損傷、および反応性酸素分子種についてのマーカーを含むがこれらに限定されないマーカーシグネチャーのセットを提示する。「老齢」線維芽細胞内のこれらの年齢関連経時的マーカーシグネチャーは、再プログラム化中に失われ、その後の分化中に再獲得されないことから、iPSC由来細胞は、年齢記憶を維持しないという仮説が裏付けられる。組織特異的年齢関連マーカーシグネチャーは、短期間のプロジェリンへの曝露後に、iPSC由来の線維芽細胞内およびmDAニューロン内のいずれにおいても誘導することができる。本明細書で開示される方法では、in vitroにおけるパーキンソン病をモデル化するために、かつ、in vivoにおけるiPSC由来のmDAニューロンの移植後に、細胞年齢と関連する経時的マーカーシグネチャーを迅速に誘導する能力を援用する。
本明細書で開示される通り、最新のiPSC技術を使用しても観察されない、複数の年齢関連表現型および疾患関連表現型であって、本開示の細胞によりもたらされる年齢関連表現型および疾患関連表現型は、樹状突起の変性、年齢関連神経メラニンの形成、AKTの調節異常、TH+ニューロンの数の選択的低減、ミトコンドリアの腫脹および封入体の超微細構造的証拠などを含むがこれらに限定されない。誘導性老化は、iPSC研究のためのモデル系であり、遅発性障害における遺伝的感受性および年齢関連感受性の寄与に取り組むための他の細胞型および疾患の病態へと適合させうるモデル系をもたらす。
したがって、本開示は、初代線維芽細胞および/またはiPSC由来の線維芽細胞およびiPSC由来の中脳ドーパミンニューロンについてのモデルとしての、包括的な遺伝的シグネチャーおよび後成的シグネチャーを含むがこれらに限定されない、経時的マーカーシグネチャーを提示する。ある特定の態様では、経時的マーカーシグネチャーは、細胞年齢の正確なシグネチャーとしての、ゲノムワイドの遺伝的プロファイルおよび後成的プロファイルを同定することが可能な細胞挙動を反映する。細胞年齢は、例えば、遺伝的プロファイルを伴い、かつ/または後成的プロファイルを介する、年齢関連マーカーの間の相互作用により決定することができる。
年齢関連マーカーの再プログラム化は、(1)HGPS線維芽細胞と、82歳のドナーから単離された線維芽細胞とが、年齢関連マーカーシグネチャーおよび早老マーカーシグネチャーであって、iPSCへと再プログラム化すると、「若齢」状態へとリセットされるシグネチャーのいずれも共有したこと;(2)HGPS−iPSCに由来する(すなわち、分化させた)線維芽細胞は、分化させると、年齢関連マーカーシグネチャーおよびHGPS関連マーカーシグネチャーを再確立するが、対照iPSC(例えば、非罹患iPSC)に由来する線維芽細胞は、これらを再確立しないこと;ならびに(3)年齢関連マーカーシグネチャーは、分化させた若齢/老齢のiPSC線維芽細胞内で合成プロジェリンmRNAを発現させることにより、「要求に応じて」発生させることができること(図1)という現在の観察に基づく。
本明細書で提示されるデータは、再プログラム化状態または分化状態における年齢関連マーカーシグネチャーの出現/非存在に応じて、継代数、成熟段階、および培養条件などの細胞パラメータを提示する。さらに、これらのデータは、さらなる候補年齢関連マーカーシグネチャーを予測し、プロファイリング研究を偏りなく査定する。例えば、これらのデータは、包括的な遺伝子発現データセットまたは後成的データセットが、上記で記載された年齢関連マーカーシグネチャーの発現パターンを説明し、細胞年齢の分子的シグネチャーを確立するのかどうかについて取り扱っている。開示されるデータはまた、年齢関連因子の間の包括的な相互作用のモデル化も可能とし、これにより、細胞による老化応答における因果関係の決定を容易とする。
線維芽細胞およびニューロンは、ドナー個体の特定の年齢に基づき、特異的なバイオマーカーを有することが公知である。本開示は、初代線維芽細胞(若齢または老齢の)内の年齢関連マーカーが、iPSCの誘導中に、胚形成期のマーカーシグネチャーへと「リセット」されうることを裏付ける。その後、分化させると、胚形成期マーカーシグネチャーは、大部分が不変である。次いで、細胞をプロジェリン様タンパク質(例えば、プロジェリン様タンパク質の発現)と接触させて、未成熟/胚性/若齢の年齢関連マーカーシグネチャーを、老齢の年齢関連マーカーシグネチャー(または成熟の年齢マーカーシグネチャー)へと転換することができる。このような年齢関連マーカーは、表2および表3に列挙される年齢関連マーカーを含むがこれらに限定されない。
上記で概観した再プログラム化/分化パラダイムを使用して、初代線維芽細胞内、iPSC内、およびiPSC由来の線維芽細胞内の核ラミナ、形態、クロマチン状態、DNA損傷応答、およびミトコンドリア機能と関連する年齢関連マーカーについての定量的測定を行った(図2〜6)。これらのデータは、細胞を幹細胞へと再プログラム化することにより、年齢関連マーカーの喪失が引き起こされるが、プロジェリンの発現(HGPS細胞内の天然の発現であれ、例えば、遺伝子改変細胞内の外因性発現であれ)は、82歳のドナー個体に由来する老齢の初代線維芽細胞内で観察される年齢関連マーカープロファイルを誘導するのに十分であることを裏付ける。さらに、HGPS線維芽細胞内で発現する高レベルのプロジェリンは、プロジェリンの過剰発現に対する必要性を伴わずに、老化表現型の迅速な兆候を誘発するのに十分である。これらのデータは、HGPSをモデル化する最近のiPSC研究と符合する(Zhangら、Cell Stem Cell、8巻:31〜45頁(2011年);Liuら、Nature、472巻:221〜225頁(2011年))。ニューロンは、ラミンA(Pamin A)を発現させないので、プロジェリンから比較的保護されることに注目されたい。したがって、HGPS iPSC由来ニューロンで、外因性プロジェリン様タンパク質と接触させるiPSC由来ニューロンを置換することはできない。
iPSC由来ニューロン細胞内で老化を誘導するための方法
ある特定の実施形態では、本開示は、in vitroにおけるニューロンの老化を方向付けて、遅発性神経変性障害の疾患モデルを確立するための方法を提示する。理論に束縛されることを意図せずに述べると、ドナーの年齢および/または疾患と関連するマーカーは、iPSCベースの再プログラム化中にリセットされ、その後のiPSC由来の細胞系統への分化後には再確立されないことが考えられる。したがって、本開示は、iPSC由来の細胞系統を分化させ、1つまたは複数の年齢関連マーカーおよび/または疾患関連マーカーであって、それらのマーカーの存在または非存在が、1つまたは複数の年齢関連マーカーシグネチャーおよび/または疾患関連マーカーシグネチャーおよび/または細胞挙動を含みうるマーカーを再確立するための方法を提示する。これらの実施形態のある特定の態様では、iPS細胞の分化を、Wnt阻害剤および/またはSMAD阻害剤を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の化合物により誘発する。他の態様では、誘導性老化を、内因性プロジェリンまたは外因性プロジェリンの発現により誘発する。
iPSC技術の到来は、広範にわたる遺伝性障害のための治療の開発を加速化する潜在的可能性を有し、疾患過程についての日常的な研究を繰り返しうる細胞培養プラットフォームを提示する。iPSC法はまた、疾患過程への機構的洞察をもたらす可能性もあり、したがって、将来の薬物開発のための標的部位を同定することもできる。
年齢という構成要素を、遅発性障害のiPSCベースのモデルへと導入するための方法が開示される。本明細書で記載される通り、確立された体細胞培養物の再プログラム化は、人工多能性幹細胞由来の未成熟細胞型であって、罹患した老化個体において発生する、遅発性障害および/または疾患の表現型を呈示しない細胞型をもたらす。したがって、一実施形態では、本開示は、これらの細胞をプロジェリン様タンパク質と接触させることにより、「年齢」および/または「成熟」を、iPSC由来の細胞型へと導入するための方法を提示する。多様な細胞型および老化についてのマーカーの例は、表2および表3に列挙されるものを含むがこれらに限定されない。
これらの方法についての一態様では、iPSC由来の体細胞は、遅発性疾患および/または障害の表現型の1つまたは複数のマーカーを呈示する。これらの方法についての関連態様では、許容度の大きい状態は、in vivoの老化PD脳内で観察される細胞応答と緊密に符合する、1つまたは複数の細胞応答を含む。本明細書で開示される通り、1つまたは複数の経時的マーカーシグネチャーを含む、1つまたは複数の経時的マーカーを、iPSC細胞培養物内でモニタリングすることもでき、再プログラム化することもでき、かつ/または誘導することもできる。iPSC由来の細胞培養物モデルにおいて、経時的マーカーシグネチャーを誘導することにより、遅発性ヒト疾患のモデル化および治療標的の発見を改善し、より一般に、ヒト疾患および年齢に関連する根本的疑問に取り組む。
本明細書で開示される方法は、iPSC技術を援用して、年齢関連マーカーをリセットし、神経疾患についての細胞培養物モデルにおいて、これを再確立する。ドナー細胞型のDNAメチル化の残留など、ある特定の後成的特徴は、iPSCの導出後に、少なくとも一過性に保持することができる(Kimら、Nat Biotechnol、29巻:1117〜1119頁(2011年);Kimら、Nature、467巻:285〜290頁(2010年);およびPoloら、Nat Biotechnol、28巻:848〜855頁(2010年))。本開示は、例えば、線維芽細胞など、初代老化細胞内の経時的マーカーは、iPSCへと変換し、再プログラム化されたiPSCを、その後、線維芽細胞および/またはニューロン細胞などの体細胞へと分化させても再獲得されないことを裏付けるデータを提示する。
したがって、本開示は、異なる細胞型内の経時的マーカーシグネチャーおよび/または機能的特徴を比較するための方法を提示する。例えば、中枢神経系内の増殖細胞(例えば、星状細胞)および有糸分裂後細胞(例えば、ニューロン)のいずれも、本明細書で開示される方法により産生し、老化させ、細胞の増殖および成熟と細胞型特異的な老化シグネチャーとの関係について研究するためのモデル系として使用することができる。多様な細胞型および老化についてのマーカーの例は、表2および表3に列挙されるものを含むがこれらに限定されない。
プロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質は、とりわけ、ウイルスベクター、ナノ粒子、リポソーム、電気穿孔、および遺伝子銃を含む、様々な方法を使用して、細胞へと導入することができる。
多種多様なウイルスベクターであって、例えば、単純ヘルペスウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターを含み、核酸、特に、治療用タンパク質を標的細胞特異的に発現させるための発現カセットを含む核酸を送達するための、本明細書で開示される系における使用に適合させうるウイルスベクターは、当業者に周知であり、たやすく入手可能である。
天然のウイルスまたは操作されたウイルスの、特異的な受容体への指向性は、核酸を送達するためのウイルスベクターを構築するための基礎である。これらのベクターの標的細胞への接合は、ウイルスベクター上のリガンドによる、細胞表面上の特異的な受容体の認識に付随する。それらの表面上において極めて特異的なリガンドを提示するウイルスは、細胞上の特異的な受容体へとアンカリングする。ウイルスは、目的の標的細胞の表面上に提示された受容体に対するリガンドを提示するように操作することができる。細胞受容体とウイルスリガンドとの相互作用は、in vivoでは、toll様受容体によりモジュレートされる。
ウイルスベクターの細胞への侵入は、受容体媒介型エンドサイトーシスを介するのであれ、膜融合を介するのであれ、ウイルスベクターの、エンドソーム経路および/またはリソソーム経路からの回避を許容する、ドメインの特異的なセットを要求する。他のドメインは、核への侵入を容易とする。複製、アセンブリー、および潜伏は、ベクターと細胞との相互作用の動態を決定し、ウイルスベクターの選択のほか、がんの自殺遺伝子治療のデザインにおいて、細胞を保有する治療用カーゴの操作においても、重要な検討事項である。
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、エンベロープDNAウイルスである、ヘルペスウイルス科に属する。HSVは、それらの3つの主要なリガンド糖タンパク質:gB、gH、およびgLのオルソログを介して細胞受容体に結合し、場合によって、アクセサリータンパク質を援用する。これらのリガンドは、ウイルスの、疾患の口腔形態、眼形態、および生殖器形態への侵入の主要経路において決定的な役割を果たす。HSVは、神経系の細胞受容体への高い指向性を保有し、発現カセットを、老化細胞、がん細胞、および感染作用物質を感染させた細胞を含む標的細胞へと送達するための組換えウイルスを操作するのに活用することができる。治療的バイスタンダー効果は、コネキシンコード配列を、構築物へと組み入れることにより増強される。核酸を、標的細胞へと送達するための単純ヘルペスウイルスベクターは、AnestiおよびCoffin、Expert Opin Biol Ther、10巻(1号):89〜103頁(2010年);Marconiら、Adv Exp Med Biol、655巻:118〜44頁(2009年);ならびにKasaiおよびSaeki、Curr Gene Ther、6巻(3号):303〜14頁(2006年)において総説されている。
レンチウイルスは、エンベロープ一本鎖RNAレトロウイルスである、レトロウイルス科に属し、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含む。HIVのエンベロープタンパク質は、CD4+ T細胞、マクロファージ、および樹状細胞など、ヒト免疫系の細胞上に存在するCD4に結合する。細胞へと侵入すると、ウイルスのRNAゲノムは、二本鎖DNAへと逆転写され、これが、細胞核へと移入され、細胞DNAへと組み込まれる。HIVベクターは、治療用遺伝子を、白血病細胞へと送達するのに使用されている。組換えレンチウイルスは、正常細胞への実質的な非特異的送達を伴わない、核酸の、膵臓がん細胞、上皮性卵巣癌細胞、およびグリア腫細胞へのムチン媒介型送達について記載されている。核酸を、標的細胞へと送達するためのレンチウイルスベクターは、Primoら、Exp Dermatol、21巻(3号):162〜70頁(2012年);StaunstrupおよびMikkelsen、Curr Gene Ther、11巻(5号):350〜62頁(2011年);ならびにDreyer、Mol Biotechnol、47巻(2号):169〜87頁(2011年)において総説されている。
アデノウイルスとは、二本鎖の直鎖状DNAゲノムおよびカプシドからなる非エンベロープウイルスである。天然では、アデノウイルスは、アデノイドに常在し、上気道感染の原因となりうる。アデノウイルスは、鼻腔内、気管内、および肺上皮へと侵入するために、アデノウイルス線維タンパク質に対する、細胞のコックサッキーウイルスアデノウイルス受容体(CAR)を活用する。CARは、老化細胞上およびがん細胞上において、低レベルで発現する。核酸の標的細胞への送達が可能な組換えアデノウイルスを産生することができる。複製コンピテントアデノウイルス媒介型自殺遺伝子治療(ReCAP)は、新規に診断された前立腺がんについての臨床試験にかけられている。核酸を、標的細胞へと送達するためのアデノウイルスベクターは、HuangおよびKamihira、Biotechnol Adv.、31巻(2号):208〜23頁(2013年);Alemany、Adv Cancer Res、115巻:93〜114頁(2012年);KaufmannおよびNettelbeck、Trends Mol Med、18巻(7号):365〜76頁(2012年);ならびにMowaら、Expert Opin Drug Deliv、7巻(12号):1373〜85頁(2010年)において総説されている。
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒトおよび他の一部の霊長動物種に感染する小型のウイルスである。AAVは、疾患を引き起こすことが知られておらず、極めて軽微な免疫応答を引き起こすウイルスである。AAVを使用するベクターは、分裂細胞および休眠細胞のいずれにも感染する可能性があり、宿主細胞のゲノムへと組み込まれずに、染色体外状態にとどまりうる。これらの特徴により、AAVは、本開示の系における使用のためのウイルスベクターを創出するための、極めて魅力的な候補となっている。核酸を標的細胞へと送達するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターについては、Liら、J. Control Release、172巻(2号):589〜600頁(2013年);Hajitou、Adv Genet、69巻:65〜82頁(2010年);McCarty、Mol Ther、16巻(10号):1648〜56頁(2008年);ならびにGrimmら、Methods Enzymol、392巻:381〜405頁(2005年)において総説されている。
包括的トランスクリプトーム
本開示は、5−メチルシトシン(5−mC)および/またはDNAのメチル化シグネチャーを測定することにより、包括的トランスクリプトームを査定するための方法を提示する。例えば、細胞の発生および再プログラム化の一構成要素は、DNAのメチル化およびヒストンマーカーの後成的改変を含む。5−メチルシトシン(5−mC)および5−ヒドロキシメチルシトシン(5−hmC)のいずれも、ニューロンの分化中および神経変性条件下(それぞれ、Szulwachら、Nat Neurosci、14巻:1607〜1616頁(2011年);ならびにIrierおよびJin、DNA Cell Biol、31巻(増刊1号):S42〜48頁(2012年))で、根本的に改変される。しかし、これらの後成的マーカーの機能的な役割は、分化させたiPSCおよびin vitroにおける年齢モデル化の文脈で完全に探索されているわけではない。したがって、本明細書で開示される、神経変性疾患の遅発性をモデル化するための再プログラム化/分化/老化パラダイムは、これらの後成的変化およびこれらの遺伝子発現に対する影響を探索するためのプラットフォームを提示する。
本明細書で開示されるデータは、年齢関連初代線維芽細胞内およびそれらのiPSC内のゲノムワイドの5−mCプロファイルおよび5−hmCプロファイルを裏付ける。例えば、iPSCは、5−mCマーカーおよび5−hmCマーカーのいずれにおいても、それらの初代線維芽細胞よりかなり大幅にメチル化されている(図9)(WuおよびZhang、Cell Cycle、10巻:2428〜2436頁(2011年))。いずれの細胞型によるメチル化シグネチャーも、5−mCおよび5−hmCのメチル化の増大が、テロメア領域内で明らかに強化されていることを指し示す。RNA−seqにより、プロジェリンを発現させるiPSC−mDAニューロンに由来する後成的特徴付けに加えて、固有の転写プロファイルも同定された。これらの結果が、プロジェリンを発現させるiPSC由来のmDAニューロンは、遺伝子発現プロファイルが、HGPSドナーの祖先に由来するiPSC由来のmDAニューロンと類似することを示すことから、老化の共通のシグネチャーが示唆される。したがって、これらのデータは、後成的データおよび転写データが、早老関連の老化過程および天然の老化過程についての有用な洞察をもたらすことを示す。
データは、本明細書で開示される再プログラム化/分化パラダイム(図1)の、初代線維芽細胞、若齢線維芽細胞、老齢線維芽細胞、およびHGPS線維芽細胞の各々に対する使用が、iPSCの細胞系統を発生させた後、iPSC線維芽細胞およびiPSC−mDAニューロン細胞系へと分化させたことをさらに裏付ける。老化は、後者のiPSC由来の体細胞内で誘導することができる。代替的に、プロジェリン様タンパク質との接触は、iPSCまたは他の任意の幹細胞の、任意の細胞系統への分化前に開始することもでき、任意の細胞系統への分化中に開始することもできる。
一実施形態では、本開示は、DNAのメチル化データおよびトランスクリプトミクスデータを、年齢関連表現型マーカーシグネチャーデータと統合して、細胞の年齢についてのより正確な記載をもたらすための方法を提示する。一実施形態では、年齢のより精密な特徴付け(例えば、複数の老化マーカー、例えば、表2および表3に列挙されるマーカーの発現を測定することによる)により、iPSC由来の細胞培養物など、体細胞培養物を使用して、遅発性疾患のモデル化を改善する。この実施形態のある特定の態様では、データの統合により、プロジェリン誘発性老化の特徴を解明する。他の態様では、方法は、順方向および/または逆方向の遺伝子操作を使用するステップをさらに含む。
いくつかのコンピュータ解析により、データの統合を実施して、遺伝的(後成的)変化の、老化に対する機能的な影響を同定することができる。例えば、DNAのメチル化と遺伝子発現との統合解析を実施して、「老齢」線維芽細胞を識別する、調節異常経路および「駆動」イベントを同定することができる。これらの解析は、老化線維芽細胞内およびプロジェリン誘導性iPSC線維芽細胞内に存在する後成的変化と転写変化との機能的関係の同定を伴う。
1つの手法は、メチル化状態による遺伝子発現の直接的な調節を同定することである。5−mCプロファイリングまたは5−hmCプロファイリングによる示差的なメチル化領域は、DNAのメチル化により調節される可能性が最も高い、近位遺伝子と関連しうる。次に、これらのメチル化の変化と最も相関する遺伝子発現の変化を同定することができる。
別の手法は、後成的変化および転写変化の両方により相互に調節される共通の経路の同定に焦点を当てることである。メチル化状態の異常により同定される遺伝子および/または示差的に発現する遺伝子に対して、機能的な強化解析を実施することができる(Subramanianら、Proc Natl Acad Sci U S A、102巻:15545〜15550頁(2005年))。
それらの全てが、遺伝子間の相互作用を考慮に入れて、機能的「モジュール」(特異的な細胞機能または細胞経路に関与し、共調節される相互接続遺伝子の群(Mericoら、PLoS One、5巻:e13984頁(2010年)))を同定する、SPIA43、NetBox44、およびEnrichment Mapを含むがこれらに限定されないツールを使用して、これらの遺伝子セットのネットワーク的接続性を探索することができる。よって、メチル化データセットおよび遺伝子発現データセットのいずれにおいても高い度数で表される経路は、老化過程について機能的に関与性である可能性が高い。
遺伝子発現シグネチャーおよび機能的経路の摂動の、年齢関連マーカーシグネチャーとの相関は、細胞の老化を駆動する遺伝過程を決定しうる。例は、示差的発現および/または示差的メチル化などの遺伝性変化の関数としての、年齢関連バイオマーカーシグネチャー(例えば、ヘテロクロマチン状態、DNA損傷、および核形態)に由来する定量的リードアウトのモデル化を伴う。回帰モデル(リッジ回帰、レッソ回帰、部分最小二乗(PLS)回帰、またはサポートベクトル回帰など)は、示差的なメチル化領域を、H3K9me3マーカーにより定量的に測定されるヘテロクロマチンの変化と相関させうる。同様に、示差的なメチル化および発現遺伝子は、損傷したミトコンドリア機能からDNA損傷応答を識別するように、単純ベイズ分類器、ロジスティック回帰、およびサポートベクトルマシンなどのアルゴリズムを使用する、教師ありの分類スキームにおいても使用することができる。
これらの想定されるコンピュータモデルはまた、老化表現型を最もよく予測するゲノム特徴の最小のセットももたらしうる。回帰スキームおよび分類スキームの両方における多様な特徴選択法を使用して、年齢バイオマーカーアッセイを最もよく予測する、遺伝子および後成的改変を同定することができる。例えば、qPCRを使用して、検証を目的として使用されるサブセットを同定することができる。代替的に、RNAi実験を使用して、機能的関係について調べることができる(Lipchinaら、Genes Dev、25巻:2173〜2186頁(2011年))。
細胞老化の機能的特徴
一部の実施形態では、本開示は、誘導性老化と経時的老化との関係を調べるための方法を提示する。これらの実施形態のある特定の態様では、誘導性老化過程は、可逆性である。他の態様では、誘導性老化モデルおよび経時的老化モデルは、ヒト脳における年齢を研究するのに関与性の新規のマーカーセットを含む。
本明細書で提示されるデータは、本開示により想定される一部の実施形態、例えば、(i)プロジェリン誘導細胞のために「年齢同等物」を正確に示す(例えば、「誘導性老化」により、細胞を、40または80歳の個体における同等な細胞型の挙動へと導く)ための方法、および(ii)予測可能な時間スケールおよび時系列において、プロジェリン誘導性変化を逆転するための方法を取り扱っている。ある特定の態様では、方法は、年齢関連変化のうちのいずれを、正常個体の老化脳内で見出しうるのかを決定するステップをさらに含む。
年齢関連マーカーの感度
経時的およびプロジェリン誘導性細胞老化を使用して、年齢関連マーカーの感度を、in vitroにおいて調べることができる。本明細書で開示される、初代線維芽細胞によるデータは、11歳のドナー個体から導出された初代線維芽細胞を、82歳のドナー個体から導出された初代線維芽細胞と対比して比較する場合に、年齢関連マーカーシグネチャーの発現における明らかな差異を示す。しかし、これらのデータは、これらの年齢関連変化の開始の速度については取り扱わなかった。例えば、これらの変化は、ドナーがある特定の年齢(例えば、>70歳)に到達すると、突然生じる場合もあり、老齢が進むにつれ、年齢関連マーカーの発現の漸進的な増大がなされる場合もある。さらに、これらのデータは、年齢関連マーカーシグネチャーの異なるセット(例えば、ヘテロクロマチン、DNA損傷、RNAプロファイル、後成的プロファイル)が、協調的に変化するのかどうかについても、このような変化がそれに従って生じる階層性があるのかどうかについても取り扱わなかった。
健常ドナー個体から、3つの異なる年齢群:(i)0〜15歳、(ii)30〜50歳、(iii)70〜90歳の初代線維芽細胞を得ることができる。確立された年齢関連マーカーシグネチャー(例えば、核ラミナ構造、ヘテロクロマチン、DNA損傷、およびミトコンドリアの損傷)のほか、新たに発見された年齢関連マーカーシグネチャーおよび/または遺伝性マーカーを決定することにより、マーカーの発現と線維芽細胞ドナーの個体年齢との関係を決定しうる。例えば、年齢関連マーカーシグネチャーの発現は、同一の継代数で維持された各線維芽細胞系について、かつ、各年齢群につき少なくとも3つずつの線維芽細胞系について、独立の3連で決定することができる。これらの時間経過データを、プロジェリンで、1、3、または5日間にわたり処理された、82歳のドナー個体に由来するiPSC由来の線維芽細胞系および11歳のドナー個体に由来するiPSC由来の線維芽細胞系と比較する。
これらのデータの解析により、年齢関連アッセイの感度、および多様な年齢マーカー間の関係を決定することができる。これらのデータは、年齢関連表現型内および年齢関連表現型間に現存する階層性についての情報をもたらしうる。第2に、これらのデータを使用して、プロジェリン様タンパク質で処理されたiPSC由来の線維芽細胞内の所与の表現型についての「年齢同等物」を、多様なドナー年齢の初代線維芽細胞と対比して正確に示し、プロジェリン様タンパク質への曝露後における一時的変化が、高齢化させる場合のドナー個体に由来する初代線維芽細胞内で観察される経時的変化にマッチするのかどうかを評価することができる。図22を参照されたい。
年齢関連マーカーは、可逆性を変化させる
本明細書で提示されるデータは、細胞の老化中に観察された年齢関連マーカーの変化が、プロジェリンへの曝露後に誘導されたことを裏付ける。さらに、ドキシサイクリン(dox)誘導性線維芽細胞系または緑色蛍光タンパク質(GFP)−プロジェリンmRNAによる一過性処理パラダイムを使用するデータは、培養で増殖させた線維芽細胞内、拡張すると、体細胞内の多くの早老関連表現型も可逆性である(図10A)(ScaffidiおよびMisteli Nat Cell Biol、10巻:452〜459頁(2008年))ことを示唆する。プロジェリンの産生に干渉することにより、正常老化細胞内では、年齢関連マーカーを逆転しうることが報告されている(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年))。しかし、中脳ドーパミン(mDA)ニューロンなどの非分裂細胞内でも同様の表現型の逆転が生じるのかどうか、または年齢関連マーカーが、プロジェリンの除去後に同様に逆転されるのかどうかは明らかでない。
線維芽細胞の可逆性
一部の実施形態では、本開示は、線維芽細胞をGFP−プロジェリンmRNAまたは核−GFP対照mRNAと接触させるための方法を提示する。ある特定の態様では、接触は、3日間にわたりうる。関連する態様では、方法は、線維芽細胞を、年齢関連マーカーシグネチャーの表現型の変化の順序についてモニタリングするステップをさらに含む。他の態様では、方法は、表現型の逆転のタイミングを、核内のGFP−プロジェリンの漸進的な喪失とマッチさせるステップをさらに含む。GFP−プロジェリンの喪失は、例えば、GFP発現の喪失により測定することもでき、プロジェリン/ラミンAレベルにより測定することもできる。
ニューロンの可逆性
他の実施形態では、本開示は、中脳ドーパミンニューロンの培養物をGFP−プロジェリンmRNAまたは核−GFP対照mRNAと接触させるための方法を提示する。ある特定の態様では、接触は、5日間にわたりうる。他の態様では、方法は、ニューロンを、年齢関連マーカーシグネチャーの表現型の変化の順序についてモニタリングするステップをさらに含む。関連する態様では、方法は、表現型の逆転のタイミングを、核内のGFP−プロジェリンの漸進的な喪失とマッチさせるステップをさらに含む。GFP−プロジェリンの喪失は、GFP発現の喪失により測定することもでき、プロジェリンおよび/またはラミンAレベルにより測定することもできる。
年齢関連マーカーシグネチャーの検証
開示される通り、ヒト組織を、年齢関連マーカーシグネチャーについて研究し、これにより、本明細書で例示される、in vitro試験における観察を検証した。特に、この検証プロトコールは、再プログラム化、分化、およびプロジェリンの誘導の後のin vitroにおける、年齢関連マーカーシグネチャーの特異的な変化の観察に基づいた。これらの研究では、ヒト脳の正常な老化におけるこれらの年齢関連マーカーの一部の関与性について取り組んだ。例えば、本明細書で記載されるデータは、老化ドナーに由来する脳組織試料のいくつかの変化を示す(図11)。
本明細書で提示されるデータはまた、miR−9によるラミンAの負の調節の報告にも拘らず、70歳を超える個体のヒト脳内のラミンAおよびプロジェリンの発現も裏付ける(図11Aおよび11B)(Nissanら、Cell Rep、2巻:1〜9頁(2012年);Jungら、Proc Natl Acad Sci U S A、109巻:E423〜431頁(2012年))。また、免疫組織化学法により、ヒトパラフィン切片内の年齢関連マーカーシグネチャーも検出される(図11B)。また、>70歳の脳内の、包括的なH3K9me3の組織化の再配置も観察された(図11C)。これらのデータの検証は、National Disease Research Interchange(NDRI;ndri.org)で入手可能な、既知の年齢の脳組織についてのスクリーニングにより達することができる。遺伝子の発現は、実施例4に従い、qPCR、候補部位の5−mCのメチル化および5−hmCの決定により検証することができる。
パーキンソン病のモデル化
パーキンソン病は、米国内で罹患した患者約0.5〜1.0×106例の有病率を有する。症状は、硬直、振戦、動作緩慢(運動の緩慢さ)、および/または平衡感覚/歩行の不良を含むがこれらに限定されない。臨床病理学では、PDを、主に、中脳ドーパミンニューロンの喪失により診断する。PDの病因は、大部分が未知であり、散発性であるが、複数の遺伝子が、PDの家族性形態に関与している。
一実施形態では、本開示は、細胞の老化を誘導して、例えば、PDモデル系として援用されうる、遅発性神経変性疾患細胞を創出するステップを含む方法を提示する。ある特定の態様では、細胞は、人工多能性幹細胞である。
誘導性の細胞老化は、遅発性神経変性疾患の年齢関連態様をモデル化する系を提示する。このような系を使用して、疾患表現型における遺伝的感受性と年齢関連脆弱性との相互作用について直接調べることができる。
本開示はまた、iPSC由来のmDAニューロン内の細胞年齢を誘導するための方法も提示する。ある特定の態様では、これらの方法は、パーキンソン病(PD)における年齢依存性作用をモデル化するために援用することができる。本明細書で提示されるデータは、以下の問題:例えば、(i)真正のmDAニューロンを発生させるように方向付けられた分化技法を使用すること;(ii)広範囲にわたる遺伝性PD−iPSC細胞系を確立すること;(iii)年齢関連マーカーシグネチャーの表現型をiPSC−mDAニューロン内で検証すること;(iv)年齢表現型と疾患表現型との相互作用について裏付けること;および(v)遺伝子編集PD−iPSC細胞系を確立することについて取り組む。これらの遺伝子編集細胞系は、年齢誘導脆弱性と対比した遺伝的感受性の理解に寄与しうる。
本開示はまた、少なくとも1つのPD−iPS細胞を含む細胞も提示する。一態様では、PD−iPS細胞は、PD患者の皮膚線維芽細胞に由来する。他の態様では、PD−iPS細胞をもたらす線維芽細胞は、Parkin、PINK1、LRRK2、α−シヌクレイン、およびグルコセレブロシダーゼ(GBA)(Kitadaら、Nature、392巻:605〜608頁(1998年);Valenteら、Science、304巻:1158〜1160頁(2004年);Zimprichら、Neuron、44巻、601〜607頁(2004年);Polymeropoulosら、Science、276巻:2045〜2047頁(1997年);Toftら、Neurology、66巻:415〜417頁(2006年))を含む群から選択される少なくとも1つの突然変異を含む。したがって、PD−iPS細胞をもたらす線維芽細胞は、疾患表現型を発現させる。
本明細書で提示されるデータは、組換えプロジェリンの発現後における、Parkin細胞系内およびPINK1細胞系内の年齢関連マーカー特徴の変化について取り扱った。例えば、プロジェリンの発現は、PINK1突然変異体またはParkin突然変異体のパーキンソン病個体に由来するiPSC由来の中脳ドーパミン細胞培養物から導出されたmDAニューロン内の、加速化された樹状突起変性表現型および/または樹状突起短縮表現型を誘導する(図15)。
さらに、Aktシグナル伝達は、遺伝子型の、年齢との明らかな相互作用を指し示す、極めて頑健な表現型をもたらした(図22)。特定の低p−AktレベルにおけるAktシグナル伝達の変化は、早期PDと関連する(Greeneら、Cell Mol Neurobiol、31巻:969〜978頁(2011年))。これに対し、HGPSでは、p−Aktは、異常に上方調節されることが公知である(Johnsonら、Nature、493巻:338〜345頁(2013年))。本明細書で開示されるデータは、対照iPSC mDAニューロン内では、プロジェリンへの曝露後において、p−Aktの増大が見られることを裏付けるが、これは、HPGS表現型と符合する。これに対し、PD−iPSC mDAニューロンは、PD様表現型の誘導と適合的な、p−Aktの一貫した低減を示した。
年齢誘導性多能性幹細胞由来の中脳ドーパミンニューロン内の年齢の逆転または遺伝子損傷
本開示は、老化が誘導された多能性幹細胞由来の中脳ドーパミンニューロン細胞を提供する。突然変異体系と対照系との、マッチさせたアイソジェニック対内の疾患表現型を援用して、遺伝的感受性を細胞から除去することの効果を査定することができる。
年齢表現型の逆転は、(i)p−AKT活性の低下、(ii)樹状突起の変性の、対照と比較した非存在または低減、または(iii)アポトーシス速度の、プロジェリンを発現させるPD−iPSC由来のDAニューロンと比較した低減によりモニタリングすることができる。突然変異させた遺伝子の遺伝子編集により、年齢関連挙動がリセットされ、本発明者らの対照細胞系内で得られたデータと同等なデータがもたらされる。PD表現型の可逆性により、老化は、疾患症状を誘発するのに必要な状態ではあるが、十分な状態ではないことが論じられるであろう。
初代線維芽細胞の、中脳DAニューロンへの分化
本明細書で開示される通り、初代線維芽細胞を、人工多能性幹細胞へと再プログラム化し(実施例1を参照されたい)、これを、ニューロンの誘導を促進する培地へと切り替え、次いでニューロンの成熟を促進する培地(BAGCT:実施例7を参照されたい)中でさらに維持した。iPSCの神経原性変換により、iPSC由来の中脳ドーパミン細胞を産生した。ある特定の態様では、iPSC由来のDAニューロンを、SHHシグナル伝達およびカノニカルのWNTシグナル伝達の低分子ベースの活性化後であり、かつ、早期分化段階中に得た。これは、高度に効率的な過程であり、培養ディッシュ内の細胞のうちの過半が成熟中脳マーカープロファイルを採択した。
例えば、ヒトESC細胞系(H9、H1)およびiPSC細胞系(2C6およびSeV6)を、改変二重SMAD阻害(Chambersら、Nat. Biotechnol.、27巻:275〜280頁(2009年))ベースのフロアプレート誘導(Fasanoら、Cell Stem Cell、6巻:336〜347頁(2010年))プロトコール下に置くことができる。SHH C25II、パルモルファミン、FGF8、およびCHIR99021への曝露は、中脳フロアプレートおよびDAニューロンの新規の集団の収率について最適化することができる。フロアプレートを誘導した後、さらなる成熟(11〜25日目にわたり、または25日間より長期にわたり培養物中で、少なくとも100日間にわたるまで培養物中で)を、DAニューロンの生存、ならびにAA、BDNF、GDNF、TGFβ3、およびdbcAMPなどの成熟因子の存在下にある、Neurobasal/B27に基づく分化培地中で実行することができる(Perrierら、Proc Natl Acad Sci USA、101巻:12543〜8頁(2004年))。結果として得られるDAニューロン集団を、例えば、ドーパミンを検出するための免疫細胞化学、qRT−PCR、包括的な遺伝子発現プロファイリング、HPLC解析、およびin vitroにおける電気生理学的記録のうちの1つまたは複数を使用して、広範な表現型の特徴付けの下に置くことができる。しかし、他の分化プロトコールも使用することができる(Badger JLら、Neuropharmacology.、2014年1月、76巻A部:88〜9頁)。
さらなる適用/治療的適用
細胞は、健常対象、危険性がある対象、罹患した対象、および本明細書で提示される方法に従う、未分化のiPS細胞の発生における使用のための対象から単離することもでき、当技術分野で利用可能な他の方法で単離することもできる。再プログラム化するために使用される初代体細胞は、細胞の「年齢」またはドナーの「年齢」に関わらず、線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、白血球、循環白血球、粘膜細胞、および角化細胞を含むがこれらに限定されない、循環細胞および/または患者/対象の組織内の細胞など、様々な体内の位置から単離することができる。一部の態様では、初代体細胞は、若齢ドナーから単離された、「若齢」細胞マーカーシグネチャーを発現させる若齢細胞であって、疾患シグネチャーを発現させる場合もあり、発現させない場合もある細胞でありうる。他の態様では、初代体細胞は、「老齢」マーカーシグネチャーを発現させる老齢細胞でありうる。さらなる態様では、初代体細胞は、ドナーの経時的年齢に関わらず、疾患マーカーシグネチャーを発現させる細胞でありうる。iPSCを体細胞から発生させるための任意の方法を使用して、これらの初代細胞を、培養物中で再プログラム化して、iPSCをもたらすことができる。当技術分野では、本明細書で記載または言及される方法以外のこのような方法が公知である。
発生させた任意の由来のiPS細胞であって、本明細書で記載される方法により発生させた細胞を含むiPS細胞を、分化するiPSC由来細胞および分化させたiPSC由来細胞を産生するための分化プロトコールであって、プロジェリンによる老化組成物および本開示の方法において使用されうる分化プロトコールにおいて使用することができる。分化するiPSC由来細胞および分化させたiPSC由来細胞は、それらが、それらの特定の細胞型、すなわち、許容細胞の遺伝子マーカーシグネチャーおよび細胞マーカーシグネチャーを発現させることが可能である限りにおいて、部分的に分化させた(すなわち、分化する)細胞を含む、デフォルトおよび非デフォルトの分化細胞系統を含むがこれらに限定されない。本開示のプロジェリン様タンパク質を使用する老化の誘導において使用されうる細胞型の例は、ニューロン(運動ニューロン、大脳皮質ニューロン、末梢感覚ニューロン、中脳ドーパミンニューロンなど、任意の亜型)、心筋細胞、造血幹細胞(HSC)、膵臓ベータ細胞、星状細胞などを含むがこれらに限定されない、iPSC由来細胞である。
したがって、本開示によるプロジェリン処理では、ある特定の段階にあるiPS由来細胞であって、分化を経始めつつあるiPS由来細胞、コミットした細胞型へと進行しつつあるiPS由来細胞、成熟細胞型へと進行しつつあるiPS由来細胞などを含むがこれらに限定されないiPS由来細胞が使用されるであろう。
一部の実施形態では、本明細書で記載される通りに得られる、老化したiPSC由来の細胞型は、疾患のモデル化において、かつ、プロジェリンにより老化させた細胞段階であって、治療剤としての使用のための新たな薬物化合物の試験における使用のための細胞段階および患者の処置における実際の使用のための細胞段階を同定するためなど、発生中の治療的に関与性の細胞段階を同定するために使用されうる。したがって、一部の実施形態では、iPSC由来の細胞型のための初代体細胞ドナーは、iPSC由来の細胞培養物/組織培養物内で、プロジェリンまたは別のプロジェリン様タンパク質により誘導される疾患または疾患表現型であって、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病、タウオパチー、すなわち、ヒト脳内のタウタンパク質の病理学的凝集と関連する神経変性疾患のクラスなど、実際の神経変性疾患またはモデルの神経変性疾患、心筋細胞関連疾患(心肥大、心臓線維症、チャネル病、例えば、ナトリウムチャネルの病態、不整脈など)、膵臓疾患、造血器疾患、代謝性疾患、がんなどを含むがこれらに限定されない、疾患または疾患表現型を有する。
本開示のプロジェリン様タンパク質組成物および老化誘導法と共に使用されうる、特異的なiPSC由来の細胞型および関連疾患の非限定的な例は、神経変性疾患のためのiPSC由来ニューロン、心臓変性疾患のためのiPSC由来の心筋細胞、白血病ならびに他の白血球疾患および白血球障害、ならびに、より一般に、造血器疾患/障害のためのiPSC由来の造血幹細胞、I型糖尿病、II型糖尿病、およびII型糖尿病など、ある特定の他の種類のインスリン調節障害のためのiPSC由来の膵臓ベータ細胞、ALSのためのiPSC由来の運動ニューロン、アルツハイマー病のためのiPSC由来の大脳皮質ニューロン、大脳皮質基底核変性症のためのiPSC由来のmDAニューロンおよびiPSC由来の大脳皮質ニューロン、神経変性障害のためのiPSC由来の星状細胞、心肥大および心臓線維症のためのiPSC由来の心筋細胞などを含む。
一部の実施形態では、iPSCを、ある特定の体細胞型であって、未成熟であるか、または成熟するのに長時間を要する体細胞型(例えば、細胞内のタンパク質発現、遺伝子発現プロファイル、機能的試験などにより評価される)へと分化させる。このような未成熟細胞は、プロジェリン様タンパク質と接触させて、細胞集団内で成熟を誘導することができるので、これらの細胞は、細胞療法において使用することができる。このような未成熟のiPSC分化細胞の例は、iPSC由来のmDAニューロンであって、ペースメーカー活性、ドーパミントランスポーターであるDATの発現、および神経メラニンを欠き、パーキンソン病マウスをレスキューするのに、in vivoにおいてさらに5カ月間にわたる成熟を要求する、iPSC由来のmDAニューロンである(Isacsonら、Trends Neurosci、20巻:477〜482頁(1997年);Kriksら、Nature、480巻:547〜551頁(2011年))。さらに、BrainSpan:Atlas of the Developing Human Brain(http://www. brainspan.org)に基づくと、多能性幹細胞由来の神経細胞による遺伝子発現データは、妊娠初期胎児のトランスクリプトームにマッチする。未成熟ニューロンは、上記で列挙されたマーカーについて、細胞療法および/または薬物開発における使用のために想定される、所望の成熟ニューロンの亜型に特徴的であると評価された、それらの成熟を加速化する目的で、プロジェリン様タンパク質と接触させることができる。特に、本開示の方法によりもたらされる細胞であって、プロジェリン様タンパク質と接触させた細胞は、薬物のスクリーニング、すなわち、老化制御剤のための化合物候補、本明細書で記載される疾患または障害など、特異的な疾患または障害を処置するための薬剤などの査定において使用することができる。
iPSC由来細胞を使用する他の例は、iPSCに由来するHSCであって、成年HSCのシグネチャーマーカーを発現させず、成年マーカーシグネチャー(限定なしに述べると、HoxB4、Tek(Tie2としてもまた公知の)、およびHoxA9を含む)の発現を誘導する、プロジェリンによる処理から利益を得る可能性があるHSCである。他のマーカーの例については、マウスから精製された、発生しつつあるHSCのトランスクリプトームについて示す、McKinney−Freemanら、Cell Stem Cell、11巻:701〜714頁(2012年)を参照されたい。
別の例として、iPSCに由来する心筋細胞は、未成熟であり、本開示のプロジェリン組成物、ならびにナトリウム電流の増大、リドカインに対する感受性の低減、拍動頻度、テトロドトキシン(TTX)に対する感受性、およびアクチニンなどのサルコメアタンパク質の組織化パターンなどの電気生理学的特性を含むがこれらに限定されない、成熟マーカーの誘導を同定するための方法において使用されるであろう。免疫細胞化学、TEM、電気生理学、およびCa2+イメージングを使用して、細胞を、トロポニンT、トロポニンI、およびα−アクチニン、Ca2+の、細胞質への放出であって、フルオ−4により検出される放出について染色し、テトロドトキシン(TTX)処理の前後における蛍光強度をトレースした。ナトリウムチャネル活性は、穿孔型パッチクランプ法を使用して、低濃度のナトリウム緩衝液中で測定することができる。
細胞の超微細構造は、透過電子顕微鏡法で解析することができるが、t細管の存在は、蛍光色素であるDi−8−ANEPPSを使用して探索することができる。Medine、Heart、99巻:S2頁(2013年)およびSheng、Pfannkuche(2012年)などにおける例を参照されたい。
iPSCに由来するベータ細胞は、本開示のプロジェリン組成物および方法において使用され、細胞療法および/または薬物開発における使用に想定されるであろう。特に、iPS由来のベータ細胞の、プロジェリン様タンパク質との接触は、未成熟細胞内では見出されない、グルコースに応答する、インスリンの発現およびインスリンの放出を誘導する能力と共に、成熟マーカーであるUcn3の発現を誘導するために使用することができる。例えば、Blum−Meltonら、Nat Biotechnol、30巻:261〜264頁(2012年)は、ベータ細胞の成熟が、GSISの、低グルコースレベルに対する感受性の低下、およびUcn3の発現の増大であって、インスリンおよびUcn3についての細胞内FACS解析により示される低下および増大により規定されるのはどこであるのかを示す。
(実施例1)
センダイベクター系による再プログラム化
本実施例は、センダイベクター系を介する、組込みを伴わない再プログラム化技法について記載する(Fusakiら、Proc Japan Acad Ser B:348〜362頁(2009年))。下記で記載されるような改変を伴う本方法を使用して、体細胞をiPSCへと再プログラム化した。
本方法は、挿入による突然変異誘発であって、表現型に寄与する再プログラム化ベクターの組込みにより誘導される突然変異誘発についての懸念を消失させることが考えられる。例えば、本方法は、組込みを伴わないHGPS iPSC細胞系を発生させている(図18)。
(実施例2)
iPSC由来の体細胞培養物へのプロジェリンの形質導入
本実施例は、合成mRNA法(Warrenら、Cell Stem Cell、7巻:618〜630頁(2010年))または多様なベクターを使用して、プロジェリン遺伝子を、iPSC由来の体細胞培養物へと導入するための方法について例示する。安定的トランスフェクション技法とは異なり、mRNAの添加は、遺伝子発現の持続期間の容易な操作を可能とする。この利点を活用して、プロジェリンの発現を中断し、タンパク質の代謝回転後における効果をモニタリングする(図19を参照されたい)。このプロトコールを使用して、他の任意のプロジェリン様タンパク質を、iPSCであれ、初代幹細胞であれ、胚性幹細胞であれ、iPSCに由来しない初代または培養体細胞であれ、細胞へと導入することができる。
以下は、分化するiPSC由来細胞内または分化させたiPSC由来細胞内で改変RNAを使用するプロジェリンの過剰発現のためのプロトコールである。
1.プロジェリンにより改変されたRNA(合成方法については、実施例9で記載する)を調製し、Lipofectamine RNAiMAX(Life Technologies)を使用して、iPSC由来の体細胞へと送達し、インキュベートする。
a.iPSC由来の線維芽細胞のためには、連続3日間にわたりトランスフェクションを反復する。
i.注:量/持続期間の組合せにより、毒性を最小限とし、著明な効果を最も早期とするために、処理を最適化する。
b.iPSC由来のドーパミンニューロンのためには、連続5日間にわたりトランスフェクションを反復する。
i.注:量/持続期間の組合せにより、毒性を最小限とし、著明な効果を最も早期とするために、処理を最適化する。
c.他のiPSC由来の体細胞のためには、パイロット実験を実施して、プロジェリンにより改変されたRNAの量および持続期間を決定する。
d.成熟関連表現型および/または年齢関連表現型について解析する。
代替的に、プロジェリンの発現はまた、プロジェリンを発現させる、温度感受性のセンダイウイルスの使用を介して達することもできる。加えて、プロジェリンの発現は、レンチウイルスを使用することにより達することもできる。
(実施例3)
ニューロン細胞型の方向付けられた分化
本実施例は、方向付けられた分化技法のうちの1つの方法であって、特異的な神経細胞型を発生させる方法について記載する。中脳ドーパミン(mDA)ニューロンなど、CNS細胞系統のほぼ純粋な集団を、本明細書で記載される方法において使用する。Kriksら、Nature、2011年、下掲のプロトコールを使用することができる(他の方法のうちで)。
略述すると、既に記載されており(Kriksら、Nature、480巻:547〜551頁(2011年))、図8で図式化されている通りに、二重SMAD阻害プロトコールの改変形を使用して、細胞を、フロアプレートベースのmDAニューロンへと方向付けた。iPSC由来のmDAニューロンを、分化の30日目において、10μMのY−27632(32日目まで)、ならびにBDNF(脳由来神経栄養因子、20ng/ml;R&D)、アスコルビン酸(AA;0.2mM、Sigma)、GDNF(グリア細胞系由来神経栄養因子、20ng/ml;R&D)、TGFβ3(形質転換増殖因子β3型、1ng/ml;R&D)、ジブチリルcAMP(0.5mM;Sigma)、およびDAPT(10nM;Tocris)を補充されたNeurobasal/B27/L−グルタミン含有培地(NB/B27;Life Technologies)中、ポリオルニチン(PO:polyornithine;15μg/ml)/ラミニン(1μg/ml)/フィブロネクチン(2μg/ml)であらかじめコーティングされたディッシュ上に、1cm2当たりの細胞260,000個で再播種した。播種の1〜2日後、細胞を、1μg/mlマイトマイシンC(Tocris)で、1時間にわたり処理して、任意の残りの増殖夾雑物を死滅させた。iPSC由来のmDAニューロンを、2〜3日ごとにフィードし、所与の実験のための所望の時点まで、継代せずに維持した。PO、ラミニン、およびフィブロネクチンを、7〜10日ごとに培地へと添加して、ニューロンの離昇を防止した。
(実施例4)
mRNA、5hMC、およびDNAのメチル化についてのプロファイリング
本実施例は、本明細書で記載される年齢パラダイムにおける、mRNA、5hMC、およびDNAのメチル化についてプロファイリングする1つの技術について記載する。これらの方法は、年齢関連因子に対する分子的制御に関するデータをもたらす。
5−mCの検出
強化型減少表示バイサルファイトシークエンシング(ERRBS)法を使用することができる。このプロトコールでは、ゲノムDNAを、MspI制限酵素により消化し、断片をサイズで選択して、CpG部位について濃縮された断片を得る。これらの断片に、亜硫酸水素塩転換を施し、Illumina HiSeq200035上でシークエンシングし、シークエンシングデータを、亜硫酸水素塩処理シークエンシングのリードおよび出力を、同定されたCpG部位のメチル化状態へとマップする、特注のソフトウェアにより解析する。
5−hmCの検出
Active Motif製のHydroxymethyl Collector(商標)キットを使用することができる。このプロトコールは、ビオチン部分の、5−hmC位置への選択的付加に続く免疫沈降(IP)ステップに基づく。ChIP−seq実験と同様に、細胞の総入力およびIP断片の両方をシークエンシングする。5−hmC修飾を、バックグラウンドレベルを凌駕する高カバレッジ領域として同定する。
遺伝子発現の検出
RNA−seqプロトコールを使用することができる。このプロトコールは、当技術分野で周知であり、WCMCエピゲノミクスコアにおいて日常的に実施されている。シークエンシング実験は、シークエンシングの費用を軽減し、バッチエフェクトを防止する、マルチプレックス実験となろう。
(実施例5)
遺伝子補正PD−iPSC細胞系
本実施例は、遺伝子補正PD−iPSC細胞系(例えば、TALENベースの遺伝子ターゲティング)の使用について記載する。開示の機構を理解することは必要でないが、これらの細胞系は、PD−iPSCと対照iPSCとのアイソジェニック対へのアクセスであって、年齢に関連する疾患因子と、PDに対する遺伝的感受性に関連する因子とをより正確に識別するアクセスをもたらすと考えられる。
(実施例6)
正常な老化におけるラミンAおよびプロジェリンの関与
本実施例は、正常に老化した大脳皮質組織内では、i)ラミンA/プロジェリンの上方調節;ii)ヘテロクロマチン状態の変化;iii)ニューロン内の核の拡張が見られることを示すデータを提供する。図11は、老化ヒト脳組織内のラミンAおよびプロジェリンの発現を示す例示的なデータを提示する。パネルAは、ラミンAおよびプロジェリンのいずれもが、老化個体から得られた大脳皮質組織内のmRNA発現レベルの上昇を示すことを裏付ける。パネルBは、44および82歳の2例のドナーのそれぞれから得られたラミンA/CおよびMAP2についての免疫蛍光による、パラフィン包埋されたヒト大脳皮質組織内の核膜の視覚化およびニューロンの同定について描示する。矢印は、MAP2陽性ニューロンの例を指し示す。パネルCは、可溶性トリメチル化H3K9についてのウェスタンブロット解析(左パネル)であって、ラミンAおよびプロジェリンの上方調節と同様のタイミングによるヘテロクロマチン組織化の劇的な変化を指し示すウェスタンブロット解析を示す。これらの変化は、右パネルで裏付けられる通り、ヘテロクロマチンの、年齢に応じた不溶性のヘテロクロマチン性病巣への再組織化を反映しうる。
(実施例7)
人工多能性幹細胞の、中脳ドーパミン細胞への代替的な分化
代替的に、二重SMAD阻害の改変形(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat. Biotechnol.、27巻:275〜280頁(2009年))を使用して、iPSCの神経分化を誘発することもできる。LDN−193189(100nM(0.5〜50μMの濃度の範囲にわたる);Stemgent、Cambridge、Massachusetts)、SB431542(10μM(0.5〜50μMの濃度の範囲にわたる);Tocris、Ellisville、MI)、SHH C25II(100ng/ml(10〜2000ng/mlの濃度の範囲にわたる);R&D、Minneapolis、MN)、パルモルファミン(2μM(10〜500ng/mlの濃度の範囲にわたる);Stemgent)、FGF8(100ng/ml(10〜500ng/mlの濃度の範囲にわたる);R&D)、およびCHIR99021(CHIR;3μM(0.1〜10μMの濃度の範囲にわたる);Stemgent)への時限式の曝露に基づく、フロアプレート誘導(参照により本明細書に組み込まれる、Fasanoら、Cell Stem Cell、6巻:336〜347頁(2010年))プロトコールを使用することができる。「SHH」処理とは、細胞の、100ng/mlのSHH C25II+パルモルファミン(2μM)の組合せへの曝露、すなわち接触を指す。
細胞を播種し(1cm2当たりの細胞35〜40×103個)、DMEM、15%のノックアウト血清代替、2mMのL−グルタミン、および10μMの(1〜25μMの濃度の範囲にわたる)β−メルカプトエタノールを含有するノックアウト血清代替(KSR)培地中のマトリゲルまたはゲルトレックス上(購入時の通りに使用する)(BD、Franklin Lakes、New Jersey)で培養することができる。KSR培地は、分化の5日目から始めて、既に記載されている(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat. Biotechnol.、27巻:275〜280頁(2009年))通りに、5〜6日目において75%(KSR):25%(N2)、7〜8日目において50%(KSR):50%(N2)、および9〜10日目において25%(KSR):75%(N2)の比で混合することにより、N2培地へと漸進的にシフトさせた。
分化の11日目において、培地を、CHIR(13日目まで)、ならびにBDNF(脳由来神経栄養因子、5〜100の範囲にわたる20ng/ml;R&D)、アスコルビン酸(AA;0.2mM(0.01〜1mMの濃度の範囲にわたる)、Sigma、St Louis、MO)、GDNF(グリア細胞系由来神経栄養因子、20ng/ml(1〜200ng/mlの濃度の範囲にわたる);R&D)、TGFβ3(形質転換増殖因子β3型、1ng/ml(0.1〜25ng/mlの濃度の範囲にわたる);R&D)、ジブチリルcAMP(0.5mM(0.05〜2mMの濃度の範囲にわたる);Sigma)、およびDAPT(10nM(0.5〜50nMの濃度の範囲にわたる);Tocris)を補充されたNeurobasal培地/B27培地(1:50の希釈率)/L−グルタミン(有効範囲:0.2〜2mM))含有培地(NB/B27;Invitrogen)へと、9日間にわたり交換することができる。
20日目において、Accutase(登録商標)(Innovative Cell Technology、San Diego、California)を使用して、細胞を解離し、高細胞密度条件(例えば、1cm2当たりの細胞300〜400×103個)下で、ポリオルニチン(PO);15μg/ml(1〜50μg/mlの濃度の範囲にわたる)/ラミニン(1μg/ml)(0.1〜10μg/mlの濃度の範囲にわたる)/フィブロネクチン(2μg/ml(0.1〜20μg/mlの濃度の範囲にわたる)分化培地中で(NB/B27+BDNF、AA、GDNF、dbcAMP(本明細書で記載される濃度の範囲にわたる)、TGFβ3およびDAPT(本明細書で記載される濃度の範囲にわたる)であらかじめコーティングされたディッシュ上に、所与の実験のための所望の成熟段階まで再播種することができる。
(実施例8)
iPSCの導出および分化
MOIを10として、CytoTuneセンダイウイルス(Life Technologies)を使用して、Coriellから購入された、見かけ上の健常若齢ドナー、老齢ドナー、ならびにHGPS患者およびパーキンソン病患者の線維芽細胞を、記載される(Fusakiら、Proc Japan Acad Ser B:348〜362頁(2009年))通りに再プログラム化した。iPSCクローンを、CytoTuneによる感染の約4週間後に単離し、10ng/mlのFGF2を含有する多能性維持培地中のMEF上で維持し、Dispase(STEMCELL Technologies)を使用して、毎週1回の継代を施した。分化のための調製物中で、Accutase(Innovative Cell Technology)を使用して、iPSCを採取した。線維芽細胞の分化(Parkら、Nature、141〜146頁(2008年))およびmDAニューロンの分化(Kriksら、Nature、480巻:547〜551頁(2011年))を、既に記載されている通りに実施した。
(実施例9)
改変RNAの合成およびウイルスベクターの構築
既に記載されている(Mandalら、Nat Protoc、8巻:568〜582頁(2013年);およびWarrenら、Cell Stem Cell、7巻:618〜630頁(2010年))、in vitro転写(IVT:in vitro transcription)プロトコールを使用して、改変RNAを発生させた。
略述すると、プロジェリンをコードする改変RNAを合成するためのプロトコールは、
1.ハッチンソン−ギルフォード早老症候群(HGPS)線維芽細胞に由来するcDNAに由来するプロジェリンのオープンリーディングフレームをクローニングし;
2.プロジェリン特異的バンド(約1850bp)をゲル精製し;
3.プロジェリンのORFを、合成RNA発現ベクターによるスプリントライゲーションまたはクローニング(Warrenら、Cell Stem Cell、7巻:618〜630頁(2010年)および補遺:DOI 10.1016/j.stem.2010.08.012)を介して、上流におけるT7プロモーター、5’UTR配列と、下流における3’UTR配列とで挟み;
4.PCRを実施して、T7−5’UTR−ORF−3’UTR配列を増幅し、産物を精製し;
5.in vitroにおいてPCR産物を転写し、結果として得られる改変RNAを精製すること
を伴う。他方、ウイルスプラスミドを合成するためのプロトコールは以下の通り:
1.プロジェリンのオープンリーディングフレームを、上記の通りにクローニングし;
2.プロジェリン特異的バンド(約1850bp)をゲル精製し;
3.プロジェリンのORFを、所望のプロモーターと共に、レンチウイルス/レトロウイルス/センダイウイルス骨格へとクローニングし;
4.例えば、iPSC由来のドーパミンニューロン内で発現させるために、pLenti−hSyn−eNpHR 3.0−EYFP(Addgene;プラスミド26775)を使用することができ;
5.標準的な手順を使用してウイルスを産生し、−80℃で保存し;
6.蛍光タンパク質の発現または他の手段をリードアウトとして使用して、パイロット実験を実施して、レンチウイルスの力価を決定すること
である。
改変RNAのトランスフェクションを、細胞型特異的培地中で実施した。Opti−MEM(Gibco)中で希釈された改変RNAおよびLipofectamine RNAiMAX(登録商標)(Life Technologies)を添加した。
(実施例10)
免疫細胞化学的解析
細胞培養物を、4%のパラホルムアルデヒド中で、15分間にわたり固定した。ブロッキングを、1%のBSAおよび0.3%のTriton X−100を補充されたリン酸緩衝生理食塩液中で実施した。抗体および濃度のリストを、表5に提示する。二次抗体は、種特異的Alexa色素コンジュゲート(Molecular Probes)とした。マウス組織についてのさらなる詳細のほか、詳細な定量化法についても、下記に記載する。
これらの抗体は、とりわけ、電子顕微鏡法(EM);フローサイトメトリー(FC);免疫細胞化学(ICC);免疫組織化学(IHC);ウェスタンブロット(WB)を含む技法により経時的マーカーを検出するために使用することができる。
(実施例11)
フローサイトメトリーおよびミトコンドリアにおけるROS解析
細胞を、Accutaseで解離し、製造元により推奨される濃度に従い、氷上で1時間にわたり、コンジュゲート抗体(BD Biosciences)で直接染色した。ミトコンドリアにおけるROSを評価するため、細胞を、製造元の指示書に従い、細胞培養培地中20μMの最終濃度のMitoSOX Redミトコンドリアスーパーオキシドインジケーター(Life Technologies)で染色した。細胞分取は、FACSAria(BD Biosciences)上で実施した。
(実施例12)
遺伝子の発現解析
細胞を、TriZol(Life Technologies)で溶解させた。RNAを、製造元の指示書に従い、RNeasyキット(Qiagen)を使用して抽出し、Superscriptキット(Life Technologies)を使用して逆転写した。Mastercycler RealPlex2(Eppendorf)プラットフォームを使用して、定量的RT−PCRを実施した。RNA−seqのために、全RNAを、2回の独立の実験から単離し、MSKCC Genomic Coreファシリティーによりプロセシングした。
(実施例13)
タンパク質解析
細胞ペレットを、1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を伴うRIPA緩衝液で溶解させた。20〜40μgの試料を、4倍濃度のLaemmli試料緩衝液でさらに希釈し、95℃で5分間にわたり煮沸し、NuPAGE 4〜12%ビス−トリスプレキャストゲル(Life Technologies)上へとロードし、PVDF膜へと転写した。ブロットを、一次抗体(使用される抗体のリストについては、表S4を参照されたい)中で一晩にわたりインキュベートした後、適切なHRP標識二次抗体(Jackson ImmunoResearch)中でインキュベートした。
(実施例14)
異種移植
hSyn::GFP−プロジェリンレンチウイルスまたはhSyn::核−GFPレンチウイルスをin vitro感染させた後で、iPSC由来のmDAニューロンを、病変NOD−SCID IL2Rgcヌルマウス(Jackson Laboratory)の大脳基底核線条体へと移植した。細胞数の立体解析を使用して、移植片についての免疫組織化学を定量化した。移植の6カ月後において、既に記載されている(Milnerら、Methods Mol Biol、793巻:23〜59頁(2011年))通りに、電子顕微鏡法を実施した。本方法で使用されうる適切な市販のレンチウイルスベクターは、Deisseroth pLentiベクター(Addgene;型番26775)である。
(実施例15)
統計学的解析
分布は、対応する累積分布についての統計学的解析であって、異なる年齢または処理の間の差異を解析するコルモゴロフ−スミルノフ検定を使用する統計学的解析により比較した。棒グラフは、平均±SEMとしてプロットし、注記される場合を除き、生物学的3連を表す。スチューデントのt検定を使用して、2群間の比較を解析した。対照に照らした複数群間の比較は、ダネット検定を伴うANOVAを使用して解析した。Prism(version 6.0a、GraphPad)を、データの提示および解析のために使用した。
(実施例16)
iPSCの発生および特徴付け
線維芽細胞は、Coriell(Camden、NJ)から購入し、Fusakiら、Proc Japan Acad Ser B:348〜362頁(2009年)により改変されたプロトコールであって、OCT4、SOX2、KLF4、およびc−MYCを発現させるCytoTuneセンダイウイルス(OSKM;Life Technologies、Carlsbad、CA)を使用するプロトコールに基づき、再プログラム化した。略述すると、線維芽細胞を、ゼラチン上に、15%のウシ胎仔血清(Life Technologies)を補充されたMinimal Essential Medium Alpha(Life Technologies)中、12ウェルプレートのウェル1つ当たり、1cm2当たりの細胞10,500個で播種した。CytoTuneウイルスを、MOIを10として組み合わせ、線維芽細胞へと、翌日(0日目として表記する)のほか、場合によって、2日目にも添加した。
添加の約16時間後において、培地を置きかえた。4日目において、トリプシン化により線維芽細胞を採取し、DMEM−F12、20%のノックアウト血清代替(Life Technologies)、L−グルタミン、非必須アミノ酸、β−メルカプトエタノール、および10ng/mlのFGF2(R&D)を含有するiPSC維持培地であって、接着を支援する10μMのRhoキナーゼ阻害剤(Y−27632;Tocris、Bristol、UK)を補充されたiPSC維持培地中の、マイトマイシンC処理マウス胚性線維芽細胞(MEF;Global Stem、Rockville、MD)上へと、1cm2当たりの細胞10,500個で再播種した。その後、隔日で培地を置きかえた。既に記載されている(Huangfuら、In Nat Biotechnol、1269〜1275頁(2008年))通りに、バルプロ酸(Sigma、St Louis、MO)を、培地へと、1mMの最終濃度で、6日目〜13日目にわたり添加して、再プログラム化効率を増強した。
加えて、細胞を、5%の酸素中で、形質導入の1週間前〜形質導入の2.5週間後にわたり培養して、iPSCのコロニー形成の可能性をさらに改善した(Yoshidaら、Cell Stem Cell、237〜241頁(2009年))。また、再プログラム化に対する障壁として作用しうるHGPS表現型(Caoら、Science translational medicine、3巻:89〜58頁(2011年))を低減するために、形質導入の1週間前から、iPSCコロニーの最初の出現まで、HGPS線維芽細胞を、680nMのラパマイシン(Sigma)でも処理した。形質導入の約30日後、ヒト胚性幹細胞コロニーに類似するコロニーを、機械的に単離し、24ウェルプレート内のMEF上へと再播種した。独立の再プログラム化イベントを確保するために、iPSCクローンは、個別に形質導入されたウェルから採取した。その後、各出発線維芽細胞系に由来する、少なくとも3つずつの生存コロニーを、iPSC培地中のMEFフィーダー層上で維持し、dispase(STEMCELL Technologies、Vancouver、BC)を使用して、毎週約1回継代培養した。
標準的なGバンド手順を使用する、MSKCC Molecular Cytogenetics Coreファシリティーにより、核型解析を実施した。既に記載されている(Parkら、Nature、141〜146頁(2008年))通りに、胚様体形成を介する自発的分化を実施した。線維芽細胞系1つ当たり3つずつの独立のクローンを使用して、iPSCを使用する実験を実施した。細胞(下記で列挙される細胞を含む)を、マイコプラズマについて、2〜4週間ごとに定期的に調べ、陰性であることを見出した。
(実施例17)
PDのモデル化のためのiPSC
PINK1内の突然変異(c.1366C>T、p.Q456XStop)またはPARK2/Parkin内の突然変異(c.1072Tdel、p.V324fsX110)を伴う患者に由来するOSKMのレトロウイルスによる過剰発現により発生させたPD iPSCは、D.Kraincラボ(Massachusetts General Hospital、Boston、MA)により恵与された。これもまた、pMIGレトロウイルス(OSK;c−Mycを伴わない)を使用して確立された、見かけ上の健常iPSC(C1、36歳;C2、48歳)は、K.Egganラボ(Harvard University、Cambridge、MA)から得た。さらなるiPSCクローンは、センダイウイルスを使用して、PARK2/Parkin内の異なる突然変異(c.924C>T、p.R275W)を伴う患者に由来する線維芽細胞から導出した。上記で列挙された、若齢iPSC(本実施例では、C3と呼ばれる)および老齢iPSC(本実施例ではC4と呼ばれる)は、これらもまた、センダイウイルスの再プログラム化因子を使用して導出されたため、対照として使用した。
(実施例18)
線維芽細胞の分化
iPSCの、線維芽細胞様細胞への分化は、Parkら、Nature、141〜146頁(2008年)によるプロトコールに基づいた。略述すると、iPSCクローンを、Dispaseを使用して、酵素的に継代培養し、多細胞塊として、MEF上で24時間にわたり馴化され、次いで、10ng/mlのFGF2および10μMのY−27632を補充されたiPSC維持培地中のゼラチンへと播種した。翌日、培地を、15%のウシ胎仔血清(Life Technologies)を補充したMinimal Essential Medium Alpha(Life Technologies)で置きかえ、その後、隔日で持続的に交換した。分化細胞は、Accutase(Innovative Cell Technology、San Diego、CA)を使用して、最初の2週間にわたり、5〜6日ごとに注意深く継代培養し、次いで、その後、トリプシン化した。継代日に、Y−27632を、培地へと添加して、接着を支援する一助とした。4週間後、線維芽細胞様細胞を、表現型評価および過剰発現研究の前に、CD−13およびHLA−ABCの高発現レベルに基づき分取した。その後、分取された細胞を、15%のウシ胎仔血清を伴うMinimal Essential Medium Alpha(Y−27632を伴わない)中で増殖させた。
(実施例19)
mDAニューロンの分化
本実施例は、実施例3のプロトコールのロングバージョンを含有する。既に記載されており(Kriksら、Nature、480巻:547〜551頁(2011年))、図8Aで図式化されている通りに、二重SMAD阻害プロトコールの改変形を使用して、細胞を、フロアプレートベースのmDAニューロンへと方向付けた。
iPSC由来のmDAニューロンを、分化の30日目において、10μMのY−27632(32日目まで)、ならびにBDNF(脳由来神経栄養因子、20ng/ml;R&D)、アスコルビン酸(AA;0.2mM、Sigma)、GDNF(グリア細胞系由来神経栄養因子、20ng/ml;R&D)、TGFβ3(形質転換増殖因子β3型、1ng/ml;R&D)、ジブチリルcAMP(0.5mM;Sigma)、およびDAPT(10nM;Tocris)を補充されたNeurobasal/B27/L−グルタミン含有培地(NB/B27;Life Technologies)中、ポリオルニチン(PO;15μg/ml)/ラミニン(1μg/ml)/フィブロネクチン(2μg/ml)であらかじめコーティングされたディッシュ上に、1cm2当たりの細胞260,000個で再播種した。
播種の1〜2日後、細胞を、1μg/mlマイトマイシンC(Tocris)で、1時間にわたり処理して、任意の残りの増殖夾雑物を死滅させた。iPSC由来のmDAニューロンを、2〜3日ごとにフィードし、所与の実験のための所望の時点まで、継代せずに維持した。PO、ラミニン、およびフィブロネクチンを、7〜10日ごとに培地へと添加して、ニューロンの離昇を防止した。
(実施例20)
合成mRNA(改変RNA)のクローニング、合成、および使用
本実施例は、実施例9のプロトコールを含有する。既に記載されている(Mandalら、Nat Protoc、8巻:568〜582頁(2013年);およびWarrenら、Cell Stem Cell、7巻:618〜630頁(2010年))、in vitro転写(IVT)プロトコールを使用して、改変RNAを発生させた。プロジェリンのORFは、PCRにより、HGPS線維芽細胞から得た。プロジェリンORFの配列を、配列番号1として列挙する。N末端におけるGFPの融合は、InFusion(登録商標)クローニング技術(Clontech、Mountain View、CA)を使用して、プロジェリンのORFを、pAcGFP1−Cへと挿入することにより達した。融合させたGFP−プロジェリンのORFの配列を、配列番号2として列挙する。核−GFPは、pAcGFP1−Nuc(Clontech)を鋳型とした。リン酸化ORFは、ジェネリック5’UTRおよびジェネリック3’UTRを既に含有する骨格へとクローニングした。テールPCRとIVTとの反応は、既に記載されている(Mandalら、Nat Protoc、8巻:568〜582頁(2013年))通りに、実行した。
過剰発現実験のために、改変RNAを氷上で融解させ、100ng/μlの作業濃度へと調整した。細胞100,000個のトランスフェクション当たり、200ngの改変RNAを、Opti−MEM培地(Life Technologies)中10μlまで希釈し、ボルテックスし、室温で10分間にわたりインキュベートした。別個の試験管内で、0.6μlのLipofectamine RNAiMAX(登録商標)(Life Technologies)を、Opti−MEM中10μlまで希釈し、同じ時間枠にわたりインキュベートした。次いで、Lipofectamine混合物を、改変RNA混合物を含有する試験管へと移し、ボルテックスし、さらに10分間にわたりインキュベートした。トランスフェクション混合物は、トランスフェクションの前に少なくとも4時間にわたり、200ng/mlのインターフェロン阻害剤であるB18R(eBioscience、San Diego、CA)であらかじめ処理された細胞へと、滴下により添加した。
37℃で4時間後、全懸濁液を、B18Rを補充された新鮮な培地で置きかえた。iPSC由来の線維芽細胞へのトランスフェクションを、分化の50日目から始めて実施し、その後、2日間連続で反復した。iPSC由来のmDAニューロンには、分化の65日目または120日目から始めてトランスフェクトし、その後、4日間連続で反復した。iPSC由来のmDAニューロン内の表現型を確立するために、さらに2日間にわたるトランスフェクションを行った。最終回のトランスフェクションの1日後に細胞を解析した。
(実施例21)
細胞の免疫染色
細胞を、4%のパラホルムアルデヒド中で、15分間にわたり固定した。1%のBSAおよび0.3%のTriton X−100を補充されたリン酸緩衝生理食塩液中で、30分間〜1時間にわたりブロッキングを実施した。細胞を、4℃で一晩にわたり、ブロッキング緩衝液中で希釈された一次抗体により染色した。抗体および濃度のリストを、表S4に提示する。複数回にわたる洗浄の後、細胞を、室温、ブロッキング緩衝液中1:500の適切なAlexa Fluor標識二次抗体(Molecular Probes、Carlsbad、CA)で、30分間〜3時間にわたり染色した。細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;Thermo Fisher、Rockford、IL)で対比染色して、核を視覚化した。画像は、Hamamatsu ORCA CCDカメラを使用するOlympus IX81顕微鏡により収集した。
(実施例22)
マウス組織
ヒトiPSC由来のmDAニューロンを移植した3カ月後において、マウスの腹腔内に、過剰用量のペントバルビタール(50mg/kg)を施して、深い麻酔を誘導し、4%のパラホルムアルデヒド(PFA:paraformaldehyde)中で潅流した。脳を抽出し、4%のPFA中で後固定し、次いで、30%のスクロース溶液中に、2〜5日間にわたり浸漬した。組織を、O.C.T.(Sakura−Finetek、Torrance、CA)中に包埋した後で、クライオスタット上で切片化した(30μm)。電子顕微鏡法のためのマウス組織の処理については、下記を参照されたい。
(実施例23)
免疫染色の定量化
in vitroにおける細胞
20倍の対物レンズを使用して、Operetta(PerkinElmer、Waltham、MA)上で、画像を収集した。Harmony high content analysisソフトウェア(version 3.0)を使用して、画像の加工を実施した。
継代をマッチさせた細胞を、3回にわたる独立の実験によりスコア付けした。プロジェリン陽性細胞に対するバイアスに起因して必要な場合は、ImageJソフトウェア(version 1.43u、NIH)を使用して、画像を加工した。これらの場合、条件1つ当たりの細胞50個ずつを、各独立の実験について評価した。データは、平均±平均の標準誤差(SEM:standard error of means)として提示する。
in vivoにおけるマウス脳組織
細胞カウントは、既に記載されている(Tabarら、Nat Biotechnol、23巻(5号):601〜606頁(2005年))通りに、Stereo Investigatorソフトウェア(MBF bioscience、Vermont)を使用する、光学分割プローブおよびCavalieri推定器を使用して決定した。細胞カウントは、ランダム化グリッドを使用して、移植片を同定可能な、切片5枚目ごとにスコア付けした。カウントは、条件1つ当たり3匹ずつの動物により決定した。データは、推定総細胞数±SEMとして提示する。
(実施例24)
老化の評価
製造元の指示書に従い、Cell Signaling製の染色キットを使用して、老化活性化ベータ−ガラクトシダーゼを評価した。陽性細胞染色は、手作業で評価した(各々細胞50個ずつの2連)。
HT−QFISHによるテロメア長の測定
細胞を、底部が透明で壁面が黒色の96ウェルプレートであって、試料1例当たりのウェル4連を含む96ウェルプレート上に播種し、既に記載されている(Canelaら、Proc Natl Acad Sci U S A、104巻:5300〜5305頁(2007年))通りに、ハイスループット定量的蛍光in situハイブリダイゼーション(HT−QFISH)を実施した。画像は、20倍の対物レンズを使用するOperettaで捕捉した。Harmony high content analysisソフトウェアを使用して、画像の加工を実施した。テロメア長の値は、四連試料中のCy3標識テロメアプローブ(試料1例当たり>600個のスポット)の特異的結合に対応する個々のテロメアスポットを使用して測定し、既に記載されている(Canelaら、Proc Natl Acad Sci U S A、104巻:5300〜5305頁(2007年);およびMcIlrathら、Cancer research、61巻:912〜915頁(2001年))通りに、テロメア長が既知である対照細胞系を使用して、蛍光強度をキロベースへと転換した。
(実施例25)
フローサイトメトリー
細胞を、Accutaseで解離し、製造元により推奨される濃度に従い、氷上で1時間にわたり、コンジュゲート抗体(BD Biosciences、San Jose、CA)で直接染色した。細胞分取は、FACSAria(BD Biosciences)上で実施した。
ミトコンドリアにおけるROSの評価
細胞を、Accutaseで解離し、細胞培養培地中20μMの最終濃度のMitoSOX Redミトコンドリアスーパーオキシドインジケーター(Life Technologies)で染色した。染色は、37℃のインキュベーター内で、30分間にわたり実行した。細胞は、洗浄し、DAPIを含有する細胞培養培地中で再懸濁させて、死細胞を解析から除外した。細胞ショックに起因する陽性染色を防止するために、使用される試薬を37℃まであらかじめ温め、FACSAria上の解析の直前まで、試料を37℃に保った。試料は、非処理の若齢ドナーの線維芽細胞/iPSC由来の線維芽細胞/iPSC由来のmDAニューロンのほか、ミトコンドリア内のスーパーオキシド産生を誘導するように、20μMのカルボニルシアニド3−クロロフェニルヒドラゾン(CCCP;Sigma)で48時間にわたり処理された若齢ドナー細胞と常に比較した。これらの対照は、試薬が時間と共に酸化したのでも、染色プロトコール中に細胞がストレスを受けたのでもないことを確認する一助となった。MitoSOX試薬を酸化させた集団のパーセントの定量化は、FlowJoソフトウェア(version 9.5.3;Tree Star)を使用して実施し、条件1つ当たり少なくとも3つの独立のクローンまたは実験について平均した。陰性対照試料が、フローサイトメトリーにより完全な陽性のリーディングを示した場合は、個々の実験によるデータを、解析から除外したことは、条件または試薬自体が損なわれたことを示唆する。
(実施例26)
DNAの抽出および突然変異の解析
DNeasy Blood and Tissueキット(Qiagen)を使用して、ゲノムDNAを、細胞ペレットから抽出した。製造元の指示書に従い、HiFi Hotstart(KAPA Biosystems)を使用して、突然変異近傍の小領域をPCR増幅した。標準的なフェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を使用して、PCR産物を清浄化した。PCR産物についてのDNAシークエンシングを、MSKCC DNA Sequencing CoreファシリティーまたはGENEWIZ(South Plainfield、NJ)により実施した。
(実施例27)
RNAの抽出および遺伝子の発現解析
細胞を、Trizol(Life Technologies)中で直接溶解させた。クロロホルムおよびエタノール沈殿を使用してRNAを抽出し、RNeasyキット(Qiagen)を使用してさらに清浄化した。試料は、さらに加工するまで、−80℃で保存した。全RNAを逆転写し(Superscript、Life Technologies)、50ngのRNAを使用して、各RT−PCR反応の鋳型とした。プロジェリンの発現レベルを解析するために、全RNAを、0.1倍容量の5M NaOHにより、室温で30分間にわたり加水分解した後、0.1倍容量の5M HClで加水分解した(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年))。製造元の指示書に従い、Mastercycler RealPlex2(Eppendorf、Hauppauge、NY)プラットフォームを使用して、定量的RT−PCRを実施した。発現レベルは、注記の通り、シクロフィリンAまたは18S(ハウスキーピング遺伝子対照)に照らして正規化した。RNA−seqのために、全RNAを、2回の独立の実験から単離し、MSKCC Genomic Coreファシリティーによりプロセシングした。
RT−PCR実験において使用されるプライマーの配列およびシークエンシングのためのプライマーの配列を、表6に列挙する。
ペアドエンドの75塩基対によるRNAシークエンシングライブラリーを、Illumina HiSeq2000上でシークエンシングした。マッピングパラメータをデフォルトとするSTAR 2.3.0e(Dobinら、Bioinformatics、29巻:15〜21頁(2013年))を使用して、リードをヒトゲノム(Hg19)へとマップし、HTSeqを使用して、リードカウントを評価した。主成分分析は、ベースの「stats」パッケージを使用して、R(v2.15.2)により遂行した。示差的に発現する遺伝子は、limma voom(Smyth、Stat Appl Genet Mol Biol、3巻:論文3(2004年))により同定した。保守的な手法を取り、シークエンシングライブラリー内の低カバレッジを説明し、試料が、limmaにより評価される遺伝子についてのゼロでないリードカウントを含有するように、低リードカウントフィルターを使用した。示差的に発現する遺伝子は、±2の倍数変化カットオフおよびボンフェローニ調整された0.05のp値を使用して同定した。超幾何検定を使用して、若齢ドナーによるiPSC由来のmDAニューロン内および老齢ドナーによるiPSC由来のmDAニューロン内のプロジェリンの過剰発現に応答する類似性を評価した。遺伝子オントロジー解析は、核−GFPを発現させるiPSC由来のmDAニューロンと、GFP−プロジェリンを発現させるiPSC由来のmDAニューロンとの間の倍数変化を10ビンにわたる連続変数とするiPAGE(Goodarziら、Mol Cell、36巻:900〜911頁(2009年))を使用して遂行した。ベン図、バープロット、およびPCAプロットは、ベースのR「ggプロット2」グラフィックスパッケージ(Wickham, H.(2009年)、ggplot2: elegant graphics for data analysis(Springer、New York))を使用して、R(v2.15.2)により作成した。生データは、Gene Expression Omnibus ncbi.nlm.nih.gov/geo/(GSE49112)において入手可能である。
(実施例28)
タンパク質の単離およびウェスタンブロット解析
細胞は、カルシウムもマグネシウムも伴わない、氷冷リン酸緩衝生理食塩液(PBS−/−)中で、セルリフター(Corning、Tewksbury、MA)により回収した。細胞ペレットは、エタノールおよびドライアイス上で迅速に凍結させ、−80℃で保存した。細胞ペレットを氷上で融解させ、1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を伴う、50〜200μlのRIPA溶解緩衝液(pH8.0の50mMトリス−HCl、120mMのNaCl、6mMのEDTA、0.5%のNP−40)中で再懸濁させた。細胞懸濁液を、氷上の45分間にわたるインキュベーション中に15分間隔でボルテックスした。4℃、10,000rpmで10分間にわたるスピンの後に、溶解物を単離した。20〜40μgの試料を、4倍濃度のLaemmli試料緩衝液でさらに希釈し、95℃で5分間にわたり煮沸し、NuPAGE 4〜12%ビス−トリスプレキャストゲル(Life Technologies)上へとロードした。100Vで2時間にわたり、ゲル電気泳動を実施した。製造元の指示書に従い、XCell II Blot Module(Life Technologies)を使用して、ゲルを、メタノール活性化PVDF膜へと転写した。ブロットを、室温、0.1%のTween−20を加えたトリス緩衝生理食塩液(TBS−T)中3%のウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)で、45分間にわたりブロッキングした。ブロットを、シェーカー上4℃の一次抗体中で、一晩にわたりインキュベートした(使用される抗体のリストについては、表S4を参照されたい)。
TBS−Tによる複数回にわたる洗浄の後、ブロットを、適切なHRP標識二次抗体(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)中、室温で1時間にわたりインキュベートした。製造元の指示書に従い、Western Lightning Plus−ECL(PerkinElmer、Melville、NY)を使用して、タンパク質バンドの視覚化を実施し、SRX−101A x線フィルムプロセッサー(Konica Minolta、Wayne、NJ)上で現像した。ImageJを、3回にわたる独立の実験によるブロット上で使用して、密度測定による定量化を実施した。
(実施例29)
神経突起の定量化
樹状突起を標識するMAP2による免疫染色の後、ランダムに選択されたGFP+細胞の画像を、40倍の対物レンズを使用するHamamatsu ORCA CCDカメラを使用して、Olympus IX81顕微鏡上で、手作業により収集した。樹状突起の長さは、ImageJを使用して、GFP+核から伸長する、標識された各神経突起をたどって測定した。核周囲のMAP2染色を伴う細胞をゼロとした。MAP2染色を伴わないGFP+核のほか、凝縮されたGFP+核を伴う細胞も、スコア付けしなかった。条件1つ当たり50個ずつの細胞を、3つの独立の分化の各々について評価した。
(実施例30)
in vivoにおける評価
移植
動物手順は、NIHガイドラインに従い実施され、地域のInstitutional
Animal Care and Use Committee(IACUC)、Institutional Biosafety Committee(IBC)のほか、Embryonic Stem Cell Research Committee(ESCRO)により承認された。6週齢のNODSCID IL2Rgcヌルマウス(20〜35g;Jackson Laboratory、Bar Harbor、ME)に、ケタミン(90mg/kg;Akorn、Decatur、IL)およびキシラジン(4mg/kg;Fort Dodge、IA)で麻酔をかけた。10μgの6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA(Sigma−Aldrich))を、6週齢のマウスの大脳基底核線条体の以下の座標(ミリメートル単位):AP:0.5(前項から);ML:−2.0;DV:−3.0(硬膜から)へと定位注射した。
病変形成の2週間後、マウスを、2回にわたり(1週間隔てて)、回転挙動(下記を参照されたい)について調べた。高回転数/低回転数を示す動物が、群間で均等に分布するように、動物を6つの群へと分け、次いで、特定の群へと無作為に割り当てた。群1つ当たり少なくとも3匹ずつの動物についての解析を、3カ月後の時点において可能とするように、条件1つ当たり5匹ずつの動物の初期の試料サイズを選択した。分化の21日目において、対照(C1)のiPSC由来mDAニューロンおよびPD突然変異体(PINK1−Q456X、Parkin−V324A)のiPSC由来mDAニューロンに、hSyn::GFP−プロジェリンまたはhSyn::核−GFPを発現させるレンチウイルスベクターを感染させ、30日目において移植した(移植時において約2.5カ月齢の動物)。合計200×103個の細胞を、2μlの容量で、大脳基底核線条体の以下の座標(mm単位):AP:0.5;ML:−1.8;DV:3.2へと注射した。
回転試験
アンフェタミン誘導性回転試験を、移植前および移植の12日後において実施した。マウスにおける回転挙動は、d−アンフェタミン(10mg/kg、Sigma)をi.p.注射した10分後に記録し、30分間にわたり記録された。データは、1分間当たりの回転の平均数として提示した。
(実施例31)
電子顕微鏡法
手順は、Milnerら、Methods Mol Biol、793巻:23〜59頁(2011年)に従い実施した。略述すると、ヒトiPSC由来のmDAニューロンを移植した6カ月後に、マウスに、150mg/kgのペントバルビタールナトリウムを、腹腔内に過剰投与した。脳を、1ml当たり1000単位のヘパリン、3.75%のアクロレイン50ml、および0.1Mのリン酸緩衝液(PB、pH7.4)中に2%のパラホルムアルデヒド、およびPB中に2%のPFA 200mlを含有する生理食塩液(0.9%)による大動脈弓潅流で逐次的に固定した。脳を摘出し、PB中1.87%のアクロレイン/2%のPFAにより、室温で30分間にわたり後固定した。冠状組織ブロックを、振動型ミクロトーム(Leica Microsystems、Deerfield、IL)上で切片化した(40μm)。異種移植片を含有する選択された切片は、1%の水素化ホウ素ナトリウム中で前処理した。非特異的結合は、0.1Mのトリス−生理食塩液(TS:Tris−saline;pH7.6)中に0.5%のBSAでブロッキングした。一次抗体(表S4を参照されたい)は、TS中に0.1%のBSA中で希釈し、4℃で一晩にわたりインキュベートした。切片は、ビオチニル化二次抗体(Jackson
ImmunoResearch、West Grove、PA)と共に、室温で30分間にわたりインキュベートした。Vectastain ABCキット(Vector Laboratories、Burlingame、CA)を使用して、ペルオキシダーゼによる標識付けを実施した後で、ジアミノベンジジンを伴うインキュベーションを7分間にわたり実施した。次いで、切片を、金コンジュゲート二次抗体(Electron Microscopy Sciences(EMS)、Fort Washington、PA)中、4℃で一晩にわたりインキュベートした。切片を、2%のグルタルアルデヒド中で後固定し、0.2Mのクエン酸緩衝液(pH7.4)中で洗浄し、Silver IntenSE Mキット(GE Healthcare、Piscataway、NJ)を使用して、銀増感させた。複数回にわたる洗浄の後、切片を、2%の四酸化オスミウム中で1時間にわたり固定し、昇順のエタノール希釈系列を介して脱水し、一晩にわたり、酸化プロピレン/EMBed 812(EMS)中に入れた。次いで、切片を、60℃で、Aclarプラスチックシート2枚の間のEMBed 812中で4日間にわたり包埋した。移植片を含有する選択された切片を、Beemカプセル上に貼付し、ガラスナイフ(Leica)を使用して、ウルトラミクロトーム(Ultracut)上で切り刻んだ。極薄切片は、グリッド上に回収し、酢酸ウラニルおよびレイノルドによるクエン酸鉛で対比染色した。最終調製物を検討し、Phillips C10透過電子顕微鏡を使用して撮影した。ImageJを使用して、群1つ当たり25個ずつの樹状突起1μm2当たりのTH−免疫金粒子の数の定量化、および群1つ当たり25個ずつのミトコンドリアの面積(μm2)の定量化を実施した。
(実施例32)
統計学的解析
度数分布プロットは、任意単位で50または100の増分によりビニングされた、3回にわたる独立の実験(他の実施例も全て同じ)の各々による、細胞(線維芽細胞)100個または細胞50〜100個の蛍光強度の定量化を提示する。分布は、対応する累積分布についての統計学的解析であって、異なる年齢または処理の間の差異を解析するコルモゴロフ−スミルノフ検定を使用する統計学的解析により比較した。異なる時点において染色を実施したため、異なる細胞型の度数分布についての任意単位は、比較しないものとする。
棒グラフは、平均±SEMとしてプロットし、注記される場合を除き、生物学的3連を表す。技術的多連は、統計学的解析に組み入れる前に平均した(すなわち、実験1回についての技術的多連の平均=生物学的1連)。スチューデントのt検定を使用して、2群間の比較を解析した。対照に照らした複数群間の比較は、ダネット検定を伴うANOVAを使用して解析した。Prism(version 6.0a、GraphPad)を、データの提示および解析のために使用した。
(実施例33)
再プログラム化は、年齢関連マーカーを、「若齢」状態に戻す
再プログラム化中および再分化中に追跡しうるマーカープロファイルを検証するために、継代数についてマッチさせた、12の線維芽細胞集団であって、見かけ上の健常若齢ドナー(11歳)、中間齢ドナー(31〜55歳)、老齢ドナー(71〜96歳)、および早老HGPS患者(3〜14歳)に由来する線維芽細胞集団の比較を実施した。多様な年齢関連マーカーであって、HGPS線維芽細胞内で既に記載されているマーカー(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年))を含むマーカーとドナーの線維芽細胞年齢の間で、著明な相関が観察された(図2A〜2Cおよび図5A)。
免疫細胞化学を、82歳のドナーに由来する老齢の線維芽細胞と比較した、11歳のドナーに由来する若齢の線維芽細胞における、核ラミナ(ラミンA/C)、ラミナ関連タンパク質(LAP2α)、および末梢ヘテロクロマチン(H3K9me3、HP1γ)を同定するマーカーについて実施した。百分率は、フォールディングした核形態を伴う細胞および/またはブレブ形成した核形態を伴う細胞の比率を指し示す。図2A。図2Aにおけるマーカーの定量化により、選択された年齢関連マーカーの、若齢ドナーの線維芽細胞と、老齢ドナーの線維芽細胞とを層別化する能力、および老齢ドナーの線維芽細胞の、早老であるHGPS患者の線維芽細胞との類似性が裏付けられた。データは、継代をマッチさせた単一の線維芽細胞系に由来する細胞100個についての、相対蛍光強度の度数分布としてプロットする。図2B。HGPS患者の線維芽細胞と同様に、老齢ドナーの線維芽細胞は、若齢ドナーの線維芽細胞より、DNA損傷(γH2AX免疫細胞化学により測定される)のレベルが高く、ミトコンドリア内の反応性酸素分子種(ROS;スーパーオキシドの指標であるMitoSOXを使用するフローサイトメトリーにより測定される)のレベルも高い。n=3回にわたる独立の実験。図2C。若齢ドナーの線維芽細胞および老齢ドナーの線維芽細胞に由来する、継代10代目(P10)のiPSC内の年齢関連マーカーについての免疫細胞化学。図2D。図2Dにおける染色の定量化により、老齢ドナー由来のiPSCが、再プログラム化を通して、年齢関連マーカーを保持できない(HGPS由来iPSCと同様である)ことが指し示された。各々細胞のn=300個ずつ(3つの独立のiPSCクローンに由来する細胞100個ずつ)。図2E。再プログラム化すると、DNA損傷レベルおよびミトコンドリア内のスーパーオキシドレベルがリセットされる。
老齢ドナーに由来する線維芽細胞は、HGPS線維芽細胞に緊密に相似したことから、Misteliおよび同僚(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年);Scaffidiら、In Nat Med、11巻(4号):440〜445頁(2005年))によるかつての知見が裏付けられる。より具体的には、老齢ドナーの線維芽細胞は、若齢ドナーに由来する線維芽細胞と比較した場合の、核形態の異常(すなわち、フォールディングおよびブレブ形成)、LAP2αなど、核ラミナ関連タンパク質の喪失、末梢ヘテロクロマチンマーカーであるトリメチル化H3K9(H3K9me3)およびヘテロクロマチンタンパク質1ガンマ(HP1γ)の包括的な喪失のほか、DNA損傷レベルおよびミトコンドリア内のスーパーオキシドレベルの上昇を示した。HGPSに関与する突然変異体タンパク質であるプロジェリンの発現が低レベルである(図5B)にも拘らず、老齢ドナーの線維芽細胞内のマーカーの発現は、HGPS線維芽細胞と同等であった。これらのデータは、経時的マーカーシグネチャーが、見かけ上の健常ドナーに由来する若齢ドナーの線維芽細胞を、老齢ドナーの線維芽細胞と対比して、信頼できる形で層別化しうることを示唆する。
再プログラム化の、細胞年齢のマーカーに対する効果について取り組むために、線維芽細胞を、若齢(11歳)ドナー、老齢(82歳)ドナー、およびHGPS(14歳)ドナーから選択し、ドナーの線維芽細胞系の各々に、Oct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを発現させるセンダイベクター(Fusakiら、Proc Japan Acad Ser B:348〜362頁(2009年))を形質導入した(図5C)。細胞質RNAウイルスを使用することにより、形質導入の25〜40日後までに、組込みを伴わないiPSCの導出が可能となった。iPSCクローンにより、核(図5D)および細胞表面(図5E)の多能性マーカーの発現、ならびに胚様体への分化後における3つの胚葉への分化(図5F)を含む、多能性細胞に特徴的な特性が裏付けられた。
iPSCクローンは、正常核型を有し、HGPS患者の線維芽細胞に由来するiPSCは、疾患突然変異を維持した(図5G)。上記で示した年齢関連分子マーカーのサブセットを評価して、若齢の線維芽細胞と老齢の線維芽細胞とを識別した。外因性センダイウイルスの喪失(図5D)を確保するように、iPSCは、継代の前に評価しなかった。再プログラム化の後、老齢ドナーの線維芽細胞に由来するiPSCは、ラミンA、LAP2α、H3K9me、およびHP1γの発現に関して、若齢ドナー由来のiPSCと識別不可能であった(図2Dおよび2E)。さらに、iPSCが提示するDNA損傷またはミトコンドリア内の反応性酸素分子種は、存在する場合でも極めてわずかであった(図2F)ことから、多能性細胞段階における表現型年齢のリセットが示唆される。しかし、年齢関連シグネチャーは、プロジェリンの発現に依存することが示唆されている(Scaffidiら、Science、312巻:1059〜1063頁(2006年))。
異なる年齢のドナーに由来する線維芽細胞の年齢関連変化を裏付けるマーカーについての免疫細胞化学解析の定量化:若齢ドナー:11歳、中間齢ドナー:31〜55歳、老齢ドナー:71〜82歳、HGPS(ハッチンソン−ギルフォード早老症候群):ドナー3〜14歳とする。年齢群1つ当たりn=3例の独立のドナーである。図5A。若齢ドナー(11歳)線維芽細胞内、老齢ドナー(82歳)線維芽細胞内、およびHGPS患者(14歳)線維芽細胞内の、各LMNAアイソフォームについての定量的RT−PCR解析である。データは、平均±SEMとして提示される。n=3代にわたる連続継代である。図5B。ラパマイシン処理を伴うHGPS患者の線維芽細胞は、プロジェリンの代謝回転を増大させ、これにより、プロジェリン誘導性の表現型の、再プログラム化効率に対する負の影響(Caoら、Science translational medicine、3巻:89〜58頁(2011年))を低減した。OSKM:OCT4/SOX2/KLF4/c−MYC;MEF:マウス胚性線維芽細胞;VPA:バルプロ酸とする。図5C。2つの代表的なiPSCクローンにより、多能性マーカーであるNANOGおよびOCT4の、H9ヒト胚性幹細胞(hESC)と同様の発現のほか、継代10代目まで、残留センダイウイルスの発現の徴候が見られないことも裏付けられた。図5D。多能性表面マーカー(SSEA4、上)および線維芽細胞(HLA−ABC、下)表面マーカーについての、iPSCのフローサイトメトリー解析である。ドナー1例当たり2つずつの代表的なiPSCクローンのほか、ドナーの線維芽細胞も、H9 hESCと比較した。iPSCクローンの、三次元的胚様体(EB)構造への自発的分化により、iPSCクローンが、3つの胚葉(内胚葉:GATA4、AFP;中胚葉:RUNX1、BRACHYURY;外胚葉:NESTIN、NCAM)のマーカーを上方調節する潜在的可能性が裏付けられる。画像は、単一のiPSCクローンから導出された代表的なEBについて描示する。図5F。シークエンシング結果は、見かけ上の健常若齢ドナーおよび老齢ドナーに由来する線維芽細胞内またはiPSC内には存在しなかった、1824C>Tヘテロ接合性突然変異の、再プログラム化を通した、HGPS iPSC内の維持を示す。n.s.:有意差なし;ダンを伴うANOVAにより、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。図5F。
したがって、iPSC内の年齢関連表現型の非存在は、多能性細胞が、著明なレベルのA型ラミンであって、プロジェリンを含むA型ラミンを発現させないという事実を反映するに過ぎない可能性がある(Constantinescuら、STEM CELLS、24巻:177〜185頁(2006年))。A型ラミンアイソフォームについての免疫細胞化学的解析は、iPSCコロニーの周縁部では、発現が、自発的な分化を経る細胞へと制約されることを示した(図2D、左欄)。HGPS−iPSCは、多能性段階における、年齢関連マーカーの同等な喪失を裏付けた(図2B〜Cおよび2E〜F)。しかし、本実施例のデータは、再プログラム化により、年齢の真のリセットがなされるのではなく、老齢ドナーの線維芽細胞集団間で、年齢関連マーカーの発現が低レベルである細胞(「若齢」細胞)が選択されるという可能性を排除しない。興味深いことに、ドナーの初代線維芽細胞のクローン増殖は、バルク培養物として維持された元の線維芽細胞集団と同様の年齢関連マーカーの分布を2週間以内に再確立する培養物を結果としてもたらした。しかし、機構に関わらず、本実施例の結果は、ドナーの年齢またはHGPS状態に依存しないiPSCが、年齢関連マーカーの発現を欠くことを裏付ける。
(実施例34)
老齢ドナーに由来するiPSCを分化させた後で、年齢は再導入されない
老齢ドナー由来のiPSCを調べて、ラミンA/プロジェリンの喪失を介して、多能性段階では一過性に抑制される、それらのドナー年齢の記憶の保持を決定した。
血清含有培地を使用して、線維芽細胞に由来するiPSCを、30日間にわたり線維芽細胞様細胞へと分化させた(図6A)後で、CD13+/HLA−ABChi(Papapetrouら、Proc Natl Acad Sci U. S. A.、106巻:12759〜12764頁(2009年);Verlinden, J., M.、FEBS letters、123巻:287〜290頁(1981年))についての蛍光活性化細胞分取(FACS:fluorescence−activated cell sorting)を行った(図6B)。精製された細胞を、さらに30日間にわたり、さらに増殖させてから行った特徴付けにより、線維芽細胞マーカーであるビメンチンの発現および神経先駆体マーカーであるネスチンの非存在が裏付けられた(図6C)。
iPSC由来の線維芽細胞(分化の60日目における)は、ラミンAおよびプロジェリンの発現を、ドナーの初代線維芽細胞内で観察されるレベルと同様のレベルで示した(図6D)。iPSCを、血清含有培地中で、30日間にわたり、線維芽細胞様細胞へと分化させ(図6A)、線維芽細胞マーカーであるCD13およびHLA−ABCの、iPSCと比較して高レベルの発現(赤色ボックス)について、フローサイトメトリーで分取した(図6B)。分取後におけるiPSC由来の線維芽細胞により、線維芽細胞様形態および免疫細胞化学によるビメンチンの発現は提示されたが、ネスチン(神経マーカー)の発現は提示されなかった。図6C。ラミンA転写物およびプロジェリン転写物についてのRT−PCRにより、iPSC由来の線維芽細胞(iPSC線維芽細胞)内の、ドナーの線維芽細胞内で観察されるのと同様のレベルまでの上方調節が示された。図6D。改変RNAは、対照としての核局在化緑色蛍光タンパク質(核−GFP)またはGFPへと融合させたプロジェリン(GFP−プロジェリン)を発現させるようにデザインした。ジェネリック5’UTRおよびジェネリック3’UTRのほか、ポリ(A)テールおよび5’キャップ構造の付加により、in vitroにおける転写反応を容易とした(Mandalら、Nat Protoc、8巻:568〜582頁(2013年);Warrenら、Cell Stem Cell、7巻:618〜630頁(2010年))。図6E。トランス遺伝子の発現についてのウェスタンブロット解析である。n:核−GFP;p:GFP−プロジェリンとする。ラミンA/C抗体(N−18)を使用する検出についての解析により、プロジェリンの過剰発現は、HGPS iPSC由来の線維芽細胞内で観察される内因性プロジェリンレベルより高レベルを誘導することが明らかにされた(矢印)。図6F。Q−FISHによる、テロメア長および2キロベース(kb)未満のテロメアの百分率の定量化である。n=4連のウェルである。図6G。老化マーカーである老化活性化ベータ−ガラクトシダーゼ(SA−β−Gal)の、初代線維芽細胞から、プロジェリンを過剰発現させる、iPSC由来の線維芽細胞への全ての段階における評価である。n=2連のウェルである。図6H。
しかし、分化は、老齢ドナーによるiPSC由来の線維芽細胞内で、それらは今や、継代をマッチさせた若齢ドナーによるiPSC由来の線維芽細胞のプロファイルに緊密にマッチするので、年齢関連マーカープロファイルを再確立しなかった(図3A〜C)。これらのデータは、老化した見かけ上の健常ドナーに由来する初代線維芽細胞内の年齢関連マーカーは、再プログラム化の後でリセットされ、iPSC由来の線維芽細胞へと分化させても再確立されないことを裏付ける。
したがって、年齢は、再プログラム化の後で失われ、それらの年齢を再確立するには、数年間にわたるin vitro培養を要求する潜在的可能性がある、iPSC由来の若齢様線維芽細胞がもっぱらもたらされる。これに対し、HGPS iPSC由来の線維芽細胞は、HGPSについての他のiPSCベースのモデルにおいて報告されている(Liuら、Nature、472巻:221〜225頁(2011年);Zhangら、Cell Stem Cell、8巻:31〜45頁(2011年))通り、分化させると、年齢関連マーカーの発現シグネチャーを自発的に再確立した(図3Bおよび3C)ことから、適正なキュー(すなわち、高レベルでのプロジェリンの発現)を施せば、iPSC由来の線維芽細胞を、老化様状態へと戻しうることが示唆される。
年齢関連マーカーについての免疫細胞化学:百分率は、フォールディングした核形態を伴う細胞および/またはブレブ形成した核形態を伴う細胞の比率を指し示す。図3A。(A)で示されたマーカーの定量化により、若齢ドナーに由来するiPSC由来の線維芽細胞と、老齢ドナーに由来するiPSC由来の線維芽細胞との間で、年齢様表現型を再確立するHGPS iPSC由来の線維芽細胞と比較した高度の重複が指し示される。図3B。DNA損傷(左)およびミトコンドリア内のスーパーオキシド(右)の解析により、老齢ドナーに由来するiPSC由来の線維芽細胞が、「若齢」様状態へとリセットされたことがさらに示される。図3C。
(実施例35)
プロジェリンの急性過剰発現は、iPSC由来の線維芽細胞内の年齢関連マーカーを再確立する
さらなる試験を実施して、プロジェリンの過剰発現が、再分化の後で識別不可能な若齢様表現型を提示する、見かけ上の健常若齢ドナーによるiPSC由来の線維芽細胞内および老齢ドナーによるiPSC由来の線維芽細胞内で、年齢関連マーカーを誘導するのに十分であるのかどうかを決定した。
合成mRNA(改変RNAと称する)(Karikoら、2005年;Warrenら、Cell Stem Cell、7巻:618〜630頁(2010年))を使用して、プロジェリンへと融合させたGFP(GFP−プロジェリン)または核局在化GFP対照(核−GFP;図6E)を過剰発現させることにより、発現の量および持続期間の容易な操作を可能とした。毎日1回ずつ3日間にわたる改変RNAのトランスフェクション(図4A)により、プロジェリンの発現を、HGPS iPSC由来の線維芽細胞内で観察されるレベルと同様のレベルまたはこれより高度なレベルへと誘導した(図6F、矢印)。注目すべきことに、見かけ上の健常若齢ドナーによるiPSC由来の線維芽細胞内および老齢ドナーによるiPSC由来の線維芽細胞内のGFP−プロジェリンの過剰発現は、核形態の異常、LAP2α発現の喪失、DNA二本鎖破断の形成(γH2AX)、ヘテロクロマチンマーカー(H3K9me3およびHP1γ)の喪失、およびミトコンドリア機能不全の増大を誘導したが、核−GFPは、これらを誘導しなかった(図4B〜4D)。これらのプロジェリンにより誘導される特徴は、正常な老化ドナーに由来する初代線維芽細胞内で観察される特徴と識別不可能であった(図2A〜2Cおよび図5A)。
改変RNAを、iPSC由来の線維芽細胞へと、4日目における解析の前に、3日間連続でトランスフェクトした。図4A。iPSC由来の線維芽細胞内の、プロジェリンの過剰発現(GFP−プロジェリン)により、核局在化GFP対照(核−GFP)の過剰発現では観察されなかった、核形態の変化(GFPにより見られる)、ラミナ関連タンパク質(LAP2α)の発現、DNA損傷のレベル(γH2AX)、およびクロマチンの組織化(H3K9me3;HP1γ)が引き起こされる。百分率は、フォールディングした核形態を伴う細胞および/またはブレブ形成した核形態を伴う細胞の比率を指し示す。図4B。(図4B)で示されたデータの定量化である。度数分布プロットは、独立のiPSCクローンから導出された、iPSC由来の線維芽細胞の、3回にわたる独立のRNAトランスフェクションに由来する細胞100個の蛍光強度を表す。図4C。ミトコンドリアスーパーオキシドインジケーターであるMitoSOXについてのフローサイトメトリー解析により、プロジェリンの過剰発現を伴うミトコンドリアの機能不全の劇的な増大が示唆される。
有糸分裂細胞の正常な老化は、テロメアの、細胞が老化を経る臨界点であって、ヘイフリック限界(Hayflick、Exp Cell Res、37巻:614〜636頁(1965年))に達する臨界点までの短縮と関連することが典型的である。プロジェリンが、テロメアの短縮を誘導しうるのかどうかを決定するのに、トランスフェクトされたiPSC由来の線維芽細胞内の定量的蛍光in situハイブリダイゼーションを使用して、テロメア長を測定した(Canelaら、Proc Natl Acad Sci
U S A、104巻:5300〜5305頁(2007年))。プロジェリンを過剰発現させた後、iPSC由来の線維芽細胞は、全体的な長さの減少およびプロジェリンを過剰発現させた短いテロメアの百分率の増大を裏付けた(図6G)。この結果は、老化活性化βガラクトシダーゼ(SA−β−Gal)染色の増大によりさらに確証された(図6H)。iPSC由来の線維芽細胞内のプロジェリン誘導の変化は、ドナーの年齢に依存しなかったことから、細胞が若齢ドナーに由来するのであれ、老齢ドナーに由来するのであれ、表現型の差異は見られないことが裏付けられた。
これらのデータは、プロジェリンの過剰発現が、iPSC由来の線維芽細胞内の表現型であって、正常な老化の一部の側面を表現型複写する表現型を迅速に誘導するのに十分であることを指し示す。
(実施例36)
プロジェリンは、ニューロンの老化表現型を、iPSC由来のmDAニューロン内で誘導する
誘導老化戦略をさらに検証するために、他の細胞型を調べた。例えば、年齢様表現型を有糸分裂後細胞内で誘導する、プロジェリンの過剰発現を調べた。既に確立されたプロトコール(Kriksら、Nature、480巻:547〜551頁(2011年))を使用して、若齢ドナーおよび老齢ドナーによるiPSCを、PDにおいて主に影響を受ける細胞型である、中脳ドーパミン(mDA)ニューロンへと分化させた(図8A)。13日以内に、分化させたiPSCは、mDAニューロン発生の早期段階である、LMX1A/FOXA2二重陽性中脳フロアプレート先駆体へと転換された(図8B)。
分化の32日目における未成熟mDAニューロンを、マイトマイシンCで一過性に処理して、任意の夾雑する増殖細胞を消失させた(図8C)。さらに6週間にわたりさらに成熟させた、iPSC由来のmDAニューロンは、70日目においても、iPSCクローン内で、ドナーの年齢に依存せずに、FOXA2およびチロシンヒドロキシラーゼ(TH)などのmDAマーカーを発現させ続けた(図8Dおよび8E)。興味深いことに、iPSC由来のmDAニューロンは、これが、年齢様表現型を反映するのか、単純に組織特異的な挙動および細胞型特異的な挙動であるのかは明らかでないが、内因性ラミンA発現の開始と共時的に生じる、軽度にフォールディングされた核形態を有した(図8F)。
mDAニューロンをiPSCから導出するための分化プロトコールについての図式的例示。Mit.C:マイトマイシンCとする。図8A。分化の13日目における、FOXA2(赤色)、LMX1A(緑色)、およびOCT4(ピンク色)についての免疫細胞化学である。図8B。最終日である30日目の再播種の1日後におけるマイトマイシンC処理は、残りの増殖細胞(影響を受けなかった有糸分裂後のニューロン)を消失させる一助となった。図8C。免疫細胞化学(図8D)および定量化(図8E)により、分化の70日目における残りの細胞のうちのほぼ100%が、有糸分裂後ニューロン(TUJ1+/Ki67−)であり、これらのニューロンのうちの80%超が、mDA特異的マーカー(FOXA2+/TH+)を発現させたことが裏付けられる。既に報告されている通り(Kriksら、Nature、480巻:547〜551頁(2011年))TH+ニューロンのうちの約40%はまた、成熟度の大きなmDAマーカーであるNURR1も発現させる。独立のiPSCクローンの、n=少なくとも3つの独立の分化である。mDAニューロンの分化中におけるラミンAおよびラミンB2についての免疫細胞化学は、核フォールディングの開始と同様のタイミングで、ラミンAアイソフォームの内因性の上方調節を示す。図8F。
また、iPSC由来ニューロンを使用することにより、このモデル化パラダイムを、遅発性神経変性障害の年齢関連マーカーシグネチャーへも適用した(図7および8)。興味深いことに、HGPS患者は、彼らの比較的短い寿命において、神経変性の明白な徴候を示さない(死亡時の中央値年齢は、11〜13歳である)(Hennekam、Am J
Med Genet A、140巻:2603〜2624頁(2006年))。開示の機構を理解することは必要でないが、miR−9の中枢神経系特異的発現による、ラミンAおよびプロジェリンの負の調節に起因して、これらの患者には、プロジェリンが蓄積するのに十分な時間が存在しない可能性があると考えられる(Nissanら、Cell Rep、2巻:1〜9頁(2012年);Jungら、Proc Natl Acad Sci U S A、109巻:E423〜431頁(2012年))。実際、本実施例のデータは、ヒト脳内のラミンAおよびプロジェリンの上方調節は、晩年(>70歳)に生じることを示す(図11)。
3日間にわたる、iPSC由来のmDAニューロン内のプロジェリン改変RNAの急性過剰発現は、iPSC由来の線維芽細胞と比較して、プロジェリンタンパク質の蓄積を結果として低減し、明白な表現型はもたらさなかった。これに対し、mDAニューロン内のプロジェリンへの曝露を、5日間まで延長したところ(図7A)、タンパク質レベルは、内因性A型ラミン発現のレベルを超えて誘導された(図7B、矢印)。iPSC由来のmDAニューロン内でプロジェリンを発現させなくとも、分化の70日目までに、ドナー年齢に関わらず、より高い基礎レベルのDNA損傷およびミトコンドリアROSが既に観察されていたことは注目に値する(図7Cおよび7D)。プロジェリンを過剰発現させた後、GFP陽性細胞は、核のフォールディングおよびブレブ形成の増強、それぞれ、γH2AX病巣およびミトコンドリア内のスーパーオキシドの蓄積により測定される、DNA損傷の蓄積の増大(図7C)、およびミトコンドリア機能不全の徴候(図7D)の証拠を示した。
しかし、iPSC由来の線維芽細胞(図4)とは対照的に、ニューロン内で、LAP2α、H3K9me3、またはHP1γの著明な変化は観察されなかった(図7E)。いずれの処理条件下でも、iPSC由来のmDAニューロン内では、老化のマーカーであるSA−β−Galの陽性染色は検出されなかった。これらのデータは、iPSC由来の線維芽細胞およびmDAニューロンによる、本発明者らのin vitroにおける老化パラダイムに対する、共通の応答および細胞型特異的応答の両方を裏付ける。
改変RNAを、iPSC由来のmDAニューロンへと、6日目における解析の前に、5日間連続でトランスフェクトした。図7A。トランス遺伝子の発現についてのウェスタンブロット解析である。100kDaにおけるGFPバンドは、GFP−プロジェリン融合タンパク質を表示するのに対し、27kDaにおけるGFPバンドは、核−GFPトランス遺伝子を表す。トランス遺伝子を含むラミンAアイソフォームは、単一の抗体により認識した。プロジェリンの過剰発現レベルは、内因性ラミンAレベルを超えることに注意されたい(矢印)。iPSC由来のmDAニューロンは、検出可能レベルのプロジェリンタンパク質を、内因的には発現させないと考えられる。n:核−GFP;p:GFP−プロジェリンとする。図7B。プロジェリンの過剰発現により、若齢ドナー由来のiPSC−mDAニューロンおよび老齢ドナー由来のiPSC−mDAニューロンのいずれにおいても、核のフォールディングおよびブレブ形成(ラミンB2により見られる、ピンク色)が増強され、DNA損傷の蓄積が増大する(γH2AX)。百分率は、核のフォールディングおよび/またはブレブ形成が増強された細胞の比率、または>3つの肥大したγH2AX病巣を伴う細胞の比率を指し示す。図7C。ミトコンドリア内のスーパーオキシドレベル(MitoSOX)についてのフローサイトメトリー解析により、プロジェリンの過剰発現を伴うミトコンドリアの機能不全の増大が裏付けられる。独立のiPSCクローンから導出された、iPSC由来のmDAニューロンの、n=3回にわたる独立のRNAトランスフェクションである。図7D。LAP2α、H3K9me3、およびHP1γについての免疫細胞化学の定量化により、iPSC由来の線維芽細胞内で観察される表現型と異なり、GFP−プロジェリンをトランスフェクトされたiPSC−mDAニューロン、または核−GFPをトランスフェクトされたiPSC−mDAニューロンの間では差異が示されない。蛍光強度は、核−GFP処理細胞内で観察される強度に照らして正規化した。図7E。
本明細書で提示されるデータは、FOXA2+/TH+中脳ドーパミンニューロン培養物への神経分化およびニューロン分化の効率が、ドナーの線維芽細胞年齢またはHGPS状態による影響を受けないことを示す。しかし、合成mRNA技術を使用する、iPSC由来の中脳ドーパミンニューロン培養物中のプロジェリンの強制発現は、iPSC由来の線維芽細胞内で観察される変化と同等な核ラミナの変化を誘発する。データはまた、プロジェリン媒介型の、DNA損傷およびミトコンドリアにおけるストレスの誘導が、Nurr1+中脳ドーパミンニューロンの識別への影響を伴わないことも示す(図7および8)。
プロジェリンへの曝露に対する、細胞型特異的な応答をさらに検討するために、樹状突起分枝の変性による変化(Hofら、Trends Neurosci、27巻:607〜613頁(2004年))など、in vivoにおけるニューロンの老化と関連するパラメータを探索した。注目すべきことに、分化させた(65日目)mDAニューロン内の5日間にわたるプロジェリンへの曝露は、TUJ1染色により視覚化される、確立された神経突起の機能停止を結果としてもたらす変性表現型を誘導するのに十分であった(図12A)。対照の核−GFP mRNAをトランスフェクトされた細胞内では、変性が観察されなかった。
また、樹状突起を特異的に標識するMAP2の発現(Bernhardtら、J. Comp. Neurol、226巻:203〜221頁(1984年))も評価した。定量的解析は、若齢ドナーによるiPSCおよび老齢ドナーによるiPSCのいずれに由来するmDAニューロン内でも、プロジェリンへの曝露後における、平均樹状突起長の顕著な低減を示した(図12B)。mDAニューロンマーカーであるNURR1およびTHを発現させるiPSC由来ニューロンの百分率は、不変のままであったことから、プロジェリンの添加は、mDAニューロンの、mDAニューロンマーカーの喪失を迅速に誘導するCCCPなどのミトコンドリア毒素による処理とは対照的に、mDAニューロン毒性の単純な誘導ではなかった(図13Aおよび13B)ことが示唆される。
プロジェリンの過剰発現後における、iPSC由来のmDAニューロン内の年齢様表現型をさらに特徴付けるために、RNA−seqによる遺伝子発現解析を実施した(生データ:GEO(ncbi.nlm.nih.gov/geo/);受託番号:GSE52431)。主成分分析により、再プログラム化の後における遺伝子発現のリセットが確認され、異なる年齢のドナーに由来するiPSC由来のmDAニューロンの間の類似性が例示された(図12C)。さらに、プロジェリンの過剰発現は、若齢ドナーによるiPSC由来のmDAニューロン内および老齢ドナーによるiPSC由来のmDAニューロン内の、高度に類似の(p<2.93×10−321)変化を誘導した(図12Cおよび図13C)。プロジェリン誘導性の遺伝子発現の変化の重複の多く(図13C)は、軸索の変性/再生(TMSB10、TMSB4X、CCDC126、TSNAX、NOSTRIN、LAMC3)、タンパク質のミスフォールディングおよび凝集(NEDD8、PSMB3、PPIB、UBC)、酸化ストレス(ENHO、NDUFB6、ATP5L、PRDX4、FTL、ATOX1、TNIP3)、DNA損傷(NOP10、TCEAL7)、細胞周期の誘導(PCNA、MIR663A)、およびクロマチンの改変(PRDM1)など、ニューロンの老化と関連する過程(図12D)において役割を果たすことが既に報告されている。
年齢様過程と関連する転写物の誘導は、遺伝子オントロジーを解析することにより確認した(図13D)。示差的に発現した転写物の間で、複数の特徴付けされていない遺伝子および非コードRNA(図12E)であって、老化ラット脳内でなされた最近の観察(Woodら、Age (Dordr)、35巻:763〜776頁(2013年))を想起させる遺伝子および非コードRNAが見出された。
汎ニューロンマーカーであるTUJ1についての免疫細胞化学により、確立されたニューロンネットワークが、70日目において、プロジェリンを過剰発現させるiPSC由来のmDAニューロンでは失われるが、核−GFPを過剰発現させるiPSC由来ニューロンでは失われないことが示される。図12A。MAP2についての免疫細胞化学により、若齢ドナーおよび老齢ドナーの両方に由来する全てではない(挿入図)が大半のiPSC−mDAニューロン内の、プロジェリンの過剰発現後における、無傷の樹状突起の長さの縮減が明らかにされる。度数分布は、3回にわたる独立のRNAトランスフェクション(核が非アポトーシス性の細胞50個ずつ)による、樹状突起長の全測定値を提示する。図12B。RNA−seq遺伝子発現データについての主成分分析により、再プログラム化により誘導される年齢のリセットであって、若齢ドナーに由来するiPSC由来のmDAニューロンと、老齢ドナーに由来するiPSC由来のmDAニューロンとの高度な類似性を結果としてもたらす、年齢のリセットがさらに確証される。プロジェリンの過剰発現により、ドナー年齢に依存しない、mDAニューロンの同様の変化が誘導される。プロジェリン処理において、対照の核−GFPで処理された若齢ドナーによるiPSC−mDAニューロン(緑色)および老齢ドナーによるiPSC−mDAニューロン(青色)と比較して上方調節された遺伝子(左)および下方調節された遺伝子(右)の上位20である。遺伝子を、老齢ドナーに由来するiPSC−mDAニューロンによりランク付けする。赤色は、特徴付けされていない遺伝子を表示し、橙色は、非コードRNAを表示する。点線は、有意性についての閾値を指し示す。図12D。有意に示差的に発現する転写物であって、コード転写物、非コード転写物、または特徴付けされていない転写物である、転写物の比率を表す円グラフである。図12E。
NURR1+ iPSC由来mDAニューロンの百分率(図13A)およびTHのタンパク質発現レベル(図13B)は、トランスフェクションを経ても不変のままであったことから、プロジェリンの過剰発現は、mDAニューロンのタンパク質(急性毒性の典型的な徴候)を下方調節しないことが指し示される。各色の円により、2つの群の間で示差的に発現する遺伝子の数(倍数変化±2、p<0.05)を指し示すベン図である。黒色の円は、さらに解析された重複する「老化シグネチャー」を指し示す。図13C。核−GFPで処理されたiPSC由来のmDAニューロン内またはGFPプロジェリンで処理されたiPSC由来のmDAニューロン内で濃縮される、著明な遺伝子オントロジーターム(左〜右)である。図13D。プロジェリンにより、最近記載されたPDのバイオマーカー(Potashkinら、PloS one、7巻、e43595頁(2012年))の共活性化因子であるZNHT3の上方調節、およびPD患者に由来する死後組織内で低度に発現することが見出された遺伝子であるBCAS1(Kimら、DNA Research、13巻:275〜286頁(2007年))の下方調節が誘導されたことは、注目に値する。最後に、プロジェリンの過剰発現は、代謝の調節および長寿の促進における役割が報告されている(Shihら、Genes Cancer、4巻:91〜96頁(2013年))ミトコンドリアのサーチュインであるSIRT4の下方調節を引き起こした。
(実施例37)
プロジェリン誘導性老化は、in vitroおよびin vivoにおける遅発性PDの特徴のモデル化を可能とする
本実施例は、年齢相応細胞を使用して、パーキンソン病(PD)などの遅発性神経変性障害のモデルを開示する。
最近、複数の研究が、PDのiPSCベースの疾患モデルについて報告しているが、これらの研究は、神経幹細胞など、疾患に対する関与性が不確実な細胞型内で生じる表現型(Liuら、Nature、491巻:603〜607頁(2012年))、またはヒト疾患において観察される重度の神経変性の任意の徴候より前の、早期の生化学的表現型を表す表現型(Cooperら、Sci Transl Med、4巻:141〜190頁(2012年);Nguyenら、Cell Stem Cell、8巻:267〜280頁(2011年);Seiblerら、J Neurosci、31巻:5970〜5976頁(2011年))について記載している。本実施例のデータは、遅発性疾患の多様なin vitro疾患モデルにおける神経変性表現型の非存在は、再プログラム化中における年齢のリセットの結果でありうるという点で、別のことを示唆している。
晩年まで疾患症状を呈示しないPD患者と同様に、PD iPSC由来のmDAニューロンも、疾患の変性期を模倣するには余りに「若齢」に過ぎる可能性がある。開示の機構を理解することは必要でないが、プロジェリンの過剰発現は、現在のところ、PD iPSC由来のmDAニューロンの「若齢」状態に起因してモデル化することができない、疾患関連表現型を顕在化させうると考えられる。
結果として、PINK1内のホモ接合性突然変異(Q456X)またはParkin内のホモ接合性突然変異(V324fsX434)(図15A)を伴うPD−iPSCを分化させることにより、mDAニューロンを発生させた。PINK1およびParkin。これらのPD突然変異は、ユビキチンプロテアソーム経路におけるParkinの固有の機能(Shimuraら、Nat Genet、25巻:302〜305頁(2000年))に加えて、損傷したミトコンドリアの選択的な自己貪食性分解を促進する共通の経路においても作用する(Dodsonら、Curr Opin Neurobiol、17巻:331〜337頁(2007年)において総説されている)と考えられている。一部の疾患関連表現型が、PINK1突然変異体であるiPSC由来ニューロン内で既に報告されている(Seiblerら、J Neurosci、31巻:5970〜5976頁(2011年))が、それらは、ミトコンドリア毒素による処理を要求し、ニューロンの変性を誘発しなかった。
PINK1 PD−iPSC細胞系およびLRRK2 PD−iPSC細胞系は、複数の理由:i)組込みを伴わないiPSCの利用可能性、およびTALENベースの遺伝子編集後において、マッチさせたクローンのアイソジェニック対をもたらしうる独立の取組み;ii)2つの突然変異であって、それらの各々が、PDを誘発するための、顕著に異なる疾患表現型を有すると考えられている(ミトコンドリア仮説対凝集仮説)、突然変異の選択、iii)散発性のPDの理解に対する、LRRK2(PDにおいて最も一般的なヒト突然変異)の関与性;およびiv)PINK1細胞系内の、疾患に関連する超微細構造的表現型についての予備的証拠であって、PDの発症機序における、ParkinおよびPINK1の役割についての文献(10)と符合する証拠(異常なミトコンドリア)で選択した。LRRK2突然変異体細胞は、異なる突然変異の文脈で、PDの発症機序となる共通の表現型について裏付けることにより、データを補充しうる。開示の機構を理解することは必要でないが、in vitroにおける老化へと曝露されたPD iPSC由来のmDAニューロンは、対照iPSCに由来するmDAニューロンと共通の表現型およびこれらと顕著に異なる表現型のセットを呈示すると考えられる。
データは、PD−iPSCが、見かけ上の健常ドナー(C1およびC2;図15Bおよび15C)に由来するiPSCと同様の効率で、mDAニューロンへと分化したことを示す。分化の65日目において、PD−iPSC由来のmDAニューロンおよび対照iPSC由来のmDAニューロンの各々に、GFP−プロジェリンまたは核−GFPを、5日間にわたりトランスフェクトした。PD−iPSC由来のmDAニューロンと対照iPSC由来のmDAニューロンとの間で同等な、NURR1(図14A)およびTH(図14B)などのmDAニューロンマーカーは、短期間のGFP−プロジェリンへの曝露の後で不変であった。
PD突然変異体iPSC内では見出されるが、見かけ上の健常対照iPSC内では見出されない、ホモ接合性のPINK1 c.1366C>T突然変異およびPARK2 c.1072delT突然変異についてのシークエンシングである。図15A。分化の13日目における免疫細胞化学では、OCT4+ iPSCの、FOXA2+/LMX1A+
mDAフロアプレート先駆体への転換における、健常ドナーとPD患者との間の差異は裏付けられなかった。図15B。先駆体の、有糸分裂後mDAニューロンへのさらなる分化は、PD突然変異体細胞内で影響を受けなかった。n=少なくとも3つの独立の分化である。図15C。Parkin(p.R275W)内にヘテロ接合性突然変異を伴うさらなるPD患者における、AKT経路によるシグナル伝達についてのウェスタンブロット解析である。ブロットの下方の数は、p−AKT(GFP−プロジェリン)の、p−AKT(核−GFP)に対する比を指し示す。n:核−GFP;p:GFP−プロジェリンとする。図15D。
特に興味深いのは、in vitroにおける誘導性老化に依存し、これにより、疾患の遅発性性格を模倣する、PD関連表現型を規定することにある。例えば、細胞死の誘発が、PD対対照iPSC由来のmDAニューロン内の、凝縮された核であって、切断型カスパーゼ3を発現させる核の出現の著明な増大により観察された(図14C)ことから、PD突然変異体のmDAニューロンは、老化を誘導されると、細胞死プログラムを活性化する傾向が強いことが指し示される。GFP−プロジェリン陽性の凝縮された核は、プロジェリントランスフェクションの4日目または5日目まで検出されなかったことから、急性毒性ではなく、進行性の老衰が示唆される。さらに、生存するTH/MAP2陽性mDAニューロン内の樹状突起の長さが、PD対対照iPSC由来のmDAニューロン内でそれほど異ならなかったのに対し、プロジェリンの過剰発現は、PINK1突然変異体mDAニューロン内およびParkin突然変異体mDAニューロン内の樹状突起の変性を、健常ドナーに由来するmDAニューロンと比較して加速化した(図14Dおよび14E)。
PDにおけるニューロンの生存の減少は、少なくとも部分的に、リン酸化S473 AKT(p−AKT)レベルの低下であって、PDモデル(Malageladaら、In Journal of Neuroscience、14363〜14371頁(2008年);Riesら、Proc Natl Acad Sci USA、18757〜18762頁(2006年);Tainら、Nat Neurosci、1129〜1135頁(2009年))のほか、散発性PD患者に由来する脳組織(Timmonsら、Neurosci Lett、30〜35頁(2009年))においても観察されている低下により引き起こされることが示唆された。興味深いことに、PINK1−Q456X突然変異体およびParkin−V324A突然変異体である、iPSC由来のmDAニューロンが、プロジェリンに応答してp−AKTの著明な低減を示したのに対し、C1 iPSC由来のmDAニューロンおよびC2 iPSC由来のmDAニューロンは、プロジェリンへの曝露後において、p−AKTのわずかな増大を示した(図14Fおよび14G)。また、AKTシグナル伝達の調節異常も、下流におけるシグナル伝達標的である、ULK1および4EBP1のリン酸化の、対応する変化を結果としてもたらした(図14Fおよび14G)。AKT、ULK1、および4EBP1の基礎レベルでは、無視できないばらつきであって、多連の分化にわたる、遺伝子型および処理に依存しないばらつきが見られた(図14F、図15D)。しかし、PD対対照iPSC由来のmDAニューロン内の、AKTシグナル伝達構成要素の各々の活性化状態の、プロジェリン誘導性の低減は一貫しており(基礎レベルに依存せず)、PD患者の脳およびPDの動物モデルにおいて報告されたシグナル伝達の変化を模倣した。
PD−iPSC由来のmDAニューロンと、対照iPSC由来のmDAニューロンとの間の、プロジェリン誘導性の差異をさらに確認するため、ヘテロ接合性R275W Parkin突然変異を伴うPD患者に由来するさらなる線維芽細胞を、センダイウイルスベースの再プログラム化を使用して再プログラム化した。PINK1−Q456X内およびParkin−V324A内のプロジェリン誘導性の表現型と同様に、プロジェリンの過剰発現は、Parkin−R275W iPSC由来のmDAニューロン内で、見かけ上の健常若齢ドナーおよび老齢ドナー(C3およびC4)に由来する細胞と比較して、アポトーシスの増大(図14C)、樹状突起の短縮の増強(図14E)、およびAKT活性化の低減(図15E)を駆動した。
NURR1+細胞の定量化(A)およびTHタンパク質レベルについてのウェスタンブロット解析(B)では、GFP−プロジェリン改変RNAのトランスフェクションに応じた著明な差異が明らかにならない。n:核−GFP;p:GFP−プロジェリンとする。ウェスタンブロットの下方の数は、GAPDHに照らして正規化された、GFP−プロジェリンによるTHの発現:核−GFPによるTHの発現の比を指し示す。図14Aおよび14B。RNAトランスフェクション後における細胞死であって、それらの凝縮された核形態により同定された細胞死を経る、GFP+細胞についての解析である。画像は、プロジェリンで処理された細胞内の、切断型カスパーゼ3による免疫細胞化学の代表例を提示する。図14C。樹状突起マーカーであるMAP2についての免疫細胞化学である。図15D。GFP+ニューロン1つ当たりの樹状突起の全長の定量化により、PD突然変異体iPSC由来のmDAニューロンにおける、プロジェリンの過剰発現に応答した、樹状突起の、見かけ上の健常対照(C1〜C4)と比較して加速化された短縮が示される。図15D。AKT経路によるシグナル伝達についてのウェスタンブロット解析(図15F)により、プロジェリンの過剰発現に対する遺伝子型特異的応答が裏付けられる。リン酸化特異的バンドの定量化(図15G)は、全タンパク質に照らして正規化してから、プロジェリン処理による発現レベルの、核−GFP処理による発現レベルに対する比をとった。点線は、両方の処理条件において、リン酸化型タンパク質が等量であることを指し示す。
プロジェリン曝露の長期にわたる影響を評価するために、PD−iPSCに由来するmDAニューロンおよび対照iPSCに由来するmDAニューロンに、GFP−プロジェリンまたは核−GFPを発現させるレンチウイルスベクターを、ニューロン特異的ヒトシナプシン(hSyn)プロモーターの制御下において形質導入し、6−ヒドロキシドーパミン病変NOD−SCID IL2Rgcヌルマウスの大脳基底核線条体へと移植した(図16A)。
移植の24時間後における、マッチさせた細胞アリコートについてのin vitro解析により、GFP陽性細胞内のNURR1およびTHの発現が確認された(図17A)。hSynに駆動されるトランス遺伝子の発現は、移植の1日前に開始させ、発現は、培養された細胞内で、少なくとも90日間(最後の被験時点)にわたり維持した。移植の3カ月後におけるin vivo解析は、大半の動物において、アンフェタミン誘導性回転スコアの低減を結果としてもたらした(図16B)ことから、挙動の改善に要求される閾値を上回るmDAニューロンの生存が指し示される。
しかし、興味深いことに、プロジェリンを発現させる、PINK1由来のニューロンまたはParkin由来のニューロンを施された動物のサブセットは回復しなかった(図16B、ピンク色の記号)ことは、これらの条件下で、挙動をレスキューするのに要求されるmDAニューロンの生存が少数であることを考慮すると、驚くべきことであった。動物における挙動の回復が不完全であることが、生存するmDAニューロンが少数であることに起因したのかどうかについて取り組むために、本発明者らは、移植片の立体的定量化を実施した。移植片の容量が、対照群と対比されたプロジェリン処理群においてそれほど影響を受けなかったのに対し、プロジェリンを発現させるmDAニューロン移植片は、TH+細胞数の劇的な低減を示した(図16Cおよび16D)。注目すべきことに、TH+細胞の欠損は、PINK1−Q456X iPSCおよびParkin−V324A iPSCに由来する、プロジェリンを発現させるmDAニューロン移植片内で、特に顕著であり、対照iPSC−mDAニューロン移植片内では最小限であった。TH+細胞喪失の機構はいまだ決定されていないが、これらの結果は、PD患者において観察されるTHの喪失の加速化を模倣する。
iPSC由来のmDAニューロンの年齢および疾患状態についてのバイオマーカーをさらに評価するために、移植の6カ月後において、透過電子顕微鏡法(TEM)により、ヒト移植片についての超微細構造解析を実施した。包埋されたマウス脳についての、光学顕微鏡法による初期観察により、プロジェリンを過剰発現させる移植片内のTH免疫反応性の、持続的で進行性の喪失が裏付けられた(図17B)。TEMによる解析は、iPSC由来のmDAニューロンの樹状突起内およびフォールディングされた核形態内のTH発現の、プロジェリン誘導性低減を確認した(図17Cおよび17D)。
移植されたニューロンの年齢状態を決定するために、本発明者らは、細胞内の神経メラニンの蓄積に焦点を当てた。神経メラニンとは、成年のmDAニューロン内には存在するが、iPSC由来のmDAニューロンを含む胎児期または新生児期には存在しない暗色の色素である(Mannら、Brain、97巻:489〜498頁(1974年);Sulzerら、J Neurochem、106巻:24〜36頁(2008年))。ヒト胎児組織の移植研究では、神経メラニンは、線条体内注射の4〜14年後において、移植片内で検出されたが、これは、正常な発生と同様の時間経過である(Chuら、STEM
CELLS、24巻:177〜185頁(2010年))。プロジェリンを過剰発現している移植片において選択的に、リポフスチン沈着とともに神経メラニンの頑健な蓄積がわずか6カ月後に観察された(対照の核−GFP発現移植片内の0.5と対比して、55μm2当たりの平均で8つの沈着物;図16E)ことから、プロジェリンは、遺伝的バックグラウンドに関わらず、mDAニューロンの老化を劇的に加速化することが指し示される。
加えて、プロジェリンの過剰発現は、PD−iPSCに由来する移植片内の遺伝子型特異的効果であって、核−GFPを過剰発現させるPD移植片内または任意の非PD対照移植片内では観察されない表現型である効果を顕在化させた。例えば、プロジェリンを過剰発現させるPD由来の移植片内では、線維体の出現など、神経突起変性の徴候が顕著であった(図16Eおよび16Gおよび図17Cのアステリスク)ことから、微小管の機能停止が指し示される(Jaworskiら、Am J Pathol、179巻:2001〜2015頁(2011年))。さらに、本発明者らは、PINK1−Q456X iPSC由来の移植片またはParkin−V324A iPSC由来の移植片に限られるプロジェリン誘導性の表現型についても観察した。PINK1移植片は、プロジェリンを過剰発現させる細胞内ではるかにより顕著な表現型である、ミトコンドリアの肥大(面積=PINK1+核−GFPの0.0387μm2と比較して、0.167μm2;p=0.0005;図16Fおよび図17F)を伴う細胞を含有した。
移植の1日後にin vitroにおいて再播種され、固定されたiPSC−mDAニューロン内のNURR1およびTHについての免疫細胞化学である。細胞のうちの少なくとも50%は、この時点において、シナプシン駆動型トランス遺伝子を発現させた。図17A。移植の6カ月後におけるTHおよびGFPについての免疫組織化学により、プロジェリンを過剰発現させる場合の、TH+ PD iPSC由来mDAニューロンの劇的な喪失が裏付けられる。対照およびPD突然変異体におけるTH喪失のこのパターンは、移植の3カ月後において観察されたパターンと同様である(図16を参照されたい)。点線は、移植片を規定する。アステリスクは、脳梁を示す。挿入図は、代表的なGFP+核を示す。図17B。透過電子顕微鏡法(EM)による超微細構造解析である。代表的な(図17C)TH+樹状突起および(図17D)GFP+核を概観し、各々を、それぞれ、DまたはNで表示する。左下の数は、1μm2当たりのTH−免疫金粒子の平均数を表す。アステリスクにより、線維体を同定する。EM解析による神経メラニン沈着物の定量化である。動物1匹当たり10カ所の50μm2領域を解析した。図17E。EM解析による、PINK1−Q456X動物における25のミトコンドリアの面積の定量化である。スチューデントのt検定により、***p<0.001****p<0.0001である。図17F。
これに対し、Parkin突然変異体の移植片が示すミトコンドリア欠損はそれほど劇的ではなく(異常なミトコンドリアの融合など)、大規模な多重膜封入を呈示する(図16G)ことがより顕著であった。多重膜封入は、多様な神経変性モデル(Chengら、J Neurosci、31巻:2125〜2135頁(2011年);Hoopferら、Neuron、50巻:883〜895頁(2006年);Phillipsら、J
Neurosci、28巻:6569〜6582頁(2008年))において観察されており、パーキンソン病患者に由来する脳内で生存するmDAニューロン内で見出される、特徴的なレビー小体の先駆体であると考えられている(Fornaiら、J Neurochem、88巻:114〜123頁(2004年))。これらのニューロンの封入体の存在は、正常Parkin機能の喪失により引き起こされる、ユビキチンプロテアソーム経路の機能低下を指し示す。しかし、表現型の、プロジェリンの発現への依存は、年齢関連因子が、この機能不全に寄与することを示唆する。
6−OHDAにより病変を施されたパーキンソン病マウスへの移植研究についての図式的例示である。図16A。対照iPSC由来のmDAニューロンまたはhSyn::核−GFPもしくはhSyn::GFP−プロジェリンを発現させるPD突然変異体iPSC由来のmDAニューロンを移植された病変マウスの回転挙動解析である。マウスに病変を施し、アンフェタミンにより誘導される回転挙動について、移植の前に2回にわたり調べた。点線は、病変形成の成功についての閾値を指し示す。ピンク色の記号により、病変形成に成功した動物であって、回復を示さなかった動物を同定する。処理群1つ当たりの動物のn=3〜5匹。図16B。移植の3カ月後における評価により、プロジェリンを過剰発現させるPD突然変異体におけるTH+ mDAニューロンの劇的な喪失であって、対照トランスフェクション細胞または見かけ上の健常細胞についてははるかに小さな程度で観察される喪失が明らかとなった。図16C。TH+であるGFP+細胞の百分率の定量化である。データは、平均±SEMとして提示される。条件1つ当たりのマウスのn=3匹である。図16D。移植の6カ月後における超微細構造解析により、プロジェリンの過剰発現を伴う移植片内の、リポフスチン沈着物(E:黄色の矢印)を伴う神経メラニンの蓄積が明らかとなった。注目すべきことに、プロジェリンを伴うPINK1突然変異体の移植片は、ミトコンドリアの肥大を提示した。図16E〜G。代表的なミトコンドリアを比較した(+核27GFP群および+GFP−プロジェリン群内で、橙色の矢印により指し示される)が、プロジェリンを伴うParkin突然変異体の移植片は、大きな多重膜体を有した(G:ピンク色の矢印)。これらの表現型は、他のいずれの処理群でも観察されなかった。(E)および(G)におけるアステリスクは、線維体を指し示す。図16F。
本明細書で開示されるin vivoの結果は、iPSC由来のmDAニューロンの年齢は、「若齢」状態へとリセットされ、ヒト疾患の遅発性特徴をモデル化することにはつながらないという、in vitroにおけるデータを確証する。これに対し、プロジェリン誘導性のニューロンの老化は、正常な老化と符合する表現型のほか、PDの遅発性神経変性的側面のモデル化におけるPD遺伝子型と年齢との相乗的相互作用を反映する、疾患関連表現型も顕在化させる。
核凝縮データに基づくと、アポトーシス性表現型は、プロジェリンにより、培養物中のアポトーシス性細胞の百分率が増大することを裏付けた。これらのデータは、プロジェリンの存在下または非存在下で、PD−iPSC由来のmDAニューロンと、対照iPSC由来のmDAニューロンとを比較するように、定量的TUNELアッセイを使用してさらに査定することができる。
α−シヌクレイン蓄積の表現型は、ウェスタンブロット解析および免疫細胞化学を使用する、α−シヌクレインレベルおよび細胞の局在化を使用して、モニタリングすることができる。これらのデータは、誘導性老化が、mDAニューロン内のα−シヌクレインのプロセシングの産物に影響を及ぼすのかどうかについて取り扱っている。
実施例38(予測的)
年齢改変細胞を使用して薬物をスクリーニングするための方法
iPSCは、例えば、本明細書で開示される方法、およびそうでなければ当技術分野で公知の方法により、ヒト線維芽細胞から得ることができる。年齢改変体細胞は、分化およびプロジェリン様タンパク質との接触により、iPSCから得ることができる。したがって、特化した年齢改変体細胞であって、脳、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、筋肉、皮膚、肺、血液、動脈、眼、骨髄、およびリンパ系から単離された体細胞の特徴を有する細胞を得ることができる。心筋細胞(例えば、Van Oorschot AAら、Panminerva Med.、2010年6月、52巻(2号):97〜110頁を参照されたい)、肝細胞(例えば、Alaimo G.ら、J Cell Physiol.、2013年6月、228巻(6号):1249〜54頁を参照されたい)、腎細胞(例えば、De
Chiara L.ら、J Am Soc Nephrol.、2014年2月、25巻(2号):316〜28頁を参照されたい)、膵臓ベータ細胞(例えば、Roche E.ら、J Stem Cells、2012年、7巻(4号):211〜28頁を参照されたい)、白血球(例えば、de Pooter RFら、Methods Mol Biol.、2007年、380巻:73〜81頁を参照されたい)を含むこのような体細胞をもたらす分化プロトコールは公知である。
このような年齢改変体細胞は、これらを、プロジェリンまたはプロジェリン様タンパク質と接触させることにより発生させることができる。接触は、本明細書で記載される、プロジェリンまたは他のプロジェリン様タンパク質の一過性発現または構成的発現の影響を受ける可能性がある。一部の実施形態では、結果として得られる年齢改変体細胞はまた、疾患マーカーシグネチャーも発現させ、他の実施形態では、それらは、プロジェリン様タンパク質と接触させることにより老化するに過ぎないであろう。老化体細胞(疾患マーカーシグネチャーを発現させる老化体細胞および発現させない老化体細胞の両方)は、精製され、ハイスループットのスクリーニングなど、公知のスクリーニング法を使用して、候補薬物をスクリーニングするために使用されるであろう。
細胞をスクリーニングのために準備できたら、それらを播種して、多様な播種密度および細胞培養容器について調べることができる。例えば、これらの細胞は、6ウェルプレート上、24ウェルプレート上、96ウェルプレート上、384ウェルプレート上、または薬物スクリーニングを容易とする他の任意のプラットフォーム上に播種することができる。適切なHTSフォーマットを選択したら、栄養素の施与中止の開始時および持続期間も最適化することになろう。
幹細胞由来の体細胞に基づく薬物スクリーニングについては記載されている。例えば、Yangら、Cell Stem Cell、12巻:713〜726頁(2013年)を参照されたい。略述すると、低分子による生存スクリーニングは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるMNの死滅に対抗する薬物について探索するように、野生型のSOD1マウス胚性幹細胞および突然変異体のSOD1マウス胚性幹細胞の両方に由来するiPSC由来の運動ニューロン(MN)を使用して実行した。マウスESCを、MNへと分化させ、96ウェルプレート内または384ウェルプレート内に播種した。加えてまた、分化の30日後における、ヒトESCに由来するヒトMNおよびヒトiPSCに由来するヒトMNも使用した。低分子スクリーニングのために、解離されたばかりの細胞を、ウェル1つ当たりのGFP+細胞8,000個(384ウェルプレート)またはGFP+細胞30,000個(96ウェルプレート)の密度で播種した。4日後、栄養素を除去し、個々の化合物をウェルへと添加した。一次スクリーニングのため、各化合物を、3つの濃度(0.1mM、1mM、および10mM)の2連で調べた。さらに72時間後(7日目)、細胞を固定および染色し、全ウェル内の残りのGFP+細胞をカウントすることにより、生存するMNの数を解析した。生存は、栄養素を伴わずに維持された培養物と比較した倍数の増大として測定する。この方法を使用して、Yangおよび同僚は、ケンパウロンという化合物が、MNの健常な生存を延長する目覚ましい能力を有することを発見した。
本開示で記載されている年齢改変法と、HTSプラットフォームとを組み合わせることにより、薬物スクリーニングを、遅発性ヒト疾患を表す細胞に対して実施することができる。本開示の方法によれば、適切な年齢マーカーおよび/または成熟マーカーを伴う年齢改変細胞は、体細胞から発生させることもでき、幹細胞から発生させることもできる。例えば、年齢相応のiPSC由来のmDAニューロンは、iPSC由来ニューロンを、プロジェリン様タンパク質と接触させることにより発生させることができる。薬物スクリーニングにおける被験細胞を播種して、多様な播種密度および細胞培養容器について調べることができる。例えば、細胞は、6ウェルプレート上、24ウェルプレート上、96ウェルプレート上、384ウェルプレート上、または薬物スクリーニングを容易とする他の任意のプラットフォーム上に播種することができる。適切なHTSフォーマットを選択したら、栄養素の施与中止の開始時および持続期間も最適化することになろう。
薬物スクリーニングにおける使用のための分子は、自家製でデザインすることもでき、商業的に入手することもできる、低分子化合物ライブラリーを含む様々な供給源に由来しうる。年齢相応のiPSC由来mDAニューロンの場合、パーキンソン病などの神経変性疾患のための公知の薬物分子であって、生体分子および低分子を含む薬物分子について調べることができる。このような分子を、薬物スクリーニング有効性を最適化するように、異なる細胞密度と組み合わせた、異なる濃度でスクリーニングすることができる。例えば、Yangらは、約5000の低分子のコレクションについてスクリーニングして、ALS薬について探索した。一次スクリーニングのため、各化合物を、3つの濃度(0.1mM、1mM、および10mM)の2連で調べた。さらに72時間後(7日目)、MN細胞を固定し、染色し、生存について評価した(Yangら、同上)。
処置を意図する疾患のほか、これらの化合物/分子の、これらの細胞に対する意図される効果に応じて、候補化合物(低分子であれ、生物学的薬剤であれ)への曝露後における年齢改変細胞の表現型変化を選択することができる。これらの表現型の変化は、とりわけ、細胞の生存、細胞の形態的変化、細胞によるある特定の因子の分泌、ある特定の細胞表面分子の発現、細胞の、他の細胞および/または固体支持体との相互作用、細胞の光学的特性、電気的特性、および化学的特性の変化、細胞の蛍光シグナル(例えば、細胞にGFP−プロジェリンなどの蛍光タンパク質をトランスフェクトする場合など)、ならびに疾患マーカーの減衰または消失を含むがこれらに限定されない。本開示で記載される方法の1つの適用は、パーキンソン病およびアルツハイマー病などの神経変性疾患にとって鍵となるニューロン細胞の健常な生存を延長しうる薬物についてスクリーニングすることである。したがって、薬物スクリーニングは、ニューロンの生存を促進する化合物を選択するようにデザインすることができる。PDの場合、iPSCに由来する年齢改変mDAニューロンを培養し、播種し、化合物へと曝露し、それらの生存率を評価することができる。さらに、さらなるマーカーを、細胞の生存に加えて、薬物スクリーニングのベースとして活用することもできる。例えば、表2または表3に列挙されたマーカーなどの老化/成熟関連マーカーを、薬物スクリーニングのための基準として使用することができる。1つまたは複数の老化マーカーまたは疾患マーカーの発現を緩徐化しうるか、停止させうるか、または逆転しうる化合物であれば、これらの神経変性疾患を処置する一助となりうる薬物のための候補となりうるであろう。
ヒットとは、上記で記載した1つまたは複数の年齢関連マーカーシグネチャーまたは疾患関連マーカーシグネチャーを効果的に逆転する化合物/分子として規定することができる。例えば、細胞の生存を評価項目として使用する場合、細胞に適切な形態的特徴を保存しながら、生存細胞(例えば、年齢相応のiPSC由来mDAニューロン)の数を実質的に増大させる分子を選択することができる。
一次スクリーニングから選択された候補化合物は、任意選択で、再度調べることができ、用量反応アッセイおよび毒性アッセイを含むがこれらに限定されない、さらなる試験下に置くことができる。リード化合物を選択することができ、所望の特徴を改善し、かつ/または副作用を低減するように、構造的に改変することができる。リード化合物に対する他の改善は、吸収の増大、半減期の延長、細胞に対するアフィニティーの増大、ならびに局所送達および/または全身送達の増強を含みうる。リード化合物およびその改変された変異体について、適切な細胞培養物による研究および動物モデル系による研究を含む前臨床研究でさらに研究することができ、好適な治療的プロファイルおよび毒性プロファイルを呈示する化合物は、ヒト臨床試験において、さらなるin vivo試験下に置くことができる。
本明細書で引用された全ての参考文献は、参照によりそれらの全体において組み込まれる。