JP2018519366A - Fgf19の新規な治療用途 - Google Patents

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Abstract

本発明は、哺乳動物の身体内での筋萎縮症の予防及び/又は処置において筋線維サイズを増大させる薬剤として使用するためのFGF19ポリペプチドに関する。【選択図】なし

Description

本発明は、疾患又は医学的状態に関連する筋肉量の減少の分野に関する。本発明は、動物又はヒトの身体内での筋肉量の増加のために使用される化合物の分野にも関する。
筋消耗の起こる様々な状態が存在する。これは、特定の疾患、長期不動のような状態、又は身体の通常の加齢に起因することがある。
神経筋疾患、特に筋ジストロフィーのような数多くの疾患が除脂肪量及び/又は筋肉量の減少によって特徴づけられる。筋力の減少は筋消耗を通常伴っており、筋萎縮症としても知られる。
筋肉量及び/又は除脂肪量の減少は、脳卒中に続く筋ジストロフィー、又は消耗症とも呼ばれる悪液質症候群のような、原因疾患又はイベントに関連することもある。
悪液質は基礎疾患に関連する複合代謝症候群であり、栄養では元に戻すことができない体重、特に筋肉の減少によって特徴づけられる。臨床学的には、悪液質は、不随意の体重減少、筋萎縮、疲労、脱力、顕著な食欲不振によってさらに的確に定義される。
悪液質は、がん、後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性閉塞性肺疾患、多発性硬化症、慢性心不全、結核、家族性アミロイドポリニューロパチー、水銀中毒及びホルモン欠損症を含む数多くの医学的状態でみられる。
がん患者全体の半数が、脂肪組織及び骨格筋量の進行的減少を伴う悪液質の症候群を徐々に発症すると推定される。がん悪液質は、全身性炎症、負のエネルギー収支及び食欲不振によって特徴づけられる。この症候群は、化学療法に対する反応の乏しさ及び生存率の減少に関連する。
悪液質は依然として過小評価され、処置されていない状態である。悪液質に対して提案されている治療は、食欲増進剤、症状の寛解及び患者の苦悩の減少を含む。新規医薬品、中でもメゲストロール酢酸エステル、メドロキシプロゲステロン、グレリン、ω−3脂肪酸に対して、食生活改善及び/又は運動との併用治療が追加されている。可能な治療の詳細なリストが総説(Aoyagi et al., 2015)で紹介されている。ただし、他の治療用化合物も、この症候群の治療のため活発に研究されている。
他の医学的状態は、食欲不振、甲状腺機能亢進及びアルコール依存のように、筋肉量の顕著な減少を惹起する。筋肉量の減少は、副腎皮質ステロイドのような薬剤の副作用である可能性もある。
必ずしも「病理学的」であるとは限らないが、いくつかの他の状況が筋消耗に関連する。
身体の加齢は筋肉量及び/又は除脂肪量の減少を招く。実際、身体が年を取るにつれて、線維組織によって置き換わる骨格筋の割合が増す。従って、哺乳類における通常の加齢は、骨格筋の筋量及び筋力の漸減、すなわちサルコペニアと呼ばれる状態に関連する。サルコペニアは、筋線維の減少だけでなく、特にタイプII線維での線維のサイズの減少によって引き起こされることが判明している。この減少は「線維萎縮」とも呼ばれる。サルコペニアは身体活動性のレベル低下の原因となり、ひいては体脂肪の増加と筋肉の一段の減少をもたらすおそれがある。
サルコペニア症の人は、比較的弱った状態で、転倒し易くなり、また骨及び関節の健康状態が低下し、そのため可動性がさらに制限される。その結果、この状態では、筋肉量のさらなる減少、特に線維萎縮を、特に高齢者において防ぐべきである。
病気又は障害による長期不動も筋肉減少を引き起こす。このような不動は、車椅子での拘束、長期間の床上安静、骨折又は外傷のような様々な原因を有する。外科手術後の床上安静によって身体の骨格筋量が1週間当たり約10%失われると推定される。
グルココルチコイドのような薬物は筋肉量に対する作用を有し、処置の数日後に筋萎縮症が誘起される。サルコペニアと同様に、この萎縮症は筋線維の減少及び線維のサイズの減少の両者によって引き起こされる。
未処置の筋消耗疾患は深刻な健康への影響をもつおそれがある。筋消耗時に起こる変化は、衰弱した身体状態を招き、不動からの患者のリハビリテーションを大きく制限する。この状態の臨床的重要性にもかかわらず、この状態を防ぐ又は元に戻す処置はわずかしかない。
筋萎縮の防止及び/又は筋肉量の増加は、治療以外の観点でも望ましい可能性がある。
食品製造の領域では、家畜動物の筋肉量の増加は、肉生産の収益性レベルを高めるために非常に望ましい。
人間の幸福の領域では、筋肉量の発達及びボディフィットネスは全世界で数十億ドルの産業である。エステティック及びアスレチック目的のため身体組織の回復、増強又は修復を求める集団によって栄養補助サプリメント及び薬物が利用されている。フィットネス愛好者及び運動選手は、外観及び/又はパフォーマンスを高めるためスタミナ、力及び筋力を増加させることを求めている。ボディマスに筋肉を美しく追加すること、脂肪を筋肉で置き換えること、或いは単に疲れを減らし、スタミナ及び/又は外観を高めるために力を増加させることを目指すことは、良好な心身の健康のための合法的な関心事として受け入れられている。
宇宙飛行士と呼ばれるプロの宇宙旅行者では、筋萎縮の防止が最も重要でもある。実際、宇宙での無重力は人体にかなりの筋萎縮を惹起する。このような筋肉の減少及び筋力の減少を防止する化合物があれば、宇宙環境に送られる人々の間で高く評価されるであろう。少なくともこれらの理由から、筋線維サイズを増大させて、哺乳動物の身体内での筋肉量の増加及び/又は筋肉量の減少の低減を惹起する化合物が盛んに探し求められ、研究されている。
今回、本発明者らは、哺乳動物の身体内での筋肉量の発達及び維持における、ヒトの線維芽細胞増殖因子19(FGF19)及びマウスの線維芽細胞増殖因子15(FGF15)と呼ばれる特定の増殖因子の役割、特にこの増殖因子の作用下で筋線維の表面及びサイズが増大する筋線維に対する作用を明らかにした。
FGF19は、肝内胆汁ホメオスタシス及びコレステロールホメオスタシスに重要な役割を果たしていると知られた。FGF19はマウスにおいて血清グルコース及びトリグリセリドを低下させ、代謝率を増大させ、食事性及びレプチン欠乏性糖尿病を元に戻す(Fu et al., 2004)。FGF19はまた、肝臓タンパク質及びグリコーゲン合成を刺激する(S Kir et al)。さらに、FGF19は糖新生及び脂肪酸酸化を低下させる(Potthoff et al., 2011)。
FGF19は筋損傷の処置に有益であると従前報告されている(Yousef et al., 2014)。FGF19は、損傷した筋肉において、筋肉の未分化の前駆細胞である筋芽細胞の増殖を刺激することが示されている。しかしながら、筋管と呼ばれる分化した筋細胞に対するFGF19の作用、及び筋線維を形成することは今日に至るまで知られていなかった。
FGF19の役割は今日に至るまで代謝機能又は筋損傷の場合に限定されていたが、本明細書では、筋線維サイズを増大させる薬剤として作用するFGF19の能力に関連して、FGF19の新規な治療及び非治療用途を紹介する。
本発明は、哺乳動物の身体内での筋肉量の減少(筋萎縮症とも呼ばれる。)の予防及び/又は処置において筋線維サイズを増大させる薬剤として使用するためのFGF19ポリペプチドに関する。
本発明は、また、哺乳動物の身体内で筋線維サイズを増大させるための薬物として使用するためのFGF19ポリペプチドであって、哺乳動物の身体内での筋肉量の増加を惹起するFGF19ポリペプチドに関する。
本発明は、また、哺乳動物の身体内での筋肉量の減少、特に筋萎縮症、の予防及び/又は処置に使用するための、FGF19ポリペプチドと薬剤ビヒクルとを少なくとも含む医薬組成物に関する。
さらに精密には、本発明は、
・悪液質又は高齢者の集団におけるサルコペニアのような疾患又は症候群に関連する筋消耗の予防及び/又は処置における筋線維サイズを増大させる薬剤としてのFGF19ポリペプチドの使用、
・肉生産量を増大させるため、動物、特にウシの身体内で筋肉量を増大させるために筋線維サイズを増大させる薬剤としてのFGF19ポリペプチドの使用、
・エステティック又はアスレチック目的のため、或いは宇宙旅行者のため、人体における筋肉量を増大させるために筋線維サイズを増大させる薬剤としてのFGF19ポリペプチドの使用、並びに
・上記の使用のための、FGF19ポリペプチドと薬剤ビヒクルとを少なくとも含む医薬組成物
に関する。
Nr1i2−/−マウスでのFGF15の発現並びにマウス及びヒト細胞でのFGF受容体の発現。(A)Nr1i2+/+(灰色、左側の縦棒)及びNr1i2−/−(黒色、右側の縦棒)マウス(n=10〜12)におけるFGF15の血漿濃度レベル。(B)マウスヒラメ筋及び腓腹筋でのFGFR4及びβ−KLOTHOのmRNA発現(Nr1i2+/+は灰色の縦棒及びNr1i2−/−は黒色の縦棒)。(C)対照の健康な被験者から調製したヒト筋芽細胞(未分化の筋細胞)及びヒト筋管でのFGFR4及びβ−KLOTHOのmRNA発現。 高レベルのFGF15をもつマウスの骨格筋の重量。(A)対照食を給餌した22週齢のNr1i2+/+(灰)及びNr1i2−/−(黒)マウス(n=6)の骨格筋(ヒラメ筋、脛骨筋及び腓腹筋)の重量。(B)対照食を給餌した17月齢のNr1i2+/+(灰)及びNr1i2−/−(黒)マウス(n=5)の骨格筋(ヒラメ筋、脛骨筋及び腓腹筋)の重量。 高レベルのFGF15をもつマウスの筋線維のサイズ。Nr1i2+/+(灰色の縦棒)及びNr1i2−/−(黒色の縦棒)マウスに22週間対照食を給餌した。(A)ヒラメ筋中のラミニン染色した筋線維から得られた面積の度数分布。(B)脛骨筋中のラミニン染色した筋線維から得られた面積の度数分布。 インビトロで培養したヒト筋芽細胞に対する組換えFGF19の影響。ヒト筋管を6日間ビヒクル単独(白色の棒)又はビヒクル中に希釈したFGF19(0.1、0.5、5又は50ng/mL;灰色の棒)で毎日処理した。(A)ヒストグラムは筋管面積を表す(視野当たり及びビヒクル条件下で測定した値の百分率として(n=6))。(B)図は、筋管面積を推定できるようにミオシン染色した筋管の代表的画像である。 インビボでのマウスの筋肉に対する組換えFGF19の注射の影響。幼若(3週齢)及び成体(18週齢)の正常な野生型マウスをビヒクル又はヒト組換えFGF19で毎日処置した(7日間、0.1mg/kg、皮下注射、n=4〜5)。(A)ビヒクル(白色の縦棒)又はFGF19(灰色の縦棒)で処置した幼若マウスのヒラメ筋における線維サイズ分布。(A’)ビヒクル(白色の縦棒)又はFGF19(灰色の縦棒)で処置した成体マウスのヒラメ筋における線維サイズ分布。(B)ビヒクル(白色の縦棒)又はFGF19(灰色の縦棒)で処置した幼若及び成体マウスにおけるヒラメ筋及び腓腹筋の重量変化。(C)ビヒクル(白色の縦棒)又はFGF19(灰色の縦棒)で処置した幼若及び成体マウスのヒラメ筋における筋線維面積の平均。 マウスでのデキサメタゾン誘発された筋萎縮症におけるFGF19の注射の影響。C57BL/6マウス(23週齢)をデキサメタゾン(25 mg/kg)及びデキサメタゾン+FGF19(0.1 mg/kg)で14日間処置した。ネガティブコントロールとして、マウスを薬学的に許容される添加剤(「ビヒクル」と呼ぶ。)で処置した。白色の棒はビヒクルで処置したマウスで得られた結果を表し、灰色の棒はデキサメタゾンで処置したマウスで得られた結果を表し、斜線の棒はデキサメタゾン及びFGF19で処置したマウスで得られた結果を表す。分布はP<0.01のKolmogorov−Smirnov検定を用いて解析した。(A)筋重量(g単位)(B)脛骨筋における線維サイズ分布(C)脛骨筋における筋線維面積の平均(D)処置マウスの握力。 マウスでの肥満誘発された筋萎縮症のモデルにおけるFGF19の注射の影響。肥満の動物モデルであるob/obマウス(13週齢)は7日間FGF19(0.1 mg/kg)で毎日処置した。ネガティブコントロールはob/+マウス(非肥満)及びビヒクルで処置したob/obマウスである。白色の棒はob/+マウスで得られた結果を表し、灰色の棒はビヒクルで処置したマウスで得られた結果を表し、斜線棒はFGF19で処置したob/obマウスで得られた結果を表す。分布はP<0.01のKolmogorov−Smirnov検定を用いて解析した。(A)ヒラメ筋及び脛骨筋の筋重量(g単位)(B)脛骨筋における線維サイズ分布(C)脛骨筋における筋線維面積の平均(D)処置マウスの握力。
本明細書で用いたすべての技術用語は当業者に周知であり、Sambrook他の「Molecular Cloning: a Laboratory Manual」という標題の参考マニュアルで詳しく定義されている。
本発明は、哺乳動物の身体内での筋肉量の減少(筋萎縮症とも呼ばれる。)及び/又は除脂肪量の減少の予防及び/又は処置において筋線維サイズを増大させる薬剤として使用するためのFGF19ポリペプチドに関する。
FGF19ポリペプチド
本発明の意味するところでは、「FGF19ポリペプチド」という用語は、以下で説明するようなポリペプチド(すなわちアミノ酸の鎖)を意味する。
FGF19(齧歯類ではFGF15とも呼ばれる。)は、栄養代謝を支配する線維芽細胞増殖因子のサブファミリーの一員である。FGF19は、胆管及び腸上皮細胞によって遠位小腸内で発現及び分泌され、胆管及び腸上皮細胞でのその合成は、胆汁酸の食後取り込み後に上方制御される。従って、摂食に応答して、循環するFGF19の濃度は体内で増加する。
FGF19は、FGF受容体及び共受容体βKlothoの活性化に向けて肝臓に対して及び他の組織内でその作用を発揮する(Lin et al., 2007)。
本発明では、「FGF19ポリペプチド」、「FGF19」及び「FGF15/19」という用語は、任意の哺乳生物で発現されたような天然に生じたポリペプチドFGF19の天然の配列をいう。この用語はあらゆる天然起源のアイソフォームを含み、選択的スプライシング型のような変異型、対立遺伝子変異型、並びにシグナル配列を含むFGF19ポリペプチドの形態のようにFGF19のプロセシングされていない形態及びプロセシングされた形態を包含する。
この「FGF19ポリペプチド」という用語は、天然型のポリペプチドFGF19の断片、特に天然型と同じ生物活性を有する組換え断片も包含する。
この用語は、キメラFGF19ポリペプチド、例えば別のFGFポリペプチド由来の他の配列部分と融合されたFGF19ポリペプチドの一部を含むキメラポリペプチドは包含しない。
本発明のFGF19ポリペプチドは、天然に産生する原料、例えば生物の体液及び組織など、から単離することができる。この場合、FGF19ポリペプチドは単離、すなわちその天然の環境から分離される。
別の実施形態では、本発明のFGF19ポリペプチドは、当業者に周知のように、組換え及び/又は合成手段によって生産することができる。好適には、組換え微生物によって産生されるEGF19ポリペプチドを培養ビヒクルから精製する。
ヒト組換えFGF19ポリペプチドは、例えばR&D Systems社(英国)などから、商業的に入手できる。
本発明の意味するところでは、FGF19ポリペプチドは、そのFGF受容体及び共受容体βKlothoの1種以上と結合する能力を示す(Lin et al., 2007)。
本発明において、「FGF19ポリペプチド」という用語は、配列番号1に示すヒトの配列と50%以上の同一性を示すすべてのFGF19ポリペプチドを包含する。
「配列番号1に示すヒトの配列と50%以上の同一性を示すFGF19ポリペプチド」という記載は、FGF19ファミリーに属するポリペプチドであって、該参照配列と50%以上のアミノ酸同一性を示すアミノ酸配列を有するものをいう。これは、アラインメント後に、候補配列中のアミノ酸の50%が、該参照配列の対応アミノ酸と同一であることを要する。
「アミノ酸の同一性」とは両方の配列に同じアミノ酸が認められることを意味する。同一性は、アミノ酸で起こり得る翻訳後修飾は考慮に入れない。本発明では同一性は、ClustalWコンピューターアラインメントプログラムのようなコンピューター解析によって決定され、そのデフォルトのパラメーターはそこに示唆されている。ClustalWソフトウェアはウェブサイトhttp://www.clustal.org/clustal2/から入手可能である。このプログラムをそのデフォルト設定で用いると、クエリーの部分と「参照ポリペプチド」の部分とが整列される。完全に保存された残基の数が計数され、参照ポリペプチドの長さで除算される。本発明では、「参照ポリペプチド」は配列番号1に示す配列を呈する。
「50%以上の同一性」という用語は、クエリーと配列番号1の参照ポリペプチドの2つの配列間の同一性の百分率が、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%であることを示す。
従って、FGF19ポリペプチドは、マウスで発現されるFGF15ポリペプチド、ヒトで発現されるFGF19ポリペプチド、又はラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ウサギなどの他の哺乳類で発現される、FGF15及びFGF19の相同体の中から選択される。
FGF19ファミリーのメンバーは、特に、
・その配列を配列番号1に示す216個のアミノ酸(シグナルペプチドを構成する24個のアミノ酸を含む)からなるヒトFGF19ポリペプチド、
・その配列を配列番号10に示す218個のアミノ酸(シグナルペプチドを構成する25個のアミノ酸を含む)からなるハツカネズミ(Mus musculus)FGF15ポリペプチド。
本発明の特定の実施形態では、FGF19ポリペプチドは、以下の表1に記載された配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10に示す配列のいずれかから選択される配列を呈する。
本発明の別の実施形態では、FGF19ポリペプチドは、以下の表1に記載された配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10に示す配列のいずれかから選択される配列を呈するポリペプチドの断片である。
本発明の意味するところでは、「筋線維サイズを増大させる薬剤として」という記載は、筋管又は筋線維とも呼ばれる筋分化細胞に対するFGF19のインビボ技術的効果をいう。この技術的効果は本願の実施例で実証されている。
「サイズ増大効果」とは、未処置のマウスの筋線維と比べて、平均線維面積が、未処置のマウスの平均筋表面積の10%以上上回ることを意味する。例えば、図5Cにおいて、成体マウスでは、未処置のマウスの平均線維面積は2100μm未満であるのに対して、FGF19で処置したマウスの平均線維面積は約2350μmであり、約11.9%(250/2100)の線維面積の増大に相当する。
本発明において、「線維サイズ」及び「線維面積」という用語は互換的に用いられ、共に筋線維の表面をいう。
筋線維のサイズの測定は、当業者に周知の技術によって実施し得る。
好ましい方法は、被験哺乳動物の筋組織サンプルからの筋線維の大集団の筋線維サイズをインビトロで測定し、もって一組の筋線維サイズ値を得る工程を含む。好ましい実施形態では、上記筋組織サンプルは、筋組織の1以上の横断切片からなる。
測定方法の好ましい実施形態では、サイズ測定が簡単に実施できるように組織サンプルの筋線維を前処理する。こうした好ましい実施形態では、筋線維は、公知の方法による筋線維染色によって前処理される。筋線維染色法は、筋タンパク質に対する1種以上の抗体を筋組織サンプルと接触させて、筋線維の検出性を高め、もって筋線維サイズの測定を容易にする免疫染色法を包含する。いくつかの実施形態では、1種以上の抗体は標識された抗体である。いくつかの別の実施形態では、1種以上の抗体は非標識抗体である。好ましい実施形態では、染色工程は、筋組織サンプルを、ラミニン及びミオシンを含む群から選択される筋タンパク質に対する抗体と接触させる。具体例として、当業者はSigma−Aldrich社(フランス、サン・カンタン・ファラヴィエ)から市販の抗ラミニン抗体#L9393を使用することができる。
好ましい実施形態では、筋線維のサイズは次いで顕微鏡下で測定される。最も好ましい実施形態では、筋線維サイズは、デジタル画像を取得できる顕微鏡装置を使用し、任意には画像解析コンピュータープログラムをも用いて自動的に測定される。
次いで、(i)第1の筋組織サンプルで測定された筋線維サイズ値と(ii)第2の筋組織サンプルで測定された筋線維サイズ値との間の差異の存在を評価するための統計検定が実施される。
最も好ましくは、2つの別個の筋組織サンプルの間(例えば、(i)未処置の個体から収集した筋組織サンプルと(ii)FGF19ポリペプチドで処置した個体から収集した筋組織サンプルとの間)の筋線維サイズの差は、当技術分野で周知のKolmogorov−Smirnov検定を用いて評価される。
筋肉量の減少の予防及び/又は処置
本発明では、「筋肉量」という用語は「筋肉重量」又は「筋肉体積」のいずれかで置き換えることができる。
哺乳動物の身体は様々なタイプの組織で構成されており、基本的には上皮組織、結合組織、神経組織及び筋組織に分類される。
本発明は、哺乳動物の身体の重量/質量の減少に関し、特に筋組織量の減少に関する。本発明は、また、除脂肪量(全体重から体脂肪量を除算して計算される体重をいう。)の減少に関する。
筋肉又は「筋組織」はすべての哺乳類でみられる軟部組織である。骨格筋、心筋及び平滑筋の3種類の筋肉がある。平均的な成人男性は42%の骨格筋からなり、平均的な成人女性は36%の骨格筋からなる(体重の百分率として)。
骨格筋はさらに、遅筋(タイプI)線維と速筋(タイプII)線維の2つの広いサブタイプに分けられる。
タイプI又は「赤」筋は密で、ミトコンドリア及びミオグロビンに富んでおり、ミオグロビンはその特徴的な赤色を筋組織にもたらす。タイプIは酸素運搬量が多く、脂肪又は炭水化物を燃料として好気的活動を持続する。遅筋線維は長時間収縮するが、力は小さい。
タイプII筋又は「速筋」は、素早くかつ力強く収縮するが、すぐに疲れ、筋収縮がつらくなる前に活動の短時間の嫌気的爆発のみを維持する線維を含む。これらは筋力に最も寄与し、量の増加のための能力が大きい。
「筋肉量の減少」及び「筋萎縮症」という用語は本願では互換的に用いられる。本発明では、これらの用語は共に、いずれかのタイプ(骨格筋、心筋及び/又は平滑筋)の筋組織の量の減少をいう。本発明は主に骨格筋萎縮症の予防及び/又は処置に関する。
この筋萎縮症は、全体重の減少を誘発し、これは任意的には体脂肪の減少を伴う、除脂肪量の減少を意味する。
哺乳動物の身体内で、筋肉量の減少は突発性又は進行性であり得る。筋肉量の減少は随意性又は不随意性である。本発明の特定の態様では、筋肉量の減少は不随意性である。
筋肉量の減少の百分率は、前の時点(T)で観察された筋肉量と比較した減少量の百分率として測定することができる。例えば、筋肉量の減少は、前の時点で測定された身体の全筋肉量の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%又は45%さえの減少である。
特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物の身体内での筋萎縮症の予防において筋線維サイズを増大させる薬剤として使用するためのFGF19ポリペプチドに関する。
別の特定の実施形態では、本発明は哺乳動物の身体内での筋萎縮症の処置において筋線維サイズを増大させる薬剤として使用するためのFGF19ポリペプチドに関する。
筋肉量と除脂肪体重との同等性
「除脂肪体重」(LBM:lean body mass)という用語は、全体重から体脂肪重量を除算することにより計算される体組成成分をいう。
従って、「除脂肪体重」は、脂肪成分を厳密に除外した全ての体成分(筋肉、骨、血液、神経組織など)の重量を含む。
骨、血液、神経組織などの重量は変動しにくいので、除脂肪体重が減少するときは、それは主に身体の筋肉重量の減少に関連づけられる。
従って、体内の筋肉量の「減少」又は「増加」の尺度は、身体の除脂肪量の測定から簡単に評価されることができ、LBMは少なくとも2つの時点T及びTで評価される。
除脂肪体重は通常数式を用いて推定される。特に、以下の式を使用し得る。
男性:LBM=(0.32810×W)+(0.33929×H)−29.5336
女性:LBM=(0.29569×W)+(0.41813×H)−43.2933
式中、Wはkg単位の体重であり、Hはcm単位の身長である。
本発明の一実施形態では、筋肉量の減少は、上述の通り測定される除脂肪体重の減少に対応し、除脂肪体重は時点T及び時点Tで測定され、TとTの間の期間は約2週間、3週間、1か月間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、12か月間、15か月間、18か月間、2年間、3年間、4年間又は5年間の相当な期間である。
本発明の意味するところでは、「予防」という用語は哺乳動物の身体内での筋肉及び/又は除脂肪量の減少を防ぐための方策をいう。
本発明の意味するところでは、「処置」という用語は、筋肉量について有益な臨床結果(特に減少の程度の低減、減少の安定化(例えば、筋肉量の減少の予防、又は悪化を遅らせること)、筋肉量の減少の遅延又は緩徐化及び/又は筋肉量の増加)を得るための方策をいう。
本発明では、「哺乳動物」という用語は、ヒト、家畜及び農場の動物、動物園の動物、運動用動物又は愛玩動物、例えば犬、猫、牛、馬、羊、豚、山羊、ウサギなどを含む、哺乳類として分類されるあらゆる動物をいう。
本発明の第1の実施形態では、哺乳動物の身体はヒトの身体である。
本発明の第2の実施形態では、哺乳動物の身体はヒト以外の哺乳動物の身体である。
筋肉量の減少を含む医学的状態
特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物の身体内での筋肉量の減少(筋萎縮症とも呼ばれる。)又は除脂肪量の減少であって、特定の医学的状態に起因する減少の予防及び/又は処置に関する。
この医学的状態は、優先的には、有資格者によって診断された医学的状態である。医学的状態は、その状態を呈する個人によって自己診断されたものであってもよい。
本発明の第1の態様では、筋萎縮症とも呼ばれる人体における筋肉量の減少を引き起こす医学的状態は悪液質である。
悪液質は基礎疾患に関連する複合な代謝症候群であり、栄養では元に戻すことができない体重、特に筋肉の減少によって特徴づけられる。
本発明の特定の実施形態では、人体における筋肉量の減少を引き起こす医学的状態は、がん悪液質、すなわち基礎疾患ががんである悪液質の症候群である。
本発明の第2の態様では、筋萎縮症とも呼ばれる人体における筋肉量の減少を引き起こす医学的状態は、身体の加齢に関連した医学的状態であるサルコペニアである。
ヒトにおいて、加齢とは、物理的、心理的及び社会的変化の多次元過程をいう。加齢は、年を取るという自然過程に対応する。身体の加齢は、経時的な身体変化の蓄積を表す。「身体の加齢」という用語は、身体が年を取る際の身体の物理的変化に関する。
特に、「身体の加齢」は、人体が70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳、105歳又はそれ以上に達したときに現れる物理的変化と考えることができる。
本発明の第3の態様では、筋萎縮症とも呼ばれる人体における筋肉量の減少を引き起こす医学的状態は、身体の長期不動である。
「長期」又は「長期間」の不動は、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1か月間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、12か月間、15か月間、18か月間、2年間、3年間、4年間、5年間又は5年間超の身体の不動に相当する。
不動は、車椅子での拘束、長期間の床上安静、骨折又は外傷のような様々な原因を有し得る。
本発明の第4の態様では、筋萎縮症とも呼ばれる人体における筋肉量の減少を引き起こす医学的状態は、肥満、食欲不振、甲状腺機能亢進、アルコール依存のような別の医学的状態であるか、或いは副腎皮質ステロイドのような薬剤の副作用に関連する。
特定の実施形態では、本発明は、筋萎縮症とも呼ばれる筋肉量の減少又は除脂肪量の減少を呈する個体を処置する方法であって、筋線維サイズを増大させる薬剤として有効量のFGF19ポリペプチドを該個体に投与することを含む方法に関する。
別の特定の実施形態では、本発明は、筋萎縮症とも呼ばれる哺乳動物の身体内での筋肉量の減少を予防及び/又は処置するための医薬品の製造のための、筋線維サイズを増大させる薬剤としてFGF19ポリペプチドの使用に関する。
筋肉量の増加
本発明は、哺乳動物の身体内での筋肉の減少を予防及び/又は処置するためのFGF19ポリペプチドであって、哺乳動物の身体内での筋肉量の増加を惹起するFGF19ポリペプチドに関する。言い換えると、哺乳動物の身体内で筋肉量の発達が観察される。
本発明のこの実施形態では、FGF19ポリペプチドは、哺乳動物の身体内での筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させるための、筋線維サイズを増大させる薬剤として使用される。
既に述べた通り、FGF19は筋萎縮症を防ぐ。しかしながら、FGF19ポリペプチドは、非治療用途にも使用できる。実際、FGF19は処置した哺乳動物の身体内での筋肉量の発達も惹起し、こうした筋の発達は筋線維サイズの増大に関連づけられる。
筋線維サイズを増大させる薬剤としてのFGF19のこのような非治療用途は、主に運動選手及び宇宙旅行者に向けられたものである。特に、こうした非治療用途に関心をもつ集団は、筋萎縮症を罹っていない個体からなると理解される。
従って、本願は、また、哺乳動物の身体内、特に健康な哺乳動物の身体内、さらに具体的には筋萎縮症に罹患していない及び/又はそのリスクのない哺乳動物の身体内での筋肉量の発達又は維持のための、筋線維サイズを増大させる薬剤としてのFGF19ポリペプチドの使用に関する。本発明は、また、哺乳動物の身体の筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させるための方法であって、有効量のFGF19ポリペプチドを身体に投与することを含む方法に関する。
優先的には、本発明は、哺乳動物の身体の筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させるための方法であって、有効量のFGF19ポリペプチドを身体に経口投与することを含む方法に関する。
さらに優先的には、本発明は、個体の筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させるための方法であって、有効量のFGF19ポリペプチドを個体に経口投与することを含む方法に関する。
本明細書に記載する筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させるための方法では、FGF19ポリペプチドは筋線維サイズを増大させる薬剤として使用される。
筋肉量の増加又は筋肉量の発達は突発性又は進行性であり得る。筋肉量の増加は随意性又は不随意性であり得る。本発明の特定の態様では、筋肉量の増加は随意性である。このような筋肉量の発達は特定の身体領域に限局したものであってもよいし、身体全体で一様であってもよい。
筋肉量の増加/発達の百分率は、前の時点(T)で、特にFGF19ポリペプチドの最初の投与前に、観察された筋肉量と比較した増加の百分率として測定することができる。例えば、筋肉量の増加は、前の時点で測定された身体の全筋肉量の少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%又は45%の増加である。
本発明では、筋肉量の増加は、前述の通り、除脂肪体重の増加に対応する。
本発明の一実施形態では、筋肉量の増加は除脂肪体重の増加に対応し、除脂肪体重は、FGF19ポリペプチドの最初の投与前の時点T及びその後の時点Tで測定され、TとTの間の期間は約2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1か月間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、12か月間、15か月間、18か月間、2年間、3年間、4年間又は5年間の相当な期間である。
本発明の特定の態様では、FGF19ポリペプチドは、ヒト以外の哺乳動物の身体内の筋肉量を増大させるための、筋線維サイズを増大させる薬剤として使用される。
消費者に重大なリスクを生じさせずに、肥育飼料から人間の食用製品への飼料転換効率を最適化することは家畜生産者の重要な目標である。
食品製造の領域では、このようなFGF19ポリペプチドの使用は、肉生産量を向上させるため家畜の筋肉量及び/又は除脂肪量を増大させるのに有用である。
本発明のこの実施形態では、ヒト以外の哺乳動物は、好ましくは、牛、豚、羊、山羊その他の動物であってその肉が一般に食される動物から選択される。
本発明の別の実施形態では、FGF19ポリペプチドは、ヒトの身体内での筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させるための、筋線維サイズを増大させる薬剤として使用される。
多くの人々が、ボディマスに筋肉を美しく追加すること、或いは疲れを減らし、スタミナ及び/又は外観を高めるために力を増加させることを望んでいる。
ヒトの身体の筋肉量及び/又は除脂肪量を増加させる方法であって、有効量のFGF19ポリペプチドをヒトの身体に投与することを含む方法は、本発明のもう一つの実施形態である。
本発明の別の実施形態では、FGF19を筋線維サイズを増大させる薬剤として使用すると、処置された身体内の1以上の筋肉の力が最適化される。
所定の筋肉の力は様々な要因、特に筋線維のサイズに依存する。実施例6及び7に示す通り、14日間の処置後に、筋線維サイズの増大に伴って、FGF19で処置したマウスの握力が顕著に増加した(10%以上の増加)。
従って、本願は、また、哺乳動物の身体内、特に健康な哺乳動物の身体内、さらに具体的には筋萎縮症に罹患していない及び/又はそのリスクのない哺乳動物の身体内での1以上の筋肉の力を最適化するための、筋線維サイズを増大させる薬剤としてのFGF19ポリペプチドの使用に関する。
筋線維サイズを増大させる薬剤としての、従って身体内の1以上の筋肉の力を増加させる薬剤としてのFGF19のこのような非治療用途は、主に運動選手の集団に向けられたものである。
FGF19の非治療用途に関して目標とすることのできる筋肉は、特に、移動のような骨格運動及び姿勢維持を達成するために用いられる骨格筋である。
ポリペプチドの投与
「投与」という用語は、哺乳動物又はヒトの身体内へのポリペプチドの導入を意味する。
ポリペプチドは、任意の投与経路によって投与することができる。適切な経路は、経口、頬側、吸入スプレー、舌下、直腸、経皮、膣、経粘膜、鼻腔又は経腸投与、或いは筋肉内、皮下及び静脈内注射を含む非経口送達、或いは他の送達モードを含む。
好ましくは投与モードは、哺乳動物身体へのFGF19ポリペプチドの筋肉内投与である。好ましくは、ポリペプチドは、筋肉量が減少した又は筋肉量を増加されるべき標的筋肉内に注射される。
別の好ましい投与モードは哺乳動物身体へのFGF19ポリペプチドの静脈内投与である。
別の投与モードは経口投与であり、FGF19ポリペプチドは、処置される身体の標的組織までその生物学的活性が保存されるように、薬剤ビヒクル中に製剤化される。
筋肉量の減少が身体全身に広がっているときは、経口経路及び静脈内経路が好ましい投与経路である。
非治療目的のため筋肉量の増加が望まれるときは、経口経路が好ましい投与経路である。
本発明の特定の実施形態では、FGF19ポリペプチドの投与は少なくとも3日間毎日実施される。特に、FGF19ポリペプチドの投与は少なくとも3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、10日間、14日間又は2週間、3週間、4週間、5週間又は6週間、毎日行われる。
ポリペプチドの「有効量」とは、所望の生物学的応答を引き出すのに必要とされる量をいう。当業者には理解されるように、有効量は、所望の生物学的エンドポイントのような要因、達成すべき効果に応じて変化し得る。
典型的な投与量範囲は1日当たり約1μg/kg〜約1g/kg体重であり、好ましい投与量範囲は1日当たり約0.01mg/kg〜100mg/kg体重である。好ましい投与量は0.05mg/kg〜10mg/kgの投与量範囲内にある。
医薬組成物
本発明は、また、哺乳動物の身体内での筋肉量の減少の予防及び/又は処置に使用するためのFGF19ポリペプチドと薬剤ビヒクルとを少なくとも含む医薬組成物に関する。
既に開示した通り、FGF19ポリペプチドは筋線維サイズを増大させる薬剤として使用される。
薬剤ビヒクルは、動物又は人の身体に活性化合物を投与するのに有用な、無毒な成分で調製された薬学的に許容されるビヒクルである。例えば、水、塩類緩衝液、グリセリン溶液0.4%もしくは0.3%又はヒアルロン酸溶液などの各種水性キャリアを使用し得る。
医薬組成物は、濾過のような公知の慣用法で滅菌し得る。得られる水溶液は使用のために包装してもよいし、或いは凍結乾燥することもできる。凍結乾燥標品は使用前に滅菌溶液と混合することができる。
本発明の医薬組成物は、緩衝剤、pH調整剤、等張性調整剤、湿潤剤のような、生理的条件に近づけるために必要とされる薬学的に許容される添加剤を含んでいてもよい。かかる標品は、酸化防止剤、保存剤及び/又は補助剤も含んでいてもよい。
医薬組成物の投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外及び経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、任意の適切な経路、例えば、注入又はボーラス注射、上皮又は粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を通しての吸収によって投与することができる。
好ましい投与モードは、哺乳動物の身体内への筋肉内投与、特に筋肉量が減少した又は筋肉量を増加されるべき標的筋肉への医薬組成物の筋肉内投与、並びに経口投与である。
特定の実施形態では、筋肉量の減少の防止及び/又は処置に使用される医薬組成物は、1種以上の別の有効成分を含む。
第1の実施形態では、筋肉量の減少は特定の医学的状態に起因し、上記の別の有効成分はその特定の医学的状態を処置するための薬物である。
特に、前記薬物は、メゲストロール酢酸エステル、メドロキシプロゲステロン、グレリン、ω−3脂肪酸及び(Aoyagi et al., 2015)の総説に紹介された他の薬物のような、悪液質を処置するための薬物であることができる。
第2の実施形態では、動物、特にウシの筋肉量の増加が、肉生産を改善するために望ましく、この場合、上記の別の有効成分は、ホルモン、増殖因子、アドレナリンβ−刺激化合物及び薬物添加飼料添加物から選択されるが、これらに限定されない。
第3の実施形態では、筋肉量の増加は運動目的のために望ましく、上記の別の有効成分は能力向上剤である。
非限定的な態様で、上記能力向上剤は、フェニルプロパノールアミン、アンフェタミン、エフェドリン、チロシンもしくはチロシン前駆体、又はエリスロポエチンから選択することができる。
他の有効成分を、本発明の組成物に好適に添加することができる。これらの化合物は、以下の非網羅的なリストの中から選択される:
・栄養補給剤、特に高タンパク含有量のサプリメント、
・アミノ酸の溶液、特にヒト又は動物の身体のニーズに適合化したもの、及び
・タンパク質加水分解物であって、その摂取によって、アミノ酸がタンパク質全体よりも素早く身体に吸収されて、筋肉組織への栄養素の送達が最大限となるもの。
従って、本発明による使用のための医薬組成物は、以下の化合物:悪液質を処置するための薬剤、能力向上剤、栄養補給剤、アミノ酸溶液又はタンパク質加水分解物の溶液から選択される別の有効成分を含むことができる。
材料及び方法
すべての動物実験は、生存動物での生物実験に関するノルウェー国ボードによって承認された。Nr1i2+/+及びNr1i2−/−マウスは、129S6/SvEvTacバックグラウンドに維持され、温度制御され(22℃〜23℃)かつ食料及び水に自由にアクセスできる換気式齧歯類ハウジングシステム内に収容された(n=4〜6マウス/ケージ)。
マウスには、脂肪由来のカロリー12%、タンパク質由来の27%及び炭水化物由来のの61%を含む低脂肪食(飼料)(Special Diets Services社(英国エセックス))を給餌した。体重を毎週記録し、食物摂取量を5〜7日間測定した。プロトコールの最後に、マウスをイソフルランで麻酔し、心臓穿刺により犠牲にした。血液をEDTAコートした管に採取し、組織を切開し、秤量し、液体窒素中に浸漬し又は組織化学検査のために固定した。
FGF19処置のインビボ効果を研究するため、単独飼育した幼若(3週齢)及び成体(18週齢)マウスを、PBS/0.1%BSA溶液(ビヒクル)中で皮下投与したヒト組換えFGF19(R&D Systems社(英国))で7日間毎日処置した。
遺伝子発現
組織RNAはTrizolを用いて抽出し、特定のmRNAのレベルはリアルタイムPCRで定量した。
免疫組織化学
採取後、マウス骨格筋を直ちにOCT中に包埋し、液体窒素中で凍結させた。中腹部からの断面(10μm)をミオシンアデノシントリホスファターゼ(ATPase)で染色してタイプI(遅筋)線維とタイプII(速筋)線維を決定した。筋線維面積分析のため、横断面を抗ラミニン抗体(L9393、Sigma社)で免疫標識して、筋線維サイズ分布及び線維の総数を決定した。画像はAxioCamカメラ(Zeiss社(ドイツ))を用いて取得し、デジタル画像ソフトウェア(Automeasure、Zeiss社(ドイツ))を用いて検査した。各筋肉サンプルについて250以上の線維を分析した。
エクスビボ実験
麻酔後に、一晩絶食させたNr1i2+/+及びNr1i2−/−マウスの小腸を単離して、回腸の遠位部から約1cmセグメントを回収し、素早く洗浄し、10%ウシ血清、100U/mlペニシリン及び100U/mlストレプトマイシンを補充したグルタミン及びピルビン酸塩を含む1mLの高グルコースDMEM中で37℃で2.5時間インキュベートした。
ヒト骨格筋細胞のFGF19処理
ヒト初代筋管の研究のため、健常な痩身被験者から筋肉生検を採取した。すべての参加者は、研究の性質、目的、起こり得るリスクに関して説明を受けた後、書面による同意を与えた。実験プロトコル(同意番号2012−111/A13−06)は、倫理委員会Sud−EST IVによって承認され、フランス法(Huriet法)に準拠して実施された。
ヒト筋芽細胞を、当業者に公知の通りに、培養し、分化させた。簡潔に述べると、筋芽細胞を筋サテライト細胞から樹立し、20%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco)を補充したHAM−F10培地(Gibco、Life Technologies社(米国ニューヨーク州グランド・アイランド))中で増殖させた。コンフルエンスに達した後、2%FBSを補充したDMEM中で7〜10日間筋芽細胞を分化させた。筋細胞の分化は、多核化した筋管への筋芽細胞の融合によって特徴づけられた。分化した筋管を、既に述べた通り、ヒト組換えFGF19(R&D Systems社(英国))で処理した。免疫蛍光標識した筋管の面積の測定を行った。
統計
結果は平均±SEMとして示す。データは、両側Mann−Whitney検定によって解析した。線維断面積分布の統計分析は、カイ二乗検定を用いて実施した。統計的有意性はP<0.05に設定した。
実施例1:Nr1i2 −/− マウスは、FGF15の増加した血漿濃度の影響を研究するための適切なモデルである
Nr1i2+/+マウスと比較してNr1i2−/−マウスにおいて循環FGF15レベルに8倍の増加がみられる(図1A)。
FGF19の循環レベルは食物摂取量に応じて増減する。Nr1i2−/−マウスにおいて観察されたFGF15の血漿レベルの上昇が食物摂取の増加によるものではないことを確認するため、一晩絶食させた動物の回腸を採取して、それらの外植片を2.5時間インキュベートした。この実験設定では、Nr1i2−/−マウス由来の回腸外植片のみがFGF15を発現し、培地中のFGF15濃度が高くなった(結果は示さず)。
FGF19は、特異的受容体(FGFR4)を介して作用することが知られているが、これは十分な作用には共受容体β−KLOTHOを要する。本発明者らは、マウス筋肉及びヒト骨格筋細胞でFGFR4及びβ−KLOTHO遺伝子の両方が発現されることを確認した(図1B、図1C)。
実施例2:FGF15の高循環レベルはNr1i2 −/− マウスにおける骨格筋肥大と関連する
Nr1i2+/+筋肉と比較して、Nr1i2−/−マウスの研究したすべての筋肉(ヒラメ筋、脛骨筋及び腓腹筋)で骨格筋の重量が顕著に増大し、この結果は若成体(22週齢、図2A)及び高齢マウス(17ヶ月齢、図2B)の両方で観察された。
実施例3:FGF15の高い循環レベルは、Nr1i2 −/− マウスにおける筋線維サイズの有意な増大と関連する
色々なサイズの線維の数は、ラミニン染色した筋肉から測定する。線維は、600μm未満の線維面積から6000μmを上回る線維面積まで、13の「面積クラス」に分類される。
1500μmを上回る表面を有する線維は、Nr1i2+/+マウスよりもNr1i2−/−マウスで観察される頻度が高い(図3A、図3B)。
これらの結果は、Nr1i2+/+マウスと比較して、筋線維の面積がNr1i2−/−マウスのヒラメ筋(図3A)及び脛骨筋(図3B)の両方で顕著に増加することを示す。
実施例4:ヒト筋肉細胞についてのインビトロ結果
骨格筋に対するFGF15/19の直接的な役割を調べるため、初代ヒト筋細胞におけるインビトロでのFGF19の作用について検討した。
FGF19を、筋芽細胞から筋管への分化過程の間に又は筋管に直接、生理学的及び薬理学的投与の両方で添加すると、得られる筋管の面積が有意に増大する(図4A)。
図4Bは、筋管のミオシン染色の画像を示し、筋管面積の推定が可能となる。
実施例5:FGF19注射後のマウスで得られたインビボ結果
筋肉量の発達におけるFGF15/19の役割をインビボで確認するため、正常な対照マウスを、組換えヒトFGF19(マウスで生物学的に活性であり、そのマウス対応物であるFGF15よりも安定である)を毎日注射して処置した。
皮下注射して1時間後に、FGF19の血漿レベルは、FGF19処置マウスで17.8±1.2ng/mlに増加したが、ビヒクル処置マウスでは血漿FGF19は検出できなかった(図示せず)。
図5において、白色の棒はFGF19処置せずに得られた結果を示し、灰色の棒はFGF−19処置したマウスで得られた結果を示す。
7日後に、FGF19処置マウスとビヒクル処置マウスの体重増加及び食物摂取は同様であったが(結果は示さず)、ビヒクル処置マウスと比較して、FGF19を受けたマウスは、幼若(3週齢、図5A)及び成体(18週齢、図5A’)マウスの両方で、ヒラメ筋線維のサイズの有意な肥大を示した(図5)。幼若(3週齢)及び成体(18週齢)マウスの両方で、FGF19で毎日処置した後に、測定された筋肉(ヒラメ筋及び腓腹筋)の重量が有意に増加した(図5B)。
図5Cは、7日間のFGF19処置後の平均ヒラメ筋線維面積を示す。幼若マウスでは平均面積は倍増し、成体では線維サイズの有意な増加(未処置マウスの平均面積と比較して11.9%)が認められる。
実施例6:デキサメタゾン誘発した筋萎縮症の動物モデルで得られたインビボ結果
C57BL/6マウス(23週齢)をデキサメタゾン(25mg/kg)及びデキサメタゾン+FGF19(0.1mg/kg)で14日間処置した。ネガティブコントロールとして、マウスを薬学的に許容される添加剤(「ビヒクル」と呼ぶ。)で処置した。
白色の棒はビヒクルで処置したマウスで得られた結果を表し、灰色の棒はデキサメタゾンで処置したマウスで得られた結果を表し、斜線の棒はデキサメタゾン及びFGF19で処置したマウスで得られた結果を表す。分布はP<0.01のKolmogorov−Smirnov検定を用いて解析する。
当業者に周知の通り、デキサメタゾン処置は筋萎縮症の状態を誘発する(Gilson et al。)。
14日間処置した後、マウスの筋肉重量(図6A)、脛骨筋線維のサイズ(図6B)、平均線維面積(図6C)及び握力(図6D)を評価する。
握力の評価は以下の通り実施される:筋力はGT3握力試験計システム(Bioseb社(フランス、ヴィトロル)を用いて記録した。マウスが4足で金属格子を保持できるようにし、マウスが格子を保持できなくなるまで尾で優しく引き戻した。各マウスを4回試験し、個々のマウスの筋握力を表すのに平均値を用いた。試験者は、動物群の処置に関して盲検とした。
図6は、以下の事項を示す。
・予想通り、デキサメタゾン処置マウスでは、ヒラメ筋と脛骨筋の両方の筋肉の重量が有意に減少し、脛骨筋線維のサイズが縮小し(図6B及び図6C)、マウスの握力が低下すること。
・重要なことに、マウスをFGF19(0.1mg/kg)で同時に処置すると、デキサメタゾンで誘発されるマウスの筋肉重量、筋肉線維のサイズ及びマウスの握力の減少が弱まり、幾つかの効果については完全になくなること。ヒラメ筋の重量及び握力は、対照の状況と比較して増大さえすること。
実施例7:肥満誘発した筋萎縮症の動物モデルで得られたインビボ結果
肥満の動物モデルであるob/obマウス(13週齢)を7日間にわたりFGF19(0.1 mg/kg)で毎日処置した。ネガティブコントロールはob/+マウス(非肥満)及びビヒクルで処置したob/obマウスである。
白色の棒はob/+マウスで得られた結果を表し、灰色の棒はビヒクルで処置したマウスで得られた結果を表し、斜線棒はFGF19で処置したob/obマウスで得られた結果を表す。分布はP<0.01のKolmogorov−Smirnov検定を用いて解析した。
当業者に周知の通り、肥満は筋肉量の減少及び線維サイズの減少を誘発する。
7日間処置した後、マウスの筋肉重量(図7A)、脛骨筋線維のサイズ(図7B)、平均線維面積(図7C)及び握力(図7D)を評価する。
図7は、以下の事項を示す。
・予想通り、ob/obマウスでは、ob/+マウスと比較して、ヒラメ筋と脛骨筋の両方の筋肉の重量が有意に減少し、脛骨筋線維のサイズが縮小し(図7B及び図7C)、特に、3200μmを上回るサイズを示す線維がこれらのマウスには存在しないこと。マウスの握力が劇的に低下すること。
・重要なことに、ob/obマウスをFGF19(0.1mg/kg)で7日間処理すると、マウスの筋肉重量、筋線維のサイズ及び握力が増加する。ヒラメ筋及び脛骨筋の両方の筋肉重量は、非処置ob/obマウスよりも優れており、平均線維面積は、ob/obマウスの1250μmからFGF19処置ob/obマウスの約1350μmへと増大し(図7C)、握力が向上すること。
結論として、これらの結果は、FGF19ポリペプチドが、哺乳動物の身体内での筋肉量の減少の予防(実施例6参照)及び処置(実施例7参照)において、筋線維サイズを増大させる薬剤として使用できることを示している。
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Claims (12)

  1. 哺乳動物の身体内での筋萎縮症の予防及び/又は処置において筋線維サイズを増大させる薬剤として使用するためのFGF19ポリペプチド。
  2. 哺乳動物の身体がヒトの身体である、請求項1に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  3. 前記体内での筋萎縮症を引き起こす医学的状態が悪液質である、請求項2に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  4. 筋萎縮症を引き起こす身体状態がサルコペニアである、請求項2に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  5. 筋萎縮症を引き起こす身体状態が身体の長期不動である、請求項2に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  6. 筋萎縮症を引き起こす身体状態が肥満である、請求項2に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  7. 哺乳動物の身体内での筋肉量の発達が観察される、請求項1に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  8. 哺乳動物の身体がヒト以外の身体、特に牛の身体である、請求項7に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  9. 身体内での1以上の筋肉の強度が最適化される、請求項7に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  10. FGF19ポリペプチドが配列番号1〜10のいずれかに示す配列から選択される配列を呈する、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の使用のためのFGF19ポリペプチド。
  11. 哺乳動物の身体内での筋萎縮症の予防及び/又は処置に使用するための、FGF19ポリペプチドと薬剤ビヒクルとを少なくとも含む医薬組成物。
  12. 以下の化合物:悪液質を処置するための薬剤、能力向上剤、栄養補給剤、アミノ酸溶液又はタンパク質加水分解物の溶液から選択される別の有効成分を含む、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
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