JP2018197196A - 歯周炎治療薬 - Google Patents

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洋子 山口
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朗 齋藤
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隆英 長瀬
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真史 堀江
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Abstract

【課題】歯周炎の原因細胞であるアグレッシブ線維芽細胞の治療薬の提供。【解決手段】アグレッシブ線維芽細胞のmiRNAを解析した結果、hsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5p、hsa−miR−365a-5pの発現が変化していることが明らかとなった。これらmiRNAの発現を調節するポリヌクレオチドを有効成分とする歯周炎の治療剤。前記miRNAの阻外剤でありhsa−miR−365a−5pの発現をミミックするmiRNAミミックである歯周炎治療剤。【選択図】図1

Description

本発明は、歯周炎治療薬、及び歯周炎予防薬に関する。特に、miRNAを有効成分とし、歯周炎の原因細胞に作用する歯周炎治療薬、予防薬に関する。
歯周病はう蝕とともに、歯の二大疾患である。歯周病は歯肉炎と歯周炎とに分けられるが、最終的な歯の喪失に至るのは、いわゆる歯槽膿漏といわれる歯周炎である。歯周病は世界で最も多い疾患であるともいわれ、我が国でも成人の約8割が罹患しているとされる。歯喪失の42%は歯周炎によると報告されており、歯喪失の重要な原因でもある。保持歯数は全身の健康状態とも密接に関連し、心疾患、メタボリック・シンドローム、糖尿病など様々な疾患と関連することが指摘されている。したがって、歯周炎の治療と予防は歯科分野だけではなく、医療全般の問題ともなる。
歯周炎の原因は、これまで歯肉炎同様、細菌感染であると考えられていたことから、現在の治療法としては、抗菌、抗炎症などの対症療法が主流である(例えば、特許文献1、2)。特許文献1には、歯周病の原因は嫌気性グラム陰性桿菌であると考え、嫌気性グラム陰性桿菌に対しては強い殺菌力を有しているが、正常歯垢細菌であるレンサ球菌群に対しては殺菌力が弱い殺菌薬が開示されている。特許文献2は、歯周病は歯周疾患性細菌が原因であり、細菌のリポ多糖(LPS)の刺激による炎症性サイトカインであるIL−1やIL−6の過剰産生による局所的な炎症によって引き起こされると考えている。特許文献2では、抗CD14抗体を有効成分とすることにより、歯周組織の炎症性の症状を緩和し、軽減することができる治療薬が開示されている。
これに対し本発明者らのグループは、歯周炎は細菌が原因である歯肉炎と異なり、細菌感染が直接の原因ではなく、患者の線維芽細胞に原因があると考えている。歯周炎は慢性的な炎症と、これに付随する細胞外マトリックスの再構成によって進行する。歯周炎は進行すると、主としてコラーゲンからなる歯と歯槽骨との結合組織性付着が喪失するアタッチメント・ロスが生じ、歯周ポケットが深くなり、やがて歯の喪失につながる。歯肉線維芽細胞は、種々の細胞の足場ともなる結合組織中の細胞外マトリックスを産生しており、細胞外マトリックスのターンオーバーに関与していると考えられる。したがって、歯と歯槽骨との結合組織性付着の喪失と歯肉線維芽細胞の正常な機能の喪失は深く関わっていると考えられる。
本発明者らは、歯周炎の研究の過程で、重度歯周炎患者の歯肉由来の線維芽細胞をコラーゲンゲル三次元細胞培養法によって培養を行うと、培地であるゲルのコラーゲンが分解され小さくなるということを見出した(非特許文献1、2)。本願発明者らは、コラーゲン分解能が極度に高い線維芽細胞を歯周炎関連線維芽細胞(periodontitis−associated fibroblast、PAF、あるいはアグレッシブ線維芽細胞ともいう。)と名付け、歯周炎の主因であると考えて研究を進めている。
現在までに50症例以上の歯周炎患者から、歯周炎関連線維芽細胞の単離を試み、すべての歯周炎患者歯肉から歯周炎関連線維芽細胞は単離できている。さらに、プラーク量が少なく、炎症の程度は軽いが、結合組織性付着の急速な消失が起こる疾患である侵襲性歯周炎罹患歯肉からは、コラーゲン分解能の非常に高い歯周炎関連線維芽細胞が分離できることが明らかとなった。
本発明者らは、歯周炎関連線維芽細胞はコラーゲン分解能が高いことから、歯と歯槽骨との間に存在するコラーゲンを主成分とする歯根膜を分解する原因となっていると考え、歯周炎の部位特異性についても、歯周炎関連線維芽細胞が存在することで説明できると考えている。
本発明者らのグループはすでに歯周炎関連線維芽細胞の分子生物学的な特徴を解析するために、歯周炎関連線維芽細胞(PAFs)についてFANTOM5においてCAGE法による解析を行った。その結果、歯周炎関連線維芽細胞では、歯肉線維芽細胞と比較していくつかの特徴的な遺伝子発現が見出されたが、特にDLX5及びRUNX2のバリアントの発現に変化が見られることを報告している(非特許文献3)。したがって、歯周炎関連線維芽細胞は、遺伝子発現が正常な組織由来の線維芽細胞とは異なるものであることは明らかである。本発明者らは、歯周炎関連線維芽細胞の分子学的な特徴を解析し、医薬を開発することができれば、歯周炎を根本的に治療する医薬を開発することができると考え、さらに歯周炎関連線維芽細胞のmiRNA発現の解析を行った。
今までに、コラーゲン分解能の高い歯周組織由来の細胞に着目してmiRNAを解析している文献はないが、歯周炎において、miRNA発現を解析している文献は見受けられる(特許文献3)。特許文献3には、hsa−miR−21、hsa−miR−374b、hsa−miR−885−5pを上方調節することによる歯周病治療薬が記載されている。
特開2009−274957号公報 特開平10−114679号公報 特表2013−504542号公報 特開2010−220561号公報 特開2011−256136号公報
Ohshima et al., 2010, J. Dent. Res., Vol.89(11), pp.1315-1321. 大島光宏、山口洋子、2013年、日本薬理学雑誌、第141巻、p.314-320. Horie, M., 2016, Scientific Reports6:33666, DOI:10.1038/srep33666. Rupaimoole, R. & Slack, F.J., 2017, Nat Rev Drug Discov. Vol.16,pp.203-222. Ohshima et al., 1994, J. Periodontal. Res., Vol.29, pp.421-429. http://mirtarbase.mbc.nctu.edu.tw/php/search.php?opt=search_box&kw=hsa−miR−21−5p&sort=papers&order=desc
今までに開発され、市販されている歯周炎の治療薬は、上述のように細菌感染、それに付随する炎症が原因であると考えている。しかしながら、発明者らが分離し、歯周炎原因細胞と考えているコラーゲン分解能が高い線維芽細胞である歯周炎関連線維芽細胞を標的とした薬剤ではない。そのため、抗菌薬や抗炎症薬は、疾患の症状を緩和する対症療法としての意義はあるものの根本的な治療を行うことはできなかった。また、抗菌薬や抗炎症薬には耐性菌の出現や、胃腸炎などの副作用があるため、一般的には長期連用ができなかった。
また、特許文献3のようにmiRNAの解析により歯周炎治療薬の開発を行っている文献もあるが、コラーゲン分解能が高い線維芽細胞に着目しているわけではなく、本願発明とは得られた結果が全く異なるものである。以下に詳細に説明するが、本願発明者らは、hsa−miR−21ではなく、hsa−miR−21−5pの発現が歯周炎関連線維芽細胞で特徴的に発現が上昇していることを見出し、さらにこれを抑制することが治療に繋がる可能性があることを見出した。本願発明では歯周炎の原因と考えられる歯周炎関連線維芽細胞について解析を行っているため、特許文献3の結果とは得られた結果が異なるものと考えられる。
本発明者らはすでに、コラーゲン分解能が高い線維芽細胞を標的とし得る治療薬として、歯周組織破壊を抑制、改善する有効成分をスクリーニングする方法を開示するとともに、コラーゲン分解阻害剤を有効成分とする治療薬を開発している(特許文献4、5)。
しかしながら、上記治療薬は、歯周炎関連線維芽細胞の遺伝子発現変化に対応し、これを根本から治療する薬剤ではなかった。本発明は、遺伝子発現が変化した歯周組織構成細胞を標的とした遺伝子治療薬の開発を課題とする。
本発明は、以下の歯周炎治療剤に関する。
(1)hsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5p、及び/又はhsa−miR−365a-5pからなる群より選択される1つ以上のmiRNAの歯肉組織中の含有量を調節するポリヌクレオチドを有効成分とする歯周炎治療剤。
(2)前記ポリヌクレオチドが、hsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5pのmiRNA阻害剤であり、hsa−miR−365a-5pの発現をミミックするmiRNAミミックである(1)記載の歯周炎治療剤。
(3)前記miRNA阻害剤がhsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5pの配列と少なくとも90%以上相補的な配列を有するものであり、前記miRNAミミックがhsa−miR−365a-5pのmiRNA、pre−miRNA、pri−miRNA配列と少なくとも90%以上相同性を有するものである(2)記載の歯周炎治療剤。
(4)前記miRNA阻害剤が、miRNA阻害剤の5´末端におけるヌクレオチドのリン酸又はヒドロキシルに対する置換基を含む(2)又は(3)記載の歯周炎治療剤。
(5)前記置換基が、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2´O−Me、DMTO、フルオレセイン、チオール、またはアクリジンである(4)記載の歯周炎治療剤。
(6)前記miRNA阻害剤のポリヌクレオチド配列が、配列番号1(CAACATCAGTCTGATAAGCT)で示す配列である(2)〜(5)のいずれか1つ記載の歯周炎治療剤。
(7)前記ポリヌクレオチドが遺伝子治療用ベクターに組み込まれたものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1つ記載の歯周炎治療剤。
注射などによる局所投与が可能な歯周炎の治療薬を提供することができる。抗菌薬や抗炎症薬とは異なり、歯周炎の原因細胞を標的とした治療薬であることから、歯周炎を根本的に治療、予防することができる薬剤となる。また、抗菌薬や抗炎症薬とは異なり、副作用が低いことが期待される。
歯周炎関連線維芽細胞で、正常な歯肉組織由来の線維芽細胞と比較し発現が上昇していたmiRNAを示す図。 歯周炎関連線維芽細胞で、正常な歯肉組織由来の線維芽細胞と比較し発現が減少していたmiRNAを示す図。 正常な歯肉組織由来の線維芽細胞にmiR−21−5p mimicを強制発現させた細胞の形質変化を示す図。 歯周炎関連線維芽細胞にmiR−21−5p阻害剤を強制発現させた細胞の形質変化を示す図。
以下に詳細に説明するが、同一の患者から得られた歯周炎の原因細胞であるコラーゲン分解能が高い歯周炎関連線維芽細胞(PAFs)と、正常な歯肉組織由来の線維芽細胞(non-PAFs)を培養し、発現に差が見られるmiRNAを検出し、歯周炎発症の原因となる可能性の高いmiRNAを見出した。本発明の歯周炎治療剤、及び予防剤はこれらmiRNA、あるいはその阻害剤を有効成分とする。
本発明の歯周炎治療剤、若しくは予防剤は、有効成分であるmiRNA、又はその阻害剤を、miRNA、又はその前駆体であるPre−miRNA、Pri−miRNA、LNA(Locked nucleic acid)などの形態として投与することができれば、特に制限はなく、周知の方法(例えば非特許文献4)を用いて投与すればよい。投与方法としてはベクターを用いて投与してもよいし、送達試薬を用いてmiRNA又はその前駆体や阻害剤をそのまま投与してもよい。ベクターを用いる場合には、ウイルスベクター系、非ウイルスベクター系のどちらを用いてもよい。本発明の治療剤、若しくは予防剤はどのような投与方法によって投与してもよいが、患部へ注射、歯周ポケット内貼付あるいは塗布するなどの投与方法で投与することにより、治療が必要な患部へ局所的に投与することが好ましい。
注射剤として使用する場合には、当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。患部に挿入あるいは塗布して用いる場合には、クリーム剤、ゲル剤、液剤など、塗布に適した剤形にすればよく、適切な溶剤、増粘剤、乳化剤など当該分野において周知の添加剤を加えて調整することができる。
本発明の薬剤の有効成分であるmiRNA、若しくはその前駆体、又は阻害剤を直接導入する場合には、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法、マイクロインジェクション法など周知の方法によって核酸分子を細胞に導入する方法を利用し、患部の細胞に導入してもよい。
また、本発明のmiRNA、又はその阻害剤を生体内で転写、誘導させる場合には、miRNA、Pre−miRNA、阻害剤等をコードするDNAを発現ベクターに挿入して投与する方法も用いられる。ここで、発現ベクターとしては、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどを用いることができる。
本発明の薬剤の投与量は、疾患の重篤度、患者の年齢などを考慮して、当業者が決定することができる。また、本発明の薬剤の投与頻度としては、例えば、一日一回〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の頻度で投与することができる。
1.細胞培養
歯肉組織は、日本大学歯学部附属歯科病院、東京医科歯科大学歯学部附属病院において、歯周外科手術の際に得られた歯周組織から正常組織、歯周炎組織を得て歯肉線維芽細胞を単離、培養して用いた。なお、実験は各機関の倫理委員会の認可を受けたうえで、また、歯周組織は、患者にインフォームドコンセントを得たうえで採取している。
歯肉組織の単離培養方法は非特許文献5の方法によって行った。さらに、非特許文献1に記載のコラーゲンゲルの構築方法、三次元細胞培養方法によって、歯肉線維芽細胞を歯肉上皮細胞とともに培養することにより歯周炎関連線維芽細胞、あるいは正常歯肉線維芽細胞であるかを判別し、以下の解析に用いた。
同一の患者から得られた正常歯肉線維芽細胞とコラーゲン分解能が高い歯周炎関連線維芽細胞からmiRNAを単離し、以下の解析に用いた。したがって、遺伝的なバックグラウンドは同一の歯肉線維芽細胞において、歯周炎組織から得られたコラーゲン分解能が高い線維芽細胞と、正常な歯肉組織由来の線維芽細胞とのmiRNA発現の差を解析していることになる。用いた線維芽細胞の詳細については表1に記載する。
なお、表1中、PDは歯周ポケット深さを、GI(Gingival Index)は歯肉の炎症の程度を示し、GI2は0(なし)から3(重度)の指標において中程度の炎症であり、検査時に出血が確認された(BOP、Bleeding on probing+)ことを示す。
2.miRNAの単離
RNAはTRIzol(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いてトータルRNAを抽出した。精製したRNAの品質は、Bioanalyzer2100(アジレント社製)によって確認した。miRNAは、miRNAアレイ(Affymetrix GeneChip miRNA 4.0 Array、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、2578のヒト成熟miRNAについて解析を行った。得られたmiRNAの発現データは、Gene Expression Omnibus(GEO)によって解析を行った。
3.歯周炎関連線維芽細胞で特異的に発現が上昇しているmiRNA
miRNAアレイ解析によって2578のヒト成熟miRNAについて、同一の患者の歯周炎関連線維芽細胞と正常歯肉線維芽細胞との間で有意に発現が異なっているものを検出した。侵襲性歯周炎患者Aにおいては、35のmiRNAが、侵襲性歯周炎患者Bにおいては、54のmiRNAが、慢性歯周炎患者Cでは、94のmiRNAが各々の正常歯肉線維芽細胞と比較して有意に発現が上昇していた(図1)。
3人の患者で共通して発現の上昇が見られたhsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5pは、歯周炎との相関が高いmiRNAであると考えられるため、さらに詳細に解析を進めることにした。これら4種のmiRNAについては、定量的PCRを行い、検証を行ったところ、定量的PCRによっても発現が上昇していることが確認された。hsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5pは歯周炎と相関の高いmiRNAであることから、この発現を阻害することにより、歯周炎の治療を行うことができる可能性がある。
また、侵襲性歯周炎患者AとBとで共通して高発現が認められるhsa−miR−122−5p、hsa−miR−126−3p、hsa−miR−146a−5p、hsa−miR−539−5p、hsa−miR−6080については、侵襲性歯周炎を特徴付けるmiRNAである可能性がある。
また、侵襲性歯周炎患者Aと、慢性歯周炎患者Cとの間で差が認められた5種のmiRNA、侵襲性歯周炎患者Bと、慢性歯周炎患者Cとの間で差が認められた15種のmiRNAは、侵襲性歯周炎と慢性歯周炎との差を示すmiRNAである可能性もあるが、個人間での発現の差である可能性が高い。
4.歯周炎関連線維芽細胞で特異的に発現が減少しているmiRNA
さらに、歯周炎関連線維芽細胞において、正常歯肉線維芽細胞と比較して、発現が低下しているmiRNAについても解析を行った(図2)。その結果、侵襲性歯周炎患者Aにおいては14のmiRNAが、侵襲性歯周炎患者Bにおいては、68のmiRNAが、慢性歯周炎患者Cでは72のmiRNAが正常歯肉線維芽細胞と比較して有意に発現が低下していた。
特に、hsa−miR−365a-5pは、解析した歯周炎関連線維芽細胞すべてで発現低下が認められたことから、歯周炎との相関が高いmiRNAであると認められる。したがって、hsa−miR−365a-5pの発現を増加させることによって、歯周炎の治療を行うことができる可能性がある。また、hsa−miR−1224−5p、hsa−miR−1281、hsa−miR−4529−3pは、侵襲性歯周炎患者AとBとで共通して発現が低下しているmiRNAであり、侵襲性歯周炎を特徴付けるmiRNAである可能性がある。
5.hsa−miR−21−5p発現による細胞の形質変化
hsa−miR−21−5pが発現調節に関与していると報告されている遺伝子にはPTEN、FDCD4、RPS7、RECK、BCL2などをはじめとする多くの遺伝子が報告されている(非特許文献6)。また、hsa−miR−21−5pは、膠芽細胞腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などのがんで特異的に発現が認められていることから、診断や治療に用いることができることが報告されている。hsa−miR−21−5pは多くの疾患と関連が認められていることから、歯周炎の場合も疾患原因となっている可能性があると考え、詳細な解析を行った。
まず、hsa−miR−21−5p mimicを正常な歯肉組織由来の線維芽細胞(non−PAF)に導入し、形質が変化するか解析を行った。配列番号1に示すhsa−miR−21−5pの作用を再現することのできる核酸(EXIQON社製、LNA、21−5p mimic)、配列番号2に示すネガティブコントロール(EXIQON社製、LNA、microRNA Mimic Negative Control)をlipofectamine RNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いてリポフェンクションにより正常な歯肉由来の線維芽細胞に導入した。細胞は、リポフェクション後、一晩から24時間培養し、トリプシン処理によって細胞を回収し、非特許文献1に記載の方法によりコラーゲンゲルを用いて3次元培養を行った。
コラーゲンゲルを用いた3次元培養法によれば、細胞のコラーゲン分解能が高ければ、ゲルが収縮する。図3に示すように、21−5p mimicを導入した細胞は、コントロールと比較してゲル収縮が促されているのが観察された。
次に、hsa−miR−21−5pの作用を阻害する配列番号3で示す核酸(EXIQON社製、LNA、21−5p inhibitor)を上記と同様にして、3症例から得られた歯周炎関連線維芽細胞にリポフェクションにより導入し、コラーゲンゲルで培養して細胞の形質が変化するか解析を行った。
図4に示すように、21−5p inhibitorを導入した歯周炎関連線維芽細胞では、いずれもコントロール(配列番号2の核酸)に較べてゲルの収縮が阻害されるのが観察された。したがって、hsa−miR−21−5pは歯肉線維芽細胞においてコラーゲン分解に関わっており、歯周炎における歯周炎関連細胞のコラーゲン分解能に密接に関与していることが示唆された。
以上のように、miRNAアレイ解析の結果、hsa−miR−21−5pをはじめとするmiRNAが歯周炎発症の原因である可能性が強く示唆された。歯と歯槽骨との結合組織性付着の主成分であるコラーゲンを分解し、アタッチメント・ロスを引き起こす歯周炎原因細胞の形質を転換することのできるmiRNAは歯周炎の遺伝子治療を行う治療薬となる。

Claims (7)

  1. hsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5p、及び/又はhsa−miR−365a-5pからなる群より選択される1つ以上のmiRNAの歯肉組織中の含有量を調節するポリヌクレオチドを有効成分とする歯周炎治療剤。
  2. 前記ポリヌクレオチドが、
    hsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5pのmiRNA阻害剤であり、
    hsa−miR−365a-5pの発現をミミックするmiRNAミミックである請求項1記載の歯周炎治療剤。
  3. 前記miRNA阻害剤がhsa−miR−21−5p、hsa−miR−497−5p、hsa−miR−885−3p、hsa−miR−374b−5pの配列と少なくとも90%以上相補的な配列を有するものであり、
    前記miRNAミミックがhsa−miR−365a-5pのmiRNA、pre−miRNA、pri−miRNA配列と少なくとも90%以上相同性を有するものである請求項2記載の歯周炎治療剤。
  4. 前記miRNA阻害剤が、miRNA阻害剤の5´末端におけるヌクレオチドのリン酸又はヒドロキシルに対する置換基を含む請求項2又は3記載の歯周炎治療剤。
  5. 前記置換基が、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2´O−Me、DMTO、フルオレセイン、チオール、またはアクリジンである請求項4記載の歯周炎治療剤。
  6. 前記miRNA阻害剤のポリヌクレオチド配列が、 配列番号1(CAACATCAGTCTGATAAGCT)で示す配列である請求項2〜5のいずれか1項記載の歯周炎治療剤。
  7. 前記ポリヌクレオチドが遺伝子治療用ベクターに組み込まれたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の歯周炎治療剤。
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