以下、図面を参照しながら複数の実施形態を説明する。各形態において、先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において、構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を参照し適用することができる。
(第1実施形態)
図1に示す内燃機関10は、車両に搭載されて走行駆動源として機能する。内燃機関10の燃焼室から排出された排気は、排気管11内部の排気通路11aを通じて流れ、浄化装置20等で浄化された後に大気へ放出される。浄化装置20は、排気に含まれるNOx(窒素酸化物)を還元浄化する機能、および粒子状物質(PM)を捕集する機能を有する。浄化装置20は、排気管11に接続される通路部材21、通路部材21の内部に収容されて排気を浄化する基材22、および基材22に支持された触媒層を備える。
基材22はハニカム形状に形成されたセラミック製であり、基材22の外形形状は、排気流れ方向に延びる円柱形状である。基材22の円柱両端面のうち排気流れ上流側の端面は、排気流入口22aとして機能する。触媒層には、以下に説明する還元触媒成分および吸着成分が含まれている。還元触媒成分は、排気に含まれるNOxを還元するための成分であり、例えば白金が用いられる。吸着成分にはゼオライトが用いられており、後述するアンモニアを物理的に吸着する。
排気管11のうち浄化装置20の上流側部分には、還元剤を噴射する還元剤噴射弁30が取り付けられている。本実施形態では液体の還元剤(例えば尿素水)が用いられている。排気通路11aに噴射された尿素水は、排気熱により加水分解する。これにより、排気通路11aで気体のアンモニアが生成される。生成されたアンモニアは、排気流入口22aから基材22内部へ流入し、触媒層に吸着される。具体的には、触媒層に含まれる吸着成分にアンモニアが物理的に吸着される。
吸着されているアンモニアの一部は、触媒層に含まれる還元触媒成分上で、排気に含まれているNOxを還元する。したがって、厳密には、還元剤噴射弁30から噴射される尿素水の状態では還元剤とは言えず、尿素水の加水分解により生成されたアンモニアが還元剤として作用する。しかし本実施形態では、アンモニアの原料とも言える尿素水のことを、単に還元剤と呼ぶ場合があり、この尿素水が、特許請求の範囲に記載の還元剤に相当する。
還元剤噴射弁30は、ボデー31、弁体32および電気アクチュエータ33を備える。ボデー31は、弁体32および電気アクチュエータ33を内部に収容する。電気アクチュエータ33への通電により生じた電磁吸引力により、弁体32が開弁作動すると、ボデー31に形成された噴孔51(図3参照)から尿素水が排気通路11aへ噴射される。
ボデー31の一部は排気通路11aに位置して排気に晒されている。ボデー31のうち排気に晒されている部分には、尿素水を噴射する噴孔51が形成されている。本実施形態に係る還元剤噴射弁30は噴孔51を1つ備えているが、複数備えていてもよい。噴孔51から噴射された尿素水は円錐形状の噴霧F(図1参照)を形成する。
車両には、尿素水を貯留するタンク30Tと、タンク30Tに貯留された尿素水を還元剤噴射弁30へ圧送するポンプ30Pが搭載されている。ポンプ30Pは、電動モータにより駆動する電動式である。ポンプ30Pへ供給する電力を制御することで、還元剤噴射弁30へ供給される尿素水の圧力が制御され、ひいては、噴孔51からの尿素水の噴射圧力が制御される。
図示しない電子制御装置(以下、ECUと記載)は、電気アクチュエータ33への通電を制御することで、噴孔51からの尿素水の噴射開始と噴射停止を制御する。さらにECUは、ポンプ30Pが有する電動モータへの供給電力を制御することで、尿素水の噴射圧を制御する。本実施形態に係る還元剤噴射システムは、ECUおよび還元剤噴射弁30を備える。本実施形態に係る排気浄化システムは、還元剤噴射システムに加えて浄化装置20を備える。
次に、還元剤噴射弁30の構造について、図2を用いて詳細に説明する。
還元剤噴射弁30の電気アクチュエータ33は、電磁コイル331、固定コア332および可動コア333を有する。電磁コイル331へ通電すると、固定コア332および可動コア333に磁束が生じ、この磁束による電磁吸引力により可動コア333は固定コア332へ吸引される。可動コア333は弁体32に取り付けられているので、弁体32は可動コア333とともに、中心軸線C方向に往復移動する。
還元剤噴射弁30のボデー31は、基端側ボデー311、非磁性部材312、先端側ボデー313、磁性部材314、プレート部材40および噴孔部材50を有する。基端側ボデー311は、内部に固定コア332を保持する円筒形状である。非磁性部材312は、基端側ボデー311と先端側ボデー313との間に配置され、上述した磁束を遮断する。先端側ボデー313は、内部に弁体32を収容する円筒形状である。先端側ボデー313の円筒内周面には、弁体32の先端に設けられたシート面32sが離着座するシート面313sが形成されている(図3参照)。
基端側ボデー311の基端から供給された尿素水は、基端側ボデー311の内部通路311a、固定コア332の内部通路332a、可動コア333の内部通路333aおよび弁体32の内部通路32aを順に流通する。その後、内部通路32aの尿素水は、弁体32の側壁に形成された流出口32b(図2参照)および流出口32c(図3および)から流出する。そして、先端側ボデー313の内周面と弁体32の外周面との間に形成される環状通路313a、弁体32の先端に沿う合流通路313bを順に流通する。環状通路313aは、シート面313sに弁体32が離着座することで開閉される。合流通路313bは、環状通路313aにて環状に分布する尿素水を合流させて、中心軸線Cを含む円盤状に分布させる。なお、環状通路313a、合流通路313bおよび噴孔51の中心軸線は、弁体32の中心軸線Cと一致する。
図2〜図4に示すように、先端側ボデー313の先端には、プレート部材40および噴孔部材50が取り付けられている。プレート部材40は、先端側ボデー313と噴孔部材50の間に配置されている。例えば、先端側ボデー313、プレート部材40および噴孔部材50は溶接により接合されている。
プレート部材40は、合流通路313bを噴孔側から覆う円板形状のプレート41と、プレート41の外周端から先端側ボデー313の外周面に沿って延びる円筒部42とを有する。プレート41には、合流通路313bと連通する第1貫通穴43および第2貫通穴44が形成されている。第1貫通穴43および第2貫通穴44は、プレート41内で連通することなく互いに分離した状態で形成されている。
図5に示すように、第1貫通穴43および第2貫通穴44は、中心軸線Cの周りに延びる円弧形状である。第1貫通穴43の円弧長さと第2貫通穴44の円弧長さは同じである。第1貫通穴43および第2貫通穴44の外周縁の径方向位置は、合流通路313bの外周縁の径方向位置と同じである。プレート41の反噴孔側の面は、中心軸線Cに対して垂直に拡がる平坦な形状である。
噴孔部材50には、尿素水を噴射する噴孔51が1つ形成されている。噴孔51は、噴孔部材50の中心軸線C上に沿って中心軸線C方向に延びる形状であり、下流側であるほど通路断面積が大きくなる形状である(図5参照)。噴孔51の下流端開口51bは、中心軸線Cを中心とした円形である。噴孔部材50のうちプレート部材40と反対側の端面には、下流端開口51bを囲む環状溝52が形成されている。環状溝52を形成することで、噴孔部材50の端面のうち下流端開口51bの周縁部分に尿素水が表面張力で付着することを抑制させている。
噴孔部材50のうちプレート41に接触する面には、互いに異なる向きに延びて尿素水を流通させる第1流通部53および第2流通部54が形成されている。これらの流通部は、プレート41側に開口する溝形状であり、溝開口はプレート41によって覆われている。第1流通部53および第2流通部54は、同一平面上で延びるように配置され、径方向に直線状に延び、かつ、互いに並行に延びる形状である。
さらに、噴孔部材50のうちプレート41に接触する面には、第1流通部53を流通した尿素水と第2流通部54を流通した尿素水とを噴孔部材50の中心で合流させ、合流した尿素水を噴孔51へ導く合流部55が形成されている。合流部55は、渦生成部55aおよび渦流出部55bを有する(図4参照)。
渦生成部55aは、中心軸線C方向に延びる円柱形状である。渦生成部55aは、第1流通部53の下流端および第2流通部54の下流端と連通する。以下の説明では、第1流通部53から渦生成部55aへと流入する流入口を第1流入口53a、第2流通部54から渦生成部55aへと流入する流入口を第2流入口54aと呼ぶ。
渦流出部55bは、中心軸線Cに沿って延びる円錐形状であり、下流側であるほど通路断面積が小さくなる形状である。渦流出部55bの上流端は渦生成部55aの下流端と連通し、渦流出部55bの下流端は噴孔51の上流端と連通する。
次に、図5〜図7を用いて、合流通路313bから下流端開口51bに至るまでの尿素水の流れについて詳細に説明する。なお、以下の説明では第1貫通穴43のうち第1流通部53と連通する部分を第1連通部43aと呼び、第2貫通穴44のうち第2流通部54と連通する部分を第2連通部44aと呼ぶ。第1貫通穴43のうち第1連通部43aより一端側の部分および他端側の部分の各々を第1通路43b、43cと呼び、第2貫通穴44のうち第2連通部44aより一端側の部分および他端側の部分の各々を第2通路44b、44cと呼ぶ。そして、第1連通部43aは第1貫通穴43の中央部分に配置され、2つの第1通路43b、43cの通路長さは同一である。同様にして、第2連通部44aは第2貫通穴44の中央部分に配置され、2つの第2通路44b、44cの通路長さは同一である。
環状通路313aから合流通路313bへ合流した尿素水は、第1貫通穴43および第2貫通穴44へ流入する。詳細には、合流通路313bのうち第1貫通穴43および第2貫通穴44の直上に位置する尿素水は、そのまま第1貫通穴43および第2貫通穴44へ流入する。上記直上から外れた位置の尿素水は、図5中の矢印F1に示すように、プレート41面に沿って流れて、第1貫通穴43および第2貫通穴44へ流入する。
第1貫通穴43へ流入した尿素水は、第1連通部43aへ向けて流れる。そして、第1貫通穴43の円弧両端の一端側から第1連通部43aへ向けて流れる尿素水(矢印F2参照)と、他端側から第1連通部43aへ向けて流れる尿素水(矢印F3参照)とが、第1連通部43aで衝突する。つまり、2つの第1通路43b、43cをそれぞれ流れた尿素水が、第1連通部43aで正面衝突する。この衝突により尿素水の乱流エネルギが増大され、大きな乱流エネルギを有した状態、つまり多数の細かい渦を有した状態の尿素水が、第1流通部53の両端のうち径方向外側の端部へ流入する。
同様にして、第2貫通穴44の円弧両端の一端側から第2連通部44aへ向けて流れる尿素水と、他端側から第2連通部44aへ向けて流れる尿素水とが、第2連通部44aで衝突する。つまり、2つの第2通路44b、44cをそれぞれ流れた尿素水が、第2連通部44aで正面衝突する。この衝突により尿素水の乱流エネルギが増大され、大きな乱流エネルギを有した状態、つまり多数の細かい渦を有した状態の尿素水が、第2流通部54の両端のうち径方向外側の端部へ流入する。
第1流通部53および第2流通部54の各々へ流入した尿素水は、合流部55の渦生成部55aへ向けて流れる。そして、第1流通部53を流れて第1流入口53aから渦生成部55aへ流入した尿素水(矢印F4参照)と、第2流通部54を流れて第2流入口54aから渦生成部55aへ流入した尿素水(矢印F5参照)とが、渦生成部55aで衝突する。
詳細には、第1流入口53aと第2流入口54aは対向配置されているので、第1流入口53aから流入した尿素水と第2流入口54aから流入した尿素水とが正面衝突する。この衝突により尿素水の乱流エネルギが増大され、大きな乱流エネルギを有した状態、つまり多数の細かい渦を有した状態の尿素水が渦生成部55aから渦流出部55bへと流れる。上述した乱流エネルギとは、尿素水に含まれる複数の渦の運動エネルギの総和であるとも言える。
このように乱流エネルギが増大された尿素水は、体積を拡大させようとしながら渦流出部55bおよび噴孔51へと順に流通し、その後も、体積を拡大させようとしながら下流端開口51bから噴射される。そのため、下流端開口51bから噴射した直後も、体積を拡大させようとするので、噴霧Fの角度が大きくなる。
なお、内部通路311a、332a、333a、32a、環状通路313a、合流通路313b、第1貫通穴43、第2貫通穴44、第1流通部53、第2流通部54および合流部55は、噴孔51へ還元剤を供給する供給流路30Fに相当する。また、第1貫通穴43は、一端側から流入した尿素水と他端側から流入した尿素水とを衝突させるとともに、その衝突後の尿素水を第1流通部53へ導く第1流路部に相当する。第2貫通穴44は、一端側から流入した尿素水と他端側から流入した尿素水とを衝突させるとともに、その衝突後の尿素水を第2流通部54へ導く第2流路部に相当する。
次に、供給流路30Fの各部位の寸法について説明する。
噴孔51の直径D1(図4参照)は、渦生成部55aの直径D2(図6参照)より小さい。弁体32の開閉作動方向(中心軸線C方向)における第1流通部53の深さ寸法L2と、第2流通部54の深さ寸法L2とは同一である。合流部55の深さ寸法L3は、第1流通部53の深さ寸法L2よりも長い(図4参照)。渦生成部55aは、中心軸線C方向から見て、第1流通部53の幅寸法L5および第2流通部54の幅寸法L5を拡幅させた形状である。つまり、渦生成部55aの直径D2は上記幅寸法L5よりも大きい(図6参照)。なお、第1流通部53の幅寸法L5および第2流通部54の幅寸法L5は同一である。
ここで、第1貫通穴43および第2貫通穴44の深さ寸法L1の、第1流通部53および第2流通部54の深さ寸法L2に対する比率を、以下の説明ではL1/L2と記載する。なお、第1貫通穴43の深さ寸法L1が第1流路深さに相当し、第1流通部53の深さ寸法L2が第1流通深さに相当する。
本発明者らは、供給通路30F内での尿素水の乱流エネルギ分布と、L1/L2との関係をシミュレーションした。図8中の(1)欄ではL1/L2を0.24とした場合、(2)欄ではL1/L2を0.6とした場合、(3)欄ではL1/L2を1.2とした場合を示す。また、図8は、図6のVIII−VIII線に沿う断面を表現しており、乱流エネルギの大きさを符号E1〜E4に示す4段階に区分けして表現している。符号E1にて斜線を付した領域は、乱流エネルギが最も大きい領域を示し、E1、E2、E3、E4の順に乱流エネルギが小さくなっていく。
このシミュレーション結果から、本発明者らは以下の知見を得た。L1/L2を0.6とした(2)欄の場合、(1)欄と比較してE1領域が拡大している。また、L1/L2を1.2とした(3)欄の場合、(2)欄と比較してE1領域が下方にずれている。そのため、符号W1、W2に示す点線内の分布を比較して分かるように、渦生成部55aにおけるE1領域の大きさは、(3)欄の方が(2)欄より小さい。これらの結果は、渦生成部55aでの乱流エネルギを大きくするには、L1/L2の最適範囲が存在することを意味する。
その最適範囲は、図9に示すように0.24以上1.2未満であり、特にL1/L2が0.5の場合に、渦生成部55aでの乱流エネルギがピークとなる。なお、図9の縦軸に示す乱流エネルギは、渦生成部55aに分布する乱流エネルギの総和であり、渦生成部55aに占めるE1領域が大きいほど、図9の縦軸に示す乱流エネルギは大きな値となる。このシミュレーション結果を鑑みて、本実施形態ではL1/L2が0.24以上1.2未満となるように、より具体的にはL1/L2が0.5となるように、供給流路30Fは形成されている。
また、第1貫通穴43での尿素水の流れ方向に垂直、かつ弁体の開閉作動方向(中心軸線C方向)に垂直な方向を幅方向と呼ぶ。その幅方向における第1貫通穴43の寸法L4が第1流路幅に相当し、幅方向における第1流通部53の寸法L5が第1流通幅に相当する(図6参照)。また、第1流路幅L4の、第1流通幅L5に対する比率を、以下の説明ではL4/L5と記載する。
そして本発明者らは、乱流エネルギの分布総和とL4/L5との関係について、図10に示すシミュレーション結果も得ている。この結果によれば、渦生成部55aでの乱流エネルギを大きくするには、L4/L5の最適範囲が存在することを意味する。その最適範囲は、図10に示すように0.4以上0.6未満であり、特にL4/L5が0.5の場合に、渦生成部55aでの乱流エネルギがピークとなる。このシミュレーション結果を鑑みて、本実施形態ではL4/L5が0.4以上0.6未満となるように、より具体的にはL4/L5が0.5となるように、供給流路30Fは形成されている。
なお、L1/L2に係る図9のシミュレーションは、L4/L5が0.4以上0.6未満の範囲であれば、同様の結果になることを確認している。つまりL1/L2を増大させていくと、乱流エネルギは、0.24から急上昇し、0.5でピークとなり、1.2から急降下する。
以上により、本実施形態によれば、噴孔51へ尿素水を供給する供給流路30Fは、第1貫通穴43(第1流路部)、第2貫通穴44(第2流路部)、第1流通部53、第2流通部54および合流部55を有する。各々の貫通穴43、44は、一端側から流入した尿素水と他端側から流入した尿素水とを衝突させる流路を形成する。各々の流通部53、54は、各々の貫通穴43、44と連通し、貫通穴で衝突した尿素水を流通させる。そして合流部55は、各々の流通部53、54を流通した尿素水を合流させ、合流した尿素水を噴孔51へ導く。
これによれば、第1貫通穴43と第2貫通穴44の各々で還元剤同士を衝突(プレ衝突)させ、そのプレ衝突した還元剤同士がさらに合流部55で衝突することとなる。このように、合流部55で衝突させる前に第1連通部43aおよび第2連通部44aの各々でプレ衝突させておくので、プレ衝突の分だけ尿素水の乱流エネルギを増大できる。そして、乱流エネルギが大きいほど、噴霧Fの体積を拡大しようとする力が大きく作用するので、体積拡大傾向の強い状態で尿素水を噴孔51へ導くことができる。したがって、本実施形態によれば、噴孔51から噴射される尿素水を、径方向に大きく拡がった状態の噴霧Fにすることができ、尿素水の噴霧Fの広角化を図ることができる。
なお、図7に示す比較例では、本実施形態に係る第1貫通穴43および第2貫通穴44を、第1通路43b、43cを廃止した第1貫通穴43Pおよび第2通路44b、44cを廃止した第2貫通穴44Pに置き換えている。この場合、合流通路313bに分布する尿素水が、第1貫通穴43および第2貫通穴44の周囲から均等に流入するので、第1貫通穴43および第2貫通穴44での尿素水の衝突は殆ど生じない。これに対し本実施形態では、第1貫通穴43Pは第1通路43b、43cを有し、第2貫通穴44Pは第2通路44b、44cを有するので、第1貫通穴43および第2貫通穴44で尿素水が衝突することが促される。
さらに本実施形態では、第1貫通穴43と第2貫通穴44とが直接連通せずに分離している。つまり、第1貫通穴43の両端と第2貫通穴44の両端とが連通して環状になることはなく、第1貫通穴43と第2貫通穴44の各々が円弧形状になっている。
ここで、本実施形態に反し、第1貫通穴43の両端と第2貫通穴44の両端とが連通して環状になっていると、環状流路の最上流部分、つまり上記連通した部分の尿素水は、第1連通部43aと第2連通部44aのいずれに向かって流れるかの方向が定まりにくい。そのため、第1連通部43aおよび第2連通部44aに至るまでの尿素水の流速を十分に高めることができない。よって、プレ衝突を十分に高めることができず、乱流エネルギを十分に促進できない。
これに対し本実施形態によれば、第1貫通穴43と第2貫通穴44が分離しているので、これらの貫通穴43、44へ流入した尿素水は、いずれの連通部43a、44aに向かって流れるかが定まる。そのため、第1通路43b、43cを流れて第1連通部43aに達した時点での尿素水の流速、および第2通路44b、44cを流れて第2連通部44aに達した時点での尿素水の流速を増大できる。よって、プレ衝突を促進させて乱流エネルギを増大でき、ひいては尿素水の噴霧Fの広角化を促進できる。
さらに本実施形態では、第1貫通穴43の流路長のうち、第1連通部43aより一端側の流路長と、第1連通部43aより他端側の流路長とが同一である。つまり2つの第1通路43b、43cの通路長は同一である。そのため、第1貫通穴43のうち第1流通部53に連通する部分、つまり第1連通部43aで尿素水がプレ衝突するので、プレ衝突した直後の乱流エネルギが高い状態のまま尿素水を第1流通部53へ流入させることができる。したがって、合流部55での衝突後における乱流エネルギを増大でき、噴霧Fの広角化を促進できる。
第2貫通穴44についても同様であり、2つの第2通路44b、44cの通路長は同一であるため、第2貫通穴44のうち第2流通部54に連通する部分、つまり第2連通部44aで尿素水がプレ衝突する。そのため、プレ衝突した直後の乱流エネルギが高い状態のまま尿素水を第2流通部54へ流入させることができるので、合流部55での衝突後における乱流エネルギを増大でき、噴霧Fの広角化を促進できる。
さらに本実施形態に係る還元剤噴射弁30は、先端側ボデー313と、噴孔51が形成された噴孔部材50と、プレート部材40と、を備える。先端側ボデー313は、シート面313sを形成するとともに弁体32を内部に収容する。プレート部材40は、先端側ボデー313と噴孔部材50との間に隣接して配置されている。そして、第1流通部53および第2流通部54は噴孔部材50に形成され、第1貫通穴43および第2貫通穴44はプレート部材40に形成される。
これによれば、第1貫通穴43および第2貫通穴44の噴孔側開口が噴孔部材50で覆われ、反噴孔側開口が先端側ボデー313で覆われる。そのため、貫通穴43、44が形成されたプレート部材40を準備し、そのプレート部材40を先端側ボデー313と噴孔部材50の間に挟み込むことで、流路部43、44でのプレ衝突と合流部55での衝突との2段階で衝突させる構造を容易に実現できる。
さらに本実施形態では、合流部55の渦生成部55aは、中心軸線C方向から見て、第1流通部53の幅寸法L5および第2流通部54の幅寸法L5を拡幅させた形状である。そのため、渦生成部55aで多数の渦を生成するスペースを十分に確保でき、尿素水の渦生成を促進して噴霧Fの広角化を促進できる。
さらに本実施形態では、図9に示すシミュレーション結果を鑑み、L1/L2が0.24以上1.2未満となるように供給流路30Fは形成されているので、渦生成部55aでの乱流エネルギを増大でき、噴霧Fの広角化を促進できる。
さらに本実施形態では、図10に示すシミュレーション結果を鑑み、L4/L5が0.4以上0.6未満となるように供給流路30Fは形成されているので、渦生成部55aでの乱流エネルギを増大でき、噴霧Fの広角化を促進できる。
(他の実施形態)
特許請求の範囲に記載の還元剤噴射弁は、上述した実施形態に何ら制限されることなく、以下に例示するように種々変形して実施することが可能である。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
上記第1実施形態では、第1貫通穴43および第2貫通穴44の幅方向寸法L4(流路幅)が一定である。これに対し、これらの流路幅が徐々に小さくなっていく形状であってもよい。上記第1実施形態では、第1流通部53および第2流通部54の幅方向寸法L5(流通幅)が一定である。これに対し、これらの流通幅が徐々に小さくなっていく形状であってもよい。
上記第1実施形態では、合流部55は、中心軸線C方向から見て、第1流通部53の幅寸法L5および第2流通部の幅寸法L5を拡幅させた形状であるが、これらの幅寸法L5を縮小させた形状であってもよい。例えば、渦生成部55aの直径D2は、第1流通部53および第2流通部の幅寸法L5より大きくてもよいし、小さくてもよい。
上記第1実施形態では、第1流通部53および第2流通部54は、同一平面上に配置され、中心軸線Cに対して垂直に延びる形状である。これに対し、第1流通部53および第2流通部54は、中心軸線Cを含む断面視(図4参照)において、中心軸線Cに垂直な平面に対して傾斜する向きに延びる形状であってもよい。例えば第1流通部53および第2流通部54は、中心軸線Cに垂直な面に対し傾斜する向きに延びる形状であってもよい。
上記各実施形態では、合流部55の直径D2は、第2流通部54または合流部55の流路長さより小さく設定されているが、これらの流路長さより大きく設定されていてもよい。
上記各実施形態では、第1貫通穴43および第2貫通穴44が同じ形状であり、第1流通部53および第2流通部54が同じ形状であるが、異なる形状としてもよい。また、これらを中心軸線Cに対して対称に配置することに換え、非対称に配置してもよい。
上記各実施形態では、噴孔部材50に形成される噴孔51の数は1つである。これに対し、複数の噴孔51を噴孔部材50に形成してもよい。例えば、複数の噴孔を1つの合流部55から分岐させ、合流部55内の尿素水が複数の噴孔へ分配されるように構成すればよい。
上記各実施形態では、第1貫通穴43(第1流路部)と第2貫通穴44(第2流路部)とが直接連通せずに分離しているが、これらの貫通穴43、44はプレート部材40で連通していてもよい。例えば、第1貫通穴43の第1通路43bの一端と、第2貫通穴44の第2通路44bの一端とが連通していてもよい。
上記各実施形態では、第1貫通穴43の流路長のうち、第1連通部43aより一端側の流路長と第1連通部43aより他端側の流路長とが同一であるが、これらの流路長が異なっていてもよい。同様にして、第2貫通穴44の流路長のうち、第2連通部44aより一端側の流路長と第2連通部44aより他端側の流路長とは、同一であってもよいし異なっていてもよい。
上記各実施形態では、ボデー31と噴孔部材50との間に隣接して配置されたプレート部材40に、第1貫通穴43(第1流路部)および第2貫通穴44(第2流路部)が形成されている。これに対し、プレート部材40を廃止して、ボデー31または噴孔部材50に貫通穴43、44が形成されていてもよい。
上記各実施形態では、プレート部材40の材質は金属製であるが、樹脂製であってもよい。同様にして、噴孔部材50の材質は金属製であることに限らず、樹脂製であってもよい。上記各実施形態に係る還元剤噴射弁は、還元剤として尿素水を噴射するものであるが、還元剤として液体の炭化水素化合物を噴射するものであってもよい。