以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
<第1の実施の形態>
[心拍数の計測処理の概要]
図1〜図3を参照して、計測装置100による生体の心拍数の計測方法について説明する。図1は、生体の心拍数を計測するための計測装置100の主な構成を示す図である。
図1に示されるように、計測装置100は、ドップラセンサ40と、ハイパスフィルタ(HPF)64と、基本波検出部66と、設定部67と、心拍抽出部68とを含む。
ドップラセンサ40は、計測対象の生体Pにマイクロ波を照射し、生体Pからマイクロ波の反射波を受信する。生体Pは、たとえば、人物などの動物である。生体Pがドップラセンサ40に近付くと反射波の周波数は高くなり、生体Pがドップラセンサから遠ざかると反射波の周波数は低くなる。すなわち、生体Pの呼吸や心拍によりドップラ信号の位相が変化する。そのため、照射したマイクロ波とその反射波との間で位相差(所謂ドップラシフト)が生じる。ドップラセンサ40は、当該位相差に相関するドップラ信号を出力する。ドップラ信号は、HPF64に出力される。
HPF64は、設定されたカットオフ帯域の低周波成分をドップラ信号から除去する。HPF64のカットオフ帯域は、設定部67によって設定される。一例として、カットオフ帯域の上限値が設定部67によって設定され、当該上限値以下の周波数帯域の信号成分がドップラ信号から除去される。
図2は、HPF64のカットオフ帯域を決定する原理を説明するための図である。図2を参照して、その原理について説明する。
図2には、グラフG1〜G3が示されている。グラフG1〜G3は、ドップラ信号のスペクトルを示す。すなわち、グラフG1〜G3は、各周波数帯域についてのドップラ信号の信号強度を示す。
より具体的には、グラフG1〜G3の横軸は、周波数を表わす。当該横軸の単位は、Hzで表わされる。周波数に「60」を掛けると1分間辺りの生体の振動数となり、当該振動数は、生体の心拍数や呼吸数を表わす。心拍数や呼吸数の単位は、「bpm(Beats Per Minute)」で表わされるため、グラフG1〜G3の横軸は、「bpm」で表わされもよい。グラフG1〜G3の縦軸は、信号強度を示す。
グラフG1〜G3に示されるように、ドップラ信号は、生体の心拍に起因して生じる心拍成分A1〜A3と、生体の呼吸に起因して生じる呼吸成分B1〜B3,B5とを含み得る。呼吸信号の波形は三角波に近く、三角波のスペクトルには、当該三角波の周波数に相当する信号成分だけでなく、当該三角波の周期の奇数倍に相当する高次周波数成分が含まれる。そのため、ドップラ信号の周波数成分には、実際の生体の呼吸数に相当する呼吸成分B1だけでなく、呼吸数の整数倍に相当する周波数成分も含まれ得る。特に、呼吸数の3倍に相当する呼吸成分B3の信号強度が強くなる。呼吸信号の振幅は、心拍信号の振幅の約10倍以上であるため、呼吸成分B3は、心拍数を抽出する上で大きなノイズとなる。そこで、本実施の形態に従う計測装置100は、呼吸成分B1だけでなく、高次周波数成分の呼吸成分B3を除去した上で生体の心拍数を抽出する。
一例として、設定部67は、予め準備されているカットオフ帯域HR1〜HR3のいずれかを選択し、当該選択したカットオフ帯域をHPF64に設定する。
カットオフ帯域HR1がHPF64に設定された場合には、0.8Hz以下(48bpm以下)の信号成分がドップラ信号から除去される。この場合、呼吸成分B1,B2はドップラ信号から除去されるが、呼吸成分B3はドップラ信号から除去されない。
カットオフ帯域HR2がHPF64に設定された場合には、1.1Hz以下(66bpm以下)の信号成分がドップラ信号から除去される。この場合、呼吸成分B1〜B3はドップラ信号から除去される。
カットオフ帯域HR3がHPF64に設定された場合には、1.4Hz以下(84bpm以下)の信号成分がドップラ信号から除去される。この場合、呼吸成分B1〜B3が除去されるだけでなく、心拍成分A1が除去される。
このような好適なカットオフ帯域は、生体の心拍数によって決定することができる。そのため、生体の心拍数とHPF64のカットオフ帯域との対応関係は、実験などによって心拍情報122として予め規定され得る。設定部67は、心拍情報122に基づいて、HPF64のカットオフ帯域を決定する。
図3は、心拍情報122のデータ構造の一例を示す図である。図3に示されるように、心拍情報122において、心拍数の範囲を表わす心拍レンジごとにHPF64のカットオフ帯域が規定される。好ましくは、さらに、後述のローパスフィルタのカットオフ帯域が心拍情報122に規定される。ローパスフィルタのカットオフ帯域については後述する。
ユーザは、心拍情報122に規定されている心拍レンジの中から、自身の心拍数を含む心拍レンジを選択し、当該心拍レンジを基準心拍レンジとして計測装置100に予め設定しておく。設定部67は、心拍数の計測指示を受け付けると、心拍情報122に規定されているカットオフ帯域の中から、基準心拍レンジに対応付けられているカットオフ帯域を特定し、当該カットオフ帯域をHPF64に設定する。HPF64は、設定されたカットオフ帯域の低周波成分を除去し、その除去後の心拍信号を基本波検出部66に出力する。
心拍抽出部68は、HPF64から得られた心拍信号の周波数成分に基づいて、生体の心拍数を抽出する。より具体的には、基本波検出部66は、心拍信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を実行し、周波数帯域ごとの信号強度を表わす周波数分布データ(すなわち、スペクトルデータ)を作成する。基本波検出部66は、その周波数分布データの中から最も信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。なお、基本波検出部66は、自己相関関数やウェーブレット変換を用いて基本波データを検出してもよい。心拍抽出部68は、基本波データを60倍することで、生体の心拍数を算出する。
このように、計測装置100は、HPF64において呼吸成分B1だけでなく、高次周波数成分である呼吸成分B3をドップラ信号から除去し、当該除去後の心拍信号に基づいて生体の心拍数を抽出する。高次周波数成分である呼吸成分B3が除去されることで、生体の心拍数がよりも正確に計測される。
このような非接触での心拍数の計測装置100は、様々なシチュエーションにおいて利用される。一例として、計測装置100は、車の運転時における運転者の心拍数を計測するために利用される。あるいは、計測装置100は、介護施設または医療施設における患者の心拍数を計測するために利用される。
好ましくは、設定部67は、基準心拍レンジが変更されたことに基づいて、変更後の基準心拍レンジに対応する周波数帯域を心拍情報122から新たに特定し、当該周波数帯域をHPF64のカットオフ帯域として再設定する。すなわち、HPF64に設定されるカットオフ帯域は、基準心拍レンジ124の設定に連動して切り替えられる。
なお、上述では、基準心拍レンジがユーザによって予め設定されている例について説明を行ったが、基準心拍レンジは、「第3の実施の形態」で説明するように自動で設定されてもよい。
また、図3の心拍情報122では、心拍レンジが3つに分けられて規定されている例について説明を行ったが、心拍レンジは、2つに分けられて規定されていてもよいし、4つ以上に分けられて規定されていてもよい。
[計測システム1000]
図4は、第1の実施の形態に従う計測システム1000の全体構成を示す図である。図4を参照して、計測システム1000は、被検者を監視するための計測装置100と、端末装置200とを含む。端末装置200は、計測装置100による計測結果を受信するための端末であり、たとえば、スマートフォンである。ただし、端末装置200は、折り畳み式携帯電話、タブレット端末装置、PC(personal computer)などのような他の機器であってもよい。
計測装置100と、端末装置200とを互いに接続するためのネットワーク55は、インターネットなどの各種ネットワークを含む。ネットワーク55は、これに限られず、有線通信方式を採用してもよいし、無線LAN(local area network)などのその他の無線通信方式を採用してもよい。
計測装置100は、主な構成要素として、ドップラセンサ40と、制御回路152と、メモリ154と、スピーカ156と、通信インターフェイス158とを含む。なお、計測装置100は、各種情報を表示するためのディスプレイと、ユーザからの各種入力を受け付けるボタンなどの入力装置とを含んでいてもよい。
制御回路152は、典型的には、CPUなどを含むマイクロプロセッサと、ドップラセンサ40からのアナログ信号を処理するアナログ信号処理回路と、AD(Analog to Digital)コンバータとを含む。制御回路152の詳細な構成については後述する。マイクロプロセッサは、メモリ154に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、計測装置100の各部の動作を制御する制御部として機能する。たとえば、マイクロプロセッサは、当該プログラムを実行することによって、後述する制御回路152の処理を実現する。
メモリ154は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)などによって実現される。メモリ154は、マイクロプロセッサによって実行されるプログラム、またはマイクロプロセッサによって用いられるデータなどを記憶する。
スピーカ156は、マイクロプロセッサから与えられる音声信号を音声に変換して計測装置100の外部へ出力する。通信インターフェイス158は、マイクロプロセッサからの通信データを符号化し通信信号に変換し、通信信号を端末装置200へ送信する。また、端末装置200から受信信号を復号化して通信データに変換しマイクロプロセッサに出力する。通信方式は、無線LANなどによる無線通信方式であってもよいし、USB(Universal Serial Bus)などを利用した有線通信方式であってもよい。
ドップラセンサ40は、生体Pにマイクロ波を照射し、反射してきたマイクロ波から、生体Pの身体の動きなどを反映する信号を制御回路152に出力する。また、ドップラセンサ40は、入力された反射信号から、互いに直交するIチャネル信号およびQチャネル信号を生成する。
具体的には、ドップラセンサ40は、発振回路21と、増幅器22A,22Bと、送信アンテナ25と、受信アンテナ30と、ミキサ32I,32Qと、LPF33I,33Qと、90度移相器38とを含む。送信アンテナ25および受信アンテナ30は、平面アンテナで構成されている。なお、送信アンテナ25および受信アンテナ30は、導波管アンテナ、あるいは、誘電体アンテナで構成されていてもよい。
発振回路21から出力されたマイクロ波正弦波信号は、増幅器22Aによって増幅され、送信アンテナ25から照射される。空間に照射されたマイクロ波Mtは、対象物である生体Pの体表(たとえば、胸部)で反射される。照射されたマイクロ波の反射波Mrには、生体Pの身体の動き(体動)と、呼吸動作および心拍動作とに対応したドップラシフトが生じている。そのため、受信アンテナ30に入力される反射波Mrの信号(反射信号)は、生体Pの体動、呼吸動作および心拍動作に対応した信号となる。
受信アンテナ30により受信された反射信号は、増幅器22Bによって増幅される。当該増幅後の信号Drは、Iチャネル側のミキサ32IおよびQチャネル側のミキサ32Qに入力される。ここでは、Iチャネル側に入力される信号Drを便宜上「Dri」と称し、Qチャネル側に入力される信号Drを便宜上「Drq」と称する。
増幅器22Aによって増幅された信号Dtは、Iチャネル側のミキサ32Iと、90度移相器38を介してミキサ32Qとに入力される。ここでは、Iチャネル側に入力される信号Dtを便宜上「Dti」と称し、Qチャネル側に入力される信号Dtを便宜上「Dtq」と称する。なお、本実施の形態では、90度移相器38を用いることにより、信号Dtiに対する信号Dtqの位相を90度ずらす構成について説明するが、当該構成に限られない。たとえば、90度移相器38を用いることにより、信号Driに対する信号Drqの位相を90度ずらす構成であってもよい。
ミキサ32Iにより周波数変換(ダウンコンバージョン)された信号は、LPF33Iに入力される。LPF33Iは、当該信号から比較的高い周波数成分を除去した信号を、Iチャネル側のベースバンド信号Dbiとしてアナログ信号処理回路41に出力する。また、ミキサ32Qにより周波数変換された信号は、LPF33Qに入力される。LPF33Qは、当該信号から比較的高い周波数成分を除去した信号を、Qチャネル側のベースバンド信号Dbqとして制御回路152に出力する。当該ベースバンド信号Dbi,Dbqは、それぞれ、生体Pの体動によって、ドップラシフトを受けたドップラ信号として出力される。
受信アンテナ30に入力される反射信号の速度および振幅は、時間とともに変化する。そのため、Iチャネル側の信号およびQチャネル側の信号は、瞬時的には90度位相が異なっているものの、信号の速度および方向に応じて、ベースバンド信号Dbiに対するベースバンド信号Dbqの位相の進み方は、一定でなく常に時間変動することになる。
[制御回路152]
図5は、第1の実施の形態に従う制御回路152の詳細な構成を説明するためのブロック図である。図5を参照して、制御回路152は、アナログ信号処理回路41と、ADコンバータ43と、マイクロプロセッサ45とを含む。典型的には、マイクロプロセッサ45は、デジタル信号処理に特化したデジタルシグナルプロセッサ(digital signal processor:DSP)である。
アナログ信号処理回路41は、ドップラセンサ40から入力された信号のうちの不要な周波数帯域の成分を除去して、ADコンバータ43に出力する。具体的には、アナログ信号処理回路41は、心拍成分の帯域(0.7Hz〜20Hz)のIチャネルのアナログ信号ShiおよびQチャネルのアナログ信号Shqを出力し、体動成分の帯域(0.1Hz〜40Hz)のIチャネルのアナログ信号StiおよびQチャネルのアナログ信号Stqを出力する。なお、体動成分の帯域には、呼吸成分の帯域も含まれる。
ADコンバータ43は、入力された信号を16ビット(または、12ビット)AD変換する。具体的には、ADコンバータ43は、アナログ信号Shi,Shq,Sti,Stqの入力を受け付け、所定のサンプリングレート(たとえば、10msec)にて、アナログ信号Shi,Shq,Sti,Stqをデジタル信号に変換してマイクロプロセッサ45に出力する。なお、各デジタル信号Shi,Shq,Sti,Stqは、電圧振幅に応じた±の信号として、適宜オフセット調整される。
マイクロプロセッサ45は、各デジタル信号Shi,Shq,Sti,Stqを用いて各種の処理を実行する。具体的には、マイクロプロセッサ45は、主な機能構成として、体動検出部50と、出力制御部52と、心拍演算部60と、呼吸演算部70とを含む。
心拍演算部60は、各デジタル信号Shi,Shqの入力を受け付けて、各種処理を実行する。具体的には、心拍演算部60は、Iチャネル側のハイパスフィルタ(HPF)64Iと、Qチャネル側のHPF64Qと、Iチャネル側のLPF65Iと、Qチャネル側のLPF65Qと、Iチャネル側の基本波検出部66Iと、Qチャネル側の基本波検出部66Qと、設定部67と、心拍抽出部68とを含む。
HPF64I,64Qは、それぞれデジタル信号Shi,Shqの低周波成分(特に、呼吸成分の帯域)を除去することにより、デジタル信号Hai,Haqを生成する。以下では、HPF64I,64Qの少なくとも一方をHPF64とも称する。
HPF64のカットオフ帯域は、上述したように、設定部67によって設定される。より具体的には、設定部67は、心拍情報122に規定されている心拍レンジの中から、計測対象者の心拍数が属する基準心拍レンジ124に一致または略一致するものを特定し、当該特定された心拍レンジに対応付けられている周波数帯域をHPF64のカットオフ帯域として設定する。基準心拍レンジ124は、ユーザによって予め設定されていてもよいし、自動で設定されてもよい。
LPF65I,65Qは、それぞれデジタル信号Hai,Haqの高周波成分を除去することにより、デジタル信号Hbi,Hbqを生成する。以下では、LPF65I,65Qの少なくとも一方をLPF65とも称する。LPF65のカットオフ帯域は、設定部67によって設定される。より具体的には、設定部67は、心拍情報122に規定されている心拍レンジの中から、基準心拍レンジ124に一致または略一致するものを特定し、当該特定された心拍レンジに対応付けられている周波数帯域をLPF65のカットオフ帯域として設定する。LPF65Iは、デジタル信号Hbiを基本波検出部66Iに出力し、LPF65Qは、デジタル信号Hbqを基本波検出部66Qに出力する。
基本波検出部66I,66Qは、それぞれデジタル信号Hbi,Hbqを用いて心拍数を演算する。具体的には、基本波検出部66Iは、所定時間(たとえば、30秒)蓄積されたデジタル信号Hbiを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)し、個々の信号成分に分解した後、各成分を周波数スペクトラム上に表わす処理を行ない、周波数分布データを作成する。基本波検出部66Iは、周波数分布データのうち、最も強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。なお、基本波検出部66I,66Qは、自己相関関数やウェーブレット変換を用いて基本波データを検出してもよい。
基本波検出部66Iは、基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの心拍の数である心拍数Hiを算出する。同様に、基本波検出部66Qは、デジタル信号Hbqを用いて心拍数Hqを算出する。
心拍抽出部68は、心拍数Hiおよび心拍数Hqを平均化して心拍数Hnを算出する。なお、心拍抽出部68は、デジタル信号Hbi,Hbqを統合して、適宜閾値を設けることにより、ノイズレベルの強度の小さい信号や周期性の乏しい信号を除去してもよい。
呼吸演算部70は、各デジタル信号Sti,Stqの入力を受け付けて、各種処理を実行する。具体的には、呼吸演算部70は、Iチャネル側のLPF71Iと、Qチャネル側のLPF71Qと、Iチャネル側の基本波検出部72Iと、Qチャネル側の基本波検出部72Qと、呼吸抽出部73とを含む。
LPF71I,71Qは、それぞれデジタル信号Sti,Stqの高周波成分を除去することにより、デジタル信号Bai,Baqを生成する。LPF71Iは、デジタル信号Baiを基本波検出部72Iに出力し、LPF71Qは、デジタル信号Baqを基本波検出部72Qに出力する。典型的には、LPF71I,71Qは、0.75Hz以上(すなわち、45bpmに相当)の周波数成分を除去する。
基本波検出部72I,72Qは、それぞれデジタル信号Bai,Baqを用いて呼吸数を演算する。基本波検出部72Iは、基本波検出部66Iによる演算方式と同様の演算方式により呼吸数を算出する。具体的には、基本波検出部72Iは、所定時間蓄積されたデジタル信号Baiを高速フーリエ変換することにより、周波数分布データを作成する。基本波検出部72Iは、周波数分布データのうち、最も強度の高い周波数成分を基本波データとして検出する。基本波検出部72Iは、基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの呼吸の数である呼吸数Biを算出する。同様に、基本波検出部72Qは、デジタル信号Baqを用いて呼吸数Bqを算出する。
呼吸抽出部73は、呼吸数Biおよび呼吸数Bqを平均化して呼吸数Bnを算出する。なお、呼吸抽出部73は、デジタル信号Bai,Baqを統合して、適宜閾値を設けることにより、ノイズレベルの強度の小さい信号や周期性の乏しい信号を除去してもよい。
体動検出部50は、所定の閾値と、反射信号(具体的には、各デジタル信号Sti,Stq)とに基づいて、生体Pの体動を検出する。閾値は、アナログ信号Sti,Stqの振幅値(電圧0V〜3.3V)をAD変換した場合のデジタル値である。
具体的には、体動検出部50は、デジタル信号Sti,Stqの各々について、当該信号の振幅の大きさ(絶対値)を一定時間(たとえば、0.2秒)ごとに算出する。たとえば、サンプリング周波数が100Hzの場合には、体動検出部50は、デジタル信号Sti,Stqの各々について、当該デジタル信号を10ミリ秒ごとにサンプリングし、20個分のサンプリングデータの絶対値の平均値(平均絶対値)を算出する。体動検出部50は、算出された平均絶対値を一定時間ごとに算出し、算出結果を時間と関連付けて順次記憶する。
体動検出部50は、たとえば、生体の起き上がりなどの体動を検出する。より具体的には、体動検出部50は、デジタル信号Stiについての平均絶対値と、デジタル信号Stqについての平均絶対値との両方が所定閾値以上になった場合に、生体Pが寝具から起き上がったと判定する。また、体動検出部50は、デジタル信号StiおよびStqのうちの少なくとも一方についての平均絶対値が所定閾値以上になった場合に、生体Pが寝具から起き上がったと判定してもよい。あるいは、体動検出部50は、デジタル信号StiおよびStqの合成信号を算出し、当該合成成分についての平均絶対値が所定閾値以上になった場合に、生体Pが寝具から起き上がったと判定してもよい。
出力制御部52は、体動検出部50による体動検出結果、心拍演算部60による心拍数の計測結果、および、呼吸演算部70による呼吸数の計測結果などを出力する。これらの計測結果の出力態様は、任意である。ある局面において、出力制御部52は、体動異常、心拍異常または呼吸異常との判定結果を受けた場合に、警告情報を出力する。出力制御部52は、スピーカ156を介して、警告情報を音声出力してもよいし、ディスプレイに警告情報を表示してもよい。また、出力制御部52は、通信インターフェイス158を介して、端末装置200に警告情報を送信してもよい。他の局面において、これらの計測結果は、たとえば、予め定められたフォーマットに合わせてデータ化された上で通信インターフェイス158(図4参照)を介して端末装置200に送信される。端末装置200は、計測装置100から受信した計測結果を表示する。
[アナログ信号処理回路41]
図6は、第1の実施の形態に従うアナログ信号処理回路41の詳細な構成を説明するためのブロック図である。
図6を参照して、アナログ信号処理回路41は、ドップラセンサ40から出力されるIチャネル側のベースバンド信号Dbiと、ドップラセンサ40から出力されるQチャネル側のベースバンド信号Dbqとを入力として受ける。ベースバンド信号Dbiは、アナログ信号Dbia,Dbibに分配される。ベースバンド信号Dbqは、アナログ信号Dbqa,Dbqbに分配される。
アナログ信号処理回路41は、信号処理回路149A〜149Dを含む。アナログ信号Dbiaは、心拍計測用の信号処理回路149Aに出力される。信号処理回路149Aは、HPF143Aと、LFP144Aと、増幅器145Aとを含む。
HPF143Aは、アナログ信号Dbiaの低周波成分を除去する。一例として、HPF143Aは、0.8Hz以下の信号成分を除去する。除去後の信号は、LFP144Aに出力される。
LFP144Aは、HPF143Aから出力されたアナログ信号Dbiaの高周波成分を除去する。一例として、LFP144Aは、20Hz以上の信号成分を除去する。除去後の信号は、増幅器145Aに出力される。
増幅器145Aは、LFP144Aから出力されるアナログ信号Dbiaを所定倍(たとえば、400倍)に増幅し、アナログ信号Shiを生成する。アナログ信号Shiは、上述のADコンバータ43(図5参照)に出力される。
アナログ信号Dbibは、呼吸計測用の信号処理回路149Bに出力される。信号処理回路149Bは、HPF143Bと、LFP144Bと、増幅器145Bとを含む。
HPF143Bは、アナログ信号Dbibの低周波成分を除去する。一例として、HPF143Bは、0.1Hz以下の信号成分を除去する。除去後の信号は、LFP144Bに出力される。
LFP144Bは、HPF143Bから出力されたアナログ信号Dbibの高周波成分を除去する。一例として、LFP144Bは、20Hz以上の信号成分を除去する。除去後の信号は、増幅器145Bに出力される。
増幅器145Bは、LFP144Bから出力されるアナログ信号Dbibを所定倍(たとえば、100倍)に増幅し、アナログ信号Stiを生成する。アナログ信号Stiは、上述のADコンバータ43(図5参照)に出力される。
心拍信号の振幅は、呼吸信号の振幅と比較べて約1/10以下であるので、心拍計測用の増幅器145Aの増幅率が、呼吸計測用の増幅器145Bの増幅率よりも大きくなるように、増幅器145A,145Bが設計される。一例として、増幅器145Aの増幅率は400倍であり、増幅器145Bの増幅率は100倍である。
アナログ信号Dbqaは、心拍計測用の信号処理回路149Cに出力される。信号処理回路149Cは、HPF143Cと、LFP144Cと、増幅器145Cとを含む。
HPF143Cは、アナログ信号Dbqaの低周波成分を除去する。一例として、HPF143Cは、0.8Hz以下の信号成分を除去する。除去後の信号は、LFP144Cに出力される。
LFP144Cは、HPF143Cから出力されたアナログ信号Dbqaの高周波成分を除去する。一例として、LFP144Cは、20Hz以上の信号成分を除去する。除去後の信号は、増幅器145Cに出力される。
増幅器145Cは、LFP144Cから出力されるアナログ信号Dbqaを所定倍(たとえば、400倍)に増幅し、アナログ信号Shqを生成する。アナログ信号Shqは、上述のADコンバータ43(図5参照)に出力される。
アナログ信号Dbqbは、呼吸計測用の信号処理回路149Dに出力される。信号処理回路149Dは、HPF143Dと、LFP144Dと、増幅器145Dとを含む。
HPF143Dは、アナログ信号Dbqbの低周波成分を除去する。一例として、HPF143Dは、0.1Hz以下の信号成分を除去する。除去後の信号は、LFP144Dに出力される。
LFP144Dは、HPF143Dから出力されたアナログ信号Dbqbの高周波成分を除去する。一例として、LFP144Dは、20Hz以上の信号成分を除去する。除去後の信号は、増幅器145Dに出力される。
増幅器145Dは、LFP144Dから出力されるアナログ信号Dbqbを所定倍(たとえば、100倍)に増幅し、アナログ信号Stqを生成する。アナログ信号Stqは、上述のADコンバータ43(図5参照)に出力される。
心拍信号の振幅は、呼吸信号の振幅と比較べて約1/10以下であるので、心拍計測用の増幅器145Cの増幅率が、呼吸計測用の増幅器145Dの増幅率よりも大きくなるように、増幅器145C,145Dが設計される。一例として、増幅器145Cの増幅率は400倍であり、増幅器145Dの増幅率は100倍である。
HPF143A〜143DおよびLFP144A〜144Dは、たとえば、オペアンプを用いたアクティブフィルタである。あるいは、HPF143A〜143Dは、コイルL、コンデンサC、抵抗Rを用いた受動素子であってもよい。
以上のようにして、振幅計測用および呼吸計測用に独立して帯域制限および増幅を行うことにより、心拍域と呼吸域とでSN(Signal Noise)比の高い良質なアナログ信号が抽出される。なお、LFP144A〜144Dは、上述のADコンバータ43のためのアンチエイリアスフィルタとしても機能している。
[計測装置100の制御構造]
図7〜図9を参照して、計測装置100の制御構造について説明する。図7は、心拍数の計測処理を表わすフローチャートである。図8は、呼吸数の計測処理を表わすフローチャートである。図9は、体動検出処理を表わすフローチャートである。図7〜図9の処理は、計測装置100のマイクロプロセッサ45がプログラムを実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
以下では、心拍数の計測処理のフロー、呼吸数の計測処理のフロー、および体動検出処理のフローについて順に説明する。
(心拍数の計測処理)
まず、図7を参照して、心拍数の計測処理のフローについて説明する。
ステップS110において、マイクロプロセッサ45は、ドップラセンサ40を介して、マイクロ波を照射する。その後、マイクロプロセッサ45は、照射したマイクロ波の反射波を受信して、反射波の信号からIチャネル側のドップラ信号とQチャネル側のドップラ信号とを生成する。
ステップS120において、マイクロプロセッサ45は、計測対象の生体の周波数が含まれる周波数帯域(すなわち、基準心拍レンジ)を取得する。本実施の形態においては、基準心拍レンジは、予め設定されているものとする。ある局面において、ユーザによって下限値が設定され、当該下限値以上の範囲が基準心拍レンジとして設定される。他の局面において、ユーザによって下限値および上限値が設定され、当該下限値以上であって当該上限値未満の範囲が基準心拍レンジとして設定される。他の局面において、ユーザは、心拍情報122(図3参照)に規定されている心拍レンジのいずれかを基準心拍レンジとして設定する。
ステップS130において、マイクロプロセッサ45は、心拍情報122を参照して、基準心拍レンジに対応付けられているHPF用のカットオフ帯域を取得し、当該カットオフ帯域をHPF64I,64Q(図5参照)に設定する。同様に、マイクロプロセッサ45は、心拍情報122を参照して、基準心拍レンジに対応付けられているLPF用のカットオフ帯域を取得し、当該カットオフ帯域をLPF65I,65Q(図5参照)に設定する。
ステップS140において、マイクロプロセッサ45は、HPF64Iに設定されたカットオフ帯域に含まれる信号成分をIチャネル側のドップラ信号から除去する。一例として、図3に示される心拍レンジ「45bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されている場合、HPF64Iは、「0.7〜0.8Hz以下」の信号成分を除去する。他の例として、図3に示される心拍レンジ「63bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されている場合、HPF64Iは、「1.0〜1.1Hz以下」の信号成分を除去する。他の例として、図3に示される心拍レンジ「81bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されている場合、HPF64Iは、「1.3〜1.4Hz以下」の信号成分を除去する。HPF64Iと同様に、マイクロプロセッサ45は、HPF64Qに設定されたカットオフ帯域に含まれる信号成分をQチャネル側のドップラ信号から除去する。
ステップS150において、マイクロプロセッサ45は、LPF65Iに設定されたカットオフ帯域に含まれる信号成分をIチャネル側のドップラ信号から除去する。一例として、図3に示される心拍レンジ「45bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されている場合、LPF65Iは、「7Hz以上」の信号成分を除去する。他の例として、図3に示される心拍レンジ「63bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されている場合、LPF65Iは、「10Hz以上」の信号成分を除去する。他の例として、図3に示される心拍レンジ「81bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されている場合、LPF65Iは、「20Hz以上」の信号成分を除去する。LPF65Iと同様に、マイクロプロセッサ45は、LPF65Qに設定されたカットオフ帯域に含まれる信号成分をQチャネル側のドップラ信号から除去する。
ステップS151において、マイクロプロセッサ45は、HPF64IおよびLPF65Iを通過したIチャネル側のドップラ信号の周期性を検出する。典型的には、マイクロプロセッサ45は、HPF64IおよびLPF65Iを通過したIチャネル側のドップラ信号を高速フーリエ変換することで周波数分布データを生成し、当該周波数分布データから信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。同様に、HPF64QおよびLPF65Qを通過したQチャネル側のドップラ信号を高速フーリエ変換することで周波数分布データを生成し、当該周波数分布データから信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。なお、マイクロプロセッサ45は、自己相関関数やウェーブレット変換を用いて基本波データを検出してもよい。
ステップS160において、マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側の基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの心拍数を算出する。同様に、マイクロプロセッサ45は、Qチャネル側の基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの心拍数を算出する。マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側の心拍数とQチャネル側の心拍数を平均化して計測結果としての心拍数を算出する。
なお、マイクロプロセッサ45は、心拍数の算出過程において予め定められた条件が満たされ場合、心拍数の計測ができなかったものとして計測エラーを出力してもよい。一例として、心拍周期が所定閾値を下回った場合に、当該予め定められた条件が満たされる。の場合、図7に示される処理は終了してもよいし、再度実行されてもよい。
ステップS170において、マイクロプロセッサ45は、ステップS160での心拍数の計測結果を出力する。計測結果の出力態様は、任意である。ある局面において、マイクロプロセッサ45は、心拍数が所定下限値以下または所定上限値以上のときに心拍異常として判定し、警告情報を出力する。当該警告情報は、スピーカ156を介して音声出力されてもよいし、ディスプレイを介して出力されてもよい。また、マイクロプロセッサ45は、通信インターフェイス158を介して、端末装置200に警告情報を送信してもよい。
(呼吸数の計測処理)
次に、図8を参照して、呼吸数の計測処理のフローについて説明する。
ステップS210において、マイクロプロセッサ45は、ドップラセンサ40を介して、マイクロ波を照射する。その後、マイクロプロセッサ45は、照射したマイクロ波の反射波を受信して、反射波の信号からIチャネル側のドップラ信号とQチャネル側のドップラ信号とを生成する。
ステップS220において、マイクロプロセッサ45は、呼吸計測用のLPF71I(図5参照)を用いて、Iチャネル側のドップラ信号から所定周波数の信号成分を除去する。同様に、マイクロプロセッサ45は、呼吸計測用のLPF71Q(図5参照)を用いて、Qチャネル側のドップラ信号から所定周波数の信号成分を除去する。一例として、LPF71I,71Qのカットオフ帯域は、0.75Hz以上である。
ステップS221において、マイクロプロセッサ45は、LPF71Iを通過したIチャネル側のドップラ信号の周期性を検出する。典型的には、マイクロプロセッサ45は、LPF71Iを通過したIチャネル側のドップラ信号を高速フーリエ変換することで周波数分布データを生成し、当該周波数分布データから信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。同様に、マイクロプロセッサ45は、LPF71Qを通過したQチャネル側のドップラ信号を高速フーリエ変換することで周波数分布データを生成し、当該周波数分布データから信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。なお、マイクロプロセッサ45は、自己相関関数やウェーブレット変換を用いて基本波データを検出してもよい。
ステップS230において、マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側の基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの呼吸数を算出する。同様に、マイクロプロセッサ45は、Qチャネル側の基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの呼吸数を算出する。マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側の呼吸数とQチャネル側の呼吸数を平均化して計測結果としての呼吸数を算出する。なお、マイクロプロセッサ45は、適宜閾値を設けることにより、ノイズレベルの強度の小さい信号や周期性の乏しい信号を除去してもよい。
ステップS240において、マイクロプロセッサ45は、ステップS230での呼吸数の計測結果を出力する。計測結果の出力態様は、任意である。ある局面において、マイクロプロセッサ45は、呼吸数が所定下限値以下または所定上限値以上のときに呼吸以上として判定し、警告情報を出力する。当該警告情報は、スピーカ156を介して音声出力されてもよいし、ディスプレイを介して出力されてもよい。また、マイクロプロセッサ45は、通信インターフェイス158を介して、端末装置200に警告情報を送信してもよい。
(体動検出処理)
次に、図9を参照して、体動検出処理のフローについて説明する。
ステップS310において、マイクロプロセッサ45は、ドップラセンサ40を介して、マイクロ波を照射する。その後、マイクロプロセッサ45は、照射したマイクロ波の反射波を受信して、反射波の信号からIチャネル側のドップラ信号とQチャネル側のドップラ信号とを生成する。
ステップS320において、マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側のドップラ信号とQチャネル側のドップラ信号と所定閾値とに基づいて、生体Pの体動を検出する。一例として、マイクロプロセッサ45は、生体の起き上がりなどを検出する。生体の起き上がりの検出方法は上述の通りであるので、その説明については繰り返さない。
ステップS330において、マイクロプロセッサ45は、ステップS320での体動の検出結果を出力する。検出結果の出力態様は、任意である。ある局面において、計測装置100が患者の監視装置として利用される場合には、マイクロプロセッサ45は、患者の起き上がりを検出したことを出力する。このことは、スピーカ156を介して音声出力されてもよいし、ディスプレイを介して出力されてもよい。また、マイクロプロセッサ45は、通信インターフェイス158を介して、端末装置200に警告情報を送信してもよい。
[第1の実施の形態のまとめ]
以上のようにして、本実施の形態に従う計測装置100は、計測対象の生体の心拍数を含み得る基準心拍レンジを取得するとともに、生体の呼吸に起因する信号成分を含む周波数帯域を生体の心拍レンジごとに対応付けている心拍情報122(図3参照)を取得する。計測装置100は、心拍情報122において基準心拍レンジに対応付けられている周波数帯域をカットオフ帯域として心拍計測用のHPF64に設定する。このように、HPF64のカットオフ帯域が基準心拍レンジに応じて適宜設定されることにより、生体の呼吸数に相当する周波数成分だけでなく、当該呼吸数の高次周波数成分も除去することができる。当該高次周波数成分が除去された上で心拍数が抽出されることにより、計測装置100は、生体の心拍数をより正確に計測することができる。
<第2の実施の形態>
[概要]
第1の実施の形態に従う計測装置100は、呼吸の高次周波数成分を除去するようにHPF64(図1参照)にカットオフ帯域を設定していた。これにより、計測装置100は、ドップラ信号から呼吸の高次周波数成分(主に、三次高周波数成分)を除去していた。しかしながら、HPF64に設定されたカットオフ帯域が呼吸の三次周波数成分と近い場合には、当該三次周波数成分を完全には除去できない可能性がある。そこで、第2の実施の形態に従う計測装置100は、ドップラ信号を周波数分解して得られた周波数分布データから呼吸の三次周波数成分を除去し、その上で周波数分布データに基づいて、生体の心拍数を抽出する。これにより、計測装置100は、呼吸の三次周波数成分の影響を受けなくなり、生体の心拍数をさらに正確に計測することができる。
なお、第2の実施の形態に従う計測装置100のハードウェア構成などその他の点については第1の実施の形態に従う計測装置100と同じであるので、以下ではそれらの説明については繰り返さない。
[計測装置100の制御構造]
図10を参照して、計測装置100の制御構造について説明する。図10は、第2の実施の形態における心拍数の計測処理を表わすフローチャートである。図10の処理は、計測装置100のマイクロプロセッサ45がプログラムを実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
なお、ステップS152,S160A以外の処理については、図7で説明した通りであるので、それらの説明については繰り返さない。
ステップS152において、マイクロプロセッサ45は、計測対象の生体の呼吸数を取得する。呼吸数の計測方法については、図8で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
ステップS160Aにおいて、マイクロプロセッサ45は、HPF64およびLPF65を通過したIチャネル側のドップラ信号を高速フーリエ変換する。マイクロプロセッサ45は、個々の信号成分に分解した後、各成分を周波数スペクトラム上に表わす処理を行ない、周波数分布データを作成する。マイクロプロセッサ45は、作成した周波数分布データに基づいて、生体の心拍数を計測する。このとき、マイクロプロセッサ45は、設定されている基準心拍レンジに応じて心拍数の計測処理を変える。
一例として、図3に示される心拍レンジ「63bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されているとする。この場合、マイクロプロセッサ45は、呼吸数の整数倍に相当する周期の高次高周波成分を周波数分布データ(心拍信号)から除去し、当該除去後の周波数分布データに基づいて、生体の心拍数を抽出する。好ましくは、呼吸数の3倍に相当する周期の高次高周波成分が周波数分布データから除去される。その後、マイクロプロセッサ45は、周波数分布データの中から最も信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。マイクロプロセッサ45は、基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの心拍数を算出する。同様に、マイクロプロセッサ45は、Qチャネル側のドップラ信号からも心拍数を算出する。マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側の心拍数とQチャネル側の心拍数を平均化して計測結果としての心拍数を算出する。
他の例として、図3に示される心拍レンジ「81bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されているとする。この場合、心拍レンジ「63bpm〜260bpm」が設定されている場合と同様の処理で生体の心拍数を抽出する。
他の例として、図3に示される心拍レンジ「45bpm〜260bpm」が基準心拍レンジとして設定されているとする。この場合、心拍数と呼吸の高周波周波数との区別が難しいため、マイクロプロセッサ45は、呼吸数に基づいた三次高周波成分の除去処理を無効にする。
このように無効化された場合であっても、呼吸数が小さい場合には、呼吸の三次高周波成分は、HPF64によって除去される。しかしながら、呼吸数が大きい場合には、呼吸の三次高周波成分は、HPF64によって除去できない可能性がある。なぜならば、呼吸数が大きい場合には、呼吸の三次高周波成分の周波数が大きくなり、HPF64のカットオフ帯域から外れてしまうためである。そのため、呼吸数が小さいときの検出信号に基づいて心拍数が計測されることが好ましい。
一例として、呼吸数が14bpmであるときには、呼吸の三次高周波成分は、42bpm(=0.7Hz)となる。そのため、心拍レンジ「45bpm〜260bpm」に対応するカットオフ帯域「0.8Hz以下」がHPF64に設定された場合には、42bpm(=0.7Hz)の三次高周波成分がHPF64によって除去される。このように、呼吸数が所定値よりも小さい場合や、呼吸の振幅が所定値よりも小さい場合などには、HPF64によって呼吸の三次高周波成分が除去されるため、このときの検出信号に基づいて心拍数の計測される。
マイクロプロセッサ45は、呼吸数が小さいときの検出信号から生成された周波数分布データの中から最も信号強度(ピーク)の高い周波数成分を基本波データとして検出する。その後、マイクロプロセッサ45は、基本波データを60倍することで、単位時間(すなわち、1分間)当りの心拍数を算出する。同様に、マイクロプロセッサ45は、Qチャネル側のドップラ信号からも心拍数を算出する。マイクロプロセッサ45は、Iチャネル側の心拍数とQチャネル側の心拍数を平均化して計測結果としての心拍数を算出する。
[第2の実施の形態のまとめ]
以上のようにして、本実施の形態に従う計測装置100は、ドップラ信号を周波数分解して得られた信号成分から、呼吸数の整数倍(たとえば、3倍以上)に相当する周波数成分を除去した上で生体の心拍数を計測する。これにより、計測装置100は、呼吸の三次周波数成分の影響を受けなくなり、生体の心拍数をさらに正確に抽出することができる。
<第3の実施の形態>
[概要]
第1,第2の実施の形態に従う計測装置100は、基準心拍レンジがユーザによって予め設定されていた。これに対して、第3の実施の形態に従う計測装置100は、基準心拍レンジが自動で設定される。これにより、心拍数を正確に計測できるだけでなく、計測装置100の操作性が改善される。
なお、第3の実施の形態に従う計測装置100のハードウェア構成などその他の点については第1,第2の実施の形態に従う計測装置100と同じであるので、以下ではそれらの説明については繰り返さない。
[計測装置100の制御構造]
図11を参照して、計測装置100の制御構造について説明する。図11は、第3の実施の形態における心拍数の計測処理を表わすフローチャートである。図11の処理は、計測装置100のマイクロプロセッサ45がプログラムを実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
なお、ステップS162,S164以外の処理については、図7および図10で説明した通りであるので、それらの説明については繰り返さない。
ステップS162において、マイクロプロセッサ45は、心拍数が予め定められた条件を満たしたか否かを判断する。一例として、計測された心拍数が心拍情報122(図3参照)に規定されている心拍レンジであって基準心拍レンジよりも高周域の心拍レンジに属する場合に、当該予め定められた条件が満たされる。あるいは、計測された心拍数が心拍情報122に規定されている心拍レンジであって基準心拍レンジよりも低周域の心拍レンジに属する場合に、当該予め定められた条件が満たされる。あるいは、心拍数が所定下限値を下回った場合や、心拍数が所定上限値を上回った場合などに、心拍数が計測できなかったものとして、当該予め定められた条件が満たされる。
ステップS162において、マイクロプロセッサ45は、心拍数が予め定められた条件を満たしたと判断した場合(ステップS162においてYES)、制御をステップS170に切り替える。そうでない場合には(ステップS162においてNO)、マイクロプロセッサ45は、制御をステップS164に切り替える。
ステップS164において、マイクロプロセッサ45は、予め設定されているルールに従って基準心拍レンジを変更する。新たな基準心拍レンジの決定方法は、任意である。以下では、新たな基準心拍レンジの決定方法について説明する。なお、以下では、説明の便宜のために、心拍情報122(図3参照)に規定されている心拍レンジ「45bpm〜260bpm」を第1基準心拍レンジとも称する。心拍情報122に規定されている心拍レンジ「63bpm〜260bpm」を第2基準心拍レンジとも称する。心拍情報122に規定されている心拍レンジ「81bpm〜260bpm」を第3基準心拍レンジとも称する。
一例として、第1基準心拍レンジが現在の設定値として選択されているとする。この場合において、所定周期で計測された心拍数が所定回数(たとえば、3回)第2基準心拍レンジまたは第3基準心拍レンジに含まれるとき、マイクロプロセッサ45は、第2基準心拍レンジまたは第3基準心拍レンジを新たな設定値として選択する。好ましくは、第2,第3基準心拍レンジの内、第2基準心拍レンジが新たな設定値として選択される。なぜならば、基準心拍レンジが第1基準心拍レンジから第3基準心拍レンジに大きく変更されると、HPF64のカットオフ帯域が大きく変化し、心拍数の一次高周波成分がHPF64によって除去される可能性があるためである。
他の例として、第2基準心拍レンジが現在の設定値として選択されているとする。この場合において、所定周期で計測された心拍数が所定回数(たとえば、3回)第3基準心拍レンジに含まれるとき、マイクロプロセッサ45は、第2基準心拍レンジの次に狭い第3基準心拍レンジを新たな設定値として選択する。このように、マイクロプロセッサ45は、心拍情報122に規定されている心拍レンジの内から現在設定されている基準心拍レンジの次に狭い心拍レンジを特定し、当該心拍レンジを新たな基準心拍レンジとして設定する。
他の例として、第2基準心拍レンジが現在の設定値として選択されているとする。この場合において、所定周期で計測された心拍数が所定回数(たとえば、3回)第1基準心拍レンジに含まれるとき、マイクロプロセッサ45は、第2基準心拍レンジの次に広い第1基準心拍レンジを新たな設定値として選択する。
他の例として、第3基準心拍レンジが現在の設定値として選択されているとする。この場合において、所定周期で計測された心拍数が所定回数(たとえば、3回)第1基準心拍レンジまたは第2基準心拍レンジに含まれるとき、マイクロプロセッサ45は、第1基準心拍レンジまたは第2基準心拍レンジを新たな設定値として選択する。ドップラセンサ40では、生体の不要な動きを検出しやすく、これにより、計測結果としての心拍数が高くなってしまう可能性がある。このような場合であっても、基準心拍レンジを適宜狭くできる機能が実装されているので、心拍数が正確に計測され得る。
なお、上述では、HPF64に設定されるカットオフ帯域が心拍情報122(図3参照)に基づいて変更される例について説明を行ったが、HPF64のカットオフ帯域の変更方法は、これに限定されない。たとえば、マイクロプロセッサ45は、HPF64に設定されているカットオフ帯域を所定パーセント低域側にシフトさせてもよい。当該所定パーセントは、たとえば、0%よりも大きく20%以下の数値である。HPF64のカットオフ帯域を、低域側に少しずらすことにより、低域側と高域側とで心拍レンジが重なる範囲が大きくなり、心拍レンジの切り替えがよりスムーズとなる。
また、上述のHPF64には、IIR(Infinite Impulse Response)型フィルタおよびFIR(Finite Impulse Response)型のデジタルフィルタのいずれもが採用され得るが、好ましくは、IIR型フィルタが採用される。これにより、サンプリング周期および演算速度が高速化され、HPF64のカットオフ帯域の切り替えがスムーズとなる。その結果、安定して心拍数が計測され、かつ、より速いサンプリングレートで心拍数が計測され得る。
また、HPF64について説明した上述の処理は、LPF65にも適用することができる。
[第3の実施の形態のまとめ]
以上のようにして、本実施の形態に従う計測装置100は、HPF64のカットオフ帯域を自動で切り替える。これにより、心拍数を正確に計測できるだけでなく、計測装置100の操作性が改善される。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。