図1は、本実施形態のカラオケシステムの構成を示すブロック図である。本実施形態におけるカラオケシステムは、カラオケ装置2(コマンダ)と、リモコン装置1を含んで構成されている。カラオケ装置2とリモコン装置1は、LAN100及びアクセスポイント130を利用してネットワークを形成するように接続されている。
カラオケボックスなどの店舗に設置されるカラオケ装置2は、楽曲を演奏するための演奏部を含んだ音響制御部25を備えている。また、カラオケ装置2は、ユーザーからの各種入力を受け付ける操作部21を備える。カラオケ装置2は、操作部21からの入力を解釈してCPU30に伝達する操作処理部22を備える。また、カラオケ装置2は、各種情報を記憶する記憶部としてのハードディスク32を備える。カラオケ装置2は、LAN100に接続してネットワークに加入する通信手段としてのLAN通信部24を備えている。
また、カラオケ装置2は、モニター41に対して歌詞映像、背景映像を表示させる映像再生手段を備える。この映像再生手段は、映像情報に基づいて映像を再生する映像再生部29、再生する映像を一時的に蓄積するビデオRAM28、再生された映像に対する歌詞テロップの重畳、映像効果の付与等を行う映像制御部31を備えて構成される。
さらに、このカラオケ装置2では、外部に接続されるモニター41以外に、カラオケ装置2の筐体前面に設けられたタッチパネルモニター33に対して各種情報を表示することを可能としている。タッチパネルモニター33は映像制御部31から入力された映像情報を表示する表示部35と、タッチ入力された位置を操作処理部22に出力するタッチパネル34が重畳されて構成されている。このタッチパネルモニター33は、カラオケ装置2の操作部21、あるいは、リモコン装置1のタッチパネルモニター11などと同様、入力部として機能する。ユーザーは、タッチパネルモニター33にて楽曲を選択することで、直接カラオケ装置2に予約させる等、カラオケ装置2に対する各種操作を行うことが可能である。
さらに、カラオケ装置2は、各構成を統括して制御するためのCPU30、各種プログラムを実行するにあたって必要となる情報を一時記憶するためのメモリ27を含んだ制御部を備えて構成されている。
このような構成にてカラオケ装置2は、各種処理を実行することとなるが、カラオケ装置2の主な機能として、楽曲予約処理、楽曲再生処理などを実行可能としている。楽曲予約処理は、ユーザーからの指定に基づいて楽曲を指定、予約するための処理であってリモコン装置1と連携して実行される。リモコン装置1の選曲処理で形成された予約情報は、カラオケ装置2に送信される。カラオケ装置2は、受信した予約情報をメモリ27中の予約テーブルに登録する。楽曲再生処理は、予約された楽曲を再生させる処理であって、楽曲演奏処理と歌詞表示処理とが同期して実行される処理である。
楽曲演奏処理は、楽曲情報に含まれる演奏情報に基づき、音響制御部25に演奏を実行させる処理である。音響制御部25にて演奏された楽曲は、マイクロホン43a、43bから入力される歌唱音声と一緒にスピーカー42から放音される。歌詞表示処理は、楽曲情報に含まれる歌詞情報をモニター41に表示させることで歌唱補助を行う処理である。
一方、リモコン装置1は、ユーザーからの指示に基づいて楽曲を検索し、再生指示のあった楽曲について予約情報をカラオケ装置2に送信する選曲処理を実行可能としている。また、リモコン装置1は、カラオケ装置2あるいはインターネット上に接続されたサーバー装置5から各種情報を受信し、各種処理を実行することが可能である。本実施形態では、ユーザーから各種指示を受け付けるユーザインターフェイスとして、操作部17と、タッチパネルモニター11を備えている。タッチパネルモニター11は、表示部11aとタッチパネル11bを有して構成され、表示部11aに各種インターフェイスを表示するとともに、ユーザーからのタッチ入力を受付可能としている。
さらにリモコン装置1は、選曲処理に必要とされるデータベース、各種プログラム、並びに、プログラム実行に伴って発生する各種情報を記憶する記憶部として、メモリ14、そして、これら構成を統括して制御するためのリモコン側制御部を備えて構成される。リモコン側制御部には、CPU15、タッチパネルモニター11に対して表示する映像を形成する映像制御部13、表示する映像情報を一時的に蓄えるビデオRAM12、タッチパネルモニター11あるいは操作部17からの入力を解釈してCPU15に伝える操作処理部18が含まれている。
リモコン装置1は、無線LAN通信部16によって、アクセスポイント130と無線接続されることで、LAN100によって構成されるネットワークに接続される。なお、各リモコン装置1は、特定のカラオケ装置2に対して事前に対応付けされている。リモコン装置1から出力される各種命令は、対応付けされたカラオケ装置2にて受信されることとなる。
このようなリモコン装置1の構成により、ユーザーからの各種入力をタッチパネルモニター11、あるいは、操作部17から受付けるとともに、映像情報をタッチパネルモニター11の表示により各種情報を提供することで、カラオケ装置2に対して出力する予約情報を送信する選曲処理など、各種処理を行うことが可能となっている。
図2は、カラオケ装置2が有する音響制御部25の構成を示すブロック図である。ここでは、マイクロホン43aから入力される音声を表す音声信号の一系統について説明を行うが、他方のマイクロホン43bから入力される音声を表すアナログ音声信号についてもマイクロホン43aから入力される音声を表す音声信号と同様に処理される。本実施形態の音響制御部25は、アナログ処理部25a、デジタル処理部25bを有して構成される。アナログ処理部25aは、マイクロホン43aから入力されるアナログ音声信号に対し、音量の変更、並びに、アナログ楽音信号とのミキシング等を行い、スピーカー42に対して信号の出力を行う。アナログ処理部で扱う信号は、その名が示すようにアナログ信号であるため、エコーや残響等の効果を付与することはできない仕様となっている。
本実施形態のアナログ処理部25aは、マイクロホン43aから入力されたアナログ音声信号についての音量を調整する音量調整部251、DA変換部262から出力されるアナログ音声信号とのミキシングを行うミキシング部252、ミキシング部252でミキシングされたアナログ音声信号の音量を調整する音量調整部253、DA変換部264から出力されるアナログ楽音信号の音量を調整する音量調整部265、音量調整部253と音量調整部265の出力信号をミキシングして、スピーカー42に出力するミキシング部254を備えている。なお、ミキシング部254とスピーカー42の間には、スピーカーアンプを設けてもよく、あるいは、音量調整部253、音量調整部265がスピーカーアンプを兼ねてもよい。
一方、デジタル処理部25bにおいて、マイクロホン43aから入力されたアナログ音声信号は、AD変換部255でデジタル信号に変換される。AD変換部255は、アナログ音声信号を、192kHzのサンプリングレートでサンプリングしてデジタル音声信号に変換する。AD変換部255でデジタル化されたデジタル音声信号は、サンプリングレートコンバータ256に入力される。本実施形態のサンプリングレートコンバータ256は、192kHzでサンプリングされたデジタル音声信号をそのままのサンプリングレート(192kHz)でスルー出力する、あるいは、異なるサンプリングレート(48kHz、あるいは、12kHz)で変換出力することが可能である。サンプリングレートコンバータ256におけるサンプリングレートの制御は、CPU30などを含んで構成されたカラオケ装置2の制御部において実行される。
また、演奏部263で演奏された演奏音としてのデジタル楽音信号は、DA変換部264でアナログ楽音信号に変換して出力される。デジタル処理部25bにおいてデジタル音声信号に対して実行される処理としては、ハウリング抑制フィルタ258によるハウリング抑制処理、並びに、効果付与部259における効果付与処理等がある。
カラオケシステムでは、マイクロホン43a、43bで収音し、スピーカー42で拡声する。そのため、カラオケ装置2が設置されるカラオケボックス等では、壁面間等の事情によって特定の周波数が高くなる共振現象であるハウリングが発生する場合がある。ハウリングの発生は、カラオケシステムの利用環境下において、聴取並びに歌唱の支障となるため、解消あるいは抑制することが好ましい。
本実施形態では、デジタル処理部25bとして、ハウリング検知部257、ハウリング抑制フィルタ258を使用し、発生したハウリングの解消、抑制を行うこととしている。ハウリング検知部257では、ハウリングの発生有無、並びに、発生したハウリングの周波数を検出する。そして、ハウリングの発生を検出した場合、ハウリング検知部257は、ハウリング抑制フィルタ258に対して、検知したハウリングを解消、抑制するためのフィルタ係数を出力する。本実施形態では、ハウリング抑制フィルタ258として、狭帯域のバンドパスフィルタであるノッチフィルタを使用している。ハウリングは、狭帯域にピークを持つ音声であるため、同狭帯域の音声を抑制するノッチフィルタを通過させることで、解消あるいは抑制することが可能である。なお、ハウリングは、1つの周波数で発生するのみならず、複数の周波数で発生する場合もあるため、本実施形態のハウリング抑制フィルタ258は、複数の周波数について、狭帯域減衰可能なノッチフィルタを使用している。
また、デジタル処理部25bには、デジタル音声信号に対して効果を付与する効果付与部259が設けられている。デジタル音声信号に対して付与する効果としては、ボイスチェンジ、コンプレッサ、エコー、リバーブ(残響)等、各種効果がある。このような効果は遅延を伴うことが一般的であるため、遅延を形成することが容易なデジタル処理部25bで行われる。
また、本実施形態では、この効果付与部259を経由しない(バイパスする)経路を有している。この経路には、音量調整部260が設けられている。本実施形態の音響制御部25は、ハウリング抑制機能をオフ状態、すなわち、ハウリング抑制フィルタ258をスルー状態、そして、音量調整部260の音量を0(オフ状態)とすることで、デジタル音声信号を何ら加工しないデジタルドライ音信号として出力するデジタルドライ音経路を形成することが可能となっている。
効果付与部259から出力されたデジタル音声信号と、音量調整部260から出力されたデジタル音声信号は、ミキシング部261でミキシングされて、DA変換部262に出力される。なお、本実施形態では、ミキシング部261でミキシングした上でDA変換しているが、効果付与部259の出力信号、音量調整部260の出力信号を、それぞれDA変換した上でミキシングしてもよい。
演奏部263は、楽曲情報に含まれる演奏情報に基づき演奏を行い、演奏音をDA変換部264に出力する。演奏部263に対する演奏指示は、リモコン装置1、あるいは、カラオケ装置2のタッチパネルモニター33等を使用して、ユーザーによって行われる。DA変換部264でアナログ楽音信号に変換された演奏音は、音量調整部265で音量調整された上、ミキシング部254でマイクロホン43aの入力に基づくアナログ音声信号とミキシングされ、スピーカー42に出力される。なお、演奏部263から出力されるデジタル楽音信号は、ミキシング部261等を使用して、デジタル信号としてデジタル音声信号とミキシングしてもよい。
図3は、本実施形態の効果付与部259の構成を示すブロック図である。本実施形態では、効果付与部259において、ユーザー設定などに基づく各種効果をデジタル音声信号に対して付与することが可能となっている。本実施形態の効果付与部259は、各種効果を付与する手段として、ボイスチェンジ271、コンプレッサ272、遅延系効果付与部273、トーンコントローラ276、イコライザ277を含んで構成されている。また、遅延系効果付与部273をバイパスするための手段として、音量調整部274、ミキシング部275が設けられている。
ボイスチェンジ271は、入力されるデジタル音声信号が表す周波数を変換する、あるいは、周波数特性を変更するという手法を使用して、男声あるいは女声のようなデジタル音声信号に加工するボイスチェンジ処理を実行する効果付与手段である。声の性別を変更する以外に、デジタル音声信号が表す周波数を歪ませることで、AMラジオの音声のようなラジオボイスにデジタル音声信号が表す周波数を加工するボイスチェンジ処理も、このボイスチェンジ271で実行することが可能である。
コンプレッサ272は、音量の大きい部分を圧縮することで音量のバラツキを抑える等、デジタル音声信号が表す周波数の部分的な音量を調整することができる効果付与手段である。遅延系効果付与部273は、エコー、リバーブ(残響)、ディレイ等、といったデジタル音声信号が表す周波数を積極的に遅延させることで、壁面で反射した間接音などを模擬する効果付与手段である。なお、本実施形態では、この遅延系効果付与部273をバイパスするための音量調整部274が設けられている。音量調整部274を通過するデジタル音声信号が表す周波数は、遅延していない直接音として出力され、ミキシング部275で遅延系効果付与部273から出力されたデジタル音声信号とミキシングされる。
トーンコントローラ276、イコライザ277は、どちらもデジタル音声信号が表す周波数の周波数特性を調整するための効果付与手段である。本実施形態では、イコライザ277の周波数分割数が、トーンコントローラ276の帯域分割数よりも多い点において異なっている。したがって、イコライザ277では、トーンコントローラ276よりも細かい周波数特性の調整を行うことが可能となっている。
効果付与部259では、このような構成を使用して入力されるデジタル音声信号に各種効果を付与することが可能である。CPU30は、設定に従って、ボイスチェンジ271等、各種効果付与手段に対してパラメータを設定することで、デジタル音声信号に付与する効果の特性を変更することが可能である。
図2で説明したように、本実施形態のAD変換部255は、比較的高い周波数(192kHz)でアナログ音声信号のサンプリングを行うことで、高音質化を図ることを可能としている。しかしながら、サンプリングレートの高い状態で効果付与部259等において処理を実行した場合、効果付与部259を構成するDSP、あるいは、CPU30等での各種処理量は増加し、カラオケ装置2の負荷が増加することになる。特に、カラオケ装置2では、効果付与のみならず、モニター41に対する映像生成処理等、効果付与以外の他の処理も実行する必要があるため、高音質化と負荷の抑制の両立を図ることが必要である。
本実施形態では、サンプリングレートの上昇に伴う負荷量増加に対し、サンプリングレートコンバータ256のサンプリングレートを調整することで、音質の向上と負荷量の抑制の両立を図っている。特に、効果付与部で付与する効果について、聴感上の特性を考慮してサンプリングレートを調整することとしている。具体的には、効果付与部で付与する効果の種類、強度、又は、数の少なくとも1つに応じて、サンプリングレートコンバータのサンプリングレートが変更される。
制御部30を構成するCPU30は、操作部21、あるいは、各種プログラムの実行に伴って生成された効果生成指示の入力を判定すると、効果生成指示に対応するパラメータを効果付与部259等、音響制御部25内の各種構成に対して設定する。その際、効果生成指示に対応するパラメータに基づいて、サンプリングレートコンバータ256で使用するサンプリングレートを決定し、サンプリングレートコンバータ256に設定する。
図4は、各種設定におけるサンプリングレートの比較を説明するための表である。表中に記載する項目「ハウリング」は、ハウリング検知部257、および、ハウリング抑制フィルタ258で実行されるハウリング抑制処理に関する設定である。項目「ボイスチェンジ」は、ボイスチェンジ271で実行される効果付与に関する設定である。項目「遅延系」は、遅延系効果付与部273で実行される効果付与に関する設定である。項目「その他」は、トーンコントローラ276及びイコライザ277で実行される効果付与をまとめて記載した設定である。項目「ドライ音」は、音量調整部260を使用して、効果付与部259を迂回してデジタル音声信号(効果の付与されないドライ音)を出力する場合の設定である。なお、項目「ドライ音」では、ハウリング検知部257、および、ハウリング抑制フィルタ258で実行されるハウリング抑制処理は停止される。
図4(A)〜図4(F)では、2つの設定(設定1、設定2)についてサンプリングレートを比較している。なお、表中、本実施形態では、理解を容易にするため注目する項目以外の設定をハイフン「−」で示している。ハイフン「−」で示される箇所は、当該項目において効果を付与しないスルーとする、あるいは、設定1と設定2で同じ設定となっていることを示している。
図4(A)は、効果付与種別によるサンプリングレートの比較を示す表である。設定1は、項目「ボイスチェンジ」をONにした場合であって、設定2は、同項目「ボイスチェンジ」をOFFにした場合を示している。この例では、サンプリングレートコンバータ256に対して、設定1のサンプリングレートをLow、設定2のサンプリングレートをHighとする。すなわち、項目「ボイスチェンジ」を使用する場合(設定1)のサンプリングレートを、同項目「ボイスチェンジ」を使用しない場合(設定2)のサンプリングレートよりも低く設定している。なお、サンプリングレートのLow、Highは、両設定間における相対的な比較であって、実際のサンプリングレートの絶対的な値は、項目種別、あるいは、項目の強度等に基づいて決定される。つまり、図4(A)〜図4(F)にそれぞれ示すサンプリングレートのLow、Highは、それぞれの比較においての両設定間の相対的な関係を示すものであって、それぞれの絶対的な値が等しいことを示すものではない。一例として、図4(A)に示すLowと、図4(B)に示すLowとでは、サンプリングレートの値が異なっていてもよい。
項目「ボイスチェンジ」を使用する場合(設定1)には、効果付与部259を構成するDSP、あるいは、CPU30等での各種処理量は増加することになるが、項目「ボイスチェンジ」を使用しない場合(設定2)よりもサンプリングレートを低くすることで、処理量を抑制することが可能となる。項目「ボイスチェンジ」を使用する場合、波形の加工処理を伴うため、サンプリングレートを低くしても聴感上の影響は少ないことが予想できる。また、項目「ボイスチェンジ」を使用しない場合(設定2)には、サンプリングレートを高く維持することで、高い音質を確保することが可能となる。
図4(B)は、別の効果付与種別によるサンプリングレートの比較を示す表である。設定1は、項目「遅延系」をONにした場合であって、設定2は、同項目「遅延系」をOFFにした場合を示している。この例では、サンプリングレートコンバータ256に対して、設定1のサンプリングレートをLow、設定2のサンプリングレートをHigh、すなわち、項目「遅延系」を使用する場合(設定1)のサンプリングレートを、同項目「遅延系」を使用しない場合(設定2)のサンプリングレートよりも低く設定している。
項目「遅延系」を使用する場合(設定1)には、効果付与部259を構成するDSP、あるいは、CPU30等での各種処理量は増加することになるが、項目「遅延系」を使用しない場合(設定2)よりもサンプリングレートを低くすることで、処理量を抑制することが可能となる。項目「遅延系」を使用する場合、デジタル音声信号が表す周波数を遅延させる処理を伴うため、サンプリングレートを低くしても聴感上の影響は少ないことが予想できる。また、項目「遅延系」を使用しない場合(設定2)には、サンプリングレートを高く維持することで、高い音質を確保することが可能となる。
図4(C)は、効果付与数別によるサンプリングレートの比較を示す表である。設定1は、項目「ボイスチェンジ」と「遅延系」の両方をONにした場合であって、設定2は、項目「ボイスチェンジ」をON、「遅延系」の両方をOFFにした場合である。項目「ボイスチェンジ」、「遅延系」だけに着目すると、設定1は効果付与数が「2」であるのに対し、設定2は効果付与数が「1」となっている。この場合、設定1ではサンプリングレートをLow、設定2ではサンプリングレートをHighに設定している。効果付与を重ねることで、波形の加工処理、遅延処理等が重なり、元のデジタル音声信号からの乖離が大きくなる。したがって、効果付与数が大きい程、サンプリングレートを低くしても聴感上の影響は少ないことが予想される。このように効果付与数に基づいて、サンプリングレートを変更することで、音質と処理量の両立を図ることが可能となる。
図4(D)は、効果付与強度別によるサンプリングレートの比較を示す表である。設定1、設定2共に、項目「ボイスチェンジ」をONとしている。また、設定1と設定2間では、効果の強度において異なっている。設定1は、設定2よりも強い効果であって、項目「ボイスチェンジ」の場合には、音高の変更具合を項目2の場合よりも大きくする、あるいは、波形をより項目2の場合よりも歪ませるパラメータを使用している。この場合、設定1ではサンプリングレートをLow、設定2ではサンプリングレートをHighに設定している。効果を強くかけた場合、加工に伴う波形の歪み等が大きくなり、元のデジタル音声信号からの乖離が大きくなる。したがって、効果を強くかけた場合程、効果が弱い場合よりサンプリングレートを低くしても聴感上の影響は少ないことが予想される。また、効果を強く付与するほど、効果付与に必要な処理量は多くなることが予想される。このように効果付与強度に基づいて、サンプリングレートを変更することで、音質と処理量の両立を図ることが可能となる。
図4(E)は、ハウリング抑制処理の有無によるサンプリングレートの比較を示す表である。設定1は、ハウリング検知部257、ハウリング抑制フィルタ258を含むハウリング抑制部を使用して、ハウリング抑制処理を動作させた場合である。一方、設定2は、ハウリング抑制処理を実行させない場合である。この場合、設定1ではサンプリングレートをLow、設定2ではサンプリングレートをHighに設定している。ハウリング抑制処理を実行した場合、ハウリング抑制フィルタ258におけるフィルタリング等によって、ハウリング抑制処理が実行されたデジタル音声信号は、元のデジタル音声信号よりも劣化することが予想できる。また、ハウリング抑制処理を実行した場合、デジタル処理部25bでの負荷は増えることになる。この例では、ハウリング検知部257、ハウリング抑制フィルタ258を含むハウリング抑制部を使用した場合、使用しない場合よりもサンプリングレートを低くすることで、音質と処理量の両立を図ることが可能となっている。
図4(F)は、デジタルドライ音の有無によるサンプリングレートの比較を示す表である。設定1は、デジタルドライ音をONに設定した場合である。デジタルドライ音の設定は、効果付与部259を迂回する音量調整部260の音量を0よりも大きくすることで設定される。設定2は、デジタルドライ音をOFFに設定した場合、すなわち、音量調整部260の音量を0に設定した場合である。なお、この例では、デジタル音声信号が表す周波数に対するハウリング抑制処理の影響も排除するため、ハウリング抑制処理もOFFに設定して比較している。この場合、設定1ではサンプリングレートをHigh、設定2ではサンプリングレートをLowに設定している。効果付与を受けないデジタルドライ音を使用する場合、サンプリングレートが高くなるほど、音質の良さを感じやすくなることが予想される。この場合、デジタルドライ音の有無により処理量に大きな違いはないが、デジタルドライ音を使用した場合には、効果が付与されない音を含むことになるため、高いサンプリングレートを使用することで、聴覚上、良好な音質を提供することが可能となる。
なお、本実施形態では、デジタルドライ音の有無に応じてサンプリングレートを決定することとしているが、デジタルドライ音、すなわち、音量調整部260を通過する音と、デジタルウェット音、すなわち、効果付与部259を通過する音の比(ミキシング比)に応じて、サンプリングレートを決定することとしてもよい。デジタルウェット音に対するデジタルドライ音の比が高くなる程、サンプリングレートを高くすることで、聴覚に適合した、良好な音質を提供することが可能となる。
以上、図4(A)〜図4(F)について各種、サンプリングレートの比較例を説明したが、本発明は、これらの例で説明したように、ある項目に限った例に限られるものではなく、複数の項目の組み合わせに基づき、サンプリングレートを決定することとしてもよい。例えば、図4(A)で説明したような効果付与種別と、図4(C)で説明したような効果付与数の両方に基づいて、サンプリングレートを決定してもよい。その場合、例えば、各項目についてのポイントを積算することで、サンプリングレートを決定することが可能である。項目「ボイスチェンジ」をONした場合のポイント、項目「ボイスチェンジ」をOFFした場合のポイント、項目「遅延系」をONした場合のポイント、項目「遅延系」をOFFした場合のポイントを予め決めておく。設定に基づいてポイントを積算し、ポイントに該当するサンプリングレートとすることで、複数の項目の組み合わせに適したサンプリングレートを決定することが可能である。上述する項目に限らず、効果付与種別の項目、ハウリング抑制処理の有無、デジタルドライ音の有無(あるいは、ミキシング比)についても同様な手法でサンプリングレートを決めることが可能である。
図2、図3は、デジタル音声信号が表す周波数の全帯域について、まとめてサンプリングレートの変換を行うこととしているが、サンプリングレートは周波数分割された各帯域毎に決めることとしてもよい。図5は、他の実施形態に係る音響制御部の構成を示すブロック図である。この実施形態では、AD変換部255から入力されたデジタル音声信号が表す周波数を、高域成分、中域成分、低域成分の3つの帯域に分割し、各帯域毎にサンプリングレートを設定している。
AD変換部255は、アナログの音声信号を、192kHzのサンプリングレートでサンプリングしてデジタル音声信号に変換する。AD変換部255でデジタル化されたデジタル音声信号は、HPF281(ハイパスフィルタ)でフィルタリングされ、高域成分が抽出される。デジタル音声信号の高域成分は、第1効果付与部282に入力される。図6(A)は、第1効果付与部282の内部構成を示したブロック図である。本実施形態では、音量調整部301、コンプレッサ302、トーンコントローラ303、イコライザ304が直列接続された形態となっている。各構成の詳細は、図3で説明したものと同じであるため、ここでの説明は割愛する。第1効果付与部282から出力されたデジタル音声信号は、ミキシング部293に出力される。
また、AD変換部255でデジタル化されたデジタル音声信号は、LPF283(ローパスフィルタ)でフィルタリングされ、中域成分及び、低域成分が抽出される。そして、サンプリングレートコンバータ284で、48kHzのサンプリングレートにダウンサンプリングされる。48kHzにダウンサンプリングされたデジタル信号の中域成分、低域成分は、ハウリング検知部285に入力され、ハウリングの発生検知に使用される。ハウリング検知部285は、ハウリングの発生有無、並びに、発生したハウリングの周波数を検出する。そして、ハウリングの発生を検出した場合、ハウリング検知部285は、中域成分に設けられたハウリング抑制フィルタ287、低域成分に設けられたハウリング抑制フィルタ291のそれぞれに対して、検知したハウリングを解消、抑制するためのフィルタ係数を出力する。ハウリング抑制フィルタ287、291は、設定されたフィルタ係数によって狭帯域の音声を抑制するノッチフィルタを形成し、発生したハウリングを抑制する。
サンプリングレートコンバータ284から出力された中域成分、低域成分を含んだデジタル音声信号は、HPF286(ハイパスフィルタ)でフィルタリングされ、中域成分が抽出される。デジタル音声信号の中域成分は、ハウリング抑制フィルタ287を通過し、第2効果付与部282に入力される。図6(B)は、第2効果付与部288の内部構成を示したブロック図である。本実施形態の第2効果付与部288は、ボイスチェンジ311、コンプレッサ312、遅延系効果付与部313、トーンコントローラ314、サンプリングレートコンバータ315、イコライザ316が直列接続された形態となっている。
図5のデジタル処理部25bで実行されるボイスチェンジ処理は、図3のボイスチェンジ271と同様、入力されるデジタル音声信号を、男声、女声、あるいはラジオボイスに変換する効果付与手段である。本実施形態のボイスチェンジ311では、各ボイスチェンジ処理の音響特性を考慮し、デジタル音声信号の中域成分に対しては、女声のみ使用することとしている。なお、中域成分を担当するボイスチェンジ311では、ラジオボイスを取り扱うこととしてもよい。ボイスチェンジ処理が男声の場合には、このボイスチェンジ311は機能させずに、スルー状態となる。コンプレッサ312、遅延系効果付与部313、トーンコントローラ314、イコライザ316の各構成詳細は、図3で説明したものと同じであるため、ここでの説明は割愛する。サンプリングレートコンバータ315は、デジタル処理部25bで使用する最も高いサンプリングレート(この場合、192kHz)のデジタル音声信号とミキシングするために設けられている。第2効果付与部288から出力されたデジタル音声信号は、ミキシング部293に出力される。
また、サンプリングレートコンバータ284から出力された中域成分、低域成分を含んだデジタル音声信号は、LPF289(ローパスフィルタ)でフィルタリングされ、低域成分が抽出される。デジタル音声信号の低域成分は、サンプリングレートコンバータ290で、12kHzのサンプリングレートにダウンサンプリングされる。12kHzにダウンサンプリングされたデジタル音声信号の低域成分は、ハウリング抑制フィルタ291を通過し、第3効果付与部292に入力される。図6(C)は、第3効果付与部292の内部構成を示したブロック図である。本実施形態の第3効果付与部292は、ボイスチェンジ321、コンプレッサ322、遅延系効果付与部323、トーンコントローラ324、サンプリングレートコンバータ325、イコライザ326が直列接続された形態となっている。
全て(男声、女声、ラジオボイス)のボイスチェンジ処理では音響特性上低域成分を取り扱うため、低域成分を取り扱うボイスチェンジ321は、全て(男声、女声、ラジオボイス)のボイスチェンジ処理において機能する。コンプレッサ322、遅延系効果付与部323、トーンコントローラ324、イコライザ326の各構成詳細は、図3で説明したものと同じであるため、ここでの説明は割愛する。サンプリングレートコンバータ325は、図6(B)のサンプリングレートコンバータ315と同様、ミキシング部293でのミキシングを目的として、デジタル処理部25bで使用する最も高いサンプリングレート(この場合、192kHz)に変換する。第3効果付与部292から出力されたデジタル音声信号は、ミキシング部293に出力される。
ミキシング部293では、第1効果付与部282から出力される高域成分、第2効果付与部288から出力される中域成分、第3効果付与部292から出力される低域成分をミキシングしてDA変換部294に出力する。DA変換部294は、入力されたデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換した上で、ミキシング部252に出力する。
以上が、帯域分割を実施するとともに、各帯域についてサンプリングレートを異ならせる形態の構成である。なお、各帯域では、図2〜図4の実施形態と同様、使用する効果付与種別、効果付与数、効果付与強度、ハウリング抑制処理の有無、デジタルドライ音の有無等に応じて、サンプリングレートコンバータ284、290におけるサンプリングレートの変更が行われる。なお、図5の構成において、AD変換部255においてサンプリングレートを変更可能とし、高域成分に対するサンプリングレートを変更可能としてもよい。また、図5の構成では、高域になるほど、高いサンプリングレートを設定可能としているが、このような形態のみならず、各帯域毎に自由にサンプリングレートを設定可能としてもよい。
以上、図1〜図6を用いて、2つの実施形態のデジタル処理部25bの詳細について説明したが、本実施形態のデジタル処理部25bを含んで構成された効果付与装置では、効果付与部で付与される効果の種類、強度、又は、数の少なくとも1つに応じて、サンプリングレートを変更することにより、高いサンプリングレートを使用した高解像度の音による高音質化と、高音質化に伴う負荷を抑制の両立を図ることが可能となる。
なお、本実施形態においてDSPを使用してデジタル処理部25bの構成を実現する場合、デジタル処理部25bは、図2、図3、図5、図6のブロック構成を物理的に形成するものではなく、DSPで使用するプログラムを変更することで、ブロック構成を実現する演算を行うものである。したがって、図2、図3、図5、図6に構成のブロック構成は、自由に構成を変更することが可能である。なお、本発明の範疇は、効果付与装置のみならず、DSP等、各種情報処理装置において、効果付与装置を実現するための効果付与プログラムも含まれる。