JP2018164442A - 皮膚有棘細胞癌の判定、予防又は治療方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、皮膚有棘細胞癌における新規の診断、予防及び治療方法を提供することであり、また皮膚有棘細胞の動物モデルを提供することである。【解決手段】上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)の存在又は非存在を検出する工程を含む、被検哺乳動物の有棘細胞癌又は有棘細胞癌へのかかりやすさを判定する方法が提供された。また、EGFR−PPARGC1A融合体を特異的に認識する核酸を含む、有棘細胞癌の診断用キットが提供され、被検動物に、予防上又は治療上有効量のEGFR阻害剤を投与することを含む、有棘細胞癌の予防又は治療方法が提供された。【選択図】なし

Description

本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)の存在又は非存在を検出することを含む、皮膚有棘細胞癌の判定方法に関する。また本発明は、該融合体を検出するための物質、及び該融合体を検出するための物質を含む組成物に関する。さらに本発明は、EGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を含む、有棘細胞癌の予防又は治療剤、及び予防上又は治療上有効量のEGFR阻害剤又はEGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を投与することを含む、有棘細胞癌の予防又は治療方法などに関する。
皮膚有棘細胞癌は、皮膚において有棘層を構成する有棘細胞から発生する悪性腫瘍である。日本人に多い皮膚癌のひとつで、毎年10万人あたり約2.5人がこの癌に罹患すると推定されているが、皮膚有棘細胞癌の初期病変で表皮内癌にあたる日光角化症やボーエン病を含めるとその数は飛躍的に増加すると考えられる。内臓諸臓器にも見られる扁平上皮がん(SCC)の一種であると考えられるが、皮膚に生じるものの特徴として日光暴露が多い部位に好発し紫外線の影響で発生することが挙げられる。また、一部の症例では、乳頭腫ウイルスの関与が指摘されているが、腫瘍形成に関わる原因遺伝子は未だ不明である。
現在、皮膚有棘細胞癌の診断は視診による臨床所見と生検による病理組織所見により行われる。しかし、視診では特に初期は良性腫瘍との鑑別が難しく、また病理組織学的にも特異的な細胞マーカーが存在しないため鑑別が困難であるということがしばしば経験される。SCC抗原が血液検査で測定できる腫瘍マーカーとして用いられることもあるが、腫瘍がかなり進行しリンパ節や内臓他臓器に転移する段階にならないと上昇がみられない。また、他の悪性腫瘍では遺伝子変異或いは融合遺伝子が診断方法として使用されているが、皮膚有棘細胞癌ではいまだ遺伝子検査は有用とされていない。
また、皮膚有棘細胞癌に対する治療としては手術による全摘が基本であるが、高齢者に多い悪性腫瘍であるため耐術能に乏しかったり、診断が難しい例では診断が遅れリンパ節や他臓器に転移して切除不能であることも多い。その場合化学療法や放射線療法が考慮され、前者としてはCAG療法やイリノテカンなどが保険適応であるが、高齢者では副作用が強く使用できないこともある。放射線療法は一般に姑息的治療であり根治は期待できない。
Cancer Res. 2015 Nov 1;75(21):4458-65 Nature. 2007 Aug 2;448(7153):561-6.
本発明の目的は、皮膚有棘細胞癌における新規の診断、予防及び治療方法を提供することであり、また皮膚有棘細胞癌の動物モデルを提供することである。
本発明者らは、皮膚有棘細胞癌の細胞株において、EGFRとPPARGC1Aという本来は別々の離れたところにある遺伝子が異常に融合していることを見出した。該融合遺伝子は、皮膚有棘細胞癌102症例中約30%で陽性であり、一方で、他の鑑別を要する皮膚腫瘍では出現せず皮膚有棘細胞癌に特異的であったため、診断に有用であると考えられた。また、皮膚有棘細胞癌の細胞株においてEGFRに対するsiRNAを導入したところ、皮膚有棘細胞癌の細胞株の増殖を抑制することを見出した。さらに、NIH3T3細胞に該融合遺伝子を導入したものをマウス皮下に局所投与したところ、腫瘍形成が起きることを見出し、該融合遺伝子が腫瘍形成に直接的に関与していることを見出した。
発明者らはさらに本発見に基づいて鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の態様を含むものである:
[1]被検動物の皮膚有棘細胞癌又は皮膚有棘細胞癌の発症リスクを判定する方法であって、
(I)該被検動物由来の生体試料において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)の存在又は非存在を検出する工程、
(II)工程(I)においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された場合に、被検動物が皮膚有棘細胞癌を有しているか皮膚有棘細胞癌の発症リスクがあると判定する工程、
を含む方法。
[2]EGFR−PPARGC1A融合体検出用の核酸を含む、皮膚有棘細胞癌の診断用キット。
[3]被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された被検動物に、予防上又は治療上有効量のEGFR阻害剤を投与することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法。
[4]EGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療用医薬組成物。
本発明によれば、EGFR−PPARGC1A融合体を検出することにより、皮膚有棘細胞癌を早期に診断することができ得る。また、EGFR−PPARGC1A融合体が検出された被検動物に対し、EGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質又はEGFR阻害剤を投与することにより、皮膚有棘細胞癌を予防又は治療し得る。さらに、EGFR−PPARGC1A融合体を抑制する物質は、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療上有用であり得る。
図1はトランスクリプトーム解析による、A431及びNHEK間での、差次的発現変動を示す図である。グラフィックスの文法(The Grammar of Graphics)を用いて図示するために注釈付けられた、NHEK及びA431を用いたトランスクリプトーム解析による差次的発現変動のMAプロット。X軸は、平均log2−counts−permillion(logCPM)を示し、一方、Y軸は、log2倍量変化(logFC)を示す。灰色は、差次的に発現する遺伝子(DEG)(FDR<0.01)を示す。 図2は細胞株における新規のEGFR−PPARGC1A融合体の同定を示す図である。A:上パネル:EGFR−PPARGC1A融合体転写物の形成に関し、EGFR遺伝子及びPPARGC1A遺伝子の構造を示す模式図。下パネル:区切り点(breakpoint)におけるEGFR−PPARGC1A融合体転写物の部分配列と予想されるアミノ酸配列。転写物は、PPARGC1Aエクソン2へのEGFRエクソン16の融合体である。B:EGFR−PPARGC1A融合体のRT−PCR検出。(左パネル)EGFR−PPARGC1A融合体転写物の存在を、EGFRフォワードプライマー及びPPARGC1Aリバースプライマーを用いたRT−PCRにより、検証した。野生型全長EGFR又は野生型全長PPARGC1Aを増幅させないように、融合体遺伝子特異的プライマーを設計した。(右パネル)融合体遺伝子特異的プライマー又はGAPDHプライマーによるPCR産物及びラダーマーカーを、エチジウムブロマイドを含むアガロースゲルで泳動した。レーンM、100bpマーカー;レーン5、培養ヒト皮膚微小血管内皮細胞(EC);レーン6、正常ヒト皮膚線維芽細胞(FB)。矢印は、融合体遺伝子特異的プライマーを用いて増幅したPCR産物(287bp)、及びGAPDHを用いて増幅したPCR産物(118bp)を示す。C:ヒトEGFR特異的プローブ及びPPARGC1A特異的プローブを用いたFISH解析。NHEK(左)は、2つのEGFRシグナル(アスタリスクGにより示される)及び2つのPPARGC1Aシグナル(アスタリスクRにより示される)を持っていた。一方、A431においては、EGFRシグナルとPPARGC1Aシグナルとの共局在(融合体シグナル)が多く検出された(右)。白色矢頭は、融合体シグナルを示す。D:染色体解析の結果。(左)二倍体であるNHEKの核型:46、XX。(右)A431は、複雑で異常な核型を有しており、異数体であった。その核型は72−80、XXX、+1、+3、i(3)(q10)×2、add(4)(p11)、add(6)(q13)、add(7)(p13)、add(8)(p11.2)、+11、add(11)(q13)×2、−13、i(14)(q10)、−16、add(17)(p11.2)、−19、+20、+20、−21、−22、add(22)(q13)、+mar1、+mar2、+mar3、+mar4、+mar5×2[cp20]であった。矢印は、推定上の区切り点を示す。挿入図は、染色体7を表す。 図3はEGFR−PPARGC1Aを有する或いはもたないcSCC患者の臨床及び病理組織学的特徴を示す図である。A:cSCC腫瘍組織のRNAにおける、EGFR−PPARGC1A特異的な287bp断片のRT−PCR検出、と同一患者(患者番号61)から得た血液RNAにおける該断片の非検出。M、100bpラダー:NC、陰性対照(患者番号62)。矢印は、EGFR−PPARGC1A特異的プライマーを用いて増幅されたPCR産物を示す。B:cSCC腫瘍組織から得たRNAにおけるEGFR−PPARGC1A特異的な287bp断片のRT−PCR検出、及び同一患者(患者番号7)から得た血清RNAにおける、EGFR−PPARGC1A特異的な287bp断片の非検出。M、100bpラダー:NC、陰性対照(患者番号53)。矢印は、EGFR−PPARGC1A特異的プライマーを用いて増幅されたPCR産物を示す。C:本研究における、102人のcSCC患者における、腫瘍分布。濃灰色の点は、EGFR−PPARGC1A陽性の腫瘍を示す。一方、灰色の点は、融合体に対し陰性の腫瘍であることを示す。D、E:左頬に腫瘍を認める2人の患者である、EGFR−PPARGC1Aを有する患者(D、患者番号84)及びEGFR−PPARGC1Aを持たない患者(E、患者番号30)の、病理組織学的所見。むらのある角化を伴い、多形かつ高色素性である多量の腫瘍細胞を示す、ヘマトキシリン―エオシン染色の結果。核の非定型性及び有糸分裂像を示す。Bar=50μm。F、G:EGFR−PPARGC1A陽性である、日光角化症患者(F、No.1)及びボーエン病患者(G、No.2)の病理組織学的所見。基底層(F、日光角化症)又は表皮の有棘層(G、ボーエン病)における多形性及び高色素性である腫瘍細胞を示す、ヘマトキシリン―エオシン染色の結果。矢印は基底層を示す。Bar=50μm。 図4はDJM−1における、新規のADCK4−NUMBL融合体の同定を示す図である。A:上パネル:ADCK4−NUMBL融合体転写物の形成に関し、ADCK4及びNUMBL遺伝子構造を示す模式図。下パネル:区切り点におけるADCK4−NUMBL融合体転写物の部分配列と、予想されるアミノ酸配列。転写物は、NUMBLエクソン2に対するADCK4エクソン13の融合体である。B:ADCK4−NUMBL融合体のRT−PCR検出。(左パネル)ADCK4−NUMBL融合体転写物の存在を、ADCK4フォワードプライマー(右矢印)及びNUMBLリバースプライマー(左矢印)を用いたRT−PCRにより、検証した。融合体遺伝子特異的プライマーは、野生型全長ADCK4又はNUMBLを増幅しないように設計した。(右パネル)融合体遺伝子特異的プライマー又はGAPDHプライマーを用いて増幅させたPCR産物、及びラダーマーカーを、エチジウムブロマイドを含むアガロースゲルを用いて泳動した。レーンM、100bpマーカー;レーン5、培養したヒト皮膚微小血管内皮細胞(EC);レーン6、正常ヒト皮膚線維芽細胞(FB)。矢印は、ADCK4−NUMBL特異的プライマーを用いて増幅させたPCR産物(204bp)及びGAPDH特異的プライマーを用いて増幅させたPCR産物(118bp)を示す。C:本研究における、102人のcSCC患者における腫瘍分布。濃灰色の点は、ADCK4−NUMBL陽性の腫瘍を示す。一方、灰色の点は融合体陰性の腫瘍を示す。 図5はEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の略図を示す図である。A:対照ベクター、全長野生型EGFR、全長PPARGC1A、又はEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子を遺伝子導入したNIH3T3の微視的特徴。Bar=200μm。B:野生型全長EGFRタンパク質、全長PPARGC1Aタンパク質、及び本研究において同定された予想されるEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質産物の略図。数字は、エクソン番号を示す。EGFRの細胞外ドメインは、1−15エクソンから成り、膜貫通ドメインはエクソン16から始まる。 図6はNIH3T3における、EGFR−PPARGC1Aタンパク質の強制的な過剰発現を示す図である。A:対照ベクター又はEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子を遺伝子導入したNIH3T3(1x105細胞)を、マウスの皮膚に注射した。8週間後の、融合体遺伝子を過剰発現する細胞を注射したマウスにおける腫瘍形成を示す(右)。マウス1匹あたり、1つの移植片を注射し、各実験あたり3匹のマウスを用いた。B:融合体遺伝子を遺伝子導入したNIH3T3細胞の移植片のヘマトキシリン―エオシン染色。腫瘍細胞は、多形性がありかつ高色素性であった。有糸分裂像を示す。(左)低倍率、bar=200μm、(右)高倍率、bar=50μm。C:融合体遺伝子を遺伝子導入したNIH3T3細胞の移植片から得たRNA(implant)及び移植片から培養した細胞から得たRNA(Cell)中の、EGFR−PPARGC1A特異的な287bp断片のRT−PCR検出。矢印は、融合体遺伝子特異的プライマーを用いて増幅したPCR産物を示す。M、100bpラダー:NC、対照ベクターを遺伝子導入したNIH3T3を用いたPCR−陰性対照。D:NHEK、A431、及びDJM−1(1x105細胞)を播種し、6ウエルプレート中で培養した。72時間後、トリプシン処理によりウエルから細胞を剥がし、数えた。*、HEK(n=3)と比較してP<0.05。E:増殖解析のため、レンチウイルス対照又はEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子が安定的に遺伝子導入されたNIH3T3を、実施例に記載のとおり数えた。細胞をBrdUで標識し、ELISAにより解析した。白色のバーは、細胞数を示し、黒色線は、BrdU ELISAにより決定された相対吸光度を表す。*P<0.05(n=3)。F、G:A431に、対照又はEGFRsiRNAを遺伝子導入した。EGFRsiRNAの遺伝子導入効率を示すため、EGFR−PPARGC1A特異的プライマーペア又は野生型EGFR特異的プライマーペアを用いて得たPCR産物を、エチジウムブロマイドを含むアガロースゲルを用いて泳動した。GAPDHレベルを対照として示す。M、100bpラダー(F)。実施例に記載のとおり、遺伝子導入72時間後に、細胞の数を数えた。*P<0.05(n=3)(G)。 図7は、A431における、野生型EGFRの恒常的リン酸化に対するEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子の効果を示す図である。A:リン酸化−EGFR Tyr1173及び野生型完全長EGFRに対する抗体を用いた、細胞溶解物の免疫ブロット。EGF(100ng/μl)を用いて或いは用いずに、溶解前に15分間NHEKを処理した。アクチンをローディング対照として示した。M;分子マーカー。B、C:空ベクター又はEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子を安定的に遺伝子導入した、A431、DJM−1(B)又はNIH3T3(C)から、溶解物を得た。リン酸化−EGFR Tyr1173、野生型EGFR及びアクチンに対する抗体を用いて、免疫ブロットを行った。M;分子マーカー。D:EGFR細胞外ドメインに対する抗体を用いて、細胞溶解物の免疫沈降を行い、続いて抗−リン酸化チロシン(4G10)抗体を用いて免疫ブロットを行った。同一の膜の抗体除去を行い、抗−EGFR細胞外ドメイン抗体を用いてリプローブを行って、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質が存在しないことを決定した。A431は、溶解前に3時間、EGFを用いて或いは用いずに処理した。M;分子マーカー。E:NHEK、A431及びDJM−1の溶解物の免疫ブロットと、それに続く野生型EGFRの細胞内ドメインに対する抗体を用いた免疫沈降。EGFRの細胞外ドメインに対する抗体を用いて、ブロットをインキュベートし、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質を検出した。M;分子マーカー。F:A431におけるEGFR−PPARCG1A融合体遺伝子の役割に関する、本発明者の仮説モデル。EGFR−PPARGC1Aタンパク質は、恒常的なチロシン自己リン酸化を引き起こすが、細胞内ドメインを持たないため、細胞のシグナル伝達することができない。代わりに、融合体タンパク質は、互いに相互作用することにより、野生型全長EGFRをリン酸化し、異所性の刺激なしに細胞増殖を刺激する。 図8は、CRISPRシステムを用いてEGFR−PPARCG1A融合体遺伝子又はADCK4−NUMBL融合体遺伝子を特異的に阻害したA431細胞、或いは遺伝子の阻害を行っていない親株A431細胞における、細胞数を示す図である。EGFR−PPARCG1A融合体遺伝子の発現を阻害したA431細胞においては、細胞数が減少するが、別の融合遺伝子を阻害しても細胞数に変化はなかった。
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施態様に限定されるものではない。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本明細書において「及び/又は」は、いずれか一方、あるいは、両方を包含する意味で使用される。
本発明は、被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出する工程を含む、皮膚有棘細胞癌の判定方法(本明細書中、本発明の判定方法とも称する)を提供する。また、本発明はEGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を含む、有棘細胞癌の予防又は治療剤をも提供する。さらに本発明は、EGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された被検動物に、予防又は治療上有効量のEGFR阻害剤又はEGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を投与することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法(本明細書中、本発明の治療方法とも称する)を提供する。
さらに、本発明は、EGFR−PPARGC1A融合体の検出用核酸(本明細書中、本発明の検出用核酸とも称する)を提供する。さらに本発明は、本発明の核酸を含む、組成物を提供する。本発明の核酸及び本発明の組成物は、EGFR−PPARGC1A融合体の検出に有用である。
以下、本発明の詳細を説明する。
1.被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出する工程を含む、皮膚有棘細胞癌の判定方法。
本発明は、被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出する工程を含む、該被検動物の皮膚有棘細胞癌の判定方法、該被検動物の皮膚有棘細胞癌へのかかりやすさを判定する方法(本明細書中、本発明の判定方法とも称する)、皮膚有棘細胞癌の素因を有する被検動物の同定方法、EGFR阻害剤応答性であり得る被検動物の同定方法、並びに皮膚有棘細胞癌の診断又は素因の評価のためのデータを収集する方法(これらを総称して、本発明の方法1とも称する)を提供する。
本明細書中、「遺伝子が融合する」とは、第1の遺伝子の少なくとも一部が第2の遺伝子の少なくとも一部に融合することを意味する。本明細書中、「遺伝子融合体」とは、遺伝子の融合から生じるキメラゲノムDNAを意味する。本明細書中、遺伝子融合体の、「区切り点」(breakpoint)とは、遺伝子融合体中の第1の遺伝子からの配列と、遺伝子融合体中の第2の遺伝子からの配列との間の移行点を意味する。遺伝子融合体は、転写により、遺伝子融合体転写産物(キメラメッセンジャーRNA)を生じる。当該遺伝子融合体転写産物は、翻訳により遺伝子融合体タンパク質(キメラタンパク質)を生じる。
本発明において用いられるEGFR−PPARGC1A融合体とは、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)を意味し、好ましくはヒトにおける、7p12に位置するEGFRのエクソン16と、4p15に位置するPPARGC1Aのエクソン2の融合から生じるキメラゲノムDNAを意味する。
本明細書中、用語「皮膚有棘細胞癌」(cutaneous Squamous Cell Carcinoma)とは、皮膚の重層扁平上皮である表皮から発生する癌であって、通常、皮膚表面にびらんをもつ腫瘤を形成する。本発明の好ましい態様においては、生殖器領域のcSCCを除く皮膚有棘細胞癌を対象とする。
本発明の方法1においての被検対象となり得る動物としては、例えば、哺乳動物(例:ヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)、鳥類(例:ニワトリ等)などが挙げられ、好ましくは、哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
本発明の方法1においての被検対象となり得る動物の一例としては、ボーエン病又は日光角化症に罹患しているか罹患の可能性があると判定された哺乳動物(より好ましくはヒト)が挙げられるが、これに限定されない。
本明細書中、「生体試料」は、表皮などの皮膚、生検試料及び剖検試料などの組織の切片、血液、及び血液留分または血液製剤(例えば、血清、血漿、血小板、赤血球等)、肺胞洗浄液、培養細胞、例えば初代培養、外植片、及び形質転換細胞、糞便、尿等、並びにこれらの試料から抽出された細胞抽出液、単離されたタンパク質成分、単離されたDNA又はRNAを含むものである。
本発明において好ましく用いられる生体試料は、被検動物の皮膚由来の生体試料、並びに生検試料及び剖検試料などの組織切片であり、より好ましくは被検動物の皮膚由来の生体試料である。
本発明において用いられる被検動物由来の生体試料は、該被検動物から生体試料を採取する工程により得ることができる。
本発明において、「EGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出」とは、
(A1)EGFRとPPARGC1Aの融合により生じたキメラゲノムDNAの有無の検出、
(A2)該キメラゲノムDNAの転写産物であるEGFR−PPARGC1A融合体転写産物の有無の検出、又は
(B)該転写産物によりコードされるEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の有無の検出を意味する。
EGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在の検出は、自体公知の方法を用いて行うことができる。
好ましい態様において、上記工程(A1)におけるキメラゲノムDNAは、EGFRのエクソン16とPPARGC1Aのエクソン2の融合により生じたキメラゲノムDNAである。
(A)EGFR−PPARGC1A融合体核酸の検出
本明細書中、EGFR−PPARGC1Aの融合により生じたキメラゲノムDNA及びEGFR−PPARGC1A融合体転写物を総称して、EGFR−PPARGC1A融合体核酸とも称する。
EGFR−PPARGC1A融合体核酸の存在若しくは非存在の検出は、当該技術分野において既知の方法(例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Fourth Edition)Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2012などを参考にすることができる)を用いて行うことができる。
EGFR−PPARGC1A融合体核酸の存在又は非存在の検出は、例えば、生体試料よりDNA又はRNAを抽出し、単離したDNA又はmRNA若しくは該RNAを鋳型として作製したcDNAを用いて行うこともでき、組織切片などの生体試料を用いて行うこともできる。
EGFR−PPARGC1Aの融合により生じたキメラゲノムDNAの検出には、ゲノムDNA若しくはその断片を含む生体試料、又は生体試料より単離したゲノムDNA若しくはその断片又はそれらのヌクレオチド配列情報を用いることができる。
EGFR−PPARGC1A融合体転写産物の検出には、RNA若しくはその断片を含む生体試料、又は生体試料より単離したRNA若しくはその断片又はこれらから合成したcDNA又はそれらのヌクレオチド配列情報を用いることができる。
本明細書中、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド又は該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子であって、ヌクレオチド又はヌクレオチドと同等の機能を有する分子が、2以上(好ましくは5以上)結合した分子であればいかなる分子であってもよい。例えば、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」としては、リボヌクレオチドの重合体であるRNA、デオキシリボヌクレオチドの重合体であるDNA、RNAとDNAとからなるキメラ核酸(RNA/DNAキメラ)、及びこれらの核酸の少なくとも一つのヌクレオチドが該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子で置換されたヌクレオチド重合体があげられる。また「核酸」又は「ポリヌクレオチド」としては、プリン及びピリミジン塩基、若しくは他の天然ヌクレオチド塩基、化学的若しくは生化学的に修飾された非天然ヌクレオチド塩基若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を有するヌクレオチドを含むものであってもよい。また、核酸は、非修飾(天然型)のリン酸ジエステル結合を有するものであっても、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の化学修飾されたヌクレオチドを含むものであってもよい。またチミン(T)は、ウラシル(U)に一義的に読み替えることができる。
EGFR−PPARGC1A融合体核酸の存在又は非存在を検出する方法の具体例としては、例えば、下記の(1)〜(4)が挙げられる:
(1)核酸配列解析により得た核酸配列情報を用いて検出する方法、
(2)EGFR−PPARGC1A融合体核酸又はそれらに対する相補配列を有する核酸の、区切り点(breakpoint)より5’側に特異的にハイブリダイズするプライマーと、区切り点より3’側に特異的にハイブリダイズするプライマーとの、プライマーペアを用いて、区切り点を含むEGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部の配列を含む核酸を増幅させることによる検出方法、
(3)EGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部の配列であって区切り点を含む配列に、特異的にハイブリダイズするプローブを用いる方法、
(4)EGFR−PPARGC1A融合体核酸の区切り点より5’側の一部の配列又はその相補配列のいずれかにストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブ、該EGFR−PPARGC1A融合体核酸の区切り点より3’側の一部の配列又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブを用いる方法。
本発明は、上記の(2)に用いられるプライマーペア、並びに(3)及び(4)に用いられるプローブからなる、EGFR−PPARGC1A融合体核酸を特異的に認識する核酸を包含するものである。
(1)核酸配列解析により得た核酸配列情報を用いた検出
EGFR−PPARGC1A融合体核酸は、被検動物の生体試料に由来する核酸のヌクレオチド配列情報を用いて検出することができる。生体試料に由来する核酸のヌクレオチド配列情報は、通常、被検動物より単離したゲノムDNA若しくはRNA又はそれらに対する相補配列を有する核酸の配列解析を行うことにより得ることができる。核酸の配列解析の方法としてはサンガー法、ジデオキシ法、サイクルシークエンス法、Maxam−Gilbert法(化学分解法)、MALDI−TOFMS、及び固相シーケンシング等の公知の方法を用いることができる。また、無数のDNA断片の塩基配列を同時並行的に決定することができる次世代シーケンサーを用いた方法も利用することができる。次世代シーケンサーとしては、Genome Sequencer−FLX (GS−FLX)(Roche社)、Illumina HiSeq/MiSeq(Illumina社)、Genome Analyzer IIx(GAIIx)(Illumina社)、PacBio RS II(Pacific Biosciences社)等を用いることができる。
被検動物に由来する核酸のヌクレオチド配列が、区切り点を含むEGFR−PPARGC1A融合体核酸配列の一部を含む場合に、該被検動物はEGFR−PPARGC1A融合体を有すると判定することができる。
好ましい一態様において、被検動物に由来するRNAのヌクレオチド配列が、配列番号1に記載の配列、より好ましくは配列番号2に記載の配列、さらに好ましくは配列番号3に記載の配列を含む場合、EGFR−PPARGC1A融合体転写産物が検出されたと判定することができる。
好ましい一態様において、被検動物に由来するcDNAのヌクレオチド配列が、配列番号4に記載の配列、より好ましくは配列番号5に記載の配列、さらに好ましくは配列番号6に記載の配列を含む場合、EGFR−PPARGC1A融合体転写産物が検出されたと判定することができる。
好ましい一態様において、被検動物に由来するゲノムDNAのヌクレオチド配列が、配列番号4に記載の配列、より好ましくは配列番号5に記載の配列、さらに好ましくは配列番号6に記載の配列を含む場合、EGFR−PPARGC1A融合体キメラゲノムDNAが検出されたと判定することができる。
(2)区切り点を含むEGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部を増幅させることにより検出する方法
また、融合体の検出は、該キメラゲノムDNA若しくは該転写産物又はそれらの相補配列の、区切り点(breakpoint)より5’側に特異的にハイブリダイズするプライマーと、区切り点より3’側に特異的にハイブリダイズするプライマーとの、プライマーペア(本明細書中、本発明のプライマーペアと称する場合がある)を用いて行うことができる。本発明のプライマーは、両プライマーに挟まれた区切り点を含む領域を増幅するように設計される。
本発明のプライマーペアは、区切り点を含むEGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部の配列を含む核酸を、特異的に増幅できる限り特に限定されるものではないが、例えば、区切り点を含む遺伝子融合体転写産物を増幅するためのプライマーペアとしては、
フォワード:ATCCAGTGTGCCCACTACATTG(配列番号7)
リバース:GCTGTCTGTATCCAAGTCGTTC(配列番号8)
が挙げられる。
好ましい本発明のプライマーペアの一例としては、配列番号7で示されるヌクレオチド配列を含むプライマー及び配列番号8で示されるヌクレオチド配列を含むプライマーのペアが挙げられ、配列番号7で示されるヌクレオチド配列からなるプライマー及び配列番号8で示されるヌクレオチド配列からなるプライマーのペアがより好ましい。
「プライマー」または「プライマー配列」は、標的核酸配列(例えば、増幅されるDNA鋳型)にハイブリダイズして核酸合成反応をプライムするポリヌクレオチドを指す。プライマーは、DNA、RNA又はRNA/DNAキメラであり得る。プライマーは、天然、合成又は修飾ヌクレオチドを含有し得る。プライマーの長さの上限及び下限は、標的核酸配列を増幅できる限り特に制限されるものではなく、いずれも経験的に決定することができる。標的核酸配列を増幅できる限り特に制限されるものではないが、プライマーの長さは、通常8ヌクレオチド長以上であり、例えば、プライマーは10〜40、15〜30又は10〜20ヌクレオチド長であり得る。プライマーは、適切な条件下に配置された場合、ヌクレオチド配列上で合成の開始点として作動することが可能である。
プライマーは、コピーされる標的ヌクレオチド配列の領域に対して完全に或いは実質的に相補的であることになる。ハイブリダイゼーションを促す条件の下では、プライマーは標的配列の相補的領域に対してアニーリングする。一般に、ポリメラーゼ、ヌクレオチド三リン酸等の好適な反応物質の添加時に、プライマーは重合剤によって伸長して標的配列のコピーを形成する。プライマーは一本鎖であってもよく、代替的に或いは部分的に二本鎖であってもよい。
本発明のプライマーを用い、PCR法、リアルタイムPCR法(RT−PCR法)等の、既知の遺伝子増幅技術を利用して、融合体遺伝子を検出することができる。PCR法においては、被検動物から単離したDNA、RNA又はcDNAを鋳型とし、本発明のプライマーを用いて、PCR反応を行い、目的とした融合体ゲノム又はその転写産物(全体又はその特異的部分)が増幅されたか否かを確認することができる。PCR反応の条件は、当業者であれば、用いる酵素、プライマーのTm値などに基づき、適宜設定することができる。RT−PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニターを用いることにより、融合体の存在について、より定量的な解析を行うことが可能である。リアルタイムPCRは公知の方法であり、そのための装置およびキットは市販されており、これらを利用して簡便に行える。
(3)区切り点を含む、EGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部の配列に、特異的にハイブリダイズするプローブを用いる方法
本発明の一態様において、EGFR−PPARGC1A融合体核酸は、区切り点を含む、該EGFR−PPARGC1A融合体核酸の一部の配列又はそれらの相補配列、又はそれらのいずれかの配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブ(本明細書中、本発明のプローブ1とも称する)を用いて検出することができる。
「ハイブリダイズ」または「ハイブリダイゼーション」は、核酸間の結合を指す。ハイブリダイゼーションの条件は、結合する核酸の配列相同性に従って異なり得る。したがって、対象の核酸間の配列相同性が高い場合、ストリンジェントな条件が使用される。配列相同性が低い場合、緩やかな条件が使用される。ハイブリダイゼーションの条件がストリンジェントである場合、ハイブリダイゼーションの特異性は増加し、このハイブリダイゼーションの特異性の増加は、非特異的なハイブリダイゼーションの生成物の収率の減少につながる。
「ストリンジェントである」とは、プローブが、典型的には核酸の複合体混合物中のその標的サブ配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、異なる環境では異なることになる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関しては、Tijssen,Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Probes,"Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays"(1993)などの文献を参考にすることができる。一般に、ストリンジェントな条件は、画定されたイオン強度pHでの特異的な配列の熱融点(Tm)よりも約5〜10℃低いように選択される。Tmは、(画定されたイオン強度、pH、及び核酸濃度の下での)温度であり、この温度において、標的に対して相補的なプローブの50%が、平衡で標的配列にハイブリダイズする(標的配列は過剰に存在するため、Tmでは、プローブの50%は平衡で占有される)。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミド等の不安定化剤の添加により達成され得る。選択的又は特異的にハイブリダイゼーションするとは、陽性シグナルが、バックグラウンドのハイブリダイゼーションの少なくとも2倍であり、好ましくは10倍であることを指す。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC、及び1%SDSにおける42℃でのインキュベーション、或いは65℃での0.2×SSC及び0.1%SDSにおける洗浄を伴う、5×SSC、1%SDS、65℃でのインキュベーション等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
「プローブ」は、少なくとも5ヌクレオチド長であり、プローブ中の少なくとも一部の配列の、標的領域の配列との相補性により、標的配列とハイブリッド構造を形成するポリヌクレオチドを指す。該ポリヌクレオチドは、天然核酸(DNA及び/又はRNA)及び/又は、Bridged Nucleic Acid (架橋化核酸)などの非天然核酸から構成され得る。
プローブに含まれるポリヌクレオチドの塩基長は、用いる検出方法などにより適宜選択され得る。当該ポリヌクレオチドの塩基長は、例えば少なくとも5ヌクレオチド長であり、好ましくは8ヌクレオチド長以上であり、20ヌクレオチド長以上、30ヌクレオチド長以上、または40ヌクレオチド長以上、50ヌクレオチド長以上、100ヌクレオチド長以上、150ヌクレオチド長以上、200ヌクレオチド長以上などであり得る。
プローブは検出可能に標識され得る。プローブは、蛍光物質、酵素、化学発光物質などの標識物質により標識されていてもよく、放射性同位体等で標識されていてもよい。標識は、フルオレセイン、Cy3、Cy5、ローダミン、DIG (digoxygenin)、ビオチン、クエンチャー物質等の既知の標識物質を用い、公知の方法で行うことができる。
本発明のプローブ1又は後述する本発明のプローブ2の一端を基板に固定することによりDNAチップ(マイクロアレイ)を作製し、該DNAチップを用いてもよい。プローブを固定化する基板としては、ニトロセルロース膜、スライドガラス、マイクロビーズ等が挙げられる。DNAチップを作製する際、プローブとなるポリヌクレオチドは基板上で合成してもよく、あるいは合成したポリヌクレオチドを基板上に固定化することもできる。市販のアレイヤー等を用いることによりプローブであるポリヌクレオチドを吸着や共有結合を利用して固定化することできる。このようなDNAチップを用いた遺伝子多型の検出は、例えば「DNAマイクロアレイと最新PCR法」、村松正明及び那波浩之監修、秀潤社、2000年、第10章などに記載されている。
本発明のプローブ1に含まれるポリヌクレオチドとしては、EGFR−PPARGC1A融合体若しくはその転写産物を、特異的に検出できる限り特に限定されるものではなく、当業者であれば適宜設計することができる。
ゲノムDNA又はcDNAを用いて検出を行う場合、本発明のプローブ1に含まれるポリヌクレオチドとしては、好ましくは配列番号1、より好ましくは配列番号2、さらに好ましくは配列番号3で表されるポリヌクレオチドを含み、EGFR−PPARGC1A融合体ゲノムDNA又は融合体cDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。。
本発明のプローブ1を用いる場合、ハイブリダイゼーションを用いた検出の方法としては、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、ノザンハイブリダイゼーション、ドットブロット、DNAマイクロアレイ法などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のプライマー、本発明のプローブ1及び本発明のプローブ2は自体公知の方法を用いて合成することができる。例えば、本発明のプライマー、本発明のプローブ1及び本発明のプローブ2は、本明細書や公知のデータベースに開示された配列情報に基づいて、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて合成することができる。また、2本鎖のポリヌクレオチドは、双方の鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、相補的なポリヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。
(4)EGFR−PPARGC1A融合体核酸の、区切り点より5’側に特異的にハイブリダイズする第一のプローブと、区切り点より3’側に特異的にハイブリダイズする第二のプローブを用いる方法。
本発明の一態様において、EGFR−PPARGC1A融合体核酸は、該EGFR−PPARGC1A融合体核酸の区切り点より5’側の一部の配列又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブ(本明細書中、5’プローブとも称する)、並びに該EGFR−PPARGC1A融合体核酸の区切り点より3’側の一部の配列又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブ(本明細書中、3’プローブとも称する)を用いて検出することができる。これらのプローブの組み合わせを本明細書中、本発明のプローブ2とも称する。
各用語の定義、プローブに含まれるポリヌクレオチドの塩基長、プローブの標識などについては、本発明のプローブ1について記載したものと同様である。
本発明のプローブ2の5’プローブ又は3’プローブに含まれるポリヌクレオチドは、当業者であれば本願明細書に記載の配列情報、ゲノム情報に基づいて、公知の方法に準じた方法を用いてプローブを設計することができる。
本発明のプローブ2の5’プローブ又は3’プローブに含まれるポリヌクレオチドの組み合わせとしては、EGFR−PPARGC1A融合体核酸を、特異的に検出できる限り特に限定されるものではないが、例えば、EGFRについてはchr7: 55,082,241-55,278,667の部分、PPARGC1Aについてはchr4: 23,795,297-23,969,229の部分にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸が挙げられる。
本発明のプローブ2を用いる場合、ハイブリダイゼーションを用いた検出の方法としては、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、ノザンハイブリダイゼーション、ドットブロット、DNAマイクロアレイ法などが挙げられる。例えば、5’プローブと3’プローブと区別可能に標識し、蛍光in situ ハイブリダイゼーションなどの方法を用いて、5’プローブと3’プローブが同一の核酸分子の近接した領域にそれぞれハイブリダイズした場合に、EGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出されたと判定することができる。
本発明のプライマー、本発明のプローブ1及び本発明のプローブ2は自体公知の方法を用いて合成することができる。
(B)EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の検出
EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の存在又は非存在の検出は、当該技術分野において既知の標準的な方法(例えば、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、イムノアッセイなど)を用いて行うことができる。イムノアッセイの例としては、ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)、イムノドットブロット、イムノクロマトグラフィー、ラテックス等の粒子を利用した凝集法、ウエスタンブロット等が挙げられる。また、抗体の代わりにアプタマーなどを用いることもできる。
EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質は、被検動物の生体試料に由来するタンパク質又はその断片のアミノ酸配列情報を用いて検出することができる。EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質のアミノ酸配列としては、配列番号9に記載のアミノ酸配列が例示される。
EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の存在又は非存在の検出は、例えば、被検動物より採取した生体試料からEGFRの細胞外ドメインを含むタンパク質を単離し、単離したタンパク質のアミノ酸配列を直接解析することによって検出することができる。EGFRの細胞外ドメインを含むタンパク質の単離は、例えば、EGFRの細胞外ドメインに対する抗体を用いて、免疫沈降法により行うことができる。
タンパク質のアミノ酸配列解析は、エドマン分解法、酵素分解法、質量分析法などの公知のアミノ酸配列解析方法やこれらの組み合わせにより行うことができる。タンパク質やペプチドのアミノ酸配列解析の例としては、タンパク質やペプチドのN末端からアミノ酸を一つずつ切り出して(エドマン分解法)高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析を行ってアミノ酸配列を決定する方法や、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)などを用いた飛行時間型質量分析法(TOF MS)を用いる方法(MALDI−TOFMS)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、単離されたタンパク質を酵素などで消化後に、得られたペプチドをアミノ酸配列解析に付してもよく、消化されていないタンパク質を用いてもよい。
被検動物に由来するタンパク質又はその断片のアミノ酸配列が、区切り点を含むEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質のアミノ酸配列の一部を含む場合に、該被検動物はEGFR−PPARGC1A融合体を有すると判定することができる。
好ましい一態様において、被検動物に由来するタンパク質のアミノ酸配列又はその断片が、配列番号10に記載の配列、より好ましくは配列番号11に記載の配列、さらに好ましくは配列番号12に記載の配列、さらにより好ましくは配列番号13に記載の配列、最も好ましくは配列番号9に記載の配列を含む場合、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質が検出されたと判定することができる。
また別の態様において、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の検出は、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質とは結合するが、野生型EGFRタンパク質若しくはPPARGC1Aタンパク質と結合しない抗体若しくはアプタマー、又はEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質とは結合しないが、野生型EGFRタンパク質若しくはPPARGC1Aタンパク質と結合する抗体若しくはアプタマーを用いて、抗原抗体反応を利用したイムノアッセイ法により検出することができる。
上記の方法のいずれかにより、EGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された場合に、該被検動物は、皮膚有棘細胞癌を有しているか皮膚有棘細胞癌へのかかりやすいと判定することができる。
本発明の方法の一態様において、EGFR−PPARGC1A融合体の検出されたこと或いは検出されなかったことは、皮膚有棘細胞癌に罹患していない対照動物と比較により判定することができる。
例えば、被検動物(例えば、被検対象であるヒト)において検出されるEGFR−PPARGC1A融合体量(例、EGFR−PPARGC1A融合体転写産物量、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質量、EGFR−PPARGC1A融合体陽性細胞の量など)が、皮膚有棘細胞癌ではない陰性対照群(例、皮膚有棘細胞癌ではないヒト)と比較して有意に多い場合に、該被検動物は、皮膚有棘細胞癌発症の可能性が高いと判定することができる。
EGFR−PPARGC1A融合体量のカットオフ値をあらかじめ設定しておき、被検動物由来の生体試料中に含まれるEGFR−PPARGC1A融合体量と、このカットオフ値とを比較してもよい。例えば、被検動物由来の生体試料中に含まれるEGFR−PPARGC1A融合体量が、前記カットオフ値を上回る場合、該被検動物は皮膚有棘細胞癌に罹患しているか皮膚有棘細胞癌発症の可能性が高いと判定することができる。
「カットオフ値」は、その値を基準として疾患の発症の判定をした場合に、高い診断感度及び高い診断特異度の両方を満足できる値である。例えば、皮膚有棘細胞癌のヒトで高い陽性率を示し、かつ、皮膚有棘細胞癌を発症していないヒトで高い陰性率を示す、試料中のEGFR−PPARGC1A融合体量をカットオフ値として設定することが出来る。
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、皮膚有棘細胞癌のヒト及び皮膚有棘細胞癌を発症していないヒトの、EGFR−PPARGC1A融合体量を測定し、測定された値における診断感度および診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。
また、例えば、検出された値における診断効率(全症例数に対する、皮膚有棘細胞癌のヒトを「皮膚有棘細胞癌」と正しく判定した症例と、皮膚有棘細胞癌を発症していないヒトを「皮膚有棘細胞癌を発症していない」と正しく判定した症例との合計数の割合)を求め、最も高い診断効率が算出される値をカットオフ値とすることができる。
試料中の1種のEGFR−PPARGC1A融合体量に加えて、別の皮膚有棘細胞癌あるいは癌の指標と組み合わせて、皮膚有棘細胞癌の発症リスクと相関付けることにより、より高い精度での、皮膚有棘細胞癌の診断或いは皮膚有棘細胞癌の発症リスクの判定が期待できる。
本発明の判定方法の好ましい態様としては、被検動物の皮膚有棘細胞癌又は皮膚有棘細胞癌の発症リスクを判定する方法であって、
(I)該被検動物由来の生体試料(好ましくは被検動物から単離した皮膚由来の生体試料であり、さらに好ましくは被検動物から単離した皮膚由来のゲノムDNA、RNA又はタンパク質成分)において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)の存在又は非存在を検出する工程、
(II)工程(I)においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された場合に、被検動物が皮膚有棘細胞癌を有しているか皮膚有棘細胞癌の発症リスクがあると判定する工程、
を含む方法、である。
好ましい一態様として、本発明の判定方法は、
被検動物の皮膚有棘細胞癌又は皮膚有棘細胞癌の発症リスクを判定する方法であって、
(I)該被検動物由来のゲノムDNA又はRNA(好ましくは被検動物から単離した皮膚由来のゲノムDNA又はRNA)において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)核酸の存在又は非存在を検出する工程であって、
該検出が下記の(1)〜(4)
(1)核酸配列解析により得た核酸配列情報を用いて検出する方法、
(2)EGFR−PPARGC1A融合体核酸又はそれらに対する相補配列を有する核酸の、区切り点(breakpoint)より5’側に特異的にハイブリダイズするプライマーと、区切り点より3’側に特異的にハイブリダイズするプライマーとの、プライマーペアを用いて、区切り点を含むEGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部の配列を含む核酸を増幅させることによる検出方法、
(3)EGFR−PPARGC1A融合体核酸の少なくとも一部の配列であって区切り点を含む配列に、特異的にハイブリダイズするプローブを用いる方法、
(4)EGFR−PPARGC1A融合体核酸の区切り点より5’側の一部の配列又はその相補配列のいずれかにストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブ、及び該EGFR−PPARGC1A融合体核酸の区切り点より3’側の一部の配列又はその相補配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列からなるポリヌクレオチドを含むプローブを用いる方法、
のいずれか1以上により行われる工程、並びに
(II)工程(I)においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された場合に、被検動物が皮膚有棘細胞癌を有しているか皮膚有棘細胞癌の発症リスクがあると判定する工程、
を含む方法であって、好ましくは、該EGFR−PPARGC1A融合体が、EGFRのエクソン16とPPARGC1Aのエクソン2が融合したものである方法を包含する。
別の好ましい一態様として、本発明の判定方法は、
被検動物の皮膚有棘細胞癌又は皮膚有棘細胞癌の発症リスクを判定する方法であって、
(I)該被検動物由来のタンパク質成分(好ましくは被検動物から単離した皮膚由来のタンパク質成分)において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)タンパク質の存在又は非存在を検出する工程、及び
(II)工程(I)においてEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質の存在が検出された場合に、被検動物が皮膚有棘細胞癌を有しているか皮膚有棘細胞癌の発症リスクがあると判定する工程、
を含む方法であって、該EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質が、配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である方法を包含する。
一態様として、本発明は、皮膚有棘細胞癌の素因を有する被検動物個体の同定方法であって、
(I)被検動物由来の生体試料において、EGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出する工程、
(II)工程(I)においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された場合に、該被検動物が皮膚有棘細胞癌の素因を有する被検動物個体であると同定する工程、
を含む、方法を提供する。
本方法における各用語の定義は、上記本発明の判定方法におけるものに準ずる。
理論になんら束縛されるものではないが、被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された被検動物は、外来性のEGFの非存在下においてもEGFRが活性化していると考えられる。従って、本発明の判定方法により皮膚有棘細胞癌に罹患している可能性が高いと判定された被検動物は、EGFR阻害剤或いはその下流エフェクターなどの阻害剤の投与などのその素因に合わせた治療方法に付すこともできる。すなわち、本発明の判定方法は、適切な皮膚有棘細胞癌治療方法の決定あるいは不適切な治療方法の選択を避けるために有用であり、コンパニオン診断(companion diagnostics)の方法として用いることができる。
従って、本発明は、被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出する工程を含む、EGFR阻害剤応答性であり得る被検動物の同定方法を包含する。
一実施態様として、本発明は、
(I)被検動物由来の生体試料において、EGFR−PPARGC1A融合体の存在又は非存在を検出する工程、
を含む、皮膚有棘細胞癌の診断又は素因の評価をするためのデータを収集する方法を提供する。
本方法における各用語の定義は、上記本発明の判定方法におけるものに準ずる。
皮膚有棘細胞癌の診断をするためのデータとは、皮膚有棘細胞癌の罹患の有無を診断するためのデータ、及び皮膚有棘細胞癌を治療中の患者について治療の効果を評価するためのデータも包含する。
2.EGFR−PPARGC1A融合体を検出するための物質を含む組成物。
本発明は、EGFR−PPARGC1A融合体の検出用物質を含む組成物を提供する。EGFR−PPARGC1A融合体の検出用物質としては、本発明のプローブ1及び2並びに本発明のプライマーからなる本発明の検出用核酸が挙げられる。すなわち、本発明は、本発明の検出用核酸を含む組成物(本発明組成物とも称する)を提供する。
本発明組成物は、皮膚有棘細胞癌の診断、皮膚有棘細胞癌の素因を有する個体の同定、皮膚有棘細胞癌の診断及び素因の評価をするためのデータの収集、並びに皮膚有棘細胞癌の原因因子の特定などのために好適に用いることができる。
本発明組成物は、本発明の検出用核酸を用いてEGFR−PPARGC1A融合体核酸を検出するための指示書を含み得る。また、本発明組成物は、皮膚有棘細胞癌の罹患の可能性又は皮膚有棘細胞癌の素因の有無、又は罹患のリスクの高さを評価するための指示書を含み得る。
一態様において、本発明の組成物は、本発明のプローブ1若しくは2又は本発明のプライマー、及び本発明の判定方法を実施するための指示書を含み得る。
本発明の組成物は、陽性対照として、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質をコードする核酸を含み得る。
3.EGFR−PPARGC1A融合体抑制物質を含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療剤
本発明は、さらに、EGFR−PPARGC1A融合体抑制物質を含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療剤(本明細書中、本発明の予防又は治療剤とも称する)を提供する。
所望の効果を有する限り特に限定されるものではないが、EGFR−PPARGC1A融合体抑制物質としては、EGFR−PPARGC1A融合体に対するRNAi誘導性核酸、アンチセンス核酸などの、転写過程に作用して該融合体遺伝子の発現を特異的に抑制する物質、並びにクラスター化等間隔短鎖回分リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat / CRISPR associated proteins)(CRISPR/CAS9)(Cong L et al., Science. 2013 Feb 15;339(6121):819−23、Ran FA et al., Cell. 2013 Sep 12;154(6):1380−9、Guilinger JP, Nat Biotechnol. 2014 Jun;32(6):577−82)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(Carroll D., Gene Ther. 2008 Nov;15(22):1463−8.)又は転写アクチベーター様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼ(Nucleic Acids Res. 2011 Jul;39(12):e82)などによるゲノム編集により該融合体遺伝子の発現を特異的に阻害する物質などが挙げられる。本明細書中、上記の転写過程に作用して融合体遺伝子の発現を特異的に抑制する物質及びゲノム編集により融合体転写産物の発現を特異的に阻害する物質を総称して、EGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質ともいう。
EGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質は、天然の物質であっても人工的に合成された物質であってもよい。
本明細書中、RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNA干渉(RNAi)を誘導し得るポリヌクレオチドをいう。
RNAiとは、mRNAと同一の塩基配列(またはその部分配列)を含む二本鎖構造の核酸が、該mRNAの発現を抑制する効果をいう。二本鎖構造は、センス鎖とアンチセンス鎖の異なるストランドで構成されていてもよく、或いは一本鎖核酸が分子内でステムループ構造を形成することにより与えられる二本鎖構造であってもよい。EGFR−PPARGC1A融合体に対するRNAi誘導性核酸としては、EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子から転写されるmRNAの分解(RNA干渉)を惹き起こすようにその塩基配列に基づいて人工的に合成された二本鎖核酸(例、siRNA)であってもよく、分子内でステムループ構造を形成する一本鎖核酸(例、shRNA)であってもよい。好ましい一態様において、EGFR−PPARGC1A融合体に対するRNAi誘導性核酸は、RNA又はDNA/RNAキメラである。
RNAi誘導性核酸の構築方法については、公知の方法を使用することができる(Ui-Tei K, et al., Nucleic Acids Res. 2004; 32: 936-948 ; Miyagishi M, and Taira K, Nature biotechnology 2002; 20: 497-500;特許3803318号)。
RNAi誘導性核酸としてsiRNAを用いる場合、siRNAの長さは、19〜27bpが好ましく、21〜25bpがより好ましい。siRNAは、センス鎖、アンチセンス鎖の一方又は双方の5’末端又は3’末端においてオーバーハングを有していてもよい。オーバーハングとは、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖の末端における1〜数個(例、1、2又は3個)の塩基の付加により形成されるものである。
EGFR−PPARGC1A融合体に対するRNAi誘導性核酸としては、配列番号14で示されるポリヌクレオチド配列を有する核酸が挙げられるが、EGFR−PPARGC1A融合体の発現を抑制し皮膚有棘細胞癌の予防又は治療する効果などの所望の効果がもたらされる限り特に限定されるものではない。
EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子に対するアンチセンス核酸とは、該融合体遺伝子の転写産物(mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該転写産物とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該転写産物にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得るポリヌクレオチドをいう。
合成の容易さや抗原性の問題等から、アンチセンス核酸は、例えば6塩基以上、好ましくは18〜40塩基、より好ましくは18塩基〜30塩基からなるポリヌクレオチドが例示されるが、所望の効果を有する限りこれに限定されない。さらに、アンチセンス核酸は、融合体遺伝子の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子とハイブリダイズし得る核酸としては、配列番号1〜3のいずれかで表される塩基配列と、塩基配列間で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、更に好ましくは約98%以上、最も好ましくは100%の相補性を有する核酸が例示される。
尚、本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子の発現を特異的に阻害するためのゲノム編集の方法としては、CRISPR/CAS9、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ又は転写アクチベーター様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼにより、標的DNAの二本鎖の損傷(Double Strand Break)を起こす方法などが挙げられ、作成が容易であるという観点から、CRISPR/CAS9を用いることが好ましい。
CRISPR/Cas9系を用いるゲノム編集は、ガイドRNA(gRNA、crRNA又はtracrRNAとも呼ばれる)とCas9という2つの分子を用いて、標的DNAの二本鎖の損傷(Double Strand Break)を起こすことにより行うことができる。ガイドRNAは標的部位と相補的な配列を含み、このため、標的配列を含む核酸と特異的に結合できる。
ガイドRNAの配列は、標的遺伝子及び標的配列に応じて適宜設定することができる。また、ライフサイエンス統合データベースセンター (DBCLS) のCRISPRdirect、又はCHOPCHOPなどの公知のガイドRNAの設計ツールを用いて設計することもでき、また、市販のガイドRNAを利用することができる。
好ましい一態様において、ガイドRNAは、配列番号15で表されるヌクレオチド配列を有する。
CRISPR/Cas9系を用いてゲノム編集を行う場合、off−target作用を低減させるという観点から、Cas9の2つのヌクレアーゼドメインのうち1か所に変異を入れたCas9ニッカーゼ(D10A変異型Cas9)或いはCas9の2つのヌクレアーゼドメインの両方に変異を入れたdCas(dead Cas9)などの変異型Cas9を用いることもできる(Ran FA et al., Cell. 2013 Sep 12;154(6):1380−9、Guilinger JP, Nat Biotechnol. 2014 Jun;32(6):577−82)。D10A変異型Cas9を用いる場合、近接する2箇所にgRNAを設計し、それぞれのDNA鎖をCas9ニッカーゼによりDNAニックを入れることにより、その領域においてDouble Strand Breakが導入される形となる。D10A変異型Cas9を用いた場合、gRNAが類似配列に結合した場合、DNAニックが入るが、欠失や挿入変異は導入されない。dCas9を用いる場合、dCas9のC末端側にTALENで利用されている制限酵素FokIのヌクレアーゼドメインを連結させ(FokI−dCas9)、近接する2箇所に結合するgRNAとFokI−dCas9により、標的配列にDSBを導入できる。
本発明の予防又は治療剤がCas9又は変異型Cas9を含む場合、Cas9又は変異型Cas9は、タンパク質或いは該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの形で提供され得る。
所望の効果がもたらされる限り、特に限定されるものではないが、CRISPR/Cas9系を用いてEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子の発現を抑制する場合、ゲノム編集により融合体遺伝子の発現を特異的に抑制する物質としては、配列番号15に記載のRNA、及びCas9又は変異型Cas9の組み合わせが挙げられる。
EGFR−PPARGC1A融合体特異的抑制物質は、EGFR−PPARGC1A融合体特異的抑制物質をコードするポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む、発現ベクターとしても提供され得る。プロモーターは、その制御下にある発現対象の核酸の種類により適宜選択され得るが、例えば、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)、哺乳動物用プロモーター(例、CMVプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター)などが挙げられるが、これらに限定されない。発現ベクターは、ヒト等の哺乳動物細胞中でEGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を産生できるものであれば特に制限されず、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどを用いることができる。哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
本発明の治療剤の投与量は、有効成分の種類又はその活性、投与対象となる動物種、投与対象の病気の重篤度、薬物受容性、体重、年齢等によって異なり、これらに応じて適宜決定され得る。
本発明の治療剤は、経口投与用又は非経口投与用であり得る。所望の効果を有する限り特に限定されるものではないが、本発明の予防又は治療剤の投与形態としては、局所投与、経口投与などが挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などが挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、貼付剤、軟膏、ローション剤、クリーム剤などが挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用い、調製することができる。例えば、本発明の予防又は治療剤は、有効成分である融合体遺伝子発現抑制物質に加え、その用途、剤形などに応じて、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、軟膏基剤、緩衝剤、粘稠剤、等張化剤、pH調整剤、保存剤、清涼化剤などを添加剤として加えることができる。これら添加剤の添加量は、添加する添加剤の種類、用途などによって異なるが、添加剤の目的を達成し得る濃度を添加すればよい。本発明の治療剤は、上述の治療効果を奏する限りその投与経路および剤形は特に限定されないが、好ましい投与経路は局所投与であり、その剤形は注射剤、軟膏、ローション剤、クリーム剤または貼付剤である。
或いは本発明の予防又は治療剤は、臓器内インプラント用製剤やマイクロスフェア等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤として製剤化することもできる。
また、本発明の予防又は治療剤は、リポフェクション法による投与用として製剤化することもできる。有効成分である融合体遺伝子発現抑制物質が投与対象の細胞に送達され得る限り特に限定されるものではないが、リポフェクション法には、通常ホスファチジルセリンからなるリポソームが用いられる。ホスファチジルセリンは陰電荷を有するため、ホスファチジルセリンの代用として、より安定したリポソームを作りやすいN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリエチルアンモニウムクロライド(DOTMA)という陽イオン性脂質(商品名:トランスフェクタム、リポフェクトアミン)を用いることもできる。これらの陽イオン性脂質と陰電荷を持つ核酸との複合体を形成させると、全体として正に荷電しているリポソームが、負に荷電している細胞の表面に吸着し、細胞膜と融合できることで核酸を細胞内に導入することができる。
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは、哺乳動物(例:ヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)用であり、より好ましくはヒト用である。
好ましい一態様において、本発明の予防又は治療剤は、本発明の判定方法により、皮膚有棘細胞癌に罹患しているか罹患のリスクがあると判定された被検動物用である。
本発明の予防又は治療剤は、ボーエン病、日光角化症又は皮膚有棘細胞癌の予防又は治療用である。
本発明の予防又は治療方法の対象となる皮膚有棘細胞癌は、好ましくは、外陰部の乳頭腫ウィルスによる有棘細胞癌を除く皮膚有棘細胞癌である。
本発明の予防又は治療剤は、EGFR−PPARGC1A融合体抑制物質を含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療用であって、
該EGFR−PPARGC1A融合体抑制物質は、好ましくは下記(i)〜(iii):
(i)EGFR−PPARGC1A融合体転写産物(mRNA)に対するRNAi誘導性核酸(より好ましくは、EGFR−PPARGC1A融合体転写産物(mRNA)に対するsiRNA、EGFR−PPARGC1A融合体転写産物(mRNA)に対するshRNAであり、さらに好ましくは配列番号14で表されるヌクレオチド配列を有するRNAi誘導性核酸)
(ii)EGFR−PPARGC1A融合体転写産物(mRNA)に対するアンチセンスオリゴ
(iii)EGFR−PPARGC1A融合体キメラゲノムDNAを標的とするCRISPR用ガイドRNA(より好ましくは、配列番号14で表されるヌクレオチド配列を有するガイドRNA)及び任意選択でCas9又は変異型Cas9、
のいずれかを含み、
より好ましくは、該EGFR−PPARGC1A融合体抑制物質は、上記(i)又は(iii)である、剤である。
4.被検動物に、予防上又は治療上有効量のEGFR阻害剤を投与することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法。
本発明はさらに、被検動物において、EGFR−PPARGC1A融合体を阻害することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法(本明細書中、本発明の予防又は治療方法とも称する)を提供する。本発明の予防又は治療方法の一態様として、本発明は、被検動物に、予防上又は治療上有効量の、本発明の予防又は治療剤を投与することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法(本明細書中、本発明の予防又は治療方法1とも称する)を提供する。さらに、本発明は、本発明の予防又は治療方法の一態様として、被検動物に、予防上又は治療上有効量のEGFR阻害剤を投与することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法(本明細書中、本発明の予防又は治療方法2とも称する)を提供する。
本発明の予防又は治療方法1における、本発明の予防又は治療剤の投与方法は上述のとおりである。
本発明の予防又は治療方法2において使用されるEGFR阻害剤は、EGFR−PPARGC1A融合体による野生型EGFRの恒常的なリン酸化を阻害できる限り、EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤であってよく、あるいはEGFRの細胞外ドメインを標的とするものであってもよい。
EGFR阻害剤は、既知のものを用いることができる。既知のEGFR阻害剤の例としては、EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤として、エルロチニブ(erlotinib)(CAS登録番号:183321-74-6)、ゲフィチニブ(gefitinib)(CAS登録番号:184475-35-2)、もしくはラパチニブ(lapatinib)(CAS登録番号:388082-78-8)などが挙げられ、またはEGFR細胞外ドメインを標的とする阻害剤としては、例えば、セツキシマブ(CAS登録番号: 205923-56-4)またはパニツムマブ(CAS登録番号:339177-26-3)などが挙げられる。
EGFR阻害剤は、所望の薬理作用を生じさせるのに十分な予防上又は治療上有効量が投与されるように調製され得る。有効量は、疾患状態の症状を予防又は改善するために十分であるよう、経験的に決定され得る。EGFR阻害剤の正確な濃度及び/又は使用される用量は、当分野で公知のように最終的には患者又は動物の年齢、体重及び状態に依存する。また、EGFR阻害剤の投与の頻度は、EGFR阻害剤を投与される被検動物内の化合物の半減期などに依存して適宜決定され得る。
本発明の治療方法の対象となる被検動物は、哺乳動物(例:ヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)、鳥類(例:ニワトリ等)などが挙げられ、好ましくは、哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
本発明の予防又は治療方法の対象となる被検動物の好ましい例は、ボーエン病、日光角化症又は皮膚有棘細胞癌と診断された被検動物であり、別の好ましい例としては、被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された被検動物である。より好ましくは、本発明の予防又は治療方法の対象となる被検動物は、ボーエン病、日光角化症又は皮膚有棘細胞癌と診断された被検動物であって被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された被検動物である。さらに別の、本発明の予防又は治療方法の対象となる被検動物の好ましい例としては、本発明の判定方法により、皮膚有棘細胞癌に罹患しているか罹患のリスクがあると判定された被検動物である。
本発明の予防又は治療方法の対象となる皮膚有棘細胞癌は、好ましくは、外陰部の乳頭腫ウィルスによる有棘細胞癌を除く皮膚有棘細胞癌である。
5.EGFR−PPARGC1A融合体を発現する細胞及び該細胞を用いたスクリーニング方法
本発明はさらに、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質を発現する細胞及び該細胞を用いたスクリーニング方法を包含する。
好ましくは、ヒトEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質は、以下の(a)又は(b)であり、より好ましくは(a)である:
(a)配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号9に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ野生型EGFRの恒常的リン酸化作用を有するタンパク質。
上記(b)に関し、より具体的には、(i)配列番号9に示されるアミノ酸配列中の1〜10個、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号9に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号9に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号9に示されるアミノ酸配列中の1〜10個、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。
さらに、性質の似たアミノ酸(例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、より多くの個数の置換等があり得る。上述のようにアミノ酸が欠失、置換又は挿入されている場合、その欠失、置換、挿入の位置は、野生型EGFRの恒常的リン酸化作用が保持される限り、特に限定されない。
本発明において、「野生型EGFRの恒常的リン酸化作用」とは、外来性EGFの非存在下において、野生型EGFRの自己リン酸化を誘導する作用を意味する。配列番号9に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質(以下、改変タンパク質と称する)が野生型EGFRの恒常的リン酸化作用を有するか否かは、実施例の記載を参考にして、確認することができる。簡潔に述べるならば、NIH3T3細胞に対し、改変タンパク質をコードする核酸を導入し改変タンパク質を発現させた細胞(改変タンパク質発現細胞)中のEGFRのY1173のリン酸化を調べることにより確認することができる。EGFRのY1173のリン酸化の検出は、EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子を発現するNIH3T3細胞を除いては上記改変タンパク質発現細胞と同一の細胞を用いた場合には、Y1173のリン酸化が検出されるが、EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子及び改変タンパク質のいずれも発現していないNIH3T3細胞ではリン酸化が検出されない条件にて行われる。
本発明は、上記EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質及び該融合体タンパク質をコードする核酸を包含する。EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質又はEGFR−PPARGC1A融合体をコードする核酸は、上記のアミノ酸配列情報に基づき、当該技術分野において既知の方法を用いて作製することができる。また、EGFR−PPARGC1A融合体をコードする核酸を部分的にそれぞれ逆転写―PCRで得た後に、それらを融合させることによっても、EGFR−PPARGC1A融合体をコードする核酸を得ることもできる。
EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質をコードする核酸は、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクター、哺乳動物細胞発現プラスミド、エピソーマルベクター並びにヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などの人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの、当分野で公知の手法によって、所望の細胞内に導入することができ、該細胞に該融合体タンパク質を発現させることができる。該ベクターは、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリA付加シグナル、SV40複製起点、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列、loxP配列、トランスポゾン配列などを含むことができる。
上記のように作製される、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質をコードする核酸を発現する細胞(本明細書中、本発明の細胞とも称する)は、皮膚有棘細胞癌モデルの作製に有用であり得、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療剤のスクリーニングにも有用であり得る。好ましくは、本発明の細胞は、野生型EGFRが恒常的にリン酸化されている。
皮膚有棘細胞癌モデルの作製に本発明の細胞を用いる場合、本発明の細胞は、皮膚有棘細胞(より好ましくはNIH3T3細胞)に、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質をコードする核酸を導入した細胞であることが好ましい。
本発明の細胞はまた、EGFRの恒常的リン酸化に起因する疾患のモデルの作製にも有用である。EGFRの恒常的リン酸化に起因する疾患のモデルの作製に本発明の細胞を用いる場合、本発明の細胞は、野生型EGFR遺伝子を発現する細胞にEGFR−PPARGC1A融合体タンパク質をコードする核酸を導入した細胞であることが好ましい。
本発明の細胞は、定法に従い、培養することができ、当業者であれば、その培養条件は適宜設定することができる。
本発明の細胞は、融合体関連疾患(皮膚有棘細胞癌又はEGFRの恒常的リン酸化に起因する疾患)の、予防又は治療剤のスクリーニングに用いることができる。
すなわち、本発明は、本発明の細胞に被検物質を接触させ、融合体関連疾患の表現型の変化を測定・比較し、融合体関連疾患の表現型を改善した被検物質を、疼痛抑制物質の候補として選択することを特徴とする、該疾患を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。
一態様として、本発明は、該疾患を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)本発明の細胞に、被検物質を接触させる工程、
(b)被検物質を接触させた場合と、させない場合とのそれぞれにおいて、EGFRのリン酸化レベルを測定する工程、及び
(c)(b)において、リン酸化レベルレベルを低下させた被検物質を、該疾患を抑制する物質として選択する工程
を含む、方法を提供する。
別の態様として、本発明は、該疾患を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)本発明の細胞に、被検物質を接触させる工程、
(b)被検物質を接触させた場合と、させない場合とのそれぞれにおいて、本発明の細胞の増殖速度を測定する工程、及び
(c)(b)において、増殖速度を低下させた被検物質を、該疾患を抑制する物質として選択する工程
を含む、方法を提供する。
被検物質との接触は、細胞が接触している培地又は緩衝液などに被検物質を添加することにより行うことができ、その添加量は、被検物質に応じて適宜選択することができる。EGFRのリン酸化レベルの測定又は細胞の増殖速度の測定は、自体公知の方法を用いて行うことができ、例えば、本願実施例に記載の方法に順じて行うことができる。
被検物質としては、特に限定されないが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質(サイトカイン、ケモカイン、抗体等)、核酸(DNA、RNA等)、ウイルス、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、微生物、動植物若しくは海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。このような物質は、当業者が適宜決定することができる。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
以下の動物実験は、熊本大学医学部動物実験委員会の承認を得たプロトコルにて行った。
(細胞培養)
ヒトcSCC細胞株であるA431、及びNIH3T3はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、マナサス、VA)から取得した。もう一つのcSCC細胞株であるDJM−1は、RIKEN BRC(Tsukuba、Japan)から購入した。正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)細胞は、Lonza(Walkersville、MD)から得た。これらの細胞は、製造者の推奨に従い、培養した。
(RNAの単離)
RNeasy FFPEキット(Qiagen、Valencia、CA)を用いて、パラフィン包埋切片からRNAを抽出した。トランスクリプトーム配列解析のため、質の高いRNAを、RNeasyミニキット(Qiagen)を用いて、培養細胞から取得した。ヘルシンキ宣言に従い、治験審査委員会の承認及び文書によるインフォームド・コンセントを得た。
(ライブラリーの調製及び配列解析)
Riken Genesis(Kanagawa、Japan)により提供されたプロトコルに従い、Illumina TruSeq RNA試料調製キット(San Diego、CA)によって、トランスクリプトーム解析を行った。簡潔に述べると、ポリTオリゴ結合磁気ビーズを用いて、質の高い全RNAから、ポリAを含むmRNAを精製した。二価陽イオンによりmRNAを断片化させ、ランダムプライマー及びSuperScriptII逆転写酵素(Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いて、切断したRNA断片を第一鎖cDNAに転写し、続いて、DNAポリメラーゼI及びRNase Hを用いて第二鎖cDNA合成を行った。cDNA断片に、末端修復処理、A塩基付加、アダプターのライゲーションを行い、続いて行うクラスタ生成に適した鋳型分子のライブラリーに変換した。生成物を精製し、PCRにより増幅し、最終的なcDNAライブラリーを作製した。Illumina HiSeq2000プラットフォームにおいて、ペアエンド、100bpの設定で、ライブラリーの配列決定を行った。Cutadapt(v1.0)ソフトウェアを用いて、アダプター配列及び質の低い配列を取り除いた。品質管理を行った後、PRINSEQ(v0.16)により、ポリA/T配列も取り除いた。トランスクリプトーム解析Bowtieアライメントを用いてリードをアラインする高速スプライス部位マッピングソフトウェアであるTopHat(v1.4.0)を用いて、リファレンスのヒト配列(GRCh37/hg19)に対して、クリーニングしトリムしたリードをアラインした。マップされたリードをCufflinks(v2.0.0)ソフトウェアを用いてアセンブルし、全ての試料にわたって、転写物をCuffmergeプログラムによりマージさせた。Cufflinksにおいて使用したリファレンスGTFアノテーションファイルは、iGenomesデータベースからダウンロードした。試料間の差次的発現変動は、Cuffdiffソフトウェアを用いて、マップされたリード100万あたりの断片/キロベース(FPKM)を計算し、差異の統計的有意性を検定することにより、解析した。変異の検出のためのバイオインフォマティクス解析は、Samtools(v1.0)ソフトウェアを用いて行った。可能性のある遺伝子融合体の転写物を同定し、deFuse(v0.61)及びFusion Hunter(v1.4)によりフィルタリングを行った。
(RT−PCR)
RT−RCRには、全RNA、プライマー、及びSuperScript One−Step RT−PCR System with Platinum Taq Polymerase(Invitrogen)を用いた。PCRは、変性94℃、15秒間、アニーリング55℃、30秒間、及び伸長68℃、30秒間を、40サイクル行った。
EGFR−PPARGC1A特異的プライマーの配列は、
フォワード:ATCCAGTGTGCCCACTACATTG(配列番号7)
リバース:GCTGTCTGTATCCAAGTCGTTC(配列番号8)
であった。
ADCK4−NUMBL特異的プライマーの配列は、
フォワード:TTGGGACAGAGTTCACAGACCA(配列番号16)
リバース:CTGGCTCCGTCCTGCAGGTTTC(配列番号17)
であった。
GAPDHプライマーは
フォワード:GCACCGTCAAGGCTGAGAAC(配列番号18)
リバース:TGGTGAAGACGCCAGTGGA(配列番号19)
であった。エチジウムブロマイドを含むアガロースゲルを用いて、PCR産物を泳動した。他の融合体遺伝子の検出は、これまでに記載されているように行った。
(蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH))
Nihon Gene Research Laboratories(NGRL、Miyagi、Japan)により提供されたプロトコルに従い、培養細胞のFISH解析を行った。EGFRについてはchr7: 55,082,241-55,278,667の部分、PPARGC1Aについてはchr4: 23,795,297-23,969,229の部分をプローブとして用いた。作製したばかりのCarnoy’s溶液を用いて細胞を固定した。固定した細胞を、スライドガラス上に垂らし、風乾させた。Empire Genomics(Buffalo、NY)によりプローブを設計した:EGFR用のプローブはフルオレセインで標識し、一方、PPARGC1A用のプローブはROXで標識した。スライドをプローブで処理し、熱により変性させ、続いて、ハイブリダイゼーションのために37℃で一晩インキュベーションした。DAPIで核を染色し、蛍光は蛍光顕微鏡法により検出した。
(Gバンド法)
NGRLのプロトコルに従い、Gバンド法によって、培養細胞を用いた核型解析を行った。簡潔に述べると、スライドを、0.2%トリプシンHanks平衡塩類溶液で処理した。スライドを、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、ギムザ溶液で染色した。
(ウイルス作製及び遺伝子導入)
レンチウイルス遺伝子発現に必須であるpCMV−VSV−G−RSV−Rev、CSII−EF−RfA及びpHIVgpは、Hiroyuki Miyoshi博士(RIKEN、Wako、Japan)にご提供いただいた。EGFR、PPARGC1A又はEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子のcDNA断片を、PCRにより増幅し、CSII−EF−RfAにクローニングした。少なくとも2つの異なるプラスミドを、それぞれの実験に用いた。レンチウイルスベクター介在性の遺伝子移入を既報のとおり行った(Tahara-Hanaoka S et al., Exp Hematol. 2002 Jan;30(1):11-7.)。標的遺伝子を発現するレンチウイルスは、リポフェクション法を用いて、293T細胞への上記コンストラクトの共導入により作製した。培養上清中のレンチウイルス粒子を、72時間後に回収し、超遠心して、−80℃で保管した。Quick Change site-directed mutagenesis kit (Stratagene)を用いて置換変異を導入し、配列解析により確認した。
(腫瘍原性分析)
6週齢の雌胸腺欠損nu/nuマウス(BALB/cAJcl−nu/nu、CLEA、Japan)に、NIH3T3細胞を、25ゲージ針を用いて皮膚注射により移植した。移植片を、異種移植の8週間後に取り出し、10%緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィンに包埋し、切片にスライスした。
(細胞数及びBrdU ELISA)
細胞は、1.0x105細胞/ウエルで播種し、72時間増殖させた。その後、トリプシン処理により、ウエルから細胞を剥離させ、TC20自動細胞カウンター(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)を用いて数えた。細胞の増殖活性は、既報のとおり(Br J Dermatol. 2010 Apr;162(4):717-23.)、細胞増殖ELISABrdUキット(Roche、Basel、Switzerland)を用いて確認した。
(一過的遺伝子導入)
EGFRに対するsiRNAは、Qiagenから購入した。EGFR-PPARGC1A又はADCK4-NUMBLに対するカスタムsiRNAは、Qiagenから購入した。遺伝子導入には、細胞を播種し、続いて37℃、5%CO2でインキュベーションし、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)と混合したsiRNAを、添加した。EGFR-PPARGC1Aに対するsiRNAの配列を以下に示す。
EGFR-PPARGC1A siRNA:TACGAATATTAAACACTTCAA(配列番号14)
(CRISPR/Cas9)
Edit-R Cas9 Nuclease Expression Plasmid (Dharmacon, GE Healthcare UK Ltd., England)、融合遺伝子のジャンクションを標的とするカスタムcrRNA(Dharmacon)及びtracrRNA (Dharmacon)を、製造業者の指示書に従い、DharmaFECT Duoトランスフェクション試薬を用いてA431細胞又はDJM-1細胞にトランスフェクションした。細胞をトランスフェクションから48時間後に回収し、ピューロマイシンで選択した。
EGFR-PPARGC1A融合遺伝子のジャンクションに対するcrRNAの配列を以下に示す。
crRNA:CAACGAAUGGUGUGCUGCUCGUUUUAGAGCUAUGCUGUUUUG(配列番号15)
(ウエスタンブロット)
RIPA緩衝液(Nacalai tesque、Kyoto、Japan)を用いて、回収した細胞からタンパク質を抽出した。細胞溶解物は、10%SDS−PAGEゲルで分離させ、PVDF膜にトランスファーした。ブロッキングバッファーでブロッキングした後、膜を一次抗体と、4℃で一晩インキュベートし、室温で西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体とインキュベートした。ChemiDoc MPシステム(Bio−Rad Laboratories)により、膜を解析した。内部ローディング対照として、βアクチンを用いた。下記の一次抗体を用いた:
抗リン酸化チロシン抗体(Abcam、Cambridge、United Kingdom)、
抗リン酸化セリン/スレオニン抗体(Abcam)、
抗EGFR抗体(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)、
抗リン酸化EGFR抗体(Santa Cruz Biotechnology)。
(免疫沈降)
ホスファターゼ阻害剤カクテル(Nacalai tesque)を含むRIPA緩衝液に細胞を溶解した。プロテインA/G−アガロース(Santa Cruz Biotechnology)及び対照IgGを用いて、4℃で30分間、溶解物をプレクリアした。溶解物を、抗EGFR抗体(Santa Cruz Biotechnology)と4℃でインキュベートし、続いてプロテインA/G−アガロースでインキュベートした。免疫沈降させたタンパク質をRIPA緩衝液で洗浄し、電気泳動を行った。
(統計的解析)
棒グラフデータは、少なくとも3回の実験からの、平均値+標準偏差(SD)である。中央値の比較のためにマンホイットニーU検定を用い、頻度の解析のために、フィッシャー直接確率検定を用いて、統計的解析を行った。P<0.05の値を統計的に有意であるとみなした。トランスクリプトーム配列解析の差次的発現変動解析において、P値を、以前に記載されているように、Cuffdiffソフトウェアにより算出した。Benjamini−Hochberg法を用いて見積もられる偽発見率であるQ値も、算出した。
結果
A431における、cSCC特異的な融合体遺伝子の同定
質の高いRNAを、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)又は二種のcSCC細胞株であるA431及びDJM−1から単離し、ペアエンドトランスクリプトーム配列を用いて、Illumina HiSeq2000プラットフォーム上で解析した。全てのリード中、NHEKについて36,796,013(90.48%)、A431について36,748,245(89.80%)、DJM−1について39,474,844(90.38%)を、リファレンスゲノム(GRCh37/hg19)に対して、マップした。初めに、A431及びNHEK間での、差次的遺伝子発現解析のため、マップされたリード100万あたりの断片/キロベース(FPKM)を計算し、統計的有意性をCuffdiff(図1)により評価した。NHEKと比較してA431において、有意にアップレギュレート又はダウンレギュレートされた(FDR<0.01、>28倍の差)70の遺伝子の倍量変化を表1に示す。(Ch、染色体。)
表1に示すように、カットオフが、28倍量変化、偽発見率(FDR)<0.01として設定された場合、NHEKと比較してA431において、16の遺伝子が有意にアップレギュレートされ、54の遺伝子が有意にダウンレギュレートされたと推定された。例えば、in vivo及びin vitroで、cSCC細胞においてMAGEA4、MMP13及びSPP1が過剰発現することが報告されており(J Cutan Pathol. 2007 Jan;34(1):1-6.、J Biol Chem. 2012 Aug 24;287(35):29899-908.、及びBiochem Biophys Res Commun. 2003 Jul 11;306(4):1026-36.)、かつこれらは本発明者のトランスクリプトーム解析によりA431においてアップレギュレートされているなど、本研究においてA431で見られたいくつかの変化は、これまでの報告と矛盾しないものであった。しかしながら、クラスター解析は、シグナル経路又は細胞活動と関連する特異的なサインを示さなかった。従って、本発明者は、次に、他の器官のSCCと関係する7の遺伝子及び28の癌遺伝子における、A431特異的な点変異の存在を調べた。
リファレンスゲノムと同様にバイオインフォマティクス解析によりNHEK及びDJM−1と比較し、好発する変異を表すいくつかの中立の多型及びアミノ酸置換に加えて、13の単一のヌクレオチド変異をA431において検出した。Samtools(v1.0)ソフトウェアプログラムにより検出された、SCC細胞株における推定上の点変異を表2に示す。(表中、Ch、染色体;SNV、単一のヌクレオチド変異;DEL、欠失変異。)
これらの中で、エクソンのコドン273におけるRからHへの置換であるTP53の点変異は、すでにA431において記載されている(Cancer Res. 1994 Jun 1;54(11):2834-6.)。
より特異的な遺伝子変化を同定するため、A431における、新規融合体転写物の存在を調べた。推定上の遺伝子融合体転写物を、deFuse(v0.61)及びFusionHunter(v1.4)ソフトウェアプログラムにより、検出した。本発明者は、NHEK又はDJM−1ではなくA431のみに基づき、4の候補に注目した。上記トランスクリプトーム解析により同定された融合体遺伝子の候補を表3に示す。
これらの中で、16のスパニングリード及び8のスパニングメイトペアが、それぞれ7p12及び4p15に位置するepidermal growth factor receptor(EGFR)のエクソン16及びPPARγ coactivator 1−α(PPARGC1A)のエクソン2間での融合を示した(図2A)。該遺伝子融合体は、PPARGC1Aのフレームシフト変化、及び区切り点から23アミノ酸後に現れるストップコドンを引き起こす。この発見を検証するため、EGFRエクソン16及びPPARGC1Aエクソン2のために設計した特異的プライマーを、RT−PCR実験に用いた(図2B)。A431から得たRNAを用いたPCRにより、予想される断片は増幅されたが、NHEK、DJM−1、培養ヒト内皮細胞又は皮膚線維芽細胞から得たRNAを用いたPCRによっては増幅されなかった。増幅した断片のサンガー配列解析により、EGFRとPPARGC1Aとの融合体遺伝子を確認した(図2A)。上記遺伝子発現解析により、NHEKと比較して、A431におけるEGFRレベルは、有意にはアップレギュレートされていないことが示された(2.95倍量変化、q値=0.99)。8の正常皮膚試料、又は7のメラノーマ及び5の基底細胞癌(BCC)を含む他の102の腫瘍組織検体のRT-PCR及び配列解析においては、EGFR−PPARGC1Aは、見出されなかった(表3)。
従って、該融合体は、cSCC特異的である可能性がある。他方で、異なる区切り点を有する他のEGFR−PPARGC1A融合体遺伝子を、A431において検出するため、本発明者は、EGFR又はPPARGC1Aの他のエクソンに対して設計したプライマーを用いてRT−PCRを行ったが、特異的な増幅は認められなかった(データは示さず)。
その上、A431において、予想された融合体遺伝子の他の3の候補及びPPARGC1A−EGFR融合体は、RT−PCRにより検出されなかった(表3)。染色体レベルでの再編成を明らかにするため、2色蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)実験を行った(図2C)。NHEKにおいて、2つの別々の緑色(EGFR)及び赤色(PPARGC1A)のシグナルを検出することができたが、一方、A431においては異数性を示す多くの単一のシグナルがあった。中間期(interphase)又は中期(metaphase)にある100の細胞中の、いくつかの黄色シグナルにより、EGFR−PPARGC1A融合体の存在が確認された。Gバンド法により、A431のCh4及びCh7を含む多くの染色体において、異数性が実証された(図2D)。例えば、発現解析の結果によっては、A431細胞において、1,436個のCh7遺伝子のうち、3つの遺伝子だけが、有意にアップレギュレートされており、一方、5つの遺伝子がダウンレギュレートされていた。
従って、異数体であるCh7とCh7の遺伝子の発現レベルとの間には相関はないようである(例えば、DNAメチル化のため)。
EGFR−PPARGC1Aの臨床的意義
EGFR−PPARGC1A融合体が反復性であるかを決定するため、本発明者は、ヒト腫瘍のパラフィン切片から取得したRNAを用いた該融合体に特異的なRT−PCRを行い、頻度を評価した。本発明者は、本発明者の病院を訪れた102人のcSCC患者のスクリーニングを行い、31人の患者(30.4%)において、該融合体遺伝子を検出した。表4−1〜表4−3にEGFR-PPARGC1A融合体遺伝子を有する或いは該遺伝子をもたないcSCC患者の臨床及び病理学的データを示す。
例えば、患者番号61から得たRNA試料において、融合体遺伝子特異的プライマーペアによる増幅がみとめられたが、同一患者の末梢血細胞RNAにおいては確認されなかった(図3A)。また、FISHアッセイにより、cSCC標本において、hChr4及びhChr7が単一のアレルに局在することが示された。このように、再編成は体細胞性に獲得されたものであった。他方、患者番号7も腫瘍組織において融合体遺伝子を有していたが、血清中にはもっておらず、(図3B)、EGFR−PPARGC1Aの検出は、血清腫瘍マーカーとして利用可能でないことが示唆された。
しかしながら、該融合体遺伝子の臨床的意義として、本発明者は、EGFR−PPARGC1A陽性の病変が、日光にさらされない領域よりも、統計的に高い有病率で、日光にさらされる領域に位置する(p<0.05、図3C)ことを見出した。さらに、該融合体は、生殖器領域の3つのcSCCにおいては、陰性であった。他の特徴は、基本的に、融合体遺伝子を有する患者(図3D)と融合体遺伝子をもたない患者(図3E)との間で類似していた:いずれの患者群も、小結節、腫瘍又は潰瘍を含む臨床症状を示した。熱傷瘢痕又は外傷などの既知の原因と、該融合体が陽性であることとは、相関しなかった(表4)。病理組織学的に、低分化型、及び異型、多形性及び高色素性細胞により構成される高分化型のいずれの病変も、融合体遺伝子をもつ患者と融合体遺伝子を持たない患者のいずれにおいてみとめられた(図3D及びE)。核の非定型性及び有糸分裂像もみとめられた。いずれの群も、cSCCの生体内原位置での2つの形である、日光角化症及びボーエン病を含んだ(図3F及びG)。
ADCK4−NUMBLの臨床意義
DJM−1においてプログラミングソフトウェアによって、融合体遺伝子の8つの候補が予想された(表3)。RT−PCRを用いた検証により、3つの融合体遺伝子(ADCK4−NUMBL、SCL35A3−H1AT1及びUNK−ITGB4)は、NHEK又はA431において検出されなかったが、これらのうち、SCL35A3−H1AT1及びUNK−ITGB4は、正常皮膚組織においてもみとめられた。ADCK4−NUMBLは全ての正常皮膚において陰性であり、他の皮膚腫瘍(メラノーマ又はBCC)においては低頻度であった。従って、本発明者は、ADCK4−NUMBL融合体遺伝子に注目した。5つのスパニングリード及び2つのスパニングメイトペアは、キナーゼを含むAarFドメインのエクソン13(ADCK4、19q13.2)と、NUMB like endocytic adaptorタンパク質のエクソン2(NUMBL、19q13.2)との間でのインフレームの融合を示した(図4A)。ADCK4エクソン13及びNUMBLエクソン2に対して設計した特異的プライマーを用いたRT−PCR検証により、DJM−1から得たRNAのみにおいて、予想される断片が増幅された(図4B)。増幅した断片のサンガー配列解析によって、ADCK4及びNUMBL間でのインフレームの融合体が確認された(図4A)。
102人のcSCCのうち、36の病変がADCK4−NUMBL陽性であり、該融合体に対し陽性である病変の全ては、日光にさらされる領域に位置していた(図4C)。さらに、ADCK4−NUMBL陽性cSCCは、ADCK4−NUMBL陰性のものと比較して、サイズにおいて小さく(p<0.05)かつ比較的初期癌段階(p<0.05)である傾向があった。生殖器cSCCは、融合体陰性であった。
全体として、57人の患者(55.9%)がEGFR−PPARGC1A又はADCK4−NUMBLのいずれかに対し陽性であった。10人の患者は、両陽性を示したが、その臨床意義は明らかではなかった。これまでに、いくつかの研究において、他の器官のSCCにおいて融合体遺伝子が報告されている;肺SCCではAML4−ALK、頭頸部SCCではFGFR3−TACC3、正中線癌では、NSD3−NUT、及び食道性SCCではGOLM1−MAK10。本発明者は、cSCC患者における頻度を決定した。2つのケースにおいてはFGFR3−TACC3融合体遺伝子に対し陽性であったが(彼らはEGFR−PPARGC1A又はADCK4−NUMBLに対しても陽性であった)他の融合体遺伝子は検出されなかった(表4)。
EGFR−PPARGC1Aの機能解析
EGFR−PPARGC1Aを有するcSCCは、ADCK4−NUMBLと比較して相対的に高悪性度の臨床像を示すため、本発明者は、EGFR−PPARGC1Aの機能を明らかにすることを試みた。融合体遺伝子をPCRにより増幅し、レンチウイルスベクターにクローニングした。本発明者は、はじめにレンチウイルス遺伝子導入を用いてNHEKにおいて、融合体タンパク質を過剰発現させることを試みたが、細胞は非常に不安定で、遺伝子導入後に増殖を停止した。代わりに、本発明者は、以前の研究に従い、NIH3T3を用いて腫瘍原性分析を行った(Nature. 2007 Aug 2;448(7153):561-6.)。対照ベクター、EGFR−PPARGC1A、全長野生型EGFR又は全長PPARGC1Aを安定的に遺伝子導入したNIH3T3は、細胞形態において明らかな差異は示さなかった(図5A)。
皮下移植の4週間後、融合体遺伝子を遺伝子導入したNIH3T3はヌードマウスの皮膚で、小丘疹を形成しはじめた。8週間において、融合体遺伝子を有するNIH3T3の、全15サンプルにおいて腫瘍発生がより明白になり、一方、対照ベクターを遺伝子導入したNIH3T3は腫瘍を形成しなかった(図6A)。腫瘍組織の病理組織学的所見により、有糸分裂を行っている、異型、多形性かつ高色素性の多量の細胞が明らかになり(図6B)、これはcSCCの特徴と同様であった(図3D−G)。本発明者は、腫瘍組織から培養した細胞と同様に、腫瘍組織はEGFR−PPARGC1A陽性であることを、融合体特異的プライマーを用いたRT−PCRによって確認した(図6C)。
本発明者は、EGFR−PPARGC1Aが腫瘍発生を推進するメカニズムを明らかにしようと試みた。A431及びDJM−1は、NHEKと比較して、細胞数が有意に増加した(図6D)。DJM−1の細胞増殖は、A431よりも穏やかであり、これはADCK4−NUMBL陽性cSCCがより小さいサイズであることを反映しているのかもしれない。
以前に記載されたcSCCの発達(Am J Dermatopathol. 1996 Aug;18(4):351-7.)において、有糸分裂の誘発の役割を果たす可能性を考慮し、本発明者は、EGFR−PPARGC1AによってA431の増殖が活性化される可能性に注目した。NIH3T3における融合体遺伝子の安定的な過剰発現により、細胞数及びBrdUの取り込みが有意に増加した(図6E)。一方、EGFR siRNAは、A431において、全長野生型EGFRと同様に、融合体遺伝子の発現を阻害し(図6F)、対照siRNAと比較して、細胞数を有意に減少させた(図6G)ため、これによりsiRNAの治療価値が示された。
融合体遺伝子をより特異的に阻害するために、CRISPR/Cas9システム、又は融合遺伝子の継ぎ目に対するsiRNAを用いて、EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子又はADCK4−NUMBL融合体遺伝子を阻害した。
全長EGFR、PPARGC1A、ADCK4又はNUMBLの発現には影響しなかった。結果を図8に示す。A431において、EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子の発現を阻害した結果、該A431細胞数を有意に減少させることが可能となった。一方、ADCK4−NUMBL融合体遺伝子の発現を阻害した場合には、細胞数の減少は観察されなかった。
野生型全長EGFRのチロシンリン酸化は、ケラチノサイトの増殖に関与している(Eur J Cancer. 2001 Sep;37 Suppl 4:S3-8.)ため、EGFR−PPARGC1AによるA431増殖活性化のメカニズムとして、本発明者は、次に、EGFRシグナルに注目した。野生型EGFRの、多くのチロシンリン酸化残基の中で、主要な自己リン酸化部位であるY1173は、NHEKにおいてほとんどリン酸化されていなかったが、異所性のEGF刺激により誘導された(図7A)。一方で、以前に記載されているように(Mol Cell Biochem. 2014 Nov;396(1-2):221-8)、刺激されていないA431ではY1173が恒常的に自己リン酸化されており、DJM−1では、それより弱いリン酸化がみとめられ、これらは、上記の細胞増殖活性と矛盾しないものであった。
A431におけるY1173リン酸化レベルは、EGFR−PPARGC1A融合体遺伝子のウイルス性の過剰発現により、さらに亢進した(図7B)が、DJM−1においては亢進しなかった。なお、NIH3T3は、少量の野生型EGFRを発現することが報告されており(Mol Biol Cell. 1999 Mar;10(3):525-36.)、そのリン酸化レベルは、融合体遺伝子によって誘導された(図7C)。
従って、A431において、融合体遺伝子の存在により、野生型全長EGFRの恒常的なチロシンリン酸化が誘導される可能性がある。NUP214−ABL1融合体は、NUP214のリン酸化を引き起こし、これは、T細胞急性リンパ芽球性白血病の病態形成に寄与する(Nat Genet. 2004 Oct;36(10):1084-9.)。従って、本発明者は、EGFR−PPARGC1Aタンパク質のリン酸化レベルを決定した(図5B)。
野生型EGFRの細胞外ドメインに対する抗体との免疫沈降により、融合体遺伝子を過剰発現するNIH3T3及びA431のみにおいて、およそ100kDaの融合体タンパク質を検出できることが明らかになり、該タンパク質はチロシン自己リン酸化されていた(図7D)。融合体タンパク質の検出は、融合体タンパク質と結合させたHisタグに対する抗体との免疫ブロットにより確認し、一方、EGFRの細胞外ドメインに対する抗体は、野生型全長EGFRと反応しなかった。
異所性のEGF刺激は、該融合体タンパク質のリン酸化に影響しなかった(図7D)。EGFR−PPARGC1Aは、いくつかのセリン/スレオニン残基をもっているが、セリン/スレオニンリン酸化は、検出されなかった(データは示さず)。Y117F置換は、融合遺伝子のチロシンリン酸化を緩やかに減少させた。従って、少なくとも部分的には、Y117がリン酸化と関与していると考えられる。
野生型EGFRリン酸化が、その二量体化と相関する(Eur J Cancer. 2001 Sep;37 Suppl 4:S3-8.)ことを考慮し、本発明者は、次に、EGFR−PPARGC1A融合体タンパク質(約100kDa)が、野生型全長EGFR(約170kDa)と二量体を形成し、互いに相互作用することができるとの仮説を立てた。
刺激されていないA431溶解物から、EGFRの細胞内ドメインに対する抗体を用いて生み出された免疫複合体は、融合体タンパク質を含有していた(図7E):融合体タンパク質は細胞内ドメインを欠く(図5B)ため、この結果は、野生型EGFRと融合体タンパク質との相互作用を示唆する。同様に、融合体遺伝子を過剰発現するNIH3T3においても、相互作用がみとめられた(図7E)。
まとめると、本発明者の発見に基づき、A431における融合体遺伝子の役割についての仮説モデル図を図7Fに示す。EGFR−PPARGC1Aタンパク質は、恒常的なチロシン自己リン酸化を引き起こすが、細胞内ドメインの欠乏のため、細胞内にシグナルを伝達することができない。代わりに、融合体タンパク質は、二量体化により、野生型全長EGFRをリン酸化し、これによって、野生型EGFRの活性化を介した細胞増殖を刺激する。
本発明の方法によれば、EGFR及びPPARGC1Aの融合遺伝子の存在又は非存在を検出することにより、皮膚有棘細胞癌の早期段階(例えば、日光角化症やボーエン病の段階)から、皮膚有棘細胞癌の診断が可能となり得る。また、EGFR及びPPARGC1Aの融合遺伝子が検出され皮膚有棘細胞癌を有するか皮膚有棘細胞癌にかかりやすいと判定された被検動物に対して、EGFR阻害剤を投与することにより、皮膚有棘細胞癌を予防又は治療することが可能となり得る。また、siRNAなどの公知の方法を用いてEGFR−PPARGC1A融合体の発現を抑制することにより、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療することが可能となり得る。上記EGFR−PPARGC1A融合体は、皮膚有棘細胞癌の発生に直接的に関与するため、該融合遺伝子の発現又は機能を抑制することで、皮膚有棘細胞癌を予防又は治療することが可能となり得る。

Claims (4)

  1. 被検動物の皮膚有棘細胞癌又は皮膚有棘細胞癌の発症リスクを判定する方法であって、
    (I)該被検動物由来の生体試料において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子及びペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PPARGC1A)遺伝子の融合体(EGFR−PPARGC1A融合体)の存在又は非存在を検出する工程、
    (II)工程(I)においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された場合に、被検動物が皮膚有棘細胞癌を有しているか皮膚有棘細胞癌の発症リスクがあると判定する工程、
    を含む方法。
  2. EGFR−PPARGC1A融合体の検出用核酸を含む、皮膚有棘細胞癌の診断用キット。
  3. 被検動物由来の生体試料においてEGFR−PPARGC1A融合体の存在が検出された被検動物に、予防上又は治療上有効量のEGFR阻害剤を投与することを含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療方法。
  4. EGFR−PPARGC1A融合体発現抑制物質を含む、皮膚有棘細胞癌の予防又は治療用医薬組成物。
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