図1は、本発明の実施において好適な測位システムの全体構成を示す図である。図1の測位システムにおいて携帯端末はGNSS受信機であって、GNSS測位により携帯端末自身の自己位置を測定すると共に、偽装信号送信器からの偽装信号(衛星信号を偽装した信号)が送信されているか否かを判定できる機能を含む。
GNSS測位では、宇宙に存在する多数の航法衛星からの衛星信号が利用される。図1には、N機(Nは自然数)の航法衛星1〜Nが図示されている。例えば、測位を行う携帯端末が複数の航法衛星からの衛星信号を受信し、受信した衛星信号に基づいて測位を行い、図示しないセンターシステムなどへ測位結果を通知する。
衛星信号の偽装を画策する画策者は、例えば、偽装信号送信器から携帯端末へ向けて、衛星信号を偽装した偽装信号を送信する。携帯端末の所有者が画策者となる場合もある。その場合には、例えば、比較的強い電波強度で偽装信号を送信するか、または、航法衛星の電波が遮断される場所(例えば地下室など)で偽装信号の送信が実施される。したがって、例えば、電波強度が非常に強い場合(例えば基準となる閾値レベルを超える場合)に偽装信号であると判定されてもよい。
本実施形態における携帯端末は、偽装信号送信器(スプーファ)から送信される偽装信号同士がその信号強度の時間変化に高い相関関係を有する性質に着目し、受信信号同士の相関関係の強さ(高さ,大きさ)に基づいて、受信信号の中に偽装信号が含まれるか否か、つまりGNSSスプーフィングが行われているか否かを判定する。通常、GNSS測位における衛星信号は、各航法衛星から携帯端末に至る経路がそれぞれ異なるため、経路毎に衛星信号が受ける外乱の影響が異なる。一方、偽装信号送信機は特定の位置から複数の偽装信号を送信するため、各偽装信号が伝達してきた経路はそれぞれ同じであり、偽装信号が当該経路において受ける外乱の影響も同じとなる。そのため、偽装信号同士が信号強度の時間変化に高い相関関係を有する。
図2は、本発明の好適な実施形態の1つである携帯端末100を示す図である。携帯端末100は、例えば図1の測位システムにおいて利用される。
図2の携帯端末100は、位置証跡サービスを実施するにあたり、証跡として位置情報を取得される人が持つ端末装置である。位置証跡サービスとは、例えば、警備員の巡回記録、産廃業者の輸送経路記録(不法投棄の否認)、建設業者の施工記録などといった、サービス提供者が所在していた位置を証跡として、サービス提供者が確認する又は第三者に証明するサービスである。なお、携帯端末100の具体例には、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ポータブルPC等が含まれる。
図2の携帯端末100は、GNSS測位部10と動作検出部20と表示部30と偽装信号判定部50を備えている。
GNSS測位部10は、複数の航法衛星から得られる衛星信号を受信して測位のための演算を実行する。GNSS測位部10は、例えば、一般的にモジュール化された部品であり、測位結果である座標情報(位置情報)、可視衛星数、各可視衛星の信号強度などを出力する。本実施形態では信号強度の代りの指標としてC/N比(搬送波対雑音比)を出力するものとする。なお、信号強度の代りの指標としてS/N比(信号雑音比)を出力してもよい。
動作検出部20は、携帯端末100に対する所定の動作を検知する。所定の動作は、例えば、携帯端末100を動かす、携帯端末100を振る、携帯端末100を持った人が動き回るなどの動作であり、GNSS受信機である携帯端末100と衛星の位置関係に影響を与える動作(すなわち衛星信号の受信状態に影響を与える動作)であることが望ましい。振動センサや加速度センサや電子コンパスなどが動作検出部20の好適な具体例である。なお、GNSS測位部10によって測位した位置の時間変化から所定の動作を検知する構成としてもよい。
表示部30は、GNSS測位部10の測位結果や端末利用者に対する指示(メッセージ)などを表示する。
偽装信号判定部50は、衛星信号を偽装した偽装信号を判定する偽装信号判定装置として機能する。偽装信号判定部50は、信号強度取得部52と相関演算部54と画策判定部56を備えており、それぞれ本発明における取得手段と演算手段と判定手段として機能する。
偽装信号判定部50は、GNSS測位部10から所定のタイミングにて測位結果として、座標情報(位置情報)と可視衛星ごとの受信信号のC/N比などを受け取り、メモリなどに記録する。偽装信号判定部50は、時系列に記録されたC/N比(信号強度データ)に基づいて、画策が行われているか否か(受信信号の中に偽装信号が含まれているか否か)の判定を行う。この際、必要に応じて動作検出部20による検出結果を参照して判定を行う。
なお、偽装信号判定部50は、携帯端末100の外部、例えば携帯端末100との間で通信を行うセンターシステムなどに設けられてもよい。
図3は、図2の携帯端末100による画策判定処理の具体例を示すフローチャートである。以下、図3のフローチャートの各処理について説明する。
まず、携帯端末100の操作者(所持者)に対して所定の動作を行うように指示が成される(F1)。例えば、携帯端末100の表示部30に、所定の動作を促すメッセージが表示される。なお、携帯端末100が備えるスピーカーなどから所定の動作を促す音声のメッセージが出力されてもよい。
次に、MFlagとPFlagが初期化される(F2)。MFlagは、所定の動作が行われたことを示すフラグであり、動作が検知されていない状態のFalseに初期化される。また、PFlagは、測位が成功したことを示すフラグであり、測位されていない状態のFalseに初期化される。
次に、規定回数N回(Nは自然数)の測位が実行される(F3)。各回の測位においては、まず、衛星信号が受信される(F31)。衛星信号の受信結果には、衛星ごとのC/N比、測位が成功(位置が求められること)したかどうかを示す情報が含まれている。なお、測位が成功するまでには時間がかかることもある。
そして、測位が成功した場合には、PFlagが測位された状態を示すTrueに変更される(F32)。測位が成功しなかった場合には、PFlagはFalseのまま維持される。
次に、F1で指示した所定の動作を動作検出部20が検知したか否かが確認され、所定の動作が検知されていればMFlagがTrueに変更される(F33)。所定の動作が検知されていなければMFlagはFalseのまま維持される。
こうして、N回の測位の各回についてF3(F31からF33まで)の処理が実行され、規定回数N回の測位が終了すると、PFlagとMFlagが共にTrueとなっているか否かが確認される(F4)。つまり、N回の測位の中で測位が成功し且つ動作が検知されたかどうかが確認される。
PFlagとMFlagの両方がそろわない場合には、つまり、PFlagとMFlagの少なくとも一方がFalseのままであれば、F2の処理に戻り両方のフラグが初期化されてからF3の処理(N回の測位)が再び実行される。
PFlagとMFlagが共にTrueとなっていれば、画策尤度の計算が行われる(F5)。つまり、F31の処理で得られる衛星信号の受信結果から、衛星ごとに得られる受信信号のC/N比に基づいて、画策尤度が算出される。
図4は、複数の衛星に対応したC/N比の具体例を示す図である。図4には、複数の衛星1〜M(Mは自然数)の衛星ごとに、規定回数N回(Count=1〜N)の測定において得られた衛星信号のC/N比が図示されている。
例えば、1回目(Count=1),2回目(Count=2),3回目(Count=3),・・・,N回目(Count=N)の測定において、衛星1から得られた衛星信号のC/N比がC/N(1,1),C/N(1,2),C/N(1,3),・・・,C/N(1,N)であり、衛星2から得られた衛星信号のC/N比がC/N(2,1),C/N(2,2),C/N(2,3),・・・,C/N(2,N)であり、衛星Mから得られた衛星信号のC/N比がC/N(M,1),C/N(M,2),C/N(M,3),・・・,C/N(M,N)である。
信号強度取得部52は、GNSS測位部10から衛星ごとのC/N比を得ることにより、例えば図4に示すC/N比配列のデータを形成する。そして、相関演算部54は、例えば、図4に示すC/N比配列に基づく相関演算により画策尤度を算出する。相関演算部54は、例えば、数1式に示す正規化相互相関(NCC)を利用する。数1式は、時系列信号x(t),y(t)のNサンプル(t=1〜N)に対する正規化相互相関である。
相関演算部54は、数1式における時系列信号x(t),y(t)のそれぞれに、各衛星からN回の測定で得られるC/N比を適用し、2つの衛星の組み合わせごとに正規化相互相関を算出する。つまり、2つの衛星のうちの一方の衛星から得られるN個のC/N比を時系列信号x(t)とし、他方の衛星から得られるN個のC/Nを時系列信号y(t)とすることにより、数1式から、それら2つの衛星の組み合わせに関する正規化相互相関が算出される。
図5は、複数の衛星に対応した正規化相互相関の具体例を示す図である。図5には、複数の衛星1〜Mのうちの互いに異なる2つの衛星の組み合わせごとに算出される正規化相互相関が図示されている。
例えば、衛星1と衛星2の組み合わせに対応した正規化相互相関がNCC(1,2)、衛星1と衛星3の組み合わせに対応した正規化相互相関がNCC(1,3)、衛星1と衛星Mの組み合わせに対応した正規化相互関がNCC(1,M)である。また、衛星2と衛星3の組み合わせに対応した正規化相互関がNCC(2,3)、衛星2と衛星Mの組み合わせに対応した正規化相互関がNCC(2,M)である。
相関演算部54は、複数の衛星1〜Mに関する全ての組み合わせについて、各組み合わせのそれぞれについて正規化相互相関を算出することにより、図5に示す正規化相互相関行列のデータを得る。
そして、相関演算部54は、例えば全ての組み合わせについての正規化相互相関の平均値を画策尤度とする。例えば、図5の具体例であれば、NCC(1,2)〜NCC(1,M),NCC(2,3)〜NCC(2,M),・・・,NCC(M−1,M)についての平均値が画策尤度とされる。
図3に戻り、F5の処理により画策尤度が算出されると、画策判定部56により、画策尤度が閾値を超えるか否かが確認される(F6)。そして、画策尤度が閾値を超えていれば(閾値より大きい又は閾値以上)、画策であると判定される(F61)。つまり、複数の衛星1〜Mからの衛星信号として受信された受信信号の中に偽装信号が含まれる(含まれている可能性が高い)と判定される。
一方、画策尤度が閾値を超えていなければ(閾値以下又は閾値より小さい)、画策ではないと判定される(F62)。つまり、複数の衛星1〜Mからの衛星信号として受信された受信信号の中に偽装信号が含まれていない(含まれている可能性が低い)と判定される。こうして、図3のフローチャートに対応した処理が終了する。
なお、図3のフローチャートを利用して説明した実施形態では、規定回数N回の測位を行い、そのN回の測位の中で所定動作が検知されたか否かを確認している。これは、携帯端末100に対して所定の動作が検知された場合、当該動作に伴って受信信号が受ける外乱の影響がより顕著に変化するため、信号強度データもより顕著に時間変化する。そして、偽装信号の場合は、同じ経路で伝搬するため偽装信号間の信号強度の時間変化に高い相関関係となって表れる。したがって、携帯端末100になされた動作を伴った信号強度データについての相関関係を求めることにより、画策か否かについて高精度に判定することができる。しかし、これに限らず所定動作を検知しない他の実施形態であってもよい。この場合、判定精度は劣るものの、簡易的に判定することが可能となる。
また、携帯端末100に対して動作がなされた期間(動作がなされていると判定された時刻を含む前後期間)における信号強度の時間変化について相関関係を求めることにより、さらに高精度に画策か否かを判定することが可能となる。例えば、図6に示すように、衛星信号のC/N比を常に取得し、動作検知のタイミングを起点として、そのタイミング(時刻)の前後の規定サンプル数(例えば前mサンプルと後nサンプル)のC/N比を用いて画策か否かを判定する。なお、図3のフローチャートと同様に、当該C/N比を用いて画策尤度を算出し、画策尤度と閾値の比較により、画策か否かが判定される。なお、図6に示す変形例においても、C/N比が取得される複数のタイミングの中に測位が成功したタイミングが含まれることが望ましい。
また、図7に示す具体例のように、所定の動作が検出されたタイミングを含む動作検出区間(動作有期間)のC/N比と、所定の動作が検出されたタイミングを含まない動作非検出区間(動作無期間)のC/N比を取得し、動作検出区間の画策尤度と動作非検出区間の画策尤度を算出するようにしてもよい。
図8は、動作検出区間と動作非検出区間における画策尤度の具体例を示す図である。図8には、(A)偽装信号、(B)本物信号、(C)ノイズ付き偽装信号のそれぞれについての具体例が図示されている。
図8(A)に示すように、一般的な偽装信号であれば、偽装信号間の信号強度(例えばC/N比)の時間変化に高い相関関係があるため、図8(B)に示す本物信号(本物の衛星信号)に比べて、動作検出区間における画策尤度が大きくなる。
ところが、偽装信号に対して、偽装信号間の信号強度の相関関係が低くなるようなノイズが加わっている場合には、偽装信号間の信号強度の時間変化に高い相関関係が得られない場合がある。例えば、図8(C)に示すように、ノイズ付き偽装信号では動作検出区間における画策尤度が中程度となり、動作検出区間のみの比較では、図8(B)に示す本物信号との識別が困難となる場合がある。
そこで、動作検出区間の画策尤度と動作非検出区間の画策尤度との差に基づいて画策か否か、つまり偽装信号か否かを判定するようにしてもよい。例えば、図8(C)に示すように、ノイズ付き偽装信号では、動作非検出区間の画策尤度と動作検出区間の画策尤度との差が比較的大きいため、例えば、動作非検出区間の画策尤度に対する動作検出区間の画策尤度の上昇度(例えば画策尤度の増加量または増加率など)に基づいて、ノイズ付き偽装信号か否かを判定するようにしてもよい。例えば、動作非検出区間の画策尤度に対する動作検出区間の画策尤度の上昇度が基準となる閾値を超える(閾値以上または閾値より大きい)場合に、ノイズ付き偽装信号であると判定してもよい。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
例えば、上述した実施形態では、動作検出部20(検知手段)により所定の動作が検出されたタイミングを含む期間を動作検出区間(動作有期間)としているが、これに限らず、携帯端末100の操作者(所持者)に対して所定の動作を行うように指示(メッセージ)が成された直後の時刻を含む期間を動作検出区間(動作有期間)としてもよい。また、例えば、上述した実施形態における携帯端末100(図2)に代えて、例えばドローンなどの移動物体(飛行物体)が位置の測定対象とされてもよい。例えば、GNSS測位部10の機能を備えた移動物体が偽装信号判定部50の機能を備えてもよいし、その移動物体との間で通信を行うセンターシステムなどに偽装信号判定部50の機能が設けられてもよい。