JP2018154577A - 水溶性ワープドナノグラフェン化合物及びその用途 - Google Patents

水溶性ワープドナノグラフェン化合物及びその用途 Download PDF

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泰知 瀬川
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Abstract

【課題】新規なワープドナノグラフェン化合物及びその用途の提供。【解決手段】式(1)で表される水溶性ワープドナノグラフェン化合物。[Rは各々独立にH又は置換基、Rの少なくとも1つは親水基;R’は各々独立にH又は置換基;nは各々独立に0〜2の整数]【効果】前記化合物は水及びDMSOへの良好な溶解性及び適度な蛍光収率を有する。【選択図】なし

Description

本発明は、水溶性ワープドナノグラフェン化合物及びその用途に関する。
これまで、高機能ナノカーボンとして、フラーレン(球状)、カーボンナノチューブ(筒状)、グラフェン(シート状)などが報告されており、これらはいずれも様々な分野で応用されている。しかしながら、例えばナノグラフェンは溶媒中で凝集しやすい等、それぞれ取扱いしにくい問題点も有する。
本発明者らは、これらのナノカーボンとは異なる「第4のナノカーボン」として、C8030で表されるワープドナノグラフェン(WNG)の合成に成功した(非特許文献1参照)。ワープドナノグラフェンは、フラーレン、カーボンナノチューブ、及びグラフェンとは異なり、下記に示す通り、5つの七角形構造に由来する「うねり」(湾曲)構造を有するナノカーボンである。
ワープドナノグラフェンは、有機溶媒への溶解性に優れる、電子を繰り返し出し入れが可能である、光を効率的に吸収して緑色の蛍光を放つ、などの平面シート状のグラフェンとは明らかに異なる優れた特徴を有しており、バイオイメージング材料や有機半導体材料などへの応用が期待されている。しかしながら、ワープドナノグラフェンは有機溶媒には溶解しやすいものの、水への溶解性を示さないことから、水溶性が要求される用途に活用することが困難である。
また、最近では、ワープドナノグラフェンの生成メカニズムの解明や、合成中間体の結晶に新たなスタッキング様式が発見されるなど、ワープドナノグラフェン誘導体の研究も進められている(例えば、下記非特許文献2参照)。
Nat.Chem.,2013,5,739−744 Chem.Asian.J.,2015,10,1635−1639
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、新規なワープドナノグラフェン化合物及びその用途を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した課題を達成すべき鋭意研究を重ねた結果、新規なワープドナノグラフェン化合物の合成に成功した。さらに、当該ワープドナノグラフェン化合物は、水への溶解性に優れることを見出した。さらに、当該ワープドナノグラフェン化合物は、特定の波長に蛍光特性を有し、光安定性が高いことを見出した。
即ち、本発明は、代表的には、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.一般式(1):
[一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。Rの少なくとも1つは親水基である。R’は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。nは同一又は異なって、0〜2の整数を示す。]
で表される水溶性ワープドナノグラフェン化合物。
項2.前記一般式(1)において、R’がいずれも水素原子である、項1に記載のワープドナノグラフェン化合物。
項3.前記一般式(1)において、Rがいずれも親水基である、項1又は2に記載のワープドナノグラフェン化合物。
項4.前記一般式(1)において、Rのうち5個が親水基であり、他の5個が親水基以外の基である、項1又は2に記載のワープドナノグラフェン化合物。
項5.前記一般式(1)において、Rのうち1個が親水基であり、他の9個が親水基以外の基である、項1又は2に記載のワープドナノグラフェン化合物。
項6.項1〜5のいずれかに記載のワープドナノグラフェン化合物を含む、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析用マトリックス。
項7.項1〜5のいずれかに記載のワープドナノグラフェン化合物を含む、蛍光色素。
本発明によれば、水への溶解性に優れたワープドナノグラフェン化合物を提供することができる。さらに、本発明の水溶性ワープドナノグラフェン化合物は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析用マトリックスや蛍光色素として好ましく用いることができる。
熱振動楕円体作画ソフト(ORTEP)による、化合物4の存在率50%によるX線結晶構造である。 熱振動楕円体作画ソフト(ORTEP)による、化合物5の存在率50%によるX線結晶構造である。 実施例1において化合物7を用いた群(グルコース)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 実施例1において化合物7を用いた群(スクロース)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 実施例1においてDHBを用いた群(グルコース)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 実施例1においてDHBを用いた群(スクロース)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 実施例1において化合物7又はCHCAを用いた群(MRFA)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 実施例1において化合物7又はDHBを用いた群(カフェイン)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 実施例1において化合物7又はDHBを用いた群(GlcNAc)のMALDI−TOFMSスペクトルを示す。 官能基化されたワープドナノグラフェン(化合物4及び7)の光物性である。a) 実線はUV−vis吸収スペクトルであり、破線は蛍光スペクトルである。また、灰色はCHCl中の化合物4、緑色はCHCl中の化合物7、橙色は水中の化合物7のデータである。b) 波長365nmの光を照射した際のCHCl(左)及び水(右)中の化合物7の溶液を写真である。 a) 化合物7の吸収及び蛍光スペクトルである。b) 水中の化合物7の蛍光スペクトルのピークフィッティングである。 様々な溶媒中の化合物7の蛍光極大波長を、E(30)値に対してプロットした図である。 Taylor分散解析の結果である。 化合物4、化合物7及びAlexa 430色素の光安定性の結果である。a) 水中の化合物7(緑四角)及びAlexa 430色素(赤丸)の吸収強度の光照射時間による変化である。b) ジクロロメタン中の化合物4(紫丸)及び化合物7(緑四角)の吸収強度の光照射時間による変化である。いずれも、450±10nmのバンドパスフィルターを用いて、Xeランプ(300W)で照射した。溶液濃度は450nmにおける光学密度に関して同等となるように調整した。 MTTアッセイにおける化合物7によるHeLa細胞の細胞生存率である。データは、蛍光色素を含まない場合をコントロールとして百分率(±標準偏差を意味する)で示す(n=6)。 5.0μMの化合物7及び100nMのLysoTracker Red DND-99で染色されたHeLa細胞の共焦点イメージである。a)〜c) 37℃で5時間染色した。d)〜f) 4℃で5時間染色した。a)、d) 参照スペクトルを用いた化合物7の線形非混合イメージである。b)、e) 参照スペクトルを用いたLysoTracker Red DND-99の線形非混合イメージである。c)、f) 合成イメージである。細胞を488nmレーザーで励起し、蛍光スペクトルを490nm〜693nmで記録した。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.水溶性ワープドナノグラフェン化合物
本発明は、水溶性ワープドナノグラフェン化合物を包含する。本発明の水溶性ワープドナノグラフェン化合物は、下記一般式(1):
[一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。Rの少なくとも1つは親水基である。R’は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。nは同一又は異なって、0〜2の整数を示す。]
で表される構造を有する。つまり、一般式(1A):
[一般式(1)中、R〜R10は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。R〜R10の少なくとも1つは親水基である。R11〜R20は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。nは同一又は異なって、0〜2の整数を示す。]
で表される水溶性ワープドナノグラフェン化合物を意味する。
一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。Rの少なくとも1つは親水基である。なお、親水基の好ましい数については、用途によって異なるため、用途に応じて1〜10の範囲で適宜選択することが好ましい。親水基の数は、1〜10であり、例えば好ましくは1、5又は10である。例えば、親水基の数が5個である場合は、Rの任意の5カ所に親水基を有し得る。この場合、合成の観点からは、一般式(1A)において、R〜Rは同一の基であり、かつR〜R10は同一の基であることが好ましい。一態様として、Rの一つのみが親水基で残りは親水基以外の基とすることもできるし、他の態様としてR〜Rと、R〜R10とが異なる基であることがより好ましく、別の態様として、Rの全てが同一の基であることがより好ましい。また、一態様として、R〜Rがいずれも親水基であり、かつR〜R10がいずれも親水基以外の基であること、又はR〜R10がいずれも親水基であり、かつR〜Rがいずれも親水基以外の基であることが好ましく、別の態様として、Rの全てが親水基であることがより好ましい。なお、この場合親水基は上記したものを採用でき、親水基以外の基は水素原子、後述のアルキル基、後述のアリール基、後述のヘテロアリール基等を採用できる。
一般式(1)のRで示される置換基としての親水基は、ワープドナノグラフェンの水への溶解性を高めることのできる基であれば特に限定的ではなく、例えば、一般式(2)〜(10):
[式中、−OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を示す。R31はアルカリ金属又はNHを示す。R32は2価の有機基を示す。R33a、R33b、R33c、R34a、R34b、R34c、R34d、R35a及びR35bは同一又は異なって、水素原子又は1価の有機基を示す。R36〜R38は同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、NH又は有機アンモニウムを示す。Xは水酸基又はハロゲン原子を示す。一般式(4)の酸素原子はエーテル結合であり、鎖状エーテル及び環状エーテルを包含する。]
等の1種以上を含む基が挙げられる。具体的には、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシアルキル基、アミド基、アルキレンオキシド基、アンモニウム基、下記式(11):
[式(11)中、R39は分子内に水酸基を2個以上有する多価アルコール基を示す。多価アルコール基を構成する多価アルコールとしては、例えば、ブタンジオール、プロピレングリコール、ペンタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等を挙げることができる。mは1〜5の整数を示す。]
で表される基等が挙げられる。式(11)で表される基としては、具体的には、
[式中、TEGはテトラエチレングリコール基を示す。]
等が挙げられる。
一般式(1)のRで示される置換基としては、特に限定的ではなく、上記した親水基の他、例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロアリール基、置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のヘテロアリール基、置換又は無置換のアミノ基、並びにその他の親水基や親水基以外の基等が挙げられる。なお、親水基の好ましい種類(又は大きさ)については、用途によって異なるため、用途に応じて適宜選択することが好ましい。
一般式(1)のRで示される置換基としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状であってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の炭素数は、特に限定的ではなく、例えば1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4(即ち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、又はtert−ブチル基)である。また、環状のアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが挙げられる。
一般式(1)のRで示される置換基としてのアルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状であってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の炭素数は、特に限定的ではなく、例えば1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4(即ち、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、又はtert−ブトキシ基)である。また、環状のアルキル基としては、例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基などが挙げられる。
上記したアルキル基及びアルコキシ基は、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換されている場合の置換基としては、例えば、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、アミノ基等が挙げられる。これらの説明及び好ましい例としては、上記のアルコキシ基、下記のアリール基、下記のアリールオキシ基、下記のヘテロアリール基、及び下記のアミノ基と同様である。また、置換基の数は、特に限定的ではなく、例えば0〜3個とすることができる。
一般式(1)のRで示される置換基としてのアリール基は、単環芳香族由来の基であってもよいし、多環芳香族由来の基であってもよく、単環芳香族由来の基であることが好ましい。アリール基の炭素数は、特に限定的ではなく、例えば6〜22、好ましくは6〜18、より好ましくは6〜14、さらに好ましくは6〜10(即ち、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等)である。
一般式(1)のRで示される置換基としてのアリールオキシ基は、単環芳香族由来の基であってもよいし、多環芳香族由来の基であってもよく、単環芳香族由来の基であることが好ましい。アリールオキシ基の炭素数は、特に限定的ではなく、例えば6〜22、好ましくは6〜18、より好ましくは6〜14、さらに好ましくは6〜10(即ち、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等)である。
上記したアリール基及びアリールオキシ基は、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換されている場合の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、アミノ基などが挙げられる。これらの説明及び好ましい例としては、上記のアルキル基、上記のアルコキシ基、上記のアリール基、上記のアリールオキシ基、及び下記のアミノ基と同様である。また、置換基の数は、特に限定的ではなく、例えば0〜3個とすることができる。
一般式(1)のRで示される置換基としてのヘテロアリール基は、単環芳香族複素環由来の基であってもよいし、多環芳香族複素環由来の基であってもよく、単環芳香族複素環由来の基であることが好ましい。このようなヘテロアリール基の環員数としては、特に限定的ではなく、例えば5〜50、好ましくは5〜20である。例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基などが挙げられる。
上記したヘテロアリール基は、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換されている場合の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基などが挙げられる。これらの説明及び好ましい例としては、上記のアルキル基、上記のアルコキシ基、上記のアリール基、上記のアリールオキシ基、及び下記のアミノ基と同様である。また、置換基の数は、特に限定的ではなく、例えば0〜3個とすることができる。
一般式(1)のRで示される置換基としてのアミノ基は、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換されている場合のアミノ基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基などが挙げられる。これらの説明及び好ましい例としては、上記のアルキル基、上記のアルコキシ基、上記のアリール基、上記のアリールオキシ基、及び上記のヘテロアリール基と同様である。
一般式(1)中、R’は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。中でも、R’は、いずれも水素原子であることが好ましい。
一般式(1)のR’で示される置換基としては、特に限定的ではなく、例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のヘテロアリール基、置換又は無置換のアミノ基、親水基、ボロン酸又はそのエステル基等が挙げられる。これらの説明及び好ましい例としては、上記のアルキル基、上記のアルコキシ基、上記のアリール基、上記のアリールオキシ基、上記のヘテロアリール基、上記のアミノ基、及び上記の親水基と同様である。
上記した一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物としては、例えば、下記式(12)及び(13)で表される化合物などが挙げられる。
[式(12)中、TEGはテトラエチレングリコール基を、Buは、tert−ブチル基をそれぞれ示す。]
[式(13)中、Buは、tert−ブチル基を示す。]
本発明のワープドナノグラフェン化合物は、例えば、既報(Nat.Chem.,2013,5,739−744;非特許文献1)に記載の方法に従って、コラニュレンにパラジウム・オルトクロラニル触媒を用いて置換基を有するビフェニルを導入し、次いで、酸化剤の存在下で縮環反応させることによりワープドナノグラフェンを合成することができる。また、下記の合成例1〜5に示すように、鈴木−宮浦カップリングによりコラニュレンに置換基を有するビフェニルを導入し、次いで、酸化剤の存在下で縮環反応させることによってもワープドナノグラフェンを合成することができる。このようにして合成したワープドナノグラフェンに親水基を導入することにより合成することができる。
鈴木−宮浦カップリングを採用する場合、ボロン酸(エステル)基を導入したコラニュレンとハロゲン原子及び置換基を導入したビフェニルとを反応させてもよいし、ハロゲン原子を導入したコラニュレンとボロン酸(エステル)基及び置換基を導入したビフェニルとを反応させてもよい。この場合、ビフェニルの使用量は、ハロゲン原子又はボロン酸(エステル基)を導入したコラニュレンに対して過剰量とすることが好ましく、通常、ハロゲン原子又はボロン酸(エステル基)を導入したコラニュレン1モルに対して、2〜20モルが好ましく、5〜10モルがより好ましい。
パラジウム触媒としては、特に制限されず、金属パラジウムをはじめ、有機化合物等の合成用触媒として公知のパラジウム化合物等が挙げられる。パラジウム触媒としては、具体的には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(Pd(dba))、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリtert−ブチルホスフィノ)パラジウム、酢酸パラジウム、ハロゲン化パラジウム(PdCl、PdBr、PdI)等の1種又は2種以上が挙げられる。本発明においては、反応収率等の観点から、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(Pd(dba))が好ましい。パラジウム触媒の使用量は、通常、ハロゲン原子又はボロン酸(エステル基)を導入したコラニュレン1モルに対して、通常、0.01〜1.00モルが好ましく、0.02〜0.50モルがより好ましい。
本発明においては、上記パラジウム触媒とともに、パラジウム原子に配位し得る配位子化合物を使用することができる。配位子化合物を使用しなくても反応を進行させることができるが、配位子化合物を使用することにより、反応収率をさらに向上させることも可能である。このような配位子化合物は、ホスフィン化合物が好ましく、例えば、トリフェニルホスフィン、トリメトキシホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリイソプロポキシホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリメシチルホスフィン、ジフェニルホスフィノメタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(SPhos)等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの配位子化合物は、溶媒和物であってもよい。なかでも、反応収率等の観点から、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(SPhos)が好ましい。配位子化合物の使用量は、反応収率等の観点から、パラジウム触媒1モルに対して、0.5〜10.0モルが好ましく、1.0〜5.0モルがより好ましい。
本発明においては、塩基を使用することが好ましい。塩基としては、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属フッ化物塩等が好ましい。このような塩基としては、例えば、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属リン酸塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物塩等の1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、本工程では、合成の容易さ、収率等の観点から、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、炭酸セシウムがより好ましい。本発明において、塩基の使用量は、合成の容易さ、収率等の観点から、ハロゲン原子又はボロン酸(エステル基)を導入したコラニュレンに対して過剰量が好ましく、通常、ハロゲン原子又はボロン酸(エステル基)を導入したコラニュレン1モルに対して、2〜20モルが好ましく、5〜10モルがより好ましい。
上記反応は、通常溶媒中で実施することができる。溶媒としては、例えば、水の他、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の環状エーテル;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、トリフルオロトルエン等の芳香族ハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等の1種又は2種以上が挙げられる。本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、水及び芳香族炭化水素が好ましく、水及びトルエンがより好ましい。
上記反応は、不活性ガス雰囲気(窒素ガス、アルゴンガス等)下で行うことが好ましく、反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれも採用でき、通常、0〜150℃程度が好ましく、50〜100℃程度がより好ましい。反応時間は、反応が進行する時間とすることができ、通常、10分〜48時間程度が好ましく、30分〜36時間程度がより好ましい。
反応終了後は、必要に応じて通常の単離及び精製工程を経て、次の工程を行うことができる。
次に、縮環反応を行うために使用される酸化剤としては、例えば、o−クロラニル、p−クロラニル、塩化鉄(III)、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)、二酸化マンガン、ジョーンズ試薬、クロロクロム酸ピリジニウム、二クロム酸ピリジニウム、トリフルオロメタンスルホン酸等の1種又は2種以上が挙げられる。本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)及びトリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、ビフェニルを導入したコラニュレンに対して過剰量が好ましく、例えば、ビフェニルを導入したコラニュレン1モルに対して、5〜20モルが好ましく、8〜15モルがより好ましい。
縮環反応は、通常溶媒中で実施することができる。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の環状エーテル;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、トリフルオロトルエン等の芳香族ハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等の1種又は2種以上が挙げられる。本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、脂肪族ハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンがより好ましい。
水酸基を導入する反応は、不活性ガス雰囲気(窒素ガス、アルゴンガス等)下で行うことが好ましく、反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれも採用でき、通常、−50〜50℃程度が好ましく、−20〜30℃程度がより好ましい。反応時間は、反応が進行する時間とすることができ、通常、10分〜12時間程度が好ましく、30分〜6時間程度がより好ましい。
反応終了後は、必要に応じて通常の単離及び精製工程を経て、親水基を導入したワープドナノグラフェンを得ることができる。 また、本発明のワープドナノグラフェン化合物は、下記の合成例6及び7に示すように、ワープドナノグラフェンに任意の置換基(例えばボロン酸(エステル)基等)を導入した後に、親水基を導入することにより合成することもできる。
ワープドナノグラフェンに親水基を導入する方法としては、特に限定的ではなく、例えば、イリジウム触媒の存在下にワープドナノグラフェンとボロン酸(エステル)化剤とを反応させることでボロン酸(エステル)基を導入し、次いで、酸化剤で酸化することでボロン酸(エステル)基の位置に水酸基を導入することができる。他の親水基についても、常法で導入することが可能である。
ボロン酸(エステル)化剤としては、例えば、メトキシボロン酸、エトキシボロン酸、ビス(ピナコレート)ジボロン(B(pin))、メトキシボロン酸ピナコールエステル、エトキシボロン酸ピナコールエステル等の1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、合成の容易さ、収率等の観点から、ビス(ピナコレート)ジボロン(B(pin))等が好ましい。ボロン酸(エステル)化剤の使用量は、通常、ワープドナノグラフェンに対して過剰量が好ましく、例えば、ワープドナノグラフェン1モルに対して、5〜30モルが好ましく、10〜20モルがより好ましい。
イリジウム触媒としては、例えば、金属イリジウム、水酸化イリジウム、塩化イリジウム、臭化イリジウム、ヨウ化イリジウム、シアン化イリジウム、(1,5−シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)ダイマー([Ir(OMe)COD])、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム、クロロトリカルボニルイリジウム(I)等の1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、本工程では、合成の容易さ及び収率の観点から、(1,5−シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)ダイマー([Ir(OMe)COD])が好ましい。イリジウム触媒の使用量は、通常、ワープドナノグラフェン1モルに対して、0.2〜5.0モルが好ましく、0.5〜2.0モルがより好ましい。
ボロン酸(エステル)基を導入する反応は、通常溶媒中で実施することができる。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の環状エーテル;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、トリフルオロトルエン等の芳香族ハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等の1種又は2種以上が挙げられる。本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、環状エーテルが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
ボロン酸(エステル)基を導入する反応は、不活性ガス雰囲気(窒素ガス、アルゴンガス等)下で行うことが好ましく、反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれも採用でき、通常、50〜150℃程度が好ましく、70〜120℃程度がより好ましい。反応時間は、反応が進行する時間とすることができ、通常、10分〜10日間程度が好ましく、30分〜8日間程度がより好ましい。
反応終了後は、必要に応じて通常の単離及び精製工程を経て、次の工程を行うことができる。
次に、水酸基を導入するために使用される酸化剤としては、例えば、o−クロラニル、p−クロラニル、塩化鉄(III)、ペルオキシ一硫酸カリウム、過酸化水素、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、過酢酸、モノペルオキシフタル酸マグネシウム等の1種又は2種以上が挙げられる。本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、ペルオキシ一硫酸カリウムが好ましい。酸化剤の使用量は、通常、ボロン酸(エステル)を導入したワープドナノグラフェンに対して過剰量が好ましく、例えば、ボロン酸(エステル)を導入したワープドナノグラフェン1モルに対して、2〜30モルが好ましく、5〜15モルがより好ましい。
水酸基を導入する反応は、通常溶媒中で実施することができる。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の環状エーテル;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、トリフルオロトルエン等の芳香族ハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等の1種又は2種以上が挙げられる。本工程では、収率及び合成の容易さの観点から、環状エーテルが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
水酸基を導入する反応は、不活性ガス雰囲気(窒素ガス、アルゴンガス等)下で行うことが好ましく、反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれも採用でき、通常、−50〜100℃程度が好ましく、0〜50℃程度がより好ましい。反応時間は、反応が進行する時間とすることができ、通常、10分〜48時間程度が好ましく、30分〜24時間程度がより好ましい。
反応終了後は、必要に応じて通常の単離及び精製工程を経て、水酸基を導入したワープドナノグラフェンを得ることができる。他の親水基も同様に導入することが可能である。
2.ワープドナノグラフェン化合物の用途
上記一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物は、その構造中に親水基を有することから、水への溶解性に優れる。従って、上記一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物は、水溶性の要求される用途において幅広く用いることができる。
例えば、上記一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物は、酸化還元反応に対して安定であり、特定の波長の光を吸収するため、レーザー光を吸収し光電子移動によって容易にイオン化される特性が求められるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析用マトリックス、好ましくは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOFMS)用マトリックスとして好ましく用いることができる。換言すると、本発明は、上記一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物を含む、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析用マトリックス、好ましくはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析用マトリックスを包含する。
本発明のマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析用マトリックスは、従来の低分子マトリックスと比較して、低分子領域におけるマトリックス由来の夾雑ピークが抑制されるため、特に、タンパク質、脂質、糖類(例えば、グルコース、スクロース、GlcNAc等)などの生体分子の質量分析において好ましく用いることができる。
また、本発明は、上記したマトリックス支援レーザーイオン化質量分析用マトリックスを用いて行うマトリックス支援レーザーイオン化質量分析方法をも包含する。当該方法の具体的な手順としては、特に限定的ではなく、常法に従って行うことができる。
上記一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物は、上記の通り、特定の波長に蛍光特性を示し、光安定性が高いことから、蛍光色素として好ましく用いることができ、特に生細胞の蛍光色素としてより好ましく用いることができる。換言すると、本発明は、上記一般式(1)で表されるワープドナノグラフェン化合物を含む、蛍光色素を包含する。
具体的には、本発明の蛍光色素は、生体細胞のバイオイメージング材料(特に、生体細胞のライブイメージング材料)として使用することも可能である。本発明の蛍光色素は長寿命であることから、例えば時間依存性細胞イメージング材料として有望である。また、本発明の蛍光色素は、エンドサイトーシスによって取り込まれリソソーム内に特異的に蓄積することから、リソソームの可視化のための蛍光色素(細胞リソソームイメージング材料)としても好ましく用いることができる。
なお、細胞(HeLa細胞等)に光照射を繰り返すことにより、細胞死に至らしめることが可能である。本発明の蛍光色素がリソソーム内に特異的に蓄積しつつ耐光性に優れる特徴を生かして、光照射後に本発明の蛍光色素を用いて観察し続けることにより、細胞の光誘導死へ向かう挙動をリアルタイムで観察することが可能である。例えば、本発明の蛍光色素と、死細胞の核酸染色色素(ヨウ化プロピジウム等)とを併用して、450〜550nm程度の波長の光を照射し続けた後、550〜700nm程度の範囲の蛍光イメージを観察し続けることにより、細胞死に向かう挙動を観察することが可能である。このことから、本発明の蛍光色素を、癌細胞等の特定の細胞を対象とした光線力学的治療法又は光熱療法の材料(光線力学的治療又は診断剤、光熱治療又は診断剤)として使用することも期待できる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
特に制約しない限り、乾燥溶媒を含む全ての材料は、市販品を精製せずに使用した。また、ジクロロメタン(CHCl)は、有機溶媒精製装置(Glass Counter社)を用いて精製を行い、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)は東京化成工業(株)から購入し、使用前にクロロホルムを用いて再結晶を行った。全ての反応は、標準的な真空ライン技法及びシュレンク技法を用いて行った。全ての後処理及び精製手順は、空気中で試薬グレードの溶媒を用いて行った。
1,3,5,7,9-ペンタキス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)コラニュレン(化合物1)は既報(J. Am. Chem. Soc. 134, 15169-15172.)に従い合成した。2-(2-ブロモ-5-(tert-ブチル)フェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(化合物2)は既報(J. Org. Chem. 71, 9080-9087.)に従い合成した。化合物6は既報(J. Am. Chem. Soc. 130, 8886-8887.)に従い合成した。
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)は、E.Merckシリカゲル60 F254プレコートプレート(0.25mm)を用いて行った。得られたクロマトグラムは、UVランプ(254nm)で分析した。フラッシュカラムクロマトグラフィーは、E.Merckシリカゲル60(230−400メッシュ)を用いて行った。紫外可視近赤外(UV−visible−NIR)スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(Shimadzu社;UV−3600)を用いて測定した。CV測定は、電気化学アナライザー(BAS社;ALS−600D)を用いて測定した。蛍光スペクトルは、分光計(JASCO社;FP−6600)を用いて測定した。高分解能質量スペクトル(HRMS)は、Burker Daltonics Ultraflex III TOF/TOF(MALDI−TOF−MS)で行った。融点は、MPA100型融点測定装置(Optimelt)を用いて測定した。分取サイクルゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、溶離液としてクロロホルムを用いてJAIGEL−1H/JAIGEL−2Hカラムを備えたJAI LC−9260 II NEXTを用いて行った。
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、UltraCool probe(H 600MHz、13C 150MHz)を備えたJEOL ECA 600II分光計、又はUltraCool probe(H 500MHz、13C 125MHz)を備えたJEOL ECA 500分光計で記録した。H NMRの化学シフトは、CHCl(δ 7.26ppm)、CHDCl(δ 5.98ppm)、及びCHDCl(δ 5.32ppm)の相対的な百万分率(ppm)で表した。13C NMRの化学シフトは、CDCl(δ 77.0ppm)、CCl(δ 73.8ppm)、及びCDCl(δ 53.8ppm)の相対的な百万分率(ppm)で表した。データは、化学シフト、多重度(s=シングレット,d=ダブレット,t=トリプレット,dt=ダブルトリプレット,m=マルチプレット)、カップリング定数(Hz)、及び積分の順に表記する。
合成例:ワープドナノグラフェン化合物の合成
本合成例1〜7では、各種ワープドナノグラフェン化合物(化合物7及び9)の合成を行った。
合成例1:化合物2の合成
本合成例1におけるスキームを下記に示す。
DMF(30mL)中のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム−(Pd(PPh)(1.00g,890μmol,10mol%)の溶液に、2−(2−ブロモ−5−(tert−ブチル)フェニル)−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(3.00g,8.90mmol,1.0当量)、ヨードベンゼン(3.62g,17.8mmol,2.0当量)、及びKCO(2.45g,17.80mmol,2.0当量)を加え、得られた混合物をアルゴン下、100℃で24時間撹拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、混合物を酢酸エチルで抽出し、一体化された有機層をMgSOで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製することにより、無色油状の化合物2(2.49g,収率97%)を得た。
合成例2:化合物3の合成
本合成例2におけるスキームを下記に示す。
トルエン(20mL)中の、トリス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム−クロロホルム(Pd(dba)・CHCl)(223mg,220μmol,20mol%)及び2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(SPhos)(180mg,430μmol,40mol%)の溶液に、化合物1(950mg,10.8mmol,1.0当量)、化合物2(2.49g,8.63mmol,8.0当量)及びCsCO(3.52g,10.8mmol,10当量)水溶液(5mL)を加え、得られた混合物をアルゴン下、80℃で24時間撹拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、混合物をジクロロメタンで抽出し、一体化された有機層をMgSOで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/クロロホルム=8:1〜4:1)で精製することにより、無色固体の化合物3(1.37g,収率98%)を得た。
合成例3:化合物4の合成
本合成例3におけるスキームを下記に示す。
乾燥ジクロロメタン(116mL)中の化合物3(840mg,650μmol,1.0当量)の溶液に、0℃でDDQ(1.62g,7.14mmol,11当量)を加えて5分間撹拌した後、トリフルオロメタンスルホン酸(13.2mL)を加え、0℃で90分間撹拌した。得られた混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した後、ジクロロメタンで抽出し、一体化された有機層をMgSOで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物にクロロホルムを加えて溶解させ、得られた溶液を分取TLCプレートに供した。分取TLCはヘキサン:クロロホルム(4:1)で展開することにより、橙色固体の化合物4(420mg,収率50%)を得た。
合成例4:化合物5の合成
本合成例4におけるスキームを下記に示す。
乾燥THF(1.0mL)中の化合物4(150mg,118μmol,1.0当量)の溶液に、ビス(ピナコラト)ジボロン(Bpin)(300mg,1.18mmol,10当量)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ジ−μ−メトキシジイリジウム(I)([Ir(OMe)cod])(16.0mg,24.0μmol,20mol%)、及び4,4’−ジ−tert−ブチル−2,2’−ビピリジン(13.0mg,48.0μmol,40mol%)を加え、得られた混合物をアルゴン下、80℃で3日間撹拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、混合物を酢酸エチルで抽出し、一体化された有機層をMgSOで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物をGPCで精製し、橙色固体の化合物5(170mg,収率76%)を得た。
合成例5:ワープドナノグラフェン化合物(化合物7)の合成
本合成例5におけるスキームを下記に示す。
トルエン(2.0mL)中の、Pd(dba)・CHCl(10.4mg,10.4μmol,20mol%)及びSPhos(8.6mg,20.8μmol,40mol%)の溶液に、化合物5(100.0mg,52.0μmol,1.0当量)、化合物6(408mg,520.0μmol,10当量)、及び水(1.0mL)中のCsCO(170.0mg,520μmol,10当量)の溶液を加え、得られた混合物をアルゴン下、80℃で36時間撹拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、混合物をトルエンで抽出し、一体化された有機層をNaSOで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物を逆相シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:アセトン:水=2:1〜4:1)で精製することにより、淡黄色油状の化合物7(177.0mg,収率72%)を得た。
疎水性多環芳香族コアに15個の親水性テトラエチレングリコール基を導入した化合物7は、非極性溶媒(トルエン、クロロホルム、ジエチルエーテル等)、極性非プロトン溶媒(酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等)、極性プロトン溶媒(メタノール、水等)等の様々な溶媒に容易に溶解させることができた。
合成例6:ワープドナノグラフェン化合物(化合物9)の合成
本合成例6におけるスキームを下記に示す。
化合物5(40.0mg,0.021mmol,1.0当量)の乾燥THF溶液(6.0mL)に、オキソン(130.0mg,0.211mmol,10当量)の脱気溶液(アセトン0.8mL及び水0.4mL)を加え、得られた混合物をアルゴン下、室温で3時間撹拌した。当該混合物を0℃に冷却し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を滴下添加した後、ジクロロメタンで抽出し、一体化された有機層をNaSOで乾燥した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物にTHFを加えて溶解させ、得られた溶液を分取TLCプレートに供した。分取TLCはヘキサン:酢酸エチル(1:1)で展開することにより、暗赤色固体の化合物9(25mg,収率88%)を得た。
合成例7:化合物8の合成
本合成7におけるスキームを下記に示す。なお、本合成例7において用いたワープドナノグラフェン(WNG)は既報(Nat.Chem.,2013,5,739−744;非特許文献1)に従って合成したものである。
WNG(9.91mg,0.01mmol,1.0当量)の乾燥メシチレン溶液(1.0mL)に、Bpin(38.1mg,0.150mmol,15当量)、[Ir(OMe)COD](6.6mg,0.010mmol,1.0当量)、及び4,4’−ジ−tert−ブチル−2,2’−ビピリジン(5.37mg,0.020mmol,2.0当量)を加え、得られた混合物をアルゴン下、100℃で5日間撹拌した。当該混合物を室温まで冷却した後、混合物をクロロホルムで希釈し、クロロホルムでショートパスシリカゲルクロマトグラフィーを行い、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物をGPC(溶離液:クロロホルム)で精製することにより、橙色固体の化合物8(0.014g,収率62%)を得た。得られた化合物8を用いれば、公知のカップリング反応(例えば鈴木−宮浦カップリング等)により、最大で10個の親水基を導入することも可能である。これにより、化合物7よりも多くの親水基を導入し、水溶性をさらに高めることも期待される。
実験例:X線結晶解析
化合物4及び5の結晶データの詳細及び強度データ収集パラメータを表1に示す。また、各化合物の熱振動楕円体作画ソフト(ORTEP)による、存在率50%によるX線結晶構造を図1〜2に示す。いずれの場合も、適切な結晶をガラスファイバー上にミネラルオイルを用いてマウントし、Rigaku PILATUS diffractometerのゴニオメーターに移した。黒鉛単色化MoKα線を使用した。構造は、(SIR-97)(J. Appl. Crystallogr. 32, 115-119.)を用いた直接法によって決定し、Yadokari-XGプログラム(Software for Crystal Structure Analyses, 2001)を用いてF2(SHELXL-2014/3)(Acta Crystallogr., Sect. A 64, 112-122.)に対するフルマトリックス最小二乗法により精密化した。強度はローレンツ及び分極効果について補正した。非水素原子は異方性的に精密化した。AFIX instructionsを使用して水素原子を配置した。
実施例1:MALDI−TOFMS用マトリックスとしての利用
上記合成例5で得られたワープドナノグラフェン化合物(化合物7)を水に溶かし(0.1mg/mL)、生体分子として、グルコース水溶液(100μM〜10mM)又はスクロース水溶液(100μM〜10mM)と1:2(マトリックス:生体分子)で混合して測定用プレートに塗布し、自然乾燥させた後測定を行った。測定には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS;ABSCIEX社製)を用いた。なお、比較として、マトリックスなし、及びMALDI−TOFMS用マトリックスとして汎用されている2,5−ジヒドロキシ安息香酸30%エタノール水溶液(DHB,10mg/mL)を用いた。
以上の結果、マトリックスを用いなかった群では、グルコース又はスクロース由来のピークが確認されなかった。一方、マトリックスとして化合物7を用いた群、及びDHBを用いた群では、グルコース又はスクロース由来のピークが確認された。マトリックスとして化合物7を用いた群の結果を図3(グルコース)及び図4(スクロース)に、マトリックスとしてDHBを用いた群の結果を図5(グルコース)及び図6(スクロース)にそれぞれ示す。
図3〜6から、化合物7を用いた群では、DHBを用いた群と共に、100μMまでグルコース及びスクロース由来のピーク(ナトリウムイオン付加体、グルコース:203.0Da、スクロース:365.1Da)を検出することができることが分かった。
図3及び4と図5及び6とを比較すると、DHBを用いた群では、グルコース又はスクロース由来のピークの他に、マトリックス由来と考えられるピークが比較的高い強度で確認されたのに対して、化合物7を用いた群では、マトリックス由来と考えられるピークはほとんど確認されず、目的とするグルコース又はスクロース由来のピークが高い強度で確認された。なお、図4及び6において200m/z付近に確認されるピークはスクロースの分解で生じたグルコース由来のピークであると推測される。
次に、上記合成例5で得られたワープドナノグラフェン化合物(化合物7)を水に溶かし(0.1mg/mL)、生体分子として、MRFAの0.1%トリフルオロ酢酸溶液(MRFA、5mM)と1:1(マトリックス:生体分子)で混合して測定用プレートに塗布し、自然乾燥させた後測定を行った。なお、比較として、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸0.1%トリフルオロ酢酸含有50%アセトニトリル水溶液(CHCA 10mg/mL)を用いた。測定には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS;ABSCIEX社製)を用いた。この結果、化合物7は一般的に使用されるマトリックスCHCAとともに、MRFAのピーク(プロトン付加体、524.3Da;1ナトリウムイオン付加体、546.3Da;2ナトリウムイオン付加体、568.3Da)を検出した。結果を図7に示す。
次に、上記合成例5で得られたワープドナノグラフェン化合物(化合物7)を0.1%トリフルオロ酢酸含有50%アセトニトリル水溶液に溶かし(0.1mg/mL)、生体分子として、カフェインの50%アセトニトリル水溶液(カフェイン、1μM〜5mM)と1:1(マトリックス:生体分子)で混合して測定用プレートに塗布し、自然乾燥させた後測定を行った。なお、比較として、2,5−ジヒドロキシ安息香酸0.1%トリフルオロ酢酸含有50%アセトニトリル水溶液(DHB,10mg/mL)を用いた。測定には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS;ABSCIEX社製)を用いた。この結果、化合物7は一般的に使用されるマトリックスDHBとともに、1μMまでカフェインのピーク(プロトン付加体、195.1Da)を検出した。結果を図8に示す。
次に、上記合成例5で得られたワープドナノグラフェン化合物(化合物7)を水に溶かし(0.1mg/mL)、生体分子として、GlcNAc水溶液(GlcNAc、1mM)と1:1(マトリックス:生体分子)で混合して測定用プレートに塗布し、自然乾燥させた後測定を行った。なお、比較として、2,5−ジヒドロキシ安息香酸30%エタノール水溶液(DHB,10mg/mL)を用いた。測定には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS;ABSCIEX社製)を用いた。この結果、化合物7は一般的に使用されるマトリックスDHBとともに、GlcNAc由来のピーク(ナトリウムイオン付加体、244.1Da)を検出した。結果を図9に示す。
以上の結果から、本発明のワープドナノグラフェン化合物は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析用マトリックスとして有用であることが分かった。さらに、従来のマトリックスと比較して、マトリックス由来の夾雑物イオンピークが低減された測定結果を得ることができることが分かった。
実施例2:光物性
[吸収及び蛍光特性]
全ての測定には、1cm四方の石英セル内の脱気スペクトルグレードのジクロロメタン中の希釈溶液を使用した。UV−vis吸収スペクトルを、0.5nmの分解能を有するShimadzu UV-3510 spectrometerで記録した。蛍光スペクトルは、F-4500 Hitachi spectrometer又はShimadzu RF-6000を用いて0.4nmの分解能で測定した。絶対蛍光量子収量(Φ)は、較正積分球システム(207-21460-41)を備えたShimadzu RF-6000を用いて測定した。
[蛍光寿命特性]
光源は、200fsのパルス持続時間及び200kHzの繰り返し速度を有する再生増幅モード同期Ti:サファイアレーザーに基づく波長可変光パラメトリック増幅器を用いた。励起波長は、吸収ピーク波長の1つに対応する435nmに調整した。放出された光子は、アバランシェフォトダイオード(SPD-050-CTE-N1;MPD)を有する単一のモノクロメーターを用いて検出した。検出波長は、各サンプルについて蛍光ピーク波長に調整した。各光子到着時間は、時間相関単一光子計数板(SPC-130EM-N1;Becker&Hickl GmbH)を用いて記録した。
[Taylor分散解析]
Taylor分散解析は、Viscosizer TD(Malvern Instruments Ltd.)によって行った。各試料溶液(50μM)を50mbarで負荷し、280mbarでフラッシュした。サンプルは214nmのUV吸収により検出した。水中の化合物7の他、1,1,2,2-テトラクロロエタン(TCE)中の化合物7及び4も比較実験として測定した。
[結果]
化合物4及び両親媒性化合物7のUV−vis吸収及び蛍光特性を図10に示す。ワープドナノグラフェン化合物である化合物4及び7は、CHCl中では非常に類似の吸収および発光スペクトルを有していた(図10a)。化合物4及び7の吸収極大波長は、それぞれ421nm及び433nmであり、蛍光極大波長は、それぞれ508nm及び528nmであった。化合物7の吸収及び蛍光ピーク波長は、π骨格の拡張に起因して、化合物4よりもわずかに長波長シフトした。また、化合物7の蛍光量子収率(Φ=0.37)は、化合物4(Φ=0.22)より高かった。化合物7の陽性ソルバトフルオロクロミック挙動(Chem. Rev. 94, 2319-2358 (1994).)も観察された(図11)。すなわち、蛍光スペクトルはE(30)値(図12)の良好な相関で、溶媒の極性に依存して長波長領域にシフトした(図11においてトルエン<ジクロロメタン<アセトニトリル)が、吸収スペクトルは溶媒の違いによっては変化しなかった。化合物7の水溶液は、吸収スペクトルのピークがブロードになり、蛍光スペクトルは長波長シフトして黄色を呈した(図10b)。テイラー分散解析(図13)の結果から、水中ではナノ粒子(直径約5nm)の形成が観察されたので、化合物7が凝集することが示唆されており、図10及び11において水中の吸収スペクトルにおけるピークがブロード化していることと合致している。特に、化合物7は水中で長い蛍光寿命を有していた(τ=10.0ns)。時間依存性細胞イメージングの際には、蛍光色素は、細胞からの自己蛍光を排除するために長寿命を有することが必須である(Chem. Rev. 110, 2641-2684 (2010).)が、この寿命の値は、時間依存性細胞イメージングへの適用に有望である。
450±10nmのバンドパスフィルターを用いてXeランプ(300W)で2時間照射して光安定性を評価した。化合物7と同様に、430nmで極大吸収を示し、541nmで極大蛍光を示すAlexa 430を、比較色素として選択した。照射後、化合物7は、水中において光照射に対して優れた耐性を示し、吸収強度は初期値の83%を維持していた(図14a)。対照的に、Alexa 430色素の場合は吸収強度は初期値の48%に過ぎなかった。ワープドナノグラフェンの光安定性に対する官能化の影響を評価するため、化合物4及び7の光安定性もジクロロメタン中で評価した。2時間の照射後、化合物4及び7の双方が光退色に対して優れた耐性を示し、吸収強度は初期値の90%以上を維持していた(図14b)。
実施例3:生物実験
[細胞培養]
10%ウシ胎仔血清(FBS,Sigma)を含むDulbecco's modified Eagle's medium(DMEM,Wako)中、5%CO/95%空気インキュベーター内で37℃で、HeLa細胞(RIKEN Cell Bank,Japan)を6ウェルプレートに播種した。
[細胞生存率アッセイ]
培養培地(10%FBSを含むDMEM)中のHeLa細胞を平底96ウェルプレート(1×10細胞/ウェル)上で24時間培養した。培地を、種々の濃度(1μM、5μM又は10μM)の水溶性ワープドナノグラフェン(化合物7)を含有する培地で置き換え、細胞をさらに24時間インキュベートした。培地を除去した後、0.5mg/mLのMTT試薬を各ウェルに添加し、プレートをCOインキュベーター中で、さらに37℃で4時間インキュベートした。ホルマザン結晶を5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む5mM HClに可溶化し、プレートをCOインキュベーター中で、37℃で一晩培養した。各ウェルの吸光度をEnSpire multimode plate reader(PerkinElmer)により560nmで測定した。
[細胞染色及び蛍光イメージング]
化合物7によるHeLa細胞の染色実験の際には、イメージングの1日前にガラス底8ウェルスライド上に細胞(2×10細胞/ウェル)を移した。HeLa細胞を0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有するDMEM中5μMの化合物7とともに、37℃又は4℃で5時間インキュベートし、次いで10mM HEPES(pH7.4)を含むDMEMで3回リンスした。リソソーム染色には、pHベースの蛍光色素であるLysoTracker Red DND-99(Thermo Fisher Scientific)も100nMの濃度で使用した。蛍光イメージングには、LD C-Apochromat 40×/ 1.10NA対物レンズを備えた共焦点レーザー走査型顕微鏡(LSM780,Zeiss)を用いた。化合物7及びLysoTracker Red DND-99染色細胞を488レーザーラインで励起し、その蛍光スペクトルを490nm〜693nmの範囲で記録した。化合物7、LysoTracker Red DND-99及び細胞自己蛍光の参照スペクトルを使用して線形非混合イメージを取得した。
[結果]
上記で検討した化合物7の基本的な物性、つまり、水及びジメチルスルホキシド中での良好な溶解性、長い蛍光寿命を伴う適度な蛍光量子収率及び優れた光安定性の結果から、化合物7は蛍光色素としてバイオイメージングに適用可能であることを示している。生体サンプルに使用する前に、化合物7の生体適合性をHeLa細胞でMTTアッセイによって評価した。細胞生存率は、10μMの化合物7で24時間処理しても有意に影響しなかった(図15)。これは、化合物7は細胞毒性が低いことを意味する。その後、さらに、化合物7を用いて生存しているHeLa細胞のイメージングを行った。培養細胞とともに5時間インキュベートした後、化合物7は細胞内のリソソームと思われる領域に選択的に蓄積し、緑色の蛍光を発した。リソソームは酸性オルガネラとして知られ、低pHを利用したリソソーム標識化プローブが市販されている。その一つであるLysotracker red DND-99と化合物7を用いて共染色したところ、蛍光シグナルが重なる領域がみられた(図16a〜c)。このことから、化合物7はリソソームに局在することが示唆された。
これらの結果から、化合物7がリソソームに特異的であり、細胞リソソームイメージング用蛍光プローブ(細胞リソソームイメージング材料)として有用であることを示唆している。細胞の共染色実験中、化合物7の細胞摂取が遅いことを見出した。化合物7の取り込み速度が遅いことは、大きな分子構造及び内在化機構に起因する。大きな分子構造を考慮すると、エンドサイトーシスによって化合物7が取り込まれ得る可能性がある。低温ではエンドサイトーシス経路が減少することが知られているので、化合物7の取り込み経路を同定するため、化合物7及びLysotracker redを4℃で共染色した。蛍光イメージングの結果から、化合物7がリソソームに取り込まれておらず、LysoTracker redのみが細胞内に存在することが理解できる(図16d〜f)。この結果は、化合物7がエンドサイトーシスによってリソソームに取り込まれることを示唆している。

Claims (7)

  1. 一般式(1):
    [一般式(1)中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。Rの少なくとも1つは親水基である。R’は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。nは同一又は異なって、0〜2の整数を示す。]
    で表される水溶性ワープドナノグラフェン化合物。
  2. 前記一般式(1)において、R’がいずれも水素原子である、請求項1に記載のワープドナノグラフェン化合物。
  3. 前記一般式(1)において、Rがいずれも親水基である、請求項1又は2に記載のワープドナノグラフェン化合物。
  4. 前記一般式(1)において、Rのうち5個が親水基であり、他の5個が親水基以外の基である、請求項1又は2に記載のワープドナノグラフェン化合物。
  5. 前記一般式(1)において、Rのうち1個が親水基であり、他の9個が親水基以外の基である、請求項1又は2に記載のワープドナノグラフェン化合物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のワープドナノグラフェン化合物を含む、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析用マトリックス。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載のワープドナノグラフェン化合物を含む、蛍光色素。
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