以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による表面実装型のコモンモードフィルタ10の外観構造を示す略斜視図である。また、図2(a)〜(d)は、後述する板状コア12を剥がした状態のコモンモードフィルタ10を、xz平面(y方向と垂直な平面)内の4方向それぞれから見た場合の平面図である。なお、本実施の形態では、図1に示すように、後述する一対の鍔部11b,11cの対向方向をy方向、後述する上面11bs,11csの面内でy方向と垂直な方向をx方向、x方向とy方向の両方に垂直な方向をz方向と称する。
図1に示すように、コモンモードフィルタ10は、ドラムコア11と、ドラムコア11に取り付けられた板状コア12と、ドラムコア11に巻回されたワイヤW1,W2(第1及び第2のワイヤ)とを備えて構成される。ドラムコア11は、断面が矩形である棒状の巻芯部11aと、巻芯部11aの両端に設けられた鍔部11b,11cとを備え、これらが一体化された構造を有している。ドラムコア11は基板上に設置して用いるものであり、巻芯部11aの上面11as、及び、鍔部11b,11cの上面11bs,11csを基板に対向させた状態で該基板に貼り付けられる。板状コア12は、鍔部11b,11cの下面(上面11bs,11csの反対側の面)と固着している。
ドラムコア11及び板状コア12は、比較的透磁率の高い磁性材料、例えばNi−Zn系フェライトやMn−Zn系フェライトの焼結体によって構成される。なお、Mn−Zn系フェライトなどの透磁率の高い磁性材料は、固有抵抗が低く導電性を有しているのが通常である。
鍔部11bの上面11bsには2つの端子電極E1,E2が形成されており、鍔部11cの上面11csには2つの端子電極E3,E4が形成されている。端子電極E1,E2は、x方向の一端側からこの順で配置される。同様に、端子電極E3,E4も、x方向の一端側からこの順で配置される。端子電極E1〜E4には、ワイヤW1,W2の各端部が熱圧着により継線される。
ワイヤW1,W2は被覆導線であり、巻芯部11aに互いに同一の巻回方向で巻回されてコイル導体を構成する。ワイヤW1,W2のターン数も互いに同一である。本実施の形態では、ワイヤW1,W2は2層構造のレイヤ巻きによって巻回される。また、巻芯部11aの中ほどに位置する隣接ターン間にスペースが設けられ、これによってスペース対応部S1が構成される。この点については、後ほど再度詳しく説明する。スペース対応部S1以外の部分は、隣接ターン同士が密着して巻回されている。ワイヤW1の一端(鍔部11b側の端部)W1a,他端(鍔部11c側の端部)W1bはそれぞれ端子電極E1,E3に継線される。また、ワイヤW2の一端(鍔部11b側の端部)W2a,他端(鍔部11c側の端部)W2bはそれぞれ端子電極E2,E4に継線される。
図3は、コモンモードフィルタ10によって実現される電気回路の回路図である。同図に示すように、コモンモードフィルタ10は、端子電極E1とE3の間に接続されるインダクタI1と、端子電極E2とE4の間に接続されるインダクタI2とが、互いに磁気結合した構成を有している。インダクタI1,I2は、それぞれワイヤW1,W2によって構成される。この構成により、端子電極E1,E2を入力端、端子電極E3,E4を出力端とした場合、入力端から入力されたディファレンシャル信号は、コモンモードフィルタ10によってほとんど影響を受けず、出力端から出力される。一方、入力端から入力されたコモンモードノイズは、コモンモードフィルタ10によって大きく減衰し、出力端へはほとんど出力されないこととなる。
ここで、コモンモードフィルタは一般に、コモンモードフィルタの入力端に入力されたディファレンシャル信号の一部を、コモンモードノイズに変換して出力端から出力してしまう、という性質を有している。この性質はもちろん望ましいものではないので、コモンモードノイズに変換されるディファレンシャル信号の割合(上述したモード変換特性Scd)をある程度以下の値に抑えることが必要とされる。また、これとは別に、コモンモードフィルタには、できるだけ巻回数を多くすることが必要とされる。小さなサイズで必要なインダクタンスを得るためである。本実施の形態によるコモンモードフィルタ10では、スペース対応部S1を設けて異ターン間容量を低減する一方、その他の部分ではワイヤW1,W2を密に巻回することにより、この2つの課題を同時に解決している。以下、詳しく説明する。
図4は、コモンモードフィルタ10におけるワイヤW1,W2の巻回状態を示す模式図である。同図に示す各構成のうち、ワイヤW1,W2及び巻芯部11aにかかる部分は、図2(b)及び図2(d)に示したA−A線における断面図となっている。また、鍔部11b,11cにかかる部分は、図2(a)にも示した上面図となっている。
図4に示した各ワイヤW1,W2内の数字は、鍔部11b側の端からそれぞれのターン数を数えた場合のターンの順番(ターン番号)である。同図の例では、ターン番号の最大値が11となっているが、実際には40ターン程度である。同図では、図面の見易さを優先して、後述する密巻回部内におけるワイヤW1,W2の巻回数を大幅に省略している。また、図4には、ワイヤW1,W2と端子電極E1〜E4との接続関係を、模式的に太い直線で示している。これらの点は、後掲する他の図面でも同様である。
図4に示すように、本実施の形態によるワイヤW1,W2は、隣接ターン間にスペースを空けて巻回された第1のスペース対応部S1と、それぞれ隣接ターン同士が密着して巻回された第1及び第2の密巻回部D1,D2とを有している。これらは、鍔部11bから鍔部11cにかけて、第1の密巻回部D1、第1のスペース対応部S1、第2の密巻回部D2の順に配置される。第1の密巻回部D1にはターン番号1〜5、第1のスペース対応部S1にはターン番号6、第2の密巻回部D2にはターン番号7〜11のワイヤW1,W2がそれぞれ含まれる。
なお、本実施の形態では第1のスペース対応部S1内に1ターン分のワイヤW1,W2(ターン番号6)が含まれているが、必ずしも第1のスペース対応部S1内にワイヤW1,W2を含めなければならないわけではない。この点は、後述する他の実施の形態でも同様である。
このように第1のスペース対応部S1を設けたことで、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10では、スペース対応部を全く設けない場合に比べてワイヤW1,W2における異ターン間容量を低減することが可能になる。したがって、モード変換特性も低減される。一方で、第1及び第2の密巻回部D1,D2を設けたので、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10では、すべてのペア線間にスペースを設ける場合に比べて高いインダクタンスを得ることが可能になる。
図5(a)(b)は、図4に示したワイヤW1,W2の巻回方法を説明するための図である。なお、図5(a)(b)に示したワイヤ断面を結ぶ直線及び破線はそれぞれ、巻芯部11aの図面手前側にあるワイヤ、巻芯部11aの図面奥側にあるワイヤを模式的に示したものである。以下、この図5(a)(b)を参照しながら、第1及び第2の密巻回部D1,D2及び第1のスペース対応部S1を有するワイヤW1,W2の巻き方について、簡単に説明する。
巻芯部11aへのワイヤW1,W2の巻回は、図示しない自動巻線機を用いて行う。この自動巻線機として具体的には、例えば特許文献3に開示されている自動巻線機を用いることが好適である。以下、特許文献3に開示されている自動巻線機を用いることを前提として説明すると、ワイヤW1,W2を巻回するにあたっては、まず初めに1層目のワイヤW2の一端を端子電極E2に継線した後、ドラムコア11をy方向を回転軸として一定速度で回転させながら、ワイヤW2を繰り出すノズルをy方向に移動させる(図5(a))。このとき、第1及び第2の密巻回部D1,D2にあたる部分では、隣接ターン間に隙間ができないようにノズルの移動速度を調節する。一方、第1のスペース対応部S1にあたる部分では、隣接ターン間に適切な大きさのスペースが空くようにノズルの移動速度を調節する。移動速度は、隙間ができないように巻回するときに最も小さく、形成するスペースが大きいほど大きくなる。第1及び第2の密巻回部D1,D2におけるノズルの移動速度は一定とする必要があるが、第1のスペース対応部S1におけるノズルの移動速度は必ずしも一定でなくともよい。巻回が終了したら、ドラムコア11の回転を止め、ワイヤW2の他端を端子電極E4に継線する。
次に、2層目のワイヤW1の一端を端子電極E1に継線した後、再度ドラムコア11を一定速度で回転させながら、ワイヤW1を繰り出すノズルをy方向に移動させる(図5(b))。このとき、第1及び第2の密巻回部D1,D2にあたる部分では、ワイヤW1がワイヤW2の間にちょうどはまるよう、ノズルの移動速度を調節する。ただし、図5(b)にも示すように、第1及び第2の密巻回部D1,D2のいずれについても、ワイヤW1の巻回数とワイヤW2の巻回数が互いに同数であることから、一方の端部ではワイヤW1が1層目に落下することになる。図5(b)では、それぞれ第1及び第2の密巻回部D1,D2の鍔部11b側の端部に位置するターン番号1,7のワイヤW1が、1層目に落下している。一方、第1のスペース対応部S1にあたる部分では、ワイヤW1がワイヤW2に沿って巻回されるよう、ノズルの移動速度を調節する。つまり、第1のスペース対応部S1内においては、ワイヤW1,W2の位置関係はバイファイラ巻きした場合と同じになる。巻回が終了したら、ドラムコア11の回転を止め、ワイヤW1の他端を端子電極E3に継線する。以上の手順により、巻芯部11aへのワイヤW1,W2の巻回が完了する。
図4に戻る。同図に示すように、ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が互いに同じとなるよう巻回される。別の言い方をすれば、ワイヤW1,W2は、巻芯部10のy方向中央部を中心として、鍔部11b側に巻回されたワイヤW1,W2と、鍔部11c側に巻回されたワイヤW1,W2とが対称となるよう巻回される。具体的に説明すると、鍔部11bから数えたターン数によれば、第1のスペース対応部S1は5番目のターンと7番目のターンとの間に配置される。一方、鍔部11cから数えたターン数によっても、同様に、第1のスペース対応部S1は5番目のターンと7番目のターンとの間に配置されている。
ターン数と第1のスペース対応部S1の配置との関係をこのように設定することにより、端子電極E1,E2を入力端として利用する場合と端子電極E3,E4を入力端として利用する場合とで、ほぼ同じ特性が期待できることになる。したがって、コモンモードフィルタ10を基板上に設置する際に、どちらの鍔部が端子電極E1,E2に対応しているのか、などを気にする必要がなくなる(搭載の方向性が低減される)ので、設置作業の負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。
なお、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係は、完全に互いに同じてなくとも、実質的に互いに同じであればよい。「実質的に互いに同じ」とは、現実的な観点から搭載の方向性が十分に低減される程度の差は許容されるということを意味する。例えば、全体のターン数が40ターンとなる場合、図4に示すように第1のスペース対応部S1内に1ターン分配置するのであれば、第1及び第2の密巻回部D1,D2のうちの一方を19ターン、他方を20ターンとせざるを得ない。この場合、ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が完全に互いに同じとなるよう巻回されてはいないが、現実的な観点からは、搭載の方向性が十分に低減される。したがって、この場合、ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が実質的に互いに同じとなるよう巻回されていると言える。以上の点は、後述する他の実施の形態や、「鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数と落下位置との関係」についても同様である。
以上説明したように、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10によれば、第1のスペース対応部S1を設け、かつ第1及び第2の密巻回部D1,D2を設けたので、モード変換特性の低減と、高いインピーダンスの確保とを両立できる。また、コモンモードフィルタ10の搭載の方向性を低減できるので、基板上に設置する際の作業負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。また、レイヤ巻きを採用しているので、バイファイラ巻きを採用する場合に比べて巻回数を増やすことが可能になる。
図6は、図4に示したワイヤW1,W2の巻回状態の変形例を示す模式図である。同図の例では、第2の密巻回部D2において、鍔部11b側の端部に位置するターン番号7のワイヤW1ではなく、鍔部11c側の端部に位置するターン番号11のワイヤW1が1層目に落下するように、ワイヤW1,W2を巻回している。こうすることで、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数と落下位置との関係が同じになるので、コモンモードフィルタ10の方向性をさらに低減することが可能になる。
図7は、本発明の第2の実施の形態によるコモンモードフィルタ10におけるワイヤW1,W2の巻回状態を示す模式図である。本実施の形態によるコモンモードフィルタ10は、ワイヤW1,W2の巻回態様の点で異なる他は、第1の実施の形態によるコモンモードフィルタ10と同一である。図7では、図4と同様、ワイヤW1,W2及び巻芯部11aにかかる部分が図2(b)及び図2(d)に示したA−A線に対応する断面図となっており、鍔部11b,11cにかかる部分が図2(a)に対応する上面図となっている。以下、相違点に着目して説明する。
本実施の形態によるワイヤW1,W2は、図7に示すように、それぞれ隣接ターン間にスペースを空けて巻回された第1及び第2のスペース対応部S1,S2と、それぞれ隣接ターン同士が密着して巻回された第1乃至第3の密巻回部D1〜D3とを有している。これらは、鍔部11bから鍔部11cにかけて、第2の密巻回部D2、第1のスペース対応部S1、第1の密巻回部D1、第2のスペース対応部S2、第3の密巻回部D3の順に配置される。第2の密巻回部D2にはターン番号1〜3、第1のスペース対応部S1にはターン番号4、第1の密巻回部D1にはターン番号5〜7、第2のスペース対応部S2にはターン番号8、第3の密巻回部D3にはターン番号9〜11のワイヤW1,W2がそれぞれ含まれる。なお、第2及び第3の密巻回部D2,D3は必ずしも設けなくてもよく、1ターン分のワイヤW1,W2によりこれらを代替してもよい。
このように第1及び第2のスペース対応部S1,S2を設けたことで、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10でも、スペース対応部を全く設けない場合に比べてワイヤW1,W2における異ターン間容量を低減することが可能になる。したがって、モード変換特性も低減される。また、第1乃至第3の密巻回部D1〜D3を設けたので、すべてのペア線間にスペースを設ける場合に比べて高いインダクタンスを得ることも可能になる。
また、本実施の形態においても、ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が互いに同じとなるよう巻回される。具体的に説明すると、鍔部11bから数えたターン数、鍔部11cから数えたターン数のいずれによっても、スペース対応部は3番目のターンと5番目のターンとの間、及び7番目のターンと9番目のターンとの間に配置される。したがって、第1の実施の形態と同様、搭載の方向性を低減することができ、設置作業の負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。
以上説明したように、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10によっても、モード変換特性の低減と、高いインピーダンスの確保とを両立できる。また、コモンモードフィルタ10の搭載の方向性を低減できるので、基板上に設置する際の作業負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。また、レイヤ巻きを採用しているので、バイファイラ巻きを採用する場合に比べて巻回数を増やすことが可能になる。
また、本実施の形態では、第1の実施の形態に比べるとスペースが鍔部11b,11c寄りに形成されることになるが、モード変換特性の低減効果は、スペースの位置が鍔部11b,11cに近いほど大きく得られる。したがって、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10によれば、第1の実施の形態に比べ、より効率よく(より狭いスペースで)モード変換特性の低減効果を得ることが可能になる。
図8は、図7に示したワイヤW1,W2の巻回状態の変形例を示す模式図である。図7の例では、それぞれ第1乃至第3の密巻回部D1〜D3の鍔部11b側の端部に位置するターン番号1,5,9のワイヤW1が1層目に落下していたが、図8に示す本変形例では、第2及び第3の密巻回部D2,D3に関して、鍔部11c側の端部に位置するターン番号7,11のワイヤW1が1層目に落下するようにしている。こうすることで、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数と落下位置との関係について、全く同じとはならないものの近似する(実質的に同じとなる)ことになるので、図7の例に比べると、コモンモードフィルタ10の方向性をさらに低減することが可能になる。
図9は、本発明の第3の実施の形態によるコモンモードフィルタ10におけるワイヤW1,W2の巻回状態を示す模式図である。本実施の形態によるコモンモードフィルタ10は、ワイヤW1,W2の巻回態様の点で異なる他は、第1の実施の形態によるコモンモードフィルタ10と同一である。図9では、図4と同様、ワイヤW1,W2及び巻芯部11aにかかる部分が図2(b)及び図2(d)に示したA−A線に対応する断面図となっており、鍔部11b,11cにかかる部分が図2(a)に対応する上面図となっている。以下、相違点に着目して説明する。
本実施の形態によるワイヤW1,W2は、図7に示すように、レイヤ巻きではなくバイファイラ巻きによって巻回されている。一方で、隣接ターン間にスペースを空けて巻回された第1のスペース対応部S1と、それぞれ隣接ターン同士が密着して巻回された第1及び第2の密巻回部D1,D2とを有し、これらが鍔部11bから鍔部11cにかけて、第1の密巻回部D1、第1のスペース対応部S1、第2の密巻回部D2の順に配置される点では、第1の実施の形態と同様である。したがって、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10では、第1の実施の形態と同様、スペース対応部を全く設けない場合に比べてワイヤW1,W2における異ターン間容量が低減され、モード変換特性も低減される。また、すべてのペア線間にスペースを設ける場合に比べて高いインダクタンスを得ることが可能になる。
図10は、図9に示したワイヤW1,W2の巻回方法を説明するための図である。同図には、図5(a)(b)と同様、ワイヤ断面を結ぶ直線及び破線により、巻芯部11aの図面手前側にあるワイヤ、巻芯部11aの図面奥側にあるワイヤを模式的に示している。以下、この図10を参照しながら、バイファイラ巻きによる場合の第1及び第2の密巻回部D1,D2及び第1のスペース対応部S1を有するワイヤW1,W2の巻き方について、簡単に説明する。
ワイヤW1,W2の巻回に用いる自動巻線機としては、第1の実施の形態と同様、特許文献3に開示されているものを用いることが好適である。本実施の形態では、まず初めに、ワイヤW1の一端を端子電極E1に、ワイヤW2の一端を端子電極E2に、それぞれ継線する。次に、ドラムコア11を一定速度で回転させながら、それぞれワイヤW1,W2を繰り出す2本のノズルを、相対的な位置関係を維持した状態でy方向に移動させる。このとき、第1及び第2の密巻回部D1,D2にあたる部分では、隣接ターン間に隙間ができないように各ノズルの移動速度を調節する。一方、第1のスペース対応部S1にあたる部分では、隣接ターン間に適切な大きさのスペースが空くように各ノズルの移動速度を調節する。本実施の形態においても、移動速度は、隙間ができないように巻回するときに最も小さく、形成するスペースが大きいほど大きくなる。また、第1及び第2の密巻回部D1,D2におけるノズルの移動速度は一定とする必要があるが、第1のスペース対応部S1におけるノズルの移動速度は必ずしも一定でなくともよい。巻回が終了したら、ワイヤW1の他端を端子電極E3に、ワイヤW2の他端を端子電極E4に、それぞれ継線する。
図9に戻る。ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が互いに同じとなるよう巻回される。具体的に説明すると、鍔部11bから数えたターン数、鍔部11cから数えたターン数のいずれによっても、第1のスペース対応部S1は3番目のターンと5番目のターンとの間に配置される。したがって、第1及び第2の実施の形態と同様、搭載の方向性を低減することができ、設置作業の負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。
以上説明したように、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10によっても、モード変換特性の低減と、高いインピーダンスの確保とを両立できる。また、コモンモードフィルタ10の搭載の方向性を低減できるので、基板上に設置する際の作業負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。
図11は、図9に示したワイヤW1,W2の巻回状態の変形例を示す模式図である。同図には、図10と同様、ワイヤ断面を結ぶ直線及び破線により、巻芯部11aの図面手前側にあるワイヤ、巻芯部11aの図面奥側にあるワイヤを模式的に示している。本変形例では、第1のスペース対応部S1の内部(図示した位置X1)でワイヤW1,W2をクロスしている(位置を入れ替えている)。これに伴い、第2の密巻回部D2の鍔部11c側端部(図示した位置X2)でもワイヤW1,W2をクロスしている。なお、ワイヤW1,W2のクロスは、対応する位置で2本のノズルの位置を入れ替えることによって実現される。
ワイヤW1,W2をこのようにクロスさせることで、第1のスペース対応部S1の両側で極性が反対になるので、極性のバランスをとることが可能になる。また、第1のスペース対応部S1内でワイヤW1,W2をクロスしている(両側に隣接ターンが密着していないターン番号4のワイヤW1,W2をクロスしている)ので、クロスによる巻線の乱れを最小限に抑えることが可能になる。
図12は、本発明の第4の実施の形態によるコモンモードフィルタ10におけるワイヤW1,W2の巻回状態を示す模式図である。本実施の形態によるコモンモードフィルタ10は、ワイヤW1,W2の巻回態様の点で異なる他は、第3の実施の形態によるコモンモードフィルタ10と同一である。図12では、図4と同様、ワイヤW1,W2及び巻芯部11aにかかる部分が図2(b)及び図2(d)に示したA−A線に対応する断面図となっており、鍔部11b,11cにかかる部分が図2(a)に対応する上面図となっている。以下、相違点に着目して説明する。
本実施の形態によるワイヤW1,W2は、第3の実施の形態と同様、レイヤ巻きではなくバイファイラ巻きによって巻回される。一方、それぞれ隣接ターン間にスペースを空けて巻回された第1及び第2のスペース対応部S1,S2と、それぞれ隣接ターン同士が密着して巻回された第1乃至第3の密巻回部D1〜D3とを有し、これらが鍔部11bから鍔部11cにかけて、第2の密巻回部D2、第1のスペース対応部S1、第1の密巻回部D1、第2のスペース対応部S2、第3の密巻回部D3の順に配置される点では、第2の実施の形態と同様である。したがって、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10では、第2の実施の形態と同様、スペース対応部を全く設けない場合に比べてワイヤW1,W2における異ターン間容量が低減され、モード変換特性も低減される。また、すべてのペア線間にスペースを設ける場合に比べて高いインダクタンスを得ることが可能になる。
また、本実施の形態でも、ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が互いに同じとなるよう巻回される。具体的に説明すると、鍔部11bから数えたターン数、鍔部11cから数えたターン数のいずれによっても、スペース対応部は2番目のターンと4番目のターンとの間、及び5番目のターンと7番目のターンとの間に配置される。したがって、第1乃至第3の実施の形態と同様、搭載の方向性を低減することができ、設置作業の負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。
以上説明したように、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10によっても、モード変換特性の低減と、高いインピーダンスの確保とを両立できる。また、コモンモードフィルタ10の搭載の方向性を低減できるので、基板上に設置する際の作業負担を軽減し、設置ミスを防止することが可能になる。
また、本実施の形態では、第3の実施の形態に比べるとスペースが鍔部11b,11c寄りに形成されることになるので、第3の実施の形態に比べ、より効率よく(より狭いスペースで)モード変換特性の低減効果を得ることが可能になる。
図13は、本発明の第5の実施の形態によるコモンモードフィルタ10におけるワイヤW1,W2の巻回状態を示す模式図である。本実施の形態によるコモンモードフィルタ10は、ワイヤW1,W2の巻回態様の点で異なる他は、第3及び第4の実施の形態によるコモンモードフィルタ10と同一である。図13では、図4と同様、ワイヤW1,W2及び巻芯部11aにかかる部分が図2(b)及び図2(d)に示したA−A線に対応する断面図となっており、鍔部11b,11cにかかる部分が図2(a)に対応する上面図となっている。以下、相違点に着目して説明する。
本実施の形態によるワイヤW1,W2は、図13に示すようにバイファイラ巻きされており、それぞれ隣接ターン間にスペースを空けて巻回された第1及び第2のスペース対応部S1,S2と、隣接ターン同士が密着して巻回された第1の密巻回部D1とを有して構成される。これらは、鍔部11bから鍔部11cにかけて、第1のスペース対応部S1、第1の密巻回部D1、第2のスペース対応部S2の順に配置される。第1のスペース対応部S1内には、ターン番号2,3のワイヤW1,W2が含まれる。また、第2のスペース対応部S2内には、ターン番号10,11のワイヤW1,W2が含まれる。
本実施の形態においても、ワイヤW1,W2は、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が互いに同じとなるよう巻回される。具体的に説明すると、鍔部11bから数えたターン数、鍔部11cから数えたターン数のいずれによっても、スペース対応部は1番目のターンと4番目のターンとの間、及び9番目のターンと12番目のターンとの間に配置される。
第1及び第2のスペース対応部S1,S2並びに第1の密巻回部D1を設けていることから、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10は、第1乃至第4の実施の形態と同様、スペース対応部を全く設けない場合に比べてワイヤW1,W2における異ターン間容量が低減され、モード変換特性も低減される。また、すべてのペア線間にスペースを設ける場合に比べて高いインダクタンスを得ることが可能になる。また、ワイヤW1,W2が、鍔部11b,11cのそれぞれから数えたターン数とスペース対応部の配置との関係が互いに同じとなるように巻回されていることから、搭載の方向性も低減できる。
また、本実施の形態では、第1のスペース対応部S1内におけるワイヤW1,W2(ターン番号2,3)の配置は、隣接ターン間の距離が、鍔部11bに近い位置から順に、図示するようにL1,L2,L3となるように設定される。同様に、第2のスペース対応部S2内におけるワイヤW1,W2(ターン番号10,11)の配置は、隣接ターン間の距離が、鍔部11cに近い位置から順に、図示するようにL1,L2,L3となるように設定される。
この構成によれば、距離L1〜L3の値を適宜調整できるので、本実施の形態によるコモンモードフィルタ10では、第1乃至第4の実施の形態に比べ、モード変換特性の値を所望の値に調節することが容易になる。距離L1〜L3の具体的な値としては、より効率よく(より狭いスペースで)モード変換特性の低減効果を得るという観点から、図13に例示するように、L1>L2>L3を満たす値を選択することが好ましい。こうすることで、鍔部11b,11cに近いほどスペースの幅を広くすることができるので、効率よくモード変換特性を低減することが可能になる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
例えば、第5の実施の形態(図13)に示したような、スペース対応部内の複数のスペースの幅を適宜調整する構成は、図13に示したバイファイラ巻きだけでなく、レイヤ巻きの例にも適用することが可能である。例えば、図8の例でも、第1及び第2のスペース対応部S1,S2内にはそれぞれ2つずつスペースができており(ターン番号4のワイヤW1,W2の両側と、ターン番号8のワイヤW1,W2の両側)、このスペースの幅を適宜調整することにより、モード変換特性の値を所望の値に調節することができる。
なお、図4などに示したワイヤW1,W2の断面図では、実施の形態ごとにコモンモードフィルタ10のY方向の長さが異なっているが、これは描画の都合上そのようにしているに過ぎない。コモンモードフィルタ10のサイズはJIS規格によって決定されるもので、製品化の際には、規格化されたいくつかのサイズ(0403、0605、0806など)の中からコモンモードフィルタ10のサイズが決定される。したがって、上記各実施の形態の中から、サイズに合った特性を有するものを選択して採用することが必要となる。例えば、同一サイズであればバイファイラ巻きよりレイヤ巻きの方が巻回数をかせげるので、サイズが小さいときにはレイヤ巻きを採用すればよい。また、例えばサイズに余裕があるときには、鍔部11b,11cに近い位置にスペース対応部を有する図7や図11の例を採用する一方、サイズに余裕がないときには、中央にひとつのスペース対応部を有する図4や図9の例を採用すればよい。
その他にも、図4の例を採用しようとしたときに方向性の低減を厳しく求められた場合には図6の例を採用する、モード変換特性の微調節を求められた場合には図12の例を採用するなど、要求条件に応じて適宜最適な実施例を選択することが好ましい。