JP2018143192A - 脂肪族アルコールの生産方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させる長鎖脂肪族アルコールの生産方法、長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない宿主微生物に長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与する方法、及び長鎖脂肪族アルコールの生産性を付与又は向上させた形質転換体を提供する。【解決手段】HglBをコードする遺伝子の発現を促進させた微生物を培養し、長鎖脂肪族アルコールを生産する方法、HglBをコードする遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物に付与する方法、並びに、HglBをコードする遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体。【選択図】なし

Description

本発明は、脂肪族アルコールの生産方法に関する。また本発明は、当該方法に用いる形質転換体に関する。
脂肪族アルコールは脂質の主要構成成分の1つであり、植物においては表面保護物質(クチクラ(cuticle)やスベリン(suberin)等)として存在したり、貯蔵脂質として存在するWAXエステルを構成したりしている。
天然油脂から精製又は化学合成によって得られた脂肪族アルコールは、工業用として広く利用されている。例えば、ステアリルアルコール(炭素原子数18の直鎖状飽和脂肪族アルコール)、エイコサノール(炭素原子数20の直鎖状飽和脂肪族アルコール)、ベヘニルアルコール(炭素原子数22の直鎖状飽和脂肪族アルコール)といった脂肪族アルコールは、乳化剤や界面活性剤として、化粧品、シャンプー、コンディショナー、潤滑油などに用いられている。
脂肪族アルコールの前駆体である脂肪酸の動植物での合成経路では、まずアセチル-CoAとマロニル-アシルキャリアプロテイン(acyl carrier protein、以下「ACP」ともいう)を出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素原子数18程度のアシル-ACP(脂肪酸残基であるアシル基とACPとからなる複合体。ここで炭素原子数はアシル基の炭素数を示し、以下同様に示す場合がある。)が合成される。この脂肪酸合成経路に関与する酵素のうち、β-ケトアシル-ACPシンターゼ(β-ketoacyl-acyl carrier protein synthase、以下「KAS」ともいう)はアシル基の鎖長伸長に関与する酵素である。植物では、KAS I、KAS II、KAS III、KAS IV、のそれぞれ機能が異なる4種のKASが存在することが知られている。このうち、KAS IIは主に炭素原子数18のステアロイル-ACPまでの伸長反応に関与する。
そして、シアノバクテリアの1種であるアナベナ・エスピー(Anabaena sp.)PCC7120株においては、脂肪族アルコールの合成への関与が予想されるタンパク質の1つとして、HglBが挙げられている(例えば、非特許文献1及び2参照)。非特許文献1及び2においてHglBは、アシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを生成する反応を触媒すると予想されている。
しかしこれまで、HglB又はhglB遺伝子の発現の強化により、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることや、特に長鎖脂肪族アルコールの合成能を有さない宿主微生物に対して長鎖脂肪族アルコールの合成能を付与することについて、何ら報告されていない。
Awai K, et al., Wolk CP 2009, Heterocyst Envelope Glycolipids. In Lipids in photosynthesis: essential and regulatory functions, pp. 179-202, Springer, New York Molecular Microbiology, 2005, vol. 58(1), p. 227-243
本発明は、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させる、長鎖脂肪族アルコールの生産方法の提供を課題とする。
また本発明は、長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない宿主微生物に、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与する方法の提供を課題とする。
また本発明は、長鎖脂肪族アルコールの生産性を付与した形質転換体の提供を課題とする。
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。
本発明者らは、アシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを生成する反応を触媒すると予想されるアナベナ・エスピーPCC7120株由来のHglBに着目した。そして、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない宿主微生物において、アナベナ・エスピーPCC7120株由来のHglBをコードする遺伝子の発現を促進させた場合、長鎖脂肪族アルコールの生産能を獲得することを初めて見い出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明は、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進させた微生物を培養し、長鎖脂肪族アルコールを生産する方法に関する。
また本発明は、HglB又はhglB遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物に付与する方法に関する。
さらに本発明は、HglB又はhglB遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体に関する。
本発明の脂肪族アルコールの製造方法によれば、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。
また本発明の長鎖脂肪族アルコールの生産能の付与方法によれば、元来長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない宿主微生物に、当該生産能を付与できる。
また本発明の形質転換体は、長鎖脂肪族アルコールの生産性に優れる。
実施例の作製例1で作製した形質転換体が生産した脂肪族アルコールのガスクロマトグラフ質量分析解析結果示すグラフである。
本明細書における「脂質」は、中性脂質(トリアシルグリセロール等)、ろう、セラミド等の単純脂質;リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質;及びこれらの脂質から誘導される、脂肪酸(遊離脂肪酸)、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質を包含するものである。
一般に誘導脂質に分類される脂肪酸は、脂肪酸そのものを指し、「遊離脂肪酸」を意味する。本発明では単純脂質及び複合脂質分子中の脂肪酸部分又はアシル基の部分を「脂肪酸残基」と表記する。そして、特に断りのない限り、「脂肪酸」は「遊離脂肪酸」と「脂肪酸残基」の総称として用いる。
また本明細書において、「脂肪族アルコール組成」とは、全脂肪族アルコールの重量に対する各脂肪族アルコールの重量割合を意味する。脂肪族アルコールの重量(生産量)や脂肪族アルコール組成は、実施例で用いた方法により測定できる。
また本明細書において、脂肪族アルコールや、脂肪族アルコールを構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数xで二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数xの脂肪族アルコールやアシル基を表す。また、「Cx:y-COOH」は炭素原子数xで二重結合の数がyである脂肪酸を示し、「Cx:y-OH」は炭素原子数xで二重結合の数がyである脂肪族アルコールを示す。
さらに本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに本明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
本発明の長鎖脂肪族アルコールの生産方法及び長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物に付与する方法では、宿主微生物において、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進させる。さらに、本発明の形質転換体は、HglB又はhglB遺伝子の発現が促進されている。
非特許文献1では、HglBはアナベナ・エスピーPCC7120株において、窒素固定の場として機能する異質細胞(以下、「ヘテロシスト」(Heterocyst)ともいう)に特異的な糖脂質(heterocyst specific glycolipid;HGL)の生合成に関わるタンパク質であるとされている。ヘテロシストを覆うHGLは、最外層を覆う多糖類との相互作用により酸素の拡散速度を低下させ、細胞内部のニトロゲナーゼを保護する役割を果たしていると考えられている。
HGLは3〜4個の水酸基又はケト基を有する炭素原子数26〜32のアルコールと六炭糖とがエーテル結合により連結した構造を有する。HGLの生合成は、ポリケタイド合成遺伝子様の一連の遺伝子群によって担われていると考えられおり、hglB遺伝子はその遺伝子のうちの1つである。HglBのアミノ酸配列は、N末端側のアセチル-ACPドメインと、C末端側のチオエステルレダクターゼ(thiester reductase、以下「TER」ともいう)様のドメインからなる。遺伝子群のドメイン構造と合成産物の構造より、HglBは他酵素により伸長された長鎖ヒドロキシ-アシル-ACP又は長鎖ケト-アシル-ACPをアルコールに還元する反応を担うと予想されている。
しかしHglBのアミノ酸配列は、同様の反応を担う脂肪酸アシルCoAレダクターゼ(Fatty acyl-CoA reductase、以下「FAR」ともいう)のアミノ酸配列との同一性は低い。さらに、実際にHglBがアルコール還元反応に関与することについて、これまで実証されていなかった。これらに加えて、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない宿主微生物においてHglB又はhglB遺伝子の発現を促進させることで、宿主微生物が長鎖脂肪族アルコールを獲得することについて、何ら報告がされていない。
これに対し、後述の実施例でも示すように、大腸菌(Escherichia coli)やシアノバクテリアなど、元来長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない微生物に対して、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進することで、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与した形質転換体を作製できる。
本明細書において「HglB」とは、ヘテロシストに特異的なHGLの生合成に関わるタンパク質である。HglBを介した脂肪族アルコールの生成では、ヒドロキシ-アシル-ACP又はケト-アシル-ACPが還元され、脂肪族アルコールが生成される。
本発明における好ましいHglBとしては、長鎖ヒドロキシ-アシル-ACP又は長鎖ケト-アシル-ACPに対する基質特異性を有するHglBが好ましい。このようなHglBの具体例としては、下記タンパク質(A)及び(B)が挙げられる。下記タンパク質(A)及び(B)はいずれも、アシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能(以下、「HglB能」)を有する。

(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質。

配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(A))は、アナベナ・エスピーPCC7120株由来のHglBである。
前記タンパク質(A)及び(B)はいずれも、HglB能を有する。タンパク質がHglB能を有することは、例えば、hglB遺伝子欠損株を用いた系により確認することができる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAをhglB遺伝子欠損株に導入し、脂肪族アルコールの生成を検討することで確認できる。あるいは、HglB又はこれを含有する細胞破砕液を調製し、ヒドロキシ-アシル-ACP、ケト-アシル-ACPなどを含む反応液と反応させ、常法に従い脂肪族アルコール量の増加を測定することで確認できる。
前記タンパク質(B)において、HglB能の点から、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(B)として、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上203個以下、好ましくは1個以上178個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上102個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上41個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、SOE-PCR反応を利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにHglB能が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
前記タンパク質(A)及び(B)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、アナベナ・エスピーなどの各種シアノバクテリアから単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(A)及び(B)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(A)及び(B)を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述する、HglBをコードする遺伝子を用いることができる。
前記HglB(好ましくは前記タンパク質(A)及び(B)のいずれか1つ)をコードする遺伝子(以下、「hglB遺伝子」ともいう)として、下記DNA(a)及び(b)のいずれか1つからなる遺伝子が挙げられる。

(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号2の塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列である。
前記DNA(b)において、HglB能の点から、前記DNA(a)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(b)として、前記DNA(a)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上609個以下、好ましくは1個以上533個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上381個以下、より好ましくは1個以上305個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上153個以下、より好ましくは1個以上122個以下、より好ましくは1個以上77個以下、より好ましくは1個以上31個以下、より好ましくは1個以上16個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(b)として、前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
前記hglB遺伝子の発現を促進させる方法としては、常法より適宜選択することができる。例えば、前記hglB遺伝子を宿主微生物に導入する方法、前記hglB遺伝子をゲノム上に有する宿主微生物において、当該遺伝子の発現調節領域(プロモーター、ターミネーター等)を改変する方法、などが挙げられる。なかでも、前記hglB遺伝子を宿主微生物に導入し、hglB遺伝子の発現を促進させる方法が好ましい。
以下本明細書において、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させたものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
hglB遺伝子の発現が促進されている本発明の形質転換体は、長鎖脂肪族アルコールの生産性に優れる。さらに本発明の形質転換体は、宿主自体に比べ、長鎖脂肪族アルコールの生産性(長鎖脂肪族アルコールの生産量、生産される全脂肪族アルコールに占める長鎖脂肪族アルコールの割合)が増加傾向にある。なお本明細書において「長鎖脂肪族アルコール」とは、脂肪族アルコールを構成するアシル基の炭素原子数が18以上の脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数が18、20、22、24又は26の脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数が18、20、22の脂肪族アルコールをいう。
本発明の形質転換体のうち、前記hglB遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数18〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜22の飽和長鎖脂肪族アルコール、の生産に好適に用いることができる。
なお、宿主や形質転換体の脂肪族アルコールの生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
前記hglB遺伝子を宿主微生物に導入して前記遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
前記hglB遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示す塩基配列に基づいて、hglB遺伝子を人工的に合成できる。hglB遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、アナベナ・エスピーPCC7120株からクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、前記遺伝子の塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。なお、実施例で用いたアナベナ・エスピーPCC7120株は、パスツール研究所カルチャーコレクションより入手することができる。
本発明の形質転換体は、前記hglB遺伝子を常法により宿主に導入することで得られる。具体的には、前記hglB遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる組換えベクターや遺伝子発現カセットを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製できる。
形質転換体の宿主微生物としては通常用いられるものより適宜選択することができる。
前記微生物は原核生物、真核生物のいずれであってもよく、エシェリキア(Escherichia)属の微生物やバシラス(Bacillus)属の微生物、シアノバクテリア(藍色細菌)等の原核生物、又は酵母や糸状菌等の真核微生物を用いることができる。なかでも原核生物が好ましく、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与する観点から、エシェリキア属の微生物及びシアノバクテリアがより好ましく、大腸菌又はシアノバクテリアがより好ましい。
本発明の形質転換体の宿主として好ましく用いることができるシアノバクテリアはクロロフィルを用いた光合成を行う真正細菌の一群であり、光合成によって酸素を産生し、二酸化炭素を固定化する能力を有する。シアノバクテリアは、それらが10数億年前に真核生物に細胞内共生(1次共生)したことが葉緑体の起源であると考えられている。そのため、葉緑体の祖先生物として光合成研究に広く利用されている。また、シアノバクテリアは他の植物と比べて生育が速く、かつ高い光合成能力を有する。さらにシアノバクテリアは形質転換能も有する。
シアノバクテリアは多様性に富んでおり、細胞の形状のみを見ても、シネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803株のような単細胞性のもの、ヘテロシストを形成し窒素固定を行うアナベナ・エスピーPCC7120株のように多細胞がヒモ状に繋がっている糸状性のもの、又はらせん状や分岐状のもの等がある。
生育環境についても、別府温泉から単離されたサーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)BP-1のような好熱性のもの、海洋性で沿岸部に生息するシネココッカス・エスピー(Synechococcus sp.)CC9311株、又は外洋に生息するシネココッカス・エスピーWH8102株など、様々な条件に適応した種が見られる。
また、種独自の特徴を持つものとして、ミクロシスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)のように、ガス小胞を持ち毒素を産生することのできるものや、チラコイドを持たず集光アンテナであるフィコビリソームが原形質膜に結合しているグロイオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)PCC7421株、又は一般的な光合成生物のようにクロロフィルaでなくクロロフィルdを主要な(>95%)光合成色素として持つ海洋性のアクリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)なども挙げられる。
シアノバクテリアでは、光合成により固定された二酸化炭素は多数の酵素反応プロセスを経てアセチル-CoAへと変換される。脂肪酸合成の最初の段階は、アセチル-CoAカルボキシラーゼの作用による、アセチル-CoAと二酸化炭素からのマロニル-CoAの合成である。次に、マロニル-CoAがマロニルCoA:ACPトランスアシラーゼの作用によってマロニル-ACPへと変換される。その後、β-ケトアシル-ACPシンターゼの進行的作用時に、炭素単位2個の連続的付加が起こり、炭素が2個ずつ増加した、アシル-ACPが合成され、膜脂質等の合成中間体として利用される。
本発明の形質転換体の宿主としては、あらゆる種類のシアノバクテリアを用いることができる。例えば、シネコシスティス(Synechocystis)属、シネココッカス(Synechococcus)属、サーモシネココッカス(Thermosynechococcus)属、トリコデスミウム(Trichodesmium)属、アカリオクロリス(Acaryochloris)属、クロコスファエラ(Crocosphaera)属、及びアナベナ(Anabaena)属のシアノバクテリアが挙げられる。このうち、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属又はアナベナ属のシアノバクテリアが好ましく、シネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリアがより好ましく、シネコシスティス属のシアノバクテリアがより好ましい。また本発明で用いる宿主としては、シネコシスティス・エスピーPCC6803株、シネコシスティス・エスピーPCC7509株、シネコシスティス・エスピーPCC6714株、シネココッカス・エロンガタスエスピー(Synechococcus elongatus sp.)PCC7942株、サーモシネココッカス・エロンガタスBP-1株、トリコデスミウム・エリスラエウム(Trichodesmium erythraeum)IMS101株、アカリオクロリス・マリアナ(Acaryochloris mariana)MBIC11017、クロコスファエラ・ワトソニー(Crocosphaera watsonii)WH8501株、及びアナベナ・エスピー(Anabaena sp.)PCC7120株がより好ましく、シネコシスティス・エスピーPCC6803株及びシネココッカス・エロンガタスエスピーPCC7942株がより好ましく、シネコシスティス・エスピーPCC6803株がより好ましい。
遺伝子発現用プラスミドベクター又は遺伝子発現カセットの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で当該遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、導入する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
本発明で好ましく用いることができる発現ベクターとしては、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pUC系ベクター(タカラバイオ社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,1986,Plasmid 15(2),p.93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、pMW218/219(ニッポンジーン社製)pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、及びIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。
また、前記発現ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、Rubiscoオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質(psaAB)、PSIIのD1タンパク質(psbA)、c-phycocyanin βサブユニット(cpcB)、リボゾームRNAをコードするrrnAオペロン遺伝子のプロモーター、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター(例えば、チューブリンプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター等)、西洋アブラナ又はアブラナ由来Napin遺伝子プロモーター、植物由来Rubiscoプロモーター、ナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)(Oliver Kilian,et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2011,vol.108(52))、及びナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP(lipid droplet surface protein)遺伝子のプロモーター(Astrid Vieler, et al., PLOS Genetics, 2012;8(11):e1003064. doi: 10.1371)が挙げられる。
また、目的のタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。
目的のタンパク質をコードする遺伝子の前記ベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
また、導入する遺伝子は宿主微生物におけるコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。
形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。例えば、自然形質転換法、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法、及び接合法が挙げられる。
宿主微生物としてシアノバクテリアを用いる場合、シアノバクテリアに導入したhglB遺伝子は、相同組換え等によりシアノバクテリアのゲノム上に組み込まれていることが好ましい。前記hglB遺伝子がゲノム上に組み込まれる位置は適宜設定することができる。
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
前記hglB遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域を改変して、前記遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
「発現調節領域」とは、プロモーターやターミネーターを示し、これらの配列は一般に隣接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に前記遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して前記遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。
発現調節領域の改変方法としては、例えばプロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に前記各種遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、前記各種遺伝子の発現を促進させることができる。
前述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの常法に従い行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片と置換され、プロモーターを改変することができる。このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Besher et al.,Methods in molecular biology,1995,vol.47,p.291-302等の文献を参考に行うことができる。
さらに本発明の形質転換体は、前記HglB又はhglB遺伝子に加えて、KASをコードする遺伝子の発現も促進されていることが好ましい。
KASは、脂肪族アルコールの前駆体である脂肪酸の合成経路においてアシル基の鎖長伸長に関与する酵素である。KASは、アシル-ACPとマロニルACPとの縮合反応を触媒し、アシル−ACPの合成に関与する脂肪酸合成酵素の1種である。脂肪酸合成経路では一般的に、アセチル-CoAを出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。
そのため、HglB又はhglB遺伝子に加えてKASをコードする遺伝子(以下単に、「KAS遺伝子」ともいう)の発現を促進することで、形質転換体の脂肪族アルコールの生産性を一層向上させることができる。
脂肪酸合成の第一段階では、アセチル-CoAとマロニルACPとの縮合反応により、アセトアセチルACPが生成する。この反応をKASが触媒する。次いで、β-ケトアシル-ACPレダクターゼによりアセトアセチルACPのケト基が還元されてヒドロキシブチリルACPが生成する。続いて、β−ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼによりヒドロキシブチリルACPが脱水され、クロトニルACPが生成する。最後に、エノイル-ACPレダクターゼによりクロトニルACPが還元されて、ブチリルACPが生成する。これら一連の反応により、アセチル-ACPからアシル基の炭素鎖が2個伸長されたブチリルACPが生成する。以下、同様の反応を繰り返すことで、アシル-ACPの炭素鎖が伸長し、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。
KASはその基質特異性によってKAS I、KAS II、KAS III、又はKAS IVに分類される。KAS IIIは、炭素原子数2のアセチル-CoAを基質とし、炭素原子数2から4の伸長反応を触媒する。KAS Iは、主に炭素原子数4から16の伸長反応を触媒し、炭素原子数16のパルミトイル-ACPを合成する。KAS IIは、主に炭素原子数16から18までの長鎖アシル基への伸長反応を触媒し、長鎖アシル-ACPを合成する。KAS IVは主に炭素原子数6から14の伸長反応を触媒し、中鎖アシル-ACPを合成する。
本発明で好ましく用いることができるKASとしては、長鎖脂肪族アルコールの生産性の観点から、主に炭素原子数16又は18の長鎖アシル-ACPの合成に関与するKAS IIが好ましい。このようなKAS IIの具体例としては、下記タンパク質(C)〜(H)が挙げられる。

(C)配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号23で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(G)配列番号25で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
前記タンパク質(C)〜(H)(以下、「NoKASII」ともいう)はKASの1種であり、長鎖脂肪酸の合成に関与するタンパク質である。
前記タンパク質(C)は、ナンノクロロプシス属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)NIES2145株由来のKASの1つである。
また、ChloroP(http://www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)やtargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)を用いた局在予測より、前記タンパク質(C)は葉緑体局在型のKASであり、N末端側のアミノ酸30〜40残基は葉緑体移行シグナル配列であると考えられる。
前記タンパク質(C)〜(H)はいずれも、KAS活性を有する。本明細書において「KAS活性」とは、アセチル-CoAやアシル-ACPと、マロニルACPとの縮合反応を触媒する活性を意味する。タンパク質がKAS活性を有することは、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、前記タンパク質を精製し、各種アシル-ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
さらに、前記タンパク質(C)〜(H)は、主に炭素原子数16から18の長鎖アシル基への伸長反応に関与するKASII型のKASのうち、炭素原子数18以上の長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性を有するKASIIであることが好ましい。なお本明細書において「長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性」とは、主に炭素原子数16以上のアシル-ACPを基質とし、炭素原子数18以上の長鎖アシル-ACP合成の伸長反応を触媒する活性のことをいう。
KASの長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性については、例えば、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化を常法により分析することで確認できる。また、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にタンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを、宿主細胞へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、前記タンパク質を精製し、各種アシル-ACPを基質とした鎖長伸長反応を行うことにより確認できる。
タンパク質(D)は、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有する。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにKAS活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
前記タンパク質(D)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上190個以下、好ましくは1個以上166個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上118個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上9個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、KAS活性を有し、かつ葉緑体移行シグナル配列が削除されていてもよい。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
前記タンパク質(E)は、配列番号21の41位〜475位のアミノ酸配列と、そのN末端側に付加したメチオニン残基からなる。なお前記タンパク質(D)は、タンパク質(E)も包含する。タンパク質(E)では、配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質から、N末端側の葉緑体移行シグナル配列(配列番号21の1位〜40位のアミノ酸残基)が削除されている。
前記タンパク質(F)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(F)として、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上174個以下、好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上8個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(F)として、前記タンパク質(E)又は(F)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
前記タンパク質(G)は、配列番号1の21位〜475位のアミノ酸配列と、そのN末端側に付加したメチオニン残基からなる。なお前記タンパク質(D)は、タンパク質(G)も包含する。タンパク質(G)では、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質から、N末端側の葉緑体移行シグナル配列の一部(配列番号1の1位〜20位のアミノ酸残基)が削除されている。
前記タンパク質(H)において、KAS活性の点から、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、前記タンパク質(H)として、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上183個以下、好ましくは1個以上160個以下、より好ましくは1個以上137個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上92個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上10個以下、さらに好ましくは1個以上5個以下)のアミノ酸を欠失、置換、挿入又は付加したタンパク質が挙げられる。
またタンパク質(H)として、前記タンパク質(G)又は(H)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
本発明において、前記KASとしては、タンパク質(G)又は(H)が好ましい。KASとしてタンパク質(G)又は(H)を用いることで、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの合成能がより向上する。
前記KAS(好ましくは前記タンパク質(C)〜(H)のいずれか1つ)をコードする遺伝子(以下、「KAS遺伝子」ともいう)の一例として、下記DNA(c)〜(h)のいずれか1つからなる遺伝子(以下、「NoKASII遺伝子」ともいう)が挙げられる。

(c)配列番号22で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号24で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号26で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号22の塩基配列は、配列番号21のアミノ酸配列からなるタンパク質(ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株由来のKAS)をコードする遺伝子の塩基配列である。
前記DNA(d)において、KAS活性の点から、前記DNA(c)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(d)として、配列番号22で表される塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上571個以下、好ましくは1個以上499個以下、より好ましくは1個以上428個以下、好ましくは1個以上357個以下、より好ましくは1個以上285個以下、より好ましくは1個以上214個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上28個以下、さらに好ましくは1個以上14個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(d)として、前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAも好ましい。
またDNA(d)として、前記DNA(c)の塩基配列との同一性が60%以上の塩基配列からなり、KAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードし、かつ葉緑体移行シグナル配列をコードする領域の塩基配列が削除されていてもよい。
また前記DNA(d)として、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
前記DNA(e)は、配列番号22の121位〜1428位の塩基配列と、その5’末端側に付加した開始コドン(ATG)からなり前記タンパク質(E)(配列番号23で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)をコードする。なお前記DNA(d)は、DNA(e)も包含する。DNA(e)では、配列番号22で表される塩基配列からなるDNAから、前記葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列(配列番号22の1位〜120位の塩基配列)が削除されている。
前記DNA(f)において、KAS活性の点から、前記DNA(e)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(f)として、前記DNA(e)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上523個以下、好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、さらに好ましくは1個以上13個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(f)として、前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(f)として、前記DNA(e)又は(f)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
前記DNA(g)は、配列番号22の61位〜1428位の塩基配列と、その5’末端側に付加した開始コドン(ATG)からなり前記タンパク質(G)(配列番号25で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)をコードする。なお前記DNA(d)は、DNA(g)も包含する。DNA(g)では、配列番号22で表される塩基配列からなるDNAから、前記葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列(配列番号22の1位〜60位の塩基配列)が削除されている。
前記DNA(h)において、KAS活性の点から、前記DNA(g)の塩基配列との同一性は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また前記DNA(h)として、前記DNA(g)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上549個以下、好ましくは1個以上480個以下、より好ましくは1個以上412個以下、より好ましくは1個以上343個以下、より好ましくは1個以上275個以下、より好ましくは1個以上206個以下、より好ましくは1個以上138個以下、より好ましくは1個以上110個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上28個以下、さらに好ましくは1個以上14個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNAも好ましい。さらに前記DNA(h)として、前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNAも好ましい。
また前記DNA(h)として、前記DNA(g)又は(h)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
本発明において、前記KAS遺伝子として、DNA(g)又は(h)からなる遺伝子が好ましい。KAS遺伝子としてDNA(g)又は(h)からなる遺伝子を用いることで、宿主微生物における長鎖脂肪族アルコールの合成能がより向上する。
前述のKASのアミノ酸配列情報、並びにこれらをコードする遺伝子の配列情報等は、例えば、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)などから入手することができる。ナンノクロロプシス・オキュラータ等の藻類は、私的又は公的な研究所等の保存機関より入手することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オキュラータNIES-2145株は、国立環境研究所(NIES)から入手することができる。
また、KAS遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、常法により作製できる。例えば、前述のhglB遺伝子の発現を促進させる方法と同様、前記KAS遺伝子を宿主に導入する方法、前記KAS遺伝子をゲノム上に有する宿主において当該遺伝子の発現調節領域を改変する方法、などにより形質転換体を作製することができる。
本発明の形質転換体は、長鎖脂肪族アルコールの生産性が、HglB又はhglB遺伝子の発現が促進されていない宿主又は野生株と比較して向上している。また、宿主微生物自体が元来、長鎖脂肪族アルコールの生産能を有していない場合であっても、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産能を獲得する。
したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養し、次いで得られた培養物から長鎖脂肪族アルコールを回収すれば、長鎖脂肪族アルコールを効率よく製造することができる。ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいう。
本発明の形質転換体の培養条件は、宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培養条件を使用できる。また長鎖脂肪族アルコールの生産効率の点から、培地中に、例えば長鎖脂肪族アルコールの生合成系に関与する前駆物質を添加してもよい。
宿主微生物として大腸菌を用いる場合、大腸菌の培養は、例えば、LB培地又はOvernight Express Instant TB Medium(Novagen社)で、30〜37℃、0.5〜1日間培養することができる。
宿主微生物としてシアノバクテリアを用いる場合、BG-11培地(J.Gen.Microbiol.,1979,vol.111,p.1-61)、A培地(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1980,vol.77,p.6052-6056)、AA培地(Plant Physiol.,1955,vol.30,p.366-372)など、シアノバクテリアの培養に通常用いられる培地を用いて、液体培養又はその変法により実施することができる。培養期間は、十分に菌体が増殖した条件で脂肪酸が高濃度に蓄積する期間であればよい。例えば、7〜45日間、好ましくは7〜30日間、より好ましくは10〜14日間、通気攪拌培養又は振とう培養がすることが好適である。
培養物から長鎖脂肪族アルコールを採取する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前述の培養物又は生育物から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、又はエタノール抽出法等により長鎖脂肪族アルコールを単離、回収することができる。より大規模な培養を行った場合は、培養物又は生育物より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、長鎖脂肪族アルコールを得ることができる。
本発明の製造方法により得られる長鎖脂肪族アルコールは、乳化剤や界面活性剤として、化粧品、シャンプー、コンディショナー、潤滑油等に利用することができる。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の脂肪族アルコールの製造方法、長鎖脂肪族アルコールの生産性の向上方法、タンパク質、遺伝子、形質転換体、及び形質転換体の作製方法を開示する。
<1>HglBの発現、又はhglB遺伝子の発現を促進させた微生物を培養し、長鎖脂肪族アルコールを生産する方法。
<2>HglBの発現、又はhglB遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物(好ましくは、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない微生物)に付与する方法。
<3>hglB遺伝子の発現を前記微生物の細胞内で促進させ、HglBの発現を促進する、前記<1>又は<2>項記載の方法。
<4>hglB遺伝子を前記微生物に導入し、導入したhglB遺伝子の発現を促進させる、前記<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法。
<5>前記HglBが下記タンパク質(A)又は(B)である、前記<1>〜<4>のいずれか1項記載の方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質。
<6>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上203個以下、より好ましくは1個以上178個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上102個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上41個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<5>項記載の方法。
<7>前記HglB、好ましくは前記タンパク質(A)及び(B)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、下記DNA(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、である、前記<1>〜<6>のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNA。
<8>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上609個以下、より好ましくは1個以上533個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上381個以下、より好ましくは1個以上305個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上153個以下、より好ましくは1個以上122個以下、より好ましくは1個以上77個以下、より好ましくは1個以上31個以下、より好ましくは1個以上16個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<7>項記載の方法。
<9>前記微生物体において、KASをコードする遺伝子の発現を促進させた、前記<1>〜<8>のいずれか1項記載の方法。
<10>前記KASが、炭素原子数16又は18の長鎖アシル-ACPの合成に関与するKAS IIである、前記<9>項記載の方法。
<11>前記KASが、下記タンパク質(C)〜(H)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、好ましくは下記タンパク質(G)及び(H)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、である、前記<9>又は<10>のいずれか1項記載の方法。
(C)配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号23で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(G)配列番号25で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
<12>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上190個以下、より好ましくは1個以上166個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上118個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上9個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<11>項記載の方法。
<13>前記タンパク質(F)が、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上174個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上8個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<11>項記載の方法。
<14>前記タンパク質(H)が、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上183個以下、より好ましくは1個以上160個以下、より好ましくは1個以上137個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上92個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上10個以下、さらに好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<11>項記載の方法。
<15>前記タンパク質(C)〜(H)が、長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性(主に炭素原子数16以上のアシル-ACPを基質とし、炭素原子数18以上の長鎖アシル-ACP合成の伸長反応を触媒する活性)を有するKASである、前記<11>〜<14>のいずれか1項記載の方法。
<16>前記KAS、好ましくは前記タンパク質(C)〜(H)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、下記DNA(c)〜(h)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、好ましくは下記DNA(g)及び(h)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、である、前記<9>〜<15>のいずれか1項記載の方法。
(c)配列番号22で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号24で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号26で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<17>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上571個以下、より好ましくは1個以上499個以下、より好ましくは1個以上428個以下、より好ましくは1個以上357個以下、より好ましくは1個以上285個以下、より好ましくは1個以上214個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNA、又は前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAである、前記<16>項記載の方法。
<18>前記DNA(f)が、前記DNA(e)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上523個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上13個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNA、又は前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAである、前記<16>項記載の方法。
<19>前記DNA(h)が、前記DNA(g)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上549個以下、より好ましくは1個以上480個以下、より好ましくは1個以上412個以下、より好ましくは1個以上343個以下、より好ましくは1個以上275個以下、より好ましくは1個以上206個以下、より好ましくは1個以上138個以下、より好ましくは1個以上110個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNA、又は前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNAである、前記<16>項記載の方法。
<20>前記微生物が原核生物、好ましくは大腸菌又はシアノバクテリア、である、前記<1>〜<19>のいずれか1項記載の方法。
<21>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、より好ましくはシネコシスティス属のシアノバクテリアである、前記<20>項記載の方法。
<22>前記hglB遺伝子、又は前記KAS遺伝子及びhglB遺伝子をシアノバクテリアのゲノム上に導入して前記遺伝子の発現を促進させる、前記<20>又は<21>項記載の方法。
<23>前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数18〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜22の飽和長鎖脂肪族アルコールである、前記<1>〜<22>のいずれか1項記載の方法。
<24>HglBの発現、又はhglB遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体。
<25>hglB遺伝子の発現が前記微生物の細胞内で促進され、HglBの発現が促進されている、前記<24>項記載の形質転換体。
<26>hglB遺伝子又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを含んでなる、微生物の形質転換体。
<27>hglB遺伝子、又はhglB遺伝子を含有する組換えベクターを、宿主微生物に導入する、形質転換体の作製方法。
<28>前記HglBが、前記<5>又は<6>項で規定するタンパク質である、前記<24>〜<27>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<29>前記hglB遺伝子、好ましくは前記タンパク質(A)及び(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質をコードする遺伝子が、前記<7>又は<8>項で規定する遺伝子である、前記<24>〜<28>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<30>前記形質転換体において、KASをコードする遺伝子の発現を促進させた、前記<24>〜<29>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<31>前記KASが、前記<10>〜<15>のいずれか1項で規定するタンパク質である、前記<30>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<32>前記KASをコードする遺伝子が、前記<16>〜<19>のいずれか1項で規定する遺伝子である、前記<30>又は<31>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<33>前記微生物が原核生物、好ましくは大腸菌又はシアノバクテリア、である、前記<24>〜<32>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法
<34>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、より好ましくはシネコシスティス属のシアノバクテリアである、前記<33>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<35>長鎖脂肪族アルコールを製造するための、前記<24>〜<34>のいずれか1項記載の形質転換体、又は形質転換体の作製方法により作製された形質転換体の使用。
<36>前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数18〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコールである、前記<35>項記載の使用。
<37>前記<5>又は<6>で規定した、前記タンパク質(A)又は(B)。
<38>前記<38>項記載のタンパク質をコードする遺伝子。
<39>前記<7>又は<8>項で規定した、前記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子。
<40>前記<38>又は<39>項記載の遺伝子を含有する、組換えベクター。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本実施例で用いるプライマーの塩基配列を表1に示す。
作製例1 hglB遺伝子をシアノバクテリアに導入してなる形質転換体の作製
(1)スペクチノマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーpUC118/slr1609up-F及びプライマーSp/slr1609up-Rを用いてPCRを行い、slr1609領域の上流断片(slr1609up断片:配列番号5)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーSp/slr1609down-F及びプライマーpUC118/slr1609down-Rを用いてPCRを行い、slr1609領域の下流断片(slr1609down断片:配列番号8)を増幅した。
さらにpDG1726プラスミド(Guerout-Fleury et al., Gene, 1995, vol. 167, p. 335-336)を鋳型とし、表1記載のプライマーSp-F及びプライマーSp-Rを用いてPCRを行い、スペクチノマイシン耐性マーカー遺伝子断片(Sp断片:配列番号11)を増幅した。
前述の、slr1609up断片、slr1609down断片、及びSp断片をpUC118プラスミド(タカラバイオ社製)のHincIIサイトに、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて挿入し、pUC118-slr1609::Spプラスミドを取得した。
(2)hglB遺伝子発現用プラスミドの構築
前記pUC118-slr1609::Spプラスミドを鋳型とし、表1記載のプライマーSpr-F及びプライマーslr1609up-Rを用いてPCRを行い、pUC118-slr1609::Spプラスミドを線状化した。
次に、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAより、表1記載のプライマーslr1609up/Pcpc560-F及びプライマーPcpc560-Rを用いてPCRを行い、高発現cpc560プロモーター断片(Jie Z et al., Scientific Reports, 2014, vol. 4, p. 4500、Pcpc560断片、配列番号15)を増幅した。
さらに人工合成したhglB遺伝子(配列番号2)を鋳型とし、表1記載のプライマーPcpc560/hglB-fw及びTrbc/hglB-rvを用いてPCRを行い、hglB遺伝子断片を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生型ゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーTrbc-F及びプライマーSp/Trbc-Rを用いてPCRを行い、rbc遺伝子のターミネーター領域(Trbc断片:配列番号20)を増幅した。
前述の線状化したpUC118-slr1609::Spプラスミド、Pcpc560断片、Trbc断片、及びhglB遺伝子断片を混合し、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いることで、シネコシスティス・エスピーPCC6803株由来のニュートラルサイトslr1609領域中にcpc560プロモーター、hglB遺伝子断片、rbcターミネーター、及びスペクチノマイシン耐性遺伝子カセットがこの順で挿入された、pUC118-slr1609::Pcpc560-hglB-Trbc-Spプラスミドを得た。
(3)hglB遺伝子発現用プラスミドのシアノバクテリアへの導入
得られたpUC118-slr1609::Spプラスミド及びpUC118-slr1609::Pcpc560-hglB-Trbc-Spプラスミドを用いて、自然形質転換法によりシネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、スペクチノマイシン耐性により選抜した。
このようにして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノム上のslr1609をスペクチノマイシン耐性遺伝子で破壊したΔslr1609::Sp株、及びslr1609領域中にhglB遺伝子を導入したΔslr1609::hglB株を取得した。
試験例1 脂肪族アルコールの製造
下記表2に示す組成のBG-11液体培地20mLを加えた50mL三角フラスコ中で、作製例1で作製した形質転換体を14日間培養した。培養は一定の照明下(60μE・m-2・sec-1)、30℃にてロータリーシェーカー(120rpm)を用いて行い、初発菌体濃度をOD730=0.2に設定した。なお形質転換体を培養するBG-11培地には、スペクチノマイシンを25μg/mLの濃度となるよう添加した。
培養液2〜5mLをガラス試験管に分取し、3,000rpmで遠心することにより菌体を回収した。上清を除去した沈殿を蒸留水0.5mLに懸濁し、クロロホルム0.5mL及びメタノール1mLを加えて攪拌し、30分間静置した。さらに、クロロホルム0.5mL、及び1.5%KCl溶液0.5mLを加えて攪拌し、3,000rpmで15分間遠心分離を行い、有機層(下層)をパスツールピペットでふた付き試験管に回収し、窒素ガスで乾固した。
乾固した脂質画分に0.5N KOHメタノール溶液0.7mLを加えて攪拌し、80℃で30分間けん化した。さらに、3フッ化ホウ素メタノール溶液1mLを加え、80℃で10分間メチルエステル化反応を行った。この反応液に、ヘキサン0.2〜0.5mL及び飽和食塩水1mLを加えて攪拌し、室温にて10分間遠心分離した後、上層のヘキサン層を回収した。
回収したヘキサン層をねじ口試験管に移して窒素乾固し、ピリジンに溶解したヘキサメチルジシラザン及びトリメチルクロロシランを含むシリル化剤TMSI-H(ジーエルサイエンス社製)100μLを加えた。80℃で30分間反応させた後、ヘキサン300μLと1.5%KCl溶液0.5mLを加えて攪拌した。さらに、混合液を室温にて10分間遠心分離し、上層のヘキサン層を回収してGC解析に供した。
まず、ガスクロマトグラフ質量分析解析にて、脂肪酸メチルエステル及びTMS化脂肪族アルコールの同定を行った。ガスクロマトグラフ質量分析解析で得られたクロマトグラフを図1に示す。
なお、ガスクロマトグラフ質量分析の条件を以下に示す。

<ガスクロマトグラフ質量分析解析>
分析装置:7890A GC system(Agilent社製)、5975 Inert XL MSD(Agilent社製)
キャピラリーカラム:DB-1 MS(30m×20μm×0.25μm、J&W Scientific社製)
移動相:高純度ヘリウム
カラム内流量:1.0mL/min
昇温プログラム:100℃(1分)→12.5℃/分(200℃まで)→5℃/分(250℃まで)→250℃(9分)
平衡化時間:0.5分
注入口:スプリット注入(スプリット比:0.1:1)
圧力:55.793 psi
注入量:5μL
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム
検出器温度:350℃
図1に示すように、hglB遺伝子をシネコシスティス・エスピーPCC6803株に導入することで、炭素原子数が18の鎖長の脂肪族アルコール生産能を獲得した。そして、hglB遺伝子をシネコシスティス・エスピーPCC6803株に導入することで、hglB遺伝子の発現が促進されていない宿主と比較して、長鎖脂肪族アルコールの生産量が増加傾向にあった。
上記のように、HglB又はhglB遺伝子をシアノバクテリアなどの宿主微生物の細胞内で促進させることで、宿主微生物に長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与できる。そして、HglB又はhglB遺伝子の発現が促進されていない宿主と比較して、長鎖脂肪族アルコールの生産量が増加傾向にある。
よって、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を獲得した形質転換体、又は長鎖脂肪族アルコールの生産性が向上した形質転換体を作製できる。そしてこの形質転換体を培養することで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。

Claims (10)

  1. 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子の発現を促進させた微生物を培養し、長鎖脂肪族アルコールを生産する方法。
    (A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。
  2. 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物に付与する方法。
    (A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。
  3. 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子を前記微生物に導入し、導入した前記遺伝子の発現を促進させる、請求項1又は2記載の方法。
  4. 前記微生物が大腸菌又はシアノバクテリアである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記シアノバクテリアが、シネコシスティス(Synechocystis)属又はシネココッカス(Synechococcus)属のシアノバクテリアである、請求項4記載の方法。
  6. 前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコールである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
  7. 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体。
    (A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。
  8. 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子若しくは当該遺伝子を含有する組換えベクターを含んでなる、微生物の形質転換体。
    (A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。
  9. 前記微生物が大腸菌又はシアノバクテリアである、請求項7又は8に記載の形質転換体。
  10. 前記シアノバクテリアが、シネコシスティス(Synechocystis)属又はシネココッカス(Synechococcus)属のシアノバクテリアである、請求項9記載の形質転換体。
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