JP2018143192A - 脂肪族アルコールの生産方法 - Google Patents
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Abstract
Description
天然油脂から精製又は化学合成によって得られた脂肪族アルコールは、工業用として広く利用されている。例えば、ステアリルアルコール(炭素原子数18の直鎖状飽和脂肪族アルコール)、エイコサノール(炭素原子数20の直鎖状飽和脂肪族アルコール)、ベヘニルアルコール(炭素原子数22の直鎖状飽和脂肪族アルコール)といった脂肪族アルコールは、乳化剤や界面活性剤として、化粧品、シャンプー、コンディショナー、潤滑油などに用いられている。
そして、シアノバクテリアの1種であるアナベナ・エスピー(Anabaena sp.)PCC7120株においては、脂肪族アルコールの合成への関与が予想されるタンパク質の1つとして、HglBが挙げられている(例えば、非特許文献1及び2参照)。非特許文献1及び2においてHglBは、アシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを生成する反応を触媒すると予想されている。
また本発明は、長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない宿主微生物に、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与する方法の提供を課題とする。
また本発明は、長鎖脂肪族アルコールの生産性を付与した形質転換体の提供を課題とする。
本発明者らは、アシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを生成する反応を触媒すると予想されるアナベナ・エスピーPCC7120株由来のHglBに着目した。そして、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない宿主微生物において、アナベナ・エスピーPCC7120株由来のHglBをコードする遺伝子の発現を促進させた場合、長鎖脂肪族アルコールの生産能を獲得することを初めて見い出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
また本発明は、HglB又はhglB遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物に付与する方法に関する。
さらに本発明は、HglB又はhglB遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体に関する。
また本発明の長鎖脂肪族アルコールの生産能の付与方法によれば、元来長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない宿主微生物に、当該生産能を付与できる。
また本発明の形質転換体は、長鎖脂肪族アルコールの生産性に優れる。
一般に誘導脂質に分類される脂肪酸は、脂肪酸そのものを指し、「遊離脂肪酸」を意味する。本発明では単純脂質及び複合脂質分子中の脂肪酸部分又はアシル基の部分を「脂肪酸残基」と表記する。そして、特に断りのない限り、「脂肪酸」は「遊離脂肪酸」と「脂肪酸残基」の総称として用いる。
また本明細書において、「脂肪族アルコール組成」とは、全脂肪族アルコールの重量に対する各脂肪族アルコールの重量割合を意味する。脂肪族アルコールの重量(生産量)や脂肪族アルコール組成は、実施例で用いた方法により測定できる。
さらに本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに本明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
非特許文献1では、HglBはアナベナ・エスピーPCC7120株において、窒素固定の場として機能する異質細胞(以下、「ヘテロシスト」(Heterocyst)ともいう)に特異的な糖脂質(heterocyst specific glycolipid;HGL)の生合成に関わるタンパク質であるとされている。ヘテロシストを覆うHGLは、最外層を覆う多糖類との相互作用により酸素の拡散速度を低下させ、細胞内部のニトロゲナーゼを保護する役割を果たしていると考えられている。
HGLは3〜4個の水酸基又はケト基を有する炭素原子数26〜32のアルコールと六炭糖とがエーテル結合により連結した構造を有する。HGLの生合成は、ポリケタイド合成遺伝子様の一連の遺伝子群によって担われていると考えられおり、hglB遺伝子はその遺伝子のうちの1つである。HglBのアミノ酸配列は、N末端側のアセチル-ACPドメインと、C末端側のチオエステルレダクターゼ(thiester reductase、以下「TER」ともいう)様のドメインからなる。遺伝子群のドメイン構造と合成産物の構造より、HglBは他酵素により伸長された長鎖ヒドロキシ-アシル-ACP又は長鎖ケト-アシル-ACPをアルコールに還元する反応を担うと予想されている。
しかしHglBのアミノ酸配列は、同様の反応を担う脂肪酸アシルCoAレダクターゼ(Fatty acyl-CoA reductase、以下「FAR」ともいう)のアミノ酸配列との同一性は低い。さらに、実際にHglBがアルコール還元反応に関与することについて、これまで実証されていなかった。これらに加えて、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない宿主微生物においてHglB又はhglB遺伝子の発現を促進させることで、宿主微生物が長鎖脂肪族アルコールを獲得することについて、何ら報告がされていない。
これに対し、後述の実施例でも示すように、大腸菌(Escherichia coli)やシアノバクテリアなど、元来長鎖脂肪族アルコールの生産能を有さない微生物に対して、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進することで、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与した形質転換体を作製できる。
本発明における好ましいHglBとしては、長鎖ヒドロキシ-アシル-ACP又は長鎖ケト-アシル-ACPに対する基質特異性を有するHglBが好ましい。このようなHglBの具体例としては、下記タンパク質(A)及び(B)が挙げられる。下記タンパク質(A)及び(B)はいずれも、アシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能(以下、「HglB能」)を有する。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質。
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質(タンパク質(A))は、アナベナ・エスピーPCC7120株由来のHglBである。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにHglB能が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNA。
配列番号2の塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列である。
また前記DNA(b)として、前記DNA(a)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上609個以下、好ましくは1個以上533個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上381個以下、より好ましくは1個以上305個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上153個以下、より好ましくは1個以上122個以下、より好ましくは1個以上77個以下、より好ましくは1個以上31個以下、より好ましくは1個以上16個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(b)として、前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
以下本明細書において、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させたものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
本発明の形質転換体のうち、前記hglB遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数18〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜22の飽和長鎖脂肪族アルコール、の生産に好適に用いることができる。
なお、宿主や形質転換体の脂肪族アルコールの生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
前記hglB遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示す塩基配列に基づいて、hglB遺伝子を人工的に合成できる。hglB遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、アナベナ・エスピーPCC7120株からクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。また、使用する宿主の種類に応じて、前記遺伝子の塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。なお、実施例で用いたアナベナ・エスピーPCC7120株は、パスツール研究所カルチャーコレクションより入手することができる。
前記微生物は原核生物、真核生物のいずれであってもよく、エシェリキア(Escherichia)属の微生物やバシラス(Bacillus)属の微生物、シアノバクテリア(藍色細菌)等の原核生物、又は酵母や糸状菌等の真核微生物を用いることができる。なかでも原核生物が好ましく、長鎖脂肪族アルコールの生産能を付与する観点から、エシェリキア属の微生物及びシアノバクテリアがより好ましく、大腸菌又はシアノバクテリアがより好ましい。
シアノバクテリアは多様性に富んでおり、細胞の形状のみを見ても、シネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803株のような単細胞性のもの、ヘテロシストを形成し窒素固定を行うアナベナ・エスピーPCC7120株のように多細胞がヒモ状に繋がっている糸状性のもの、又はらせん状や分岐状のもの等がある。
生育環境についても、別府温泉から単離されたサーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)BP-1のような好熱性のもの、海洋性で沿岸部に生息するシネココッカス・エスピー(Synechococcus sp.)CC9311株、又は外洋に生息するシネココッカス・エスピーWH8102株など、様々な条件に適応した種が見られる。
また、種独自の特徴を持つものとして、ミクロシスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)のように、ガス小胞を持ち毒素を産生することのできるものや、チラコイドを持たず集光アンテナであるフィコビリソームが原形質膜に結合しているグロイオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)PCC7421株、又は一般的な光合成生物のようにクロロフィルaでなくクロロフィルdを主要な(>95%)光合成色素として持つ海洋性のアクリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)なども挙げられる。
シアノバクテリアでは、光合成により固定された二酸化炭素は多数の酵素反応プロセスを経てアセチル-CoAへと変換される。脂肪酸合成の最初の段階は、アセチル-CoAカルボキシラーゼの作用による、アセチル-CoAと二酸化炭素からのマロニル-CoAの合成である。次に、マロニル-CoAがマロニルCoA:ACPトランスアシラーゼの作用によってマロニル-ACPへと変換される。その後、β-ケトアシル-ACPシンターゼの進行的作用時に、炭素単位2個の連続的付加が起こり、炭素が2個ずつ増加した、アシル-ACPが合成され、膜脂質等の合成中間体として利用される。
本発明で好ましく用いることができる発現ベクターとしては、pBluescript(pBS) II SK(-)(Stratagene社製)、pSTV系ベクター(タカラバイオ社製)、pUC系ベクター(タカラバイオ社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,1986,Plasmid 15(2),p.93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、pMW218/219(ニッポンジーン社製)pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、及びIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。
また、導入する遺伝子は宿主微生物におけるコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。
形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。例えば、自然形質転換法、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法、及び接合法が挙げられる。
「発現調節領域」とは、プロモーターやターミネーターを示し、これらの配列は一般に隣接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に前記遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して前記遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。
発現調節領域の改変方法としては、例えばプロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に前記各種遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、前記各種遺伝子の発現を促進させることができる。
前述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの常法に従い行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片と置換され、プロモーターを改変することができる。このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Besher et al.,Methods in molecular biology,1995,vol.47,p.291-302等の文献を参考に行うことができる。
KASは、脂肪族アルコールの前駆体である脂肪酸の合成経路においてアシル基の鎖長伸長に関与する酵素である。KASは、アシル-ACPとマロニルACPとの縮合反応を触媒し、アシル−ACPの合成に関与する脂肪酸合成酵素の1種である。脂肪酸合成経路では一般的に、アセチル-CoAを出発物質とし、炭素鎖の伸長反応が繰り返され、最終的に炭素原子数16又は18のアシル-ACPが合成される。
そのため、HglB又はhglB遺伝子に加えてKASをコードする遺伝子(以下単に、「KAS遺伝子」ともいう)の発現を促進することで、形質転換体の脂肪族アルコールの生産性を一層向上させることができる。
KASはその基質特異性によってKAS I、KAS II、KAS III、又はKAS IVに分類される。KAS IIIは、炭素原子数2のアセチル-CoAを基質とし、炭素原子数2から4の伸長反応を触媒する。KAS Iは、主に炭素原子数4から16の伸長反応を触媒し、炭素原子数16のパルミトイル-ACPを合成する。KAS IIは、主に炭素原子数16から18までの長鎖アシル基への伸長反応を触媒し、長鎖アシル-ACPを合成する。KAS IVは主に炭素原子数6から14の伸長反応を触媒し、中鎖アシル-ACPを合成する。
(C)配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号23で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(G)配列番号25で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
前記タンパク質(C)は、ナンノクロロプシス属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)NIES2145株由来のKASの1つである。
また、ChloroP(http://www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)やtargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)を用いた局在予測より、前記タンパク質(C)は葉緑体局在型のKASであり、N末端側のアミノ酸30〜40残基は葉緑体移行シグナル配列であると考えられる。
さらに、前記タンパク質(C)〜(H)は、主に炭素原子数16から18の長鎖アシル基への伸長反応に関与するKASII型のKASのうち、炭素原子数18以上の長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性を有するKASIIであることが好ましい。なお本明細書において「長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性」とは、主に炭素原子数16以上のアシル-ACPを基質とし、炭素原子数18以上の長鎖アシル-ACP合成の伸長反応を触媒する活性のことをいう。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このようにKAS活性が保持され、かつアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、KAS活性を有し、かつ葉緑体移行シグナル配列が削除されていてもよい。
またタンパク質(D)として、前記タンパク質(C)又は(D)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
またタンパク質(F)として、前記タンパク質(E)又は(F)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
またタンパク質(H)として、前記タンパク質(G)又は(H)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
(c)配列番号22で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号24で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号26で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
配列番号22の塩基配列は、配列番号21のアミノ酸配列からなるタンパク質(ナンノクロロプシス・オキュラータNIES2145株由来のKAS)をコードする遺伝子の塩基配列である。
またDNA(d)として、前記DNA(c)の塩基配列との同一性が60%以上の塩基配列からなり、KAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードし、かつ葉緑体移行シグナル配列をコードする領域の塩基配列が削除されていてもよい。
また前記DNA(d)として、前記DNA(c)又は(d)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
また前記DNA(f)として、前記DNA(e)又は(f)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
また前記DNA(h)として、前記DNA(g)又は(h)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAであってもよい。
また、KAS遺伝子の発現を促進させた形質転換体は、常法により作製できる。例えば、前述のhglB遺伝子の発現を促進させる方法と同様、前記KAS遺伝子を宿主に導入する方法、前記KAS遺伝子をゲノム上に有する宿主において当該遺伝子の発現調節領域を改変する方法、などにより形質転換体を作製することができる。
したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養し、次いで得られた培養物から長鎖脂肪族アルコールを回収すれば、長鎖脂肪族アルコールを効率よく製造することができる。ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいう。
<2>HglBの発現、又はhglB遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物(好ましくは、長鎖脂肪族アルコールの生産能を元来有さない微生物)に付与する方法。
<4>hglB遺伝子を前記微生物に導入し、導入したhglB遺伝子の発現を促進させる、前記<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質。
<6>前記タンパク質(B)が、前記タンパク質(A)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上203個以下、より好ましくは1個以上178個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上102個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上51個以下、より好ましくは1個以上41個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<5>項記載の方法。
<7>前記HglB、好ましくは前記タンパク質(A)及び(B)のいずれか1つ、をコードする遺伝子が、下記DNA(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1種のDNAからなる遺伝子、である、前記<1>〜<6>のいずれか1項記載の方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(b)前記DNA(a)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNA。
<8>前記DNA(b)が、前記DNA(a)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上609個以下、より好ましくは1個以上533個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上381個以下、より好ましくは1個以上305個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上153個以下、より好ましくは1個以上122個以下、より好ましくは1個以上77個以下、より好ましくは1個以上31個以下、より好ましくは1個以上16個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなり、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNA、又は前記DNA(a)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHglB能を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<7>項記載の方法。
<10>前記KASが、炭素原子数16又は18の長鎖アシル-ACPの合成に関与するKAS IIである、前記<9>項記載の方法。
<11>前記KASが、下記タンパク質(C)〜(H)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、好ましくは下記タンパク質(G)及び(H)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質、である、前記<9>又は<10>のいずれか1項記載の方法。
(C)配列番号21で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(D)前記タンパク質(C)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(E)配列番号23で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(F)前記タンパク質(E)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
(G)配列番号25で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(H)前記タンパク質(G)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質。
<12>前記タンパク質(D)が、前記タンパク質(C)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上190個以下、より好ましくは1個以上166個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上118個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上47個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上9個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<11>項記載の方法。
<13>前記タンパク質(F)が、前記タンパク質(E)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上174個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上8個以下、さらに好ましくは1個以上4個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<11>項記載の方法。
<14>前記タンパク質(H)が、前記タンパク質(G)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上183個以下、より好ましくは1個以上160個以下、より好ましくは1個以上137個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上92個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上37個以下、より好ましくは1個以上23個以下、より好ましくは1個以上10個以下、さらに好ましくは1個以上5個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質である、前記<11>項記載の方法。
<15>前記タンパク質(C)〜(H)が、長鎖β-ケトアシル-ACP合成活性(主に炭素原子数16以上のアシル-ACPを基質とし、炭素原子数18以上の長鎖アシル-ACP合成の伸長反応を触媒する活性)を有するKASである、前記<11>〜<14>のいずれか1項記載の方法。
(c)配列番号22で表される塩基配列からなるDNA。
(d)前記DNA(c)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号24で表される塩基配列からなるDNA。
(f)前記DNA(e)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号26で表される塩基配列からなるDNA。
(h)前記DNA(g)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつKAS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<17>前記DNA(d)が、前記DNA(c)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上571個以下、より好ましくは1個以上499個以下、より好ましくは1個以上428個以下、より好ましくは1個以上357個以下、より好ましくは1個以上285個以下、より好ましくは1個以上214個以下、より好ましくは1個以上142個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上71個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNA、又は前記DNA(c)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(C)又は(D)をコードするDNAである、前記<16>項記載の方法。
<18>前記DNA(f)が、前記DNA(e)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上523個以下、より好ましくは1個以上457個以下、より好ましくは1個以上392個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上196個以下、より好ましくは1個以上130個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上13個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNA、又は前記DNA(e)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(E)又は(F)をコードするDNAである、前記<16>項記載の方法。
<19>前記DNA(h)が、前記DNA(g)の塩基配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上549個以下、より好ましくは1個以上480個以下、より好ましくは1個以上412個以下、より好ましくは1個以上343個以下、より好ましくは1個以上275個以下、より好ましくは1個以上206個以下、より好ましくは1個以上138個以下、より好ましくは1個以上110個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上14個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNA、又は前記DNA(g)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKAS活性を有する前記タンパク質(G)又は(H)をコードするDNAである、前記<16>項記載の方法。
<21>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、より好ましくはシネコシスティス属のシアノバクテリアである、前記<20>項記載の方法。
<22>前記hglB遺伝子、又は前記KAS遺伝子及びhglB遺伝子をシアノバクテリアのゲノム上に導入して前記遺伝子の発現を促進させる、前記<20>又は<21>項記載の方法。
<25>hglB遺伝子の発現が前記微生物の細胞内で促進され、HglBの発現が促進されている、前記<24>項記載の形質転換体。
<26>hglB遺伝子又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを含んでなる、微生物の形質転換体。
<27>hglB遺伝子、又はhglB遺伝子を含有する組換えベクターを、宿主微生物に導入する、形質転換体の作製方法。
<28>前記HglBが、前記<5>又は<6>項で規定するタンパク質である、前記<24>〜<27>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<29>前記hglB遺伝子、好ましくは前記タンパク質(A)及び(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質をコードする遺伝子が、前記<7>又は<8>項で規定する遺伝子である、前記<24>〜<28>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<30>前記形質転換体において、KASをコードする遺伝子の発現を促進させた、前記<24>〜<29>のいずれか1項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<31>前記KASが、前記<10>〜<15>のいずれか1項で規定するタンパク質である、前記<30>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<32>前記KASをコードする遺伝子が、前記<16>〜<19>のいずれか1項で規定する遺伝子である、前記<30>又は<31>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<34>前記シアノバクテリアが、シネコシスティス属、シネココッカス属、サーモシネココッカス属、トリコデスミウム属、アカリオクロリス属、クロコスファエラ属、及びアナベナ属からなる群より選ばれるシアノバクテリア、好ましくはシネコシスティス属又はシネココッカス属のシアノバクテリア、より好ましくはシネコシスティス属のシアノバクテリアである、前記<33>項記載の形質転換体、又はその作製方法。
<36>前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコール、好ましくは炭素原子数18〜26の長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール若しくは1価の不飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコール、より好ましくは炭素原子数18〜26の飽和長鎖脂肪族アルコールである、前記<35>項記載の使用。
<38>前記<38>項記載のタンパク質をコードする遺伝子。
<39>前記<7>又は<8>項で規定した、前記DNA(a)又は(b)からなる遺伝子。
<40>前記<38>又は<39>項記載の遺伝子を含有する、組換えベクター。
(1)スペクチノマイシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーpUC118/slr1609up-F及びプライマーSp/slr1609up-Rを用いてPCRを行い、slr1609領域の上流断片(slr1609up断片:配列番号5)を増幅した。また、前記ゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーSp/slr1609down-F及びプライマーpUC118/slr1609down-Rを用いてPCRを行い、slr1609領域の下流断片(slr1609down断片:配列番号8)を増幅した。
さらにpDG1726プラスミド(Guerout-Fleury et al., Gene, 1995, vol. 167, p. 335-336)を鋳型とし、表1記載のプライマーSp-F及びプライマーSp-Rを用いてPCRを行い、スペクチノマイシン耐性マーカー遺伝子断片(Sp断片:配列番号11)を増幅した。
前述の、slr1609up断片、slr1609down断片、及びSp断片をpUC118プラスミド(タカラバイオ社製)のHincIIサイトに、In-Fusion(登録商標)PCRクローニングシステム(Clontech社)を用いて挿入し、pUC118-slr1609::Spプラスミドを取得した。
前記pUC118-slr1609::Spプラスミドを鋳型とし、表1記載のプライマーSpr-F及びプライマーslr1609up-Rを用いてPCRを行い、pUC118-slr1609::Spプラスミドを線状化した。
次に、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノムDNAより、表1記載のプライマーslr1609up/Pcpc560-F及びプライマーPcpc560-Rを用いてPCRを行い、高発現cpc560プロモーター断片(Jie Z et al., Scientific Reports, 2014, vol. 4, p. 4500、Pcpc560断片、配列番号15)を増幅した。
さらに人工合成したhglB遺伝子(配列番号2)を鋳型とし、表1記載のプライマーPcpc560/hglB-fw及びTrbc/hglB-rvを用いてPCRを行い、hglB遺伝子断片を増幅した。
また、シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生型ゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーTrbc-F及びプライマーSp/Trbc-Rを用いてPCRを行い、rbc遺伝子のターミネーター領域(Trbc断片:配列番号20)を増幅した。
得られたpUC118-slr1609::Spプラスミド及びpUC118-slr1609::Pcpc560-hglB-Trbc-Spプラスミドを用いて、自然形質転換法によりシネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、スペクチノマイシン耐性により選抜した。
このようにして、シネコシスティス・エスピーPCC6803株のゲノム上のslr1609をスペクチノマイシン耐性遺伝子で破壊したΔslr1609::Sp株、及びslr1609領域中にhglB遺伝子を導入したΔslr1609::hglB株を取得した。
下記表2に示す組成のBG-11液体培地20mLを加えた50mL三角フラスコ中で、作製例1で作製した形質転換体を14日間培養した。培養は一定の照明下(60μE・m-2・sec-1)、30℃にてロータリーシェーカー(120rpm)を用いて行い、初発菌体濃度をOD730=0.2に設定した。なお形質転換体を培養するBG-11培地には、スペクチノマイシンを25μg/mLの濃度となるよう添加した。
乾固した脂質画分に0.5N KOHメタノール溶液0.7mLを加えて攪拌し、80℃で30分間けん化した。さらに、3フッ化ホウ素メタノール溶液1mLを加え、80℃で10分間メチルエステル化反応を行った。この反応液に、ヘキサン0.2〜0.5mL及び飽和食塩水1mLを加えて攪拌し、室温にて10分間遠心分離した後、上層のヘキサン層を回収した。
まず、ガスクロマトグラフ質量分析解析にて、脂肪酸メチルエステル及びTMS化脂肪族アルコールの同定を行った。ガスクロマトグラフ質量分析解析で得られたクロマトグラフを図1に示す。
なお、ガスクロマトグラフ質量分析の条件を以下に示す。
<ガスクロマトグラフ質量分析解析>
分析装置:7890A GC system(Agilent社製)、5975 Inert XL MSD(Agilent社製)
キャピラリーカラム:DB-1 MS(30m×20μm×0.25μm、J&W Scientific社製)
移動相:高純度ヘリウム
カラム内流量:1.0mL/min
昇温プログラム:100℃(1分)→12.5℃/分(200℃まで)→5℃/分(250℃まで)→250℃(9分)
平衡化時間:0.5分
注入口:スプリット注入(スプリット比:0.1:1)
圧力:55.793 psi
注入量:5μL
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム
検出器温度:350℃
よって、HglB又はhglB遺伝子の発現を促進させることで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を獲得した形質転換体、又は長鎖脂肪族アルコールの生産性が向上した形質転換体を作製できる。そしてこの形質転換体を培養することで、長鎖脂肪族アルコールの生産性を向上させることができる。
Claims (10)
- 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子の発現を促進させた微生物を培養し、長鎖脂肪族アルコールを生産する方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子の発現を微生物の細胞内で促進させる、長鎖脂肪族アルコールの生産能を微生物に付与する方法。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子を前記微生物に導入し、導入した前記遺伝子の発現を促進させる、請求項1又は2記載の方法。
- 前記微生物が大腸菌又はシアノバクテリアである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記シアノバクテリアが、シネコシスティス(Synechocystis)属又はシネココッカス(Synechococcus)属のシアノバクテリアである、請求項4記載の方法。
- 前記長鎖脂肪族アルコールが炭素原子数18以上の長鎖脂肪族アルコールである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
- 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子の発現が促進されている、微生物の形質転換体。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。 - 下記タンパク質(A)又は(B)をコードする遺伝子若しくは当該遺伝子を含有する組換えベクターを含んでなる、微生物の形質転換体。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)前記タンパク質(A)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシル-ACPを還元して脂肪族アルコールを合成する機能を有するタンパク質。 - 前記微生物が大腸菌又はシアノバクテリアである、請求項7又は8に記載の形質転換体。
- 前記シアノバクテリアが、シネコシスティス(Synechocystis)属又はシネココッカス(Synechococcus)属のシアノバクテリアである、請求項9記載の形質転換体。
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