JP2018143137A - ペプチドアプタマー,ペプチド及び多糖検出試薬 - Google Patents

ペプチドアプタマー,ペプチド及び多糖検出試薬 Download PDF

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朱喜 村松
修 岩田
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修 岩田
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健吾 鈴木
尊規 鵜澤
Takanori Uzawa
尊規 鵜澤
いづみ 河野
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いづみ 河野
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Abstract

【課題】合成が容易で、一種類又は複数種類の多糖に対して特異的結合性を有するペプチドアプタマー,ペプチド及び多糖検出試薬の提供。【解決手段】少なくとも一種類の多糖に対して特異的親和性を有するペプチドアプタマーである。蛍光物質が連結された少なくとも一つのアミノ酸を含むアミノ酸配列からなり、モノアイソトピック質量(monoisotopic mass)にH+を加算して得た分子量が8000以下であって、アミノ酸残基数が30以下であるアミノ酸配列又はその逆鎖を含み、少なくとも一種類の多糖に対して特異的親和性を有するペプチド。【選択図】図13

Description

本発明は、標的分子に特異的に結合するペプチドアプタマー,ペプチド及び多糖検出試薬に関する。
多糖類と特異的に結合し、その結合により蛍光強度が増加する蛍光剤が知られている。
特許文献1には、検体中の(1→3)-β-D-グルカンと結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけて測定するための(1→3)-β-D-グルカン測定剤が提案されている。
特許文献1の(1→3)-β-D-グルカン測定剤は、分子量が20〜40kDaのタンパク質に蛍光物質が結合してなり、検体と混合して検体中の(1→3)-β-D-グルカンと本発明物質とを結合させ、当該結合によってタンパク質に結合している蛍光物質の蛍光偏光度の変化を捕らえ、該変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを結びつけることにより検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度の測定に使用することができ、例えば医療現場において真菌症の診断薬や、真菌症の診断キットとして使用できる。
また、特許文献2には、対照となる多糖は、β-(1,3)(1,4)-D-グルカンと特異的に結合し、その結合により蛍光強度が増加する蛍光剤であるCalcofluorを用いたβ-(1,3)(1,4)-D-グルカンの測定法が提案されている。
特開2003−155298号公報 特開平7−248297号公報
しかし、特許文献1の発明では、測定対象が、真菌細胞壁の構成成分である(1→3)-β-D-グルカンであり、特許文献2の発明では、真菌や他の生物体の細胞壁に含まれるセルロースやキチンと結合する非特異的蛍光染料であるCalcofluorを用いており、測定対象が、大麦をはじめとする穀類や麦芽,麦汁,ビールなどに含まれるβ-グルカンであって、測定対象が限られていた。
多糖類には、免疫賦活作用や抗癌作用,抗菌作用等の機能性を備えるものが多種知られており、多糖類における新たな機能性探求研究や、機能性を有する多糖類を生細胞中で増加させる研究に期待が寄せられており、多糖類における研究に用いることが可能な、多糖類に結合特異性を有するプローブが求められている。
しかし、一般に、糖鎖に対する抗体は作製しにくいことが知られている。多糖類に結合して蛍光を発生するプローブは、多くの多糖類については知られておらず、特許文献1,2のように、特定の多糖に対して結合可能な蛍光発生プローブが知られていただけであった。また、特定の多糖に対して蛍光発生プローブが知られていたとしても、特許文献1のように、分子量が大きく、合成や取扱いに不便であるものが多かった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、合成が容易で、一種類又は複数種類の多糖に対して特異的結合性を有するペプチドアプタマー,ペプチド及び多糖検出試薬を提供することにある。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく研究を重ねた結果、少なくとも一種類以上の多糖に特異的に結合するペプチドアプタマーを創製することに成功した。
すなわち、前記課題は、請求項1によれば、少なくとも一種類の多糖に対して特異的親和性を有するペプチドアプタマーにより解決される。
蛍光物質が連結された少なくとも一つのアミノ酸を含むアミノ酸配列からなり、モノアイソトピック質量(monoisotopic mass)にH+を加算して得た分子量が8000以下であって、アミノ酸残基数が30以下であってもよい。
このように、本発明は、ペプチドアプタマーからなるため、多糖を標的物質として特異的に結合する標的物質結合性物質を、ペプチドアプタマーの優位点を備えたものとすることができる。つまり、本発明のペプチドアプタマーは、分子量が小さいため、取り扱いや微生物への導入が容易であり、また、化学合成が容易なため、安価で安定してin vitroでの大量合成が可能である。さらに、化学合成の際に多様な修飾・改変が可能で、他の化合物とのコンジュゲートが容易である。また、抗体に匹敵する特異性と親和性を有する。
更に、糖鎖に対する抗体は作製しにくいが、本発明は、ペプチドアプタマーから構成しているため、種々の糖鎖に対する標的物質結合性物質の提供が可能となったものである。
また、前記課題は、請求項3によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含み、少なくとも一種類の多糖に対して特異的親和性を有により解決される。
前記多糖は、ホモ多糖又はヘテロ多糖であってもよい。
モノアイソトピック質量(monoisotopic mass)にH+を加算して得た分子量が8000以下であってもよい。
下記(a)又は(b)のいずれかのアミノ酸配列又はその逆鎖を含んでいてもよい。
(a)配列番号2〜11で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号2〜11で示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失,置換又は付加されたアミノ酸配列
下記(a)又は(b)のいずれかのアミノ酸配列又はその逆鎖を含み、ユーグレナ由来のパラミロンに対して特異的親和性を有するものであってもよい。
(a)配列番号9又は10で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号9又は10で示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失,置換又は付加されたアミノ酸配列
このように構成しているため、従来知られていなかった、パラミロンを標的物質として特異的に結合する標的物質結合性物質の実現が可能となった。
前記ペプチドを含有してなる、少なくとも一種類の多糖を検出するために用いられる多糖検出試薬であってもよい。
本発明によれば、ペプチドアプタマーからなるため、多糖を標的物質として特異的に結合する標的物質結合性物質を、ペプチドアプタマーの優位点を備えたものとすることができる。つまり、本発明のペプチドアプタマーは、分子量が小さいため、取り扱いや微生物への導入が容易であり、また、化学合成が容易なため、安価で安定してin vitroでの大量合成が可能である。さらに、化学合成の際に多様な修飾・改変が可能で、他の化合物とのコンジュゲートが容易である。また、抗体に匹敵する特異性と親和性を有する。
更に、糖鎖に対する抗体は作製しにくいが、本発明は、ペプチドアプタマーから構成しているため、種々の糖鎖に対する標的物質結合性物質の提供が可能となったものである。
また、従来知られていなかった、パラミロンを標的物質として特異的に結合する標的物質結合性物質の実現が可能となった。
マイクロフルイディックホトポレーションにおいて用いられるマイクロ流体デバイスの構成を示す説明図である。 本発明の実施例に係るペプチドアプタマーの合成において用いるNBD-C6-アミノフェニルアラニル-tRNA (NBDaa-tRNA)の合成プロセスを示す説明図である。 本発明の実施例に係る配列番号2(4Rd-1)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号3(4Rd-2)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号4(4Rd-3)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号5(4Rd-4)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号6(4Rd-5)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号7(7Rd-1)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号8(7Rd-2)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号9(7Rd-3)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号10(7Rd-4)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係る配列番号11(7Rd-5)のペプチドアプタマーを、9種類の多糖と結合させた試験における蛍光観察画像と、多糖を含まずペプチドアプタマーを含む場合における蛍光観察画像を示す写真である。 本発明の実施例に係るペプチドアプタマーと、9種類の不溶性の多糖及び8種類の可溶性の多糖との結合特異性の評価結果を示す表である。 本発明の実施例に係るペプチドアプタマーを、ユーグレナに導入したときの蛍光観察画像を示す写真である。 試験例3において、糖添加工程後、ユーグレナ生細胞の運動停止の効果が現れるまでの時間を測定した結果を概念的に示すグラフである。 試験例4において、ユーグレナ生細胞培養液中にマンニトールを異なる最終濃度となるよう添加後、運動停止の効果があるまでの時間の濃度依存性を示すグラフである。 試験例5において、糖添加工程後、各微細藻類生細胞の運動停止の効果が現れるまでの時間を測定した結果を概念的に示すグラフである。 試験例6において、遊走するユーグレナ生細胞を含む培養液に種々の糖を0.5mol/lになるように添加してその運動を止めたのち、自発的に運動を再開するユーグレナ生細胞の比率を経時的にプロットしたグラフである。 試験例7において、遊走するユーグレナ生細胞を含む培養液にマンニトールを0.5mol/lになるように添加してその運動を止めたのち、マンニトールを含まない培養液に再懸濁した場合における運動を再開するユーグレナ生細胞の比率を経時的にプロットしたグラフである。 標的ユーグレナ生細胞への蛍光標識アプタマーの導入例を示す写真であって、(A)は、蛍光標識アプタマーが導入されたユーグレナ生細胞の透過光像、(B)は、蛍光標識アプタマーが導入されたユーグレナ生細胞の蛍光像である。 試験例8において、ユーグレナ生細胞の、レーザー照射直後2分以内(0h),1時間後(1h),6時間後(6h),10時間後(10h)の蛍光画像である。
以下、本発明の一実施形態に係る多糖に特異的に結合するペプチドについて説明する。
なお、本明細書において、「不溶性」とは、水性溶媒に難溶又は不溶であることをいう。また、「可溶性」とは、水性溶媒に易溶であることをいう。
[多糖に特異的に結合するペプチド]
本実施形態のペプチドは、ペプチドアプタマーからなる。
ペプチドアプタマーとは、アプタマーのうち、ペプチドから構成されるものをいい、ある標的分子に対して特異的に結合する人工ペプチドの総称である。
ペプチドアプタマーは、膨大な配列ライブラリから、進化工学的手法で、特定の標的分子に結合する可能性のある配列を探索することによって得られる、標的物質に対する特異性及び親和性を有する標的物質結合性物質である。
標的分子に対して特異的に結合するペプチドアプタマーは、ランダムポリペプチドをコードするDNAからランダムポリペプチドを発現させ、それを標的分子と接触させ、標的分子と特異的に結合するものを選択し、それをコードするDNAを増幅するというサイクルを繰り返してペプチドアプタマーをスクリーニングすることが行われている。
このようなスクリーニングには、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイなどの手法が採用されている。このようなディスプレイ技術を利用したスクリーニング法によって選択されたポリペプチドは、そのアミノ酸配列をコードする遺伝情報を伴っているので、選択されたポリペプチドはそれをコードする遺伝情報に基づいて、直ちに遺伝子工学的に大量に複製可能である。またアミノ酸配列についても、遺伝情報を解析することによって、容易に明らかにすることができる。
一般にペプチドアプタマーは、抗体と類似の結合機能を発現する。しかし、ペプチドアプタマーは、抗体の分子量が150kDa程度であるのに対し、1〜10kDaと分子量が小さい点、抗体が生体内の免疫システムで生物学的に生成されるのに対し、試験管内での化学合成が可能であって、生産コストが低い点、合成において多様な修飾が可能なため、耐環境性(安定性)の付与が可能である点などにおいて、抗体よりも優れた性質を有している。更に、抗体は、糖鎖に特異的に結合する抗体を作製し難く、種々の多糖類に特異的に結合する抗体は知られていない。
本実施形態のペプチドは、配列番号1:
Met-Thr-Thr-Cys-Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5-Xaa6-Xaa7-Xaa8-Xaa9-Xaa10-Xaa11-Cys-Ser-Trp
で示されるアミノ酸配列を含む非天然の合成ペプチドである。
ここで、Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示し、Xaa1〜Xaa5及びXaa7〜Xaa11は、任意のアミノ酸又はニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンをそれぞれ示す。
配列番号1のアミノ酸配列としての具体的な例には、例えば、配列番号2〜11のアミノ酸配列が挙げられ、それぞれが、1種類以上の多糖に対する特異的結合性を有し、それらの多糖を検出するバイオセンサー又は試薬として利用可能である。
配列番号2
Met-Thr-Thr-Cys-Gly-Val-Met-Ser-Xaa12-Xaa6-Val-Trp-Lys-Lys-Val-Cys-Ser-Trp
(Xaa6,Xaa12は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において4Rd-1と呼ぶこともあり、アミロース、不溶性アミロペクチン、可溶性アミロペクチン、グリコーゲン、不溶性ラミナリン、キチン、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩、可溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム、コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム、ペクチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、アミロース、不溶性アミロペクチン、可溶性アミロペクチン、グリコーゲン、キチン、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩、可溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム、コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム、ペクチンに対して高い特異的結合性を有する。
配列番号3
Met-Thr-Thr-Cys-Tyr-Phe-Leu-Pro-Gly-Xaa6-Arg-Trp-Leu-Ile-Met-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において4Rd-2と呼ぶこともあり、不溶性アミロペクチン、微結晶セルロース、カードラン、不溶性ラミナリン、キチン、不溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム、不溶性コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム、ペクチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、不溶性アミロペクチン、微結晶セルロース、カードラン、キチン、不溶性コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム、ペクチンに対して高い特異的結合性を有する。
配列番号4
Met-Thr-Thr-Cys-Xaa13-Val-Arg-Xaa14-Arg-Xaa6-Ser-Arg-Val-Arg-Leu-Cys-Ser-Trp
(Xaa6,Xaa13,Xaa14は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において4Rd-3と呼ぶこともあり、アミロース、不溶性及び可溶性アミロペクチン、グリコーゲン、微結晶セルロース、カードラン、不溶性ラミナリン、キチン、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩、不溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム、コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム、ペクチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、アミロース、不溶性及び可溶性アミロペクチン、グリコーゲン、微結晶セルロース、カードラン、キチン、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩、不溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム、コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム、ペクチンに対して高い特異的結合性を有する。
配列番号5
Met-Thr-Thr-Cys-Asn-Val-Gly-Trp-Arg-Xaa6-Arg-Xaa15-Ser-Leu-Leu-Cys-Ser-Trp
(Xaa6,Xaa15は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において4Rd-4と呼ぶこともあり、微結晶セルロース、カードラン、可溶性ラミナリン、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩、コンドロイチン硫酸A,Cナトリウムに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
配列番号6
Met-Thr-Thr-Cys-Leu-Val-Asp-Ala-Arg-Xaa6-Gly-Phe-Trp-Trp-Cys-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において4Rd-5と呼ぶこともあり、キチン、ペクチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、ペクチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
配列番号7
Met-Thr-Thr-Cys-Trp-Phe-Ser-Leu-Asp-Xaa6-Gly-Leu-Leu-Ile-Arg-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において7Rd-1と呼ぶこともあり、キチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
配列番号8
Met-Thr-Thr-Cys-Ser-Trp-Met-Val-Val-Xaa6-Ala-Trp-Arg-Arg-Ser-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において7Rd-2と呼ぶこともあり、アミロース、微結晶セルロース、不溶性ラミナリン、キチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、キチンに対して高い特異的結合性を有する。
配列番号9
Met-Thr-Thr-Cys-Ala-Arg-Arg-Phe-Arg-Xaa6-Ile-Gly-Trp-Arg-Phe-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において7Rd-3と呼ぶこともあり、不溶性アミロペクチン、パラミロン、カードラン、キチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
配列番号10
Met-Thr-Thr-Cys-Lys-Leu-Val-Arg-Gly-Xaa6-Val-Thr-Leu-Trp-Trp-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において7Rd-4と呼ぶこともあり、不溶性アミロペクチン、微結晶セルロース、パラミロン、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩に対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、微結晶セルロース、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩に対して高い特異的結合性を有する。
配列番号11
Met-Thr-Thr-Cys-Trp-Thr-Pro-Ser-Trp-Xaa6-Val-Arg-Leu-Val-Ile-Cys-Ser-Trp
(Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。)
のアミノ酸配列を有するペプチドは、本明細書において7Rd-5と呼ぶこともあり、微結晶セルロース、不溶性ラミナリン、キチンに対して特異的結合性を有し、これらの多糖を検出する試薬として利用可能である。
これらの多糖の中でも特に、微結晶セルロース、キチンに対して高い特異的結合性を有する。
但し、少なくとも一種類の多糖への特異的な結合能が保持される(例えば、改変前の90%以上)限り、配列番号2〜11において、1又は2個のアミノ酸の置換,欠失,挿入または付加を有するものであってもよい。
つまり、配列番号1〜11のペプチドは、18個のアミノ酸残基を含んでいるため、本実施形態のペプチドは、16〜20個のアミノ酸残基が連結されてなる。
配列番号2のペプチドの分子量は2721.2であり、配列番号3のペプチドの分子量は2545.1であり、配列番号4のペプチドの分子量は3167.5であり、配列番号5のペプチドの分子量は2788.2であり、配列番号6のペプチドの分子量は2502.0であり、配列番号7のペプチドの分子量は2469.1であり、配列番号8のペプチドの分子量は2527.1であり、配列番号9のペプチドの分子量は2614.2であり、配列番号10のペプチドの分子量は2507.2であり、配列番号11のペプチドの分子量は2506.2である。これらの分子量は、モノアイソトピック質量(monoisotopic mass)にH+を加算したものである。
従って、本実施形態のペプチドは、分子量が、8000以下、好ましくは5000以下、好ましくは4000以下、更に好ましくは3500以下、更に好ましくは3200以下であって、1000以上、好ましくは1500以上、更に好ましくは1800以上である。例えば、抗体である免疫グロブリンの総分子量は約15万であり、生物学的に培養して生産される抗体と比しても、本実施形態のペプチドは、極めて小さい分子量を有する。従って、化学合成による生産も短時間で容易に行うことができ、細胞内への導入などにおける取扱いも容易である。
配列番号1〜11において、Xaa6は、NBD(ニトロベンゾオキサジアノール)アミノフェニルアラニンからなる蛍光色素である。
NBDは、一つの測定例として、親水性環境下では、励起波長472nm、最大蛍光波長536nmである。ペプチドによって異なるが、実際にペプチドにNBDを結合させた場合の最大蛍光波長は、530nm付近である。
[用途:標的物質の検出]
本実施形態のペプチドは、標的物質の検出のための結合誘起蛍光発生プローブとして用いられる。より具体的には、多糖又は糖鎖を検出するための多糖検出試薬として用いることができる。
つまり、試験研究等において、細胞に導入されて、又は、試験管内にてin vitroにて、本実施形態のペプチドを標的物質に特異的に結合させ、472nm付近の励起光により、蛍光観察又は解析することにより、標的物質の検出を行う。
例えば、細胞内の標的物質の解析を行うことにより、所望の性質を有する標的物質を含む個体を抽出することなどが可能である。
[標的物質:多糖類]
本実施形態のアプタマーが特異性及び親和性を有する標的物質は、多糖類又はその糖鎖である。
多糖類は、単糖のみがグリコシド結合した単純多糖と、糖質以外の成分を含む複合多糖とに大別される。
単純多糖のうち、同一糖の単糖だけからなる多糖であるホモ多糖,構成単糖が2種類以上であるヘテロ多糖の双方を含む。
ホモ多糖としては、例えば、α−1,4−グルカン,β−1,4−グルカン,β−1,3−グルカン,β−1,4−(N−アセチル)グルコサミンが含まれる。
α−1,4−グルカンには、アミロース,アミロペクチン,グリコーゲンが含まれる。
β−1,4−グルカンには、セルロースが含まれる。
β−1,3−グルカンには、パラミロン,カードラン,ラミラリンが含まれる。
β−1,4−(N−アセチル)グルコサミンには、キチンが含まれる。
ヘテロ多糖としては、ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸A,コンドロイチン硫酸A,C,ヘパリン酸及びこれらの塩(例えばナトリウム塩),ペクチンが含まれる。
[真核生細胞へのペプチドアプタマーの導入]
以下、真核生細胞に、ペプチドアプタマーを導入する方法について、説明する。
以下の方法は、自立運動能を有する真核生細胞の自発的な運動を、一時的に停止させて、ペプチドアプタマーの導入等の細胞操作を行う方法である。
<<真核生細胞>>
真核生細胞は、自発的な運動を行う自立運動能を有する運動性の真核細胞の生細胞である。
本明細書において「自立運動能」及び「運動性」とは、自発的な運動を行う性質を備えていることをいう。自発的な運動には、遊走,及びソーマ自体を変形させ、細胞体を回転させながらくねらせるすじりもじり運動を含む。
また、「真核細胞」とは、静止期(G0)において、核膜に包まれた核を持つ細胞をいう。
運動性の真核細胞の生細胞としては、代表的には、微細藻類,鞭毛藻類が含まれる。
具体的には、ユーグレナ藻網のユーグレナ,緑藻綱に属するクラミドモナス(和名:コナミドリムシ),ヘマトコッカス等を用いることができる。
ユーグレナ細胞としては、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株由来のβ−1,3−グルカナーゼ、Euglena intermedia, Euglena piride、及びその他のユーグレナ類、例えばAstaia longaであってもよい。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。
ユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え,形質導入,形質転換等により得られたものも含有される。
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)は、鞭毛を2本持つおよそ10μmの楕円形の単細胞緑藻である。水田や土壌中に生息し、光合成をする。野生株,変異株,雄株(mt-)及び雌株(mt+)のいずれも、真核生細胞として用いることができる。
ヘマトコッカス(Haematococcus pluvialis)は、単細胞の淡水生微細藻類である。冷涼で、弱光、栄養塩類の豊富な好適環境下では、2本の鞭毛を持った変形能のある遊泳型細胞の形態をとる。この遊走子状の細胞は、培養初期の活発な生育期にある培養液に多く見られ、株にもよるが、通常20〜30μm程度の大きさで、泳ぎ回りながら、分裂を行い、栄養増殖を行う。
<<操作方法>>
真核生細胞操作法では、真核生細胞を含む培養液に、糖を添加する糖添加工程と、糖添加工程により運動を停止した真核生細胞に、細胞操作を行う操作工程と、細胞操作を行った真核生細胞を用いて、真核生細胞の観察,画像解析又は培養,育種等を行う後工程と、を行う。
また、操作工程の後、後工程中又は後工程後の任意の時点において、糖添加工程に起因して運動を停止していた真核生細胞の運動が復活する、運動再開が起こる。
〇 糖添加工程
まず、糖添加工程では、真核生細胞を、糖を含む溶液に曝す。真核生細胞を糖を含む溶液に曝す方法としては、真核生細胞を含む培養液に、糖を添加してもよいし、真核生細胞の培養液を、糖を含まない溶液から糖を含む溶液に交換することにより行ってもよい。
培養液としては、窒素源,リン源,ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液を用い、真核生細胞の種類に応じて一般的に用いられる培養液を適宜選択することができる。
真核生細胞がユーグレナの場合、例えば、改変Cramer-Myers培地((NHHPO 1.0g/L,KHPO 1.0g/L,MgSO・7HO 0.2g/L,CaCl・2HO 0.02g/L,Fe(SO・7HO 3mg/L,MnCl・4HO 1.8mg/L,CoSO・7HO 1.5mg/L,ZnSO・7HO 0.4mg/L,NaMoO・2HO 0.2mg/L,CuSO・5HO 0.02g/L,チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L,シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。また、そのほか、ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、(株)学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地,Koren-Hutner培地を用いてもよい。
ユーグレナ培養液のpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
糖としては、D-マンニトール,キシリトール等の糖アルコール,グルコース,フルクトース,キシロース,マンノース等の単糖,スクロース,トレハロース等の二糖,オリゴ糖などを用いることができる。
これらの糖の中でも、グルコース,フルクトース,キシロース,マンノース等の単糖,D-マンニトール,キシリトール等の単糖の糖アルコール,スクロース,トレハロース等の二糖が、好適に用いられる。
また、糖は、これらの糖の一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上の糖を混合して用いてもよい。
本糖添加工程では、真核生細胞を糖を含む溶液に曝す方法として、真核生細胞を含む培養液に、糖を添加することにより行うことができる。
糖は、0.1mol/lないし1mol/lの終濃度で培養液に添加する。濃度が0.1 mol/l以下では真核生細胞の動きを止める効率が悪く、また、一時的に停止した真核生細胞も短時間のうちに遊走を再開するので0.1 mol/l以上の濃度に真核生細胞を曝すのが実用的である。他方、マンノースなどは溶解度がほぼ1mol/lであるためこれが実質的な上限となる。他の糖類ではさらに溶解度の高いものもあるが、1mol/lより高濃度では細胞遊走の復活が見られなかったり細胞の運動が変質したりするため、1mol/l以下の濃度とすると好ましい。
但し、糖濃度は細胞の使われ方によりその最適濃度域が異なる。遊走や細胞の動きを短時間止めるには、加える糖の濃度範囲を0.1 mol/lから0.5 mol/lにする事で達成され、長時間止めるには0.5 mol/lから1 mol/lの濃度になるように添加することで達成される。
真核生細胞を含む培養液に、糖を添加すると、直ちに鞭毛による遊走機能が停止するとともに、ユーグレナに特有な細胞体を回転させながらくねらす、すじりもじり運動を停止する細胞が現れる。運動を停止する細胞の割合は糖に曝露する時間とともに増加して、糖を投入した後10秒〜8分で、培養液中のほぼすべての真核生細胞が運動を停止する。
また、真核生細胞の培養液への糖の添加を、真核生細胞の培養液を、糖を含まない溶液から糖を含む溶液に交換することにより行ってもよい。
溶液の交換は、真核生細胞を含有する培養液を、数百Gないし10000G程度で遠心することで、浮遊している真核生細胞を沈殿させたのち、上澄みを、糖を含む培養液で交換することで達成される。
〇 操作工程及び後工程
次いで、糖添加工程により運動を停止した真核生細胞に、目的の細胞操作を行う操作工程を行う。
この操作は、真核生細胞の非破壊検査であったり、外来性遺伝子のような外来性機能成分子の導入であったり、標的細胞の分離分取であったりする。
ここで非破壊検査とは、主に解析に必要な画像取得の工程を示し、真核生細胞の透過光学顕微鏡画像、自家蛍光画像、蛍光標識画像、蛍光寿命画像、蛍光エネルギー移動画像、顕微核磁気共鳴画像、原子間力顕微鏡画像などを含む。
蛍光標識画像の取得には、真核生細胞の標的物質に結合する蛍光標識抗体や蛍光標識アプタマーで外標的物質を反応させる工程と反応した標的物質を蛍光顕微鏡や共焦点蛍光顕微鏡で画像を取得する工程からなる。
蛍光寿命画像取得には、真核生細胞に所定の外来性蛍光分子を導入する工程とその蛍光寿命を画像として得る工程からなる。ここでは、外来性系高分子を導入する代わりに、真核生細胞内のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドやフラビンアデニンジヌクレオチドのような分子の自家蛍光物質の分布を画像化しても良い。
同様に、蛍光エネルギー移動画像では、エネルギー移動を起こすことで、蛍光波長が変化する2種以上の蛍光分子を真核生細胞内に導入し、標的分子の構造が変化したり反応が起きたりすることに伴い蛍光分子の距離が変化することによる蛍光波長とその強度の変化を画像化する工程を含むことで達成される。
いずれの方法も、糖添加工程を通じて真核生細胞の動きを停止させた間に画像を取得することで、歪みやノイズの少ない高精細画像が得られるので、真核生細胞の構造や真核生細胞内の特異的分子の分布を詳細に検討することができるようになる。2次元及び3次元の細胞画像取得が可能である。真核生細胞の動きを止めることで、遊走性真核生細胞を生きたまま実質的に特定位置に固定できるので、時間のかかる原子間力顕微鏡像や顕微核磁気共鳴画像も得ることが可能になる。
操作工程では、培養液から少量の培養液を取り出すことにより真核生細胞を分離した後、真核生細胞の単一細胞に遺伝子,機能性高分子,ナノ粒子,細胞,標識抗体等の外因性物質を物理的に導入する操作を行う。この外因性物質を物理的に導入する操作は、生細胞の単一細胞一つ一つに対して行う操作であって、遊走やすじりもじり運動をしている生細胞に対して施すことが難しい操作である。
操作としては、例えば、公知のマイクロインジェクション,ホトポレーション,シングル・セルエレクトロポレーション,細胞レベルのマイクロサージェリー,パッチクランプ法等により、真核生細胞に遺伝子,機能性高分子,ナノ粒子,細胞,標識抗体等の外因性物質を挿入する操作や、単一細胞単位での観察,画像解析等を行う。
細胞操作工程の後は、細胞操作を行った真核生細胞を用いて、真核生細胞の観察,画像解析又は培養,育種等を行う後工程を行う。
マイクロインジェクションとは、微小ガラス管を用いて目的の外因性物質を細胞内に注入する方法である。
真核生細胞に対するマイクロインジェクションは、次の手順で行う。
真核生細胞を含む培養液の試料をプレートに入れ、このプレートを顕微鏡ステージに置き、顕微鏡下マイクロマニピュレータにより、先端の外径を1〜2μmにしたガラス管を操作して、インジェクションを行う対象となる真核生細胞に差し込み、細胞内に目的物質を注入する。
ホトポレーションとは、フェムト秒レーザーパルスを細胞膜に集光することで細胞膜あるいはその近傍の分子が多光子吸収を起こしてアブレーションを起こす現象を利用して、単一細胞に遺伝子,機能性高分子等の外因性物質を物理的に導入する方法である。
ホトポレーションでは、細胞を透過型顕微鏡で観察しながら、実質的に細胞の縁にレーザーパルスを集光することで、より確実な細孔形成とそこからの外来性物質の導入が可能となる。
ホトポレーションに用いるレーザーパルスのパルスレーザーの波長は、600ないし1600nm、望ましくは650ないし1350nm、より望ましくは700ないし1100nmの範囲である。いわゆるバイオロジカルウインドウにあたる750から1350nmのパルスレーザー光を用いることで、細胞への負荷を最小限にすることができる。これ以下の波長のレーザーで多光子吸収に依存するアブレーションを誘起させると、細胞質の電子伝達系に係るヘミキノンなどの吸収バンドにかかるため、細胞の予測不能な生化学変化を引き起こしかねない。また、これ以上の波長のレーザーでは、水のOH振動が誘起されるので、高強度レーザーでは、温度上昇による細胞のダメージを防げない。
ホトポレーションに用いるレーザーパルスのパルスエネルギーは、細胞膜のアブレーションを引き起こすにわずかに高いエネルギーが好ましい。加えるエネルギーが高すぎると、細胞膜の細孔から細胞質が漏洩する問題が生じる。開ける穴はいわゆる貫通孔である必要はなく、分子レベルで所定の高分子が通過できれば良いので、これは20GJcm-2s-1程度のエネルギーを持つ800nm程度のレーザーパルスで達成される。多くの細胞で、10ないし40GJcm-2s-1のエネルギーが有効である。
使用するパルスレーザーのレーザーパルスエネルギーは、集光位置で1nJないし10μJμm-2、望ましくは1nJないし200nJμm-2であるとよい。
また、パルスレーザーの照射位置が、実質的に顕微投影画像で見える細胞膜の位置、具体的には、細胞の細胞外液と基盤の接触面ないし概接触面から細胞内2μmであるとよい。
レーザーパルス幅は、10fsないし100ps、望ましくは10fsないし1ps、より望ましくは10fsないし500fsであるとよい。
ホトポレーションは、以下の手順により行う。
遺伝子等の目的の外因性物質と真核生細胞を含む培養液の試料をプレートに入れ、このプレートを倒立顕微鏡のステージに置き、750から1350nmの高出力フェムト秒チタンサファイアパルスレーザーを倒立顕微鏡に導き、20〜100倍等の対物レンズを用いて、顕微鏡の結像面に集光し、パルスを照射する。
シングル・セルエレクトロポレーションは、短パルスの電流を利用して、DNAやRNAなどの高分子を個々の細胞内に導入する技術である。細胞を電気パルスにさらすと細胞膜に一時的に孔が形成され、高分子はこの孔を通過して細胞内に入り込むと考えられている。
シングル・セルエレクトロポレーションの実験手順は、Journal of Microbiological Methods 130 (2016) 106-111に記載された方法に従って行うことができる。
具体的には、まず、ユーグレナの培養を、KH培地(Koren and Hunter 培地)にて行う。
蛍光プローブを10-20μMの濃度となるよう、PBS(pH 7.4)で観察し、顕微鏡にセットされたエレクトロポレーターのマイクロピペットマニピュレーターのチップにセットする。顕微鏡下で対象の細胞を探し、チップ先端を対象の細胞膜に接触させ、5-20Vの電圧で、30-500ms、1-5Hzの発振周波数で1-5秒の間に操作を行い、電気的に開けた穿孔から蛍光プローブを注入する。
ホールセルパッチクランプ法とは、細胞膜に微小ガラス電極をギガオーム以上の高抵抗で密着させた後、さらに吸引することでガラス電極が密着している部分の細胞膜に穴をあけ、全細胞膜を流れるイオン電流を記録する方法をいう。パッチクランプ法によりあけた細胞膜の穴を通して、細径のガラス管等を用いて、遺伝子等の目的の外因性物質を導入する。
外因性物質としては、遺伝子,機能性高分子,細胞,標識抗体,ナノ粒子等が含まれる。
・遺伝子及び機能性高分子
外来性物質として、真核生細胞とは異なる種の生物に由来する遺伝子や、合成された遺伝子、ペプチド等の機能性高分子を用いることができる。
遺伝子や機能性高分子を真核生細胞に導入することにより、形質転換体を作製するなど、細胞の改変が可能である。また、遺伝子や機能性高分子が導入された真核生細胞は、後工程で、培養を行い、有用物質の産生能力や、特定の環境への適応能力など、獲得した能力を発揮させることができる。
・細胞
外来性物質として、真核生細胞とは異なる種の細胞の全部や細胞の一部を用いることができる。細胞の一部としては、タンパク質,核酸,遺伝子糖が挙げられる。また、「真核生細胞とは異なる種の細胞の全部や細胞の一部」には、天然のもののほか、人工的に合成されたものも含む。
細胞を真核生細胞に導入することにより、細胞融合が可能となり、細胞共生の再現や、他種の細胞の形状や機能を獲得することによって、細胞の機能改変が可能である。また、細胞融合によって機能改変した細胞を用いて、操作工程の後の後工程で、培養,育種等を行ってもよい。ここで、育種とは、生物を遺伝的に改良することをいう。
・標識抗体
外来性物質として、標識抗体を導入してもよい。
標識抗体としては、細胞質の標的分子やオルガネラを標的とする蛍光抗体や蛍光アプタマーを用いることができる。アプタマーとは、特定の分子と特異的に結合する核酸分子やペプチドであって、進化分子工学的手法を用いてin vitroで合成されたものである。また、蛍光標識の代わりに放射性同位体ラベルを用いてもよい。
蛍光抗体や蛍光アプタマーを導入すれば、後工程において、これをもちいた蛍光イメージングが可能となる。また、放射性同位体ラベルを用いれば、後工程において、基本的に長時間露光が必要なオートラジオグラフィーが可能となる。
このように、操作工程の前に糖添加工程を行っているので、真核生細胞は、運動が一時的に停止した状態で操作工程及びその後の後工程を行うことができる。
長時間同じ姿勢で細胞を観察できるので、後工程である3次元蛍光イメーシング、ラマン散乱イメージング、顕微磁気共鳴イメージングなどによる解析も高精細に行うことができる。
また、解析結果をもとに、ピペットなどで有用と判断される細胞を分離回収し、育種することが可能となる。
〇 運動再開
真核生細胞は、糖添加工程を行った時点から時間が経過すると、自発的に運動を再開して、運動が復活する運動再開が起こる。
糖添加工程から運動再開までの時間は、糖添加工程で添加した糖の培養液中の濃度に依存する。糖添加工程から運動再開までの時間は、糖添加工程における糖濃度を選択することにより調整できる。運動再開が、後工程中又は後工程後の任意の時点において起こるように、調整されるとよい。
糖添加工程における糖濃度が、比較的低濃度領域の0.1から0.5Mでは、そのまま放置すれば真核生細胞が遊走やすじりもじり運動を再開する。従って、運動が再開する運動再開の前に標的細胞を選別することで、有用細胞の分離と育成が可能となる。停止できる時間が限られるが、運動再開に特別な操作が入らない利点と、運動を止めることによる細胞内機能への影響を最小限にできる利点がある。
糖添加工程における糖濃度が、比較的高濃度領域の0.5から1Mでは、真核生細胞の運動を長時間停止することができる。
このような高濃度糖で動きを止めた真核生細胞は、強制的に運動を再開させる運動再開工程を行うことにより、一旦運動が停止した真核生細胞を、生きた状態で運動を再開させることができる。
運動再開工程は、真核生細胞を含む培養液の糖濃度を、糖添加工程時の濃度の1/10以下、より効果的には1/20以下の限りなく薄い濃度まで希釈することにより行うことができる。
希釈は、真核生細胞を含む培養液を、3000Gで5分間遠心することで真核生細胞を沈殿させ、上澄みを捨てて、マンニトールを含まない培養液に再懸濁することにより行う。
このように、一旦運動が停止した真核生細胞を、生きた状態で運動を再開させることができるため、外来性分子導入、画像解析、細胞改変が達成可能となる。
また、運動を停止させた状態で、真核生細胞を選択できるため、培養液中の真核生細胞群の中から、有用な真核生細胞を分離して取り出し、これを育成することが可能となる。
また、糖添加工程における糖濃度を、高濃度領域の0.5から1Mとした場合、希釈のタイミングを任意に選択することにより、真核生細胞の運動を再開させる時点を自由に選択することができる利点がある。
しかし、あまりに長時間高濃度の糖溶液に曝すと、運動を再開する真核生細胞の割合が低下する場合がある。従って、運動を再開する真核生細胞の割合を一定以上に保てるような、糖濃度及び運動再開までの時間とするとよい。
なお、培養液に糖を添加して、自立運動能を有する真核生細胞の自発的な運動を、一時的に停止させることにより、細胞操作を容易にするが、糖添加により一時的に真核生細胞の運動を停止させる代わりに、又は、糖添加により一時的に真核生細胞の運動を停止させると共に、マイクロ流体デバイスを用いたマイクロフルイディックホトポレーションにより、細胞操作を容易にしてもよい。
マイクロ流体デバイスとは、半導体微細加工技術や精密機械加工技術を応用して作製された、深さ・幅が数μm〜数100μm程度の流路構造を有する小型の実験装置である。
図1に、マイクロ流体デバイスDを示す。マイクロ流体デバイスDは、PDMS(ポリジメチルシロキサン)で作製されており、溝状のマイクロ流路10を備えている。
マイクロ流路10は、矩形に形成されたバッファー流路11と、バッファー流路11の上流側の辺の中央から垂直に上流側に分岐したバッファー注入流路12と、バッファー流路11の下流側の辺の中央から垂直に上流側に分岐したサンプル注入流路13と、バッファー流路11の下流側の辺の中央から垂直に下流側に分岐して、サンプル注入流路13から下流側に向かって直線状に延出する回収流路14と、から形成されている。バッファー流路11とサンプル注入流路13,回収流路14とが合流する点は、バッファー流路11から流れるバッファーと、サンプル注入流路13から流れるサンプル溶液とが合流して、水力学的に集中する水力学的集中合流点15となっている。
バッファー注入流路12の上流の端部には、不図示のバッファー注入パイプが接続され、不図示のシリンジポンプにより、バッファー注入パイプからバッファー注入流路12に注入されるバッファーの流速が制御されている。
サンプル注入流路13の上流の端部には、不図示のサンプル注入パイプが接続され、不図示のシリンジポンプにより、サンプル注入パイプからサンプル注入流路13に注入されるサンプルの流速が制御されている。
回収流路14の下流の端部には、不図示のバッファー回収パイプが接続され、不図示のシリンジポンプにより、回収流路14パイプからバッファー回収パイプへ回収されるバッファーの流速が制御されている。
サンプル注入流路13の不図示のサンプル注入パイプが接続される位置と水力学的集中合流点15との間には、未処理の細胞を供給するための円形の細胞注入ポート21が形成されている。細胞注入ポート21には、底部が穿孔された不図示のマイクロ遠心チューブが固定されており、このマイクロ遠心チューブに未処理の細胞を含む培地を入れるように構成されている。
水力学的集中合流点15と回収流路14の不図示のバッファー回収パイプが接続される位置との間には、処理済みの細胞を回収するための円形の細胞回収ポート22が形成されている。細胞回収ポート22には、底部が穿孔された不図示のマイクロ遠心チューブが固定されており、このマイクロ遠心チューブに処理済みの細胞を蓄積し、ピペットで回収可能に構成されている。
水力学的集中合流点15と細胞回収ポート22との間には、フェムト秒レーザー装置30が、レーザービームを水力学的集中合流点15の300μm程度下流の照射位置23に照射可能に配置されている。
このように構成されたマイクロ流体デバイスDを用いて、次の手順により、マイクロフルイディックホトポレーションにより、細胞操作を行うことができる。
まず、マイクロ流路10及び不図示のバッファー注入パイプ、サンプル注入パイプ、バッファー回収パイプを、真核生細胞の培養液で満たし、3つのシリンジポンプ及びフェムト秒レーザー装置30を稼働する。なお、ここで使用する真核生細胞は、糖を添加して運動を停止させたものを用いてもよいし、糖を添加していない運動をしているものを用いてもよい。
次いで、サンプル注入パイプに、不図示の注入口から、真核生細胞に対して結合特異性を有するアプタマーを注入し、細胞注入ポート21に固定された不図示のマイクロ遠心チューブに、ピペットで、真核生細胞を添加する。これにより、真核生細胞は、細胞注入ポート21からサンプル注入流路13を下流側へ流れ、水力学的集中合流点15を超えると、3つのシリンジポンプによって調整された流速により、所望の時間当たりの細胞個数で、照射位置23を通過し、フェムト秒レーザーによるホトポレーションが行われる。ホトポレーションによる処理を経た生細胞は、細胞回収ポート22に回収され、細胞以外の液体は、回収流路14からバッファー回収パイプへ回収される。
このように、マイクロ流体デバイスDを用いたマイクロフルイディックホトポレーションを行っているため、ホトポレーションを真核生細胞の個体差なく行うことができ、処理されていない生細胞が残ることを防ぐことができる。
以下、具体的実施例により、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明の範囲が、以下の実施例により限定されないことは、当然である。
(試験例1:ペプチドアプタマーの合成及び多糖への結合の確認)
本試験例では、膨大な配列ライブラリから進化分子工学的手法で、標的分子となる多糖に結合する可能性のある配列を探索することによって、多糖に対して特異的結合性を備えた本発明の実施例であるペプチドアプタマーを合成し、更に、合成したペプチドアプタマーが標的分子である多糖に結合することを確認した。
[ペプチドアプタマーの合成]
・NBD-C6-アミノフェニルアラニル-tRNA (NBDaa-tRNA)の調整
NBD-C6-アミノフェニルアラニル-tRNA (NBDaa-tRNA)は、図2の合成の説明図の流れに従って、以下の通り合成した。
つまり、NBD-X-スクシンイミドエステル(25 mM,40 μL,Invitrogen)のDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液を、ピリジン−HCl水溶液(5M, pH 5.0, 80 μL)中で、アミノフェニルアラニル-pdCpA (AF-pdCpA) (5 mM, 40 μL)のDMSO溶液と混合した。37℃で3時間インキュベーション後、NBD-C6-アミノフェニルアラニル-pdCpAを、逆相HPLC (Waters XTerra C18; 2.5 μm, 4.6 mm × 20 mm)で、流量1.5 mL/min、10分間での0.1%トリフルオロ酢酸中アセトニトリル0%-100%のリニアグラジエント溶出を行うことにより、精製した。生成物を、MALDI-TOFMS(Voyager, Applied Biosystems)で確認したところ、[M-H]- 計算値1073.27で、1073.83であった。
なお、MALDIとは、Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)の略称であり、TOFMSとは、Time of Flight Mass Spectrometry(飛行時間型質量分析法)の略称である。MALDI-TOFMS は,MALDIとTOFMSを組み合わせたマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法のことで,イオン化しにくい成分の質量を測る手法である。
得られたNBD-C6-アミノフェニルアラニル-pdCpAは、化学的連結法により、3´末端のジヌクレオチドを欠損させたMycoplasma capricolum Trp1 tRNA由来のアンバーサプレッサーtRNAと連結した。
NBDaa-tRNAは、商業的にも入手可能な試薬(ProteinExpress)である。
・リボソームディスプレイのためのDNAライブラリの作製
シグナルプローブであるNBDを翻訳されたペプチドに組みいれるために、DNAプールを作製した。T7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列,E. coliリボソーム結合配列(RBS),BsmBI制限酵素配列を含む二本鎖DNAと,BsmBI制限酵素配列とタンパク質リンカー配列及びリボソームの停止配列(SecM)を備えた二本鎖DNAを作製した。
並行して、ランダム二本鎖DNA(dsDNA)を調整した。Operon社から、二つの一本鎖DNA (ssDNA)を得た。
これらのssDNAは、それぞれ、配列
5’-TGCGTCCGTCTCGTATGACAACATGT(VVN)5TAG(VVN)5TGTTCTTGGGACAAGAGACGGTCAGC-3’(配列番号12)と
5’-TGCGTCCGTCTCGTATGACAACATGT(NNK)5TAG(NNK)5TGTTCTTGGGACAAGAGACGGTCAGC-3’(配列番号13)
)であり、また、NはG, C, T又はA、VはG, C又はA、及びKはG又はTを表している。
また、リバースプライマー(5’- GCTGACCGTCTCTTGTC -3’) (配列番号14)の存在下で、PrimeSTAR GXL DNA polymerase(タカラバイオ)を用いてdsDNAを調整した。生成されたdsDNA、T7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含むdsDNA及びタンパク質リンカー配列を含むdsDNAを、制限酵素(BsmBI, New England Biolabs)で消化し、融合した(DNA
Ligation Kit,タカラバイオ)。
二本鎖DNAライブラリを、primer Fwd_pCR-T7_150731(5’- CGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTC -3’)(配列番号15)及びprimer RevtolA110617(5’-CAGATGATATTTTCGGTGAGCTAA-3’)(配列番号16)を用いたPCRにより増幅した。
・多糖類に特異的な蛍光発生ペプチドの選別
DNAライブラリを、Megascript (Invirtogen)を用いて、mRNAに翻訳し、RNA clean & concentrator kit (Zymo Research) を用いて精製した。RF1を欠損させた再構成型無細胞翻訳系及びProteinExpress (Chiba, Japan)から得た320 pmolのNBDaa-tRNA及びRNasin Plus (invitrogen)の存在下において、DNAライブラリをin vitro翻訳した。反応混合物50 μlにTween20含有バッファー(50 mM Tris/acetate, 150 mM NaCl, 50 mM magnesium acetate and 0.05 % Tween 20, 5〜7% RNasein Plus, pH 7)を添加した。希釈した翻訳溶液を、パラミロン(ユーグレナ社製)と共に4℃で30分間インキュベートした。パラミロンを遠心して回収し、Tween20含有バッファーで8回洗浄した。パラミロンを、溶出バッファー(50 mM Tris-acetate pH7.5, 150 mM NaCl, 50 mM EDTA)と共に4℃で1時間インキュベートもしくは65度で10分加熱することによりRNAをパラミロンから溶出させた。溶出したmRNAを、RNA clean & concentrator kit (Zymo Research)を用いて精製し、PrimeScript (Takara)により逆転写した。この逆転写産物を増幅するために、プライマーFwd_pCR-T7_150731 及びRevtolA110617を用いてPCRを行った。PCR産物を、NucleoSpin(登録商標) Gel and PCR Clean-up (Takara)を用いて精製し、PAGEとUV吸光度により、質及び濃度を確認した。精製したdsDNAを、次のラウンドの選択のための鋳型として使用した。
選択プロセスを7ラウンド行った後、4ラウンドと7ラウンド後のDNAの配列をクローニングし、配列を解析した。4ラウンドの35のクローンから5種の配列を、7ラウンドの43クローンから7種の配列を見出した。
・ペプチド合成
ペプチドの化学的合成のために、NBDで標識されたアミノフェニルアラニンを合成した。DMSO (20 mL)中で、5M,pH 5.0のピリジン−HCl水溶液(20 mL)を、6-[(7-Nitro-2,1,3-benzoxadiazol-4-yl)amino]hexanoic acid N-succinimidyl ester (650 mg, 1.66 mmol)及びFmoc-4-amino-L-phenylal-anine (555 mg, 1.38 mmol)に添加し、37℃で溶液を一晩攪拌した。減圧下で溶媒をエバポレートし、粗残渣を、シリカゲル(CH2Cl2:CH3OH, 100:1, v/v)を用いてフラッシュクロマトグラフィにより精製して、オレンジ色の固体であるNBDが標識されたアミノフェニルアラニン(895.0 mg, 1.32 mmol, 収率95.6%)を得た。NMR及び質量スペクトル分析を用いて、NBDが標識されたアミノフェニルアラニンであることを確認した。
NBDアミノフェニルアラニンを組み入れたペプチドは、理化学研究所脳科学総合研究センターにて、Fmoc化学法により合成した。合成したペプチドは、MALDI-TOF質量分析法(Voyager, Applied Biosystems)で確認し、それぞれ、4Rd1〜5,7Rd1〜5の名称をつけた。7Rd6および7Rd7は合成および精製が困難であった。
確認したペプチドを、表1に示す。表1中、「Xaa6以外のチャージ」とは、Xaa6の非天然アミノ酸が電荷をもたないと仮定して算出したチャージである。また、Xaa6, Xaa12〜15は、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)フェニルアラニンを示す。
・蛍光観察
合成した10種のペプチドについて、蛍光観察により、種々の多糖の糖鎖との結合性を確認する実験を行った。
この実験では、表1の10種のペプチドと、表2の13種の多糖を用いた。表2において、水溶性の欄は、〇が可溶性、△が不溶性/可溶性、×が不溶性を示している。
可溶性かどうかの判断は、各多糖を水系溶媒に懸濁した液と、その後に遠心した液との吸収スペクトルを比較することにより行った。
多糖が不溶性である場合は、より低波長の光が散乱されやすいので、見かけ上短波長側の吸収スペクトルが上がる。この状態で遠心すると、多糖が沈殿するので散乱に由来する見かけ上の吸収が減る。従って、このような特性を示した多糖を、不溶性多糖に分類した。
一方、多糖が完全に溶けている場合は、遠心前後で吸収スペクトルは変化しない。従って、遠心前後で吸収スペクトルの変化がなかった多糖を、可溶性多糖に分類した。
結合性を確認するこの実験では、表2の13種の多糖について、不溶性のものと可溶性のものに分けて実験を行った。
不溶性の多糖は、アミロース(シグマアルドリッチ社製)、不溶性アミロペクチン(和光純薬工業社製)、微結晶セルロース(ナカライテスク社製)、パラミロン((株)ユーグレナ製)、カードラン((株)ユーグレナ提供)、不溶性ラミナリン(シグマアルドリッチ社製)、キチン(シグマアルドリッチ社製)、不溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩(シグマアルドリッチ社製)、不溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム(シグマアルドリッチ社製)の9種類である。
アミロペクチン、ラミナリン、ヒアルロン酸ナトリウム塩、コンドロイチン硫酸Aナトリウムの4種類は、水系溶媒に懸濁した後、上澄みと沈殿に分離して、沈殿を、それぞれの不溶性サンプルとした。
また、可溶性の多糖は、可溶性アミロペクチン(和光純薬工業社製)、グリコーゲン(ナカライテスク社製)、可溶性ラミナリン(シグマアルドリッチ社製)、可溶性ヒアルロン酸ナトリウム塩(シグマアルドリッチ社製)、可溶性コンドロイチン硫酸Aナトリウム(シグマアルドリッチ社製)、コンドロイチン硫酸A,Cナトリウム(シグマアルドリッチ社製)、へパリン酸ナトリウム(ナカライテスク社製)、ペクチン(シグマアルドリッチ社製)の8種類である。
アミロペクチン、ラミナリン、ヒアルロン酸ナトリウム塩、コンドロイチン硫酸Aナトリウムの4種類は、水系溶媒に懸濁した後、上澄みと沈殿に分離して、上澄みを、それぞれの可溶性サンプルとした。
10種のペプチドは、DMSOで100μMになるように調整した。9種類の不溶性の多糖及び8種類の可溶性の多糖は、それぞれ、WBTバッファー(50mM Tris-acetate, 150mM NaCl, 50mM Mg-Acetate, 0.05% Tween20)で3回洗浄し、WBTバッファーで50mg/mLとなるように調整した。この溶液を、よく混合して使用した。
100μMのペプチド溶液と、多糖溶液を、表3に示す比率で混合し、多糖のみのサンプル、ペプチドのみのサンプル、多糖+ペプチド含有サンプルを調整した。
調製した各サンプルを、室温(21℃)で、エッペンドルフのサーモスタットで、500rpmで30分振とうした。
その後、各サンプルを軽く混ぜて、感度ISO400、対物レンズ100倍、明視野140.4msec,蛍光5.643secで、蛍光観察を行った。
13種類の多糖のうち、9種類の不溶性の多糖については、ペプチドと混合後に室温でEppendorf社のThermoMixerを用いて500rpmで30min振盪した後、5μlをプレパラートにサンプリングし、蛍光観察を行って、蛍光強度について、目視で、非常に強い(◎)、強い(〇)、弱い(△)、非常に弱い(×)の4段階で評価した。
9種類の不溶性多糖であるパラミロン、カードラン、ラミナリン、アミロペクチン、アミロース、セルロース、コンドロイチン硫酸Aナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム塩、キチン+ペプチド含有サンプルと、ペプチドのみ(多糖なし)サンプルの蛍光観察画像を、図3〜図12に示す。
また、ペプチドのみのサンプルと、8種類の可溶性多糖+ペプチド含有サンプルについて、分光蛍光光度計を用いて、励起光472nmとしたときの530nm付近の蛍光スペクトルを測定した。ペプチドのみのサンプル蛍光強度を基準とした相対蛍光強度を算出した。
8種類の可溶性多糖であるアミロペクチン、グリコーゲン、ラミナリン、ヒアルロン酸ナトリウム塩、コンドロイチン硫酸Aナトリウム、コンドロイチン硫酸A、Cナトリウム、ヘパリン酸ナトリウム、ペクチンについて、相対蛍光強度が1.5以上のサンプルを〇、1.5より低いサンプルを×として2段階評価した。この評価の結果を、図13に示す。
図13の結果より、各ペプチドは、少なくとも1種以上の多糖に対して結合特異性を有することが分かった。
(試験例2:微生物へのペプチドアプタマーの導入)
試験例1で合成したペプチドアプタマーを、微生物内に導入する実験を行った。
本例では、微生物の一例として、ユーグレナを用い、ユーグレナ藻体内に本発明の一実施例に係るペプチドアプタマーを導入し、ユーグレナ藻体内に含まれるパラミロンに結合させる実験を行った。本試験では、ペプチドアプタマーとして、試験例1で合成した10種のペプチドアプタマーのうち、配列番号9の7Rd-3を用いた。
まず、ユーグレナ・グラシリス((株)ユーグレナ提供)の生細胞の細胞濃度が、糖溶解培地とペプチドアプタマーを添加した際に1.0×104cells/mLとなるように培地を調整した。ここで、培地は、公知のKH培地(Koren and Hunter培地)を使用し、多糖やペプチドアプタマーを溶解する際には、この培地を溶媒とした。
次いで、調整した培地に、ペプチドアプタマーを、50μMの濃度となるように添加した。
終濃度が0.75Mとなるように、1Mのマンニトール溶解培地を添加した。
その後、5分間常温で静置し、ユーグレナの動きが停止していることを確認した。
ユーグレナ生細胞を含む培地をサンプリングし、この培地のサンプルが入ったプレートを倒立顕微鏡のステージに載せ、100倍の油浸対物レンズ(NA;1.25)を使用し、画像を確認しながら任意の細胞個数の細胞膜にフェムト秒レーザーを単発照射した。フェムト秒レーザーとして、波長800nm、パルス半値幅が150nmのものを使用した。パルスエネルギーは10nJとした。
これらのサンプルについて、感度ISO400、対物レンズ100倍、明視野140.4msec,蛍光5.643secで、蛍光観察を行った。蛍光観察画像を、図14に示す。
図14のように、7Rd-3,7Rd-4を添加したユーグレナ生細胞中に、発光現象を確認することができた。この結果より、7Rd-3,7Rd-4が、ユーグレナ生細胞中に導入され、パラミロンと特異的に結合したことが分かった。
以下、ユーグレナ生細胞の自発的な運動を、一時的に停止させて、ペプチドアプタマーの導入等の細胞操作を行う試験について、説明する。
(試験例3)
試験例3では、運動するユーグレナ生細胞にペプチドアプタマーの導入等を行うために、ユーグレナの運動を停止させる実験を行った。
試験例3では、真核生細胞として、ユーグレナ・グラシリス生細胞((株)ユーグレナ製,以下、「ユーグレナ生細胞」と称する。)を用い、単糖類の代表例としてグルコース、フルクトース、キシロース、マンノース、マンニトールを用い、二糖類の代表例として、スクロース、トレハロースを用い、これらの糖をユーグレナ培養液に0.5mol/lとなるように加える糖添加工程の後、運動停止の効果が現れるまでの時間を確認した。
ユーグレナ培養液としては、KH培地(Koren-Hunter培地,pH3.5)を用い、27℃で試験を行った。
結果を、図15に示す。図15は、糖添加工程後、ユーグレナ生細胞の運動停止の効果が現れるまでの時間を測定した結果を概念的に示すグラフである。
図15では、横軸が、糖を添加した時点からの経過時間、縦軸が、運動を停止した動かない細胞の比率を示している。図15の動かない細胞の比率は、電子顕微鏡で目視で観察して算出した値に基づいている。
図15の範囲1は、糖添加工程の前の時点を示している。範囲1のように、糖を添加する前は、運動を停止しているユーグレナはほとんどいない状態であった。
点線で示す時間2(0時)に、別々の容器で培養中のユーグレナ生細胞に、それぞれの糖を個別に添加すると、直ちに鞭毛による遊走機能が停止するとともに、ユーグレナに特有な細胞体を回転させながらくねらす、すじりもじり運動を停止する細胞が現れた。
その後、曲線3及び4のように、運動を停止するユーグレナ生細胞の割合は、糖に曝露する時間とともに増加した。
曲線3はマンニトール、曲線4は他の糖類を加えた場合における、各時点での、ユーグレナ全生細胞中に占める動かないユーグレナ生細胞の比率を示している。いずれの糖においても2時間以内に遊走とすじりもじり運動を停止させる効果が現れたが、同一濃度であればマンニトールが他の糖類に比べて、運動停止の効果が高かった。
(試験例4)
試験例4では、運動するユーグレナ生細胞にペプチドアプタマーの導入等を行うために、ユーグレナの運動を停止させるために必要なマンニトールの濃度を検討した。
試験例4では、濃度がそれぞれ0.25mol/l、0.5mol/l,0.75mol/l,1mol/lとなるようマンニトールをユーグレナ生細胞の培養液に添加したときに、マンニトール添加時点から10分経過後までにおけるユーグレナ生細胞全体数に占める運動を停止したユーグレナ生細胞数の比率を、確認した。
ユーグレナ培養液としては、KH培地(pH3.5)を用い、27℃で試験を行った。
本試験では、時間軸で基準時間である0分において、マンニトールをそれぞれ所定の濃度になるように添加した。2,4,6,8,10分後の各測定時刻において、ユーグレナ生細胞培養液を攪拌し、攪拌して得たユーグレナ生細胞懸濁液を、厚み0.2 mmの血球計算盤に挟み込み、一定面積当たりの遊走しているユーグレナ生細胞と動きを止めているユーグレナ生細胞を計数した。この計数した遊走しているユーグレナ生細胞数と動きを止めているユーグレナ生細胞数との和を求めて総ユーグレナ生細胞数とし、動きを止めているユーグレナ生細胞数を総ユーグレナ数で除することにより、総ユーグレナ生細胞数に対する動いていないユーグレナ生細胞数の割合を求めた。
結果を、図16に示す。図16は、ユーグレナ生細胞培養液中にマンニトールを異なる最終濃度となるよう添加後、各時点における総ユーグレナ生細胞数に対する動いていないユーグレナ生細胞数の割合を示すグラフであり、マンニトールを添加してから運動停止の効果があるまでの時間の濃度依存性を示している。
図16より、マンニトール濃度が高いほど、マンニトール添加後短時間で、動かないユーグレナ生細胞の割合が増えることが分かった。
マンニトール濃度1mol/lでは、マンニトール添加後2分で既にほぼ100%のユーグレナ生細胞がその遊走とすじりもじり運動を停止していた。最も低濃度のマンニトール濃度0.25mol/lにおいても、マンニトールに6分間曝すことで、約90%のユーグレナ生細胞がその遊走とすじりもじり運動を停止していた。
なお、図16では示していないが、より低濃度の0.1mol/lにおいても、相当数のユーグレナ生細胞が運動を停止していたが、このような低濃度域では数分から数十分で運動を再開する個体が現れた。
(試験例5)
試験例5では、ユーグレナ生細胞,クラミドモナス生細胞,ヘマトコッカス生細胞の培養液に、マンニトールを添加し、運動停止の効果を確認した。
ユーグレナ,クラミドモナス及びヘマトコッカスは、いずれも真核細胞の微細藻類で、糖を加えなければ、活発に遊走するので、マンニトール添加前の動かない生細胞の比率は、範囲31の様にほぼゼロに近かった。もちろん、諸般の事情により、若干の細胞はこの状態でも遊走していないが、糖を加える前から運動していない細胞は計数しなかった。
本試験では、各生細胞の培養液に、マンニトールを1mol/lになる様に添加した。ユーグレナ培養液としては、KH培地(pH3.5)、クラミドモナス培養液としては、AF-6培地(pH7.0)、ヘマトコッカス培養液としては、AF-6培地(pH7.0)を用い、27℃で試験を行った。
マンニトールを添加する前に動いていた生細胞のみについて、マンニトールに曝露させたのちにその動きを停止した生細胞と引き続き運動している生細胞のみを各時点で計数し、動きを停止した生細胞数を、動きを停止した生細胞数及び引き続き運動している生細胞数を足して求めた総生細胞数で除して、動かない細胞の比率を算出した。
結果を、図17に示す。図17は、糖添加工程後、各微細藻類生細胞の運動停止の効果が現れるまでの時間を測定した結果を概念的に示すグラフである。
図17の結果より、ユーグレナ生細胞のみならず、クラミドモナス生細胞及びヘマトコッカス生細胞においても、マンニトールの添加により遊走しなくなることが分かった。
すなわち、高濃度の糖は、広く藻類細胞の運動を停止する効果があることが分かった。図17に示していないが、これらの藻類に対しても、マンニトールの他に、多くの単糖類や二糖類でその動きを停止できることを確認している。
以上の試験例3乃至5の結果より、糖を0.1ないし1mol/lの濃度で加えることにより、遊走性藻類の遊走や遊走性藻類の一種であるユーグレナ生細胞のすじりもじり運動を停止できことが分かった。その結果、長時間かけて、これら運動性生細胞の詳細画像を得ることができる効果があることが分かった。特に、共焦点顕微鏡で多数のスライス面を測定して3次元画像を得るようなトモグラフィー的な画像取得において、歪みが少なくノイズが少ない画像を得ることができる効果があることが分かった。
(試験例6)
糖溶液の添加により運動を停止している真核生細胞の運動再開工程の条件について、試験例6及び7で検討を行った。
本試験では、遊走するユーグレナ生細胞を含む培養液に種々の糖を0.5mol/lになるように添加してその運動を止めたのち、自発的に遊走を開始するユーグレナ生細胞の割合を測定した。
測定は、糖を添加した後培養プレートに播種して、ユーグレナ生細胞群の画像を一時間おきに取得することにより行った。
ここでは、播種直後の画像で計数される細胞数を100%として、その後の時刻の画像で同じ位置に観測される細胞を動いていない細胞と定義して、いなくなった細胞を動き出した細胞と定義した。
結果を、図18に示す。図18は、遊走するユーグレナ生細胞を含む培養液に種々の糖を0.5mol/lになるように添加してその運動を止めたのち、自発的に運動を再開するユーグレナ生細胞の比率を経時的にプロットしたグラフである。
図18の結果より、糖の種類によらず、糖添加後10〜30分間程度は、ユーグレナ生細胞の運動を停止させるないし抑制する効果があることが分かった。これら糖を含む溶液に曝し続けると、自発的に運動を再開する細胞が現れ、その割合は時間とともに増加した。運動を再開する細胞の割合の増加は、スクロース、トレハロース、グルコース、マンニトールの順に高くなっていた。
図15のユーグレナ生細胞の運動停止効果を示す結果と運動再開の割合を示す図18の結果より、トレハロースが藻類の運動停止と停止している間における画像取得や遺伝子操作の工程を行う上で、他の糖に比べ優れていると考えられるが、他の糖でもそれなりの効果があることが分かった。
(試験例7)
本試験では、遊走するユーグレナ生細胞の運動を止めた後に、ユーグレナ生細胞を含む培養液の糖濃度を低下させて運動を再開させる運動再開工程を行った場合のユーグレナ生細胞の運動再開の効果を検証した。
本試験では、遊走中のユーグレナ生細胞を含む培養液に、マンニトールを0.75mol/l及び1mol/lになるように添加してその運動を止めたのち、3000Gで5分間遠心することで、ユーグレナ生細胞を沈殿させた。上澄みを捨ててマンニトールを含まない培養液に再懸濁し、培養プレートに播種して、ユーグレナ生細胞群の画像を二時間おきに取得した。
ここでは、播種直後の画像で計数される細胞数を100%として、その後の時刻の画像で同じ位置に観測される細胞を動いていない細胞と定義して、いなくなった細胞を動き出した細胞と定義した。
結果を、図19に示す。図19は、遊走するユーグレナ生細胞を含む培養液にマンニトールを0.5mol/lになるように添加してその運動を止めたのち、マンニトールを含まない培養液に再懸濁した場合における運動を再開するユーグレナ生細胞の比率を経時的にプロットしたグラフである。
図19から明らかなように、すでに1時間後から運動が再開するユーグレナ生細胞が観測され、時間とともに動き出すユーグレナ生細胞の割合が増加した。
マンニトール1mol/lよりもマンニトール濃度が低い0.75mol/lの場合の方が、動き出すユーグレナ生細胞の割合が、全ての時間で高かった。
以上より、本試験例7の図19の結果では、糖添加工程におけるマンニトールの濃度が試験例6の場合より高いにもかかわらず、運動再開するユーグレナ生細胞の割合が高くなっていた。細胞操作工程や後工程において何らかの操作を加えたのちの細胞を回収してさらに利用する上で、運動再開工程を行うことに効果があることが分かった。
(実証試験例1)
本発明のペプチドアプタマーをユーグレナ生細胞に導入する試験を行った。
細胞操作方法の実証実験として、ユーグレナ生細胞の培養液にマンニトールを添加する糖添加工程を行ってユーグレナ生細胞の運動を停止させた後、操作工程においてペプチドアプタマーをユーグレナ生細胞に導入する実験を行った。
まず、ユーグレナ生細胞を含むKH培地(pH3.5,温度27℃)に、濃度0.5mol/lになるようにマンニトールを加える糖添加工程を行い、ユーグレナ生細胞の遊走とすじりもじり運動の両方を停止させた。
次いで、細胞操作工程において、運動を停止したミドリムシにパラミロンを認識するペプチドアプタマーとして、表1に示す7Rd-3(理化学研究所提供)を10μmol/lになるように添加した。ペプチドアプタマーには、蛍光色素である7-ニトロベンゾフラゾンが標識されたものを用いた。
その後、ユーグレナ生細胞を含む培養液の試料をプレートに入れて倒立顕微鏡のステージに載せ、画像を見ながら興味のある細胞個体の細胞膜にフェムト秒レーザーパルスを単発ないし複数発照射した。ここではフェムト秒レーザーとして波長800nmで、パルス半値幅が150nsのものを使用した。パルスエネルギーは150nJであるが、細胞膜のアブレーション閾値以上で、細胞質が細胞外に顕著に流失しない範囲であれば良い。実質的に10ないし40GJcm-2s-1の範囲が推奨される。具体的には、開口数が0.45の対物レンズで10nJから1000nJの範囲であれば実質的にレーザーパルスを照射した領域に限った部位の細胞膜の透過性を上昇させることができる。開口数が0.45の20倍体物レンズを用いた。
照射位置としては、画像で見えるユーグレナ生細胞の重心位置の細胞膜と培地との境界面に照射した。実質的には、ユーグレナ生細胞の重心位置の細胞膜と培地との境界面から細胞質側に約2μmまでの範囲が、照射位置として有効である。このような位置を選ぶことで、破壊されると致命的な影響を引き起こす可能性のある核やライソソームのようなオルガネラを保存して、細胞膜の透過性を高めることができる。
以上の操作により、ユーグレナ生細胞内に蛍光標識アプタマーが細胞膜を通過して導入された。
図20は、標的ユーグレナ生細胞への蛍光標識アプタマーの導入例を示す写真である。
写真(A)は、蛍光標識アプタマーが導入されたユーグレナ生細胞の透過光像、写真(B)は、蛍光標識アプタマーが導入されたユーグレナ生細胞の蛍光像であって、488nmのレーザー光を光源として用いて得られる510nmから760nmの範囲の蛍光像である。フェムト秒レーザーのレーザーパルスは、細胞71の側面に照射した。図20(A)の透過像から、細胞内のゾルは細胞外では検出されていないことから、流れ出ていないと考えられる。
図20(B)の蛍光像72では細胞内からの蛍光が検出されていることから蛍光標識アプタマーが細胞内に入り込み、パラミロンと結合したと思われる。蛍光像72のユーグレナ生細胞の周囲に存在するレーザーを照射していないユーグレナ生細胞群の蛍光は十分低いので、フェムト秒レーザーを照射しなければ蛍光アプタマーはユーグレナ生細胞内に移行しないことがわかる。
図20(B)の蛍光像72を詳しく見ると、レーザーを照射した細胞膜近傍の蛍光が強く、細胞内の他の部位の蛍光はそれより低い。細胞外の蛍光標識アプタマーが細胞内に入り込み、レーザー照射部分近傍に局在する細胞内のパラミロンとアプタマーがまず反応して、遠いところではアプタマー濃度が低下して濃度勾配ができていると考えることができる。
(試験例8)
本試験では、種々濃度のマンニトールにユーグレナ生細胞を曝し、その運動を停止させ、操作工程においてフェムト秒レーザーをスキャンして多数のユーグレナ生細胞にパラミロンに反応する蛍光標識ペプチドアプタマーを導入し、導入直後から10時間後までのユーグレナ生細胞の運動の観察を行った。
本試験では、糖添加工程においてユーグレナ生細胞の培養液に、0.25mol/l(実証試験例2),0.5mol/l(実証試験例3),0.75mol/l(実証試験例4),1mol/l(実証試験例5)の各濃度のマンニトールを添加し、パラミロンに反応する蛍光標識ペプチドアプタマーとして、表1に示す7Rd-3を10μmol/lになるように添加した。
次に、操作工程において、実証試験例1と同じフェムト秒レーザーを照射した。但し、本試験では、繰り返し周波数1kHzでおよそ40μm/sの速度で、密集状態のユーグレナ生細胞に対してフェムト秒レーザーをスキャンした。
その後、実証試験例2〜5のユーグレナ生細胞を含む培養液の試料を蛍光顕微鏡のステージに載せて観察し、実証試験例2〜5のユーグレナ生細胞の蛍光画像を、レーザー照射直後2分以内(0h),1時間後(1h),6時間後(6h),10時間後(10h)に、経時的に蛍光顕微鏡で得た。その結果を図21に示す。
レーザーを照射した直後(実質的に2分間以内)の蛍光画像では、いずれの濃度のマンニトールで細胞の運動を停止したユーグレナ生細胞においても、レーザースキャン部位に蛍光が検出されており、蛍光標識アプタマーがユーグレナ生細胞内に取り込まれパラミロンと反応していたと考えられる。
引続き連続して蛍光画像を得ると、濃度1mol/lのマンニトールで処理した実証試験例5のユーグレナ生細胞は、10時間後においても同様な蛍光画像が得られ、ユーグレナ生細胞が、この10時間の期間動いていなかったことがわかる。
これに対して、より薄い濃度のマンニトールで処理した実証試験例2,3のユーグレナ生細胞では、時間とともに蛍光画画像上の蛍光起点が分散しているのでユーグレナ生細胞の運動が再開していたことがわかる。運動再開するユーグレナ生細胞の数は、添加したマンニトールの濃度が低いほど多かった。
以上の各試験において、糖添加工程で糖を添加して真核生細胞の運動を停止することにより、レーザーによる外部物質の導入を容易にする効果があることが分かった。実証試験例2乃至5では、レーザーを用いて外来性蛍光標識ペプチドアプタマーを入れたが、すでに細胞が動いていないので、マイクロインジェクターなどの他の物理的な手法で外来性物質を細胞内に導入できることは当然である。導入できる物質は、ペプチド性、ポリヌクレオチド、合成高分子のいずれも可能なほか、ナノ粒子なども可能である。さらに、細胞内小器官を他の細胞に導入できる場合もある。さらに、本質的に動き回る細胞の細胞融合は困難を極めるが、本発明の糖鎖を用いる細胞運動の停止法を用いることで、容易に細胞融合を達成できる。融合した細胞は糖濃度を1/20程度に希釈することで、速やかに細胞運動を再開できるので、細胞そのものに致命的なダメーシを与えることなく、これらの操作を達成できる。
D マイクロ流体デバイス
1 範囲
2 時間
3,4 曲線
10 マイクロ流路
11 バッファー流路
12 バッファー注入流路
13 サンプル注入流路
14 回収流路
15 水力学的集中合流点
21 細胞注入ポート
22 細胞回収ポート
23 照射位置
30 フェムト秒レーザー装置
71 細胞
72 蛍光像

Claims (8)

  1. 少なくとも一種類の多糖に対して特異的親和性を有するペプチドアプタマー。
  2. 蛍光物質が連結された少なくとも一つのアミノ酸を含むアミノ酸配列からなり、
    モノアイソトピック質量(monoisotopic mass)にH+を加算して得た分子量が8000以下であって、アミノ酸残基数が30以下である請求項1記載のペプチドアプタマー。
  3. 配列番号1で示されるアミノ酸配列又はその逆鎖を含み、
    少なくとも一種類の多糖に対して特異的親和性を有するペプチド。
  4. 前記多糖は、ホモ多糖又はヘテロ多糖であることを特徴とする請求項3記載のペプチド。
  5. モノアイソトピック質量(monoisotopic mass)にH+を加算して得た分子量が8000以下であることを特徴とする請求項3又は4記載のペプチド。
  6. 下記(a)又は(b)のいずれかのアミノ酸配列又はその逆鎖を含む請求項3乃至5いずれか記載のペプチド。
    (a)配列番号2〜11で示されるアミノ酸配列;
    (b)配列番号2〜11で示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失,置換又は付加されたアミノ酸配列
  7. 下記(a)又は(b)のいずれかのアミノ酸配列又はその逆鎖を含み、ユーグレナ由来のパラミロンに対して特異的親和性を有する請求項3乃至5いずれか記載のペプチド。
    (a)配列番号9又は10で示されるアミノ酸配列;
    (b)配列番号9又は10で示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失,置換又は付加されたアミノ酸配列
  8. 請求項3乃至7いずれかに記載のペプチドを含有してなる、少なくとも一種類の多糖を検出するために用いられる多糖検出試薬。
JP2017039862A 2017-03-02 2017-03-02 ペプチドアプタマー,ペプチド及び多糖検出試薬 Pending JP2018143137A (ja)

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