JP2018139507A - 微生物の選抜方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】外来性メバロン酸経路の活性を保持した微生物や、メバロン酸の活性がより強化された微生物を効率的に選抜する技術を提供する。【解決手段】複数種の微生物を含む微生物集団から目的微生物を選抜する微生物の選抜方法であって、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を保持する目的微生物を選抜するものであり、前記微生物集団を、非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第一阻害剤の存在下で培養する第一工程と、第一工程で生育した微生物を前記目的微生物として選抜する第二工程と、を包含する微生物の選抜方法が提供される。第一工程において、第一阻害剤と、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第二阻害剤の存在下で前記微生物集団を培養する形態も提供される。【選択図】図1
Description
本発明は微生物の選抜方法に関し、さらに詳細には、非メバロン酸経路又はメバロン酸経路に対する特異的阻害剤を利用した微生物の選抜方法に関する。本発明は、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸の合成能を保持する目的微生物や、イソペンテニル二リン酸の合成能が強化された目的微生物を選抜するのに有用である。
イソプレンは合成ポリイソプレンのモノマー原料であり、特にタイヤ業界において重要な素材である。一方、テルペンは炭素数5のイソプレンを構成単位とする炭化水素で、植物や昆虫、菌類などによって作り出される生体物質の一群である。イソプレン、テルペンは、樹脂原料、香料原料、食品添加物、洗浄剤、電子材料、医農薬原料等、あらゆる分野で利用されており、工業材料として欠かせないものとなっている。
近年、様々な物質生産分野において、微生物などを利用した、バイオテクノロジーによる新たな生産プロセスへの転換技術の開発と実用化が着実に進んでいる。イソプレンやテルペンに関しても、例えば、糖を原料とした組換え大腸菌による生産技術が知られている(例えば、特許文献1、2)。また、大腸菌以外の微生物(組換え体)によるイソプレンの生産技術としては、例えば、特許文献3、4に記載のものがある。
イソプレン骨格物質である細胞膜内電子伝達体のユビキノンは全ての生物の生育に必須であり、ペプチドグリカン層形成に関与するドリコールはバクテリアの生育にとって必須である。これらのイソプレン骨格物質の前駆体であるイソペンテニル二リン酸(IPP)は、非メバロン酸経路(MEP経路)とメバロン酸経路(MVA経路)のいずれか一方、もしくは両方で生合成される。メバロン酸経路は、真核細胞の細胞質、一部の放線菌やアーキアに存在している。非メバロン酸経路は、細菌や植物の葉緑体などに存在している。
メバロン酸経路(MVA経路)は、アセチルCoAを出発物質としている。メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
一方、非メバロン酸経路(MEP経路)は、グリセルアルデヒド3−リン酸とピルビン酸を出発物質としている。非メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールシンターゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールキナーゼ、2−C−メチル−D−エリトリトール−2,4−シクロ二リン酸シンターゼ、HMB−PPシンターゼ、HMB−PPレダクターゼが挙げられる。
微生物(組換え体)によるイソプレンやテルペンの生産には、前駆体であるIPPを微生物内で大量に合成する必要がある。ここで一般に、MVA経路はMEP経路よりもエネルギー的に優位とされている。したがって、細菌等の組換え体を利用したイソプレンやテルペンの生産では、内在性のMEP経路に依存せず、外部から導入した外来性MVA経路を利用してIPPを合成させることが好ましい。さらに、MVA経路によるIPP合成能がより増強された微生物を利用することが好ましい。特許文献3、4には、MVA経路で作用する酵素の遺伝子を宿主細胞に導入した組換え細胞による、イソプレンの生産技術について記載されている。
しかし、宿主細胞に外来性MVA経路を導入すると、当該MVA経路の中間代謝産物による細胞毒性が生じる。そのため宿主細胞は、当該細胞毒性を回避すべく、遺伝子変異等によってMVA経路を不活化しようとする。その結果、外来性MVA経路を導入した組換え体からなる微生物集団では、次第に、外来性MVA経路ではなく内在性MEP経路に依存して生育するクローンが優勢となる。換言すれば、機能的MVA経路を有するクローンが劣勢となる。
本発明者らは、イソプレンやテルペンを高生産する組換え細胞を取得するために、外来性MVA経路を導入した組換え体の微生物集団から所望のクローンを選抜する操作を繰り返し行った。しかし、外来性MVA経路が不活化して機能していないクローンが多数検出され、機能的MVA経路を有するクローンを選抜できる確率は高いものではなかった。なお、この場合のクローンの選抜操作は、多くのクローンを単離および培養し、その培養物のイソプレンやテルペンの量をガスクロマトグラフィーや質量分析により分析する必要があり、操作が煩雑である。したがって、外来性MVA経路の活性を保持したクローンや、外来性MVA経路の活性がより強化されたクローンを効率的に選抜する技術が望まれている。
そこで本発明は、外来性MVA経路の活性を保持した微生物や、MVA経路の活性がより強化された微生物を効率的に選抜する技術を提供することを目的とする。
本発明の1つの様相は、複数種の微生物を含む微生物集団から目的微生物を選抜する微生物の選抜方法であって、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を保持する目的微生物を選抜するものであり、前記微生物集団を、非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第一阻害剤の存在下で培養する第一工程と、第一工程で生育した微生物を前記目的微生物として選抜する第二工程と、を包含する、微生物の選抜方法である。
本発明は、メバロン酸経路(MVA経路)によるイソペンテニル二リン酸合成能を保持する目的微生物を選抜するものである。本発明は、複数種の微生物を含む微生物集団を非メバロン酸経路(MEP経路)に対する特異的阻害剤である第一阻害剤の存在下で培養する第一工程と、第一工程で生育した微生物を前記目的微生物として選抜する第二工程とを包含する。本発明によれば、MEP経路に依存してイソペンテニル二リン酸(IPP)を合成する微生物を効率的に排除できるので、MVA経路によるIPP合成能を保持した目的微生物(機能的MVA経路を有する目的微生物)を、効率的に選抜することができる。
好ましくは、前記微生物集団は、非メバロン酸経路を有する宿主細胞に外来性のメバロン酸経路を導入した組換え細胞からなる。
好ましくは、前記組換え細胞は、前記宿主細胞に、さらにイソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を導入したものである。
細胞内IPPの蓄積は細胞毒性を招くことが知られている(Wiher ST, et al., AEM 2007, 73(19), 6277-6283)。この好ましい様相によれば、MVA経路によってIPPを合成し、当該IPPからイソプレン又はテルペンを生産する微生物を、効率的に選抜することができる。すなわち、MVA経路が機能的であるとともに、外来性のイソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子が機能的に発現している微生物を、効率的に選抜することができる。
好ましくは、前記微生物集団は、ランダム変異処理が施されたものである。
好ましくは、前記微生物集団は、細菌からなる。
好ましくは、前記細菌は、カルボキシドトローフ、メチロトローフ、又は二酸化炭素資化性細菌である。
好ましくは、前記微生物集団を構成する微生物は、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタン、酢酸、及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1つの炭素源を資化可能である。
好ましくは、第一工程における培養に用いる培地の主要炭素源が、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、及びメタンからなる群より選ばれた少なくとも1つである。
この好ましい様相は、微生物集団が、いわゆる合成ガス資化性微生物やメタノール資化性微生物である場合に対応する。
好ましくは、第一工程における培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれる。
好ましくは、前記第一阻害剤は、ホスミドマイシン又はその誘導体である。
メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜するものであり、前記第一工程において、前記第一阻害剤と、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第二阻害剤の存在下で前記微生物集団を培養する構成も推奨される。
かかる構成により、MVA経路によるIPP合成能を保持した目的微生物であって、かつMVA経路の活性がより強化された目的微生物を、効率的に選抜することができる。例えば、MVA経路のフラックスがより増大した微生物を選抜することができる。
好ましくは、前記第二阻害剤は、メビロニン又はその誘導体である。
前記微生物集団は、天然から単離された微生物からなるものでもよい。
かかる構成により、MEP経路に依存せずMVA経路によってIPPを合成している微生物を、効率的に選抜することができる。本様相は、天然からMVA経路の遺伝子資源を取得する際にも有用である。
好ましくは、前記第一阻害剤は、ホスミドマイシン又はその誘導体である。
好ましくは、第一工程における培養に用いる培地に、真核生物に対する抗生物質を含有させる。
好ましくは、第一工程における培養に用いる培地の主要炭素源が、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、及びメタンからなる群より選ばれた少なくとも1つである。
好ましくは、第一工程における培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれる。
本発明の他の様相は、複数種の微生物を含む微生物集団から目的微生物を選抜する微生物の選抜方法であって、イソペンテニル二リン酸の生合成経路としてメバロン酸経路を有する微生物集団から、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜するものであり、前記微生物集団を、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤の存在下で培養するA工程と、A工程で生育した微生物を前記目的微生物として選抜するB工程と、を包含する、微生物の選抜方法である。
本発明によれば、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤を利用して、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜することができる。
好ましくは、前記微生物集団は、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有さないものである。
好ましくは、前記微生物集団は、外来遺伝子としてイソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を有する。
好ましくは、前記微生物集団は、ランダム変異処理が施されたものである。
好ましくは、前記微生物集団は、アーキアからなる。
好ましくは、前記アーキアは、カルボキシドトローフ、メチロトローフ、又は二酸化炭素資化性アーキアである。
好ましくは、前記微生物集団を構成する微生物は、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタン、酢酸、及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1つの炭素源を資化可能である。
好ましくは、A工程における培養に用いる培地の主要炭素源が、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタン、及び酢酸からなる群より選ばれた少なくとも1つである。
好ましくは、A工程における培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれる。
好ましくは、前記阻害剤は、ホスミドマイシン又はその誘導体である
本発明によれば、外来性MVA経路を保持した微生物や、MVA経路がより強化された微生物を効率的に選抜することができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明において「遺伝子」という用語は、全て「核酸」あるいは「DNA」という用語に置き換えることができる。
本発明に係る微生物の選抜方法の1つの様相は、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を保持する目的微生物を選抜するものである。本様相は、微生物集団を、非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第一阻害剤の存在下で培養する第一工程と、第一工程で生育した微生物を目的微生物として選抜する第二工程とを包含する。なお、本発明において、「メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を保持する」ことを「機能的MVA経路を有する」、「MVA経路が機能している」等と表現することがある。なお本様相において、前記MVA経路には、内在性のMVA経路と外来性のMVA経路の両方が含まれる。
また本様相は、前記第一工程において、前記第一阻害剤と、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第二阻害剤の存在下で微生物集団を培養する形態を包含する。
<非メバロン酸経路>
非メバロン酸経路(MEP経路)は、グリセルアルデヒド3−リン酸とピルビン酸を出発物質とするイソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。非メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールシンターゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールキナーゼ、2−C−メチル−D−エリトリトール−2,4−シクロ二リン酸シンターゼ、HMB−PPシンターゼ、HMB−PPレダクターゼ、が挙げられる。
非メバロン酸経路(MEP経路)は、グリセルアルデヒド3−リン酸とピルビン酸を出発物質とするイソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。非メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールシンターゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールキナーゼ、2−C−メチル−D−エリトリトール−2,4−シクロ二リン酸シンターゼ、HMB−PPシンターゼ、HMB−PPレダクターゼ、が挙げられる。
<非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤>
本発明において「非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤」(第一阻害剤)とは、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害するが、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害しない剤を指す。
非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤(第一阻害剤)としては、上記した各酵素(DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールシンターゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールキナーゼ、2−C−メチル−D−エリトリトール−2,4−シクロ二リン酸シンターゼ、HMB−PPシンターゼ、HMB−PPレダクターゼ)に対する特異的阻害剤が挙げられる。
本発明において「非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤」(第一阻害剤)とは、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害するが、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害しない剤を指す。
非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤(第一阻害剤)としては、上記した各酵素(DOXPシンターゼ、DOXPレダクトイソメラーゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールシンターゼ、4−ジホスホシチジル−2−C−メチル−D−エリトリトールキナーゼ、2−C−メチル−D−エリトリトール−2,4−シクロ二リン酸シンターゼ、HMB−PPシンターゼ、HMB−PPレダクターゼ)に対する特異的阻害剤が挙げられる。
例えば、DOXPレダクトイソメラーゼの阻害剤であるホスミドマイシン(Fosmidomycin)及びその誘導体が、第一阻害剤として挙げられる。ホスミドマイシンの前記誘導体としては、FR-900098が挙げられる。
他の例としては、DOXPシンターゼの阻害剤である5−ケトクロマゾン(5-keto clomazone)及びその誘導体が、第一阻害剤として挙げられる。
第一阻害剤は、一種のみを用いてもよいし、複数種を用いてもよい。複数種を用いる場合は、例えば、上記した各酵素の阻害剤から複数種を選んで用いることができる。
他の例としては、DOXPシンターゼの阻害剤である5−ケトクロマゾン(5-keto clomazone)及びその誘導体が、第一阻害剤として挙げられる。
第一阻害剤は、一種のみを用いてもよいし、複数種を用いてもよい。複数種を用いる場合は、例えば、上記した各酵素の阻害剤から複数種を選んで用いることができる。
上記第一工程では、第一阻害剤の存在下で微生物集団を培養する。例えば、第一阻害剤を含有する培地を用いて微生物集団を培養する。この際に用いる第一阻害剤の濃度としては、用いる阻害剤の種類等によって適宜選択し得るが、一般的には10〜500μg/mL、好ましくは10〜300μg/mL、より好ましくは10〜100μg/mLである。
第一工程で用いる培地としては、微生物集団を構成する微生物の種類に応じて適宜選択すればよい。微生物集団が、後に詳述する合成ガス資化性微生物やメタノール資化性微生物で構成されている場合は、主要炭素源が一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、及びメタンからなる群より選ばれた少なくとも1つであることが好ましい。さらに、培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれることが好ましい。
また、微生物集団が天然微生物である場合には、真核生物に対する抗生物質を培地に含ませてもよい。
また、微生物集団が天然微生物である場合には、真核生物に対する抗生物質を培地に含ませてもよい。
<メバロン酸経路>
メバロン酸経路(MVA経路)は、アセチルCoAを出発物質とするイソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、が挙げられる。
メバロン酸経路(MVA経路)は、アセチルCoAを出発物質とするイソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。メバロン酸経路で作用する酵素としては、上流から順に、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、が挙げられる。
<メバロン酸経路に対する特異的阻害剤>
本発明において「メバロン酸経路に対する特異的阻害剤」(第二阻害剤)とは、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害するが、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害しない剤を指す。
メバロン酸経路に対する特異的阻害剤(第二阻害剤)としては、上記した各酵素(アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ)に対する特異的阻害剤が挙げられる。
本発明において「メバロン酸経路に対する特異的阻害剤」(第二阻害剤)とは、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害するが、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を阻害しない剤を指す。
メバロン酸経路に対する特異的阻害剤(第二阻害剤)としては、上記した各酵素(アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ)に対する特異的阻害剤が挙げられる。
例えば、HMG−CoAレダクターゼの阻害剤であるロバスタチン(Lovastatin:別名Mevinolin)、メバスタチン(Mevastatin:別名Compactin)、及びこれらの誘導体が、第二阻害剤として挙げられる。
<第一阻害剤と第二阻害剤の併用>
1つの実施形態では、前記第一工程において、第一阻害剤と第二阻害剤の存在下で微生物集団を培養する。例えば、第一阻害剤と第二阻害剤を含有する培地を用いて微生物集団を培養する。これにより、MVA経路によるIPP合成能を保持する(機能的MVA経路を有する)目的微生物であって、かつ当該MVA経路によるIPP合成能が高い目的微生物を選抜することができる。例えば、第二阻害剤による阻害に打ち勝つことができる程度までMVA経路のフラックスが増強された目的微生物を選抜することができる。
本実施形態で用いる第一阻害剤の濃度としては、用いる阻害剤の種類等によって適宜選択し得るが、一般的には10〜500μg/mL、好ましくは10〜300μg/mL、より好ましくは10〜100μg/mLである。第二阻害剤の濃度としては、用いる阻害剤の種類等によって適宜選択し得るが、一般的には10〜500μg/mL、好ましくは10〜300μg/mL、より好ましくは10〜100μg/mLである。
1つの実施形態では、前記第一工程において、第一阻害剤と第二阻害剤の存在下で微生物集団を培養する。例えば、第一阻害剤と第二阻害剤を含有する培地を用いて微生物集団を培養する。これにより、MVA経路によるIPP合成能を保持する(機能的MVA経路を有する)目的微生物であって、かつ当該MVA経路によるIPP合成能が高い目的微生物を選抜することができる。例えば、第二阻害剤による阻害に打ち勝つことができる程度までMVA経路のフラックスが増強された目的微生物を選抜することができる。
本実施形態で用いる第一阻害剤の濃度としては、用いる阻害剤の種類等によって適宜選択し得るが、一般的には10〜500μg/mL、好ましくは10〜300μg/mL、より好ましくは10〜100μg/mLである。第二阻害剤の濃度としては、用いる阻害剤の種類等によって適宜選択し得るが、一般的には10〜500μg/mL、好ましくは10〜300μg/mL、より好ましくは10〜100μg/mLである。
<微生物集団>
本発明で目的微生物を選抜する対象となる微生物集団としては、例えば、組換え体(組換え細胞)からなる集団が挙げられる。さらに、天然から単離された微生物(天然微生物)からなる集団も本発明における微生物集団となり得る。
本発明で目的微生物を選抜する対象となる微生物集団としては、例えば、組換え体(組換え細胞)からなる集団が挙げられる。さらに、天然から単離された微生物(天然微生物)からなる集団も本発明における微生物集団となり得る。
微生物集団を構成する組換え細胞としては、例えば、非メバロン酸経路(MEP経路)を有する宿主細胞に外来性のメバロン酸経路(MVA経路)を導入した組換え細胞が挙げられる。例えば、MEP経路を有する宿主細胞(例えば、細菌)に、上述したメバロン酸経路で作用する酵素をコードする遺伝子を導入した組換え細胞の集団が、本発明における微生物集団になり得る。
さらに、イソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を導入した組換え細胞の集団が、本発明における微生物集団になり得る。
さらに、イソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を導入した組換え細胞の集団が、本発明における微生物集団になり得る。
また組換え細胞と天然微生物のいずれにおいても、ランダム変異処理が施された微生物の集団が、本発明における微生物集団になり得る。変異処理としては、放射線照射や、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の変異剤による処理が挙げられる。
<微生物集団を構成する微生物種>
微生物集団を構成する微生物(組換え細胞の場合は宿主細胞を含む)の種類としては、特に限定はないが、好ましくは細菌、アーキアのような原核細胞である。また、資化できる炭素源の観点では、いわゆる合成ガス資化性微生物やメタノール資化性微生物(メチロトローフ等)が、微生物集団となり得る。
微生物集団を構成する微生物(組換え細胞の場合は宿主細胞を含む)の種類としては、特に限定はないが、好ましくは細菌、アーキアのような原核細胞である。また、資化できる炭素源の観点では、いわゆる合成ガス資化性微生物やメタノール資化性微生物(メチロトローフ等)が、微生物集団となり得る。
<合成ガス資化性微生物>
合成ガス(Synthesis gas, Syngas)は、廃棄物、天然ガス、及び石炭から高温・高圧下で金属触媒の作用によって効率よく得られる、一酸化炭素、二酸化炭素、及び水素を主成分とする混合ガスである。
合成ガス(Synthesis gas, Syngas)は、廃棄物、天然ガス、及び石炭から高温・高圧下で金属触媒の作用によって効率よく得られる、一酸化炭素、二酸化炭素、及び水素を主成分とする混合ガスである。
本発明では、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれた少なくとも1つを唯一の炭素源として増殖可能な微生物が、微生物集団となり得る。換言すれば、カルボキシドトローフ(Carboxydotroph)や二酸化炭素資化性微生物が、微生物集団となり得る。二酸化炭素資化性微生物とは、光合成、還元型アセチルCoA経路、又はRubiscoに依存したカルビン・ベンソン経路による二酸化炭素固定能を有するものである。
加えて、微生物集団は、メチルテトラヒドロ葉酸若しくはメチルテトラヒドロプテリン、一酸化炭素、及びCoAからアセチルCoAを合成する機能を有する微生物であることが好ましい。これらの性質を備えることにより、例えば、合成ガスを資化してIPPを合成する微生物を選抜することができる。このような細胞(微生物)の例としては、還元型アセチルCoA経路(Wood-Ljungdahl pathway)とメタノール経路(Methanol pathway)を有する嫌気性微生物が挙げられる。
加えて、微生物集団は、メチルテトラヒドロ葉酸若しくはメチルテトラヒドロプテリン、一酸化炭素、及びCoAからアセチルCoAを合成する機能を有する微生物であることが好ましい。これらの性質を備えることにより、例えば、合成ガスを資化してIPPを合成する微生物を選抜することができる。このような細胞(微生物)の例としては、還元型アセチルCoA経路(Wood-Ljungdahl pathway)とメタノール経路(Methanol pathway)を有する嫌気性微生物が挙げられる。
当該嫌気性微生物としては、Clostridium ljungdahlii、Clostridium autoethanogenumn、Clostridium carboxidivorans、Clostridium ragsdalei(Kopke M. et al., Appl. Environ. Microbiol. 2011, 77(15), 5467-5475)、Moorella thermoacetica(Clostridium thermoaceticumと同じ) (Pierce EG. Et al., Environ. Microbiol. 2008, 10, 2550-2573)等のClostridium属細菌又はMoorella属細菌が代表例として挙げられる。特に、Clostridium属細菌は、宿主−ベクター系や培養方法が確立しており、組換え用の宿主細胞として好適である。
Clostridium属細菌、Moorella属細菌以外の前記嫌気性微生物としては、Carboxydocella sporoducens sp. Nov. (Slepova TV. et al., Inter. J. Sys. Evol. Microbiol. 2006, 56, 797-800)、Rhodopseudomonas gelatinosa(Uffen RL, J. Bacteriol. 1983, 155(3), 956-965)、Eubacterium limosum (Roh H. et al., J. Bacteriol. 2011, 193(1), 307-308),Butyribacterium methylotrophicum (Lynd, LH. Et al., J. Bacteriol. 1983, 153(3), 1415-1423)、Oligotropha carboxidovorans、Bradyrhizobium japonicum、等の細菌が挙げられる。
また、還元型アセチルCoA経路は細菌が有するものであるが、アーキアもこれに類似した経路を有する。アセチルCoA合成酵素の基質であるメチル基供与体は、細菌ではメチルテトラヒドロ葉酸等であるのに対し、アーキアではメチルテトラヒドロプテリン等である(Diender M. et al., Frontiers in Microbiology 2015 , vol. 6, article 1275)。
アーキアに属する前記嫌気性微生物の例としては、Thermococcus属、Methanosarcina属、Methanococcus属、Methanomethylovorans属、Methanothrix属、Methanothermobactor属、Methanomethylophilus属、Methanosphaera属、等に属するものがある(Diender M. et al., Frontiers in Microbiology 2015 , vol. 6, article 1275;Borrel G. et al., Genome Biol. Evol. 2013, 5(10), 1769-1779)。本発明では、例えば、Methanosarcina属、Methanococcus属、又はThermococcus属に属するアーキアを用いることができる。
アーキアに属する前記嫌気性微生物の例としては、Thermococcus属、Methanosarcina属、Methanococcus属、Methanomethylovorans属、Methanothrix属、Methanothermobactor属、Methanomethylophilus属、Methanosphaera属、等に属するものがある(Diender M. et al., Frontiers in Microbiology 2015 , vol. 6, article 1275;Borrel G. et al., Genome Biol. Evol. 2013, 5(10), 1769-1779)。本発明では、例えば、Methanosarcina属、Methanococcus属、又はThermococcus属に属するアーキアを用いることができる。
<メチロトローフ>
メチロトローフ(Methylotroph)とは、分子内にC−C結合を有さない炭素化合物、例えばメタン、メタノール、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等を唯一の炭素源、エネルギー源として利用するC1化合物資化性微生物の総称名である。メサノトローフ(Methanotroph)、メタン酸化細菌、メタノール資化性細菌、メタノール資化性酵母、メタノール資化性微生物等と呼ばれる微生物は、全てメチロトローフに属するものである。
メチロトローフ(Methylotroph)とは、分子内にC−C結合を有さない炭素化合物、例えばメタン、メタノール、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等を唯一の炭素源、エネルギー源として利用するC1化合物資化性微生物の総称名である。メサノトローフ(Methanotroph)、メタン酸化細菌、メタノール資化性細菌、メタノール資化性酵母、メタノール資化性微生物等と呼ばれる微生物は、全てメチロトローフに属するものである。
メチロトローフは、メタノールをホルムアルデヒドに変換後、ホルムアルデヒドをC−C結合を有する有機物に変換する反応を中心代謝とする。ホルムアルデヒドを介した炭素同化代謝経路として、セリン経路、リブロースモノリン酸経路(RuMP経路)、及びキシルロースモノリン酸経路(XuMP経路)が知られている。細菌に分類されるメチロトローフ(メチロトローフ細菌)は、セリン回路又はRuMP経路を保有している。一方、酵母に分類されるメチロトローフ(メチロトローフ酵母)は、XuMP経路を保有している。
また、メチロトローフ細菌は、メタノール要求性の違いから、偏性メチロトローフ(obligate methylotroph)と、他の炭素化合物も利用できる通性メチロトローフ(facultative methylotroph)とに分類される。
また、メチロトローフ細菌は、メタノール要求性の違いから、偏性メチロトローフ(obligate methylotroph)と、他の炭素化合物も利用できる通性メチロトローフ(facultative methylotroph)とに分類される。
本発明における微生物集団はメチロトローフであり得る。例えば、本発明における微生物集団は、メタン、メタノール、メチルアミン、ギ酸、ホルムアルデヒド、及びホルムアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つのC1化合物からIPPを合成可能であり得る。また、ホルムアルデヒドの固定化経路として、セリン経路、リブロースモノリン酸経路、及びキシルロースモノリン酸経路からなる群より選ばれた少なくとも1つのC1炭素同化経路を有し得る。
本発明で使用可能なメチロトローフとしては、例えば、Methylacidphilum属、Methylosinus属、Methylocystis属、Methylobacterium属、Methylocella属、Methylococcus属、Methylomonas属、Methylobacter属、Methylobacillus属、Methylophilus属、Methylotenera属、Methylovorus属、Methylomicrobium属、Methylophaga属、Methylophilaceae属、Methyloversatilis属、Mycobacterium属、Arthrobacter属、Bacillus属、Beggiatoa属、Burkholderia属、Granulibacter属、Hyphomicrobium属、Pseudomonas属、Achromobactor属、Paracoccus属、Crenothrix属、Clonothrix属、Rhodobacter属、Rhodocyclaceae属、Silicibacter属、Thiomicrospira属、Verrucomicrobia属、などに属するメチロトローフ細菌が挙げられる。
細菌以外では、Pichia属、Candida属、Saccharomyces属、Hansenula属、Torulopsis属、Kloeckera属、などに属するメチロトローフ酵母が挙げられる。Pichia属酵母の例としては、P. haplophila、P. pastoris、P. trehalophila、P. lindnerii、などが挙げられる。Candida属酵母の例としては、C. parapsilosis、C. methanolica、C. boidinii、C. alcomigas、などが挙げられる。Saccharomyces属酵母の例としては、Saccharomyces metha-nonfoams、などが挙げられる。Hansenula属酵母の例としては、H. wickerhamii、H. capsulata、H. glucozyma、H. henricii、H. minuta、H. nonfermentans、H. philodendra、H. polymorpha、などが挙げられる。Torulopsis属酵母の例としては、T. methanolovescens、T. glabrata、T. nemodendra、T. pinus、T. methanofloat、T. enokii、T. menthanophiles、T. methanosorbosa、T. methanodomercqii、などが挙げられる。
好ましくは、微生物集団がMethylacidphilum属、Methylosinus属、Methylocystis属、Methylobacterium属、Methylocella属、Methylococcus属、Methylomonas属、Methylobacter属、Methylobacillus属、Methylophilus属、Methylotenera属、Methylovorus属、Methylomicrobium属、Methylophaga属、Methylophilaceae属、又はMethyloversatilis属に属するものである。特に好ましくは、Methanosphaera属、Methanosarcina属、Methanolobus属、Methanococcoides属、Methanohalophilus属、Methanohalobium属に属するものである。
なお、非メチロトローフである宿主細胞に、ホルムアルデヒドを介した炭素同化代謝経路(セリン経路、RuMP経路、XuMP酸経路、等)を導入することにより、メチロトローフと同様に扱うことが可能となる。RuMP経路の導入は、例えば、3−ヘキスロース6リン酸合成酵素(HPS;例えばEC4.1.2.43)遺伝子と、6−ホスホ−3−ヘキスロイソメラーゼ(PHI;例えばEC5.3.1.27)遺伝子を導入することにより、実現することができる。セリン経路の導入は、例えば、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(例えばEC2.1.2.1)遺伝子を導入することにより、実現することができる。このような、非メチロトローフをメチロトローフ化する手法の詳細は、例えば国際公開第2014/104202号(特許文献4)に記載されている。
<イソプレン合成酵素、テルペン合成酵素>
上記したように、イソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を導入した組換え細胞の集団が、本発明における微生物集団になり得る。テルペン合成酵素遺伝子としては、モノテルペン合成酵素遺伝子、セスキテルペン合成酵素遺伝子、ジテルペン合成酵素遺伝子、スクアレン合成酵素遺伝子、フィトエン合成酵素遺伝子が挙げられる。イソプレン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、イソプレンを生産可能である。モノテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、モノテルペン(炭素数10のテルペン)を生産可能である。セスキテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、セスキテルペン(炭素数15のテルペン)を生産可能である。ジテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、ジテルペン(炭素数20のテルペン)を生産可能である。スクアレン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、トリテルペン(炭素数30のテルペン)を生産可能である。フィトエン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、テトラテルペン(炭素数40のテルペン)を生産可能である。以下、各酵素及び遺伝子について順次説明する。
上記したように、イソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を導入した組換え細胞の集団が、本発明における微生物集団になり得る。テルペン合成酵素遺伝子としては、モノテルペン合成酵素遺伝子、セスキテルペン合成酵素遺伝子、ジテルペン合成酵素遺伝子、スクアレン合成酵素遺伝子、フィトエン合成酵素遺伝子が挙げられる。イソプレン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、イソプレンを生産可能である。モノテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、モノテルペン(炭素数10のテルペン)を生産可能である。セスキテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、セスキテルペン(炭素数15のテルペン)を生産可能である。ジテルペン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、ジテルペン(炭素数20のテルペン)を生産可能である。スクアレン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、トリテルペン(炭素数30のテルペン)を生産可能である。フィトエン合成酵素遺伝子を有する組換え細胞は、テトラテルペン(炭素数40のテルペン)を生産可能である。以下、各酵素及び遺伝子について順次説明する。
<イソプレン合成酵素>
イソプレン合成酵素(イソプレンシンターゼ、isoprene synthase、IspS)は、イソペンテニル二リン酸(IPP)の異性体であるジメチルアリル二リン酸(DMAPP)をイソプレンに変換する作用を有する。なお、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸間の構造変換は、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IDI)が触媒する。イソペンテニル二リン酸異性化酵素は全ての生物に存在する。
イソプレン合成酵素(イソプレンシンターゼ、isoprene synthase、IspS)は、イソペンテニル二リン酸(IPP)の異性体であるジメチルアリル二リン酸(DMAPP)をイソプレンに変換する作用を有する。なお、イソペンテニル二リン酸とジメチルアリル二リン酸間の構造変換は、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IDI)が触媒する。イソペンテニル二リン酸異性化酵素は全ての生物に存在する。
本発明で用いるイソプレン合成酵素(IspS)としては特に限定はなく、例えば、植物等の真核生物由来のものを用いることができる。植物由来のイソプレン合成酵素としては、ポプラ、ムクナ、クズ由来のものが一般的であるが、これらに限定されない。イソプレン合成酵素の具体例としては、Q50L36、Q6EJ97、Q9AR86、Q7XAS7、A0PFK2、A0A0M4UQH9、A0A0M5MSL0(以上UniProtKB entry)等が挙げられる。
配列番号1にポプラ由来イソプレン合成酵素(GenBank Accession No.: AM410988.1)のアミノ酸配列を示す。
本発明で用いるイソプレン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたイソプレン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のイソプレン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つイソプレン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
例えば、本発明で用いるイソプレン合成酵素には、少なくとも、下記(a−1)〜(a−3)のタンパク質が含まれる。
(a−1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(a−2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソプレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(a−3)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつイソプレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(a−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
(a−1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(a−2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソプレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(a−3)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつイソプレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(a−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
イソプレン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてイソペンテニル二リン酸異性化酵素(IDI)をコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、IPPからDMAPPへの変換が増強され、イソプレン合成能を増強することが可能となる。ここで使用されるIDIは特に限定されないが、P61615、Q13907、Q46822、P50740、Q8TT35、P15496、Q10132、Q9KWG2(以上UniProtKB entry)、等が例として挙げられる。
<モノテルペン合成酵素>
モノテルペンは2つのイソプレン単位から成る炭素数10のテルペンである。モノテルペンには非環式と環式のものがある。非環式モノテルペンには、ゲラニオール、ミルセン、シトラール、リナロール、ネロール等がある。環式モノテルペンには、リモネン、α−フェランドレン、β−フェランドレン、メントール、チモール、α−ピネン、β−ピネン、カレン、カルボン、シネオール、カンファー等がある。
モノテルペンは2つのイソプレン単位から成る炭素数10のテルペンである。モノテルペンには非環式と環式のものがある。非環式モノテルペンには、ゲラニオール、ミルセン、シトラール、リナロール、ネロール等がある。環式モノテルペンには、リモネン、α−フェランドレン、β−フェランドレン、メントール、チモール、α−ピネン、β−ピネン、カレン、カルボン、シネオール、カンファー等がある。
モノテルペン合成酵素は、ゲラニル二リン酸(GPP)又はネリル二リン酸(NPP)をモノテルペンに変換する酵素の総称である。モノテルペンの合成経路としては、GPP合成酵素又はNPP合成酵素の作用によって、イソペンテニル二リン酸(IPP)からGPP又はNPPが合成される。続いて、モノテルペン合成酵素の作用により、GPP又はNPPからモノテルペンが合成される。
好ましい実施形態では、モノテルペン合成酵素が環式モノテルペン合成酵素である。さらに好ましくは、環式モノテルペン合成酵素がフェランドレン合成酵素であり、具体的には、α−フェランドレン合成酵素又はβ−フェランドレン合成酵素である。
α−フェランドレン合成酵素としては、基質であるGPP又はNPPからα−フェランドレンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。α−フェランドレン合成酵素の例としては、G5CV35、E5GAG2 (以上UniProtKB entry)、GN65-37361 (SolCyc GeneID)、等があるがこれらに限定されない。
β−フェランドレン合成酵素としては、基質であるGPP又はNPPからβ−フェランドレンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。β−フェランドレン合成酵素の例としては、Q9M7D1、C1K5M3、Q1XBU4、R9QMW3、R9QMR4、R9QMW7、E9N3U9、C0PTH8、F2XFA5、F2XFA1、F2XFA4、A0A0B0P314 (以上UniProtKB entry)、等があるがこれらに限定されない。
本発明で用いるモノテルペン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたモノテルペン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のモノテルペン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つモノテルペン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
例えば、本発明で用いるフェランドレン合成酵素(モノテルペン合成酵素)には、少なくとも、下記(b−1)〜(b−3)のタンパク質が含まれる。
(b−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b−2)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(b−3)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつα−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(b−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
(b−1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b−2)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(b−3)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつα−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(b−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
その他、本発明で用いるフェランドレン合成酵素(モノテルペン合成酵素)には、少なくとも、下記(c−1)〜(c−3)のタンパク質が含まれる。
(c−1)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c−2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつβ−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(c−3)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつβ−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(c−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
(c−1)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c−2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつβ−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質、
(c−3)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつβ−フェランドレン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(c−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
モノテルペン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてイソペンテニル二リン酸異性化酵素(IDI)をコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、IPPからDMAPPへの変換が増強され、GPP合成能又はNPP合成能を増強することが可能となる。その結果、モノテルペン合成能を増強することが可能となる。
好ましい実施形態では、モノテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてGPP合成酵素(GPPS)をコードする遺伝子又はNPP合成酵素(NPPS)遺伝子をさらに有する。これらの遺伝子を導入することにより、GPP又はNPPからのモノテルペン合成能を増強することが可能となる。GPPSの例としては、S4S927、S4S8D9、D8LHY4、H6VLF6、H6VLF3、D8RV97、Q6V4K1、Q8LKJ3、Q8LKJ2、Q8LKJ1、Q9FSW8、H6VLF7、V5REB1、Q58GE8 (以上UniProtKB entry)、等が挙げられる。NPPSの例としては、トマト由来のNDPS1 (Schilmiller AL et al., PNAS 2009, 106 (26), 10865-10870)、等が挙げられる。
<セスキテルペン合成酵素>
セスキテルペンは3つのイソプレン単位から成る炭素数15のテルペンである。セスキテルペンには非環式、単環式、二環式、及び三環式のものがある。非環式セスキテルペンにはファルネセン、ファルネソール等がある。単環式セスキテルペンにはzingiberene、Humulene、アブシジン酸等がある。二環式セスキテルペンにはCaryophyllene、Eudesman、Eremophilan、Valeran、Cadinan、Cadinene、Guajan、Driman、Cedrol、Nootkatone等がある。三環式セスキテルペンにはIlludan、Prezizaan、Marasman、Cedran、Thujopsan、Hirsutan等がある。
セスキテルペンは3つのイソプレン単位から成る炭素数15のテルペンである。セスキテルペンには非環式、単環式、二環式、及び三環式のものがある。非環式セスキテルペンにはファルネセン、ファルネソール等がある。単環式セスキテルペンにはzingiberene、Humulene、アブシジン酸等がある。二環式セスキテルペンにはCaryophyllene、Eudesman、Eremophilan、Valeran、Cadinan、Cadinene、Guajan、Driman、Cedrol、Nootkatone等がある。三環式セスキテルペンにはIlludan、Prezizaan、Marasman、Cedran、Thujopsan、Hirsutan等がある。
セスキテルペン合成酵素は、ファルネシル二リン酸(FPP)をセスキテルペンに変換する酵素の総称である。セスキテルペンの合成経路としては、GPP合成酵素の作用によって、IPPからGPPが合成される。続いて、FPP合成酵素の作用によって、GPPからFPPが合成される。続いて、セスキテルペン合成酵素の作用によって、FPPからセスキテルペンが合成される。
好ましい実施形態では、セスキテルペン合成酵素が環式セスキテルペン合成酵素である。別の好ましい実施形態では、セスキテルペン合成酵素がファルネセン合成酵素である。
ファルネセン合成酵素としては、基質であるファルネシル二リン酸(FPP)からファルネセンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。ファルネセン合成酵素の例としては、ファルネセンのα体((3E, 6E)-alpha-farnesene)を合成するには、Q84LB2, B9RXW0、B2KSJ6、Q84KL5 (以上、UniProtKB entry)等があり、ファルネセンのβ体((E)-beta-farnesene)を合成するには、Q9FXY7、O48935、Q2NM15、C7E5V9、C7E5V7、Q94JS8、C7E5W0、C7E5V8 (以上、UniProtKB entry)等があるが、これらに限定されない。
本発明で用いるセスキテルペン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたセスキテルペン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のセスキテルペン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つセスキテルペン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
例えば、本発明で用いるファルネセン合成酵素(セスキテルペン合成酵素)には、少なくとも、下記(d−1)〜(d−3)のタンパク質が含まれる。
(d−1)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d−2)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネセン合成酵素活性を有するタンパク質、
(d−3)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつファルネセン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(d−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
(d−1)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d−2)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつファルネセン合成酵素活性を有するタンパク質、
(d−3)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつファルネセン合成酵素活性を有するタンパク質。
なお(d−3)におけるアミノ酸配列の配列同一性については、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
セスキテルペン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてIDIをコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、GPP合成能を増強することが可能となる。その結果、FPP合成能が強化され、セスキテルペン合成能を増強することが可能となる。
好ましい実施形態では、セスキテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてGPP合成酵素(GPPS)をコードする遺伝子及び/又はFPP合成酵素(FPPS)遺伝子をさらに有する。これらの遺伝子を導入することにより、GPP及び/又はFPPの合成能が増強され、結果としてセスキテルペン合成能を増強することが可能となる。GPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。FPPSの例としては、P08524、P09152、P49349、P14324、P05369、O014230 (以上UniProtKB entry)、等が挙げられる。GPPS遺伝子とFPPS遺伝子については、いずれか一方が導入されていてもよいし、両方が導入されていてもよい。
<ジテルペン合成酵素>
ジテルペンは4つのイソプレン単位から成る炭素数20のテルペンである。ジテルペンには非環式、単環式、二環式、及び三環式のものがある。非環式ジテルペンにはα−トコフェノール、レチノール、及びフィトール等がある。環式ジテルペンにはAbietane、Abietic acid、Neoabietic acid、Levomaric acid、Sapietic acid、Atisane、Beyerane、Gibbane、Gibberellic acid、Kaurane、Steviol、Labdane、Picrasane、Pimarane、Podocarpane、Rosane、Taxane、レチナール、レチノイン酸、レチノール、等がある。
ジテルペンは4つのイソプレン単位から成る炭素数20のテルペンである。ジテルペンには非環式、単環式、二環式、及び三環式のものがある。非環式ジテルペンにはα−トコフェノール、レチノール、及びフィトール等がある。環式ジテルペンにはAbietane、Abietic acid、Neoabietic acid、Levomaric acid、Sapietic acid、Atisane、Beyerane、Gibbane、Gibberellic acid、Kaurane、Steviol、Labdane、Picrasane、Pimarane、Podocarpane、Rosane、Taxane、レチナール、レチノイン酸、レチノール、等がある。
ジテルペン合成酵素は、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)をジテルペンに変換する酵素の総称である。ジテルペンの合成経路としては、GPP合成酵素の作用によって、IPPからGPPが合成される。続いて、FPP合成酵素の作用によって、GPPからFPPが合成される。続いて、GGPP合成酵素(GGPPS)の作用によって、FPPからGGPPが合成される。続いて、ジテルペン合成酵素の作用によって、GGPPからジテルペンが合成される。
ジテルペン合成酵素としては、GGPPからジテルペンを生成させる活性のある酵素であればいずれのものも使用可能である。ジテルペン合成酵素の例としては、Q38710、P9WJ61、G9MAN7、M4HY05、H8ZM70、M1VDX3、A2PZA5、Q675L5、Q0E088、P9WJ60、Q6Z5J6、M4HYP3 (UniProtKB entry)、等があるが、これらに限定されない。
本発明で用いるジテルペン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたジテルペン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のジテルペン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つジテルペン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
ジテルペン合成酵素遺伝子に加えて、外来遺伝子としてIDIをコードする遺伝子をさらに有する実施形態も可能である。IDI遺伝子を導入することで、GPP合成能を増強することが可能となる。その結果、FPP合成能とGPPS合成能が強化され、ジテルペン合成能を増強することが可能となる。
好ましい実施形態では、ジテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてGPP合成酵素(GPPS)をコードする遺伝子、FPP合成酵素(FPPS)をコードする遺伝子、及びGGPP合成酵素(GGPPS)をコードする遺伝子からなる群から選ばれた少なくとも1つの遺伝子をさらに有する。これらの遺伝子を導入することにより、GPP、FPP、又はGGPPの合成能が増強され、結果としてジテルペン合成能を増強することが可能となる。GPPS、FPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。GGPPSの例としては、Q12051、Q84J75、P34802、P80042、Q94ID7、Q9SLG2、Q9C446、Q54BK1、Q9LUE1、Q92236、Q39108、O95749、Q12051、Q9P885、P24322 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
GPPS遺伝子、FPPS遺伝子、GGPPS遺伝子については、いずれか1つが導入されていてもよいし、2つ以上が導入されていてもよい。
GPPS遺伝子、FPPS遺伝子、GGPPS遺伝子については、いずれか1つが導入されていてもよいし、2つ以上が導入されていてもよい。
好ましい実施形態では、ジテルペン合成酵素遺伝子等に加えて、外来遺伝子としてコパリル二リン酸合成酵素(CPPS)をコードする遺伝子をさらに有する。コパリル二リン酸(Copalyl diphosphate、CPP)は炭素数20のGGPP誘導体である。CPP合成酵素遺伝子を導入することにより、ジテルペン合成酵素の基質がCPPである場合にも対応できる。CPPSの例としては、G8HZG6、O22667、A0A0N7I618、Q0Q2G7 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
<スクアレン合成酵素>
トリテルペンは6つのイソプレン単位から成る炭素数30のテルペンである。一般的には、FPP(C15)の二量体化で非環式トリテルペンであるスクアレン(Squalene)(C30)が生成し(スクアレン合成酵素が触媒する)、スクアレンから2,3-Oxidosqualene(2,3-epoxy-2,3-dihydroaqualene)が生成し、2,3-Oxidosqualeneの環化を経て200種以上のトリテルペン骨格が生合成され得る。ただし、スクアレンから2,3-Oxidosqualeneの生成が酸素要求性であるので、嫌気性アーキアである本発明の組換え細胞が生産可能なトリテルペンは、スクアレンの環化によって生じるホペン(Hopene)、ホパノール(Hopanol)、及びその誘導体であるホパノイド(Hopanoid)化合物が主となる。
トリテルペンは6つのイソプレン単位から成る炭素数30のテルペンである。一般的には、FPP(C15)の二量体化で非環式トリテルペンであるスクアレン(Squalene)(C30)が生成し(スクアレン合成酵素が触媒する)、スクアレンから2,3-Oxidosqualene(2,3-epoxy-2,3-dihydroaqualene)が生成し、2,3-Oxidosqualeneの環化を経て200種以上のトリテルペン骨格が生合成され得る。ただし、スクアレンから2,3-Oxidosqualeneの生成が酸素要求性であるので、嫌気性アーキアである本発明の組換え細胞が生産可能なトリテルペンは、スクアレンの環化によって生じるホペン(Hopene)、ホパノール(Hopanol)、及びその誘導体であるホパノイド(Hopanoid)化合物が主となる。
上述のように、スクアレン合成酵素(SS)(EC 2.5.1.21)はFPPを二量体化する作用を有する。ホパノイド化合物を合成する場合には、スクアレン合成酵素遺伝子に加えて、少なくともスクアレン/ホペン環化酵素(Squalene/Hopene cyclase)(EC 5.4.99.17)遺伝子、もしくはスクアレン/ホパノール環化酵素(Squlalene/Hopanol cyclase)(EC 4.2.1.129)遺伝子を導入すればよい。一般的は、スクアレン/ホペン環化酵素は、スクアレン/ホパノール環化酵素活性も持ち合わせている。スクアレン合成酵素(SS)の例としては、P53799、P36596、P29704、P37268、P52020、Q9HGZ6、Q9Y753、Q9SDW9、P78589 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。スクアレン/ホペン環化酵素(スクアレン/ホパノール環化酵素)の例としては、P33247、P33990、P54924、P55348 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
SS遺伝子に加え、さらにIDI遺伝子を導入することで、スクアレン合成能を増強することが可能である。またさらに、ゲラニル二リン酸合成酵素(GPPS)遺伝子及び/又はファルネシル二リン酸合成酵素(FPPS)遺伝子を導入することで、スクアレンの合成能を増強することが可能である。GPPS、FPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。
本発明で用いるスクアレン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたスクアレン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のスクアレン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つスクアレン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
<フィトエン合成酵素>
テトラテルペンは8つのイソプレン単位から成る炭素数40のテルペンであり、主にカロテノイドとばれる化合物群が含まれる。テトラテルペンには非環式又は環式のものが多数存在する。非環式のテトラテルペンには、フィトエン、リコペン、ネウロスポレン等がある。一環式のテトラテルペンには、γ−カロテン等がある。二環式テトラテルペンには、α−カロテン、β−カロテン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、カンタキサンチン、カプサンチン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ミキソキサントフィル、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ロドキサンチン、ネオキサンチン、フラボキサンチン等がある。
テトラテルペンは8つのイソプレン単位から成る炭素数40のテルペンであり、主にカロテノイドとばれる化合物群が含まれる。テトラテルペンには非環式又は環式のものが多数存在する。非環式のテトラテルペンには、フィトエン、リコペン、ネウロスポレン等がある。一環式のテトラテルペンには、γ−カロテン等がある。二環式テトラテルペンには、α−カロテン、β−カロテン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、カンタキサンチン、カプサンチン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ミキソキサントフィル、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ロドキサンチン、ネオキサンチン、フラボキサンチン等がある。
フィトエン合成酵素(PYS)(EC 2.5.1.32)は、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を二量体化する作用を有する。PYSの例としては、Q7Z859、Q9P854、P37272、Q67GH9、D5KXJ0、P21683、Q9UUQ6、P08196、B2ATB0、Q2U4X9、A2QM49、P37271、P37273、P49085、P54975、P9WHP3、P54977、P22872、P17056 (UniProtKB entry)、等が挙げられる。
PSY遺伝子に加え、さらにIDI遺伝子を導入することで、フィトエン合成能を増強することが可能である。またさらに、GPP合成酵素遺伝子、FPP合成酵素遺伝子、及びGGPP合成酵素遺伝子からなる群より選ばれた少なくとも1つの遺伝子を導入することで、フィトエン合成能を増強することが可能である。GPPS、FPPS、GGPPSの例としては、上記で例示したものが挙げられる。
本発明で用いるフィトエン合成酵素については、天然で見いだされ且つ単離されたフィトエン合成酵素の他、これらの改変体であってもよい。例えば、既存のフィトエン合成酵素の部分断片やアミノ酸置換変異体であって且つフィトエン合成酵素の活性を有するタンパク質であってもよい。
以上のように、本発明における微生物集団を構成する微生物は、外来遺伝子としてイソプレン合成酵素遺伝子、モノテルペン合成酵素遺伝子、セスキテルペン合成酵素遺伝子、ジテルペン合成酵素遺伝子、スクアレン合成酵素遺伝子、又はフィトエン合成酵素遺伝子を有し、任意的に、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、NPPS遺伝子、GGPPS遺伝子、CPPS遺伝子、SS遺伝子、等をさらに有してもよい。
<外来性MVA経路の導入>
外来性MVA経路を宿主細胞に導入する場合には、メバロン酸経路で作用する酵素をコードする遺伝子、例えば、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼからなる群より選ばれた酵素をコードする遺伝子(第二外来遺伝子)を宿主に導入し、発現させればよい。導入する酵素遺伝子は、MVA経路によるIPP合成能を保持する限りにおいて、上記のいずれか1つの酵素遺伝子であってもよいし、複数の酵素遺伝子であってもよい。
外来性MVA経路を宿主細胞に導入する場合には、メバロン酸経路で作用する酵素をコードする遺伝子、例えば、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼからなる群より選ばれた酵素をコードする遺伝子(第二外来遺伝子)を宿主に導入し、発現させればよい。導入する酵素遺伝子は、MVA経路によるIPP合成能を保持する限りにおいて、上記のいずれか1つの酵素遺伝子であってもよいし、複数の酵素遺伝子であってもよい。
外来性MVA経路の由来、例えば上記した酵素群(アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ)の由来としては、真核生物由来のものが挙げられる。なお、全ての真核生物はMVA経路を有している。
ただし、MVA経路は真核生物以外でも見出されている。MVA経路を有する当該微生物としては、放線菌では、Streptomyces sp. Strain CL190 (Takagi M. et al., J. Bacteriol. 2000, 182 (15), 4153-7)、Streptomyces griseolosporeus MF730-N6 (Hamano Y. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 2001, 65(7), 1627-35)が挙げられる。
また細菌では、Lactobacillus helvecticus (Smeds A et al., DNA seq. 2001, 12(3), 187-190)、Lactobacillus johnsonii NCC 533、Corynebacterium amycolatum、Mycobacterium marinum、Bacillus coagulans、Enterococcus faecalis、Streptococuss agalactiae、Myxococcus xanthus等が挙げられる(Lombard J. et al., Mol. Biol. Evol. 2010, 28(1), 87-99)。
さらにアーキアでは、Aeropyrum属、Sulfolobus属、Desulfurococcus属、Thermoproteus属、Halobacterium属、Methanococcus属、Thermococcus属、Pyrococcus属、Methanopyrus属、Thermoplasma属等が挙げられる(Lombard J. et al., Mol. Biol. Evol. 2010, 28(1), 87-99)。
本発明では、これらの放線菌、細菌、又はアーキア由来のMVA経路を、外来性MVA経路として採用することができる。
ただし、MVA経路は真核生物以外でも見出されている。MVA経路を有する当該微生物としては、放線菌では、Streptomyces sp. Strain CL190 (Takagi M. et al., J. Bacteriol. 2000, 182 (15), 4153-7)、Streptomyces griseolosporeus MF730-N6 (Hamano Y. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 2001, 65(7), 1627-35)が挙げられる。
また細菌では、Lactobacillus helvecticus (Smeds A et al., DNA seq. 2001, 12(3), 187-190)、Lactobacillus johnsonii NCC 533、Corynebacterium amycolatum、Mycobacterium marinum、Bacillus coagulans、Enterococcus faecalis、Streptococuss agalactiae、Myxococcus xanthus等が挙げられる(Lombard J. et al., Mol. Biol. Evol. 2010, 28(1), 87-99)。
さらにアーキアでは、Aeropyrum属、Sulfolobus属、Desulfurococcus属、Thermoproteus属、Halobacterium属、Methanococcus属、Thermococcus属、Pyrococcus属、Methanopyrus属、Thermoplasma属等が挙げられる(Lombard J. et al., Mol. Biol. Evol. 2010, 28(1), 87-99)。
本発明では、これらの放線菌、細菌、又はアーキア由来のMVA経路を、外来性MVA経路として採用することができる。
<遺伝子導入の手法>
微生物集団として組換え細胞を用いる場合の、遺伝子導入の手法について説明する。
宿主細胞に遺伝子を導入する方法としては特に限定はなく、宿主細胞の種類等によって適宜選択すればよい。例えば、宿主細胞に導入可能でかつ組み込まれた遺伝子を発現可能なベクターを用いることができる。例えば、宿主細胞が細菌等の原核生物の場合には、当該ベクターとして、宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組み込みが可能で、挿入された上記遺伝子を転写できる位置にプロモーターを含有しているものを用いることができる。例えば、当該ベクターを用いて、プロモーター、リボソーム結合配列、上記遺伝子(DNA)、および転写終結配列からなる一連の構成を宿主細胞内で構築することが好ましい。
微生物集団として組換え細胞を用いる場合の、遺伝子導入の手法について説明する。
宿主細胞に遺伝子を導入する方法としては特に限定はなく、宿主細胞の種類等によって適宜選択すればよい。例えば、宿主細胞に導入可能でかつ組み込まれた遺伝子を発現可能なベクターを用いることができる。例えば、宿主細胞が細菌等の原核生物の場合には、当該ベクターとして、宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組み込みが可能で、挿入された上記遺伝子を転写できる位置にプロモーターを含有しているものを用いることができる。例えば、当該ベクターを用いて、プロモーター、リボソーム結合配列、上記遺伝子(DNA)、および転写終結配列からなる一連の構成を宿主細胞内で構築することが好ましい。
宿主細胞がClostridium属細菌(Moorella属細菌のような近縁種を含む)の場合について説明すると、Clostridium属細菌と大腸菌とのシャトルベクターpIMP1(Mermelstein LD et al., Bio/technology 1992, 10, 190-195)を用いることができる。本シャトルベクターは、pUC9 (ATCC 37252)とBacillus subtilisから分離されたpIM13 (Projan SJ et al., J. Bacteriol. 1987, 169 (11), 5131-5139)との融合ベクターであり、Clostridium属細菌内でも安定的に保持される。
なお、Clostridium属細菌への遺伝子導入には、通常、エレクトロポレーション法が使用されるが、遺伝子導入直後の導入された外来プラスミドは制限酵素Cac824I等による分解を受けやすく極めて不安定である。そのため、Bacillus subtilis ファージΦ3T1由来メチルトランスフェラーゼ遺伝子が保持されたpAN1 (Mermelstein LD et al., Apply. Environ. Microbiol. 1993, 59(4), 1077-1081)を保有する大腸菌、例えばER2275株等で、pIMP1に由来するベクターを一旦増幅し、メチル化処理を行ってから、これを大腸菌から回収しエレクトロポレーションによる形質転換に使用することが好ましい。なお最近では、Cac824I遺伝子が欠損したClostridium acetobuthylicumが開発されており、メチル化処理されていないベクターも安定的に可能である(Dong H. et al., PLoS ONE 2010, 5 (2), e9038)。
Clostridium属細菌における異種遺伝子発現のプロモーターとしては、例えばthl (thiolase)プロモーター(Perret S et al., J. Bacteriol. 2004, 186(1), 253-257)、Dha (glycerol dehydratase)プロモーター(Raynaud C. et al., PNAS 2003, 100(9), 5010-5015)、ptb (phosphotransbutyrylase)プロモーター (Desai RP et al., Appl. Environ. Microbiol. 1999, 65(3), 936-945)、adc (acetoacetate decarboxylase)プロモーター(Lee J et al., Appl. Environ. Microbiol. 2012, 78 (5), 1416-1423)等がある。ただし、本発明ではこれらに限定されることなく、宿主細胞等に見出される様々な代謝系のオペロンに使用されているプロモーター領域の配列が使用可能である。
宿主細胞がメチロトローフ細菌の場合について説明すると、メチロトローフ細菌の染色体への組み込み方法としては、リブロースモノリン酸経路を有するMethylobacillus flagellatusや、セリン経路を有するMethylobacterium extorquencsで、目的遺伝子の破壊操作によって例が示されている(Chistoserdova L. et al., Microbiology 2000, 146, 233-238; Chistoserdov AY., et al., J. Bacteriol 1994, 176, 4052-4065)。これらは環状DNAを用いたゲノムへの遺伝子導入法であるが、Methylophilus属細菌等では、直鎖状DNAを用いたゲノムへの遺伝子導入法も開発されている(特開2004−229662号公報)。一般に、宿主細胞による分解を受けにくい場合は、直鎖状DNAによるゲノム組換えの方が、環状DNAによるよりも効率的である。また通常、相同組換え法は、inverted-repeat sequence等のように、ゲノム上に多コピー存在する遺伝子を標的することが好ましい。また、ゲノムに多コピー導入する手法としては、相同組換え以外に、トランスポゾンに搭載する方法もある。メチロトローフ細菌へのプラスミドによる遺伝子導入法としては、例えば、広宿主域ベクターであるpAYC32 (Chistoserdov AY., et al., Plasmid 1986, 16, 161-167)、pRP301 (Lane M., et al., Arch. Microbiol. 1986, 144(1), 29-34)、pBBR1、pBHR1 (Antoine R. et al., Molecular Microbiology 1992, 6, 1785-1799)、pCM80 (Marx CJ. et al., Microbiology 2001, 147, 2065-2075)、等がある。
宿主細胞がアーキアの場合について説明すると、アーキアにおける遺伝子操作では、例えば、Methanosarcina属菌に内在するプラスミドpC2Aをベースとした大腸菌とのシャトルベクターが使用可能である(Sowers K.R. et al., J. Bacteriol. 1988, 170, 4979-4982; Metcalf W.W. et al., PNAS 1997, 94, 2626-2631)。相同組換えによる遺伝子の導入、欠損の例もあり(Rother M., et al., J. Bacteriol 2005, 187, 5552-5559; Conway D.M., J. Mol. Biol. 1996, 262, 12-20)、これらの手法が利用可能である。発現系としては、テトラサイクリン耐性遺伝子発現の制御系を利用した誘導及び構成発現の手法(Guess A.M. et al., Archaea 2008, 2, 193-203)等が利用可能である。
また、ベクターを用いて複数種の遺伝子を宿主細胞に導入する場合、各遺伝子を1つのベクターに組み込んでもよいし、別々のベクターに組み込んでもよい。さらに1つのベクターに複数の遺伝子を組み込む場合には、各核酸を共通のプロモーターの下で発現させてもよいし、別々のプロモーターの下で発現させてもよい。複数種の遺伝子を導入する例としては、外来性MVA経路で作用する酵素の遺伝子と、イソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子とを導入する態様が挙げられる。
上記のような外来遺伝子導入に加え、突然変異やゲノムシャッフリングをさらに施すことで、イソプレンやテルペンの生産性が格段向上した菌株を育種することも可能である。この場合にも、MEP経路に対する特異的阻害剤を共存させておくことで、スクリーニングの対象を機能的な外来MVA経路を保持したクローン集団に絞ることが可能である。
<別の様相>
本発明に係る微生物の選抜方法の別の様相は、イソペンテニル二リン酸の生合成経路としてメバロン酸経路を有する微生物集団から、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜するものである。本様相は、微生物集団を、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤の存在下で培養するA工程と、A工程で生育した微生物を目的微生物として選抜するB工程とを包含する。
本発明に係る微生物の選抜方法の別の様相は、イソペンテニル二リン酸の生合成経路としてメバロン酸経路を有する微生物集団から、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜するものである。本様相は、微生物集団を、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤の存在下で培養するA工程と、A工程で生育した微生物を目的微生物として選抜するB工程とを包含する。
本様相においても、上記した実施形態がそのまま適用できる。例えば、微生物集団は、組換え細胞からなる集団であってもよいし、天然微生物からなる集団であってもよい。ランダム変異処理が施されたものであってもよい。組換え細胞の場合には、MEP経路を有する宿主細胞に外来性MVA経路が導入されたものが好ましく、さらに、イソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子が導入されたものでもよい。
A工程で用いる「メバロン酸経路に対する特異的阻害剤」は、上記した第二阻害剤と同様の実施形態を採用することができる。例えば、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ、HMG−CoAシンターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、5−ホスホメバロン酸キナーゼ、又はジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼに対する特異的阻害剤を、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤として採用することができる。
B工程は、上記した第二工程と同様の実施形態を採用することができる。
B工程は、上記した第二工程と同様の実施形態を採用することができる。
本様相において、微生物集団はアーキアであり得る。そして当該アーキアは、カルボキシドトローフ(Carboxydotroph)、メチロトローフ(Methylotroph)、又は二酸化炭素資化性アーキアであり得る。
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例では、外来性MVA経路遺伝子及びイソプレン合成酵素遺伝子が導入されたイソプレン生産組換え合成ガス資化性細菌(Clostridium ljungdahlii)の、効率的選抜方法について示す。
(1)プラスミドベクターの構築
Clostridium/E.coliバイナリーベクターであるpJIR750ai(Sigma-Aldrich社)を改変し、乳酸桿菌由来メバロン酸経路遺伝子クラスター(Lactobacillus johnsonii NCC 533由来、配列番号5、配列番号6、GenBank Accession No.: AE017198.1)、イソプレン合成酵素遺伝子(ポプラ由来IspS遺伝子、配列番号7、GenBank Accession No.: AM410988.1)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(pJIR750ai由来)、をコドン改変した塩基配列含むpSK1(LbMVA-ISPS)(配列番号8)を構築した。
Clostridium/E.coliバイナリーベクターであるpJIR750ai(Sigma-Aldrich社)を改変し、乳酸桿菌由来メバロン酸経路遺伝子クラスター(Lactobacillus johnsonii NCC 533由来、配列番号5、配列番号6、GenBank Accession No.: AE017198.1)、イソプレン合成酵素遺伝子(ポプラ由来IspS遺伝子、配列番号7、GenBank Accession No.: AM410988.1)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(pJIR750ai由来)、をコドン改変した塩基配列含むpSK1(LbMVA-ISPS)(配列番号8)を構築した。
pSK1(LbMVA-ISPS)の構成を図1に示す。図中、MvaEはアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、HMGCRはHMG−CoAレダクターゼ遺伝子、HMGCSはHMG−CoAシンターゼ遺伝子、MVKはメバロン酸キナーゼ遺伝子、MVDはジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子、PMVKはホスホメバロン酸キナーゼ遺伝子、IDIはイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子を表す。また、IspS populusはポプラ由来イソプレン合成酵素の配列(Clostridium用に一部コドン改変)、GroEL SDはC. ljungdahliiのchaperonin GroEL遺伝子上流のSD配列、thl promoterはC. acetobutylicumのチオラーゼプロモーターを表す。さらに、pMB1は大腸菌のori、CatPはクロラムフェニコール耐性遺伝子、rep originはClostridiumの複製開始点、pIP404 replication enzymeはClostridiumでの複製酵素を表す。
(2)DSM13528/ATCC55383株への遺伝子導入
Leang C. et al.,Appl Environ Microbiol. 2013 79(4), 1102-9記載の手法を用いて、DSM13528/ATCC55383株にpSK1(LbMVA-ISPS)をエレクトロポレーション法で導入した。5μg/mLチアンフェニコール及び250μg/mLホスミドマイシン・ナトリウム塩水和物(Sigma F8682)を含むATCC1754寒天培地(フルクトース入り、1.5%Agar)(以下、選択培地Aと称する)、もしくは5μg/mLチアンフェニコールを含むATCC1754寒天培地(フルクトース入り、1.5%Agar)(以下、選択培地Bと称する)を用いて培養し、それぞれ20クローンを選抜した。各クローンについて、イソプレンの生産量を調べた。なお、ホスミドマイシンは、MEP経路の構成酵素の一つであるDOXPレダクトイソメラーゼの特異的阻害剤(第一阻害剤)である。
Leang C. et al.,Appl Environ Microbiol. 2013 79(4), 1102-9記載の手法を用いて、DSM13528/ATCC55383株にpSK1(LbMVA-ISPS)をエレクトロポレーション法で導入した。5μg/mLチアンフェニコール及び250μg/mLホスミドマイシン・ナトリウム塩水和物(Sigma F8682)を含むATCC1754寒天培地(フルクトース入り、1.5%Agar)(以下、選択培地Aと称する)、もしくは5μg/mLチアンフェニコールを含むATCC1754寒天培地(フルクトース入り、1.5%Agar)(以下、選択培地Bと称する)を用いて培養し、それぞれ20クローンを選抜した。各クローンについて、イソプレンの生産量を調べた。なお、ホスミドマイシンは、MEP経路の構成酵素の一つであるDOXPレダクトイソメラーゼの特異的阻害剤(第一阻害剤)である。
(3)イソプレン定量
選抜したクローン(計40株)を37℃、嫌気条件下で培養した。5μg/mLチアンフェニコール入りATCC1754培地(ただしpH=5.0、フルクトース非含有)5mLに植菌し、CO/CO2/H2=33/33/34%(体積比)の混合ガスを27mL容の密閉可能なヘッドスペースバイアル容器に仕込み、0.25MPa(絶対圧)のガス圧で充填し、アルミキャップで密封した後、振とう培養した。増殖が認められたものにつき、OD600が1.0に到達した時点で培養を終了し、気相をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 Ultra、島津製作所社)にて分析した。サンプリングには自動ヘッドスペースサンプリング装置(HS-20、島津製作所社)を使用した。
選抜したクローン(計40株)を37℃、嫌気条件下で培養した。5μg/mLチアンフェニコール入りATCC1754培地(ただしpH=5.0、フルクトース非含有)5mLに植菌し、CO/CO2/H2=33/33/34%(体積比)の混合ガスを27mL容の密閉可能なヘッドスペースバイアル容器に仕込み、0.25MPa(絶対圧)のガス圧で充填し、アルミキャップで密封した後、振とう培養した。増殖が認められたものにつき、OD600が1.0に到達した時点で培養を終了し、気相をガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 Ultra、島津製作所社)にて分析した。サンプリングには自動ヘッドスペースサンプリング装置(HS-20、島津製作所社)を使用した。
その結果、選択培地Aで選択した20クローンのうち19クローンがイソプレン生産能を示し、その生産能の平均値は11.8mg/g乾燥菌体であった。一方、選択培地Bで選択した20クローンでは、イソプレン生産能を示したのは3クローンのみであった、さらに、これら3クローンのイソプレン生産能の平均値は9.8mg/g乾燥菌体であった。
以上より、MEP経路に対する特異的阻害剤(第一阻害剤)を用いて、外来性MVA経路及びイソプレン合成酵素遺伝子が機能しているクローンを効率的に選択することができた。
以上より、MEP経路に対する特異的阻害剤(第一阻害剤)を用いて、外来性MVA経路及びイソプレン合成酵素遺伝子が機能しているクローンを効率的に選択することができた。
なお、本実施例では組換え体からなる微生物集団を用いたが、天然微生物からなる微生物集団に対しても本実施例が適用可能である。
本実施例では、外来性MVA経路遺伝子及びイソプレン合成酵素遺伝子が導入された組換え合成ガス資化細菌(Clostridium ljungdahlii)であって、IPP合成能が向上し、イソプレン生産能により優れる組換え体の、効率的選抜方法について示す。本実施例では、MEP経路に対する特異的阻害剤(第一阻害剤)とMVA経路に対する特異的阻害剤(第二阻害剤)を用いた。
実施例1で構築したpSK1(LbMVA-ISPS)のLactobacillus johnsonii由来type-II HMG-CoAリダクターゼ遺伝子コーディング部分のみを、アーキアであるMethanosarcia barkeri由来のtypeI HMG-CoAリダクターゼ(KEGG entry: MSBRM_0693;配列番号9)に変換したプラスミドベクターpSK2を作製した。なお、真核生物及びアーキア由来のHMG-CoAリダクターゼはType-IIに属し、メビロニン(Mevinoline)によって阻害されることがわかっている (Perez-Gil, J. et al., Biochem. J. 2013, 452, 19-25)。
実施例1と同様の条件で、C. ljungdahliiへpSK2を導入し、選択培地Aを用いて20クローンを選択した。これら全てを、同一の容器内で、寒天を含まない選択培地Aの液体培地中(25mL)、嫌気条件下で対数増殖期(OD600=0.4-0.6)まで培養した。その後、突然変異誘発剤としてN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を5μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL濃度で添加し、33℃で1時間処理した。各処理溶液5mLを、それぞれ選択培地C(選択培地Aのホスミドマイシン濃度を500μg/mLとしたもの)、又は選択培地D(選択培地Cに、さらに150μg/mLのMevinoline (Sigma: M2147)を添加したもの)にて培養した。すなわち、選択培地Cは第一阻害剤のみを含み、選択培地Dは第一阻害剤と第二阻害剤の両方を含む。選択培地Cと選択培地Dで生育したクローンを、ランダムにそれぞれ30クローン選択した。実施例1の方法と同様に液体培養を行い、各クローンについてイソプレンの生産量を測定した。
その結果、選択培地Cから選択したクローンのイソプレン生産能の平均値は、8.8mg/g乾燥菌体であった。これに対し、選択培地Dから選択したクローンのイソプレン生産能の平均値は、21.5mg/g乾燥菌体であった。これにより、MEP経路阻害剤とMVA経路阻害剤の両方を使用することで、イソプレン産生能が顕著に増大したクローンを効率良く選択できることが示された。
なお、本実施例では外来性MVA経路を導入した組換え体からなる微生物集団を用いたが、アーキアや一部のバクテリア等の内在性MVA経路に依存する微生物からなる微生物集団に対しても、本実施例が適用可能である。
Claims (27)
- 複数種の微生物を含む微生物集団から目的微生物を選抜する微生物の選抜方法であって、
メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を保持する目的微生物を選抜するものであり、
前記微生物集団を、非メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第一阻害剤の存在下で培養する第一工程と、
第一工程で生育した微生物を前記目的微生物として選抜する第二工程と、
を包含する、微生物の選抜方法。 - 前記微生物集団は、非メバロン酸経路を有する宿主細胞に外来性のメバロン酸経路を導入した組換え細胞からなる、請求項1に記載の微生物の選抜方法
- 前記組換え細胞は、前記宿主細胞に、さらにイソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を導入したものである、請求項2に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団は、ランダム変異処理が施されたものである、請求項2又は3に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団は、細菌からなる、請求項2〜4のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- 前記細菌は、カルボキシドトローフ、メチロトローフ、又は二酸化炭素資化性細菌である、請求項5に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団を構成する微生物は、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタン、酢酸、及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1つの炭素源を資化可能である、請求項2〜6のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- 第一工程における培養に用いる培地の主要炭素源が、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、及びメタンからなる群より選ばれた少なくとも1つである、請求項2〜7のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- 第一工程における培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれる、請求項8に記載の微生物の選抜方法。
- 前記第一阻害剤は、ホスミドマイシン又はその誘導体である、請求項2〜9のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜するものであり、
前記第一工程において、前記第一阻害剤と、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤である第二阻害剤の存在下で前記微生物集団を培養する、請求項1〜10のいずれかに記載の微生物の選抜方法。 - 前記第二阻害剤は、メビロニン又はその誘導体である、請求項11に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団は、天然から単離された微生物からなる、請求項1に記載の微生物の選抜方法。
- 前記第一阻害剤は、ホスミドマイシン又はその誘導体である、請求項13に記載の微生物の選抜方法。
- 第一工程における培養に用いる培地に、真核生物に対する抗生物質を含有させる、請求項13又は14に記載の微生物の選抜方法。
- 第一工程における培養に用いる培地の主要炭素源が、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、及びメタンからなる群より選ばれた少なくとも1つである、請求項13〜15のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- 第一工程における培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれる、請求項16に記載の微生物の選抜方法。
- 複数種の微生物を含む微生物集団から目的微生物を選抜する微生物の選抜方法であって、
イソペンテニル二リン酸の生合成経路としてメバロン酸経路を有する微生物集団から、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能が高い目的微生物を選抜するものであり、
前記微生物集団を、メバロン酸経路に対する特異的阻害剤の存在下で培養するA工程と、
A工程で生育した微生物を前記目的微生物として選抜するB工程と、
を包含する、微生物の選抜方法。 - 前記微生物集団は、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有さないものである、請求項18に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団は、外来遺伝子としてイソプレン合成酵素遺伝子又はテルペン合成酵素遺伝子を有する、請求項18又は19に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団は、ランダム変異処理が施されたものである、請求項18〜20のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団は、アーキアからなる、請求項18〜21のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- 前記アーキアは、カルボキシドトローフ、メチロトローフ、又は二酸化炭素資化性アーキアである、請求項22に記載の微生物の選抜方法。
- 前記微生物集団を構成する微生物は、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタン、酢酸、及びセルロースからなる群より選ばれた少なくとも1つの炭素源を資化可能である、請求項18〜23のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- A工程における培養に用いる培地の主要炭素源が、一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタン、及び酢酸からなる群より選ばれた少なくとも1つである、請求項18〜24のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
- A工程における培養系の気相にエネルギー源としての水素が含まれる、請求項25に記載の微生物の選抜方法。
- 前記阻害剤は、ホスミドマイシン又はその誘導体である、請求項18〜26のいずれかに記載の微生物の選抜方法。
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CN109504620A (zh) * | 2018-11-02 | 2019-03-22 | 三峡大学 | 一组微生物菌群的构建方法及其应用 |
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- 2017-02-27 JP JP2017034567A patent/JP2018139507A/ja active Pending
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