以下、本発明に係る装軌式車両の実施の形態を、油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1において、装軌式車両の代表例である油圧ショベル1は、自走可能なクローラ(履帯)式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられたフロント装置4とを含んで構成され、このフロント装置4を用いて土砂の掘削作業等を行う。図2に示すように、下部走行体2は、後述のトラックフレーム5、遊動輪10、駆動輪11、履帯13、履帯張り調整装置16を含んで構成されている。
トラックフレーム5は、下部走行体2のベースを構成している。トラックフレーム5は、上部旋回体3が旋回可能に搭載されたセンタフレーム6と、センタフレーム6を挟んで左,右両側に設けられ、前,後方向に伸長した左,右(右側のみ図示)のサイドフレーム7とにより構成されている。
図3に示すように、サイドフレーム7は、上板7A、下板7B、内側板7C、外側板7Dによって囲まれた角筒体として形成され、前,後方向に延びている。サイドフレーム7の外側板7Dには、前,後方向の前側(以下、前側という)に位置して作業用開口7Eが形成されている。作業用開口7Eは、後述する給脂弁28にグリースガン等の給脂具(図示せず)を接続する作業を行うための開口である。
隔壁8は、遊動輪10から駆動輪11側に離間してサイドフレーム7内に設けられている。隔壁8は厚肉な板体からなり、サイドフレーム7の内側面に溶接等の手段を用いて固定されている。隔壁8は、サイドフレーム7内に履帯張り調整装置16を収容する空間を画成している。また、隔壁8の中央部にはホルダ取付孔8Aが設けられ、このホルダ取付孔8Aには後述するホルダ23が嵌合している。
遊動輪ブラケット9は、サイドフレーム7の前側に設けられている。この遊動輪ブラケット9は、サイドフレーム7の端部に溶接等によって接合されたフランジ板9Aと、フランジ板9Aから前側に突出し左,右方向で対向した内支持板9Bおよび外支持板9Cと、これら各支持板9B,9Cの上部を一体に連結した上連結板9Dとにより構成されている。フランジ板9Aには、前,後方向に貫通する貫通孔9Eが形成され、この貫通孔9Eには、後述のヨーク17が遊挿されている。内支持板9Bと外支持板9Cの内面側には、上,下方向で対向する上ガイド9Fと下ガイド9Gとが、それぞれ前,後方向に延びて設けられている。これら上ガイド9Fと下ガイド9Gとは、ヨーク17を前,後方向に摺動可能に案内するものである。
遊動輪10は、サイドフレーム7の前,後方向の一端側(前端側)に設けられ、遊動輪ブラケット9に回転可能に支持されている。遊動輪10の中心部には、左,右方向に延びる支持軸10Aが設けられ、支持軸10Aの両端は左軸受腕10Bと右軸受腕10Cとに回転可能に支持されている。左軸受腕10Bと右軸受腕10Cは、後述するヨーク17の左腕17Bと右腕17Cの前端にボルトを用いてそれぞれ取付けられている。これにより、遊動輪10はヨーク17と一体となり、遊動輪ブラケット9の上ガイド9Fおよび下ガイド9Gに沿って前,後方向に移動することができる。
駆動輪11は、サイドフレーム7の前,後方向の後端側に、駆動輪ブラケット12を介して回転可能に設けられている。駆動輪11は、スプロケットにより構成され、走行用の油圧モータ(図示せず)によって回転駆動されることにより、後述の履帯13を周回駆動させるものである。
履帯13は、遊動輪10と駆動輪11とに巻回して設けられている。この履帯13は、サイドフレーム7の上側では上ローラ14によってガイドされ、サイドフレーム7の下側では下ローラ15によりガイドされている。履帯13は、駆動輪11によって周回駆動され、不整地等においても油圧ショベル1を安定して走行させるものである。
履帯張り調整装置16は、隔壁8と遊動輪10との間に設けられ、遊動輪10と駆動輪11とに巻回された履帯13の張りを調整するものである。ここで、履帯張り調整装置16は、ヨーク17、張力調整シリンダ18、ばね部材24等を含んで構成されている。
ヨーク17は、サイドフレーム7の一端側に配置された遊動輪ブラケット9に前,後方向に移動可能に設けられている。ヨーク17は、遊動輪ブラケット9の上ガイド9Fおよび下ガイド9Gに沿って遊動輪10を前,後方向に移動可能に支持するものである。ここで、図4に示すように、ヨーク17は、ばね部材24の一端を受ける環状のばね受け部17Aと、ばね受け部17Aから二又状に分岐した左腕17B,右腕17Cとにより形成され、ヨーク17は、全体としてV型に形成されている。ばね受け部17Aの内周側は、後述のヨーク側ロッド20が摺動可能に挿通されるロッド挿通孔17Dとなっている。左腕17Bの前端には、遊動輪10の左軸受腕10Bが取付けられ、右腕17Cの前端には、遊動輪10の右軸受腕10Cが取付けられている。
張力調整シリンダ18は、サイドフレーム7内に位置して隔壁8とヨーク17との間に設けられている。図4に示すように、張力調整シリンダ18は、後述のチューブ19と、ヨーク側ロッド20と、フレーム側ロッド22と、グリース室25と、軸方向グリース通路26と、径方向縦グリース通路29と、径方向横グリース通路30と、環状溝31とを含んで構成されている。そして、張力調整シリンダ18は、グリース室25内に充填されるグリースの量に応じてフレーム側ロッド22をチューブ19に対して伸縮させ、ヨーク17を前,後方向に移動させることにより、遊動輪10と駆動輪11との間に巻回された履帯13の初期張力を調整するものである。
チューブ19は、サイドフレーム7内に前,後方向に延びた状態で設けられている。チューブ19は、全体として段付円筒状に形成されている。チューブ19の内周側は、ロッド摺動孔19Aとなり、チューブ19の外周側には、隔壁8側に位置して鍔状のばね受け部19Bが一体形成されている。さらに、チューブ19のうちヨーク17側の端部には、ロッド摺動孔19Aよりも小径となったロッド取付孔19Cが形成されている。
ヨーク側ロッド20は、チューブ19とヨーク17との間に設けられている。ヨーク側ロッド20の前,後方向の一端側(ヨーク17側)は、ヨーク17のばね受け部17Aに形成されたロッド挿通孔17Dに摺動可能に挿通されている。ヨーク側ロッド20の前,後方向の他端側(チューブ19側)は、チューブ19のロッド取付孔19Cに圧入手段を用いて固定されている。ヨーク側ロッド20の一端側の外周面には、ロッド雄ねじ20Aが設けられ、このロッド雄ねじ20Aにはナット21が螺合されている。これにより、ヨーク17のばね受け部17Aは、ロッド雄ねじ20Aに螺合するナット21によって軸方向に抜止めされている。また、ナット21は、ヨーク側ロッド20の一端側の端面に設けられた緩止め部材21Aによって緩止めされている。このように、ヨーク側ロッド20の一端側は、ヨーク17のロッド挿通孔17Dに相対移動可能に挿通され、ヨーク側ロッド20とヨーク17とは一体化されている。
フレーム側ロッド22は、チューブ19と隔壁8との間に設けられている。図4および図5に示すように、フレーム側ロッド22は前,後方向に延びる円柱体からなり、フレーム側ロッド22の前,後方向の他端側(隔壁8側)には、後述のホルダ23が圧入等の手段を用いて一体的に固定されている。フレーム側ロッド22の前,後方向の一端側(チューブ19側)は、チューブ19のロッド摺動孔19A内に摺動可能に挿嵌され、フレーム側ロッド22の外周面22Aは、チューブ19のロッド摺動孔19Aの内周面19Dに摺接している。また、フレーム側ロッド22には、後述する軸方向グリース通路26、弁取付穴27、径方向縦グリース通路29、径方向横グリース通路30、環状溝31が形成されている。
ホルダ23は、フレーム側ロッド22の他端側に一体的に固定されることにより、フレーム側ロッド22の一部を構成している。このホルダ23は、四角形の板状をなし隔壁8に当接する当接板23Aと、当接板23Aのうち隔壁8に当接する面に突設された中空なテーパ状の取付突起23Bと、当接板23Aのうち隔壁8とは反対側の面に突設された有底円筒状のロッド挿嵌筒23Cとを有している。チューブ19から突出したフレーム側ロッド22の他端側は、ホルダ23のロッド挿嵌筒23Cに圧入状態で挿嵌(固定)され、ホルダ23の取付突起23Bは、隔壁8のホルダ取付孔8Aに嵌合される。これにより、ホルダ23は、取付突起23Bが隔壁8に支持された状態で、サイドフレーム7に対して位置決めされる。
ばね部材24は、張力調整シリンダ18を構成するチューブ19のばね受け部19Bとヨーク17のばね受け部17Aとの間に設けられている。このばね部材24は圧縮ばねからなり、チューブ19のばね受け部19Bとヨーク17のばね受け部17Aとの間に圧縮状態で取付けられている。ばね部材24は、ヨーク17を遊動輪10と共に駆動輪11から離間する方向に押圧している。
即ち、履帯張り調整装置16は、ばね部材24のばね力によって遊動輪10を駆動輪11から離間する方向に常時押圧し、履帯13に適度な張りを与えている。従って、油圧ショベル1の走行時に履帯13が地面の起伏等に応じて変形したときには、ばね部材24が撓み変形することにより遊動輪10と駆動輪11との間の距離が適宜に変化し、履帯13に対して過大な荷重(張力)が作用するのを抑えることができる構成となっている。
グリース室25は、ヨーク側ロッド20とフレーム側ロッド22とによりチューブ19内に形成されている。グリース室25は、ヨーク側ロッド20の他端とフレーム側ロッド22の一端との間に画成されている。このグリース室25には、後述する給脂弁28、軸方向グリース通路26を通じてグリースが充填または排出され、グリース室25内に充填されるグリースの量に応じて、チューブ19に対するフレーム側ロッド22の突出量が調整される。
軸方向グリース通路26は、フレーム側ロッド22に設けられている。図4および図5に示すように、軸方向グリース通路26はフレーム側ロッド22の中心部を軸方向に延び、軸方向グリース通路26の一端26Aは、フレーム側ロッド22の一端側の端面22Bに開口し、グリース室25に連通している。軸方向グリース通路26の他端26Bは、フレーム側ロッド22の中心部からホルダ23のロッド挿嵌筒23Cに向けて径方向に屈曲し、ロッド挿嵌筒23Cの外周面に開口している。ロッド挿嵌筒23Cと該ロッド挿嵌筒23Cに挿嵌されたフレーム側ロッド22の他端側には、軸方向グリース通路26の他端26Bと同軸上に弁取付穴27が形成されている。弁取付穴27の内周面には雌ねじ部27Aが形成され、この雌ねじ部27Aには、給脂弁28の雄ねじ部28Aが螺合している。
給脂弁28は、ホルダ23のロッド挿嵌筒23Cとフレーム側ロッド22とに形成された弁取付穴27に取付けられている。図4に示すように、給脂弁28の外周面には雄ねじ部28Aが形成され、この雄ねじ部28Aを弁取付穴27の雌ねじ部27Aに螺合することにより、弁取付穴27に給脂弁28が取付けられている。給脂弁28はグリースニップル28Bを有し、このグリースニップル28Bにグリースガン等の給脂具(図示せず)を接続することにより、給脂弁28、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25内にグリースが充填される。また、給脂弁28は逆止弁構造(図示せず)を有し、この逆止弁構造により、グリース室25内に充填されたグリースを当該グリース室25内に保持している。
次に、フレーム側ロッド22に設けられた径方向縦グリース通路29、径方向横グリース通路30、環状溝31について図5ないし図9を参照しつつ説明する。
径方向グリース通路としての径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30は、フレーム側ロッド22の一端側に、それぞれ径方向に貫通して設けられている。これら径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30は、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25に供給されるグリースの一部を、フレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19のロッド摺動孔19Aの内周面19Dとの摺動面に供給する。
ここで、径方向縦グリース通路29は、下部走行体2の履帯13を地面に接地させた状態(図2の状態)で、フレーム側ロッド22を上,下方向(鉛直方向)に貫通するように配置されている。径方向縦グリース通路29の中間部は、軸方向グリース通路26に連通し、径方向縦グリース通路29の長さ方向の一端29Aおよび他端29Bは、それぞれ後述する環状溝31の溝底面31Aに開口している。一方、径方向横グリース通路30は、下部走行体2の履帯13を地面に接地させた状態で、フレーム側ロッド22を左,右方向(水平方向)に貫通するように配置されている。径方向横グリース通路30の中間部は、軸方向グリース通路26に連通し、径方向横グリース通路30の長さ方向の一端30Aおよび他端30Bは、それぞれ環状溝31の溝底面31Aに開口している。
従って、径方向縦グリース通路29と径方向横グリース通路30とは、軸方向グリース通路26を中心として直角(十字状)に交わり、径方向縦グリース通路29の一端29Aおよび他端29Bと、径方向横グリース通路30の一端30Aおよび他端30Bとは、互いに90°の角度間隔をもって環状溝31の溝底面31Aに開口している。これにより、給脂弁28から軸方向グリース通路26を通じてグリース室25内にグリースが充填されたときには、グリースの一部は、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31に供給され、この環状溝31からフレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19(ロッド摺動孔19A)の内周面19Dとの間に供給される。即ち、グリース室25にグリースを充填する作業と同時に、フレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの摺動面にグリースを供給することができる構成となっている。
ここで、図6に示すように、フレーム側ロッド22の一端側の端面22Bから径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30の孔中心までの軸方向寸法Lは、フレーム側ロッド22の軸方向の全長に対して10%以下に設定されている。即ち、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30は、フレーム側ロッド22の全長に対して一端側の端面22B側に偏った狭い範囲内に形成されている。これにより、フレッチング摩耗が発生し易いフレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aに対し、直接的にグリースが供給される構成となっている。
環状溝31は、フレーム側ロッド22の外周面22Aのうち径方向縦グリース通路29の両端(一端29Aおよび他端29B)と径方向横グリース通路30の両端(一端30Aおよび他端30B)とが開口した部位に、全周に亘って設けられている。環状溝31は、フレーム側ロッド22の外周面22Aに対して径方向に窪んだ形状を有し、フレーム側ロッド22が挿嵌されたチューブ19の内周面19Dとの間にグリースを保持するものである。
ここで、環状溝31は、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30の直径よりも大きな溝幅Wを有し、環状溝31の溝底面31Aは、フレーム側ロッド22の外周面22Aの一部を構成している。従って、径方向縦グリース通路29の一端29Aおよび他端29Bと、径方向横グリース通路30の一端30Aおよび他端30Bとは、それぞれ環状溝31の溝底面31Aに開口している。そして、環状溝31は、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じてフレーム側ロッド22の外周側に供給されたグリースを、チューブ19の内周面19Dとの間で保持する。これにより、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間を適度に潤滑することができる構成となっている。
図8および図9に示すように、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aには、グリース室25に向けて徐々に縮径するロッド側テーパ面22Cが形成されている。また、環状溝31の溝底面31Aのうち溝幅方向の両側とフレーム側ロッド22の外周面22Aとが交わる2つの部位は、フレーム側ロッド22の外周面22Aから溝底面31Aに向けて徐々に縮径する溝側テーパ面31B,31Cとしてそれぞれ形成されている。この場合、フレーム側ロッド22の外周面22Aに対するロッド側テーパ面22Cの傾斜角度θ1と、フレーム側ロッド22の外周面22Aに対する溝側テーパ面31Bの傾斜角度θ2と、フレーム側ロッド22の外周面22Aに対する溝側テーパ面31Cの傾斜角度θ3とは、互いに等しい値に設定されている。
また、フレーム側ロッド22の端面22Bとロッド側テーパ面22Cとが交わる角部22D1と、フレーム側ロッド22の外周面22Aとロッド側テーパ面22Cとが交わる角部22D2と、フレーム側ロッド22の外周面22Aと溝側テーパ面31Bとが交わる角部22D3と、環状溝31の溝底面31Aと溝側テーパ面31Bとが交わる角部22D4と、環状溝31の溝底面31Aと溝側テーパ面31Cとが交わる角部22D5と、フレーム側ロッド22の外周面22Aと溝側テーパ面31Cとが交わる角部22D6とは、互いに等しい半径Rを有する円弧状の面取りが施されている。
これにより、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25内に充填されたグリースの一部は、フレーム側ロッド22の一端側に設けられたロッド側テーパ面22Cに沿って、フレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に円滑に導かれる。また、軸方向グリース通路26から径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31内に供給されたグリースは、環状溝31の溝幅方向の両側に設けられた溝側テーパ面31B,31Cに沿って、フレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に円滑に導かれる。
この場合、ロッド側テーパ面22Cの傾斜角度θ1と、溝側テーパ面31Bの傾斜角度θ2と、溝側テーパ面31Cの傾斜角度θ3とは互いに等しい値に設定され、かつ、前記各角部22D1〜22D6には、互いに等しい半径Rの面取りが施されている。これにより、ロッド側テーパ面22Cに沿ってフレーム側ロッド22の外周面22Aに導かれるグリースと、溝側テーパ面31Bに沿ってフレーム側ロッド22の外周面22Aに導かれるグリースと、溝側テーパ面31Cに沿ってフレーム側ロッド22の外周面22Aに導かれるグリースとを均等化し、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に、全周に亘って過不足なくグリースを供給することができる構成となっている。
また、グリース室25にグリースが充填された状態において、チューブ19内に空気が残留している場合には、例えば油圧ショベル1の走行時に遊動輪10に外力が作用することにより、グリース室25内に充填されたグリースが、ヨーク側ロッド20とフレーム側ロッド22との間で加圧される。これにより、遊動輪10に作用する外力を利用して、グリース室25内のグリースが、軸方向グリース通路26から径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31に供給され、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間を常に潤滑することができる構成となっている。
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、以下、その作動について説明する。
油圧ショベル1は、下部走行体2の駆動輪11を回転させることにより、駆動輪11と遊動輪10とに巻回された履帯13を周回駆動させ、作業場所まで走行する。そして、油圧ショベル1は、作業場所において上部旋回体3を旋回させつつフロント装置4を俯仰動させることにより、土砂の掘削作業等を行うことができる。
油圧ショベル1の走行時には、履帯張り調整装置16は、ばね部材24のばね力によって遊動輪10を駆動輪11から離間する方向に常時押圧し、履帯13に適度な張りを与えている。従って、油圧ショベル1の走行時に履帯13が地面の起伏等に応じて変形したときには、ばね部材24が撓み変形することにより遊動輪10と駆動輪11との間の距離が適宜に変化する。この結果、履帯13に対して過大な荷重が作用するのを抑えることができ、油圧ショベル1は、不整地においても安定して走行することができる。
ここで、履帯13の張り具合(張力)は、張力調整シリンダ18のグリース室25に対するグリースの充填量に応じて調整することができる。即ち、グリースの充填量を増大させてフレーム側ロッド22をチューブ19から伸長させることにより、履帯13の張りを強めることができる。一方、グリースの充填量を減少させてフレーム側ロッド22をチューブ19内に縮小させることにより、履帯13の張りを弱めることができる。
グリース室25にグリースを充填する場合には、下部走行体2のサイドフレーム7に設けられた作業用開口7Eを通じて、グリースガン等の給脂具(図示せず)をサイドフレーム7内に挿入し、給脂弁28のグリースニップル28Bに接続する。この状態で給脂具を操作することにより、給脂弁28からフレーム側ロッド22の軸方向グリース通路26等を通じて、グリース室25内にグリースを充填することができる。
このとき、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25に充填されるグリースの一部は、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31に供給され、この環状溝31からフレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの摺動面に供給される。これにより、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間を適度に潤滑することができる。
従って、油圧ショベル1の走行時に遊動輪10に対して外力が作用することにより、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aが、チューブ19の内周面19Dに対して片当りしたとしても、このフレーム側ロッド22の外周面22Aがフレッチング摩耗を生じるのを抑えることができる。この結果、履帯張り調整装置16の耐久性、信頼性を高めることができる。
この場合、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aにはロッド側テーパ面22Cが形成され、環状溝31の溝底面31Aのうち溝幅方向の両側とフレーム側ロッド22の外周面22Aとが交わる2つの部位は、溝側テーパ面31B,31Cとしてそれぞれ形成されている。これにより、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25内に充填されたグリースの一部を、ロッド側テーパ面22Cに沿わせてフレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に導くことができる。また、軸方向グリース通路26から径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31内に供給されたグリースを、溝側テーパ面31B,31Cに沿わせてフレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に導くことができる。
この場合、ロッド側テーパ面22Cの傾斜角度θ1と、溝側テーパ面31Bの傾斜角度θ2と、溝側テーパ面31Cの傾斜角度θ3とは互いに等しい値に設定されている。これにより、ロッド側テーパ面22Cに沿ってフレーム側ロッド22の外周面22Aに導かれるグリースと、溝側テーパ面31Bに沿ってフレーム側ロッド22の外周面22Aに導かれるグリースと、溝側テーパ面31Cに沿ってフレーム側ロッド22の外周面22Aに導かれるグリースとを均等化することができる。この結果、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に、全周に亘って過不足なくグリースを供給することができ、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間を効率良く潤滑することができる。
また、径方向縦グリース通路29は、油圧ショベル1の履帯13を地面に接地させた状態で、フレーム側ロッド22を上,下方向に貫通するように配置されているので、径方向縦グリース通路29を通じて、フレーム側ロッド22の上面側および下面側に対してグリースを積極的に供給することができる。従って、油圧ショベル1が不整地を走行するときに、地面からの突上げ等によって遊動輪10に対して上,下方向の外力が繰返し作用することにより、フレーム側ロッド22の上面側および下面側とチューブ19の内周面19Dとに対して局所的な負荷が作用したとしても、フレーム側ロッド22の上面側および下面側に対しグリースを積極的に供給することにより、フレーム側ロッド22の上面側および下面側の摩耗を抑制することができる。
さらに、グリース室25にグリースが充填された状態において、チューブ19内に空気が残留している場合には、例えば油圧ショベル1の走行時に遊動輪10に外力が作用することにより、グリース室25内に充填されたグリースを、ヨーク側ロッド20とフレーム側ロッド22との間で加圧することができる。これにより、遊動輪10に作用する外力を利用して、グリース室25内のグリースを、軸方向グリース通路26から径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31に供給することができ、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間を常に潤滑することができる。
かくして、本実施の形態によれば、軸方向グリース通路26が設けられたフレーム側ロッド22の一端側に、径方向に貫通し途中部位が軸方向グリース通路26に連通する径方向縦グリース通路29と径方向横グリース通路30とを設け、フレーム側ロッド22の外周面22Aのうち径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30の両端が開口した部位に、チューブ19の内周面19Dとの間でグリースを保持する環状溝31を設ける構成としている。
これにより、履帯13の張りを調整するため、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25にグリースが充填されると、グリースの一部は、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31に供給され、この環状溝31とチューブ19の内周面19Dとの間に保持される。従って、フレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの摺動面をグリースによって潤滑することができる。この結果、フレーム側ロッド22の摩耗を抑えることができ、履帯張り調整装置16の耐久性を高めることができる。しかも、グリース室25にグリースを充填する作業と同時に、フレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの摺動面にグリースを供給することができるので、その作業性を高めることができる。
さらに、径方向縦グリース通路29と径方向横グリース通路30とは、フレーム側ロッド22を径方向に貫通して設けられ、途中部位が軸方向グリース通路26に連通しているので、各グリース通路26,29,30に共通する1個の給脂弁28を用いることができる。このため、例えば従来技術のように、軸方向に延びるグリース通路と給脂路とを別々にフレーム側ロッドに設けることにより、2個の給脂プラグを用いる構成に比較して、フレーム側ロッド22の簡素化を図ることができる。
本実施の形態では、径方向縦グリース通路29は、油圧ショベル1の履帯13を地面に接地させた状態で、フレーム側ロッド22を上,下方向に貫通するように配置されている。これにより、フレーム側ロッド22の上面側および下面側に対し、径方向縦グリース通路29を通じてグリースを積極的に供給することができる。従って、油圧ショベル1が不整地を走行するときに、遊動輪10に対して上,下方向の外力が作用し、フレーム側ロッド22の上面側および下面側とチューブ19の内周面19Dとに対して局所的な負荷が作用したとしても、フレーム側ロッド22の上面側および下面側の摩耗を抑制することができる。
本実施の形態では、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aには、グリース室25に向けて徐々に縮径するロッド側テーパ面22Cが設けられ、環状溝31の溝底面31Aのうち溝幅方向の両側とフレーム側ロッド22の外周面22Aとが交わる各部位は、フレーム側ロッド22の外周面22Aから環状溝31の溝底面31Aに向けて徐々に縮径する溝側テーパ面31B,31Cとしてそれぞれ形成されている。
これにより、軸方向グリース通路26を通じてグリース室25内に充填されたグリースの一部を、ロッド側テーパ面22Cに沿わせてフレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に導くことができる。また、軸方向グリース通路26から径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30を通じて環状溝31内に供給されたグリースを、溝側テーパ面31B,31Cに沿わせてフレーム側ロッド22の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間に導くことができる。この結果、フレーム側ロッド22の一端側の外周面22Aとチューブ19の内周面19Dとの間を、充分なグリースによって効率良く潤滑することができる。
なお、実施の形態では、フレーム側ロッド22に対し、径方向縦グリース通路29および径方向横グリース通路30からなる2本の径方向グリース通路を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図10に示す変形例のように、フレーム側ロッド22を上,下方向に貫通する1本の径方向縦グリース通路29によって径方向グリース通路を構成してもよい。
また、実施の形態では、フレーム側ロッド22に対し、このフレーム側ロッド22とは別部材として形成されたホルダ23を圧入等によって一体的に固定した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えばホルダが一体形成されたフレーム側ロッドを用いる構成としてもよい。
さらに、実施の形態では、装軌式車両として油圧ショベル1を例示したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば油圧クレーン、ブルドーザ等の履帯を有する装軌式車両に広く適用することができる。