本発明に係る粘土鉱物用吸着材(以下、単に吸着材という)は、高分子化合物からなり、粘土鉱物の中でも特に層状ケイ酸塩鉱物を優先して吸着可能なアニオン性基を有している。吸着材は、pHを調整した媒体中において、層状ケイ酸塩鉱物を含む粘土鉱物原料の中から層状ケイ酸塩鉱物を優先的に吸着して、粘土鉱物原料に含まれる不純物と、目的とする層状ケイ酸塩鉱物との分離に用いることができる。
前述した粘土鉱物原料は、鉱山から掘り出してきた粘土鉱物を破砕等したものであり、層状ケイ酸塩鉱物(フィロケイ酸塩鉱物)だけでなく、石英、方解石、苦灰石、長石類、沸石(ゼオライト)類などの不純物を含んでいる。なお、吸着材が吸着対象とする層状ケイ酸塩鉱物以外の粘土鉱物を、以下の説明では鉱物不純物という。層状ケイ酸塩鉱物は、2枚のシリカ四面体シートの間に1枚のアルミナ八面体シートが結合して1つのアルミケイ酸塩単位層となり、これらの単位層が積層して構成され、重なり合うシート間に陽イオンが存在すると共に、シートの表面に負電荷を持っている。本発明に係る吸着材が吸着対象とする層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば以下のものが挙げられる。層状ケイ酸塩鉱物は、例えば、白雲母、ナトリウム雲母、セラドナイト、海緑石、金雲母、黒雲母などの雲母類、パイロフィライト、滑石、バーミュライトなどが挙げられる。また、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどのスメクタイトが挙げられる。更に、蛇紋石、アメサイト、クロンステダイト、バーセリン、グリーナライト、カオリン鉱物、ハロイサイト、緑泥石、スドー石、クッケアイト、ドンバサイトなどが挙げられる。この中でも、白雲母の細粒なものであるセリサイト(絹雲母)は、化粧品や医薬品などの人体に触れるものに用いられ、本発明に係る吸着材で好適に吸着可能である。
前記吸着材を構成する高分子化合物は、合成高分子であっても、有機高分子であってもよい。また、吸着材は、球形状や楕円形状などの粒状であっても、繊維状などのその他形状であってもよい。なお、吸着材は、形状を粒状や繊維状にすることで媒体中で粘土鉱物原料などと混合し易くなると共に、層状ケイ酸塩鉱物を吸着する面を比較的広くすることができ、層状ケイ酸塩鉱物を効率よく吸着できる利点がある。吸着材は、そのサイズを1μm〜1000μmの範囲、好ましくは、15μm〜200μmの範囲にするとよい。ここで、吸着材のサイズは、粒状の場合は粒子の平均粒径を指し、繊維状の場合は繊維における長辺の平均長さを指す。吸着材は、サイズが1μmよりも小さくなると取り扱い難くなり、1000μmを超えると吸着効率との兼ね合いから好ましくない。
前記吸着材をなす高分子化合物としては、アニオン性基を有するならば、特に限定されない。合成高分子としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン、ポリn-スルホニルアルキルア(メタ)クリルアミド、これらの共重合体などを用いることができる。
前記吸着材をなす高分子化合物として天然高分子を用いる場合、例えば、以下のものを用いることができる。例えば、多糖類では、こはく酸化セルロース、グルタル酸化セルロース、マレイン酸化セルロース、セロウロン酸残基を有するセルロースなどが挙げられる。又は、セロウロン酸、アルギン酸、こはく酸化でんぷん、グルタル酸化でんぷん、マレイン酸化でんぷん、グルクロン酸残基を有するでんぷんなどが挙げられる。又は、アミウロン酸、こはく酸化プルラン、グルタル酸化プルラン、マレイン酸化プルラン、グルクロン酸残基を有するプルラン、こはく酸化グルコマンナン、グルタル酸化グルコマンナン、マレイン酸化グルコマンナン、グルクロン酸残基、もしくは、マンヌロン酸、あるいは、その両方を有するグルコマンナンなどが挙げられる。又は、こはく酸化キチン、グルタル酸化キチン、マレイン酸化キチン、こはく酸化キトサン、グルタル酸化キトサン、マレイン酸化キトサン、グルコサミンウロン酸残基を有するキトサン、もしくは、キトウロン酸、N−アセチルグルコサミンウロン酸残基を有するキチンなどが挙げられる。又は、ポリN−アセチルグルコサミンウロン酸、カッパー−カラギーナン、イオタ−カラギーナン、ラムダ−カラギーナン、フコイダン、サクラン、ヒアルロン酸、ポルフィラン、硫酸化セルロース、硫酸化でんぷん、硫酸化キトサン、硫酸化キチンなどが挙げられる。又は、ポリアミノ酸では、ポリγグルタミン酸、ポリαグルタミン酸、ポリβアスパラギン酸、ポリαアスパラギン酸などが挙げられる。
前記アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基、硫酸基、リン酸基などが挙げられる。吸着材が有するアニオン性基として前述したものであることで、吸着材と層状ケイ酸塩鉱物とを接触させる媒体中で、層状ケイ酸塩鉱物をより効率的に吸着することができる。ここで、アニオン性基としては、親水性を有するものが好ましく、親水性のアニオン性基を有することで、吸着材を媒体中で層状ケイ酸塩鉱物と接触させる際に有利である。
前記吸着材は、アニオン性基の含有量を0.2meq/g〜12meq/gの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは0.7meq/g〜8meq/gの範囲にするとよい。吸着材は、アニオン性基の含有量が、0.2meq/g〜12meq/gの範囲であることで、層状ケイ酸塩鉱物をより効率的に吸着することができる。アニオン性基の含有量が0.2meq/gよりも少ないと、交互静電相互作用が小さくなって、層状ケイ酸塩鉱物を十分に吸着することができず、工業的な実用性に難がある。また、アニオン性基の含有量が12meq/gを超えると、吸着材を構成する高分子化合物の膨潤により、層状ケイ酸塩鉱物の吸着効率が悪化し、工業的な実用性に難がある。そして、アニオン性基の含有量を0.7meq/g〜8meq/gの範囲にすると、交互静電相互作用と膨潤とのバランスがとれて、層状ケイ酸塩鉱物をより効率よく吸着できる。
吸着材は、膨潤度が、1wet-ml/g〜1000wet-ml/gの範囲になるようにすることが好ましく、より好ましくは、1.5wet-ml/g〜500wet-ml/gの範囲にするとよい。吸着材は、層状ケイ酸塩鉱物を吸着するアニオン性基を有しているので、膨潤度が1wet-ml/gより小さくならない。また、吸着材は、膨潤度が1000wet-ml/gより大きくなると、層状ケイ酸塩鉱物の吸着効率が高くなると共に、粘土鉱物以外の石英等の不純物の物理吸着が起こり、粘土鉱物原料からの目的とする層状ケイ酸塩鉱物の分離効率が悪くなってしまう。なお、膨潤度は、水の含み易さを示す指標であり、30℃の水浴で水に24時間浸漬した吸着材の体積(wet-ml)を、乾燥時の吸着材の重さ(dry-g)を除して算出される。
前記吸着材は、pH2〜7の範囲にある媒体中で、層状ケイ酸塩鉱物を、鉱物不純物よりも多く吸着する。このように、吸着材は、媒体のpHによって、層状ケイ酸塩鉱物を鉱物不純物よりも優先して吸着する優先性を有し、媒体のpHを3〜6の範囲にすると、前記優先性が強くなるので好ましい。吸着材は、媒体のpHが2より小さくなると、層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の両方を吸着してしまい、前記優先性が悪くなり、媒体のpHが7より大きくなると、層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の両方とも吸着し難くなり、特にpHが10より大きくなると、層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の両方とも吸着しない。吸着材は、pH6〜7の範囲に調整した媒体中で、鉱物不純物を全く吸着しない一方で、層状ケイ酸塩鉱物だけを吸着する。このように、吸着材は、酸性から中性領域に調整した媒体中で、層状ケイ酸塩鉱物を鉱物不純物より優先して吸着する優先性だけでなく、中性領域に調整した媒体中で、層状ケイ酸塩鉱物のみを選択して吸着する選択性を有している。
前記吸着材は、pHを7より大きく調整したアルカリ領域の媒体中で、層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の何れも吸着し難く、また、吸着していた層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物を脱着する。特に、媒体のpHが10より大きくなると、層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の何れも吸着せず、また、吸着していた層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の全量が脱着する。従って、吸着材は、酸性から中性領域の媒体中で吸着した層状ケイ酸塩鉱物を、アルカリ領域に調整した媒体中で脱着させて、層状ケイ酸塩鉱物を選択的に分離することができる。
前記吸着材は、pH2〜7のうちの特定のpHに調整した媒体中で、特定のpHに対応する吸着量になるまで層状ケイ酸塩鉱物を吸着し、特定のpHに対応する吸着量を超えて層状ケイ酸塩鉱物を吸着しない。また、吸着材は、pH2〜7のうちの特定のpHに調整した媒体中で、自身に吸着している層状ケイ酸塩鉱物において、特定のpHに対応する吸着量を超える部分を脱着する。従って、吸着材は、pH2〜7のうちの第1のpHに調整した媒体中で層状ケイ酸塩鉱物を吸着した後に、pH2〜7のうちの第2のpHに調整した媒体中に入れた際に、第2のpHに対応する吸着量が第1のpHよりも小さいならば、層状ケイ酸塩鉱物を脱着する。同様に、吸着材は、pH2〜7のうちの第2のpHに調整した媒体中に入れた際に、第2のpHに対応する吸着量が第1のpHよりも大きいならば、層状ケイ酸塩鉱物を更に吸着する。このように、吸着材は、層状ケイ酸塩鉱物と接触させる媒体のpHを調整することで、層状ケイ酸塩鉱物の吸着および脱着を簡単にコントロールすることができる。
前記吸着材は、pH2〜7のうちの特定のpHに調整した媒体中で、前述のように層状ケイ酸塩鉱物のほうを多く吸着するものの、特定のpHに対応する吸着量になるまで鉱物不純物を吸着し、特定のpHに対応する吸着量を超えて鉱物不純物を吸着しない。従って、吸着材は、pH2〜7のうちの第1のpHに調整した媒体中で鉱物不純物を吸着した後に、pH2〜7のうちの第2のpHに調整した媒体中に入れた際に、第2のpHに対応する吸着量が第1のpHよりも小さいならば、鉱物不純物を脱着する。同様に、吸着材は、pH2〜7のうちの第2のpHに調整した媒体中に入れた際に、第2のpHに対応する吸着量が第1のpHよりも大きいならば、鉱物不純物を更に吸着する。このように、吸着材は、粘土鉱物原料と接触させる媒体のpHを調整することで、層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の吸着および脱着を簡単にコントロールすることができる。ここで、吸着材は、吸着している層状ケイ酸塩鉱物または鉱物不純物が脱着する場合、層状ケイ酸塩鉱物よりも鉱物不純物のほうが吸着可能な量が少ないので、鉱物不純物から優先して脱着する。
前記吸着材は、高分子化合物として、下記の化学式1で表される架橋ポリアクリル酸エステル、または下記の化学式2で表される架橋ポリメタクリル酸エステルの誘導体を用いることができる。ここで、化学式1および化学式2のRは、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基やフェニル基、ベンジル基等であり、脂肪族または芳香族の炭化水素基から選択される疎水性の官能基を表す。なお、ポリアクリル酸エステルおよび架橋ポリメタクリル酸エステルをまとめて、ポリ(メタ)アクリル酸エステルと以下表記し、ポリ(メタ)アクリル酸エステルからなる吸着材を特に区別する場合は、アクリル吸着材という。アクリル吸着材は、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルから基本的に構成され、該架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルにおけるカルボン酸エステルの一部を加水分解した構造を有している。アクリル吸着材は、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の表面にあるカルボン酸エステルが加水分解されて、表面部分にポリアクリル酸が存在すると共に、内側部分に疎水基を有するカルボン酸エステルが存在している。
前記化学式1および化学式2のRは、脂肪族または芳香族の炭化水素基から選択される疎水性の官能基を表す。また、化学式1および化学式2のnは、括弧内のモノマーの重合度を示す。
前記アクリル吸着材は、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルが部分的に加水分解されて生成したカルボン酸の一部または全てが、アルカリ金属によって金属塩化された構造を有し、しかも水に不溶である。アルカリ金属としては、水酸化物のアルカリ金属、アルカリ土類金属を用いることが好ましく、特に、水酸化ナトリウムによるナトリウム、水酸化カリウムによるカリウム、水酸化マグネシウムによるマグネシウム等がよい。
次に、アクリル吸着材の製造方法について説明する。架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子を用意する。また、アルカリ溶液と有機溶媒とを混合した反応溶媒を別途調製する。ここで用いられるアルカリ溶液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物等を水に分散したものである。また、有機溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコールやこれらに混ざるプロトン性溶媒、あるいはアセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の非プロトン性溶媒等の一種または二種以上が用いられる。
前記有機溶媒は、アルカリ溶液に対して、8wt%〜800wt%の範囲、好ましくは10wt%〜350wt%の範囲で混合される。有機溶媒の濃度が8wt%未満になると、アルカリ水溶液が架橋アクリル酸エステル微粒子に親和せず、架橋ポリアクリル酸エステルにおいてカルボン酸エステルの加水分解反応が進まない。これに対し、有機溶媒の濃度が800wt%より大きくなると、アルカリが有機溶媒に溶解せずに析出するので、効率的にカルボン酸エステルを加水分解することができない。
前記アルカリ溶液の濃度は、0.5M〜5.0Mの範囲、好ましくは1.0M〜3.5Mの範囲に設定される。アルカリ溶液の濃度が0.5M未満であると、カルボン酸エステルの加水分解反応が進行せず、工業的に採用することができない。これに対して、アルカリ溶液の濃度が5.0Mより大きいと、カルボン酸エステルの加水分解反応が制御し難い不都合がある。
出発原料である架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルは、反応溶媒に対して5wt%〜30wt%の範囲、好ましくは10wt%〜20wt%の範囲で配合する。架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルの配合量が5wt%未満では、得られるアクリル吸着材の収率が悪く、工業的に採用することができない。これに対して、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の配合量が30wt%より大きいと粘性が大きくなり、反応し難くなる。
そして、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを、アルカリ溶液と有機溶媒とからなる反応溶媒に浸漬し、15℃〜90℃の範囲、好ましくは35〜80℃の範囲となる反応溶媒の温度条件(以下、反応温度という)で、ポリ(メタ)アクリル酸エステルにおけるカルボン酸エステルを加水分解する。反応温度を15℃未満とすると、加水分解反応が進まないので、ポリ(メタ)アクリル酸エステルが疎水性のままであり、反応温度を90℃より大きくすると、使用する反応溶媒が限定されるので好ましくない。また、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを反応溶媒に浸漬する時間(以下、反応時間という。)は、1分〜96時間の範囲、好ましくは1分〜24時間の範囲で設定される。反応時間が1分未満であると、加水分解反応が進まないので、ポリ(メタ)アクリル酸エステルが疎水性のままであり、反応時間が96時間を超えると、加水分解反応が進みすぎて得られたアクリル吸着材の吸水性や吸湿性が高くなり過ぎる不都合がある。
反応溶媒への浸漬処理を行った後に、反応溶媒から得られたアクリル吸着材を取り出し、このアクリル吸着材を水で洗浄する。なお、水洗浄だけで回収した場合、乾燥するならば凍結乾燥がよい。また、アクリル吸着材を溶媒置換して回収する際は、水で洗浄後、メタノールやジエチルエーテル等によって置換し、乾燥する。そして、ろ取等の回収方法によって、所望の平均粒径、例えば湿潤状態での平均粒径が1μm〜1000μmの範囲にあるアクリル吸着材を単離する。なお、アクリル吸着材の回収方法は、ろ取に限定するものではなく、遠心分離等その他の方法も採用可能である。
図1に示すように、吸着材は、該吸着材が有するアニオン性基と層状ケイ酸塩鉱物との交互静電相互作用により、層状ケイ酸塩鉱物を吸着することができる。図1において、吸着材(後述する粘土鉱物複合体の母粒子)に符号「12」を付し、カルボキシル基を例示しているアニオン性基に符号「14」を付し、層状ケイ酸塩鉱物に符号「16」を付している。そして、吸着材12とこの吸着材12に吸着した層状ケイ酸塩鉱物16とからなる粘土鉱物複合体に符号「10」を付している。また図1において符号「20」は、石英等の鉱物不純物を示す。なお、図1の丸の中の「+」および「−」は、電荷をイメージしている。そして、吸着材12は、鉱物不純物20を含んだ粘土鉱物原料の中から層状ケイ酸塩鉱物16を吸着して分離することができるので、吸着材12を用いることで、不純物を低減または排除した層状ケイ酸塩鉱物16を得るための時間や手間やコストを低減することができる。また、吸着材12からなる母粒子のアニオン性基14で層状ケイ酸塩鉱物16を吸着して、吸着材(母粒子)12の表面に層状ケイ酸塩鉱物16を配置した粘土鉱物複合体10を得ることができる。
前記吸着材は、pH2〜7の範囲にある媒体中で、層状ケイ酸塩鉱物を、該層状ケイ酸塩鉱物以外の石英等の鉱物不純物よりも優先して多く吸着するので、鉱物不純物の吸着を抑えて層状ケイ酸塩鉱物を効率よく吸着・分離することができる。従って、鉱物不純物を含んだ粘土鉱物原料の中から層状ケイ酸塩鉱物を優先して吸着する吸着材の性質を利用することで、鉱物不純物をより低減した状態で層状ケイ酸塩鉱物を分離することができ、純度の高い層状ケイ酸塩鉱物をより簡単に得ることができる。
前記吸着材は、該吸着材を入れた媒体のpHに対応する吸着量まで層状ケイ酸塩鉱物を吸着すると共に、自身に吸着している層状ケイ酸塩鉱物において、該媒体のpHに対応する吸着量を超える部分を脱着する。また、吸着材は、pHが7より大きく調整した媒体で吸着よりも脱着が優先し、pHが10より大きく調整した媒体中で、自身に吸着している層状ケイ酸塩鉱物を全て脱着する。このように、吸着材は、該吸着材を投入する媒体のpHによって、層状ケイ酸塩鉱物を吸着または脱着するようにコントロールすることができるから、鉱物不純物を含んだ粘土鉱物原料の中から層状ケイ酸塩鉱物を吸着した後に層状ケイ酸塩鉱物を脱着して、簡単に回収することが可能となる。しかも、吸着材は、自身に吸着している層状ケイ酸塩鉱物よりも鉱物不純物が優先して脱着するので、鉱物不純物を先に脱着した後に、先の媒体と別の媒体中で改めて層状ケイ酸塩鉱物を脱着することで、より純度の高い層状ケイ酸塩鉱物を簡単に得ることができる。更に、吸着材は、pH6〜7の範囲の媒体中において、鉱物不純物を吸着せずに、層状ケイ酸塩鉱物だけを選択的に吸着するので、この選択性を用いて、鉱物不純物を排除した層状ケイ酸塩鉱物を簡単に得ることができる。
前記吸着材は、高分子化合物として、架橋ポリ(メタ)アクリル酸または架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルを用いることで、層状ケイ酸塩鉱物をより効率的に吸着することができる。
次に、前述した吸着材を用いた、所要の層状ケイ酸塩鉱物を主体とする粘土鉱物材料の製造方法について、以下に説明する。粘土鉱物原料は、鉱山から掘り出した粘土鉱石を粉砕等して、粒または粉状にしたものであり、層状ケイ酸塩鉱物と、前述したように石英等の鉱物不純物とを含んでいる。まず、アニオン性基を有する高分子化合物からなる吸着材と、層状ケイ酸塩鉱物を含む粘土鉱物原料とを接触させる。これにより、吸着材のアニオン性基に層状ケイ酸塩鉱物を吸着させて、吸着材と共に層状ケイ酸塩鉱物を粘土鉱物原料から分離することで、層状ケイ酸塩鉱物からなる粘土鉱物材料を得ることができる。
具体的には、吸着材と粘土鉱物原料とを、pHを2〜7の範囲、より好ましくはpH3〜6に調整された媒体中で接触させ、アニオン性基に層状ケイ酸塩鉱物を吸着させる。吸着時の媒体は、例えば塩酸などの酸でpHを調整した水溶液を用いればよい。pHを2〜7の範囲に調整した媒体中で、吸着材と粘土鉱物原料を接触させると、粘土鉱物原料のうちの鉱物不純物よりも、粘土鉱物原料のうちの層状ケイ酸塩鉱物が多く吸着材に吸着される。媒体のpHが2より小さくなると、吸着材に層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の両方を吸着してしまい、層状ケイ酸塩鉱物を粘土鉱物原料から分離し難くなる。また、媒体のpHが7より大きくなると、吸着材に層状ケイ酸塩鉱物および鉱物不純物の両方とも十分に吸着しないので、層状ケイ酸塩鉱物を粘土鉱物原料から分離できない。
特に、pHをpH6〜7の範囲に調整した媒体中で、吸着材と粘土鉱物原料を接触させると、粘土鉱物原料のうちの鉱物不純物が吸着材に全く吸着されない一方で、粘土鉱物原料のうちの層状ケイ酸塩鉱物だけを吸着材で選択的に吸着させることができる。すなわち、pHをpH6〜7の範囲に調整した媒体を用いることで、粘土鉱物原料の中から層状ケイ酸塩鉱物だけを吸着材に吸着して取り出すことができる。
吸着材に層状ケイ酸塩鉱物を吸着させるときは、媒体の温度を、5℃〜100℃の範囲、より好ましくは15℃〜80℃の範囲に設定するとよい。吸着時の媒体の温度を5℃より低く設定すると、吸着材への層状ケイ酸塩鉱物の吸着に時間がかかり、また、吸着時の媒体の温度を100℃より高く設定すると、水の沸点に到達し、エネルギーコストがかかってしまう。吸着材は、pH2〜7の範囲において特定のpHに対応する吸着量になるまで層状ケイ酸塩鉱物を吸着し、特定のpHに対応する吸着量を超えて層状ケイ酸塩鉱物を吸着しないので、特定のpHに対応する吸着量を吸着し得る時間を吸着時間として設定すればよい。吸着の操作は、特に限定されないが、例えば、媒体を満たした槽内で粘土鉱物原料と吸着材とを接触させるバッチ式や、吸着材を充填したカラムに粘土鉱物原料を通す流通式などが挙げられる。
次に、層状ケイ酸塩鉱物を吸着させた吸着材を、媒体からメッシュを用いた濾別などによって取り出す。得られた吸着材には、層状ケイ酸塩鉱物が鉱物不純物より優先して吸着しており、媒体中に鉱物不純物が残ることになる。脱着の操作は、特に限定されないが、例えば、媒体を満たした槽内に吸着材を入れるバッチ式などを用いればよい。
具体的には、pH4よりも高くかつ層状ケイ酸塩鉱物を吸着させた媒体のpHよりも高いpHに調整した脱着用の媒体(別の媒体)中に、層状ケイ酸塩鉱物を吸着させた吸着材を入れて、吸着材から層状ケイ酸塩鉱物を脱着させる。pHを7より大きく調整した媒体中に、層状ケイ酸塩鉱物を吸着した吸着材を入れると、吸着材から層状ケイ酸塩鉱物が離脱する。特に、pHを10より大きく調整した媒体中に、層状ケイ酸塩鉱物を吸着した吸着材を入れると、吸着材から層状ケイ酸塩鉱物の全てが離脱する。脱着時の媒体がpH2〜7の範囲であっても、pHが4より大きくかつ吸着時の媒体のpHよりも大きく設定すれば、吸着時の媒体のpHに対応する吸着量よりも、脱着時の媒体のpHに対応する吸着量が少ないので、吸着した層状ケイ酸塩鉱物において脱着時の媒体のpHに対応する吸着量を超えた部分が吸着材から離脱する。脱着時の媒体は、pHを7より大きく設定するときは、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリでpHを調整した水溶液を用いればよい。また、脱着時の媒体は、pHを4より大きく7以下に設定するときは、例えば塩酸などの酸でpHを調整した水溶液を用いればよい。
吸着材から層状ケイ酸塩鉱物を脱着させるときは、媒体の温度を、5℃〜100℃の範囲、より好ましくは15℃〜80℃の範囲に設定するとよい。脱着時の媒体の温度を5℃より低く設定すると、吸着材からの層状ケイ酸塩鉱物の脱着に時間がかかり、また、脱着時の媒体の温度を100℃より高く設定すると、水の沸点に到達し、エネルギーコストがかかってしまう。
次に、脱着時の媒体からメッシュを用いた濾別などによって層状ケイ酸塩鉱物を回収することで、鉱物不純物を低減した層状ケイ酸塩鉱物を主体とした粘土鉱物材料を得ることができる。特に、吸着時の媒体のpHを6〜7に設定して層状ケイ酸塩鉱物を吸着させた吸着材から、層状ケイ酸塩鉱物を脱着することで、鉱物不純物を含まない層状ケイ酸塩鉱物のみからなる粘土鉱物材料を得ることができる。なお、吸着後の吸着材および吸着材から脱着した層状ケイ酸塩鉱物の回収方法は、ろ取に限定するものではなく、遠心分離等その他の方法も採用可能である。
前述した本発明に係る製造方法によれば、吸着材と層状ケイ酸塩鉱物とを接触させるだけの簡単な操作で、吸着材に該吸着材が有するアニオン性基で層状ケイ酸塩鉱物を吸着するから、鉱物不純物を含んだ粘土鉱物原料の中から層状ケイ酸塩鉱物を簡単に分離することができる。これにより、特殊な薬剤を用いたり、特殊または複雑な操作などを行うことなく、鉱物不純物を低減または排除した層状ケイ酸塩鉱物を主体とした粘土鉱物材料を簡単に得ることができる。また、層状ケイ酸塩鉱物よりも粒径が大きい吸着材に層状ケイ酸塩鉱物を吸着させることで、媒体の中からの分離が簡単となる。更に、前述した製造方法は、吸着材と粘土鉱物原料を媒体中で接触させる設備と、媒体中から吸着材をメッシュ等によりろ別するなどで分離する設備と、吸着材から層状ケイ酸塩鉱物を分離する設備との簡単な設備で足り、特殊または複雑な設備を要しない。しかも、前述したように、吸着材に層状ケイ酸塩鉱物を吸着させる吸着工程と、吸着材から層状ケイ酸塩鉱物を脱着する脱着工程とは、媒体のpHの違いだけなので、同様の設備を用いることができる。従って、前述した製造方法によれば、層状ケイ酸塩鉱物を主体とした粘土鉱物材料を製造するための時間や手間やコストを大幅に減らすことができる。また、吸着材は、繰り返し用いることができる。
前述した製造方法によれば、吸着材と粘土鉱物原料とを、pH2〜7の範囲に調整した媒体中で接触させる簡単な操作で、鉱物不純物よりも層状ケイ酸塩鉱物を優先して多く吸着材に吸着させることができる。すなわち、媒体のpHをコントロールする簡単なことで、吸着材に吸着させる層状ケイ酸塩鉱物を多くして、鉱物不純物の吸着を抑えることができ、吸着材で吸着して分離する層状ケイ酸塩鉱物の回収効率をよくすることができる。また、得られる粘土鉱物材料は、吸着材に吸着する鉱物不純物が抑えられているから、結果として鉱物不純物を低減または排除することができ、化粧品や医薬品などに使用可能な程度まで層状ケイ酸塩鉱物の純度を向上することができる。
前述した製造方法では、吸着材と粘土鉱物原料とを、pH2〜7の範囲に調整した媒体中で接触させて、吸着材に層状ケイ酸塩鉱物を吸着させる吸着工程を行う。次に、pH4よりも高くかつ層状ケイ酸塩鉱物を吸着させた吸着用の媒体のpHよりも高いpHに調整した脱着用の媒体中に、層状ケイ酸塩鉱物を吸着させた吸着材を入れて、吸着材から層状ケイ酸塩鉱物を脱着させる脱着工程を行っている。脱着工程では、媒体が酸性から中性領域であっても、pHを4より大きく調整することで、層状ケイ酸塩鉱物を吸着材からある程度脱着させることができ、媒体のpHを7より大きいアルカリ領域とすることで、層状ケイ酸塩鉱物を吸着材から脱着させることができる。特に、媒体のpHを10より大きいアルカリ領域とすることで、層状ケイ酸塩鉱物を吸着材から全て脱着させることができる。このように、前述した製造方法によれば、吸着材と粘土鉱物原料と接触させる媒体のpHを変えるだけの簡単な操作で、吸着材への層状ケイ酸塩鉱物の吸着または層状ケイ酸塩鉱物の吸着材からの脱着をコントロールすることができる。すなわち、媒体のpHを管理するだけで、層状ケイ酸塩鉱物を主体とする粘土鉱物材料をより簡単に得ることができる。
前述した製造方法において、吸着材と粘土鉱物原料とを、pH6〜7の範囲に調整した媒体中で接触させることで、粘土鉱物原料のうちの層状ケイ酸塩鉱物だけを吸着材に選択的に吸着させることができる。換言すると、吸着材と粘土鉱物原料とを、pH6〜7の範囲に調整した媒体中で接触させることで、粘土鉱物原料のうちの鉱物不純物が吸着材に全く吸着されないので、層状ケイ酸塩鉱物だけを吸着させた吸着材を得ることができる。この吸着材を回収して、吸着材に吸着材を分離・回収することで、鉱物不純物を排除した層状ケイ酸塩鉱物からなる粘土鉱物材料を簡単に得ることができる。このように、前述した製造方法によれば、特定範囲のpHに調整した媒体で吸着工程を行うだけの簡単な操作で、化粧品や医薬品などに好適に使用可能な純度が非常に高い粘土鉱物材料を得ることができる。
次に、前述した吸着材を母粒子とする本発明に係る粘土鉱物複合体について、以下に説明する。本発明に係る粘土鉱物複合体は、アニオン性基を有する高分子化合物からなる前述した吸着材を用いた球状の母粒子と、母粒子のアニオン性基に吸着されて、該母粒子の表面に配置された層状ケイ酸塩鉱物粒子とを備えている。母粒子は、前述した吸着材を球状にしたものを用いればよい。また、層状ケイ酸塩鉱物粒子は、前述した吸着材の吸着対象となる層状ケイ酸塩鉱物であり、化粧品や医薬品用途に好適なセリサイトなどを例えば使用すればよい。
層状ケイ酸塩鉱物粒子は、その粒径が0.2μm〜20μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1μm〜15μmであり、母粒子よりも小さくするとよい。層状ケイ酸塩鉱物粒子の粒子径が20μmより大きくなると、化粧品等の皮膚に使用する製品に用いた場合にきしみ感を生じ易い。また、層状ケイ酸塩鉱物粒子の粒径が0.2μmより小さくなると、化粧品等の皮膚に使用する製品に用いた場合に洗い流すことが困難になり、また更に小さすぎると、表皮吸収をおこすことが考えられ、化粧品等としての機能を損なう可能性がある。なお、層状ケイ酸塩鉱物粒子の粒径は、動的光散乱法によるサイズ測定、レーザー回折式粒度分布測定装置あるいはフロー粒子画像分析装置などを用いて得ることができる。
前記粘土鉱物複合体は、湿潤状態での平均粒子の直径(以下、平均粒径という。)を1μm〜1000μmの範囲にするのが好ましく、より好ましくは3μm〜300μmの範囲の球形状である。粘土鉱物複合体の平均粒子径が1000μmより大きくなると、化粧品等の皮膚に使用する製品に用いた場合にきしみ感を生じ易い。また、粘土鉱物複合体の平均粒径が1μmより小さくなると、化粧品等の皮膚に使用する製品に用いた場合に洗い流すことが困難になり、また更に小さすぎると、表皮吸収をおこすことが考えられ、化粧品等としての機能を損なう可能性がある。なお、平均粒径が3μm〜200μmの範囲にある粘土鉱物複合体は、好適な球状を示し、容易に製造することができる。粘土鉱物複合体の平均粒径は、粘土鉱物複合体を吸水量以上の大過剰の水中に分散させて測定した値であって、マイクロスコープで得られた画像から画像処理装置によって体積平均粒径が算出される。なお、1μm以下のサイズの粘土鉱物複合体は、光散乱法によって測定される。粘土鉱物複合体の粒径は、母粒子の粒径に由来するので、湿潤状態での平均粒径が1μm〜1000μmの範囲にあり、好ましくは3μm〜200μmの範囲にある球形状の母粒子が用いられる。
前記粘土鉱物複合体は、カチオン交換容量が0.15meq/g〜10meq/gの範囲にあるのが好ましく、より好ましくは0.2meq/g〜6.5meq/gの範囲に設定される。ここで、粘土鉱物複合体のカチオン交換容量が10meq/gより大きくなると、球形状が損なわれ、0.15meq/gより小さくなると疎水性を示し、保湿機能が低下してしまう。なお、カチオン交換容量が0.15meq/g〜6.5meq/gの範囲にある粘土鉱物複合体は、好適な球形状を示し、容易に製造することができる。
前記粘土鉱物複合体は、飽和吸水量が10g/g〜80g/gの範囲になるよう設定されるのが好ましく、より好ましくは20g/g〜70g/gの範囲とされる。飽和吸水量は、水に浸漬した後の粘土鉱物複合体の重量から乾燥時の粘土鉱物複合体の重量を減じた値を乾燥時の粘土鉱物複合体の重量で除して算出される値である。
・飽和吸水量=(「吸水後の粘土鉱物複合体の重量」−「乾燥時の粘土鉱物複合体の重量」)/「乾燥時の粘土鉱物複合体の重量」
ここで、粘土鉱物複合体の乾燥条件は、該粘土鉱物複合体に含まれる水をメタノールで置換し、更にメタノールをエーテルで置換した後に、24時間減圧乾燥している。また、吸水後の粘土鉱物複合体の重量は、前記条件により乾燥した粘土鉱物複合体を水に3時間浸漬して吸水させた後の重量を測定している。粘土鉱物複合体は、飽和吸水量が10g/g未満であると疎水性が強くなり、水に馴染み難くなる。これに対し、粘土鉱物複合体は、飽和吸水量が80g/gより大きくなると、粘土鉱物複合体の形がつぶれ易くなり、粘土鉱物複合体を皮膚に使用する製品に配合した際に肌に対する感触改良効果が低下する不都合がある。
前記粘土鉱物複合体は、吸湿量が1.15g/g〜2.5g/gの範囲になるよう設定されるのが好ましく、より好ましくは1.22g/g〜2.2g/gの範囲とされる。吸湿量は、特定の湿度環境に所定時間放置した後の粘土鉱物複合体の重量を乾燥時の粘土鉱物複合体の重量で除して算出される値である。
・吸湿量=「吸湿後の粘土鉱物複合体の重量」/「乾燥時の粘土鉱物複合体の重量」
ここで、粘土鉱物複合体の乾燥条件は、該粘土鉱物複合体に含まれる水をメタノールで置換し、更にメタノールをエーテルで置換した後に、24時間減圧乾燥している。また、吸湿後の粘土鉱物複合体の重量は、前記条件により乾燥した粘土鉱物複合体を、温度40℃、湿度90%の条件に設定した空のサンプル瓶の中に60時間放置して吸湿させた後の重量を測定している。粘土鉱物複合体は、吸湿量が1.15g/g未満であると疎水性が強くなり、水に馴染み難くなる。これに対し、粘土鉱物複合体は、吸湿量が2.5g/gより大きくなると、軟らかすぎて粘土鉱物複合体の形がつぶれ易くなり、粘土鉱物複合体を皮膚に使用する製品に配合した際に肌に対する感触改良効果が低下する不都合がある。
前記粘土鉱物複合体は、水分散状態での円形度が0.95〜1.0の範囲にあるのが望ましい。ここで、円形度は、粘土鉱物複合体を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、粘土鉱物複合体を撮像した画像の周囲長で除した値である。なお、円形度は、真円が「1」で、形状が複雑になるほど小さい値になる。粘土鉱物複合体は、円形度が0.95未満になると、例えば化粧品として用いた場合に肌の表面での転がりが悪くなるので、所望の化粧品の伸びや肌触りが得られ難くなる不都合がある。
円形度=「粘土鉱物複合体を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長」/「粘土鉱物複合体を撮像した画像の周囲長」
なお、粘土鉱物複合体は、カチオン交換容量、飽和吸水量、吸湿量および真円度の各性質の多くが母粒子に由来している。
前記母粒子として前述したアクリル吸着材に対応するものを用いる場合、出発原料として用いる架橋ポリアクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸エステルモノマーを架橋剤により架橋して微細な球形状とした粒子であればよい。球形状の架橋ポリアクリル酸エステル粒子の製造方法は、架橋剤として、アルカンジアクリレート、フェニルジアクリレート、アルカントリアクリレート、アルカンテトラアクリレートもしくは、アルカンジメタクリレート、アルカントリメタクリレート、アルカンテトラメタクリレート、フェニルジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の二官能以上の多官能の架橋剤を用いたアクリル酸エステルの乳化共重合、懸濁共重合法等があげられる。
母粒子をなす架橋ポリアクリル酸エステル粒子の製造において使用される架橋剤のモル濃度は、多官能のアクリレートの場合、全モノマーに対して10モル%〜100モル%の範囲で配合するよう設定される。この場合に、架橋剤のモル濃度が10モル%未満であると、母粒子を製造するときの加水分解反応の際に架橋剤が直ちに加水分解を起こすので、球形を保つことができなくなる不都合がある。また、架橋剤として酸、アルカリに安定なジビニルベンゼンや多官能性のメタクリレート、アクリルアミドやジビニルベンゼンを使用する場合には、全モノマーに対して10モル%〜50モル%の範囲で配合するのが好ましい。この場合に、架橋剤のモル濃度が50モル%より大きくなると、架橋剤が疎水性であるため、母粒子の製造時に加水分解反応を起こしても、架橋剤がポリアクリル酸の親水性を阻害して粘土鉱物複合体全体として疎水性を示し、化粧品等の皮膚に使用する製品に配合した際に必要とされる保湿効果が得られない。なお、球形状の架橋ポリメタクリル酸エステル粒子の製造方法は、架橋ポリアクリル酸アルキルエステル粒子の場合と同様である。また、アクリル樹脂には、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとがあるが、出発原料としてはアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの何れであってもよい。
前述した粘土鉱物複合体によれば、高分子化合物からなる球状の母粒子と、この母粒子に吸着により配置された層状ケイ酸塩鉱物粒子とのそれぞれの作用に加えて、両者の相乗作用が得られる。すなわち、粘土鉱物複合体は、高分子化合物からなる球状の母粒子による弾力性や転がり性などの性質や、層状ケイ酸塩鉱物による光沢感や滑り性(滑らか感触)などの性質を有しており、これらの性質が求められる化粧品や医薬品などの用途に適当である。また、粘土鉱物複合体は、層状ケイ酸塩鉱物以外の鉱物不純物が低減または排除されているので、化粧品や医薬品などの人体に接する用途に好適に用いることができる。なお、粘土鉱物複合体は、化粧品や医薬品などの人体に接する用途に限らず、紙や塗料や樹脂などの充填材あるいはフィラー、碍子などの被覆材としても用いることができる。
前記母粒子は、前述した吸着材と同じ性質を有しているので、粘土鉱物複合体をpHが7よりも小さい媒体に配合した場合、層状ケイ酸塩鉱物粒子が母粒子から離脱し難い。より具体的には、粘土鉱物複合体は、配合する媒体のpHに対応する吸着量以下になるように、層状ケイ酸塩鉱物粒子を母粒子に吸着させておけば、配合した媒体中で層状ケイ酸塩鉱物が脱着することはない。従って、粘土鉱物複合体は、酸性側の領域で調整される化粧品や医薬品などに好適に用いることができる。
本発明に係る粘土鉱物複合体は、母粒子として前述したアクリル吸着材を用いることができる。アクリル吸着材を母粒子とした粘土鉱物複合体(以下、アクリル複合体という)は、母粒子が架橋(メタ)アクリル酸エステルにおけるカルボン酸エステルの一部が加水分解された構造を有しているので、加水分解により生成されたカルボキシル基が示す親水性によって、吸湿性および吸水性を有している。また、アクリル複合体は、母粒子がカルボキシル基と疎水性の官能基(疎水基)を有するエステルとを有し、カルボキシル基が示す親水性により吸湿および吸水するものの、疎水基を有するエステルが示す疎水性により水となじまず膨潤しない疎水部分があるために一部だけが膨潤するので、水を過剰に吸収しない。すなわち、アクリル複合体は、例えば化粧品等の皮膚に使用する製品に配合した際に、べたつき感を抑えてしっとり感を向上することができる。更に、アクリル複合体は、母粒子の一部が湿潤するものの、球状の(メタ)アクリル酸エステル粒子に由来する強度および特性を維持しているので、皮膚に使用する製品に配合した際に、肌の上でのコロガリ、肌触りが良好となる。このように、アクリル複合体は、皮膚に使用する製品に用いた場合に、しっとり感とさらさら感とを両立させることができる。また、アクリル複合体は、球形状であるので、化粧品等の皮膚に使用する製品に用いた場合に、製品の伸びを向上させることができる。更に、アクリル複合体は、カルボアニオンの生成により電荷的反発が生じるので、製品を構成する組成物の分散安定性を向上することができる。
しかも、アクリル複合体は、母粒子の表面にカルボキシル基を有し、母粒子の内部に疎水基を有するエステルを有するため、表面から水を吸湿および吸水するものの、内部に水となじまず膨潤しない疎水部分があるために、表面は膨潤するものの、内部は球状の(メタ)アクリル酸エステル粒子の強度および特性を維持している。従って、アクリル複合体は、例えば化粧品等の皮膚に使用する製品に配合した際に、表面の親水性によるしっとり感が好適に発現されると共に、球状の(メタ)アクリル酸エステル粒子の特性によって、肌の上でのコロガリ、肌触りが良好となる。
前記アクリル複合体は、母粒子をなす架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子が部分的に加水分解されて生成したカルボン酸の一部または全てが、アルカリ金属によって金属塩化された構造を有し、しかも水に不溶である。このように、アクリル複合体は、母粒子が金属塩化された構造を有することで、pHの調整を行い易く、化粧品等の皮膚に使用する製品として製品化が容易である。
前記粘土鉱物複合体は、前述した粘土鉱物材料の吸着工程と同様な手順および条件で製造することができる。すなわち、媒体のpHをコントロールする簡単な操作で、母粒子に吸着させる層状ケイ酸塩鉱物粒子を多くして、鉱物不純物の母粒子への吸着を抑えることができ、純度の高い層状ケイ酸塩鉱物で母粒子が被覆された粘土鉱物複合体を得ることができる。特に、母粒子と層状ケイ酸塩鉱物粒子とを、pH6〜7の範囲に調整した媒体中で接触させることで、層状ケイ酸塩鉱物だけを母粒子に選択的に吸着させることができる。母粒子と鉱物不純物を含んだ粘土鉱物原料とを、pH6〜7の範囲に調整した媒体中で接触させることで、粘土鉱物原料のうちの鉱物不純物が吸着材に全く吸着されないので、層状ケイ酸塩鉱物粒子だけを母粒子に吸着させた粘土鉱物複合体を得ることができる。粘土鉱物複合体を製造する際に、鉱物不純物を排除した層状ケイ酸塩鉱物粒子を別に用意することなく、純度が非常に高い層状ケイ酸塩鉱物を母粒子に担持した粘土鉱物複合体を、粘土鉱物原料から直接的に得ることができる。このように、特定範囲のpHに調整した媒体で吸着工程を行うだけの簡単な操作で、化粧品や医薬品などに好適に使用可能な粘土鉱物複合体を得ることができる。
次に、本発明に係る吸着材、粘土鉱物材料の製造方法および粘土鉱物複合体につき、好適な実施例を挙げて、以下に説明する。
球形状の架橋ポリアクリル酸エステル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30,平均粒径30μm)を、3Mの水酸化カリウム(KOH)水溶液とアセトンとからなる反応溶媒(アセトン濃度:20.8wt%)に分散し、反応温度を60℃に設定して、表1に示す所定時間に亘ってかき混ぜつつ加水分解処理を行った。所定時間経過後に、反応溶媒から生成物をろ取し、水、メタノールおよびジエチルエーテルで洗浄して乾燥することで、前記架橋ポリアクリル酸エステル粒子のカルボン酸アルキルエステルが一部加水分解された構造を有する実施例1〜5に係る吸着材を得た。また、比較例の吸着材として、未加水分解処理の架橋ポリアクリル酸ブチル粒子(積水化成品工業(株)製:商品名ARX−30,平均粒径30μm)を用意した。
実施例2の吸着材の赤外吸収スペクトルをフーリエ変換型赤外分光装置で測定したところ、図2に示すように、未加水分解処理の架橋ポリアクリル酸ブチル粒子(比較例)と比べて、1560cm−1付近にカルボアニオンに由来するシャープな吸収が現れ、実施例2の吸着材は、架橋ポリアクリル酸ブチル粒子で加水分解が起こったことが明らかである。なお、赤外分光装置としては、日本分光株式会社製の製品名FT/IR−700を用いた。なお、未加水分解処理の架橋ポリアクリル酸ブチル粒子を「PBA」と表記し、PBAにカルボキシル基が導入されたものを、「PBA−PAA」と表記する場合(例えば図2)がある。
実施例1〜5の吸着材について、アニオン性基の含有量を調べた。実施例1〜5の吸着材の滴定は、電導度滴定によって行い、表1に示すように、反応時間が長くなるにつれて、カルボキシル基の含有量が大きくなることが判る。このように、反応時間が長くなるとエステル結合の加水分解反応が進み、より多くのカルボキシル基が生成されることが判る。具体的には、アニオン性基の含有量(カルボキシル基量)は、電導度測定によって以下のように算出した。凍結乾燥した実施例1〜5の吸着材を0.2g採取し、水を137ml添加した。これに0.1M塩酸(HCl)を加えて、pH2.5に調整した。次に、0.1M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を200mlずつ添加して、電導度とpHとを観察し、pHが11程度になるまで滴下した。強酸の中和段階は、塩酸(HCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)とで行い、弱酸の中和段階は、カルボン酸(R−COOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)とで行い、中和の終了は、水酸化ナトリウム(NaOH)で行った。弱酸の中和段階で、消費された水酸化ナトリウムを電導度曲線とpH曲線で読み取り、この値から、以下の式により、カルボキシル基量を求めた。
・カルボキシル基量=(0.1mol/L×弱酸の中和段階で滴下したNaOH量(mL))/吸着材量(g)
なお、弱酸の中和段階で、消費された水酸化ナトリウム(NaOH)は、(a)pH2〜2.5、(b)5.0〜6.0、(c)10.0〜10.5の各領域における電導度曲線に対して、接線を引き、(a)と(b)の接線の交点と(b)と(c)との接線の交点との間に滴下された0.1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の量と定義している。
次に、実施例および比較例の吸着材と、層状ケイ酸塩鉱物との吸着について調べた。実施例および比較例の吸着材を、90mlの水に2.25g加えて、かき混ぜながら、水中に分散させた分散液を、実施例および比較例のそれぞれについて作成した。分散液に、セリサイトと石英とが重量比で1:1になるように合わせて0.45g添加し、300mlビーカー中において10wt%の塩酸(HCl)水溶液を、分散液に滴下しながら、分散液(吸着用の媒体)を表2に示す所定のpH条件になるように調整した。そして、pHを調整した分散液を、300mlのナスフラスコに投与して、40℃で3時間に亘ってかき混ぜた。なお、セリサイトは、三信鉱工(株)製の商品名「セリサイトFSE」(平均粒径1μm〜18μm)を用い、石英は、単結晶シリカ(平均粒径0.35μm〜3.5μm)を用いている。
次に、実施例および比較例の吸着材に吸着された鉱物(セリサイト,石英)の含有量および回収率を算出するために、図3および図4に示すように検量線を作成した。なお、セリサイトの検量線は、45°から、石英の検量線は、60.2°から作成した。セリサイトの検量線は、吸着材とセリサイトとが、1:9、3:7、5:5、7:3の割合で、セリサイト特有の45°のX線回折ピークの積分面積で算出した。また、石英の検量線は、吸着材と石英とが、99:1、95:5、90:10、70:30、50:50、30:70の割合で、石英特有の60.2°のX線回折ピークの積分面積で算出した。更に、これらの検量線から算出した実施例および比較例の吸着材に吸着された鉱物(セリサイト、石英)の含有率および回収率を、吸着用の媒体のpH条件毎に表2に示す。含有率は、鉱物(セリサイト、石英)が吸着した吸着材において鉱物が占める割合であり、回収率は、吸着材と混合した鉱物(セリサイト、石英)が吸着材にどれだけ吸着したかを示す。図5は、実施例2の吸着材を用いて、前述したように、セリサイト:石英=1:1の混合物と当該吸着材とを3時間、温度40℃で接触させ、該混合物を吸着材に吸着させた複合体のX線回折図であり、セリサイト45°のピークを示している。また、図6は、実施例2の吸着材を用いて、前述したように、セリサイト:石英=1:1の混合物と当該吸着材とを3時間、温度40℃で接触させ、該混合物を吸着材に吸着させた複合体のX線回折図であり、石英60.2°のピークを示している。
図7〜図10に示すように、pH3、pH4、pH5およびpH6の媒体中で鉱物(セリサイト,石英)を吸着材に接触させることで、セリサイトが吸着材に吸着していることが確認できる。
図11〜図13および図17に示す例は、実施例2の吸着材を、90mlの水に2.25g加えて、かき混ぜながら、水中に分散させた分散液を作成し、この分散液に、セリサイトを0.45g添加し、300mlビーカー中において10wt%の塩酸(HCl)水溶液を、分散液に滴下しながら、分散液(吸着用の媒体)をpH3になるように調整して吸着させたものである。また、図18に示す例は、実施例2の吸着材を、90mlの水に2.25g加えて、かき混ぜながら、水中に分散させた分散液を作成し、この分散液に、石英を0.45g添加し、300mlビーカー中において10wt%の塩酸(HCl)水溶液を、分散液に滴下しながら、分散液(吸着用の媒体)をpH3になるように調整して吸着させたものである。なお、セリサイトは、三信鉱工(株)製の商品名「セリサイトFSE」(平均粒径1μm〜18μm)を用い、石英は、単結晶シリカ(平均粒径0.35μm〜3.5μm)を用いている。
従来、セリサイトなどの層状ケイ酸塩鉱物は、負電荷を有するので、アニオン性基を有する高分子化合物に静電的に吸着しないとされてきた。しかしながら、図7〜図17に示すように、アニオン性基を有する高分子化合物からなる実施例に係る吸着材にセリサイトが吸着していることが確認され、これは吸着材のアニオン性基とセリサイトとの交互静電相互作用により、セリサイトを吸着していると考えられる。また、図18に示すように、セリサイトと同じ吸着条件であっても、石英のほうが吸着材に吸着し難いことが判る。図5、図6および表2から判るように、実施例の吸着材は、pH3〜7の媒体中でセリサイトを吸着することが判り、pH3〜7のpH条件下では石英よりもセリサイトが多く吸着され、吸着材がセリサイトを優先して吸着する性質を有していることが確認された。また、実施例の吸着材は、pH6〜7の媒体中でセリサイトを吸着するものの、石英を全く吸着しない選択性を有していることも確認できる。
図11〜図13に示すように、媒体中で鉱物(セリサイト,石英)と吸着材とを接触させる時間(吸着時間)を1時間(図11)、3時間(図12)および5時間(図13)と変化させても、セリサイトの吸着量があまり変化しないことが確認された。これは、セリサイトの吸着材への吸着量は、媒体のpHに依存するためであると考えられる。
図14〜図16に示す例は、実施例1、実施例2および実施例3の吸着材のそれぞれを、90mlの水に2.25g加えて、かき混ぜながら、水中に分散させた分散液を作成し、この分散液に、セリサイトを0.45g添加し、300mlビーカー中において10wt%の塩酸(HCl)水溶液を、分散液に滴下しながら、分散液(吸着用の媒体)をpH3になるように調整して吸着させたものである。このように、実施例1〜3の吸着材は、セリサイトを何れも吸着していることが判る。
また、図7〜図17に示すように、実施例の吸着材を母粒子として、この母粒子の表面が該母粒子に吸着されたセリサイトで被覆された粘土鉱物複合体を得られることも確認できる。
次に、前述したようにセリサイトを吸着させた実施例2および3の吸着材からのセリサイトの脱着について調べた。セリサイトを吸着済みの実施例2および3の吸着材を、90mlの水に2.25g加えて、かき混ぜながら、水中に分散させた分散液を、実施例2および3のそれぞれについて作成した。300mlビーカー中において10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を、分散液に滴下しながら、分散液(脱着用の媒体)を表3に示す所定のpH条件になるように調整した。pHを調整した分散液を、300mlのナスフラスコに投与して、40℃で3時間に亘ってかき混ぜた。
次に、実施例2および3の吸着材から脱着した鉱物(セリサイト,石英)の脱着率を算出するために検量線を作成した。なお、セリサイトおよび石英の検量線は、前述したものと同様に作成している。検量線から算出した実施例2および3の吸着材から脱着した鉱物(セリサイト,石英)の脱着率を、脱着用の媒体のpH条件毎に表3に示す。なお、脱着率は、脱着前の吸着材と脱着後の吸着材との重量変化で測定した。なお、セリサイトは、三信鉱工(株)製の商品名「セリサイトFSE」(平均粒径1μm〜18μm)を用い、石英は、単結晶シリカ(平均粒径0.35μm〜3.5μm)を用いている。
図19は、セリサイトを吸着した実施例2の吸着材をpH10の脱着用の媒体でセリサイトを脱着した状態を示す。表3に示すように、pHが7より大きい媒体中で、吸着材に吸着されていたセリサイトが脱着することが確認され、pHが大きくなるほど、脱着率が高くなることが判る。また、媒体のpHが10以上になると、吸着材に吸着されていたセリサイトの全てが脱着することも確認できる。従って、吸着材によって粘土鉱物原料からセリサイトを優先的または選択的に吸着して分離し、吸着材からセリサイトを脱着することで、セリサイトを主体とした粘土鉱物材料が得られることが判る。
実施例1〜5では、架橋ポリアクリル酸ブチル粒子に加水分解によりカルボキシル基を導入したPBA−PAA粒子を吸着材として用いたが、カルボン酸を有するアクリル酸粒子などの吸水性樹脂からなる吸着材であってもよい。このような吸水性樹脂からなる吸着材であれば、前述したアクリル吸着材と同様な作用を奏すると考えられる。カルボン酸を有するアクリル酸粒子からなる変更例の吸着材は、例えば、水溶性エチレン性不飽和単量体を逆相懸濁重合法などにより重合反応させることで製造することができる。水溶性エチレン性不飽和単量体の重合反応時に存在させる吸水性樹脂としては、特に限定されず、市販の吸水性樹脂であれば使用可能であり、例えば、澱粉−アクリロニトリルグラフト共重合体の加水分解物、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体の中和物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物、ポリアクリル酸部分中和物、無水マレイン酸−イソブチレン共重合体および水溶性エチレン性不飽和単量体の重合物などが挙げられる。また、水溶性モノマーを多官能性の重合性モノマー適量比で配合し、界面活性剤が入った、脂肪族や芳香族炭化水類などの疎水性の溶媒に添加し、ラジカル重合開始剤を添加して、懸濁させた高分子粒子でもよい。
変更例の吸着材の製造方法の一例としては、撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を備えた1Lの四つ口円筒型丸底フラスコにn−アルカンを600ml加えた。これに、HLBが8.6のソルビタンモノラウレート(界面活性剤:日本油脂株式会社製のノニオンLP−20R)を0.97g添加して分散させ、50℃まで昇温して界面活性剤を溶解した後、30℃まで冷却した。一方、500mlの三角フラスコを別に用意し、これにアクリル酸水溶液92gを加えた。これに、外部から氷冷しつつ水酸化ナトリウム水溶液152.6gを滴下して75モル%の中和を行い、その後、過硫酸カリウム0.10gをさらに加えて溶解し、変更例の吸着材を得ることができる。
次に、変更例の吸着材に対応する実施例6の吸着材について説明する。実施例6の吸着材としてポリアクリル酸粒子(住友精化(株)製、商品名:アクアキープ10SHNF)0.5gに水160mlを加え、かきまぜながら分散させた。天草陶石0.45g添加し、300mlビーカー中にHCl 10wt%水溶液で、滴下しながら、所定のpH条件に調整した。300mlナスフラスコに投与して、40℃で3時間に亘ってかき混ぜた。なお、天草陶石は、平均してセリサイトを34%、石英を44%の割合で含み、32μmパスの篩いをかけて得られたものを用いている。
図20に示すように、実施例6の吸着材であっても、セリサイト(天草陶石)を吸着することが判る。すなわち、吸着材としては、PBA−PAA粒子に限定されず、カルボン酸を有するアクリル酸粒子であってもよいことが確認できる。