JP2018108118A - インプラント用デバイスの製造方法およびインプラント用デバイス - Google Patents
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Abstract
【課題】(A)側方荷重を負荷した状況でも骨と結合すること、(B)植立当初から骨との結合力に優れること、(C)植立初期にも骨との結合力が大きくは低下しないこと、(D)骨との結合力が大きいこと、(E)安価に製造できること、の要件を高度に満足することができるインプラント用デバイスの製造方法およびインプラント用デバイスを提供する。
【解決手段】チタンを含む素材から成る部材本体の表面に凹凸を形成する粗面形成工程と、凹凸が形成された部材本体の表面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、水酸基形成工程と同時、または水酸基形成工程の後、部材本体の表面にカルシウムを修飾させるカルシウム修飾工程とを有する。粗面形成工程は、部材本体を酸性水溶液に浸漬する酸エッチング処理により、部材本体の表面粗さRaが2μm以上になるよう、部材本体の表面に凹凸を形成する。
【選択図】図3
【解決手段】チタンを含む素材から成る部材本体の表面に凹凸を形成する粗面形成工程と、凹凸が形成された部材本体の表面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、水酸基形成工程と同時、または水酸基形成工程の後、部材本体の表面にカルシウムを修飾させるカルシウム修飾工程とを有する。粗面形成工程は、部材本体を酸性水溶液に浸漬する酸エッチング処理により、部材本体の表面粗さRaが2μm以上になるよう、部材本体の表面に凹凸を形成する。
【選択図】図3
Description
本発明は、インプラント用デバイスの製造方法およびインプラント用デバイスに関する。
チタンおよびチタン合金を組成とするインプラント用デバイスは、整形外科領域の人工骨頭置換術のステム、脊椎固定デバイス、骨折の内固定および外固定デバイス、歯科用インプラントや歯科矯正用アンカースクリューなどとして用いられる。なお、ここで、インプラント用デバイスとは、骨に植立して用いられる部材である。
チタンやチタン合金などのチタンを含む素材がインプラント用デバイスの素材として多用される理由の一つは、チタンが組織親和性に優れることや骨結合性を示すことである。組織親和性とは、生体材料で用いられる用語であり、基本的には組織為害性を示さない性質である。また、骨結合性とは、材料と骨とが機能的に結合する性質である。
チタンは組織親和性に優れ、骨結合性を示すため、骨内に植立するインプラント用デバイスとして選択される場合があるが、目的とするインプラント用デバイスによって、所要性質が大きく異なったり、要求水準が異なったりする。
例えば、人工骨頭置換術のステムにおいても優れた骨結合性は求められる。しかしながら、比較的太く骨との接触面積が大きいチタンを用いることが可能である。一方、チタンの剛性によってストレスシールディングがおこり、周囲骨が吸収されるという問題がある。また、大腿骨頭と腸骨は複雑な形態を示すため、形態設計も重要となる。人工関節のステムの場合、体重が負荷されるため、大腿骨髄空内に植立されるインプラントの長軸方向に負荷が加わる。脊椎固定デバイスではデバイスの破損が問題となっており、デバイスの機械的強さ、特に曲げ応力が加わっている際の機械的強さが重要である。チタンの機械的強さは限定的であり、Co−Cr合金への組成変更が検討されている。
歯科用インプラントは、欠損した歯の代替を目的とするデバイスであり、歯槽骨に植立して用いられる。歯科用インプラントは、比較的大きい大腿骨ではなく歯槽骨に植立するため、人工骨頭置換術に用いられるステムに比べて小さい必要があり、骨との接触面積が小さい。そのため、人工骨頭置換術に用いられるステム以上に骨結合性が求められる。一方、歯科用インプラントは、咬合回復を目的としているため、インプラント体に対して長軸方向の応力が負荷される。歯槽骨は、歯による咬合応力に対応するため、歯に負荷されるのと同様に歯軸と同じ方向への負荷に関しては耐えられる。なお、歯科用インプラントにおいても、側方への負荷は骨吸収を惹起することが常識となっており、側方荷重を負荷させないインプラント治療が行われている。
一方、歯科矯正用アンカースクリューは、他のインプラントデバイスとは大きく異なる所要性質も要求される。歯科矯正用アンカースクリューは、歯科矯正治療に用いられ、歯の移動に用いられる。上顎歯槽部では、第一大臼歯近遠心頬側および口蓋側歯槽部、上顎側切歯犬歯間唇側歯槽部、口蓋正中部では、近遠心的に第二小臼歯部から第二大臼歯の範囲内に、下顎では第一大臼歯近遠心頬側歯槽部に植立される。
歯科用インプラントなどが長軸方向の応力負荷に耐える必要があるのに対し、歯科矯正用アンカースクリューは、歯科用インプラントなどでは禁忌とされる長軸に対して垂直な応力負荷にも耐える必要がある。さらに、歯科矯正用アンカースクリューは、歯科用インプラントなどと比較しても、骨との接触面積が著しく小さい。歯科用インプラントにおいても顎骨の幅が小さい場合には小径の歯科用インプラントを用いるが、予後不良が報告されており、そのため、Top down Treatmentが基本となっている。Top down Treatmentとは、最適な上部構造のためには植立する骨造成が必要であることであり、骨幅が細いのであれば骨を造成して十分な骨を形成し、直径の大きい歯科用インプラントを植立するというのが基本方針である。
一方、歯科矯正用アンカースクリューにおいては、その性質上、歯科用インプラントでは避けられる細いスクリューしか用いられない。また、歯科用インプラントでは、インプラント体を植立後、治癒期間を十分にとったり、即時荷重しても、仮の上部構造を咬合面から低く設置したりすることによって、実質的に荷重負荷が小さくなるようにしているが、歯科矯正用アンカースクリューは、植立直後から側方荷重が付加される。
現在の歯科矯正用アンカースクリューでは、骨結合性が不十分であるため、治療中の動揺や脱落、感染、破折、成熟した骨でないと安定しないなどの問題があった。これらの問題を改善するためには、骨との接触面積が小さく、側方荷重が負荷されるという極めて厳しい、特異な条件でも機能し、かつ、その条件で周囲骨が吸収されることなく、極めて骨結合性に優れる歯科矯正用アンカースクリューを開発する必要がある。
したがって、人工骨頭置換術のステムなどの一般的なインプラント用デバイスに用いられる所要性質は、骨との結合力が大きいことであるが、歯科用インプラントおよび歯科矯正用アンカースクリューは、骨との接触面積が小さいため、より高度に骨結合性が求められる。歯科矯正用アンカースクリューは、さらに側方荷重が初期から負荷されるため、(A)側方荷重を負荷した状況でも骨との結合力に優れること、(B)植立当初から骨との結合力に優れること、(C)植立初期にも骨との結合力が大きくは低下しないこと、(D)骨との結合力が大きいこと、(E)安価に製造できること、の要件を高度に満足する必要がある。なお、(C)に記載した植立初期とは、インプラント用デバイスを骨内に植立して炎症反応に惹起すると思われるインプラント用デバイスと骨との結合力が低下する時期であり、一般的には植立してから約1週間後である。
例えば、歯科矯正治療中の動揺や脱落は、歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合力が低下することによって発生する。植立当初の歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合力が、一時的であれ低下することにより動揺が起こる。動揺によって歯科矯正用アンカースクリュー周囲の骨の吸収が加速され、歯科矯正用アンカースクリューが脱落する。また、周囲の骨が吸収されることによって、歯科矯正用アンカースクリューと骨との間に空隙が形成され、そのことによって感染が起こりやすくなる。さらに、歯科矯正用アンカースクリューが周囲の骨と結合している場合には、歯科矯正用アンカースクリューを周囲骨が支えているため破折が起こりにくいが、歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合力が低下した場合には、周囲骨が歯科矯正用アンカースクリューを支えることができなくなり、歯科矯正用アンカースクリューは破折されやすくなり、脱落しやすくなる。成熟した層板骨は比較的吸収に強いが、未成熟骨は吸収されやすい。そのため、側方荷重がかかる歯科矯正用アンカースクリューの場合、未成熟骨な周囲骨が吸収されやすく、治療中の動揺や脱落、感染、破折が起こりやすい。
上記(A)〜(E)の全ての要件を高度に満たす歯科矯正用アンカースクリューの開発によって、これらの問題は解決される。なお、歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合において重要なのは、最低の結合力の値であり、特に、(C)の条件を高度に満たすことが重要である。また、上記(A)〜(E)の全ての要件を高度に満たす歯科矯正用アンカースクリューの開発によって、一般的なインプラント用デバイスも開発される。
従来、骨組織への結合性を向上させるために、チタン製のインプラント用デバイスに表面処理を施す方法が開発されており、その一つとして、アルカリ加熱処理やアルカリ加熱処理−カルシウム処理が開発されている。アルカリ加熱処理−カルシウム処理を用いたものとして、チタン系金属から成る基材をアルカリ溶液中に浸漬し、焼成した後、カルシウムイオンを含む溶液または溶融塩中に浸漬するものがある(例えば、特許文献1参照)。この方法により、機械的強度が高く、短期間で骨と結合し、生体内で長期にわたって安定な生体インプラント材料を製造することができる。
また、他の表面処理方法として、酸エッチング処理等でインプラント用デバイスの表面に、粗面チタンを形成する方法も開発されている。粗面チタンを形成したものとして、電解または化学エッチング法により粗化され、ヒドロキシル化された親水性表面を有し、その親水性表面が気密かつ液密なカバーでシールされており、カバーの内部が、純水又は一価のアルカリ金属カチオン及び/若しくは二価のカチオンの水溶性無機塩の形態である添加物を含む純水、および、酸素、窒素、貴ガス又はそれらのガスの混合物で満たされている骨親和性インプラントがある(例えば、特許文献2参照)。この骨親和性インプラントは、大幅に改善された骨統合特性を有している。
また、酸エッチングを用いたものとして、酸エッチングによってインプラント表面の少なくとも一部を粗面化して粗面を形成し、その粗面を塩化カルシウム等の非毒性塩を含む溶液に暴露することによって、粗面上に非毒性の塩残留物を付着させることにより、粗面の親水性を向上させたインプラントを形成するものがある(例えば、特許文献3参照)。
また、本発明者等により、カルシウムイオンを含有する溶液に母材を浸漬することにより、純チタンの表面にカルシウムを結合させる純チタン表面処理方法が開発されている(例えば、特許文献4参照)。ここでは、さらに、カルシウムの結合量を増やすため、カルシウムイオンを含有する溶液に母材を浸漬する前または同時に、母材表面に水酸基を形成する方法も開発されている。
さらに、他の表面処理方法として、インプラント用デバイスの表面にCaSiO3セラミックコーティングを行う方法が開発されている。CaSiO3セラミックは、生物活性を示すCaイオンを放出できる最も典型的なセラミック材料であり、骨組織への結合を高めるのに有効である。
しかしながら、特許文献1に記載のアルカリ加熱処理は、平滑面のチタンインプラントに対しては有効であるが、酸エッチングにより凹凸面を付与した歯科用インプラントの骨との結合力の増大に対しては効果がない。また、特許文献2に記載の粗面チタンを形成したインプラントは、基本的には側方荷重が負荷されない歯科用インプラントにおいても、植立初期にも骨との結合力が低下する。また、水が存在する状態での流通はコスト増となる。また、特許文献3に記載の酸エッチングを用いたものは、粗面上の非毒性の塩残留物は生体内で流出するため、効果は限定的である。また、特許文献4に記載の純チタンの表面にカルシウムを結合させたものは、骨結合性が限定的である。また、インプラントの表面にCaSiO3セラミックコーティングを行う方法は、厚膜コーティング技術であり、部材からのコーティング層の剥離が問題となる。
このように、特許文献1〜4等に記載された表面処理方法では、インプラント用デバイス、特に歯科矯正用アンカースクリューとして必要な、(A)側方荷重を負荷した状況でも骨との結合力に優れること、(B)植立当初から骨との結合力に優れること、(C)植立初期にも骨との結合力が大きくは低下しないこと、(D)骨との結合力が大きいこと、(E)安価に製造できること、の要件を高度に満足するインプラント用デバイスは開示されていない。
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、(A)側方荷重を負荷した状況でも骨との結合力に優れること、(B)植立当初から骨との結合力に優れること、(C)植立初期にも骨との結合力が大きくは低下しないこと、(D)骨との結合力が大きいこと、(E)安価に製造できること、の要件を高度に満足することができるインプラント用デバイス、特に歯科矯正用アンカースクリューの製造方法およびインプラント用デバイス、特に歯科矯正用アンカースクリューを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係るインプラント用デバイス、特に歯科矯正用アンカースクリューの製造方法は、チタンを含む素材から成る部材本体の表面に凹凸を形成する粗面形成工程と、前記凹凸が形成された前記部材本体の表面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、前記水酸基形成工程と同時、または前記水酸基形成工程の後、前記部材本体の表面にカルシウムを修飾させるカルシウム修飾工程とを、有することを特徴とする。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法によれば、粗面形成工程により部材本体の表面に凹凸が形成されるため、製造したインプラント用デバイスを骨内に植立する際の植立トルクが高い。植立トルクはその時点での撤去トルクと同じであることから、植立時から高い骨との結合力が得られる。
一般に、歯科矯正用アンカースクリューなどのインプラント用デバイスを骨内に植立すると、マクロファージが活性化され、インプラント用デバイスの周囲の骨を貪食することによってインプラント用デバイスと骨との結合強さが一時的に低下する。このことによって、上述したように、インプラント用デバイスの動揺、インプラント用デバイスの周囲骨の吸収、インプラント用デバイスの脱落、インプラント用デバイスと骨との間の空隙形成による感染などが起こりやすくなると考えられる。
しかしながら、インプラント用デバイスをカルシウム修飾すると、過度なマクロファージによる貪食を抑制するためか、植立直後のインプラント用デバイスと骨との結合強さの低下が抑制される。また、インプラント用デバイスの表面のカルシウムが骨芽細胞を活性化させるためか、植立初期(植立後7日程度)のインプラント用デバイスと骨との結合強さを著しく増大させる。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法によれば、製造するインプラント用デバイスが、植立直後から側方荷重が負荷されるという極めて特殊な歯科矯正用アンカースクリューであっても、インプラント用デバイスと骨との結合力を増大できる。その結果、骨結合力が大きいインプラント用デバイスを提供できるだけでなく、現在の歯科矯正用アンカースクリューで問題となっている、治療中の動揺や脱落、成熟した骨でないと安定しないなどの問題が解決できる。
さらに、植立初期(植立後7日程度)のインプラント用デバイスと骨との結合強さの低下を抑えるどころか、逆に植立初期(植立後7日程度)におけるインプラント用デバイスと骨との結合強さを増大できる。そのため、比較的、インプラント用デバイスと骨との結合力が期待できない症例においても、インプラント用デバイスを骨に植立してから一定期間治癒を待ち、その後で咬合圧あるいは矯正力を負荷するという操作が不要となる。また、インプラント用デバイスの小型化も可能となる。このことは、歯科用インプラントおよび歯科矯正用アンカースクリューでは特に重要である。また、植立後1か月程度での骨との結合力もより大きくなる。なお、部材本体は、例えば、純チタン製やTi-6Al-4Vなどのチタン合金製などのチタンを含む材料である。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法で、粗面形成工程は、部材本体の表面に凹凸を形成できる方法であれば、いかなる方法で行ってもよい。凹凸を形成する手法としては、酸性水溶液に浸漬する酸エッチング処理や、アルカリ加熱処理、サンドブラスト処理などが例示される。この中で、酸エッチング処理が好ましい。一般的に酸エッチング処理で凹凸を形成したインプラント用デバイスの方が、アルカリ加熱処理やサンドブラスト処理より効果が高いことが、予備的検討でわかっている。
酸エッチング処理を行う場合、酸性水溶液は、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸もしくはそれらの混合物などの酸を含む水溶液である。酸エッチング処理は、例えば、上記の酸性水溶液にチタンを含む素材から成る部材本体を浸漬すればよい。酸の種類、濃度および浸漬時間、浸漬温度は適宜決定可能である。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法で、前記粗面形成工程は、前記部材本体の平均表面粗さRa(算術平均値)が2μm以上になるよう、前記部材本体の表面に凹凸を形成することが好ましい。平均表面粗さRaは、2.3以上6以下であることが好ましく、2.6以上5.5以下であることがより好ましく、3.0以上5以下であることがさらに好ましい。これらの場合、製造したインプラント用デバイスの表面の骨形成能を、より高めることができる。なお、ここでいう平均表面粗さRaとは、表面粗さRa(算術平均値)を同一試料に対し、複数回(例えば5回)測定した平均値である。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法で、カルシウム修飾工程は、部材本体の表面にカルシウムを修飾させる方法であれば、化学結合による方法等、いかなる方法であってもよい。しかしながら、生産コスト等の関係から、水溶性カルシウムを含む液体中に部材本体を浸漬することにより、部材本体の表面にカルシウムを修飾させることが好ましく、特に、5乃至20ミリモル濃度の水溶性カルシウムを含む液体中に、インプラント用デバイスの部材本体を24時間以上浸漬することにより、部材本体の表面にカルシウムを修飾させることが好ましい。水溶性カルシウムの種類は特に限定されないが、塩化カルシウムが好ましい。
なお、カルシウム修飾とは、部材本体の表面にカルシウムが機能的に結合している状態のことであり、植立術式によって部材本体の表面のカルシウムが除去されるような状態は、カルシウム修飾ではない。カルシウム修飾であるか否かは、機能的に結合しているか否かであり、例えば、超音波処理によるカルシウムの消失の有無で定義することができる。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法は、前記部材本体の表面に修飾するカルシウム量が、30μm以下の凹凸を平面として測定した見かけの1平方センチメートルあたり1μg以上となるよう、または、12kV、6mAで加速させた単色化AlKa線を用いて、前記部材本体の表面のX線光電子分光測定を行い、パスエナジー100eV、スポットサイズ400μm、スキャン数5回の条件で得られたX線光電子分光スペクトルの横軸をeV、縦軸をcps(count per second)としてプロットしたとき、340〜360eVの間に観測されるカルシウムピークのベースラインを基準としたカルシウムピーク面積が、500 eV・cps以上となるよう、または、前記カルシウムピーク面積、450〜475eVの間に観測されるチタンピーク面積および525〜540eVの間に観測される酸素ピーク面積から、相対感度補正と運動エネルギー補正と装置の応答関数とに基づいて、チタン、酸素およびカルシウムの量を計算し、チタン、酸素およびカルシウムの合計が100原子組成パーセントとなるように規格化した値におけるカルシウムの元素組成パーセントが、0.3以上となるよう、前記カルシウム修飾工程を行うことが好ましい。本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法で、前記部材本体の表面に修飾されたカルシウム量は、下記のいずれかの方法で測定されたカルシウム量と定義することができる。
(みかけ面積あたりのカルシウム絶対量)
見かけの1平方センチメートルあたりのカルシウム絶対量とは、インプラント用デバイスの見かけの面積1平方センチメートルあたりに修飾されているカルシウム量である。ここで、見かけの面積とは、30μm以下の凹凸を平面として測定した面積である。例えば、一辺が30μmの正方形で高さが30μmの四角錐が密に形成されている1平方センチメートルのデバイスの表の表面積は、約2.2平方センチメートルであるが、ここでの見かけの面積とは、30μm以下の凹凸を平面として計算するため、1平方センチメートルとなる。
見かけの1平方センチメートルあたりのカルシウム絶対量とは、インプラント用デバイスの見かけの面積1平方センチメートルあたりに修飾されているカルシウム量である。ここで、見かけの面積とは、30μm以下の凹凸を平面として測定した面積である。例えば、一辺が30μmの正方形で高さが30μmの四角錐が密に形成されている1平方センチメートルのデバイスの表の表面積は、約2.2平方センチメートルであるが、ここでの見かけの面積とは、30μm以下の凹凸を平面として計算するため、1平方センチメートルとなる。
カルシウム量の定量は、超音波洗浄後のインプラント用デバイスを、10℃以上30℃以下である5mLから100mLの0.1モル濃度硝酸を含むポリエチレン製あるいはポリプロピレン製容器に浸漬して行う。この容器ごと超音波洗浄機で5分間超音波処理することによって、インプラント用デバイスの表面に修飾されたカルシウムが溶出される。このため、容器内の酸性溶液のカルシウム濃度を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置や原子吸光光度計などの公知のカルシウム濃度測定装置で測定し、使用した0.1モル濃度硝酸量と測定したカルシウム濃度とから、修飾カルシウム量を計算することができる。こうして計算されたカルシウム量は1平方センチメートルあたり、1μg以上100μg以下であることが好ましく、5μg以上50μg以下であることがより好ましく、10μg以上30μg以下であることがさらに好ましい。
(X線光電子分光測定によるカルシウムピークのピーク面積)
12kV、6mAで加速させた単色化AlKa線を用いて、部材本体の表面のX線光電子分光測定を行い、パスエナジー100eV、スポットサイズ400μm、スキャン数5回の条件で得られたX線光電子分光スペクトルの横軸をeV、縦軸をcpsとしてプロットしたとき、340〜360eVの間に観測されるカルシウムピークのベースラインを基準とした面積を、カルシウム量と定義してもよい。このように定義されたカルシウム量は、X線光電子分光測定によるカルシウムピークのピーク面積として、500〜100000 eV・cpsであることが好ましく、5000〜80000 eV・cpsであることがより好ましく、10000〜50000 eV・cpsであることがさらに好ましい。
12kV、6mAで加速させた単色化AlKa線を用いて、部材本体の表面のX線光電子分光測定を行い、パスエナジー100eV、スポットサイズ400μm、スキャン数5回の条件で得られたX線光電子分光スペクトルの横軸をeV、縦軸をcpsとしてプロットしたとき、340〜360eVの間に観測されるカルシウムピークのベースラインを基準とした面積を、カルシウム量と定義してもよい。このように定義されたカルシウム量は、X線光電子分光測定によるカルシウムピークのピーク面積として、500〜100000 eV・cpsであることが好ましく、5000〜80000 eV・cpsであることがより好ましく、10000〜50000 eV・cpsであることがさらに好ましい。
(X線光電子分光測定によるカルシウムの元素組成パーセント)
上述のカルシウムのピーク面積、450〜475eVの間に観測されるチタンのピーク面積および525〜540eVの間に観測される酸素のピーク面積から、相対感度補正と運動エネルギー補正と装置の応答関数とに基づいて、チタン、酸素およびカルシウムの量を計算し、チタン、酸素およびカルシウムの合計が100at%(原子組成パーセント)となるように規格化した値におけるカルシウムの元素組成パーセントを求める。すなわち規格化したチタン、酸素およびカルシウムの存在量をそれぞれ[Ca][O][Ti]とすると、カルシウムの元素組成パーセントを、([Ca]/( [Ca]+ [O]+ [Ti])×100で計算することができる。こうして計算されたカルシウム量は、X線光電子分光測定によるカルシウムピークの原子組成パーセントとして、0.3以上20以下であることが好ましく、0.5以上15以下であることがより好ましく、1以上10以下であることがさらに好ましい。
上述のカルシウムのピーク面積、450〜475eVの間に観測されるチタンのピーク面積および525〜540eVの間に観測される酸素のピーク面積から、相対感度補正と運動エネルギー補正と装置の応答関数とに基づいて、チタン、酸素およびカルシウムの量を計算し、チタン、酸素およびカルシウムの合計が100at%(原子組成パーセント)となるように規格化した値におけるカルシウムの元素組成パーセントを求める。すなわち規格化したチタン、酸素およびカルシウムの存在量をそれぞれ[Ca][O][Ti]とすると、カルシウムの元素組成パーセントを、([Ca]/( [Ca]+ [O]+ [Ti])×100で計算することができる。こうして計算されたカルシウム量は、X線光電子分光測定によるカルシウムピークの原子組成パーセントとして、0.3以上20以下であることが好ましく、0.5以上15以下であることがより好ましく、1以上10以下であることがさらに好ましい。
カルシウム修飾量が上述の範囲内の場合、製造したインプラント用デバイスの植立直後の骨との結合強さの低下に対する抑制効果が大きく、あるいはより大きく、あるいはさらに大きい。また、製造したインプラント用デバイスの植立初期(植立後7日程度)の骨との結合強さを、大きく、あるいはより大きく、あるいはさらに大きくすることができる。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法において、水酸基形成工程で形成された水酸基を介して、部材本体の表面にカルシウムが修飾されると考えられ、凹凸が形成された部材本体の表面への水酸基の形成は必須である。水酸基形成工程は、部材本体の表面に水酸基を形成させるものであればよく、例えば、部材本体を気相中または溶媒中でオゾンに暴露することにより、部材本体の表面に水酸基を形成するオゾン処理や、紫外線処理、酸素プラズマ処理等を利用することができる。
凹凸が形成された部材本体の表面への水酸基の形成工程を施さない場合、カルシウム修飾工程を施しても部材本体にカルシウムが修飾されない、またはカルシウム修飾量が小さくなる。部材本体の表面へのカルシウム修飾において、あらかじめ水酸基形成を行うとカルシウム修飾が効率的に行える機序は明らかにされていないが、チタン表面へのカルシウム修飾が、チタン表面の水酸基を介して行われていると考えられる。チタン表面には水酸基が存在するが、その量は限定的である。水酸基形成処理を行うことによって水酸基量が増大し、その結果、チタン表面に修飾されるカルシウム量が著しく大きくなると考えられる。
本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法で、前記水酸基形成工程および前記カルシウム修飾工程は、前記水溶性カルシウムを含む液体中にあらかじめオゾンガスを溶存させておき、その液体中に前記部材本体を浸漬することにより、前記部材本体の表面に水酸基を形成するとともにカルシウムを修飾させてもよい。この場合、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程とを同時に行うことができる。この場合にも、部材本体の表面に形成された水酸基を介して、カルシウムを修飾することができる。
水酸基の形成は、例えば、処理前後の水に対する接触角の測定で判断することができる。水酸基形成工程とカルシウム修飾工程とを同時に行った場合には、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程とを同時に行う前後の接触角の変化で、水酸基形成が行われたかどうかを判断することができる。本発明では、処理によって部材本体の表面の水に対する接触角が小さくなった場合は、水酸基が形成されたと判断することができる。
本発明に係るインプラント用デバイスは、本発明に係るインプラント用デバイスの製造方法により製造されたことを特徴とする。これにより、本発明に係るインプラント用デバイスは、(A)側方荷重を負荷した状況でも骨との結合力に優れること、(B)植立当初から骨との結合力に優れること、(C)植立初期にも骨との結合力が大きくは低下しないこと、(D)骨との結合力が大きいこと、(E)安価に製造できること、の要件を高度に満足することができる。また、インプラント用デバイスの小型化も可能であり、例えば、スクリューの進行方向長さが13mm以下、直径が3mm以下の歯科矯正用アンカースクリューとすることができる。
本発明によれば、(A)側方荷重を負荷した状況でも骨との結合力に優れること、(B)植立当初から骨との結合力に優れること、(C)植立初期にも骨との結合力が大きくは低下しないこと、(D)骨との結合力が大きいこと、(E)安価に製造できること、の要件を高度に満足することができるインプラント用デバイスの製造方法およびインプラント用デバイスを提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態のインプラント用デバイスは、チタンを含む素材から成る部材本体の表面に凹凸を有し、さらにその表面にカルシウムが修飾されている。
本発明の実施の形態のインプラント用デバイスは、チタンを含む素材から成る部材本体の表面に凹凸を有し、さらにその表面にカルシウムが修飾されている。
本発明の実施の形態のインプラント用デバイスは、本発明の実施の形態のインプラント用デバイスの製造方法により製造することができる。すなわち、本発明の実施の形態のインプラント用デバイスの製造方法は、まず、インプラント用デバイスの部材本体に凹凸を形成する。凹凸を形成する手法としては、酸性水溶液に浸漬する酸エッチング処理や、アルカリ加熱処理、サンドブラストなどが例示されるが、酸エッチング処理が好ましい。
次に、凹凸が形成された部材本体の表面に水酸基を形成し、水酸基が形成された部材本体の表面をカルシウムで修飾する。なお、部材本体の表面への水酸基形成とカルシウム修飾とは、操作的には同時に行っても良い。
なお、製造された本発明の実施の形態のインプラント用デバイスにおいて、カルシウム修飾されているか否かは、超音波処理によるカルシウムの消失の有無で定義できる。すなわち、40KHzの超音波洗浄機に蒸留水を入れ、その中でインプラント用デバイスを5分間超音波洗浄する。この処理でカルシウムが残存しているものをカルシウム修飾されているとし、カルシウムが消失したものはカルシウム修飾されていないと定義する。
また、本発明の実施の形態のインプラント用デバイスでは、一般のコーティングと異なり、部材表面に存在するカルシウム量が極めて小さい。このことは、剥離などの懸念を完全に払拭するものであるが、逆に存在するカルシウム量の定量を困難にする。そこで、修飾カルシウム量は、上記のみかけ面積あたりのカルシウム絶対量、X線光電子分光測定によるカルシウムピークのピーク面積、X線光電子分光測定によるカルシウムの元素組成パーセントの3つの方法のいずれかで測定された値と定義する。
本発明の実施の形態のインプラント用デバイスの有用性等を検証するため、以下に示す実験を行った。なお、(E)安価に製造できること、に関しては、インプラント用デバイスを純水等で気密かつ液密なカバーでシールする必要がないため、実施例および比較例の全てで達成できている。
[形態形成工程]
バルク状純チタンから機械研削によって、直径1.3mm、刃部長径3.0mm、ピッチ間隔0.8mmの歯科矯正用アンカースクリューを製造した。当該歯科矯正用アンカースクリューを十分に水洗した後、アセトンに浸漬し、アセトン中で5分間の超音波洗浄を行った。次に、歯科矯正用アンカースクリューを超純水に浸漬し、超純水中で5分間の超音波洗浄行った。このアセトンおよび超純水中での超音波洗浄を三回繰り返した。なお、アセトンおよび超純水は、超音波洗浄毎に新しいものを使用した。最後に、101℃に調整した恒温槽で1時間乾燥させた。
バルク状純チタンから機械研削によって、直径1.3mm、刃部長径3.0mm、ピッチ間隔0.8mmの歯科矯正用アンカースクリューを製造した。当該歯科矯正用アンカースクリューを十分に水洗した後、アセトンに浸漬し、アセトン中で5分間の超音波洗浄を行った。次に、歯科矯正用アンカースクリューを超純水に浸漬し、超純水中で5分間の超音波洗浄行った。このアセトンおよび超純水中での超音波洗浄を三回繰り返した。なお、アセトンおよび超純水は、超音波洗浄毎に新しいものを使用した。最後に、101℃に調整した恒温槽で1時間乾燥させた。
[(1)酸エッチング工程]
純チタン製歯科矯正用アンカースクリューの表面に凹凸を形成するため、酸エッチング処理を行った。酸エッチング処理では、蒸留水、塩酸(Wako社製;試薬特級、35−37%)および硫酸(Wako社製;試薬特級、95%)を用い、体積比がそれぞれ30%、20%、50%となるように混合溶液を調製し、これを酸エッチング溶液として用いた。
純チタン製歯科矯正用アンカースクリューの表面に凹凸を形成するため、酸エッチング処理を行った。酸エッチング処理では、蒸留水、塩酸(Wako社製;試薬特級、35−37%)および硫酸(Wako社製;試薬特級、95%)を用い、体積比がそれぞれ30%、20%、50%となるように混合溶液を調製し、これを酸エッチング溶液として用いた。
この溶液を70℃に加温した後、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを30分間浸漬した。酸エッチング処理溶液に浸漬後、すぐに純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを蒸留水で十分に洗浄した。その後、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを蒸留水に浸漬し、蒸留水中で5分間の超音波洗浄を行った。この蒸留水中で5分間の超音波洗浄を3回繰り返した。なお、超音波洗浄毎に新しい蒸留水を使用した。最後に、101℃に調整した恒温槽で1時間乾燥させた。
[(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程]
酸エッチング工程の後に、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程とを同時に行った。水酸基形成工程は、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを、オゾンガスを含有する水溶液に浸漬することによって行った。オゾンガスは、酸素ガスから、出力3.4A、酸素流量2nl/minの条件で、オゾン発生器(エコデザイン株式会社製「ED−OG−R4」)を用いて、無声放電方式によって発生させた。発生したオゾンガスを水溶液にバブリングさせることによって溶存オゾンとし、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを、オゾンが溶存した水溶液に25℃で24時間浸漬し、オゾンを純チタン製歯科矯正用アンカースクリューと接触させることによって、純チタン製歯科矯正用アンカースクリュー表面に水酸基形成工程を行った。
酸エッチング工程の後に、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程とを同時に行った。水酸基形成工程は、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを、オゾンガスを含有する水溶液に浸漬することによって行った。オゾンガスは、酸素ガスから、出力3.4A、酸素流量2nl/minの条件で、オゾン発生器(エコデザイン株式会社製「ED−OG−R4」)を用いて、無声放電方式によって発生させた。発生したオゾンガスを水溶液にバブリングさせることによって溶存オゾンとし、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを、オゾンが溶存した水溶液に25℃で24時間浸漬し、オゾンを純チタン製歯科矯正用アンカースクリューと接触させることによって、純チタン製歯科矯正用アンカースクリュー表面に水酸基形成工程を行った。
カルシウム修飾工程は、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを10ミリモル濃度塩化カルシウム水溶液に25℃で24時間浸漬して行った。この、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程は、製造時間短縮のために同時に行った。すなわち、オゾン発生器から発生したオゾンガスを10ミリモル濃度塩化カルシウム水溶液にバブリングし、当該水溶液に純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを25℃で24時間浸漬することによって、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程を同時に行った。なお、この条件における塩化カルシウム水溶液中のオゾン濃度は20ppmである。
水酸基形成工程とカルシウム修飾工程を行った後に、すぐに純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを超純水で十分に洗浄した。その後、純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを超純水に浸漬し、超蒸留水中で5分間の超音波洗浄を行った。この超蒸留水中で5分間の超音波洗浄を3回繰り返した。なお、超音波洗浄毎に新しい超蒸留水を使用した。最後に、101℃に調整した恒温槽で1時間乾燥させた。
このように、バルク状チタンから形態形成工程、酸エッチング工程、水酸基形成工程とカルシウム修飾工程を経て、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューを製造した。
製造された歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図1(e)および(j)に示す。製造された歯科矯正用アンカースクリューは、酸エッチング工程を行っても巨視的形態に変化はないが、酸エッチング工程により表面に凹凸構造が付与されていることがわかった。
製造された歯科矯正用アンカースクリューについて、カラー3Dレーザー顕微鏡(KEYENCE VK−9700)によって表面粗さ(Surface roughness;Ra)の測定を行った結果、Raの平均値は3.8μm(3.1〜4.5μm)であった。
製造された歯科矯正用アンカースクリューについて、協和界面科学社製自動接触角計(DM500)を用いて蒸留水に対する接触角を測定したところ、接触角は0度であった。
次に、製造された歯科矯正用アンカースクリューへのカルシウム修飾量を測定した。製造された歯科矯正用アンカースクリューから、修飾したカルシウムを酸処理で溶解し、カルシウム濃度を誘導結合プラズマ質量分析計で測定したところ、歯科矯正用アンカースクリュー表面1平方センチメートルあたりカルシウム量は、24.5μgであった。
次に、製造された歯科矯正用アンカースクリューについて、X線光電子分光測定により、カルシウム修飾量の測定を行った。その結果を図2(e)に示す。X線光電子分光測定は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のK-ALPHAを用い、12kV、6mAで加速させた単色化AlKa線を線源とし、カルシウムピークを検出するためのナロースキャンは、パスエナジー100eV、スポットサイズ400μm、スキャン数5回の条件で行った。図2(e)に示すように、XPS測定によってカルシウムに特徴的なピークが検出され、装置付属のソフトウエア(Avantage)を用いて、ベースラインを基準としたピーク面積を計算したところ、20000 eV・cpsであった。
次に、このカルシウムピーク面積および、同条件での酸素ピーク面積、チタンピーク面積を測定し、得られたチタンピーク面積及び酸素ピーク面積から相対感度および運動エネルギーの補正を行い、Ca存在比(Ca/(Ca+O+Ti) x 100)を計算したところ、3原子%であった。
[実験動物を用いた歯科矯正用アンカースクリューの有効性評価]
次に、実施例1で製造された歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて評価した。実験動物としては12週齢(体重250±10g)の雄性Wistar系ラットを用いた。ペントバルビタールナトリウムを、実験動物に対して、体重1kgあたり100mgとなるよう腹腔内注射し、全身麻酔を行った。
次に、実施例1で製造された歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて評価した。実験動物としては12週齢(体重250±10g)の雄性Wistar系ラットを用いた。ペントバルビタールナトリウムを、実験動物に対して、体重1kgあたり100mgとなるよう腹腔内注射し、全身麻酔を行った。
ラットの下肢上部内側面を剪毛し、脛骨長軸と平行に15.0mmの長さで切開を行って脛骨を露出し、歯科用エンジンを用いて低速回転にて直径1.0mmのインプラント植立窩を形成した。また、当該植立窩から12mm離した部位に、直径1.0mmのインプラント植立窩を形成した。
トルクドライバー(Tohnichi社製)にて皮質骨を通して歯科矯正用アンカースクリュー植立を行うと同時に、最大植立トルク値を測定した。測定結果を図3に示す。図3に示すように、最大植立トルク値は、11mN・m(ミリニュートン・メートル)であった。軟組織の縫合後、ニッケルチタン製コイルスプリングにて、歯科矯正用アンカースクリュー間に10gfの荷重を付加した。
図3に示すように、歯科矯正用アンカースクリュー植立7日後および28日後の最大撤去トルク値はそれぞれ16mN・m、および20mN・mであった。すなわち、カルシウム修飾されている実施例1の歯科矯正用アンカースクリューの場合、最大植立トルク値が11mN・mであるのに対して、植立7日後の最大抜去トルク値は16mN・mであり、増大していることがわかった。
植立28日後に撤去した歯科矯正用アンカースクリューをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、95%エタノールで脱水固定後、水洗し、1gのアリザリンレッドS(シグマ・アルドリッチ製)を100mLの蒸留水に溶解させたアリザリンレッドS水溶液に10分間浸漬した。浸漬後、高精細顕微鏡デジタルカメラ(Olympus社製「DP71」)にて表面の付着物の観察を行ったところ、付着物が橙色に染色された。このことから、付着物が骨であることがわかった。
植立28日後に撤去した歯科矯正用アンカースクリューに付着した骨の量を測定するため、歯科矯正用アンカースクリューを10mLの超純水に浸漬し、1時間の超音波処理によって付着物を歯科矯正用アンカースクリューから剥離させた。付着物が剥離された溶液を濾過し、硝酸(Wako社製;試薬特級、60%)1mLを加えて加熱、その後室温にて放冷し、さらに超純水によって全体量を25mLとして定容し、カルシウムの含有量を誘導結合プラズマ質量分析計にて測定した。その結果、図4に示すように、カルシウム含有量が6.3μgであった。
植立28日後に撤去した歯科矯正用アンカースクリューを、走査型電子顕微鏡で観察した結果を図5(e)および(j)に示す。図5(e)に示す弱拡大像は、高精細顕微鏡デジタルカメラによる観察像とほぼ同様であったが、同じ走査型電子顕微鏡像である図1(e)と比較することによって、歯科矯正用アンカースクリューを骨に植立すると骨が表面に形成されることがわかった。また、図5(j)に示す強拡大像から、骨がスクリュー表面で伸展するように形成されていることがわかった。
図6に示すように、植立28日目の歯科矯正用アンカースクリューの骨内におけるペリオテスト値を、東京歯科産業株式会社製「ペリオテストM」で測定した結果、ペリオテスト値は7であった。なお、ペリオテストMは、歯やインプラントの動揺度を評価するものであり、16回打診を繰り返し、接触時間の差異の平均値をペリオテスト値として、−8から50の数値で表示する装置である。一般的に歯科用インプラントの場合、臨床的に動揺が認められない症例においても、ペリオテスト値が9を超えた場合は、急激な負荷がかかったときに失敗につながる高い危険性があるとされている。ペリオテスト値の値が低い方が、骨内においてインプラントデバイスの動揺度が低い。
≪比較例1≫
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程のみで歯科矯正用アンカースクリューを製造した。この比較例1の歯科矯正用アンカースクリューは、(1)酸エッチング工程も、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程も経ていないので本発明の外の材料である。
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程のみで歯科矯正用アンカースクリューを製造した。この比較例1の歯科矯正用アンカースクリューは、(1)酸エッチング工程も、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程も経ていないので本発明の外の材料である。
比較例1で製造された歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図1(a)および(f)に示す。比較例1で製造された歯科矯正用アンカースクリューは、酸エッチング工程を経ていないので、確認されるのは機械研削による筋状溝構造のみであり、表面に凹凸構造が付与されていなことがわかった。
比較例1の歯科矯正用アンカースクリューについて、カラー3Dレーザー顕微鏡によって測定されたRaの平均値は、0.7μm(0.6〜0.8μm)であった。また、XPS測定を行った結果を、図2(a)に示す。XPS測定によってもカルシウムに特徴的なピークが検出されないことがわかった。また、比較例1の歯科矯正用アンカースクリューに酸処理を行い、カルシウム濃度を誘導結合プラズマ質量分析計で測定したところ、カルシウムは検出されなかった。比較例1の歯科矯正用アンカースクリューについて接触角を測定したところ、50度であった。
[実験動物を用いた歯科矯正用アンカースクリューの有効性評価]
次に、比較例1の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、8mN・m(ミリニュートン・メートル)であった。最大植立トルクは植立時の撤去トルクと同じであるが、最大植立トルクが実施例1より低く、比較例1の歯科矯正用アンカースクリューは植立時の固定力が実施例1と比較して劣ることがわかった。
次に、比較例1の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、8mN・m(ミリニュートン・メートル)であった。最大植立トルクは植立時の撤去トルクと同じであるが、最大植立トルクが実施例1より低く、比較例1の歯科矯正用アンカースクリューは植立時の固定力が実施例1と比較して劣ることがわかった。
また、図3に示すように、比較例1の歯科矯正用アンカースクリュー植立7日後および28日後の最大撤去トルク値はそれぞれ6mN・m、および9mN・mであり、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューに比較して著しく小さいことがわかった。また、カルシウム修飾されていない比較例1の歯科矯正用アンカースクリューの場合、最大植立トルク値が8mN・mであるのに対して、植立7日後の最大抜去トルク値は6mN・mであり、トルク値が低下していることがわかった。
植立28日後に撤去した比較例1の歯科矯正用アンカースクリューをアリザリンレッドS染色し、表面の付着物の観察を行ったところ、付着物はほとんど観察されなかった。図4に示すように、誘導結合プラズマ質量分析計で測定した付着物のカルシウム量は、1.2μgであり、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューの値に比較して著しく小さいことがわかった。
植立28日後に撤去した比較例1の歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図5(a)および(f)に示す。図5(a)に示す弱拡大像は、高精細顕微鏡デジタルカメラによる観察像とほぼ同様であった。また、図5(f)に示す強拡大像から、骨がスクリュー表面にほとんど形成されていないことがわかった。
図6に示すように、植立28日目の歯科矯正用アンカースクリューの骨内におけるペリオテスト値を、東京歯科産業株式会社製「ペリオテストM」で測定した結果、ペリオテスト値は13であった。この値は、実施例1の場合に得られたペリオテスト値である7と比較して大きく、比較例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの骨内における動揺度が、実施例1より大きいことがわかった。
≪比較例2≫
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性および、比較例1に対する水酸基形成工程とカルシウム修飾工程の有用性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程の後に(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程のみを施した歯科矯正用アンカースクリューを製造した。この比較例2の歯科矯正用アンカースクリューは、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程だけが施されており、(1)酸エッチング工程を経ていないので本発明の外の材料である。
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性および、比較例1に対する水酸基形成工程とカルシウム修飾工程の有用性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程の後に(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程のみを施した歯科矯正用アンカースクリューを製造した。この比較例2の歯科矯正用アンカースクリューは、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程だけが施されており、(1)酸エッチング工程を経ていないので本発明の外の材料である。
比較例2で製造された歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図1(b)および(g)に示す。比較例2で製造された歯科矯正用アンカースクリューは、酸エッチング工程を経ていないので、確認されるのは比較例1とほぼ同様の機械研削による筋状溝構造のみであり、表面に凹凸構造が付与されていなことがわかった。また、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程では表面の微細構造に変化を及ぼさないことがわかった。
比較例2の歯科矯正用アンカースクリューについて、カラー3Dレーザー顕微鏡によって測定されたRaの平均値は0.7μm(0.6〜0.8μm)であり、比較例1と同じであった。接触角は、0度であった。
次に、製造された歯科矯正用アンカースクリューへのカルシウム修飾量を測定した。製造された歯科矯正用アンカースクリューから、修飾したカルシウムを酸処理で溶解し、カルシウム濃度を誘導結合プラズマ質量分析計で測定したところ、歯科矯正用アンカースクリュー表面1平方センチメートルあたりカルシウム量は24.5μgであった。
次に、製造された歯科矯正用アンカースクリューについて、実施例1と同様にX線光電子分光測定により、カルシウム修飾量の測定を行った。その結果を図2(b)に示す。カルシウムピーク面積を計算したところ、14000 eV・cpsであった。また、カルシウム、チタン、酸素に対するカルシウムの原子組成パーセントは、1.5であった。これらの結果から、歯科矯正用アンカースクリュー表面にカルシウムが修飾されていることがわかった。
[実験動物を用いた歯科矯正用アンカースクリューの有効性評価]
次に、比較例2の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、8mN・mであった。最大植立トルクは比較例1と同じであったが、実施例1よりは著しく低く、比較例2の歯科矯正用アンカースクリューは植立時の固定力が実施例1と比較して劣ることがわかった。また、最大植立トルクは表面形態に大きく依存し、(1)酸エッチング工程によってスクリュー表面に凹凸を付与することは、当初より荷重が負荷される歯科矯正用アンカースクリューにとって必須であることがわかった。
次に、比較例2の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、8mN・mであった。最大植立トルクは比較例1と同じであったが、実施例1よりは著しく低く、比較例2の歯科矯正用アンカースクリューは植立時の固定力が実施例1と比較して劣ることがわかった。また、最大植立トルクは表面形態に大きく依存し、(1)酸エッチング工程によってスクリュー表面に凹凸を付与することは、当初より荷重が負荷される歯科矯正用アンカースクリューにとって必須であることがわかった。
また、図3に示すように、比較例2の歯科矯正用アンカースクリュー植立7日後および28日後の最大撤去トルク値はそれぞれ8.5mN・m、および11mN・mであり、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューに比較して著しく小さいことがわかった。一方、これらの値は比較例1と比較して高い値であり、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程は歯科矯正用アンカースクリューの骨への固定力を一定程度向上させるには有効であることがわかった。
カルシウム修飾されている比較例2の歯科矯正用アンカースクリューの場合、最大植立トルク値が8mN・mであるのに対して、植立7日後の最大抜去トルク値は8.5mN・mであり、低下することなく、微増していることがわかった。
植立28日後に撤去した比較例2の歯科矯正用アンカースクリューをアリザリンレッドS染色し、表面の付着物の観察を行ったところ、付着物が一部に観察された。図4に示すように、誘導結合プラズマ質量分析計で測定した付着物のカルシウム量は、1.2μgであり、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューの値に比較して著しく小さいことがわかった。
植立28日後に撤去した比較例2の歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図5(b)および(g)に示す。図5(g)に示す弱拡大像は、高精細顕微鏡デジタルカメラによる観察像とほぼ同様であった。また、図5(b)、(g)に示す走査型電子顕微鏡像から、骨がスクリュー表面に一部形成されていることがわかった。
図6に示すように、植立28日目の歯科矯正用アンカースクリューの骨内におけるペリオテスト値は、10であった。この値は、実施例1の場合に得られたペリオテスト値である7と比較して大きく、比較例2で製造した歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺は、実施例1より大きいことがわかった。しかしながら、比較例2で製造した歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺は比較例1よりは小さく、カルシウム修飾は歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺を抑える効果があることがわかった。
≪比較例3≫
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性および、比較例1に対する(1)酸エッチング工程の有用性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程の後に(1)酸エッチング工程のみを施した歯科矯正用アンカースクリューを製造した。この比較例3の歯科矯正用アンカースクリューは、(1)酸エッチング工程だけが施されており、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程を経ていないので本発明の外の材料である。
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性および、比較例1に対する(1)酸エッチング工程の有用性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程の後に(1)酸エッチング工程のみを施した歯科矯正用アンカースクリューを製造した。この比較例3の歯科矯正用アンカースクリューは、(1)酸エッチング工程だけが施されており、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程を経ていないので本発明の外の材料である。
比較例3で製造された歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図1(c)および(h)に示す。比較例3で製造された歯科矯正用アンカースクリューは、酸エッチング工程を経ており、実施例1と同様の凹凸構造が表面に付与されていることがわかった。図1(e)に示す実施例1の走査型電子顕微鏡像との比較から、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程は表面の微細構造に変化を及ぼさないことがわかった。
比較例3の歯科矯正用アンカースクリューについて、カラー3Dレーザー顕微鏡によって測定されたRaの平均値は3.6μm(2.9〜4.3)であり、実施例1とほぼ同じであった。また、XPS測定を行った結果を、図2(c)に示す。XPS測定によってもカルシウムに特徴的なピークが検出されないことがわかった。接触角は、90度であった。また、比較例3の歯科矯正用アンカースクリューに酸処理を行い、カルシウム濃度を誘導結合プラズマ質量分析計で測定したところ、カルシウムは検出されなかった。
[実験動物を用いた歯科矯正用アンカースクリューの有効性評価]
次に、比較例3の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、10.5mN・mであった。最大植立トルクは実施例1とほぼ同じ値であり、比較例1および比較例2よりは著しく大きいことがわかった。また、最大植立トルクは表面形態に大きく依存し、(1)酸エッチング工程によってスクリュー表面に凹凸を付与することは、当初より荷重が負荷される歯科矯正用アンカースクリューにとって必須であることがわかった。
次に、比較例3の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、10.5mN・mであった。最大植立トルクは実施例1とほぼ同じ値であり、比較例1および比較例2よりは著しく大きいことがわかった。また、最大植立トルクは表面形態に大きく依存し、(1)酸エッチング工程によってスクリュー表面に凹凸を付与することは、当初より荷重が負荷される歯科矯正用アンカースクリューにとって必須であることがわかった。
また、図3に示すように、比較例3の歯科矯正用アンカースクリュー植立7日後および28日後の最大撤去トルク値はそれぞれ8mN・m、および19mN・mであった。植立28日の最大撤去トルク値は、ほぼ実施例1の値と同じであるが、植立7日後の最大撤去トルク値は、実施例1の値の半分の値であり、著しく小さいことがわかった。しかしながら、比較例1および2と比較すると、植立7日後の最大撤去トルク値も大きな値であり、(1)酸エッチング工程は歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合に有効であることがわかった。
カルシウム修飾されていない比較例3の歯科矯正用アンカースクリューの場合、最大植立トルク値が10.5mN・mであるのに対して、植立7日後の最大撤去トルク値は8mN・mであり、トルク値が低下していることがわかった。
植立28日後に撤去した比較例3の歯科矯正用アンカースクリューをアリザリンレッドS染色し、表面の付着物の観察を行ったところ、付着物が橙色に染色された。このことから、付着物が骨であることがわかった。図4に示すように、誘導結合プラズマ質量分析計で測定した付着物のカルシウム量は5.0μgであり、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューの値に比較して小さいことがわかった。
植立28日後に撤去した比較例3の歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図5(c)および(h)に示す。図5(c)に示す弱拡大像は、高精細顕微鏡デジタルカメラによる観察像とほぼ同様であった。また、図5(c)、(h)に示す走査型電子顕微鏡像から、骨がスクリュー表面に形成されていることがわかった。形成量は比較例1および比較例2と比較すると顕著に多いが、実施例1と比較すると限定的であることがわかった。
図6に示すように、植立28日目の歯科矯正用アンカースクリューの骨内におけるペリオテスト値は、10.5であった。この値は、実施例1の場合に得られたペリオテスト値である7と比較して大きく、比較例3で製造した歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺は、実施例1より大きいことがわかった。しかしながら、比較例3で製造した歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺は比較例1よりは小さく、部材表面への凹凸形成は歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺を抑える効果があることがわかった。
≪比較例4≫
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性および、カルシウム修飾工程だけでなく、水酸基形成工程の必要性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程の後に(1)酸エッチング工程を施し、その後に水酸基形成工程を施さずカルシウム修飾工程のみを施した歯科矯正用アンカースクリューを製造した。すなわち、オゾンガスを10ミリモル濃度塩化カルシウム水溶液に導入せず、当該水溶液に純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを25℃で24時間浸漬することによってカルシウム修飾工程のみを行った。この比較例4の歯科矯正用アンカースクリューは、(1)酸エッチング工程と、カルシウム修飾工程が施されているが、水酸基形成工程を経ていないので本発明の外の材料である。
実施例1で製造した歯科矯正用アンカースクリューの有用性および、カルシウム修飾工程だけでなく、水酸基形成工程の必要性を検証する目的で、実施例1に記載した、形態形成工程の後に(1)酸エッチング工程を施し、その後に水酸基形成工程を施さずカルシウム修飾工程のみを施した歯科矯正用アンカースクリューを製造した。すなわち、オゾンガスを10ミリモル濃度塩化カルシウム水溶液に導入せず、当該水溶液に純チタン製歯科矯正用アンカースクリューを25℃で24時間浸漬することによってカルシウム修飾工程のみを行った。この比較例4の歯科矯正用アンカースクリューは、(1)酸エッチング工程と、カルシウム修飾工程が施されているが、水酸基形成工程を経ていないので本発明の外の材料である。
比較例4で製造された歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図1(d)および(i)に示す。比較例4で製造された歯科矯正用アンカースクリューは、酸エッチング工程を経ており、実施例1と同様の凹凸構造が表面に付与されていることがわかった。図1(e)に示す実施例1の走査型電子顕微鏡像との比較から、カルシウム修飾工程は表面の微細構造に変化を及ぼさないことがわかった。接触角は、90度であった。
比較例4の歯科矯正用アンカースクリューについて、カラー3Dレーザー顕微鏡によって測定されたRaの平均値は3.6μm(2.9〜4.3)であり、実施例1とほぼ同じであった。また、XPS測定を行った結果を、図2(d)に示す。XPS測定によってもカルシウムに特徴的なピークが検出されないことがわかった。また、比較例4の歯科矯正用アンカースクリューに酸処理を行い、カルシウム濃度を誘導結合プラズマ質量分析計で測定したところ、カルシウムは検出されなかった。
[実験動物を用いた歯科矯正用アンカースクリューの有効性評価]
次に、比較例4の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、10.5mN・mであった。最大植立トルクは実施例1とほぼ同じ値であり、比較例1および比較例2よりは著しく大きいことがわかった。また、最大植立トルクは表面形態に大きく依存し、(1)酸エッチング工程によってスクリュー表面に凹凸を付与することは、当初より荷重が負荷される歯科矯正用アンカースクリューにとって必須であることがわかった。
次に、比較例4の歯科矯正用アンカースクリューの有効性を、実験動物を用いて実施例1と同様に評価した。図3に示すように、最大植立トルク値は、10.5mN・mであった。最大植立トルクは実施例1とほぼ同じ値であり、比較例1および比較例2よりは著しく大きいことがわかった。また、最大植立トルクは表面形態に大きく依存し、(1)酸エッチング工程によってスクリュー表面に凹凸を付与することは、当初より荷重が負荷される歯科矯正用アンカースクリューにとって必須であることがわかった。
図3に示すように、比較例4の歯科矯正用アンカースクリュー植立7日後および28日後の最大撤去トルク値はそれぞれ8mN・m、および19mN・mであった。植立28日の最大撤去トルク値は、ほぼ実施例1の値と同じであるが、植立7日後の最大撤去トルク値は、実施例1の値の半分の値であり、著しく小さいことがわかった。しかしながら、比較例1および2と比較すると、植立7日後の最大撤去トルク値も大きな値であり、(1)酸エッチング工程は歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合に有効であることがわかった。
水酸基形成工程が施されていない比較例4の歯科矯正用アンカースクリューの場合、最大植立トルク値が10.5mN・mであるのに対して、植立7日後の最大抜去トルク値は8mN・mであり、トルク値が低下していることがわかった。
植立28日後に撤去した比較例4の歯科矯正用アンカースクリューをアリザリンレッドS染色し、表面の付着物の観察を行ったところ、付着物が橙色に染色された。このことから、付着物が骨であることがわかった。図4に示すように、誘導結合プラズマ質量分析計で測定した付着物のカルシウム量は5.0μgであり、実施例1の歯科矯正用アンカースクリューの値に比較して小さいことがわかった。
植立28日後に撤去した比較例4の歯科矯正用アンカースクリューを走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図5(d)および(i)に示す。図5(d)に示す弱拡大像は、高精細顕微鏡デジタルカメラによる観察像とほぼ同様であった。また、図5(d)、(i)に示す走査型電子顕微鏡像から、骨がスクリュー表面に形成されていることがわかった。形成量は比較例1および比較例2と比較すると顕著に多いが、実施例1と比較すると限定的であることがわかった。
図6に示すように、植立28日目の歯科矯正用アンカースクリューの骨内におけるペリオテスト値は、11であった。この値は、実施例1の場合に得られたペリオテスト値である7と比較して大きく、比較例4で製造した歯科矯正用アンカースクリューの骨内動揺は、実施例1より大きいことがわかった。
歯科矯正用アンカースクリューは、植立当初から荷重が負荷されるという、他のチタン製インプラントデバイスとは異なる特異な使用方法で歯科矯正治療に用いられる。そのため、植立当初より骨との結合力が高いことが必要とされる。また、動揺や脱落、感染、破折などを防止するために、植立時における歯科矯正用アンカースクリューと骨との結合が低下しないことが極めて有用である。
比較例1で製造した(1)酸エッチング工程も(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程も経ていない歯科矯正用アンカースクリューは、植立トルク(8mN・m)も植立7日後撤去トルク(6mN・m)も植立28日後撤去トルク(9mN・m)も小さい。
比較例2で製造した(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程のみを施し、(1)酸エッチング工程を施していない歯科矯正用アンカースクリューは、植立トルク(8mN・m)は比較例1と同様に小さく、植立7日後撤去トルク(8.5mN・m)および植立28日後撤去トルク(11mN・m)は、比較例1よりは大きいものの小さい。
比較例3で製造した(1)酸エッチング工程のみを施し、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程を施していない歯科矯正用アンカースクリューは、植立トルク(10.5mN・m)は大きいが、植立7日後撤去トルク(8mN・m)は植立トルクより小さくなっている。しかし、植立28日後撤去トルク(19mN・m)は大きい。なお、植立7日目の撤去トルクが植立トルクより小さくなっており、この現象は比較例1でも認められている。これは、骨の修復過程初期において、マクロファージが歯科矯正用アンカースクリュー周囲の骨を貪食した結果起こる現象であると考えられる。
実施例1で製造した(1)酸エッチング工程と、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程の両者を施した歯科矯正用アンカースクリューは、植立トルク(11mN・m)も、植立7日後撤去トルク(16mN・m)も、植立28日後撤去トルク(20mN・m)も大きい。また、植立7日後撤去トルクは植立トルクより大きい。この現象は比較例2でも認められている。実施例1および比較例1においても、骨の修復過程初期においてはマクロファージが活性化される。しかしながら、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程とを施した歯科矯正用アンカースクリューの場合は、マクロファージによる歯科矯正用アンカースクリュー周囲骨の過度な貪食が抑制された結果と考えることができる。
歯科矯正用アンカースクリューの撤去トルクに及ぼすマクロファージの詳細は不明であるが、いずれにしても、(1)酸エッチング工程と、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程の両者を施した歯科矯正用アンカースクリューが、初期から骨との結合力に優れた歯科矯正用アンカースクリューであり、(1)酸エッチング工程、あるいは、(2)水酸基形成工程とカルシウム修飾工程のどちらか一つを施した歯科矯正用アンカースクリューの骨との結合は限定的であることがわかった。
Claims (11)
- チタンを含む素材から成る部材本体の表面に凹凸を形成する粗面形成工程と、
前記凹凸が形成された前記部材本体の表面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、
前記水酸基形成工程と同時、または前記水酸基形成工程の後、前記部材本体の表面にカルシウムを修飾させるカルシウム修飾工程とを、
有することを特徴とするインプラント用デバイスの製造方法。 - 前記粗面形成工程は、前記部材本体を酸性水溶液に浸漬する酸エッチング処理により、前記部材本体の表面に凹凸を形成することを特徴とする請求項1記載のインプラント用デバイスの製造方法。
- 前記粗面形成工程は、前記部材本体の表面粗さRaが2μm以上になるよう、前記部材本体の表面に凹凸を形成することを特徴とする請求項1または2記載のインプラント用デバイスの製造方法。
- 前記水酸基形成工程は、前記部材本体を気相中または溶媒中でオゾンに暴露することにより、前記部材本体の表面に水酸基を形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインプラント用デバイスの製造方法。
- 前記部材本体の表面に修飾するカルシウム量が、30μm以下の凹凸を平面として測定した見かけの1平方センチメートルあたり1μg以上となるよう、または、
12kV、6mAで加速させた単色化AlKa線を用いて、前記部材本体の表面のX線光電子分光測定を行い、パスエナジー100eV、スポットサイズ400μm、スキャン数5回の条件で得られたX線光電子分光スペクトルの横軸をeV、縦軸をcpsとしてプロットしたとき、340〜360eVの間に観測されるカルシウムピークのベースラインを基準としたカルシウムピーク面積が、500 eV・cps以上となるよう、または、
前記カルシウムピーク面積、450〜475eVの間に観測されるチタンピーク面積および525〜540eVの間に観測される酸素ピーク面積から、相対感度補正と運動エネルギー補正と装置の応答関数とに基づいて、チタン、酸素およびカルシウムの量を計算し、チタン、酸素およびカルシウムの合計が100原子組成パーセントとなるように規格化した値におけるカルシウムの元素組成パーセントが、0.3以上となるよう、
前記カルシウム修飾工程を行うことを、特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインプラント用デバイスの製造方法。 - 前記カルシウム修飾工程は、水溶性カルシウムを含む液体中に前記部材本体を浸漬することにより、前記部材本体の表面にカルシウムを修飾させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインプラント用デバイスの製造方法。
- 前記水酸基形成工程および前記カルシウム修飾工程は、前記水溶性カルシウムを含む液体中にあらかじめオゾンガスを溶存させておき、その液体中に前記部材本体を浸漬することにより、前記部材本体の表面に水酸基を形成するとともにカルシウムを修飾させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインプラント用デバイスの製造方法。
- 歯科矯正用アンカースクリューを製造することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプラント用デバイスの製造方法。
- 請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインプラント用デバイスの製造方法により製造されたことを特徴とするインプラント用デバイス。
- チタンを含む素材から成り、
表面の表面粗さRaが2μm以上であり、
前記表面にカルシウムが修飾されており、
前記表面に修飾されたカルシウム量が、30μm以下の凹凸を平面として測定した見かけの1平方センチメートルあたり1μg以上となること、または、
12kV、6mAで加速させた単色化AlKa線を用いて、前記部材本体の表面のX線光電子分光測定を行い、パスエナジー100eV、スポットサイズ400μm、スキャン数5回の条件で得られたX線光電子分光スペクトルの横軸をeV、縦軸をcpsとしてプロットしたとき、340〜360eVの間に観測されるカルシウムピークのベースラインを基準としたカルシウムピーク面積が、500 eV・cps以上となること、または、
前記カルシウムピーク面積、450〜475eVの間に観測されるチタンピーク面積および525〜540eVの間に観測される酸素ピーク面積から、相対感度補正と運動エネルギー補正と装置の応答関数とに基づいて、チタン、酸素およびカルシウムの量を計算し、チタン、酸素およびカルシウムの合計が100原子組成パーセントとなるように規格化した値におけるカルシウムの元素組成パーセントが、0.3以上となることを
特徴とするインプラント用デバイス。 - スクリューの進行方向長さが13mm以下、直径が3mm以下の歯科矯正用アンカースクリューから成ることを特徴とする請求項9または10記載のインプラント用デバイス。
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