抄紙機で生成された紙ウェブなどの長尺シート材は、リールスプールに巻き取られる。金属シートやプラスチックフィルムなど原料が一様になっているウェブと違い、紙ウェブは原料であるセルロースファイバー、それらを繋いだり強度を上げたり光散乱を起こす填料と水分が混在しており、紙の断面図を見ると空隙部分もかなり大きい(図1参照)。紙の販売は主に重量にて売買される為、殆どの抄紙機にはQCS(Quality Control System;品質計測制御システム)が使用され、品質を計測するセンサとして放射線源を用いた坪量センサ・赤外線を用いた水分率センサ・エックス線を用いた灰分センサが使用される。他の長尺シート材が厚み管理であるのに対して紙ウェブの計測が様々なセンサを使用するのは、中でも水分と言う、シート状に形成された後も自由に紙ウェブから出入りすることができる要素があるからであり、これが計測と品質制御を難しくしていると言える。
紙の幅が1m から10m、製造速度が毎分数m から 2000m にもなる様々な銘柄の紙を製造する抄紙機において、品質パラメータを計測するセンサは、ほとんど全てがスキャナーと呼ばれる装置に搭載されたセンサヘッドに収納され、紙の重さ(坪量)、水分、厚み(キャリパー)、灰分などを計測する。図2の一般的な抄紙機や特許文献1に記載の抄紙機のように、紙ウェブのスキャニングセンサはリールの直前におかれ、製造の管理基準として使われている。プロセスによっては紙の表面に塗工する前にもスキャニングセンサを装備することもある。これらの紙の品質パラメータは制御が可能であり、坪量・水分・灰分は流れ方向(紙の幅と直交する、リールに向かう方向)制御がなされ、坪量・水分・厚みは幅方向プロファイル(紙の幅方向に沿った凹凸または平らさ)制御がなされる。
図6(a)は、既存の品質計測制御システム(QCSと言う)でほぼすべてに搭載される、紙ウェブWの重量を計測する坪量センサの概略を示す。坪量センサはソースにβ線源(放射性同位元素)を使用し、質量によって吸収されるβ線の減衰を計測して予め基準サンプルでキャリブレーションした検量線と比較して、レシーバ(電離箱)で捉えたβ線の透過信号と紙ウェブWが無い時の信号の比率から逆算して紙ウェブWの重量を計測する。
上記β線の減衰は、図6(b)に示すようにベールの法則による坪量減衰曲線に従い、次の式が成り立つ。
(数1)
I=I0*e−μ*t
ここで、I:透過信号量、I0:入射信号量、μ:吸収係数、t:質量(厚み)である。
これらの計測値に基づく品質パラメータの制御は、アクチュエータと呼ばれる機器により行われる。一般に、流れ方向の制御は種口弁制御で投入するセルロースファイバーの濃度を調節し、水分はドライヤーの蒸気圧力制御で乾燥状態を制御する。幅方向については、坪量は希釈水でヘッドボックスから吐出されるときの濃度を調整し(例えば図2の希釈水アクチュエータ)、水分は加水又は加湿及びスチームによる加熱乾燥・赤外線による乾燥などにより制御し、厚み(キャリパー)はキャレンダーのロールを加熱又は冷却してロール径を変化させキャレンダーでの圧力を変化させることで目標値に向けて制御される。
図3は、スキャナーのセンサヘッドが、紙ウェブの上をスキャンしてサンプリング計測する様子を示す。このスキャニングによるサンプリング法では、紙の地合いと称される数ミリサイズの紙の構成変動要素や、幅方向にランダムに発生する洗浄不良や蛇行収縮などによる品質パラメータ計測位置の変動、及び高速で回転する抄紙機の用具即ち、ワイヤー、プレスロール、フェルト、カンヴァス(図示せず)など数mから数十mで回転する用具の不良による品質パラメータの変動は、ノイズ(外乱)として計測され、フィルタリングと言う計測値を鈍らせる手法にて除かれ、計測代表値が算出される。その加工されたデータで紙の全幅の平均測定値や幅方向のプロファイルが表され、制御の目標値との差が計算され、アクチュエータと呼ばれる装置を使い品質パラメータが制御・是正される。
図8には、紙の最大の特徴である地合いと言う紙の凹凸(重量バラツキ)の写真と、既存の水分センサの概念図を示す。813は紙ウェブW上を走行する(スキャンする)センサのサンプリング軌跡を表し一つの点は10mmφのスポットで1m秒毎の計測とする。地合いとは801のようにファイバーがかたまり厚くなったところと802のように薄くなったところが交互にムラになった状態を言い、センサのスポットサイズに近いものもある。この重量比は大きいと十数パーセントになり、サンプリング方式の1点の計測の致命的なエラーを引き起こす。その為に既存の水分計では、(b)の807のような散乱反射板を用いた無限散乱法及び(c)の810のような積分球型散乱法などが用いられる。それぞれ808,812は光源のハロゲンランプであり、803,804,805,809は受光素子である。(b)は、806のようなビームスプリッターを用いて受光素子前にバンドパスフィルターを使い、3波長同時計測をしている。(c)は光源側に回転フィルター810を回して3波長を一つの受光素子で計測する。同時刻同一スポットで3受光素子の機差最小を計るか、同時刻ではないが受光素子の安定化を図るかの違いである。
図4に、スキャン型センサではフィルタリングされデータとしては残されないスキャン突発変動及びマシン(抄紙機)用具由来の短周期繰り返し変動とフィルタリングされた後もデータとして残る定位置連続変動の紙ウェブ上での現れ方を示す。点線は、スキャナーのセンサヘッドがスキャンした軌跡を示しており、高速マシン(抄紙機)では片道で数100メートルの軌跡となる。図中のa,c点は定位置連続変動の中でセンサヘッドのセンサ(図示せず)に常に計測される点であり、b,d点は繰り返し変動で常に紙の中に存在するもののスキャンするセンサの計測位置が変わる為フィルターで除去される変動となり計測されない。又、当然突発変動はセンサに計測される確率が小さく、繰り返し変動と同様に計測されてもスパイク変動としてフィルターされる。センサに計測される定位置連続変動も、図3に示すように同一点の計測間隔が変化する上に流れ方向変動が加わる為に以下に説明するようにフィルタリングしなければならない。
図5は、スパイク変動計測に抑制をかけ、幅方向と流れ方向のエラーを分離計測する為に、フィルタリングを行った場合のステップ応答がどのように表れるかを、ムービングアベレージ法とイクポーネンシャルフィルター法で表したものである。通常はイクスポーネンシャルフィルターが使用され、抑制値は0.2が多く用いられる。横軸のサンプル数はスキャン回数(横断回数)を示し、1スキャンは約20秒から30秒である。ステップ応答はスキャンしないで計測したときの応答である。ステップ応答をみると90%応答を得るのには10スキャンほど(数分)要することになり、可制御性は著しく失われる。また、マシン用具由来の高速エラーはたとえ繰り返し起こっていても計測率0.17%からしてランダムノイズとしてフィルターで除去され観察することはできない。
このように、スキャンニング方式では、センサヘッドが紙ウェブの幅を横断するのに数十秒以上を要し、計測値のフィルタリングなどの時間を含めると可制御性は数分から十数分かかることになり、抄紙機用具のように高速に回転する用具によるエラーは計測できない。
これを解決すべく、特許文献2のように、紙ウェブの全幅を一度に計測できる、赤外線カメラによる非スキャン方式でのファイバー測定や水分測定が試みられた。この赤外線カメラ方式は、InGaAs赤外線リニアアレイ(ラインセンサ)を使用したもので、計測原理はスキャン方式と同様に水分吸収波長、セルロースファイバー吸収波長、どちらにも吸収されない比較波長の3波長を使って重量を導き出す方式である。光源(ハロゲンランプ)から照射された赤外線は、計測対象である紙ウェブを透過して赤外線ラインカメラに入るのだが、赤外線ラインカメラは複数用意されており、ビームスプリッターで分けられた赤外線はそれぞれのカメラに分けられる。この事は、地合いと呼ばれる紙ウェブの数mmから十数mmに及ぶファイバーの塊分布とその重量比が数%に及ぶ為に生じる測定点による誤差を無くすための一般的な方法であり、同一点同一時刻測定と呼ばれる。意図したことは、高速な計測による素早い品質パラメータ制御を行い、紙の品質向上及び製造工程でのエネルギー損失を最小化する事であり、目的にかなった方式であった。
上述したとおり図2や特許文献1に記載の抄紙機では、これらの計測値は高速で走る紙を走査して斜め横断して計測する為に、幅方向成分と流れ方向成分の両方を含む計測値となり(図3、図4参照)、その成分を分けるために計測値に重いフィルターが掛けられている(図5参照)。それゆえオペレータが品質パラメータの制御のためにマシンの調整をしたときに、十数分待たなければ結果が見られないと言う大きな欠点がある。
また、巻き取られた製品(紙)は厚いものから薄いものまで長さ数千メートルから数万メートルまであり、通常は1時間前後で1本が生産される。この時、各巻取ロールの品質パラメータの計測平均値を比べれば比較的少ない誤差範囲に入っており一見良好な計測制御がなされているように思われるが、一本の巻取ロール数万メートルの中では通常で±1%から数%の変動が含まれており、実際にユーザーが使用する例えばコピー用紙レベル(枚葉と言う)の小さい単位で見れば良い制御結果であるとは言い難い。結果として印刷機やコピーマシンで紙詰まりや紙切れを起こすことになる。
さらに、現状では紙の品質計測制御にはQCS(Quality Control System)と言われるシステムが通常使用されるが、基本パラメータである坪量(g/m2)の計測にはKr85、Pm147などの放射線源(β線)が必要であり、それを使用する許可と放射線管理者が必要になる。β線は全ての質量に吸収されるので空気も例外ではなく、ソースとレシーバ間のギャップ距離と空気の各ゾーン温度を計測して空気層重量を計算して補正している。計測時間はおよそ1ミリ秒毎サンプリングが主流であり、計測スポットサイズは10mmφ程度である。計測時間と共にソースとレシーバ間に積層するダートを補正する為の基準サンプルなどを内蔵していて(図6参照)、定期的にオフシート状態の位置までセンサを移動させ、シャッターを開閉させオープンカウント、クローズドカウント、内部基準サンプルカウントの少なくとも3点計測をして、キャリブレーション時の減衰曲線とのずれを補正する。これを標準化と言い、数十分に一回行う。ティッシュなどのダートの多いところでは頻繁に行われ、ギャップ内に紙粉が入り込むのを防ぐ手立てなども必要となる。この空気の重量をどう補正するかが既存計測装置の問題点でもある。このようにβ線源を用いた計測には様々な補正が必要となり、精度を保つためのメンテナンスも多大な負荷である。従って、中小企業の小さな抄紙機では未だにそのような計測制御はなされていないことも現状である。また、ごく薄いティッシュペーパーや逆に厚い板紙では、これらβ線源の補正の限界や水分量の把握の難しさから状態監視に目的が移り、絶対値計測制御と言うにはほど遠い状態である。
上記のように現在使われている計測方法は、全てスキャナー搭載のセンサの逐次サンプリング計測であり、この方法ではウェブの流れ方向変動及び幅方向変動要素が計測値に含まれる。又、1ミリ秒の計測時間と言う短い間にあっても、例えばウェブを横断するのに6m 幅の抄紙機では20−30秒掛かり、分速1000mを超える抄紙機ではウェブの0.2%以下しか計測をしていない。
上記した外乱を鈍らせるためのフィルタリングにより、短周期の外乱すなわち抄紙機用具による変動は、フィルターされてオペレータには見えなくなり、結果的にはかなり長周期の巻取レベルでの平均値が目標値にあれば良いと言う事になる。この事は、計測値の誤差がどこから生じているかを判定せずに、外部機器で強制的に紙に負荷を与えつつ仕上がりの辻褄だけを合わせることになっており、ある時は他のセンサへの外乱となりフィードバック制御の理論上悪影響を与えている。この事は現状の計測技術上致し方なく、おそらく誤差の原因が抄紙機用具の不良、つまり洗浄の不具合やロールの偏芯、偏りなどから来るとしてもフィルターされてその高速な計測が不可能な故に起こるのである。
特許文献2に記載の赤外線カメラによる手法は、これらスキャンニング手法による計測制御の問題点を根底から変える、非スキャン方式による全幅計測を取ったことである。しかしながら、スキャニングセンサと違い固定センサの宿命として、オンラインから(紙ウェブの外側にセンサを移動させて)オフラインにして精度を保つための校正が出来ないと言う欠点があり、精度を保つことができなかった。この方法単独では既存のシステムに取って代わることができないが、センサの精度について改善し欠点であった精度の向上が図れれば、この問題を解決に導くことができるうえに、大きな経済効果と品質向上又、製造技術・操業技術の転換が図られることになる。
本発明は、特許文献2に記載の赤外線カメラ方式を改良して、既存システムのようなスキャニング型逐次サンプリングをしないで、流れ方向成分と幅方向成分とを分離して紙の品質パラメータを計測し、従来の放射線(β線)やエックス線を必要としない、非スキャン、非フィルタリング方式で、小さな抄紙機にも適用が可能であり、精度が向上した、経済効果の高い長尺シート材の品質計測方法および品質計測装置を提供することを目的とする。
併せて、現在紙の裏側の文字が透けて見えないようにするために投入している灰分(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレイなど)を計測する灰分センサを本来の目的である光の裏抜け度センサとして考え、光学的な計測による新しい品質計測方法及び、非スキャン方式故に成しえる現在の制御方法の改善法なども提供することを目的とする。
本発明に係る長尺シート材の品質計測方法は、赤外線カメラに対して、紙の品質測定に必要な波長の赤外線LED光源を長尺シート材の反対側に配して、長尺シート材に含まれる下記の測定対象物に吸収され減衰した透過光量と対象物に吸収されない比較の為の近傍の波長の透過光量とを測定して、その対象物の重量を、予めキャリブレーションしてえられた計測式より得る方法である。測定対象物としては、紙の主成分であるセルロース、水分の他、赤外線吸収法で通常計測される填料・レジン・バインダー・シリコンなどコーティングされる物質も含む。
尚、プラスチックフィルムなどの例えばPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエステル)などのフィルムとコーティング剤の計測にも応用できる。
本発明では、受光部たる赤外線カメラにはInGaAsエリアセンサを使い、光源はそれぞれの吸収波長帯域に合わせた赤外LED光源を必要なチャンネル数用意する(例えば図7参照)。例として、水分とファイバー測定用には特許文献2が示すような1.45μ、1.57μ、1.3μなどの光源を、紙ウェブ上で影響されない(互いに干渉しない)程度に流れ方向に離して配置する。これにより、同一点同一時刻測定はオフセットを持たせた測定で達成可能になりまた、紙ウェブの地合いの分布を考慮して十分な平均化を行えば、現在のサンプリング方式では達成できない細かいノイズを除去できる。
本発明に係る長尺シート材の品質計測方法は、赤外線カメラと赤外線光源とを長尺シート材に対して同じ側に配して、透過光量ではなく反射光量を計測してもよく、例えば厚い板紙などの水分値計測に使用される他、表面の塗工量計測などに使用する(例えば図12参照)。この方式はウェブ全体のほとんどを占めるファイバーの測定などには使えないが、そのファイバーに絡んだ例えば水分率や塗工層の厚み/重量など比較波長に対する吸収波長の減衰率で測定を行う。先行技術としての反射型水分計と同じ原理で測定するが、スキャンしないで赤外線エリアセンサと赤外線LEDを使うものである。
上述した赤外線カメラについてはエリアセンサを使い、波長毎に赤外線LEDを光源とすると述べたが、赤外線LED光源の使い方について述べる。特許文献2のラインセンサを使う方法では、紙ウェブ表面に焦点を合わせたカメラはウェブの中で散乱・吸収・反射を経て透過してきた光を計測する。カメラから見て表面からカメラに入射する光は紙ウェブのファイバー量や水分量などにより減衰されており、それはベールの法則(数1)に従う。ラインセンサはウェブ上の光の帯内のほぼ中心にラインセンサの計測点が来るように配置するが、ラインセンサのデバイスの大きさに合わせて、紙に照射する光の帯の幅は紙のフラッタリング(巻き取られる紙ウェブが波打つこと)などの影響で帯から計測点が外れないような幅に設計しなければならない。透過型の場合、光源と受光部を紙面に対して直角にすれば距離の違いだけで済むが、反射型の場合は同一垂線上に置くことができない為にフラッタリングにより観察面が変化する。一方、エリアセンサは透過してきた光量全てを拾うため、このような影響は最小限となる。例えば光源の大きさが20mmφであるとしてもエリアセンサで受ける面の大きさは50mmφ以上に設計される。
本発明に係る光源と受光部(カメラ)の配置関係は上記したとおりであるが、光源のLED球の配置及び照射の方法について述べる。LED光源としての使い方(1)は、LED球に直接レンズが付くタイプ又は砲台型LED球の上にシリンドリカルレンズを配して光を収束させ計測面にて十分な光束が得られるようにすることである。これはあたかも通常の坪量センサの放射線源から照射されたβ線ビームのように働き、紙ウェブを通過後に電離箱と同様にエリアセンサにて透過後の光を全て捉えることである。この場合は坪量あるいは赤外線重量センサが紙ウェブの全面に多数配してあるイメージである。
LED光源としての使い方(2)は、シリンドリカルレンズで流れ方向に収束した光を特殊フィルムにて幅方向にだけ拡散させる方法で、あたかも一本の光の帯のようにすることで、幅方向分割(分割された区画ごとに計測値を取る)はソフトウェアにてカメラ視野内の任意の範囲で分割する方法である(図10参照)。この光源の利点はLED球の境界がなくなることであり、のちに説明する紙ウェブの収縮率などの測定精度が増す。実用的には10mm〜20mmの線状光源にして最小スライス(分割幅)を10mmとしたミニスライスや65mmなどの制御アクチュエータに合わせたスライスにする。
本発明の長尺シート材の品質計測方法は、赤外線カメラ(一般的にはInGaAsを使用する近赤外線波長帯域であるがその他のデバイスでも構わない)と赤外線LED光源を使用し受光部をエリアセンサにして発光部に測定対象物で吸収される狭帯域なLED光源を用意して、受光素子側にバンドパスフィルターなどを持たせずに捉えたフォトンの総数を計測して、予めキャリブレーションした数式により重量に変換する方法である。通常のスキャン型のサンプリング方式赤外線水分計や坪量計と原理は同じであるが、全幅に渡り標準サンプルを使い各スライス毎(あるいはLED球毎)にオフラインで計測・キャリブレーションをしている所が大きく異なる。当然ながら赤外線LEDの発光強度や受光素子のピクセル単位の特性が違うので、計測範囲毎の計測演算式が必要である。キャリブレーション時には、カメラ側の暗電流計測や吸収されない疑似サンプル例えば合成紙やアラミド紙など、散乱するがセルロース吸収が起きないもので最大強度などを計測して、標準サンプルとなすことができる。これは上記した坪量計での放射線源のシャッター開状態(オープンカウント)とシャッター閉状態(クローズドカウント)に相当する。これらはオフライン状態の基準値(タイムゼロカウント)となる。又、キャリブレーションは既存システムと同様に、必要な銘柄毎に用意した実サンプルを実際の紙ウェブのパスライン上に設け、満遍なく十分な平均値を得る為にスキャンさせ、各赤外線チャンネルの信号=フォトン数を計測する。仮に照射面積を10mm2として1ピクセルが観測するエリアを1mm2とすれば100ピクセル分あり、各ピクセルは1024諧調以上持てるので総カウント数は0〜102,400の範囲になり13Bit ADCより分解能が良い。
このタイムゼロのキャリブレーション時のカメラ(受光素子)、サンプル(紙ウェブ)、赤外線LED(発光素子)の関係から、紙ウェブ中のファイバー重量、水分重量などを逆計算する計測用の演算式が得られる。同時に、タイムゼロとのバランスの違いを見つけて光源エラー、カメラ素子エラー、その他オンラインエラー(運転中の抄紙機に起因するエラー)などを見つけ出し、オンライン補正すべき誤差、例えば全体の光源の汚れによる光量減衰などと、各LED、カメラの故障などによる部分減衰などを区別する。
キャリブレーションは、目的に応じて決められたスライス幅で全幅に渡り、標準サンプル(どの波長にも吸収されない疑似紙サンプル)、実際に製造される銘柄毎の実サンプル(ファイバー重量、水分重量及び灰分率)それぞれについて行う。サンプルを全幅でスキャンさせて計測する為の装置や地合いに左右されない満遍なく平均化する方法を取ることが肝要である。このキャリブレーションをする装置は図に示さないが、紙ウェブの通過するパスラインを全幅に渡り走査して計測する装置で、オンライン時は枠替え時などに光源をクリーニングする機能を持ち合わせる。サンプルフォルダーは、両端パスライン上で実サンプルや標準サンプルをオンライン時に計測できるように配置する。
キャリブレーションされた各スライス(例えば10mm毎)のデータは、紙ウェブを透過して表面から放出された光量を計測して、受光素子からの距離をノーマライズして(中央値を1として距離の2乗に反比例するものとして計算)換算する。サンプルの重量が分かっているので銘柄毎の目標値を挟んだ複数枚のデータを取り数式に当てはめてベールの法則に従って求める重量に換算する。このキャリブレーション法は既存システムと何ら変わらないが、カメラの視野による距離の違いと受光素子のピクセル毎の特徴の違い、灰分率の違いなど、サンプルの扱いなどに注意が必要である。
本発明の重要な点は、カメラ内部素子のInGaAsエリアセンサのピクセル毎の感度やディバイスサイズ差、発光部のLED強度差、波長帯域パターン差(例えば半値幅)などの様々な要素を取り込んでキャリブレーションすることであり、決められたスライス幅ではこれらの差は繰り返し精度があることが前提である。カメラ全体の計測値シフト(暗電流地の変動)、光源上のダストによる光量減衰、光源の電源変動による光量変動などは、スライス単位ではなくカメラ全体あるいはシステム全体に現れる為、補正あるいはアラームとして補正ないしは異常として計測対象外とすることができる。
次に重要なのは、オンラインでの自動校正あるいはそれに準じた形としてのセンサの状態の把握であり、必要に応じた補正を施すことである。既存のスキャニングセンサは一定時間毎にオフライン位置にセンサヘッドを動かして、先に述べたオープンカウント、クローズドカウント、標準サンプル計測をしてセンサの発光側と受光側の間のタイムゼロ時との計測差を補正する。計測差はソースとレシーバ間のダート付着、ソース側光源の時経年変化、周囲温度、熱歪みによるギャップ変化など様々な要素からなり、センサ精度を保つために必要不可欠なもので数十分に一回行う。ティッシュマシンなどダート量の多いプロセスでは頻繁に行う必要がありただでさえ少ない計測比率がそこでまた落ちることになる。
特許文献2のラインセンサを使ったシステムにはこの自動校正について記述がなく、実際、精度が保てなかったと思われる。先にあげた要素のうち光源にハロゲンランプを使っているのがある意味致命的である。ハロゲンランプの寿命は2-3か月であり、抄紙機は通常数週間は停止しないのでタイムゼロのキャリブレーション時との誤差はかなり大きくなる。本発明が赤外線LEDを光源にしているのは、寿命が数年と長い為であり又半導体ゆえの繰り返し精度の安定性があるからである。カメラを使い全幅測定に必要なのは、オフラインの機会が無い為にどうすれば自動校正に準じたカメラと光源間の状態チェックが可能であるかに掛かっていると言える。
本発明の先行技術に対する改良点は、この光源の安定性と長寿命を赤外線LEDにて達成することであり、自動校正が必要になるうちの光源側の問題を解決したことである。さらに、ソース(光源)とレシーバ(カメラ)の状態チェックについては、隣接するカメラのオーバーラップエリアでの計測値の比較をすることで可能となり、ダートやその他のオンラインにおける影響は、シートから外れた視野内で実際のサンプルや標準サンプルを計測比較することで、必要な補正係数を得ることができる。こうして、カメラと光源をオフラインの位置に持っていくことなく、自動校正に準拠してタイムゼロとの変化を知ることができる。
本発明にかかる長尺シート材の品質計測方法は、巻取機に向かって流れている長尺シート材の品質パラメータを、当該長尺シート材に照射する赤外線光源と、当該長尺シート材を経由した赤外線を受光する赤外線カメラとを用いて計測する長尺シート材の品質パラメータ計測方法において、当該赤外線光源と当該赤外線カメラとを用いて、当該長尺シート材の全幅を同時に計測するとともに、オンラインで当該赤外線光源と赤外線カメラとの状態を把握し、その状態に基づいてオンラインで計測値を補正することを特徴とする。ここでいう「赤外線」には「近赤外線」も含む。また「経由」とは、透過または反射をいい、透過の際の、長尺シート材内部における散乱、反射も含む。
この品質パラメータ計測方法によれば、抄紙機などで巻き取られる長尺シート材の全幅を同時に計測するので、長尺シート材のほぼ100%をカバーするように品質パラメータを計測でき、品質パラメータの変動の原因を判断しやすい。長尺シート材の全幅をカバーするために、複数の赤外線光源と赤外線カメラをそれぞれ幅方向に並べてもよい。得られた計測値は、流れ方向の変動と幅方向の変動とが分離しているので、フィルタリングする必要がなく、品質パラメータの変動の原因除去を迅速に、適切に行うことにつながる。さらに、オンラインで当該赤外線光源と赤外線カメラとの状態を把握し、その状態に基づいてオンラインで計測値を補正するので、計測値の精度が高められ、その結果として長尺シート材の品質が向上する。
発明に係る長尺シート材の品質パラメータ計測方法は、上記の赤外線カメラを長尺シート材の幅方向に複数配置し、隣り合う赤外線カメラの視野同士をオーバーラップさせ、上記の長尺シート材の同一箇所からそれぞれのカメラで得られた計測値の差異を取得することにより、各カメラの計測値にその差異を加えることを特徴とする。
この計測方法では、全幅を同時に計測するために使用する複数のカメラによる計測値の整合性は、隣り合う赤外線カメラの視野同士が重なったオーバーラップエリアでの計測値の比較をすることで確認できる。比較した結果に基づいて差異の確認されたカメラの計測値にその差異を加えるので、複数のカメラで計測しても品質パラメータの計測精度が維持できる。また、それぞれのカメラの視野の50%をオーバーラップさせると、1台のカメラが故障しても隣接するカメラによりバックアップが可能である。
発明に係る長尺シート材の品質パラメータ計測方法は、上記の長尺シート材の近傍に比較用サンプルを設置し、当該長尺シート材と比較用サンプルとに同一の上記赤外線光源から赤外線を照射し、当該長尺シート材と比較用サンプルとをそれぞれ経由した赤外線を、同一の上記赤外線カメラで同時に計測することにより、当該長尺シート材の全幅を同時に測定して得られた計測値の校正と補正を行うことを特徴とする。ここでいう「校正」とは、比較用サンプルと紙ウェブの計測値を比較して差異を取得することをいい、「補正」とは、紙ウェブの計測値にその差異を加えることをいう。比較用サンプルには、実際に製造される銘柄ごとの実サンプルのほかに、例えば水分吸収波長が吸収されない疑似紙やどの波長も吸収されない疑似紙などを用いた標準サンプルを含む。
この計測方法によれば、長尺シート材から外れた視野内で長尺シート材と同時に実サンプルや標準サンプルを同一のカメラで計測し、それぞれの計測値を比較することで、必要な補正係数を得ることができる。上記したように紙ウェブの全幅に配置された複数のカメラの整合性がとれるうえ、長尺シート材の品質パラメータ計測と同時に比較用サンプルの品質パラメータ計測も行うことにより、オンラインで(抄紙機を停止させずに)光源とカメラの状態を確認し、その結果に従い計測値を校正して補正を加えることができる。従って、品質パラメータの変動以外のことに起因する計測値変動を除去でき、製品の品質向上につながる。
発明に係る長尺シート材の品質パラメータ計測方法は、上記の赤外線カメラとして、赤外線エリアカメラを用いるとよい。赤外線カメラの視野がラインではなくエリアをカバーするので、長尺シート材のフラッタリングによる観察面の変化が生じても、透過・反射してきた赤外線全てを拾える。
発明に係る長尺シート材の品質パラメータ計測方法は、それぞれ異なる波長の赤外線を照射する複数の赤外線光源を長尺シート材の流れ方向に配置し、上記の長尺シート材を経由した当該赤外線を同一の上記赤外線カメラで同一時刻に計測することを特徴とする。波長の異なる赤外線光源同士は、互いの照射エリアには干渉しないように、最小限(例えば50mm)の間隔をあけて配置する。
この計測方法によれば、計測に必要なチャンネル数と波長を選択することにより、オフセットを持たせた測定で、同一点同一時刻での複数の品質パラメータ計測が可能になる(例えばファイバー吸収波長、吸収されない波長、水分吸収波長、反射方向からの比較波長等)。
発明に係る長尺シート材の品質パラメータ計測方法は、上記の赤外線光源から照射されて長尺シート材を経由した透過赤外線と反射赤外線とを、上記の赤外線カメラで受光し、受光した透過赤外線量と反射赤外線量とから得られた透過率から当該長尺シート材の光散乱度を測定することを特徴とする。「光散乱度」とは、紙の光透過性に関する品質である「光の裏抜け度合い」をいう。
この計測方法によれば、従来行っていた灰分量の計測をしなくても、他の品質パラメータ計測に用いる光源とカメラのみで光散乱度が測定できる。別途計測機器を用意する必要がないうえ、従来必要としていた放射線(坪量計)・エックス線(灰分量計)も使用しなくてすむ。
発明に係る長尺シート材の品質制御方法は、上記の計測方法により求めた光散乱度から、透過赤外線量の減衰がファイバーによるものか灰分によるものかを判定して、ファイバー量・水分量などの品質パラメータの光経路長に関する補正ないしはプロセス条件変化を判断することを特徴とする。「光経路長」とは、赤外線が長尺シート材の内部で散乱・反射した経路の長さをいう。「プロセス条件変化」とは、上記の品質パラメータ制御以外に、厚みなどの制御の変化も含む。
この制御方法によれば、従来の灰分量計測では判定できなかったことが可能になるため、製品の品質向上につながる。
発明に係る長尺シート材の品質制御方法は、巻取機における巻取ロールの枠替えに同期させて、ファイバー量や水分量などの品質パラメータを所定の幅方向制御点で所定の量だけ変動させながら、上記した計測方法により当該品質パラメータの計測を行い、得られた計測値に基づき、巻き取られる長尺シート材の幅方向の収縮や蛇行などにより変化した、計測点と、坪量制御や水分量制御の幅方向制御点との位置関係を確認することを特徴とする。いわゆるバンプテスト(出力応答テスト)のことである。
この品質制御方法によれば、品質パラメータの計測が短時間で行えるので、枠替えという短い時間に、本来商品にされない紙を利用して損紙を発生させずに、枠替え毎の幅方向収縮パターンを更新できる。ヘッドボックスのどのスライス位置で坪量や水分量を制御すべきかを正しく判断できるので、幅方向エラーの拡散を防止できる。
発明にかかる長尺シート材の品質パラメータ計測装置は、巻取機に向かって流れている長尺シート材の品質パラメータを、赤外線光源と赤外線を受光する赤外線カメラとを用いて計測する長尺シート材の品質パラメータ計測装置において、
上記の長尺シート材の全幅をカバーするよう上記の赤外線光源と赤外線カメラとが幅方向に複数配置されているとともに、
隣り合う当該赤外線カメラの視野同士がオーバーラップしていること
を特徴とする。
この計測装置であれば、スキャンしないため複数のカメラを必要とする場合においても、精度の高い計測値を得るという上記の品質計測方法を実施可能である。
発明にかかる長尺シート材の品質パラメータ計測装置は、比較用サンプルを有し、
当該比較用サンプルと上記の長尺シート材とが同一の上記赤外線光源からの赤外線を照射されるよう、かつ、当該比較用サンプルと長尺シート材とをそれぞれ経由した赤外線が同一の上記赤外線カメラで同時に計測されるよう、当該比較用サンプルが当該長尺シート材の幅方向延長平面内に配置されていることを特徴とする。比較用サンプルは、上記の位置に固定させてもよいし、複数の比較用サンプルをローテーションさせて上記の位置にくるようにしてもよい。
この計測装置であれば、計測値の校正と補正により精度の高い計測値を得るという上記の計測方法を実施可能である。
発明にかかる長尺シート材の品質パラメータ計測装置は、上記の赤外線カメラが赤外線エリアカメラであることと、
それぞれ異なる波長の赤外線を照射する複数の上記赤外線光源が流れ方向に配置されているとともに、
当該赤外線光源が、当該各光源からの赤外線が上記の長尺シート材を経由して同一の上記赤外線エリアカメラで同一時刻に計測される範囲において、互いの照射エリアが干渉しないように配置されていること
を特徴とする。
この計測装置であれば、透過・反射した赤外線を全てカメラで受光できるうえ、必要に応じた複数の波長の赤外線を、オフセットを持たせた測定で、同一点同一時刻に計測できる。
上記したように発明の要点は、(1)光源の改善、(2)ラインセンサからエリアセンサへの改善、(3)オーバーラップエリアの整合性確認、(4)オフシート位置での標準、実サンプルチェックによるオンライン校正と補正、(5)長尺シート材の全面同時測定によるその他の計測制御上の改善である。
本発明の長尺シート材の品質計測方法によれば、a)非スキャン・非フィルタリングによる紙のファイバー重量、水分重量などの品質測定により、従来計測が困難であった抄紙機用具などによる高速変動が確認でき、制御性向上と原因排除の制御が可能になる。b)これにより、生産性向上、省エネルギー化、省力化がなされる。c)β線坪量センサ・エックス線灰分率センサの代替になり、従来このような計測制御が難しかったティッシュ、トイレットペーパーなどの薄紙分野への導入が可能になり、感覚で操業していた現場の操業管理が可能になる。d)新指標として灰分率センサから光散乱度センサへの移行や、e)全幅同時測定(100%計測)を活かしたオンライン紙ウェブ収縮測定、f)水分吸収波長カラーマップなどの用具変調表示が可能となり既存の操業では不可能であった細かなマシン状態の変動を把握できる。
本方法による計測とそれを前提にした新制御戦略で、既存のスキャニングセンサがカバーする80%以上の既存計測制御システムマーケットと、放射線源を経済的理由などで使えないQCS使用未経験の小規模プロセス向けに導入することができる。業界全体に多大な経済効果を生み、エネルギー消費を削減し原料を削減し品質を向上し、放射線などの危険物を使用せず、今後ともパッケージ用板紙や衛生用紙などの生産量が増加する新興国家などにも多大な寄与を可能とする。
以下、図面を参照して本発明による長尺シート材の品質パラメータの、赤外線カメラによる非スキャン計測方法の一実施形態について詳細に説明する。尚、図中、同一の要素は同一の符号で示し、本発明に関係のない部分については図示を省略する。
まず初めに、本発明の計測方法が適用される長尺シート材の製造工程において紙ウェブを代表として取り上げる。図2は一般的な抄紙機の概念図であるが、同様にプラスチックフィルムや不織布などについても計測場所における装置概略と計測の概念は同じと考える。フィルムでは、原料が例えばPP、PET、PEなど単一物質だけの場合とシリコンやその他混ぜ物やコーティングがなされている場合などで同様な計測技術が提供できるので、製造工程中に蒸発する水分と言う厄介な物質を含む紙ウェブで本発明の形態を説明する。
図1は本発明が計測の対象とする紙ウェブの断面図である。紙ウェブはそれを構成する主たるセルロース繊維、光を散乱させたり染色したり接着などの役割を持った充填剤粒子、含有水分と多くの空隙とで構成される。塗布工程を加えれば表面に印刷適性を向上させる化学物質が炭酸カルシウム、クレイ、タルクなどと共に塗られたりする。表面強度を上げるためのでんぷん塗布などもベースシートとしての抄紙工程に組み込まれることもある。
図2は抄紙機の一般的な構成を示したもので、発明による品質計測装置は、このような抄紙機のドライセクションやキャレンダーセクションなど(例えば図中のスキャニングセンサの位置に)配置される。上流から説明すると、まず初めにスライスゾーン(幅方向の区切り)毎に希釈水用のアクチュエータを持った、ヘッドボックスと言われる原料を幅方向に分配し平らに吐出する為の装置があり、この中に0.5%ほどの濃度の原料が入って吐出される。この原料状態をスラリー(混濁液)と言い、ヘッドボックスからワイヤー上に吐出される。吐出されたスラリーは同速度で回転するワイヤー上で3〜4割脱水され紙ウェブが形成される。この部分をフォーミングセクションと言う。 次にプレスロールとフェルトの間に抱かれ、紙ウェブに含まれる水が大きく搾られる。ここをプレスセクションと言う。その後紙ウェブは乾燥工程(ドライセクション)に入り、目標水分値である5%前後の水分率に制御される。巻き取りの前にキャレンダーセクションがあり、表面を磨くのと同時に紙ウェブをつぶして厚みを制御する場合もある。いずれのセクションにも幅方向の品質を制御する為のアクチュエータがあり、それぞれ希釈水によるスライス毎濃度制御、水スプレイ、スチーム加温による水分プロファイル制御、キャレンダーロール加熱などによる厚みプロファイル制御などを行う。尚、流れ方向の制御はスラリーの全体濃度制御とドライセクションでの温度制御で坪量と水分を制御する。
図7(a)は、本発明の品質パラメータ計測装置1100(図11参照)に適用する赤外線カメラによる非スキャン型センサ700の概念図である。前述した既存の坪量センサの概念に置き換えて考えてみると、赤外線カメラ702は電離箱のように、紙ウェブWを透過してきた赤外線を補足する受光素子であるInGaAsエリアセンサ701を備え、透過した赤外線を受光して総光量として計測する。光源側は、吸収波長として選ばれた半値幅50ナノメートルほどの赤外線LED光源705である。赤外線LED光源705は、β線源Kr85やPm245などのβ線のように安定した近赤外線709の発光量を期待できる半導体素子である。発光量は数年かかって7割ほどに落ちるが、例えば月に一度のマシンシャットダウン時に再検量をしなければならないほどには変動しない。特許文献2では、寿命が約3か月と短いハロゲンランプを使用していた為に高精度を保つことが出来なかったのではないかと推測する。また、赤外線カメラや近赤外発光LED素子などの開発が進み、価格的にも十分経済効果を生み出せるまでに汎用化が進んでいる。本発明は、特許文献2のInGaAs赤外線カメラや光源に問題があった点を、価格面と技術面で見直しをした計測方法および計測装置を前提とするのでその詳細を述べる。
図7(a)のうち、705は赤外線LED光源であり703は紙ウェブWを計測するカメラ視野を表す。照射される赤外線709は計測する物質により単独又は複数用意される。因みに本発明の装置として考えるのは、先行技術や既存のスキャニングセンサで使用するセルロースファイバー吸収波長として1.57μ、1.73μ、2.1μなどが、水分吸収波長として1.45μ、1.94μが、及び比較波長としてその近隣の非吸収波長が選定される。フィルムや表面コーティング剤などは他に特徴的な吸収波長帯があり、対象プロセスによりチャンネル数や発光LEDを選択する。図7(b)に紙ウェブ用の3チャンネル計測センサ710を示す。センサ700と同様に、赤外線カメラ712は、光源715から紙ウェブWを透過してきた赤外線719を補足する受光素子であるInGaAsエリアセンサ711を備えている。717は、赤外線カメラ712の視野713のうち流れ方向の視野を示しており、この幅内に複数チャンネル(ここでは3チャンネル)の赤外線光源715を並べることができる。光源715は流れ方向にオフセットを持ち、互いの計測エリアには干渉しないように配置する。
計測の原理は図7(a)を使用して説明する。光源705がLED球にレンズが付いたタイプであれば、発光された近赤外線709が紙ウェブWを通して観測されるのは708のように透過後減衰されたスポットであり、受光部であるエリアセンサ701では画像処理によりその総光量を測定する。イメージ的には706のように幅方向と流れ方向に分割されたInGaAs素子上で例えば10ビット4096諧調で表されると縦軸のグレイスケールは4096で光量の総和は照射エリアが十分に入る領域をあらかじめ決めてエリア内の各素子の信号量を最大4096グレイスケールとして707で表したイメージの体積を計測することになる。計測される総信号量は光源をオフにした時のバックグランド(暗電流信号量)を同一計測エリアで定期的に観測してその総和を計測値から引くことにより、光源による赤外線の透過量総和が求められる。複数波長を使う場合は、この計測視野713内で他の比較する波長と同じ幅方向(矢印718)位置で流れ方向717に一定のオフセットがある図7(b)の状態で配置される。β線とは違い光の経路長に対して減衰曲線が描かれ、これは例えば吸収波長がファイバーの場合は、ファイバー量・空隙・充填剤など、図1で示したような紙ウェブ内で散乱された後に透過した光の量を計測することになるので、これだけの信号ではファイバーの増減なのか嵩の増減(空隙の割合)なのか充填剤の増減なのかはわからない。従って、ほぼ同じ波長でファイバーに吸収されない比較波長と言われる信号との比を得ることにより、ファイバー重量を決定する。先に述べたように、β線は空気の重さを補正しなければならず、その空気層重量を変化させる温度・ギャップ間距離、センササポートフレーム歪みなどの補正センサや補正道具が必要であるが、本装置ではそのような補正の為のセンサ類は必要ない。
図9は、本発明の特徴である非スキャンセンサ(例えば700)の計測軌跡を表す。紙ウェブWの流れ方向を矢印で示す。赤外線カメラは地合いのある紙ウェブWを透過してくる赤外線を捉えるのだが、先に説明したとおり幅方向にはソフトウェアスライスで位置区切り(スライス)902をつけてある。901は計測時の紙ウェブの計測エリアの長さを示しておりこれはカメラのシャッター時間と紙ウェブの走行速度で決まる。いずれにしても十分な露光時間を取り計測すれば、例えば100ミリ秒でも高速マシンでは2mの長さになり十分に地合いの影響を消すことができる。スキャンセンサはこの100ミリ秒で100サンプルを計測しているが幅方向移動はわずか2cmしかなく、本発明の装置では全幅同時計測であり例えば3m幅の方式で言えば幅方向に300台のセンサを並べたのに等しい。903はカメラのある時刻の計測軌跡であり、904はその次の計測軌跡である。若干の非計測エリアがあるが、高速画像処理でこのエリアはゼロにもできる。
次に、本発明に使用する光源、赤外線カメラ、オンラインサンプルなどの配置及びコンフィグレーションを説明する。本発明は、上に述べた通り赤外線カメラと赤外線光源を使い既存の計測装置が用いるβ線による坪量と、赤外線による水分計測を一つにして紙ウェブの主たる成分であるセルロースファイバーと水分値を計測する。特にティッシュなどのバージンパルプ(純粋なケミカルパルプ)を使う紙ウェブでは充填剤などが配合されていないのでまさに最適なセンサとなる。
図10は本発明で使用する赤外線LED光源705の概要を示すものである。光源は2種類のタイプで使い分けをする。構造は3層構造になっており、側面から見た図が(a)光拡散フィルム1001、(b)シリンドリカルレンズ1004、(c)赤外線LED基盤とヒートシンク1006であり、各部分を上から見た図が(a’), (b’), (c’)である。1005は赤外線LED球であり計測目的により波長帯が違う。LED基盤1006はモジュール形式で交換が容易に設計されている。LED球1005は10mm間隔などで配置されているが用途によりスペースは変わる。又、反射方式と透過方式で配置のアレンジは変わることもある。シリンドリカルレンズ1004は、側面図にあるようにコリメートな光を作る。光は流れ方向に集光され平行光に近いものが作られる。これを上から見ると(b’)の1003のように、LED球一つ一つが分離された形で照射される。図(a’)にあるように幅方向だけに拡散させるフィルム1001を使うと、流れ方向には集光されるが幅方向にはシャッフルされた均一な線状光1002を作ることができる。この場合は幅方向の区切りはソフトウェアでカメラ視野内の位置を持ってスライス区切りを行う。1001はクロスシャッフルフィルムで、線状光となった1002はソフトウェア区切りのスライス単位で計測される。このような光源はラインCCDカメラを使う欠陥検査システムでは標準的な構造であり、LED球を白色LEDから赤外線LEDに変えただけである。ソフトウェアで任意のスライスが区切れて幅方向に一様になるフィルム付きの方が扱いはしやすいが、フィルム自体を計測する場合にはこの代わりに曇りガラス等の全面均等散乱を起こす工夫がいる。何故ならばクリアフィルムの場合には透過吸収に比べて経路長を増加させる散乱物質が存在しない場合があるからである。
図11は、透過型品質パラメータ計測装置1100で計測する時の赤外線カメラ1102〜1106、赤外線LED光源1112,1113、オンラインでの校正・補正用サンプル1107などの配置関係を示す概略図である。カメラビーム1101内には例として5個のカメラ1102〜1106を配した。カメラ内のInGaAs素子数によるが、1ピクセルの計測幅を1mmとすれば1台のカメラの視野は600mm以上(例えば600ピクセル×400ピクセルなど)取れるものが市販されているので、それらを使えば数台から20台くらいまででほとんどの抄紙機で紙ウェブWの全幅をカバーできる。1109は赤外線LED光源フレームであり、1110はLED球のイメージを示し、1107は紙ウェブWから外れた所で紙ウェブWと同じ高さに置くオンライン校正・補正用のサンプルで、詳細は後述する。光源は、図11(b)のような多波長用途の光源1112から図11(c)のようなシングルチャネル用光源1113まで、適用する計測用途により替える。
図12は、別の実施形態による反射型品質パラメータ計測装置1200のコンフィグレーションを示す。反射型の場合には表面コーティングや表面水分などを計測する。全体のファイバー量や水分量などは構成上計測できないが、表面部分に存在する水分平均や塗工量などは、キャリブレーションで精度良く計測できる。また、抄紙機において元来使用されている塗工量計測のうち塗工前の絶乾坪量(水分を無くしてドライ状態の重量)を塗工後の絶乾坪量から差し引いて計測するよりも精度は良くなる。また表面水分にしても、塗工後の水分分布は表面に近いところに多く存在するので、特にダブル塗工などの場合には内部まで含浸しないので通常の透過型水分計よりも表裏差なく計測できると言う利点がある。ただし絶対水分量を計測することはできない。例えば水分吸収波長の光源1203と水分に吸収されない比較波長の光源1204と言う組み合わせで使用される。透過型と同様に1207に示すような標準サンプルを紙ウェブパスライン上のオフシート位置に用意して自動校正や補正の為の基準とすることができる。
図13,14 は、非スキャン型計測システムにおける本発明の根幹を成す、精度を維持しオンラインにて自動校正と補正を行うカメラオーバーラップエリアの取り扱いと、両端オフライン位置における実サンプルと標準サンプルなどを用いて確認補正をすることができるオンライン検定法を示す。図中Wは紙ウェブを示し、1301はカメラ(例えば図11の1103)の視野、1302は隣のカメラ(例えば図11の1104)の視野を示す。重なったオーバーラップエリアを1303で示し、そのエリア内のLED球の配置又はソフトウェアスライス区切りを1321〜1326で示す。1320は紙ウェブWの背後にある光源を示し、図は紙ウェブの上から見た図が(a)、その位置でキャリブレーションした時の光量パターングラフと標準化後のグラフが(c)、オンラインで計測した時の光量グラフの例が(b)である。1304はグラフの縦軸を示しそれぞれ透過光量の値を示す。横軸は(a)に示すカメラの視野1301,1302と同じ幅方向スライス位置である。(c)で、1305は左のカメラ(例えば図11の1103)の信号グラフで、1306は右側のカメラ(例えば図11の1104)の信号グラフである。通常散乱された透過光は、紙ウェブWの表面からあらゆる方向に発光するのでカメラからの距離の2乗で減衰する為、カメラの視野の端に向かって減衰した2次曲線グラフになる。(c)の1307,1308はその曲線をカメラの中心位置(最短距離で最大値を示す)に対して正規化したグラフで、一直線になるようにピクセル単位あるいはスライス単位で補正する。当然同じサンプルを使ってキャリブレーションしているので、各スライスでは同じサンプル計測値にならねばならないので、他のカメラとの信号関係を考慮した上でそれぞれのカメラの各スライスが同じサンプルに対して同じ計測値になるようなオフセットを記録しておく。(b)ではオンラインでのオーバーラップエリアの計測値のオフセット1310を示しており、この値がキャリブレーション時のオフセット1311と同じであるかを確認し、また違う場合は他の隣接カメラに対しても同じオフセットを示すかどうかを比較して補正をする。この判定は各カメラのオフセット、両端のサンプルの計測値からの推測値、定期的に行われるオンラインでの自動校正によるダークカウント(暗電流計測)などで判定する。
この校正・補正方法は、カメラ単位の電気的なシフト、機差、オンライン時の光源に堆積したダート、熱歪みなどによるカメラ視野のズレなどがカメラ単位で一様に起こることや、光源側に置いてはダート堆積が同じく全幅に渡り一様に起きることが前提である。ただし、一部に起きた変化についてはカメラ内信号パターンが変わる為、別の診断ができる。例えば光源の一部だけにダートが堆積している場合は、カメラ内信号の急変化や突起部などとして現れる。また、LED光源の一部が壊れて発光しない場合なども認識できる。
図14は、紙ウェブWの両端に配した実サンプル1401と標準サンプル1402(図11の1107に相当)を使用して、計測値を確認する方法を示す。それぞれのサンプル1401,1402は紙ウェブWのパスラインと同じ高さに設置され、オンラインで両端のカメラ(例えば図11の1102,1106)で常に計測されている。実サンプル1401は銘柄毎の実際のサンプル紙であり、標準サンプル1402は、用途によりファイバー重量、水分率、灰分率などの違いのあるサンプル、また逆に、どの赤外線波長も吸収しないで光源とカメラ関係の初期状態との違いを比較でき水分蒸発などの劣化を引き起こさない合成紙などを使用したすべての基準となるサンプルを必要に応じて選択したものである。それらを定期的に計測し、センサ(例えば700)の状態が正しい計測をしているかを確認する。計測値は例えばファイバーであれば計測範囲の総平均値1404,1406などを計測する。同じサンプルを使用してキャリブレーションしているので、この値が変化すると言う事はカメラ側か、光源側に変化があるか、あるいはカメラと光源間にダートや紙粉などのごみが存在するなどが推測できる。従って例えば1gの違いがあれば、オンラインダイナミック補正値として各カメラの計測値1405に1gのオフセットを与えることになる。この両端で実際のサンプルで確認されたカメラ(例えば図11の1102,1106)は良好な状態である限りそのウェブの中心に向かって隣接するカメラ(例えば図11の1103,1105)とのオーバーラップエリアの確認を通して残りの全カメラ(例えば図11の1103〜1105)に対する確認を間接に為したとみなすことができる。これにより従来法では取り上げられなかった精度を確立する為のオンラインでの自動校正と補正が可能となる。固定センサ故にオフラインにて自動校正が出来ずに、マシン停止や紙切れによるオフシート状態以外にセンサの状態確認ができないでいた非スキャンカメラ方式に、新たな道をつけることができる。先行技術が行き詰ったのは既に述べたように、赤外線カメラが高価であることに加え赤外線LEDがまだ汎用製品化がなされずに寿命の短いハロゲンランプを使っていて頻繁にセンサの校正が必要であったのが一因であることからも、この方法はラインセンサを使用する場合でも同様な方法が使用でき、従来法に対しても適用が可能であり、ハロゲンを使用しなければならない場合にも適用が可能である。
図15は、別の実施形態による品質パラメータ計測装置1500を示す概略図で、本発明の非スキャン計測をして精度を保つために必要なカメラの視野のオーバーラップエリア1501を、隣のカメラ視野のセンターまで重ねて、紙ウェブW全体の視野を隣接するカメラ2台ずつにて計測できる完全2重化仕様の場合である。ただし両端は2重化の必要はない。
図16はまた別の実施形態による品質パラメータ計測装置1600を示す概略図で、透過型計測装置(例えば図11の計測装置1100)の一部のエリアに反射用赤外線光源1601を配置して、同一エリアカメラ1603で3波長光源1602からの透過赤外線と同時に反射波長として光源1601から反射した赤外線を計測し、透過の信号比、波長毎の総光量及び反射光源の総光量を比較して灰分比の違いを計測する。基準になるのは当然キャリブレーションした際の透過と反射の比率である。光源1602はファイバー、水分吸収波長及び比較波長をもった赤外線LED光源であり、1601は紙ウェブを構成する物質に吸収されない比較波長をもった赤外線LED光源である。この計測をするカメラ1603は、透過光3光源と反射光1光源を同一視野内に収めるように配置して、それぞれの計測値を図示しないシステムコンピュータに送る。逆に、反射用赤外線光源を設けずにカメラを1台、紙ウェブWに対して透過用赤外線光源と同じ側に加えて、反射面から常時計測する方法もあるが、現場のスペースなどを考慮して決定する。
図17は灰分率の計測概念を示す。同じ銘柄として製造される紙ウェブWは、配合比の不良あるいは他の要因で損紙となって原料に戻された灰分を含むパルプの配合比率などが変わった場合は、結果的に灰分率が変化して光の透過分と反射分の比率が変わる。既存の計測装置ではこれら灰分についてはX線を使用して坪量計と同じ原理のセンサで計測して制御を行っている。X線は無機物質である灰分に良く感応して、有機物であるファイバーにはあまり感応しないという性質を使っている。灰分の本来の目的は、紙の裏面に印刷された文字が表から透けて見えるという裏抜けと呼ばれる光学的な弱点を防ぐことにある。灰分は添加剤として加えられ、光の散乱を増加させて表からの光が裏抜けしないようにブロックしまた、裏からの光が表側に透過しないようにするという、そもそもは光学的性質を変化させるものである。それにもかかわらずX線を使用して灰分の重量比を計測するのは、間接的なこの方法以外に良いセンサが無い為である。本発明の計測方法では、本来の光学的性質を計測する為に、赤外線を使ったファイバー・水分計測装置の応用として透過分と反射分及びファイバー吸収分で比較して灰分率を計測する。予めそれぞれ違う状態で集めたサンプルとのキャリブレーションにより計測する。図17(a)の1706は灰分の少ない紙ウェブであり、照射された赤外線比較波長1701は紙ウェブ1706の中で散乱・反射を繰り返し、ファイバーに吸収されない透過光1703はカメラ1704に、光源1705から照射され反射して返ってくる反射光1702も同様にカメラ1704を通して計測される。図17(b)の1716は灰分の多い紙ウェブであり、照射された同じ赤外線比較波長1701は紙ウェブ1716中でより散乱・反射を繰り返し、透過光1713と光源1705から照射されて反射された反射光1712とは同様にカメラ1704で計測される。矢印の太さで光量をイメージしたとおり、灰分の多い場合の透過光は少なくなり反射光は増えることになる(1702÷1703<1712÷1713)。各計測値を標準サンプルのそれで除した値は、配合比の違いによる透過・反射光量への灰分の影響度を表している。あらかじめ様々な灰分率の標準サンプルでこれらの計測値を使ってキャリブレーションしておけば、灰分量を計測せずに最適な光裏抜け度計測が可能となる。現在の灰分センサの使用状況からするとむしろこのセンサで光学的特徴を計測して大まかな灰分投入量制御でギリギリまで投入量を下げ、その代わりファイバー量を増やす方が経済効果も上がることになる。
最近の抄紙機は専抄マシンとして例えばティッシュ、新聞紙、コピー用紙、印刷用紙、表層ライナー、中芯用紙など、常時同じ銘柄あるいはわずかに坪量の違う銘柄を製造していることが多くなっている。これは生産効率向上の為のマシンの集約戦略など主に大手企業によるものだが、逆に中小企業は特殊紙の専抄マシンが多い。どんな紙も作れるというのは機械も複雑になり、パルプの配合、薬品の配合など効率を下げる方向に向かい、そればかりでなく操業条件が複雑になり人的エラーも増える。従って最新のマシンでDCSにより銘柄管理がされているマシンでは、パルプの配合や薬品・填料の配合比も計測制御されて一定の変動下に収められている。このように銘柄管理された紙を使いキャリブレーションすることで、配合比による光の経路長変化(計測値変化を起こす)は最小限であることを前提として、上記したファイバー計測や水分計測を可能にしている。従来はそれらの配合比が未知の要素で十分な変動があると言う事で、無限散乱法・積分球法(図8参照)など光経路長を無限にするなどの方法がこの配合比変動に対して取られてきた。光の透過量による補正法なども、先行技術としてこのような直読式赤外線センサの為の補正センサとして50年前に特許されている。本発明では上述した透過と反射光の各総光量・各比率・標準サンプルとの比較などを使い定期的な補正を施す方法も使用するが、ティッシュなどのヴァージンパルプ使用の紙には添加物が一切入っていないのでこれらの補正は必要ない。しかしながら灰分やリサイクルパルプ使用の紙では単独センサとして絶対値精度を向上させるためには必要となる技術である。
一方現在既にQCSを導入している現場においては、本発明はできるだけ上流の表面塗工前にセンサを配置して(添加剤がミキシングされて内部添加だけのベースシートの位置)主に流れ方向と幅方向の高速計測制御で変動を抑え、既存のQCSでの最終品質確認をするのが使いやすいだろう。この場合の最終計測値精度は既存の坪量センサと水分センサに任せて長周期変動に対するカスケード制御(上流での制御)を行うことが望ましい。スキャンさせずに固定センサでの計測で本計測装置との場所の付け合わせをして全幅に展開すれ方法もコストダウンになり、今後はそういった既存技術との融合も考えた設計が必要である。
図18は、上記非スキャン型計測装置(例えば図11の計測装置1100)を抄紙機(図2参照)で使用した時の、制御点であるヘッドボックスの各スライス位置と、計測点であるカメラ1805内のスライス位置とを付け合わせるための方法を示す。紙ウェブWはワイヤーでフォーミングされた後、エッジ部分1811が図示しない水シャワーで切り落とされる。エッジ部分1811は均一性が無い為このような工程が必ず必要である。従って、ヘッドボックスから吐出されたスラリー幅はフォーミング後に両端数cmから十数cm切り落とされてプレスと乾燥工程に入る。乾燥工程では紙が収縮するので、上流からヘッドボックス、紙端トリミング後、乾燥工程後の巻取前ではそれぞれ紙の幅が違ってくる。その上収縮のパターンは幅方向に均一ではなくお椀型になるのが普通である。加えて蛇行が入ると、巻取前で計測した点が果たしてヘッドボックスのアクチュエータの何番に相当するのかが正確にわからなくなり、新たなるエラーをフィードバック制御で作ってしまう。よく知られた鋸歯状波プロファイルはこうして引き起こされる。
赤外線カメラ1805は、紙ウェブWのファイバー重量を1806で示す視野内で計測している。今まさに巻取りの枠替えが始まろうとしていると仮定すると、枠替え前の数十メートルは巻取の上巻きになり、検査のため数枚〜十数枚?きとられて目視検査がされる。また次工程の下巻きになり皺が入り製品にはならないので、この2つの理由から損紙として扱われる。従ってこの部分に対しては、バンプテスト(出力応答テスト)という紙の幅方向のアクチュエータの出力を変化させて紙の重量変化を起こさせるテストを行っても問題ない。既存の計測制御システムでは、この方法を銘柄変更という数十分の時間を要し全て損紙となる機会にしか行うことができない。この銘柄変更中は紙の収縮も蛇行も変化しており本来の目的には合わないのだが、スキャニング方式の為ステップ応答からセンサのフィードバックを取るまでに十数分以上かかる為に致し方がなかった。本発明の方式ではステップ応答に対する計測にはマシン遅れしかないため十秒ほどで結果が得られ、非スキャン方式の最大の利点である高速計測がそれを可能にする。カメラ1805の計測値を枠替え前に記録して、カメラ1805に接続した計測制御システム1820が、アクチュエータ制御装置1821に対して図にあるように例えばスライス1822,1823,1824,1825など複数のアクチュエータに増減信号を送る。マシン遅れ分の時間後には、カメラはその増減信号に応じた変動分1807,1808,1809,1810を計測して記録する。これをバンプテストと言うが、この出力変更前と後のピーク値を計測して、アクチュエータの位置と乾燥工程で収縮する分のパターンと蛇行分のオフセットを計測する。
これにより、計測点と制御点の不一致による幅方向制御の不良とエラー拡散が完全に防止でき、より均一な紙ウェブが製造できる。既存システムの最大の弱点である計測応答時間の遅さとアクチュエータピッチの不揃いが起こす位置ずれによるエラーの拡散は、現在の抄紙技術の限界点であり、これを打破できることは全ての品質と生産性向上に寄与する。
本発明により、スキャニングセンサの致命的欠点であるフィルタリングが必要なくなり、オペレータアクションが数十秒で視認できる事と、高速回転するマシン用具の不具合により現れる微弱水分変動などが観測できる。これらの確認にはわざわざエンジニアリングユニットすなわち坪量であるg/m2や水分率などに変換する必要はなく、基礎的な光量分布変化を示せばよい。従って、計測モードでの十分な露光時間(図8の803)を持たせずに高速で計測し、シームレスな光量をマップにすれば水分ムラマップができる。それを、用具毎の回転速度に同期させれば、不具合を起こしている用具が特定できる。又特定な範囲だけをモニタリングする高速測定専用カメラを配置し、高速変動モニタリングモードを作って数分間生信号だけをロギングして高速フーリエ変換(FFT)に掛ければ、高速流れ変動のパワースペクトルが得られプロセス解析ができる。
このように、現在ではマシンの用具である、ワイヤー(数メートルから数十メートル)、プレスロール(周囲長2m〜3m)、フェルト(数メートルから数十メートル)、カンヴァス(数メートルから数十メートル)などのパフォーマンスを、スキャニングセンサでは見ることができないが本発明の高速計測法にてその変化を知ることができ、素早い対処が可能となる。この事は余計なエネルギーの削減と紙切断の防止、薬品の削減、生産性向上、メンテナンス性向上、用具替え周期の延長など様々な経済的効果を期待できる。