JP2018100248A - ポリアルキレンイミン誘導体を含む低溶血性抗菌剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低いポリマー型の抗菌剤を提供することを目的とする。【解決手段】本発明の低溶血性抗菌剤は、ポリアルキレンイミンの窒素原子に下記式(1)の構造を有する置換基が全窒素原子に対して20モル%以上の割合で付加してなるポリアルキレンイミン誘導体を含む。式中、R1は炭素数3〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基を表す。【選択図】なし
Description
本発明は、ポリアルキレンイミン誘導体を用いたポリマー型の低溶血性抗菌剤に関する。より詳しくは、本発明は、ポリアルキレンイミンに特定の構造を有する置換基を導入したポリアルキレンイミン誘導体であり、ポリアルキレンイミンの窒素原子と炭化水素基との間に水酸基及びエーテル結合を有するポリアルキレンイミン誘導体を用いた低溶血性抗菌剤に関する。
近年、清潔志向の高まりや衛生上の観点から、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、成形品など様々な分野で抗菌剤が使用されている。これらの抗菌剤は、抗菌性能と共に安全性も求められており、ポリマー型の抗菌剤は揮発性がなく、溶出しにくいため、ヒトに対する毒性が低いことから、安全性の高い抗菌剤として注目されてきている。
ポリマー型の抗菌剤は、微生物の細胞膜を破壊して作用すると言われている。このように細胞膜を攻撃対象とする方法は、特定のタンパク質を攻撃対象とする従来の抗菌剤と比較して耐性菌が極めて出現しにくいと考えられている。
ポリマー型の抗菌剤として、ポリアルキレンイミンに疎水基を導入した抗菌剤が古くから知られている。本発明者らは、特許文献1において、ポリアルキレンイミンの窒素原子に下記式(I)の構造を有する置換基が付加してなるポリアルキレンイミン誘導体を含む抗菌剤を開示している。
式中、R1は、炭素数6〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は−(CH2CH2O)n−R2を表し、この際、R2は、炭素数6〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアルケニル基、又は炭素数6〜20のアリール基を表し;nは、1〜50の整数を表す。
特許文献1に記載の抗菌剤は、置換基が上記式(1)で表される特定の構造を有することで、優れた抗菌性を発揮するものであった。
しかしながら、当該抗菌剤は、微生物の細胞膜のみならず、赤血球の細胞膜をも破壊してまうことから、低溶血性であることが求められる用途(例えば、消毒剤などの直接皮膚に接触するものや、採血器具、カテーテル、冠動脈ステント等の医療器具)などに抗菌性を付与するには適さない場合があるという問題点を有していた。
したがって、本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低いポリマー型の抗菌剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ポリアルキレンイミンの窒素原子に導入する置換基の末端に位置する炭化水素基の炭素数を少なくすると共に、ポリアルキレンイミンに含まれる全窒素原子に対して、置換基を特定の割合で導入することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の低溶血性抗菌剤は、ポリアルキレンイミンの窒素原子に下記式(1)の構造を有する置換基が全窒素原子に対して20モル%以上の割合で付加してなるポリアルキレンイミン誘導体を含むことを特徴とする。
式中、R1は炭素数3〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基を表す。
本発明によれば、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低いポリマー型の抗菌剤が提供される。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。しかしながら、本発明はこの実施形態に限定されない。
なお、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
本発明の一形態に係る低溶血性抗菌剤は、ポリアルキレンイミンの窒素原子に、下記式(1)の構造を有する置換基が全窒素原子に対して20モル%以上の割合で付加してなるポリアルキレンイミン誘導体を含むことを特徴とする。
式中、R1は、炭素数3〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基を表す。
以下、本明細書において、ポリアルキレンイミンの窒素原子に上記式(1)の構造を有する置換基が全窒素原子に対して20モル%以上の割合で付加してなるポリアルキレンイミン誘導体を、単に「ポリアルキレンイミン誘導体」とも称する。また、式(1)の構造を有する置換基を、単に「置換基」とも称する。また、低溶血性抗菌剤を、単に「抗菌剤」とも称する。
本形態に係る低溶血性抗菌剤は、上記構成を有するポリアルキレンイミン誘導体を含むことにより、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低いという特性を有する。本形態に係る低溶血性抗菌剤が、このような特性を有する理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。
本形態の低溶血性抗菌剤に含まれるポリアルキレンイミン誘導体が有する抗菌作用のメカニズムについては、上記特許文献1において開示しているように、Magainin−2のような抗菌ペプチドと同様の作用メカニズムであると考えられる。すなわち、ポリアルキレンイミン誘導体の窒素原子に由来するアミノ基が負に帯電した細胞膜と静電的な相互作用で吸着し、ポリマー(ポリアルキレンイミン誘導体)が細胞膜内に浸透し、置換基の末端に位置する炭化水素基が細胞膜を破壊することにより、抗菌性が発揮されるのである。
さらに、この細胞膜を破壊するという作用メカニズムは、微生物の細胞膜のみならず、赤血球の細胞膜に対しても同様に作用すると考えられる。したがって、特許文献1で開示されるポリアルキレンイミン誘導体を含む抗菌剤は微生物の細胞膜を破壊する能力が高く、優れた抗菌性を有すると共に、赤血球の細胞膜を破壊する能力も高いため、高い溶血性を示すと推察される。
そこで、本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ポリアルキレンイミン誘導体に導入する置換基の末端に位置する炭化水素基(上記式(1)におけるR1)の炭素数と、置換基の導入量とを所定の範囲内とすることにより、抗菌性はある程度確保しつつ、かつ、溶血性が低いという、バランスが取れたポリマー型の抗菌剤が得られることを見出した。つまり、ポリアルキレンイミン誘導体に導入する置換基の疎水鎖長を短くする(上記式(1)におけるR1を炭素数3〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基とする)ことにより、赤血球の細胞膜に対する破壊能力を著しく低減させることができ、一方で、置換基の導入量をポリアルキレンイミンの全窒素原子に対して20モル%以上とすることで、微生物の細胞膜に対する破壊能力を十分に維持することができる。このように、抗菌性を維持しつつ、溶血性を低く抑えることができるのは、微生物の細胞膜と赤血球の細胞膜とで置換基に対する感受性が異なることによると考えられる。
なお、上記作用メカニズムは推測であり、本発明は上記作用メカニズムに限定されない。
本明細書において、「抗菌剤」とは抗菌性能を有する剤のことをいう。抗菌性能とは、殺菌(微生物を殺す)性能、静菌(微生物の繁殖を抑える)性能のいずれかの性能を有することをいい、対象となる微生物は、細菌、真菌である。
細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)や緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ・コレラスイス(Salmonella choleraesuis)などのサルモネラ菌、モラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)などのモラクセラ菌、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)などのレジオネラ菌等のグラム陰性菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、コリネバクテリウム・キセロシス(Corynebacterium xerosis)、クロストリジウム(Clostridium)属細菌等のグラム陽性菌が挙げられる。真菌としては、マラセチア・フルフル(Malassezia furfur)などのマラセチア菌、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などのカンジダ菌、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)などのロドトルラ酵母、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのパン酵母などの酵母類やアスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)などのコウジカビ、フザリウム(Fusarium)属などの赤カビ、クラドスポリウム・クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides)などの黒カビなどのカビ類が挙げられる。特に、グラム陰性菌は細胞膜に外膜と内膜を有しており、抗菌性能が発揮され難く、グラム陰性菌に効果のある抗菌剤が好ましい。
本形態に係る、置換基を導入したポリアルキレンイミン誘導体におけるポリアルキレンイミンとは、主鎖がアルキレン基とアミノ基からなる繰り返し単位であり、下記式(A)及び/又は式(B)の構造の繰り返し単位を有するポリマーである。
上記式(A)及び式(B)中、Qはアルキレン基を表す。ここで、Qで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。アルキレン基は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。これらのうち、アルキレン基がエチレン基であることが好ましい。すなわち、ポリアルキレンイミンはポリエチレンイミンであることが好ましい。
上記式(1)の構造を有する置換基の末端に位置する炭化水素基であるR1としては、炭素数3〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基を表す。このような炭化水素基であると、後述の置換基の導入量を制御することにより、抗菌性はある程度維持しつつ、かつ、溶血性が低い、バランスの取れたポリマー型の抗菌剤とすることができる。また、アルキル基又はアルケニル基の炭素数を5以下とすることにより、得られるポリマー型抗菌剤の粘度を低くすることができるため、化粧品等の防腐剤として配合する際に分散性が良好となり好適である。一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が2以下であると、置換基の導入量を多くしても、十分な抗菌性を得ることが困難となる。また、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が6以上であると、置換基の導入量を少なくしても、溶血性を十分に低くすることが困難となる。
ここで、炭素数3〜5のアルキル基は、特に制限されず、炭素数3〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基でありうる。具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、tert−ペンチル基が挙げられる。
炭素数3〜5のアルケニル基は、特に制限されず、炭素数3〜5の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基でありうる。具体的には、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブタ−1−エン−1−イル基、ブタ−2−エン−1−イル基、ブタ−3−エン−1−イル基、2−メチルプロパ−2−エン−1−イル基、1−メチルプロパ−2−エン−1−イル基、ペンタ−1−エン−1−イル基、ペンタ−2−エン−1−イル基、ペンタ−3−エン−1−イル基、ペンタ−4−エン−1−イル基、3−メチルブタ−2−エン−1−イル基、3−メチルブタ−3−エン−1−イル基などが挙げられる。
これらのうち、炭素数3〜4のアルキル基又は炭素数3〜4のアルケニル基が好ましく、炭素数4のアルキル基又は炭素数4のアルケニル基がより好ましく、炭素数4のアルキル基がさらに好ましく、n−ブチル基又はイソブチル基が特に好ましく、n−ブチル基が最も好ましい。このような炭化水素基であると、抗菌性と溶血性とのバランスが良好となり、抗菌性を維持しつつ、溶血性をより低く抑えることができる。
ポリアルキレンイミンの窒素原子に上記式(1)の構造を有する置換基が付加される割合(置換基を導入する割合)は、全窒素原子の20モル%以上であることを必須とする。当該割合が20モル%未満であると、十分な抗菌性を維持することが困難となる。また、より高い抗菌性を発揮させる観点からは、当該割合は高いほうが好ましい。具体的には、当該割合は30モル%超が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上が特に好ましい。
一方、ポリアルキレンイミンの窒素原子に上記式(1)の構造を有する置換基を導入する割合の上限値は特に制限されず、上記式(1)の構造を有する置換基を導入可能な1級及び2級アミノ基の割合によって異なる。ただし、溶血性をより低く抑える観点、水への溶解性を維持する観点からは、当該割合は低いほうが好ましい。具体的には、当該割合は、70モル%以下が好ましく、60モル%未満がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましく、40モル%以下が特に好ましい。
したがって、抗菌性はある程度確保しつつ、かつ、溶血性が低い、バランスの取れた低溶血性抗菌剤を得るという観点から見た上記割合の好ましい数値範囲としては、20モル%以上70モル%以下が好ましく、30モル%超60モル%未満がより好ましく、40モル%以上50モル%以下がさらに好ましい。なお、ポリアルキレンイミンの窒素原子に上記式(1)の構造を有する置換基を導入する割合は、下記で説明する仕込み比(GE/PAI)に後述の実施例に記載のGE転化率(%)を掛け合わせることにより算出される。
また、本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体の1モル当たりに付加されてなる上記式(1)の構造を有する置換基のモル数(以下、単に「1モル当りの置換基のモル数」とも称する)の下限値は、特に制限されないが、抗菌性を向上させる観点から、1.6モル超が好ましく、2.4モル以上がより好ましく、3.6モル以上がさらに好ましく、4.6モル以上が特に好ましい。一方、下限値も特に制限されないが、溶血性をより低く抑える観点から、20モル以下が好ましく、13.7モル以下がより好ましく、9.1モル以下がさらに好ましく、8.4モル以下が特に好ましい。なお、1モル当たりの置換基のモル数は、下記の式で示すように、後述の実施例に記載のポリアルキレンイミンの数平均分子量(Mn)に、下記で説明するアミン価及び前述の置換基の導入率を乗じることにより算出される。
本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体の原料となるポリアルキレンイミンの数平均分子量(Mn)の下限は特に制限されないが、300以上が好ましく、500以上がより好ましく、600以上がさらに好ましい。また、当該数平均分子量(Mn)の上限は特に制限されないが、100,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましく、10,000以下がさらに好ましく、5,000以下が特に好ましく、3,000以下が最も好ましい。このような数平均分子量(Mn)であれば、十分な抗菌性を維持しつつ、溶血性を低く抑えることができる。ポリアルキレンイミンの数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトフラフィー(GPC)、沸点上昇法等によって求められる。本明細書では、数平均分子量(Mn)は、沸点上昇法によって測定された値を採用する。
また、原料となるポリアルキレンイミンの重量平均分子量(Mw)の下限は特に制限されないが、400以上が好ましく、700以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましく、1200以上が特に好ましい。また、当該重量平均分子量(Mw)の上限は特に制限されないが、70,000以下が好ましく、10,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましく、3,000以下が特に好ましい。このような重量平均分子量(Mw)であれば、十分な抗菌性を維持しつつ、溶血性を低く抑えることができる。なお、本明細書において、ポリアルキレンイミンの重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例に記載のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定された値を採用する。
本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体は、ポリアルキレンイミンの下記式(2)のグリシジルエーテルによる付加反応により得られる。グリシジルエーテルはエポキシ樹脂の原料等にも使用され、工業的にも入手しやすく好ましい。
式中、R2は炭素数3〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基を表す。
上記式(2)における、R2の好ましい形態は、上記式(1)におけるR1と同じである。
原料となるポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミンなどが挙げられ、中でもポリエチレンイミンが好ましい。ポリアルキレンイミン中に存在する第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のうち、第1級アミノ基と第2級アミノ基を合わせた割合は、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。第1級アミノ基と第2級アミノ基を合わせた割合が30モル%以上であると、導入される置換基の量が多くなる、及び/又は、置換基導入後の第2級アミノ基の割合が多くなって塩基性が強くなり、優れた抗菌性能が発揮される。なお、ポリアルキレンイミン中の第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基の割合はNMR分析や滴定等により測定することができる。
本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体の数平均分子量(Mn)の下限は特に制限されないが、800以上が好ましく、1200以上がより好ましく、1600以上がさらに好ましい。また、当該数平均分子量(Mn)の上限は特に制限されないが、100,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましく、10,000以下がさらに好ましく、5,000以下が特に好ましく、3,000以下が最も好ましい。このような数平均分子量(Mn)であれば、十分な抗菌性を維持しつつ、溶血性を低く抑えることができる。なお、本明細書において、ポリアルキレンイミン誘導体の数平均分子量(Mn)は、後述の実施例に記載のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定された値を採用する。
本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量(Mw)の下限は特に制限されないが、800以上が好ましく、1200以上がより好ましく、1600以上がさらに好ましい。また、重量平均分子量(Mw)の上限は特に制限されないが、100,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましく、5,000以下が特に好ましく、3,000以下が最も好ましい。このような重量平均分子量(Mw)であれば、十分な抗菌性を維持しつつ、溶血性を低く抑えることができる。なお、本明細書において、ポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例に記載のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定された値を採用する。
ポリアルキレンイミン(PAI)に対するグリシジルエーテル(GE)の反応の仕込み比(GE/PAI)の上限は、特に制限されないが、0.7以下が好ましく、0.6未満がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。なお、ポリアルキレンイミン(PAI)に対するグリシジルエーテル(GE)の反応の仕込み比(GE/PAI)の下限は、特に制限されないが、0.2以上が好ましく、0.3超がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。かかる範囲であれば、十分な抗菌性を維持しつつ、溶血性を低く抑えることができる。ここで、ポリアルキレンイミンとグリシジルエーテルの反応の仕込み比は、ポリアルキレンイミンのアミン価とグリシジルエーテルのエポキシ当量を用いて以下のように表される。
なお、ポリアルキレンイミンのアミン価とは、ポリアルキレンイミン1gに含まれる、1級アミノ基、2級アミノ基及び3級アミノ基の合計のモル数(mmol)を表す値であり、後述の実施例に記載の方法により測定される。なお、後述の実施例では、ポリエチレンイミンのアミン価の測定方法が記載されているが、ポリエチレンイミン以外のポリアルキレンイミンについても同様の方法により測定できる。
また、エポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含む物質の質量を表す値である。エポキシ当量は、化合物の分子量から計算することも可能であるし、秤量した試料をクロロホルムに溶解させ、酢酸と臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加えた後、過塩素酸酢酸標準液を滴下して電位差滴定をすることによっても測定可能であるが、本明細書では、東京化成工業(株)又はデナコール(登録商標、ナガセケムテックス(株)製)のカタログ値を採用した。
付加反応は溶媒の存在下であっても、無溶媒下であっても、特に限定されないが、無溶媒反応、水又は有機溶媒を溶媒とした反応が好ましい。より好ましくは無溶媒反応である。また、攪拌は、攪拌下、静置下のいずれでもよいが、攪拌下で実施することが好ましい。
付加反応に使用できる溶媒は、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;等から1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
前記溶媒を用いる際の原料濃度は、特に限定されないが、ポリアルキレンイミンとグリシジルエーテルの合計量が好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。原料濃度が10質量%以上であると、短い時間で反応を終わらせることができるため好ましい。
前記付加反応は、ポリアルキレンイミンとグリシジルエーテルを全て一括に仕込んでも良いし、いずれかを初期に仕込み残りを滴下しても良いが、ポリアルキレンイミンを初期に仕込み、これにグリシジルエーテルを滴下する方法が好ましい。このように実施することで、反応時の発熱を抑制し、安全かつ副反応を起こさせることなく反応を進行させることができる。
付加反応は、触媒は基本的には不要であるが、必要に応じて反応に悪影響を及ぼさないものであれば適宜使用しても良く、使用する場合の触媒としては3級アミンが好ましい。3級アミンを触媒として用いることで、酸を触媒に用いた場合に生じうる4級化を防ぐことができるため好ましい。
付加反応の反応温度は、特に限定されないが、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。反応温度が30℃以上であると反応時間を短くすることができる、あるいは、未反応のグリシジルエーテルを低減することができるため好ましい。また反応温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。反応温度が低いとグリシジルエーテルの重合反応といった副反応を抑えることができるため好ましい。また、付加反応の反応時間もまた、特に限定されず、反応温度、反応スケールなどによって適宜調節できる。
前記付加反応を実施する際の雰囲気は、得られる誘導体の使用目的に応じて適宜設定すればよいが、得られる誘導体の着色を抑えるためには窒素雰囲気下で反応を行うことが好ましい。なお、反応は、常圧(大気圧)、加圧、減圧のいずれで行ってもよい。
本形態に係る、置換基を導入したポリアルキレンイミン誘導体中の未反応のグリシジルエーテルの量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。未反応のグリシジルエーテルの量が5質量%以下であると、製品に配合した際に予期せぬ副反応が生じるのを防止することができるため好ましい。
本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体は、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低いという特性を有するため、低溶血性であることが求められる使用用途における抗菌剤(低溶血性抗菌剤)として特に好適に使用できる。その使用用途としては、消毒薬や採血器具、カテーテル、冠動脈ステント等の医療器具;血液を用いたバイオセンサー等の用途等に用いることができる。これらの用途に用いる場合、原料に練りこんで形成して使用することや、表面をコーティングして接触面を抗菌化して使用すること、あるいは他の成分と形成してフィルム化し製品に貼り付けて抗菌化するなどの使用法が考えられる。特に、他の樹脂と混合して形成して使用することにより、本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体の流出を防止し、長時間抗菌性を保持することができる。
また、本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体は、上記の用途以外の抗菌剤としても使用することが可能である。具体的には、洗濯洗浄剤、柔軟剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧品、制汗剤等の化粧料用途;塗料、木材防腐剤、セメント混和剤、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)などの工業用途等に用いることができる。
本形態に係るポリアルキレンイミン誘導体は、溶媒などで希釈して使用することができる。希釈する場合のポリアルキレンイミン誘導体の添加量としては、20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。なお、添加量の下限は、小さいほど好ましい(すなわち、0質量%超)ため、特に制限されないが、通常、0.1質量%以上あれば十分な効果を奏しうる。
本形態に係る、抗菌剤の抗菌性能の評価方法としては、静菌性能を評価する方法と殺菌性能を評価する方法がある。静菌性能を評価する方法としては、最小発育阻止濃度(MIC)を測定する方法がある。MICを測定する方法としては、米国の臨床・検査標準協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute)のM26−Aに準じて測定することができる。本明細書では、後述の実施例に記載された方法で測定された値を採用するものとする。MICの値としては、500質量ppm未満が好ましく、300質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以下がさらに好ましく、100質量ppm以下がさらにより好ましく、80質量ppm以下が特に好ましく、50質量ppm以下が最も好ましい。MICの値が500質量ppm未満であれば、静菌性能を発揮するために添加する抗菌剤の量が多くなり過ぎないため、好ましい。なお、MICの下限値については特に制限されない。
本形態の抗菌剤は、溶血性が低い(低溶血性である)という特性を有する。溶血性能の評価方法としては、赤血球溶液に抗菌剤を添加し、赤血球の50%が溶血する(すなわち、赤血球に含まれるヘモグロビンの50%が放出される)際の抗菌剤の濃度(50%溶血濃度(HC50))を測定する方法が挙げられる。本明細書では、後述の実施例に記載した、羊赤血球を用いて測定した50%溶血濃度(HC50)の値を採用するものとする。HC50の値としては、10質量ppm以上が好ましく、50質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がさらに好ましく、200質量ppm以上が特に好ましく、500質量ppm以上が最も好ましい。
本形態の抗菌剤は、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低いという特性を有する。具体的には、上記50%溶血濃度(HC50)に対する最小発育阻止濃度(MIC)の割合(MIC/HC50)は1未満が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.25未満がさらに好ましく、0.20以下が特に好ましく、0.10未満が最も好ましい。MIC/HC50が1以下であれば、微生物の生育を阻止するのに必要な濃度(MIC)よりも、赤血球の50%が溶血する濃度(HC50)が大きいことを意味することから、MICの値以上、HC50の値未満の濃度で抗菌剤を使用することにより、微生物の生育を阻止しつつ、溶血性の発現を抑えることができる。MIC/HC50の値が小さいほど、抗菌性が高く、かつ、溶血性が低い抗菌剤であることを意味する。
本発明の好ましい一形態によると、グラム陰性菌及びグラム陽性菌に対して、十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低く抑えられた低溶血性抗菌剤が提供される。すなわち、本発明の好ましい一形態は、下記(1)及び(2)を満たす低溶血性抗菌剤である。(1)大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の最小発育阻害濃度(MIC)がそれぞれ500質量ppm未満であり、(2)羊赤血球の50%溶血濃度(HC50)に対する、大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の最小発育阻害濃度(MIC)の割合が、それぞれ1未満である。
より好ましい形態にとしては、下記(1)及び(2)を満たす低溶血性抗菌剤である。(1)大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の最小発育阻害濃度(MIC)がそれぞれ100質量ppm以下であり、(2)羊赤血球の50%溶血濃度(HC50)に対する、大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の最小発育阻害濃度(MIC)の割合が、それぞれ0.25未満である。
このような抗菌剤であれば、大腸菌、緑膿菌に代表されるグラム陰性菌、黄色ブドウ球菌に代表されるグラム陽性菌に対して十分な抗菌性を示すと共に、これらの微生物の生育を阻止する濃度において、溶血性を低く抑えることができる。
本発明の抗菌剤は、そのまま使用しても、水で希釈して使用しても良い。本発明の抗菌剤を含む液のpHは、特に制限されず、酸性、中性及びアルカリ性のいずれの条件であっても、良好な抗菌性能を発揮することができる。すなわち、本発明の抗菌剤は、pH2〜14の範囲で使用することができる。
本発明の抗菌剤を含む液は、アルカリ調整剤をさらに含んでいてもよい。この際、アルカリ調整剤の添加量は、特に制限されないが、アルカリ調整剤を添加した本発明の抗菌剤を含む液のpHが7.1〜14となるような量であることが好ましい。このような範囲であると細胞壁の損傷をより効率的に作用させることができ高い抗菌作用が得られる。
本発明の抗菌剤は、界面活性剤、カルシウムイオン除去剤、洗剤用ビルダー、消泡剤、水溶性塩類、溶剤、防腐剤、酸化防止剤、染料や顔料、酵素などと組み合わせることにより組成物として用いることができる。
本発明の抗菌剤は、他の抗菌性化合物を含んでいても良く、例えば、ヨウ素系化合物、トリアゾール系化合物、スルファミド系化合物、ビス第4級アンモニウム塩系化合物、第4級アンモニウム塩系化合物、フタロニトリル系化合物、ジチオール系化合物、チオフェン系化合物、チオカルバメート系化合物、ニトリル系化合物、フタルイミド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、尿素系化合物、イミダゾール系化合物、イソチアゾベンゾチアゾール系化合物、トリアリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、フェニルウレア系化合物などの有機系抗菌剤や銀、亜鉛、銅などの無機系抗菌剤が挙げられる。
本発明の抗菌剤は、その他にも、還元剤、乳濁剤(例えば、ポリスチレンエマルション)、不透明剤、縮み防止剤、洗濯じわ防止剤、形状保持剤、ドレープ性保持剤、アイロン性向上剤、漂白剤(例えば、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなど)、漂白活性剤(例えば、ノナノイルオキシベンゼンスルホン酸塩、テトラアセチルエチレンジアミンなど)、増白剤、白化剤、布地柔軟化クレイ、帯電防止剤、移染防止剤(例えば、ポリビニルピロリドンなど)、高分子分散剤、汚れ剥離剤、スカム分散剤、蛍光増白剤、染料固定剤、退色防止剤、染み抜き剤、水分吸放出性など絹の風合い・機能を付与するシルクプロテインパウダー、表面改質物、乳化分散液、汚染防止剤、紫外線吸収剤、香料、沈着助剤などを適宜組み合わせることができる。
本発明の抗菌剤及び抗菌剤を含む組成物は、前記の使用用途の他にパーソナルケア製品、スキンケア製品などと組み合わせて用いることができる。
パーソナルケア製品とは、身体の洗浄や身だしなみ、嗜好などを目的として用いられる製品のことである。スキンケア製品とは、肌などの状態を良好に維持したり、保護したりするために用いられる製品のことである。これらの製品は傷口等から抗菌剤が体内に混入する恐れがあり、より低溶血性が求められると考えられる。
本発明の抗菌剤を含む好適なパーソナルケア製品としては、以下に限定されないが、例えば、ハンドソープ、手の除菌剤、身体洗浄剤、口腔洗浄剤、練り歯磨き、シャワージェル、シャンプー、コンディショナーなどの毛髪洗浄組成物、整髪剤、制汗剤、ボディローション、防臭剤などの消臭組成物、鼻腔用スプレー、フットケア、膣ケア、膣洗浄剤、ペットケア、及びこれらの組み合わせが挙げられる。さらに他のパーソナルケア製品としては、拭き取り製品、特に顔若しくは手を拭き取る又は乾燥させるのに好適な拭き取り製品、例えばティッシュ、タオルなどの形態が挙げられる。このような場合、本発明の抗菌剤は、好ましくは前記拭き取り製品に組み込まれ、又は含浸される。また、パーソナルケア製品には、婦人用ナプキン、おむつなどの形態、炎症を起こした皮膚、負傷した皮膚、又は座瘡に冒された皮膚のため、又は術後使用のための、応急消毒剤などの形態も挙げることができる。
本発明の抗菌剤を含む好適なスキンケア製品は、以下に限定されないが、例えば、化粧水、乳液、保湿剤、日焼け止め剤、アンチエイジング剤などが挙げられる。また、スキンケア製品は、特定の補助成分を含んでいても良く、前記補助成分としては、例えば、抗菌及び抗カビ活性物質、界面活性剤、剥離活性物質、抗ニキビ活性物質、抗しわ活性物質、抗皮膚萎縮活性物質、酸化防止剤、ラジカルスカベンジャー、キレート剤、フラボノイド、抗炎症剤、抗セルライト剤、局所麻酔剤、日焼け活性物質、日焼け止め活性物質、コンディショニング剤、増粘剤、粘着性除去剤、賦香剤、皮膚感覚剤、制汗剤、及びこれらの混合物が挙げられる。
本発明の抗菌剤は、工業用用途にも用いることができ、例えば、塗料、インク、樹脂エマルション、金属加工油、種々の産業用水(例えば、製紙パルプ工場で使用される水、冷却水循環工程で使用される冷却水など)、接着剤(例えば、水性又は親水性接着剤、油性接着剤など)、フィルム材料(例えば、塗工紙、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムなど)、プラスチック製品(例えば、ハウジング、ケーシングなどの成形体など)、セメント混和剤、建材(例えば、石膏ボード、プラスター、天井材、繊維壁、各種目地剤、シーラント、壁紙など)などに用いることができる。
以下、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[アミン価の測定法]
ポリエチレンイミンのアミン価は、メタノール溶液中で、0.5mol/Lのp−トルエンスルホン酸標準溶液を用いた電位差滴定により算出した。
ポリエチレンイミンのアミン価は、メタノール溶液中で、0.5mol/Lのp−トルエンスルホン酸標準溶液を用いた電位差滴定により算出した。
[グリシジルエーテル(GE)の転化率]
グリシジルエーテルの転化率は、反応液中に残存するグリシジルエーテルの量を、検出器にFIDを備えるガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製;GC−2010)を用いて、内部標準法で定量することにより算出した。
グリシジルエーテルの転化率は、反応液中に残存するグリシジルエーテルの量を、検出器にFIDを備えるガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製;GC−2010)を用いて、内部標準法で定量することにより算出した。
[窒素原子あたりの置換基の導入量]
ポリアルキレンイミン誘導体の窒素原子あたりの置換基の導入量(モル%)は以下の式から算出される。
ポリアルキレンイミン誘導体の窒素原子あたりの置換基の導入量(モル%)は以下の式から算出される。
[重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法]
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定は、HLC−8320GPC EcoSEC(東ソー株式会社製)を用いて以下の条件で行った。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定は、HLC−8320GPC EcoSEC(東ソー株式会社製)を用いて以下の条件で行った。
カラム:SHODEX OHpak SB−802.5HQ、SB−803HQ
カラム温度:40℃
溶離液:0.5M酢酸+0.2M硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=50/50(体積比)
検出器:RI
検量線:標準ポリエチレングリコール(アジレントテクノロジー(株)社製)。
カラム温度:40℃
溶離液:0.5M酢酸+0.2M硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=50/50(体積比)
検出器:RI
検量線:標準ポリエチレングリコール(アジレントテクノロジー(株)社製)。
[ポリアルキレンイミン誘導体の1モル当たりに付加されてなる置換基のモル数]
ポリアルキレンイミン誘導体の1モル当たりに付加されてなる置換基のモル数は以下の式から算出される。
ポリアルキレンイミン誘導体の1モル当たりに付加されてなる置換基のモル数は以下の式から算出される。
[ポリエチレンイミン誘導体の合成]
(製造例1〜20)
下記表1に示される重合体1〜20を下記の手順で合成した。なお、原料は以下のものを用いた。
(製造例1〜20)
下記表1に示される重合体1〜20を下記の手順で合成した。なお、原料は以下のものを用いた。
ポリエチレンイミン(PEI)
・エポミン(登録商標)SP−006(数平均分子量:600[カタログ値]、重量平均分子量:745)、SP−012(数平均分子量:1200[カタログ値]、重量平均分子量:1025)、SP−018(数平均分子量:1800[カタログ値]、重量平均分子量:1276)((株)日本触媒製)。なお、上記エポミン(登録商標)の数平均分子量[カタログ値]は、沸点上昇法によって測定された値である。
・エポミン(登録商標)SP−006(数平均分子量:600[カタログ値]、重量平均分子量:745)、SP−012(数平均分子量:1200[カタログ値]、重量平均分子量:1025)、SP−018(数平均分子量:1800[カタログ値]、重量平均分子量:1276)((株)日本触媒製)。なお、上記エポミン(登録商標)の数平均分子量[カタログ値]は、沸点上昇法によって測定された値である。
グリシジルエーテル(GE)
・ブチルグリシジルエーテル(東京化成工業(株)製、エポキシ当量130)
・2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(デナコール(登録商標)EX−121;ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量187)
・ラウリルグリシジルエーテル(デナコール(登録商標)EX−192;ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量281)。
・ブチルグリシジルエーテル(東京化成工業(株)製、エポキシ当量130)
・2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(デナコール(登録商標)EX−121;ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量187)
・ラウリルグリシジルエーテル(デナコール(登録商標)EX−192;ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量281)。
温度計、還流冷却器、攪拌装置を備えた500mLの四つ口フラスコに、下記表1に示される種類及び量のポリエチレンイミン(PEI)を仕込み、攪拌しながら下記表1に示される種類及び量のグリシジルエーテル(GE)を滴下した。この混合物を55℃に昇温して8時間反応させ、重合体を得た。ガスクロマトグラフィーで未反応のグリシジルエーテルを分析し、グリシジルエーテルの転化率を算出して、下記表1に「GE転化率(%)」として示す。また、ポリエチレンイミンの窒素原子あたりの置換基の導入量を算出して、下記表1に「置換基の導入量(モル%)」として示す。
[最小発育阻止濃度(MIC)]
抗菌剤を含む水溶液をミューラーヒントン培地中で2倍ずつ順次希釈していき、抗菌剤含有培地の希釈系列を調製した。その後、各濃度の抗菌剤を含有する培地をポリスチレン製96穴プレートに50μLずつ添加した。次に、18時間ミューラーヒントン寒天培地上で生育させた、大腸菌(Escherichia coli、NBRC−3972)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、NBRC−12732)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、NBRC−13275)のコロニーをそれぞれバターフィールド緩衝液に懸濁し、10×108個/mL程度の菌液を調製した。調製した菌液をミューラーヒントン培地中で10×106個/mL程度まで希釈し、上記で調製した希釈系列に対して50μLずつ添加した。35℃にて20時間静置後、菌が生育していない培地中の最小の抗菌剤濃度(質量ppm)を最小発育阻止濃度(MIC)として決定した。菌の生育の有無は、目視にて濁度が上昇しているかによって判断した。
抗菌剤を含む水溶液をミューラーヒントン培地中で2倍ずつ順次希釈していき、抗菌剤含有培地の希釈系列を調製した。その後、各濃度の抗菌剤を含有する培地をポリスチレン製96穴プレートに50μLずつ添加した。次に、18時間ミューラーヒントン寒天培地上で生育させた、大腸菌(Escherichia coli、NBRC−3972)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、NBRC−12732)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、NBRC−13275)のコロニーをそれぞれバターフィールド緩衝液に懸濁し、10×108個/mL程度の菌液を調製した。調製した菌液をミューラーヒントン培地中で10×106個/mL程度まで希釈し、上記で調製した希釈系列に対して50μLずつ添加した。35℃にて20時間静置後、菌が生育していない培地中の最小の抗菌剤濃度(質量ppm)を最小発育阻止濃度(MIC)として決定した。菌の生育の有無は、目視にて濁度が上昇しているかによって判断した。
[50%溶血濃度(HC50)]
羊全血10ml(羊無菌保持血液、ジャパン・ラム(有)製)を遠沈管に取り、2000rpm、10分間遠心した。遠心後、ピペッターで上澄みをできるだけ除去し、残った沈殿の赤血球を1ml取ってトリスバッファー(10mM Tris−HCl 150mM NaCl水溶液、pH7.3)を9ml添加した。これを5回程度ゆっくりと転倒混和し、再度2000rpm、10分間遠心した。ここで上澄みを8ml丁寧に除去し、トリスバッファー8mlを添加して赤血球ストック溶液とした。このストック溶液を10倍希釈して希釈系列を作製し、赤血球数をカウントして7.5×106個/mlとなるように調製して赤血球溶液とした。次に、抗菌ポリマーをトリスバッファーで2倍ずつ順次希釈していき、抗菌ポリマー希釈系列を調製した。この抗菌ポリマー希釈系列を50μlずつ、ポリスチレン製96穴プレートに添加した。続けて、先ほど調製した赤血球溶液を50μlずつ、抗菌ポリマー希釈系列の入った96穴プレートに添加し、37℃で250rpmで1時間振盪した。その後、1000rpm、5分間遠心し、上澄み液40μlを新しい96穴プレートに取得し、トリスバッファー60μlで希釈して、415nmにおける吸光度を測定した。ここで、ネガティブコントロールとしてトリスバッファー、ポジティブコントロールとして1%トリトン−X溶液を使用して同様に実施し、50%溶血する際の415nmにおける吸光度を計算し、この吸光度を超えた最小の抗菌ポリマー濃度を50%溶血濃度(HC50)とした。
羊全血10ml(羊無菌保持血液、ジャパン・ラム(有)製)を遠沈管に取り、2000rpm、10分間遠心した。遠心後、ピペッターで上澄みをできるだけ除去し、残った沈殿の赤血球を1ml取ってトリスバッファー(10mM Tris−HCl 150mM NaCl水溶液、pH7.3)を9ml添加した。これを5回程度ゆっくりと転倒混和し、再度2000rpm、10分間遠心した。ここで上澄みを8ml丁寧に除去し、トリスバッファー8mlを添加して赤血球ストック溶液とした。このストック溶液を10倍希釈して希釈系列を作製し、赤血球数をカウントして7.5×106個/mlとなるように調製して赤血球溶液とした。次に、抗菌ポリマーをトリスバッファーで2倍ずつ順次希釈していき、抗菌ポリマー希釈系列を調製した。この抗菌ポリマー希釈系列を50μlずつ、ポリスチレン製96穴プレートに添加した。続けて、先ほど調製した赤血球溶液を50μlずつ、抗菌ポリマー希釈系列の入った96穴プレートに添加し、37℃で250rpmで1時間振盪した。その後、1000rpm、5分間遠心し、上澄み液40μlを新しい96穴プレートに取得し、トリスバッファー60μlで希釈して、415nmにおける吸光度を測定した。ここで、ネガティブコントロールとしてトリスバッファー、ポジティブコントロールとして1%トリトン−X溶液を使用して同様に実施し、50%溶血する際の415nmにおける吸光度を計算し、この吸光度を超えた最小の抗菌ポリマー濃度を50%溶血濃度(HC50)とした。
結果を下記表1に示す。
上記表1の結果より、実施例1〜11の本発明に係る低溶血性抗菌剤(重合体1〜11)は十分な抗菌性を有し、かつ、溶血性が低く抑えられたものであることが示された。
一方、置換基の導入量が20%未満である比較例1(重合体12)は、実施例1〜11(重合体1〜11)と比較して、大腸菌、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌に対する最小生育阻止濃度(MIC)の値が大きく、抗菌性が十分とは言えないものであった。
また、炭化水素基(R1)の炭素数が6以上である比較例2〜9(重合体13〜20)は、大腸菌、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌についての(MIC/HC50)がいずれも1以上であり、微生物の生育を阻止するのに必要な濃度においては溶血性が十分に抑制できないものであることが分かった。
本発明のポリアルキレンイミン誘導体を用いた抗菌剤は、消毒剤や、採血器具、カテーテル、採血用ステント等の医療器具;家庭用プール用抗菌剤等の衛生管理剤用途;洗濯洗浄剤、柔軟剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧品、制汗剤等のパーソナルケア用途;塗料、木材防腐剤、セメント混和剤、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)などの工業用途等に用いることができる。
Claims (5)
- ポリアルキレンイミンの窒素原子に、下記式(1)の構造を有する置換基が全窒素原子に対して20モル%以上の割合で付加してなるポリアルキレンイミン誘導体を含む、低溶血性抗菌剤:
- 前記ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである、請求項1に記載の低溶血性抗菌剤。
- 前記ポリアルキレンイミン誘導体の重量平均分子量(Mw)が800〜3,000である、請求項1又は2に記載の低溶血性抗菌剤。
- 前記R1は炭素数4のアルキル基を表す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の低溶血性抗菌剤。
- 下記(1)及び(2)を満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の低溶血性抗菌剤;
(1)大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の最小発育阻害濃度(MIC)がそれぞれ500質量ppm未満であり、
(2)羊赤血球の50%溶血濃度(HC50)に対する、大腸菌、黄色ブドウ球菌、及び緑膿菌の最小発育阻害濃度(MIC)の割合が、それぞれ1未満である。
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