以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書においては、試料の一例として微粒子の分析方法について説明するが、試料の種類は、分析装置における分析対象となり得るものであれば特に限定されない。ここで、「微粒子」とは、例えば、粒子径が10μm以下である粒子状物質のことを意味する。ただし、本発明は、粒子状物質の中でも、特にPM2.5の分析を対象としている。従って、以下の実施形態では、分析対象である粒子状物質がPM2.5である場合について説明を行うこととし、以下の実施形態についての説明において、「微粒子」との表現は、特に記載のない限り、PM2.5のことを意味することとする。ただし、本発明はかかる例に限定されず、粒子径が10μm以下であるような他の大きさの微粒子に対しても好適に適用可能である。
<1.分析装置の概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る分析装置1の構成を水平方向から見た概略図である。図1に示すように、分析装置1は、分析室10、予備排気室11、シャッター12、トランスファーロッド13、治具14、および温度制御装置15を備える。
なお、図1に示すX軸、Y軸およびZ軸は、他の図面におけるX軸、Y軸およびZ軸と共通である。すなわち、図1においてX軸方向はトランスファーロッド13による試料ホルダ4の搬送方向に相当し、Y軸方向は当該搬送方向と水平面上で直交する方向に相当し、Z軸方向は、分析装置1の高さ方向(深さ方向)に相当する。
分析室10は、集束イオンビーム照射器101、分析計103、電子ビーム照射器105、二次電子検出器107およびサンプルステージ111を備える。これらの構成要素は、分析室10の内側のチャンバ内に設けられる。かかる分析室10は、微粒子の一粒子解析に用いられる微粒子分析装置、例えばFIB−TOF−SIMS(Focused Ion Beam−Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectroscopy)装置による分析を行うための空間である。
解析対象である微粒子2はフィルタ3上に保持されており、フィルタ3は試料ホルダ4上に保持されている。微粒子2(例えば、PM2.5)は、採取した粒子群(例えば大気中の粒子群)を、粒子径ごとに分級器によって分級することによって得られる。本実施形態では、微粒子2の捕集方法は限定されず、各種の公知の方法が用いられてよい。例えば、分級器としては、バーチャルインパクタ、サイクロン式分級器等、各種の公知の装置が用いられてよい。また、フィルタ3としては、シリカフィルタや、Siウェハー等、一般的に分級器において粒子を分級し捕集する際に用いられている各種の公知のものが用いられてよい。なお、図1等では、模擬的に、微粒子2を表す1つの球体を図示しているが、実際には、フィルタ3上に多数の微粒子2(すなわち、微粒子群)が捕集されている。
サンプルステージ111は、分析室10の内部に導入された試料ホルダ4を支持する。サンプルステージ111は上下および水平面内方向に移動可能に設けられる。サンプルステージ111の駆動制御は、不図示の駆動制御装置により行われる。また、サンプルステージ111の内部には温度制御装置15と接続する導入管113が配設されている。導入管113の内部には、サンプルステージ111の温度を調整するための冷媒(例えば、液体窒素)が流通している。かかる温度は、温度制御装置15により制御され得る。これにより、サンプルステージ111上に載置される試料ホルダ4(すなわち微粒子2)の温度を制御することができる。
集束イオンビーム照射器101は、サンプルステージ111上に載置された試料ホルダ4上の微粒子2に集束イオンビームを照射する。かかる集束イオンビーム照射器101は、イオンビームを微粒子2の表面において数十nmのレベルまで集束させることが可能であることが好ましい。集束イオンビーム照射器101としては、一般的に微粒子の一粒子解析に用いられる微粒子分析装置(例えば、FIB−TOF−SIMS装置や、特許文献1、および非特許文献1に記載の微粒子分析装置)において用いられているものが適宜適用されてよい。例えば、集束イオンビーム照射器101としては、Gaイオン源からイオンビームを取り出し照射するものが用いられ得る。また、かかるイオン源は、Gaの他に、ビスマス(Bi)または金(Au)等であってもよい。集束イオンビーム照射器101は、微粒子2に対して照射されるイオンビームの照射角度が、サンプルステージ111に対する伏角が略45度となるように、任意の高さに設けられることが好ましい。
分析計103は、イオンビームが照射された微粒子2から飛来する物質を検出し、検出された物質について分析を行う分析計である。本実施形態に係る分析計103として、例えば、飛行時間型質量分析計(Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMS)が用いられる。飛行時間型質量分析計とは、微粒子2についてSIMS分析を行うための質量分析計である。本実施形態に係る分析計103は、集束イオンビーム照射器101によって集束イオンビームが照射されることにより微粒子2から生じる二次イオン(飛来する物質の一例)について、質量分析を行う。分析計103による質量分析の結果に基づいて、集束イオンビームが照射されている微粒子2の成分を分析することができる。なお、分析計103は、試料ホルダ4の載置位置の略鉛直上方に設けられることが好ましい。
なお、分析計103として、例えば四重極質量分析計または二重収束型質量分析計など、種々の公知の質量分析計が用いられてもよい。ただし、本実施形態に係る分析手法の分析対象であるPM2.5等の微粒子を分析対象とする場合、上述した飛行時間型質量分析計を用いることが好ましい。飛行時間型質量分析計を用いることにより、数nmレベルの分解能で、微粒子2の元素および分子情報を広い質量範囲で取得することが可能である。すなわち、微粒子2の特定精度が向上し得る。
電子ビーム照射器105は、サンプルステージ111上に載置された試料ホルダ4上の微粒子2を含む微粒子群に対して電子ビームが照射される。かかる電子ビームは当該微粒子群に対して走査され、その電子ビームの走査によって微粒子群から発生した二次電子が二次電子検出器107により検出される。これにより、試料ホルダ4上の微粒子群のSEM(Scanning Electron Microscopy)像を取得することができる。当該SEM像からは、微粒子2の形状、大きさ(粒子径)、および発生源を特定するために有用な情報を、微粒子2ごとに得ることができる。また、当該SEM像を用いて微粒子群の中から解析対象とする1つの微粒子2が特定されてもよい。
1粒子解析を行う際には、高真空下において、フィルタ3上の微粒子群のうちで、解析対象とする1つの微粒子2に対して、集束イオンビーム照射器101から集束イオンビームが照射される。集束イオンビームの照射により微粒子2の表面を構成する原子がスパッタリングされ、二次イオンが放出される。二次イオンは分析計103により検出され、得られた二次イオンが分析計103によって分析される。なお、微粒子群の中から解析対象とする1つの微粒子2を特定する際には、フィルタ3上の微粒子群に対して集束イオンビームを走査して全二次イオン像を生成し、当該全二次イオン像に基づいて当該解析対象とする1つの微粒子2が特定されてよい。
また、電子ビーム照射器105および二次電子検出器107を用いる場合、分析計103により分析される微粒子2の成分についての情報に加えて、微粒子2のフィルタ3上の位置および微粒子2の形状等についての情報をさらに得ることが可能となる。したがって、発生源の特定の精度を更に向上させることができる。
また、分析室10における装置構成によって実現可能な分析であれば、既存の微粒子分析装置において一般的に行われている各種の公知の分析が更に行われてもよい。例えば、上記非特許文献1に記載されているように、集束イオンビームの照射により微粒子2から発生した二次電子を検出することにより、SIM(Scanning Ion Microscopy)像が得られてもよい。この場合、当該SIM像に基づいて微粒子2の形状や粒子径等が測定されてもよい。また、SIM像による微粒子2および微粒子群の特定が可能であれば、電子ビーム照射器105および二次電子検出器107は、必ずしも分析室10に備えられなくてもよい。
予備排気室11は、分析室10と接続されて設けられ、微粒子2等の試料を設置した試料ホルダ4を導入または導出するためのものである。予備排気室11に試料ホルダ4を設置した後、予備排気室11の内部を排気して真空引きを行う。予備排気室11の内部の圧力が所定の真空度に達した際に、シャッター12が開き、試料ホルダ4を分析室10の内部に導入することができる。試料ホルダ4の分析室10と予備排気室11との往復の搬送は、トランスファーロッド13により行われる。トランスファーロッド13は予備排気室11の外部から内部にX軸方向に沿って貫通しており、その先端と試料ホルダ4とを着脱させることにより、試料ホルダ4をサンプルステージ111上に載置させることができ、また、サンプルステージ111から試料ホルダ4を回収することができる。
また、本実施形態に係る予備排気室11には、治具14が設けられる。詳細は後述するが、治具14は、予備排気室11の下方から内部に挿入されZ軸方向に沿って移動可能であり、後述する試料ホルダカバー5の留め具52を外部から操作可能に設けられ、留め具52による試料ホルダカバー5の閉じた状態を解除するために用いられる。
以上、本実施形態に係る分析装置1の構成の一例について説明した。このような分析装置1を用いて、微粒子2の構成元素を分析することができる。
ところで、上述したように、本実施形態に係る分析装置1の分析対象は、PM2.5など、いずれかの発生源において発生し、当該発生源から飛来して観測される微粒子である。このような微粒子においては、その飛来過程で油分または水分が表面に付着していることがある。このような油分または水分は、微粒子の表面を覆うように存在していたり、微粒子と反応して化合物等を形成したりする場合がある。
図2は、微粒子2の構成の一例を示す図である。図2に示すように、微粒子2は、内部の固体部分および表面の液体部分により構成されることがある。この固体部分は発生源における微粒子2の生成過程において生じ得る固体の化合物であるが、液体部分は、微粒子2の飛来過程において大気中の油分または水分等が微粒子2の表面に付着し得るものである。かかる水分には、任意のイオンが含まれる場合もある。
微粒子2の表面に付着した油分または水分は、微粒子2の飛来過程において微粒子2の表面に新たに生成されるものであるから、微粒子2の発生源を特定するための重要な情報を含み得る。しかしながら、油分または水分は常温高真空下において容易に揮発してしまうため、例えば本実施形態に係る分析装置1を常温で用いる場合においては、これらの油分または水分を分析することはできない。
そこで、例えば、上述した非特許文献2には、試料を液化プロパン等の冷媒により凍結させ、凍結された状態の試料を分析装置に導入する技術が開示されている。かかる技術を用いれば、微粒子2の表面に付着した油分または水分が凍結されるので、分析室10の内部においても揮発しない。そのため、油分または水分の分析をすることは可能である。
しかしながら、微粒子2の発生源を特定するためには、微粒子2の飛来過程のみならず、微粒子2の生成過程を特定することが求められる。すなわち、微粒子2の内部の固体部分の構成元素を明らかにすることが求められる。そうすると、微粒子2の固体部分を分析するためには、微粒子2の表面に付着した油分または水分を除去することが求められる。
油分または水分の除去は、例えば、非特許文献1に記載されたスパッタリングによる除去が考えられる。しかし、スパッタリングの過程において微粒子が損傷または変質してしまうため、分析結果により推定される微粒子の構成と分析前の実際の微粒子の構成が異なってしまう。そうすると、発生源を正確に特定することは困難となる。
他にも、非特許文献2に記載された技術により凍結された油分または水分を、微粒子2の温度を上昇させることにより揮発させることは可能である。しかし、非特許文献2に記載された方法では、冷却された微粒子2を保持する試料ホルダ4を冷媒から取り出した際に試料ホルダ4の表面に付着する霜が、分析室10の内部において揮発してしまう。そうすると、分析室10の内部の真空度が低下し、また、霜の揮発により生じるガスが、集束イオンビームおよび放出される二次イオンと衝突してしまい、二次イオンを正確に検出できず、微粒子2の分析を行うことが困難となる。
また、非特許文献2に記載された技術により微粒子2の表面に付着した油分または水分を凍結して保持したまま、非特許文献1に記載された技術により微粒子2のスパッタリングを行ってから内部物質を分析しようとしても、スパッタリングの過程において微粒子2が損傷または変質してしまう。そのため、分析結果により推定される微粒子2の構成と分析前の実際の微粒子2の構成が異なってしまい、微粒子2の発生源を正確に特定することは困難である。
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、本発明に係る分析方法に想到した。本発明に係る技術によれば、微粒子2を保持する試料ホルダ4を冷媒中で冷却している状態で試料ホルダ4を囲って覆う試料ホルダカバー5を試料ホルダ4に取り付け、当該冷媒中から試料ホルダ4を試料ホルダカバー5ごと取り出したのち、試料ホルダ4および試料ホルダカバー5を予備排気室11に設置する。そして、予備排気室11の内部を真空引きした後、予備排気室11の内部で試料ホルダカバー5を試料ホルダ4から取り外す。試料ホルダカバー5が取り外された試料ホルダ4は、その後分析室10にトランスファーロッド13により搬送される。
試料ホルダカバー5が試料ホルダ4を囲って覆うことにより、冷媒から大気中に試料ホルダ4を取り出したとしても、試料ホルダ4の表面ではなく試料ホルダカバー5の表面に霜が付着し得る。そして、予備排気室11の内部において試料ホルダカバー5を取り付けながら真空引きし、予備排気室11の内部で試料ホルダカバー5が取り外される。こうすることで、試料ホルダカバー5に霜が付着した状態で予備排気室11において霜が取り除かれ、または、揮発した霜が予備排気室11において系外に排出される。よって、分析室10の内部に霜が導入されないので、分析室10の真空度を低下させず、また、イオンビームによる分析をより精度高く行うことが可能となる。
<2.分析方法>
以下、本実施形態に係る分析方法の詳細について説明する。まず、分析方法の流れを説明する前に、本実施形態に係る分析方法において用いられる試料ホルダカバー5の構成について説明する。
図3A〜図3Dは、本実施形態に係る試料ホルダカバー5の構成の一例を示す図である。図3A、図3B、図3Cおよび図3Dは、それぞれ正面図、側面図、上面図および下面図である。
図3A〜図3Dを参照すると、本実施形態に係る試料ホルダカバー5は、カバー本体50、ヒンジ51および留め具52を有する。
カバー本体50は、試料ホルダカバー5を主に構成する本体である。カバー本体50の材質は断熱性に優れているものが好ましく、例えば、PEEK等の樹脂であることが好ましい。なお、試料ホルダカバー5を構成する他の部材についても、同様の材質であることが好ましい。
図3A等に示すように、カバー本体50は二つの箱状体50a、50bからなり、これらの箱状体50a、50bが上部に設けられるヒンジ51を介して接続されている。そして、ヒンジ51を回転軸としてこれらの箱状体50a、50bがそれぞれ回動することにより、カバー本体50が開閉される。
図3Bに示すように、ホルダカバー5の側面の、カバー本体50が閉じた状態における二つの箱状体50a、50bが互いに当接する部分には、穴部53が形成される。かかる穴部53は、試料ホルダカバー5が試料ホルダ4をその内部に保持している状態において、トランスファーロッド13と試料ホルダ4とを接続するための固定ロッド6を挿通するために設けられる。
この固定ロッド6の一方は試料ホルダ4に接続可能に設けられ、他方はトランスファーロッド13に接続可能に設けられる。これにより、試料ホルダカバー5が取り付けられた試料ホルダ4に、トランスファーロッド13を接続することができる。
例えば、試料ホルダ4の側面には雌ねじを有する穴が形成され、試料ホルダ4と接続する側の固定ロッド6の端部には雄ねじが形成されていてもよい。また、トランスファーロッド13と接続する側の固定ロッド6の端部には、トランスファーロッド13の端部に形成されている雄ねじに対応する雌ねじを有する穴が設けられていてもよい。その際、試料ホルダ4側のねじと、トランスファーロッド13側のねじは、送り方向が逆向きとなるように形成され得る。これにより、後述する試料ホルダカバー5の取り外しと、固定ロッド6の取り外しとをどちらも行うことができる。
なお、固定ロッド6は、試料ホルダ4と一体的に形成されるものであってもよい。後述するように、トランスファーロッド13により試料ホルダカバー5が取り付けられた試料ホルダ4を支持可能または回転可能であり、試料ホルダカバー5が取り外された後の試料ホルダ4を予備排気室11と分析室10との間で搬送可能であれば、固定ロッド6の構成は特に限定されない。
留め具52は、カバー本体50の下面側の、二つの箱状体50a、50bのいずれか一方に設けられる。留め具52は、二つの箱状体50a、50bを掛止し、カバー本体50が閉じた状態を保持するものである。留め具52によるカバー本体50の閉じた状態(ロック状態)は、予備排気室11に設けられた治具14による操作により解除が可能である。かかる治具14の操作は、予備排気室11の外部において作業者等により行われ得る。留め具52、および留め具52によるロック状態を解除する治具14の機構は特に限定されない。例えば、留め具52は、弾性体により形成され、治具14により留め具52をカバー本体50側に押込むことでロック状態が解除される機構を有してもよい。また、留め具52は、ねじ構造を有し、カバー本体50を閉じた状態において留め具52がカバー本体50に締結され、治具14の先端に設けられるドライバー部分により留め具52を緩めることによりロック状態が解除されてもよい。このような治具14を用いることにより、予備排気室11が密閉された状態でも試料ホルダカバー5を容易に開放することができる。
また、カバー本体50による密閉の程度は、詳しくは後述するが、厳密でなくてもよい。厳密でない程度とは、例えば、二つの箱状体50a、50bの互いの当接面においては、特段シール材等を設けることをせず、互いの当接面が直接当接することにより内部を密閉する程度のもので十分ということを意味する。より具体的には、厳密でない程度とは、カバー本体50の内部において、固体または液体のものは保持可能であるが、当該固体または液体が気化した際に、気化した気体が必ずしも保持されるような気密性を有していなくてもよい程度という意味である。
図4は、本実施形態に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。以下、図4のフローチャートを参照しながら、本実施形態に係る分析方法の流れについて説明する。
(ステップS101:試料・分析室冷却工程)
本実施形態に係る分析方法では、まず、微粒子2、および微粒子2を保持する試料ホルダ4を冷却する。図5は、試料・分析冷却工程における試料の冷却処理の状態を示す図である。図5を参照すると、本工程では、容器20に満たされた液体窒素21の中に、微粒子2、および微粒子2を保持する試料ホルダ4が浸漬されている。なお、試料ホルダ4には予め固定ロッド6が接続されている。
また、分析室10においては、予めサンプルステージ111が、所定の温度となるように冷却される。
(ステップS103:試料ホルダカバー取付け工程)
次に、微粒子2を冷却しながら、試料ホルダ4に試料ホルダカバー5を取り付ける。その際、試料ホルダ4は液体窒素21に浸漬しながら、試料ホルダカバー5を液体窒素21中で取り付ける。試料ホルダカバー5の取り付けにはピンセット等の適当な治具が用いられ得る。
図6は、試料ホルダカバー取付け工程における試料ホルダカバー5の取付け状態を示す図である。液体窒素21中で試料ホルダカバー5を試料ホルダ4に取り付けるので、試料ホルダカバー5の内側は液体窒素Lが充満する。これにより、微粒子2、フィルタ3および試料ホルダ4の表面は液体窒素Lにより覆われた状態となる。
(ステップS105:試料ホルダ設置工程)
次に、液体窒素21により冷却した微粒子2を保持する試料ホルダ4を、試料ホルダカバー5ごと予備排気室11に設置する。
図7は、試料ホルダ設置工程における試料ホルダ4の設置状態を示す図である。図7を参照すると、予備排気室11の内部に試料ホルダ4を設置する際に、試料ホルダ4に取り付けられている固定ロッド6をトランスファーロッド13の先端に接続させる。これにより、トランスファーロッド13による試料ホルダ4の搬送等の操作が可能になる。
予備排気室11の内部に試料ホルダ4を設置した時点においては、試料ホルダカバー5の内部は液体窒素Lが充満している。そのため、試料ホルダ4を容器20から予備排気室11に移動させるときに、微粒子2、フィルタ3および試料ホルダ4の表面には大気中の水分が凝着しにくくなる。
(ステップS107:予備排気工程)
予備排気室11の内部の試料ホルダ4の設置が完了すると、予備排気室11を密閉し、排気(予備排気)が行われる。予備排気は、図1では不図示の排気装置(真空ポンプ、ターボ分子ポンプ、もしくはクライオポンプ等の公知の排気装置またはその組み合わせ)により行われる。予備排気は、予備排気室11が所定の真空度(例えば、10−4Pa〜10−5Pa程度)に到達するまで行われる。
図8は、予備排気工程における試料ホルダ4の状態を示す図である。予備排気においては、予備排気室11の内部の圧力が低下することから、試料ホルダカバー5の内部に充満していた液体窒素Lが気化する。気化した窒素は、試料ホルダカバー5の隙間(例えば、二つの箱状体50a、50bの互いの当接面の隙間、または穴部53等)から外部に漏れ出て(矢印N1)、系外に排出され得る。
このとき、試料ホルダカバー5の表面においては、試料ホルダ4を容器20から予備排気室11に移動させるときに付着した霜が部分的に揮発することもある。しかし、試料ホルダカバー5の内部から外部に窒素N1が漏れ出るため、揮発した霜の水分が試料ホルダカバー5の内部に浸入しにくくなる。これにより、試料ホルダ4の表面に霜が付着しにくくなる。
(ステップS109:試料ホルダカバー取外し工程)
所定の真空度まで到達した後、試料ホルダカバー5を試料ホルダ4から取り外す。試料ホルダカバー取外し工程について、図9〜図11を参照しながら説明する。
図9は、試料ホルダカバー取外し工程における試料ホルダカバー5の留め具52によるロック状態を解除する操作を示す図である。図9に示すように、予備排気室11の下部において外部から内部に挿入されている治具14をZ軸方向に移動させ、治具14の先端を留め具52に係合させる。係合した状態で治具14を用いて所定の操作を行うことにより、留め具52によるロック状態が解除され、試料ホルダカバー5は開放状態となる。
図10は、試料ホルダカバー取外し工程における留め具52によるロック状態が解除された後の試料ホルダカバー5の状態を示す図である。図10に示すように、留め具52によるロック状態が解除されることにより、箱状体50aおよび箱状体50bがヒンジ51を回転軸として相対的に回動し、試料ホルダカバー5が開放される。
次に、トランスファーロッド13を用いて、試料ホルダカバー5を試料ホルダ4から完全に取り外す。図11は、試料ホルダカバー取外し工程における試料ホルダカバー5の取外しの操作および状態を示す図である。図10に示す状態において、試料ホルダカバー5が回転可能な状態となるように試料ホルダ4を調整した後、トランスファーロッド13を回転させて、試料ホルダ4をトランスファーロッド13の長尺方向に平行な軸を中心に180度回動させる。そうすると、図11に示すように、試料ホルダカバー5が、試料ホルダ4から振り落とされることにより、試料ホルダ4から取り外される。落下した試料ホルダカバー5は、予備排気室11の下部に設けられる不図示のボックス等に収容され得る。
このように、予備排気室11の内部において所定の真空度に達した後に試料ホルダカバー5を試料ホルダ4から取り外すことにより、昇温時において真空度および分析精度に悪影響を及ぼし得る霜を、試料ホルダカバー5ごと強制的に予備排気室11の内部で排除することができる。これにより、分析室10の内部への霜の浸入を抑制することができる。したがって、後段の分析工程において微粒子2を昇温させる場合であっても、霜による真空度および分析精度への影響を抑制することが可能となる。
なお、本実施形態に係る試料ホルダカバー5の形状、構造および機構、並びに本ステップS109における試料ホルダカバー5の取外し工程で示した具体的な取外し手段についてはあくまでも例示であり、予備排気室11の内部において試料ホルダカバー5を試料ホルダ4から取り外すことが可能であるならば、試料ホルダカバー5の形状、構造および機構、並びに試料ホルダカバー5の取外し手段については特に限定されない。
(ステップS111:搬送工程)
次に、試料ホルダカバー5が取り外された試料ホルダ4を、分析室10に搬送する。図12および図13は、搬送工程における試料ホルダ4の分析室10への搬送に係る操作、および搬送後の操作を示す図である。
図12に示すように、試料ホルダカバー5を試料ホルダ4から取り外した後、予備排気室11の内部が所定の真空度を満たしていれば、シャッター12が開放される。かかるシャッター12の開放は、手動により、または上記所定の真空度に基づき制御されるアクチュエータ等により操作されてもよい。
シャッター12の開放後、トランスファーロッド13を用いて、試料ホルダ4を分析室10の内部に導入し、試料ホルダ4をサンプルステージ111上に載置させる。
次に、図13に示すように、試料ホルダ4の載置後、トランスファーロッド13を試料ホルダ4から分離して、トランスファーロッド13の先端部分を予備排気室11の内部へと引き戻す。その際、固定ロッド6は、試料ホルダ4から取り外され、トランスファーロッド13とともに予備排気室11の内部へ引き戻されてもよい。これにより、固定ロッド6を回収でき、他の試料ホルダに使用することが可能となる。トランスファーロッド13の引き戻し後、シャッター12が閉じられ、分析室10と予備排気室11とが隔絶される。
(ステップS113:分析工程)
試料ホルダ4がサンプルステージ111に載置された後に、集束イオンビーム照射器101および分析計103等を用いた微粒子2の分析が行われる。その際、微粒子2の内部の分析を行うことを目的として微粒子2の表面に付着した油分または水分を揮発させるため、サンプルステージ111を昇温させる場合がある。このような場合においても、試料ホルダ4が分析室10に導入された時点において試料ホルダ4の表面には霜がほとんど付着していないので、サンプルステージ111の昇温による霜の揮発の影響が生じない。したがって、サンプルステージ111を昇温させても、分析室10の内部の真空度および分析精度の悪化を防止することができる。
これにより、かかる分析工程では、サンプルステージ111の温度(すなわち試料ホルダ4の温度)を制御して微粒子2の温度を変更しながら、微粒子2の分析を行うことも可能である。これにより、例えば、1つの微粒子2について、微粒子2の表面に付着した油分または水分、および微粒子2の内部の両方の分析を行うことが可能となる。
例えば、分析室10のサンプルステージ111に載置されたときに、まず第1分析ステップとして、微粒子2の温度が第1の温度となるように、試料ホルダ4の温度をサンプルステージ111を介して制御する。かかる第1の温度は、分析室10内の環境において、微粒子2の表面に付着した油分または水分が揮発しない温度である。この状態で集束イオンビーム照射器101および分析計103等を用いて微粒子2を分析した場合、その分析対象は微粒子2の表面に付着した油分または水分となる。
第1の温度における分析が完了した後、第2分析ステップとして、微粒子2の温度が第2の温度となるように、試料ホルダ4の温度を制御する。かかる第2の温度は、上記の第1の温度よりも高い温度であり、分析室10内の環境において、微粒子2の表面に付着した油分または水分が揮発する温度である。この状態で集束イオンビーム照射器101および分析計103等を用いて微粒子2を分析した場合、その分析対象は微粒子2の内部の固体部分となる。
これにより、微粒子2の表面と内部の双方を区別して分析することが可能である。したがって、双方の分析結果から微粒子2の飛来過程および生成過程のいずれも特定することができる。すなわち、微粒子2の発生源を高精度で特定することができる。
なお、上述した例は、第1の温度における分析と第2の温度における分析の2段階であるが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、微粒子2の温度を段階的にまたは連続的に変化させながら分析することも、本発明の範疇に含まれる。
以上、本実施形態に係る分析方法の流れについて説明した。
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、試料ホルダカバー5を用いた分析方法による、霜の除去の効果および分析結果の有効性について検証した。なお、以下の実施例は本発明の効果を検証するために行ったものに過ぎず、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
実験例1では、FIB−TOF−SIMSを用いた分析装置1により微粒子2の二次イオン像を取得し、その二次イオン像の描画精度について検証した。二次イオン像とは、微粒子2に対して集束イオンビームを照射することにより微粒子2から放出される二次イオンの検出信号に基づいて得られるマッピング像である。
本実験例では、微粒子2として環境中から採取された環境微粒子を用いた。環境微粒子はSi基板(フィルタ3に相当)上に配置された。かかる環境微粒子の分析では、実施例として上述した本発明に係る分析手法を適用させて、また、比較例として当該分析手法を適用させずに、二次イオン像を取得した。比較例では、予備排気室11への試料ホルダ4の設置の際、試料ホルダカバー5を用いずに環境微粒子および試料ホルダ4を冷却させてから予備排気室11に導入させた。分析時の試料ホルダ4の温度は比較例および実施例ともに−80度であった。
図14は、比較例および実施例に係る分析手法を用いた分析により得られた二次イオン像の一例である。図14に示すように、比較例に係る二次イオン像においては像が不鮮明であるのに対し、実施例に係る二次イオン像においては、粒子の形状が明確に示されていることが分かる。
高真空下において試料ホルダ4の温度が−80度であれば、試料ホルダ4に水分が付着している場合、かかる水分は揮発し得る。比較例においては、試料ホルダ4の表面に霜が付着していたため、霜の水分が揮発して、揮発した水分が二次イオンの検出に悪影響を及ぼした結果、不鮮明な二次イオン像が得られたものと考えられる。一方、実施例においては、試料ホルダ4の表面に霜が付着していなかったため、−80度の条件であっても二次イオンを精度高く検出することができたと考えられる。
(実験例2)
実験例2では、FIB−TOF−SIMSを用いた分析装置1により、本発明に係る分析手法を用いて水分が表面に付着した微粒子2に対してSIMS分析および二次イオン像の取得を行い、得られた分析結果について評価した。
本実験例では、微粒子2として硫酸ナトリウムを用いた。硫酸ナトリウムの表面には大気中の水分が付着しており、水分の一部は硫酸ナトリウムと水和物を形成している。かかる硫酸ナトリウムをIn基板上に配置した。そして、上述した分析手法を用いてIn基板を保持する試料ホルダ4を分析室10に導入し、最初に−115度で1回目のSIMS分析等を行った後、サンプルステージ111を昇温させて、−15度で2回目のSIMS分析等を行った。
図15および図16は、それぞれ1回目(−115度)および昇温後の2回目(−15度)におけるSIMS信号を示すスペクトルである。図15では、m/zが1から100までのスペクトル、図16では、m/zが101から200までのスペクトルがそれぞれ示されている。なお、A1に係るスペクトルとB1に係るスペクトルとは1回目に同時に測定され、A2に係るスペクトルとB2に係るスペクトルは2回目に同時に測定されたものである。
1回目に測定されたスペクトル(図15のA1、図16のB1)においては、H3O+、Na(H2O)2 +、In(H2O)x +など、水由来の信号が得られている。それに対し、2回目に測定されたスペクトル(図15のA2、図16のB2)においては、Na+およびIn+等の信号が得られており、水由来の信号はほとんど得られていない。
図17は、1回目(−115度)および昇温後の2回目(−15度)におけるH3O+、Na(H2O)2 +、In(H2O)+の二次イオン像を示す。図17に示すように、1回目に係る二次イオン像では水由来の信号強度が高いのに対して、2回目に係る二次イオン像では水由来の信号強度が0に近い。特に、Na(H2O)2 +に係るイオン像を比較すると、1回目の二次イオン像において円で囲った部分の信号強度が、2回目では0に近いことが分かる。かかる円で囲った部分は硫酸ナトリウムが存在する部分であるから、−115度では硫酸ナトリウムの表面に水分が付着しており、−15度に昇温した後にはかかる水分が揮発したと考えられる。この結果から、1回目の低温時には微粒子の表面に付着した水分を、2回目の高温時には微粒子の内部を分析することが可能であることが示された。
(実験例3)
実験例3では、FIB−TOF−SIMSを用いた分析装置1により、本発明に係る分析手法を用いて油分が表面に付着した微粒子2に対してSIMS分析を行い、得られた分析結果について評価した。
本実験例では、微粒子2として、油分(C3H5 +、C3H7 +等)が付着した環境微粒子を用いた。かかる環境微粒子は、主成分としてSiを含有する。かかる環境微粒子をシリコン基板上に配置した。そして、上述した分析手法を用いてシリコン基板を保持する試料ホルダ4を分析室10に導入し、最初に−115度で1回目のSIMS分析を行った後、サンプルステージ111を昇温させて、−15度で2回目のSIMS分析を行った。
図18は、1回目(−115度)および昇温後の2回目(−15度)におけるSIMS信号を示すスペクトルである。1回目に測定されたスペクトル(C1)においては、C3H5 +、C3H7 +の油分由来の信号が得られている。それに対し、2回目に測定されたスペクトル(C2)においては、Si+の信号強度が1回目よりも増加しており、C3H5 +、C3H7 +の油分由来の信号はほとんど得られていない。つまり、−115度では環境微粒子の表面に油分が付着しており、−15度に昇温した後にはかかる油分が揮発したと考えられる。この結果から、1回目の低温時には環境微粒子の表面に付着した油分を、2回目の高温時には環境微粒子の内部を分析することが可能であることが示された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。