JP2018079496A - 歯車用転造粗材および歯車の転造方法 - Google Patents

歯車用転造粗材および歯車の転造方法 Download PDF

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正道 吉田
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Abstract

【課題】特別な製造装置を用いずとも正確な仕上がり寸法が得られ、不完全領域の短い転造歯車を得る。
【解決手段】歯車が転造形成される丸棒状の粗材Wに対し、完全歯となる歯車が形成される歯車領域Gとして、回転軸芯Xに垂直な平面視において、歯車の仕上がり形状のピッチ線Pに対して回転軸芯Xに直角な方向に所定寸法を加減して第1輪郭線11を設定した第1領域1と、第1領域1に隣接する両側の少なくとも何れか一方にあって、第1輪郭線11を得るためにピッチ線Pに対して施した調整量に比べて大きな割合の調整量を施し、幅広の第2輪郭線21を設定した第2領域2と、を転造粗材Wに設けた。
【選択図】図2

Description

本発明は、ダイスを用いた転造歯車の製造に供する転造粗材および転造方法に関する。
従来、このような転造粗材あるいは転造方法としては、例えば以下の特許文献1に示すものがあった。この技術は、雄ねじを転造する場合の、ねじ先端部に生じるねじが不完全な領域(以降において「不完全領域」という)の長さを短くしようとするものである。本明細書において不完全領域とは、転造歯車の歯がダイスの押し付けによって十分に形成されておらず、例えば歯先径が所定の寸法に満たない領域をいう。尚、これに対して歯先径が所定の寸法に仕上がっている領域を完全領域という。
例えば、丸棒状の粗材を軸芯方向に沿って送り操作しながら粗材の外周面にダイスを押し付けて雄ねじを転造する場合、粗材の先端とダイスとの食い付きを良好にするために、予め粗材の先端にテーパー状の縮径部を形成しておく場合がある。この場合、縮径の程度を大きくすると、転造後の雄ねじの先端に残存する不完全領域が長くなるという不都合が生じる。一方、これを防止するために、縮径部のテーパー角度を小さくすると、不完全領域の長さが短くなるものの、軸芯方向に沿って転造ダレが大きく突出し、ねじとして使用できない領域が長くなってしまう。
この不都合を解消すべく、当該公知技術では、粗材の先端に段付きの小径部が設けられている。これにより、転造によって軸芯方向に転造ダレが形成されたとしても、この転造ダレが小径部に係る空間を埋めることで不完全領域の長さが短縮されるというものである。
特開2009−233705号公報
上記従来技術のように、軸方向に相対移動する粗材とダイスが転造初期に噛み合うためには、粗材の先端部に縮径部を設けることが必須となる。この場合、先端部の母材量が必然的に減少するから、転造後に生じる不完全領域を短くするためには、例えばダイスの押し付け程度を大きくして、粗材の母材を軸芯方向に積極的に流動させる必要がある。
しかし、このような軸芯方向に沿った母材の流動を積極的に期待する転造では、得られる転造ねじの長さと粗材の長さとの差が大きくなる。よって、予定寸法の雄ねじを得るためには、転造後に長さ調節の後加工が必要になるなど製造効率が悪化する。また、軸芯方向への母材の流動を生じさせるためにはダイスの大きな押し付け力が必要となって転造装置が大掛かりなものとなり易い。
このような問題に鑑み、従来からダイスを用いた歯車転造技術においては、特別な製造装置を用いずとも正確な仕上がり寸法が得られ、不完全領域の短い転造歯車を得る技術が求められている。
(特徴構成)
本発明に係る歯車用転造粗材の特徴構成は、歯車が転造形成される丸棒状の粗材に対し、完全歯となる歯車が形成される歯車領域として、回転軸芯に垂直な平面視において、歯車の仕上がり形状のピッチ線に対して前記回転軸芯に直角な方向に所定寸法を加減して第1輪郭線を設定した第1領域と、前記第1領域に隣接する両側の少なくとも何れか一方にあって、前記第1輪郭線を得るために前記ピッチ線に対して施した調整量に比べて大きな割合の調整量を施し、幅広の第2輪郭線を設定した第2領域と、を備えた点にある。
(効果)
本構成のごとく、歯車領域を第1領域と、これよりも回転軸芯に沿って端部側である第2領域とに分け、第2領域の粗材の寸法を第1領域の粗材の寸法よりも幅広に構成することで、ダイスによる転造時に、第2領域の粗材の一部が歯車領域の外側に流動した場合でも、転造終了時に第2領域に適切な量の母材が残留し、転造歯車の不完全領域をなくすことができる。
(特徴構成)
本発明に係る歯車用転造粗材にあっては、前記第2領域における、前記回転軸芯に直角な方向に沿った前記ピッチ線と前記第2輪郭線の寸法差が、前記歯車領域の端部の側ほど大きく設定されるものでもよい。
(効果)
転造時にダイスは第2領域の最外側端部から当接し、母材は縮径変形されながら一部の母材が端部の側に流出する。しかし、本構成では、端部の側ほど外径を大きくし、流出する母材の分量を補てんできるため不完全領域の少ない歯車を確実に得ることができる。
(特徴構成)
本発明に係る歯車用転造粗材にあっては、前記第2領域のうち、前記ピッチ線と前記第2輪郭線との寸法差が最大となる部位が、前記歯車領域の端部よりも前記回転軸芯に沿った内側に設けてあってもよい。
(効果)
ダイスが粗材に押し付けられるとき、ダイスが最初に当接する位置は、通常、第2領域の最大外径を有する位置となる。ダイスが当接すると母材は縮径し、当該当接に係る部位の母材が回転軸芯の方向に沿って流動する。その際、最初に当接する部位の母材は、必ず回転軸芯に沿った外側にも流出する。よって、この流出する母材を、歯車領域を形成する母材として利用することで、当初の粗材に形成する大径部の体積を少なくすることができる。その結果、粗材の最大外径をより小径にすることができる。
大径である第2領域を有する粗材は、当該最大外径部位を含めて太い初期形状を有する棒状部材を切削加工して作られる。よって、最大外径の寸法が小さくなれば、当初に準備する粗材を細くすることができる。その結果、材料の歩留まりが向上するうえ、切削工数も少なくなって、粗材の製造効率が高まる。さらに、最大外形の寸法が小さくなる結果、粗材の転造作業も効率化される。
(特徴構成)
本発明に係る歯車用転造粗材の特徴構成は、前記歯車領域の端部に連続する領域に、前記回転軸芯に直角な方向に沿って前記ピッチ線よりも外側であって、前記歯車領域から遠去かるほど前記回転軸芯に近づく第3輪郭線が設定された第3領域を備えるものであってもよい。
(効果)
本構成であれば、ダイスによる押し込み時に、母材が歯車領域よりも外側に流動するのを抑制することができる。よって第2領域においてピッチ線に付加しておく母材量がより少なくなる。本構成は、粗材が軟らかい材質のものであるなどダイスの押し付け時に流動し易い場合に特に有効である。
(特徴構成)
本発明に係る歯車の転造方法にあっては、丸棒状の粗材にダイスを押し付け、前記粗材を回転軸芯の周りに回転させつつ転造して歯車を形成する際に、前記粗材に、完全歯となる歯車が形成される歯車領域として、歯車の仕上がり形状に応じて外径寸法を形成した第1領域と、前記回転軸芯に沿って前記第1領域に隣接する少なくとも何れか一方において前記第1領域の外径寸法に対して大径の寸法を付与した第2領域と、を形成しておき、前記ダイスの押し付けに際して、前記ダイスを前記第1領域よりも先に前記第2領域に当接させる点に特徴を有する。
(効果)
本方法であれば、ダイスの押し付け時に、母材が歯車領域の外側に流動する量を含めて形成された粗材を用いるから、歯車領域の全長に亘って健全な歯車が形成され、歯車の不完全領域を減らすことができる。よって、不用意に長い歯車が得られるのを防止することができる。
ダイスを用いた歯車の転造態様を示す模式図 第1実施形態に係る歯車用転造粗材と試作の歯車とを表した説明図 大径である第2領域を端部に設けた歯車用転造粗材の例を示す説明図 第2領域の形状差による不完全領域の発生の異なりを示すグラフ 第2実施形態に係る第2領域の形状を示す説明図 第3実施形態に係る第2領域の形状を示す説明図
〔第1実施形態〕
本発明に係る歯車用転造粗材は、丸棒状の粗材であって、その全長に亘って歯車が形成される歯車領域を備えている。さらにこの歯車領域は、二つの領域、即ち、歯車の仕上がり形状のピッチ線に近似する輪郭を有する第1領域と、当該第1領域に対して大径の第2領域とを備えている。
尚、本実施形態におけるピッチ線は以下の線を意味するものとする。丸棒状の粗材を転造して例えばピニンギヤを製造した場合、得られた転造歯車が他の歯車と係合する際の当該転造歯車における接触点群は、歯車の回転軸芯を中心とした螺旋状の線となる。この螺旋状の線と、当該転造歯車の回転軸芯を含む平面との交点をとったとき、交点は当該平面上において散点状に分布する。この散点状に分布した点群のうち、回転軸芯に対して同じ側に分布する点を含むように当該平面上で描いた2本の線がピッチ線である。
以下、本発明に係る歯車用転造粗材の実施形態、および、当該歯車用転造粗材を用いた転造方法について図面を参照しながら説明する。
(概要)
図1および図2に、本実施形態に係る転造の概要と、本実施形態で用いる歯車用転造粗材Wの一例とを示す。本実施形態は、例えば二つの回転するダイスTを丸棒状の粗材Wに押し付け、転造歯車の一例であるピニオンギヤW1を転造する例である。図1に示すごとく、粗材Wは図外の支持具により、回転自在にあるいは駆動回転させつつ両端部が支持されている。この粗材Wに対し、粗材Wの回転軸芯Xに対して直角な方向から二つのダイスTを押し付け、ピニオンギヤW1を形成する。
本実施形態の粗材Wでは、中央部に筒状で細径の第1領域1が形成され、この第1領域1の両端部のうち少なくとも何れか一方にテーパー状で大径の第2領域2が形成されている。図1には、第1領域1の両端部に第2領域2を設けた例が示されている。粗材Wはこれら二つの領域を有するものの、転造後は夫々の領域の境界はなくなり、歯車領域Gの全体に亘って完全歯が形成される。
本実施形態で製造するのは一定の歯先径Dを有するピニオンギヤW1である。図2に示したように、回転軸芯Xに垂直な平面視において、第1領域1は何れの個所も外径が等しい筒状である。この第1領域1の輪郭は、得られるピニオンギヤW1のピッチ線Pに対し、回転軸芯Xに直角な方向に所定寸法を加減して設定してある。これを以降において第1輪郭線11と称する。通常は、第1輪郭線11とピッチ線Pとはほぼ等しい。つまり、ダイスTを粗材Wに押し付けた際に、粗材Wが凹んで歯底部となる母材の体積と、粗材Wが突出して歯先部となる母材の体積とがほぼ等しいように設計するからである。この場合、転造前の粗材Wの長さと、転造後のピニオンギヤW1の長さには殆ど差が生じず、正確なピニオンギヤW1を得ることができる。
一方、第1領域1の両側に設けた第2領域2では、ピッチ線Pに対して所定量の母材を付加している。即ち、第2領域2では、第1領域1の第1輪郭線11を得るためにピッチ線Pに施した母材の調整量に比べて大きな割合の調整量を加えた第2輪郭線21が設定されている。つまり、第2輪郭線21は第1輪郭線11に比べて広幅となるように設定されている。
図2には、第2領域2を有しない粗材Wを用いて転造した試作のピニオンギヤW2において先端部の歯先径Dが小さくなる様子を示す。ダイスTの押し付けに際し、粗材Wの端部にあっては、押し付け力を受けた粗材Wの母材は自由端となっている端部の側に流動し易くなる。そのため、粗材Wの端部においては母材が歯先の位置まで隆起せず、図2に斜線で示したように歯先径Dの小さな不完全領域Bが形成される。図2のうち、点線が本来の歯先を結ぶ包絡線41である。しかし、実際には実線のように先細の包絡線42となる。不完全領域Bの歯先は尖っておらず、僅かに外方に膨らんだ凸曲面になることが多い。
そこで、本実施形態では、この不完全領域Bに粗材Wの母材を充填するべく、図2に示すように、粗材Wの両端部のうち少なくとも何れか一方の端部を予め大径にしておき、これにダイスTを押し付けることとする。
尚、上記の如く、第2領域2の外径寸法が第1領域1の外径寸法よりも大きいとはいえ、必ずしも第2領域2の外径が第1領域1の外径よりも絶対的に大きいとは限らない。例えば、本実施形態で形成されるピニオンギヤW1には、中央部が凹んだ鼓状であったり、中央部が膨らんだ紡錘状である場合も含まれる。よって、例えば、紡錘状のピニオンギヤW1の場合には、ピッチ線Pと第1輪郭線11との差に比べてピッチ線Pと第2輪郭線21との差の方が大きいが、最大外径については場合によっては、第1領域1の外径よりも第2領域2の外径の方が小さい場合もあり得る。
〔第2領域の構成例〕
本実施形態において、第2領域2を大径にする具体的形状は適宜選択可能である。第2領域2を大径にした粗材Wの例を例えば図3(a)乃至(d)に示す。
図3(a)は、第2輪郭線21を円錐形状に形成した例である。このような形状は、例えば、第2領域2の最大径を有する粗材Wを準備しておき、第1領域1および第2領域2の外形を旋盤加工などの切削加工により形成する。よって図3(a)のような円錐状であれば、加工時に切削バイトの歯先を直線的に移動させるだけで良く、加工が容易でありがながら加工精度の高い歯車用転造粗材Wが得られる。
図3(b)は、第2輪郭線21が粗材Wの端部に向けて大径となり、かつ、回転軸芯Xの側に凹状となる曲線に構成した例である。ダイスTに押し込まれた母材は、歯車の端部に近いほど回転軸芯Xの方向に逃げ易いから、歯先径Dの寸法は歯車の端部ほど小さくなる。よって、母材の充填量は歯車の端部の側ほど多くするのが望ましい。このように曲面状にすることで、第2領域2に付加した母材が過不足なく所定の部位に充填され、余剰の母材の発生が少ない歯車を得ることができる。尚、曲面の曲率などは製造する歯車の形状によって適宜調節する。
図3(c)は、歯車の端部に向けて段階状に大径とした例である。第2領域2の外表面が、回転軸芯Xを中心にした円筒面と、回転軸芯Xに垂直な平面とで構成されるから、粗材Wの切削加工時に、旋盤の操作要領がより簡単となり、粗材Wの製造効率が高まる。ただし、各段部の外径寸法の設定が適切でない場合、隣接する段部どうしの境界部において母材の充填量に過不足が生じ、転造後の歯先に段差が残る恐れがある。よって、各段部の外径寸法はやや大きく設定しておくのが好ましい。
図3(d)は、第2領域2の輪郭が粗材Wの端部に向けて大径となり、かつ、外方に曲線状に凸形状となるような大径部を設けた例である。この形状は、粗材Wの材質が例えばアルミニウムであるなど軟らかい材料を用いる場合に有効である。母材が軟らかい場合、予め多めの母材量を端部に確保してあっても、ダイスTの押し込みに際して軟らかい母材は回転軸芯Xに沿った外側に容易に流動してしまう。そのような場合、径外方向に凸形状となる曲面とすることで、回転軸芯Xに沿った外側に逃げる母材の分を補充し易くなる。尚、当該曲面の曲率などは製造する転造歯車の形状に応じて適宜設定する。
このように第2領域2の形状を大径にすることで、不完全領域Bの発生を防止でき、転造後の歯車についての切断加工や修正加工など追加工程が不要となる。また、不完全領域Bが少なくなる結果、歯車の軸長が短くなり、当該歯車を納める装置の薄型が可能となる。さらに、歯車の軸長が短くなることは、歯車の撓みも減少するから歯車強度が確保されるうえ、軸受け荷重が小さくなるため軸受けサイズの縮小化も可能である。
〔第2領域の演算〕
粗材Wの形状を決定するには、まず、第2領域2の形状として上述したように図3(a)乃至(d)に示した形状を選択し、次に、夫々の形状における第2領域2の具体的形状を決定する。
第2領域2の具体的形状としては、図2に示す如く、主に、第2領域2の端部から回転軸芯Xに沿う距離Lと、夫々の距離Lにおける粗材Wの外径dとを設定する。これらの値の組合せを決定するには、製造するピニオンギヤW1のピッチ線Pに基づいて決定した第1領域1のみを有する丸棒を実際に転造加工して得た試作のピニオンギヤW2の形状を参考にするとよい。第2領域2の長さについては、試作ピニオンギヤW2につき、例えば不完全領域Bが形成された領域の長さL1と同じ長さに設定する。
一方、第2領域2の第2輪郭線21は次のように決定する。先ず、図2に示す試作ピニオンギヤW2につき、夫々の距離Lにおける歯先径Dと完全な形状の歯先径D1との差を計測する。次に、夫々の距離Lにおける歯先面51の幅52、つまり、歯筋方向に垂直な方向の歯先面51の幅52を測定する。これら歯先径D,D1の差と歯先面51の幅52に基づき、断面が三角形の歯先部分が螺旋状に存在するとして歯筋方向に沿って母材の不足量を積分計算する。この積分値を歯条の数だけ合計し、充填すべき母材の基準値とする。
次に、この基準値に対して、例えば、0.5倍、1.0倍、1.5倍のように粗材Wの第2領域2に付加すべき母材の総量を決め、当該付加総量と、図3(a)乃至(d)のうちの選択した形状と、前記距離L1とに基づいて第2領域2の輪郭を決定する。
このようにして母材の総量を変化させた粗材Wを用いて転造実験した結果を図4に示す。用いた粗材Wは、図3(a)の円錐状の第2領域2を有し、第1領域1の直径が10mm以下のものであった。粗材Wに対して2個のダイスTを対向位置から押し付け、1条分のギヤピッチが10mm程度の2条歯車を転造した。グラフの横軸を歯車端部からの距離Lとし、縦軸を歯先径Dとして、第2領域2の母材の付加総量ごとに両者の関係をまとめている。L1は、付加量がない場合の不完全領域Bの距離である。D1は完全領域Aとして認められる歯先径Dの下限値であり、D2は上限値である。
図4から明らかな如く、付加総量を増やすほど、不完全領域Bの距離Lが短くなっているのがわかる。図中、L2は、製造するピニオンギヤW1に設定する不完全領域Bの長さについての仮目標値である。よって、ピニオンギヤW1が用いられる機械要素の設計要求値などに応じて、不完全領域Bの仮目標値L2を設定し、これを満たすために必要な母材の付加総量を決定すればよい。
尚、上記のような実験例はその都度データベースに蓄積しておき、製造するピニオンギヤW1の各寸法と粗材Wの第1領域1の寸法とに基づいて、選択した第2領域2の形状ごとに、L値とD値との関係を演算で求めることができる。
〔第2の実施形態〕
本発明に係る歯車用転造粗材Wとしては、図5に示すように、第2領域2のうち最大外径部22が歯車端部から内側に位置するように設定することもできる。即ち、第2領域2のうち、ピッチ線Pと第2輪郭線21との寸法差が最大となる最大外径部22を、歯車領域Gの端部よりも回転軸芯Xに沿った内側に設けておく。
本構成であれば、ダイスTが粗材Wに押し付けられるとき、通常、ダイスTは第2領域2の最大外径部22に最初に当接する。この当接によって、母材は回転軸芯Xに近づく方向に押し込まれつつ回転軸芯Xの長手方向に沿って内外に流動する。この流動する母材のうち外側に流動する母材を、歯車領域Gを形成する母材として利用する。例えば、図3に示した各構成であれば、ダイスTの当接に際して歯車領域Gの端部にある母材は必ず歯車領域Gの外側に流出する。
しかし図5の実施形態であれば、歯車領域Gの最端部に存在する母材を流出させるのではなく、最端部よりも内側の母材を最端部に補充することができる。本構成であれば、予め第2領域2に付加しておいた母材をできる限り歯車領域Gの内部で利用し、母材の無駄をなくしながら完全な歯車を形成することができる。このように、第2領域2に付加すべき母材の量を少なくすることで、転造前の粗材Wの最大外径を小さくすることができ、粗材Wの製造効率が向上する。
粗材Wの第2領域2の形成は、最大外径部22を含めて太い初期形状を有する棒状部材を切削加工して行われる。よって、最大外径の寸法が小さくなれば、当初に準備する粗材Wを細くすることができる。その結果、材料の歩留まりが向上するうえ、切削工数も少なくなって、粗材Wの製造効率が高まる。さらに、最大外径の寸法が小さくなる結果、ダイスTの押し込み深さや押し込み力が小さくなって粗材Wの転造作業も効率化される。
第2領域2の具体的形状としては、例えば、図5(a)に示すように二つの円錐形状の部位で構成するもののほか、図5(b)に示すように、二つの曲面で構成するものなど適宜の形状を採ることができる。輪郭が直線状のものは加工が容易である。一方、輪郭が曲線であるものは、必要な母材の量を回転軸芯Xの方向に沿って正確に配分することができる。
〔第3の実施形態〕
また、本発明に係る歯車用転造粗材Wとしては、図6に示すように、歯車領域Gに設けた大径の第2領域2に加えて歯車領域Gの外側にも大径部を設けておくことができる。即ち、歯車領域Gの端部に連続する領域に、回転軸芯Xに直角な方向に沿ってピッチ線Pよりも外側であって、歯車領域Gから遠去かるほど回転軸芯Xに近づく第3輪郭線31が設定された第3領域3を備えておく。
本構成であれば、ダイスTによる押し込み時に、第2領域2の母材が歯車領域Gよりも外側に流動するのを第3領域3の母材が阻止することとなる。よって第2領域2においてピッチ線Pの外側に付加しておく母材量を少なくすることができる。本構成は、例えば粗材Wが軟らかい材質のものであるなど、ダイスTの押し付け時に母材が流動し易い場合に特に有効である。
本実施形態にあっては例えば以下のような構成にすることができる。
図6(a)に示すように、第3輪郭線31を第2領域2の第2輪郭線21に連続するように構成する。この例では、第2輪郭線21および第3輪郭線31とも円錐形状としている。このような構成にすることで、第2領域2の端部の母材が回転軸芯Xの方向に沿って外側に流動するのが直ちに阻止される。よって、第2領域2に付加すべき母材の量が最少となる。これにより、粗材Wの初期外径が小さくなり、粗材Wの材料費や加工費を抑えながら不完全領域Bの短いピニオンギヤW1を得ることができる。
ただし、本実施形態の場合、第3領域3を設けることでこの部分が当初から不完全領域Bとなる不都合がある。ただし、歯車領域Gから外側の余分な部位の形状を考えた場合、このように当初から第3領域3を形成しておくことで、第3領域3の端部の形状が却って整った形状のまま維持され易くなる。その場合、転造後のピニオンギヤW1の修正加工が不要になるなどピニオンギヤW1の製造効率が向上する場合もある。
また、第3領域3の形状として、図6(b)に示す形状にすることもできる。即ち、第3領域3の最大外径の寸法を第2領域2の最大外径の寸法よりも小さく形成しておき、第2領域2と第3領域3との境界に段差部32を設ける。この場合、ダイスTの押し込みに際して、第2領域2の最大外径部22の母材は第3領域3の側に流動し易い。よって、ダイスTの押し込み力が図6(a)の場合に比べて小さくて済む。ダイスTの押し込みが進むと、第3領域3の母材によって第2領域2の母材の流動がほぼ止められ、ダイスTの押し込みに必要な力が増大する。ただし、この時にはダイスTの押し込みはほぼ終了しているため、大きな押し込み力を作用させる時間は短い。
このように、図6(b)の構成であれば、ダイスTの押し込みの初期では押し込み力の増大を防止し、押し込みの後半では、第2領域2の母材が逃げるのを第3領域3によって確実に防止することができる。本構成の粗材Wでは、ダイスTの押し込み当初に第2領域2の母材が第3領域3の側に流動し易い。よって、図6(a)のものに比べると、第2領域2の最大外径を大きくしても当初の押し込み力は小さくて済み、押し込み作業が容易となる。このため、第2領域2の最大外径の設定に際して、図6(a)のものに比べてとり得る寸法範囲が広がる。このように図6(b)の粗材Wでは、第2領域2の母材量がある程度多くはなるものの、第3領域3を設けることの利益を得ながら、粗材Wの寸法設定の自由度が広げることができる。
本発明に係る歯車用転造粗材および歯車の転造方法は、例えばダイスを用いたピニオンギヤの転造など、転造時の粗材に開放端部が形成されるような転造歯車に対して広く適用することができる。
1 第1領域
11 第1輪郭線
2 第2領域
21 第2輪郭線
3 第3領域
31 第3輪郭線
G 歯車領域
P ピッチ線
T ダイス
W 粗材
X 回転軸芯

Claims (5)

  1. 歯車が転造形成される丸棒状の粗材に対し、
    完全歯となる歯車が形成される歯車領域として、
    回転軸芯に垂直な平面視において、
    歯車の仕上がり形状のピッチ線に対して前記回転軸芯に直角な方向に所定寸法を加減して第1輪郭線を設定した第1領域と、
    前記第1領域に隣接する両側の少なくとも何れか一方にあって、前記第1輪郭線を得るために前記ピッチ線に対して施した調整量に比べて大きな割合の調整量を施し、幅広の第2輪郭線を設定した第2領域と、を備えている歯車用転造粗材。
  2. 前記第2領域における、前記回転軸芯に直角な方向に沿った前記ピッチ線と前記第2輪郭線の寸法差が、前記歯車領域の端部の側ほど大きく設定されている請求項1に記載の歯車用転造粗材。
  3. 前記第2領域のうち、前記ピッチ線と前記第2輪郭線との寸法差が最大となる部位が、前記歯車領域の端部よりも前記回転軸芯に沿った内側に設けてある請求項1に記載の歯車用転造粗材。
  4. 前記歯車領域の端部に連続する領域に、前記回転軸芯に直角な方向に沿って前記ピッチ線よりも外側であって、前記歯車領域から遠去かるほど前記回転軸芯に近づく第3輪郭線が設定された第3領域を備えている請求項1〜3の何れか一項に記載の歯車用転造粗材。
  5. 丸棒状の粗材にダイスを押し付け、前記粗材を回転軸芯の周りに回転させつつ転造して歯車を形成する際に、
    前記粗材に、完全歯となる歯車が形成される歯車領域として、
    歯車の仕上がり形状に応じて外径寸法を形成した第1領域と、
    前記回転軸芯に沿って前記第1領域に隣接する少なくとも何れか一方において前記第1領域の外径寸法に対して大径の寸法を付与した第2領域と、を形成しておき、
    前記ダイスの押し付けに際して、前記ダイスを前記第1領域よりも先に前記第2領域に当接させる歯車の転造方法。
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