JP2018077202A - 食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料、食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット及び食肉脂肪測定方法 - Google Patents

食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料、食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット及び食肉脂肪測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 近赤外分光法による食肉脂肪の質の評価を高い精度で長期間安定して行えるようにし、そのための具体的手段として、測定装置の校正作業が極めて簡便に行える実用的な基準試料を提供する。【解決手段】 脂肪酸組成値を測定しようとする食肉と同種の食肉の脂肪を鹸化して成る基準試料1が酸化防止剤3とともに試料ケース2内に封入されており、試料ケース2には基準試料1の特定の脂肪酸の組成値が表示されている。光源からの光が試料ケース2の透光性である上蓋21を通して基準試料1に照射され、基準試料1からの反射光及び又は散乱光を分光して得た分光強度分布から吸収スペクトルが算出される。算出された吸収スペクトルに基づいて当該試料の特定の脂肪酸の組成値が算出され、算出された組成値と表示された組成値との差により校正が行われる。【選択図】 図1

Description

この出願の発明は、食肉の脂肪の質を評価する技術に関するものである。
吸光度等の光学的性質により対象物を評価する技術は、光学測定の主要な分野の一つとして従来より知られている。近年、対象物に近赤外線を含む光を照射してその分光吸収特性を測ることにより対象物の性質を評価する近赤外分光の技術が盛んに研究されており、応用が進んでいる。例えば、特許文献1では、食肉の脂肪の質を評価するため、700〜1000nm程度の近赤外線を食肉に照射し、食肉内部からの反射光及び又は散乱光(以下、反射散乱光という。)を捉えることで当該食肉の脂肪酸含有量を測定している。
周知のように、食肉中の脂肪は、トリアシルグリセロールが主成分であり、トリアシルグリセロールはグリセロールと三つの脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸は、炭素連鎖の長さと炭素二重結合の数により分類され、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別される。パルミチン酸のような飽和脂肪酸は、炭素二重結合がないため、酸化しにくく、硬い脂肪を形成することで知られる。
食肉の質の点でいうと、飽和脂肪酸が多い脂肪は融点が高く、食した場合にロウを食べているような不快な感覚を与える。一方、不飽和脂肪酸は低融点であるため、不飽和脂肪酸が多い脂肪は、柔らかくて食べやすい。反面、不飽和脂肪酸は、炭素二重結合の数が多くなると、より酸化し易くなる。酸化によりにおい(酸化臭)が生じるため、不飽和脂肪酸が多すぎても良質な脂肪とはいえない。
不飽和脂肪酸のうち、オレイン酸のような一価の不飽和脂肪酸については、二価以上の不飽和脂肪酸に比べて酸化しにくく、適度な柔らかさと良好な風味を与えるとされている。このため、オレイン酸等の一価の不飽和脂肪酸がどれだけ多く脂肪に含まれているかが脂肪の質を評価する上で参考にされる場合が多い。
このような事情のため、近赤外分光法を採用して食肉脂肪の評価を行う場合、脂肪を形成する脂肪酸の割合(組成値)を測定している。具体的には、例えば一価の不飽和脂肪酸であるオレイン酸が全体(全脂肪酸)に対してどの程度の割合であるかを近赤外分光法により測定している。
測定に際しては、特許文献1に開示されたような近赤外分光測定装置が使用される。装置は、近赤外光の照射と試料からの反射散乱光の取り込みとを行うプローブを備えている。評価する食肉の表面にプローブを当て、近赤外光を食肉に照射してその反射光散乱光を取り込んで分光測定する。得られた分光スペクトル波形を分析することで、試料(食肉脂肪)における脂肪酸組成値が求められる。
図8は、ある豚肉脂肪の近赤外吸収スペクトルの測定例を示した図である。図8の横軸は波長、縦軸は吸光度である。多数のサンプルにおいて、吸光度はバラツキがあるが、いずれのスペクトルにおいても幾つかのほぼ同じ波長に吸光度のピークがある。これらのピークは、脂肪酸の光吸収を示している。
実際の測定では、例えばガスクロマトグラフィーを使用して脂肪酸組成値を測定した多数の基準試料(脂肪酸組成値が既知である試料)について、近赤外吸収スペクトルを測定装置(分光測定装置)で測定し、既知である脂肪酸組成値と測定した近赤外吸収スペクトルの関係を統計学的手法(ケモメトリックス)を使用して解析することで検量線データを作成する。即ち、多数の基準試料から得た各データ(各吸収スペクトル)について、各脂肪酸毎の検量線データを得る。この際、測定した近赤外吸収スペクトルについては、スムージング、二次微分等のノイズ除去、波形変換等の前処理が適宜行われる。
そして、作成された検量線データを、脂肪酸組成値が未知の試料を測定して得られた近赤外吸収スペクトルに適用して、各食肉脂肪の脂肪酸組成値を推定し、脂質の評価とする。食肉評価は、各食肉工場の出荷検査ライン等の各所で行われるから、測定装置は各所で使用される。したがって、上記のように検量線データを得た測定装置は、マスターの装置(親機)とされ、各所での測定には親機で得た検量線を組み込んだ別の測定装置(子機)が使用される。子機は、親機と全く同じ部品を使用した同じ仕様の測定装置ではあるものの、使用する各部品の僅かなバラツキ、装置として組み立てた際の調整の僅かなバラツキによってどうしても光学性能に差が出てくる。このため、同じ試料について測定を行っても、各子機は、親機とは僅かに測定結果がずれてくる。このため、その測定結果のずれを補正する値が各子機に設定される。この補正値を設定することを、検量線の移設という。子機により推定される脂肪酸組成値にこの補正を施すことにより、親機と同じ脂肪酸組成値を得ることができる。
特許第5676588号公報
照明学会誌第93巻第8A号492〜500頁
上記のように、食肉の脂質の評価は、近赤外分光法を応用して行われており、親機に対して値付け(検量線の移設)がされた子機の測定装置を使用して各試料の脂肪酸組成値の測定が行われている。
このような各現場での測定装置を使用した食肉脂肪の評価測定において、各子機は、使用するうちにどうしても僅かに特性が変化してしまうため、校正が必要になる。特性変化の要因は、光源の劣化や受光器の感度変化、光学素子への僅かな異物の付着等である。これらの特性変化のため、測定装置は定期的に校正をする必要がある。
特に、食肉脂質の近赤外分光法による測定では、近赤外域の光に対する各脂肪酸の吸収の違いは僅かである場合が多く、吸収スペクトル波形の僅かな違いを捉えて脂肪酸組成値を求める場合が多い。そのため、通常は、吸収スペクトルを二次微分し、二次微分された値に基づいて検量線が作成され、作成された検量線を適用して組成値が求められる。このように僅かな吸収スペクトルの差異を捉えて脂肪酸組成値を求めているため、測定装置の特性の変化が脂質測定の精度に与える影響は大きく、光源の僅かな出力変動、光学系に付着したゴミ等の異物によるノイズ等、測定装置の僅かな特性変化であっても、測定精度に大きな影響を与えてしまう。このため、信頼性の高い評価のためには、校正は非常に重要な要素となっている。
校正のためには、検量線の作成の場合と同様に基準試料(脂肪)が必要であるが、食肉脂質評価の現場で使用できる実用的な基準試料は、存在していない。基準試料を得る場合、基準試料として用いる脂肪のブロックの一部を採取し、ガスクロマトグラフィ装置等を使用して脂肪酸組成値を精密に測定する。このようにして調製した基準試料を食肉脂質評価の現場に持ち込んで校正しているが、幾つかの問題がある。
一つは、基準試料の劣化である。基準試料は、食肉から採取した脂肪のブロックであるため、酸化し易い。特に、オレイン酸のような不飽和脂肪酸の組成値測定のためには、基準試料もそのような不飽和脂肪酸を含んでいる必要があり、したがって酸化し易い。酸化により吸光度のような光学特性は大きく変化してしまうため、短期間のうちに基準試料として使用できなくなってしまう恐れがある。
また、不飽和脂肪酸の多くは低融点であり、軟化し易い。例えばオレイン酸の融点は13.4℃であり、オレイン酸をある程度含む脂肪は、20℃程度の室温でかなり軟化してしまう。軟化の程度は温度によるが、軟化により吸光度のような光学特性は大きく変化する。このため、校正を行う際には、脂肪が軟化しない温度で行う必要があり、この温度は氷点下となる場合が多い。しかしながら、氷点下のスペース(冷凍室)が現場にはない場合には校正ができないし、あったとしても、校正のために測定装置を持ち込んで作業することは繁雑である。
尚、冷凍状態で基準試料を保管しても、酸化等の劣化は生じる。脂肪の酸化が無かったとしても、血液等の夾雑物が酸化したり劣化したりし易い。
さらに、校正の際には基準試料にプローブを当てて光照射と反射散乱光の取り込みを行う必要があるが、基準試料を繰り返し校正に利用すると、摩耗して凹みが生じ易く、光学測定としての再現性の点で問題となる。この点は、不飽和脂肪酸の多い基準試料ほど顕著となる。
基準試料を使用した現場での校正をあきらめ、測定装置をメーカーに戻して親機を基準として校正をすることも考えられるが、親機の場合も、経時変化を考慮して定期的に校正する必要があり、基本的には同様の問題がある。つまり、マスターの検量線データを取得した際の基準試料を使用して校正をする必要があるが、基準試料を劣化なく保存することは困難である。したがって、もう一度試料の一部をガスクロマトグラフィ装置等にかけて各脂肪酸の組成値を測定して基準試料とし、それを使用して再度測定をしてから子機に値付けするという非常に面倒な作業が精度の高い校正には必要となっている。
このように、食肉脂肪の質の評価には近赤外分光法が多く採用されるようになってきてはいるものの、精度の高い評価を安定して長期間行うためには、測定装置の校正用の基準試料として安定した性状のものが必要である。にもかかわらず、実用的で満足できる基準試料は何ら提供されていないのが現状である。
本願の発明は、このような状況に鑑みて為されたものであり、近赤外分光法による食肉脂肪の質の評価を高い精度で長期間安定して行えるようにすることを目的としており、そのための具体的手段として、測定装置の校正作業が極めて簡便に行える実用的な基準試料を提供することを目的としている。
上記課題を解決するため、この出願の請求項1記載の発明は、脂質を測定しようとする食肉と同種の食肉の脂肪を鹸化して成る食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料と、当該基準試料を封入した試料ケースと、試料ケース内に封入された酸化防止剤とを備えた食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キットであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項2の構成において、前記試料ケースは、内部の基準試料を臨む位置に近赤外光を透過する透光部を有するという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項2又は3の構成において、前記基準試料の特定の脂肪酸の組成値を知ることができる情報を表示した表示物を含むという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項4の構成において、前記情報は前記試料ケースに表示されており、前記試料ケースが前記表示物を兼ねているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記請求項4又は5の構成において、前記情報は前記基準試料を特定するIDであるか、又は特定の脂肪酸の組成値自体であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、前記請求項1記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料を使用して食肉の脂肪の脂肪酸組成値を測定する食肉脂肪測定方法であって、
近赤外線を含む光を発する光源と、食肉の脂肪である試料に光源からの光を照射する光学系と、光照射された試料からの反射光及び又は散乱光を分光する分光器と、分光器で分光された光を検出する検出器と、検出器で得られた分光強度分布から当該試料の吸収スペクトルを算出し、算出された吸収スペクトルに基づいて当該試料の特定の脂肪酸の組成値を算出するプログラムがインストールされたコンピュータとを備えた測定装置を使用する食肉脂肪測定方法であり、
当該試料について得られた特定の種類の脂肪酸の組成値と、前記請求項1記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料について同じ測定装置を使用して同じプログラムにより得られた同一の種類の脂肪酸の組成値とを比較し、その差により校正を行うという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項8記載の発明は、前記請求項7の構成において、前記食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料を複数使用する方法であって、各食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料は、前記同一の種類の脂肪酸について互いに異なる組成値を有するものであり、
これら基準試料についてそれぞれ前記同じ測定装置を使用して同じプログラムにより得られた同一の種類の脂肪酸の組成値と比較して校正を行う方法であり、
前記コンピュータの記憶部には、前記特定の種類の脂肪酸の組成値を求めるための検量線データが記憶されていて、前記プログラムはこの検量線データにより組成値を求めるプログラムであり、
各基準試料により得られた脂肪酸の組成値を統計処理して当該検量線データを更新するという構成を有する。
以下に説明する通り、この出願の請求項1又は7記載の発明によれば、脂肪酸が脂肪酸塩として固形化されているため取り扱いが容易で、変形が少ないので繰り返し使用しても凹み等による測定再現性低下の問題は生じない。また、夾雑物を取り除くことで測定標準としての精度をより高くすることができるとともに、高融点化するために使用可能温度範囲が広がり、室温での使用も可能な極めて実用的な基準試料となる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、基準試料が酸化防止剤とともに試料ケースに封入されているので、より酸化しにくくなり、より長期間に亘って安定して測定標準として使用できるようになる。
また、請求項3記載の発明によれば、上記効果に加え、試料ケースを開封することなく基準試料の測定が行えるので、基準試料の劣化が防止される。このため、さらに長期間に亘って安定して測定標準として使用できるようになる。
また、請求項4記載の発明によれば、上記効果に加え、基準試料の特定の脂肪酸の組成値を知ることができる情報を表示した表示物が含まれるので、校正作業が容易となる。
また、請求項5記載の発明によれば、上記効果に加え、試料ケースが表示物を兼ねているので、この点で校正作業が簡便となる。
また、請求項8記載の発明によれば、上記効果に加え、同一の種類の脂肪酸の組成値を測定する際、複数の標準試料を使用して校正がされるので、この点でより正確な校正がされる。そして、プログラムが参照する検量線データが校正において更新されるので、この点でも簡便となる。
実施形態の食肉脂肪酸測定用基準試料を含む基準試料キットの構造を示した正面断面概略図である。 基準試料となり得る複数の牛脂石鹸の吸収スペクトルを示す図である。 実施形態の基準試料の特性安定性について確認した実験の結果を示す図である。 実施形態の基準試料となり得るある牛脂石鹸の温度特性について調べた実験の結果を示す図である。 実施形態の食肉脂質測定方法に使用される食肉脂質測定装置の概略図である。 図5に示すプローブ42の正面断面概略図である。 実施形態の基準試料を使用した検量線データの更新について示した図である。 ある豚肉脂肪の近赤外吸収スペクトルの測定例を示した図である。
次に、この出願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、実施形態の食肉脂肪酸測定用基準試料を含む基準試料キットの構造を示した正面断面概略図である。
図1に示すように、基準試料キットは、食肉脂肪酸測定用基準試料(以下、基準試料と略称する。)1と、試料ケース2と、酸化防止剤3とを備えている。
基準試料1は、脂質を測定しようとする食肉と同種の食肉の脂肪を鹸化して成るものである。この実施形態では、基準試料1は、ほぼ直方体状のブロックとなっているが、円柱状その他の形状であっても良い。
試料ケース2は、基準試料1を収容している。試料ケース2は、上蓋21とケース本体22とから成っている。上蓋21はケース本体22に対して密着しており、基準試料1は試料ケース2内に封入されている。
試料ケース2は、測定に使用する近赤外域の光を少なくとも透過する透光部を有している。この例では、上蓋21はアクリル樹脂等の透光性の材料で形成されており、上蓋21が透光部となっている。ケース本体22の内面は黒色とされて反射光を低減させる場合があり得る。尚、試料ケース2全体が透光性であっても良い。
酸化防止剤3は、基準試料1とともに試料ケース2内に封入されている。酸化防止剤3としては、例えばアスコルビン酸が使用されている。
試料キットは、基準試料1における特定の種類の脂肪酸の組成値を知ることができる情報を表示した表示物を含んでいる。この実施形態では、試料ケース2が表示部を兼ねており、試料ケース2の測定に支障のない位置(例えば底面)に情報が記載されている。この実施形態では、この情報は試料IDとなっている。
次に、基準試料1についてより具体的に説明する。この実施形態では、食肉のうち牛肉の脂質を評価することが想定されている。従って、基準試料1は、牛肉の脂肪の近赤外分光測定用であり、牛肉の脂肪を鹸化して成るもの(牛脂石鹸)である。より具体的には、基準試料1は、食肉の脂肪を鹸化して成る石鹸(この実施形態では牛脂石鹸)であって当該石鹸について少なくとも一つの種類の脂肪酸の組成値が既知である石鹸ということになる。この既知の脂肪酸組成値は、その基準試料1が示す基準としての組成値ということである。以下、この値を表示値という。
このような基準試料1を得る方法は、大きく分けて二つある。一つは、予め食肉用の牛肉から脂肪の塊から一部を分離してガスクロマトグラフィ装置等で各脂肪酸組成値を測定して表示値を取得しておいてその残りを上記のように鹸化する方法である。もう一つは、上記のように鹸化した牛脂(牛脂石鹸)について親機を使用して各脂肪酸組成値を測定してその測定値を表示値とする方法である(表示値の取得については後述する)。
実施形態の基準試料1となる牛脂石鹸を作製する場合、まず、塩を少々加えた水の中に脂肪の塊を入れて加熱する。そして、脂肪が完全に溶けたのを確認した後、冷やす。脂肪は水より軽いので上側で固まる。そして、下層の液体を取り除くことで、血などの夾雑物が水と一緒に取り除かれる。
このように精製した脂肪をもう一度加熱して融かし、液体状とする。そして、苛性ソーダを精製水に溶かして苛性ソーダ水を作り、融けた脂肪を苛性ソーダ水に流し込み、攪拌器で均一に撹拌する。全体が均一に白濁し、カスタードクリームのようにとろとろになったら、予め用意した容器(型)に流し込む。これを放置して乾燥させ、固化させる。固化剤を使用しないので、通常、固化するまでには数週間程度を要する。
発明者の実験によれば、このようにして鹸化した脂肪は、鹸化する前の脂肪の吸収スペクトルと全く同じスペクトルであり、基準試料1として使用できることが判った。以下、実施例としてより具体的に説明する。
図2は、基準試料となり得る複数の牛脂石鹸の吸収スペクトルを示す図である。図2に示す例では、12個の異なる食肉から分離した脂肪により12個の牛脂石鹸を作製した。具体的には、精製水17.5gに苛性ソーダ6.3gを溶解させて苛性ソーダ水を用意した。前述した方法で精製した各脂肪50gを苛性ソーダ水に投入して撹拌した。尚、苛性ソーダは水に溶ける際に発熱するので、容器の周囲を氷で冷却し、約42℃として各脂肪を投入した。十分に均一に撹拌をした後、各々放置して固化させ、各牛脂石鹸を得た。
図2には、このようにして得た12個の牛脂石鹸(No.1〜12)吸収スペクトルが示されている。これら牛脂石鹸については、鹸化する前の牛脂の状態で測定された吸収スペクトルと全く同じであることが確認されている。また、実験に使用した測定装置について既に取得されている検量線データを適用して各脂肪酸の組成値を測定したところ、牛脂の状態での各脂肪酸組成値と鹸化した状態での各脂肪酸組成は特に変化がないことも確認されている。このような結果は、脂質を測定しようとする食肉と同種の食肉を鹸化した牛脂石鹸が、脂質の近赤外線分光法による評価の際の基準試料1として使用できることを示している。
このような実施形態の基準試料1は、以下の通り多くの利点を有する。
まず、脂肪酸が脂肪酸塩として固形化されているため扱いが容易である。また、固形試料であるため、変形が少なく、繰り返し使用しても凹み等による測定再現性低下の問題は生じない。
さらに、鹸化の際に夾雑物を取り除くことで測定標準としての精度をより高くすることができる。即ち、夾雑物が混じっていると、その影響で、ガスクロマトグラフィのような別の方法で測定した脂肪酸組成値と乖離する値が出る可能性があるが、夾雑物を十分に除去することでそのような可能性を実質的にゼロにすることができる。
また、固形化されているために酸化防止剤3とともにケースに入れて密封することができ、酸化防止が容易である。このため、長期間安定して校正の際の標準として使用できる。
そして、各脂肪酸は脂肪酸塩となっているため、高融点化する。このため、使用可能温度範囲が広がる。室温での使用も可能であり、従来のように氷点下等の低温で校正作業する必要はなくなる。
最後の点について、より具体的に説明すると、例えば一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸の融点は13.4℃であるが、オレイン酸ナトリウムの融点は232〜235℃である。また、多価不飽和脂肪酸であるリノール酸の融点は−5.1℃であるが、リノール酸ナトリウムは192℃である。このように、脂肪酸はナトリウムとの結合により高融点化するため、室温でも融けたり軟化したりすることはなく、校正用の標準として使用可能である。
次に、このような実施形態の基準試料1の特性安定性について確認した実験の結果について説明する。図3は、実施形態の基準試料の特性安定性について確認した実験の結果を示す図である。この実験では、図2に吸収スペクトルを示す12個の牛脂石鹸について、5ヶ月間の間の測定値の変動が調べられた。
測定は、幾つかの異なる脂肪酸について行われたが、一例として、パルミトレイン酸、オレイン酸及びパルミチン酸についての結果が図3に示されている。即ち、各12個の牛脂石鹸について、作製してから1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後、5ヶ月後において、各検量線を適用してパルミトレイン酸、オレイン酸及びパルミチン酸の組成値を測定した。図3中、(1)はパルミトレイン酸、(2)はオレイン酸、(3)はパルミチン酸の組成値を示す。図3(1)〜(3)の各縦軸は、作製直後の測定値に対する変動を百分率で示している。各横軸は、各牛脂石鹸の番号である。
図3(1)〜(3)に示すように、No.1〜12の全ての牛脂石鹸について、測定された各脂肪酸組成値の変動は僅か0.5%程度の範囲内に収まっており、極めて安定して特性が維持されることが確認された。図示及び説明は省略するが、他の不飽和脂肪酸や飽和脂肪酸の各組成値を測定した場合も、同様に組成値に変動は0.5%程度以下の非常に小さいものであった。
次に、各牛脂石鹸の温度特性についても実験で調べたので説明する。図4は、実施形態の基準試料となり得るある牛脂石鹸の温度特性について調べた実験の結果を示す図である。この実験では、No.1〜12のうちの特定の牛脂石鹸について、4℃、20℃及び30℃の各温度環境下で脂肪酸組成値の測定を行った。また、比較例として、鹸化していない通常の状態の牛脂についても、同様に4℃、20℃及び30℃の温度条件で同様に測定した。このうち、図4には、同様に、牛脂のままの試料についてのパルミトレイン酸、オレイン酸及びパルミチン酸の各測定結果が示されている。
図4(1)〜(3)に示すように、各脂肪酸組成値の測定において、鹸化していない通常の牛脂を測定した場合、各脂肪酸測定値は、温度により大きく変化している。即ち、パルミトレイン酸は2%程度組成値が変動しており、オレイン酸は4%程度変動している。また、パルミチン酸は3%程度変動している。一方、牛脂石鹸の場合、いずれの脂肪酸においても組成値の変動は1%未満となっており、温度による測定結果の変動も極めて小さいものとなっている。
尚、各牛脂石鹸は、前述したように表示値を求めておくことで基準試料1となる。表示値は、前述したように、ガスクロマトグラフィ装置等で予め測定しておくか、鹸化したものを親機で測定するかであるが、親機で測定する方が簡便である。親機には、ガスクロマトグラフィ装置等で各脂肪酸組成値を測定した多数の基準試料(牛脂のままの基準試料)を元にして検量線(以下、基準検量線という。)が取得されているので、作製された牛脂石鹸を親機で測定し、基準検量線を適用して当該牛脂石鹸の各脂肪酸の組成値を測定すれば、それが当該牛脂石鹸の表示値となる。鹸化する前の段階で、同一試料から採取したものをガスクロマトグラフィ装置等にかけて各脂肪酸の組成値を求めて各表示値としても良いが、多数の基準試料を作製することを考えると、面倒である。したがって、親機で測定して表示値とする方が好ましい。
次に、このような基準試料1を使用した食肉脂肪酸測定方法の発明の実施形態について説明する。
まず、使用される測定装置について説明する。図5は、実施形態の食肉脂質測定方法に使用される食肉脂質測定装置の概略図である。
図5に示すように、この食肉脂質測定装置(以下、単に測定装置という。)4は、装置本体41とプローブ42とを備えている。そして、フレキシブルケーブル43が装置本体41とプローブ42とをつなぐようにして設けられており、光ファイバ431がこのフレキシブルケーブル43内に収められている。装置本体41内には、分光器44、検出器45、コンピュータ46の他、データ処理回路471及びインターフェース472等が設けられている。
図6は、図5に示すプローブ42の正面断面概略図である。図6に示すように、プローブ42内には、光源421と、試料に光源421からの光が照射されるように光源421を保持するホルダー422とが設けられている。光源421は、少なくとも700nmから1000nmの範囲の波長の光を発するものであり、例えばハロゲンランプが使用される。プローブ42内には、光源421からの光が照射された試料からの反射散乱光が入射する位置に光ファイバ431の入射端が配置されている。また、測定装置は、測定結果を出力する出力部47を備えている。
図6に示すように、プローブ42は測定用開口423を有しており、測定用開口423を臨む位置に直角プリズム424が設けられている。光ファイバ3の入射端は、直角プリズム424と同じ高さの位置に設けられている。尚、測定用開口423には、筐体92内の汚染を防止するために光学窓が嵌め込まれている。
筐体92内には、試料に対して光を照射する際の光軸(以下、照射光軸)A1と、光照射された試料からの反射散乱光を取り込む際の光軸(以下、取り込み光軸)A2とが設定されている。取り込み光軸A2は、直角プリズム424の全反射面の中心を通る軸であり、全反射面で直角に曲がり、光ファイバ431の入射端の中心に達する軸である。照射光軸A1は、取り込み光軸A2に対して30〜35°となっている。
尚、取り込み光軸A2上には、集光レンズ425が設けられている。集光レンズ425は、試料からの光を集光して光ファイバ431に入射させる。
装置本体41内には、各光源421への給電回路48が設けられている。給電回路48と各光源421は、給電ケーブル481で接続されている。光ファイバ431と給電ケーブル481を一つのフレキシブルケーブル43として束ねられている。
分光器44は、使用波長範囲において光を波長ごとに必要な分解能で分解できるものである。分光器44としては、回折格子を使用したもの、またフーリエ変換型の分光器、その他すべての分光器を採用し得る。
検出器45は、分光器44で分光された光を受光し、電気信号に変換するものである。図5に示す装置では、検出器45にはリニアアレイセンサが使用されており、回折格子の掃引無しに使用波長範囲で光電変換されるようになっている。
検出器45とコンピュータ46は、データ処理回路471及びインターフェース472を介して接続されている。データ処理回路471は、増幅、A/D変換等の処理に加え、インターフェース472は、処理されたデータをコンピュータ46に取り込むためのもので、USBインターフェース等が採用される。
コンピュータ46は、演算処理部としてのマイクロプロセッサ、ROMやRAM等のメモリ等を備えたものである。本実施形態では、出力部47はコンピュータ46が備えるディスプレイとなっている。また、コンピュータ46の記憶部(例えばメモリ)には、測定用のソフトウェアがインストールされている。このソフトウェアには、得られた分光データ(分光強度分布)から吸収スペクトルを算出し、算出された吸収スペクトルから特定の脂肪酸の組成値を算出する演算等を行うプログラムが含まれる。
尚、測定装置は、どの脂肪酸の組成値を測定するのかを選択させる入力部を有する。例えば、ディスプレイがタッチパネル式の入力部になっており、ソフトウェアには入力用プログラムが含まれる。入力用プログラムは、いずれかの脂肪酸を選択させる画面をディスプレイ47に表示し、そこで選択された脂肪酸について組成値の算出が行われるよう、プログラムに各引数が設定されるよう構成される。
図5及び図6に示す測定装置を使用して食肉の脂質測定を行う場合、光源421を点灯させた状態でプローブ42を手に持ち、筐体92の前板部921を試料の表面に当接させる。光源421からの光は、試料の表面や内部で反射又は散乱して戻り、試料の表面を通して出射する。この反射散乱光は、光ファイバ431の入射端に達し、光ファイバ431で導かれて分光器44に達する。そして、分光器44で各波長の光に分光された後、検出器45に達して光電変換され、検出器45から出力データがコンピュータ46に送られる。尚、反射散乱光は、試料内部からの反射光という意味で、インタラクタンス反射光と呼ばれる場合もある。
コンピュータ46では測定用のプログラムが起動しており、測定用のプログラムは、送られた出力データを処理して分光強度分布を算出するとともに、メモリに記憶された基準分光強度を読み出し、それとの比較により試料の吸収スペクトル(分光吸収率)を算出する。そして、算出された吸収スペクトルに対して統計学的処理を行い、検量線データを適用して特定の脂肪酸の組成値を算出する。例えばオレイン酸の組成値を測定する場合には、オレイン酸の吸収波長に係数の重み付けがされた統計学的処理を行った後、オレイン酸の検量線データを適用し、オレイン酸の組成値を得る。得られたオレイン酸の組成値はディスプレイに表示され、その値によって当該食肉の脂質の評価とする。
このようにして食肉脂質測定を繰り返し行う際、必要に応じて測定装置の校正を行う。校正は、一日一回というように定期的に行われる他、正常ではないと思われる値が出たときなどに行われる。校正を行う場合、基準試料キットを用意する。試料ケース2の底面には、試料IDが記載されている。そして、その試料IDで特定される基準試料1の各表示値が示された一覧表が別途提供される。作業者は、入力部で脂肪酸を選択しながら、試料キットを使用して測定を行う。即ち、試料ケース2内に基準試料1が収容されたままの状態で、試料ケース2の透明な上蓋にプローブ42を接触させて測定を行う。そして、ディスプレイ47に表示される当該脂肪酸の組成値が、一覧表に記載されている当該試料IDの表示値に十分に一致しているかどうか判断する。一致していれば、当該測定器は特に問題がないとされ、各試料について得られた値をそのまま脂肪酸組成値とする。
一致していないようであれば、その差分を加味して脂質の評価を行う。例えば基準試料1を使用して測定した脂肪酸の組成値が30%と出た際、当該脂肪酸の表示値が27%であったとすると、その後に当該測定装置を使用して行われる各脂肪酸の組成値を、実測値から3%引いた値とする。
上記校正作業は、測定装置内の内部的な要因で各脂肪酸の実測値が一様に3%多く出てしまっているという判断であるが、よりキメ細かく校正を行う場合、各脂肪酸についてそれぞれ校正を行う場合もある。即ち、基準試料1での脂肪酸Aの実測値の表示値との差異を求めて脂肪酸Aの校正用とし、脂肪酸Bの実測値の表示値との差異を求めて脂肪酸Bの校正用とし、・・・という具合である。
また、一つの種類の脂肪酸についての校正を行うために複数の基準試料1を使用する場合もあり得る。この場合、複数の基準試料1で得られた測定値に従って当該測定装置に記憶されている検量線データの更新を行う場合もある。この点について、図7を使用して説明する。図7は、実施形態の基準試料を使用した検量線データの更新について示した図である。
図7において、ある種類の脂肪酸の親機における検量線が実線で示されている。この検量線は、前述したように基準検量線であり、ガスクロマトグラフィ装置のような分析装置で予め組成値を測定した多数の基準試料について測定を行い、統計処理により得たものである。
また、図7中の一点鎖線は、ある子機の出荷時の検量線(出荷時子機検量線)を示す。出荷時子機検量線は、前述したように、親機で作成した基準検量線からどうしても僅かに乖離してしまうため、出荷時に補正をかけている。補正は、出荷時子機検量線が基準検量線となるように乗じる係数(補正値)を設定する作業である。設定された補正値は、子機の記憶部に記憶され、実際に脂肪試料を測定して脂肪酸組成値を測定する際に利用される。補正値は、各脂肪酸について一様とされる場合もあるが、各脂肪酸についてそれぞれに設定される場合が多い。
このようにして補正値が設定された状態で出荷された子機の測定装置を使用して脂肪の質の評価を繰り返す際、上記のように校正作業が行われる。この場合、同じ種類の脂肪酸の校正用に複数の基準試料が使用される。この例では、三つの基準試料1a,1b,1cが使用されており、得られた組成値の例が図7に示されている。これらの基準試料1a,1b,1cは、親機を使用して基準検量線を適用して各表示値を得ており、三つの基準試料1a,1b,1cを回帰処理して得られた直線(二点鎖線)は、正常であれば、出荷時子機検量線(一点鎖線)と同じになる筈であるが、測定装置の特性の経時変化により同じにならない。この場合、ずれた検量線を、基準検量線になるようにする補正値を再計算し、測定装置の記憶部に更新して記憶する。これにより、親機と同等の精度で脂肪酸組成値の測定ができるようになる。補正値の再計算のためのプログラムが測定装置にインストールされており、複数の基準試料1を使用して校正をする場合、当該プログラムが実行される。この場合、表示値の異なる三つ以上の基準試料1を使用することが好ましい。
尚、複数の基準試料1を使用して校正を行った場合、表示値と実測値のずれが一様である場合、例えば三つの基準試料1とも測定値が表示値から−3%であった場合には、補正値の再計算を特に行うことなく単に+3%するだけの校正を行う場合もある。
いずれにしても、実施形態の基準試料1を使用して適宜校正を行いながら各脂肪酸の組成値を近赤外分光測定装置で測定することで、より信頼性の高い脂質評価を行うことができる。基準試料1は、固形であって取り扱いがし易く、長期間安定した特性を維持するので、高信頼性の食肉脂質評価を長期間安定して且つ簡便に行うことができるようになる。
尚、試料ケース2が透光部を有する点は、試料ケース2を開封することなく測定が行えるというメリットがある。校正作業の際に試料ケース2を開封して基準試料1を取り出して測定する構成であっても良いが、この構成であると、基準試料1が外気に触れるため酸化し易くなる。透光部を有する構成は、酸化をより防止してより長期間安定して測定標準として使用できるようにする意義がある。尚、上蓋21については、ケース本体22に対して接着等の方法により完全に固定されていても良く、ある程度の力を加えると外れる構成であっても良い。また、開封されたことが判るように封止ラベル等を貼り付けるようにする場合もある。
また、基準試料キットが表示物を含む点は、校正作業を簡便にする意義がある。基準試料キットに表示物が含まれていないと、作業者が基準試料1の表示値を知るのに、例えばメーカーのウェブサイトにアクセスして調べるといった手間が発生することになるが、実施形態ではそのような手間はない。
この場合、表示物は取り扱い説明書のような別途提供される資料であっても良いが、そのような資料を校正の際に手元に準備しておく必要がある。試料ケース2が表示物を兼用する構成では、その必要はなく、簡便である。
尚、表示物に表示される情報が表示値自体の場合、一つの基準試料1で複数の種類の脂肪酸の測定校正を行う場合、複数の表示値を表示する必要がある。この場合、試料ケース2が表示物を兼ねていると、表示するスペースが足らなくなる場合があるので、この場合には試料IDを表示しておき、別途一覧表を提供する構成の方が好ましい。
実施形態の基準試料1の利点は、近赤外域の光の吸収スペクトルの特性が長期間安定して維持されるという鹸化処理の特長に由来している。したがって、食肉由来の脂肪を鹸化処理することで基準試料1を得なくても同様に吸収スペクトルの特定が長期間安定して得られるものであれば、採用可能である。例えば、極端に言えば、色ガラスフィルタのような吸収フィルタであっても良い。
しかしながら、評価しようとしている食肉脂肪と相当程度まで一致した吸収スペクトルを持ち、それが長期間安定している必要がある。相当程度まで一致しているとは、基準検量線を得た食肉由来の脂肪の吸収スペクトルに対して、補正値を設定することで合わせ込むことができる程度まで一致しているということである。その程度まで食肉由来の脂肪の吸収スペクトルが一致しているフィルタを製作することは、発明者の研究によれば不可能に等しい。また、オレイン酸を始めとする各種脂肪酸を含む脂肪材料は工業的にも生産されており、そのように工業的に生産された脂肪材料を鹸化して基準試料とすることも考えられるが、発明者の研究によると、そのような工業的に生産された脂肪材料を鹸化した固化物についても、基準検量線を得た食肉由来の吸収スペクトルに対して十分に一致した吸収スペクトルを持つものを作製することは非常に難しい。
一方、実施形態のように、評価しようとしている食肉脂肪と同種の脂肪を鹸化して成る基準試料1によれば、鹸化によって吸収スペクトルが変化してしまうことがないので、基準試料として好適に使用することができる。この場合の「同種」とは、牛肉の脂質を評価しようとしているのであれば牛肉由来の脂肪、豚肉の脂質を評価しようとしているのであれば豚肉由来の脂肪ということである。但し、牛肉の中でも色々と品種があるので、例えば和牛の資質を評価しようとしているのであれば和牛由来の脂肪を鹸化して成るものがより好ましい。豚肉についても、例えば黒豚の脂質を評価しようとしているのであれば、黒豚由来の脂肪を鹸化してなるものがより好ましい。
尚、鹸化によって吸収スペクトルは変化しないと説明したが、仮に変化したとしても、基準検量線に対して上記補正値の設定で合わせ込むことができる程度であれば問題なく使用可能である。
上記実施形態では、鹸化は苛性ソーダを使用して脂肪酸ナトリウムを生成するものであったが、水酸化カリウムを使用して脂肪酸カリウムを生成する鹸化であっても良い。
また、脂質評価の例として牛肉の脂肪を例にしたが、豚肉や鶏肉等の他の食肉の資質についても同様に実施できる。尚、脂質を評価する場合、赤身肉と脂身とが混在しているような部位(霜降り等)よりは、脂肪だけが塊となっている部位を測定した方がより正確な脂肪酸組成値が得られるので、脂質評価としてより好ましい。
尚、上記実施形態では、試料ケース2には試料IDが表示されていたが、当該基準試料の特定の種類の脂肪酸の表示値が表示されていても良い。この場合には、組成値を測定しようとする脂肪酸の種類それぞれについて基準試料が作製されて使用されることになる。
1 基準試料
2 試料ケース
3 酸化防止剤
4 食肉脂肪測定装置
41 装置本体
42 プローブ

Claims (8)

  1. 脂肪酸組成値を測定しようとする食肉と同種の食肉の脂肪を鹸化して成ることを特徴とする食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料。
  2. 請求項1記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料と、当該基準試料を封入した試料ケースと、試料ケース内に封入された酸化防止剤とを備えたことを特徴とする食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット。
  3. 前記試料ケースは、内部の基準試料を臨む位置に近赤外光を透過する透光部を有していることを特徴とする請求項2記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット。
  4. 前記基準試料の特定の脂肪酸の組成値を知ることができる情報を表示した表示物を含むことを特徴とする請求項2又は3記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット。
  5. 前記情報は前記試料ケースに表示されており、前記試料ケースが前記表示物を兼ねていることを特徴とする請求項4記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット。
  6. 前記情報は前記基準試料を特定するIDであるか、又は特定の脂肪酸の組成値自体であることを特徴とする請求項4又は5記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料キット。
  7. 請求項1記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料を使用して食肉の脂肪の脂肪酸組成値を測定する食肉脂肪測定方法であって、
    近赤外線を含む光を発する光源と、食肉の脂肪である試料に光源からの光を照射する光学系と、光照射された試料からの反射光及び又は散乱光を分光する分光器と、分光器で分光された光を検出する検出器と、検出器で得られた分光強度分布から当該試料の吸収スペクトルを算出し、算出された吸収スペクトルに基づいて当該試料の特定の脂肪酸の組成値を算出するプログラムがインストールされたコンピュータとを備えた測定装置を使用する食肉脂肪測定方法であり、
    当該試料について得られた特定の種類の脂肪酸の組成値と、前記請求項1記載の食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料について同じ測定装置を使用して同じプログラムにより得られた同一の種類の脂肪酸の組成値とを比較し、その差により校正を行うことを特徴とする食肉脂肪測定方法。
  8. 前記食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料を複数使用する方法であって、各食肉脂肪酸組成値近赤外分光測定用基準試料は、前記同一の種類の脂肪酸について互いに異なる組成値を有するものであり、
    これら基準試料についてそれぞれ前記同じ測定装置を使用して同じプログラムにより得られた同一の種類の脂肪酸の組成値と比較して校正を行う方法であり、
    前記コンピュータの記憶部には、前記特定の種類の脂肪酸の組成値を求めるための検量線データが記憶されていて、前記プログラムはこの検量線データにより組成値を求めるプログラムであり、
    各基準試料により得られた脂肪酸の組成値を統計処理して当該検量線データを更新することを特徴とする請求項7記載の食肉脂肪測定方法。
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