PERC型の太陽電池素子では、半導体基板の裏面上に、パッシベーション層、保護層および裏面電極が、この記載順に積層されている。
そして、裏面電極を形成するために導電性ペーストを塗布した後に焼成する際に、保護層の状態に応じて、導電性ペーストが保護層およびパッシベーション層のファイヤースルーを生じる場合がある。また、保護層の密度が低ければ、保護層の透湿性が高い。このとき、パッシベーション層が劣化しやすく、太陽電池素子の特性が低下しやすい。
そこで、本願発明者らは、パッシベーション層が劣化しにくい技術を創出した。これについて、以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。
図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。図面は模式的に示されたものである。図2から図5(f)には、右手系のXYZ座標系が付されている。このXYZ座標系では、例えば、後述する太陽電池素子10の受光面である第1素子面10a側に位置している出力取出電極6aの長手方向が+Y方向とされ、この出力取出電極6aの短手方向が+X方向とされ、第1素子面10aの法線方向が+Z方向とされている。
<1.一実施形態>
<1−1.絶縁性ペースト>
一実施形態の絶縁性ペーストは塩素を含有している。また、絶縁性ペーストは、少なくともシロキサン樹脂と、有機溶剤と、フィラーとを有する。
シロキサン樹脂はSi−O−Si結合(シロキサン結合ともいう)を有するシロキサン化合物である。シロキサン樹脂は、例えば、アルコキシシランまたはシラザン等を加水分解して縮合重合させることで得られる低分子量(例えば分子量では1万5千以下)の樹脂である。シロキサン樹脂は、シロキサン結合に加えて、Si−R結合、Si−OR結合およびSi−OH結合のうちの少なくとも1つの結合を有していてもよい。上記結合における「R」はメチル基(−CH3)およびエチル基(−C2H5)等のアルキル基(−CmH2m+1)ならびにフェニル基(−C6H5)のいずれか1種類以上から選択されたものである。ここで、mは、自然数である。また、シロキサン樹脂は分子量が1万5千以下であるので、シロキサン樹脂と分子量が5万以上のシリコーンオイルとは明確に区別することができる。また、シロキサン樹脂は、酸素とアルキル基との結合状態および酸素とフェニル基等との結合状態を有する点でもシリコーンオイルとは異なる。
ここで、シロキサン樹脂がSi−OR結合およびSi−OH結合の少なくとも一方の結合を有していれば、シロキサン樹脂の反応性が高くなる。この場合、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、太陽電池素子において保護層に接している他の部分と、の間で強い結合力が期待することができる。例えば、シロキサン樹脂がSi−OH結合を有する場合には、OH基から水素原子が外れて、シロキサン樹脂がシリコンおよびアルミニウム等と結合しやすくなる。または、シリコンおよびアルミニウム等の表面のOH基とシロキサン樹脂のSi−OH結合とが反応して、水分子を放出し、シロキサン樹脂がシリコンおよびアルミニウム等と結合しやすくなる。また、例えば、シロキサン樹脂がSi−OR結合を有する場合には、後述する絶縁性ペーストの製造工程で使用あるいは発生する水および触媒等が保護層の中に残留していれば、これらの水および触媒等によってSi−OR結合が加水分解を生じてOH基が生じやすい。このため、シロキサン樹脂が、上述したSi−OH結合を有する場合と同様に、シリコンおよびアルミニウム等と結合しやすくなる。このように、シロキサン樹脂の結合力が高まれば、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、該保護層と隣接する他の部分(隣接部分ともいう)との間で密着性が向上する。保護層と隣接する他の部分としては、例えば、該保護層が形成される下地の基板(例えば、シリコン基板)、他の異なる絶縁層等の下地、および保護層上に形成される金属層等が考えられる。
例えば、シロキサン樹脂を構成する1つのSi原子に対して3つまたは4つのSi−O結合が存在していれば、保護層と隣接部分との密着性が向上する。このため、絶縁性ペーストを製造する際には、例えば、シロキサン樹脂の前駆体として、1つのSi原子に対して3つまたは4つのSi−OR結合が存在している材料が用いられる。これにより、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解させて縮合重合させることで得られるシロキサン樹脂において、Si−OR結合またはSi−OH結合の少なくとも一方の結合の数が増加し、保護層と隣接部分との間における強い結合力が実現される。すなわち、保護層と隣接部分との間における高い密着性が実現される。また、シロキサン樹脂は、加水分解するSi−N結合を有するシロキサン樹脂の前駆体を縮合重合することで得られる樹脂である場合には、加水分解されていないSi−H結合およびSi−N結合等を有してもよい。
アルキル基がメチル基を含む場合には、加水分解によって生成される副生成物(例えばメチルアルコール)は揮発しやすく、副生成物が絶縁性ペーストの中に残存しにくい。このため、スクリーン印刷法によって絶縁性ペーストを印刷する場合には、スクリーン製版の乳剤が副生成物によって溶解しにくくなるので、スクリーン製版のパターン寸法が変動しにくい。
シロキサン樹脂の濃度は、例えば、絶縁性ペースト(100質量%)において7質量%から92質量%とされる。絶縁性ペーストを占めるシロキサン樹脂の割合が上記範囲内であれば、絶縁性ペーストの塗布および乾燥によって形成される保護層は、緻密なものとなり、バリア性の高い膜になり得る。また、絶縁性ペーストにおけるシロキサン樹脂の濃度が上記範囲であれば、絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。ここで、例えば、絶縁性ペースト(100質量%)に40質量%から90質量%のシロキサン樹脂が含まれていれば、保護層の緻密さ、および絶縁性ペーストのゲル化しにくさを容易に実現することができる。
また、絶縁性ペーストには、例えば、Si−O結合またはSi−N結合を有する、縮合重合していない加水分解性の添加剤がさらに含まれてもよい。このような添加剤は、例えば、下記の一般式1で表される。
(R1)4−a−bSi(OH)a(OR2)b ・・・ 一般式1
一般式1におけるR1およびR2は、例えば、メチル基またはエチル基などのアルキル基を表す。また、一般式1におけるaは1から4のいずれかの整数である。bは0から4のいずれかの整数である。a+bは1から4のいずれかの整数であり、例えば3または4である。R1およびR2は同一のアルキル基であっても異なるアルキル基でもよい。
ここで、絶縁性ペーストは、Si−O結合またはSi−N結合を有する、縮合重合していない加水分解性の添加剤を含有している場合には、添加剤を含有していない場合と比較して、シロキサン樹脂におけるSi−OR結合またはSi−OH結合の比率が増加する。シロキサン樹脂におけるSi−OR結合またはSi−OH結合の比率が増加すれば、保護層と該保持層の隣接部分との間における高い密着性が実現されやすい。また、絶縁性ペーストは保管中でも縮合重合が徐々に生じて増粘しゲル化する傾向を示す。しかし、一実施形態に係る絶縁性ペーストでは、上述した添加剤を含有することで、加水分解した添加剤と、縮合重合した分子量の大きいシロキサン樹脂と、の間における縮合重合反応を発現させ得る。このため、分子量の大きいシロキサン樹脂同士による縮合重合反応が阻害されて絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。
フィラーは、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われている表面を有している。これにより、フィラーの表面の未結合手が減少し得る。このとき、例えば、フィラーの表面は帯電しにくいため、フィラー同士が反発しにくくなる。また、このとき、シロキサン樹脂とフィラーとが結合しにくくなる。これにより、フィラー同士がある程度の距離を保持している状態で適度に凝集することができる。その結果、フィラーが等分散しにくくなり、絶縁性ペーストを適度に増粘させることができる。また、フィラーの表面にOH基が形成されにくくなるため、フィラーの表面のOH基とシロキサン樹脂のOH基との反応が低減されて、フィラーとシロキサン樹脂成分とが結合しにくくなる。これにより、絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎないようにすることができる。よって、例えば、絶縁性ペーストの塗布性および粘度安定性が向上し得る。これにより、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。また、絶縁性ペーストを長時間保管あるいは使用し続けた場合でも、絶縁性ペーストを所望のパターンに安定して塗布することができる。その結果、太陽電池素子におけるパッシベーション層の品質の経時劣化が低減され、該パッシベーション層の品質を向上させることができる。
ここで、フィラーの表面を覆っている有機被膜に含有されている材料が、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有していれば、有機被膜の成分によって保護層の疎水性が向上する。フィラーの表面を覆う有機被膜の具体的な材料としては、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上であるオクチルシラン等が挙げられる。主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基、およびオクチルシラン等では、OH基と反応しても極性が発生しにくく、保護層における疎水性が保持されやすい。また、フィラーの表面を覆う有機被膜の具体的な材料として、主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上であるジメチルポリシロキサンが採用されてもよい。ジメチルポリシロキサンは、例えば、主鎖がらせん状の構造を有しており、表面にメチル基が位置するため、疎水性を有する。このように、保護層が疎水性を有していれば、水分等によって保護層の膜質が変化しにくく、保護層の絶縁性が維持される。このため、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。その結果、太陽電池素子におけるパッシベーション層の経時劣化が低減され、該パッシベーション層の品質を向上させることができる。また、ここで、フィラーの表面を覆う有機被膜における主鎖中の炭素原子およびシリコン原子の合計数が、例えば1万以下であれば、凝集するフィラーの粒径が大きくなり過ぎず、絶縁性ペーストを塗布する際に塗布膜の厚さにムラが生じにくい。つまり、絶縁性ペーストの塗布性が向上する。これによっても、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。
より具体的には、フィラーの表面を覆う有機被膜の材料として、例えば、下記化学式1で表されるオクチルシラン、下記化学式2で表されるドデシル基、および下記一般式2で表されるジメチルポリシロキサンの少なくとも1種類の材料が採用される。
C8H20Si ・・・(化学式1)
−C12H25 ・・・(化学式2)
−(O−Si(R3)2)c− ・・・(一般式2)
一般式2におけるR3は、例えば、メチル基を示す。また、R3の一部が水素(H)等であってもよい。また、cは6以上の整数で表される。また、ジメチルポリシロキサンの一方は、Si(CH3)3で終端され、他方はフィラーの表面で終端される。また、主鎖中に6以上のシリコン原子を含む構造を有し、シロキサン樹脂とは異なる材料の有機被膜の素材は、メチルフェニルポリシロキサンであってもよいし、メチルハイドロジェンポリシロキサンであってもよい。メチルフェニルポリシロキサンは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部がフェニル基とされたものである。メチルハイドロジェンポリシロキサンは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部が水素(H)とされたものである。
また、ドデシル基を有する有機化合物としては、例えば、ドデシルトリメトキシシランおよびドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、フィラーは、例えば、互いに異なる種類の有機被膜で表面が覆われた複数のフィラーを含んでいてもよい。この場合、例えば、基板上に絶縁性ペーストを塗布する際に表面張力の低下によって生じるものと思われる製版と基板との貼り付きを低減することができる。また、このとき、例えば、印刷時に任意のパターンで絶縁性ペーストを塗布しやすくなり、絶縁性ペーストの印刷性を向上させることができる。この場合には、例えば、上記一般式2で示されるジメチルポリシロキサンを材料とする有機被膜で表面が覆われたフィラーと、上記化学式1で示されるオクチルシランを材料とする有機被膜で表面が覆われたフィラーとを用いることができる。
また、フィラーの総質量は、例えば、絶縁性ペーストにおけるフィラーの濃度が3質量%から30質量%の値となるように設定される。この場合には、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法などに適した粘度に調整することができる。このとき、絶縁性ペーストにおいて、フィラーの量をある程度少なくし、シロキサン樹脂の占める割合を高めることができる。これにより、緻密な保護層を形成することができ、保護層のバリア性を向上させることができる。ただし、フィラーの量が少な過ぎる場合には、後述する焼成の工程で、縮合重合反応の進行によってシロキサン樹脂同士が結合する際に、クラックが生じ易くなる。このため、フィラーの総質量が、例えば、絶縁性ペーストにおけるフィラーの濃度が5質量%から25質量%の値となるように設定されれば、保護層のバリア性を容易に向上させることができる。
また、絶縁性ペーストでは、フィラーの質量がシロキサン樹脂の質量よりも少なければ、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法等に適した粘度に調整することができる。この場合、絶縁性ペーストにおいて、フィラーの量がある程度少なく、シロキサン樹脂の占める割合が高くなる。これにより、保護層が緻密になるのでバリア性が向上し得る。例えば、シロキサン樹脂100質量部に対して、3質量部から60質量部のフィラーを含ませれば、容易に緻密な保護層を形成することができる。また、例えば、シロキサン樹脂100質量部に対して、25質量部から60質量部のフィラーを含ませれば、さらに容易に緻密な保護層を形成することができる。
一実施形態に係る絶縁性ペーストに含まれるフィラーとしては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムまたは酸化チタン等からなる無機フィラーが用いられる。ここで、例えば、酸化シリコンのフィラーが採用される場合には、相溶性が向上するため、絶縁性ペーストがゲル化しにくい。また、フィラーの形状としては、粒子状、層形状、扁平状、中空状または繊維状などの形状が採用される。これら形状のフィラーを用いることによって、フィラーが等分散することによる粘度の低下を低減することができる。ここでは、例えば、真球に近い形状のフィラーよりも、扁平状等の真球状でないフィラーの方が、表面積が大きくなるので、フィラー同士が凝集しやすくなる。その結果、フィラーが等分散しにくくなる。
また、フィラーの平均粒径は、例えば1000nm以下に設定される。この平均粒径は、一次粒子の平均粒径でもよいし、一次粒子が凝集した二次粒子の平均粒径でもよい。
有機溶剤は、シロキサン樹脂およびフィラーを分散させる溶剤である。有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オールまたは2−プロパノールのうちの1種類または複数種類のものを用いることができる。
また、有機溶剤は、絶縁性ペーストにおいて5質量%から90質量%の濃度で含まれていれば、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法等に適した粘度に調整することができる。そして、例えば、絶縁性ペーストにおいて5質量%から50質量%の濃度で有機溶剤が含まれていれば、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法などに適した粘度に容易に調整することができる。
ここで、絶縁性ペーストが、塩素を含有していれば、絶縁性ペーストを塗布して保護層を形成した場合には、塩素を含有する保護層を形成することができる。絶縁性ペーストにおける塩素の含有量は、例えば、絶縁性ペーストにおける塩素の濃度が1ppmから10000ppmの値となるように設定される。
また、絶縁性ペーストは、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上を含有していてもよい。絶縁性ペーストがこれらの元素を含有している場合には、この絶縁性ペーストの塗布によって保護層を形成すれば、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上を含有する保護層を形成することができる。絶縁性ペーストにおけるホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の元素の含有量は、例えば、絶縁性ペーストにおける該1種以上の元素の濃度が1ppmから10000ppmの値となるように設定される。
また、絶縁性ペーストは、フッ素を含有していてもよい。絶縁性ペーストがフッ素を含有している場合には、この絶縁性ペーストの塗布によって保護層を形成すれば、フッ素を含有する保護層を形成することができる。絶縁性ペーストにおけるフッ素の含有量は、例えば、絶縁性ペーストにおけるフッ素の濃度が1ppmから10ppmの値となるように設定される。
また、絶縁性ペーストが、有機バインダを実質的に含有していなければ、絶縁性ペーストを乾燥させる工程において、有機バインダ等の分解による空隙の発生が低減される。これにより、保護層が緻密になり、保護層のバリア性が向上し得る。ただし、100質量部の絶縁性ペーストに対して0.1質量部未満の有機バインダは含有されてもよい。
また、絶縁性ペーストの粘度が、せん断速度が1秒−1で5Pa・秒から400Pa・秒に設定されれば、スクリーン印刷法を用いて所望のパターンに絶縁性ペーストを塗布する際に、絶縁性ペーストの滲みを低減することができる。例えば、幅が数十μmから数百μm程度の開口部を有する形状に絶縁性ペーストを容易に塗布することができる。絶縁性ペーストの粘度は、例えば、粘度・粘弾性測定装置(viscosity-viscoelasticity measuring instrument)等を用いて測定することができる。
シロキサン樹脂中のアルキル基およびフェニル基の数は、以下のようにして測定することができる。例えば、まずアルキル基およびフェニル基の同定のために、赤外線分光(Infrared Spectroscopy:IR)法、ガスクロマトグラフ質量分析(Gas Chromatograph Mass Spectrometer:GC−MS)法または高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)法を用いる。さらに、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法または質量分析(Mass Spectrometry:MS)法等によってシロキサン樹脂中のアルキル基およびフェニル基の含有量を測定することができる。
シロキサン樹脂および有機被膜の分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)法、静的光散乱(Static Light Scattering:SLS)法、固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)法または蒸気圧浸透圧(Vapor Pressure Osmometer:VPO)法等によって測定することができる。また、シロキサン樹脂および有機被膜の組成は、例えば、NMR法、IR法または熱分解ガスクロマトグラフィー(Pyrolysis Gas Chromatography:PGC)法等によって測定することができる。これらの測定方法によって、有機被膜における主鎖中の炭素原子またはシリコン原子数を測定することができる。上記の測定方法では、シロキサン樹脂と、有機被膜で表面が覆われた多数のフィラーとを分離して測定してもよい。例えば、有機溶剤で絶縁性ペーストを希釈した後に、遠心分離によってシロキサン樹脂と有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーとを分離することができる。
<1−2.絶縁性ペーストの製造方法>
一実施形態の絶縁性ペーストの製造方法について、図1を用いて以下説明する。
絶縁性ペーストは、シロキサン樹脂の前駆体と、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させる水と、触媒と、有機溶剤と、多数のフィラーと、を混合することで作製することができる。
まず、混合工程(ステップS1)をおこなう。ここでは、シロキサン樹脂の前駆体と、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させるための水と、触媒と、有機溶剤と、を容器内において混合することで混合溶液を作製する。
シロキサン樹脂の前駆体は、例えば、Si−O結合を有するシラン化合物またはSi−N結合を有するシラザン化合物などが採用され得る。これらの化合物は、加水分解を生じる性質(加水分解性ともいう)を有する。また、シロキサン樹脂の前駆体は、加水分解して縮合重合することによりシロキサン樹脂となる。
シラン化合物は、次の一般式1で表される。
(R4)4−dSi(OR5)d ・・・ 一般式3
ここで、一般式3におけるdは、例えば、1、2、3および4のうちのいずれかの整数である。また、一般式3におけるR4およびR5は、メチル基およびエチル基等のアルキル基あるいはフェニル基などといった炭素水素基を示す。
ここで、シラン化合物には、例えば、少なくともR4がアルキル基を含むシラン化合物(アルキル基系のシラン化合物ともいう)が含まれる。具体的には、アルキル基系のシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン(CH3−Si−(OCH3)3)、ジメチルジメトキシシラン((CH3)2−Si−(OCH3)2)、トリエトキシメチルシラン(CH3−Si−(OC2H5)3)、ジエトキシジメチルシラン((CH3)2−Si−(OC2H5)2)、トリメトキシプロピルシラン((CH3O)3−Si−(CH2)2CH3)、トリエトキシプロピルシラン((C2H5O)3−Si−(CH2)2CH3)、ヘキシルトリメトキシシラン((CH3O)3−Si−(CH2)5CH3)、トリエトキシヘキシルシラン((C2H5O)3−Si−(CH2)5CH3)、トリエトキシオクチルシラン((C2H5O)3−Si−(CH2)7CH3)およびデシルトリメトキシシラン((CH3O)3−Si−(CH2)9CH3)などが挙げられる。
ここで、例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基またはプロピル基であれば、シロキサン樹脂の前駆体が加水分解する際に炭素数が少なく揮発しやすい副生成物としてのアルコールが生成され得る。これにより、後述する副生成物除去工程で副生成物を除去しやすくなる。その結果、例えば、保護層11を形成する際に、副生成物の蒸発による空孔の発生が起こりにくくなることで、保護層11が緻密となり、保護層11のバリア性が向上し得る。また、加水分解によって生成された副生成物は低粘度の液体であるので、副生成物除去工程までの絶縁性ペーストの製造工程において混合溶液がゲル化しにくくなる。これにより、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。
ここで、例えば、シロキサン樹脂の前駆体がフェニル基を有する場合には、シロキサン樹脂の前駆体は、加水分解して縮合重合し、フェニル基の加水分解および縮合重合で生じた副生成物が除去されたシロキサン樹脂とされた状態で混合されてもよい。これにより、例えば、シロキサン樹脂の加水分解反応による絶縁性ペーストの粘度の変動が低減され、絶縁性ペーストの粘度が安定しやすくなる。また、例えば、副生成物が除去された状態で、シロキサン樹脂と有機溶剤とフィラーとを混合して絶縁性ペーストを生成すれば、絶縁性ペーストに含有される副生成物の量が低減される。このため、このような絶縁性ペーストを生成すれば、例えば、スクリーン印刷法によって絶縁性ペーストの塗布を行う場合には、スクリーン製版の乳剤が副生成物によって溶解されることが低減される。その結果、スクリーン製版のパターンの寸法が変動しにくくなる。
また、シラン化合物には、例えば、R4およびR5が、フェニル基とアルキル基の双方を含むシラン化合物が含まれる。このようなシラン化合物としては、例えば、トリメトキシフェニルシラン(C6H5−Si−(OCH3)3)、ジメトキシジフェニルシラン((C6H5)2−Si−(OCH3)2)、メトキシトリフェニルシラン((C6H5)3−Si−OCH3)、トリエトキシフェニルシラン(C6H5−Si−(OC2H5)3)、ジエトキシジフェニルシラン((C6H5)2−Si−(OC2H5)2)、エトキシトリフェニルシラン((C6H5)3−Si−OC2H5)、トリイソプロポキシフェニルシラン(C6H5−Si−(OC3H7)3)、ジイソプロポキシジフェニルシラン((C6H5)2−Si−(OC3H7)2)およびイソプロポキシトリフェニルシラン((C6H5)3−Si−OC3H7)などが挙げられる。
これらのシラン化合物のうち、例えば、2つ以上のOR結合が含まれるシラン化合物が採用されれば、シラン化合物が加水分解した後に縮合重合を生じることで生成されるシロキサン結合(Si−O−Si結合)の数が増加し得る。これにより、保護層を構成する酸化シリコンにおけるシロキサン結合のネットワークが多くなり得る。その結果、保護層のバリア性が向上し得る。
また、シラザン化合物は、無機シラザン化合物および有機シラザン化合物の何れであってもよい。ここで、無機シラザン化合物としては、例えば、ポリシラザン(−(H2SiNH)−)が挙げられる。有機シラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン((CH3)3SiNHSi(CH3)3)、テトラメチルシクロジシラザン((CH3)2Si(NH)2Si(CH3)2)またはテトラフェニルシクロジシラザン((C6H5)2Si(NH)2Si(C6H5)2)等が挙げられる。
水は、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させるための溶液である。例えば、水として、純水を用いる。例えば、シラン化合物のSi−OCH3の結合に対して水が反応することで、Si−OH結合とHO−CH3(メチルアルコール)を生じさせる。
有機溶剤は、シロキサン樹脂の前駆体からシロキサン樹脂を含むペーストを生成するための溶剤である。また、有機溶剤は、シロキサン樹脂の前駆体と水とを混合させることができる。また、有機溶剤は、シロキサン樹脂および後述するフィラーを分散させる役目も果たすことができる。有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オールまたは2−プロパノールなどが用いられる。ここでは、これらの有機溶剤のうちの1種類の有機溶剤および2種類以上の有機溶剤を混合した有機溶剤の何れが用いられてもよい。
触媒は、シロキサン樹脂の前駆体が加水分解および縮合重合を生じる際に、反応の速度を制御することができる。例えば、シロキサン樹脂の前駆体に含まれるSi−OR結合(例えば、Rはアルキル基)に加水分解および縮合重合を生じさせて、2以上のSi−OHからSi−O−Si結合とH2O(水)とを生じさせる反応の速度が調整され得る。触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸、燐酸、フッ化水素酸、酢酸等から選択される1種以上の無機酸または1種以上の有機酸が用いられる。また、触媒として、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ピリジン等のうちの1種以上の無機塩基または1種以上の有機塩基が用いられてもよい。さらに、触媒は、例えば、無機酸と有機酸とを組み合わせたものでもよく、無機塩基と有機塩基とが組み合わされたものであってもよい。
混合工程で混合する各材料の比率は、これらの材料を混合した総質量(100質量%)に対して、シロキサン樹脂の前駆体が10質量%から90質量%、水が5質量%から40質量%(または10質量%から20質量%)、触媒が1ppmから1000ppm、有機溶剤が5質量%から50質量%である。上記範囲とすることで、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解して縮合重合したシロキサン樹脂を、絶縁性ペーストに適切な質量比で含有させることができる。さらに、絶縁性ペーストがゲル化して絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎないようにし得る。
このような混合工程では、シロキサン樹脂の前駆体と水とが反応して、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解が始まる。また、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合を生じて、シロキサン樹脂が生成され始める。
また、混合溶液に塩素化合物を混合してもよい。この塩素化合物は、例えば、下記の一般式4で表される。混合工程において混合溶液に上記の塩素化合物を混合させない場合には、混合工程よりも後の工程において上記の塩素化合物を混合溶液に添加してもよい。
(R6)4−e−fSi(OR7)e(Cl)f ・・・ 一般式4
ここで、一般式4におけるR6およびR7は、例えば、メチル基またはエチル基などのアルキル基またはフェニル基などといった炭素水素基を表す。また、一般式4におけるeは1、2および3のうちの何れか1つの整数である。fは1および2のうちの何れか1つの整数である。e+fは2、3および4のうちの何れか1つの整数である。e+fは、例えば、3または4とされる。R6およびR7は同一のアルキル基またはフェニル基でもよいし、同一のアルキル基またはフェニル基でなくてもよい。混合溶液の中には、例えば、塩素化合物が、Si−Cl結合を有し、加水分解の反応が生じていない状態で含有されてもよい。
また、混合溶液に、例えば、塩化物などを混合させてもよい。塩化物としては、例えば、塩化亜鉛(ZnCl2)、塩化マグネシウム(MgCl2)または塩化錫(SnCl2)などが採用される。
また、混合溶液に、例えば、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上についての単体の元素、酸化物および塩化物のうちの少なくとも1種を混合させてもよい。
また、混合溶液に、例えば、フッ素化合物を混合してもよい。フッ素化合物としては、例えば、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上のフッ化物が採用される。
次に、第1の攪拌工程(ステップS2)をおこなう。混合工程で作製した混合溶液を、例えば、ミックスローター、スターラー等を用いて攪拌する。ここでは、混合溶液を攪拌すると、さらに、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解が進行する。また、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合を生じ、シロキサン樹脂が生成され続ける。例えば、ミックスローターで攪拌をおこなう場合には、ミックスローターの回転ローラーの回転数が400rpmから600rpm程度とされ、攪拌時間が30分間から90分間程度とされる攪拌条件が採用される。このような攪拌条件が採用されると、シロキサン樹脂の前駆体、水、触媒および有機溶剤を均一に混合することができる。
また、第1の攪拌工程では、例えば、混合溶液が加熱されれば、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解および縮合重合が進行しやすい。これにより、例えば、第1の攪拌工程以降の工程において混合溶液の粘度が安定しやすくなる。また、例えば、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解および縮合重合が進行しやすいので、攪拌時間の短縮による生産性の向上が図られ得る。
次に、副生成物除去工程(ステップS3)をおこなう。この工程では、第1の攪拌工程(ステップS2)で攪拌された混合溶液から副生成物を除去する。ここでは、例えば、有機溶剤およびシロキサン樹脂の前駆体と水との反応によって発生したアルコール等の有機成分の副生成物、水および触媒を揮発させる。この副生成物の除去により、絶縁性ペーストを保管する際、または絶縁性ペーストを連続して塗布する際に、副生成物としての有機成分の揮発に起因した絶縁性ペーストの粘度の変動が低減され得る。また、スクリーン印刷法を用いて絶縁性ペーストを塗布する際には、スクリーン製版の乳剤が副生成物としての有機成分によって溶解されにくくなる。これにより、スクリーン製版のパターンの寸法の変動が低減され得る。また、副生成物除去工程においても、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合を生じ、シロキサン樹脂が生成され続ける。また、副生成物除去工程では、水および触媒を揮発させるため、シロキサン樹脂の前駆体の縮合重合の反応が低減され得る。これにより、混合溶液の粘度の変動が低減され得る。
副生成物除去工程は、例えば、ホットプレートまたは乾燥炉等を用いて、処理温度が室温から90℃程度(または50℃から90℃程度でもよい)であり且つ処理時間が10分間から600分間程度である条件で、攪拌後の混合溶液に処理を施す。処理温度が上記温度範囲内であれば副生成物が除去され得る。また、上記温度範囲内では、副生成物である有機成分が揮発しやすい。その結果、処理時間の短縮による生産性の向上が図られ得る。
副生成物除去工程では、例えば、加水分解の反応で生成されたメチルアルコール等の有機成分だけでなく、添加した触媒等も揮発によって除去される。一実施形態では、副生成物除去工程において、混合工程で添加した触媒が揮発するので、触媒として塩酸を用いた場合には塩素も除去される。このため、副生成物除去工程の後に、塩酸または前述した一般式4で表されるアルコキシシランの一部に塩素を含有する化合物等を混合溶液に添加することで、混合溶液に塩素を含有させてもよい。また、混合溶液に亜鉛、マグネシウムまたは錫などとの塩化物を混合してもよい。
また、混合溶液にフッ素を含ませる場合には、副生成物除去工程において、混合工程で添加した触媒が揮発するので、フッ素が除去される。このため、副生成物除去工程の後に、フッ酸あるいは亜鉛、マグネシウムまたは錫等のフッ化物を混合溶液に添加することで混合溶液にフッ素を含有させてもよい。
副生成物除去工程は、減圧下でおこなわれれば、副生成物である有機成分および触媒が揮発しやすい。その結果、処理時間の短縮による生産性の向上が図られ得る。
また、例えば、副生成物除去工程において、第1の攪拌工程で加水分解せずに残存したシロキサン樹脂の前駆体をさらに加水分解させてもよい。
次に、フィラー添加工程(ステップS4)をおこなう。ここでは、上記副生成物除去工程(ステップS3)で副生成物が除去された混合溶液に多数のフィラーを添加する。フィラーの材料としては、例えば、酸化シリコンなどの無機材料が採用される。また、ここでは、フィラーとして、例えば、有機被膜で覆われた表面を有するフィラーが用いられる。この有機被膜の材料には、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有し、シロキサン樹脂とは異なる材料が適用される。このように、第1の攪拌工程の後にフィラー添加工程をおこなうことによって、混合溶液の粘度の調整を容易におこなうことができる。また、フィラーは、例えば、作製後の絶縁性ペーストに3質量%から30質量%(5質量%から25質量%でもよい)含まれるように添加される。
次に、第2の攪拌工程(ステップS5)をおこなう。ここでは、フィラーが添加された混合溶液に対して、例えば、自転・公転ミキサー等を用いておこなう。例えば、自転・公転ミキサーで攪拌をおこなう場合には、自転部と公転部の回転数が800rpmから1000rpmであり、攪拌時間が1分間から10分間である条件で攪拌をおこなう。上記条件で攪拌をおこなうことによって、混合溶液の中にフィラーを均一に分散させることができる。
次に、粘度安定化工程(ステップS6)をおこなう。ここでは、攪拌後の混合溶液が、例えば、室温で2時間から24時間程度保管されることによって、混合溶液の粘度が安定する。第2の攪拌工程において、混合溶液の粘度が安定する場合は、粘度安定化工程を省略することができる。
以上の工程によって、絶縁性ペーストを作製することができる。
また、第1の攪拌工程の後に、フィラー添加工程をおこなうようにしているが、例えば、混合工程においてフィラーも同時に添加しても構わない。これにより、フィラー添加工程および第2攪拌工程が不要となるため、生産性が向上する。
また、副生成物除去工程はおこなわなくてもよい。副生成物除去工程をおこなわずに作製した絶縁性ペーストは、スプレー法などで塗布することができる。
また、例えば、アルキル基を有するシロキサン樹脂を混合工程で生成し、フェニル基を有するシロキサン樹脂を、フィラー添加工程で添加してもよい。
<1−3.太陽電池素子>
一実施形態に係る太陽電池素子は、半導体基板と、パッシベーション層と、保護層と、電極と、を有している。パッシベーション層は、半導体基板の上に位置している。保護層は、パッシベーション層の上に位置し、塩素を含有している。電極は、保護層の上に位置している。以下、一実施形態に係るPERC型の太陽電池素子10の概略的な構成を、図2から図4に基づいて説明する。
太陽電池素子10は、図4で示されるように、第1素子面10aと、第2素子面10bと、側面10cと、を有している。第1素子面10aは、主に光が入射する受光面である。第2素子面10bは、第1素子面10aの反対側に位置している裏面である。側面10cは、第1素子面10aと第2素子面10bとを接続している状態で位置している。
太陽電池素子10は、半導体基板1、反射防止層5、第1電極6、第2電極7、第3電極8、パッシベーション層(以下、第1パッシベーション層ともいう)9および保護層11を備えている。
半導体基板1は、第1面1aと、第2面1bと、側面1cと、を有している。第2面1bは、第1面1aの反対側に位置している。側面1cは、第1面1aと第2面1bとを接続している状態で位置している。半導体基板1は、第1半導体層2と、第2半導体層3と、を有する。第1半導体層2は、一導電型(例えばp型)の半導体領域である。第2半導体層3は、第1半導体層2の第1面1a側に位置している逆導電型(例えばn型)の半導体領域である。半導体基板1には、例えば、単結晶シリコンまたは多結晶シリコン基板が適用される。半導体基板1は、上述したような第1半導体層2および第2半導体層3を有する半導体基板であれば、シリコン以外の材料を用いた半導体基板であってもよい。
ここでは、例えば、第1半導体層2としてp型の半導体を用いる場合を想定する。この場合には、半導体基板1としては、例えば、多結晶または単結晶のp型のシリコン基板が採用される。シリコン基板は、例えば、250μm以下あるいは150μm以下の厚さを有する薄い基板である。半導体基板1の形状は、特に限定されないが、平面視で略四角形状であれば、複数の太陽電池素子10を並べて太陽電池モジュールが製造される際に、太陽電池素子10同士の間の隙間が小さくなり得る。例えば、第1導電型がp型であり且つ第2導電型がn型である場合には、p型のシリコン基板は、多結晶あるいは単結晶のシリコンの結晶に、ドーパント元素としてボロンあるいはガリウムなどの不純物を含有させることで製作され得る。
第2半導体層3は、第1半導体層2の上に積層されている状態で位置している。第2半導体層3は、第1半導体層2とは逆の導電型(一実施形態ではn型)を有し、第1半導体層2の第1面1a側に位置している。これにより、半導体基板1は、第1半導体層2と第2半導体層3との界面にpn接合部を有している。第2半導体層3は、例えば、p型の半導体基板のうちの第1面1a側の領域にドーパントとしてリン等の不純物を拡散させることによって形成され得る。
図4で示されるように、半導体基板1の第1面1aは、例えば、照射された光の反射率を低減するための微細な凹凸構造(テクスチャ)を有していてもよい。このとき、テクスチャの凸部の高さは、例えば、0.1μmから10μm程度とされる。ここで、隣り合う凸部の頂点の間の距離は0.1μmから20μm程度とされる。テクスチャは、例えば、凹部が略球面状であってもよいし、凸部がピラミッド形状であってもよい。上述した「凸部の高さ」とは、例えば、図4において、凹部の底面を通る直線を基準線とし、この基準線に対して垂直な方向(ここでは+Z方向)において、この基準線から凸部の頂点までの距離のことである。
反射防止層5は、太陽電池素子10の第1素子面10aに照射された光の反射率を低減する機能を有する。反射防止層5の素材としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムまたは窒化シリコン層等が採用され得る。反射防止層5の屈折率および厚みは、太陽光のうち、半導体基板1に吸収されて発電に寄与し得る波長範囲の光に対して、反射率が低い条件(低反射条件ともいう)を実現することができる屈折率および厚みに適宜設定され得る。例えば、反射防止層5の屈折率を1.8から2.5程度とし、この反射防止層5の厚みを、20nmから120nm程度とすることが考えられる。
さらに、半導体基板1は、第3半導体層4を有している。第3半導体層4は、半導体基板1のうちの第2面1b側の表層部に位置している。第3半導体層4の導電型は、第1半導体層2の導電型(一実施形態ではp型)と同一とされる。そして、第3半導体層4が含有するドーパントの濃度は、第1半導体層2が含有するドーパントの濃度よりも高い。換言すれば、第3半導体層4には、第1半導体層2において一導電型にするためにドープされたドーパント元素の濃度よりも高い濃度でドーパント元素が存在している。第3半導体層4は、半導体基板1の第2面1b側において内部電界を形成する。これにより、半導体基板1の第2面1bの近傍では、光の照射に応じた光電変換によって生じる少数キャリアの再結合が生じにくくなる。その結果、光電変換効率の低下が生じにくくなる。第3半導体層4は、例えば、半導体基板1のうちの第2面1b側の表層部に、ボロンまたはアルミニウムなどのドーパント元素が拡散されることで形成され得る。このとき、第1半導体層2が含有するドーパント元素の濃度を、5×1015atoms/cm3から1×1017atoms/cm3程度とし、第3半導体層4が含有するドーパント元素の濃度を、1×1018atoms/cm3から5×1021atoms/cm3程度とすることができる。第3半導体層4は、後述する第3電極8と半導体基板1との接触部分に存在すればよい。
第1電極6は、半導体基板1の第1面1a側に位置している電極である。第1電極6は、図2および図4で示されるように、出力取出電極6aと、複数の線状の集電電極6bとを有している。ただし、図4では集電電極6bを省略して示している。
出力取出電極6aは、半導体基板1における光の照射に応じた光電変換によって得られたキャリアを太陽電池素子10の外部に取り出すためのものである。出力取出電極6aとしては、例えば、第1素子面10aを平面視した場合に、細長い長方形状の形状を有するバスバー電極が採用される。出力取出電極6aの短手方向の長さ(幅ともいう)は、例えば1.3mmから2.5mm程度とされる。出力取出電極6aの少なくとも一部は、集電電極6bと交差して電気的に接続されている状態にある。
集電電極6bは、半導体基板1において光の照射に応じた光電変換で得られたキャリアを集めることができる。各集電電極6bは、例えば、50μmから200μm程度の幅を有する線状の電極である。このように、集電電極6bの幅は、出力取出電極6aの幅よりも小さい。複数の集電電極6bは、例えば、互いに1mmから3mm程度の間隔を空けて並ぶように位置している。
第1電極6の厚みは、例えば、10μmから40μm程度である。第1電極6は、例えば、銀を主成分として含有している金属ペースト(銀ペーストともいう)がスクリーン印刷等によって所望の形状に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。一実施形態において、主成分とは、含有成分のうち含有される比率(含有率ともいう)が最も大きい(高い)成分のことを意味する。また、例えば、集電電極6bと同様の形状の補助電極6cが、半導体基板1の周縁部に沿って位置していることで、集電電極6b同士を電気的に接続してもよい。
第2電極7および第3電極8は、図3および図4で示されるように、半導体基板1の第2面1b側に位置している。
第2電極7は、太陽電池素子10において光の照射に応じた光電変換で得られたキャリアを太陽電池素子10の外部に取り出すための電極である。第2電極7の厚みは、例えば、10μmから30μm程度とされる。第2電極7の幅は、1.3mmから7mm程度とされる。第2電極7が、主成分として銀を含んでいる場合には、第2電極7は、例えば、銀を主成分とする金属ペースト(銀ペーストともいう)がスクリーン印刷等によって所望の形状に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。
第3電極8は、半導体基板1の第2面1b側において、半導体基板1において光の照射に応じた光電変換で得られたキャリアを集めるための電極である。第3電極8は、第2電極7と電気的に接続している状態で位置している。ここでは、第2電極7の少なくとも一部が第3電極8に接続している状態で位置していればよい。第3電極8の厚みは、例えば、15μmから50μm程度とされる。
また、第3電極8が、主成分としてアルミニウムを含んでいる場合には、第3電極8は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属ペースト(アルミニウムペーストともいう)が所望の形状に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。
第1パッシベーション層9は、半導体基板1の少なくとも第2面1bの上に位置している。第1パッシベーション層9は、半導体基板1において光の照射に応じた光電変換で生成される少数キャリアの再結合を低減する機能を有する。第1パッシベーション層9の素材としては、例えば、酸化アルミニウムなどが採用される。この場合、第1パッシベーション層9は、例えば、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法で形成され得る。ここで、第1パッシベーション層9が酸化アルミニウムを含む場合には、この酸化アルミニウムは負の固定電荷を有する。このため、電界効果によって、半導体基板1の第2面1b側で生じる少数キャリア(この場合は電子)が、p型の第1半導体層2と第1パッシベーション層9との界面(第2面1b)から遠ざけられる。これにより、半導体基板1の第2面1bの近傍における少数キャリアの再結合が低減され得る。その結果、太陽電池素子10の光電変換効率が向上し得る。第1パッシベーション層9の厚みは、例えば、10nmから200nm程度とされる。
第1パッシベーション層9は、例えば、塩素またはフッ素を含有してもよい。この場合には、PID(Potential Induced Degradation)現象による太陽電池素子10の出力特性の低下が生じにくくなる。この理由は次のように説明することができる。PID現象の原因の1つとしてナトリウムイオンが考えられている。ナトリウムイオンが第1パッシベーション層9に拡散した場合、電界パッシベーション効果が低下することによって少数キャリアの界面再結合が増加する。また、ナトリウムイオンが半導体基板1に拡散した場合にはさらに少数キャリアの再結合が増加する。このため、太陽電池素子10の出力特性が低下する。しかしながら、第1パッシベーション層9の中に塩素およびフッ素の少なくとも一方の元素が含有されている場合には、塩素およびフッ素の少なくとも一方の元素がナトリウムイオンと反応しやすい。これにより、ナトリウムイオンが第1パッシベーション層9また半導体基板1へ拡散しにくくなり得るものと推察される。塩素およびフッ素の少なくとも一方の元素を含有する第1パッシベーション層9は、例えば、ALD法による第1パッシベーション層9の形成工程において、塩素およびフッ素の少なくとも一方を含むガスを導入することによって形成され得る。第1パッシベーション層9に含有される塩素の濃度は、例えば、1ppmから5000ppmとされる。また、第1パッシベーション層9に含有されるフッ素の濃度は、例えば、1ppmから10ppmとされる。
第1パッシベーション層9に含有されている塩素およびフッ素の存在および濃度は、例えば、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)法あるいはICP発光分光分析(ICP−AES:ICP-Atomic Emission Spectrometry)法等で測定され得る。
保護層11は、第1半導体層2の第2面1bの上に位置している第1パッシベーション層9の上に位置している。保護層11は、第1パッシベーション層9を保護することができる。保護層11の素材としては、例えば、酸化シリコンなどが採用される。保護層11は、第1パッシベーション層9上において、所望のパターンを有している状態で位置している。保護層11は、厚さ方向(ここでは+Z方向)にこの保護層11を貫通する間隙を有している。この間隙は、例えば、第2面1bに沿った周囲が閉じられた貫通孔を形成している孔部であってもよいし、第2面1bに沿った周囲の少なくとも一部が開口しているスリット状の孔部であってもよい。例えば、保護層11を平面視した場合に、保護層11が複数の孔部12を有している場合が想定される。ここで、保護層11を平面視した場合に、各孔部12は、ドット(点)状であってもよいし、帯(線)状であってもよい。孔部12の直径または幅は、10μmから500μm程度とされる。孔部12のピッチは、例えば、0.3mmから3mm程度とされる。孔部12のピッチは、例えば、保護層11を平面視した際の互いに隣り合う孔部12の中心同士の距離とされる。
ところで、保護層11の上に第3電極8が形成される際には、例えば、アルミニウムペーストが所望の形状を有するように塗布されて焼成される。このとき、保護層11の孔部12において第1パッシベーション層9上に直接塗布されたアルミニウムペーストは、第1パッシベーション層9のファイヤースルー(焼成貫通ともいう)によって、半導体基板1の第2面1bに第3電極8が直接接続される。また、このとき、例えば、Alペースト内のアルミニウムが半導体基板1の第2面1b側の表層部内に拡散することで、第3半導体層4が形成される。また、第1パッシベーション層9のうちの保護層11で覆われている部分では、アルミニウムペーストは第1パッシベーション層9のファイヤースルーを生じない。これにより、太陽電池素子10において、半導体基板1の第2面1b上に、保護層11の所望のパターンに対応するパターンで第1パッシベーション層9を存在させることが可能となる。その結果、第1パッシベーション層9によるパッシベーション効果が低減されにくい。保護層11の厚みは、例えば、0.5μmから10μm程度とされる。保護層11の厚みは、絶縁性ペーストの組成、半導体基板1の第2面1bの凹凸形状の大きさ、アルミニウムペーストに含まれるガラスフリットの種類またはその含有量、第3電極8の形成時における焼成条件等によって適宜変更される。保護層11は、上述した絶縁性ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥させることで形成され得る。
保護層11は、例えば、半導体基板1の第2面1b上に形成された第1パッシベーション層9上に、絶縁性ペーストがスクリーン印刷法などの塗布法によって所望のパターンを有するように塗布された上で、乾燥されることで形成される。保護層11は、例えば、半導体基板1の側面1c上において、直接あるいは第1パッシベーション層9上に形成された反射防止層5上にも形成されてもよい。このとき、保護層11の存在によって、太陽電池素子10におけるリーク電流の低減が図られ得る。
ここで、例えば、保護層11は、塩酸(HCl)または塩化物などの形態で塩素を含有し得る。塩化物としては、例えば、塩化亜鉛(ZnCl2)、塩化マグネシウム(MgCl2)および塩化錫(SnCl2)などが考えられる。例えば、保護層11が塩素を含有していれば、保護層11の中に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分を含む領域において、加水分解および縮合重合の反応が生じてシロキサン樹脂が高分子成分となりやすい。
ここで、例えば、保護層11に塩酸が含有されている場合において、以下のような反応が生じることが想定される。この場合には、例えば、保護層11において、シロキサン樹脂の終端部がメトキシ基(−OCH3)で終端されている部分があり、水分および塩酸が存在していれば、水素イオンの濃度が高い状態が生じる。このとき、例えば、シロキサン樹脂のうちのメトキシ基で終端されている終端部の酸素に水素イオンが結合することで終端部のうちのメチル基が酸素から外れ、シロキサン樹脂の終端部に存在するシリコンがヒドロキシ基(−OH)で終端された状態となる。また、このとき、例えば、シロキサン樹脂の終端部から外れたメチル基と水酸化物イオンとの結合によってメチルアルコールが生成される。このようにして、シロキサン樹脂の加水分解が促進される。
さらに、例えば、第1のシロキサン樹脂の終端部におけるシラノール結合(Si−OH結合)の酸素(O)に、塩酸(HCl)に由来する水素イオン(H+)が結合する。このとき、塩酸(HCl)に由来する塩素イオン(Cl−)が存在している状態となる。また、このとき、第1のシロキサン樹脂の終端部におけるシラノール結合の部分では、水素イオンが結合した酸素がシリコンの電子を奪い、シリコンと酸素との間の結合が外れて、水(H2O)が生成する。ここで、電子が1つ奪われたシリコン(Si+)は、不安定であり、周囲の分子と結合しようとする。一方、第2のシロキサン樹脂の終端部では、シラノール結合の水素(H)が水素イオン(H+)となって第2のシロキサン樹脂の終端部から外れ、シリコンに酸素が結合しているSi−O−が生じる。このとき、シラノール結合から外れた水素イオン(H+)は、塩素イオン(Cl−)と結合することで、塩酸(HCl)を生成する。そして、第1のシロキサン樹脂の終端部のシリコン(Si+)と、第2のシロキサン樹脂の終端部のSi−O−とが結合して、シロキサン結合(Si−O−Si結合)を生じる。このような反応によってシロキサン樹脂の縮合重合が促進される。このため、例えば、保護層11が塩素を含有することによって、保護層11中に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分を含む領域において、加水分解、縮合重合反応が生じて高分子成分となりやすい。その結果、シロキサン樹脂の低分子成分が残留しにくく、保護層11におけるシロキサン樹脂の低分子成分の揮発が発生しにくい。このため、保護層11において残留した低分子成分の揮発に起因する空隙の生成が低減され、保護層11の透湿性が低下しやすい。これにより、第1パッシベーション層9を保護層11で十分に保護することが可能であり、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。その結果、第1パッシベーション層9のパッシベーション効果が低下しにくくなる。
また、ここで、例えば、保護層11において、シロキサン樹脂の終端部がシラノール結合で終端されている部分があり、保護層11に塩化物としての塩化亜鉛(ZnCl2)が含有されている場合には、以下のような反応が生じることが想定される。この場合には、例えば、塩化亜鉛(ZnCl2)のうちの2つの塩素元素の部分が2つの塩素イオン(2Cl−)になり、亜鉛元素(Zn)の部分が亜鉛イオン(Zn2+)となる。このとき、亜鉛イオン(Zn2+)が不安定である。このため、亜鉛イオン(Zn2+)が、第1のシロキサン樹脂におけるシラノール結合の水酸基と結合する。このとき、第1のシロキサン樹脂の終端部としてのシリコン(Si+)と1価の水酸化亜鉛(ZnOH+)と2つの塩素イオン(2Cl−)とが生じる。次に、不安定な1価の水酸化亜鉛(ZnOH+)から水素イオン(H+)が外れて、酸化亜鉛(ZnO)が生じる。このとき、水素イオン(H+)および2つの塩素イオン(Cl−)が触媒として機能して、第2のシロキサン樹脂におけるシラノール結合と、第1のシロキサン樹脂の終端部としてのシリコン(Si+)とが反応する。これにより、シロキサン結合(Si−O−Si結合)、酸化亜鉛(ZnO)、2つの水素イオン(2H+)および2つの塩素イオン(2Cl−)が生じる。このとき、水素イオン(H+)が過剰に存在していれば、2つの水素イオン(2H+)および2つの塩素イオン(2Cl−)の一部が適宜反応して塩酸(HCl)が生成される。このような反応によってシロキサン樹脂の縮合重合が促進される。このため、例えば、保護層11において、シロキサン樹脂の低分子成分がシロキサン樹脂の高分子成分になりやすい。その結果、シロキサン樹脂の低分子成分が残留しにくく、保護層11におけるシロキサン樹脂の低分子成分の揮発が発生しにくい。このため、保護層11において残留しているシロキサン樹脂の低分子成分の揮発に起因する空隙の生成が低減され、保護層11の透湿性が低下しやすい。
また、ここでは、例えば、シロキサン樹脂の縮合重合の促進によって、互いに間隔を空けて位置しているシロキサン樹脂の高分子成分とシロキサン樹脂の低分子成分とが、シロキサン結合の生成によって、一続きのシロキサン樹脂の高分子成分となりやすい。このとき、保護層11が緻密な層となり、保護層11の透湿性が低下しやすい。また、保護層11がファイヤースルーされにくくなる。これにより、第1パッシベーション層9を保護層11によって十分に保護することができ、第1パッシベーション層9のパッシベーション効果が低下しにくくなる。また、保護層11が塩素を含有している場合には、この塩素がナトリウムイオンと反応しやすい。このため、PID現象の原因となり得るナトリウムイオンが、第1パッシベーション層9および半導体基板1へ拡散しにくくなる。これにより、PID現象も生じにくくなる。したがって、例えば、保護層11が塩素を含有することによって、太陽電池素子10の出力特性が維持され得る。
ここで、保護層11中の塩素の含有濃度は、例えば、1ppmから10000ppmであればよい。この場合には、上述した効果が得られる。保護層11に含有されている塩素の存在および濃度は、例えば、SIMS法あるいはICP―AES法等で測定され得る。
保護層11において、例えば、第3電極8側に位置している部位における塩素の含有量が、第1パッシベーション層9側に位置している部位における塩素の含有量よりも多くてもよい。この場合には、保護層11における塩素の濃度が、第1パッシベーション層9側に位置している部位よりも第3電極8側に位置している部位の方が高ければ、保護層11のうちの第3電極8側の部位において、シロキサン樹脂の高分子成分が増加しやすくなる。このとき、保護層11の第3電極8側に位置している部位に空隙が発生しにくくなる。これにより、第1パッシベーション層9を保護層11で十分に保護することが可能であり、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。その結果、太陽電池素子10の出力特性が維持され得る。また、保護層11内に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が揮発する状況下においては、保護層11のうちの第3電極8側の部位によって、保護層11内に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が揮発して外部に流出する現象が生じにくくなる。これにより、外部に流出しなくなったシロキサン樹脂の低分子成分が、保護層11内の塩素によって、加水分解および縮合重合を生じやすくなる。その結果、保護層11のバリア性が向上しやすくなる。換言すれば、第1パッシベーション層9を保護層11で十分に保護することが可能であり、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。
また、保護層11は、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上を含有していてもよい。保護層11がこれらの成分を含有することによって、保護層11中のこれら1種以上の成分と、第3電極8中の金属粒子およびガラス成分とが反応しやすくなる。これにより、保護層11と第3電極8との密着性が向上し得る。保護層11中のホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上は、例えば、これらの酸化物の形態で保護層11中に含有されていればよい。
ここで、保護層11におけるホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の含有濃度は、例えば、1ppmから10000ppmであればよい。この場合には、上述した効果が得られる。
また、保護層11では、厚み方向において中央に位置する部位(中央部ともいう)よりも第1パッシベーション層9側に位置する部位の方がホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の濃度が高くてもよい。この場合には、仮に保護層11に空隙が生じやすい状況下であっても、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の成分が第1パッシベーション層9側において保護層11の成分と結合しやすい。このため、保護層11のうちの第1パッシベーション層9側の部位に空隙が発生しにくくなる。これにより、第3電極8に含まれるガラス成分と第1パッシベーション層9との反応が低減され、第1パッシベーション層9の厚みが確保されやすくなる。換言すれば、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。その結果、パッシベーション効果が低下しにくくなり、太陽電池素子10の出力特性が維持されやすくなる。ここで、例えば、保護層11の厚み方向の中央部から第3電極8側へ向かうにつれて、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の濃度が増加していてもよい。
また、保護層11は、例えば、フッ素を含有していてもよい。例えば、保護層11は、フッ酸(HF)またはフッ化物などの形態でフッ素を含有し得る。フッ化物としては、例えば、フッ化亜鉛(ZnF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)およびフッ化錫(SnF2)などが考えられる。保護層11がフッ素を含有することによって、保護層11のうちの残留しているシロキサン樹脂の低分子成分を含む領域において、シロキサン樹脂の低分子成分が、加水分解および縮合重合の反応を生じて高分子成分となりやすくなる。このため、保護層11の透湿性が低下しやすくなるので、第1パッシベーション層9を保護層11で十分に保護することが可能であり、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。その結果、第1パッシベーション層9のパッシベーション効果が低下しにくくなる。これにより、長期間にわたって太陽電池素子10の出力の初期特性が維持され得る。また、PID現象の原因の1つとして考えられている、ナトリウムイオンが半導体基板1および第1パッシベーション層9に向けて拡散する場合でも、保護層11中のフッ素がナトリウムイオンと反応することで、ナトリウムイオンが半導体基板1および第1パッシベーション層9へ拡散しにくくなる。これにより、長期間にわたって太陽電池素子10の出力の初期特性が維持され得る。
ここで、保護層11中のフッ素の含有濃度は、例えば、1ppmから10ppmであればよい。この場合には、上述した効果が得られる。保護層11に含有されているフッ素、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムの存在および濃度は、例えば、SIMS法あるいはICP―AES等で測定され得る。
保護層11は、半導体基板1の第2面1b側に位置している第1パッシベーション層9の上だけでなく、半導体基板1の側面1cの上および第1面1aの周縁部の上に形成された反射防止層5の上の少なくとも一方にも位置していてもよい。この場合には、これらの保護層11の存在によって、太陽電池素子10のリーク電流を低減することができる。
また、例えば、p型の半導体領域(一実施形態では第1半導体層2)と、酸化アルミニウム層を含む第1パッシベーション層9との間に、酸化シリコンを含む第2パッシベーション層が位置していてもよい。これによって、パッシベーション性能が向上し得る。ここで、例えば、第2パッシベーション層の厚みが0.1nmから1nm程度であれば、第2パッシベーション層が正の固定電荷を有しても、第2パッシベーション層の存在によって、第1パッシベーション層9によるパッシベーション効果が低下しにくくなる。
また、例えば、第1パッシベーション層9と保護層11との間に、酸化シリコンを含む第3パッシベーション層が位置していてもよい。この場合には、第3パッシベーション層が保護層11と第1パッシベーション層との接合のバッファ層として機能するため、保護層11とパッシベーション層との密着性が向上する。第3パッシベーション層の厚みが、例えば、5nmから15nm程度であれば、第3パッシベーション層が正の固定電荷を有していても、第1パッシベーション層9のパッシベーション効果が低下しにくくなる。
さらに、例えば、第3電極8は、太陽電池素子10の第2面1b上に集電電極6bと同様な形状を有している状態で位置し、第2電極7と接続していてもよい。このような構造が採用されれば、太陽電池モジュールの裏面側へ入射される地面等からの反射光も太陽電池素子10における発電に寄与し得る。これにより、太陽電池モジュールの出力が向上し得る。
<1−4.太陽電池素子の製造方法>
太陽電池素子10の製造方法の一例について、図5(a)から図5(f)に基づいて説明する。
まず、例えば、図5(a)で示されるように、半導体基板1を用意する。半導体基板1は、例えば、既存のCZ法または鋳造法などによって形成される。ここでは、半導体基板1として、p型の多結晶シリコン基板を用いた例について説明する。
まず、例えば、鋳造法によって多結晶シリコンのインゴットを作製する。次いで、そのインゴットを、例えば、250μm以下の厚みにスライスして半導体基板1を作製する。その後、半導体基板1の切断面の機械的なダメージを受けた層および汚染された層を除去するために、半導体基板1の表面を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、フッ酸またはフッ硝酸などの水溶液でごく微量エッチングしてもよい。
次に、図5(b)で示されるように、半導体基板1の第1面1aにテクスチャを形成する。テクスチャは、水酸化ナトリウム等のアルカリ性の水溶液もしくはフッ硝酸等の酸性の水溶液を使用したウエットエッチング、または反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)法等を使用したドライエッチングによって形成され得る。
次に、例えば、図5(c)で示されるように、上記工程によって形成されたテクスチャを有する半導体基板1の第1面1aに対して、n型の半導体領域である第2半導体層3を形成する。具体的には、テクスチャを有する半導体基板1における第1面1a側の表層部にn型の第2半導体層3を形成する。
第2半導体層3は、例えば、ペースト状にした五酸化二リン(P2O5)を半導体基板1の表面に塗布してリンを熱拡散させる塗布熱拡散法、ガス状にしたオキシ塩化リン(POCl3)を拡散源とした気相熱拡散法などを用いて形成され得る。第2半導体層3は、例えば、0.1μmから2μm程度の深さと、40Ω/□から200Ω/□程度のシート抵抗値と、を有するように形成される。ここで、例えば、気相熱拡散法では、まず、POCl3等を主として含有する拡散ガスを有する雰囲気中において600℃から800℃程度の温度で半導体基板1に5分間から30分間程度の熱処理を施して、燐ガラスを半導体基板1の表面に形成する。その後、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスの雰囲気中において800℃から900℃程度の比較的高い温度において、半導体基板1に10分間から40分間程度の熱処理を施す。これにより、燐ガラスから半導体基板1にリンが拡散して、半導体基板1の第1面1a側の表層部に第2半導体層3が形成される。
ここで、第2半導体層3を形成する際に、第2面1b側にも第2半導体層が形成される場合がある。この場合には、第2面1b側に形成された第2半導体層をエッチングで除去する。例えば、フッ硝酸の水溶液に半導体基板1の第2面1b側の部分を浸すことで、第2面1b側に形成された第2半導体層を除去することができる。これにより、半導体基板1の第2面1b側にp型の導電型を有する領域を露出させることができる。その後、第2半導体層3を形成する際に半導体基板1の第1面1a側に付着した燐ガラスをエッチングで除去する。
このように、第1面1a側に燐ガラスを残存させた状態で、第2面1b側に形成された第2半導体層をエッチングで除去すれば、第1面1a側の第2半導体層3の除去およびダメージが低減され得る。このとき、半導体基板1の側面1cに形成された第2半導体層も併せて除去してもよい。
また、例えば、半導体基板1の第2面1b側に予め拡散マスクを形成しておき、気相熱拡散法等によって第2半導体層3を形成し、続いて拡散マスクを除去してもよい。この場合には、第2面1b側に第2半導体層は形成されないため、半導体基板1の第2面1b側に形成された第2半導体層を除去する工程が不要となる。
以上の処理により、第1面1a側にn型の半導体層である第2半導体層3が位置し、且つ第1面1aにテクスチャを有している、第1半導体層2を含む多結晶の半導体基板1を準備することができる。
次に、例えば、図5(d)で示されるように、第1半導体層2の第1面1aの上と、第2半導体層3の第2面1bとの上に、酸化アルミニウムを主として含有する第1パッシベーション層9を形成する。また、第1パッシベーション層9の上に反射防止層5を形成する。反射防止層5は、例えば、窒化シリコン膜などによって構成される。
第1パッシベーション層9は、例えば、ALD法などによって形成され得る。ALD法によれば、例えば、半導体基板1の側面1cを含む全周囲に第1パッシベーション層9が形成され得る。ALD法による第1パッシベーション層9の形成では、まず、成膜装置のチャンバー内に、第2半導体層3までが形成された半導体基板1を載置する。そして、半導体基板1を100℃から250℃程度の温度域まで加熱した状態で、次の工程Aから工程Dを複数回繰り返し行い、酸化アルミニウムを主に含有する第1パッシベーション層9を形成する。これにより、所望の厚さを有する第1パッシベーション層9が形成される。
また、第1半導体層2と、酸化アルミニウム層を含む第1パッシベーション層9との間に、ALD法などによって酸化シリコンを含む第2パッシベーション層を形成してもよい。この場合においても、上記と同様に100℃から250℃程度の温度域に半導体基板1を加熱した状態で、次の工程Aから工程Dを複数回繰り返し行い、酸化シリコンを主に含有する第2パッシベーション層を形成する。工程Aから工程Dの各工程の内容は次の通りである。
[工程A]酸化シリコンの層を形成するためのビスジエチルアミノシラン(BDEAS)等のシリコン原料、または酸化アルミニウムの層を形成するためのトリメチルアルミニウム(TMA)等のアルミニウム原料が、アルゴンガスまたは窒素ガス等のキャリアガスとともに、半導体基板1上に供給される。これにより、半導体基板1の全周囲にシリコン原料またはアルミニウム原料が吸着される。BDEASまたはTMAが供給される時間は、例えば、15ミリ秒間から3000ミリ秒間程度とされる。
ここで、工程Aの開始時には、半導体基板1の表面はOH基で終端されていてもよい。換言すれば、半導体基板1の表面がSi−O−Hの構造とされてもよい。この構造は、例えば、半導体基板1を希フッ酸で処理した後に純水で洗浄することによって形成され得る。
[工程B]窒素ガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化がおこなわれることで、チャンバー内のシリコン原料またはアルミニウム原料が除去される。さらに、半導体基板1に物理吸着および化学吸着したシリコン原料またはアルミニウム原料の内、原子層レベルで化学吸着した成分以外のシリコン原料またはアルミニウム原料が除去される。窒素ガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば、1秒間から数十秒間程度とされる。
[工程C]水またはオゾンガス等の酸化剤が、成膜装置のチャンバー内に供給されることで、BDEASまたはTMAに含まれるアルキル基が除去されてOH基で置換される。これにより、半導体基板1の上に酸化シリコンまたは酸化アルミニウムの原子層が形成される。酸化剤がチャンバー内に供給される時間は、例えば、750ミリ秒間から1100ミリ秒間程度とされる。また、例えば、チャンバー内に酸化剤ととともに水素が供給されれば、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムに水素原子がより含有されやすくなる。
[工程D]窒素ガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化がおこなわれることで、チャンバー内の酸化剤が除去される。このとき、例えば、半導体基板1上における原子層レベルの酸化シリコンまたは酸化アルミニウムの形成時において反応に寄与しなかった酸化剤等が除去される。ここで、窒素ガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば、1秒間から数十秒間程度とされる。
以後、工程A、工程B、工程Cおよび工程Dがこの記載の順に行われる一連の工程を複数回繰り返すことで、所望の膜厚の酸化シリコンの層または酸化アルミニウムの層が形成される。
反射防止層5は、例えば、PECVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)法またはスパッタリング法を用いて形成される。PECVD法を用いる場合には、事前に半導体基板1を反射防止層5の成膜中の温度よりも高い温度まで加熱しておく。その後、シラン(SiH4)とアンモニア(NH3)との混合ガスを、窒素(N2)ガスで希釈し、反応圧力を50Paから200Pa程度にして、グロー放電分解でプラズマ化させたものを、加熱された半導体基板1の上に堆積させる。これにより、半導体基板1上に反射防止層5が形成される。このとき、成膜温度を、350℃から650℃程度とし、半導体基板1の事前の加熱温度を成膜温度よりも50℃程度高くする。また、グロー放電に必要な高周波電源の周波数として、10kHzから500kHz程度の周波数が採用される。また、ガス流量は、反応室の大きさ等によって適宜決定される。例えば、ガスの流量は、150ミリリットル/分(sccm)から6000ミリリットル/分(sccm)程度の範囲とされる。このとき、アンモニアガスの流量Bをシランガスの流量Aで除した値(B/A)は、0.5から15の範囲とされる。
次に、例えば、図5(e)で示されるように、第1パッシベーション層9の上の少なくとも一部に保護層11を形成する。例えば、まず、スクリーン印刷法などを用いて第1パッシベーション層9の上の少なくとも一部に上述した絶縁性ペーストを所望のパターンを有するように塗布する。次に、塗布後の絶縁性ペーストを、ホットプレートまたは乾燥炉等を用いて、最高温度が150℃から350℃程度とされ、加熱時間が1分間から10分間程度とされる条件で乾燥する。これにより、第1パッシベーション層9の上に所望のパターンを有する保護層11が形成される。このような条件で保護層11が形成されれば、後述する第3電極8の形成時において、保護層11で覆われている第1パッシベーション層9がファイヤースルーされず、パッシベーション効果が低減されにくい。
ここで、仮に保護層11において、シロキサン樹脂の低分子成分が残留している場合には、後述する第3電極8を形成するための金属ペーストの焼成工程において、シロキサン樹脂の低分子成分が揮発しやすい。このとき、揮発したシロキサン樹脂の低分子成分は、第3電極8を形成するための金属粉末の間に付着して金属粉末の焼結を阻害する。このため、焼成によって形成される第3電極8の電気抵抗が上昇することがある。また、シロキサン樹脂の低分子成分が揮発した場合には、保護層11において空隙が生じることがある。これに対して、塩素を含有している絶縁性ペーストを用いて保護層11を作製すれば、保護層11を形成するための絶縁性ペーストの乾燥工程と、第3電極8を形成するための金属ペーストの焼成工程とにおいて、保護層11中に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が縮合重合の反応を生じやすい。これにより、保護層11中に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が減少する。その結果、一実施形態に係る太陽電池素子10では、第3電極8の電気抵抗が上昇しにくく、保護層11に空隙が生じにくくなる。
また、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上を含有している絶縁性ペーストを用いて保護層11を作製してもよい。
また、フッ素を含有した絶縁性ペーストを用いて保護層11を作製してもよい。この場合には、保護層11を形成するための絶縁性ペーストの乾燥工程と、第3電極8を形成するための金属ペーストの焼成工程とにおいて、保護層11中に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が縮合重合の反応を生じやすい。これにより、保護層11中に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が減少する。その結果、第3電極8の電気抵抗が上昇にくくなり、保護層11に空隙が生じにくくなる。
また、塩素を含有する第1の絶縁性ペーストを塗布した後に、第1の絶縁性ペーストよりも塩素の含有量が多い第2の絶縁性ペーストを塗布してもよい。これにより、保護層11では、第3電極8側に位置する部位において、第1パッシベーション層9側に位置する部位よりも、塩素の含有量が多くなり得る。この場合には、保護層11のうちの第3電極8側の部位では、塩素の含有量が多くなるため、シロキサン樹脂の低分子成分の揮発による空隙が生じにくい。これにより、例えば、アルミニウムペーストの焼成時に、保護層11および第1パッシベーション層9がファイヤースルーされにくくなる。その結果、太陽電池素子10の出力特性が低下しにくい。また、保護層11内に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が揮発しやすい状況下となっても、保護層11のうちの第3電極8側の部位によって、保護層11内に残留しているシロキサン樹脂の低分子成分が揮発して外部に流出する現象が生じにくくなる。そして、太陽電池素子10の外部に流出しなくなったシロキサン樹脂の低分子成分が、保護層11内の塩素によって、加水分解および縮合重合を生じやすくなる。その結果、保護層11のバリア性が向上しやすくなる。
また、ここで、例えば、第1の絶縁性ペーストが、第2の絶縁性ペーストよりも、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上を多く含有していてもよい。この場合には、保護層11では、第1パッシベーション層9側に位置する部位において、第3電極8側に位置する部位よりも、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の含有量が多くなり得る。このため、例えば、保護層11に空隙が生じやすい状況下となっても、保護層11のうちの第1パッシベーション層9側に位置する部位において、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上の成分が保護層11の成分と結合しやすい。これにより、保護層11のうちの第1パッシベーション層9側の部位において空隙が生じにくくなる。その結果、第1パッシベーション層9がファイヤースルーされにくくなる。
保護層11は、半導体基板1の第2面1b側において、第3電極8が第2面1bと接触する位置以外に形成されればよい。保護層11が第1パッシベーション層9の上に複数の孔部12を有する所望のパターン通りに形成されれば、保護層11をレーザービームの照射などで除去する工程が不要となり、太陽電池素子10の生産性が向上し得る。
ここで、絶縁性ペーストの塗布量は、例えば、半導体基板1の第2面1bの凹凸形状の大きさ、第3電極8を形成するためのアルミニウムペーストに含まれるガラスフリットの種類または含有量、および第3電極8の形成時における焼成条件によって適宜変更される。
次に、例えば、図5(f)で示されるように、第1電極6、第2電極7および第3電極8を形成する。
第1電極6は、例えば、主成分として銀を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する第1金属ペースト(銀ペースト)を用いて作製する。まず、この第1金属ペーストを、半導体基板1の第1面1a側に塗布する。その後、例えば、焼成炉内において最高温度が600℃から850℃程度とされ、加熱時間が数十秒間から数十分間程度とされる条件で、第1金属ペーストを焼成することによって、第1電極6を形成する。ここで、第1金属ペーストの塗布は、例えば、スクリーン印刷などによって実現され得る。そして、第1金属ペーストの塗布後、所定の温度で第1金属ペースト中の溶剤を蒸散させて乾燥させてもよい。スクリーン印刷によって第1金属ペーストを塗布するのであれば、例えば、第1電極6に含まれる出力取出電極6aおよび集電電極6bを1つの工程で形成することができる。
第2電極7は、例えば、主成分として銀を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリット等を含有する第2金属ペースト(銀ペースト)を用いて作製する。半導体基板1へ第2金属ペーストを塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法などを用いることができる。第2金属ペーストの塗布後、所定の温度で第2金属ペースト中の溶剤を蒸散させて乾燥させてもよい。その後、焼成炉内において最高温度が600℃から850℃程度とされ、加熱時間が数十秒間から数十分間程度とされる条件で、第2金属ペーストを焼成することによって、第2電極7が半導体基板1の第2面1b側に形成される。
第3電極8は、例えば、主成分としてアルミニウムを含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する第3金属ペースト(アルミニウムペースト)を用いて作製する。ここでは、まず、第3金属ペーストを、予め塗布された第2金属ペーストの一部と接触するように、半導体基板1の第2面1b側に塗布する。このとき、第2電極7が形成される部位の一部を除いて、半導体基板1の第2面1bのほぼ全面に第3金属ペーストを塗布してもよい。ここでは、第3金属ペーストの塗布は、例えば、スクリーン印刷などによって実現され得る。ここで、第3金属ペーストの塗布後、所定の温度で第3金属ペースト内の溶剤を蒸散させて乾燥させてもよい。その後、例えば、焼成炉内において最高温度が600℃から850℃とされ、加熱時間が数十秒間から数十分間程度とされる条件で第3金属ペーストを焼成することによって、第3電極8が半導体基板1の第2面1b側に形成される。このとき、焼成によって、第3金属ペーストは第1パッシベーション層9をファイヤースルーして、第1半導体層2と接続する。これにより、第3電極8が形成される。また、第3電極8の形成に伴い、第3半導体層4も形成される。ただし、このとき、保護層11上にある第3金属ペーストは、保護層11によってブロックされる。このため、第3金属ペーストが焼成される際には、保護層11でブロックされた第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。
以上の工程によって、太陽電池素子10を作製することができる。このように、一実施形態に係る絶縁性ペーストおよび太陽電池素子の製造方法によれば、保護層11がファイヤースルーされにくくなる。これにより、例えば、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。その結果、信頼性が高い太陽電池素子10を提供することができる。
<2.その他>
上記一実施形態において、例えば、第3電極8を形成した後に第2電極7を形成してもよい。第2電極7は、例えば、半導体基板1と直接接触している必要はない。また、例えば、第2電極7と半導体基板1との間に第1パッシベーション層9が存在している必要はなく、第2電極7は半導体基板1と直接接触してもよい。また、例えば、第2電極7は、保護層11の上に位置していてもよい。
また、上記一実施形態において、例えば、第1電極6、第2電極7および第3電極8は、各々を形成するための金属ペーストを塗布した後に同時に焼成することで形成されてもよい。これにより、さらに太陽電池素子10の生産性が向上するとともに、半導体基板1の熱履歴の低減によって太陽電池素子10の出力特性が向上し得る。
また、上記一実施形態において、例えば、保護層11を、スパッタリング法またはCVD法等の成膜法で形成してもよい。この場合には、例えば、保護層11の成膜を行うための雰囲気に塩素を含有しているガスを導入してもよい。また、例えば、保護層11の成膜を行うための雰囲気に、ホウ素、バナジウム、鉄、亜鉛、ビスマス、鉛、錫およびマグネシウムのいずれか1種以上を含有しているガス、またはフッ素を含有しているガスを導入してもよい。