JP2018059489A - 予混合圧縮着火式エンジンシステム - Google Patents

予混合圧縮着火式エンジンシステム Download PDF

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Abstract

【課題】燃焼室の外周側の混合気が圧縮着火するタイミングを遅らせて、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを両立させることにある。
【解決手段】燃焼室(73)の中央部に対して着火し易い第1当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁(37)に燃料を噴射させる第1燃料噴射(203)と、燃焼室(73)の外周側に対して第1当量比よりもリッチな第2当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁(37)に燃料を噴射させる第2燃料噴射(205)と、第2燃料噴射(205)により燃料が噴射される燃焼室(73)の外周側に対して水噴射弁(47)によって水を噴射する水噴射(207)とを実行し、水噴射(207)は、第2当量比が1.0以上となるときに実行される。
【選択図】図10

Description

本開示は、予混合圧縮着火式エンジンシステムに関する。
この種のエンジンシステムは、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたエンジンシステムは、エンジンの運転状態が高負荷領域にあるときに、圧縮上死点付近とそれよりも前の圧縮行程中の所定時期とに設定された2回の噴射タイミングに分けて燃料噴射弁から燃料を噴射し、前段の燃料噴射によって燃焼室の外周部に形成した混合気を圧縮上死点付近で圧縮着火により燃焼させ、後段の燃料噴射によって燃焼室の中央部に形成した混合気を先の燃焼による昇温及び昇圧を以て短い時間で着火に至らせて継続的に燃料させるようになっている。
また、水噴射弁を備えたエンジンシステムが従来から知られており、例えば特許文献2に開示されている。特許文献2に開示されたエンジンシステムでは、ピストンの冠面の中央部分に円盤形凹状のキャビティが形成され、ペントルーフ型の燃焼室の天井に噴射軸(噴射方向)がキャビティ内に向くように水噴射弁が設けられていて、この水噴射弁から上死点付近で燃焼室に向けて水噴射を直接に行い、ピストンにおけるキャビティの表面に水を付着させて水膜を形成することにより、ピストンの冠面から燃焼熱が逃げるのを遮断して熱効率を高めるようになっている。
特開2012−241590号公報 特開2008−175087号公報
ところで、予混合圧縮着火式エンジンシステムでは、エンジンの負荷が高くなるに従って圧縮着火燃焼が急峻になるため、筒内圧力の急上昇に起因して燃焼騒音が増大してしまうという不都合がある。こうした不都合に対処する方策の1つとして、圧縮着火燃焼を緩慢にすることが考えられるが、そうすると燃焼安定性が低下してしまう。つまり、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とはトレードオフの関係にある。
燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを両立させるためには、特許文献1に開示されるように燃焼室に燃料を分割噴射し、燃焼室内の混合気を時間差をもって圧縮着火させることが有効である。燃焼室内の熱は同室を区画する壁面、すなわちピストンの冠面、気筒の内周面及びシリンダヘッドの下面を通して外部に逃げるため、燃焼室のうちピストンのキャビティ内に対応する中央空間は相対的に温度が高くなり易く、キャビティの外周囲に対応する外周側空間は相対的に温度が低くなり易い。このことから、まず、燃焼室の中央空間に形成した混合気を圧縮着火させ、その後に、燃焼室の外周側空間に形成した混合気が圧縮着火するように、混合気の性状を制御することが好適である。
このように燃焼室の外周側空間の混合気が圧縮着火するのを遅らせる方法としては、混合気を形成する燃料の顕熱や潜熱を利用してピストンが圧縮上死点に至ったときの燃焼室の外周側空間の混合気の温度を調節することが考えられる。具体的には、まず、燃焼室の中央空間に燃料を噴射して着火し易い当量比の混合気を形成し、次いで、燃焼室の外周側空間に燃料を噴射して中央空間の混合気よりもリッチな当量比の混合気を形成することにより、燃焼室の外周側空間の混合気に中央空間の混合気よりも顕熱や潜熱の効果を利かせ、それによって燃焼室の外周側空間の混合気を遅れて着火させることが考えられる。
しかし、エンジンの負荷が高くなると、先に噴射した燃料が燃焼室で高温環境に曝される期間が長いため、本来であれば燃料が多い分だけその潜熱や顕熱の作用によって遅れて着火することが期待される燃焼室の外周側空間の混合気が異常燃焼を起こし易くなって過早着火してしまうことがある。そうなると、燃焼室の外周側空間の混合気が燃焼室の中央空間の混合気と同じような時期に圧縮着火して燃焼し、せっかく異なる当量比の混合気により燃焼室を空間分離しても、分離した空間同士で燃焼タイミングをずらせずに、燃焼騒音を好適に抑制できなくなる事態が懸念される。さりとて、先に噴射する燃料が高温環境に曝される期間を短くするために燃焼室の外周側空間への燃料の噴射タイミングを遅らせると、燃料と空気との混合が不十分となってスモークが発生し易くなるし、燃費性能の低下を招くことにもなる。
本開示の技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が圧縮着火するタイミングを確実に遅らせて、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることにある。
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、燃焼室をその中央空間よりも外周側空間にリッチな当量比の混合気が形成されるように空間分離し、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が比較的リッチな当量比であるときに、燃焼室の外周側空間に水噴射を行うようにした。
具体的には、本開示の技術は、気筒を有するエンジンと、気筒内に往復動可能に設けられたピストンと、ピストンの冠面と気筒とシリンダヘッドの下面とによって区画される燃焼室に対し、燃料を噴射する燃料噴射弁、及び水を噴射する水噴射弁と、燃料噴射弁による燃料の噴射動作及び水噴射弁による水の噴射動作を制御する制御装置とを備える予混合圧縮着火式エンジンシステムを対象とする。このエンジンシステムでは、燃料噴射弁によって燃焼室に噴射された燃料と空気との混合気を形成し、その混合気を、燃焼室の少なくとも中央部でピストンの圧縮動作により着火させる。
制御装置は、燃焼室の中央空間に対して着火し易い第1当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁に燃料を噴射させる第1燃料噴射と、燃焼室の外周側空間に対して第1当量比よりもリッチな第2当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁に燃料を噴射させる第2燃料噴射と、第2燃料噴射により燃料が噴射される燃焼室の外周側空間に対して水噴射弁によって水を噴射する水噴射とを実行する。そして、水噴射は、第2当量比が1.0以上となるときに実行される。
この構成によると、第1燃料噴射によって燃焼室の中央空間に着火し易い第1当量比の混合気が形成され、第2燃料噴射によって燃焼室の外周側空間に第1当量比よりもリッチな第2当量比の混合気が形成される。燃焼室の外周側空間に形成される第2当量比の混合気は、燃焼室内の熱が同室を区画する壁面、すなわちピストンの冠面、気筒の内周面(シリンダライナー壁面)及びシリンダヘッドの下面を通して外部に逃げるため、燃焼室の中央空間よりも温度が低くなり易い。しかも、第2当量比の混合気は、燃焼室の中央空間に形成される混合気よりも当量比がリッチであるので、当該混合気を形成する燃料の潜熱や顕熱によって奪われる熱の量が多い。それによって、燃焼室の中央空間に形成される混合気を圧縮上死点で優先的に圧縮着火させ、その燃焼による燃焼室の昇温及び昇圧を以て燃焼室の外周側空間に形成される混合気を遅れて圧縮着火させることができる。
このように、異なる当量比の混合気により燃焼室を中央空間と外周側空間とで空間分離し、燃焼室の中央空間と外周側空間とで混合気を時間差をもって圧縮着火させることにより、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを両立させることができる。そして、燃焼室の外周側空間に形成される混合気の第2当量比が1.0以上となるリッチなときには、その第2当量比の混合気が形成される燃焼室の外周側空間に水が噴射される。そうすると、水の潜熱及び顕熱の作用により、燃焼室の外周側空間及びそこに形成される混合気が冷却されるので、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が、燃焼室が高温であると異常燃焼による過早着火を起こし易いほどリッチな状態にあっても圧縮着火し難くい状態とし、燃焼室の外周側空間の混合気の着火時期を燃焼室の中央空間の混合気の着火時期よりも確実に遅らせることができる。このことで、燃焼室に形成される混合気の着火性を確保しつつ、その燃焼を好適に緩慢化することができる。その結果、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることが可能となる。
上記エンジンシステムにおいて、第2燃料噴射は、吸気行程から圧縮行程の中期にかけての期間に実行され、第1燃料噴射及び水噴射は、第2燃料噴射の後であって且つ圧縮行程の中期から後期にかけての期間に実行されることが好ましい。
この構成によると、吸気行程から圧縮行程の中期にかけての期間に第2燃料噴射が実行される。これによって、燃焼室の外周側空間におけるスキッシュエリア等の隅々にまで第2燃料噴射によって噴射された燃料を行き渡らせることができる。さらに、第2燃料噴射の後であって且つ圧縮行程の中期から後期にかけての期間に水噴射が実行される。こうすれば、水の潜熱及び顕熱の作用を燃焼室の外周側空間に形成される混合気に効果的に効かせることができる。そして、水噴射と同じ期間において第1燃料噴射が実行される。そのことで、第1燃料噴射によって形成される混合気が燃焼室で高温環境に曝される期間が比較的短くなるので、燃焼室の中央空間に形成される混合気が過早着火するのを防止することができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、第1当量比は、0.6以上且つ0.9以下であり、第2当量比は、1.0以上且つ1.7以下であることが好ましい。
この構成によると、着火性の相対的に高い混合気が燃焼室の中央空間に形成され、着火性の相対的に低い混合気が燃焼室の外周側空間に形成される。それにより、燃焼室の中央空間と外周側空間とを当量比の異なる混合気を含むゾーンに分割し、両ゾーンの混合気を程好く時間をずらして圧縮着火させることができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、制御装置は、エンジンの運転状態が所定の負荷よりも低い第1運転領域にあるときには第1燃料噴射及び水噴射を実行せず、エンジンの運転状態が上記所定の負荷よりも高い第2運転領域にあるときには第1燃料噴射及び水噴射を実行することが好ましい。
この構成によると、第1燃料噴射は、エンジンの運転状態が所定の負荷よりも低い第1運転領域にあるときには実行されない。すなわち、このときには第2燃料噴射のみが実行される。こうすることで、燃焼室の中央空間のみに混合気を形成すると共にその周囲にガス層を形成することができる。そうして形成されたガス層は、混合気の燃焼時に断熱層として機能する。よって、エンジンの冷却損失の低減を図ることができる。
また、上記の構成によると、第1燃料噴射が実行されない第1運転領域では、水噴射も実行されない。水噴射を行うと、水の潜熱及び顕熱の作用によって燃焼室の外周側空間及びそこに形成される混合気の温度が下がるので、その分だけ燃焼安定性が低下し易くなる。第1燃料噴射を実行しない場合には、燃焼室の外周側空間に混合気が形成されないので、その燃焼室の外周側空間での過早着火の防止を目的とする水噴射を行う必要はなく、水噴射を実行しないことで、それによる燃焼安定性の低下を抑制することができる。
さらに、上記の構成によると、第1燃料噴射は、エンジンの運転状態が所定の負荷よりも高い第2運転領域にあるときに実行される。それにより、燃焼室の外周側空間にも混合気が形成されるので、その混合気を燃焼させることで、燃焼室の中央空間だけで混合気を燃焼させる場合に比べてエンジンにより高い動力を発生させることができる。
そして、上記の構成によると、水噴射は、第1燃料噴射と併せて実行される。エンジンの負荷が高くなると、燃焼室の温度が高温化するため、第1燃料噴射によって形成される混合気に異常燃焼による過早着火が発生し易くなるが、水噴射を実行することで、そうした過早着火を好適に防止することができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、制御装置は、ピストンが圧縮上死点に到達ときの燃焼室の温度を予測し、予測した温度が所定の温度以上であるときには水噴射を実行し、予測した温度が上記所定の温度未満であるときには水噴射を実行しないことが好ましい。ここで、所定の温度は、例えば1000K以上の温度に設定される。
この構成によると、水噴射は、圧縮上死点での燃焼室の温度が所定の温度以上であると予測されたときに実行される。このようにすれば、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が過早着火するリスクが比較的高い場合に、そうした過早着火の発生を好適に防止することができる。
さらに、上記の構成によると、水噴射は、圧縮上死点での燃焼室の温度が所定の温度未満であると予測されたときに実行されない。水噴射を行うと、水の潜熱及び顕熱の作用によって燃焼室及びその外周側空間に形成される混合気の温度が下がるので、その分だけ燃焼安定性が低下し易くなる。燃焼室の外周側空間に形成される混合気が過早着火するリスクが比較的低い場合には、水噴射を実行しないことで、そうした燃焼安定性の低下を抑制することができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、エンジンの幾何学的圧縮比は16以上且つ35以下に設定されていることが好ましい。
この構成によると、エンジンの幾何学的圧縮比が16以上且つ35以下という比較的高い圧縮比に設定されているので、理論熱効率を向上させることができ、且つ圧縮着火燃焼の安定化を図ることができる。
上記エンジンシステムによれば、燃焼室の外周側空間の混合気が圧縮着火するタイミングを確実に遅らせて、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることができる。
図1は、予混合圧縮着火式エンジンシステムの構成を例示する図である。 図2は、エンジンの構成を例示する断面図である。 図3は、エンジン内の燃焼室の構成を例示する断面図である。 図4は、外開弁式の噴射弁の構成を例示する断面図である。 図5は、ECUの構成を例示するブロック図である。 図6は、エンジンの運転領域を例示する図である。 図7は、混合気の当量比と着火時期との関係を例示する図である。 図8は、高負荷領域における燃料の噴射時期とその噴射量を例示する図である。 図9Aは、高負荷領域における吸気行程での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図9Bは、高負荷領域における圧縮行程の中期での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図9Cは、高負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図9Dは、高負荷領域における圧縮上死点付近での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図9Eは、高負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図9Fは、高負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図9Gは、高負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図9Hは、高負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図10は、高負荷領域における燃料及び水の噴射時期とそれらの噴射量を例示する図である。 図11は、高負荷領域における圧縮行程の後期での水噴射の様子を概念的に例示する図である。 図12は、中負荷領域における燃料の噴射時期とその噴射量を例示する図である。 図13Aは、中負荷領域における吸気行程での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図13Bは、中負荷領域における圧縮行程の後期での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図13Cは、中負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図13Dは、中負荷領域における圧縮上死点付近での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図13Eは、中負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図13Fは、中負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図13Gは、中負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図13Hは、中負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図14は、ECUが実行する燃料噴射制御及び水噴射制御を例示するフローチャートである。
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
<エンジンシステムの全体構成>
図1に、予混合圧縮着火式エンジンシステム1の構成を例示する。予混合圧縮着火式エンジンシステム1(以下、単に「エンジンシステム1」と称する)の燃料Fはガソリンである。ガソリンは、バイオエタノール等を含んでいてもよい。エンジンシステム1の燃料Fは、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジンシステム1は、図1に示すように、吸気(空気)と燃料Fとの混合気を燃焼させるエンジン3と、エンジン3に導入する吸気が流通する吸気通路5と、エンジン3内での混合気の燃焼により発生した排気を排出する排気通路7と、エンジン3に排気(既燃ガス)を再導入する排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation、以下「EGR」と称する)装置9と、エンジン3に燃料Fを供給する燃料供給装置11と、エンジン3に水を供給する水供給装置13と、エンジン3の運転状態を検出するためのセンサ類と、エンジンシステム1の全体を制御する制御装置としてのECU(Engine Control Unit)15とを備える。
<吸気通路・排気通路の構成>
吸気通路5には、上流側から順に、吸気を浄化するエアクリーナ17と、エンジン3に供給される吸気の流量を調節するスロットル弁19とが設けられている。排気通路7には、上流側から順に、排気に含まれる大気汚染物質を浄化する排気浄化装置21と、排気に含まれる水(水蒸気)を凝縮する凝縮器23とが設けられている。排気浄化装置21は、例えば三元触媒を含む触媒コンバータによって構成されている。
<EGR装置の構成>
EGR装置9は、エンジン3から排気通路7に一旦排出した排気の一部を吸気通路5に循環させる外部EGRを行う外部EGR装置25と、エンジン3内での混合気の燃焼により発生した既燃ガスの一部を実質的にエンジン3内に留める内部EGRを行う内部EGR装置27(後に参照する図2に示す)とを備える。内部EGR装置27は、後述する吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTによって構成されている。
外部EGR装置25は、吸気通路5のスロットル弁19よりも下流側の部分と排気通路7の排気浄化装置21よりも上流側の部分とを接続するEGR通路29と、EGR通路29に流通する排気を冷却するEGRクーラ31と、EGR通路29に流通する排気の流量を調節するEGR弁33とを備える。EGRクーラ31及びEGR弁33は、EGR通路29において、排気通路7側から吸気通路5側に向かってこの順に設けられている。
<燃料供給装置の構成>
燃料供給装置11は、燃料Fを貯留する燃料タンク35と、エンジン3内で燃料Fを噴射する燃料噴射弁37と、燃料タンク35の燃料Fを燃料噴射弁37に供給する燃料供給通路39とを備える。燃料タンク35内には、図示しないが、燃料Fを燃料供給通路39に送り出すフィードポンプが設けられている。燃料供給通路39には、上流側から順に、当該通路39に流通する燃料Fを昇圧させる燃料昇圧ポンプ41と、当該通路39に流通する燃料Fを燃料噴射弁37から噴射させる前に一時的に貯留する燃料コモンレール43とが設けられている。
<水供給装置の構成>
水供給装置13は、水Wを貯留する貯水タンク45と、エンジン3内で水Wを噴射する水噴射弁47と、貯水タンク45の水Wを水噴射弁47に供給する水供給通路49と、水噴射弁47から噴射された水Wを排気通路7を利用して回収する水回収装置51とを備える。貯水タンク45内には、図示しないが、水Wを水供給通路49に送り出すフィードポンプが設けられている。水供給通路49には、上流側から順に、当該通路49に流通する水Wを昇圧させる水昇圧ポンプ53と、当該通路49に流通する水Wを排気通路7に流通する排気との間で熱交換させる熱交換器55と、当該通路49に流通する水Wを水噴射弁47から噴射させる前に一時的に貯留する水コモンレール56とが設けられている。
熱交換器55は、排気通路7の内側に挿通された水供給通路49の一部によって構成されている。熱交換器55は、排気通路7において排気浄化装置21の直ぐ下流側に隣接して配置されており、排気浄化装置21と共に蓄熱用ケース57の内側に収容されている。蓄熱用ケース57は、蓄熱材59が充填された二重構造の外周壁61を有し、排気の熱エネルギーを蓄熱材59に蓄えることにより排気浄化装置21及び熱交換器55を保温する。こうした蓄熱用ケース57の保温効果により、排気浄化装置21は適度な温度に維持され、熱交換器55は水供給通路49内の水Wを効果的に昇温させる。
<エンジンの構成>
図2に、エンジン3の構成を例示する。また、図3に、エンジン3内の燃焼室73の構成を例示する。
エンジン3は、吸気、圧縮、燃焼及び排気を行う4サイクル多気筒のレシプロエンジンであって、図1及び図2に示すように、直列に配置された4つの気筒63(図2では1つのみ示す)を有するシリンダブロック65と、シリンダブロック65上に載置されるシリンダヘッド67とを備える。これらシリンダブロック65及びシリンダヘッド67の内部には、図示しないが、エンジン冷却水が流れるウォータジャケットが設けられている。シリンダブロック65の各気筒63内には、ピストン69が往復動(上下動)可能に嵌め入れられている。
ピストン69は、コネクティングロッド71を介してクランクシャフト72に連結されている。ピストン69の上方には、図2及び図3に示すように、混合気を燃焼させる燃焼室73が形成されている。燃焼室73は、ピストン69の冠面75と気筒63の内周面(シリンダライナー壁面)77とシリンダヘッド67の下面79とによって区画されている。なお、ここで言う「燃焼室」は、ピストン69が圧縮上死点に至ったときに形成される空間を意味する狭義の燃焼室に限定されず、ピストン69、気筒63及びシリンダヘッド67によって囲まれた空間として定義される広義の燃焼室を意味する。
燃焼室73は、図3に示すように、いわゆるペントルーフ型の燃焼室である。燃焼室73の天井部を構成するシリンダヘッド67の下面79は、吸気通路5側に位置する吸気側天井面81と、排気通路7側に位置する排気側天井面83とを備える。これら吸気側天井面81及び排気側天井面83は、気筒63の配列方向と直交する方向において、気筒63の中心に向かって登り勾配に傾斜しており、クランクシャフト72の軸方向に延びる谷部を介して連結されて三角屋根形状をなしている。なお、ペントルーフの谷部の位置は、気筒63のボア中心に一致する場合と一致しない場合との両方があり得る。
ピストン69の冠面75の中央部分には、下方に向けて窪む凹形状のキャビティ85が形成されている。以下では、燃焼室73においてキャビティ85内に対応する空間を「中央空間」と称することがある。また、燃焼室73においてキャビティ85の外周囲に対応する空間を「外周側空間」と称することがある。
ピストン69の冠面75は、キャビティ85の内面87と、キャビティ85に対し吸気側に位置する吸気側傾斜面89と、キャビティ85に対し排気側に位置する排気側傾斜面91とを有する。吸気側傾斜面89は、吸気側天井面81に対応するようにキャビティ85に向かって登り勾配に傾斜している。他方、排気側傾斜面91は、排気側天井面83に対応するようにキャビティ85に向かって登り勾配に傾斜している。
燃焼室73を区画する上下の区画壁面、具体的にはピストン69の冠面75とシリンダヘッド67の下面79とには遮熱層92がそれぞれ設けられている。遮熱層92は、これらの区画壁面75,79の全体に設けられていてもよいし、これらの区画面75,79の一部に設けられていてもよい。遮熱層92は、燃焼室73を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低い。ここでいう「母材」は、例えば、ピストン69であればアルミニウム又はアルミニウム合金である。
遮熱層92は、燃焼室73の燃焼ガスの熱が、燃焼室73の区画壁面75,79を通じて放出されることを抑制する。また、遮熱層92は、母材よりも容積比率が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層92の熱容量を小さくして、燃焼室73の区画壁面75,79の温度が、燃焼室73のガス温度の変動に追従して変化することが好ましい。こうすることで、燃焼ガスの温度と区画壁面75,79の温度との差が小さくなるから、熱が区画壁面75,79を通じて母材に伝わることが抑制される。
遮熱層92は、中空粒子(例えばガラスバルーン)と、バインダとしてのシリコン樹脂とを含有する遮熱材料を、区画壁面75,79上に塗布し、加熱処理によって樹脂を硬化させることにより形成されている。この遮熱層92は、区画壁面75,79上に、ZrO等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングすること等により形成してもよい。
エンジン3の幾何学的圧縮比は、理論熱効率の向上や圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、比較的高い圧縮比に設定されている。具体的には、エンジン3の幾何学的圧縮比は、16以上且つ40以下に設定されていればよく、特に16以上且つ25以下に設定されることが好ましい。エンジン3は、圧縮比が高いほど膨張比も高くなるため、高圧縮比と同時に比較的高い膨張比を有する。
シリンダヘッド67には、図2に示すように、吸気側天井面81に開口した吸気ポート93と、排気側天井面83に開口した排気ポート95とが、気筒63毎にそれぞれ2つずつ形成されている。吸気ポート93は、燃焼室73とは反対側の開口が吸気通路5に接続されており、燃焼室73と吸気通路5とを連通させている。排気ポート95は、燃焼室73とは反対側の開口が排気通路7に接続されており、燃焼室73と排気通路7とを連通させている。
吸気ポート93には、吸気側天井面81の開口を燃焼室73に対して開閉する吸気弁97が設けられている。他方、排気ポート95には、排気側天井面83の開口を燃焼室73に対して開閉する排気弁99が設けられている。これら吸気弁97及び排気弁99は、傘或いは茸のような形状の弁体を有するポペット弁からなる。シリンダヘッド67の内部には、吸気弁97を所定のタイミングで往復動させる吸気動弁機構101と、排気弁99を所定のタイミングで往復動させる排気動弁機構103とが設けられている。
吸気動弁機構101は、図示しないが、吸気弁97に連結された吸気カムシャフトと、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲で連続的に変更可能な液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)とを含む。吸気カムシャフトは、伝動ベルトなどの動力伝達機構を介してクランクシャフト72に連結されており、クランクシャフト72から伝えられる動力により回転して吸気弁97を駆動させる。
排気動弁機構103は、図示しないが、排気弁99に連結された排気カムシャフトと、排気カムシャフトの回転位相を所定の範囲で連続的に変更可能な液圧式又は電動式のVVTとを含む。排気カムシャフトは、吸気カムシャフトと共通の動力伝達機構を介してクランクシャフト72に連結されており、クランクシャフト72から伝えられる動力により回転して排気弁99を駆動させる。
吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTは、吸気弁97の開閉時期と排気弁99の開閉時期とを調節して、吸気行程において排気弁99を開いたり、排気行程において吸気弁97を開いたりさせることにより、排気行程において一旦排出された既燃ガスを燃焼室73に引き戻す内部EGRを実行する。なお、内部EGRは、排気行程又は吸気行程において吸気弁97及び排気弁99の双方を閉弁するネガティブオーバーラップ期間を設けて燃焼室73に既燃ガスを残留させることで行われてもよい。
シリンダヘッド67にはさらに、燃料噴射弁37及び水噴射弁47が取り付けられている。燃料噴射弁37及び水噴射弁47は、吸気側天井面81と排気側天井面83との間の谷部に気筒63の配列方向に並べて配置されている。燃料噴射弁37の噴射軸心と水噴射弁47の噴射軸心とは共に、気筒63の配列方向と直交する方向において中央に位置しているが、気筒63の配列方向において気筒63の軸線(中心線)からずれている。なお、水噴射弁47の噴射軸心が気筒63の軸線からずれる一方、燃料噴射弁37の噴射軸心が気筒63の軸線と一致していてもよいし、燃料噴射弁37の噴射軸心が気筒63の軸線からずれる一方、水噴射弁47の噴射軸心が気筒63の軸線と一致していてもよい。
<燃料噴射弁・水噴射弁の構成>
燃料噴射弁37及び水噴射弁47は、いずれも外開弁式の噴射弁(以下、「外開噴射弁」と称する)105である。燃料噴射弁37及び水噴射弁47に用いられる外開噴射弁105の構成を、以下に、図4を参照しながら説明する。図4は、外開噴射弁105の構成を例示する断面図である。外開噴射弁105は、図4に示すように、噴口107が形成されたノズル部109と、噴口107を開閉する外開弁体111とを備える。
ノズル部109は、燃料Fが流通する筒状に形成されており、先端部に噴口107を有する。噴口107は、径が先端に向かうほど大きくなるテーパ状に形成されている。外開噴射弁111は、このノズル部109に挿通されている。ノズル部109の基端部は、外海噴射弁111を進退させる駆動機構を収容したケース115に接続されている。ケース115には、上記駆動機構として、ピエゾ素子113と、ピエゾ素子113をノズル部109から離間させる方向に付勢する圧縮コイルバネ117が収容されている。外開弁体111の基端部は、ピエゾ素子113に接続されている。外開弁体111の先端部は、噴口107内から外部に臨んでおり、ノズル部109の噴口107のテーパ面と対向する当接面119を有するブロック状に形成されている。
ピエゾ素子113は、電圧の印加による変形により外開弁体111を燃焼室73側に押圧し、その外開弁体111をノズル部109の噴口107を閉じた状態からリフトさせて噴口107を開放する。それにより、ノズル部109の噴口107から燃焼室73に燃料がホローコーン状に噴射される。そのホロ―コーン状のテーパ角は、例えば90°〜100°である。そして、ピエゾ素子113への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子113が元の状態に復帰することで、外開弁体111が噴口107を再び閉じる。このとき、ピエゾ素子113の復帰は、圧縮コイルバネ117の付勢力により助長される。
ピエゾ素子113に印加する電圧が大きいほど、ノズル部109の噴口107を閉じた状態からの外開弁体111のリフト量が大きくなる。このリフト量が大きいほど、ノズル部109の噴口107の開度が大きくなって当該噴口107から燃焼室73内に噴射される流体の量(燃料量や水量)が多くなり、且つ噴霧の粒径が大きくなる。このことを利用して、エンジンシステム1では、特定の運転領域において、燃焼室73の中央空間でキャビティ85内に混合気層を形成し、且つその外周囲に断熱ガス層を形成したり、燃焼室73の中央空間と外周側空間とで異なる当量比の混合気を形成したりする。
<センサ類の構成>
センサ類は、図1及び図2に示すように、エンジン3、吸気通路5、排気通路7及びEGR装置9にそれぞれ設けられている。
具体的には、エンジン3においては、クランクシャフト72の回転速度を検出するクランク角センサ121と、吸気カムシャフトのカム角度を検出する吸気カムセンサ123と、排気カムシャフトのカム角度を検出する排気カムセンサ125と、ウォータジャケット内のエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ127とが設けられている。
吸気通路5においては、エアクリーナ17の直ぐ下流側で吸気流量を検出するエアフローセンサ129と、スロットル弁19の開度を検出するスロットル開度センサ131とが設けられている。エアフローセンサ129は、吸気温度を検出する温度センサを内蔵している。排気通路7においては、排気浄化装置21の上流側と下流側とに排気中の酸素濃度を検出するOセンサ133,135がそれぞれ設けられている。これら2つのOセンサ133,135の検出値は、燃焼室19内の空燃比をフィードバックするのに利用される。
EGR通路29においては、EGR弁33の開度を検出するEGR開度センサ137が設けられている。その他、エンジンシステム1には、自動車の速度を検出する車速センサ139や、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ141などが設けられている。
クランク角センサ121は、検出したクランクシャフト72の回転角度に対応する検出信号S121をECU15に出力する。吸気カムセンサ123及び排気カムセンサ125は、それぞれ検出したカム角度に対応する検出信号S123,S125をECU15に出力する。水温センサ127は、検出したエンジン冷却水の温度に対応する検出信号S127をECU15に出力する。
エアフローセンサ129は、検出した吸気流量に対応する検出信号S129aと、内蔵する温度センサにより検出した吸気温度に対応する検出信号S129bとをECU15に出力する。Oセンサ133,135は、それぞれ検出した排気中の酸素濃度に対応する検出信号S133,S135をECU15に出力する。EGR開度センサ137は、検出したEGR弁33の開度に対応する検出信号S137をECU15に出力する。車速センサ139は、検出した速度に対応する検出信号S139をECU15に出力する。アクセルセンサ141は、検出したアクセルペダルの踏み込み量に対応する検出信号S141をECU15に出力する。
<ECUの構成>
図5に、ECU15の構成のブロック図を例示する。
ECU15は、周知のマイクロコンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)と、CPU上で実行される各種のプログラムや各種のデータを格納するためのROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の如き内部メモリと、電気信号の入出力を行う入出力バスとを備える。内部メモリに格納される各種のプログラムには、OS(Operating System)や特定機能を実現するアプリケーションプログラムが含まれる。
ECU15は、上述した各種センサ121〜141から供給された検出信号S121〜S141に基づいて、種々の制御や処理を行う。基本的には、ECU15は、要求トルクの演算やエンジン3の負荷の予測などを行い、演算した要求トルクやエンジン3の負荷に基づいて、スロットル弁19の開度、燃料噴射パルス、水噴射パルス、EGR弁33の開度、吸気弁97及び排気弁99の位相角などといった、エンジン3の制御パラメータを計算する。そして、ECU15は、それらの信号を、スロットル弁19、燃料噴射弁37、水噴射弁47、EGR弁33、吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTなどに出力する。
<エンジンの運転制御>
図6に、エンジン3の運転領域を例示する。
エンジン3の運転領域は、図6に示すように、低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)の3つに分けられている。低負荷領域(A)は、低回転低負荷の領域である。中負荷領域(B)は、低負荷領域(A)よりも負荷が高く、且つ低負荷領域(A)よりも回転数が高い領域を含んでいる。高負荷領域(C)は、中負荷領域(B)よりも負荷が高く、且つ中負荷領域(B)よりも回転数が高い領域を含んでいる。
エンジンシステム1は、基本的には、これら低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)の全運転領域で燃焼室73に噴射した燃料を圧縮着火により燃焼させる。圧縮着火燃焼は、言い換えると、CAI(Controlled Auto Ignition)燃焼である。CAI燃焼は、エンジン3が上述した高い幾何学的圧縮比に設定されていることによって安定化する。
ECU15は、上述したように、スロットル弁19、燃料噴射弁37、水噴射弁47、EGR弁33、吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTに対し、エンジン3の運転状態に応じた信号を出力する。これによって、燃焼室73のガス状態がエンジン3の運転状態に応じて調整される。なお、EGR装置9は、基本的には、エンジン3の運転領域の全域において、燃焼室73に排気(既燃ガス)を導入する。
ECU15はまた、低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)のそれぞれにおいて、燃焼室73内への燃料噴射の形態を異ならせる。
<低負荷領域(A)での燃料噴射の形態>
エンジンシステム1は、低負荷領域(A)において、燃焼時に、燃焼室73の区画壁面75,77,79沿いにガス層による断熱層を形成する。このように、燃焼室73の遮熱構造に加えて断熱層を形成することにより、エンジン1の冷却損失は大幅に低減する。この低負荷領域(A)は、第1運転領域の一例である。
具体的には、ECU15は、低負荷領域(A)において、圧縮行程以降に燃料噴射弁37からキャビティ85内に燃料Fを噴射させる。そのことで、燃料噴射弁37の近傍においてキャビティ85内の中心部に混合気層を形成し、且つその周囲に新気を含むガス層を形成するという、成層化が行われる。ガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて外部EGRや内部EGRによる既燃ガスを含んでいてもよい。なお、ガス層には、少量の燃料が混じっていても問題はない。要は、ガス層の燃料が混合気層よりも希薄であればよい。
燃焼室73に混合気層とガス層とが形成された状態で、混合気が圧縮着火燃焼すれば、混合気層と燃焼室73の区画壁面75,77,79との間のガス層により、火炎が気筒63の壁面に接触することが抑制される。また、ガス層が断熱層となるため、燃焼室73の区画壁面75,77,79からの放熱が抑制される。その結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
なお、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて熱効率の向上には余り寄与しないところ、このエンジン1では、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギーを高膨張比によって機械仕事に変換している。すなわち、エンジン3は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、熱効率を大幅に向上させているということができる。
このような混合気層とガス層とを燃焼室73に形成するためには、燃料を噴射するタイミングにおいて、燃焼室73のガス流動は弱いことが望ましい。そのため、吸気ポート93は、燃焼室73でスワール流が生じない又は生じ難いようなストレート形状を有していると共に、タンブル流もできるだけ弱くなるように構成されている。
<高負荷領域(C)での燃料噴射の態様>
エンジンシステム1は、高負荷領域(C)において、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の維持とが両立するように、低負荷領域(A)とは異なる燃料噴射の態様を採用している。この高負荷領域(C)は、第2運転領域の一例である。
図7に、混合気の当量比と当該混合気の着火時期との関係を示している。図7における2本のラインのうち、一方のラインは、燃焼室73の全ガスに対する排気の質量比であるEGR率が50%のときラインであり、他方のラインは、EGR率がそれよりも高い55%のときのラインである。EGR率の相違は、圧縮前の燃焼室73の温度の相違であり、EGR率が55%のときの温度がEGR率が50%のときの温度よりも高い。したがって、EGR率が55%のときの方がEGR率が50%のときよりも着火性に有利となる。つまり、EGR率が55%のときの方がEGR率50%のときよりも着火時期が進角する。
図7によると、EGR率の高低に関わらず、混合気の当量比が1以下のときには、当量比が小さくなるほど着火時期が遅くなる。つまり、混合気が希薄になって、燃焼室73の燃料量が少なくなるほど混合気が燃え難くなる。混合気の当量比が1を超えると、EGR率の高低に関わらず、当量比が大きくなるほど着火時期が遅くなる。これは、燃焼室73に噴射される燃料量が増えると、燃料の潜熱及び顕熱によって燃焼室73の温度が局所的に低下するためである。つまり、温度が低下することによって着火し難くなる。EGR率の高低に関わらず、混合気の当量比が0.6以上且つ0.9以下の範囲にあるときには、着火時期が最も進角する。つまり、このときに混合気の着火性が最も高まる。
このように、混合気の当量比が相違すると、その混合気の着火性、つまり着火時期が相違する。このエンジンシステム1では、そうした混合気の当量比と着火時期とに着目し、高負荷領域(C)において分割噴射を行うことにより、燃焼室73を空間的に、それぞれ当量比が異なる混合気によって構成される複数の混合気ゾーンZI,ZR,ZLに分割する。そして、これら複数の混合気ゾーンZI,ZR,ZLの混合気を、時間をずらして圧縮着火燃焼させることによって、圧縮上死点付近において安定的に着火させながら、緩慢な燃焼を実現する。その結果、高負荷領域(C)において、騒音燃焼の抑制と燃焼安定性の確保とが両立する。
図8に、高負荷領域(C)において燃料噴射弁37が燃焼室73に燃料Fを噴射する時期とその噴射量とを例示する。図8は、左から右に向かってクランク角(つまり時間)が進む。燃料Fの噴射量は、四角の面積によって示されており、面積が大きいほど燃料Fの噴射量が多い。また、図9A〜図9Hに、高負荷領域(C)における燃料噴射の様子と燃焼室73に形成される混合気の状態と混合気が燃焼する様子とを概念的に例示する。
燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図8及び図9Aに示すように、吸気行程中に、燃焼室73に燃料噴射201を行う。以下では、この吸気行程での燃料噴射201を「吸気行程噴射」と称する。吸気行程噴射201は、例えば、吸気行程における後半に行われる。吸気行程の後半とは、吸気行程を前半と後半とに二等分したときの後半に相当する。吸気行程噴射201は、吸気行程における後期に行われていてもよい。吸気行程の後期とは、吸気行程を前期、中期及び後期に三等分したときの後期に相当する。吸気行程噴射201での燃料Fの噴射量は比較的多い。この吸気行程噴射201によって、希薄且つ均質又はほぼ均質な混合気が燃焼室73全体に形成される。このときに形成される混合気の当量比は、0.4以上且つ0.6以下に設定される。
次いで、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図8及び図9Bに示すように、圧縮行程における中期に燃料噴射203を行う。以下では、この圧縮行程の中期での燃料噴射203を「圧縮行程中期噴射」と称する。圧縮行程中期噴射203は、第2燃料噴射の一例である。圧縮行程における中期は、圧縮行程を前期、中期及び後期に三等分したときの中期に相当する。圧縮行程中期噴射203での燃料Fの噴射量は、吸気行程噴射201での燃料Fの噴射量よりも少ない。
圧縮行程中期噴射203により噴射された燃料Fは、燃焼室73の圧力が比較的低いと共に、ピストン69が比較的下方に位置しているから、キャビティ85の外周囲、つまり燃焼室73の外周側空間に到達する。それにより、燃焼室73の外周側空間には、図9Cに示すように、吸気行程噴射201によって噴射された燃料Fと、圧縮行程中期噴射203によって噴射された燃料Fとが合わさって、過濃な混合気を含む領域ZRが形成される。この領域ZRにおける混合気の当量比は、1.0以上且つ1.7以下に設定される。このように過濃な混合気を含む領域ZRを、以下では「過濃ゾーン」と称する。
最後に、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図8及び図9Dに示すように、圧縮行程における後期に、より正確には圧縮上死点付近において、燃焼室73に燃料噴射205を行う。以下では、この燃料噴射205を「圧縮上死点噴射」と称する。圧縮上死点噴射205は、第1燃料噴射の一例である。圧縮行程における後期は、圧縮行程を前期、中期及び後期に三等分したときの後期に相当する。圧縮上死点噴射205での燃料Fの噴射量は、圧縮行程中期噴射203での燃料の噴射量よりも少ない。
この圧縮上死点噴射205によって噴射された燃料Fは、燃焼室73の圧力が高いと共にピストン69が比較的上方に位置しているから、燃焼室73の中央空間でキャビティ85内に溜まる。それにより、燃焼室73の中央空間には、図9Eに示すように、吸気行程噴射201によって噴射された燃料と、圧縮上死点噴射205によって噴射された燃料とが合わさって、着火し易い所定の当量比の混合気を含む領域ZIが形成される。この領域ZIにおける混合気の当量比は、0.6以上且つ0.9以下に設定される。この範囲の当量比は、図7を参照しながら説明したように、混合気の着火性が最も高まる当量比である。このように着火し易い混合気を含む領域ZIを、以下では「着火ゾーン」と称する。
さらにこのとき、着火ゾーンZRと過濃ゾーンZIとの間には、着火ゾーンZIよりも当量比が低い希薄な混合気を含む領域ZLが形成される。この領域ZLの混合気は、吸気行程噴射201によって形成される混合気である。すなわち、その当量比は、0.4以上且つ0.6以下に設定される。このように希薄な混合気を含む領域ZLを、以下では「希薄ゾーン」と称する。
こうして、燃焼室73には、その中央から外側に向かって、着火ゾーンZI、希薄ゾーンZL及び過濃ゾーンZRの3つのゾーンが形成される。これら各ゾーンZI,ZL,ZRの当量比は互いに相違する。燃焼室73の全体についての混合気の平均当量比は1である。そのことで、排気浄化装置21の三元触媒によって排気を浄化することが可能となっている。吸気行程噴射201、圧縮行程中期噴射203、及び圧縮上死点噴射205での燃料Fの噴射量の比率は、例えば、0.55:0.42:0.03に設定される。
そして、図9Fに示すように、ピストン69が圧縮上死点に到達して、燃焼室73の温度及び圧力が高くなると、燃焼室73の中央空間に位置する、最も着火性が高い着火ゾーンZIの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。この着火ゾーンZIに含まれる燃料量は、燃焼室73に供給される燃料量の一部に過ぎないため、燃焼室73の圧力が着火ゾーンZIの燃焼によって急激に立ち上がることが防止される。
このように着火ゾーンZIの混合気が燃焼を開始することに伴い、燃焼室73の温度及び圧力が高まる。その結果、図9Gに示すように、燃焼室73の外周側空間に位置する、二番目に着火性が高い過濃ゾーンZRの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。
最後に、図9Hに示すように、希薄ゾーンZLが圧縮着火し、燃焼を開始する。希薄ゾーンZLは、混合気の体積が最も大きいため、熱発生率が高くなるが、希薄ゾーンZLは、膨張行程が進行してから燃焼するため、燃焼に伴う圧力の上昇が急峻になることが防止される。
こうして、着火ゾーンZI、希薄ゾーンZL及び過濃ゾーンZRの3つのゾーンを燃焼室73に形成することによって、高負荷領域(C)において、着火性を確保しつつ、燃焼を緩慢化することが可能になる。その結果、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の維持とを両立することができる。
図8に示す燃料噴射形態は、燃焼室73に噴射する燃料量が多いときに、特に有利になる。つまり、圧縮行程中期噴射203の噴射量を多くすることによって、ペネトレーション、つまり、燃料Fの噴霧の到達距離が長くなり、燃料噴射弁37から離れた燃焼室73の外周側にまで、燃料Fの噴霧が到達するようになる。また、燃焼室73の外周側に存在する多量の空気を燃焼に利用することが可能になる。よって、過濃ゾーンZRの当量比が高くなり過ぎることを回避しつつ、燃焼室73の中に供給する燃料量を増やすことが可能になる。
また、図8に示す燃料噴射形態では、圧縮上死点噴射205によって当量比が0.6〜0.9の混合気を形成するため、燃料Fの噴射量が比較的少ない。圧縮上死点噴射205での燃料Fの噴射期間は短いため、噴射終了から着火までの時間が長くなる。このため、圧縮上死点噴射205によって燃焼室73に噴射された燃料Fが、気化する時間及び空気と混合する時間を十分に確保することができる。それにより、例えばスモークの発生といった不具合を防止して、排気の性状が悪化してしまうことが回避される。このことは、エンジン3の回転数が高くなって、クランク角度が同一角度だけ変化するときの時間が、相対的に短くなるときにおいても、同様に作用する。したがって、図8に示す燃料噴射形態は、エンジン3の回転数が高いときに、排気の性状が悪化してしまうことを回避する上でも有利である。
図10に、高負荷領域(C)における燃料F及び水Wの噴射時期とそれらの噴射量を例示する。また、図11に、高負荷領域(C)における圧縮行程の後期での水噴射の様子を概念的に例示する。
上述した高負荷領域(C)での燃料噴射形態においては、燃料Fと空気との混合が不十分となってスモークが発生し易くなることや燃費性能の低下を回避するために、過濃ゾーンZRを形成するための燃料噴射203を圧縮行程の中期という比較的早いタイミングで行うため、過濃ゾーンZRを形成する混合気が燃焼室73で高温度環境に曝される期間が長い。しかも、ピストン69の冠面75及びシリンダヘッド67の下面79には、過濃ゾーンZRが形成される燃焼室73の外周側空間に臨む部分にも遮熱層92が形成されているため、その遮熱層92が仇になって燃焼室73の外周側空間の温度が下がり難い。それらのことから、本来であれば遅れて着火することが期待される過濃ゾーンZRの混合気が異常燃焼を起こし易くなって過早着火してしまうおそれがある。
そこで、このエンジンシステム1では、過濃ゾーンZRが過早着火するのを防止すべく、過濃ゾーンZRが形成される燃焼室73の外周側空間に対し、適切なタイミングで水Wを噴射する水噴射207を実行する。具体的には、水噴射弁47は、ECU15からの信号を受けて、図10及び図11に示すように、圧縮行程における後期であって圧縮上死点噴射205が行われる前に水噴射207を行う。この水噴射207は、圧縮行程の中期において圧縮行程中期噴射203が行われた後に行われていてもよい。要は、当該水噴射207は、圧縮行程中期噴射203の開始以降であって、且つ圧縮上死点噴射205の開始前までに行われていればよい。
燃焼室73の外周側に水Wが噴射されると、その水Wの潜熱及び顕熱の作用により、燃焼室73の外周側空間に形成された過濃ゾーンZR(つまり、そのゾーンZRの空間及び混合気)が燃焼室73内で局所的に冷却される。そのことにより、過濃ゾーンZRの混合気が、燃焼室73が高温であると異常燃焼による過早着火を起こし易い状態にあっても、温度低下した分だけ圧縮着火し難い状態となる。これによって、過濃ゾーンZRの混合気の着火時期を、燃焼室73の中央空間に形成される着火ゾーンZIの混合気の着火時期よりも確実に遅らせることができる。したがって、着火ゾーンZIの混合気と過濃ゾーンZRの混合気とを安定的に時間差をもって圧縮着火させることが可能となる。
<中負荷領域(B)での燃料噴射の形態>
エンジンシステム1は、中負荷領域(B)において、過濃ゾーンZRを形成するときの空気不足に起因したスモークの発生や過濃ゾーンZRの混合気が高温及び高圧の雰囲気に晒される時間が長くなることに起因する異常燃焼(例えば過早着火)を回避するように、低負荷領域(A)及び高負荷領域(C)とは異なる燃料噴射の形態を採用している。
図12に、中負荷領域(B)において燃料噴射弁37が燃焼室73に燃料Fを噴射する時期とその噴射量とを例示する。図12に示す燃料Fの噴射形態と図8に示す燃料Fの噴射形態とは、エンジン1の負荷が同じである。また、図13A〜図13Hに、中負荷領域(B)における燃料噴射の様子と燃焼室73に形成される混合気の状態と混合気が燃焼する様子を概念的に例示する。
燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、吸気行程中に、図12及び図13Aに示すように、燃焼室73に燃料噴射301を行う。この吸気行程噴射301は、吸気行程における後半に行われる。吸気行程噴射301での燃料Fの噴射量は比較的多い。この吸気行程噴射301によって、希薄且つ均質又はほぼ均質な混合気が燃焼室73全体に形成される。このときに形成される混合気の当量比は、0.4以上且つ0.6以下である。この吸気行程噴射301は、図8に示す吸気行程噴射201と実質的に同じである。
次いで、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図12及び図13Bに示すように、圧縮行程における後期に燃料噴射303を行う。以下では、この燃料噴射303を「圧縮行程後期噴射」と称する。圧縮行程後期噴射303での燃料Fの噴射量は、吸気行程噴射301での燃料Fの噴射量よりも少なく、且つ後述の圧縮上死点噴射305よりも少ない。
この圧縮行程後期噴射303により噴射された燃料Fは、ピストン69が圧縮上死点に近づいているため、燃焼室73の圧力が高く、燃焼室73の外周囲まで到達し難くなる。それにより、燃焼室73のうち外周囲を除く空間、つまり中央空間及び外周側空間のうち中央空間寄りの部分には、図13Cに示すように、吸気行程噴射301によって噴射された燃料Fと、圧縮行程後期噴射303によって噴射された燃料Fとが合わさって、当量比が0.6以上且つ0.9以下の混合気を含む着火ゾーンZIが形成される。
最後に、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図12及び図13Dに示すように、圧縮上死点噴射305を行う。圧縮上死点噴射305での燃料Fの噴射量は、吸気行程噴射301よりも少なく、且つ圧縮行程後期噴射303よりも多い。
この圧縮上死点噴射305によって噴射された燃料Fは、燃焼室73の圧力が高いと共に、ピストン69が上方に位置しているから、キャビティ85内に留まる。それにより、燃焼室73の中央空間には、図13Eに示すように、吸気行程噴射301によって噴射された燃料Fと、圧縮行程後期噴射303によって噴射された燃料Fと、圧縮上死点噴射305によって噴射された燃料Fとが合わさって、当量比が1.0以上且つ1.7以下の濃過な混合気を含む濃過ゾーンZRが形成される。
このときさらに、着火ゾーンZRの外側には、着火ゾーンZIよりも当量比が低い希薄な混合気を含む希薄ゾーンZLが形成される。希薄ゾーンの混合気は、吸気行程噴射301によって形成される混合気である。すなわち、その当量比は、0.4以上且つ0.6以下に設定される。
こうして、燃焼室73には、その中央から外側に向かって、過濃ゾーンZR、着火ゾーンZI及び希薄ゾーンZLの3つのゾーンが形成される。これら各ゾーンZR,ZI,ZLの当量比は互いに相違する。燃焼室73の全体について、混合気の平均当量比は1である。吸気行程噴射301、圧縮行程後期噴射303、及び圧縮上死点噴射305での燃料Fの噴射量の比率は、例えば、0.55:0.14:0.31に設定される。
そして、ピストン69が圧縮上死点に到達して、燃焼室73の温度及び圧力が高くなると、まず、図13Fに示すように、着火ゾーンZIの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。その後、図13Gに示すように、過濃ゾーンZRの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。最後に、図13Hに示すように、希薄ゾーンZLの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。
図13Eに示す状態の混合気によると、図9Eに示す状態の混合気と比較して、過濃な混合気が燃焼室73の壁面に接触してしまうことを抑制することが可能になる。これにより、エンジン3の冷却損失を低減することができる。また、燃焼室73の中央から外側に向かって混合気の燃料濃度が次第に薄くなる、つまり燃焼室73の外周囲では混合気に含まれる燃料量が少なくなるため、未燃の燃料が少なくなる。こうした冷却損失の低減と未燃損失の低減とによって、図13Eに示す状態の混合気は、図9Eに示す状態の混合気よりも燃費性能の向上に有利になる。
また、図12に示す燃料噴射形態は、過濃ゾーンZRを形成する燃料噴射を圧縮上死点付近において行うため、過濃な混合気が、燃焼室73内の高温及び高圧雰囲気に曝される時間を短くすることができる。したがって、図12に示す燃料噴射形態は、図8に示す燃料噴射形態よりも異常燃料に対するロバスト性が高い。図12に示す燃料噴射形態は、例えば、外気温度が高いことに起因して異常燃焼が生じ易いときに、異常燃焼を回避する上で有効である。
<燃料噴射制御・水噴射制御>
図14に、ECU15が実行する燃料噴射制御及び水噴射制御に係るフローチャートを例示する。エンジンシステム1における燃焼室73への燃料噴射201〜205,301〜305及び水噴射207は、図14に示すフローに従って実行される。
まず、ステップST01において、ECU15は、各センサ121〜141からの信号S121〜S141に基づいて、エンジン3の運転状態を検出する。具体的には、エンジン3の回転数、エンジン3の負荷、吸気温度、EGR率などを検出する。
続くステップST02では、ECU15は、エンジン3の運転状態に基づいて、混合気の燃焼騒音が許容値以下になると予想されるか否かを判定する。ここで、混合気の燃焼騒音が許容値以下になる(YES)と判定したときには、ステップST03に進む。他方、混合気の燃焼騒音が許容値を超える(NO)と判定したときには、ステップST04に進む。
ステップST03では、ECU15は、第1の噴射制御を実行する。第1の噴射制御は、図6における低負荷領域(A)の燃料噴射制御に相当する。また、このステップST03において、エンジン3の冷間時には、高負荷領域(C)での水噴射207と同じタイミングで水噴射弁47に水を噴射させる水噴射を実行する。すなわち、ECU15は、水噴射弁47に信号を出力し、圧縮行程において水噴射を実行する。この水噴射は、燃料噴射を行った後に実行されてもよいし、燃料噴射を行う前に実行されてもよい。
エンジン3の冷間時において、水噴射が実行されると、燃焼室73の温度が低下するので、混合気層の着火時期が遅れる着火リタードが促進される。それにより、燃焼室73内で混合気が燃焼することにより発生する熱のうちピストン69の膨張行程で消費される分が少なくなる一方で排気に残存する分が多くなるため、排気に積極的に多くの熱を持たせることができる。これよって、エンジン3の暖機を促進することができ、且つ排気浄化装置21の触媒の早期活性化を図ることもできる。
ステップST04では、ECU15は、エンジン3の回転数及び負荷に基づいて、燃料Fの空気との混合時間を確保することが可能か否かを判定する。例えば、エンジン3の回転数が高いときには、1サイクル当たりの時間が短いため、燃料Fの混合時間を確保できなくなる場合がある。また、エンジン3の負荷が高くて燃料Fの噴射量が増えるときにも、燃料Fの噴射期間が長くなるため、燃料Fの混合時間を確保できなくなる場合がある。ここで、燃料Fの混合時間を確保可能できる(YES)と判定したときには、ステップST05に進む。他方、燃料Fの混合時間を確保できない(NO)と判定したときには、ステップST08に進む。
ステップST05〜ST07において、ECU15は、図12に示す燃料噴射形態に対応する第2の燃料噴射を実行する。第2の噴射制御は、図6における中負荷領域(B)の燃料噴射制御に相当する。
ステップST05では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射301)を実行する。続くステップST06で、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮行程の後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程後期噴射303)を実行する。そして、ステップST07で、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射305)を実行する。こうしたステップST05〜ST07の3回の燃料噴射301,303,305によって、図13Eに示すような混合気が燃焼室73に形成され、圧縮上死点以降に各ゾーンZI,ZR,ZLがタイミングをずらして順に圧縮着火をする。
ステップST08では、ECU15は、エンジン3の運転状態に基づいて、過早着火のリスクが所定値以下である否かを判定する。圧縮上死点での燃焼室73の温度が高いと混合気が過早着火し易くなる。こうした傾向は、混合気に含まれる燃料Fがリッチなほど顕著になる。つまり、圧縮上死点で温度が高い状態にある燃焼室73では、過濃ゾーンZRの混合気が過早着火してしまう可能性が高い。このことから、ECU15は、エアフローセンサ129の検出値などのエンジン3の運転状態に基づいて、ピストン69が圧縮上死点に到達したときの燃焼室73の温度を予測する。
そして、ECU15は、予測した温度が所定の温度未満であるときには、過早着火のリスクが所定値以下である、つまり過早着火のリスクは高くないと判定する。また、ECU15は、予測した温度が所定の温度以上であるときには、過早着火のリスクが所定値を超える、つまり過早着火のリスクは高いと判定する。過早着火のリスク判定の基準となる上記所定の温度は、燃焼室の温度が1000K以上となると過早着火の蓋然性が高まることから、1000K以上の温度に設定される。本実施形態では、この所定の温度が例えば1000Kに設定される。このステップST08で、過早着火のリスクが高くない(YES)と判定したときには、ステップST09に進む。他方、過早着火のリスクが高い(NO)と判定したときには、ステップST12に進む。
ステップST09〜ST11において、ECU15は、図8に示す燃料噴射形態に対応する第3の燃料噴射を実行する。第3の燃料噴射は、図9Eにおける高負荷領域(C)の燃料噴射制御に相当する。
ステップST09では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射201)を実行する。続くステップST10では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮行程の後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程中期噴射203)を実行する。そして、ステップST11では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射205)を実行する。こうしたステップST09〜ST11の3回の燃料噴射201,203,205によって、図9Eに示すような混合気が燃焼室73に形成され、圧縮上死点以降に各ゾーンZI,ZR,ZLがタイミングをずらして順に圧縮着火する。
ステップST12〜ST15において、ECU15は、図10に示す燃料F及び水Wの噴射形態に対応する、上記第3の燃料噴射と水噴射207を実行する。
ステップST12では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射201)を実行する。続くステップST13では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮行程の後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程中期噴射203)を実行する。次いで、ステップST14では、ECU15は、水噴射弁47に信号を出力し、水噴射弁47は、圧縮行程の後期において、上述した水噴射207を実行する。そして、ステップST15では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射205)を実行する。こうしたステップST12〜ST15の3回の燃料噴射201,203,205と水噴射207によって、図9Eに示すような混合気が燃焼室73に形成され、圧縮上死点以降に各ゾーンZI,ZR,ZLがタイミングをずらして順に圧縮着火する。
この実施形態に係るエンジンシステム1によると、燃焼室73の外周側空間に形成される過濃ゾーンZRの混合気が、エンジン3の運転状態に応じて燃焼室73が高温であると異常燃焼による過早着火を起こし易い状態となっても、燃焼室73の中央空間に形成される着火ゾーンZIの混合気よりは圧縮着火し難くい状態とし、過濃ゾーンZRの混合気の着火時期を着火ゾーンZIの混合気の着火時期よりも確実に遅らせることができる。その結果、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保との両立を高負荷領域(C)においても安定して実現することができる。
以上のように、ここに開示する技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、ここに開示する技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
例えば、上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
上記実施形態では、燃料噴射弁37及び水噴射弁47としてはいずれも外開弁式の噴射弁105が採用されているとしたが、これに限らない。燃料噴射弁37及び水噴射弁47には、他の方式の噴射弁を採用することも可能であり、例えば、VCO(Valve Covered Orifice)ノズル式の噴射弁が採用されていてもよい。
VCOノズル式の噴射弁も、ノズル口に発生するキャビテーションの度合を調整することにより、噴口の有効断面積を変更して、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。したがって、外開弁式の噴射弁105と同様に、燃焼室73の中央空間でキャビティ85内に混合気層を形成し、且つその外周囲に断熱ガス層を形成したり、燃焼室73の中央空間と外周側空間とで異なる当量比の混合気を形成したりすることが可能である。
さらに、燃料噴射弁37及び水噴射弁47には、VCOノズル式の他、複数の噴口を有するマルチホール式の噴射弁などの種々の方式の噴射弁を採用することが可能であり、燃料噴射弁37及び水噴射弁47は、どのような構成であってもよい。
燃料噴射弁37は、燃料Fを加熱するヒータを備え、ヒータによって所定の温度まで昇温させた燃料Fを、高圧雰囲気の燃焼室73内に噴射することにより、燃料Fを超臨界状態として、キャビティ85内に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成するようになっていてもよい。この技術は、燃焼室73に噴射した燃料Fを瞬時に気化させることにより燃料噴霧のペネトレーションが低くなって燃料Fの噴霧の到達距離が短くなり、キャビティ85内における燃料噴射弁37の近傍に混合気層を形成するものである。
また、上記実施形態では、水供給装置13として、水供給通路49に流通する水を、熱交換器55で排気通路7に流通する排気と熱交換させることにより昇温させた後に、水噴射弁47から燃焼室73に噴射する構成を例示したが、これに限らない。例えば、水供給装置13は、熱交換器55を備えず、水供給通路49に流通する水を、排気と熱交換させることなく、水噴射弁47から燃焼室73に噴射するようになっていてもよい。
また、上記実施形態では、エンジン3の冷間時には、高負荷領域(C)での水噴射207と同じタイミングで水噴射を実行するとしたが、これに限らない。このときの水噴射は、高負荷領域(C)での水噴射207とは異なるタイミングで実行されていてもよい。
また、上記実施形態では、燃焼室73内の混合気をピストン69の圧縮動作により自着火させるエンジンシステム1を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、エンジンシステム1は、エンジン3に着火アシスト用の点火プラグを備え、点火プラグの放電で生じた火花によって混合気を強制的に着火させ、その火炎伝播に伴う燃焼室73の高温化をきっかけにして、混合気を圧縮着火燃焼させるように構成されていてもよい。
以上説明したように、本開示の技術は、自動車などの車両に搭載される予混合圧縮着火式エンジンシステムについて有用である。
1…エンジンシステム、3…エンジン、5…吸気通路、7…排気通路、
9…EGR装置、11…燃料供給装置、13…水供給装置、15…ECU(制御装置)、
17…エアクリーナ、19…スロットル弁、21…排気浄化装置、23…凝縮器、
25…外部EGR装置、27…内部EGR装置、29…EGR通路、
31…EGRクーラ、33…EGR弁、35…燃料タンク、37…燃料噴射弁、
39…燃料供給通路、41…燃料昇圧ポンプ、43…コモンレール、
45…貯水タンク、47…水噴射弁、49…水供給通路、51…水回収装置、
53…水昇圧ポンプ、55…熱交換器、57…蓄熱用ケース、59…蓄熱材、
61…外周壁、63…気筒、65…シリンダブロック、67…シリンダヘッド、
69…ピストン、71…コネクティングロッド、72…クランクシャフト、
73…燃焼室、75…ピストンの冠面、77…シリンダヘッドの下面、
79…気筒の内周面、81…吸気側天井面、83…排気側天井面、85…キャビティ、
87…キャビティの内面、89…吸気側傾斜面、91…排気側傾斜面、
93…吸気ポート、95…排気ポート、97…吸気弁、99…排気弁、
101…吸気動弁機構、103…排気動弁機構、105…外開噴射弁、107…噴口、
109…ノズル部、111…外開弁体、113…ピエゾ素子、115…ケース、
117…圧縮コイルバネ、119…当接面、121…クランク角センサ、
123…吸気カムセンサ、125…排気カムセンサ、127…水温センサ、
129…エアフローセンサ、131…スロットル開度センサ、
133,135…Oセンサ、137…EGR開度センサ、139…車速センサ、
141…アクセルセンサ
本開示は、予混合圧縮着火式エンジンシステムに関する。
この種のエンジンシステムは、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたエンジンシステムは、エンジンの運転状態が高負荷領域にあるときに、圧縮上死点付近とそれよりも前の圧縮行程中の所定時期とに設定された2回の噴射タイミングに分けて燃料噴射弁から燃料を噴射し、前段の燃料噴射によって燃焼室の外周部に形成した混合気を圧縮上死点付近で圧縮着火により燃焼させ、後段の燃料噴射によって燃焼室の中央部に形成した混合気を先の燃焼による昇温及び昇圧を以て短い時間で着火に至らせて継続的に燃料させるようになっている。
また、水噴射弁を備えたエンジンシステムが従来から知られており、例えば特許文献2に開示されている。特許文献2に開示されたエンジンシステムでは、ピストンの冠面の中央部分に円盤形凹状のキャビティが形成され、ペントルーフ型の燃焼室の天井に噴射軸(噴射方向)がキャビティ内に向くように水噴射弁が設けられていて、この水噴射弁から上死点付近で燃焼室に向けて水噴射を直接に行い、ピストンにおけるキャビティの表面に水を付着させて水膜を形成することにより、ピストンの冠面から燃焼熱が逃げるのを遮断して熱効率を高めるようになっている。
特開2012−241590号公報 特開2008−175087号公報
ところで、予混合圧縮着火式エンジンシステムでは、エンジンの負荷が高くなるに従って圧縮着火燃焼が急峻になるため、筒内圧力の急上昇に起因して燃焼騒音が増大してしまうという不都合がある。こうした不都合に対処する方策の1つとして、圧縮着火燃焼を緩慢にすることが考えられるが、そうすると燃焼安定性が低下してしまう。つまり、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とはトレードオフの関係にある。
燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを両立させるためには、特許文献1に開示されるように燃焼室に燃料を分割噴射し、燃焼室内の混合気を時間差をもって圧縮着火させることが有効である。燃焼室内の熱は同室を区画する壁面、すなわちピストンの冠面、気筒の内周面及びシリンダヘッドの下面を通して外部に逃げるため、燃焼室のうちピストンのキャビティ内に対応する中央空間は相対的に温度が高くなり易く、キャビティの外周囲に対応する外周側空間は相対的に温度が低くなり易い。このことから、まず、燃焼室の中央空間に形成した混合気を圧縮着火させ、その後に、燃焼室の外周側空間に形成した混合気が圧縮着火するように、混合気の性状を制御することが好適である。
このように燃焼室の外周側空間の混合気が圧縮着火するのを遅らせる方法としては、混合気を形成する燃料の顕熱や潜熱を利用してピストンが圧縮上死点に至ったときの燃焼室の外周側空間の混合気の温度を調節することが考えられる。具体的には、まず、燃焼室の中央空間に燃料を噴射して着火し易い当量比の混合気を形成し、次いで、燃焼室の外周側空間に燃料を噴射して中央空間の混合気よりもリッチな当量比の混合気を形成することにより、燃焼室の外周側空間の混合気に中央空間の混合気よりも顕熱や潜熱の効果を利かせ、それによって燃焼室の外周側空間の混合気を遅れて着火させることが考えられる。
しかし、エンジンの負荷が高くなると、先に噴射した燃料が燃焼室で高温環境に曝される期間が長いため、本来であれば燃料が多い分だけその潜熱や顕熱の作用によって遅れて着火することが期待される燃焼室の外周側空間の混合気が異常燃焼を起こし易くなって過早着火してしまうことがある。そうなると、燃焼室の外周側空間の混合気が燃焼室の中央空間の混合気と同じような時期に圧縮着火して燃焼し、せっかく異なる当量比の混合気により燃焼室を空間分離しても、分離した空間同士で燃焼タイミングをずらせずに、燃焼騒音を好適に抑制できなくなる事態が懸念される。さりとて、先に噴射する燃料が高温環境に曝される期間を短くするために燃焼室の外周側空間への燃料の噴射タイミングを遅らせると、燃料と空気との混合が不十分となってスモークが発生し易くなるし、燃費性能の低下を招くことにもなる。
本開示の技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が圧縮着火するタイミングを確実に遅らせて、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることにある。
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、燃焼室をその中央空間よりも外周側空間にリッチな当量比の混合気が形成されるように空間分離し、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が比較的リッチな当量比であるときに、燃焼室の外周側空間に水噴射を行うようにした。
具体的には、本開示の技術は、気筒を有するエンジンと、気筒内に往復動可能に設けられたピストンと、ピストンの冠面と気筒とシリンダヘッドの下面とによって区画される燃焼室に対し、燃料を噴射する燃料噴射弁、及び水を噴射する水噴射弁と、燃料噴射弁による燃料の噴射動作及び水噴射弁による水の噴射動作を制御する制御装置とを備える予混合圧縮着火式エンジンシステムを対象とする。このエンジンシステムでは、燃料噴射弁によって燃焼室に噴射された燃料と空気との混合気を形成し、その混合気を、燃焼室の少なくとも中央部でピストンの圧縮動作により着火させる。
制御装置は、燃焼室の中央空間に対して着火し易い第1当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁に燃料を噴射させる第1燃料噴射と、燃焼室の外周側空間に対して第1当量比よりもリッチな第2当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁に燃料を噴射させる第2燃料噴射と、第2燃料噴射により燃料が噴射される燃焼室の外周側空間に対して水噴射弁によって水を噴射する水噴射とを実行する。第2燃料噴射は、吸気行程から圧縮行程の中期にかけての期間に実行される。第1燃料噴射は、第2燃料噴射の後であって且つ圧縮行程の中期から後期にかけての期間に実行される。そして、水噴射は、第2燃料噴射の後であって且つ第1燃料噴射の前の期間において、第2当量比が1.0以上となるときに実行される。
この構成によると、第1燃料噴射によって燃焼室の中央空間に着火し易い第1当量比の混合気が形成され、第2燃料噴射によって燃焼室の外周側空間に第1当量比よりもリッチな第2当量比の混合気が形成される。燃焼室の外周側空間に形成される第2当量比の混合気は、燃焼室内の熱が同室を区画する壁面、すなわちピストンの冠面、気筒の内周面(シリンダライナー壁面)及びシリンダヘッドの下面を通して外部に逃げるため、燃焼室の中央空間よりも温度が低くなり易い。しかも、第2当量比の混合気は、燃焼室の中央空間に形成される混合気よりも当量比がリッチであるので、当該混合気を形成する燃料の潜熱や顕熱によって奪われる熱の量が多い。それによって、燃焼室の中央空間に形成される混合気を圧縮上死点で優先的に圧縮着火させ、その燃焼による燃焼室の昇温及び昇圧を以て燃焼室の外周側空間に形成される混合気を遅れて圧縮着火させることができる。
このように、異なる当量比の混合気により燃焼室を中央空間と外周側空間とで空間分離し、燃焼室の中央空間と外周側空間とで混合気を時間差をもって圧縮着火させることにより、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを両立させることができる。そして、燃焼室の外周側空間に形成される混合気の第2当量比が1.0以上となるリッチなときには、その第2当量比の混合気が形成される燃焼室の外周側空間に水が噴射される。そうすると、水の潜熱及び顕熱の作用により、燃焼室の外周側空間及びそこに形成される混合気が冷却されるので、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が、燃焼室が高温であると異常燃焼による過早着火を起こし易いほどリッチな状態にあっても圧縮着火し難くい状態とし、燃焼室の外周側空間の混合気の着火時期を燃焼室の中央空間の混合気の着火時期よりも確実に遅らせることができる。このことで、燃焼室に形成される混合気の着火性を確保しつつ、その燃焼を好適に緩慢化することができる。その結果、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることが可能となる。
その上、吸気行程から圧縮行程の中期にかけての期間に第2燃料噴射が実行される。これによって、燃焼室の外周側空間におけるスキッシュエリア等の隅々にまで第2燃料噴射によって噴射された燃料を行き渡らせることができる。さらに、第2燃料噴射の後であって且つ圧縮行程の中期から後期にかけての期間に水噴射が実行される。こうすれば、水の潜熱及び顕熱の作用を燃焼室の外周側空間に形成される混合気に効果的に効かせることができる。そして、水噴射の後の期間において第1燃料噴射が実行される。そのことで、第1燃料噴射によって形成される混合気が燃焼室で高温環境に曝される期間が比較的短くなるので、燃焼室の中央空間に形成される混合気が過早着火するのを防止することができる。
また、本開示の技術に係る予混合圧縮着火式エンジンシステムでは、制御装置は、燃焼室の中央空間に対して着火し易い0.6以上且つ0.9以下の第1当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁に燃料を噴射させる第1燃料噴射と、燃焼室の外周側空間に対して第1当量比よりもリッチな1.0以上且つ1.7以下の第2当量比の混合気が形成されるように燃料噴射弁に燃料を噴射させる第2燃料噴射と、第2燃料噴射により燃料が噴射される燃焼室の外周側空間に対して水噴射弁によって水を噴射する水噴射とを実行する。
この構成によると、着火性の相対的に高い混合気が燃焼室の中央空間に形成され、着火性の相対的に低い混合気が燃焼室の外周側空間に形成される。それにより、燃焼室の中央空間と外周側空間とを当量比の異なる混合気を含むゾーンに分割し、両ゾーンの混合気を程好く時間をずらして圧縮着火させることができる。よって、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が圧縮着火するタイミングを確実に遅らせて、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、制御装置は、エンジンの運転状態が所定の負荷よりも低い第1運転領域にあるときには第1燃料噴射及び水噴射を実行せず、エンジンの運転状態が上記所定の負荷よりも高い第2運転領域にあるときには第1燃料噴射及び水噴射を実行することが好ましい。
この構成によると、第1燃料噴射は、エンジンの運転状態が所定の負荷よりも低い第1運転領域にあるときには実行されない。すなわち、このときには第2燃料噴射のみが実行される。こうすることで、燃焼室の中央空間のみに混合気を形成すると共にその周囲にガス層を形成することができる。そうして形成されたガス層は、混合気の燃焼時に断熱層として機能する。よって、エンジンの冷却損失の低減を図ることができる。
また、上記の構成によると、第1燃料噴射が実行されない第1運転領域では、水噴射も実行されない。水噴射を行うと、水の潜熱及び顕熱の作用によって燃焼室の外周側空間及びそこに形成される混合気の温度が下がるので、その分だけ燃焼安定性が低下し易くなる。第1燃料噴射を実行しない場合には、燃焼室の外周側空間に混合気が形成されないので、その燃焼室の外周側空間での過早着火の防止を目的とする水噴射を行う必要はなく、水噴射を実行しないことで、それによる燃焼安定性の低下を抑制することができる。
さらに、上記の構成によると、第1燃料噴射は、エンジンの運転状態が所定の負荷よりも高い第2運転領域にあるときに実行される。それにより、燃焼室の外周側空間にも混合気が形成されるので、その混合気を燃焼させることで、燃焼室の中央空間だけで混合気を燃焼させる場合に比べてエンジンにより高い動力を発生させることができる。
そして、上記の構成によると、水噴射は、第1燃料噴射と併せて実行される。エンジンの負荷が高くなると、燃焼室の温度が高温化するため、第1燃料噴射によって形成される混合気に異常燃焼による過早着火が発生し易くなるが、水噴射を実行することで、そうした過早着火を好適に防止することができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、制御装置は、ピストンが圧縮上死点に到達ときの燃焼室の温度を予測し、予測した温度が所定の温度以上であるときには水噴射を実行し、予測した温度が上記所定の温度未満であるときには水噴射を実行しないことが好ましい。ここで、所定の温度は、例えば1000K以上の温度に設定される。
この構成によると、水噴射は、圧縮上死点での燃焼室の温度が所定の温度以上であると予測されたときに実行される。このようにすれば、燃焼室の外周側空間に形成される混合気が過早着火するリスクが比較的高い場合に、そうした過早着火の発生を好適に防止することができる。
さらに、上記の構成によると、水噴射は、圧縮上死点での燃焼室の温度が所定の温度未満であると予測されたときに実行されない。水噴射を行うと、水の潜熱及び顕熱の作用によって燃焼室及びその外周側空間に形成される混合気の温度が下がるので、その分だけ燃焼安定性が低下し易くなる。燃焼室の外周側空間に形成される混合気が過早着火するリスクが比較的低い場合には、水噴射を実行しないことで、そうした燃焼安定性の低下を抑制することができる。
また、上記エンジンシステムにおいて、エンジンの幾何学的圧縮比は16以上且つ35以下に設定されていることが好ましい。
この構成によると、エンジンの幾何学的圧縮比が16以上且つ35以下という比較的高い圧縮比に設定されているので、理論熱効率を向上させることができ、且つ圧縮着火燃焼の安定化を図ることができる。
上記エンジンシステムによれば、燃焼室の外周側空間の混合気が圧縮着火するタイミングを確実に遅らせて、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保とを安定して両立させることができる。
図1は、予混合圧縮着火式エンジンシステムの構成を例示する図である。 図2は、エンジンの構成を例示する断面図である。 図3は、エンジン内の燃焼室の構成を例示する断面図である。 図4は、外開弁式の噴射弁の構成を例示する断面図である。 図5は、ECUの構成を例示するブロック図である。 図6は、エンジンの運転領域を例示する図である。 図7は、混合気の当量比と着火時期との関係を例示する図である。 図8は、高負荷領域における燃料の噴射時期とその噴射量を例示する図である。 図9Aは、高負荷領域における吸気行程での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図9Bは、高負荷領域における圧縮行程の中期での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図9Cは、高負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図9Dは、高負荷領域における圧縮上死点付近での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図9Eは、高負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図9Fは、高負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図9Gは、高負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図9Hは、高負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図10は、高負荷領域における燃料及び水の噴射時期とそれらの噴射量を例示する図である。 図11は、高負荷領域における圧縮行程の後期での水噴射の様子を概念的に例示する図である。 図12は、中負荷領域における燃料の噴射時期とその噴射量を例示する図である。 図13Aは、中負荷領域における吸気行程での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図13Bは、中負荷領域における圧縮行程の後期での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図13Cは、中負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図13Dは、中負荷領域における圧縮上死点付近での燃料噴射の様子を概念的に例示する図である。 図13Eは、中負荷領域において燃焼室に形成される混合気の状態を概念的に例示する図である。 図13Fは、中負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図13Gは、中負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図13Hは、中負荷領域における燃焼室の混合気が燃焼する様子を概念的に例示する図である。 図14は、ECUが実行する燃料噴射制御及び水噴射制御を例示するフローチャートである。
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
<エンジンシステムの全体構成>
図1に、予混合圧縮着火式エンジンシステム1の構成を例示する。予混合圧縮着火式エンジンシステム1(以下、単に「エンジンシステム1」と称する)の燃料Fはガソリンである。ガソリンは、バイオエタノール等を含んでいてもよい。エンジンシステム1の燃料Fは、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジンシステム1は、図1に示すように、吸気(空気)と燃料Fとの混合気を燃焼させるエンジン3と、エンジン3に導入する吸気が流通する吸気通路5と、エンジン3内での混合気の燃焼により発生した排気を排出する排気通路7と、エンジン3に排気(既燃ガス)を再導入する排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation、以下「EGR」と称する)装置9と、エンジン3に燃料Fを供給する燃料供給装置11と、エンジン3に水を供給する水供給装置13と、エンジン3の運転状態を検出するためのセンサ類と、エンジンシステム1の全体を制御する制御装置としてのECU(Engine Control Unit)15とを備える。
<吸気通路・排気通路の構成>
吸気通路5には、上流側から順に、吸気を浄化するエアクリーナ17と、エンジン3に供給される吸気の流量を調節するスロットル弁19とが設けられている。排気通路7には、上流側から順に、排気に含まれる大気汚染物質を浄化する排気浄化装置21と、排気に含まれる水(水蒸気)を凝縮する凝縮器23とが設けられている。排気浄化装置21は、例えば三元触媒を含む触媒コンバータによって構成されている。
<EGR装置の構成>
EGR装置9は、エンジン3から排気通路7に一旦排出した排気の一部を吸気通路5に循環させる外部EGRを行う外部EGR装置25と、エンジン3内での混合気の燃焼により発生した既燃ガスの一部を実質的にエンジン3内に留める内部EGRを行う内部EGR装置27(後に参照する図2に示す)とを備える。内部EGR装置27は、後述する吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTによって構成されている。
外部EGR装置25は、吸気通路5のスロットル弁19よりも下流側の部分と排気通路7の排気浄化装置21よりも上流側の部分とを接続するEGR通路29と、EGR通路29に流通する排気を冷却するEGRクーラ31と、EGR通路29に流通する排気の流量を調節するEGR弁33とを備える。EGRクーラ31及びEGR弁33は、EGR通路29において、排気通路7側から吸気通路5側に向かってこの順に設けられている。
<燃料供給装置の構成>
燃料供給装置11は、燃料Fを貯留する燃料タンク35と、エンジン3内で燃料Fを噴射する燃料噴射弁37と、燃料タンク35の燃料Fを燃料噴射弁37に供給する燃料供給通路39とを備える。燃料タンク35内には、図示しないが、燃料Fを燃料供給通路39に送り出すフィードポンプが設けられている。燃料供給通路39には、上流側から順に、当該通路39に流通する燃料Fを昇圧させる燃料昇圧ポンプ41と、当該通路39に流通する燃料Fを燃料噴射弁37から噴射させる前に一時的に貯留する燃料コモンレール43とが設けられている。
<水供給装置の構成>
水供給装置13は、水Wを貯留する貯水タンク45と、エンジン3内で水Wを噴射する水噴射弁47と、貯水タンク45の水Wを水噴射弁47に供給する水供給通路49と、水噴射弁47から噴射された水Wを排気通路7を利用して回収する水回収装置51とを備える。貯水タンク45内には、図示しないが、水Wを水供給通路49に送り出すフィードポンプが設けられている。水供給通路49には、上流側から順に、当該通路49に流通する水Wを昇圧させる水昇圧ポンプ53と、当該通路49に流通する水Wを排気通路7に流通する排気との間で熱交換させる熱交換器55と、当該通路49に流通する水Wを水噴射弁47から噴射させる前に一時的に貯留する水コモンレール56とが設けられている。
熱交換器55は、排気通路7の内側に挿通された水供給通路49の一部によって構成されている。熱交換器55は、排気通路7において排気浄化装置21の直ぐ下流側に隣接して配置されており、排気浄化装置21と共に蓄熱用ケース57の内側に収容されている。蓄熱用ケース57は、蓄熱材59が充填された二重構造の外周壁61を有し、排気の熱エネルギーを蓄熱材59に蓄えることにより排気浄化装置21及び熱交換器55を保温する。こうした蓄熱用ケース57の保温効果により、排気浄化装置21は適度な温度に維持され、熱交換器55は水供給通路49内の水Wを効果的に昇温させる。
<エンジンの構成>
図2に、エンジン3の構成を例示する。また、図3に、エンジン3内の燃焼室73の構成を例示する。
エンジン3は、吸気、圧縮、燃焼及び排気を行う4サイクル多気筒のレシプロエンジンであって、図1及び図2に示すように、直列に配置された4つの気筒63(図2では1つのみ示す)を有するシリンダブロック65と、シリンダブロック65上に載置されるシリンダヘッド67とを備える。これらシリンダブロック65及びシリンダヘッド67の内部には、図示しないが、エンジン冷却水が流れるウォータジャケットが設けられている。シリンダブロック65の各気筒63内には、ピストン69が往復動(上下動)可能に嵌め入れられている。
ピストン69は、コネクティングロッド71を介してクランクシャフト72に連結されている。ピストン69の上方には、図2及び図3に示すように、混合気を燃焼させる燃焼室73が形成されている。燃焼室73は、ピストン69の冠面75と気筒63の内周面(シリンダライナー壁面)77とシリンダヘッド67の下面79とによって区画されている。なお、ここで言う「燃焼室」は、ピストン69が圧縮上死点に至ったときに形成される空間を意味する狭義の燃焼室に限定されず、ピストン69、気筒63及びシリンダヘッド67によって囲まれた空間として定義される広義の燃焼室を意味する。
燃焼室73は、図3に示すように、いわゆるペントルーフ型の燃焼室である。燃焼室73の天井部を構成するシリンダヘッド67の下面79は、吸気通路5側に位置する吸気側天井面81と、排気通路7側に位置する排気側天井面83とを備える。これら吸気側天井面81及び排気側天井面83は、気筒63の配列方向と直交する方向において、気筒63の中心に向かって登り勾配に傾斜しており、クランクシャフト72の軸方向に延びる谷部を介して連結されて三角屋根形状をなしている。なお、ペントルーフの谷部の位置は、気筒63のボア中心に一致する場合と一致しない場合との両方があり得る。
ピストン69の冠面75の中央部分には、下方に向けて窪む凹形状のキャビティ85が形成されている。以下では、燃焼室73においてキャビティ85内に対応する空間を「中央空間」と称することがある。また、燃焼室73においてキャビティ85の外周囲に対応する空間を「外周側空間」と称することがある。
ピストン69の冠面75は、キャビティ85の内面87と、キャビティ85に対し吸気側に位置する吸気側傾斜面89と、キャビティ85に対し排気側に位置する排気側傾斜面91とを有する。吸気側傾斜面89は、吸気側天井面81に対応するようにキャビティ85に向かって登り勾配に傾斜している。他方、排気側傾斜面91は、排気側天井面83に対応するようにキャビティ85に向かって登り勾配に傾斜している。
燃焼室73を区画する上下の区画壁面、具体的にはピストン69の冠面75とシリンダヘッド67の下面79とには遮熱層92がそれぞれ設けられている。遮熱層92は、これらの区画壁面75,79の全体に設けられていてもよいし、これらの区画面75,79の一部に設けられていてもよい。遮熱層92は、燃焼室73を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低い。ここでいう「母材」は、例えば、ピストン69であればアルミニウム又はアルミニウム合金である。
遮熱層92は、燃焼室73の燃焼ガスの熱が、燃焼室73の区画壁面75,79を通じて放出されることを抑制する。また、遮熱層92は、母材よりも容積比率が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層92の熱容量を小さくして、燃焼室73の区画壁面75,79の温度が、燃焼室73のガス温度の変動に追従して変化することが好ましい。こうすることで、燃焼ガスの温度と区画壁面75,79の温度との差が小さくなるから、熱が区画壁面75,79を通じて母材に伝わることが抑制される。
遮熱層92は、中空粒子(例えばガラスバルーン)と、バインダとしてのシリコン樹脂とを含有する遮熱材料を、区画壁面75,79上に塗布し、加熱処理によって樹脂を硬化させることにより形成されている。この遮熱層92は、区画壁面75,79上に、ZrO2等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングすること等により形成してもよい。
エンジン3の幾何学的圧縮比は、理論熱効率の向上や圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、比較的高い圧縮比に設定されている。具体的には、エンジン3の幾何学的圧縮比は、16以上且つ40以下に設定されていればよく、特に16以上且つ25以下に設定されることが好ましい。エンジン3は、圧縮比が高いほど膨張比も高くなるため、高圧縮比と同時に比較的高い膨張比を有する。
シリンダヘッド67には、図2に示すように、吸気側天井面81に開口した吸気ポート93と、排気側天井面83に開口した排気ポート95とが、気筒63毎にそれぞれ2つずつ形成されている。吸気ポート93は、燃焼室73とは反対側の開口が吸気通路5に接続されており、燃焼室73と吸気通路5とを連通させている。排気ポート95は、燃焼室73とは反対側の開口が排気通路7に接続されており、燃焼室73と排気通路7とを連通させている。
吸気ポート93には、吸気側天井面81の開口を燃焼室73に対して開閉する吸気弁97が設けられている。他方、排気ポート95には、排気側天井面83の開口を燃焼室73に対して開閉する排気弁99が設けられている。これら吸気弁97及び排気弁99は、傘或いは茸のような形状の弁体を有するポペット弁からなる。シリンダヘッド67の内部には、吸気弁97を所定のタイミングで往復動させる吸気動弁機構101と、排気弁99を所定のタイミングで往復動させる排気動弁機構103とが設けられている。
吸気動弁機構101は、図示しないが、吸気弁97に連結された吸気カムシャフトと、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲で連続的に変更可能な液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)とを含む。吸気カムシャフトは、伝動ベルトなどの動力伝達機構を介してクランクシャフト72に連結されており、クランクシャフト72から伝えられる動力により回転して吸気弁97を駆動させる。
排気動弁機構103は、図示しないが、排気弁99に連結された排気カムシャフトと、排気カムシャフトの回転位相を所定の範囲で連続的に変更可能な液圧式又は電動式のVVTとを含む。排気カムシャフトは、吸気カムシャフトと共通の動力伝達機構を介してクランクシャフト72に連結されており、クランクシャフト72から伝えられる動力により回転して排気弁99を駆動させる。
吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTは、吸気弁97の開閉時期と排気弁99の開閉時期とを調節して、吸気行程において排気弁99を開いたり、排気行程において吸気弁97を開いたりさせることにより、排気行程において一旦排出された既燃ガスを燃焼室73に引き戻す内部EGRを実行する。なお、内部EGRは、排気行程又は吸気行程において吸気弁97及び排気弁99の双方を閉弁するネガティブオーバーラップ期間を設けて燃焼室73に既燃ガスを残留させることで行われてもよい。
シリンダヘッド67にはさらに、燃料噴射弁37及び水噴射弁47が取り付けられている。燃料噴射弁37及び水噴射弁47は、吸気側天井面81と排気側天井面83との間の谷部に気筒63の配列方向に並べて配置されている。燃料噴射弁37の噴射軸心と水噴射弁47の噴射軸心とは共に、気筒63の配列方向と直交する方向において中央に位置しているが、気筒63の配列方向において気筒63の軸線(中心線)からずれている。なお、水噴射弁47の噴射軸心が気筒63の軸線からずれる一方、燃料噴射弁37の噴射軸心が気筒63の軸線と一致していてもよいし、燃料噴射弁37の噴射軸心が気筒63の軸線からずれる一方、水噴射弁47の噴射軸心が気筒63の軸線と一致していてもよい。
<燃料噴射弁・水噴射弁の構成>
燃料噴射弁37及び水噴射弁47は、いずれも外開弁式の噴射弁(以下、「外開噴射弁」と称する)105である。燃料噴射弁37及び水噴射弁47に用いられる外開噴射弁105の構成を、以下に、図4を参照しながら説明する。図4は、外開噴射弁105の構成を例示する断面図である。外開噴射弁105は、図4に示すように、噴口107が形成されたノズル部109と、噴口107を開閉する外開弁体111とを備える。
ノズル部109は、燃料Fが流通する筒状に形成されており、先端部に噴口107を有する。噴口107は、径が先端に向かうほど大きくなるテーパ状に形成されている。外開噴射弁111は、このノズル部109に挿通されている。ノズル部109の基端部は、外海噴射弁111を進退させる駆動機構を収容したケース115に接続されている。ケース115には、上記駆動機構として、ピエゾ素子113と、ピエゾ素子113をノズル部109から離間させる方向に付勢する圧縮コイルバネ117が収容されている。外開弁体111の基端部は、ピエゾ素子113に接続されている。外開弁体111の先端部は、噴口107内から外部に臨んでおり、ノズル部109の噴口107のテーパ面と対向する当接面119を有するブロック状に形成されている。
ピエゾ素子113は、電圧の印加による変形により外開弁体111を燃焼室73側に押圧し、その外開弁体111をノズル部109の噴口107を閉じた状態からリフトさせて噴口107を開放する。それにより、ノズル部109の噴口107から燃焼室73に燃料がホローコーン状に噴射される。そのホロ―コーン状のテーパ角は、例えば90°〜100°である。そして、ピエゾ素子113への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子113が元の状態に復帰することで、外開弁体111が噴口107を再び閉じる。このとき、ピエゾ素子113の復帰は、圧縮コイルバネ117の付勢力により助長される。
ピエゾ素子113に印加する電圧が大きいほど、ノズル部109の噴口107を閉じた状態からの外開弁体111のリフト量が大きくなる。このリフト量が大きいほど、ノズル部109の噴口107の開度が大きくなって当該噴口107から燃焼室73内に噴射される流体の量(燃料量や水量)が多くなり、且つ噴霧の粒径が大きくなる。このことを利用して、エンジンシステム1では、特定の運転領域において、燃焼室73の中央空間でキャビティ85内に混合気層を形成し、且つその外周囲に断熱ガス層を形成したり、燃焼室73の中央空間と外周側空間とで異なる当量比の混合気を形成したりする。
<センサ類の構成>
センサ類は、図1及び図2に示すように、エンジン3、吸気通路5、排気通路7及びEGR装置9にそれぞれ設けられている。
具体的には、エンジン3においては、クランクシャフト72の回転速度を検出するクランク角センサ121と、吸気カムシャフトのカム角度を検出する吸気カムセンサ123と、排気カムシャフトのカム角度を検出する排気カムセンサ125と、ウォータジャケット内のエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ127とが設けられている。
吸気通路5においては、エアクリーナ17の直ぐ下流側で吸気流量を検出するエアフローセンサ129と、スロットル弁19の開度を検出するスロットル開度センサ131とが設けられている。エアフローセンサ129は、吸気温度を検出する温度センサを内蔵している。排気通路7においては、排気浄化装置21の上流側と下流側とに排気中の酸素濃度を検出するO2センサ133,135がそれぞれ設けられている。これら2つのO2センサ133,135の検出値は、燃焼室19内の空燃比をフィードバックするのに利用される。
EGR通路29においては、EGR弁33の開度を検出するEGR開度センサ137が設けられている。その他、エンジンシステム1には、自動車の速度を検出する車速センサ139や、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ141などが設けられている。
クランク角センサ121は、検出したクランクシャフト72の回転角度に対応する検出信号S121をECU15に出力する。吸気カムセンサ123及び排気カムセンサ125は、それぞれ検出したカム角度に対応する検出信号S123,S125をECU15に出力する。水温センサ127は、検出したエンジン冷却水の温度に対応する検出信号S127をECU15に出力する。
エアフローセンサ129は、検出した吸気流量に対応する検出信号S129aと、内蔵する温度センサにより検出した吸気温度に対応する検出信号S129bとをECU15に出力する。O2センサ133,135は、それぞれ検出した排気中の酸素濃度に対応する検出信号S133,S135をECU15に出力する。EGR開度センサ137は、検出したEGR弁33の開度に対応する検出信号S137をECU15に出力する。車速センサ139は、検出した速度に対応する検出信号S139をECU15に出力する。アクセルセンサ141は、検出したアクセルペダルの踏み込み量に対応する検出信号S141をECU15に出力する。
<ECUの構成>
図5に、ECU15の構成のブロック図を例示する。
ECU15は、周知のマイクロコンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)と、CPU上で実行される各種のプログラムや各種のデータを格納するためのROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の如き内部メモリと、電気信号の入出力を行う入出力バスとを備える。内部メモリに格納される各種のプログラムには、OS(Operating System)や特定機能を実現するアプリケーションプログラムが含まれる。
ECU15は、上述した各種センサ121〜141から供給された検出信号S121〜S141に基づいて、種々の制御や処理を行う。基本的には、ECU15は、要求トルクの演算やエンジン3の負荷の予測などを行い、演算した要求トルクやエンジン3の負荷に基づいて、スロットル弁19の開度、燃料噴射パルス、水噴射パルス、EGR弁33の開度、吸気弁97及び排気弁99の位相角などといった、エンジン3の制御パラメータを計算する。そして、ECU15は、それらの信号を、スロットル弁19、燃料噴射弁37、水噴射弁47、EGR弁33、吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTなどに出力する。
<エンジンの運転制御>
図6に、エンジン3の運転領域を例示する。
エンジン3の運転領域は、図6に示すように、低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)の3つに分けられている。低負荷領域(A)は、低回転低負荷の領域である。中負荷領域(B)は、低負荷領域(A)よりも負荷が高く、且つ低負荷領域(A)よりも回転数が高い領域を含んでいる。高負荷領域(C)は、中負荷領域(B)よりも負荷が高く、且つ中負荷領域(B)よりも回転数が高い領域を含んでいる。
エンジンシステム1は、基本的には、これら低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)の全運転領域で燃焼室73に噴射した燃料を圧縮着火により燃焼させる。圧縮着火燃焼は、言い換えると、CAI(Controlled Auto Ignition)燃焼である。CAI燃焼は、エンジン3が上述した高い幾何学的圧縮比に設定されていることによって安定化する。
ECU15は、上述したように、スロットル弁19、燃料噴射弁37、水噴射弁47、EGR弁33、吸気動弁機構101のVVT及び排気動弁機構103のVVTに対し、エンジン3の運転状態に応じた信号を出力する。これによって、燃焼室73のガス状態がエンジン3の運転状態に応じて調整される。なお、EGR装置9は、基本的には、エンジン3の運転領域の全域において、燃焼室73に排気(既燃ガス)を導入する。
ECU15はまた、低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)のそれぞれにおいて、燃焼室73内への燃料噴射の形態を異ならせる。
<低負荷領域(A)での燃料噴射の形態>
エンジンシステム1は、低負荷領域(A)において、燃焼時に、燃焼室73の区画壁面75,77,79沿いにガス層による断熱層を形成する。このように、燃焼室73の遮熱構造に加えて断熱層を形成することにより、エンジン1の冷却損失は大幅に低減する。この低負荷領域(A)は、第1運転領域の一例である。
具体的には、ECU15は、低負荷領域(A)において、圧縮行程以降に燃料噴射弁37からキャビティ85内に燃料Fを噴射させる。そのことで、燃料噴射弁37の近傍においてキャビティ85内の中心部に混合気層を形成し、且つその周囲に新気を含むガス層を形成するという、成層化が行われる。ガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて外部EGRや内部EGRによる既燃ガスを含んでいてもよい。なお、ガス層には、少量の燃料が混じっていても問題はない。要は、ガス層の燃料が混合気層よりも希薄であればよい。
燃焼室73に混合気層とガス層とが形成された状態で、混合気が圧縮着火燃焼すれば、混合気層と燃焼室73の区画壁面75,77,79との間のガス層により、火炎が気筒63の壁面に接触することが抑制される。また、ガス層が断熱層となるため、燃焼室73の区画壁面75,77,79からの放熱が抑制される。その結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
なお、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて熱効率の向上には余り寄与しないところ、このエンジン1では、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギーを高膨張比によって機械仕事に変換している。すなわち、エンジン3は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、熱効率を大幅に向上させているということができる。
このような混合気層とガス層とを燃焼室73に形成するためには、燃料を噴射するタイミングにおいて、燃焼室73のガス流動は弱いことが望ましい。そのため、吸気ポート93は、燃焼室73でスワール流が生じない又は生じ難いようなストレート形状を有していると共に、タンブル流もできるだけ弱くなるように構成されている。
<高負荷領域(C)での燃料噴射の態様>
エンジンシステム1は、高負荷領域(C)において、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の維持とが両立するように、低負荷領域(A)とは異なる燃料噴射の態様を採用している。この高負荷領域(C)は、第2運転領域の一例である。
図7に、混合気の当量比と当該混合気の着火時期との関係を示している。図7における2本のラインのうち、一方のラインは、燃焼室73の全ガスに対する排気の質量比であるEGR率が50%のときラインであり、他方のラインは、EGR率がそれよりも高い55%のときのラインである。EGR率の相違は、圧縮前の燃焼室73の温度の相違であり、EGR率が55%のときの温度がEGR率が50%のときの温度よりも高い。したがって、EGR率が55%のときの方がEGR率が50%のときよりも着火性に有利となる。つまり、EGR率が55%のときの方がEGR率50%のときよりも着火時期が進角する。
図7によると、EGR率の高低に関わらず、混合気の当量比が1以下のときには、当量比が小さくなるほど着火時期が遅くなる。つまり、混合気が希薄になって、燃焼室73の燃料量が少なくなるほど混合気が燃え難くなる。混合気の当量比が1を超えると、EGR率の高低に関わらず、当量比が大きくなるほど着火時期が遅くなる。これは、燃焼室73に噴射される燃料量が増えると、燃料の潜熱及び顕熱によって燃焼室73の温度が局所的に低下するためである。つまり、温度が低下することによって着火し難くなる。EGR率の高低に関わらず、混合気の当量比が0.6以上且つ0.9以下の範囲にあるときには、着火時期が最も進角する。つまり、このときに混合気の着火性が最も高まる。
このように、混合気の当量比が相違すると、その混合気の着火性、つまり着火時期が相違する。このエンジンシステム1では、そうした混合気の当量比と着火時期とに着目し、高負荷領域(C)において分割噴射を行うことにより、燃焼室73を空間的に、それぞれ当量比が異なる混合気によって構成される複数の混合気ゾーンZI,ZR,ZLに分割する。そして、これら複数の混合気ゾーンZI,ZR,ZLの混合気を、時間をずらして圧縮着火燃焼させることによって、圧縮上死点付近において安定的に着火させながら、緩慢な燃焼を実現する。その結果、高負荷領域(C)において、騒音燃焼の抑制と燃焼安定性の確保とが両立する。
図8に、高負荷領域(C)において燃料噴射弁37が燃焼室73に燃料Fを噴射する時期とその噴射量とを例示する。図8は、左から右に向かってクランク角(つまり時間)が進む。燃料Fの噴射量は、四角の面積によって示されており、面積が大きいほど燃料Fの噴射量が多い。また、図9A〜図9Hに、高負荷領域(C)における燃料噴射の様子と燃焼室73に形成される混合気の状態と混合気が燃焼する様子とを概念的に例示する。
燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図8及び図9Aに示すように、吸気行程中に、燃焼室73に燃料噴射201を行う。以下では、この吸気行程での燃料噴射201を「吸気行程噴射」と称する。吸気行程噴射201は、例えば、吸気行程における後半に行われる。吸気行程の後半とは、吸気行程を前半と後半とに二等分したときの後半に相当する。吸気行程噴射201は、吸気行程における後期に行われていてもよい。吸気行程の後期とは、吸気行程を前期、中期及び後期に三等分したときの後期に相当する。吸気行程噴射201での燃料Fの噴射量は比較的多い。この吸気行程噴射201によって、希薄且つ均質又はほぼ均質な混合気が燃焼室73全体に形成される。このときに形成される混合気の当量比は、0.4以上且つ0.6以下に設定される。
次いで、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図8及び図9Bに示すように、圧縮行程における中期に燃料噴射203を行う。以下では、この圧縮行程の中期での燃料噴射203を「圧縮行程中期噴射」と称する。圧縮行程中期噴射203は、第2燃料噴射の一例である。圧縮行程における中期は、圧縮行程を前期、中期及び後期に三等分したときの中期に相当する。圧縮行程中期噴射203での燃料Fの噴射量は、吸気行程噴射201での燃料Fの噴射量よりも少ない。
圧縮行程中期噴射203により噴射された燃料Fは、燃焼室73の圧力が比較的低いと共に、ピストン69が比較的下方に位置しているから、キャビティ85の外周囲、つまり燃焼室73の外周側空間に到達する。それにより、燃焼室73の外周側空間には、図9Cに示すように、吸気行程噴射201によって噴射された燃料Fと、圧縮行程中期噴射203によって噴射された燃料Fとが合わさって、過濃な混合気を含む領域ZRが形成される。この領域ZRにおける混合気の当量比は、1.0以上且つ1.7以下に設定される。このように過濃な混合気を含む領域ZRを、以下では「過濃ゾーン」と称する。
最後に、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図8及び図9Dに示すように、圧縮行程における後期に、より正確には圧縮上死点付近において、燃焼室73に燃料噴射205を行う。以下では、この燃料噴射205を「圧縮上死点噴射」と称する。圧縮上死点噴射205は、第1燃料噴射の一例である。圧縮行程における後期は、圧縮行程を前期、中期及び後期に三等分したときの後期に相当する。圧縮上死点噴射205での燃料Fの噴射量は、圧縮行程中期噴射203での燃料の噴射量よりも少ない。
この圧縮上死点噴射205によって噴射された燃料Fは、燃焼室73の圧力が高いと共にピストン69が比較的上方に位置しているから、燃焼室73の中央空間でキャビティ85内に溜まる。それにより、燃焼室73の中央空間には、図9Eに示すように、吸気行程噴射201によって噴射された燃料と、圧縮上死点噴射205によって噴射された燃料とが合わさって、着火し易い所定の当量比の混合気を含む領域ZIが形成される。この領域ZIにおける混合気の当量比は、0.6以上且つ0.9以下に設定される。この範囲の当量比は、図7を参照しながら説明したように、混合気の着火性が最も高まる当量比である。このように着火し易い混合気を含む領域ZIを、以下では「着火ゾーン」と称する。
さらにこのとき、着火ゾーンZRと過濃ゾーンZIとの間には、着火ゾーンZIよりも当量比が低い希薄な混合気を含む領域ZLが形成される。この領域ZLの混合気は、吸気行程噴射201によって形成される混合気である。すなわち、その当量比は、0.4以上且つ0.6以下に設定される。このように希薄な混合気を含む領域ZLを、以下では「希薄ゾーン」と称する。
こうして、燃焼室73には、その中央から外側に向かって、着火ゾーンZI、希薄ゾーンZL及び過濃ゾーンZRの3つのゾーンが形成される。これら各ゾーンZI,ZL,ZRの当量比は互いに相違する。燃焼室73の全体についての混合気の平均当量比は1である。そのことで、排気浄化装置21の三元触媒によって排気を浄化することが可能となっている。吸気行程噴射201、圧縮行程中期噴射203、及び圧縮上死点噴射205での燃料Fの噴射量の比率は、例えば、0.55:0.42:0.03に設定される。
そして、図9Fに示すように、ピストン69が圧縮上死点に到達して、燃焼室73の温度及び圧力が高くなると、燃焼室73の中央空間に位置する、最も着火性が高い着火ゾーンZIの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。この着火ゾーンZIに含まれる燃料量は、燃焼室73に供給される燃料量の一部に過ぎないため、燃焼室73の圧力が着火ゾーンZIの燃焼によって急激に立ち上がることが防止される。
このように着火ゾーンZIの混合気が燃焼を開始することに伴い、燃焼室73の温度及び圧力が高まる。その結果、図9Gに示すように、燃焼室73の外周側空間に位置する、二番目に着火性が高い過濃ゾーンZRの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。
最後に、図9Hに示すように、希薄ゾーンZLが圧縮着火し、燃焼を開始する。希薄ゾーンZLは、混合気の体積が最も大きいため、熱発生率が高くなるが、希薄ゾーンZLは、膨張行程が進行してから燃焼するため、燃焼に伴う圧力の上昇が急峻になることが防止される。
こうして、着火ゾーンZI、希薄ゾーンZL及び過濃ゾーンZRの3つのゾーンを燃焼室73に形成することによって、高負荷領域(C)において、着火性を確保しつつ、燃焼を緩慢化することが可能になる。その結果、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の維持とを両立することができる。
図8に示す燃料噴射形態は、燃焼室73に噴射する燃料量が多いときに、特に有利になる。つまり、圧縮行程中期噴射203の噴射量を多くすることによって、ペネトレーション、つまり、燃料Fの噴霧の到達距離が長くなり、燃料噴射弁37から離れた燃焼室73の外周側にまで、燃料Fの噴霧が到達するようになる。また、燃焼室73の外周側に存在する多量の空気を燃焼に利用することが可能になる。よって、過濃ゾーンZRの当量比が高くなり過ぎることを回避しつつ、燃焼室73の中に供給する燃料量を増やすことが可能になる。
また、図8に示す燃料噴射形態では、圧縮上死点噴射205によって当量比が0.6〜0.9の混合気を形成するため、燃料Fの噴射量が比較的少ない。圧縮上死点噴射205での燃料Fの噴射期間は短いため、噴射終了から着火までの時間が長くなる。このため、圧縮上死点噴射205によって燃焼室73に噴射された燃料Fが、気化する時間及び空気と混合する時間を十分に確保することができる。それにより、例えばスモークの発生といった不具合を防止して、排気の性状が悪化してしまうことが回避される。このことは、エンジン3の回転数が高くなって、クランク角度が同一角度だけ変化するときの時間が、相対的に短くなるときにおいても、同様に作用する。したがって、図8に示す燃料噴射形態は、エンジン3の回転数が高いときに、排気の性状が悪化してしまうことを回避する上でも有利である。
図10に、高負荷領域(C)における燃料F及び水Wの噴射時期とそれらの噴射量を例示する。また、図11に、高負荷領域(C)における圧縮行程の後期での水噴射の様子を概念的に例示する。
上述した高負荷領域(C)での燃料噴射形態においては、燃料Fと空気との混合が不十分となってスモークが発生し易くなることや燃費性能の低下を回避するために、過濃ゾーンZRを形成するための燃料噴射203を圧縮行程の中期という比較的早いタイミングで行うため、過濃ゾーンZRを形成する混合気が燃焼室73で高温度環境に曝される期間が長い。しかも、ピストン69の冠面75及びシリンダヘッド67の下面79には、過濃ゾーンZRが形成される燃焼室73の外周側空間に臨む部分にも遮熱層92が形成されているため、その遮熱層92が仇になって燃焼室73の外周側空間の温度が下がり難い。それらのことから、本来であれば遅れて着火することが期待される過濃ゾーンZRの混合気が異常燃焼を起こし易くなって過早着火してしまうおそれがある。
そこで、このエンジンシステム1では、過濃ゾーンZRが過早着火するのを防止すべく、過濃ゾーンZRが形成される燃焼室73の外周側空間に対し、適切なタイミングで水Wを噴射する水噴射207を実行する。具体的には、水噴射弁47は、ECU15からの信号を受けて、図10及び図11に示すように、圧縮行程における後期であって圧縮上死点噴射205が行われる前に水噴射207を行う。この水噴射207は、圧縮行程の中期において圧縮行程中期噴射203が行われた後に行われていてもよい。要は、当該水噴射207は、圧縮行程中期噴射203の開始以降であって、且つ圧縮上死点噴射205の開始前までに行われていればよい。
燃焼室73の外周側に水Wが噴射されると、その水Wの潜熱及び顕熱の作用により、燃焼室73の外周側空間に形成された過濃ゾーンZR(つまり、そのゾーンZRの空間及び混合気)が燃焼室73内で局所的に冷却される。そのことにより、過濃ゾーンZRの混合気が、燃焼室73が高温であると異常燃焼による過早着火を起こし易い状態にあっても、温度低下した分だけ圧縮着火し難い状態となる。これによって、過濃ゾーンZRの混合気の着火時期を、燃焼室73の中央空間に形成される着火ゾーンZIの混合気の着火時期よりも確実に遅らせることができる。したがって、着火ゾーンZIの混合気と過濃ゾーンZRの混合気とを安定的に時間差をもって圧縮着火させることが可能となる。
<中負荷領域(B)での燃料噴射の形態>
エンジンシステム1は、中負荷領域(B)において、過濃ゾーンZRを形成するときの空気不足に起因したスモークの発生や過濃ゾーンZRの混合気が高温及び高圧の雰囲気に晒される時間が長くなることに起因する異常燃焼(例えば過早着火)を回避するように、低負荷領域(A)及び高負荷領域(C)とは異なる燃料噴射の形態を採用している。
図12に、中負荷領域(B)において燃料噴射弁37が燃焼室73に燃料Fを噴射する時期とその噴射量とを例示する。図12に示す燃料Fの噴射形態と図8に示す燃料Fの噴射形態とは、エンジン1の負荷が同じである。また、図13A〜図13Hに、中負荷領域(B)における燃料噴射の様子と燃焼室73に形成される混合気の状態と混合気が燃焼する様子を概念的に例示する。
燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、吸気行程中に、図12及び図13Aに示すように、燃焼室73に燃料噴射301を行う。この吸気行程噴射301は、吸気行程における後半に行われる。吸気行程噴射301での燃料Fの噴射量は比較的多い。この吸気行程噴射301によって、希薄且つ均質又はほぼ均質な混合気が燃焼室73全体に形成される。このときに形成される混合気の当量比は、0.4以上且つ0.6以下である。この吸気行程噴射301は、図8に示す吸気行程噴射201と実質的に同じである。
次いで、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図12及び図13Bに示すように、圧縮行程における後期に燃料噴射303を行う。以下では、この燃料噴射303を「圧縮行程後期噴射」と称する。圧縮行程後期噴射303での燃料Fの噴射量は、吸気行程噴射301での燃料Fの噴射量よりも少なく、且つ後述の圧縮上死点噴射305よりも少ない。
この圧縮行程後期噴射303により噴射された燃料Fは、ピストン69が圧縮上死点に近づいているため、燃焼室73の圧力が高く、燃焼室73の外周囲まで到達し難くなる。それにより、燃焼室73のうち外周囲を除く空間、つまり中央空間及び外周側空間のうち中央空間寄りの部分には、図13Cに示すように、吸気行程噴射301によって噴射された燃料Fと、圧縮行程後期噴射303によって噴射された燃料Fとが合わさって、当量比が0.6以上且つ0.9以下の混合気を含む着火ゾーンZIが形成される。
最後に、燃料噴射弁37は、ECU15からの信号を受けて、図12及び図13Dに示すように、圧縮上死点噴射305を行う。圧縮上死点噴射305での燃料Fの噴射量は、吸気行程噴射301よりも少なく、且つ圧縮行程後期噴射303よりも多い。
この圧縮上死点噴射305によって噴射された燃料Fは、燃焼室73の圧力が高いと共に、ピストン69が上方に位置しているから、キャビティ85内に留まる。それにより、燃焼室73の中央空間には、図13Eに示すように、吸気行程噴射301によって噴射された燃料Fと、圧縮行程後期噴射303によって噴射された燃料Fと、圧縮上死点噴射305によって噴射された燃料Fとが合わさって、当量比が1.0以上且つ1.7以下の濃過な混合気を含む濃過ゾーンZRが形成される。
このときさらに、着火ゾーンZRの外側には、着火ゾーンZIよりも当量比が低い希薄な混合気を含む希薄ゾーンZLが形成される。希薄ゾーンの混合気は、吸気行程噴射301によって形成される混合気である。すなわち、その当量比は、0.4以上且つ0.6以下に設定される。
こうして、燃焼室73には、その中央から外側に向かって、過濃ゾーンZR、着火ゾーンZI及び希薄ゾーンZLの3つのゾーンが形成される。これら各ゾーンZR,ZI,ZLの当量比は互いに相違する。燃焼室73の全体について、混合気の平均当量比は1である。吸気行程噴射301、圧縮行程後期噴射303、及び圧縮上死点噴射305での燃料Fの噴射量の比率は、例えば、0.55:0.14:0.31に設定される。
そして、ピストン69が圧縮上死点に到達して、燃焼室73の温度及び圧力が高くなると、まず、図13Fに示すように、着火ゾーンZIの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。その後、図13Gに示すように、過濃ゾーンZRの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。最後に、図13Hに示すように、希薄ゾーンZLの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。
図13Eに示す状態の混合気によると、図9Eに示す状態の混合気と比較して、過濃な混合気が燃焼室73の壁面に接触してしまうことを抑制することが可能になる。これにより、エンジン3の冷却損失を低減することができる。また、燃焼室73の中央から外側に向かって混合気の燃料濃度が次第に薄くなる、つまり燃焼室73の外周囲では混合気に含まれる燃料量が少なくなるため、未燃の燃料が少なくなる。こうした冷却損失の低減と未燃損失の低減とによって、図13Eに示す状態の混合気は、図9Eに示す状態の混合気よりも燃費性能の向上に有利になる。
また、図12に示す燃料噴射形態は、過濃ゾーンZRを形成する燃料噴射を圧縮上死点付近において行うため、過濃な混合気が、燃焼室73内の高温及び高圧雰囲気に曝される時間を短くすることができる。したがって、図12に示す燃料噴射形態は、図8に示す燃料噴射形態よりも異常燃料に対するロバスト性が高い。図12に示す燃料噴射形態は、例えば、外気温度が高いことに起因して異常燃焼が生じ易いときに、異常燃焼を回避する上で有効である。
<燃料噴射制御・水噴射制御>
図14に、ECU15が実行する燃料噴射制御及び水噴射制御に係るフローチャートを例示する。エンジンシステム1における燃焼室73への燃料噴射201〜205,301〜305及び水噴射207は、図14に示すフローに従って実行される。
まず、ステップST01において、ECU15は、各センサ121〜141からの信号S121〜S141に基づいて、エンジン3の運転状態を検出する。具体的には、エンジン3の回転数、エンジン3の負荷、吸気温度、EGR率などを検出する。
続くステップST02では、ECU15は、エンジン3の運転状態に基づいて、混合気の燃焼騒音が許容値以下になると予想されるか否かを判定する。ここで、混合気の燃焼騒音が許容値以下になる(YES)と判定したときには、ステップST03に進む。他方、混合気の燃焼騒音が許容値を超える(NO)と判定したときには、ステップST04に進む。
ステップST03では、ECU15は、第1の噴射制御を実行する。第1の噴射制御は、図6における低負荷領域(A)の燃料噴射制御に相当する。また、このステップST03において、エンジン3の冷間時には、高負荷領域(C)での水噴射207と同じタイミングで水噴射弁47に水を噴射させる水噴射を実行する。すなわち、ECU15は、水噴射弁47に信号を出力し、圧縮行程において水噴射を実行する。この水噴射は、燃料噴射を行った後に実行されてもよいし、燃料噴射を行う前に実行されてもよい。
エンジン3の冷間時において、水噴射が実行されると、燃焼室73の温度が低下するので、混合気層の着火時期が遅れる着火リタードが促進される。それにより、燃焼室73内で混合気が燃焼することにより発生する熱のうちピストン69の膨張行程で消費される分が少なくなる一方で排気に残存する分が多くなるため、排気に積極的に多くの熱を持たせることができる。これよって、エンジン3の暖機を促進することができ、且つ排気浄化装置21の触媒の早期活性化を図ることもできる。
ステップST04では、ECU15は、エンジン3の回転数及び負荷に基づいて、燃料Fの空気との混合時間を確保することが可能か否かを判定する。例えば、エンジン3の回転数が高いときには、1サイクル当たりの時間が短いため、燃料Fの混合時間を確保できなくなる場合がある。また、エンジン3の負荷が高くて燃料Fの噴射量が増えるときにも、燃料Fの噴射期間が長くなるため、燃料Fの混合時間を確保できなくなる場合がある。ここで、燃料Fの混合時間を確保可能できる(YES)と判定したときには、ステップST05に進む。他方、燃料Fの混合時間を確保できない(NO)と判定したときには、ステップST08に進む。
ステップST05〜ST07において、ECU15は、図12に示す燃料噴射形態に対応する第2の燃料噴射を実行する。第2の噴射制御は、図6における中負荷領域(B)の燃料噴射制御に相当する。
ステップST05では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射301)を実行する。続くステップST06で、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮行程の後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程後期噴射303)を実行する。そして、ステップST07で、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射305)を実行する。こうしたステップST05〜ST07の3回の燃料噴射301,303,305によって、図13Eに示すような混合気が燃焼室73に形成され、圧縮上死点以降に各ゾーンZI,ZR,ZLがタイミングをずらして順に圧縮着火をする。
ステップST08では、ECU15は、エンジン3の運転状態に基づいて、過早着火のリスクが所定値以下である否かを判定する。圧縮上死点での燃焼室73の温度が高いと混合気が過早着火し易くなる。こうした傾向は、混合気に含まれる燃料Fがリッチなほど顕著になる。つまり、圧縮上死点で温度が高い状態にある燃焼室73では、過濃ゾーンZRの混合気が過早着火してしまう可能性が高い。このことから、ECU15は、エアフローセンサ129の検出値などのエンジン3の運転状態に基づいて、ピストン69が圧縮上死点に到達したときの燃焼室73の温度を予測する。
そして、ECU15は、予測した温度が所定の温度未満であるときには、過早着火のリスクが所定値以下である、つまり過早着火のリスクは高くないと判定する。また、ECU15は、予測した温度が所定の温度以上であるときには、過早着火のリスクが所定値を超える、つまり過早着火のリスクは高いと判定する。過早着火のリスク判定の基準となる上記所定の温度は、燃焼室の温度が1000K以上となると過早着火の蓋然性が高まることから、1000K以上の温度に設定される。本実施形態では、この所定の温度が例えば1000Kに設定される。このステップST08で、過早着火のリスクが高くない(YES)と判定したときには、ステップST09に進む。他方、過早着火のリスクが高い(NO)と判定したときには、ステップST12に進む。
ステップST09〜ST11において、ECU15は、図8に示す燃料噴射形態に対応する第3の燃料噴射を実行する。第3の燃料噴射は、図9Eにおける高負荷領域(C)の燃料噴射制御に相当する。
ステップST09では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射201)を実行する。続くステップST10では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮行程の後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程中期噴射203)を実行する。そして、ステップST11では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射205)を実行する。こうしたステップST09〜ST11の3回の燃料噴射201,203,205によって、図9Eに示すような混合気が燃焼室73に形成され、圧縮上死点以降に各ゾーンZI,ZR,ZLがタイミングをずらして順に圧縮着火する。
ステップST12〜ST15において、ECU15は、図10に示す燃料F及び水Wの噴射形態に対応する、上記第3の燃料噴射と水噴射207を実行する。
ステップST12では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射201)を実行する。続くステップST13では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮行程の後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程中期噴射203)を実行する。次いで、ステップST14では、ECU15は、水噴射弁47に信号を出力し、水噴射弁47は、圧縮行程の後期において、上述した水噴射207を実行する。そして、ステップST15では、ECU15は、燃料噴射弁37に信号を出力し、燃料噴射弁37は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射205)を実行する。こうしたステップST12〜ST15の3回の燃料噴射201,203,205と水噴射207によって、図9Eに示すような混合気が燃焼室73に形成され、圧縮上死点以降に各ゾーンZI,ZR,ZLがタイミングをずらして順に圧縮着火する。
この実施形態に係るエンジンシステム1によると、燃焼室73の外周側空間に形成される過濃ゾーンZRの混合気が、エンジン3の運転状態に応じて燃焼室73が高温であると異常燃焼による過早着火を起こし易い状態となっても、燃焼室73の中央空間に形成される着火ゾーンZIの混合気よりは圧縮着火し難くい状態とし、過濃ゾーンZRの混合気の着火時期を着火ゾーンZIの混合気の着火時期よりも確実に遅らせることができる。その結果、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の確保との両立を高負荷領域(C)においても安定して実現することができる。
以上のように、ここに開示する技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、ここに開示する技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
例えば、上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
上記実施形態では、燃料噴射弁37及び水噴射弁47としてはいずれも外開弁式の噴射弁105が採用されているとしたが、これに限らない。燃料噴射弁37及び水噴射弁47には、他の方式の噴射弁を採用することも可能であり、例えば、VCO(Valve Covered Orifice)ノズル式の噴射弁が採用されていてもよい。
VCOノズル式の噴射弁も、ノズル口に発生するキャビテーションの度合を調整することにより、噴口の有効断面積を変更して、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。したがって、外開弁式の噴射弁105と同様に、燃焼室73の中央空間でキャビティ85内に混合気層を形成し、且つその外周囲に断熱ガス層を形成したり、燃焼室73の中央空間と外周側空間とで異なる当量比の混合気を形成したりすることが可能である。
さらに、燃料噴射弁37及び水噴射弁47には、VCOノズル式の他、複数の噴口を有するマルチホール式の噴射弁などの種々の方式の噴射弁を採用することが可能であり、燃料噴射弁37及び水噴射弁47は、どのような構成であってもよい。
燃料噴射弁37は、燃料Fを加熱するヒータを備え、ヒータによって所定の温度まで昇温させた燃料Fを、高圧雰囲気の燃焼室73内に噴射することにより、燃料Fを超臨界状態として、キャビティ85内に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成するようになっていてもよい。この技術は、燃焼室73に噴射した燃料Fを瞬時に気化させることにより燃料噴霧のペネトレーションが低くなって燃料Fの噴霧の到達距離が短くなり、キャビティ85内における燃料噴射弁37の近傍に混合気層を形成するものである。
また、上記実施形態では、水供給装置13として、水供給通路49に流通する水を、熱交換器55で排気通路7に流通する排気と熱交換させることにより昇温させた後に、水噴射弁47から燃焼室73に噴射する構成を例示したが、これに限らない。例えば、水供給装置13は、熱交換器55を備えず、水供給通路49に流通する水を、排気と熱交換させることなく、水噴射弁47から燃焼室73に噴射するようになっていてもよい。
また、上記実施形態では、エンジン3の冷間時には、高負荷領域(C)での水噴射207と同じタイミングで水噴射を実行するとしたが、これに限らない。このときの水噴射は、高負荷領域(C)での水噴射207とは異なるタイミングで実行されていてもよい。
また、上記実施形態では、燃焼室73内の混合気をピストン69の圧縮動作により自着火させるエンジンシステム1を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、エンジンシステム1は、エンジン3に着火アシスト用の点火プラグを備え、点火プラグの放電で生じた火花によって混合気を強制的に着火させ、その火炎伝播に伴う燃焼室73の高温化をきっかけにして、混合気を圧縮着火燃焼させるように構成されていてもよい。
以上説明したように、本開示の技術は、自動車などの車両に搭載される予混合圧縮着火式エンジンシステムについて有用である。
1…エンジンシステム、3…エンジン、5…吸気通路、7…排気通路、
9…EGR装置、11…燃料供給装置、13…水供給装置、15…ECU(制御装置)、17…エアクリーナ、19…スロットル弁、21…排気浄化装置、23…凝縮器、
25…外部EGR装置、27…内部EGR装置、29…EGR通路、
31…EGRクーラ、33…EGR弁、35…燃料タンク、37…燃料噴射弁、
39…燃料供給通路、41…燃料昇圧ポンプ、43…コモンレール、
45…貯水タンク、47…水噴射弁、49…水供給通路、51…水回収装置、
53…水昇圧ポンプ、55…熱交換器、57…蓄熱用ケース、59…蓄熱材、
61…外周壁、63…気筒、65…シリンダブロック、67…シリンダヘッド、
69…ピストン、71…コネクティングロッド、72…クランクシャフト、
73…燃焼室、75…ピストンの冠面、77…シリンダヘッドの下面、
79…気筒の内周面、81…吸気側天井面、83…排気側天井面、85…キャビティ、
87…キャビティの内面、89…吸気側傾斜面、91…排気側傾斜面、
93…吸気ポート、95…排気ポート、97…吸気弁、99…排気弁、
101…吸気動弁機構、103…排気動弁機構、105…外開噴射弁、107…噴口、
109…ノズル部、111…外開弁体、113…ピエゾ素子、115…ケース、
117…圧縮コイルバネ、119…当接面、121…クランク角センサ、
123…吸気カムセンサ、125…排気カムセンサ、127…水温センサ、
129…エアフローセンサ、131…スロットル開度センサ、
133,135…O2センサ、137…EGR開度センサ、139…車速センサ、
141…アクセルセンサ

Claims (7)

  1. 気筒を有するエンジンと、
    前記気筒内に往復動可能に設けられたピストンと、
    前記ピストンの冠面と前記気筒とシリンダヘッドの下面とによって区画される燃焼室に対し、燃料を噴射する燃料噴射弁、及び水を噴射する水噴射弁と、
    前記燃料噴射弁による燃料の噴射動作及び前記水噴射弁による水の噴射動作を制御する制御装置と、を備え、
    前記燃料噴射弁によって前記燃焼室に噴射された燃料と空気との混合気を形成し、該混合気を、前記燃焼室の少なくとも中央空間で前記ピストンの圧縮動作により着火させる予混合圧縮着火式エンジンシステムであって、
    前記制御装置は、前記燃焼室の中央空間に対して着火し易い第1当量比の混合気が形成されるように前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる第1燃料噴射と、前記燃焼室の外周側空間に対して前記第1当量比よりもリッチな第2当量比の混合気が形成されるように前記燃料噴射弁に燃料を噴射させる第2燃料噴射と、該第2燃料噴射により燃料が噴射される前記燃焼室の外周側空間に対して前記水噴射弁によって水を噴射する水噴射とを実行し、
    前記水噴射は、前記第2当量比が1.0以上となるときに実行される
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
  2. 請求項1に記載された予混合圧縮着火式エンジンシステムにおいて、
    前記第2燃料噴射は、吸気行程から圧縮行程の中期にかけての期間に実行され、前記第1燃料噴射及び前記水噴射は、前記第2燃料噴射の後であって且つ圧縮工程の中期から後期にかけての期間に実行される
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
  3. 請求項1又は2に記載された予混合圧縮着火式エンジンシステムにおいて、
    前記第1当量比は、0.6以上且つ0.9以下であり、
    前記第2当量比は、1.0以上且つ1.7以下である
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載された予混合圧縮着火式エンジンシステムにおいて、
    前記制御装置は、前記エンジンの運転状態が所定の負荷よりも低い第1運転領域にあるときには前記第1燃料噴射及び前記水噴射を実行せず、前記エンジンの運転状態が前記所定の負荷よりも高い第2運転領域にあるときには前記第1燃料噴射及び前記水噴射を実行する
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載された予混合圧縮着火式エンジンシステムにおいて、
    前記制御装置は、前記ピストンが圧縮上死点に到達したときの前記燃焼室の温度を予測し、予測した温度が所定の温度以上であるときには前記水噴射を実行し、予測した温度が前記所定の温度未満であるときには前記水噴射を実行しない
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
  6. 請求項5に記載された予混合圧縮着火式エンジンシステムにおいて、
    前記所定の温度は、1000K以上の温度に設定されている
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載された予混合圧縮着火式エンジンシステムにおいて、
    前記エンジンの幾何学的圧縮比は、16以上且つ35以下に設定されている
    ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンシステム。
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