以下、予混合圧縮着火式エンジンの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、予混合圧縮着火式エンジンの一例である。図1は、予混合圧縮着火式エンジンの構成を例示する図である。図2は、燃焼室の構成を例示する断面図である。図3は、予混合圧縮着火式エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
(エンジンの全体構成)
図1は、実施形態に係る予混合圧縮着火式エンジン(以下、単にエンジン1という)の構成を示している。このエンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、1つの気筒のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときに形成される空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
燃焼室17の天井部を構成するシリンダヘッド13の下面170は、吸気側天井面171と、排気側天井面172とによって構成されている。吸気側天井面171は、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となっている。吸気側天井面171には、吸気ポート18の開口部が設けられている。排気側天井面172も、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となっている。排気側天井面172には、排気ポート19の開口部が設けられている。吸気側天井面171及び排気側天井面172は、クランクシャフト15の軸方向に延びる谷部において連結されている。燃焼室17は、ペントルーフ型の燃焼室である。尚、ペントルーフの谷部の位置は、シリンダ11のボア中心に一致する場合、及び、一致しない場合の両方があり得る。
ピストン3の上面30は、吸気側の傾斜面31及び排気側の傾斜面32によって、三角屋根状に隆起している(図2も参照)。傾斜面31は、吸気側天井面171に対応するように、ピストン3の中央に向かって登り勾配に傾斜している。傾斜面32は、排気側天井面172に対応するように、ピストン3の中央に向かって登り勾配に傾斜している。エンジン1の幾何学的圧縮比は、16以上35以下に設定されている。エンジン1の幾何学的圧縮比は高い。ピストン3の上面30には、凹状のキャビティ34が形成されている。キャビティ34は、ピストン3の中央に形成されている。
図1には1つのみ示すが、エンジン1には、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成されている。吸気ポート18は燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、吸気通路181に接続されている。吸気通路181には吸気流量を調節するスロットル弁41(図3参照)が介設されている。
吸気ポート18と同様に、エンジン1には、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成されている。排気ポート19は燃焼室17に連通している。排気ポート19は、排気通路191に接続されている。排気通路191には、図示を省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバータは、三元触媒を含む。但し、触媒は、三元触媒に限定されない。
図示しないが、エンジン1は、吸気通路181にコンプレッサが介設している過給機付きエンジンであってもよい。過給機は、排気エネルギによって駆動するターボ過給機、及び、エンジン1によって駆動される機械式過給機のいずれであってもよい。また、エンジン1は、自然吸気エンジンとして構成してもよい。
シリンダヘッド13には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を燃焼室17に対して開閉する。吸気弁21は吸気動弁機構23によって、所定のタイミングで往復動する。吸気動弁機構23は、この例では、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)を、少なくとも含んで構成されている。
シリンダヘッド13には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を燃焼室17に対して開閉する。排気弁22は排気動弁機構24によって、所定のタイミングで往復動する。排気動弁機構24は、この例では、液圧式又は電動式のVVTを、少なくとも含んで構成されている。
シリンダヘッド13には、燃焼室17内に燃料を直接噴射するインジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、吸気側天井面171と排気側天井面172とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。この構成例では、インジェクタ6は、図2に示すように、その噴射軸心Sが、シリンダ11の軸心に沿うように配設されている。噴射軸心Sは、シリンダ11の軸線と一致する場合、及び、シリンダ11の軸線からずれる場合の両方がある。インジェクタ6は、ピストン3のキャビティ34に対向している。インジェクタ6は、キャビティ34に向かって燃料を噴射する。
インジェクタ6は、例えば外開弁式のインジェクタである。外開弁式のインジェクタは、外開弁のリフト量を調整することにより、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。このことを利用して、このエンジン1は、一部の運転領域においては、キャビティ34内の中央部に混合気層を形成しかつ、その周囲に断熱ガス層を形成する。
また、外開弁式のインジェクタに限らず、VOC(Valve Covered Orifice)ノズルタイプのインジェクタも、ノズル口に発生するキャビテーションの度合いを調整することにより、噴口の有効断面積を変更して、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。従って、外開弁式のインジェクタと同様に、キャビティ34内の中央部に混合気層を形成しかつ、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。
また、ヒータによって所定の温度まで加熱した燃料を、高圧雰囲気の燃焼室17内に噴射することにより、燃料を超臨界状態とすることによっても、キャビティ34内の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。この技術は、燃焼室17内に噴射した燃料を瞬時に気化させることによって燃料噴霧のペネトレーションが低くなって燃料の噴霧の到達距離が短くなり、キャビティ34内におけるインジェクタの近傍に、混合気層を形成するものである。尚、インジェクタは、例えば複数の噴口を有するマルチホールタイプのインジェクタにおいて、燃料を加熱するヒータを備えて構成される。また、燃料を超臨界状態とするインジェクタは、前記の構成以外のインジェクタであってもよい。
これらのインジェクタの構成は、公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
尚、インジェクタ6は、キャビティ34内の中央部に混合気層を形成しかつ、その周囲に断熱ガス層を形成する構成に限らない。インジェクタ6は、どのような構成であってもよい。
図3に示すように、エンジン1はまた、既燃ガスをシリンダ11内に再導入するよう構成されたEGRシステム43を備えている。EGRシステム43は、エンジン1の排気通路191と吸気通路181とをつなぐEGR通路を介して既燃ガスをシリンダ11内に再導入する外部EGRシステム、及び、シリンダ11内の既燃ガスの一部を、実質的にシリンダ11内に留める内部EGRシステムの両方を含む。
尚、エンジン1は、着火アシスト用の点火プラグを備えていてもよい。
予混合圧縮着火式エンジンの制御装置は、エンジン1の運転を制御するECU100を備えている。ECU100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。ECU100は、コントローラーの一例である。
ECU100は、少なくとも、エアフローセンサ51からの吸気流量に関する信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ52からのアクセル開度信号、車速センサ53からの車速信号、クランク角センサ54からのクランク角パルス信号、水温センサ55からのエンジン1の冷却水の温度信号、外気温センサ56からの外気の温度信号をそれぞれ受ける。そして、ECU100は、これらの信号に基づいて、要求トルクの演算や、エンジン1の負荷の予測等を行う。尚、過給機付きエンジンにおいては、制御装置は、過給圧を検出する過給圧センサをさらに備え、ECU100は、過給圧センサからの過給圧に関する信号を受ける。
ECU100は、演算した要求トルク等に基づいて、スロットル開度信号、燃料噴射パルス、バルブ位相角信号等といった、エンジン1の制御パラメータを計算する。そして、ECU100は、それらの信号を、スロットル弁41、インジェクタ6、EGRシステム43、吸気動弁機構23及び排気動弁機構24等に出力する。
このエンジン1は、前述したように、幾何学的圧縮比εを16以上に設定している。幾何学的圧縮比は、40以下とすればよく、特に18以上35以下が好ましい。圧縮比が高いほど膨張比も高くなるため、エンジン1は、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジンでもある。このエンジン1は、基本的には全運転領域でシリンダ11内に噴射した燃料を圧縮着火により燃焼させるよう構成されている。圧縮着火燃焼は、言い換えると、CAI(Controlled Auto Ignition)燃焼である。高い幾何学的圧縮比によって、圧縮着火燃焼は、安定化する。
図2に示すように、エンジン1は、幾何学的圧縮比を高くするために、ピストン3の上面30におけるフラット面(つまり、傾斜面31、32とは別に、ピストン3の外周縁部に設けられている面)が、ピストン3が圧縮上死点付近にあるときに、シリンダヘッド13とシリンダブロック12との合わせ面よりも、シリンダヘッド13の側に入り込むように構成されている。このエンジン1の燃焼室17は、実質的には、ピストン3の上面30と、シリンダヘッド13の下面170と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成される。尚、エンジン1の燃焼室17の構成は、この構成に限定されない。このエンジン1では、燃焼室17を区画する区画面に遮熱層173を設けている。遮熱層173は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。
遮熱層173は、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低い。ここでいう母材は、例えばピストン3であればアルミニウム又はアルミニウム合金である。遮熱層173は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、燃焼室17を区画する面を通じて放出されることを抑制する。また、遮熱層173は、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層173の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化することが好ましい。こうすることで、燃焼ガスの温度と区画面の温度との差が小さくなるから、熱が、区画面を通じて母材に伝わることが抑制される。
遮熱層173は、中空粒子(例えばガラスバルーン)と、バインダとしてのシリコン樹脂と、を含有する遮熱材料を、区画面上に塗布し、加熱処理によって樹脂を硬化させることにより形成してもよい。遮熱層173はまた、区画面上に、ZrO2等のセラミック材料を、プラズマ溶射によってコーティングすることにより、形成してもよい。
(エンジンの運転制御)
図4Aは、エンジン1の運転領域を例示している。エンジン1の運転領域は、低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)の3つに分けられている。低負荷領域(A)は、低回転低負荷の領域である。中負荷領域(B)は、低負荷領域(A)よりも負荷が高い領域、及び、低負荷領域(A)よりも回転数が高い領域を含んでいる。高負荷領域(C)は、中負荷領域(B)よりも負荷の高い領域、及び、中負荷領域(B)よりも負荷が高い領域を含んでいる。
ECU100は、前述したように、スロットル弁41、吸気動弁機構23、排気動弁機構24、及び、EGRシステム43に対し、エンジン1の運転状態に応じた信号を出力する。これによって、燃焼室17の中のガス状態が、エンジン1の運転状態に応じて調整される。尚、EGRシステム43は、エンジン1の運転領域の全域において、燃焼室17の中に排気ガスを導入する。EGR率(つまり、燃焼室17内の全ガスに対する排気ガスの質量比)は、後述の通り、50%以上に設定される場合がある。
ECU100はまた、低負荷領域(A)、中負荷領域(B)及び高負荷領域(C)のそれぞれにおいて、燃焼室17内への燃料噴射の形態を異ならせる。
(低負荷領域(A)の燃料噴射形態)
エンジン1は、低負荷領域(A)において、燃焼時に、燃焼室17内にガス層による断熱層を形成する。燃焼室17の遮熱構造に加えて、断熱層を形成することによって、エンジン1の冷却損失は、大幅に低減する。
具体的に、ECU100は、低負荷領域(A)において、圧縮行程以降にインジェクタ6からキャビティ34内に燃料を噴射させる。図2に示すように、インジェクタ6の近傍の、キャビティ34内の中心部に混合気層を形成しかつ、その周囲に新気を含むガス層を形成するという、成層化が行われる。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(つまり、EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっていても問題はない。ガス層は混合気層よりも燃料が希薄であればよい。
燃焼室17内にガス層と混合気層とが形成された状態で、混合気が圧縮着火燃焼をすれば、混合気層と燃焼室17の区画壁との間のガス層により、火炎がシリンダ11の壁面に接触することが抑制される。また、ガス層が断熱層となるため、燃焼室17の区画壁からの放熱が抑制される。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、熱効率を大幅に向上させている。
このような混合気層とガス層とを燃焼室17内に形成するために、燃料を噴射するタイミングにおいては、燃焼室17内のガス流動は弱いことが望ましい。そのため、吸気ポート18は、燃焼室17内でスワールが生じない、又は、生じ難いようなストレート形状を有していると共に、タンブル流もできるだけ弱くなるように、構成されている。
(高負荷領域(C)の燃料噴射形態)
エンジン1の負荷が高くなると、燃焼室17内に供給する燃料量が増えることに伴い、圧縮着火時の圧力変動が激しくなって、燃焼騒音が増大してしまうという不都合がある。例えば、吸気温度を低下させたり、EGR率を高めたりする方策によって、緩慢な燃焼を実現し、燃焼騒音を抑制しようとすると、燃焼安定性が低下してしまうという新たな問題が生じる。
そこで、このエンジン1は、高負荷領域(C)では、燃焼騒音の抑制と燃焼安定性の維持とが両立するよう、前述した低負荷領域(A)とは異なる燃料噴射態様を採用している。
図5は、混合気の当量比と、当該混合気の着火時期との関係を示している。図5における2本のラインの内、一方は、EGR率が50%のとき、他方は、EGR率がそれよりも高い55%のときのラインである。EGR率の相違は、圧縮前のシリンダ11内の温度の相違であり、EGR率55%の方が、EGR率50%よりも温度が高い。従って、EGR率55%の方が、EGR率50%よりも、着火性に有利になる。つまり、EGR率55%の方が、EGR率50%よりも、着火時期が進角する。
図5によると、EGR率の高低に関わらず、混合気の当量比が1以下のときには、当量比が小さくなるほど、着火時期が遅くなる。つまり、混合気が希薄になって、燃焼室17内の燃料量が少なくなるほど、混合気が燃えにくくなる。
混合気の当量比が1を超えると、EGR率の高低に関わらず、当量比が大きくなるほど着火時期が遅くなる。これは、燃焼室17内に噴射される燃料量が増えると、燃料の潜熱及び顕熱によって、燃焼室17内の温度が局所的に低下してしまうためである。つまり、当量比の高い混合気は、周囲の温度が低下することによって着火がしにくくなる。
EGR率の高低に関わらず、混合気の当量比が0.6〜0.9の範囲にあるときに、着火時期が最も進角する。つまり、混合気の着火性が最も高まる。
混合気の当量比が相違すると、その混合気の着火性(つまり、着火時期)が相違する。このエンジン1では、この点に着目し、高負荷領域(C)において分割噴射を行うことにより、燃焼室17内に、当量比が異なる混合気によって構成される複数の混合気ゾーンを形成する。そして、複数の混合気ゾーンの混合気の着火時期をずらす。つまり、このエンジン1は、燃焼室17内を空間的に複数のゾーンに分割しかつ、複数のゾーンの混合気を、時間をずらして圧縮着火燃焼させることによって、圧縮上死点付近において安定的に着火させながら、緩慢な燃焼を実現する。その結果、このエンジン1では、高負荷領域(C)において、燃焼騒音の抑制と、燃焼安定性の確保とが両立する。尚、高負荷領域(C)において、EGR率は50%以上に設定される。
図6の右図は、高負荷領域(C)において、インジェクタ6が燃焼室17内に燃料を噴射する時期と、その噴射量とを例示している。図6の右図は、上から下に向かってクランク角が進む(つまり、時間が進む)。燃料噴射量は、図6の右図における四角の面積によって示され、面積が大きいほど燃料噴射量が多い。図6の左図は、各燃料噴射により燃焼室17内に形成される混合気の状態を、概念的に示している。
インジェクタ6は、ECU100からの信号を受けて、吸気行程中に、燃焼室17内に燃料噴射を行う。吸気行程噴射61は、吸気行程における後半に行ってもよい。吸気行程の後半は、吸気行程を前半と後半とに二等分したときの後半である。吸気行程噴射61はまた、吸気行程における後期に行ってもよい。吸気行程の後期は、吸気行程を前期、中期及び後期に三等分したときの後期である。吸気行程噴射61の噴射量は、比較的多い。この吸気行程噴射61によって、希薄かつ、均質又はほぼ均質な混合気が、燃焼室17内の全体に形成される。混合気の当量比は、0.4〜0.6になる(図6の(1)参照)。
次いで、インジェクタ6は、ECU100からの信号を受けて、圧縮行程における中期に燃料噴射を行う。以下、この燃料噴射を圧縮行程中期噴射62という。圧縮行程中期噴射62は、第2燃料噴射の一例である。圧縮行程における中期は、圧縮行程を、前期、中期、及び後期の三等分したときの、中期に相当する。圧縮行程中期噴射62の噴射量は、吸気行程噴射61の噴射量よりも少ないが、絶対量は比較的多い。圧縮行程中期噴射62により噴射された燃料は、燃焼室17内の圧力が比較的低いと共に、ピストン3が比較的下方に位置している。また、噴射量が比較的多いため、ペネトレーションが高まるから、キャビティ34の外周囲に到達する。吸気行程噴射61によって噴射された燃料と、圧縮行程中期噴射62によって噴射された燃料とが合わさって、キャビティ34の外周囲に、過濃な混合気が形成される。この過濃な混合気を含む領域を、以下、「過濃ゾーン」と呼ぶ場合がある。過濃ゾーンの混合気の当量比は、1.0〜1.7に設定される(図6の(2)参照)。当量比が高いため、過濃ゾーンの混合気の着火性は低下する。
最後に、インジェクタ6は、ECU100からの信号を受けて、圧縮行程における後期に、より正確には、圧縮上死点付近において、燃焼室17内に燃料噴射を行う。以下、この燃料噴射を圧縮上死点噴射63という。圧縮上死点噴射63は、第1燃料噴射の一例である。圧縮行程における後期は、圧縮行程を、前期、中期、及び後期の三等分したときの、後期に相当する。圧縮上死点噴射63の噴射量は、圧縮行程中期噴射62の噴射量よりも少ない。この圧縮上死点噴射63によって噴射された燃料は、噴射量が少ない上に、燃焼室17内の圧力が高くかつ、ピストン3が上方に位置しているから、キャビティ34の中に留まる。キャビティ34の中に形成される混合気は、吸気行程噴射61によって噴射された燃料と、圧縮上死点噴射63によって噴射された燃料とが合わさって、所定の当量比の混合気になる。この混合気の当量比は、0.6〜0.9に設定される。つまり、図5を参照しながら説明したように、混合気の着火性が最も高まる当量比である。従って、ピストン3が圧縮上死点に到達した後、キャビティ34の中の混合気が先ず、圧縮着火する。以下、当量比が0.6〜0.9に設定された混合気を含む領域を、「着火ゾーン」と呼ぶ場合がある。
図6の(3)に示すように、着火ゾーンと過濃ゾーンとの間には、これら着火ゾーン及び過濃ゾーンよりも当量比が低い混合気(つまり、当量比0.4〜0.6)を含む領域が形成される。この混合気は、吸気行程噴射61によって形成される混合気である。以下、当量比の低い混合気を含む領域を、「希薄ゾーン」と呼ぶ場合がある。当量比が低いため、希薄ゾーンの混合気の着火性は低下する。
こうして、燃焼室17の中に中央から外側に向かって、着火ゾーン、希薄ゾーン及び過濃ゾーンの3つのゾーンが形成される。各ゾーンの当量比は、互いに相違する。燃焼室17の全体について、混合気の平均当量比は1である。これにより、三元触媒によって、排気ガスを浄化することが可能になる。吸気行程噴射61、圧縮行程中期噴射62、及び圧縮上死点噴射63の噴射量の比率は、例えば、0.55:0.42:0.03に設定される。
図7は、図6に示す状態の混合気が圧縮着火燃焼をするときの、熱発生率の変化71(上図)、燃焼騒音の指標としてのdP/dθの変化72(中図)、及び、シリンダ11内の圧力の変化73(下図)を示している。前述したように、ピストン3が圧縮上死点に到達して、燃焼室17の温度及び圧力が高くなると、燃焼室17の中の中央に位置する、最も着火性が高い着火ゾーンの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。図7の上図に示すように、熱発生率が次第に高まるが、着火ゾーンの混合気の量は、比較的少なくかつ、着火ゾーンに含まれる燃料量は、燃焼室17内に供給される燃料量の一部に過ぎないため、燃焼室17内の圧力が、燃焼によって急激に立ち上がることが防止される(図7の下図参照)。その結果、dP/dθは、図7の中図に破線で示す燃焼騒音の許容値を超えない。
着火ゾーンの混合気の燃焼が開始することに伴い、燃焼室17内の温度及び圧力が高まる。その結果、キャビティ34の外周囲に位置する、二番目に着火性が高い過濃ゾーンが圧縮着火し、燃焼を開始する。
最後に、希薄ゾーンが圧縮着火し、燃焼を開始する。希薄ゾーンは、混合気の体積が最も大きいため、図7の上図に示すように、熱発生率が高くなるが、図7の下図に示すように、希薄ゾーンは、膨張行程が進行してから燃焼するため、燃焼に伴う圧力上昇が急峻になることが防止される。その結果、図7の上図又は中図に示すように、dP/dθは、燃焼騒音の許容値を超えない。着火ゾーン、過濃ゾーン、及び希薄ゾーンの混合気の燃焼に伴う熱発生率の変化は、図7の上図における太い破線で示される。熱発生率の変化の波形は、燃焼騒音を回避する上での理想的な波形に近づく。
こうして、混合気の当量比が相違する、着火ゾーン、希薄ゾーン及び過濃ゾーンの3つのゾーンを燃焼室17の中に形成することによって、高負荷領域(C)において、着火性を確保しつつ、燃焼を緩慢化することが可能になる。その結果、このエンジン1は、高負荷領域(C)において、燃焼騒音の抑制と、燃焼安定性の維持とを両立することができる。
図6に示す燃料噴射形態は、燃焼室17内に噴射する燃料量が多いときに、特に有利になる。つまり、圧縮行程中期噴射62の噴射量を多くすることによって、ペネトレーションが高まって燃料の噴霧の到達距離が長くなり、インジェクタ6から離れたキャビティ34の外周囲にまで、燃料の噴霧が到達するようになる。また、キャビティ34の外周囲に存在する多量の空気を燃焼に利用することが可能になる。よって、過濃ゾーンの当量比が高くなり過ぎることを回避しつつ、燃焼室17の中に供給する燃料量を増やすことが可能になる。
また、図6に示す燃料噴射態様では、圧縮上死点噴射63によって当量比が0.6〜0.9の混合気を形成するため、噴射量が比較的少ない。圧縮上死点噴射63の噴射期間は短いため、噴射終了から着火までの時間が長くなる。このため、圧縮上死点噴射63によって燃焼室17の中に噴射された燃料が気化する時間、及び、空気と混合する時間を十分に確保することができる。このことは、例えばスモークの発生といった不具合を防止して、排気ガスの性状が悪化してしまうことが回避される。これは、エンジン1の回転数が高くなって、クランク角度が同一角度だけ変化するときの時間が、相対的に短くなるときにおいても、同様である。図6に示す燃料噴射形態は、エンジン1の回転数が高いときに、排気ガスの性状が悪化してしまうことを回避する上でも有利である。
(中負荷領域(B)の燃料噴射形態)
前述したように、高負荷領域(C)においては、過濃ゾーンを、キャビティ34の外周囲に形成している。燃焼室17の壁面近くの過濃ゾーンが燃焼をすると、冷却損失が増大しやすい。また、過濃ゾーンが燃焼するときに空気が不足して、スモークの発生を招く恐れがある。さらに、過濃ゾーンを形成するための燃料噴射を、圧縮行程の中期に行うため、過濃ゾーンの混合気は、燃焼室17内において、高温及び高圧の雰囲気に曝される時間が長くなる。これは、異常燃焼(例えば過早着火)を招く恐れがある。
中負荷領域(B)では、燃焼室17の中に供給する燃料量が相対的に少なくなる。そこで、このエンジン1では、中負荷領域(B)において、前述した問題を回避すべく、低負荷領域(A)及び高負荷領域(C)とは異なる燃料噴射態様を採用している。
図8は、中負荷領域(B)において、インジェクタ6が燃焼室17内に燃料を噴射する時期とその噴射量とを例示している(図8の右図)。図8に示す燃料の噴射態様と、図6に示す燃料の噴射態様とは、エンジン1の負荷が同じである。また、図8の左図は、各燃料噴射により燃焼室17内に形成される混合気の状態を、概念的に示している。
インジェクタ6は、ECU100からの信号を受けて、吸気行程中に、燃焼室17内に燃料噴射を行う。燃料噴射は、吸気行程における後半に行ってもよい。燃料噴射量は、比較的多い。この吸気行程噴射81によって、希薄かつ、均質又はほぼ均質な混合気が、燃焼室17内の全体に形成される。混合気の当量比は、0.4〜0.6になる(図8の(1)参照)。この吸気行程噴射81は、図6に示す吸気行程噴射61と実質的に同じである。
次いで、インジェクタ6は、ECU100からの信号を受けて、圧縮行程における後期に燃料噴射を行う。以下、この燃料噴射を圧縮行程後期噴射82という。圧縮行程後期噴射82の噴射量は、吸気行程噴射81よりも少なくかつ、後述の圧縮上死点噴射83よりも少ない。圧縮行程後期噴射82により噴射された燃料は、ピストン3が圧縮上死点に近づいているため、燃焼室17内の圧力が高く、燃焼室17の外周部にまで到達し難くなる。吸気行程噴射81によって噴射された燃料と、圧縮行程後期噴射82によって噴射された燃料とが合わさって、燃焼室17の外周部を除く中央部に、当量比0.6〜0.9の混合気を含む着火ゾーンが形成される。
最後に、インジェクタ6は、ECU100からの信号を受けて、圧縮上死点噴射83を行う。圧縮上死点噴射83の噴射量は、吸気行程噴射81よりも少なくかつ、圧縮行程後期噴射82よりも多い。この圧縮上死点噴射83によって噴射された燃料は、燃焼室17内の圧力が高いと共に、ピストン3が上方に位置しているから、キャビティ34の中に留まる。キャビティ34の中に形成される混合気は、吸気行程噴射81によって噴射された燃料と、圧縮行程後期噴射82によって噴射された燃料と、圧縮上死点噴射83によって噴射された燃料とが合わさって、過濃な混合気が形成される。つまり、当量比が1.0〜1.7の過濃な混合気を含む過濃ゾーンが、燃焼室17の中の中央に形成される。
そして、図8の(3)に示すように、着火ゾーンよりも外側に、当量比が0.4〜0.6の混合気を含む希薄ゾーンが形成される。
こうして、燃焼室17の中に中央から外側に向かって、過濃ゾーン、着火ゾーン及び希薄ゾーンの3つのゾーンが形成される。各ゾーンの当量比は、互いに相違する。燃焼室17の全体について、混合気の平均当量比は1である。吸気行程噴射81、圧縮行程後期噴射82、及び圧縮上死点噴射83の噴射量の比率は、例えば、0.55:0.14:0.31に設定される。
着火ゾーン、希薄ゾーン及び過濃ゾーンを含む、図8に示す混合気が圧縮着火燃焼をするときには、先ず、着火ゾーンの混合気が圧縮着火し、燃焼を開始する。その後、過濃ゾーンの混合気が圧縮着火し、最後に、希薄ゾーンの混合気が圧縮着火する。中負荷領域(B)においても、着火性を確保しつつ、燃焼を緩慢化することが可能になる。その結果、このエンジン1は、中負荷領域(B)において、燃焼騒音の抑制と、燃焼安定性の維持とを両立することができる。
図8に示す状態の混合気は、燃焼室17の外周囲に希薄ゾーンを形成するため、図6に示す状態の混合気と比較して、過濃な混合気が燃焼したときの燃焼ガスが燃焼室17の壁面に接触してしまうことを抑制することが可能になる。これにより、冷却損失が低減する。また、燃焼時点において、燃焼室17の外周囲は、燃焼室17の中央部よりも燃焼室壁面が接近するため(燃焼室17の外周囲は、燃焼室17の中央部に対して、燃焼室壁面であるシリンダヘッド13の下面170とピストン3の上面30がより近接するため)、燃焼室17の外周囲の燃焼ガス温は低下(燃焼室壁面に放熱)し易くなり、燃焼ガス温が低くなることでの未燃損が増加する傾向にあるものの、燃焼室17の中央から外側に向かって、混合気の燃料濃度が次第に薄くなるため(燃焼室17の外周囲では混合気に占める燃料量が少なくなるため)、未燃の燃料が少なくなる。このように、冷却損失の低減と、未燃損失の減少とによって、図8に示す状態の混合気は、図6に示す状態の混合気よりも燃費性能の向上に有利になる。
また、図8に示す燃料噴射形態は、過濃ゾーンを形成する燃料噴射を圧縮上死点付近において行うため、過濃な混合気が、燃焼室17内の高温及び高圧雰囲気に曝される時間を短くすることができる。従って、図8に示す燃料噴射形態は、図6に示す燃料噴射形態よりも、異常燃焼に対するロバスト性が高い。図8に示す燃料噴射形態は、例えば、外気温度が高いことに起因して異常燃焼が生じ易いときに、異常燃焼を回避する上で有効である。
(燃料噴射制御)
図9は、ECU100が実行する燃料噴射制御に係るフローチャートである。スタート後のステップS1で、ECU100は、各センサからの信号に基づいて、エンジン1の運転状態を検出する。具体的には、エンジン1の回転数、エンジン1の負荷、吸気温度、EGR率等を検出する。エンジン1が過給機付きエンジンであるときには、過給圧も検出する。
続くステップS2で、ECU100は、エンジン1の運転状態に基づいて、燃焼騒音が許容値以下になると予想されるか否かを判定する。燃焼騒音が許容値以下になるときには、フローはステップS3に進み、ECU100は、第1の噴射制御を実行する。第1の噴射制御は、図4Aにおける低負荷領域(A)の燃料噴射制御に相当する。
ステップS2で、燃焼騒音が許容値以下にならないと判定したときには、フローはステップS4に進む。ステップS4で、ECU100は、燃料の混合時間を確保することが可能か否かを判定する。例えばエンジン1の回転数が高いときには、1サイクル当たりの時間が短いため、燃料の混合時間を確保することができなくなる場合がある。また、エンジン1の負荷が高くて燃料噴射量が増えるときにも、燃料の噴射期間が長くなるため、燃料の混合時間を確保することができなくなる。ステップS4の判定がYESのときには、フローはステップS5に進む。一方、ステップS4の判定がNOのときには、フローはステップS8に進む。
ECU100は、ステップS5〜S7において、図8に示す燃料噴射態様に対応する第2の燃料噴射を実行する。第2の噴射制御は、図4Aにおける中負荷領域(B)の燃料噴射制御に相当する。
ステップS5でECU100は、インジェクタ6に信号を出力し、インジェクタ6は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射81)を実行する。続くステップS6で、ECU100は、インジェクタ6に信号を出力し、インジェクタ6は、圧縮行程後期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程後期噴射82)を実行する。そして、ステップS7で、ECU100は、インジェクタ6に信号を出力し、インジェクタ6は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射83)を実行する。ステップS5〜S7の3回の燃料噴射によって、図8の(3)に示すような混合気が燃焼室17内に形成され、圧縮上死点以降に圧縮着火燃焼をする。
ステップS8で、ECU100は、過早着火リスクが所定値以下であるか否かを判定する。例えば外気温センサ56の検出値に基づいて、外気温が所定温度以上のときに、ECU100は、過早着火リスクが所定値を超えると判定する。ステップS8の判定がNOのとき(言い換えると、外気温が高いとき)には、フローは、ステップS5に進む。過早着火リスクが高いときには、図8に示す燃料噴射態様が採用される。前述したように、図8に示す燃料噴射形態は、図6に示す燃料噴射形態よりも、異常燃焼に対するロバスト性が高い。従って、図8に示す燃料噴射形態を採用することによって、エンジン1は、過早着火リスクが高いときに、異常燃焼を回避することができる。このことは、外気温が高いときには、図4Bに矢印で示すように、図8に示す燃料噴射を行う中負荷領域(B)を、高負荷側及び高回転側に拡大することと同じ意味である。つまり、ECU100は、中負荷領域(B)と高負荷領域(C)との境界を、外気温が高いときには、高負荷側にシフトすると共に、高回転側にシフトする。
一方、ステップS8の判定がYESのとき(言い換えると、外気温が高くないとき)には、フローは、ステップS9に進む。ECU100は、ステップS9〜S11において、図6に示す燃料噴射態様に対応する第3の燃料噴射を実行する。第3の噴射制御は、図4Aにおける高負荷領域(C)の燃料噴射制御に相当する。
ステップS9でECU100は、インジェクタ6に信号を出力し、インジェクタ6は、吸気行程において、1回目の燃料噴射(つまり、吸気行程噴射61)を実行する。続くステップS10で、ECU100は、インジェクタ6に信号を出力し、インジェクタ6は、圧縮行程中期において、2回目の燃料噴射(つまり、圧縮行程中期噴射62)を実行する。そして、ステップS11で、ECU100は、インジェクタ6に信号を出力し、インジェクタ6は、圧縮上死点付近において、3回目の燃料噴射(つまり、圧縮上死点噴射63)を実行する。ステップS9〜S11の3回の燃料噴射によって、図6の(3)に示すような混合気が燃焼室17内に形成され、圧縮上死点以降に圧縮着火燃焼をする。
(燃焼室形状)
前述したように、高負荷領域(C)においては、キャビティ34の中に着火ゾーンを形成する。そして、着火ゾーンの混合気が圧縮着火燃焼するによって高まる燃焼室17内の温度及び圧力に起因して、過濃ゾーン及び希薄ゾーンが圧縮着火をする。ここで、着火ゾーンの混合気の燃焼エネルギが小さすぎると、過濃ゾーン及び希薄ゾーンの混合気に影響を及ぼすことができず、過濃ゾーン及び希薄ゾーンの混合気が圧縮着火に至らない恐れがある。着火ゾーンの混合気の燃焼エネルギを十分に確保するために、キャビティ34は、ある程度の大きさにする必要がある。一方、キャビティ34が大きすぎると、着火ゾーンの混合気の燃焼の質量燃焼割合が大きすぎて、燃焼室17内の圧力変化が急峻になり、燃焼騒音が増大してしまうことになる。このような観点から、このエンジン1のキャビティ34は、所定の大きさに形成されている。
図10は、ピストン3が上死点に位置しているときの燃焼室17の形状を示す縦断面図である。キャビティ34の大きさは、ピストン3が上死点に位置しているときの、燃焼室17の全容積に対する、キャビティ容積9の比率で定義する。ここで、キャビティ容積9は、ピストン3が上死点に位置しているときに、キャビティ34の開口341をシリンダヘッド13の下面170に投影した投影面93からキャビティ34の開口341までの容積91と、キャビティ34の凹部の容積92とを足し合わせた容積である。
図11は、着火ゾーンが燃焼したときの質量燃焼割合と、全ゾーン(つまり、着火ゾーン、過濃ゾーン及び希薄ゾーン)の燃焼効率との関係を示している。図11は、EGR率を50%から65%まで変化させている。これは、燃焼室17内の温度を変えていることと同じである。着火ゾーンの質量燃焼割合が小さいと、EGR率が50%のときは、EGR率が55%のときよりも、燃焼効率は低くなる。EGR率が55%以上になれば、着火ゾーンの質量燃焼割合と、全ゾーンの燃焼効率との関係は、全て同じ、又は、ほぼ同じになる。
図11によると、着火ゾーンの質量燃焼割合と、全ゾーンの燃焼効率との関係は右上がりであり、着火ゾーンの質量燃焼割合が小さいと、全ゾーンの燃焼効率が低くなり、着火ゾーンの質量燃焼割合が大きいと、全ゾーンの燃焼効率が高くなる。前述したように、着火ゾーンの混合気の燃焼エネルギが小さいと、過濃ゾーン及び希薄ゾーンの混合気への影響が小さくなって、全ゾーンの燃焼効率が低くなる。
一般的に、燃焼室17内の燃焼効率が80%以上であれば、燃焼安定性が確保されていると言うことができる。そこで、80%の燃焼効率を基準にすると、着火ゾーンの質量燃焼割合は、最低25%が必要になる。
図12は、横軸を、キャビティ径とボア径との比(つまり、キャビティ径/ボア径)とし、縦軸を燃焼効率、及び、燃焼期間としたグラフを示している。キャビティ径/ボア径は、着火ゾーンの質量燃焼割合に比例する。従って、キャビティ径/ボア径と、全ゾーンの燃焼効率との関係は右上がりになる。前述したように、80%の燃焼効率を基準にすると、キャビティ径/ボア径は、0.4以上が必要である。
一方、キャビティ径が大きすぎると、着火ゾーンの混合気が燃焼することによる質量燃焼割合が大きくなり過ぎてしまう。その結果、燃焼期間が短くなりすぎて、燃焼騒音が許容値を超えてしまう。許容することができる燃焼騒音に基づけば、燃焼期間はクランク角で10°以上でなければならない(尚、エンジン1の回転数は、2000rpmである)。そうすると、図12に示すように、キャビティ径/ボア径は、0.6以下であることが必要になる。
図13は、横軸を、キャビティ34の容積比(つまり、ピストン3が上死点に位置しているときの、燃焼室17の全容積に対する、キャビティ容積9の比率、図10参照)とし、縦軸を燃焼効率、及び、燃焼期間としたグラフを示している。前述したように、80%の燃焼効率を基準にすると、キャビティ34の容積比は、25%以上が必要である。また、許容することができる燃焼騒音に基づいて、キャビティ34の容積比は、40%以下であることが必要になる。
尚、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。