JP2018054606A - 数値解析による金属の腐食予測方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によってより高精度に予測することが可能な、数値解析による金属の腐食予測方法を提供する。【解決手段】本発明は、電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によって予測する方法であって、電解質溶液中における金属表面の電位Eと電流密度iとの関係である分極曲線を測定する工程と、前記分極曲線における前記電流密度の値を小さくした補正分極曲線を得る工程と、前記補正分極曲線を境界条件として、前記金属と前記電解質溶液とが接触した系における所定時刻での前記電解質溶液中の電位分布を数値計算により求める工程と、を有することを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、広く産業分野で使用されている金属材料の腐食を数値解析によって予測する方法に関する。本発明は、具体的には、構造物の品質及び性能寿命を予測するために、数値解析(数値シミュレーション)を用いて腐食媒体である電解質溶液中の電位分布や電流密度分布を計算して、金属の耐食性を予測する腐食評価に関連する技術である。
従来、金属材料の耐食性評価は、腐食促進試験や大気暴露試験、あるいは電気化学測定によって行われる。例えば鉄鋼材料の耐食性を評価する場合、塩水噴霧試験(SST:Salt Spray Test)や、これに湿潤や乾燥の雰囲気条件を組み合わせる複合サイクル試験(CCT:Combined Cyclic corrosion Test)により、試験片や実部品の腐食を促進して短期間で耐食性の優劣を判断することが行われる。一方、このような腐食促進試験が、実際に鉄鋼材料が使用される環境に比べて厳しい腐食環境であることから、実使用環境における腐食形態や種類の異なる鉄鋼材料の耐食性の序列を再現しない場合がある。そのため、試験片を屋外や屋内に設置して、実使用に近い環境の中で腐食させることで、耐食性を評価する大気暴露試験も広く行われている。しかし、暴露試験は耐食性の優劣を判断するまでに長期間を有するため、耐食性の早期判断が求められる耐食材料の開発には適していない。
これに対して、近年のコンピュータ技術の発展と計算高速化に伴い、コンピューターシミュレーションにより腐食現象を予測する試みが活発に行われている。数値解析により金属の腐食を予測することができれば、実験では解析困難な腐食原因や腐食機構の解析や、金属の耐食性を短時間で評価することができる可能性がある。
特許文献1および特許文献2は、腐食媒体内にある金属を電気的に接続された複数の解析セグメントからなる連続体とみなして、当該金属の分極特性を決定する、腐食環境の数値解析方法を開示する。この方法は、モデル中の腐食媒体をラプラス方程式に従うラプラス場とみなして数値解析を行い、対象構造物である金属の電位分布および電流の流出入を計算することで、腐食に対する駆動力や腐食速度を推定する方法である。
また非特許文献1では、海水ポンプの腐食を境界要素法により解析する技術が報告されている。ここでは、ポンプの材料である鋳鉄(FC200)の分極曲線を境界条件としてラプラス方程式を解くことで、腐食媒体である海水中の電位分布および電流分布を求め、鋳鉄と海水との界面の電位および電流密度から鋳鉄の腐食を予測するモデルを提案している。ここで水溶液中の電気伝導度は実験から求めた値を用いている。
非特許文献2では、コンクリート中の鉄筋の腐食をシミュレーションしている。コンクリート中の塩化物や酸素などの腐食因子の物質移動を予測し、さらに、Tafel式により腐食電流密度を求めて鉄筋の腐食を予測している。このモデルでは、コンクリートを細孔とみなして溶液と同様に均一な媒体として扱うことで、拡散方程式を用いて物質移動の計算を行っている。
非特許文献3では、亜鉛めっきと下地鋼板の薄水膜下での異種金属接触腐食において、物質移動と化学反応を考慮した数値計算を行い、亜鉛および鋼の腐食を予測している。このモデルでは、亜鉛や鋼の腐食生成物の形成やその分布を微小時間毎に計算しており、境界条件として与えたアノード反応から計算される溶出金属イオンが、物質移動の計算による化学種と反応し、金属酸化物や水酸化物を形成する沈殿反応を、平衡定数を用いる平衡計算により予測しており、これにより種々の腐食生成物の分布と量を予測している。
特開2008−249562号公報 特開2008−32421号広報
エバラ時報 No.223(2009−3)37−45 コンクリート工学年次論文集,Vol.24,No.1,(2002)831−836 材料と環境,Vol.61,(2012),376−383
腐食現象のモデル化や数値解析方法には、様々な手法が考えられる。このうち広く実施されているのが、腐食媒体である電解質溶液を仮定した領域において、腐食速度に相当する電流密度や腐食反応の駆動力となる電位の分布を、物質輸送の理論式やラプラス方程式を解くことにより求める方法である。金属の腐食は、電解質溶液と金属の界面における電流の流出入や電位差によって評価される。このような方程式の解法としては、電解質溶液領域を要素化する連続体モデルとして、差分法や有限要素法などが用いられている。電解質溶液中における金属表面の電位と電流密度との関係である金属の分極特性を境界条件として与え、各要素内の電位および電流の分布、要素内や境界における物質の収支を計算する。
このような計算を行う上で、電解質溶液中の電気伝導度は、多くの場合一定として計算される。あるいは、電解質溶液全体や各要素に溶解している化学種の濃度から電気伝導度を計算する場合もある。
実際の腐食現象では、腐食は単に金属の溶解(イオン化)として進行するばかりでなく、金属の酸化物や水酸化物が生成する、いわゆる「さび」あるいは「腐食生成物」の形成を伴う。以降、溶解した金属の析出物(酸化物、水酸化物等)を腐食生成物と呼ぶ。腐食生成物は金属の腐食速度に大きな影響を及ぼす。例えば、電解質溶液中で活性な亜鉛が、大気環境において優れた耐食性を発揮するのは、亜鉛の腐食生成物が表面を覆うことで金属亜鉛の腐食速度を減少させるためである。
特許文献1および特許文献2では、モデル中の腐食媒体をラプラス方程式に従うラプラス場とみなして解析しており、媒質として土壌を例にして電気的物性値を比抵抗5000Ω・cmとして与えている。この発明において媒質が水溶液の場合には、水溶液の電気伝導度が与えられれば、水溶液中における腐食分極特性を評価することができる。しかし、ここで与えられている電気的物性値は、腐食環境のみから与えられる条件であり、腐食に伴う腐食生成物形成の影響は考慮されていない。
非特許文献1および非特許文献2においても、腐食媒体を海水およびコンクリートとして、それぞれの電気伝導度を与え、ラプラス方程式や物質輸送の式を解いている。しかし、腐食生成物の形成を予測することや、それに伴う腐食媒体や腐食への影響は計算に考慮されていない。
非特許文献3は、水溶液中の亜鉛と鋼の異種金属接触腐食において、物質輸送を考慮して電位分布および電流密度分布を計算している。この文献では、腐食媒体である水溶液中におけるさまざまな種類の化学種の濃度と酸化物や水酸化物の沈殿反応の平衡定数を用いて計算を行うことで、酸化物や水酸化物の生成量と分布を予測している。しかし、腐食生成物形成による金属の水溶液との界面における電気化学特性の変化は考慮されておらず、腐食生成物存在下での金属の腐食速度を正確に見積もることはできなかった。
このように従来技術では、金属の腐食生成物が金属表面に堆積することによる腐食速度への影響を数値計算において考慮しておらず、金属の腐食を数値解析によって高精度に予測することができていなかった。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によってより高精度に予測することが可能な、数値解析による金属の腐食予測方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するべく本発明者らは、金属の腐食生成物が金属表面に堆積することによる腐食速度への影響を数値計算において考慮することに着目した。腐食生成物は絶縁性であることから、腐食生成物の形成により金属表面の溶解に必要な過電圧が大きくなることに着目して鋭意検討を重ねた。その結果、金属表面に形成する腐食生成物を考慮して、金属と電解質溶液との界面を流出入する電流密度を補正して境界条件として使用することで、実際に腐食生成物の形成を伴う場合の電位分布や電流密度分布を適切に予測することができるということに想到し、本発明を完成するに至った。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によって予測する方法であって、
電解質溶液中における金属表面の電位Eと電流密度iとの関係である分極曲線を測定する工程と、
前記分極曲線における前記電流密度の値を小さくした補正分極曲線を得る工程と、
前記補正分極曲線を境界条件として、前記金属と前記電解質溶液とが接触した系における所定時刻での前記電解質溶液中の電位分布を数値計算により求める工程と、
を有することを特徴とする数値解析による金属の腐食予測方法。
(2)前記分極曲線を、前記電流密度iを前記電位Eの関数として表わしたi=f(E)としたとき、前記補正分極曲線を、i=α×f(E),0.0010≦α<1.000とする、上記(1)に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(3)前記金属の表面上の単位領域あたりに生成する腐食生成物の生成量pを数値計算により求める工程をさらに有し、
前記分極曲線を、前記電流密度iを前記電位Eの関数として表わしたi=f(E)としたとき、前記補正分極曲線を、i=β×f(E),β=g(p)かつ0.0010≦β<1.000とする、上記(1)に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(4)前記所定時刻での前記電解質溶液中の電位分布から、前記所定時刻での前記電解質溶液中の電流密度分布を数値計算により求める工程をさらに有する、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(5)前記電解質溶液中の電流密度分布のうち、前記電解質溶液中の前記金属との界面近傍における電流密度を用いて、ファラデーの法則により、前記所定時刻での前記金属の腐食量を計算する工程をさらに有する、上記(4)に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(6)前記金属が、亜鉛、鉄、アルミ、銅、及びニッケルから選択される一種以上の金属、又は該金属を主成分とする合金である、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(7)前記腐食の形態が、二種の金属が接触し、金属間の電位差によって一方の金属の腐食が加速される異種金属接触腐食である、上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(8)前記二種の金属が、亜鉛又は亜鉛めっきと、鉄又は鋼との組み合わせである、上記(7)に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれか一項の数値解析による金属の腐食予測方法によって耐食性を予測して、材料を選定することを特徴とする鋼構造物の設計方法。
(10)上記(1)〜(8)のいずれか一項の数値解析による金属の腐食予測方法によって耐食性を予測して、防錆性能を設計することを特徴とする鉄鋼材料の設計方法。
(11)コンピュータに、上記(1)〜(8)のいずれか一項の数値解析による金属の腐食予測方法を実行させる腐食予測プログラム。
本発明の数値解析による金属の腐食予測方法によれば、金属の腐食生成物が金属表面に堆積することによる腐食速度への影響を考慮した数値計算を行うので、電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によってより高精度に予測することが可能となる。
本発明の一実施形態による、数値解析による金属の腐食予測方法のフローチャートである。 2つの金属の異種金属接触腐食の連続体モデルの一例を示す図である。 金属腐食生成物の形成を説明する図である。 実施例1で用いた、亜鉛と鉄の異種金属接触腐食のモデル形状を示す図である。 (a)は、実施例1で行った、亜鉛と鉄の異種金属接触腐食の実験の模式上面図であり、(b)は(a)のA−A’断面図である。 実施例2で行った、亜鉛と鉄の異種金属接触腐食のモデル形状を示す図である。
本発明は、電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によって予測する方法である。その一実施形態を、図1〜3を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態による、数値解析による金属の腐食予測方法のフローチャートである。図2は、このような数値解析を適用するための、金属と電解質溶液とが接触した系のモデル図であり、2つの金属A,Bが接触し電気的に短絡した状態の上に電解質溶液が存在する異種金属接触腐食のモデルの一例を示している。
図2に示すモデルでは、金属と、この金属に接触している電解質溶液の薄膜を、これらの断面において2次元の格子状の領域(以下、「セル」という。)に区切り、境界要素法や有限要素法などを用いて各セル中の電位、電流密度、化学種の濃度などを計算して、腐食量や化合物の沈殿反応を予測する。あるいは、金属及び電解質溶液の薄膜を、3次元の微小な立方体の領域に区画して、これをセルとしてもよい。なお、金属の腐食は、電解質溶液中の電位分布を求めることにより予測できるため、金属はセルに区切らず、電解質溶液のみをセルに区切ることでもよい。以下、計算手順の典型的な例を説明する。
まず、ステップS1において、金属と腐食媒体となる電解質溶液の形状を設定し、電解質溶液中の化学種の初期濃度と物性値を設定する。物性値は、化学種の物質輸送を計算するために用いる拡散係数や、イオンの電荷などである。
次に、ステップS2において、数値解析に用いる境界条件を設定する。ここで、金属と電解質溶液との界面における境界条件としては、従来、電解質溶液中における金属表面の電流密度iと電位Eの関数i=f(E)で表される分極曲線を設定していた。これに対して、本実施形態では、この分極曲線における電流密度の値を小さくした補正分極曲線を得て、これを境界条件として用いる。詳細については後述する。
次に、ステップS3において、ある時刻tでの電解質溶液中の電位分布を数値計算により求める。数値計算には、(1)式に示すラプラスの式、又は式(2)に示すNernst−Plankの式を解く。
Figure 2018054606
Figure 2018054606
ここで、Фは電位、Cx, Dx, zx, ux, Rx はそれぞれ化学種xの濃度、拡散係数、価数、移動度および反応量を表し、Fはファラデー定数を表す。
このとき、金属と電解質溶液との界面では、上記の補正分極曲線を境界条件として、電解質溶液の気相との界面、及び電解質溶液の端部では、電流の流出入がないという条件を境界条件として、数値計算を行う。
式(1)を離散化して解くことによって、ある時刻tでの各セルでの電位が算出され、すなわち、ある時刻tでの電解質溶液中の電位分布を得ることができる。なお、金属もセルに区切る場合には、当該計算により金属中の各セルの電位、すなわち金属中の電位分布も得ることができる。
また、式(2)に示す物質輸送に関するNernst−Plankの式を解くためには、電解質溶液中の各セルにおける各イオン及び分子について、(1)式を成り立たせると同時に、電気的中性条件の式を加えることで連立方程式とする。この連立方程式を解くことにより、ある時刻tでの各セルの電位に加えて、各セルのイオンや分子の濃度も計算結果として導き出される。この結果、ある時刻tでの電解質溶液中の電位分布に加えて、化学種の濃度分布を得ることができる。
次に、ステップS4において、ある時刻tでの電解質溶液中の電位分布から、当該時刻tでの電解質溶液中の電流密度分布を数値計算により求める。具体的には、式(3)のオームの法則により、各セルでの電流密度が算出され、すなわち、ある時刻tでの電解質溶液中の電流密度分布を得ることができる。ここでσは電解質溶液の電気伝導度を表す。なお、電気伝導度σは化学種の濃度の関数である。電位分布を式(2)により求める場合には、化学種の濃度分布も得られている。そのため、セルごとの化学種の濃度から求めたセルごとの電気伝導度を、式(3)に適用する。電位分布を式(1)により求める場合には、溶液中の化学種の移動は考慮せず、溶液の濃度から求めた一律な電気伝導度を各セルの電気伝導度として、式(3)に適用する。なお、金属中の電位分布が得られている場合には、式(3)によって金属中の電流密度分布も求めることができる。
Figure 2018054606
なお、ここでは典型的な電位及び電流密度の計算方法を示したが、本発明において、電解質溶液をポテンシャル場とみなして電位及び電流密度を計算によって求める方法は、これに限定されるものではない。
ステップS5では、上記で数値計算を行った時刻tが、予め設定した時刻tsetを超えているか否かを判定する。設定時刻tsetを超えていない場合には、Δtを加えてステップS3に戻り、新たな時刻tでの電解質溶液中の電位分布及び電流密度分布の計算を行う。設定時刻tsetを超えた場合には、ステップS6に進む。
ステップS6では、電解質溶液中の電流密度分布のうち、電解質溶液中の金属との界面近傍における電流密度を用いて、式(4)に示すファラデーの法則により、設定時刻tsetでの金属の腐食量を計算する。ここでnおよびzは腐食により溶解した金属(化学種)の物質量および価数であり、tは時間である。なお、金属中の電流密度分布が得られている場合には、金属中の電解質溶液との界面近傍における電流密度を用いてもよい。すなわち、金属/電解質溶液境界近傍の金属または電解質溶液の電流密度を用いればよい。ここで、「界面近傍」とは、電解質溶液と金属との境界面を出入りする電流密度と同等と見なせる電流密度が得られる範囲を意味するものとし、具体的には、前記境界面から10mm以内、さらに好適には1mm以内の電解質溶液または金属の領域とする。
Figure 2018054606
なお、実際の計算に際しては、ステップS3及びS4を繰り返したことにより、種々の時刻において、電解質溶液中の金属との界面近傍における電流密度が求まっているので、式(4)を用いて微小時間毎に腐食量を求めて、これを積算することにより、所定時間経過後の腐食量と、金属表面内での腐食量の分布を得ることができる。
最後に、ステップS7において、各種計算結果を出力して、本方法を終了とする。
ここで、上記で数値計算によって求めた電位分布、電流密度分布、及び腐食量は、その時刻までに形成した腐食生成物の影響を強く受ける。腐食生成物は、酸化物や水酸化物など絶縁体や半導体の電気的性質を有するものが多く、金属や電解質溶液に比べて電気伝導度が極めて低い。このような物質が電解質溶液中に生成・堆積することで、電解質溶液および金属中の電位分布や電流密度分布が変化する。その結果として、その時間以降の腐食反応や腐食生成物の形成も変化する。
そこで本発明では、このような腐食現象に生成した腐食生成物が及ぼす影響を再現した数値解析による金属の腐食予測方法を提供する。
図3に、金属腐食生成物の形成を説明する図を示す。ここで、金属Aが腐食により金属イオンA+を溶液中に生成する場合、時間経過とともにA+の濃度が高くなり、やがて酸化物あるいは水酸化物の溶解度積との関係から、酸化物AOあるいは水酸化物A(OH)を形成するとする。先に述べたように、腐食生成物の多くは、絶縁体あるいは半導体であり、腐食前の金属に比べると電気化学的に反応不活性である。よって、腐食生成物が堆積していない金属表面と電解質溶液との界面と、腐食生成物が堆積した金属表面と電解質溶液との界面とでは、その腐食反応性が異なる。
そこで、数値計算によって電解質溶液中の電位Φの分布及び電流密度iの分布を計算する際に、境界条件として用いる分極曲線に、腐食生成物の生成を考慮した補正を行う。これにより、実際に観察される腐食現象に近い電位分布や電流密度分布を得ることができる。
すなわち、ステップS2では、まず、電解質溶液中における金属表面の電流密度iと電位Eとの関係である分極曲線[i=f(E)]を測定する。そして、分極曲線における電流密度の値を小さくした補正分極曲線を作成する。具体的には、補正分極曲線を、i=α×f(E),0.0010≦α<1.000とする。そして、上記分極曲線の代わりに、この補正分極曲線を、金属と電解質溶液との界面における境界条件として用いる。
ここで、αは腐食生成物の形態や電気的性質に依存する因子である。αを0.0010未満とした場合は、腐食反応の電流密度が小さくなり、腐食生成物による下地金属の腐食抑制効果が大きい想定となる。実際には腐食生成物が物理的に破壊・損傷されるために、腐食速度がそこまで小さく抑制されることはなく、実際の腐食現象と数値計算による乖離が大きくなる。αが1.000の場合は、その溶液中で測定した分極曲線のままに相当し、αが1.000超えでは、腐食生成物の形成が金属の腐食を促進することを意味するが、いずれの場合も腐食生成物堆積による腐食効果が再現されない。この観点からより好適なαの範囲は0.0010以上0.800以下であり、より好適な範囲は0.0100以上0.500以下である。
分極曲線の測定は、数値解析の対象とする金属と同じ金属を用いて行う必要があり、さらに、数値解析の対象とする電解質溶液の電解質濃度を同じ電解質濃度の電解質溶液中で測定を行うことが好ましい。
境界条件として用いる分極特性は、内部分極曲線及び外部分極曲線のいずれでも構わない。内部分極曲線は実験では得られないが、外部分極曲線から外挿して求めることができ、より詳細な電極反応を境界条件として与えられるので好適である。
生成した腐食生成物の量に応じて金属表面の腐食生成物の被覆率や緻密さは異なるので、金属表面の場所によって、境界条件として用いる補正分極特性を最適化することが好ましい。すなわち、境界条件とする補正分極曲線を、境界となるセルごとに、当該セルにおける腐食物の生成量を考慮して設定することが好ましい。そこで、分極曲線の別の補正方法として、金属の表面上の単位領域あたりに生成する腐食生成物の生成量pを数値計算により求め、補正分極曲線をi=β×f(E),β=g(p)かつ0.0010≦β<1.000とする方法が挙げられる。
ここで、生成量pは、腐食生成物の体積、重量、物質量、及び厚さ一定とした時の面積率などを用いることができる。また、複数の種類の腐食生成物が同時に生成する場合には、特定の腐食生成物のみの総量を用いても良いし、全ての腐食生成物の総量として計算しても良い。但し、βの範囲は、αと同様の理由で、0.0010≦β<1.000とする。
例えば、β=1−Vc/V0とすることができる。すなわち、腐食生成物が多く生成しているセルほど、βが小さくなり、分極曲線における電流密度の値を小さくする。
0:電解質溶液中の金属との界面に位置する任意のセルの面積又は体積(単位面積又は単位体積)
c:当該セル中の腐食生成物が占める面積又は体積
c/V0の計算方法を以下に説明する。まず計算によるセルj内における腐食生成物の生成総量(gまたはmol)とこれらの腐食生成物の密度の関係から体積Vcを計算する。すなわち、例えば質量から計算する場合には、Vc=m/d、により計算する。ここでVcはセルjに占める腐食生成物の体積(cm3)、mは腐食生成物の生成質量(g)、dは腐食生成物の密度(g/cm3)を表す。腐食生成物が多数の成分からなる場合は、全ての成分について計算しても良いが、腐食生成物の主成分となっている酸化物や水酸化物のみについて計算してもよい。この値を元々水溶液のみが占めていた初期のセルjの体積V0で割ることで、Vc/V0を計算する。
境界条件は、逐次計算の時間インターバルに関わらず一定の条件としてもよい。この場合、ある特定の時間において求めたβを使用する。しかし、形成した腐食生成物の影響は刻々と変化するため、逐次計算の時間インターバル毎に新しい条件を設定することが望ましい。すなわち、逐次計算における時間ステップごとにβが計算できる。そこで、各時間ステップにおける計算は、直前のステップで求められたβを使用して、補正分極曲線を得るものとする。
本発明の数値解析による金属の腐食予測方法を適用する金属は、特に限定されないが、亜鉛、鉄、アルミ、銅、及びニッケルから選択される一種以上の金属、又は該金属を主成分とする合金を好適に適用できる。また、本発明の数値解析による金属の腐食予測方法を、図2に示したような異種金属接触腐食に適用すると特に有効である。この場合、金属Aと電解質溶液との界面では、金属Aの補正分極曲線を境界条件とし、金属Bと電解質溶液との界面では、金属Bの補正分極曲線を境界条件とする。異種金属接触腐食の例としては、亜鉛又は亜鉛めっきと、鉄又は鋼との組み合わせが挙げられる。
腐食生成物の金属表面への堆積は、電解質溶液中よりも大気環境で明瞭であり、その影響も大きい。従って、金属の大気腐食を予測するために、金属表面上の電解質溶液の厚さが10mm未満である数値計算に好適である。
鋼構造物の設計において、上記説明した数値解析による金属の腐食予測方法によって、耐食性を予測して、材料を選定することが好適である。すなわち、ある金属材料に関して、本発明による数値計算で予測される腐食量が、鋼構造物の要求寿命に対して十分小さいとみなせる場合、この金属材料を当該鋼構造物の材料として使用することができる。
また、鉄鋼材料の設計方法において、上記説明した数値解析による金属の腐食予測方法によって耐食性を予測して、防錆性能を設計することが好適である。鋼材の成分や組織を変えることで、分極曲線や電解質中に溶出する成分も変化するため、計算により予測される金属の腐食量も異なる。すなわち、本発明による数値計算で予測される金属の腐食量が、鋼材の要求寿命に対して十分小さくなるように、鋼材の成分や組織を設計することができる。
(プログラム)
本発明の目的は、前述した実施形態の各工程を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成される。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムおよびプログラムコードを記憶した記憶媒体は、本発明を構成することになる。
ここでプログラムコードを記憶する記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、ROM、RAM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、CD−ROM、CD−R、DVD、光ディスク、光磁気ディスク、MOなどが考えられる。また、LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)やWAN(ワイド・エリア・ネットワーク)などのコンピュータネットワークを、プログラムコードを供給するために用いることができる。
(実施例1)
厚さ0.01,0.05または0.1mmの0.6,1.2,または2.0mol/LのNaCl水溶液に表面を覆われた互いに接触した亜鉛と鉄の異種金属接触腐食を数値計算により予測した。図4に本実施例で用いた形状のモデル図を示す。領域ΩはNaCl水溶液の領域であり、化学種の初期濃度としてNa+およびCl-の濃度を0.6,1.2,2.0mol/Lとし、この溶液中において考慮すべき化学種の初期濃度および拡散係数を表1のように設定した。領域Ωでは、式(2)の物質輸送の式が成り立つと仮定し、それぞれの化学種について水溶液中の濃度勾配による拡散、電荷による泳動を考慮した。ここでは対流の影響は考慮していない。
Figure 2018054606
式(2)を解くための境界条件として、計算と同じ濃度のNaCl水溶液中で測定した亜鉛のアノード分極曲線をia_zn = f(Ea_zn)、鉄のカソード分極曲線をic_Fe = f(Ec_Fe)とした時、境界1の境界条件をia_zna × f(Ea_zn)、境界2の境界条件をia_Fec × f(Ea_Fe)とした。その他の境界には、電流の流出入がない(∂Ф/∂n=0:ここでnは単位ベクトルを示す)を境界条件として用いた。
この条件のもと、時間0から時間60minまで逐次計算を行い、電位分布および電流密度分布を計算するとともに、その時間での化学種の濃度および反応生成物の濃度分布を計算した。
この異種金属接触腐食の計算では、亜鉛がアノード反応により腐食し、鉄はカソード反応としてその表面で酸素の還元反応が生じると仮定した。亜鉛のアノード反応および鉄上の酸素の還元反応は、それぞれ式(5)および(6)で表わされる。
Zn → Zn2+ + 2e- ・・・・(5)
2H2O + O2 + 4e- → 4OH- ・・・・(6)
この反応式に基づき、亜鉛と水溶液との界面における電流密度から、ファラデーの法則を用いてZnの溶解量を計算し、これを計算時間に対して積算することで60min後の亜鉛の腐食量を求めた。
これらの数値計算結果の妥当性を評価するために、数値計算と同じ条件で腐食実験を行った。図5に腐食実験に用いた10mm×10mm×5mmtの亜鉛と鉄(いずれも純度99.999%)を互いに接触させて固定した試験片の模式図を示す。この試験片の表面に数値計算した条件と同じ濃度、同じ厚さのNaCl水溶液を形成させた。金属表面上にいったん形成させた薄い塩水膜を一定の状態に維持するために、試験片をすみやかに室温、相対湿度をRH98%(0.6M相当)、RH93%(1.2M相当)、RH85%(2.0M相当)に設定した恒温恒湿槽に入れて試験片を腐食させた。
恒温恒湿槽に試験片を60分入れたまま腐食させた後、走査型ケルビンプローブを用いて表面の電位分布を測定した。腐食状態を変化させないように、ケルビンプローブによる計測中も恒温恒湿槽内と同じ温度、相対湿度に維持した。測定終了後、すみやかに試験片を蒸留水で洗浄し、乾燥させた後、図5(b)のA−A’断面図に示す試験片中央部を長手方向に切断して、腐食状態を断面から走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、亜鉛の腐食量を厚さから求めた。
表2に、計算と実験に用いたNaCl水溶液の条件、計算に用いた腐食生成物の影響を考慮するためのパラメーターとしてZn(アノード)側のαaおよび鉄(カソード)側のαc、これらを境界条件として計算した結果と実験による電位および腐食量の測定結果の比較を示す。電位については、試験片長手方向で亜鉛から鉄の表面を1mmおきに全20点測定し、20点全ての計算した電位が実験結果に対して±50mVの範囲となった場合を○、そうでない場合を×とした。腐食量分布は、20点すべての測定点において(計算の腐食量)/(実験の腐食量)=0.5〜1.5である場合に○、この範囲を外れる場合を×として評価した。本発明の範囲であるNo1から7については、異なる溶液濃度、溶液の厚さに対して高い精度で電位および腐食量の分布が予測できた。しかし、比較例に示すように、αa またはαcのいずれかが、0.0010未満、または1.000よりも大きい場合は、電位および腐食量ともに実験を再現できていない。また、腐食生成物の形成による分極特性の変化を考慮していない、αaまたはαcのいずれかが1.00の場合にも、計算結果と実験結果の乖離が大きく、実験結果を再現することができない。
Figure 2018054606
(実施例2)
厚さ0.01または0.1mmの1.0または2.0mol/LのNaCl水溶液に表面を覆われた互いに接触した亜鉛と鉄の異種金属接触腐食を数値計算により予測した。図6に本実施例で用いた形状のモデル図を示す。領域ΩはNaCl水溶液の領域であり、化学種の初期濃度としてNa+およびCl-の濃度を1.0または2.0mol/Lとし、この溶液中において考慮すべき化学種の初期濃度および拡散係数を表3のように設定した。本実施例では、亜鉛および鉄と溶液との境界面を計10境界に区切り、境界1から10とした。亜鉛と鉄の界面における境界線が短いのは、この領域で腐食反応が最も大きく、電位や電流密度の変化が大きいためである。領域Ωでは、式(2)の物質輸送の式が成り立つと仮定し、それぞれの化学種について水溶液中の濃度勾配による拡散、電荷による泳動を考慮した。ここでは対流の影響は考慮していない。
Figure 2018054606
式(2)を解くための境界条件として、計算と同じ濃度のNaCl水溶液中で測定した亜鉛のアノード分極曲線をia_zn = f(Ea_zn)、鉄のカソード分極曲線をic_Fe = f(Ec_Fe)とした時、境界1から5の境界条件をia_zn =β× f(Ea_zn)とし、β=1-Vc/V0として境界条件を決定した。ここで、Vcは、Znの腐食生成物の体積を表し、V0は単位体積を表す。一方、本実施例では鉄系の腐食生成物の形成は考慮せず、境界6から10の境界条件を ic_Fe = f(Ec_Fe)とした。厳密には物質の拡散や泳動によってZnの腐食生成物が鉄上にも形成されるが、その影響は無視する前提で計算を行った。ここで、0.0010 ≦ β < 1.000とし、βの計算値が0.0010を下回る場合には、すべてβを0.0010とすることとした。金属と溶液の界面以外の境界には、電流の流出入がない(∂Ф/∂n=0:ここでnは単位ベクトルを示す)を境界条件として用いた。
Vcは、亜鉛の腐食生成物として考慮したZn(OH)2およびZnCO3の生成量が計算により求まるため、ぞれぞれの密度の値からそれぞれの体積を求め、これら2つの腐食生成物成分の和をVcとした。逐次計算における各時間ステップにおいてVcが求まるため、このVcを用いてβを決定した。このようにして得られた補正した分極曲線を境界条件として、次の時間ステップにおける計算を実施することで逐次計算を行った。
この条件のもと、時間0から時間1440minまで逐次計算を行い、電位分布および電流密度分布を計算するとともに、その時間での化学種の濃度および反応生成物の濃度分布を計算した。水溶液中における化学反応は、亜鉛表面では表4に示す反応を考慮し、鉄表面では表5に示す反応を考慮した。このうち、腐食生成物としてZn(CO3),Zn(OH)2を考慮し、平衡濃度に達した時点で溶液中の余剰濃度分は速やかに沈殿すると仮定して計算した。
Figure 2018054606
Figure 2018054606
実施例1と同様にして、10,60,1440min後の亜鉛の腐食量を求めた。
これらの数値計算結果の妥当性を評価するために、数値計算と同じ条件で腐食実験を行った。図5に腐食実験に用いた10mm×10mm×5mmtの亜鉛と鉄(いずれも純度99.999%)を互いに接触させて固定した試験片の模式図を示す。この試験片の表面に数値計算した条件と同じ濃度、同じ厚さのNaCl水溶液を形成させた。金属表面上にいったん形成させた薄い塩水膜を一定の状態に維持するために、試験片をすみやかに室温、相対湿度をRH95%(1.0M相当)、RH85%(2.0M相当)に設定した恒温恒湿槽に入れて試験片を腐食させた。
恒温恒湿槽に試験片を10,60,1440分入れたまま腐食させた後、走査型ケルビンプローブを用いて表面の電位分布を測定した。腐食状態を変化させないように、ケルビンプローブによる計測中も恒温恒湿槽内と同じ温度、相対湿度に維持した。測定終了後、すみやかに試験片を蒸留水で洗浄し、乾燥させた後、図5(b)のA−A’断面図に示す試験片中央部を長手方向に切断して、腐食状態を断面から走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、亜鉛の腐食量を厚さから求めた。
表6に、計算と実験に用いたNaCl水溶液の条件と腐食時間、境界条件として用いる分極曲線の補正に用いたβの値を示す。補正方法は、それぞれの溶液での亜鉛の分極曲線をia_zn = f(Ea_zn)とした時、平衡計算から求められる腐食生成物の体積量Vcに対して、β=1-Vc/V0 を用いてia_zn =β× f(Ea_zn)と補正し、電解質溶液と金属の境界1〜5においてβで補正した分極曲線を適用した。なお、βの値は境界1〜5毎に時間ステップ計算毎に更新されるため、表6には、境界3の全ての時間ステップ計算の平均のβ値を記載している。また、β=1.000は分極曲線の補正を行わず、金属の分極曲線をそのまま境界条件として用いたことを意味する。
これらの条件のもと計算した結果と実験による電位および腐食量の測定結果の比較を示す。電位については、試験片長手方向で亜鉛から鉄の表面を1mmおきに全20点測定し、20点全ての計算した電位が実験結果に対して±50mVの範囲となった場合を○、そうでない場合を×とした。本実施例の腐食量分布は、Znの領域だけを対象として、電位と同様に試験片長手方向1mmおきに全10点を測定し、10点すべての測定点において(計算の腐食量)/(実験の腐食量)=0.5〜1.5である場合に○、この範囲を外れる場合を×として評価した。本発明の範囲であるNo1から9については、異なる溶液濃度、溶液の厚さ、腐食時間に対して高い精度で電位および腐食量の分布が予測できた。しかし、比較例に示すように、分極曲線を腐食生成物の生成量に応じて変化させない場合、すなわちβが1.000の場合には、電位および腐食量ともに実験を再現できていない。また、腐食生成物の量が多くなってきた場合、すなわちβが0.0010未満となる場合においても、計算結果と実験結果の乖離が大きく、実験結果を再現することができなかった。
Figure 2018054606
(実施例3)
実施例1および2と同様に、大気腐食環境下における亜鉛と鉄の異種金属接触腐食を数値計算により予測した。図6に示す形状を本実施例の計算モデルとした。領域Ωは実際の大気環境で付着する海塩を模擬し、海水を模擬した組成の溶液の領域とし、化学種の初期濃度を表7のように設定した。この溶液の組成に含まれる化学種に対して、考慮すべき拡散係数は表8のように設定した。領域Ωでは、式(2)の物質輸送の式が成り立つと仮定し、それぞれの化学種について水溶液中の濃度勾配による拡散、電荷による泳動を考慮した。ここでは対流の影響は考慮していない。
Figure 2018054606
Figure 2018054606
式(2)を解くための境界条件として、計算と同様に人工海水(八洲薬品株式会社製、金属腐食試験用溶液)中で測定した亜鉛のアノード分極曲線をia_zn = f(Ea_zn)、鉄のカソード分極曲線をic_Fe = f(Ec_Fe)とした時、境界1から5の境界条件をia_zn =β× f(Ea_zn)とし、β=1-Vc/V0として境界条件を決定した。ここで、Vcは、Znの腐食生成物の体積を表し、V0は単位体積を表す。一方、鉄系の腐食生成物の形成は考慮せず、境界6から10の境界条件をic_Fe = f(Ec_Fe)とした。厳密には物質の拡散や泳動によってZnの腐食生成物が鉄上にも形成されるが、その影響は無視する前提で計算を行った。ここで、0.0010 ≦ β < 1.000とし、βの計算値が0.0010を下回る場合には、すべてβを0.0010とすることとした。金属と溶液の界面以外の境界には、電流の流出入がない(∂Ф/∂n=0:ここでnは単位ベクトルを示す)を境界条件として用いた。
実際の大気腐食環境では、温度や湿度が連続的に変化し、これに伴い金属表面に形成する水溶液膜の濃度や平均厚さは変化する。このため、数値計算においても計算の単位時間毎に、温度と相対湿度の変化に伴う水溶液濃度や厚さを設定し、計算結果を積算することが望ましい。しかし、本実施例では、計算負荷を軽減するため、水溶液濃度は人工海水とほぼ同じ濃度で一定のまま計算を行った。
実施例2と同様に、Vcは、亜鉛の腐食生成物として考慮したZn(OH)2およびZnCO3の生成量が計算により求まるため、それぞれの密度の値からそれぞれの体積を求め、これら2つの腐食生成物成分の和をVcとした。逐次計算における各時間ステップにおいてVcが求まるため、このVcを用いてβを決定した。このようにして得られた補正した分極曲線を境界条件として、次の時間ステップにおける計算を実施することで逐次計算を行った。
この条件のもと、表9に示す腐食期間(最大で4週間)まで逐次計算を行い、電位分布および電流密度分布を計算するとともに、その時間での化学種の濃度および反応生成物の濃度分布を計算した。水溶液中における化学反応は、実施例2と同様に、亜鉛表面では表4に示す反応を考慮し、鉄表面では表5に示す反応を考慮した。このうち、腐食生成物としてZn(CO3),Zn(OH)2を考慮し、平衡濃度に達した時点で溶液中の余剰濃度分は速やかに沈殿すると仮定して計算した。
実施例1,2と同様にして、各腐食期間の経過後の亜鉛の腐食量を求めた。
計算の妥当性を評価するため、実施例2と同様に図5に示す形状の試験片を用いて暴露試験を行った。暴露試験は、神奈川県川崎市川崎区南渡田町で実施し、雨が直接掛からないように、軒下に試験片を設置した。温度と相対湿度を1分毎に記録しながら、4週間試験を実施した。数値計算結果の妥当性は、実施例2と同様にケルビンプローブによる電位の分布および長手方向に切断した試験片を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めた亜鉛の厚さの分布で調査した。
表9に、各水準における腐食期間と、境界条件として用いる分極曲線の補正に用いたβの値を示す。補正方法は、各水準の人工海水での亜鉛の分極曲線をia_zn = f(Ea_zn)とした時、平衡計算から求められる腐食生成物の体積量Vcに対して、β=1-Vc/V0 を用いてia_zn =β× f(Ea_zn)と補正し、電解質溶液と金属の境界1〜5においてβで補正した分極曲線を適用した。なお、βの値は境界1〜5毎に時間ステップ計算毎に更新されるため、表9には、各境界1〜5について、全ての時間ステップ計算の平均のβ値を記載している。また、β=1.000は分極曲線の補正を行わず、金属の分極曲線をそのまま境界条件として用いたことを意味する。本発明例であるNo1から4については、分極曲線を腐食生成物の形成量に応じたβの値(0.0010〜1.000)を用いて補正した。一方、βは境界1〜5に対して異なる値が与えられるが、比較例では、境界1〜5のうちいずれかのβの値が0.0010〜1.000の範囲外となっている。
表9に、計算と暴露試験の結果の比較を示す。電位については、試験片長手方向で亜鉛から鉄の表面を1mmおきに全20点測定し、20点全ての計算した電位が実験結果に対して±100mVの範囲となった場合を○、そうでない場合を×とした。腐食量分布は、Znの領域だけを対象として、電位と同様に試験片長手方向1mmおきに全10点を測定し、10点すべての測定点において(計算の腐食量)/(実験の腐食量)=0.25〜2.0である場合に○、この範囲を外れる場合を×として評価した。
7、14、21、28日(4週間)の計算と暴露試験の腐食および電位の分布を比較した結果、本発明では、いずれの腐食期間においても電位分布および腐食の分布ともに精度よく予測することができた。一方、比較例に示すように、分極曲線を腐食生成物の生成量に応じて変化させない場合、あるいは、補正が本発明における範囲から外れた場合、電位および腐食量ともに実験結果との乖離が大きくなることが分かった。腐食生成物の形成を考慮して、補正した分極曲線を境界条件として用いる本発明を適用することで、実際の腐食現象を高い精度で予測することができた。
Figure 2018054606
本発明の数値解析による金属の腐食予測方法によれば、電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によってより高精度に予測することが可能となる。そのため、金属構造体や製品の設計、材料や構造体の腐食による品質劣化評価、および耐食材料の開発を最適かつ高精度に実施することができ、産業上極めて有益な技術である。

Claims (11)

  1. 電解質溶液と接触した金属の腐食を数値解析によって予測する方法であって、
    電解質溶液中における金属表面の電位Eと電流密度iとの関係である分極曲線を測定する工程と、
    前記分極曲線における前記電流密度の値を小さくした補正分極曲線を得る工程と、
    前記補正分極曲線を境界条件として、前記金属と前記電解質溶液とが接触した系における所定時刻での前記電解質溶液中の電位分布を数値計算により求める工程と、
    を有することを特徴とする数値解析による金属の腐食予測方法。
  2. 前記分極曲線を、前記電流密度iを前記電位Eの関数として表わしたi=f(E)としたとき、前記補正分極曲線を、i=α×f(E),0.0010≦α<1.000とする、請求項1に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  3. 前記金属の表面上の単位領域あたりに生成する腐食生成物の生成量pを数値計算により求める工程をさらに有し、
    前記分極曲線を、前記電流密度iを前記電位Eの関数として表わしたi=f(E)としたとき、前記補正分極曲線を、i=β×f(E),β=g(p)かつ0.0010≦β<1.000とする、請求項1に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  4. 前記所定時刻での前記電解質溶液中の電位分布から、前記所定時刻での前記電解質溶液中の電流密度分布を数値計算により求める工程をさらに有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  5. 前記電解質溶液中の電流密度分布のうち、前記電解質溶液中の前記金属との界面近傍における電流密度を用いて、ファラデーの法則により、前記所定時刻での前記金属の腐食量を計算する工程をさらに有する、請求項4に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  6. 前記金属が、亜鉛、鉄、アルミ、銅、及びニッケルから選択される一種以上の金属、又は該金属を主成分とする合金である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  7. 前記腐食の形態が、二種の金属が接触し、金属間の電位差によって一方の金属の腐食が加速される異種金属接触腐食である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  8. 前記二種の金属が、亜鉛又は亜鉛めっきと、鉄又は鋼との組み合わせである、請求項7に記載の数値解析による金属の腐食予測方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項の数値解析による金属の腐食予測方法によって耐食性を予測して、材料を選定することを特徴とする鋼構造物の設計方法。
  10. 請求項1〜8のいずれか一項の数値解析による金属の腐食予測方法によって耐食性を予測して、防錆性能を設計することを特徴とする鉄鋼材料の設計方法。
  11. コンピュータに、請求項1〜8のいずれか一項の数値解析による金属の腐食予測方法を実行させる腐食予測プログラム。
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