JP2018052843A - ヒアルロン酸合成酵素発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、及びそれを含む抗皮膚老化用組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】加齢に伴う皮膚の外観的老化症状(シワ、皮膚のたるみ、肌のハリの低下等)を予防または改善するために有用な組成物を提供する。【解決手段】本発明のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、及び加齢又は紫外線照射による肌劣化症状を予防または改善するための組成物は、いずれもヒネソールを有効成分とすることを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、加齢に伴う皮膚の外観的老化症状(シワ、皮膚のたるみ、肌のハリの低下等)を予防または改善するために有用な組成物に関する。
ヒアルロン酸やその塩類は、人の肌を滑らかにしたり、肌のシワを延ばしたりするなどの効果があることから、従来から化粧品や医薬品の成分として使用されている。
生体内のヒアルロン酸、特に皮膚内のヒアルロン酸は水分保持や粘弾性に深く関与する主要な細胞外マトリックスの一つとして知られており、表皮角化細胞に加え真皮線維芽細胞からも合成されることが知られている。また、真皮のヒアルロン酸の機能として、水分保持、弾力性維持、線維芽細胞の増殖、創傷治癒にも関与していることが知られている(非特許文献1)。
生体内でのヒアルロン酸合成は、低分子の原料物質からヒアルロン酸合成酵素(以下、HASとも称する)により合成される。生体内のヒアルロン酸合成に関与している酵素は、3つのアイソフォームからなるHASのみであり、3種それぞれのHASをコードする遺伝子として、HAS1mRNA、HAS2mRNA、HAS3mRNAが知られている。これらのHAS遺伝子は、ヒト皮膚線維芽細胞とヒト表皮角化細胞で発現パターンが異なり、ヒト皮膚線維芽細胞では主にHAS2mRNAの発現を介してヒアルロン酸合成が制御されていることが明らかとなっており(非特許文献1)、またヒト表皮角化細胞ではHAS3mRNAの発現を介してヒアルロン酸合成が制御されていることが明らかとなっている(非特許文献2)。
しかし、ヒアルロン酸は加齢や紫外線照射などによる皮膚の生理的老化に伴い減少することが知られており、真皮内のヒアルロン酸量の減少が、弾力性の低下、シワ形成等の老化現象に関与している可能性が示唆されている(非特許文献3)。
このような線維芽細胞によるヒアルロン酸等の産生を促進させるために、従来から様々な研究がなされている。例えば、特許文献1には、吹雲草からの抽出物を用いることで、線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進できることが記載されている。また、特許文献2には、ザゼンソウの地上部位から得られた抽出物を用いることで、ヒト真皮線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進した実験結果が示されている。さらに、特許文献3には、マイタケから得られた抽出物を用いることで、ヒト皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現増加を介してヒアルロン酸産生を促進した結果が示されている。また特許文献4には、ソウジュツから得られた抽出物を用いることで、ヒト皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現増加を介してヒアルロン酸産生を促進した結果が示されている。
Yoshinori Sugiyama,Akemi Shimada,Tetsuya Sayo,Shingo Sakai,Shintaro Inoue.Putative hyaluronan synthase mRNA are expressed in mouse skin and TGF-β upregulates their expression in cultured human skin cells.J. Invest. Dermatol. 110:116-121,1998. Tetsuya Sayo,Yoshinori Sugiyama,Yoshito Takahashi, Naoko Ozawa, Shingo Sakai, Osamu Ishikawa, Masaaki Tamura, Shintaro Inoue. Hyaluronan synthase 3 regulates hyaluronan synthesis in cultured human keratinocytes.J. Invest. Dermatol. 118:43-48,2002. 佐用哲也.ヒアルロン酸代謝に着目したシワ改善剤へのアプローチ.Fragrance Journal.34(5):65−71,2004.
特許第3935360号公報 特許第4201091号公報 特許第4583501号公報 特開2012−158529号公報
本発明は、加齢や紫外線照射などによる皮膚の老化に伴い減少するヒアルロン酸の産生を増加ないし促進することで、シワを防止したり、肌のたるみ及びハリの低下を抑制して外観的老化を改善することが可能なヒアルロン酸合成酵素発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、並びに加齢や紫外線照射に伴う皮膚の上記諸症状の予防または改善に有効な組成物を提供することを目的にする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねていたところ、ヒネソールにヒト皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成酵素(HAS2)のmRNA発現を促進する作用があることを見出し、またこれによって当該皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸の産生を促進させる作用があることを確認し、本発明を完成するに至った。本発明はこれらの知見に基づいて、完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
(I)ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)発現促進剤及びその用法
(I−1)ヒネソールを有効成分とするヒアルロン酸合成酵素発現促進剤。
(I−2)ヒアルロン酸合成酵素がHAS2である(I−1)記載のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤。
(I−3)皮膚細胞にヒネソールを適用する工程を有する、皮膚細胞内でのヒアルロン酸合成酵素の発現を促進する方法。
(I−4)上記皮膚細胞が皮膚線維芽細胞である(I−3)記載のヒアルロン酸合成酵素発現促進方法。
(II)ヒアルロン酸産生促進剤及びその用法
(II−1)ヒネソールを有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤。
(II−2)皮膚細胞にヒネソールを適用する工程を有する、皮膚細胞におけるヒアルロン酸産生を促進する方法。
(II−3)上記皮膚細胞が皮膚線維芽細胞である(II−2)記載のヒアルロン酸産生促進方法。
(III)抗皮膚老化用組成物及びその使用方法
(III−1)ヒネソールを有効成分とする加齢又は紫外線照射による肌劣化症状(皮膚老化症状)を抑制または改善するための組成物(抗皮膚老化用組成物)。
(III−2)加齢又は紫外線照射による肌劣化症状(皮膚老化)がシワ、肌のたるみ、及びハリの低下からなる群から選択される少なくとも1つである(III−1)に記載する組成物。
(III−3)皮膚外用剤である(III−1)または(III−2)に記載する組成物。
(III−4)化粧料である(III−3)に記載する組成物。
(III−5)上記(III−1)〜(III−4)のいずれかに記載する組成物を皮膚に適用する工程を有する肌劣化症状を抑制または改善する美容方法。
(III−6)加齢又は紫外線照射による肌劣化(皮膚老化)を抑制または改善する美容方法である(III−5)に記載する美容方法(アンチエイジング方法)。
(III−7)肌劣化症状(皮膚老化症状)がシワ、ハリの低下、及び肌のたるみからなる群から選択される少なくとも1つの皮膚老化症状である、(III−6)に記載する美容方法。
本発明によれば、皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現を促進することができるヒアルロン酸合成酵素発現促進剤を提供することができる。また本発明によれば、かかる皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成酵素の発現促進を介して、皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させることができるヒアルロン酸産生促進剤を提供することができる。また、本発明によれば、こうしたヒアルロン酸合成酵素発現促進作用に基づいてヒアルロン酸産生促進作用を発揮することで、加齢又は紫外線照射による肌劣化症状(皮膚老化)を改善又は抑制することが可能な抗皮膚老化用組成物、特に皮膚外用剤を提供することが可能となる。
(I)ヒアルロン酸合成酵素発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤
本発明のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤、及びヒアルロン酸産生促進剤はいずれもヒネソールを有効成分とする。
ヒネソールは植物に含まれている精油成分(セスキテルペノイド)であり、従来抗コリン作用が知られている。
本発明のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤におけるヒネソールの含有割合は、これを皮膚線維芽細胞に適用することで、当該細胞でのヒアルロン酸合成酵素mRNAの発現が促進され、ヒアルロン酸合成酵素量を増加させることができる割合であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではなく、通常0.00001〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成酵素mRNAの発現量の測定及び評価方法は、後述する実験例1に記載の通りであり、この記載に従って実施することができる。なお、ここでヒアルロン酸合成酵素としては、好適にはヒアルロン酸合成酵素2(Hyaluronan Synthase 2(HAS2))を挙げることができる。
本発明のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤は、後述する抗皮膚老化用組成物、好ましくは皮膚老化を抑制または改善する作用を有する皮膚外用剤を調製するための原料(有効成分含有原料)として用いることができる。また、皮膚細胞、特に皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成酵素(好ましくはHAS2)の発現を促進する方法に好適に使用することができる。かかる方法は、本発明のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤を皮膚細胞に適用することで実施することができる。なお、当該方法はヒアルロン酸合成酵素発現促進剤の有効成分(ヒネソール)が皮膚細胞に浸透すればよく、その限りにおいて皮膚表皮の上から適用する方法であってもよい。
また本発明のヒアルロン酸産生促進剤におけるヒネソールの含有割合は、これを皮膚線維芽細胞に適用することで、当該細胞でのヒアルロン酸産生が促進され、ヒアルロン酸量を増加させることができる割合であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではなく、通常0.00001〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸の量の測定及び評価方法は、後述する実験例2に記載の通りであり、この記載に従って実施することができる。
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、後述する抗皮膚老化用組成物、好ましくは皮膚老化を抑制または改善する作用を有する皮膚外用剤を調製するための原料(有効成分含有原料)として用いることができる。また、皮膚細胞、特に皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸の産生を促進する方法に好適に使用することができる。かかる方法は、本発明のヒアルロン酸産生促進剤を上記皮膚細胞に適用することで実施することができる。なお、当該方法はヒアルロン酸産生促進剤の有効成分(ヒネソール)が皮膚細胞に浸透すればよく、その限りにおいて皮膚表皮の上から適用する方法であってもよい。
本発明のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤及びヒアルロン酸産生促進剤は、ヒネソールを精製された状態で含むものであってもよいが、前述するように、ヒネソールは植物に含まれている精油成分(セスキテルペノイド)であるため、ヒネソールをヒネソール含有植物から粗精製した状態で含むものであってもよい。粗精製物としては、ヒネソール含有植物のヒネソール含有画分(セスキテルペノイド含有画分)、特にヒネソールを含有する精油を挙げることができる。好ましくは精製されたヒネソールであるか、またはヒネソールを分画し濃縮した状態で含むヒネソール含有画分である。
(II)抗皮膚老化用組成物
本発明の抗皮膚老化用組成物は、ヒト皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現を増加させることで、ヒアルロン酸産生を促進し、これによって加齢や紫外線照射によるヒアルロン酸の減少により生じる外観変化(肌劣化症状)を抑制し、あるいは改善する作用を奏するものである。また、本発明の抗皮膚老化用組成物が外用剤である場合、皮膚に適用した場合の使用感及び安全性にも優れた組成物である。
ここで加齢または紫外線照射による肌劣化症状(皮膚老化症状)としては、真皮層内に存在する間質成分であるヒアルロン酸の減少に起因して生じる真皮じわ、肌のたるみ、及び肌のハリ低下からなる群より選択される少なくとも1つの症状を挙げることができる。
本発明の抗皮膚老化用組成物中に含まれるヒネソールの割合は、皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現を促進増加させる作用、並びに皮膚線維芽細胞でのヒアルロン酸産生を促進し増加させる作用を有し、その作用に基づいて、加齢または紫外線照射による肌劣化症状(皮膚老化症状)が抑制または/および改善できる量であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。通常、0.00001〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.0001〜30重量%、より好ましくは0.001〜20重量%である。
本発明の組成物には、本発明の効果を妨げないことを限度として他の成分を配合することができる。かかる成分は、本発明の組成物が医薬品、医薬部外品、化粧品、及び飲食品からなる群から選択されるいずれの組成物であるか、またその剤型(固形状、半固形状、液状、乳液状等)によっても異なり、各種の態様に応じて、適宜選択し設定することができる。
例えば、ヒネソール以外のヒアルロン酸合成酵素発現促進作用を有する物質、または/及びヒアルロン酸産生促進作用を有する物質を組み合わせて配合することもできる。かかる成分としては、制限されないが、前述するように吹雲草、ザゼンソウ、及びマイタケなどの植物抽出物を挙げることができる。
また本発明の組成物が外用の医薬品、医薬部外品または化粧品(これらを総称して「皮膚外用剤」ともいう)である場合、さらに皮膚吸収促進剤(皮膚浸透促進剤)を配合してもよい。皮膚吸収促進剤(皮膚浸透促進剤)としては、ヒネソールの経皮浸透性を高め、皮膚細胞への吸収を促進する作用を有するものを使用することができる。かかるものとして、例えば、各種の界面活性剤(アニオン性、カチオン性、ノニオン性界面活性剤)、脂肪酸・脂肪酸エステル(オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、中鎖脂肪酸トリグリセライド等)、生分解性促進剤(アルキルエステル、アミノカプロン酸)、その他、アミノ酸、テルペン類、ピロリドン類、尿素、リン脂質、各種の溶媒(ポリオール、低級アルコール、高級アルコール、ジメチルスルフォキシド等)を制限なく例示することができる。
ヒネソールをかかる皮膚吸収促進剤(皮膚浸透促進剤)と併用することで、ヒネソールを効率的に真皮層に到達させることができ、当該真皮層においてより有効に皮膚線維芽細胞に働きかけることができ、本発明の効果を発揮させることができる。制限されないものの、本発明の抗皮膚老化用組成物中、当該皮膚吸収促進剤(皮膚浸透促進剤)は、0.5〜70重量%の範囲で配合することができる。
本発明の組成物は、その使用目的(医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品)及び投与経路等に応じて、固形剤、半固形剤、液剤、乳液剤、クリーム剤等の各種剤形の組成物に調製することが可能である。
外用の医薬品または医薬部外品としての形態としては、例えば、硬膏剤、軟膏剤、クリーム剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、乳液剤、液剤、エアゾール剤を挙げることができる。好ましくは、制限されないものの、使用感の良さ(しっとり感が良く、ベタツキ感が少ない)から、乳液やクリーム等の乳化物の製剤形態を有する組成物である。
化粧品としての形態は特に限定されるものではないが、例えばスキンケア化粧品として化粧水、美容液、パック、マッサージクリーム、乳液、モイスチャークリーム、リップクリーム等;メーキャップ化粧品としてファンデーション、白粉、口紅、ほほ紅、アイシャドウ等とすることができる。上記化粧品には、一般に化粧品に用いられている各種化粧品成分を適宜配合することができる。好ましくは、制限されないものの、上記の理由から乳液やクリーム等の乳化物の形態を有する組成物である。
本発明の組成物には、所望の効果を損なわない範囲で、通常の外用組成物に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、アミノ酸類、ビタミン類、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、抗炎症剤、抗しわ剤、肌荒れ改善剤、ニキビ用薬剤、アルカリ類、キレート剤の成分を配合することもできる。
また本発明の組成物は皮膚の深部(真皮層)にまでヒネソールが浸透するような形態を有していてもよい。かかる形態としては、制限されないものの、リポソーム形態、マイクロエマルション形態、またはマイクロニードル形態を例示することができる(例えば、最新・化粧品の機能創製・素材開発・応用技術(技術教育出版社発行)288-293頁、及び日本香粧品学会誌(40周年記念誌)39巻, 2015, 112-115頁等参照)。本発明の組成物を例えばリン脂質でできたナノカプセルに封入して調製してリポソーム形態に調製したり、また各種の界面活性剤を利用することでW/O型、O/W型またはW/O/W型のマイクロエマルション形態にすることで、本発明の組成物を皮膚への浸透(吸収)を高め、ヒネソールを真皮層にまで到達しやすくすることができる。また本発明の組成物そのものをマイクロニードル形態に調製しそれを皮膚に貼付するか、または本発明の組成物を例えばシリコン、金属、または生分解性高分子により形成された長さ15μm程度の微細な針を用いて皮膚に適用することで、本発明の組成物に含まれるヒネソールを皮膚の深部(真皮層)にまで効率的に浸透(到達)させることが可能になる(例えば、COSME TECH JAPAN, Vol.1, No.5(2011), 20-24等参照)。
さらにまた本発明の組成物は、皮膚の深部(真皮層)にまでヒネソールが効率的に浸透するような物理的方法を用いて、皮膚に適用することもできる。かかる方法としては、制限されないものの、閉鎖密封法(ODT:Occulusive Dressing Therapy)、エレクトロポレーション、及びソノフォレーシスを例示することができる(例えば、ファルマシア,49巻,5号,(2013),pp.400-404;および「皮膚科学 考え方学び方」金原出版株式会社、平成2年6月10日発行,p.29等)。なお、閉鎖密封法は外用剤の塗布部分をプラスチックやラップなどで覆うことにより(半日〜2日)、角質層をふやけさせ、これにより角質細胞を膨潤、角質細胞間脂質の水分量を増加させることにより角質バリア機能を低下させ、経皮吸収性を増加させる方法である。またこの際、加温すると温熱効果により血流が増加しさらに経皮吸収性を増加させることができる。また、エレクトロポレーションは、高い電圧を短時間に適用し、可逆的な穴を皮膚に形成させることで、皮膚に適用した組成物の経皮吸収を促進する方法である。また、ソノフォレーシスは、超音波振動を利用して皮膚に微細な穴を空けて皮膚に適用した組成物の経皮吸収を促進する方法である。
(III)肌劣化症状(皮膚老化症状)を抑制または改善する美容方法
また本発明は、加齢または紫外線照射による肌劣化症状(皮膚老化症状)を有する被験者に対して、ヒネソールを有効成分とする組成物を適用し、当該被験者の上記肌劣化症状を抑制または改善する美容方法に関する。なお、本発明が対象とする方法は、美容方法であり、ヒトに対する治療方法ではない。
加齢または紫外線照射による肌劣化症状としては、真皮じわ、肌のたるみ及びハリ低下からなる群から選択される少なくとも1つの症状を挙げることができる。ここで肌のたるみ及びハリ低下は、真皮層に存在する間質成分(ヒアルロン酸)の量の減少に伴って生じる肌のたるみ及びハリ低下を意味し、真皮じわは当該間質成分の減少に起因して生じるしわ(大しわ、深いしわ)を意味する。
対象とする被験者は、加齢または紫外線照射による肌劣化症状を有する者、好ましくは加齢による肌劣化症状(肌老化症状)を有する者である。通常、男女ともに30歳を超えると当該該当の被験者になる可能性がある。好ましくは40歳以上、より好ましくは45歳以上、さらに好ましくは50歳以上である。
ここで、ヒネソールを有効成分とする組成物としては、上記(II)で説明した本発明の組成物を好適に挙げることができる。これらの組成物には医薬品、医薬部外品、化粧品及び飲食品が含まれる。
外用の医薬品、医薬部外品及び化粧品は、その形態によっても異なるが、硬膏、軟膏、クリーム、リニメント、ローション、乳液、液、エアゾール等の形態を有する場合、当該外用医薬部外品及び化粧品を被験者の所望の部位の皮膚に塗布または噴霧することによって使用することができる。また外用の医薬品、医薬部外品及び化粧品がパップ剤の形態を有する場合、当該外用の医薬品、医薬部外品及び化粧品を被験者の所望の部位の皮膚に貼付することによって使用することができる。皮膚への適用は、1日1回または複数回行ってよく、例えば朝と晩(寝る前)に適用する方法を挙げることができる。
飲食品には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、及び液剤(ドリンク剤)など製剤形態を有するサプリメント、並びに機能性表示食品及び特定保健用食品が含まれる。服用は、1日に1回または複数回行ってよく、例えば朝と晩(寝る前)に服用する方法を挙げることができる。
斯くして加齢または紫外線照射による肌劣化症状(特に肌老化症状)の発生を抑制し(予防)、また改善することが可能になる。
以下、本発明を実験例及び実施例に基づいて説明する。但し、当該実験例及び実施例は、本発明の一例であり、本発明はこれらの実験例や実施例に制限されるものではない。
実験例1 HAS2mRNA発現促進作用評価試験
ヒネソールについて、以下のようにしてヒアルロン酸合成酵素mRNA発現促進作用を試験した。ヒネソールは、SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGYから購入した。
(1)細胞培養と試料の添加
0.5%FBS(ウシ胎児血清(Fetal bovine serum)、GIBCO社製)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium、GIBCO社製)培地を用いて、直径35mmディッシュ5枚に、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績株式会社製)を、それぞれ2×105個となるように播種し、37℃、5%CO2の下で一晩培養した。
また、ヒネソールを、各0.1、0.2,及び0.4mg/mLの濃度になるようにDMSOとPBSの混合液(容量比50:50)に溶解し、さらにこれを、0.5%FBSを含むDMEM培地に、当該培地量の1/100量になるように溶解し、これらをそれぞれ実施例1〜3の被験試料(被験試料1〜3)とした。また、対照例1として、0.5%FBSを含むDMEM培地に、ヒネソールを溶解しないDMSOとPBSの混合液(容量比50:50)を、培地量の1/100量になるように添加した試料(対照試料1)を準備した。
ヒト皮膚線維芽細胞の培養から24時間後、被験試料1〜3または対照試料1を、それぞれ上記の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種したディッシュに2 mLずつ添加し、37℃で、5%CO2の下でさらに24時間培養した。
培養終了後、総RNAを抽出した。総RNAの抽出は、ディッシュから培地を吸引除去した後、Rneasy Mini Kit(QIAGEN製)を用いて、当該キットの操作マニュアルに従って行った。
(2)cDNAの合成
cDNAの合成は、cDNA合成キット(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit,ライフテクノロジーズ社製)及びマスターサイクラー(ep realplex,エッペンドルフ社製)を使用して行った。具体的には、上記抽出により得られた総RNA(40ng/μL)を、被験試料1〜3及び対照試料1をそれぞれ10μLずつ用いて、cDNA合成キットの使用マニュアルに従って反応液を調製し、マスターサイクラーにより25℃で10分間、37℃で120分間、85℃で5分間反応させ、HAS2mRNA発現量を測定するリアルタイムPCRの鋳型に使用するcDNAを合成した。
(3)サイバーグリーン法を用いたリアルタイムPCR反応
HAS2遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを使用した。
センスプライマー:5’-ACAGACAGGCTGAGGACGACTT-3’(配列番号1)
アンチセンスプライマー: 5’-AAGCAGCTGTGATTCCAAGGA-3’(配列番号2)
また、内部標準としてのGAPDH遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを使用した。
センスプライマー:5’-CCCATGTTCGTCATGGGTGT-3’(配列番号3)
アンチセンスプライマー:5’-TGGTCATGAGTCCTTCCACGATA-3’(配列番号4)
被験試料1〜3及び対照試料1のそれぞれについて、培養細胞から調製したcDNAについて、上記プライマーセットを使用して、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 FastリアルタイムPCRシステム,ライフテクノロジーズ社製)及びリアルタイムPCRキット(Fast SYBR Green Master Mi、ライフテクノロジーズ社製)によりリアルタイムPCR反応を行った。反応は、95℃で20秒間保温の後、95℃で3秒間、60℃で30秒間の反応を40サイクル繰り返し、1サイクルごとのサイバーグリーン色素の発光量を測定した。
(4)解析
各サイクルごとのサイバーグリーン色素の発光量にもとづいて、HAS2及びGAPDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成し、GAPDHを内部標準遺伝子として、比較Ct法(ΔΔCt法)を用いて上記発光量を相対的に定量した(Applied Biosystems User Bulletin #2.11−15,2001参照)。
以上の試験を、被験試料1〜3(実施例1〜3)及び対照試料1(対照例1)について、それぞれ3回行った。そして、対照試料1(ヒネソールを含有しない対照)のHAS2mRNA発現量の平均値を基準(100とする)とし、被験試料1〜3におけるHAS2mRNA発現量の換算値にもとづいて、HAS2mRNA発現量(相対値)を算出した。結果を表1に示す。同表において、各実施例のHAS2mRNA発現量は、それぞれ3回の試験を実施して得られた平均値を示している。
Figure 2018052843
表1に示すように、試料添加濃度が0μg/mLの場合(対照例1)のHAS2mRNA発現量を100%とすると、試料添加濃度が1μg/mLの場合のHAS2mRNA発現量は144%、試料添加濃度が2μg/mLの場合のHAS2mRNA発現量は152%、試料添加濃度が4μg/mLの場合のHAS2mRNA発現量は356%であった。これらの結果から、ヒト皮膚線維芽細胞にヒネソールを作用させることで、用量依存的にヒアルロン酸合成酵素のmRNA発現が促進されることが判明した。特に、ヒネソール1μg/mL以上の濃度で有意にHAS2mRNA発現を促進することが認められた。
実験例2 ヒアルロン酸産生促進作用評価試験
ヒネソール(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY製)について、以下のようにしてヒアルロン酸産生促進作用を試験した。
(1)細胞培養と試料の添加
0.5%FBS(ウシ胎児血清(Fetal bovine serum)、GIBCO社製)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium、GIBCO社製)培地を用いて、24ウェルプレートに、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績株式会社製)を、それぞれ1ウェルあたり8×104個となるように播種し、37℃、5%CO2の下で一晩培養した。
また、ヒネソールを、各0.1、0.4、及び0.8mg/mLの濃度になるようにDMSOとPBSの混合液(容量比50:50)に溶解し、さらにこれを、0.5%FBSを含むDMEM培地に、当該培地量の1/100量になるように溶解し、これらをそれぞれ実施例4〜6の被験試料(被験試料4〜6)とした。また、対照例2として、0.5%FBSを含むDMEM培地に、ヒネソールを溶解しないDMSOとPBSの混合液(容量比50:50)を、培地量の1/100量になるように添加した試料(対照試料2)を準備した。
ヒト皮膚線維芽細胞の培養から24時間後、被験試料4〜6または対照試料2を、それぞれ上記の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種したディッシュに500μLずつ添加し、37℃で、5%CO2の下でさらに48時間培養した。
(2)ヒアルロン酸の測定
培養終了後、被験試料4〜6及び対照試料2ごとに、培養上清を回収してプロナーゼ処理を行った後、ヒアルロン酸結合タンパクを用いたサンドイッチELISA法により、培養上清中のヒアルロン酸量を測定した。同時に細胞数を計測し、細胞当たり(1×104個当たり)のヒアルロン酸産生量を算出した。プロナーゼ処理、サンドイッチELISA法、及び細胞数の計測は、一般的な手法により行った。
以上の試験を、被験試料4〜6(実施例4〜6)及び対照試料2(対照例2)について、それぞれ3回行った。そして、対照例2(試料を含有しない対照)のヒアルロン酸産生量の平均値を基準とし、各実施例におけるヒアルロン酸産生量の換算値にもとづいて、ヒアルロン酸産生量を算出した。その結果を表2に示す。同表において、各実施例のヒアルロン酸産生量は、それぞれ3回の試験を実施して得られた平均値を示している。
Figure 2018052843
表2に示すように、ヒネソール添加濃度が0μg/mLの場合(対照例2)のヒアルロン酸産生量を100%とすると、ヒネソール添加濃度が1μg/mLの場合のヒアルロン酸産生量は115%、試料添加濃度が4μg/mLの場合のヒアルロン酸産生量は187%、試料添加濃度が8μg/mLの場合のヒアルロン酸産生量は213%であった。
これらの結果から、ヒト皮膚線維芽細胞にヒネソールを作用させることで、用量依存的にヒアルロン酸産生が促進され、その量が増加することが判明した。特に、ヒネソール.1μg/mL以上の濃度で有意に高いヒアルロン酸産生促進作用が認められた。なお、試験した濃度範囲内において細胞毒性は認められなかった。
以上の通り、本発明のHAS2mRNA発現促進剤、及びヒアルロン酸産生促進剤によれば、ヒト線維芽細胞におけるHAS2mRNAの発現を促進することができ、またヒト線維芽細胞にヒアルロン酸産生を大きく促進できることが明らかとなった。したがって、これらのHAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤を配合してなる組成物、特に皮膚外用剤によれば、ヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進することにより、皮膚の老化に伴う外観変化(肌劣化症状)を改善できることがわかる。
実験例3 使用感評価試験
表3に記載する組成からなるクリーム状の外用組成物(クリーム剤)を調製し、使用感(べたつき感、しっとり感)を評価した。なお、表3の組成の単位は「g」である。
使用感の評価は専門パネル10名で行った。具体的には、各クリーム剤の1回適量を上腕内側部に塗布し、塗った直後の使用感(べたつき感、しっとり感)を各自に下記の基準(5段階)に従って評価してもらい、10名の各2項目の合計スコアに基づいて3段階で総合評価を行った。
[べたつき感]
5:べたつかない
4:あまりべたつかない
3:どちらでもない
2:ややべたつく
1:べたつく。
[しっとり感]
5:良い
4:やや良い
3:どちらでもない
2:やや悪い
1:悪い。
[総合評価]
合計スコアが
○:80以上100未満
△:60以上80未満
×:60未満。
結果を表3に纏めて示す。
Figure 2018052843
上記表3に示すように、クリーム等の乳化製剤に調製した場合、ヒネソールは、ソウジュツ50%エタノール抽出物と比較して、肌への馴染みがよく、しっとり感も高い一方、べたつき感が格段に少なく、使用感に優れていることが判明した。
(処方例)ヒネソールを用いたクリーム形態を有する皮膚外用剤
表4に記載する成分を配合混合して、クリーム形態を有する皮膚外用剤を調製する。当該皮膚外用剤は加齢又は紫外線照射による肌劣化症状を予防又は改善するために有用である。
Figure 2018052843
配列番号1はHAS2遺伝子増幅用のセンスプライマーの塩基配列、配列番号2はHAS2遺伝子増幅用のアンチセンスプライマーの塩基配列、配列番号3はGAPDH遺伝子増幅用のセンスプライマーの塩基配列、配列番号4はGAPDH遺伝子増幅用のアンチセンスプライマーの塩基配列を、それぞれ示す。

Claims (6)

  1. ヒネソールを有効成分とするヒアルロン酸合成酵素発現促進剤。
  2. ヒアルロン酸合成酵素がHAS2である請求項1記載のヒアルロン酸合成酵素発現促進剤。
  3. ヒネソールを有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤。
  4. ヒネソールを有効成分とする加齢又は紫外線照射による肌劣化症状を予防又は改善するための組成物。
  5. 上記肌劣化症状が加齢又は紫外線照射によるシワ、肌のたるみ、及び肌のハリ低下からなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、請求項4記載の組成物。
  6. 外用組成物である請求項4又は5に記載する組成物。
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