以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお図示及び理解を容易にするため、図面に示される各要素の縮尺及び縦横の寸法比等は、実物のそれらから変更され或いは誇張されて示されている箇所もある。
以下に説明する赤外線透過デバイス10は、後述の図3に示すように光学デバイス22を覆うように配置され、外部から光学デバイス22に向かって進行する光(赤外線L1)や光学デバイス22からの光(赤外線L2)が照射される。この赤外線透過デバイス10は、典型的にはシート形状を有するが具体的な形状や剛性は特に限定されず、例えば剛性に優れたプレート状に形成されてもよいし柔軟性に優れたフィルム状に形成されてもよく、また平面状に形成されてもよいし一部又は全部が湾曲していてもよい。また赤外線透過デバイス10によって覆われる光学デバイス22も特に限定されない。例えば赤外線透過デバイス10から向かってくる赤外線を受光するデバイスを光学デバイス22として使用してもよいし、赤外線透過デバイス10に向かって赤外線を発光するデバイスを光学デバイス22として使用してもよいし、赤外線の発光及び受光を行うデバイスを光学デバイス22として使用してもよい。
以下の説明では、まず本発明の代表的な実施形態について説明し(図1〜図7参照)、その後に他の実施形態、各要素の製造方法、及び各要素の具体的な構成例等を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外線透過デバイス10の平面図である。本例の赤外線透過デバイス10は、中央に形成される赤外線透過部12と、当該赤外線透過部12の周囲を囲む遮光部11とを有する。後述のように、赤外線透過部12は赤外線(特に近赤外線)を透過する構成を有する一方で、遮光部11は赤外線(特に近赤外線)を遮断する構成を有する。また本例の遮光部11及び赤外線透過部12は、両者とも可視光線(特に380nm(ナノメートル)よりも大きく780nmよりも小さい波長を持つ光)をほとんど透過しない或いは全く透過しない。
図2は、赤外線透過デバイス10の断面構成例を示す図である。本例の赤外線透過デバイス10は、相互に対向する第1面13及び第2面14を有する透光性基材1と、透光性基材1の第1面13側に設けられる赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3とを有する。
後述のように(図4及び図5参照)、透光性基材1は、可視光線の波長域の光及び赤外線の波長域の光に対する透過率が高い部材によって構成される。一方、赤外線透過部材2は赤外波長域の光を大幅に透過させるのに対し、赤外線非透過部材3は赤外波長域の光を透過させない或いはほとんど透過させない。
赤外線非透過部材3は、透光性基材1の第1面13のうちの一部を覆うように設けられる。一方、赤外線透過部材2は、透光性基材1の第1面13のうち少なくとも赤外線非透過部材3で覆われていない部分の全てを覆うように設けられる。本例では、透光性基材1の第1面13の全面に亘って赤外線透過部材2が透光性基材1上に積層され、赤外線透過部材2のうち透光性基材1の第1面13の周縁部に対応する箇所上に赤外線非透過部材3が積層される。このように透光性基材1と赤外線非透過部材3との間には、赤外線透過部材2が配置される。したがって本例の赤外線非透過部材3は、中央に形成される開口部19を取り囲むように設けられ、赤外線透過部材2は、透光性基材1の第1面13のうち開口部19に対応する部分を含む領域(本例では全領域)を覆う。このように開口部19は、赤外線透過デバイス10の赤外線透過部12(図1参照)の位置に対応する。また本例のように、透光性基材1の第1面13のうち開口部19に対応する部分だけではなく、赤外線非透過部材3が配置される箇所に対応する部分にも赤外線透過部材2を配置することで、赤外線透過部材2が設けられる層位置では一様な光学特性が実現され、赤外線の透過時の乱れを抑えることができる。
なお、赤外線を遮断する役割を果たす赤外線非透過部材3の配置位置は特に限定されず、周縁部以外の位置に赤外線非透過部材3が配置されてもよい。後述の光学デバイス22(図3参照)に入射する赤外線及び/又は光学デバイス22から出射する赤外線の進行を適切に規制するように、光学デバイス22の配置及び赤外線の進行方向に応じた位置に赤外線非透過部材3は配置される。
赤外線非透過部材3が含有する具体的な要素は特に限定されないが、本例の赤外線非透過部材3の構成成分は以下の光学特性を持つように調整される。すなわち赤外線非透過部材3は、850nmの波長を持つ光及び940nmの波長を持つ光のうち少なくともいずれか一方の光の透過率が10%以下(より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下)となるように構成成分が調整される。ここで言う「透過率」は、赤外線非透過部材3の透過前後における光の強度(光強度)の比率を示し、「赤外線非透過部材3に入射する光(透過前)の光強度I1」に対する「赤外線非透過部材3から出射する光(透過後)の光強度I2」の割合(すなわち「I2/I1」)によって表される。なお、空気の透過率は100%とされている。上述の透過特性を有する赤外線非透過部材3は、赤外線波長域の光(特に850nmの光及び940nmの光のうちの少なくとも一方)をほとんど或いは全く透過させない。
850nmの波長及び940nmの波長は、各種機器において一般的に使用される赤外線(近赤外線)の波長として代表的な波長である。したがって本例のように850nm及び940nmのうちの少なくとも一方の波長の赤外線に対する透過率が低い赤外線非透過部材3を用いることで、各種機器に対して広く赤外線非透過部材3(赤外線透過デバイス10)を適用することができる。
また本例の赤外線非透過部材3は、380nmよりも大きく780nmよりも小さい波長を持つ光の透過率が1%以下(好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下)となるように構成成分が調整されている。ここで言う透過率は、380nmよりも大きく780nmよりも小さい波長に関する透過率の平均値ではなく、波長毎の透過率である。このような透過特性を有する赤外線非透過部材3は、可視光線波長域の光(少なくとも380nmよりも大きく780nmよりも小さい光)をほとんど或いは全く透過させない。
なお、赤外線非透過部材3の色は特に限定されないが、上述の光学特性を有する赤外線非透過部材3は典型的には黒色又は灰色を有する。また赤外線非透過部材3のうちの一部の色を他の部分の色と異ならせることもでき、ロゴなどの可視情報が赤外線非透過部材3に表されてもよい。
一方、赤外線透過部材2は、黒色顔料以外の着色顔料及び樹脂バインダ(例えば感光性樹脂バインダ)を含有する。赤外線透過部材2が含有するこれらの要素の具体的な構成は特に限定されないが、とりわけ以下の光学特性を持つように赤外線透過部材2の構成成分は調整される。すなわち赤外線透過部材2は、850nmの波長を持つ光及び940nmの波長を持つ光のうち少なくともいずれか一方の光の透過率が80%以上であり(より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり)、且つ、380nmよりも大きく780nmよりも小さい波長を持つ光の透過率が0.01%以下である。ここで言う「透過率」は、赤外線透過部材2の透過前後における光強度の比率を示し、「赤外線透過部材2に入射する光(透過前)の光強度I3」に対する「赤外線透過部材2から出射する光(透過後)の光強度I4」の割合(すなわち「I4/I3」)によって表される。なお、空気の透過率は100%とされている。上述の透過特性を有する赤外線透過部材2は、赤外線波長域の光(特に850nmの光及び940nmの光のうちの少なくとも一方)を大幅に透過させるが、可視光線波長域の光(少なくとも380nmよりも大きく780nmよりも小さい光)をほとんど或いは全く透過させない。
なお赤外線透過部材2は、黒色顔料以外の着色顔料を少なくとも2種類含有することができる。赤外線透過部材2が複数種類の着色成分を含むことで、赤外線の透過性能を適切に確保しつつ赤外線透過部材2の色を柔軟に調整することができる。例えば、赤外線透過部材2の色を赤外線非透過部材3の色と同一又は類似の色に調整することで、赤外線透過部材2と赤外線非透過部材3との境界が目立たなくなる。また赤外線透過部材2の色を赤外線非透過部材3の色と異ならせることによって、赤外線透過部12を赤外線透過窓として積極的に目立たせることができる。また赤外線透過部材2のうちの一部の色を他の部分の色と異ならせることもでき、ロゴなどの可視情報が赤外線透過部材2に表されてもよい。
このように、赤外線透過デバイス10のうち透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3が積層する周縁部が図1に示す遮光部11を構成する一方で、透光性基材1及び赤外線透過部材2のみが積層して赤外線非透過部材3が存在しない中央部が図1に示す赤外線透過部12を構成する。赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の各々の厚みは特に限定されないが、段差を低減する等の観点からは赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の厚みは小さい方が好ましい。例えば、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の各々の厚みを0.2〜3μm(マイクロメートル)にすることもでき、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の厚みの合計を5μm以下とすることも可能である。なお、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の具体例の詳細については、後述する。
また本例の赤外線透過デバイス10は、図2に示すように、透光性基材1の第2面14側に設けられる保護部16及び光学機能部18を更に備える。保護部16は、透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3を保護するための部材であり、例えば強化ガラス等の剛性率の高い部材や弾性率の高い部材によって好適に構成される。光学機能部18は、任意の光学機能を赤外線透過デバイス10に付与するための部材によって構成され、典型的には反射防止機能や防眩機能を発揮する構成を有することができ、また所望の色を有する加飾フィルムによって構成されてもよい。
なお保護部16及び光学機能部18のうちの少なくともいずれか一方は省略されてもよいし、保護部16及び光学機能部18は必ずしも別部材として構成される必要は無く、所望の保護機能と光学機能とを併せ持つ一体的な部材(層構成)によって保護部16及び光学機能部18が構成されてもよい。例えば、防眩機能を有する強化ガラス(AG−Glass:Anti−Glare Glass)によって保護部16を構成してもよく、反射防止機能(AR:Anti−Reflection)或いは低反射機能(LR:Low−Reflection)を光学機能部18に持たせてもよい。また防眩機能を有する強化ガラスに反射防止膜(ARフィルム)を蒸着した一体構成のAG−AR強化ガラス(或いはAG−LR強化ガラス)を、保護部16及び光学機能部18として透光性基材1の第2面14側に設けてもよい。
図3は、光学ユニット20の一例を示す断面図である。本例の光学ユニット20は、透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体に対して保護部16及び光学機能部18が接合されることで構成される赤外線透過デバイス10と、当該赤外線透過デバイス10によって覆われる光学デバイス22とを備える。
光学デバイス22は、赤外線透過デバイス10を透過した赤外線L1の受光及び赤外線透過デバイス10に向けた赤外線L2の発光のうちの少なくともいずれか一方を行う。典型的には、赤外線エミッタ(例えばLED(Light Emitting Diode)或いは赤外線信号送信部等)や赤外線レシーバ(例えば赤外線カメラ、赤外線センサ(人感センサ等)、或いは赤外線信号受信部等)によって光学デバイス22が構成され、赤外線の発光及び受光を行う複数の装置の組み合わせ或いは単一装置によって光学デバイス22を構成することができる。なお、赤外線エミッタから出力される赤外線の光強度は特に限定されず、また赤外線レシーバが受光可能(感光可能)な波長域も所望の赤外線波長域の少なくとも一部が含まれていれば特に限定されない。
赤外線透過デバイス10の遮光部11(図1参照)を構成する赤外線非透過部材3は、赤外線を実質的に透過させないため、光学デバイス22によって受光される赤外線L1や光学デバイス22から出光する赤外線L2は、赤外線非透過部材3が設けられていない箇所(本例では開口部19)を通過する。このように本例の光学ユニット20では、赤外線非透過部材3側が、光学デバイス22が配置される赤外線透過デバイス10の内側に対応し、光学機能部18側が、赤外線透過デバイス10の外側に対応する。
上述のように本例の赤外線透過部材2は可視光線(少なくとも380nmよりも大きく780nmよりも小さい波長を持つ光)をほとんど或いは全く通過させないため、可視光線は、光学ユニット20(赤外線透過デバイス10)の内側と外側との間で遮断される。そのため外側から光学ユニット20を観察するユーザ50には、開口部19を通過した赤外線は届くが、開口部19を通過した可視光線は届かず、また赤外線透過デバイス10の外側からの可視光線は光学ユニット20(赤外線透過デバイス10)の内側には届かない。したがって、ユーザ50は光学ユニット20(赤外線透過デバイス10)の内側の構成を視認することができず、光学ユニット20の内部構成(光学デバイス22等)を赤外線透過デバイス10によってユーザ50から隠すことが可能である。
図4は、透光性基材1(符号「A」参照)及び赤外線透過部材2(符号「B」参照)の光透過率の一例を示すグラフであり、横軸は光の波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示す。なお図4に示すグラフは、本件発明者が、実際に作製した透光性基材1(ポリカーボネート製)及び赤外線透過部材2に各種波長を照射して光検出器によって光強度を計測することで得られたグラフである。
本例の透光性基材1は、図4の符号「A」で示されているように、可視光線の波長域(図1に示す例では概ね380nm以上の波長域)及び赤外線の波長域の光に対し、概ね90%前後の非常に高い透過率を示し、例えば700nmの光に対して91.3%の透過率を示し、950nmの光に対して91.3%の透過率を示した。
一方、本例の赤外線透過部材2は、図4の符号「B」で示されているように、概ね780nm以下の波長域(図1に示す例では概ね320〜780nmの波長域)の光に対して0.001%以下の非常に低い透過率を示し、例えば700nmの波長の光に対して0.001%の透過率を示した。一方、概ね780〜850nmの波長域の光に対する赤外線透過部材2の透過率は波長の増加に伴って急激に増大し、赤外線透過部材2は、850nm以上の波長域の光に対して概ね90%前後の非常に高い透過率を示し、例えば950nmの波長の光(赤外線)に対する赤外線透過部材2の透過率は約95.0%であった。また本例の赤外線透過部材2の光学濃度(OD:Optical Density)の値は5.0であり、換算透過率は0.001%であった。
なお、後述の図7のグラフで示される染料インキ(市販品1)及び顔料インキ(市販品2)の赤外線透過率も、上述の赤外線透過部材2と同様の条件下で計測した。その結果、染料インキ(市販品1)及び顔料インキ(市販品2)の赤外線透過率は、本例の赤外線透過部材2の赤外線透過率よりも概ね低かった。例えば850nmの波長を有する光(赤外線)に関し、本例の赤外線透過部材2の透過率は約90.7%あるのに対し、染料インキ(市販品1)の透過率は約84.5%であり、顔料インキ(市販品2)の透過率は約44.2%であった。また940nmの波長を有する光(赤外線)に関し、本例の赤外線透過部材2の透過率は約93.9%あるのに対し、染料インキ(市販品1)の透過率は約89.0%であり、顔料インキ(市販品2)の透過率は約59.2%であった。
このように図4に示す光学特性を有する赤外線透過部材2は、可視光線の波長域の光をほぼ遮断する一方で、赤外線の波長域の光の大部分を透過することができる。
図5は、透光性基材1(符号「C」参照)及び赤外線非透過部材3(符号「D」参照)の光透過率の一例を示すグラフであり、横軸は光の波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示す。なお図5に示すグラフは、本件発明者が、実際に作製した透光性基材1(ガラス製)及び赤外線非透過部材3に各種波長を照射して光検出器によって光強度を計測することで得られたグラフである。
本例の透光性基材1は、図5の符号「C」で示されているように、可視光線の波長域(図1に示す例では概ね380nm以上の波長域)及び赤外線の波長域の光に関し、概ね90%前後の非常に高い透過率を示し、例えば700nmの光に関して92.0%の透過率を示した。
一方、本例の赤外線非透過部材3は、図5の符号「D」で示されているように、可視光線の波長域及び赤外線の波長域(図5に示す例では概ね320〜1300nmの波長域)の光に関して概ね1%未満の非常に低い透過率を示し、例えば950nmの波長の光(赤外線)に関する赤外線非透過部材3の透過率は0.27%であった。
このように図5に示す光学特性を有する赤外線非透過部材3は、可視光線の波長域の光及び赤外線の波長域の光の大部分を遮断することができる。
図6は、図4に示す透過率特性を有する赤外線透過部材2の「紫外線照射後の光の透過率と紫外線照射前の光の透過率との差」を示すグラフであり、横軸は光の波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)の変化量を示す。ここで言う「紫外線照射前の光透過率」は、赤外線透過部材2に対して紫外線を照射する前における赤外線透過部材2の光の透過率を示し、「紫外線照射後の光の透過率」は、赤外線透過部材2に対して紫外線を所定時間(本例では70時間)照射した後における赤外線透過部材2の光の透過率を示す。また図6の縦軸の「透過率変化量」は、「透過率変化量=(紫外線照射後の光の透過率)−(紫外線照射前の光の透過率)」で表される。
図6からも明らかなように、本例の赤外線透過部材2は紫外線の照射前後において光の透過率がほとんど変化せず、透過率変化量は概ね「−1%」〜「+1%」(図6に示す例では「−0.5%」〜「+0.5%」)の狭い範囲に含まれていた。したがって本例の赤外線透過部材2は優れた紫外線耐性を有し、耐劣化性能が高いことが分かる。
このような高い耐劣化性能は、赤外線透過部材2が含有する着色顔料によるところが大きい。本件発明者は、着色顔料の代わり着色染料を含有する赤外線透過部材に対しても、図6に示す例と同様の条件で紫外線を照射して透過率変化量を計測した。そのような着色染料を含有する赤外線透過部材の透過率変化量は図6に示す赤外線透過部材2の透過率変化量と比べて変動が非常に大きく、例えば735nmの光に対する透過率変化量が「+5.2%」である一方で、805nmの光に対する透過率変化量が「−5.6%」であった。これは、染料は顔料よりも粒子径が小さくて壊れやすく、紫外線照射によって染料が分解するためであると考えられる。このように、図6に示す「着色顔料を含有する赤外線透過部材2」は、着色染料を含有する赤外線透過部材に比べ、紫外線耐性(耐光性)に優れていることが分かる。
図7は、図4に示す透過率特性を有する赤外線透過部材2、市販品の染料インキ(市販品1)及び市販品の顔料インキ(市販品2)に関する光学濃度と赤外線透過率の関係を示すグラフである。図7の横軸は光学濃度値(OD値)を示し、縦軸は850nmの波長を有する光(赤外線)の透過率を示す。本例の染料インキ(市販品1)及び顔料インキ(市販品2)は一般に市販されている製品であり、実際に購入した製品を染料インキ(市販品1)及び顔料インキ(市販品2)として計測を行った。また図4に示す透過率特性を有する本実施形態に係る赤外線透過部材2に含まれる顔料はカラーフィルタ用顔料であり、図4に示す透過率特性を持つように各種顔料(具体的には赤色顔料、青色顔料及び黄色顔料)の配合が調整された。一方、顔料インキ(市販品2)はシルクスクリーン印刷用の顔料であり、顔料インキ(市販品2)に関する顔料の配合調整は行わなかった。顔料インキ(市販品2)を観察したところ、顔料インキ(市販品2)に含まれる顔料は比較的凝集しており、少なくとも図4に示す透過率特性を有する本実施形態に係る赤外線透過部材2より顔料の分散度は低かった。なお本実施形態に係る赤外線透過部材2が含有する顔料の分散度は任意の方法で調整可能であり、例えば顔料の特性(表面特性)や樹脂バインダの特性を調整することで顔料の分散度を適宜調整することが可能である。
図7に示すグラフからも、市販品の染料インキ(市販品1)や顔料インキ(市販品2)に比べ、本実施形態に係る赤外線透過部材2は赤外線透過特性に優れていることが分かる。例えば、本実施形態に係る赤外線透過部材2の赤外線透過率は、OD値が同じであれば、染料インキ(市販品1)及び顔料インキ(市販品2)の赤外線透過率よりも高い。一例として、OD値が5.0の場合、本実施形態に係る赤外線透過部材2の赤外線透過率は約90.9%であったのに対し、染料インキ(市販品1)の赤外線透過率は約84.5%であり、顔料インキ(市販品2)の赤外線透過率は約44.2%であった。また本実施形態に係る赤外線透過部材2の「OD値の変化に伴う赤外線透過率の変化量」は、染料インキ(市販品1)及び顔料インキ(市販品2)の「OD値の変化に伴う赤外線透過率の変化量」よりも小さく、赤外線透過部材2は安定的に高い赤外線透過率を示すことが分かる。このように、通常のインキ(特に顔料インキ(市販品2))はOD値を大きくして可視光の隠蔽性を高くすると赤外線の利用効率が悪くなるのに対し、本実施形態に係る赤外線透過部材2はOD値を大きくして可視光の隠蔽性を高くしても赤外線の利用効率はほとんど変わらない。したがって、赤外線透過デバイス10の内側の構成を外部から視認できないようにOD値が大きい赤外線透過部材2を利用しても、本実施形態によれば、赤外線を効率良く利用した計測等を行うことができる。なお2.0のOD値は1.0%の透過率に対応し、4.0のOD値は0.01%の透過率に対応し、5.0のOD値は0.001%の透過率に対応し、6.0のOD値は0.0001%の透過率に対応する。
以上説明したように、本実施形態の赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20(特に赤外線透過部材2)は、着色顔料を含有することで優れた耐劣化性能(耐光性)を示すだけではなく、適切に可視光線を遮断しつつ赤外線を透過させる優れた赤外線透過性能及び可視光線遮断性能を示す。したがって本実施形態の赤外線透過デバイス10は、ユーザによって視認されないように光学デバイス22を適切に隠すことができる一方で、赤外線を利用する光学デバイス22の適切な作動環境を確保することができ、さらに紫外線に晒される環境下でも性能の経時劣化を抑えて安定的且つ継続的に使用できる。
また、赤外線透過デバイス10(特に赤外線透過部12(赤外線透過部材2))によって光学デバイス22をユーザから視覚的に隠すことが可能であるため、光学ユニット20の設計の自由度が高く、優れたデザインの光学ユニット20(赤外線透過デバイス10)を提供することも可能である。例えば、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の両方を同色(例えば黒色)とすることで、赤外線透過デバイス10は、隣接して配置される他の部材との間で色に関する調和をとりやすく、システム全体の外観が赤外線透過デバイス10によって損なわれることを効果的に防ぐことができる。また、本例のように可視光線を透過させない赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3を用いることで、外側から視認されることが好ましくない配線等を、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の背後(すなわち光学ユニット20(赤外線透過デバイス10)の内側)に配置して隠すことも可能である。
また、透光性基材1と赤外線非透過部材3との密着性があまり良好でない場合であっても、本例のように透光性基材1と赤外線非透過部材3との間に赤外線透過部材2を介在させることで、透光性基材1に対する赤外線非透過部材3の固定性能を向上させることも可能である。
<他の実施形態>
本発明を適用可能な赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20は、上述の例に限定されず、種々の変形が上述の赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20に加えられてもよい。
例えば、透光性基材1に対する赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の配置は上述の例には限定されない。
図8は、赤外線透過デバイス10の一変形例を示す断面図である。本変形例では、赤外線透過部材2が、透光性基材1と赤外線非透過部材3との間に配置されないように設けられる。すなわち、赤外線非透過部材3は透光性基材1の第1面13に直接的に接合され、赤外線非透過部材3に形成される開口部19(図2参照)に赤外線透過部材2が充填される。したがって、主として透光性基材1及び赤外線非透過部材3によって遮光部11が構成され、透光性基材1及び赤外線透過部材2によって赤外線透過部12が構成される。なお赤外線透過部材2は、赤外線非透過部材3の上(すなわち遮光部11)に設けられてもよいし、設けられなくてもよい。本変形例の赤外線透過デバイス10によれば、透光性基材1と赤外線非透過部材3との間に赤外線透過部材2が介在しないため、赤外線透過デバイス10を薄くして簡素な構成の赤外線透過デバイス10を実現することができる。
上述のように、赤外線非透過部材3が開口部19を有する場合、赤外線透過部材2は、透光性基材1の第1面13のうち少なくとも開口部19に対応する部分を覆いさえすれば、第1面13の全てを覆ってもよいし(図2及び図3参照)、第1面13の一部のみを覆ってもよい(図8参照)。また赤外線非透過部材3は開口部19を必ずしも有している必要は無い。そのような場合であっても、第1面13のうち少なくとも赤外線非透過部材3で覆われていない部分を覆うように赤外線透過部材2を設けることができる。また図示は省略したが、図8に示す赤外線透過デバイス10に対し、保護部16及び/又は光学機能部18(図2及び図3参照)が取り付けられてもよい。
また透光性基材1、赤外線透過部材2、赤外線非透過部材3、保護部16及び光学機能部18の各々は、単一層によって形成されてもよいし、複数層によって形成されてもよい。また透光性基材1、赤外線透過部材2、赤外線非透過部材3、保護部16及び光学機能部18の各々の間には、粘着層や接着層等の他の部材が設けられてもよい。また、光学ユニット20に設けられる光学デバイス22の数や配置も上述の例には限定されない。
図9は、光学ユニット20の一変形例を示す断面図であり、複数の光学デバイスが設けられる光学ユニット20の一例を示す。本変形例では、光学デバイスとして赤外線エミッタ22a及び赤外線レシーバ22bが設けられ、赤外線エミッタ22a及び赤外線レシーバ22bの両者が赤外線透過デバイス10によって覆われる。具体的には、赤外線透過デバイス10の周縁部に赤外線非透過部材が配置される(図9に示す符号「3a」及び「3c」参照)とともに、赤外線透過デバイス10の中央部にも赤外線非透過部材が配置される(図9に示す符号「3b」参照)。赤外線エミッタ22aは、出射する赤外線Lが主として赤外線透過デバイス10の周縁部に配置される一方の赤外線非透過部材3aと中央部に配置される赤外線非透過部材3bとの間を通過するような位置(図9に示す例では赤外線非透過部材3a、3b間の開口部19に対応する位置)に配置される。また赤外線レシーバ22bは、受光する赤外線Lが主として赤外線透過デバイス10の周縁部に配置される他方の赤外線非透過部材3cと中央部に配置される赤外線非透過部材3bとの間を通過するような位置(図9に示す例では赤外線非透過部材3b、3c間の開口部19に対応する位置)に配置される。
図9に示す光学ユニット20によれば、赤外線エミッタ22aから発せられた赤外線Lは主として「周縁部に配置される一方の赤外線非透過部材3aと中央部に配置される赤外線非透過部材3bとの間の開口部19」を通過して赤外線透過デバイス10から出射する。一方、赤外線レシーバ22bが受光する赤外線Lは、主として「周縁部に配置される他方の赤外線非透過部材3cと中央部に配置される赤外線非透過部材3bとの間の開口部19」を通過して赤外線レシーバ22bに到達する。このように、対象に向かって赤外線Lを発しつつ対象で反射した赤外線Lを受光するタイプの光学デバイスに対しても、本発明に係る赤外線透過デバイス10は適用可能である。なお本変形例においても赤外線非透過部材3a、3b、3cは、赤外線エミッタ22aから出射する赤外線の進行方向及び赤外線レシーバ22bに入射する赤外線の進行方向を規制する役割を果たす。したがって赤外線エミッタ22aからの赤外線が意図しない方向へ進行しないように、また意図しない方向からの赤外線を赤外線レシーバ22bが受光しないように、赤外線非透過部材3a、3b、3cの具体的な配置位置が決められる。
<赤外線透過デバイス10の製造方法>
上述の赤外線透過デバイス10の製造方法は特に限定されず、任意の手法に基づいて赤外線透過デバイス10を製造することができる。以下、赤外線透過デバイス10の製造方法の典型例について説明する。
図10は、赤外線透過デバイス10の製造方法の一例を説明するための図であり、透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体と、保護部16と、及び光学機能部18との斜視図を示す。本例では、まず、一体的に設けられた透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体が作られ、その後、当該積層体(特に透光性基材1の第2面14)に対し、粘着層或いは接着層を介して保護部16及び光学機能部18が取り付けられる。
透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体を製造する方法は特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィ技術、シルクスクリーン技術、及びインクジェット技術を好適に利用することができる。例えばフォトリソグラフィ技術を利用する場合、図2に示す積層体は、透光性基材1の第1面13上に赤外線透過部材2を積層し、当該赤外線透過部材2上に赤外線非透過部材3を積層し、マスクを使って開口部19に対応する部分の赤外線非透過部材3を除去することで製造できる。また、フォトリソグラフィ技術を利用して図8に示す積層体を製造する場合、透光性基材1の第1面13上に赤外線非透過部材3を積層し、マスクを使って開口部19に対応する部分の赤外線非透過部材3を除去し、開口部19に赤外線透過部材2を充填して透光性基材1の第1面13上に赤外線透過部材2を積層することで積層体を製造できる。
シルクスクリーン技術及びインクジェット技術を利用して透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体を製造する場合も同様に、透光性基材1の第1面13上に赤外線透過部材2を積層し、赤外線透過部材2上に赤外線非透過部材3を積層することで図2に示す積層体を製造でき、また透光性基材1の第1面13上に赤外線非透過部材3を積層した後に赤外線透過部材2を積層することで図8に示す積層体を製造できる。なお、グラビア印刷技術やオフセット印刷技術を応用して透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体を製造する手法も考えられるが、グラビア印刷技術に基づく製造方法では赤外線透過部材2が含有する顔料の粒径に制限があり、またオフセット印刷技術に基づく製造方法では有機溶剤を使うことが難しい。したがってグラビア印刷技術やオフセット印刷技術を応用して透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体を製造する手法は、各技術の使用条件を満たす場合にのみ使用可能である。
なおフォトリソグラフィ技術はスクリーン印刷技術に比べて、膜厚を薄くすることができ、例えば3μm以下の厚みの膜(赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3)を容易に形成できる。赤外線透過部材2と赤外線非透過部材3との間の境界部分の厚みや、赤外線透過デバイス10全体の厚みを小さくすることが求められている場合には、フォトリソグラフィ技術に基づく製造方法は好ましい。
一方、保護部16及び光学機能部18の製造方法も特に限定されない。典型的には、保護部16及び光学機能部18を一体的に設けた後に、透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の積層体(特に透光性基材1の第2面14)に一体構成の保護部16及び光学機能部18を貼り付けることで赤外線透過デバイス10を製造できる。光学機能部18を蒸着等によって保護部16に直接的に形成できる場合には、保護部16に光学機能部18を直接的に形成してもよい。また赤外線透過デバイス10は、保護部16及び/又は光学機能部18を必ずしも含んでいなくてもよい。保護部16が省略される場合、積層体(特に透光性基材1の第2面14)に対して直接的に、光学機能部18を貼り付けたり、蒸着等によって光学機能部18を形成してもよい。
また、赤外線透過デバイス10は一つずつ製造してもよいし、複数の赤外線透過デバイス10を一度に製造してもよい。
図11は、赤外線透過デバイス10の製造方法の一例を説明するための図であり、複数の赤外線透過デバイス10を一度に製造するケースを示す。本例では、1枚の透過デバイスシート30に、複数(図11に示す例では3×4=12個)の赤外線透過デバイス10が形成される。この透過デバイスシート30から個々の赤外線透過デバイス10を切り離すことにより、複数の赤外線透過デバイス10を一度に効率良く得ることができる。
なお、透光性基材1が剛性の大きい比較的丈夫な部材(例えばポリカーボネートやガラス等)によって構成される場合、透過デバイスシート30の支持部材として透光性基材1を活用してもよい。この場合、透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3のみによって透過デバイスシート30を構成してもよいし、透光性基材1、赤外線透過部材2、赤外線非透過部材3及び保護部16のみによって透過デバイスシート30を構成してもよいし、透光性基材1、赤外線透過部材2、赤外線非透過部材3、保護部16及び光学機能部18のみによって透過デバイスシート30を構成してもよいし、透光性基材1、赤外線透過部材2、赤外線非透過部材3及び光学機能部18のみによって透過デバイスシート30を構成してもよい。
図12は、赤外線透過デバイス10の製造方法の一例を説明するための図であり、複数の赤外線透過デバイス10を一度に製造するケースを示す。透光性基材1が柔軟性に富み透過デバイスシート30がフィルム状の場合、図12に示すように、剛性の大きい比較的丈夫なシート状の支持基板32上にフィルム状の透過デバイスシート30を形成してもよい。剛性に優れた支持基板32上にフィルム状の透過デバイスシート30を形成することで、透過デバイスシート30のハンドリング性や可搬性を向上させることができる。
<赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20の応用分野>
上述の赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20は、赤外線を利用する光学デバイスに対して広く適用することができ、応用分野は特に限定されない。典型的には、車両(カーナビゲーションシステム等の車載デバイスを含む)、携帯型装置(携帯電話、スマートフォン、ウエアラブルデバイス、デジタルカメラ、電子手帳、タブレット型端末及びパソコンなど)、ゲーム機器、自動券売機、ATM(Automated Teller Machine)端末、及びPOS(Point Of Sale)端末等に、赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20が適用されてもよい。
具体的には、赤外線を使ってユーザ等の検知対象の状態、姿勢或いは挙動を検知し当該検知結果に応じて特定の作動や情報処理を行う機器類、赤外線を使って周辺における状況(例えば人や障害物の有無)を検知する機器類、及び赤外線を使って通信を行う機器類等に、赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20を適用することができる。また赤外線透過デバイス10及び光学ユニット20は、タッチパネル等の他の機能デバイスと組み合わされてもよい。
<透光性基材1の具体例>
透光性基材1は、少なくとも赤外光を透過するものであれば、特に限定されない。代表的にはガラス板を透光性基材1として用いることができ、特に化学強化ガラスは、フロートガラスに比べて機械的強度に優れて薄く形成できるので、透光性基材1の構成部材として好ましい。化学強化ガラスは、典型的には、ナトリウムをカリウムに代えるなどイオン種を一部交換する化学的な方法によって、機械的物性を強化したガラスである。図2及び図3に示す例では、透光性基材1が化学強化ガラスであっても、赤外線透過部材2を、赤外線非透過部材3と透光性基材1との間に配置される密着強化層(下地)として機能させることで、透光性基材1に対する赤外線非透過部材3の低密着性(特に高温高湿下での密着性の低下)を改善できる。また透光性基材1は樹脂によって構成されてもよく、例えばアクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Polymethyl methacrylate)等)、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂などを透光性基材1に用いることができる。透光性基材1を樹脂によって構成することで、透光性基材1を軽量に構成できるだけではなく、優れた可撓性を持った透光性基材1を実現することも可能である。
<赤外線透過部材2の具体例>
赤外線透過部材2は、上述のように、黒色顔料以外の着色顔料及び樹脂バインダを含有しており、1種類又は2種類以上の着色顔料を含有しうる。したがって赤外線透過部材2は、例えば赤色、黄色及び青色の3種類の顔料を含んでいてもよいし、これらの3種類の顔料のうちの2種類を含んでいてもよいし、他の色の顔料(例えば緑色顔料や紫色顔料など)を含んでいてもよい。また赤外線透過部材2が複数種類の顔料を含む場合には、それぞれの顔料の含有比率は同じであってもよいし異なっていてもよい。したがって赤外線透過部材2は、例えば赤色、黄色及び青色の3種類の顔料を含むことで様々な色を呈することができ、例えば赤外線非透過部材3と同じ色(例えば黒色)を実現しつつ、所望の波長域の赤外線を透過させることもできる。
<赤外線透過部材2が含有する着色顔料>
本例の赤外線透過部材2は、黒色を呈する黒色顔料以外の着色顔料を含有する。ここで言う黒色顔料には、例えば、チタンブラック(低次酸化チタン及び酸窒化チタンなど)やカーボンブラックなどの無機系の黒色顔料が含まれる。赤外線透過部材2が含有する着色顔料として、チタンブラックやカーボンブラックなどの無機系の黒色顔料を用いずに、他の着色顔料(例えば赤色顔料、黄色顔料、青色顔料、緑色顔料及び紫色顔料など)を用いることで、赤外線透過部材2に対し、可視光線は遮蔽するが赤外線は透過する光学的特性を付与できる。
赤色顔料は、例えば、ジケトピロロピロール系、アントラキノン系、ペリレン系などの赤色顔料であり、黄色顔料は、例えば、イソインドリン系、アントラキノン系などの黄色顔料であり、青色顔料は、例えば、銅フタロシアニン系、アントラキノン系などの青色顔料であり、緑色顔料は、例えば、フタロシアニン系、イソインドリン系などの緑色顔料である。さらに具体例を示せば、ピグメントレッド254(PR254)などのジケトピロロピロール系の赤色顔料、ピグメントレッド177(PR177)などのアントラキノン系の赤色顔料、ピグメントイエロー139(PY139)などのイソインドリン系の黄色顔料、ビグメントブルーPB15:6(PB15:6)などの銅フタロシアニン系の青色顔料、などを用いることができる。また、紫色顔料では、ビグメントバイオレット23(PV23)などのキナクリドン系の紫色顔料を用いることができる。また、これらの色以外の着色顔料が赤外線透過部材2に含まれていてもよい。赤外線透過部材2が含有する着色顔料の粒子は、平均粒径が1μm以下であることが好ましく、おおよそ0.03〜0.3μmの平均粒径を有することがより好ましい。
赤外線透過部材2が含有する着色顔料の組み合わせとして、赤色着色顔料、黄色着色顔料、及び青色着色顔料の3種類の顔料の組み合わせは、黒色顔料を使わずに黒色を表現できる上、任意の幅広い有彩色も表現できるため好ましく、2種類の着色顔料の組み合わせでは表現できない色であっても表現可能である。また、上述のような3種類の着色顔料に加えて他の色の着色顔料(例えば紫色顔料)を赤外線透過部材2に含有させることで、赤外線透過部材2はより幅広い色を表現できる。
赤色着色顔料、黄色着色顔料及び青色着色顔料の組み合わせでは、例えば、赤色着色顔料としてはアントラキノン系の赤色顔料或いはジケトピロロピロール系の赤色顔料が好ましく、黄色着色顔料としてはイソインドリン系の黄色顔料が好ましく、青色着色顔料としては銅フタロシアニン系の青色顔料が好ましい。より具体的には、上述の3色の着色顔料の組み合わせでは、アントラキノン系の赤色顔料であるピグメントレッド177(PR177)が好ましく、ジケトピロロピロール系の赤色顔料であるピグメントレッド254(PR254)がより好ましく、イソインドリン系の黄色顔料であるピグメントイエロー139(PY139)が好ましく、銅フタロシアニン系の青色顔料であるビグメントブルーPB15:6(PB15:6)が好ましい。
なお、黒色以外の3色以上の着色顔料によって実現される黒色は、黒色顔料とは異なる色味(例えば反射色の色味)を有することができ、例えば青みを帯びた黒色や赤みを帯びた黒色などに赤外線透過部材2の色を調整可能である。
赤外線透過部材2の着色顔料の含有量は必要とされる可視光遮光性及び赤外光透過性に応じて左右されるが、着色顔料及び樹脂バインダを含む赤外線透過部材2の全固形分量に対する着色顔料の量を百分率で表すと、通常は10〜60%の顔料濃度であり、好ましくは20〜40%程度の顔料濃度である。言い換えると、赤外線透過部材2の全固形分100質量部に対して、赤外線透過部材2が含有する着色顔料は、通常は10〜60質量部の範囲に含まれ、好ましくは20〜40質量部の範囲に含まれる。ここで言う着色顔料の含有量は、赤外線透過部材2に含まれる着色顔料の総量であり、複数種類の顔料が含まれる場合には複数種類の顔料の合計量である。
赤外線透過部材2における着色顔料の含有量が上述の範囲を下回ると、赤外線透過部材2中の樹脂バインダの割合が増加し、とりわけ高温高湿下での赤外線透過部材2自体の密着性や赤外線透過部材2を介した透光性基材1と赤外線非透過部材3との密着性は改善される傾向があるが、可視光線の遮光性が低下し、赤外線透過部材2の膜厚を段差改善に効果のある5μm以下にすることが難しくなる。赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の膜厚に起因する段差は、光学特性を不均一にするだけではなく、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3に隣接して配線が設けられる場合にはそのような配線の断線をもたらす要因となりうる。一方、赤外線透過部材2における着色顔料の含有量が上述の範囲を上回ると、可視光性の遮光性は向上するが、とりわけ高温高湿下での赤外線透過部材2自体の密着性や赤外線透過部材2を介した透光性基材1と赤外線非透過部材3との密着性は低下する傾向がある。したがって、高水準の赤外線透過性能、密着性能及び可視光線遮光性能をバランス良く実現するには、赤外線透過部材2に含まれる着色顔料の含有量を上述の範囲に収めることが好ましい。
<赤外線透過部材2が含有する樹脂バインダ>
赤外線透過部材2において着色顔料を分散保持する樹脂バインダは、例えば感光性樹脂によって好適に構成可能であり、また他の特性を有する樹脂(例えば熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂)によって構成されてもよい。例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ桂皮酸ビニル系樹脂、及び環化ゴム等の反応性ビニル基などの光反応性基を有する感光性樹脂を1種以上用いて、赤外線透過部材2の樹脂バインダを構成することができる。赤外線透過部材2の樹脂バインダにアクリル系樹脂が含まれる場合、例えば、アルカリ可溶性樹脂、多官能アクリレート系モノマー、光重合開始剤及びその他の添加剤などを含む感光性樹脂を、樹脂バインダの樹脂成分として用いることができる。
赤外線透過部材2の樹脂バインダにアルカリ可溶性樹脂が含まれる場合、ベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体などのメタクリル酸エステル共重合体、及びビスフェノールフルオレン構造を有するエポキシアクリレートなどのカルド樹脂などを、1種以上用いることができる。赤外線透過部材2の樹脂バインダとして多官能アクリレート系モノマーを用いる場合、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを、1種以上用いることができる。なお、ここで言う(メタ)アクリレートとは、メタクリレート及びアクリレートのうちのいずれかであることを意味する。
赤外線透過部材2の樹脂バインダに光重合開始剤が含まれる場合、例えば、アルキルフェノン系、オキシムエステル系、トリアジン系、及びチタネート系などを、1種以上用いることができる。ここで言うアルキルフェノン系として、例えば、(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(イルガキュア(登録商標)907、BASFジャパン株式会社製))、及び2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モノフォリオフェニル)ブタノン−1(イルガキュア(登録商標)369、BASFジャパン株式会社製)を用いることができ、オキシムエステル系として、例えば1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−,2−(O−ベンゾイルオキシム)(イルガキュア(登録商標)OXE01、BASFジャパン株式会社製)を用いることができる。
赤外線透過部材2の樹脂バインダは、この他、光増感剤、分散剤、界面活性剤、安定剤、及びレベリング剤などの、公知の各種添加剤を含んでいてもよい。
<赤外線透過部材2の形成手法>
赤外線透過部材2の形成手法は特に限定されず、例えば、感光性樹脂の未硬化物を含む樹脂バインダ中に3種以上の着色顔料を含有する着色感光性樹脂組成物によって赤外線透過部材2を形成することができる。ここで言う着色感光性樹脂組成物は、さらに、この樹脂組成物を透光性基材1上に塗布する際の塗布適性調整などのための溶剤を含むことができる。当該溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルセロソルブ、及び3−メトキシブチルアセテート等を1種以上用いることができる。
また、上述の着色顔料、感光性樹脂の未硬化物、或いは着色顔料と感光性樹脂の未硬化物とを含む着色感光性樹脂組成物として、カラーフィルタ用途として調整された着色レジストが用いられてもよい。
着色感光性樹脂組成物を透光性基材1の面上に塗布する方法は特に限定されず、例えばスピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、スプレーコート法、或いはビードコート法などの公知の塗工法を利用できる。
例えば、着色感光性樹脂組成物を透光性基材1の面上に塗布した後、フォトリソグラフィ技術を用いて露光、現像及びベークなどの所定の工程を経てパターニングすることにより、透光性基材1の面上の所望箇所に、所定パターンの赤外線透過部材2を形成してもよい。
<赤外線非透過部材3の具体例>
図2及び図3に示す例では、赤外線非透過部材3及び赤外線透過部材2によって、可視光線及び赤外線に対して不透明な遮光部11が形成される。赤外線透過部材2は上述のように可視光線を遮光するため(図4の符号「B」参照)、図2及び図3に示す例では、赤外線非透過部材3が必ずしも可視光線に対する遮光性を持つ必要は無い。したがって赤外線非透過部材3は、可視光線に対する遮光性を持たず赤外線に対する遮光性を持つこともできる。また赤外線非透過部材3は、850nmの波長を持つ光及び940nmの波長を持つ光のうち少なくともいずれか一方の光の透過率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
このように赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3が積層される場合、所望の遮光性を赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の組み合わせによって実現することができる。したがって、赤外線非透過部材3自体の遮光性能を多少弱くしたり、赤外線非透過部材3の膜厚を薄くしたりできる。ただし、黒色の赤外線非透過部材3の場合、カーボンブラックやチタンブラックによって赤外線非透過部材3を構成可能であるが、膜厚が小さくても遮光性に優れた黒色顔料(例えばチタンブラック)を赤外線非透過部材3に含有させることで、膜厚が小さく且つ必要十分な遮光性を示す赤外線非透過部材3を実現することも可能である。例えば、膜厚が1.5μmで光学濃度値(OD値)が5.0(透過率で10万分の1、すなわち0.001%)の遮光性を有する赤外線非透過部材3を容易に実現できる。赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の組み合わせにより可視光線及び赤外線を遮光することが意図される場合に、当該組み合わせによって実現される遮光性は、要求仕様や表現色にもよるが、透過率で言えば大きくても3%以下(光学濃度値(OD値)で1.5以上)、より好ましくは透過率で1%以下(光学濃度値(OD値)で2.0以上)、さらに好ましくは透過率で0.01%以下(光学濃度値(OD値)で4.0以上)であることが望ましい。
なお、黒色顔料を含有する赤外線非透過部材3は、透光性基材1、特に化学強化ガラス製の透光性基材1に対して高温高湿下での密着性が低下する傾向がある。しかしながら、図2及び図3に示す例のように透光性基材1と赤外線非透過部材3との間に赤外線透過部材2を介在させることで、高温高湿下での密着性の低下を抑えることができる。また赤外線非透過部材3のみで黒色を表現する場合(例えば図8の「遮光部11」参照)には赤外線非透過部材3の反射率が高くなって太陽光下などでコントラストが損なわれる傾向があるが、図2及び図3に示す例のように透光性基材1と赤外線非透過部材3との間に赤外線透過部材2を介在させることで、反射を抑えて、太陽光下でも良好なコントラストを維持することが可能である。
このような赤外線非透過部材3の形成手法は特に限定されず、例えば、黒色顔料等の着色顔料を、感光性樹脂の硬化物からなる樹脂バインダ中に混在させることで赤外線非透過部材3を作ることができる。より具体的には、着色顔料と感光性樹脂の未硬化物とを含む着色感光性樹脂組成物を、透光性基材1の面上に塗布し、その後、所定のパターンで露光し、現像するという、フォトリソグラフィ技術により赤外線非透過部材3を形成できる。
感光性樹脂組成物を使ってフォトリソグラフィ技術に基づき形成される赤外線非透過部材3は、スクリーン印刷技術を使って形成される赤外線非透過部材3に比べ、膜厚を薄くでき、例えば5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1.5μm近辺の膜厚の赤外線非透過部材3を容易に作ることができる。膜厚の薄い赤外線非透過部材3は、赤外線非透過部材3の形成部と非形成部との境界に生じる段差を小さくできる点で好ましい。感光性樹脂組成物を用いてフォトリソグラフィ法で形成した赤外線非透過部材3の膜厚は、具体的には、0.2〜3μmとすることができる。しかも、赤外線非透過部材3を赤外線透過部材2と同じ色、例えば黒色とする場合でも、赤外線非透過部材3の膜厚を0.5μm以上にすることができ、そのような薄い赤外線非透過部材3であっても必要な遮光性を確保できる。赤外線非透過部材3を黒色とする場合、黒色の遮光性を考慮すると、赤外線非透過部材3の膜厚は0.5μm以上が好ましい。
赤外線非透過部材3は、上述のようにフォトリソグラフィ技術を使って好適に形成できるが、赤外線非透過部材3の形成手法はこれに限定されず、例えばスクリーン印刷技術やインクジェット技術が用いられてもよい。ただし、赤外線非透過部材3を高精度に薄く形成する場合には、フォトリソグラフィ技術が好ましい。
<赤外線非透過部材3が含有する着色顔料>
赤外線非透過部材3は、黒色を呈する黒色顔料及び黒色以外の着色顔料のいずれも含有しうる。黒色を呈する黒色顔料としては、例えば、チタンブラック(低次酸化チタン及び酸窒化チタンなど)及びカーボンブラックなどを用いることができる。チタンブラックは、カーボンブラックに比べ、同濃度及び同膜厚の条件下で可視光に対する遮光性が高く、同じ遮光性を実現する場合には膜厚を薄くして段差を小さくできる。赤外線非透過部材3が含有しうる黒色以外の着色顔料としては、例えば、赤色顔料、黄色顔料、青色顔料、緑色顔料、及び紫色顔料などがある。赤外線非透過部材3における着色顔料の含有量は、必要とされる可視光線及び赤外線に対する遮光性及び色にもよるが、着色顔料及び樹脂バインダを含む赤外線非透過部材3の全固形分量に対する着色顔料の量を百分率で表した顔料濃度で言えば、例えば10〜70%程度である。十分な遮光性を確保する観点からは、赤外線非透過部材3における顔料濃度はなるべく高い方が望ましい。
<赤外線非透過部材3が含有する樹脂バインダ>
赤外線非透過部材3において着色顔料を分散保持する樹脂バインダの樹脂成分としては、上述の赤外線透過部材2の樹脂バインダと同じ樹脂を用いることができ、例えば感光性樹脂を使用できる。
<可視情報>
赤外線透過デバイス10の遮光部11及び赤外線透過部12(図1参照)のうちのいずれか一方又は両方に、製品のロゴマーク等の可視情報が形成されてもよい。具体的には、透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3のうちのいずれか一つ又は複数の部材に可視情報が形成されてもよいし、保護部16及び/又は光学機能部18に可視情報が形成されてもよい。可視情報の具体的な態様は特に限定されず、例えば文字、記号及び模様などを用いたマークやパターンなどを可視情報として形成できる。可視情報は、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3の形成パターン及び非形成パターンとして形成可能であり、また透光性基材1、赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3とは色の異なるパターン層として形成可能である。色の異なるパターン層として可視情報を設ける場合、透光性基材1、赤外線透過部材2或いは赤外線非透過部材3と同様の材料及び方法を用いて可視情報を形成することができる。或いは、赤外線非透過部材3の裏側に、或いは、赤外線透過部材2と赤外線非透過部材3との間に、蒸着やスパッタ等の気相成長法で形成したアルミニウムなどの金属薄膜を用いて可視情報を形成することもできる。
なお可視情報が形成される部分は、必ずしも赤外線透過部材2及び赤外線非透過部材3による遮光性と同程度の遮光性を持つ必要は無い。例えば、裏面から照明される操作説明用の文字や記号など、暗所でも判別可能な可視情報が形成されてもよい。また赤外線透過部材2や赤外線非透過部材3によって外輪郭を画成されることによって認識可能となる可視情報のように、可視情報部分が周囲の部分より透過率が高い、典型的には透明な部分であるなど、遮光性が赤外線透過部材2よりも小さい領域が一部に存在してもよい。
本発明は、上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形が加えられた各種態様も含みうるものであり、本発明によって奏される効果も上述の事項に限定されない。したがって、本発明の技術的思想及び趣旨を逸脱しない範囲で、特許請求の範囲及び明細書に記載される各要素に対して種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。