以下、光学位相差部材及びその製造方法、並びにそれを用いたプロジェクタについて、図面を参照しながら説明する。
[光学位相差部材]
まず、光学位相差部材の製造方法により製造される光学位相差部材について説明する。図1(a)に示す光学位相差部材100は、断面が略台形状である凸部60から構成された凹凸パターン80を有する透明基体40と、凸部60の上面60t及び側面60sに形成された高屈折率層30と、凸部60の上面60t上の高屈折率層30上に形成された積層体20とを備える。隣り合う凸部60の対向する側面60s上に形成された高屈折率層30の間には、空気層90が存在する。
<透明基体>
図1(a)に示した光学位相差部材100において、透明基体40は、平板状の基材42と、凹凸構造層50から構成されている。
基材42としては特に制限されず、可視光を透過する公知の基材を適宜利用することができる。例えば、ガラス等の透明無機材料からなる基材;ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等)、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、スチレン系樹脂(ABS樹脂等)、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリイミド系樹脂(ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂等)、シクロオレフィンポリマー等の樹脂からなる基材などを利用することができる。光学位相差部材100をプロジェクタにおいて用いる場合、光学位相差部材100は高耐光性及び高耐熱性を有することが求められるため、基材42は耐光性及び耐熱性の高い基材であることが望ましい。この点で、無機材料からなる基材が好ましい。基材42上には密着性を向上させるために、表面処理や易接着層を設けるなどをしてもよい。また、基材42の表面の突起を埋めるために、平滑化層を設けるなどをしてもよい。基材42の厚みは、1μm〜20mmの範囲内であることが好ましい。基材42の凹凸構造層50が形成された面の反対側の面に透過率を改善するために単層ないしは複数層からなる反射防止層が設けられていてもよい。また、反射防止のためのサブ波長微細構造が設けられていてもよい。また、別の光学部材を基材40の凹凸構造層50が形成された面の反対側の面に接合(貼合)する場合、別の光学部材と基材40の界面での反射が小さくなるように、適当な屈折率を持つ接着剤、粘着剤、屈折液等で基材40と別の光学部材を接合してもよい。
凹凸構造層50は複数の凸部60及び凹部70を有し、それにより凹凸構造層50の表面が凹凸パターン80を画成する。凹凸構造層50は、波長550nmにおける屈折率(以下、適宜「屈折率」という)が1.2〜1.8の範囲内である材料から構成されることが好ましい。凹凸構造層50を構成する材料としては、例えば、シリカ、SiN、SiON等のSi系の材料、TiO2等のTi系の材料、ITO(インジウム・スズ・オキサイド)系の材料、ZnO、ZnS、ZrO2、Al2O3、BaTiO3、Cu2O、MgS、AgBr、CuBr、BaO、Nb2O5、SrTiO2等の無機材料を用いることができる。これらの無機材料は、ゾルゲル法等によって形成した材料(ゾルゲル材料)であってよい。上記無機材料のほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂;紫外線硬化型(メタ)アクリレート系樹脂、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂等の紫外線硬化型樹脂;これらを2種以上ブレンドした材料等の樹脂材料も用いることができる。さらに、上記樹脂材料に上記無機材料をコンポジット化した材料を用いてもよい。また、上記無機材料、上記樹脂材料ともに、ハードコート性等を得るために、公知の微粒子やフィラーを含んでいてもよい。さらに、上記の材料に紫外線吸収材料を含有させたものが用いられていてもよい。紫外線吸収材料は、紫外線を吸収し光エネルギーを熱のような無害な形に変換することにより、凹凸構造層50の劣化を抑制する作用がある。紫外線吸収剤としては、従来から公知のものが使用でき、例えば、ベンゾトリアゾール系吸収剤、トリアジン系吸収剤、サリチル酸誘導体系吸収剤、ベンゾフェノン系吸収剤等を使用できる。光学位相差部材100をプロジェクタにおいて用いる場合、凹凸構造層50は高い耐光性及び耐熱性を有することが望ましい。この点で、凹凸構造層50は無機材料から構成されることが好ましい。
凹凸構造層50の各凸部60は、図1(a)のY方向(奥行き方向)に延在しており、複数の凸部60は、設計波長(光学位相差部材100により位相差を生じさせる光の波長)より短い周期で配列されている。各凸部60の延在方向と直交するZX平面における断面は略台形状である。本願において「略台形状」とは、基材42の表面に略平行な一組の対辺を有し、該対辺のうち基材42の表面に近い辺(下底)が他方の辺(上底)よりも長く、下底と2つの斜辺のなす角がいずれも鋭角である略四角形を意味する。略四角形の各辺は湾曲していてよい。すなわち、各凸部60は、基材42の表面から上方(基材42の表面から離れる方向)に向かって幅(凸部60の延在方向に垂直な方向の長さ、すなわち図1(a)のx方向の長さ)が小さくなっていればよい。また、各頂点が丸みを帯びていてもよい。また、上底の長さが0であってもよい。つまり本願において「略台形状」は「略三角形状」も含む概念である。なお、上底の長さは0より大きいことが好ましい。上底が0より大きい略台形状の断面を有する凸部は、略三角形状の断面を有する凸部と比べて次のような利点がある。すなわち、凸部をインプリント法により形成するために用いるモールドの形成が容易であること、及び凸部の面押耐性などの機械強度が高いことである。
凸部60の高さ(凹凸高さ)は100〜2000nmの範囲内であることが望ましい。凸部60の高さが100nm未満であると、光学位相差部材100に可視光が入射した場合に所望の位相差を生じることが困難となる。凸部60の高さが2000nmを超える場合、凸部60のアスペクト比(凸部幅に対する凸部高さの比)が大きいため、凹凸パターンの形成が困難となる。凸部60の上面60tの幅(凸部60の延在方向と直交する面における略台形状の断面の上底の長さ)は50nm以下であることが好ましい。凸部60の上面60tの幅が50nm以下であることにより、光学位相差部材100の透過率をより高くすることが容易になる。また、凹凸パターン80の凹凸ピッチは、50〜1000nmの範囲内であることが好ましい。ピッチが50nm未満である凹凸パターンは、ナノインプリント法による形成が困難である。ピッチが1000nmを超える場合、光学位相差部材として十分な無色透明性の確保が難しくなる。
なお、図1(a)に示す光学位相差部材100においては、隣り合う凸部60が凸部60の底面(又は凸部60の裾)において互いに接しているが、図1(b)に示す光学位相差部材100aのように、隣り合う凸部60aの底面(又は隣り合う凸部60aの裾)同士が所定の距離を隔てていてもよい。この場合、凹部70aとその上に形成された後述する高屈折率層30aの界面において光学位相差部材100aを通過する光の一部が反射されるため、図1(b)に示すような光学位相差部材100aは、図1(a)のような光学位相差部材100と比べて透過率が低くなる傾向がある。ゆえに、光学位相差部材100aを高透過率にするという観点から、隣り合う凸部60aの底面同士の間隔、すなわち、凹凸構造層50aの表面において隣り合う凸部60aに挟まれた領域(凹部)70aの幅がより小さいことが好ましく、特に凹凸パターンのピッチの0〜0.2倍の範囲内であることが好ましい。言い換えると、凸部60aの底面の幅は、凹凸パターンのピッチの0.8〜1倍の範囲内であることが好ましい。凹凸パターンのピッチに対する凹部70aの幅の比が0.2以下、すなわち、凹凸パターンのピッチに対する凸部60aの底面の幅の比が0.8以上であることにより、光学位相差部材100の透過率をより高くすることが容易になる。
<高屈折率層>
高屈折率層30は、透明基体40の凹凸構造層50よりも高い屈折率を有する層である。高屈折率層30は、屈折率が2.3以上である材料から構成されることが好ましい。高屈折率層30を構成する材料としては、例えば、Ti、In、Zr、Ta、Nb、Zn等の金属、それら金属の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、ハロゲン化物等の無機材料を用いることができる。
高屈折率層30は、凸部60を被覆している。すなわち、高屈折率層30は凸部60の上面60t及び側面60sを被覆している。凸部60が高屈折率層30で被覆されることにより、凸部60と後述する空気層90の周期配列により生じる位相差が大きくなる。そのため、凸部60の高さを小さく、すなわち、凸部60のアスペクト比を小さくすることができるため、凹凸パターン80の形成が容易になる。凸部60の上面60t上に形成された高屈折率層30の厚みThtは50〜250nmの範囲内であることが好ましい。
また、凸部60の側面60s上に形成された高屈折率層30の厚みThsは、光学位相差部材100を特定の波長λの光に位相差を与える目的で用いる場合、0.03λ〜0.11λであることが好ましい。たとえば、波長470nmの光に位相差を与える目的で光学位相差部材100を用いる場合、凸部60の側面60s上の高屈折率層30の厚みThsは15〜50nmの範囲内であることが好ましい。高屈折率層30の厚みThsが上記範囲内であることにより、高い透過率を有しつつ、λ/4位相差板として必要な位相差を確保することが出来る。なお、本願において「凸部60の側面60s上の高屈折率層30の厚みThs」とは、凸部60の底面から後述する積層体20の最上部までの高さをHとすると、凸部60の底面からH/2の高さの位置における高屈折率層30の厚みを意味する。
<積層体>
積層体20は、凸部60の上面60t上の高屈折率層30上に形成されている。積層体20は、2n+1個(nは正の整数)の層、すなわち、3以上の奇数個の層から構成されてよい。図1(a)に示す光学位相差部材100においては、積層体20は第1層22、第2層24及び第3層26の3個の層から構成される。第1層22は高屈折率層30の上に直接形成され、第2層24は第1層上に直接形成され、第3層26は第2層24上に直接形成される。
第1層22の屈折率は高屈折率層30よりも低く、第3層26の屈折率は第2層24の屈折率よりも低い。それにより、光学位相差部材100は広い波長範囲において高い透過率を有することができる。
第2層24の屈折率は第1層22の屈折率よりも高くてよく、あるいは、第2層24の屈折率が第1層22の屈折率よりも低くてもよい。
第2層24の屈折率が第1層22の屈折率よりも高い場合、積層体20は相対的に高い屈折率を有する層と相対的に低い屈折率を有する層とが交互に積層された構造を有する。この場合、第1層22及び第3層26の屈折率は1.3〜1.55の範囲内であってよい。第1層22又は第3層26の屈折率が1.55を超える場合、後述の実施例で示すように、光学位相差部材100の平均透過率(波長430nm〜680nmにおける光の透過率の平均)が低い傾向がある。屈折率が1.3未満の材料は、安定性が低い傾向がある。また、第2層24の屈折率は2.1以上であってよく、好ましくは2.1〜2.6の範囲内であってよい。第2層24の屈折率が2.1未満の場合、後述の実施例で示すように、光学位相差部材100の平均透過率が低い傾向がある。屈折率が2.6を超える材料は、その材料自体の可視光領域における透明性が低い傾向がある。また、第1層22及び第3層26は同じ材料から形成されていてよく、第2層24は高屈折率層30と同じ材料から形成されていてよい。それにより、光学位相差部材100を少ない種類の材料で製造できるため、製造コストを低減できる。
第2層24の屈折率が第1層22の屈折率よりも低い場合、積層体20において、高屈折率層30から遠い層ほど低い屈折率を有する。この場合、積層体20の最表層(最上層)である第3層26の屈折率は1.3〜1.4の範囲内であってよい。
第1層22及び第3層26を構成する材料としては、例えばSiO2、MgF2のようなSi、Al、Li、Mg、Ca、Kの酸化物、フッ化物が挙げられる。第2層24を構成する材料としては、例えばTi、In、Zr、Ta、Nb、Zn等の金属、それら金属の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、ハロゲン化物等の無機材料が挙げられる。
凸部60の上面60t上の高屈折率層30上に形成されている第1層22の厚みTst1は20〜40nmの範囲内であってよく、その上の第2層24の厚みTst2は35〜55nmの範囲内であってよく、さらにその上の第3層26の厚みTst3は100〜140nmの範囲内であってよく、第1層22、第2層24、第3層26の厚みの合計である積層体20の厚みTstは155〜210nmの範囲内であってよい。この場合、光学位相差部材100の平均透過率が高い傾向がある。また、第1層22の厚みTst1が25〜35nmの範囲内であってよく、第2層24の厚みTst2が35〜45nmの範囲内であってよく、第3層26の厚みTst3が115〜125nmの範囲内であってよく、積層体20の厚みTstが185〜195nmの範囲内であってよい。この場合、光学位相差部材100の平均透過率がより高い傾向がある。
なお、図1(c)に示す光学位相差部材100bのように、積層体20bが凸部60bの側面60bs上の高屈折率層30b上にも形成されていてもよい。凸部60bの側面60bs上の高屈折率層30b上に形成された積層体20bの厚み(凸部60bの側面60bsにおける積層体20bの厚み)Tssは、小さいほうが好ましく、5〜40nmの範囲内であることが好ましい。積層体20bの厚みTssが上記範囲内であることにより、積層体20bが側面60bsに成膜されることによる位相差の低減を押さえながら光学位相差部材100bの透過率を高めることが出来る。また、第2層24bの屈折率を大きくすると側面に形成される第2層24bによっても構造複屈折による位相差が発生するため、積層体20bが側面に形成されることによる位相差の低下を抑えることが出来る。なお、本願において「凸部60bの側面60bsにおける積層体20bの厚みTss」とは、凸部60bの底面から積層体20bの最上部までの高さをHbとすると、凸部60の底面からHb/2の高さの位置における積層体20bの厚みを意味する。
積層体が5以上の奇数個の層からなる場合、すなわち、積層体の層数が、2n+1(nは2以上の整数)である場合、積層体は、高屈折率層の上に直接形成された第1層と、第2k−1層(kは1〜nの整数)上に直接形成された第2k層と、第2k層上に直接形成された第2k+1層を備え、積層体の最表層は第2n+1層となる。第1層の屈折率は高屈折率層よりも低く、第2k+1層の屈折率は第2k層の屈折率よりも低い。それにより、光学位相差部材は広い波長範囲において高い透過率を有することができる。第2k層の屈折率は第2k−1層の屈折率よりも高くてよく、あるいは、第2k層の屈折率が第2k−1層の屈折率よりも低くてもよい。第2k層の屈折率が第2k−1層の屈折率よりも高い場合、積層体は、その層が接する層に対して相対的に高い屈折率を有する層と相対的に低い屈折率を有する層とが交互に積層された構造を有する。この場合において、第2k−1層及び第2k+1層は同じ材料から形成されていてよく、第2k層は高屈折率層と同じ材料から形成されていてよい。それにより、光学位相差部材を少ない種類の材料で製造できるため、製造コストを低減できる。
<空気層>
隣り合う凸部60の対向する側面60s上に形成された高屈折率層30の間の空間(隙間)に空気層90が存在する。光学位相差部材100において、空気層90と凸部60を被覆する高屈折率層30が周期的に配列されていることにより、光学位相差部材100を透過した光に位相差を生じさせることができる。空気層90の幅Wは、35〜100nmの範囲内であることが好ましい。空気層90の幅Wが上記範囲内であることにより、低い凹凸高さでも大きな位相差を確保することが出来る。このような光学位相差部材100は、1/4波長板として好適に用いることができる。なお、本願において「空気層90の幅W」とは、凸部60の底面から積層体20の最上部までの高さをHとすると、凸部60の底面からH/2の高さの位置における空気層90の厚み(隣り合う凸部60の対向する側面60s上に形成された高屈折率層30の表面の間の距離)を意味する。
なお、図1(a)に示される光学位相差部材100は基材42上に凹凸構造層50が形成された透明基体40を備えているが、それに代えて、図1(d)に示す光学位相差部材100cのように基材42c上に凸部60cをなす構造体が複数形成された透明基体40cを備えていてもよい。図1(d)に示すように隣り合う凸部60cの底面(又は凸部60cの裾)同士が接していてもよいし、あるいは、隣り合う凸部60cの底面同士が所定の距離を隔てて設けられ、基材42cの表面が露出していてもよい。基材42cとしては、図1(a)に示した光学位相差部材100の基材42と同様の基材を用いることができる。凸部60cは、図1(a)に示した光学位相差部材100の凹凸構造層50を構成する材料と同様の材料で構成されてよい。
また、図1(e)に示す光学位相差部材100dのように、基材の表面自体が凸部60dからなる凹凸パターン80dを構成するように形状化された基材によって透明基体40dが構成されていてもよい。この場合、透明基体40dは、図1(e)のような凹凸パターン80dを有するように基材を成形することにより製造され得る。
[光学位相差部材の製造方法]
光学位相差部材の製造方法は、図2(a)に示すように、主に、第1凹凸パターンを有する母型を用意する工程S100と、母型を用いて、第1凹凸パターンに対応する第2凹凸パターンを有するモールドを作製する工程S200と、モールドの第2凹凸パターン上にマークを形成する工程S300と、モールドを用いて、第2凹凸パターンに対応する第3凹凸パターンを有する透明基体を形成する工程S400と、高屈折率層を形成する工程S500と、積層体を形成する工程S600と、透明基体を分割してチップ化する工程S700を有する。S500〜S700は任意の工程である。透明基体を形成する工程S400は、図2(b)に示すように、無機材料の前駆体溶液を調製する溶液調製工程S410、調製された前駆体溶液を基材に塗布して塗膜を形成する塗布工程S420、塗膜を乾燥する乾燥工程S430、モールドを塗膜に押し付ける押圧工程S441、モールドが押し付けられた塗膜を仮焼成する仮焼成工程S442、モールドを塗膜から剥離する剥離工程S443、及び塗膜を硬化させる硬化工程S450を有する。なお、押圧工程S441、仮焼成工程S442及び剥離工程S443を合わせて転写工程S440ともいう。本願において、「第1(又は第2)凹凸パターンに対応する」とは、第1(又は第2)凹凸パターンと同じ凹凸パターンであること又は第1(又は第2)凹凸パターンの凹凸を反転した凹凸パターンであることを意味する。以下、各工程について順に説明する。
<母型を用意する工程>
図3(a)に示すように、均一な方向に直線的に延在する凸部及び凹部からなる凹凸パターン(第1凹凸パターン)84を有する母型240を用意する。以下に母型の製造方法の例を説明する。
最初に、シリコン、金属、石英、樹脂等の基板上にレジストを塗布する。フォトリソグラフィ法、電子線リソグラフィ法等によってレジストパターンを形成する。レジストパターンをマスクとしてドライエッチング法により基板をエッチングし、基板の表面に第1凹凸パターンを形成する。その後残存するレジストパターンを除去する。それにより、凹凸パターンを有する母型が得られる。
上記方法に代えて、以下の方法によっても凹凸パターンを有する母型を製造することができる。最初に、熱酸化膜付きシリコン基板上にレジストを塗布する。リソグラフィ法によりレジストパターンを形成する。レジストパターンをマスクとしてドライエッチングまたはウェットエッチングにより熱酸化膜をエッチングし、熱酸化膜パターンを形成する。その後残存するレジストパターンを除去する。次いで、熱酸化膜パターンをマスクとしてドライエッチング法によりシリコン基板をエッチングする。それにより、凹凸パターンを有する母型が得られる。
なお、母型において、凹凸パターンは基板の表面全体に形成されてよい。凹凸パターンが形成されていない領域を有する母型を形成する場合、パターン密度の違いにより、当該領域の近傍におけるドライエッチングのレートがその他の領域と異なり、その結果、母型の凹凸パターンの凹凸深さや凸部の側面の傾き等が不均一になることがあるためである。
<モールド作製工程>
母型240を形成した後、例えば以下のようにして図3(b)に示すような第2凹凸パターン82を有するモールド140を形成することができる。
(1)第1モールドの作製
母型の第1凹凸パターンを樹脂材料に転写することで樹脂モールド(第1モールド)を作製することができる。例えば、硬化性樹脂を支持基板に塗布した後、母型の凹凸パターンを樹脂層に押し付けつつ樹脂層を硬化させる。支持基板として、例えば、ガラス、石英、シリコン等の無機材料からなる基材;シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリアリレート等の有機材料からなる基材、ニッケル、銅、アルミ等の金属材料が挙げられる。また、支持基板の厚みは、1〜500μmの範囲にし得る。
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系、アクリル系、メタクリル系、ビニルエーテル系、オキセタン系、ウレタン系、メラミン系、ウレア系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、フェノール系、架橋型液晶系、フッ素系、シリコーン系、ポリアミド系等のモノマー、オリゴマー、ポリマー等の各種樹脂が挙げられる。硬化性樹脂の厚みは0.5〜500μmの範囲内であることが好ましい。厚みが前記下限未満では、硬化樹脂層の表面に形成される凹凸の高さが不十分となり易く、前記上限を超えると、硬化時に生じる樹脂の体積変化の影響が大きくなり凹凸形状が良好に形成できなくなる可能性がある。
硬化性樹脂を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法、スパッタ法等の各種コート方法を採用することができる。さらに、硬化性樹脂を硬化させる条件としては、使用する樹脂の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲内であり、硬化時間が0.5分〜24時間の範囲内であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜10J/cm2の範囲内であることが好ましい。
次いで、硬化後の硬化樹脂層から母型を取り外す。母型を取り外す方法としては、機械的な剥離法に限定されず、公知の方法を採用することができる。
(2)第2モールドの作製
電鋳処理のための導電層となるシード層を、無電解めっき、スパッタまたは蒸着等により第1モールド上に形成することができる。シード層は、後続の電鋳工程における電流密度を均一にして後続の電鋳工程により堆積される金属層の厚みを一定にするために10nm以上が好ましい。シード層の材料として、例えば、ニッケル、銅、金、銀、白金、チタン、コバルト、錫、亜鉛、クロム、金・コバルト合金、金・ニッケル合金、ホウ素・ニッケル合金、はんだ、銅・ニッケル・クロム合金、錫ニッケル合金、ニッケル・パラジウム合金、ニッケル・コバルト・リン合金、またはそれらの合金などを用いることができる。次に、シード層上に電鋳(電界めっき)により金属層を堆積させる。金属層の厚みは、例えば、シード層の厚みを含めて全体で10〜30000μmの厚みにすることができる。電鋳により堆積させる金属層の材料として、シード層として用いることができる上記金属種のいずれかを用いることができる。形成した金属層は、後述する第3モールドの形成のための樹脂層の押し付け、剥離及び洗浄などの処理の容易性からすれば、適度な硬度及び厚みを有することが望ましい。
上記のようにして得られたシード層を含む金属層を、凹凸パターンを有する第1モールドから剥離して金属モールド(第2モールド)を得る。剥離方法としては、物理的に剥がしても構わないし、第1モールドの凹凸パターンを形成する材料を、それらを溶解する有機溶媒や酸、アルカリ等用いて溶解して除去することによって剥離してもよい。金属モールドを第1モールドから剥離するときに、残留している材料成分を洗浄にて除去することができる。洗浄方法としては、界面活性剤などを用いた湿式洗浄や紫外線やプラズマを使用した乾式洗浄を用いることができる。また、例えば、粘着剤や接着剤を用いて残留している材料成分を付着除去するなどしてもよい。
(3)第3モールドの作製
さらに、第2モールドの凹凸パターンを樹脂材料に転写することで樹脂モールド(第3モールド)を作製することができる。例えば、硬化性樹脂を支持基板に塗布した後、第2モールドの凹凸パターンを樹脂層に押し付けつつ樹脂層を硬化させる。支持基板の材料及び厚み、硬化性樹脂及びその厚み、硬化性樹脂の塗布方法、硬化性樹脂の硬化条件は、第1モールドと同様にし得る。
次いで、硬化後の樹脂層から第2モールドを取り外す。第2モールドを取り外す方法としては、機械的な剥離法に限定されず、公知の方法を採用することができる。
また、上述の金属モールド(第2モールド)の凹凸パターン上にゴム系の樹脂材料を塗布し、塗布した樹脂材料を硬化させ、第2モールドから剥離することにより、第2モールドの凹凸パターンが転写されたゴムモールドを作製し、これを第3モールドとしてもよい。ゴム系の樹脂材料として、天然ゴム及び合成ゴムを用いることができ、特に、シリコーンゴム、またはシリコーンゴムと他の材料との混合物もしくは共重合体が好ましい。シリコーンゴムとしては、例えば、ポリオルガノシロキサン、架橋型ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサン/ポリカーボネート共重合体、ポリオルガノシロキサン/ポリフェニレン共重合体、ポリオルガノシロキサン/ポリスチレン共重合体、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリ4メチルペンテンなどが用いられる。シリコーンゴムは、他の樹脂材料と比べて安価で、耐熱性に優れ、熱伝導性が高く、弾性があり、高温条件下でも変形しにくいことから、凹凸パターン転写プロセスを高温条件下で行う場合には好適である。さらに、シリコーンゴム系の材料は、ガスや水蒸気透過性が高いため、被転写材の溶媒や水蒸気を容易に透過することができる。そのため、後述するような樹脂材料または無機材料の前駆体溶液の膜に凹凸パターンを転写する目的でゴムモールドを用いる場合には、シリコーンゴム系の材料が好適である。また、ゴム系材料の表面自由エネルギーは25mN/m以下が好ましい。これによりゴムモールドの凹凸パターンを基材上の塗膜に転写するときの離形性が良好となり、転写不良を防ぐことができる。ゴムモールドは、例えば、長さ50〜1000mm、幅50〜3000mm、厚み1〜50mmにし得る。また、必要に応じて、ゴムモールドの凹凸パターン面上に離型処理を施してもよい。
上記第1モールド、第2モールド及び第3モールドはいずれも、本実施形態の第2凹凸パターン82を有するモールド140として用いられ得る。また、第1モールド、第2モールド又は第3モールドの凹凸パターンをさらに1回以上転写して作製したモールドも、本実施形態の第2凹凸パターン82を有するモールド140として用いることができる。
<マーク形成工程>
第2凹凸パターン82を有するモールド140の第2凹凸パターン82上にマークを形成する。すなわち、第1モールド、第2モールド及び第3モールドのいずれかの凹凸パターン上にマークを形成する。
モールドに形成するマークは、図3(b)に示すようにモールド140の第2凹凸パターン82における所定の基準位置に設けられた切断用位置決めマーク11aを含む。切断用位置決めマーク11aは、後述する第3凹凸パターン80を有する透明基体40(図3(c)参照)に転写され、後述するチップ化工程において透明基体40を切断する方向及び位置を決めるための基準として用いられる。チップ化工程において正確な方向及び位置で透明基体40を切断するために、モールド140に切断用位置決めマーク11aを2以上形成してよい。また、切断用位置決めマーク11aは十字形状、円形状など任意の形状であってよい。
モールド140に形成するマークは、図3(b)に示すように不良位置表示マーク13aを含んでよい。例えば、モールド140作製後に第2凹凸パターン82を検査してパターン欠陥等の不良が発見された場合、その不良位置に不良位置表示マーク13aを形成してよい。それにより、後述するチップ化工程後において不良チップ100xに不良位置表示マーク13bが形成されているため(図3(e)参照)、不良チップ100xを容易に除去でき、不良チップ100xの市場への流出を防止することができる。また、後述するチップ化工程前に透明基体40の第3凹凸パターン80を検査し、透明基体40の凹凸パターン異常位置に対応するモールド140の位置に不良位置表示マーク13aを形成してもよい。このモールド140を繰り返し用いて光学位相差部材を製造した場合、後述するチップ化工程後において不良チップ100xに不良位置表示マーク13bが形成されているため(図3(e)参照)、不良チップ100xを容易に除去することができ、不良チップ100xの市場への流出を防止することができる。なお、透明基体40の第3凹凸パターン80の検査は、透明基体40を直交させた偏光板の間に配置し、バックライトを照射して透過光を観察することにより行うことができる。モールド140に形成する不良位置表示マーク13aは、十字形状、円形状など任意の形状であってよい。
モールド140に形成するマークは、チップ(光学位相差部材)の遅相軸及び進相軸の方位(角度)並びにチップの表裏を識別するための、方位表裏表示マークを含んでよい。それにより、後述するチップ化工程後において各チップの軸方位及びは表裏を目視で識別することが可能となる。方位表裏表示マークは、任意の形状であってよいが、当該マークの転写性の観点から、転写工程における転写方向に平行な直線状としてよい。
また、モールド140に形成するマークは、チップの番地表示マークを含んでよい。番地表示マークは、各チップがチップ化前の透明基体40ひいてはモールド140上の位置(透明基体40及びモールド140のどの位置に対応するか)を表示するマークである。
モールドにおいて方位表裏表示マーク及び/又は番地表示マークを形成する位置は、各チップの非有効領域(位相差特性に影響を与えない領域)に方位表裏表示マーク及び/又は番地表示マークが少なくとも一つずつ形成されるように、チップ化工程における切断位置、チップサイズ等に応じて定めてよい。例えば、図3(b)に示すようにA1〜3、B1〜3、C1〜3の番地表示マーク15aをモールド140の所定の位置に形成することにより、図3(e)に示すように各チップ(光学位相差部材)100に少なくとも一つの番地表示マーク15bが形成される。それにより各チップとモールドの位置の対応関係を把握でき、チップに不良が生じた場合の不良解析が容易になる。なお、番地表示マーク15bは、方位表裏表示マークとして用いることもできる。
マークの形成は、ファイバーレーザー等の任意の装置を用いて行ってよい。手作業でモールドを罫書いてマークを形成してもよい。
本製造方法では、母型を用いてモールドを形成した後に当該モールドにマークを形成するため、母型にマークを形成する必要がない。そのため、以下のような利点を有する。
第1に、歩留りの低下を防止し、生産効率を向上させることができる。母型の凹凸パターン形成時に行うドライエッチングでは、パターンの粗密に応じてエッチングレートが変わることがある。そのため、母型の作製時に凹凸パターンとマークを同時に形成すると、母型の凹凸パターンの面内均一性が損なわれる。具体的には、マーク周辺の領域の凹凸パターンの凹凸深さや凸部の側面の傾き等が、当該マーク周辺の領域以外の領域と異なることがある。このように凹凸パターンの凹凸形状にばらつきが生じると、当該母型を用いて形成される透明基体の凹凸パターンの凹凸形状にもばらつきが生じる。それにより透明基体上に形成する高屈折率層及びその上に形成する積層体の厚さも面内で不均一となる。そして、最終的に得られる光学位相差部材の位相差特性にもばらつきが生じることとなり、その結果歩留りが低下する。本製造方法では、母型にマークを形成せずにモールドにマークを形成するため、このような歩留りの低下を避けることができる。
第2に、一つの母型から種々のサイズの光学位相差部材を製造することができ、母型作製コストを抑制することができる。方位表裏表示マーク及び番地表示マークは光学位相差部材の各チップに形成する必要があるため、製造しようとするチップのサイズに応じて、モールドの方位表裏表示マーク及び番地表示マークの位置を定める必要がある。母型に直接方位表裏表示マーク及び/又は番地表示マークマークを形成した場合、その母型からは単一のサイズのチップしか製造できない。しかし、本製造方法では、一つの母型から複数のモールドを作製し、モールド毎に方位表裏表示マーク及び/又は番地表示マークマークを異なる配置で形成することで、種々のサイズの光学位相差部材を製造できる。母型の作製は高コストであるため、一つの母型から種々のサイズの光学位相差部材を製造できることは非常に有益である。
なお、第1モールドにマークを形成した場合、その第1モールドを用いて第2モールド及び第3モールドを形成して、第1モールドに形成したマークを第2、第3モールドに転写してよい。同様に第2モールドにマークを形成した場合、その第2モールドを用いて第3モールドを形成して、第2モールドに形成したマークを第3モールドに転写してよい。第3モールドにマークを形成してもよい。凹凸パターン上にマークが形成された第1モールド、第2モールドまたは第3モールドを円柱状の基体ロールの外周面に巻き付けて固定することで、ロール状のモールドを形成してもよい。
<溶液調整工程>
第3凹凸パターンを有する透明基体を形成するために、最初に無機材料の前駆体の溶液を調製する。ゾルゲル法を用いて無機材料からなる凹凸構造層を形成する場合、無機材料の前駆体の溶液として金属アルコキシドの溶液を調製する。例えば、例えば、シリカからなる凹凸構造層を形成する場合は、シリカの前駆体として、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシランに代表されるテトラアルコキシドモノマーや、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシランに代表されるトリアルコキシドモノマー、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−i−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−t−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−i−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−t−ブトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、ジプロピルジイソプロポキシシラン、ジプロピルジ−n−ブトキシシラン、ジプロピルジ−i−ブトキシシラン、ジプロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジプロピルジ−t−ブトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジプロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジ−n−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−i−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−t−ブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジプロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−i−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−t−ブトキシシラン等のジアルコキシシランに代表されるジアルコキシドモノマーを用いることができる。さらに、アルキル基の炭素数がC4〜C18であるアルキルトリアルコキシシランやジアルキルジアルコキシシランを用いることもできる。ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するモノマー、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有するモノマー、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基を有するモノマー、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリル基を有するモノマー、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル基を有するモノマー、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するモノマー、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基を有するモノマー、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するモノマー、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するモノマー、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するモノマー、これらモノマーを少量重合したポリマー、前記材料の一部に官能基やポリマーを導入したことを特徴とする複合材料などの金属アルコキシドを用いてもよい。また、これらの化合物のアルキル基やフェニル基の一部、あるいは全部がフッ素で置換されていてもよい。さらに、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、オキシ塩化物、塩化物や、それらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。金属種としては、Si以外にTi、Sn、Al、Zn、Zr、Inなどや、これらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。上記酸化金属の前駆体を適宜混合したものを用いることもできる。また、これらの材料中に界面活性剤を加えることで、メソポーラス化された凹凸構造層を形成してもよい。さらに、シリカの前駆体として、分子中にシリカと親和性、反応性を有する加水分解基および撥水性を有する有機官能基を有するシランカップリング剤を用いることができる。例えば、n−オクチルトリエトキシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のシランモノマー、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン等のサルファーシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、これらモノマーを重合したポリマー等が挙げられる。
無機材料の前駆体としてTEOSとMTESの混合物を用いる場合には、それらの混合比は、例えばモル比で1:1にすることができる。この前駆体は、加水分解及び重縮合反応を行わせることによって非晶質シリカを生成する。合成条件として溶液のpHを調整するために、塩酸等の酸またはアンモニア等のアルカリを添加する。pHは4以下もしくは10以上が好ましい。また、加水分解を行うために水を加えてもよい。加える水の量は、金属アルコキシド種に対してモル比で1.5倍以上にすることができる。
前駆体溶液の溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、二硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物、水、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。特に、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好ましく、またそれらに水を混合したものも好ましい。
前駆体溶液の添加物としては、粘度調整のためのポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールや、溶液安定剤であるトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アセチルアセトンなどのβジケトン、βケトエステル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどを用いることが出来る。また、前駆体溶液の添加物として、エキシマUV光等紫外線に代表されるエネルギー線などの光を照射することによって酸やアルカリを発生する材料を用いることができる。このような材料を添加することにより、光を照射することよって前駆体溶液を硬化(ゲル化)させて無機材料を形成することができるようになる。
また、無機材料の前駆体としてポリシラザンを用いてもよい。ポリシラザンは、加熱またはエキシマなどのエネルギー線を照射することで酸化してセラミックス化(シリカ改質)し、シリカ、SiNまたはSiONを形成する。なお、「ポリシラザン」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si3N4及び両方の中間固溶体SiOXNY等のセラミック前駆体無機ポリマーである。特開平8−112879号公報に記載されている下記の一般式(1)で表されるような比較的低温でセラミック化してシリカ等に変性する化合物がより好ましい。
一般式(1):
−Si(R1)(R2)−N(R3)−
式中、R1、R2、R3は、各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。
上記一般式(1)で表される化合物の中で、R1、R2及びR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPSともいう)や、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンが特に好ましい。
低温でセラミック化するポリシラザンの別の例としては、ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報)等を用いることもできる。
ポリシラザン溶液の溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。酸化珪素化合物への改質を促進するために、アミンや金属の触媒を添加してもよい。
無機材料の前駆体としてポリシラザンを用いる場合、加熱又はエキシマなどのエネルギー線の照射により前駆体溶液を硬化させて無機材料を形成してよい。
<塗布工程>
上記のように調製した無機材料の前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成する。基材上には密着性を向上させるために、表面処理や易接着層を設けるなどをしてもよい。前駆体溶液の塗布方法として、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法などの任意の塗布方法を使用することができるが、比較的大面積の基材に前駆体溶液を均一に塗布可能であること、前駆体溶液が硬化する前に素早く塗布を完了させることができることからすれば、バーコート法、ダイコート法及びスピンコート法が好ましい。
<乾燥工程>
前駆体溶液の塗布後、塗膜(前駆体膜)中の溶媒を蒸発させるために基材を大気中もしくは減圧下で保持してもよい。凹凸パターン形成の安定性の観点から、パターン転写が良好にできる乾燥時間範囲が十分広いことが望ましく、これは乾燥温度(保持温度)、乾燥圧力、前駆体の材料種、前駆体の材料種の混合比、前駆体溶液調製時に使用する溶媒量(前駆体の濃度)等によって調整することができる。なお、基材をそのまま保持するだけでも塗膜中の溶媒が蒸発するので、必ずしも加熱や送風などの積極的な乾燥操作を行う必要はなく、塗膜を形成した基材をそのまま所定時間だけ放置したり、後続の工程を行うために所定時間の間に搬送したりするだけでもよい。
<押圧工程>
次いで、凹凸パターン転写用のモールドを塗膜に押圧してモールドの凹凸パターンを塗膜に転写することで、凹凸構造層を形成する。凹凸パターン転写用のモールドとして、上述の樹脂モールド(第1モールド、第3モールド)や金属モールド(第2モールド)を用いることができるが、柔軟性または可撓性のある樹脂モールドを用いることが望ましい。また、ロール状モールドを用いたロールプロセスは、プレート状モールドを用いたプレス式プロセスと比較してモールドと塗膜とが接する時間が短いため、モールド、基材及び基材を設置するステージなどの熱膨張係数の差によるパターンくずれを防ぐことができること、前駆体膜中の溶媒の突沸によってパターン中にガスの気泡が発生したり、ガス痕が残ったりすることを防止することができること、前駆体膜とモールドが線接触するため転写圧力及び剥離力を小さくでき、大面積化に対応し易いこと、押圧時に気泡をかみ込むことがないことなどの利点を有する。また、モールドを塗膜に押し付けながら基材を加熱してもよい。
<仮焼成工程>
前駆体膜にモールドを押し付けた後、前駆体膜を仮焼成してもよい。仮焼成することにより前駆体が無機材料に転化して塗膜が硬化し、凹凸パターンが固化し、剥離の際に崩れにくくなる。仮焼成を行う場合は、大気中で室温〜300℃の温度で加熱することが好ましい。なお、仮焼成は必ずしも行う必要はない。また、前駆体溶液に紫外線などの光を照射することによって酸やアルカリを発生する材料を添加した場合には、前駆体膜を仮焼成する代わりに、例えばエキシマUV光等の紫外線に代表されるエネルギー線を照射することによって塗膜を硬化してもよい。
<剥離工程>
モールドの押圧または前駆体膜の仮焼成の後、塗膜(前駆体膜又は前駆体膜を転化することにより形成された無機材料膜)からモールドを剥離する。モールドの剥離方法として公知の剥離方法を採用することができる。モールドの凹凸パターンの凸部及び凹部は一様な方向に延在して配列されているため、離形性がよい。モールドの剥離方向は凸部及び凹部の延在方向と平行な方向にしてよい。それによりモールドの離形性をさらに向上することができる。塗膜を加熱しながらモールドを剥離してもよく、それにより塗膜から発生するガスを逃がし、塗膜内に気泡が発生することを防ぐことができる。ロール状のモールドを使用する場合、プレート状モールドを用いたプレス式に比べて剥離力は小さくてよく、塗膜がモールドに残留することなく容易にモールドを塗膜から剥離することができる。特に、塗膜を加熱しながら押圧することで反応が進行し易く、押圧直後にモールドは塗膜から剥離し易くなる。
<硬化工程>
塗膜(凹凸構造層)からモールドを剥離した後、凹凸構造層を本硬化してもよい。本焼成により凹凸構造層を本硬化させることができる。ゾルゲル法によりシリカに転化する前駆体を用いた場合、凹凸構造層を構成するシリカ(アモルファスシリカ)中に含まれている水酸基などが本焼成により脱離して凹凸構造層がより強固となる。本焼成は、200〜1200℃の温度で、5分〜6時間程度行うのが良い。この時、凹凸構造層がシリカからなる場合、焼成温度、焼成時間に応じて非晶質または結晶質、または非晶質と結晶質の混合状態となる。なお、硬化工程は必ずしも行う必要はない。また、前駆体溶液に紫外線などの光を照射することによって酸やアルカリを発生する材料を添加した場合には、凹凸構造層を焼成する代わりに、例えばエキシマUV光等の紫外線に代表されるエネルギー線を照射することによって、凹凸構造層を本硬化することができる。
以上のようにして、凹凸パターン転写用モールドから転写された第3凹凸パターン及びマークを有する凹凸構造層が形成され、基材及び凹凸構造層から構成される透明基体が得られる。図3(c)に示すように、透明基体40は、その表面に第3凹凸パターン80及びマーク11b、13b、15bを有する。なお、図3(d)に示すように、透明基体の第3凹凸パターンが形成されていない部分及び第3凹凸パターンが形成された領域の外周部付近の部分を除去してもよい。透明基体の凹凸パターンが形成されていない部分からは光学位相差部材は製造できない。また、透明基体の第3凹凸パターンが形成された領域の外周部付近に形成されている凹凸パターンは、母型及びモールドの外周部付近の凹凸パターンが転写されて形成されたものであるが、上述した母型の凹凸パターンの面内分布により、母型の外周部付近の凹凸パターンが転写された透明基体は製品に用いられないことが多い。したがって、透明基体の第3凹凸パターンが形成されていない部分及び第3凹凸パターンが形成された領域の外周部付近の部分を除去することにより、後続の高屈折率層形成工程等の各工程を効率的に行うことができ、量産性が向上する。
なお、凹凸構造層の形成に用いる無機材料の前駆体としては、上記シリカの前駆体に代えて、TiO2、ZnO、ZnS、ZrO2、Al2O3、BaTiO3、SrTiO2、ITO等の前駆体を用いてもよい。
またゾルゲル法のほか、無機材料の微粒子の分散液を用いる方法、液相堆積法(LPD:Liquid Phase Deposition)などを用いて凹凸構造層を形成してもよい。
また、上述の無機材料のほか、硬化性樹脂材料を用いて凹凸構造層を形成してもよい。硬化性樹脂を用いて凹凸構造層を形成する場合、例えば、硬化性樹脂を基材に塗布した後、塗布した硬化性樹脂層に凹凸パターンを有するモールドを押し付けつつ塗膜を硬化させることによって、硬化性樹脂層にモールドの凹凸パターンを転写することができる。硬化性樹脂は有機溶剤で希釈してから塗布してもよい。この場合に用いる有機溶剤としては硬化前の樹脂を溶解するものを選択して使用することができる。例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、などのケトン系溶剤等の公知のものから選択できる。硬化性樹脂を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法、スパッタ法等の各種コート方法を採用することができる。凹凸パターンを有するモールドとしては、例えばフィルム状モールド、金属モールドなど所望のモールドを用いることができる。さらに、硬化性樹脂を硬化させる条件としては、使用する樹脂の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲内であり、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲内であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm2〜10J/cm2の範囲内であることが好ましい。
なお、図1(d)に示すような、基材42c上に凸部60cをなす構造体が形成されている透明基体40cは、例えば次のようにして製造することができる。上述した製造方法において基材上に無機材料の前駆体溶液を塗布する代わりに、凹凸パターン転写用モールドの凹部のみ又は凸部のみに前駆体溶液を塗布する。上記押圧工程において、モールドに塗布した前駆体溶液を基材に密着させ、前駆体溶液を基材に転写する。それによってモールドの凹部又は凸部の形状に対応する形状を有する凸部が基材上に形成される。
また、図1(e)に示すような、基材の表面自体が凸部60dからなる凹凸パターン80dを構成するように形状化された基材によって構成された透明基体40dは、例えば、次のようにして製造することができる。公知のナノインプリントやフォトリソグラフィ等の技術より、基材上に凹凸パターンを有するレジスト層を形成する。レジスト層の凹部をエッチングして基材表面を露出させた後、残存するレジスト層をマスクとして基材をエッチングする。エッチング後、残ったマスク(レジスト)を薬液で除去する。以上のような操作により、基材表面自体に凹凸パターン80dを形成することができる。
<高屈折率層形成工程>
次いで、凹凸パターンが形成された透明基体上に高屈折率層を形成してよい。上述のような膜厚を有する高屈折率層を凹凸パターンの凸部の上面及び側面に形成するためには、高屈折率層を付き回り性(カバレッジ性)の高い成膜方法で形成することが好ましく、例えば、メッキ法、原子層堆積法、化学気相成長法、スパッタ法、蒸着法等により形成することができる。
<積層体形成工程>
次いで、高屈折率層上に積層体を構成する2n+1個(nは正の整数)の各層を順に形成してよい。各層は、付き回り性の低い成膜方法、例えば、スパッタ法、蒸着法等により形成することが好ましい。それにより、凸部の側面の高屈折率層上に積層体を構成する材料が堆積されないようにしながら、あるいは凸部の側面の高屈折率層上に形成される積層体の膜厚を上述のような範囲内に制御しながら、凹凸パターンの凸部の上面の高屈折率層上に積層体を形成することができる。
<チップ化工程>
高屈折率層及び積層体を形成した透明基体を所定のサイズに分割し、チップ化する。透明基体は、レーザー、ブレード等を用いた任意の方法によって分割(ダイシング)できる。例えば、まず、レーザースクライブ装置(不図示)のカメラで透明基体40の切断用位置決めマーク11bを検出する(図3(d)参照)。次いで、切断用位置決めマーク11bの位置を基準として、製造する光学位相差部材のサイズ及び軸方位に応じて透明基体40を各チップに区画する切断線17の位置、本数、方向等を計算する。切断線17に沿ってレーザー光を照射した後、透明基体40に外部応力を加えることで、透明基体40が分割され、図3(e)に示すように所定のサイズの光学位相差部材100が得られる。
切断用位置決めマーク11bの位置を基準として切断線17の位置等を決めることにより、光学位相差部材の軸方位、サイズ等のばらつきを抑制できる。また、切断線の本数、方向等を変えることで、所望のサイズ及び軸方位を有する光学位相差部材を製造することができる。
マーク形成工程において、図3(b)に示すようにモールド140に不良位置表示マーク13a、方位表裏表示マーク(不図示)及び/又は番地表示マーク15aを形成した場合、製造される光学位相差部材100の各々に不良位置表示マーク13b、方位表裏表示マーク(不図示)及び/又は番地表示マーク15bが形成される。
[プロジェクタ]
光学位相差部材100、100a、100b、100c、100dを用いたプロジェクタの一例を図4に基づいて説明する。図4に示すプロジェクタ301は、プロジェクタ301の外部の装置、例えばPCやDVDプレイヤー等から供給される画像データに基づいて、画像データに規定されたフルカラーの画像をスクリーン等の投写面に表示することができる。
プロジェクタ301は、出射する光の波長が互いに異なる3系統の照明系302〜304と、互いに異なる色の画像を形成する3系統の画像形成系305〜307と、複数の画像形成系305〜307により形成された複数色の画像を合成する画像合成部308と、画像合成部308により合成された画像(光)を投写する投写光学系309とを備える。
第1の照明系302は赤色の光L1(例えば中心波長が630nm)を出射可能であって、第2の照明系303は緑色の光L2(例えば中心波長が530nm)を出射可能であり、第3の照明系304は青色の光L3(例えば中心波長が440nm)を出射可能である。
3系統の画像形成系305〜307の画像形成系は、3系統の照明系302〜304の各照明系にそれぞれ対応して設けられている。
画像合成部308は、ダイクロイックプリズム等によって構成される。このダイクロイックプリズムは、赤色の光L1が反射するとともに緑色の光L2及び青色の光L3が透過する特性の波長選択膜と、青色の光L3が反射するとともに赤色の光L1及び緑色の光L2が透過する特性の波長選択膜とが、互いに直交して設けられた構造である。3系統の照明系302〜304から出射されて3系統の画像形成系305〜307を経由した光L1〜L3は、画像合成部308の2種類の波長選択面で透過あるいは反射することによって、いずれも同じ方向に進行し、投写面で互いに重なるように合成される。互いに重ね合わされた光L1〜L3は、全体としてフルカラーの画像を示す光になる。この光が投写光学系309により投写面上に結像することによって、投写面上にフルカラーの画像が表示される。
第1の照明系302は、光生成機構310と、集光レンズ311と、ロッドレンズ312とを有する。光生成機構310は、レーザーダイオード(LD)を含んでよい。このレーザーダイオードは、ドライバーから供給される電流により光を発する活性層、及び活性層から発せられた光をレーザー発振可能な共振器を有する。あるいは、光生成機構310は、非偏光光源、及び偏光ビームスプリッタ等の非偏光光から直線偏光を作り出す偏光子を有してよい。それにより、光生成機構310は、赤色の光L1として、ほぼ直線偏光の光を生成可能である。ロッドレンズ312は、その内部を通った光の光強度分布を均一化することができる。集光レンズ311は、光生成機構310から出射された光L1のスポットがロッドレンズ312の軸方向の一端面に収まるように、光L1を集光する。
第2の照明系303及び第3の照明系304は、いずれも光生成機構、集光レンズ及びロッドレンズを含んで構成されており、光生成機構から出射される光の波長が互いに異なる点を除いて、第1の照明系302と同様の構成である。なお、緑色の光L2を生成可能な光生成機構は、例えば赤外光を発する活性層及び共振器を有するレーザーダイオードと、共振器の内部又は外部に設けられたPPLNのような波長変換素子とを有してよい。
第1の照明系302から出射された光L1は、反射ミラー313で反射した後に第1の画像形成系305へ入射する。第2の照明系303から出射された光L2は、第2の画像形成系306へ入射し、第3の照明系304から出射された光L3は、反射ミラー314で反射した後に第3の画像形成系307へ入射する。
3系統の画像形成系305〜307は、それぞれ、画像表示素子としての透過型の液晶パネルと、液晶パネルの光入射側に配置された入射側波長板と、液晶パネルの光出射側に配置された出射側波長板とを有する。各画像形成系の入射側波長板は、対応する照明系から出射される光の中心波長の四分の一にリタデーションが設定されている。各画像形成系の出射側波長板は、この画像形成系の入射側波長板とリタデーションが同じ値に設定されている。リタデーションは、遅相軸に平行な方向の屈折率と進相軸に平行な方向の屈折率の差分に、波長板の厚みを乗算した値である。
詳しくは、第1の画像形成系305の入射側波長板320及び出射側波長板321は、第1の照明系302から出射される赤色の光L1の中心波長の四分の一にリタデーションが設定されている。第2の画像形成系306の入射側波長板322及び出射側波長板323は、第2の照明系303から出射される緑色の光L2の中心波長の四分の一にリタデーションが設定されている。第3の画像形成系307の入射側波長板324及び出射側波長板325は、第3の照明系304から出射される青色の光L3の中心波長の四分の一にリタデーションが設定されている。このように、入射側波長板及び出射側波長板のリタデーションは、3系統の画像形成系305〜307で互いに異なっている。
画像形成系305〜307は、それぞれ、入射側波長板及び出射側波長板の他に、入射側偏光板と、光学補償板と、液晶パネルと、出射側偏光板とを有する。3系統の画像形成系305〜307は、入射側波長板のリタデーションが3系統の画像形成系305〜307で互いに異なっている点、及び出射側波長板のリタデーションが3系統の画像形成系305〜307で互いに異なっている点を除くと、いずれも同様の構成である。ここでは、第1の画像形成系305の構成を代表的に説明する。
第1の照明系302から第1の画像形成系305へ入射した赤色の光L1は、入射側偏光板326を通って入射側波長板320へ入射し、入射側波長板320によって円偏光へ変換される。入射側波長板320から出射された円偏光は、光学補償板327を通って液晶パネル328へ入射し、液晶パネル328によって位相変調される。液晶パネル328により変調された光L1は、出射側波長板321へ入射して直線偏光へ変換された後に、出射側偏光板329へ入射する。
図5は、第1の画像形成系を構成する各構成要素の光学的な軸の相対関係を示す図である。図5中の符号AXは、第1の照明系302から合成部308までの光軸を示す。
入射側偏光板326及び出射側偏光板329は、それぞれ、透過軸に平行な直線偏光が透過する特性の偏光板である。入射側偏光板326の透過軸は、第1の照明系302から出射された光L1(ほぼ直線偏光)のほぼ全部が透過するように、透過軸が設定されている。光軸AXから見た入射側偏光板326の透過軸は、出射側偏光板329の透過軸と直交している。
入射側波長板320及び出射側波長板321は、光学位相差部材100、100a、100b、100c、100dによって構成される。入射側波長板320の遅相軸は、光軸AXから見て入射側偏光板326の透過軸を反時計回りに45°回転した方向と平行である。出射側波長板323の遅相軸は、光軸AXから見て入射側偏光板326の透過軸を反時計回りに135°回転した方向と平行であり、入射側波長板320の遅相軸と直交している。
入射側波長板320及び出射側波長板321は、それぞれ、第1の照明系302から出射された光L1が入射する光入射面が空隙(空気層)に隣接しており、かつ、光L1が出射される光出射面も空隙に隣接している。すなわち、入射側波長板320は、入射側偏光板326との間に空隙を有し、かつ光学補償板327との間にも空隙を有するように、取り付けられている。また、出射側波長板321は、液晶パネル328との間に空隙を有し、かつ出射側偏光板329との間に空隙を有するように、取り付けられている。
プロジェクタ301は、複数系統の照明系のそれぞれと液晶パネルとの間の各光路に、各照明系と1対1で対応する波長板が設けられており、各波長板は対応する照明系から出射される光の中心波長の四分の一にリタデーションが設定されているので、液晶パネルに入射する光を円偏光へ高精度に変換することができる。結果として、コントラスト比を向上させることもできる。
なお、図4に示したプロジェクタ301では、照明系302〜304において赤、緑、青の異なる色の光を生成する光生成機構310を用いたが、これに代えて、単一の白色光源及び反射帯域波長の異なる2つのダイクロックミラーを用いて白色光源からの光を赤、緑、青の三色に分離してもよい。
次に、光学位相差部材100、100a、100b、100c、100dを用いたプロジェクタの別の例を図6に基づいて説明する。
図6のプロジェクタ501は、出射する光の波長が互いに異なる3系統の照明系502、503、504と、液晶パネル528と、画像合成部508と、投写光学系509とを備えている。
3系統の照明系502、503、504のうち、第1の照明系502は赤色の光L1を出射可能であり、第2の照明系503は緑色の光L2を出射可能であり、第3の照明系504は青色の光L3を出射可能である。
液晶パネル528は、第1の照明系502から射出された光を画像情報に応じて光変調する2次元の赤色用液晶パネル528Rと、第2の照明系503から射出された光を画像情報に応じて光変調する2次元の緑色用液晶パネル528Gと、第3の照明系504から射出された光を画像情報に応じて光変調する2次元の青色用液晶パネル528Bとからなる。
画像合成部508は、ダイクロイックプリズム等によって構成され、各液晶パネル528R、528G、528Bにより変調された各色光を合成する。
投写光学系509は、画像合成部508で合成された光をスクリーン550上に投写するものである。
3系統の照明系502〜504は、光生成機構510から射出される光の光路に沿って見ると、光生成機構510、波長板534、拡散素子(散乱素子)532、集光レンズ511がこの順に配置された構成となっている。3系統の照明系502〜504において、各拡散素子532には、駆動装置515が取り付けられている。
各光生成機構510は、図示略のレーザーダイオード(LD)を含んでよい。このレーザーダイオードは、図示略のドライバーから供給される電流により光を発する活性層、及び活性層から発せられた光をレーザー発振可能な共振器を有する。あるいは、光生成機構510は、非偏光光源、及び偏光ビームスプリッタ等の非偏光光から直線偏光を作り出す偏光子を有してよい。それにより、各光生成機構510は、赤色の光L1、緑色の光L2、青色の光L3として、ほぼ直線偏光の光を生成可能である。
波長板534として、λ/4の位相差を生じさせるように設計した位相差部材100、100a、100b、100c、100dが用いられる。波長板534は、光生成機構510から射出された直線偏光の光を円偏光の光に変換することができる。
拡散素子532は、波長板534から射出された光を所定のスポットサイズを持った光線束に広げる機能を有する。拡散素子532として例えばすりガラスやホログラム素子など任意の素子を用いることができる。拡散素子としては例えば特開平6−208089号に開示された拡散素子や特開2010−197916号に開示されたホログラム記録媒体等を使用することができる。
駆動装置515は、拡散素子532の光が照射される領域を時間的に変動させるものである。駆動装置515は、拡散素子532を所定の回転軸の周りに回転させるモーターを含む。
集光レンズ511は、拡散素子532から射出された光を液晶パネル528に集光させる。
各液晶パネル528(赤色用液晶パネル528R、緑色用液晶パネル528G、青色用液晶パネル528B)は、画像情報を含んだ画像信号を供給するPC等の信号源(図示略)と電気的に接続されており、供給された画像信号に基づき入射光を画素ごとに空間変調して、それぞれ赤色画像、緑色画像、青色画像を形成する。赤色用液晶パネル子528R、緑色用液晶パネル528G、青色用液晶パネル528Bにより変調された光(形成された画像)は、画像合成部508に入射する。
画像合成部508のダイクロイックプリズムは、4つの三角柱プリズムが互いに貼り合わされた構造になっている。三角柱プリズムにおいて貼り合わされる面は、ダイクロイックプリズムの内面になる。ダイクロイックプリズムの内面に、赤色光Rが反射し緑色光Gが透過するミラー面と、青色光Bが反射し緑色光Gが透過するミラー面とが互いに直交して形成されている。ダイクロイックプリズムに入射した緑色光Gは、ミラー面を通ってそのまま射出される。ダイクロイックプリズムに入射した赤色光R、青色光Bは、ミラー面で選択的に反射あるいは透過して、緑色光Gの射出方向と同じ方向に射出される。このようにして3つの色光(画像)が重ね合わされて合成され、合成された色光が投写光学系509によってスクリーン550に拡大投写される。
レーザー光源は、高出力であること、色再現性に優れること、瞬時点灯が容易であること、長寿命であること等の長所を有しているが、レーザー光はコヒーレントであるため、レーザー光源を光源として用いたプロジェクタは、干渉によりスクリーン上にスペックルと呼ばれる干渉パターンが生じるという問題がある。この点、図6のプロジェクタ501においては、回転駆動された拡散素子532により光生成機構510から射出された光の偏光・位相・角度・時間といったモードが多重化され、スペックルの発生を低減できる。さらに、プロジェクタ501においては、λ/4波長板534を光生成機構510と拡散素子532の間に設けることで、光生成機構510から出射した直線偏光光を波長板534により円偏光光に変換した上で拡散素子532に入射させることができる。それにより、散板532を通った後の多重度を、拡散板532を設けない場合の倍にすることができ、スペックルを1/√2倍に低減することが出来る。
以上、本発明を実施形態により説明してきたが、本発明の光学位相差部材の製造方法は上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で適宜改変することができる。