以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.硫安の製造方法>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る硫安の製造方法を説明する。図1は、本実施形態に係る硫安の製造方法を説明する模式図である。
本実施形態に係る硫安の製造方法は、副生硫安を製造する方法である。具体的には、COGから回収した硫化水素などの硫黄成分を酸化処理することで硫酸イオンを生成し、該硫酸イオンと、COGから回収したアンモニアとから硫安を製造する方法である。
図1に示すように、本実施形態に係る硫安の製造方法は、脱硫設備2と、脱安設備4と、湿式酸化設備3と、硫安結晶化設備5と、硫安結晶7を保管する貯蔵設備6と、硫安結晶7を撮像する撮像装置8A、8Bと、撮像装置8A、8Bの撮像画像を解析し、解析結果に基づいて湿式酸化設備3を制御する制御装置9と、を備える硫安の製造設備1により実施される。
未精製COGは、コークス炉から得られ、各種有用成分等を含むガスである。具体的には、未精製COGは、H2(水素)およびCH4(メタン)を主成分とし、H2S(硫化水素)、HCN(シアン化水素)、およびNH3(アンモニア)などの不純物を含むガスである。未精製COGは、後述する脱硫設備2および脱安設備4によって、これらの不純物が回収または無害化されることで、精製COGに変換される。不純物が除去された精製COGは、さらに所定の処理が施された後、燃料、都市ガス、または化学工業の原料等に利用される。
脱硫設備2は、未精製COGからH2S等の硫黄成分を回収する設備である。具体的には、脱硫設備2は、未精製COGを下方部から導入し、アンモニア水を含む塩基性回収液を上方から循環撒布することで、それぞれを互いに向流接触させ、塩基性回収液にH2SおよびHCNを回収させる。また、塩基性回収液に回収されたH2SおよびHCNは、触媒および空気によって酸化され、最終的に、(NH4)2S2O3(チオ硫酸アンモニウム)およびNH4SCN(硫青酸化アンモニウム)に変換される。(NH4)2S2O3およびNH4SCNを含む塩基性回収液は、湿式酸化設備3に送液され、H2SおよびHCNが回収されたCOGは、脱安設備4に送られる。
ここで、脱硫設備2にて生じる反応について、より具体的に説明する。脱硫設備2にて撒布される塩基性回収液は、例えば、1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸アンモニウムを触媒として含むアンモニア水であり、以下の反応式1および2で表される反応によってH2SおよびHCNを吸収する。
NH4OH+H2S → NH4HS+H2O …反応式1
NH4OH+HCN → NH4CN+H2O …反応式2
また、一部のNH4HS(硫化水素アンモニウム)は、触媒によって酸化され、NH4OH(アンモニア)と、S(硫黄)とに分離される。分離されたSは、以下の反応式3および4で表される反応によって、NH4HS、NH3、NH4CN(シアン化アンモニウム)と反応し、NH4SCNを生成する。
NH3+NH4HS+Sx → (NH4)2Sx+1 …反応式3
(NH4)2Sx+1+NH4CN → (NH4)2S+NH4SCN …反応式4
さらに、NH4HS、(NH4)2Sx+1(多硫化アンモニウム)は、塩基性回収液中に導入される空気中の酸素によって酸化され、(NH4)2S2O3に変換される。以上の反応によって、脱硫設備2は、(NH4)2S2O3およびNH4SCNを含む塩基性回収液を生成する。
湿式酸化設備3は、脱硫設備2から送液された(NH4)2S2O3およびNH4SCNを含む塩基性回収液をさらに酸化し、(NH4)2SO4(硫酸アンモニウム)を含む脱硫処理液を生成する設備である。具体的には、湿式酸化設備3は、高温高圧下(例えば、268〜271℃、7.4MPa環境下)にて(NH4)2S2O3およびNH4SCNを酸化し、(NH4)2SO4を生成する。生成された(NH4)2SO4を含む回収液は、脱硫処理液として硫安結晶化設備5または脱安設備4に送液される。
また、湿式酸化設備3は、ヒーター、熱交換器および高温空気供給口などの温度制御機構を備え、(NH4)2S2O3およびNH4SCNを酸化する酸化反応における反応温度を制御可能に設けられる。
硫安の製造に用いられる未精製COGの性状は、コークス炉で乾留する石炭の性状によって変化する。そのため、湿式酸化設備3は、製造に用いられた未精製COGの性状に対応して、湿式酸化設備3における酸化反応の反応温度を制御することで、安定した硫安の製造を可能にするものである。具体的には、湿式酸化設備3は、硫安結晶7の赤み度合に基づいて、湿式酸化設備3における酸化反応の反応温度を制御することで、未精製COGの性状によって赤色着色された硫安結晶7が製造されることを抑制する。
脱安設備4は、脱硫設備2にてH2SおよびHCNが回収されたCOGから、さらにNH3を回収する設備である。具体的には、脱安設備4は、COGを下方部から導入し、硫酸を含む酸性回収液を上方から循環撒布することで、それぞれを向流接触させ、COGに含まれるNH3を酸性回収液に回収する。NH3を回収した酸性回収液は、脱安処理液として硫安結晶化設備5に送液される。
なお、脱安設備4で使用される酸性回収液は、湿式酸化設備3によって生成された脱硫処理液を含んでいてもよい。脱硫処理液は、(NH4)2SO4を含み、酸性溶液であるため、塩基性のNH3を回収することが可能である。酸性回収液が脱硫処理液を含む場合、NH3の回収時に使用される硫酸の量を低減することができるため、硫安の製造コストを削減することができる。
硫安結晶化設備5は、湿式酸化設備3から送液される脱硫処理液と、脱安設備4から送液される脱安処理液とを混合することで硫安母液を生成し、該硫安母液を濃縮および結晶化させることで硫安結晶を生成する設備である。具体的には、硫安結晶化設備5は、硫酸イオンを含む脱硫処理液と、アンモニアを含む脱安処理液とを混合して硫安母液とし、該硫安母液を蒸気加熱および減圧等によって濃縮することで、硫安結晶を析出させる。硫安結晶化設備5にて生成された硫安結晶は、ふるい等によって、粒の直径が1〜4mmである粒状品と、粒の直径が1mm未満である粉品とに選別された後、貯蔵設備6に搬送され、保管される。
なお、硫安結晶を析出させた後の硫安母液の残液は、硫安結晶化設備5内を循環しており、新たな脱硫処理液および脱安処理液と混合された後、再度、硫安母液として、硫安結晶の生成に用いられる。
貯蔵設備6は、硫安結晶化設備5によって生成された硫安結晶7を保管する設備である。例えば、貯蔵設備6は、硫安結晶7を袋詰め等するまで保管しておく倉庫などであってもよい。また、貯蔵設備6に保管される硫安結晶7は、例えば、単肥として出荷可能な、粒の直径が1〜4mmである粒状結晶である。
撮像装置8A、8Bは、例えば、硫安結晶7のカラー撮像画像を取得可能なデジタルカメラである。具体的には、撮像装置8Aは、貯蔵設備6に保管されている硫安結晶7を撮像するデジタルカメラであり、撮像装置8Bは、硫安結晶化設備5から貯蔵設備6へ硫安結晶7を搬送するいずれかの搬送経路上の硫安結晶7を撮像するデジタルカメラである。本実施形態に係る硫安の製造方法では、少なくとも撮像装置8Aが設けられるが、さらに撮像装置8Bが設けられることが好ましい。
制御装置9は、撮像装置8Aによって撮像された硫安結晶7の撮像画像から硫安結晶7の赤み度合を表す赤色指数を算出し、算出した赤色指数に基づいて湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を制御する。具体的には、制御装置9は、まず、撮像装置8Aが撮像した硫安結晶7の撮像画像におけるRGB輝度値から硫安結晶7の赤み度合を表す赤色指数を算出する。算出した赤色指数が閾値(第1の閾値)以上である場合、制御装置9は、湿式酸化設備3の温度制御機構を制御することで、酸化反応の反応温度を上昇させる。これにより、制御装置9は、製造した硫安結晶7に赤色着色が見られた場合、以後に製造される硫安結晶7の赤色着色を効率的に抑制することができる。
なお、本実施形態に係る硫安の製造方法では、赤色指数の算出、および赤色指数に基づく湿式酸化設備3における酸化反応の反応温度の制御は、制御装置9によって実行されていてもよく、制御装置9を用いずに人の手によって実行されてもよい。
ここで、湿式酸化設備3における酸化反応の反応温度を制御することで、硫安結晶7の赤色着色を抑制することができる理由について、以下で説明する。
本発明者らは、鋭意、実験および検討を行った結果、上述した硫安結晶7の赤色着色の主要因は、鉄(III)、SCN−(硫青酸化物イオン)および水和水からなり、赤色を呈することが知られている錯体[Fe(SCN)(H2O)5]2+であると想到するに至った。すなわち、副生硫安の製造において、硫安結晶7に含まれるSCN−の濃度が上昇することで、[Fe(SCN)(H2O)5]2+が生成され、硫安結晶7が赤色着色して視認されると考えられる。
通常、脱硫設備2から送液される回収液に含まれるSCN−は、湿式酸化設備3の酸化反応によって酸化および分解されることで、大部分がSO4 2−(硫酸イオン)に変化している。そのため、脱硫処理液中に含まれるSCN−の濃度は、極めて低く、硫安結晶7に含まれるSCN−の濃度も低いため、赤色着色が視認されるような濃度の[Fe(SCN)(H2O)5]2+は生成されない。
しかし、未精製COGの性状変化により、脱硫設備2から送液される回収液に含まれるSCN−の濃度が上昇した場合、湿式酸化設備3の酸化反応によるSCN−の酸化および分解が不十分になってしまうことがあり得る。このような場合、脱硫処理液に含まれるSCN−の濃度が上昇するため、硫安結晶7に含まれるSCN−の濃度も上昇し、赤色着色が視認されるような濃度の[Fe(SCN)(H2O)5]2+が生成されてしまうと考えられる。
そこで、本実施形態に係る硫安の製造方法は、硫安結晶7の赤色着色を抑制するために、湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を上昇させることでSCN−の酸化および分解を促進させ、脱硫処理液に含まれるSCN−を低減させるものである。
また、硫安結晶7の赤み度合は、硫安結晶7の撮像画像から算出される赤色指数によって評価される。具体的には、赤色指数が閾値(第1の閾値)以上である場合、湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を上昇させる制御が行われる。
赤色指数は、撮像装置8Aによって撮像された硫安結晶7の撮像画像におけるRGB輝度値の平均から算出される値であり、例えば、以下の式(1)にて算出される値である。このような赤色指数を用いることにより、目視判定等の定性的な官能試験よりも、定量的に硫安結晶7の赤み度合を評価することができる。
赤色指数=R−(G+B)/2 ・・・式(1)
なお、式(1)において、Rは、撮像画像における各画素のR輝度値の平均であり、Gは、撮像画像における各画素のG輝度値の平均であり、Bは、撮像画像における各画素のB輝度値の平均である。
ここで、硫安結晶7の赤み度合を定量的に評価する方法としては、JIS法に基づくJIS Z8701、8722などに規定されるように、例えば、色空間上の色座標を用いて色合いを評価する方法も例示することができる。
しかしながら、色空間上の色座標を用いて硫安結晶7の赤み度合を評価する場合、目視による官能評価にて「赤色」と評価される色合いは、色空間(例えば、L*a*b*表色系)上の色座標では、「暗い黄褐色」と評価される領域の色合いであり、整合性が低かった。そのため、色空間上の色座標を用いる方法は、目視による官能評価と整合した評価結果を得ることが困難であり、硫安結晶7の赤み度合を評価するには好ましくなかった。また、色空間上の色座標を用いて硫安結晶7の赤み度合を評価する場合、一般的に色度計を用いることになるが、不均一な粒形状を有する硫安結晶7は、色度計に載せることが困難であり、かつ粒形状によって測定結果がばらつくため、精度の高い測定は困難であった。
一方、本実施形態に係る硫安の製造方法では、硫安結晶7を撮像した撮像画像から赤色指数を算出するため、人間の目視判定による官能試験により近い評価結果を得ることができる。また、硫安結晶7の撮像画像から赤色指数を算出する方法では、不均一な粒形状を有する硫安結晶7であっても撮像画像を取得することができるため、赤色指数を算出することが可能である。さらに、抜き取り調査のためサンプリングした少量の硫安結晶7を小さい視野で撮像した撮像画像や、貯蔵設備6に保管された大量の硫安結晶7を大きな視野で撮像した撮像画像などからも赤色指数を算出することが可能である。したがって、本実施形態に係る硫安の製造方法は、硫安結晶の撮像画像から赤色指数を算出することにより、硫安結晶7の量および粒径状等によらずに、硫安結晶7の赤み度合を評価することが可能である。
また、硫安結晶7は、貯蔵設備6で保管され、冷却および吸湿されることで赤色着色が強まる。これは、硫安結晶7の赤色着色の主要因と考えられる[Fe(SCN)(H2O)5]2+の錯体形成が、硫安結晶7の冷却および吸湿によって進行するためであると考えられる。そのため、赤色指数を算出する際に用いる撮像画像は、ある程度の期間(例えば、24時間程度)、貯蔵設備6にて保管された硫安結晶7を撮像した画像であることが好ましい。
一方、硫安結晶7の赤色着色を早期に評価し、湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を上昇させるか否かを早期に判断したい場合、貯蔵設備6における冷却および吸湿期間を設けずに硫安結晶7を撮像し、撮像画像から赤色指数を算出してもよい。具体的には、硫安結晶化設備5から貯蔵設備6へ硫安結晶7を搬送するいずれかの搬送経路に設置された撮像装置8Bにて搬送経路上の硫安結晶7を撮像し、撮像した画像から赤色指数を算出してもよい。
ただし、搬送経路上の硫安結晶7は、冷却および吸湿期間が実質的に設けられていないため、貯蔵設備6にて保管された硫安結晶7に対して赤色着色が弱いと考えられる。そのため、搬送経路上の硫安結晶7を撮像した撮像画像から算出した赤色指数にて湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を上昇させるか否か判断する場合、第1の閾値よりも小さい(すなわち、赤み度合がより低い)第2の閾値を用いる。
ここで、第1の閾値とは、貯蔵設備6にて保管された硫安結晶7を撮像した撮像画像から算出した赤色指数に対して、湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を上昇させるか否かを判断するために用いた閾値である。
すなわち、本実施形態に係る硫安の製造方法では、搬送経路上の硫安結晶7の撮像画像から算出した赤色指数が第1の閾値よりも小さい第2の閾値以上である場合、湿式酸化設備3の酸化反応の反応温度を上昇させてもよい。この構成によれば、冷却および吸湿のための期間が設けられておらず、赤色着色が弱い搬送経路上の硫安結晶7を撮像した撮像画像からも硫安結晶7の赤色着色の有無を判断し、製造される硫安結晶7の赤色着色をより早期に抑制することが可能である。
なお、SCN−は、液中では、[Fe(SCN)(H2O)5]2+として錯体形成しても他成分の影響により鮮明に発色しない。そのため、脱硫設備2から送液される塩基性回収液、および湿式酸化設備3から送液される脱硫処理液の色を評価することで、製造される硫安結晶7が赤色着色するか否かを評価することは困難である。
また、硫安結晶化設備5内にて硫安結晶を晶析させた硫安母液は循環して再利用されるため、SCN−は、硫安結晶化設備5にて次第に濃縮される。そのため、脱硫設備2から送液される塩基性回収液、または湿式酸化設備3から送液される脱硫処理液に含まれるSCN−の濃度と、硫安結晶化設備5内を循環する硫安母液のSCN−の濃度との間の相関性は低かった。したがって、塩基性回収液または脱硫処理液に含まれるSCN−の濃度の評価結果と、製造される硫安結晶7の赤色着色の有無との相関性は低かった。そこで、本実施形態に係る硫安の製造方法では、製造された硫安結晶7の赤み度合を評価し、評価結果を湿式酸化設備3にフィードバックすることで、赤色着色された硫安結晶7が製造されることを効率的に抑制するものである。
以上にて説明した本実施形態に係る硫安の製造方法によれば、着色した硫安結晶が製造されることを効率的に抑制することが可能である。
<2.湿式酸化設備>
続いて、図2を参照して、本実施形態に係る硫安の製造方法にて用いられる湿式酸化設備3の詳細について説明する。図2は、本実施形態に係る湿式酸化設備3を説明する模式図である。
図2に示すように、湿式酸化設備3では、まず、脱硫設備2から送液された(NH4)2S2O3およびNH4SCNを含む回収液と、7.4MPa程度の高圧空気とが混合されて混合流体となる。
次に、混合流体は、熱交換器33にて反応塔31から排出される高温ガスと熱交換することで加熱される。熱交換器33は、複数設けられていてもよく、このような場合、少なくとも1つ以上の熱交換器33に反応塔31から排出される高温ガスが導入される。また、熱交換器33にて加熱された混合流体では、S2O3 2−(チオ硫酸イオン)が以下の反応式5で表される反応によってSO4 2−(硫酸イオン)に酸化される。
(NH4)2S2O3+2O2+H2O → (NH4)2SO4+H2SO4 …反応式5
S2O3 2−(チオ硫酸イオン)がSO4 2−(硫酸イオン)に酸化された混合流体は、続いて反応塔31に導入される。混合流体が導入された反応塔31内は、S2O3 2−およびSCN−(硫青酸化物イオン)の自己酸化熱によって加熱されることで、高温高圧環境となる。このような高温高圧環境により、混合流体に含まれるSCN−は、以下の反応式6で表される反応によってSO4 2−に酸化される。なお、該酸化反応の反応温度は、反応塔31の塔頂にて268℃〜271℃である。
NH4SCN+2O2+2H2O → (NH4)2SO4+CO2 …反応式6
なお、反応塔31での酸化反応の反応温度は、導入される混合流体の温度によって制御することが可能である。反応塔31に導入される混合流体の温度を上昇させるためには、例えば、熱交換器33に流れる高温ガスの量を増加させ、混合流体と高温ガスとの熱交換量を増加させる方法や、混合流体に他の熱源(ヒーターまたは高温蒸気など)を接触させて加熱する方法を用いることができる。また、反応塔31にヒーター等の熱源が設置されている場合、該熱源によって混合流体を加熱することによって、反応塔31での酸化反応の反応温度を上昇させることも可能である。
反応塔31に導入された混合流体のうち、反応塔31にて酸化されたSO4 2−を含む液成分は、反応塔31の塔頂付近の側壁から回収される。回収された液成分は、クーラー34で冷却された後、(NH4)2SO4を含む脱硫処理液として、脱安設備4または硫安結晶化設備5に送液される。
一方、反応塔31に導入された混合流体のうち、反応塔31の塔頂から排出されるガス成分は、セパレータ35に回収され、セパレータ35にて凝縮水と、排ガスとに分離される。なお、排ガスは、スクラバー36によって大気汚染物質、および煤塵等が除去された後、大気中に放出される。
ここで、反応塔31の塔頂から排出されるガス成分は、S2O3 2−およびSCN−の自己酸化熱によって、反応塔31に導入される前の混合流体よりも高温になっている。そのため、該ガス成分の一部は、熱交換器33に導入されて混合流体の加熱に利用される。熱交換器33に導入されるガス成分の量は、反応塔31の塔頂から排出されるガス成分をバイパスする配管に設けられた調節弁32の開度を調節することで制御することが可能である。
例えば、調節弁32の開度を大きくすることにより、熱交換器33を経由せずにセパレータ35に回収されるガス成分の量を増加させることができる。これにより、熱交換器33に導入されるガス成分の量を減少させ、混合流体との熱交換量を減少させることで、混合流体への加熱を弱めることができる。また、調節弁32の開度を小さくすることにより、熱交換器33を経由せずにセパレータ35に回収されるガス成分の量を減少させることができる。これにより、熱交換器33に導入されるガス成分の量を増加させ、混合流体との熱交換量を増加させることで、混合流体への加熱を強めることができる。
なお、上述した反応塔31での酸化反応の反応温度は、反応温度を上昇させた場合でも、反応塔31の塔頂での温度が274℃以下になるように制御されることが好ましい。
これは、反応塔31の塔頂での温度が274℃を超える場合、湿式酸化設備3の接液部にて酸による腐食リスクが高くなり、設備の腐食防止の観点から好ましくないためである。また、反応塔31の塔頂での温度が274℃を超える場合、混合流体の水分が水蒸気となってガス成分側により多く排出されるため、液成分側の水分が減少してしまう。このような場合、液成分中の(NH4)2SO4の濃度が上昇し、配管およびクーラー34中で硫安結晶が析出する可能性が高くなる。析出した(NH4)2SO4の結晶は、配管およびクーラー34等の閉塞、腐食およびエロージョン等を生じさせるため、反応塔31の塔頂での温度が274℃を超えることは、設備の保護の観点から好ましくない。
また、反応塔31の塔頂での温度が274℃以下である場合でも、設備の保護および腐食防止の観点から、反応塔31の反応温度を上昇させた状態が長期間継続することは好ましくない。そこで、反応塔31の反応温度を上昇させた後に、硫安結晶7の赤色指数が閾値未満に低下した場合、反応塔31の反応温度は、反応塔31の塔頂において268℃以上271℃以下になるように制御されることが好ましい。
ここで、反応塔31の塔頂における反応温度が268℃以上271℃以下である温度条件は、湿式酸化設備3の通常操業時の温度条件であり、湿式酸化設備3に対する負荷と、反応塔31におけるSCN−の酸化反応の進み具合とが均衡した温度条件である。すなわち、未精製COGの性状変化によって脱硫設備2から送液される回収液に含まれるSCN−が減少し、製造された硫安結晶7が赤色着色しなくなった場合、湿式酸化設備3は、反応塔31の反応温度を通常操業時の温度条件に戻し、設備に対する負荷を軽減することが好ましい。
以上にて本実施形態に係る硫安の製造方法に用いられる湿式酸化設備3について詳細に説明した。
<3.制御装置>
続いて、図3および図4を参照して、本実施形態に係る硫安の製造設備1における制御装置9の詳細について説明する。図3は、本実施形態に係る制御装置9の内部構成を説明するブロック図であり、図4は、本実施形態に係る制御装置9が実行する制御を説明するフローチャート図である。
図3に示すように、制御装置9は、赤色指数算出部91と、閾値判断部92と、温度制御部93とを備える。また、温度制御機構320は、反応塔31内の反応温度を制御するための熱源等であり、塔頂温度計311は、反応塔31の塔頂における温度を測定する温度計である。
赤色指数算出部91は、硫安結晶7の撮像画像に基づいて、硫安結晶7の赤み度合を表す赤色指数を算出する。具体的には、赤色指数算出部91は、撮像装置8(すなわち、撮像装置8A、8B)から硫安結晶7の撮像画像を取得し、該撮像画像から以下の式(1)に基づいて赤色指数を算出する。このような赤色指数は、撮像装置8によって撮像された硫安結晶7の撮像画像に基づいて算出されるため、目視判定等の官能試験と整合した評価を定量的に示すことができる。
赤色指数=R−(G+B)/2 ・・・式(1)
式(1)において、Rは、撮像画像における各画素のR輝度値の平均であり、Gは、撮像画像における各画素のG輝度値の平均であり、Bは、撮像画像における各画素のB輝度値の平均である。
なお、赤色指数の算出に用いられる撮像画像は、所定の撮像装置8を用いて、所定のホワイトバランスおよび撮像環境にて硫安結晶7を撮像した画像であることが好ましい。これは、撮像画像のRGB輝度値は、撮像装置8の性能や設定、および撮像環境等によって変動する可能性があるためである。
閾値判断部92は、赤色指数算出部91が算出した赤色指数を用いて、製造された硫安結晶7が赤色着色しているか否かを判断する。具体的には、閾値判断部92は、貯蔵設備6に保管された硫安結晶7の撮像画像から算出した赤色指数が第1の閾値以上である場合、製造された硫安結晶7が赤色着色していると判断する。また、閾値判断部92は、硫安結晶化設備5から貯蔵設備6への搬送経路上の硫安結晶7を撮像した撮像画像から算出した赤色指数が第2の閾値以上である場合、製造された硫安結晶7が赤色着色していると判断してもよい。
ただし、第2の閾値は、第1の閾値よりも小さいものとする。閾値判断部92は、貯蔵設備6にて保管された硫安結晶7よりも製造後の経過時間が短く赤色着色が弱いと考えられる搬送経路上の硫安結晶7については、より小さい閾値を用いて硫安結晶7の赤色着色の有無を判断する。なお、後述する実施例にて説明するように、第1の閾値は、例えば、20であり、第2の閾値は、例えば、10であってもよい。
温度制御部93は、閾値判断部92の判断に基づいて、温度制御機構320を制御し、反応塔31の反応温度を制御する。具体的には、温度制御部93は、製造された硫安結晶7が赤色着色していると閾値判断部92によって判断された場合、湿式酸化設備3の反応塔31の反応温度を上昇させるように温度制御機構320を制御する。例えば、図2に示すように温度制御機構320が調節弁32である場合、温度制御部93は、調節弁32の開度を小さくすることで、混合流体への加熱を強め、反応塔31の反応温度を上昇させることができる。また、温度制御機構320が反応塔31に設置されたヒーターである場合、温度制御部93は、ヒーターの発熱量を増加させることで、反応塔31の反応温度を上昇させることができる。
また、温度制御部93は、反応塔31における反応温度が274℃以下になるように温度制御機構320を制御することが好ましい。具体的には、温度制御部93は、反応塔31の塔頂に設けられた塔頂温度計311にて測定される温度が274℃以下となるように温度制御機構320を制御することが好ましい。これは、反応塔31内の反応温度が274℃を超える場合、湿式酸化設備3において設備の腐食および配管の閉塞などが増加し、設備に対するダメージが過大になるためである。反応塔31内の温度は、反応塔31の塔頂が最も高いため、反応塔31の塔頂における温度が274℃を超えないように制御することで、反応塔31内全体において反応温度が274℃を超えることを防止することができる。
また、反応塔31の反応温度を上昇させた後に、製造された硫安結晶7の赤色指数が閾値未満に低下した場合、温度制御部93は、湿式酸化設備3の反応塔31の反応温度を低下させることが好ましい。具体的には、温度制御部93は、反応塔31の塔頂に設けられた塔頂温度計311にて測定される温度が268℃以上271℃以下となるように温度制御機構320を制御することが好ましい。なお、反応塔31の塔頂における温度が268℃以上271℃以下である温度条件は、湿式酸化設備3の通常操業時の温度条件である。
反応塔31内の反応温度が通常操業時よりも高い(例えば、271℃〜274℃)条件下では、湿式酸化設備3へのダメージが大きくなる。そのため、原料の未精製COGの性状の変化等により、製造される硫安結晶7が赤色着色しなくなった場合には、設備の保護の観点から、温度制御部93は、反応塔31の反応温度を通常操業時の温度条件に戻すように温度制御機構320を制御することが好ましい。
以上にて説明した制御装置9は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)などのハードウェアによって実現される。
例えば、CPUは、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM等に記憶されたプログラムに従って、制御装置9全体の機能を実行する。また、ROMは、CPUが使用するプログラムや演算パラメータを記憶し、RAMは、CPUの実行において使用されるプログラム、実行時に適宜変化するパラメータ等を一時記憶する。制御装置9は、これらのハードウェアと、ソフトウェアとの協働によって、赤色指数算出部91、閾値判断部92および温度制御部93の機能を実現することができる。
次に、図4を参照して、上述した本実施形態に係る制御装置9が実行する制御の流れを説明する。
図4に示すように、まず、赤色指数算出部91は、硫安結晶7の撮像画像を撮像装置8から取得し(S101)、取得した撮像画像のRGB輝度値を用いて赤色指数を算出する(S103)。続いて、閾値判断部92は、算出された赤色指数が閾値以上であるか否かを判断する(S105)。なお、閾値判断部92は、撮像された硫安結晶7が貯蔵設備6に保管された硫安結晶7か、搬送経路上の硫安結晶7かによって、第1の閾値または第2の閾値のいずれかを適宜選択して用いる。
算出された赤色指数が閾値未満である場合(S105/No)、閾値判断部92は、硫安結晶7は赤色着色していないと判断する。このとき、制御装置9は、S101に戻り、硫安結晶7の撮像画像を取得するステップを再度実行する。
一方、算出された赤色指数が閾値以上である場合(S105/Yes)、閾値判断部92は、硫安結晶7は赤色着色していると判断する。このとき、温度制御部93は、温度制御機構320を制御し、反応塔31の酸化反応の反応温度を上昇させる。このとき、温度制御部93は、塔頂温度計311によって測定される反応塔31の塔頂における温度が274℃以下となるように温度制御機構320を制御し、湿式酸化設備3に対するダメージが過大になることを防止することが好ましい。
次に、反応温度上昇後において、赤色指数算出部91は、反応温度上昇後に製造された硫安結晶7の撮像画像を撮像装置8から取得し(S111)、取得した撮像画像のRGB輝度値を用いて赤色指数を算出する(S113)。続いて、閾値判断部92は、算出された赤色指数が閾値以上であるか否かを判断する(S115)。算出された赤色指数が閾値以上である場合(S115/Yes)、温度制御部93は、S107に戻り、温度制御機構320を制御して、反応塔31の塔頂における温度が274℃以下である範囲で、反応塔31の酸化反応の反応温度を上昇させる。
なお、反応塔31の塔頂における温度が274℃となるまで反応塔31の反応温度を上昇させても、製造された硫安結晶7の赤色指数が閾値以上である場合、制御装置9は、脱硫処理液を水等で希釈して湿式酸化設備3に投入するよう制御してもよい。このような場合、希釈によって脱硫処理液中のSCN−の濃度が減少するため、製造される硫安結晶7の赤色着色を抑制することができる。
一方、算出された赤色指数が閾値未満である場合(S115/No)、温度制御部93は、反応塔31の塔頂における温度が268℃以上271℃以下となるように、温度制御機構320を制御し、反応塔31の反応温度を通常操業時の温度に戻す(S117)。
以上の流れの制御により、本実施形態に係る制御装置9は、製造される硫安結晶7の赤色着色を効率的に抑制することが可能である。
<4.具体例>
以下では、具体例を参照しながら、本実施形態に係る硫安の製造方法について、さらに具体的に説明する。なお、以下に示す具体例は、本実施形態に係る硫安の製造方法の一例であり、本発明に係る硫安の製造方法が以下の具体例に限定されるものではない。
図1および図2にて示した硫安の製造設備を用いて、硫安結晶を製造した。
具体的には、コークス炉から排出される未精製COGを脱硫設備に導入し、未精製COGに含まれるH2SおよびHCNをアンモニア水に吸収させ、NH4SHおよびNH4CNとして回収した。また、空気酸化により、NH4SHおよびNH4CNを(NH4)2S2O3およびNH4SCNに酸化した。
続いて、(NH4)2S2O3およびNH4SCNを含む回収液を湿式酸化設備に送液し、反応塔内を7.4MPaかつ270.5℃の高温高圧環境下にすることで、(NH4)2S2O3およびNH4SCNを(NH4)2SO4に酸化した。また、脱硫設備にてH2SおよびHCNを回収した未精製COGを脱安設備に導入し、未精製COGに含まれるNH3を硫酸に吸収させ、(NH4)2SO4として回収した。
次に、硫安結晶化設備にて、湿式酸化設備にて生成された(NH4)2SO4を含む脱硫処理液と、脱安設備にて生成された(NH4)2SO4を含む脱安処理液とを4:6の比率で混合して硫安母液とした。また、硫安結晶化設備において、硫安母液を濃縮することで結晶を晶析させ、硫安結晶を製造した。
以上の工程によって製造した硫安結晶の撮像画像を以下の方法にて撮像し、赤色指数を算出した。具体的には、製造されてから24時間以上貯蔵設備にて保管した硫安結晶を少量採取し、白色紙(上質紙)上に載置して、白色光下で所定のデジタルカメラ(CASIO製 EXILIM EX−Z800)にて撮像した。なお、デジタルカメラは、オートホワイトバランス設定とし、また、撮像画像の視野内には白色紙および硫安結晶のみが含まれるようにして撮像した。
次に、デジタルカメラで撮像した撮像画像を画像処理ソフト(アドビシステムズ社製PhotoSoop element10)にて取り込み、硫安結晶が写っている領域の各画素のR輝度値、G輝度値、B輝度値を抽出し、それぞれ平均を算出した。続いて、算出したR輝度値、G輝度値、B輝度値の平均を用い、以下の式(1)に基づいて硫安結晶の赤み度合を表す赤色指数を算出した。
赤色指数=R−(G+B)/2 ・・・式(1)
なお、式(1)において、Rは、R輝度値の平均であり、Gは、G輝度値の平均であり、Bは、B輝度値の平均である。
上記の硫安の製造方法を用いて硫安結晶を製造し、製造した硫安結晶の赤色指数を上記の算出方法を用いて算出した結果を図5に示す。図5は、硫安結晶化設備において硫安母液を濃縮および結晶化させる結晶缶内のSCN−の濃度を横軸に採り、各サンプルの赤色指数を縦軸にプロットした散布図である。なお、図5において、各サンプルは、硫安の製造に用いられた未精製COGの性状がそれぞれ異なり、また硫安結晶化設備における硫安母液の濃縮の程度がそれぞれ異なるため、異なる座標にプロットされている。なお、結晶缶内のSCN−の濃度は、結晶缶内の硫安母液を採取し、農林水産省肥料分析法記載の硫酸銅法(サンプルに亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)を添加することで、HN4SCNを発生させた後、硫酸銅溶液で滴定し、フェロシアン化カリウム紙で終点判定する方法)を用いることで測定した。
図5に示す赤色指数と、目視判定による官能試験の評価結果とを照らし合わせたところ、目視判定による官能試験において「赤色」と評価される領域は、赤色指数が20以上の領域であり、「ピンク」と評価される領域は、赤色指数が10以上20未満の領域であり、「白色」と評価される領域は、赤色指数が10未満の領域であることがわかった。すなわち、第1の閾値として20を用い、第2の閾値として10を用いることで、硫安結晶の赤色着色を赤色指数から判断できることがわかった。
また、図5を参照すると、硫安結晶化設備において硫安母液を濃縮および結晶化させる結晶缶内のSCN−の濃度と、赤色指数とはおおよそ比例関係にあることがわかる。特に、結晶缶内のSCN−の濃度が3500mg/L以上の場合、硫安結晶は赤色指数が20以上に赤色着色され、結晶缶内のSCN−の濃度が2000mg/L以下の場合、硫安結晶の赤色指数をおおよそ20以下に抑制できることがわかる。
ここで、硫安結晶化設備では、硫安母液を循環させて使用するため、結晶缶内のSCN−の濃度は、脱硫処理液および脱安処理液の混合液のSCN−の濃度に対して、3倍程度に濃縮されていると考えられる。また、SCN−は、脱硫処理液のみに含まれており、かつ脱硫処理液と、脱安処理液との混合比率が4:6である。したがって、結晶缶内のSCN−の濃度を2000mg/L以下にするには、脱硫処理液におけるSCN−の濃度をおおよそ1500mg/L以下(=2000÷3÷0.4)とする必要があることがわかる。
続いて、湿式酸化設備における酸化反応の反応温度を上昇させることで硫安結晶の赤色着色を抑制することができることを確認した。具体的には、湿式酸化設備の反応塔の塔頂における温度と、該温度にて酸化反応させた場合の脱硫処理液中のSCN−の濃度との関係を確認した。図6は、湿式酸化設備の反応塔の塔頂における温度に対して、脱硫処理液中のSCN−の濃度をプロットしたグラフ図である。
図6に示すように、湿式酸化設備の反応塔の塔頂における温度を上昇させ、反応塔における酸化反応の反応温度を上昇させることにより、酸化反応後の脱硫処理液に含まれるSCN−の濃度が低下することがわかる。
例えば、未精製COGの性状により、湿式酸化設備に導入する前の回収液中のSCN−の濃度が上昇してしまった「悪化時」のグラフにおいて、SCN−の濃度は、通常操業温度では、1250mg/L〜1600mg/Lである。このような脱硫処理液を用いて硫安結晶を製造した場合、上述したように結晶缶内のSCN−の濃度が2000mg/Lより高くなる可能性が高く、赤色着色した硫安結晶が製造される可能性が高い。ここで、「改善操作」で示されるように、反応塔の塔頂における温度が274℃になるように反応塔の酸化反応の反応温度を上昇させた場合、脱硫処理液に含まれるSCN−の濃度を600mg/L程度まで低下させることができる。
このように酸化反応の反応温度を上昇させた脱硫処理液を用いて硫安結晶を製造した場合、結晶缶内のSCN−の濃度を700mg/L程度(=600×0.4×3)に抑制することができる。したがって、結晶缶内のSCN−の濃度が抑制されるため、図5で示すように、赤色指数が10以下であり、着色されていない硫安結晶を製造することができる。
図1および図2にて示した硫安の製造設備を用いて、硫安結晶を製造し、上記<4.具体例>にて示した赤色指数を用いて、湿式酸化設備の反応塔における酸化反応の反応温度を制御した。その結果を図7に示す。図7は、実施例にて製造した硫安の赤色指数の推移と、赤色指数に対応した湿式酸化設備の温度制御とを50日程度のスパンにて示したグラフ図である。
図7に示すように、発色成分であるSCN−は、硫安母液に残留するため、硫安結晶化設備で濃縮される。そのため、SCN−の濃度は、硫安の製造開始時(day1)では低く、日数が経過するほど高くなる。
ここで、硫安結晶を長期間製造して、硫安母液が減少した場合、硫安結晶化設備を停止し、洗浄が行われる。洗浄では、洗浄水により、硫安母液中のSCN−を希釈し、かつ濃縮されたSCN−(すなわち、発色成分)を含むスラッジを母液タンクから除去する。これにより、洗浄後は、硫安母液中のSCN−の濃度が低下した状態にて、硫安の製造を再開することができる。ただし、SCN−の希釈の程度、SCN−の除去の状況により、硫安製造の再開時における硫安母液のSCN−の濃度が異なるため、赤色指数が上昇するまでの日数および上昇の程度は、硫安の製造再開ごとに異なる。
図7において、赤色指数を左目盛に0〜30の範囲にて示す。「8B」で示したプロットは、乾燥機から貯蔵設備への搬送経路上(例えば、、ベルトコンベア上)の硫安結晶を図1で示した撮像装置8Bにて撮像し、撮像した画像から算出した赤色指数である。「8B」で示した赤色指数は、硫安結晶において日々発生する結晶粒径ばらつき、および表面粗度による母液成分の残留度合により、日々の変動が激しく、変動幅が大きくなっている。
一方、「8A」で示した赤色指数は、貯蔵設備(例えば、倉庫)に山積みされた硫安結晶を図1の撮像装置8Aにて撮像し、撮像した画像から算出した赤色指数である。「8A」で示した赤色指数は、日々の変動が小さいため、評価がしやすいが、赤色指数の評価結果を硫安の製造工程にフィードバックする際にタイムラグが大きくなる。
図7において、湿式酸化設備の酸化反応の反応温度(すなわち、反応塔の塔頂の温度)を右目盛に268〜275℃の範囲にて示す。前述のように、通常、酸化反応の反応温度は、機器保全の観点から、269℃にて制御されている。ここで、目視判定によって硫安結晶の着色が確認された場合、反応温度を適宜、上昇させていた。この場合、硫安結晶の着色の程度に対する定量的な指標がないため、反応温度の制御に過不足が生じやすかった。
本発明によれば、例えば、「8A」で示した赤色指数が10以上になった際に、反応温度を上昇させる制御を行うことによって、赤色に強く着色し、赤色指数が20以上である硫安結晶の製造を防止することができる(day22〜day24の製造停止、および再開の期間参照)。
ただし、反応温度を上昇させた場合であっても、硫安母液中に着色成分であるSCN−が多く残留していた場合、硫安結晶への着色が早く出現することがある。このような場合、「8A」で示した赤色指数によるフィードバック制御が追い付かないことがある。
図7で示したグラフ図のday25以降がこのような場合に該当する。「8A」で示した赤色指数によるフィードバック制御では、「8B」で示した赤色指数は、20以上となっているものの、「8A」で示した赤色指数は、10に達しておらず、反応温度を上昇させていない。このような場合、赤色指数の上昇の速度も速いため、その後、反応温度を1.5℃ピッチで273℃まで上昇させても硫安結晶への着色が消えない状況が発生していた。
このため、例えば、「8B」で示した赤色指数から、赤色指数の上昇が確実に予測される場合、図7の「反応温度(FF)」のように、「8B」で示した赤色指数に基づいて、反応温度を制御してもよい。このような制御を「8A」で示した赤色指数によるフィードバック制御に対応させて、フィードフォワード制御ともいう。このような場合、「8B」で示した赤色指数に基づいて、早期に反応温度を上昇させる制御を行うことにより、図7の「8B(FF)」および「8A(FF)」に示すように、「8B」で示した赤色指数が20を超えないように、硫安結晶を製造することが可能である。
以上にて説明したように、本実施形態に係る硫安の製造方法によれば、製造された硫安結晶の赤み度合を定量的に評価し、該評価結果に基づいて湿式酸化設備の酸化反応の反応温度を制御することにより、赤色着色した硫安が製造されることを効率的に抑制することが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。