以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明を省略する。
図1は本発明の実施例1による無線給電装置10の概略構成図である。図1において給電回路1以外は側面図及び正面図の両方を用いて説明する。
無線給電装置10は、コイルハウジング4、コイル線5、浮力調整体3からなるコイル部2及び給電回路1で構成される。給電回路1は、図示しないが送電回路または受電回路の総称であり、実際の使用形態では何れか一方がコイル線5に接続される。送電回路は交流電流をコイル線5に流す電源であり、受電回路はコイル線5に流れる電流から電気エネルギーを得るための回路である。また、コイル線5は、誘導結合により非接触で外部からの受電、或いは、外部への送電を行うためのものである。
コイル線5は銅や銀などの導電率が高い導体である。コイルハウジング4は透磁率が低く、非導電性の材料で構成され、コイルハウジング4を媒質11内に沈めたときに著しく変形したり破損したりすることが無い強度を有するものである。コイル部2は、その一部または全部が水や海水、シリコーンオイルなどの媒質11中で使用される。
次に、本無線給電装置10の動作を説明する。給電回路1が、送電回路の場合にはそれに接続されたコイル線5で磁束を発生させ、受電回路の場合にはそれに接続されたコイル線5に鎖交する磁束から電気エネルギーを取り出す。取り出されたエネルギーは受電回路に接続された機器を動作させるために用いられる。
コイルハウジング4内は、コイル線5や浮力調整体3以外は例えば空気やそれ以外の電離しにくい気体を充てんするか、あるいは真空としてもよい。
次に、浮力調整体3の詳細を説明する。浮力調整体3は、コイルハウジング4と一部が機械的に接続される。コイルハウジング4内はその容積のほとんどが水などの媒質11に比べて比重が小さい空気などの物質であるため、媒質11中では浮力が生じる。この浮力を相殺する目的で、コイルハウジング4内部に浮力調整体3を備える。そのため、この浮力調整体3は、比重が媒質11よりも大きいものとする。加えて、以下で説明する理由により導電率が低く、誘電体損が小さい物質で構成する。
浮力調整体3に導電率が低い物質を用いる理由を説明する。送電あるいは受電中のコイル線5の周辺には交流磁束が存在する。磁束が導体を貫くと、導体内に渦電流が流れる。この渦電流によってジュール熱が生じるため、これが損失となる。したがって、浮力調整体3の導電率が高いとその結果として、無線で給電する際に給電性能が低下する。この理由から浮力調整体3は導電率が低いものを用いる必要がある。
浮力調整体3に誘電体損が小さい物質を用いる理由を説明する。コイル線5の近傍には、電界強度の高い電界が発生している。誘電体内に電界が生じると、誘電体損が生じる。誘電体損は物質の比誘電率と誘電正接に依存する。つまり比誘電率と誘電正接の積が大きいと損失が大きくなるため、結果として無線で給電する際の給電性能が低下する。したがって、誘電体損が小さくなる物質を用いる必要がある。
表1は、比重(密度)、導電率、誘電体損、非透磁率を代表的な物質についてまとめたものである。例えば、石英ガラス(二酸化ケイ素)は密度が2.2g/cm3であるため比重は水の2.2倍である。そのためコイルハウジング4の容積よりも小さい体積で浮力を相殺することが可能であり、導電率は10−15(S/m)以下であるため絶縁体とみなすことができる。また、誘電体損は4.4×10−4程度であり、水と比較しても1/1000程度であるため、十分小さい。このことから石英ガラスは浮力調整体3に適する。 表1に他の例として示しているアルミナ以外にも、上記の条件を満足する物質が浮力調整体3として利用できる。なお、誘電体損(比誘電率と誘電正接の積)は水のそれより小さければ効果が得られるため、目安は0.4未満である。また、導電率は水と同等以下であれば本発明の効果が得られるため、10−3(S/m)程度以下であればよい。
また、表1にはこれら以外に、代表的な磁性材料であるフェライトの材料特性も示している。表1に示すニッケル亜鉛系のフェライト材料は、密度が比較的高く、導電率は水よりも小さい。また、誘電体損は0.4程度より小さいため本発明の効果を得ることができる。
これに加えて、フェライトは磁性材料であるため透磁率が表1に示す他の材料に比べて高い。そのため、磁界を利用して給電する方式を採用する場合、フェライトのように透磁率が高い材料を用いることで、受電コイルに鎖交する磁束を増やすことができるため給電効率を高くすることができる。
石英ガラスを浮力調整体3として用いる場合の寸法について説明する。例えば、コイルハウジング4の内径及び長さをそれぞれ20cm、コイルハウジング4とコイル線5の重量の合計を1kg、媒質11を水と仮定した場合、コイル部2に生じる浮力は約5.3kgとなる。図1のように円筒形状の浮力調整体3を用いる場合、この浮力を相殺するためには、式(1)より直径が12.4cmのものを用いればよい。
ここで、r:浮力調整体の半径、F:浮力、L:浮力調整体の高さ(長さ)、D:浮力調整体の密度である。
続いて、コイル部2の構造について詳細に説明する。図2はコイル線5に高周波電流が流れている時の電界の分布を示す解析結果の一例である。コイル線5の周辺部やコイル線5同士の間には電界強度が高い部分が存在する。図示しないが、解析によればコイル線5から0.5cm離れた場所でも電界強度は高く、2cm離隔すれば最も電界強度が高い部分の1/10以下になる。
先に述べたように、電界強度が高い場所に誘電体損が大きい物質があると、それによる損失で無線給電性能が低下する。この点からコイル線5の周辺には誘電体損が高い物質が存在しない構成とする必要がある。
そのため、本実施例では図1に示すように、浮力調整体3はコイル線5と近接しないように離間(離間部分A6)して配置している。浮力調整体3は誘電体損が比較的小さい物質であるが、表1に示した通り、空気に比べると大きな損失を伴うため、極力コイル線5に近接しない配置とすることでより誘電体損を小さくすることができる。
また、コイルハウジング4の外部にある媒質11が水や海水の場合には誘電体損が極めて大きいため、これらの媒質がコイル線5に接近しないように構成する必要がある。そこで、本実施例では図1に示すように、コイルハウジング4外にある媒質11とコイル線5が接近しない構造となるよう、らせん形状のコイル線5の外側及び、らせん軸方向のコイル線5端部に水との離隔部分(離隔部分B7,離間部分C8)をそれぞれ設けた構造としている。
コイル線5からのそれぞれの離隔距離は、少なくとも0.5cm以上とし、望ましくは2cm以上とする。
図3は図1の変形例であり、浮力調整体3をコイルハウジング4の内部ではなく、その外周に取り付けている点において、図1と異なる。このような構造であっても後で述べる本発明の効果は得ることができる。また、図示しないがコイル線5とコイルハウジング4の間に浮力調整体3を設ける構造であっても良い。
続いて、本発明の効果について説明する。本発明においては、比重が大きく、導電率が小さく、誘電体損が小さい物質を浮力調整体3として用いることで、無線給電性能を維持しつつコイル部2の浮力を小さくできる効果がある。従来は、例えば送電用のコイル部2を水没させる場合に棒の先端にコイル部2を取り付けた構造とすると、浮力に打ち勝つために棒を堅牢な構造にする必要がある。
また、棒の鉛直方向にコイル部2がある場合は問題なくても、鉛直方向からずれると浮力によるモーメントが働くため、水上で棒を締結する部品も堅牢にする必要が生じ、全体として構造が複雑になりコストも上昇する。
しかしながら、本発明を用いることで浮力を低減できるためこれらの構造が簡素にでき、結果としてコストを低減できる効果が得られる。
図4は水中遊泳ビークル12に外付けでコイル部2を取り付けた例であるが、浮力調整体を備えない場合、浮力によって水中遊泳ビークル12の動作が不安定になる。本発明によれば、コイル部2を中性浮力にできるため、水中遊泳ビークル12の姿勢を容易に安定化することができ、つまりは水中遊泳ビークル12の移動性能を向上できる効果が得られる。
図5および図6は本発明の実施例2による無線給電装置10の概略構成図である。図5および図6において給電回路1以外は側面図及び正面図の両方を用いて説明する。なお、図6は図5の変形例であり、図中の同一部分については重複する説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
図5ではコイルハウジング4内に保持体20を備えている。保持体20はコイル線5とコイルハウジング4外にある媒質11や、浮力調整体3との距離を一定に保持する目的で備えるものである。この保持体20は、コイル線5と一部が接触する構造であるため、図2に示したようにコイル線5の電界強度が高い部分に存在することとなる。そのため、保持体20は誘電体損を極めて小さくする必要がある。例えば、保持体20の材質を発泡性ウレタンや発泡スチロールなどの密度が極めて低い材料を用いれば、誘電体損を低減することが可能である。
また、図5のようにコイル線5の全長に亘って保持体が近接する構造とするのではなく、図6に示すようにコイル線5の一部に接触して保持する構造としてもよい。この場合には、電界強度が高い場所に存在する保持体21の誘電体損が高かったとしても、保持体21全体が接触あるいは近接するわけではないため誘電体損失の上昇をできるだけ抑制することができる。但し、保持体とコイルの接触部分の長さの合計は、コイル全長の10%以下とするのが望ましい。
図5や図6のように、コイルハウジング4内にコイル線5の保持体を設けることで、給電性能を低下させることなく浮力調整体3とコイル線5の距離、媒質11とコイル線5の距離を常に確保することが可能となる。これにより、コイル線5の経時的な変形による給電性能の変化を防止し、一定の給電性能を維持することができる。
なお、本発明で示した各実施例においては、給電回路1とコイル線5を直接接続しているが、特許文献1に開示されているように給電回路1に接続される第一のコイルと、0.9以上の結合度となるように設置する第二のコイルからなるコイル部の構成であっても本発明は適用可能である。
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。