詳細な説明
本発明の実施には、特に断らない限り、医学、薬理学、化学、生化学、分子生物学及び組換えDNA技術の従来の方法を当業者の技能範囲内で利用する。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、K.J. Lee Essential Otolaryngology: Head and Neck Surgery, Tenth Edition (McGraw−Hill Education/ Medical, 10th edition, 2012); E.N. Myers Operative Otolaryngology: Head and Neck Surgery: Expert Consult (Saunders, 2nd edition, 2008); A.L. Lehninger, Biochemistry (Worth Publishers, Inc., current addition); Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd Edition, 2001); Methods In Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan eds., Academic Press, Inc.);及びPharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins (The Taylor & Francis Series in Pharmaceutical Sciences, Lars Hovgaard, Sven Frokjaer, and Marco van de Weert eds., CRC Press; 1st edition, 1999)を参照。
本明細書に引用するすべての刊行物、特許及び特許出願は、上記または下記にかかわらず、その全内容を参照により本明細書に援用する。
I.定義
本発明を説明するにあたって、以下の用語を用い、以下に記載するように定義するものとする。
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、その内容からそうでないことが明らかに分かる場合を除いて、複数形の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば「a wound(創傷)」と言った場合には2つ以上の創傷が含まれ、他も同様である。
「創傷」は、上皮、結合組織、及び筋組織を含めた、器官または組織の構造における破壊または不連続である。創傷の例としては、皮膚創傷、打撲傷、潰瘍、褥瘡、擦り傷、裂傷、切り傷、刺し傷、乾癬創傷、鼓膜穿孔、角膜剥離及び角膜破裂ならびに火傷が挙げられるが、これらに限定されない。創傷は外科手術(例えば扁桃摘出またはアデノイド切除)によって生じる場合もあり、扁桃またはアデノイドの部分または全切除後の治癒中の領域をいう場合もある。
「表面」適用は、創傷の表面に対する有効成分の非全身的局所投与のことをいう。
用語「ヘパリン結合性上皮成長因子」、「ヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子」及び「HB−EGF」は同じ意味で用い、任意の形態のHB−EGFを包含し、未成熟プロタンパク質形態及びプロタンパク質のタンパク質分解プロセスによって生成される様々な活性形態を含み、HB−EGFの膜結合型及び可溶性形態、ならびにHB−EGF生物活性を保持する(例えばEGF受容体に結合してこれを活性化させる、または上皮細胞増殖及び創傷治癒を促進する)生物学的に活性な断片、バリアント、アナログ、及びこれらの誘導体を含む。HB−EGFという用語には、内因的に生じる哺乳類ヘパリン結合性上皮成長因子、対立遺伝子ヘパリン結合性上皮成長因子、ヘパリン結合性上皮成長因子の機能保存誘導体、機能活性ヘパリン結合性成長因子断片、及び哺乳類ヘパリン結合性上皮成長因子ホモログ、例えばヘパリン結合性成長因子様成長因子などが含まれる。HB−EGFは、活性の向上、安定性の増加、より高い産生量、またはより良好な溶解性を示すHB−EGFの変異型も含む。任意により、ヘパリン結合性上皮成長因子を含む組成物は、HB−EGFの2種以上のタイプ、誘導体またはホモログを含有してもよい。
本発明の方法に用いるHB−EGFは天然であっても、組換え技術により入手しても、合成的に生成してもよく、任意の起源に由来してよい。HB−EGFの未成熟プロタンパク質形態及びプロタンパク質のタンパク質分解プロセスによって生成されるHB−EGFの様々な活性形態について、代表的なヒトHB−EGF配列を配列番号1〜4に示す。その他の代表的な配列は米国国立生物工学情報センター(NCBI)データベースに記載されており、多数の異なる種に由来するHB−EGF配列が含まれている。例えば、NCBIエントリー:受領番号:L17032、L1703、NP_001936、NM_001945、NP_037077、NP_990180、NP_001137562、NP_034545、NP_001104696、NP_001093871、XP_003829241、XP_005425426、NP_001244398、XP_014126447、XP_014131937、XP_013998941、XP_005523504、XP_005617336、XP_005617335、XP_005617334、XP_005617333、XP_848614、XP_013914901、XP_013821061、XP_013809984、XP_005382088、XP_005382087、XP_005503713、XP_005327340、XP_005356014、XP_005238935、XP_013047270、XP_012996694、XP_010869528、XP_005065318、XP_003477196、XP_012956154、XP_004841917、XP_004744871、XP_012875794、XP_004696718、XP_004652486、XP_002937773、XP_004610052、XP_004586534、XP_004586533、XP_012697566、XP_003782186、XP_012604548、XP_004686855、XP_012501863、XP_012501862、XP_012501861、XP_004397849、XP_002190931、XP_004280331、XP_003756676、XP_004643289、XP_004477893、XP_003266511、XP_012327017、XP_012006016、XP_012006015、XP_012006014、XP_012006013、XP_004008912、XP_011714646、NP_001158639、及びNP_001273220を参照。これらの配列(本出願の出願日までに登録されたもの)をすべて参照により本明細書に援用する。これらの配列のいずれか、またはその生物学的に活性な断片、もしくはそれ対して少なくとも約70〜100%の配列同一性を有する配列を含むそのバリアント(この範囲内の任意の一致率、例えば70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%などの配列同一性を含む)を、本明細書に記載のHB−EGFを含む組成物を作製するために用いることができる。加えて、HB−EGFは翻訳後修飾、例えばグリコシル化またはリン酸化などを含み得る。本発明を実施するために任意のHB−EGF源を用いることができるが、特に処置を受ける対象がヒトの場合には、HB−EGFはヒト起源に由来することが好ましい。
「機能保存バリアント」は、タンパク質の全体的な構造及び機能を変化させることなく所定のアミノ酸残基が変化したタンパク質であり、あるアミノ酸と類似の特性(例えば、酸性、塩基性、疎水性など)を有するものとの置換が含まれるがこれに限定されない。類似の特性を有するアミノ酸は当該技術分野において公知である。例えば、アルギニン、ヒスチジン及びリシンは親水性塩基性アミノ酸であり、互換性があり得る。同様に、疎水性アミノ酸のイソロイシンは、ロイシン、メチオニンまたはバリンで置換され得る。
「新生血管形成を減少させる物質」には、限定はしないが抗血管形成因子、例えば血管内皮成長因子(VEGF)を阻害する物質、例えば組換えヒト化抗体であるベビクジマブ(bevicuzimab);ベビクジマブ(bevicuzimab)の断片であるラニビズマブ;アプタマーであるペガプタニブ;VEGF受容体の結合ドメインを含む組換え融合タンパク質であるアフリベルセプト;抗血管新生活性を有するフラボノイドであるゲニステイン;ファルネシルトランスフェラーゼのインヒビターであるロルナファルニブ(lornafarnib)など、及び新生血管形成を減少させる任意の他の物質を含めた、生物学的及び/または非生物学的物質が含まれ得る。
「新生上皮の接着性を向上させる、または剥離を減少させる物質」には、限定はしないが、任意の様式で(例えば表面にまたは注入によって)施される糊または接着剤、及び熱処理した塩化カルシウムを含めた生物学的及び/または非生物学的物質が含まれる。この用語は、ヘミデスモソームまたはそのサブコンポーネントの分解を抑える、または制限する物質も包含するが、これは上皮とその下にある基底膜との接着の媒介を助ける。「新生上皮の接着性を向上させる、または剥離を減少させる物質」には、下層にある筋(例えば口蓋舌筋及び口蓋咽頭筋、扁桃柱、または舌根または軟口蓋)の筋収縮を減少させて新生上皮の「搾り出し」を緩和する生物学的または非生物学的物質も含まれ得るが、これには限定はしないが一酸化窒素、カルシウム阻害剤及びトロポニンCインヒビターが含まれ、これらはクロスブリッジ形成及び力発生を阻害する。
用語「対象」には脊椎動物及び無脊椎動物の両方が含まれ、限定はしないが、ヒトならびに非ヒト哺乳類、例えばチンパンジー及び他の類人猿ならびにサル種を含めた非ヒト霊長類などを含む哺乳類;実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びチンチラなど;家庭動物、例えばイヌ及びネコなど;家畜、例えばヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ及びウシなど;ならびに鳥類、例えばニワトリ、シチメンチョウ及び他のキジ類のトリ、アヒル、ガチョウなどを含めた家禽、野鳥及び狩猟鳥などが挙げられる。
本明細書において、対象の「処置」または対象の疾患もしくは容態を「処置する」とは、疾患または容態の臨床症状、例えば創傷治癒の障害または遅れなどを軽減または緩和することを意味する。
扁桃摘出後の創傷治癒を「促進する」、「亢進する」、または「改善する」とは一般に、創傷が治癒する速度を増加させること、または創傷の治癒の間または後の残った瘢痕もしくはケロイドもしくは壊死組織の程度を軽減させることを意味する。
「有効量」または「治療有効量」とは、HB−EGF、または新生血管形成を減少させる物質、または新生上皮の接着性を増加させる物質、または筋(例えば口蓋舌筋及び口蓋咽頭筋、扁桃柱もしくは舌根もしくは軟口蓋)の収縮を減少させ、下層の筋系からの新生上皮の剥離を減少させる物質の量であって、上皮細胞増殖、上皮再生、または創傷治癒を亢進するのに十分な量を意味する。例えば、活性作用物質の有効量は、200μg/miを超えるHB−EGFの局所レベル(例えば穿孔、創傷、もしくは瘢痕領域における)または全身レベルとなる量とすることができる。あるいは、作用物質の有効量は、作用物質がない場合よりも穿孔もしくは創傷の治癒が早くなる、または瘢痕もしくは壊死組織形成が軽減される量である。有効量は、HB−EGFの局所及び/または全身レベルを、活性作用物質または薬剤の投与前のHB−EGFレベルの少なくとも10〜200%、少なくとも50〜100%、または少なくとも60〜80%、またはこれらの範囲内の任意のパーセント、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、もしくは200%などだけ増加させるのに十分な活性作用物質または薬剤の量または投与量をいう場合もある。
治療有効量は、例えば扁桃摘出後の創傷治癒が促進される、または瘢痕形成が軽減されるという点で、対象において臨床的に有意な反応を改善する、または示すことができる。あるいは、治療有効量は、宿主における臨床的に有意な創傷治癒または瘢痕形成状態を改善するのに十分である。
HB−EGFまたはHB−EGFのインヒビターの送達、または血管新生を減少させる、もしくは新生上皮の接着性を増加させる物質の送達に関する場合の「構造体」としては、任意のスキャホールド、ポリマー、構築体、組立体、装着材、支持体、ディスク、ブロック、コーティング、層、アバットメント、裏材、デバイス、または発泡体が挙げられるが、これらに限定されない。この用語は、送達に用いられ得る患者自身の組織、壊死組織片、または移植片も含む。ある実施形態において、構造体は完全に形成された状態、または相転移もしくは構造体を改質する他の変化を経る状態で施される。例えば、粘稠液体が送達の構造体として用いられるが、これは液体状のままであってもよく、創傷への適用後に固体状態を形成してもよい。
HB−EGFまたはHB−EGFのインヒビターの送達、または血管新生を減少させる、もしくは新生上皮の接着性を増加させる他の上述した物質の送達に関する場合の「ビヒクル」としては、任意のポリマー、薬剤、担体、器具、操作、媒質、装置、機器、機械、ガジェット、ツール、ウィジェット、道具または用具が挙げられるが、これらに限定されない。用語「ビヒクル」は、任意の可溶性担体または添加物のこともいい、限定はしないが生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、及びこれらの組合せが含まれる。製剤は投与様式に適したものとするべきである。当該技術分野において公知の好適な製剤の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (latest edition), Mack Publishing Company, and Easton, Pa.に見出すことができる。
「上皮」は体の内部及び外部表面の被覆のことをいい、脈管及び他の小腔の内張りを含む。上皮は少量の接着物質によって結合した細胞からなる。上皮は重なっている層の数及び表層細胞の形状に基づいて複数の種類に分類される。本文脈中では、扁桃摘出後またはアデノイド切除後の創傷領域を覆う細胞の表層のことをいう。
本明細書で用いる場合、「約」または「およそ」は、所与の値または範囲の50%以内、好ましくは20%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
別の値とは「実質的に異なる」値は、2つの値の間に統計的に有意な差があることを意味することができる。当該技術分野において公知の任意の好適な統計的方法を用いて、差が有意であるか否かを評価することができる。
「統計的に有意な」差は、少なくとも90%の信頼区間、より好ましくは95%信頼区間で有意性が確認されることを意味する。
用語「ペプチド」、「オリゴペプチド」、及び「ポリペプチド」は、自然発生もしくは合成アミノ酸ポリマー、または限定はしないがアミノ及び/またはイミノ分子を含む化合物を含めたアミノ酸様分子を含む任意の化合物のことをいう。用語「ペプチド」、「オリゴペプチド」、及び「ポリペプチド」の使用によって特定の大きさを意味することはなく、これらの用語を同じ意味で用いる。例えば、アミノ酸の1種以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸などを含む)を含有するポリペプチド、自然発生及び非自然発生(例えば合成)両方による置換結合及び当該技術分野において公知の他の修飾を有するポリペプチドがこの定義に含まれる。したがって、合成オリゴペプチド、二量体、多量体(例えば縦列反復直線結合ペプチド)、環状、分枝状分子などがこの定義に含まれる。この用語は、1種以上のペプトイド(例えばN置換グリシン残基)及び他の合成アミノ酸またはペプチドを含む分子も含む。(ペプトイドの説明については、例えば米国特許第5,831,005号;5,877,278号;及び5,977,301号;Nguyen et al. (2000) Chem Biol. 7(7):463−473;ならびにSimon et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(20):9367−9371を参照。)本発明で用いるのに適したペプチドの長さとしては、限定はしないが、3〜5残基の長さ、6〜10残基の長さ(もしくはこの間の任意の整数)、11〜20残基の長さ(もしくはこの間の任意の整数)、21〜75残基の長さ(もしくはこの間の任意の整数)、75〜100(もしくはこの間の任意の整数)のペプチド、または100残基を超える長さのポリペプチドが挙げられる。本発明において有用なポリペプチドは典型的に、目的の用途に適した最大長を有することができる。好ましくは、ポリペプチドは約40〜300残基の長さである。一般に、当業者であれば本明細書の教示に鑑みて最大長を容易に選択することができる。さらに、本明細書に記載のペプチド及びポリペプチド、例えば合成ペプチドは、標識または他の化学的部分などの追加の分子を含み得る。こうした部分は、HB−EGFとEGF受容体との相互作用、及び/または上皮細胞増殖の刺激、及び/または創傷治癒をさらに亢進し得る、及び/またはHB−EGF安定性もしくは送達をさらに向上させ得る。
したがって、ポリペプチドまたはペプチドと言った場合、1種以上の非自然発生アミノ酸を含む本発明のアミノ酸配列の誘導体も含む。第1ポリペプチドまたはペプチドは、(i)第2ポリペプチドもしくはペプチドをコードする第2ポリヌクレオチドから誘導された第1ポリヌクレオチドによってコードされるか、または(ii)第2ポリペプチドもしくはペプチドに対して本明細書に記載するように配列同一性を示す場合、第2ポリペプチドまたはペプチド「から誘導」されている。配列同一性(または一致率)は後述のようにして決定することができる。誘導体は、誘導される元の配列に対して、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約80%、さらに好ましくは約85%〜99%(またはこの間の任意の値)の一致率を示す。こうした誘導体はポリペプチドまたはペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などを含むことができる。
アミノ酸誘導体は、ポリペプチドまたはペプチドが所望の活性を維持する(例えば上皮細胞増殖及び創傷治癒を促進する)限り、元の配列への修飾、例えば(概して性質を保存した)欠失、追加及び置換などを含むこともできる。こうした修飾は、部位特異的変異誘発によるように意図的であってもよく、タンパク質を産生する宿主の変異、またはPCR増幅に起因するエラーによるなど偶発的であってもよい。さらに、次の効果、すなわちEGF受容体に対する親和性及び/または特異性の増加、上皮細胞増殖及び/または創傷治癒の亢進、ならびに細胞プロセスの促進のうち1つ以上を有する修飾が行われてよい。
「断片」は完全な全長配列及び構造の一部のみからなる分子を意味する。断片は、ポリペプチドのC末端欠失、N末端欠失、及び/または内部欠失を含むことができる。特定のタンパク質またはポリペプチドの活性断片は、一般に全長分子の少なくとも約5〜14の連続したアミノ酸残基を含むことになるであろうが、全長分子の少なくとも約15〜25の連続したアミノ酸残基を含んでもよく、全長分子の少なくとも約20〜50、60〜90、もしくはこれよりも多くの、または5アミノ酸と全長配列との間の任意の整数の連続したアミノ酸残基を含むことができる。ただし、当該断片が本明細書で定義した生物活性、例えばHB−EGF活性(例えばEGF受容体に結合してこれを活性化させ、上皮細胞増殖及び/または創傷治癒を促進する能力)などを保持する場合に限る。
「実質的に精製」とは一般に、物質(化合物、ポリヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド組成物)を単離して、物質がその存在するサンプルの大部分の割合を占めるようにすることをいう。実質的に精製された成分は、サンプル中で典型的に、サンプルの50%、好ましくは80%〜85%、より好ましくは90〜95%を占める。対象とするポリヌクレオチド及びポリペプチドを精製する技術は当該技術分野において公知であり、例えばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及び密度による沈降法が挙げられる。
ポリペプチドに関する場合、「単離」は、述べられている分子が、その分子が本来見出される生物全体から分離され別個である、または同じタイプの他の生体巨大分子が実質的に存在しない状態で存在することを意味する。用語「単離」は、ポリヌクレオチドに関しては、本質的には通常関連する配列の全部または一部が存在しない核酸分子;または自然に存在しているが関連する異種配列を有する配列;または染色体から解離した分子のことである。
「薬学的に許容可能な添加物または担体」は、任意により本発明の組成物中に含めてよく、患者に対して有害な毒性作用をほとんど引き起こさない添加物のことをいう。
「薬学的に許容可能な塩」としては、アミノ酸塩、無機酸で調製される塩、例えば塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、臭化物塩、及び硝酸塩など、もしくは上記のいずれかの対応する無機酸形態から調製される塩、例えば塩酸塩など、または有機酸で調製される塩、例えばリンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、パルモエート(palmoate)、サリチル酸塩及びステアリン酸塩、ならびにエストリン酸塩、グルセプチン酸塩及びラクトビオン酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、薬学的に許容可能なカチオンを含有する塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、リチウム塩、及びアンモニウム塩(置換アンモニウム塩を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
「相同性」は2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド部分の間の一致率のことをいう。2つの核酸、または2つのポリペプチド配列は、分子の所定の長さにわたって、配列が少なくとも約50%の配列同一性、好ましくは少なくとも約75%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約80%〜85%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約95%〜98%の配列同一性を示す場合、互いに「実質的に相同」である。本明細書で用いる場合、実質的に相同とは特定の配列に対して完全な同一性を示す配列のこともいう。
一般に、「同一性」は2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列のそれぞれヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の正確な一致のことをいう。一致率は、配列をアラインメントし、2つのアラインメントした配列間の正確な一致数を数え、短い方の配列の長さで割って得られた結果に100を掛けることによる2つの分子間での配列情報の直接比較によって求めることができる。容易に利用可能なコンピュータプログラム、例えばペプチド解析用のSmith and Waterman Advances in Appl. Math. 2:482 489, 1981の局所相同性アルゴリズムを応用したALIGN, Dayhoff, M.O. in Atlas of Protein Sequence and Structure M.O. Dayhoff ed., 5 Suppl. 3:353 358, National biomedical Research Foundation, Washington, DCなどを用いて解析に役立てることができる。ヌクレオチド配列同一性を決定するプログラムは、Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8(Genetics Computer Group, Madison, WIから入手可能)、例えばBESTFIT、FASTA及びGAPプログラムで利用可能であるが、これらもSmith及びWatermanのアルゴリズムに基づいている。これらのプログラムは、製造者が推奨し、上述したWisconsin Sequence Analysis Packageに記載されている既定のパラメータで容易に用いられる。例えば、特定のヌクレオチド配列の参照配列に対する一致率は、Smith及びWaterman相同性アルゴリズムを既定のスコアリングテーブル及び6ヌクレオチド位のギャップペナルティを用いて決定することができる。
本発明との関係における一致率確認の別の方法は、University of Edinburghが著作権を有し、John F. Collins及びShane S. Sturrokによって開発され、IntelliGenetics, Inc. (Mountain View, CA)によって配布されているMPSRCHパッケージのプログラムを用いることである。このパッケージ一式からSmith Watermanアルゴリズムを用いることができ、スコアリングテーブルに既定のパラメータ(例えば12のギャップオープンペナルティ、1のギャップ延長ペナルティ、及び6のギャップ)を用いる。生成されるデータの「Match」値が「配列同一性」を表す。配列間の一致率または類似性を計算する他の好適なプログラムは当該技術分野において一般に公知であり、例えば別のアラインメントプログラムにはBLASTがあり、既定のパラメータで用いられる。例えば、BLASTN及びBLASTPは次の既定のパラメータを用いて使用可能である:genetic code=標準;filter=なし:strand=両方;cutoff=60;expect=10;Matrix=BLOSUM62;Descriptions=50配列;sort by=HIGH SCORE;Databases=重複なし、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は容易に入手可能である。
あるいは、相同な領域の間で安定な二重鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションし、その後、一本鎖特異的ヌクレアーゼ(複数可)で消化して、消化された断片の大きさを測定することによって相同性を決定することもできる。実質的に相同なDNA配列は、例えばその特定の系に対して設定されるストリンジェントな条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験で同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件の設定は当該分野の技術の範囲内である。例えば、Sambrook et al.(上記);DNA Cloning(上記);Nucleic Acid Hybridization(上記)を参照。
本明細書において核酸分子について記載するのに用いる場合、「組換え」は、ゲノム、cDNA、ウイルス、半合成、または合成起源のポリヌクレオチドで、起源または操作が理由で本来関連するポリヌクレオチドの全部または一部に関連しないものを意味する。タンパク質またはポリペプチドに関して用いる場合、用語「組換え」は、組換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。一般に、対象とする遺伝子をクローニングして形質転換生物で発現させるが、これについては以下でさらに説明する。宿主生物は発現条件下で外来性遺伝子を発現してタンパク質を産生する。
用語「形質転換」は、宿主細胞への外来性ポリヌクレオチドの挿入のことをいい、挿入に用いられる方法によらない。例えば、直接取込み、形質導入またはf接合が含まれる。外来性ポリヌクレオチドは、非組込みベクター、例えばプラスミドとして保持され得るか、または代替として、宿主ゲノムに組み込まれ得る。
「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」及び単細胞集団として培養された微生物または高等真核細胞を意味する他のこのような用語は、組換えベクターまたは他の移入DNAの受容株として用いることができる、または用いられた細胞のことをいい、形質移入された元の細胞独自の子孫を含む。
「コード配列」または選択されたポリペプチドを「コード」する配列は、適切な調節配列(または「制御因子」)の制御下におかれた場合に、生体内で転写(DNAの場合)される、及びポリペプチドに翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5′(アミノ)末端の開始コドン及び3′(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定することができる。コード配列としては、限定はしないがウイルス、原核生物または真核生物のmRNA由来のcDNA、ウイルスまたは原核生物のDNA由来のゲノムDNA配列、さらには合成DNA配列を挙げることができる。転写終結配列はコード配列の3′側に位置し得る。
典型的な「制御因子」としては、転写プロモーター、転写エンハンサー因子、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列(翻訳終止コドンの3′側に位置する)、翻訳開始の最適化のための配列(コード配列の5′側に位置する)、及び翻訳終結配列が挙げられるが、これらに限定されない。
「動作可能に連結した」とは、述べられている構成要素が通常の機能を果たすように構成されている要素の配置のことをいう。したがって、コード配列に動作可能に連結した所与のプロモーターは、適切な酵素が存在する場合にコード配列の発現を引き起こすことができる。プロモーターは、コード配列の発現を誘導するように機能する限りコード配列に付近接している必要はない。したがって、例えば、プロモーター配列とコード配列との間に介在して、翻訳はされないが転写される配列が存在することができるが、それでもプロモーター配列はコード配列に「動作可能に連結」しているとみなすことができる。
「によってコードされる」とは、ポリペプチド配列をコードする核酸配列について、ポリペプチド配列またはその一部が、核酸配列によってコードされるポリペプチドの少なくとも3〜5アミノ酸、より好ましくは少なくとも8〜10アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも15〜20アミノ酸のアミノ酸配列を含有することをいう。
「発現カセット」または「発現構築体」は、目的の配列(複数可)または遺伝子(複数可)の発現を誘導することができるアセンブリのことをいう。発現カセットは一般に、上述したような制御因子、例えば目的の配列(複数可)または遺伝子(複数可)に(その転写を誘導するように)動作可能に連結したプロモーターなどを含み、多くの場合、ポリアデニル化配列も含む。本発明のある実施形態において、本明細書に記載の発現カセットはプラスミド構築体内に含まれ得る。発現カセットの構成要素に加えて、プラスミド構築体は、1つ以上の選択マーカー、プラスミド構築体が一本鎖DNAとして存在することが可能となるシグナル(例えばM13複製開始点)、少なくとも1つのマルチクローニングサイト、及び「哺乳類」複製開始点(例えばSV40またはアデノウイルス複製開始点)も含み得る。
「精製ポリヌクレオチド」は、対象とするポリヌクレオチドまたはその断片で、そのポリヌクレオチドが本来関連するタンパク質を実質的に含まない、例えば約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは少なくとも約90%以上は含有しないものをいう。対象とするポリヌクレオチドを精製する技術は、当該技術分野において公知であり、例えばカオトロピック剤によるポリヌクレオチドを含有する細胞の破壊、ならびにイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及び密度に従う沈降によるポリヌクレオチド(複数可)及びタンパク質の分離が挙げられる。
用語「形質移入」は、細胞による外来性DNAの取込みのことをいうために用いる。外来性DNAが細胞膜の内部に導入された場合、細胞は「形質移入」されている。複数の形質移入技術が当該技術分野において一般に公知である。例えば、Graham et al. (1973) Virology, 52:456、Sambrook et al. (2001) Molecular Cloning, a laboratory manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratories, New York、Davis et al. (1995) Basic Methods in Molecular Biology, 2nd edition, McGraw−Hill、及びChu et al. (1981) Gene 13: 197を参照。そのような技術を用いて1つ以上の外来性DNA部分を好適な宿主細胞に導入することができる。この用語は遺伝物質の安定的な取込み及び一過性の取込み両方のことをいい、ペプチド結合型または抗体結合型DNAの取込みを含む。
「ベクター」は核酸配列を標的細胞に移入することができる(例えばウイルスベクター、非ウイルスベクター、粒子状担体、及びリポソーム)。一般に、「ベクター構築体」、「発現ベクター」、及び「遺伝子移入ベクター」は、対象とする核酸の発現を誘導することができ、核酸配列を標的細胞に移入することができる任意の核酸構築体を意味する。したがって、この用語はウイルスベクターに加えてクローニング及び発現ビヒクルを含む。
用語「バリアント」、「アナログ」及び「ミューテイン」は、参照分子の生物学的に活性な誘導体で、所望の活性、例えばEGF受容体に結合してこれを活性化させ、上皮細胞増殖及び/または創傷治癒を促進する能力などを保持するものをいう。一般に、用語「バリアント」及び「アナログ」は、元の分子に対して、元のポリペプチド配列及び構造に1つ以上のアミノ酸の追加、置換(一般に性質が保存される)、及び/または欠失がある化合物で、これらの修飾が生物活性を消失させないものに限り、参照分子に対して以下に定義するように「実質的に相同」であるものをいう。一般に、こうしたアナログのアミノ酸配列は、2つの配列をアラインメントした場合、参照配列に対して高度な配列相同性、例えば50%超、一般には60%〜70%超、より具体的には80%〜85%以上、例えば少なくとも90%〜95%以上などのアミノ酸配列相同性を有することになる。多くの場合、アナログは同じ数のアミノ酸を含むが、本明細書で説明する置換を含むことになるであろう。用語「ミューテイン」は、限定はしないがアミノ及び/またはイミノ分子のみを含む化合物を含めた1種以上のアミノ酸様分子を有するポリペプチド、アミノ酸の1種以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸などを含む)を含有するポリペプチド、自然発生及び非自然発生(例えば合成)両方による置換結合及び当該技術分野において公知の他の修飾を有するポリペプチド、環状、分枝状分子などをさらに含む。この用語は、1種以上のN置換グリシン残基(「ペプトイド」)及び他の合成アミノ酸またはペプチドを含む分子も含む。(ペプトイドの説明については、例えば米国特許第5,831,005号;5,877,278号;及び5,977,301号;Nguyen et al., Chem. Biol. (2000) 7:463−473;ならびにSimon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1992) 89:9367−9371を参照。)ポリペプチドアナログ及びミューテインの作製方法は当技術分野において公知であり、以下でさらに説明する。
上で説明したように、アナログは一般に性質が保存される置換、すなわち側鎖に関連があるアミノ酸のファミリー内で起こる置換を含む。具体的には、アミノ酸は一般に、(1)酸性―アスパラギン酸及びグルタミン酸;(2)塩基性―リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性―アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;ならびに(4)無電荷極性―グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、及びチロシンの4つのファミリーに分類される。フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは芳香族アミノ酸に分類されることもある。例えば、ロイシンとイソロイシンもしくはバリンとの、アスパラギン酸とグルタミン酸との、スレオニンとセリンとの独立した置換、またはあるアミノ酸と構造的に関連するアミノ酸との同様の保存的置換は、生物活性に大きな影響を及ぼさないと合理的に予想可能である。例えば、対象とするポリペプチドは、分子の所望の機能がそのまま残る限り、最大約5〜10個の保存的または非保存的アミノ酸置換、または最大約15〜25個の、もしくは5〜25の間の任意の整数の保存的または非保存的アミノ酸置換を含み得る。当業者であれば、当技術分野において公知のHopp/Woods及びKyte−Doolittleプロットを参照して、対象とする分子の変化に耐えることのできる領域を容易に特定し得る。
用語「から誘導される」は、本明細書において分子の起源を特定するために用いるが、分子を作製する方法を限定する意図はなく、例えば、化学合成または組換え手段によることができる。
指定の配列「から誘導される」ポリヌクレオチドは、指定のヌクレオチド配列の領域に対応する、すなわち同一または相補的な、およそ少なくとも約6ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約8ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約10〜12ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも約15〜20ヌクレオチドの連続する配列を含むポリヌクレオチド配列のことをいう。誘導されるポリヌクレオチドは対象とするヌクレオチド配列から必ずしも物理的に誘導される必要はなく、ポリヌクレオチドが誘導される領域(複数可)における塩基の配列から得られる情報に基づく任意の様式で生成してよく、化学合成、複製、逆転写または転写が挙げられるがこれらに限定されない。そのため、元のポリヌクレオチドのセンスまたはアンチセンス方向のいずれをも示し得る。
II.本発明を実施する様式
本発明を詳細に記載する前に、本発明は特定の製剤またはプロセスパラメータに限定されず、そのため当然変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で用いる用語は、本発明の特定の実施形態のみを記述する目的のためのものであり、限定することを意図するものではないと理解されたい。
本明細書に記載のものと類似または等価な複数の方法及び材料を本発明の実施に用いることができるが、本明細書には好ましい材料及び方法を記載する。
本発明は、HB−EGFを用いて口腔上皮における組織再生及び創傷治癒を促進することができるという発見に基づいている(実施例1を参照)。扁桃摘出術、例えば口蓋、咽頭または舌扁桃摘出などでの扁桃組織の外科切除で生じた創傷の上皮組織再生を促進する術後処置においてHB−EGFを用いることができる。 加えて、場合によっては扁桃摘出と併用される手技であるアデノイド切除後にも、アデノイド組織の外科切除に起因する創傷の治癒を促進するためにHB−EGFを用いることができる。
本発明の理解をさらに深めるために、扁桃摘出またはアデノイド切除後の治癒を促進するHB−EGFの使用に関するより詳細な説明を以下に提供する。
A.HB−EGF
上で説明したように、本発明の方法は、扁桃摘出またはアデノイド切除後のHB−EGFの術後投与を含む。本発明の実施においてHB−EGFの任意の形態が用いられ得るが、HB−EGFの未成熟プロタンパク質形態及びプロタンパク質のタンパク質分解プロセスによって生成されるHB−EGFの様々な活性形態が含まれ、HB−EGFの膜結合型及び可溶性形態、ならびにHB−EGF生物活性を保持する(例えば上皮細胞増殖及び創傷治癒を促進する)生物学的に活性な断片、バリアント、アナログ、及びこれらの誘導体が含まれる。
本発明の方法に用いるHB−EGFは天然であっても、組換え技術により入手しても、合成的に生成してもよく、任意の起源に由来してよい。HB−EGFの未成熟プロタンパク質形態及びプロタンパク質のタンパク質分解プロセスによって生成されるHB−EGFの様々な活性形態について、代表的なヒトHB−EGF配列を配列番号1〜4に示す。その他の代表的な配列は米国国立生物工学情報センター(NCBI)データベースに記載されており、多数の異なる種に由来するHB−EGF配列が含まれている。例えば、NCBIエントリー:受領番号:L17032、L1703、NP_001936、NM_001945、NP_037077、NP_990180、NP_001137562、NP_034545、NP_001104696、NP_001093871、XP_003829241、XP_005425426、NP_001244398、XP_014126447、XP_014131937、XP_013998941、XP_005523504、XP_005617336、XP_005617335、XP_005617334、XP_005617333、XP_848614、XP_013914901、XP_013821061、XP_013809984、XP_005382088、XP_005382087、XP_005503713、XP_005327340、XP_005356014、XP_005238935、XP_013047270、XP_012996694、XP_010869528、XP_005065318、XP_003477196、XP_012956154、XP_004841917、XP_004744871、XP_012875794、XP_004696718、XP_004652486、XP_002937773、XP_004610052、XP_004586534、XP_004586533、XP_012697566、XP_003782186、XP_012604548、XP_004686855、XP_012501863、XP_012501862、XP_012501861、XP_004397849、XP_002190931、XP_004280331、XP_003756676、XP_004643289、XP_004477893、XP_003266511、XP_012327017、XP_012006016、XP_012006015、XP_012006014、XP_012006013、XP_004008912、XP_011714646、NP_001158639、及びNP_001273220を参照。これらの配列(本出願の出願日までに登録されたもの)をすべて参照により本明細書に援用する。これらの配列のいずれか、またはその生物学的に活性な断片、もしくはそれ対して少なくとも約70〜100%の配列同一性を有する配列を含むそのバリアント(この範囲内の任意の一致率、例えば70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%などの配列同一性を含む)を、本明細書に記載のHB−EGFを含む組成物を作製するために用いることができる。加えて、HB−EGFは翻訳後修飾、例えばグリコシル化またはリン酸化などを含み得る。本発明を実施するために任意のHB−EGF源を用いることができるが、特に処置を受ける対象がヒトの場合には、HB−EGFはヒト起源に由来することが好ましい。
本発明の様々な実施形態において、完全なHB−EGFプロタンパク質(配列番号1)またはこの208アミノ酸プロタンパク質の切断によって得られる任意の生物学的に活性なポリペプチドが本明細書に記載の方法に用いられ得る。HB−EGFの生物学的に活性な断片は一般に、全長HB−EGFプロタンパク質の少なくとも約40〜200の連続したアミノ酸残基を含むことになるであろうが、全長分子の少なくとも約60〜100の連続したアミノ酸残基を含んでもよく、全長分子の少なくとも約70〜90、もしくはこれよりも多くの、または40アミノ酸と全長配列との間の任意の整数の連続したアミノ酸残基を含んでもよい。ただし、当該断片が生物活性、例えばEGF受容体に結合してこれを活性化させる能力などを保持する場合に限る。加えて、HB−EGFポリペプチドは扁桃摘出またはアデノイド切除によって生じた手術創における上皮細胞増殖及び治癒を促進し得る。ある実施形態においては、配列番号2〜4からなる群から選択されるポリペプチドを創傷の術後処置に用いる。
本発明の方法に有用な組成物は、任意の種に由来するHB−EGFのバリアントをはじめとしたHB−EGFの生物学的に活性なバリアントを含み得る。そのようなバリアントは天然ポリペプチドの所望の生物活性を保持するはずであり、そのためバリアントを含む医薬組成物は、対象に投与した場合に天然HB−EGFを含む医薬組成物と同様の治療効果をもたらす。すなわち、バリアントポリペプチドは、天然HB−EGFについて観察されるのと同様の形で医薬組成物中の治療有効成分として働くことになるであろう。バリアントポリペプチドが所望の生物活性を保持し、それゆえに医薬組成物中の治療有効成分として働くかどうかを判断する方法が当該技術分野において利用可能である。バリアントポリペプチドの創傷治癒に対する効果を評価するための本明細書に記載のアッセイ(実施例1を参照)をはじめとして、天然HB−EGFの活性を測定するために特異的に設計されたアッセイを用いて生物活性を測定することができる。加えて、生物学的に活性な天然HB−EGFポリペプチドに対して産生される抗体のバリアントポリペプチドに結合する能力について試験することができ、有効に結合していれば、ポリペプチドは天然HB−EGFのものと類似の構造を有することを示す。
天然または自然発生HB−EGFの好適な生物学的に活性なバリアントは、上で定義したようなHB−EGFポリペプチドの生物学的に活性な断片、アナログ、ミューテイン、及び誘導体とすることができる。例えば、HB−EGFのアミノ酸配列バリアントは、対象とする天然ペプチドをコードするクローニングしたDNA配列中に変異を導入することによって調製することができる。変異誘発及びヌクレオチド配列変更の方法は当該技術分野において公知である。例えばWalker and Gaastra, eds. (1983) Techniques in Molecular Biology (MacMillan Publishing Company, New York);Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488−492;Kunkel et al. (1987) Methods Enzymol. 154:367−382; );Sambrook et al. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 3rd Edition);米国特許第4,873,192号;及びこれらの中で引用されている参照文献を参照。これらを参照により本明細書に援用する。対象とするペプチドの生物活性を損なわない適切なアミノ酸置換についての教示は、Dayhoff et al. (1978) in Atlas of Protein Sequence and Structure (Natl. Biomed. Res. Found., Washington, D.C.)のモデルに見出され得るが、これを参照により本明細書に援用する。保存的置換、例えばあるアミノ酸と類似の特性を有する別のアミノ酸との置換などが好まれ得る。保存的置換の例としては、Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln、及びPhe⇔Trp⇔Tyrが挙げられるが、これらに限定されない。
残基置換、欠失、または挿入によって変更することのできるHB−EGFの領域についての教示は、当該技術分野において見出すことができる。例えば、Thompson et al. (1994) J. Biol. Chem. 269(4):2541−2549、Nishi et al. (2004) Growth Factors 22(4):253−60、Hung et al. (2014) Biochemistry 53(12):1935−1946、Nanba et al. (2004) Biochem. Biophys. Res. Commun. 320(2):376−82、Higashiyama et al. (1992) J. Biol. Chem. 267 (9):6205−6212、Mitamura et al. (1995) J. Biol. Chem. 270(3):1015−1019、Louie et al. (1998) Mol. Cell 1(1):67−78、Nakamura et al. (2000) J. Biol. Chem. 275(24):18284−18290、Hoskins et al. (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 375(4):506−511、Zhou et al. (2007) Cell Prolif. 40(2):213−230、Davis−Fleische et al. (2001) Growth Factors 19(2):127−143、及びShin et al. (2003) J. Pept. Sci. 9(4):244−250に説明されている構造/機能の関係及び/または結合試験を参照。これらの全内容を参照により本明細書に援用する。
HB−EGFのバリアントを構築する際に、バリアントが所望の活性を保有し続けるように修飾を行う。当然ではあるが、バリアントポリペプチドをコードするDNAに行われるいかなる変異によっても配列をリーディングフレームの外に配置してはならず、また、二次mRNA構造となるおそれのある相補的領域を形成しないことが好ましい。
HB−EGFの生物学的に活性なバリアントは一般に、比較の基準の役割を果たす参照HB−EGFペプチド分子のアミノ酸配列(例えばプロHB−EGF(配列番号1)またはプロタンパク質のタンパク質分解プロセスによって生成されるHB−EGFの成熟形態(配列番号2〜4))に対して、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%〜95%以上、最も好ましくは少なくとも約98%〜99%以上のアミノ酸配列同一性を有することになるであろう。バリアントは、例えばわずか1〜15アミノ酸残基だけ、わずか1〜10残基、例えば6〜10、わずか5、わずか4、3、2、さらには1アミノ酸残基などだけ異なり得る。
2つのアミノ酸配列の最適アラインメントに関して、バリアントアミノ酸配列の連続したセグメントは、参照アミノ酸配列に対して、同じ数のアミノ酸、追加のアミノ酸残基、または欠失したアミノ酸残基を有し得る。参照アミノ酸配列との比較に用いられる連続したセグメントは、典型的に少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むことになり、10、12、13、17、36、40、50、60、70またはこれよりも多くのアミノ酸残基であり得る。保存残基置換またはギャップに関連する配列同一性の補正を行うことができる(例えば、Smith−Waterman相同性検索アルゴリズムを参照)。対象とする天然HB−EGFポリペプチドの生物学的に活性なバリアントは、天然ポリペプチドとわずか1〜20アミノ酸だけ異なり得るが、わずか1〜15、わずか1〜10、例えば6〜10、またはわずか5、加えてわずか4、3、2、さらには1アミノ酸残基だけ異なるといった場合が含まれる。
HB−EGF活性を有するポリペプチドの正確な化学構造は複数の因子に左右される。分子内にイオン性のアミノ基及びカルボキシル基が存在するので、特定のポリペプチドは酸性もしくは塩基性塩として、または中性形態で得られ得る。好適な環境条件に置いた場合に生物活性を保持するこうしたすべての調製物が、本明細書で用いる場合のHB−EGF活性を有するポリペプチドの定義に含まれる。さらに、ポリペプチドの一次アミノ酸配列は、糖部分(グリコシル化)、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた誘導体化によって付加され得るか、または他の副次的な分子、例えば脂質、リン酸基、アセチル基、メチル基、もしくはピログルタミル基などが付加され得る。糖類との結合によっても付加され得る。ある態様ではこうした付加は産生宿主の翻訳後プロセシングシステムによって行われ、他ではそのような修飾はインビトロで導入され得る。いずれにせよ、そのような修飾は、ポリペプチドのHB−EGF活性が損なわれていない限り、本明細書で用いるHB−EGFポリペプチドの定義に含まれる。そのような修飾は、様々なアッセイにおいて、ポリペプチドの活性の向上または減少いずれかによって、活性に定量的または定性的な影響を及ぼし得ることが予想される。さらに、鎖中の個々のアミノ酸残基を酸化、還元、または他の誘導体化によって修飾してもよく、ポリペプチドを切断して活性を保持する断片を得てもよい。活性を損なわないこうした変化によって、そのポリペプチド配列が本明細書で用いる場合の対象とするHB−EGFポリペプチドの定義から除外されることはない。
HB−EGFバリアントの調製及び使用に関しては、当該技術分野から十分な教示が得られる。HB−EGFバリアントの調製において、天然HB−EGFヌクレオチドまたはアミノ酸配列に対するどの修飾によって、本発明の方法に用いられる医薬組成物の治療有効成分としての使用に適したバリアントが得られるかは、当業者であれば容易に判断することができる。さらに、組換えHB−EGFは、例えばR&D Systems, Inc. (Minneapolis, MN)、Sigma−Aldrich (St. Louis, MO)、及びProSpec (Ness−Ziona, Israel)から市販もされている。
B.HB−EGFの製造
HB−EGFは、任意の好適な様式(例えば組換え発現、細胞培養物からの精製、化学合成など)及び様々な形態(例えば天然、変異、グリコシル化、リン酸化、脂質化、融合、標識化など)で調製することができる。HB−EGFポリペプチドとしては、自然発生ポリペプチド、組換え製造ポリペプチド、合成製造ポリペプチド、またはこれらの方法の組合せによって製造されたポリペプチドが挙げられる。ポリペプチドを調製する手段は当該技術分野においてよく理解されている。ポリペプチドは実質的に純粋な形態(すなわち他の宿主細胞タンパク質または非宿主細胞タンパク質を実質的に含まない)に調製されることが好ましい。
一実施形態において、組換え技術を用いてポリペプチドを生成する。当業者であれば、標準的手法及び本明細書の教示を用いて、所望のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を容易に決定することができる。オリゴヌクレオチドプローブを公知の配列に基づいて設計し、ゲノムまたはcDNAライブラリーを探査するために用いることができる。その後、標準的な技術、及び例えば遺伝子を全長配列の所望の部分で切断するために用いられる制限酵素を用いて、配列をさらに単離することができる。同様に、公知の技術、例えばフェノール抽出などを用いて、対象とする配列を含有する細胞及び組織から直接これを単離し、配列にさらなる操作を行って所望の切断を得ることができる。DNAを取得及び単離するために用いる技術の説明については、例えば、上述したSambrook et al.を参照。
ポリペプチドをコードする配列は、例えば、公知の配列に基づいて合成的に製造することもできる。所望する特定のアミノ酸配列に対する適切なコドンでヌクレオチド配列を設計することができる。完全な配列は一般に、標準的な方法によって調製された完全なコード配列に組み立てられる重なり合ったオリゴヌクレオチドから構築される。例えばEdge (1981) Nature 292:756;Nambair et al. (1984) Science 223:1299;Jay et al. (1984) J. Biol. Chem. 259:6311;Stemmer et al. (1995) Gene 164:49−53を参照。
組換え技術を用いてポリペプチドをコードする配列が容易にクローニングされ、その後、所望のアミノ酸のコドンが得られる適切な塩基対(複数可)の置換によって、この配列にインビトロで変異誘発を行うことができる。こうした変化は、単一のアミノ酸の変化をもたらすわずか1塩基対だけを含んでもよく、複数の塩基対変化を包含してもよい。あるいは、ミスマッチ二重鎖の融解温度未満の温度で親ヌクレオチド配列(一般にRNA配列に対応するcDNA)にハイブリダイズするミスマッチプライマーを用いて変異を引き起こすことができる。プライマー長及び塩基組成を比較的狭い制限内に収め、変異塩基を中央に配置しておくことによって、プライマーを特異的とすることができる。例えば、Innis et al, (1990) PCR Applications: Protocols for Functional Genomics;Zoller and Smith, Methods Enzymol. (1983) 100:468を参照。DNAポリメラーゼを用いてプライマー伸長を引き起こし、生成物をクローニングし、変異DNAを含有するクローンをプライマー伸長鎖の分離によって取得し選別する。変異プライマーをハイブリダイゼーションプローブとして用いて選別を行うことができる。この技術は複数点変異の生成にも適用可能である。例えば、Dalbie−McFarland et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA (1982) 79:6409を参照。
いったんコード配列を単離及び/または合成したら、発現のために任意の好適なベクターまたはレプリコンにクローニングすることができる。(実施例も参照。)本明細書の教示から明らかとなるように、欠失または変異を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに、様々な組合せで動作可能に連結する発現構築体を作製することによって、修飾ポリペプチドをコードする様々なベクターを生成することができる。
多数のクローニングベクターが当業者にとって公知であり、適切なクローニングベクターの選択は好みの問題である。クローニング用組換えDNAベクター及びそれにより形質転換することができる宿主細胞の例としては、バクテリオファージλ(E.coli)、pBR322(E.coli)、pACYC177(E.coli)、pKT230(グラム陰性菌)、pGV1106(グラム陰性菌)、pLAFR1(グラム陰性菌)、pME290(非E.coliグラム陰性菌)、pHV14(E.coli及びBacillus subtilis)、pBD9(Bacillus)、pIJ61(Streptomyces)、pUC6(Streptomyces)、YIp5(Saccharomyces)、YCp19(Saccharomyces)及びウシ乳頭腫ウイルス(哺乳類細胞)が挙げられる。一般に、DNA Cloning: Vols. I & II(上記);Sambrook et al.(上記);B. Perbal(上記)を参照。
昆虫細胞発現系、例えばバキュロウイルス系などを用いることもでき、当業者にとっては公知であり、例えばSummers and Smith, Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No. 1555 (1987)に記載されている。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系用の材料及び方法は、とりわけ、Invitrogen, San Diego CAからキット形態で市販されている(「MaxBac」キット)。
植物発現系を用いて本明細書に記載のHB−EGFポリペプチドを製造することもできる。一般に、そのような系ではウイルスベースのベクターを用いて植物細胞に異種遺伝子を形質移入する。そのような系の説明については、例えば、Porta et al., Mol. Biotech. (1996) 5:209−221;及びHackland et al., Arch. Virol. (1994) 139:1−22を参照。
Tomei et al., J. Virol. (1993) 67:4017−4026及びSelby et al., J. Gen. Virol. (1993) 74:1103−1113に記載されているような、ウイルス系、例えばワクシニアベースの感染/形質移入系なども本発明に有用となるであろう。この系では、まずインビトロで細胞にバクテリオファージT7 RNAポリメラーゼをコードするワクシニアウイルス組換え体を形質移入する。このポリメラーゼは、T7プロモーターを有する鋳型のみを転写するという点で鋭敏な特異性を示す。感染後、T7プロモーターによって誘発される対象とするDNAを細胞に形質移入する。細胞質中でワクシニアウイルス組換え体から発現されるポリメラーゼは形質移入DNAをRNAに転写し、RNAはその後宿主の翻訳機構によってタンパク質に翻訳される。この方法は、大量のRNA及びその翻訳産物(複数可)の高レベルな一過性細胞質生産を提供する。
所望のポリペプチドをコードするDNA配列が、この発現構築体を含有するベクターによって形質転換された宿主細胞内でRNAに転写されるように、遺伝子をプロモーター、リボソーム結合部位(細菌発現用)、及び任意によりオペレーター(本明細書では一括して「制御」因子と呼ぶ)の制御下に置くことができる。コード配列は、シグナルポリペプチドまたはリーダー配列を含有してもよく、しなくてもよい。本発明においては、自然発生シグナルポリペプチド及び異種配列の両方を用いることができる。リーダー配列は翻訳後プロセシングで宿主によって除去されてもよい。例えば、米国特許第4,431,739号;第4,425,437号;第4,338,397号を参照。そのような配列としては、TPAリーダー及びミツバチメリチン(mellitin)シグナル配列が挙げられるが、これらに限定されない。
宿主細胞の成長に関するタンパク質配列の発現の調節を可能とする他の調節配列も望ましい場合がある。そのような調節配列は当業者にとって公知であり、例としては、調節化合物の存在を含めた化学的または物理的刺激に反応して、遺伝子の発現をオンまたはオフにするものが挙げられる。他の種類の調節要素、例えばエンハンサー配列もベクター中に存在してよい。
制御配列及び他の調節配列はベクターへの挿入前にコード配列に結合させてよい。あるいは、制御配列及び適切な制限部位をすでに含有する発現ベクターにコード配列を直接クローニングすることができる。
場合によっては、適切な方向で制御配列に結合し得るように、すなわち適切なリーディングフレームを維持するために、コード配列の修飾が必要なこともある。変異体またはアナログは、タンパク質をコードする配列の一部の欠失によって、配列の挿入によって、及び/または配列中の1つ以上のヌクレオチドの置換によって調製され得る。ヌクレオチド配列を修飾する技術、例えば部位特異的変異誘発などは当業者にとって公知である。例えば、Sambrook et al.(上記);DNA Cloning, Vols. I and II(上記);Nucleic Acid Hybridization(上記)を参照。
その後、発現ベクターを用いて適切な宿主細胞を形質転換する。複数の哺乳類細胞株が当該技術分野において公知であり、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な不死化細胞株、例えば限定はしないがチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒーラ細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えばHep G2)、Vero293細胞などが挙げられる。同様に、細菌宿主、例えばE.coli、Bacillus subtilis、及びStreptococcus spp.などが本発現構築体に有用となる。本発明において有用な酵母菌宿主としては、とりわけSaccharomyces cerevisiae、Candida albicans、Candida maltosa、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces fragilis、Kluyveromyces lactis、Pichia guillerimondii、Pichia pastoris、Schizo saccharomyces pombe及びYarrowia lipolyticaが挙げられる。バキュロウイルス発現ベクターとともに用いる昆虫細胞としては、とりわけAedes aegypti、Autographa californica、Bombyx mori、Drosophila melanogaster、Spodoptera frugiperda、及びTrichoplusia niが挙げられる。
選択した発現系及び宿主に応じて、対象とするタンパク質が発現される条件下において上記の発現ベクターにより形質転換した宿主細胞を成長させることによって、本発明の融合タンパク質を産生する。適切な成長条件の選択は当業者の技能範囲内である。
一実施形態において、形質転換細胞は周囲の培地中にポリペプチド産物を分泌する。タンパク質産物の分泌を向上させる特定の調節配列をベクター中に含めることができ、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)リーダー配列、インターフェロン(γもしくはα)シグナル配列、または公知の分泌タンパク質由来の他のシグナルポリペプチド配列を用いる。その後、本明細書に記載の様々な技術によって、例えば限定はしないがヒドロキシアパタイト樹脂、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、HPLC、免疫吸着法、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降などの標準的な精製技術を用いて、分泌ポリペプチド産物を単離することができる。
あるいは、細胞は溶解するが組換えポリペプチドは実質的に完全な状態を保つ化学的、物理的または機械的手段を用いて、形質転換細胞を破壊する。細胞内タンパク質は、ポリペプチドの漏出が生じるように細胞壁または膜から構成成分を除去することによって、例えば界面活性剤または有機溶媒の使用によっても得ることができる。そのような方法は当業者にとって公知であり、例えばProtein Purification Applications: A Practical Approach, (Simon Roe, Ed., 2001)に記載されている。
例えば、本発明で用いる細胞の破壊方法としては、音波処理または超音波処理;攪拌;液体または固体押出;熱処理;凍結融解;乾燥;爆発的減圧;浸透圧衝撃;トリプシン、ノイラミニダーゼ及びリゾチームなどのプロテアーゼを含めた溶菌酵素での処理;アルカリ処理;ならびに界面活性剤及び溶媒、例えば胆汁酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、トリトン、NP40及びCHAPSなどの使用が挙げられるが、これらに限定されない。細胞を破壊するためにどの技術を用いるかは概して好みの問題であり、ポリペプチドが発現される細胞型、培養条件及び用いたあらゆる前処理に依存することになるであろう。
細胞の破壊後、一般に遠心分離によって細胞片を除去し、限定はしないがカラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、HPLC、免疫吸着法、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降などの標準的な精製技術を用いて、細胞内で産生されたポリペプチドをさらに精製する。
例えば、本発明の細胞内ポリペプチドを得る一方法は、抗体(例えば既製の抗体)を用いたイムノアフィニティークロマトグラフィー、またはレクチンアフィニティークロマトグラフィーによるなどのアフィニティー精製を伴う。特に好ましいレクチン樹脂はマンノース部分を認識するものであり、例えば限定はしないがGalanthus nivalisアグルチニン(GNA)、Lens culinarisアグルチニン(LCAまたはレンチルレクチン)、Pisum sativumアグルチニン(PSAまたはエンドウレクチン)、Narcissus pseudonarcissusアグルチニン(NPA)及びAllium ursinumアグルチニン(AUA)から誘導される樹脂などである。好適なアフィニティー樹脂の選択は当業者の技能範囲内である。アフィニティー精製後、上記の技術のいずれかによるなど、当該技術分野において公知の従来技術を用いてポリペプチドをさらに精製することができる。
HB−EGFポリペプチドは、例えばペプチド分野の当業者にとって公知のいくつかの技術のいずれかによって簡便に化学合成することができる。例えば、Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach (W. C. Chan and Peter D. White eds., Oxford University Press, 1st edition, 2000);N. Leo Benoiton, Chemistry of Peptide Synthesis (CRC Press; 1st edition, 2005);Peptide Synthesis and Applications (Methods in Molecular Biology, John Howl ed., Humana Press, 1st ed., 2005);及びPharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins (The Taylor & Francis Series in Pharmaceutical Sciences, Lars Hovgaard, Sven Frokjaer, and Marco van de Weert eds., CRC Press; 1st edition, 1999)を参照。これらを参照により本明細書に援用する。
一般に、こうした方法では成長中のペプチド鎖への1つ以上のアミノ酸の連続的な付加を用いる。通常は、最初のアミノ酸のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかを好適な保護基によって保護する。保護したまたは誘導体化したアミノ酸は、その後、不活性固体支持体に結合させるか、または溶液中で用いるかのいずれかとすることができ、アミド結合の形成を可能とする条件下で、相補的な(アミノまたはカルボキシル)基が適切に保護されている、配列における次のアミノ酸を付加する。その後、新たに付加したアミノ酸残基から保護基を除去してから、次のアミノ酸(適切に保護した)を付加し、以下同様に行う。所望のアミノ酸を連結させて適切な配列とした後、残ったあらゆる保護基(及び固相合成法を用いた場合はあらゆる固体支持体)を順次または同時に除去して最終ポリペプチドを得る。この基本手順の簡単な修正によって、例えば、(キラル中心をラセミ化しない条件下で)保護トリペプチドと適切に保護されたジペプチドとを結合させ、脱保護後、ペンタペプチドを形成することによって、成長鎖に2つ以上のアミノ酸を一度に付加することが可能である。例えば、固相ペプチド合成法についてはJ. M. Stewart and J. D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis (Pierce Chemical Co., Rockford, IL 1984)及びG. Barany and R. B. Merrifield, The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, editors E. Gross and J. Meienhofer, Vol. 2, (Academic Press, New York, 1980), pp. 3−254;また、古典的溶液合成についてはM. Bodansky, Principles of Peptide Synthesis, (Springer−Verlag, Berlin 1984)及びE. Gross and J. Meienhofer, Eds., The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, Vol. 1を参照。これらの方法は一般に比較的小さい、すなわち最大約50〜100アミノ酸の長さのポリペプチドに用いられるが、より大きなポリペプチドにも適用可能である。
典型的な保護基としては、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)、p−トルエンスルホニル(Tx)、2,4−ジニトロフェニル、ベンジル(Bzl)、ビフェニルイソプロピルオキシカルボキシ−カルボニル、t−アミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、o−ブロモベンジルオキシカルボニル、シクロヘキシル、イソプロピル、アセチル、o−ニトロフェニルスルホニルなどが挙げられる。
典型的な固体支持体は架橋ポリマー支持体である。これらにはジビニルベンゼン架橋スチレン系ポリマー、例えばジビニルベンゼン−ヒドロキシメチルスチレンコポリマー、ジビニルベンゼン−クロロメチルスチレンコポリマー及びジビニルベンゼン−ベンズヒドリルアミノポリスチレンコポリマーを挙げることができる。
他の方法、例えば同時多重ペプチド合成法などによっても、HB−EGFポリペプチドを化学的に調製することができる。例えば、Houghten Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82:5131−5135;米国特許第4,631,211号を参照。
C.医薬組成物
HB−EGFは、薬学的に許容可能な1種以上の添加物を任意により含む医薬組成物に製剤化することができる。例示的な添加物としては、限定はしないが炭水化物、無機塩、抗菌剤、酸化防止剤、界面活性剤、緩衝剤、酸、塩基、及びこれらの組合せが挙げられる。注入用組成物に適した添加物としては、水、アルコール、ポリオール、グリセリン、植物油、リン脂質、及び界面活性剤が挙げられる。炭水化物、例えば糖、誘導体化糖、例えばアルジトール、アルドン酸、エステル化糖及び/または糖ポリマーなどが添加物として存在し得る。具体的な炭水化物添加物としては、例えば単糖、例えばフルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボースなど;二糖、例えばラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;多糖、例えばラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;及びアルジトール、例えばマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなどが挙げられる。添加物としては、無機塩または緩衝剤、例えばクエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム及びこれらの組合せなどを挙げることもできる。
本発明の組成物は、微生物の生育を防止または阻止するための抗菌剤も含むことができる。本発明に好適な抗菌剤の非限定例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、チメルソール(thimersol)、及びこれらの組合せが挙げられる。
酸化防止剤も組成物中に存在することができる。酸化防止剤は酸化を防止し、それによってHB−EGFまたは調製物の他の成分の劣化を防止するために用いられる。本発明で用いるのに適した酸化防止剤としては、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、メタ重亜硫酸ナトリウム及びこれらの組合せが挙げられる。
界面活性剤が添加物として存在することができる。例示的な界面活性剤としては、ポリソルベート、例えば「Tween20」及び「Tween80」など、ならびにプルロニック、例えばF68及びF88(BASF, Mount Olive, New Jersey)など;ソルビタンエステル;脂質、例えばレシチン及び他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質(ただしリポソーム形態でないことが好ましい)、脂肪酸ならびに脂肪酸エステルなど;ステロイド、例えばコレステロールなど;キレート剤、例えばEDTAなど;ならびに亜鉛及び他のそのような好適なカチオンが挙げられる。
酸または塩基が添加物として組成物中に存在することができる。用いることのできる酸の非限定例としては、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される酸が挙げられる。好適な塩基の例としては、限定はしないが水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フメル酸カリウム(potassium fumerate)、及びこれらの組合せからなる群から選択される塩基が挙げられる。
組成物中のHB−EGFの量(例えば薬物送達システム中に含有される場合)は複数の要因に依存して変化するが、組成物が単位投与量の形態または容器(例えばバイアル)にある場合、最適には治療有効投与量となるであろう。治療有効投与量は、どの量が臨床的に望ましいエンドポイントをもたらすのかを決定するために、組成物の量を増加させて繰り返し投与することによって、実験的に決定することができる。
組成物中のあらゆる個々の添加物の量は、添加物の性質及び機能ならびに組成物の特定の必要性に依存して変化することになるであろう。典型的には、個々の添加物の最適量は定型的な実験を通して、すなわち、様々な量(少量から多量の範囲)の添加物を含有する組成物を調製し、安定性及び他のパラメータを調べて、有意な悪影響を及ぼすことなく最適な性能が得られる範囲を決定することによって求められる。しかし、一般に、添加物(複数可)は約1重量%〜約99重量%、好ましくは約5重量%〜約98重量%、より好ましくは約15重量%〜約95重量%の添加物の量で組成物中に存在することになるであろうが、30重量%未満の濃度が最も好ましい。こうした上述の医薬品添加物は、他の添加物とともに、”Remington: The Science & Practice of Pharmacy”, 19th ed., Williams & Williams, (1995)、”Physician’s Desk Reference”, 52nd ed., Medical Economics, Montvale, NJ (1998)、及びKibbe, A.H., Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd Edition, American Pharmaceutical Association, Washington, D.C., 2000に記載されている。
組成物はすべてのタイプの製剤、特に注入に適したもの、例えば使用前に溶媒で再構成することのできる粉末または凍結乾燥体、加えて、即注入可能な溶液または懸濁液、使用前にビヒクルと組み合わせる乾燥不溶性組成物、ならびに乳濁液及び投与前に希釈する原液を包含する。注入前に固体組成物を再構成するのに適した希釈剤の例としては、注入用静菌水、5%ブドウ糖水溶液、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液、生理食塩水、滅菌水、脱イオン水、及びこれらの組合せが挙げられる。液体医薬組成物については、溶液及び懸濁液が想定される。別の好ましい組成物としては、経口、表面、または局所送達用のものが挙げられる。
本発明の医薬調製物は、意図する送達及び使用の様式に応じて、シリンジ、埋め込みデバイス、マイクロニードル注入システムなどに入れることもできる。好ましくは、本明細書に記載のように調製されたHB−EGFを含む組成物は、計量済みまたは包装済み形態の単位剤形、すなわち単回投与に適切な本発明の複合物または組成物の量である。
本発明の組成物は任意により、1種以上の追加の作用物質、例えば扁桃摘出もしくはアデノイド切除によって生じた創傷を処置するための他の薬剤、または対象の容態もしくは疾患を処置するために用いられる他の医薬品などを含んでよい。HB−EGF及び術後創を処置するための1種以上の他の薬剤、例えば限定はしないが鎮痛剤、麻酔剤、抗生物質、抗炎症剤、新生血管形成を減少させる物質、新生上皮の接着性を増加させる物質、新生上皮の剥離を減少させる物質、または他の成長因子、もしくは創傷治癒を促進する他の作用物質などを含む配合調製物が特に好ましい。あるいは、HB−EGFを含む組成物とは別個の組成物中にこのような作用物質を含有させ、HB−EGFを含む組成物と同時、その前、またはその後に共投与することができる。
D.投与
HB−EGFによる少なくとも1回の治療有効サイクルの処置が、創傷を処置するために対象に施されることになるであろう。「治療有効サイクルの処置」とは、扁桃摘出またはアデノイド切除によって生じた手術創に対する個体の処置に対して、施された場合に有益な治療反応をもたらす1サイクルの処置を意味する。術後創治癒を改善するHB−EGFによる1サイクルの処置を特に対象とする。扁桃摘出またはアデノイド切除後の創傷治癒の改善には、創傷が治癒する速度の増加、創傷を出血しやすくさせる新たな血管が形成する量の減少、または創傷の治癒の間もしくは後の残った瘢痕もしくはケロイドもしくは壊死組織形成の程度の軽減が含まれ得る。加えて、治療有効投与量または治療有効量は術後出血を軽減または予防し得る。
ある実施形態において、HB−EGF及び/または1種以上の他の治療薬、例えば手術創を処置するための他の成長因子もしくは薬剤もしくは作用物質、または他の医薬品などを含む組成物の治療有効投与量を複数回投与することになる。本発明の組成物は、典型的には経口的に、注入(皮下、静脈内、もしくは筋肉内)によって、点滴によって、表面に、または局所的に投与されるが、必ずしもこれらに限らない。別の投与様式、例えば動脈内、経肺、経皮、皮内、経粘膜、経直腸、膣内なども企図する。
本発明による調製物は局所処置にも好適である。特定の実施形態では、例えば、扁桃摘出またはアデノイド切除によって生じた創傷の処置のためのHB−EGFの局所送達に、本発明の組成物を用いる。創傷の表面上または創傷の付近に直接組成物が投与され得る。例えば、組成物はマイクロニードル注入、創傷への組成物の噴霧によって、または表面ペーストとして投与され得る。組成物を創傷被覆材に添加してもよい。あるいは、ウォッシュ、うがい薬、またはリンスとして組成物を経口投与してもよい。創傷治癒の必要な部位がHB−EGFの標的となるように特定の調製物及び適切な投与の方法を選択する。
医薬調製物は投与の直前に溶液または懸濁液の形態とすることができるが、別の形態、例えばシロップ、クリーム、軟膏、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、マトリックス、座薬などとしてもよい。HB−EGF及び他の作用物質を含む医薬組成物は、当該技術分野において公知の医学的に許容可能な方法に従って、同じまたは異なる投与経路を用いて投与され得る。
別の実施形態では、HB−EGF及び/または他の作用物質を含む医薬組成物を予防的に、例えば扁桃摘出後出血を予防するために投与する。そのような予防的使用は、扁桃摘出またはアデノイド切除によって生じた創傷の治癒機能に障害のある、または治癒が遅れている容態を患う対象にとって特に有益となる。
本発明の別の実施形態では、HB−EGF及び/または他の作用物質を含む医薬組成物は、徐放性製剤形態、または徐放デバイスを用いて投与される製剤形態である。そのようなデバイスは当該技術分野において公知であり、例えば経皮パッチ、及び非徐放性医薬組成物で徐放効果を得るために、様々な投与量において連続した定常的な形で長時間にわたる薬物送達をもたらすことのできる小型埋め込みポンプが挙げられる。
本発明は、複合物または組成物中に含有されたHB−EGFでの処置に反応を示す容態を患う患者に、本明細書に規定のHB−EGFを含む複合物を投与する方法も提供する。この方法は、好ましくは医薬組成物の一部として提供される治療有効量の複合物または薬物送達システムを、本明細書に記載の様式のいずれかによって投与することを含む。この投与方法を用いて、HB−EGFによる処置に反応を示す任意の容態が処置され得る。より具体的には、本明細書に記載の組成物は扁桃摘出またはアデノイド切除によって生じた創傷の処置に有効である。
当業者であれば、どの容態をHB−EGFで効果的に処置することができるか認識しているであろう。実際に投与される投与量は、年齢、体重、及び対象の全身状態、ならびに処置中の容態の重症度、医療従事者の判断、及び投与されている複合物に応じて変化することになる。治療有効量は、当業者であれば決定することができ、個々の症例それぞれにおける特定の要件に適合したものとなる。投与されるHB−EGFの量は、HB−EGFの特定の形態(例えば成熟HB−EGFまたはプロHB−EGF)の効力ならびに創傷の上皮化及び治癒に対するその効果の大きさ、ならびに投与経路に依存することになる。
本明細書に記載のように調製した(この場合もまた医薬調製物の一部として提供されることが好ましい)HB−EGFは、単独で、または術後創を処置するための1種以上の他の治療薬、例えば限定はしないが鎮痛剤、麻酔剤、抗生物質、抗炎症剤、新生血管形成を減少させる物質、新生上皮の接着性を増加させる物質、新生上皮の剥離を減少させる物質、もしくは他の成長因子、もしくは創傷治癒を促進する他の作用物質、または臨床医の判断、患者の要求などに依存する様々な投与スケジュールに従って特定の容態もしくは疾患を処置するために用いられる他の医薬品などと組み合わせて投与することができる。具体的な投与スケジュールは当業者にとって公知であるか、定型的な方法を用いて実験的に決定することができる。例示的な投与スケジュールとしては、限定はしないが1日5回、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、週3回、週2回、週1回、月2回、月1回、及びこれらの任意の組合せの投与が挙げられる。好ましい組成物は1日2回以上の投与を必要としないものである。
HB−EGFは他の作用物質の前、それと同時、またはその後に投与することができる。他の作用物質と同時に供給する場合、HB−EGFは同じまたは異なる組成物で供給することができる。したがって、HB−EGF及び1種以上の他の作用物質は併用療法によって個体に提供することができる。「併用療法」とは、治療を受けている対象に物質の組合せの治療効果がもたらされるような対象への投与を意味する。例えば、併用療法は、特定の投与計画に従って、HB−EGFを含むある投与量の医薬組成物、及び少なくとも1種の他の作用物質、例えば創傷を処置するための別の成長因子または薬剤などを含むある投与量の医薬組成物を投与することによって行われ得るが、これらの投与量は併せて治療有効投与量を構成する。同様に、HB−EGF及び1種以上の他の治療薬は少なくとも1回の治療投与量で投与することができる。別々の医薬組成物の投与は、治療を受けている対象にこれらの物質の組合せの治療効果がもたらされる限り、同時にまたは別々に(すなわち同じ日にいずれかの順で順次、または異なる日に)行うことができる。
E.キット
本発明はまた、HB−EGF及び任意により扁桃摘出またはアデノイド切除によって生じた創傷を処置するための1種以上の他の薬剤、例えば限定はしないが鎮痛剤、麻酔剤、抗生物質、抗炎症剤、新生血管形成を減少させる物質、新生上皮の接着性を増加させる物質、新生上皮の剥離を減少させる物質、または他の成長因子、もしくは創傷治癒を促進する他の作用物質などを含む組成物が入っている1つ以上の容器を含むキットも提供する。組成物は液体形態とすることもでき、凍結乾燥することもできる。組成物に適した容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、及び試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックをはじめとした様々な材料から形成することができる。容器は滅菌アクセスポートを有し得る(例えば容器は皮下注射針で刺し通すことのできる栓を有する静注液バッグまたはバイアルであり得る)。
キットは、薬学的に許容可能な緩衝剤、例えばリン酸緩衝生理食塩水、リンガー液、またはブドウ糖液などを含む第2の容器をさらに含むことができる。また、他の薬学的に許容可能な製剤溶液、例えば緩衝剤など、希釈剤、フィルター、注射針、及びシリンジまたは他の送達デバイスをはじめとして、エンドユーザーに有用な他の材料も含むことができる。送達デバイスは組成物で充填済みであってもよい。
キットは、本明細書に記載する扁桃摘出創の術後処置の方法を記載した説明書を含む添付文書も含むことができる。添付文書は未承認の添付文書草案とすることもでき、米国食品医薬品局(FDA)または他の規制機関によって承認された添付文書とすることもできる。
III.実施例
以下は本発明を実施するための具体的な実施形態の実施例である。実施例は、例示目的のみのために提供し、決して本発明の範囲を限定することを意図してはいない。
用いる数値(例えば、量、温度など)については、正確性を確保するように努めたが、ある程度の実験誤差及び偏差が当然許容されるべきである。
実施例1
扁桃摘出後の二次出血:マウス舌モデルでの上皮剥離及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子を用いた予防の可能性
扁桃摘出後の創傷治癒及び扁桃摘出後出血(PTH)をもたらす要因は十分に解明されてはいない。本研究ではマウスモデルにおける口腔創傷治癒を評価し、成長因子(GF)がPTHに対する潜在的な予防手段となり得るかどうか調査することを試みた。
方法
すべての動物研究はStanford Universityの実験動物ケア管理委員会によって承認された。すべての実験に用いたすべてのマウスは、Jackson Laboratories (Florida, USA)から購入した6〜10週齢の雌CBA/CAJ(15〜25g)マウスであった。すべての外科的介入は、吸入イソフルランを導入には3〜4%、維持には1〜2%で用いて実施した。
舌創傷の形成
吸入麻酔の投与後、創傷を形成するための2mmのパンチ生検(Miltex, Plainsboro, N.J.)を用いて画一化した創傷を、顕微鏡可視化の下で、各マウスの舌前部、外側縁上の尖部の付近に舌筋系の深さまで形成した。
処置群
マウスを混合されない形で処置群及び対照群の2つの群にランダム化した。各群は42匹のマウスを含み、1日目から14日目まで毎日3匹のマウスを屠殺した。
処置群マウスにはHB−EGF(5μg/ml、Prospec Bio)を筋肉内注射により創傷の底部に毎日投与した。対照群マウスには滅菌生理食塩水を筋肉内注射により創傷の底部に毎日投与した。両群への注入は手技の日の0日目から始めてデータ収集の終わりの14日目まで毎日実施した。すべてマウスにおいて、マウスが麻酔から回復する底部への注入の直後に、HB−EGFまたは生理食塩水を浸漬させたゲルフォームを創傷内に配置した。
動物の屠殺及び組織の採取
屠殺及び組織採取スケジュールは処置及び対照群で同じとした。両群において、手技後の最初の日である1日目から始めて14日目まで毎日3匹のマウスを屠殺した。麻酔下での頚椎脱臼によって屠殺を行った。屠殺の直後に、組織学的検査のために治癒中の創傷を含む舌を切除してホルマリン中に固定した。
組織学的検査
以前に公表された技術(Santa Maria et al. (2015) Tissue Eng. Part A. 21(9−10): 1483−1494;Santa Maria et al. (2010) Laryngoscope 120(10):2061−2070;これらを参照により本明細書に援用する)に従って、舌サンプルに対して組織学的検査を行った。簡潔に述べると、4mmのパンチ生検を用いて、創傷領域を組織サンプルの中央として創傷領域全体を採取した。舌創傷の平面に垂直に切片を切り出した。
創傷の評価
各創傷の顕微鏡写真を作成した。写真をコード化し、写真を評価する本発明者らを、組織画像が処置群のものか、または対照群のものかに対して、及び互いの反応に対して盲検化した。各創傷を以下の基準に基づいて評価した。
−創床の開閉、
−上皮の厚さ、
−ケラチンの厚さ、
−肉芽組織の厚さ、
−新生血管形成の存在、
−下層の基底膜からの上皮の剥離、ならびに
−紡錘形細胞の増殖及び収縮。
その後、写真のコード化を解除して結果を組み合わせた。
統計解析
STATA 13.1ソフトウェアを用いて統計解析を行った。平均値の比較について対応のある両側t検定を用いて厚さの差異を解析し、ピアソンのカイ二乗検定を用いて生検後の所与の日数での上皮剥離、創傷閉鎖及び創傷再開放を比較した。
結果
プロトコールは狂いなく実施した。結果を図1A〜1D及び図2A〜2Dに示し、表1にまとめる。対照群と比較して、HB−EGFを注入した実験群における創傷は、統計的に有意ではなかったが(p=0.25)創傷閉鎖前の肉芽組織の厚さの増加(33μmに対して47μm)、創傷閉鎖前の上皮の厚さの増加(30μmに対して220μm、p=0.04)、創傷閉鎖前のケラチンの厚さの増加(10μmに対して28μm、p<0.001)、早期の紡錘形細胞増殖(8日目に対して4日目)、下層の組織から上皮が剥離する頻度の低下(100%に対して59%、p=0.003)、新生血管形成の遅延(8日目に対して9〜10日目)、及び創傷再開放の頻度の低下(48%に対して8%、p<0.001)を示した。
口腔内の筋肉上のケラチノサイトによる創傷治癒の段階は以下である。
−炎症期
−肉芽組織
−上皮の増殖及び移動
−創傷収縮
−新生血管形成
−リモデリング
考察
1.上皮剥離及び創傷収縮が二次PTHをもたらす要因の可能性がある。
2.HB−EGFで処置したマウスの口腔創傷の方が、より大きな上皮及びケラチンの厚さ、低頻度の上皮剥離、低頻度の創傷再開放、ならびに新生血管形成前の早期の創傷閉鎖を示した。
3.組織が治癒する際の創床の新生血管形成はPTHのリスクを増加させ得る。新生血管形成の最大潜在性に新生血管がさらされると、保護されていない表面には上皮剥離及び創傷収縮が生じる。HB−EGF処置サンプルではこれは起こらなかった。
4.したがって、HB−EGFによる処置はPTHを防止または軽減し得る。
実施例2
扁桃摘出後のヘパリン結合性上皮成長因子の局所送達
扁桃摘出が行われる際には生傷が口腔内に残される。創床には筋及び若干のリンパ系組織があることが多い。この創傷はその後数日にわたって肉芽形成してから上皮化する。新生血管形成は創傷において上皮層が成熟する前に発生するという仮説が立てられる。これによりこの時点で創傷の二次出血が生じる(扁桃摘出後約5〜10日目)。本技術は、創傷の上皮化を加速させるためにHB−EGFを局所送達し、その結果、新生血管形成段階前にこの層を成熟させることを意図しており、これにより二次出血のリスクが軽減される。
手術後、HB−EGFを他の生物活性物質(例えば上皮の接着を促進する、または血管新生を減少させる物質)とともにまたは単独で含有する局所的に施される送達ビヒクルを、創傷に直接施すことができる。HB−EGFは2回以上施すことができる。ビヒクルは生体吸収性であってよく、HB−EGFを長時間にわたって放出し得る。術後痛を軽減するために局所麻酔剤をHB−EGFと併せて投与してもよい。
実施例3
マイクロニードル注入によるヘパリン結合性上皮成長因子の送達
手術及び止血を行った後、HB−EGFを含有するマイクロニードル注入システムを創傷上に配置し、それによってマイクロニードルでHB−EGFを創傷中に送達させることができる。マイクロニードル自体は生体吸収性であってよく、長時間にわたってHB−EGFを他の生物活性物質(例えば上皮の接着を促進する、または血管新生を減少させる物質)とともにまたは単独で放出し得る。
実施例4
創傷の付近へのヘパリン結合性上皮成長因子の局所送達
手術後、HB−EGFを他の生物活性物質(例えば上皮の接着を促進する、または血管新生を減少させる物質)とともにまたは単独で含有する送達ビヒクルを、扁桃摘出で生じた創傷中に、またはその付近に注入することができる。ビヒクルは生体吸収性であってよく、HB−EGFを長時間にわたって放出し得る。
実施例5
ヘパリン結合性上皮成長因子の非経口送達
手術後、HB−EGFを他の生物活性物質(例えば上皮の接着を促進する、または血管新生を減少させる物質)とともにまたは単独で含有する送達ビヒクルを、HB−EGFが創傷に局在化してそこで作用するような非経口または他の全身経路を含めた非経口経路を介して患者に施すことができる。
実施例6
ヘパリン結合性上皮成長因子の経口送達
手術後、HB−EGFを他の生物活性物質(例えば上皮の接着を促進する、または血管新生を減少させる物質)とともにまたは単独で含有する送達ビヒクルを、HB−EGFが創傷に施されてそこで作用するように、ウォッシュ、うがい薬、リンス、または表面ペーストとして経口経路を介して患者に施すことができる。
本発明の好ましい実施形態を例示及び説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更を行うことができると理解されよう。