1.概要
EPOとは、赤血球系前駆細胞のエリスロサイトへの増殖および成熟に関与する糖タンパク質ホルモンである。EPOは、胎児期には肝臓により生成され、成人期には腎臓により生成される。成人期において、腎不全の帰結として一般的に生じるEPOの生成の減少は、貧血をもたらす。EPOは、遺伝子操作法により、EPO遺伝子をトランスフェクトされた宿主細胞からの、タンパク質の発現および分泌に基づき生成されている。このような組換えEPOの投与は、貧血の処置において有効となっている。例えば、Eschbachら(1987年、N Engl J Med、316巻:73頁)は、慢性腎不全により引き起こされる貧血を是正するためのEPOの使用について記載している。
EPOの効果は、サイトカイン受容体のスーパーファミリーに属し、EPO受容体と呼ばれる細胞表面受容体へのその結合、およびこの受容体の活性化により媒介される。ヒトEPO受容体およびマウスEPO受容体は、クローニングされ、発現がなされている。(D’Andreaら(1989年)、Cell、57巻:277頁;Jonesら(1990年)、Blood、76巻:31頁;Winkelmanら(1990年)、Blood、76巻:24頁;および国際出願90/08822/米国特許第5,278,065号)ヒトEPO受容体遺伝子は、およそ224アミノ酸の細胞外ドメインを含む、483アミノ酸の膜貫通タンパク質をコードし、マウスEPO受容体とおよそ82%のアミノ酸配列同一性を呈示する。(米国特許第6,319,499号を参照されたい。)クローニングされて哺乳動物細胞内で発現がなされた全長EPO受容体(66〜72kDa)は、赤血球系前駆細胞上の天然の受容体のアフィニティーと同様のアフィニティー(KD=100〜300nM)でEPOに結合する。したがって、この形態は、主要なEPO結合決定基を含有すると考えられ、EPO受容体と呼ばれる。他の近縁のサイトカイン受容体との類比によれば、EPO受容体は、アゴニストに結合すると二量体化すると考えられる。しかしながら、多量体の複合体であり得るEPO受容体の詳細な構造、およびその活性化の具体的機構は、完全には理解されていない。(米国特許第6,319,499号)
EPO受容体の活性化は、いくつかの生物学的効果を結果としてもたらす。これらの効果は、未成熟赤芽球の増殖の増大、未成熟赤芽球の分化の増大、および赤血球系前駆細胞におけるアポトーシスの低減を含む。(Liboiら(1993年)、Proc Natl Acad Sci USA、90巻:11351〜11355頁;Kouryら(1990年)、Science、248巻:378〜381頁)増殖を媒介するEPO受容体のシグナル伝達経路と、分化を媒介するEPO受容体のシグナル伝達経路とは、異なると考えられる。(Noguchiら(1988年)、Mol Cell Biol、8巻:2604頁;Patelら(1992年)、J Biol Chem、(1992年)267巻:21300頁;Liboiらibid)一部の結果は、付属タンパク質が、分化シグナルの媒介に必要とされ得ることを示唆する。(Chibaら(1993年)、Nature、362巻:646頁;Chibaら(1993年)、Proc Natl Acad Sci USA、90巻:11593頁)しかし、恒常的な活性化形態の受容体は、増殖および分化のいずれも刺激し得るので、分化における付属タンパク質の役割については、議論が一致していない。(Pharrら(1993年)、Proc Natl Acad Sci USA、90巻:938頁)
EPO受容体活性化因子として、低分子赤血球生成刺激作用因子(ESA)のほか、EPOベースの化合物が挙げられる。前者の例は、ポリエチレングリコールに共有結合的に連結された二量体のペプチドベースのアゴニスト(商標名:Hematide(商標))であり、これは、健康なボランティアならびに慢性腎疾患および内因性の抗EPO抗体の両方を有する患者において赤血球生成刺激特性を示している。(Steadら(2006年)、Blood、108巻:1830〜1834頁;Macdougallら(2009年)、N Engl J Med、361巻:1848〜1855頁)他の例として、非ペプチドベースのESAが挙げられる。(Qureshiら(1999年)、Proc Natl Acad Sci USA、96巻:12156〜12161頁)
EPO受容体活性化因子は、内在性EPOの産生を増強することにより、EPO受容体自体と接触せずに赤血球生成を間接的に刺激する化合物も含む。例えば、低酸素症誘導性転写因子(HIF)は、正常酸素条件下で細胞の調節機構によって抑制(不安定化)されるEPO遺伝子発現の内在性刺激物質である。したがって、HIFプロリルヒドロキシラーゼ酵素の阻害剤をインビボにおいてEPO誘導活性について調査されている。他のEPO受容体の間接的な活性化因子としては、EPO遺伝子発現を持続的に阻害するGATA−2転写因子の阻害剤(Nakanoら、2004年、Blood、104巻:4300〜4307頁)、およびEPO受容体のシグナルトランスダクションの負の調節因子として機能する造血性細胞ホスファターゼ(HCPまたはSHP−1)の阻害剤(Klingmullerら、1995年、Cell、80巻:729〜738頁)が挙げられる。
形質転換成長因子−β(TGFβ)スーパーファミリーは、共通の配列エレメントおよび構造モチーフを共有する種々の成長因子を含有する。これらのタンパク質は、脊椎動物および無脊椎動物の両方における多種多様な細胞型に対する生物学的効果を発揮することが公知である。スーパーファミリーのメンバーは、胚発生の間に、パターン形成および組織特異化において重要な機能を果たし、また、脂肪生成、筋形成、軟骨形成、心臓発生、造血、神経発生、および上皮細胞分化を含めた種々の分化プロセスに影響を及ぼし得る。TGFβファミリーのメンバーの活性を操作することにより、多くの場合、生物体内で有意な生理的変化が引き起こされる可能性がある。例えば、ピエモンテ牛品種およびベルジャンブルー牛品種は、筋肉量の顕著な増加を引き起こす、GDF8(ミオスタチンとも称される)遺伝子の機能喪失型変異を有する。Grobetら、Nat Genet. 1997年、17巻(1号):71〜4頁。さらに、ヒトでは、GDF8の不活性対立遺伝子が筋肉量の増加、および報告によれば、例外的な強度に関連する。Schuelkeら、N Engl J Med 2004年、350巻:2682〜8頁。
GDF15は、ジスルフィド連結したホモ二量体として産生され、その産生部位の付近で(局部的に)または血液中を循環することによって離れて作用し得る、TGFβスーパーファミリーのメンバーである。GDF15シグナルは、リガンド刺激を受けると下流のSmadタンパク質をリン酸化し、活性化する、I型およびII型セリン/トレオニンキナーゼ受容体のヘテロマー複合体によって媒介される(Massague、2000年、Nat. Rev. Mol. Cell Biol.、1巻:169〜178頁)。これらのI型受容体およびII型受容体は、膜貫通タンパク質であり、システインリッチ領域を有するリガンド結合性細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および予測されたセリン/トレオニン特異性を有する細胞質ドメインで構成される。I型受容体は、シグナル伝達のために不可欠であり、II型受容体は、リガンドの結合およびI型受容体の発現に必要である。場合によって、III型受容体(補助受容体/アクセサリータンパク質としても公知)が、II型受容体へのリガンドの結合を容易にする、または他の点でリガンドシグナル伝達を改変する。リガンドが結合すると、I型受容体およびII型受容体は安定な複合体を形成し、その結果、II型受容体によりI型受容体がリン酸化される。
本明細書において実証されている通り、GDF15ポリペプチドは、エクスビボにおいて赤血球形成を促進すること、インビボにおいて赤血球レベルを高めること、およびインビボにおいてEPOと相乗的に作用して赤血球レベルを高めることにおいて有効である。したがって、GDF15ポリペプチドは、貧血の種々のモデルにおいて有益な効果を有することが予測される。造血は、EPO、G−CSFおよび鉄ホメオスタシスを含めた種々の因子によって調節される複雑なプロセスであることに留意するべきである。「赤血球レベルを高める」および「赤血球形成を促進する」という用語は、ヘマトクリット、赤血球数(計数)およびヘモグロビン濃度測定値などの、臨床的に観察可能な測定基準を指し、そのような変化が起こる機構に関して中立であることが意図されている。
本明細書中で使用される用語は、一般に、本発明の文脈の範囲内で、かつ、各々の用語が使用される特定の文脈において、当該分野におけるその通常の意味を有する。本発明の組成物および方法、ならびに、これらの作製方法および使用方法の記載において、専門家にさらなる案内を提供するために、特定の用語が以下または本明細書中の他の場所で論じられている。用語の任意の使用の範囲および意味は、用語が使用される特定の文脈から明らかである。
「約」および「およそ」とは、一般に、測定の性質または精度を考慮して、測定量に関して許容される誤差の程度を意味するものとする。典型的には、例示的な誤差の程度は、所与の値または値の範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。
その代わりに、そして特に生物系においては、「約」および「およそ」という用語は、値が所与の値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内であることを意味し得る。本明細書において示される数値的な量は、別段の指定のない限り近似値である、つまり、明示されていない場合には「約」または「およそ」という用語が推定され得る。
本発明の方法は、1種または複数種の変異体(配列バリアント)に対する野生型配列を含め、配列を互いに比較する工程を含み得る。そのような比較は、典型的には、例えば、当技術分野で周知の配列アラインメントのプログラムおよび/またはアルゴリズム(例えば、BLAST、FASTAおよびMEGALIGN、2、3挙げると)を使用した、ポリマー配列のアラインメントを含む。当業者は、そのようなアラインメントでは、変異が残基の挿入または欠失を含有する場合、配列アラインメントには、挿入された、または欠失した残基を含有しないポリマー配列に「ギャップ」(典型的には、ダッシュ、または「A」で表される)が導入されることを容易に理解することができる。
「相同」は、そのあらゆる文法的な形態および語の綴りのバリエーションにおいて「共通する進化的起源」を有する2つのタンパク質間の関係を指し、同じ生物種のスーパーファミリーからのタンパク質ならびに異なる生物種からの相同タンパク質を含む。このようなタンパク質(およびこれをコードする核酸)は、%同一性の観点であれ、特定の残基もしくはモチーフおよび保存された位置の存在によるものであれ、その配列類似性によって反映されるように、配列の相同性を有する。
用語「配列類似性」は、そのあらゆる文法的な形態において、共通する進化の起源を共有している場合も共有していない場合もある、核酸もしくはアミノ酸配列間の同一性もしくは対応性の程度をいう。
しかし、一般的な用法およびこの出願において、用語「相同」は、「高度に」のような副詞で修飾されるとき、配列の類似性を指す場合があり、そして、共通する進化の起源に関連していてもしていなくてもよい。
2.GDF15ポリペプチドおよび核酸
ある特定の態様では、本発明は、例えば、成熟ヒトGDF15タンパク質、ならびに、共有結合により結合しているか非共有結合により結合しているかにかかわらず、プロドメインを保持するGDF15ポリペプチド、ならびに前述のバリアントおよび短縮を含めた、GDF15ポリペプチドに関する。このようなバリエーションおよび短縮は、ALK5を含めたGDF15の公知の受容体のうちの1種または複数種によるシグナル伝達を刺激する能力を保持させるために選択することができる。任意選択で、GDF15ポリペプチドは、CAGA−12ルシフェラーゼレポーター遺伝子構築物をトランスフェクトした細胞株におけるルシフェラーゼの発現を高め得る。
本明細書で使用される場合、「GDF15」という用語は、それぞれ、任意の種に由来するGDF15タンパク質および変異誘発、短縮、または他の改変によってそのようなタンパク質から得られるバリアントのファミリーを指す。図1に示されている通り、GDF15タンパク質は、タンパク質の成熟部分を含め、脊椎動物系列にわたって中程度に異なる(divergent)。
「GDF15ポリペプチド」という用語は、それぞれ、GDF15ファミリーメンバーの任意の天然に存在するポリペプチド、ならびに、有用な活性を保持する任意のそのバリアント(変異体、断片、融合物、およびペプチド模倣形態を含む)を含むポリペプチドを包含する。例えば、GDF15ポリペプチドは、任意の公知のGDF15タンパク質の配列に由来するポリペプチドを含み得、また、シグナルペプチドを伴って、プロタンパク質形態(プロドメインと成熟部分の両方を含有する)として、および完全に成熟した形態として発現される形態を含み得る。図1に示されている通り、ヒトおよびマウスにおける成熟GDF15タンパク質は、中程度に異なり(アミノ酸レベルで68%同一である)、したがって、機能的バリアントは、例えば、そのような変化は一般に許容されるので、異なる脊椎動物種の間でそれほど保存されていないアミノ酸を参照することによって選択することができる。GDF15ポリペプチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12のいずれかなどの、天然に存在するGDF15ポリペプチドの配列と少なくとも68%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を含み得るか、それから本質的になり得るか、または、それからなり得る。本明細書で記載される全てのヒトGDF15ポリペプチドについてのアミノ酸の番号付けは、他に特に指定が無ければ、配列番号1についての番号付けに基づく。
GDF15ポリペプチドの例としては、以下が挙げられる:
NCBI参照配列番号NP_004855.2のアミノ酸1〜308に対応する、ネイティブなリーダーを含む全長ヒトGDF15前駆体タンパク質(配列番号1)。リーダーは破線の下線で示され、成熟GDF15配列は実線の下線で示されている。
配列番号1のアミノ酸30〜308に対応する、リーダーが除去された全長ヒトGDF15前駆体タンパク質(配列番号2)。GDF15プロドメインには印が付いておらず、成熟GDF15配列には下線が引かれている。
配列番号1のアミノ酸197〜308に対応する、予測される全長成熟ヒトGDF15(配列番号3)。
配列番号1のアミノ酸199〜308に対応する、成熟ヒトGDF15の精製バージョン(配列番号4)。
ある特定の態様では、GDF15ポリペプチドは、アミノ酸の置換または欠失を含む機能的バリアントまたは改変された形態を含む。したがって、GDF15ポリペプチドのさらなる例としては、以下が挙げられる:
PCT特許出願公開第WO2013/113008号に開示されている、N199Q置換(配列番号5、下線が引かれている)を伴う、配列番号1のアミノ酸199〜308に対応する、精製された成熟ヒトGDF15のバリアント。
PCT特許出願公開第WO2013/113008号に開示されている、H202D置換(配列番号6、下線が引かれている)を伴う、配列番号1のアミノ酸199〜308に対応する、精製された成熟ヒトGDF15の第2のバリアント。
N199Q置換とH202D置換の両方(配列番号7、下線が引かれている)を伴う、配列番号1のアミノ酸199〜308に対応する、精製された成熟ヒトGDF15の第3のバリアント。
配列番号1のアミノ酸201〜308に対応する、成熟ヒトGDF15(配列番号8)のN’Δ4バリアント。
H202D置換を伴う、配列番号1のアミノ酸201〜308に対応する、成熟ヒトGDF15のN’Δ4バリアント(配列番号9)。
NCBI Reference Seq.No.NP_035949.2のアミノ酸1〜303に対応する、ネイティブなリーダーを含む全長マウスGDF15前駆体タンパク質(配列番号10)。リーダーは破線の下線で示され、成熟GDF15配列は実線の下線で示されている。
配列番号10のアミノ酸192〜303に対応する、全長成熟マウスGDF15(配列番号11)。
配列番号10のアミノ酸196〜303に対応する、成熟マウスGDF15のN’Δ4短縮バリアント(配列番号12)。
ある特定の態様では、GDF15ポリペプチドの機能的バリアントまたは改変された形態としては、GDF15ポリペプチドの少なくとも一部分と1つまたは複数の融合ドメインとを有する融合タンパク質が挙げられる。そのような融合ドメインの周知の例としては、これだけに限定されないが、ポリヒスチジン、Glu−Glu、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン、プロテインA、プロテインG、免疫グロブリン重鎖定常領域(Fc)、マルトース結合性タンパク質(MBP)、またはヒト血清アルブミンが挙げられる。融合ドメインは、所望の性質が付与されるように選択することができる。例えば、いくつかの融合ドメインは、アフィニティークロマトグラフィーによって融合タンパク質を単離するために特に有用である。アフィニティー精製のためには、グルタチオンをコンジュゲートした樹脂、アミラーゼをコンジュゲートした樹脂、およびニッケルをコンジュゲートした樹脂またはコバルトをコンジュゲートした樹脂などの、アフィニティークロマトグラフィー用の関連するマトリックスが使用される。そのようなマトリックスの多くは、His6タグを含有する融合パートナー(配列番号15)と共に有用な、Pharmacia GST purification systemおよびQIAexpress(商標)システム(Qiagen)などの「キット」の形態で入手可能である。
別の例としては、融合ドメインは、GDF15ポリペプチドの検出を容易にするように選択され得る。このような検出ドメインの例としては、種々の蛍光タンパク質(例えば、GFP)、ならびに、「エピトープタグ」(これは、特定の抗体に利用可能な、通常は短いペプチド配列である)が挙げられる。特定のモノクローナル抗体に容易に利用可能な周知のエピトープタグとしては、FLAG、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)およびc−mycタグが挙げられる。いくつかの場合、融合ドメインは、関連のプロテアーゼが融合タンパク質を部分的に消化し、それによって、そこから組換えタンパク質を解放することを可能にする、第Xa因子またはトロンビンのようなプロテアーゼ切断部位を有する。解放されたタンパク質は、次いで、その後のクロマトグラフィーによる分離によって、融合ドメインから単離され得る。
ある特定の好ましい実施形態では、GDF15ポリペプチドは、インビボにおいてGDF15ポリペプチドを安定化するドメイン(「安定器(stabilizer)」ドメイン)と融合している。「安定化すること」とは、破壊の低減、腎臓によるクリアランスの低減、または他の薬物動態的影響のいずれに起因するかにかかわらず、血清中半減期を増大させる任意のことを意味する。免疫グロブリンのFc部分との融合により、広範囲のタンパク質に対して望ましい薬物動態特性が付与されることが公知である。同様に、ヒト血清アルブミンとの融合により、望ましい特性を付与することができる。選択することができる他の型の融合ドメインとしては、多量体化(例えば、二量体化、四量体化)安定化ドメインまたは機能的ドメインが挙げられる。例えば、GDF15ポリペプチド融合タンパク質は、PCT公開第WO2013/113008号およびWO2014/100689号に開示されているヘテロマー構造としてデザインすることができる。
本明細書で使用される場合、「免疫グロブリンFcドメイン」という用語または単に「Fc」とは、免疫グロブリン鎖定常領域、好ましくは免疫グロブリン重鎖定常領域、またはその一部のカルボキシル末端部分を意味するものと理解される。例えば、免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン、2)CH1ドメインおよびCH2ドメイン、3)CH1ドメインおよびCH3ドメイン、4)CH2ドメインおよびCH3ドメイン、または5)2つまたはそれ超のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域との組合せを含み得る。ある特定の実施形態では、免疫グロブリンFc領域は、少なくとも免疫グロブリンヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含み、CH1ドメインを欠くことが好ましい。
一実施形態では、重鎖定常領域が由来する免疫グロブリンのクラスは、IgG(Igγ)(γサブクラス1、2、3、または4)である。IgG Fcを含むGDF15ポリペプチド融合タンパク質の例は、PCT公開第WO2013/113008号およびWO2014/100689号に開示されている。他のクラスの免疫グロブリン、IgA(Igα)、IgD(Igδ)、IgE(Igε)およびIgM(Igμ)も使用することができる。適切な免疫グロブリン重鎖定常領域の選択は、米国特許第5,541,087号、および同第5,726,044号において詳細に考察されている。特定の結果を達成するための、ある特定の免疫グロブリンのクラスおよびサブクラスからの特定の免疫グロブリン重鎖定常領域配列の選択は、当業者のレベルの範囲内に入ると考えられる。免疫グロブリンFc領域をコードするDNA構築物の部分は、ヒンジドメインの少なくとも一部分、および好ましくはFcガンマのCH3ドメインまたはIgA、IgD、IgE、もしくはIgMのいずれかの相同なドメインの少なくとも一部分を含むことが好ましい。
さらに、免疫グロブリン重鎖定常領域内のアミノ酸の置換または欠失が本明細書で開示される方法および組成物の実施において有用であり得ることが意図されている。例えば、PCT公開第WO2013/113008号を参照されたい。任意選択で、Fcドメインは、野生型Fcドメインと比較してFcγ受容体への結合能の低下を付与する1つまたは複数の変異を有する。他の場合では、変異体Fcドメインは、野生型Fcドメインと比較してMHCクラスI関連Fc受容体(FcRN)への結合能の増大を付与する1つまたは複数の変異を有する。
融合タンパク質の種々の要素は、所望の機能性と一致する任意の様式で配置することができることが理解される。例えば、GDF15ポリペプチドを異種ドメインのC末端側に配置することもでき、あるいは、異種ドメインをGDF15ポリペプチドのC末端側に配置することもできる。GDF15ポリペプチドドメインと異種ドメインは、融合タンパク質内で隣接している必要はなく、また、いずれかのドメインのC末端側もしくはN末端側に、またはドメインの間に追加的なドメインまたはアミノ酸配列を含めることができる。
ある特定の態様では、本開示は、本明細書で開示されるGDF15ポリペプチドのいずれかをコードする、単離された核酸、および/または組み換え核酸を提供する。そのような核酸は、DNA分子またはRNA分子であり得る。これらの核酸は、例えば、GDF15ポリペプチドを作製するための方法において、または直接治療剤として(例えば、遺伝子療法手法において)使用することができる。
ネイティブなヒトGDF15前駆体タンパク質をコードする核酸配列は以下の通りである(配列番号13)。リーダー配列は、ヌクレオチド1〜87によりコードされ、プロドメインは、ヌクレオチド88〜588によりコードされ、成熟GDF15は、ヌクレオチド589〜924によりコードされる。
ネイティブなマウスGDF15前駆体タンパク質をコードする核酸配列(NCBI参照配列番号NM_011819.2の24〜932位)は以下の通りである(配列番号14)。リーダー配列は、ヌクレオチド1〜90によりコードされ、プロドメインは、ヌクレオチド91〜573によりコードされ、成熟GDF15は、ヌクレオチド574〜909によりコードされる。
ある特定の態様では、GDF15ポリペプチドをコードする主題の核酸は、配列番号13のバリアントである核酸を含むことがさらに理解される。バリアントヌクレオチド配列は、対立遺伝子バリアントなどの、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加または欠失によって異なる配列を含み、したがって、配列番号13に示されているコード配列のヌクレオチド配列とは異なるコード配列を含む。
ある特定の実施形態では、本開示は、配列番号13またはプロドメインもしくは成熟部分をコードするその一部と少なくとも68%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%または100%同一である、単離された、または組換え核酸配列を提供する。配列番号13および配列番号13のバリアントと相補的な核酸配列も本発明の範囲内に入ることが当業者には理解されよう。さらなる実施形態では、本発明の核酸配列は、単離されたもの、組み換えられたもの、および/もしくは異種ヌクレオチド配列と融合したもの、またはDNAライブラリー内のものであり得る。
他の実施形態では、本発明の核酸は、プロドメインまたは成熟部分をコードするその一部を含めた配列番号13に示されているヌクレオチド配列、プロドメインまたはその成熟部分をコードするその一部を含めた配列番号13の相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列も含む。特定の実施形態では、本開示は、配列番号13の589〜924の核酸の相補物とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、および上記の核酸によりコードされるGDF15ポリペプチドを提供する。上記の通り、DNAのハイブリダイゼーションを促進する適切なストリンジェンシー条件は変動し得ることは当業者には容易に理解されよう。例えば、約45℃における6.0×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)でのハイブリダイゼーションの後に、50℃における2.0×SSCの洗浄を行い得る。例えば、洗浄工程における塩濃度は、50℃における約2.0×SSCの低ストリンジェンシーから、50℃における約0.2×SSCの高ストリンジェンシーまで選択され得る。さらに、洗浄工程における温度は、室温(約22℃)の低ストリンジェンシー条件から、約65℃の高ストリンジェンシー条件まで上昇され得る。温度と塩の両方が変更されても、温度または塩濃度が一定に保たれ、他の変数が変更されてもよい。一実施形態では、本開示は、室温における6×SSCとその後の室温で2×SSCでの洗浄の低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする核酸を提供する。
配列番号13に記載される核酸とは遺伝暗号における縮重に起因して異なる単離された核酸も、本発明の範囲内に入る。例えば、いくつかのアミノ酸が、1つ超のトリプレットにより指定される。同じアミノ酸、またはシノニム(例えば、CAUとCACは、ヒスチジンについてのシノニムである)を特定するコドンにより、タンパク質のアミノ酸配列に影響を及ぼさない「サイレント」変異がもたらされ得る。ある特定の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、代替ヌクレオチド配列によりコードされる。代替ヌクレオチド配列は、ネイティブなGDF15核酸配列に関して縮重しているが、それでも同じタンパク質をコードする。
特定の実施形態では、本発明の組換え核酸は、発現構築物において1または複数の調節性ヌクレオチド配列に作動可能に連結され得る。調節性のヌクレオチド配列は、一般に、発現のために使用される宿主細胞に対して適切なものである。種々の宿主細胞について、多数のタイプの適切な発現ベクターおよび適切な調節性配列が当該分野で公知である。代表的には、上記1または複数の調節性ヌクレオチド配列としては、プロモーター配列、リーダー配列もしくはシグナル配列、リボソーム結合部位、転写開始配列および転写終結配列、翻訳開始配列および翻訳終結配列、ならびに、エンハンサー配列もしくはアクチベーター配列が挙げられ得るがこれらに限定されない。当該分野で公知の構成的もしくは誘導性のプロモーターが、本発明によって企図される。プロモーターは、天然に存在するプロモーター、または、1つより多くのプロモーターの要素を組み合わせたハイブリッドプロモーターのいずれかであり得る。発現構築物は、プラスミドのようにエピソーム上で細胞中に存在し得るか、または、発現構築物は、染色体中に挿入され得る。好ましい実施形態では、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能にするために、選択可能なマーカー遺伝子を含む。選択可能なマーカー遺伝子は、当該分野で周知であり、そして、使用される宿主細胞により変化する。
本開示の特定の態様では、本主題の核酸は、GDFポリペプチドをコードし、そして、少なくとも1つの調節性配列に作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む発現ベクターにおいて提供される。調節性配列は当該分野で認識され、そして、GDFポリペプチドの発現を誘導するように選択される。したがって、用語、調節性配列は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメントを含む。例示的な調節性配列は、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology、Academic Press、San Diego、CA(1990年)に記載される。例えば、作動可能に連結されたときにDNA配列の発現を制御する広範な種々の発現制御配列のいずれかが、GDFポリペプチドをコードするDNA配列を発現させるためにこれらのベクターにおいて使用され得る。このような有用な発現制御配列としては、例えば、SV40の初期および後期プロモーター、tetプロモーター、アデノウイルスもしくはサイトメガロウイルスの前初期プロモーター、RSVプロモーター、lacシステム、trpシステム、TACもしくはTRCシステム、T7 RNAポリメラーゼによってその発現が誘導されるT7プロモーター、ファージλの主要なオペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3−ホスホグリセリン酸キナーゼもしくは他の糖分解酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター(例えば、Pho5)、酵母α−接合因子(mating factor)のプロモーター、バキュロウイルス系の多角体プロモーター、ならびに、原核生物もしくは真核生物の細胞、または、そのウイルスの遺伝子の発現を制御することが公知である他の配列、ならびにこれらの種々の組み合わせが挙げられる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択および/または発現されることが所望されるタンパク質のタイプのような要因に依存し得ることが理解されるべきである。さらに、ベクターのコピー数、コピー数を制御する能力およびベクターによってコードされる任意の他のタンパク質(例えば、抗生物質マーカー)の発現もまた考慮されるべきである。
GDF15ポリペプチドの生成のための組換え核酸は、クローニングされた遺伝子またはその一部を、原核生物細胞、真核生物細胞(酵母、鳥類、昆虫または哺乳動物)のいずれか、または両方において発現させるために適切なベクター中に連結することによって生成され得る。組換えGDF15ポリペプチドの生成のための発現ビヒクルとしては、プラスミドおよび他のベクターが挙げられる。例えば、適切なベクターとしては、以下のタイプのプラスミドが挙げられる:原核生物細胞(例えば、E.coli)における発現のための、pBR322由来のプラスミド、pEMBL由来のプラスミド、pEX由来のプラスミド、pBTac由来のプラスミドおよびpUC由来のプラスミド。
いくつかの哺乳動物発現ベクターは、細菌中でのベクターの増殖を促進するための原核生物の配列と、真核生物細胞において発現される1または複数の真核生物の転写単位との両方を含む。pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pSV2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo、pMSG、pSVT7、pko−neoおよびpHyg由来のベクターは、真核生物細胞のトランスフェクションに適切な哺乳動物発現ベクターの例である。これらのベクターのいくつかは、原核生物細胞および真核生物細胞の両方における複製および薬物耐性選択を容易にするために、細菌プラスミド(例えば、pBR322)からの配列を用いて改変される。あるいは、ウシパピローマウイルス(BPV−1)またはエプスタイン−バーウイルス(pHEBo、pREP由来およびp205)のようなウイルスの誘導体が、真核生物細胞におけるタンパク質の一過的な発現のために使用され得る。他のウイルス(レトロウイルスを含む)発現系の例は、遺伝子治療送達系の説明において以下に見出され得る。プラスミドの調製および宿主生物の形質転換において用いられる種々の方法は、当該分野で周知である。原核生物細胞および真核生物細胞の両方についての他の適切な発現系、ならびに、一般的な組換え手順。Molecular Cloning A Laboratory Manual、2nd Ed.、Sambrook、FritschおよびManiatis編(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)16章および17章を参照のこと。いくつかの場合において、バキュロウイルス発現系を用いて組換えポリペプチドを発現させることが望ましくあり得る。このようなバキュロウイルス発現系の例としては、pVL由来のベクター(例えば、pVL1392、pVL1393およびpVL941)、pAcUW由来のベクター(例えば、pAcUWl)およびpBlueBac由来のベクター(例えば、β−galを含むpBlueBac III)が挙げられる。
好ましい実施形態では、ベクターは、CHO細胞における本主題のGDF15ポリペプチドの生成のために設計される(例えば、Pcmv−Scriptベクター(Stratagene,La Jolla,Calif.)、pcDNA4ベクター(Invitrogen,Carlsbad,Calif.)およびpCI−neoベクター(Promega,Madison,Wisc))。明らかであるように、本主題の遺伝子構築物は、例えば、タンパク質(融合タンパク質または改変体タンパク質を含む)を生成するため、精製のために、培養物において増殖させた細胞において本主題のGDF15ポリペプチドの発現を引き起こすために使用され得る。
本開示はまた、1または複数の本主題のGDF15ポリペプチドのコード配列を含む組換え遺伝子をトランスフェクトされた宿主細胞に関する。宿主細胞は、任意の原核生物細胞または真核生物細胞であり得る。例えば、本発明のGDF15ポリペプチドは、E.coliのような細菌細胞、昆虫細胞(例えば、バキュロウイルス発現系を用いる)、酵母細胞または哺乳動物細胞において発現され得る。他の適切な宿主細胞は、当業者に公知である。
上記の核酸は、例えば、HEK細胞、COS細胞およびCHO細胞を含めた適切な細胞においてGDF15ポリペプチドを発現させるために使用することができる。シグナル配列は、GDF15のネイティブなシグナル配列、または、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)シグナル配列もしくはミツバチメリチン(HBM)シグナル配列などの別のタンパク質由来のシグナル配列であり得る。タンパク質PACE(またはフューリン)は、プロタンパク質の2つのペプチド、プロタンパク質および成熟部分への切断を媒介し、したがって、このような切断が望まれる場合に、GDF15ポリペプチドの産生が意図された細胞においてPACE導入遺伝子を発現させるために有用である。GDFファミリーまたはBMPファミリーのメンバーが十分に活性になるためには、それらのプロドメインから解離する必要があることが一般に理解されている。GDF15の場合では、プロドメインはネイティブな条件下では成熟部分から分離しているが、生物活性のある投与可能な医薬形態の適切な生成に最初に役立つ。あるいは、本発明では、プロドメインにより、例えば、より長い血清中半減期およびより大きな生物学的利用能を含めた望ましい薬学的性質を付与することができることが理解され、したがって、ある特定の実施形態では、本開示は、プロドメインポリペプチドと共有結合により会合しているか、または非共有結合により会合しているGDF15ポリペプチドの成熟部分を含む医薬調製物を提供する。「プロドメインポリペプチド」は、配列番号1のアミノ酸30〜196などの、天然に存在するGDF15プロドメインの配列と少なくとも68%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を含む、それから本質的になる、またはそれからなるポリペプチドである。プロドメインポリペプチドは、一般に、対応する成熟部分のアミノ酸を30個超、20個超、10個超または5個超含むべきではないことが明らかである。ある特定の実施形態では、プロドメインポリペプチドは、GDF15ポリペプチドの成熟部分に、10−6M以下、10−7M以下、10−8M以下または10−9M以下、またはそれ未満のKDで結合する。
ある特定の実施形態では、本開示は、治療有効性、または安定性(例えば、エクスビボにおける貯蔵寿命およびインビボにおけるタンパク質分解による分解に対する抵抗性)を増強することなどの目的でGDF15ポリペプチドの構造を改変することによって機能的バリアントを作製することを意図している。GDF15ポリペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、または付加によっても生成することができる。例えば、ロイシンのイソロイシンもしくはバリンでの単独の置き換え、アスパラギン酸のグルタミン酸での単独の置き換え、トレオニンのセリンでの単独の置き換え、または、アミノ酸の、構造的に関連するアミノ酸での同様の置き換え(例えば、保存的変異)は、得られる分子の生物学的活性に主要な影響は及ぼさないと予想するのが妥当である。保存的置き換えとは、側鎖において関連するアミノ酸のファミリー内で生じる置き換えである。機能的バリアントをもたらす、GDF15ポリペプチドのアミノ酸配列の変化は、バリアントGDF15ポリペプチドの、細胞において改変されていないGDF15ポリペプチドに対する応答を生じさせる能力、または1つもしくは複数の受容体に結合する能力を評価することによって容易に決定することができる。プロドメインポリペプチドにおけるバリエーションの場合では、バリアントの機能活性は、プロドメインの成熟GDF15ポリペプチドに結合する能力を測定することによって評価することができる。
ある特定の実施形態では、本発明は、GDF15ポリペプチドのグリコシル化が変更されるように特定の変異を有するGDF15ポリペプチドを意図している。アミノ酸配列の変更は、一般にNXS配列またはNXT配列である1つまたは複数のN結合グリコシル化部位が導入されるように行うことができる。変異は、O結合グリコシル化部位またはN結合グリコシル化部位などの1つまたは複数のグリコシル化部位が排除されるように選択することもできる。変更は、GDF15ポリペプチドの配列に対する1つまたは複数のアスパラギン残基、セリン残基またはトレオニン残基の付加、またはそれによる置換によって行うこともできる。グリコシル化認識部位のアミノ酸の1位または3位の一方または両方における種々のアミノ酸の置換または欠失(および/または2位におけるアミノ酸の欠失)により、修飾されたトリペプチド配列における非グリコシル化がもたらされる。GDF15ポリペプチド上の炭水化物部分の数を増加させる別の手段は、GDF15ポリペプチドへの配糖体の化学的または酵素的なカップリングによるものである。使用されるカップリング様式に応じて、糖(複数可)を、(a)アルギニンおよびヒスチジン;(b)遊離のカルボキシル基;(c)システインのものなどの遊離のスルフヒドリル基;(d)セリン、トレオニン、もしくはヒドロキシプロリンのものなどの遊離のヒドロキシル基;(e)フェニルアラニン、チロシン、もしくはトリプトファンのものなどの芳香族残基;または(f)グルタミンのアミド基に結合させることができる。これらの方法は、参照により本明細書に組み込まれる、WO87/05330、ならびにAplinおよびWriston(1981年)CRC Crit. Rev. Biochem.、259〜306頁に記載されている。GDF15ポリペプチド上に存在する1つまたは複数の炭水化物部分の除去は、化学的に、かつ/または酵素的に遂行することができる。化学的な脱グリコシル化は、例えば、GDF15ポリペプチドの、化合物トリフルオロメタンスルホン酸、または相当する化合物への曝露を含み得る。この処理により、連結している糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)以外のほとんどまたは全ての糖が切断される一方で、アミノ酸配列がインタクトなままに残る。化学的な脱グリコシル化は、Hakimuddinら(1987年)Arch. Biochem. Biophys. 259巻:52頁およびEdgeら(1981年)Anal. Biochem. 118巻:131頁にさらに記載されている。Thotakuraら(1987年)Meth. Enzymol. 138巻:350頁に記載されている通り、GDF15ポリペプチド上の炭水化物部分の酵素的切断は、種々のエンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼの使用により達成することができる。哺乳動物細胞、酵母細胞、昆虫細胞および植物細胞は全て、ペプチドのアミノ酸配列により影響を及ぼすことができる異なるグリコシル化パターンを導入することができるので、必要に応じて、GDF15ポリペプチドの配列を、使用される発現系の型に応じて調整することができる。一般に、ヒトにおける使用のためのGDF15ポリペプチドは、HEK293細胞株またはCHO細胞株などの、妥当なグリコシル化をもたらす哺乳動物細胞株において発現させるが、他の哺乳動物発現細胞系も同様に有用であることが予測される。
本開示は、任意選択で、短縮バリアントを含めた、バリアント、特にGDF15ポリペプチドのコンビナトリアルバリアントのセットを生成する方法をさらに意図している。コンビナトリアル変異体のプールは、GDF15配列を同定するために特に有用である。かかるコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングする目的は、例えば、薬物動態学の変更、または受容体結合性の変更などの、性質の変更を伴うGDF15ポリペプチドバリアントを生成することであり得る。種々のスクリーニングアッセイを以下に提供し、そのようなアッセイは、バリアントを評価するために使用することができる。
GDF15ポリペプチドまたはそのバリアントの活性は、細胞に基づくアッセイまたはインビボアッセイにおいて試験することもできる。例えば、GDF15ポリペプチドバリアントの、造血に関与する遺伝子発現に対する効果を評価することができる。同様に、GDF15ポリペプチドをマウスまたは他の動物に投与することができ、赤血球計数、ヘモグロビンレベル、ヘマトクリットレベル、鉄貯蔵、または網状赤血球計数などの1つまたは複数の血液測定値を、当技術分野で認められている方法を使用して評価することができる。SMAD2/3シグナル伝達を刺激するGDF15および他のリガンドの生物活性を、CAGA−12プロモーター構築物を含有するレポーター遺伝子をトランスフェクトしたA549細胞(ヒト肺上皮細胞株)において評価することができる。この構築物は、ヒトPAI−1遺伝子のプロモーター領域において最初に同定されたSMAD2/3結合性モチーフの複数の反復を組み込んでいる(Dennlerら、1998年、EMBO J、17巻:3091〜3100頁)。米国特許出願第14/465,182号を参照されたい。GDF15ポリペプチドの生物活性は、DU−145細胞による成長の阻害によって評価することもできる。
ある特定の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、GDF15ポリペプチドに天然に存在する任意のものに加えて翻訳後修飾をさらに含み得る。そのような修飾としては、これだけに限定されないが、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質付加、アシル化およびポリエチレングリコール(PEG)での修飾が挙げられる。結果として、GDF15ポリペプチドは、ポリエチレングリコール、脂質、多糖または単糖、およびホスフェートなどの非アミノ酸要素を含有し得る。そのような非アミノ酸要素の、GDF15ポリペプチドの機能性に対する効果は、他のGDF15ポリペプチドバリアントに関して本明細書で記載される通り試験することができる。GDF15ポリペプチドが細胞においてGDF15ポリペプチドの新生形態の切断により生成される場合、翻訳後プロセシングは、タンパク質のフォールディングおよび/または機能を補正するためにも重要であり得る。異なる細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、293、WI38、NIH−3T3またはHEK293)は、このような翻訳後活性に関して特定の細胞機構および特徴的な機構を有し、GDF15ポリペプチドの妥当な修飾およびプロセシングが確実になるように選択することができる。
ある特定の実施形態では、本発明は、他のタンパク質から単離された、またはそうでなければ他のタンパク質を実質的に含まない、単離および/または精製された形態のGDF15ポリペプチドを利用可能にする。
ある特定の実施形態では、本発明のGDF15ポリペプチド(修飾されていないかまたは修飾された)は、当技術分野で公知の種々の技法によって作製することができる。例えば、ポリペプチドは、Bodansky, M.、Principles of Peptide Synthesis, Springer Verlag、Berlin(1993年)およびGrant G. A.(編)、Synthetic Peptides: A User's Guide、W. H. Freeman and Company、New York(1992年)に記載されているものなどの、標準タンパク質化学の技法を使用して合成することができる。さらに、自動ペプチド合成機が市販されている(例えば、Advanced ChemTech Model 396;Milligen/Biosearch 9600)。あるいは、GDF15ポリペプチド、それらの断片またはバリアントは、当技術分野で周知の様々な発現系(例えば、E.coli、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、バキュロウイルス)を使用した組換えで産生させ、その後のタンパク質の精製によって作製することができる。
したがって、本開示は、主題のGDF15ポリペプチドを作製する方法を提供する。例えば、GDF15ポリペプチドをコードする発現ベクターをトランスフェクトした宿主細胞を適切な条件下で培養してポリペプチドの発現が起こるのを可能にすることができる。GDF15ポリペプチドは、GDF15ポリペプチドを含有する細胞と培地の混合物から分泌させ、単離することができる。あるいは、ポリペプチドを細胞質中または膜画分中に保持し、細胞を収集し、溶解させ、タンパク質を単離することができる。細胞培養物は、宿主細胞、培地および他の副産物を含む。細胞を培養するために適した培地は当技術分野で周知である。主題のGDF15ポリペプチドは、細胞培養培地から、宿主細胞から、またはその両方から、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、限外濾過、電気泳動、およびGDF15ポリペプチドの特定のエピトープに特異的な抗体を用いた免疫アフィニティー精製を含めた、当技術分野で公知のタンパク質を精製するための技法を使用して単離することができる。
本開示は、さらに、GDF15ポリペプチドを精製するための新規の方法を提供する。一実施形態では、GDF15ポリペプチドは、溶出のために高濃度の尿素、例えば、4M、5M、6M、7M、または8Mの尿素濃度を使用する陽イオン交換カラムにより精製することができる。別の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、陰イオン交換カラムにより精製することができる。さらに別の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、逆相HPLCカラムにより精製することができる。尿素溶出により陽イオン交換、陰イオン交換、および逆相HPLCは、任意の順序で実施することができる。好ましい実施形態では、GDF15ポリペプチドは、第1に陽イオン交換および尿素での溶出により精製し、第2に陰イオン交換により精製し、第3に逆相HPLCカラムにより精製することができる。
固体マトリックス(例えば、クロマトグラフィー樹脂)を上記のもののいずれかのリガンド結合性部分と接合して、GDF15ポリペプチドに選択的に結合するアフィニティーマトリックスを作製することができる。受容体の細胞外ドメインと免疫グロブリンのFc部分を融合し、プロテインAなどのFc結合性タンパク質を含有するマトリックスと接合することができる。
別の実施形態では、精製用リーダー配列(例えば、組換えGDF15ポリペプチドの所望の部分のN末端に位置するポリ−(His)/エンテロキナーゼ切断部位の配列)をコードする融合遺伝子は、Ni2+金属樹脂を用いる親和性クロマトグラフィーによる、発現された融合タンパク質の精製を可能にし得る。その後、精製用リーダー配列は、引き続いて、エンテロキナーゼでの処理によって除去され、精製GDF15ポリペプチドを提供し得る。(例えば、Hochuliら、(1987年)J.Chromatography 411巻:177頁;およびJanknechtら、PNAS USA 88巻:8972頁を参照のこと。)
融合遺伝子を作製するための技術は周知である。本質的には、異なるポリペプチド配列をコードする種々のDNAフラグメントの接合は、ライゲーションのための平滑末端もしくは突出(staggered)末端、適切な末端を提供するための制限酵素消化、必要に応じた粘着末端のフィルイン(filling−in)、所望されない接合を回避するためのアルカリ性ホスファターゼ処理、および酵素によるライゲーション、を用いる従来の技術に従って行われる。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動DNA合成装置を含む従来の技術によって合成され得る。あるいは、遺伝子フラグメントのPCR増幅は、2つの連続した遺伝子フラグメント間の相補的なオーバーハング(overhang)を生じるアンカープライマーを用いて行われ得、これらのフラグメントは、その後、キメラ遺伝子配列を生じるようにアニーリングされ得る。(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley & Sons:1992年を参照のこと。)
3.例示的な治療的使用
ある特定の実施形態では、本開示のGDF15ポリペプチドは、齧歯類および霊長類などの哺乳動物、特にヒト患者において赤血球レベルを高めるために使用することができる。さらに、GDF15ポリペプチドは、低用量の範囲で赤血球の増加を達成するために、または全体的により高レベルの赤血球またはより高い奏効率を達成するために、EPO受容体活性化因子と組み合わせて使用することができる。このことは、公知のオフターゲット効果および高用量のEPO受容体活性化因子に関連する危険性を低下させることにおいて有益であり得る。ある特定の実施形態では、本発明は、貧血を処置または予防することを必要とする個体において、個体に治療有効量のGDF15ポリペプチドまたはGDF15ポリペプチドとEPO受容体活性化因子の組合せ(または併用療法)を投与することにより、貧血を処置または予防する方法を提供する。これらの方法は、哺乳動物、特にヒトの治療的処置および予防的処置のために使用することができる。
GDF15ポリペプチドは、EPOの有害作用を受けやすい患者においてEPO受容体活性化因子の必要用量を減らすために、これらの活性化因子と組み合わせて使用することができる。主要なEPOの有害作用は、ヘマトクリットレベルまたはヘモグロビンレベルの過剰な上昇、および赤血球増加症である。ヘマトクリットレベルの上昇により、高血圧症(より詳細には高血圧症の増悪)および血管血栓症を引き起こす可能性がある。一部は高血圧症と関連する、報告されている他のEPOの有害作用は、頭痛、インフルエンザ様症候群、シャントの閉塞、心筋梗塞、ならびに血栓症、高血圧性脳障害、および赤血球無形成(red cell blood cell applasia)に起因する脳痙攣である(Singibarti、1994年、J. Clin Invest 72巻(補遺6号):S36〜S43頁;Horlら、2000年、Nephrol Dial Transplant 15巻(補遺4号):51〜56頁;Delantyら、1997年、Neurology、49巻:686〜689頁;Bunn、2002年、N Engl J Med、346巻:522〜523頁)。
本明細書で開示される、GDF15ポリペプチドとEPOのヘモグロビン濃度に対する相乗効果は、GDF15ポリペプチドが、EPOの機構とは異なる機構によって作用することを示す。したがって、これらのアンタゴニストは、EPOに十分に応答しない患者において赤血球レベルおよびヘモグロビンレベルを高めるために有用であり得る。例えば、GDF15ポリペプチドは通常〜増加させた用量のEPO(>300IU/kg/週)の投与によってヘモグロビン濃度が目標のレベルまで上昇しない患者に有益であり得る。EPO応答が不十分な患者は、貧血の全ての型で見られるが、がんの患者および末期腎疾患の患者において、より多くの非応答者数が特に頻繁に観察されている。EPOに対する不十分な応答は、構成的なもの(すなわち、EPOによる最初の処置時に観察される)であるか、または後天的なもの(例えば、EPOによる処置を繰り返すと観察される)であり得る。
本明細書で使用される場合、障害または状態を「予防する」治療薬とは、統計試料において、処置された試料において障害もしくは状態の出現を無処置の対照試料と比較して減少させるか、または、無処置の対照試料と比較して、障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状の発症を遅延させるもしくはその重症度を低下させる化合物を指す。用語「処置すること(treating)」は、本明細書で使用される場合、名を挙げられた状態の予防法または一旦確立された状態の緩和もしくは排除を含む。いずれの場合も、予防または処置は、医師または他の健康管理提供者により提供される診断および治療剤の投与の意図された結果によって識別することができる。
本明細書で示されている通り、任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドを使用して、健康な個体における赤血球、ヘモグロビン、または網状赤血球レベルを高めることができ、このようなGDF15ポリペプチドは、選択された患者集団において使用することができる。適切な患者集団の例としては、貧血を有する患者などの、赤血球またはヘモグロビンレベルが望ましくなく低い患者、および実質的な失血をもたらす可能性がある大手術または他の手順を受けるところである患者などの、望ましくなく低い赤血球レベルまたはヘモグロビンレベルが発生する危険性がある患者が挙げられる。一実施形態では、適切な赤血球レベルを有する患者をGDF15ポリペプチドで処置して赤血球レベルを高め、次いで、採血し、後に輸血に使用するために保管する。
任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、本明細書で開示されるGDF15ポリペプチドを使用して、貧血を有する患者における赤血球レベルを高めることができる。ヒトにおいてヘモグロビンレベルを観察する場合、適切な年齢および性別のカテゴリーについて正常未満のレベルが貧血を示し得るが、個体による変動を考慮に入れる。例えば、一般に、12g/dlのヘモグロビンレベルが、一般的な成体集団における正常の下限とみなされる。ヘモグロビン不十分の潜在的な原因としては、失血、栄養欠損、医薬に対する反応、種々の骨髄の障害、および多くの疾患が挙げられる。より詳細には、貧血は、例えば、慢性腎不全、骨髄異形成症候群、関節リウマチ、および骨髄移植を含む種々の障害に関連づけられている。貧血はまた、以下の状態にも関連づけられ得る:固形腫瘍(例えば、乳がん、肺がん、結腸がん);リンパ系の腫瘍(例えば、慢性リンパ球性白血病、非ホジキンリンパ腫およびホジキンリンパ腫);造血系の腫瘍(例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫);放射線療法;化学療法(例えば、白金含有レジメン);これだけに限定されないが、関節リウマチ、他の炎症性関節炎、全身性エリスマトーデス(SLE)、急性または慢性皮膚疾患(例えば、乾癬)、炎症性腸疾患(例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎)を含めた、炎症性疾患および自己免疫疾患;特発性または先天性の状態を含めた急性または慢性の腎疾患または腎不全;急性または慢性肝疾患;急性または慢性出血;患者のアロ抗体もしくは自己抗体に起因して、かつ/または宗教上の理由で(例えば、いくつかのエホバの証人)赤血球の輸血が不可能である状況;感染症(例えば、マラリア、骨髄炎);例えば、鎌状赤血球症、サラセミアを含めた異常ヘモグロビン症;薬物の使用または乱用、例えば、アルコールの誤用;輸血が回避される任意の原因の貧血の小児患者;ならびに高齢の患者、または、循環過剰負荷に関する懸念により輸血を受けることができない基礎心肺疾患を有する、貧血の患者。
貧血の最も一般的な型は、炎症、感染症、組織傷害、およびがんなどの状態を包含する慢性疾患に関する貧血である。慢性疾患に関する貧血は、骨髄におけるEPOレベルが低いこととEPOに対する応答が不十分であることの両方によって区別される(Adamson、2008年、Harrison's Principles of Internal Medicine、第17版;McGraw Hill、New York、628〜634頁)。多くの因子が、がんに関連した貧血に寄与し得る。一部は、疾患過程自体、ならびにインターロイキン−1、インターフェロン−ガンマ、および腫瘍壊死因子などの炎症性サイトカインの産生に関連する(Bronら、2001年、Semin Oncol 28巻(補遺8号):1〜6頁)。炎症は、その作用の中でも、重要な鉄調節ペプチドであるヘプシジンを誘導し、これにより、マクロファージからの鉄の輸送を阻害し、一般に、赤血球生成のための鉄利用可能性を制限する(Ganz、2007年、J Am Soc Nephrol、18巻:394〜400頁)。種々の経路を通じた失血も、がんに関連した貧血に寄与し得る。がんの進行に起因する貧血の有病率は、がんの型によって変動し、前立腺がんにおける5%から多発性骨髄腫における90%までにわたる。がんに関連した貧血には、患者に対して、疲労および生活の質の低下、処置有効性の低下、および死亡率の上昇を含めた深刻な帰結が伴う。
慢性腎疾患は、腎臓の機能障害の程度と共に重症度が変動する低増殖性貧血と関連する。このような貧血は、主にEPOの不十分な産生および赤血球の生存の低減に起因する。慢性腎疾患は、通常、末期(ステージ5)疾患まで数年または数十年にわたって徐々に進行し、その時点で、患者が生存するためには透析または腎移植が必要である。貧血は、多くの場合、このプロセスの初期に発生し、疾患の進行と共に悪化する。腎疾患に関する貧血の臨床的帰結は、十分に記録されており、それらとして、左室肥大の発生、認知機能障害、生活の質の低下、および免疫機能の変更が挙げられる(Levinら、1999年、Am J Kidney Dis、27巻:347〜354頁;Nissenson、1992年、Am J Kidney Dis 20巻(補遺1号):21〜24頁;Revickiら、1995年、Am J Kidney Dis、25巻:548〜554頁;Gafterら、1994年、Kidney Int、45巻:224〜231頁)。任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドを使用して、腎疾患に関する貧血を処置することができる。
低代謝速度をもたらす多くの状態は、軽度から中等度の低増殖性貧血を生じ得る。そのような状態としては、内分泌欠損の状態が挙げられる。例えば、貧血は、アジソン病、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、または去勢されたかもしくはエストロゲンで処置された男性において生じ得る。軽度から中等度の貧血はまた、特に高齢者において蔓延している状態である、食事によるタンパク質の摂取の減少に伴っても生じ得る。最後に、貧血は、ほぼ全ての原因から生じる慢性肝疾患の患者において発生し得る(Adamson、2008年、Harrison's Principles of Internal Medicine、第17版;McGraw Hill、New York、628〜634頁)。
外傷または分娩後の出血からなどの十分な体積の急性失血によって生じる貧血は、急性出血後貧血として公知である。急性失血では、最初に、他の血液構成物と共に赤血球が比例して枯渇するので、貧血を伴わない血液量減少症が引き起こされる。しかし、血液量減少症により、体液を血管外から血管区画までシフトさせる生理的機構が急速に誘発され、その結果、血液希釈および貧血が生じる。慢性の場合、失血により体の鉄貯蔵が徐々に枯渇し、最終的に鉄欠損に至る。本明細書で開示される結果は、GDF15を、急性の失血による貧血によって誘発される、赤血球産生を促進させる内在性赤血球生成シグナルとして意味づける。したがって、任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドを使用して、急性失血に関する貧血からの回復を速やかにすることができる。
鉄欠損貧血は、中間の段階として負の鉄平衡および鉄欠損赤血球生成を含む鉄欠損の増大のグレード分けされた進行における、最終的な段階である。妊娠、欠乏食、腸での吸収不良、急性または慢性炎症、および急性または慢性失血などの状態において例証される通り、鉄欠損は、鉄要求量の増加、鉄摂取量の減少、または鉄喪失の増加によって生じ得る。この型の軽度から中等度の貧血を伴うと、骨髄は低増殖性のままであり、赤血球形態は大部分が正常であるが、軽度の貧血によってさえ、いくつかの小球性低色素性赤血球が生じ得、重症鉄欠損貧血に移行すると、骨髄が過剰増殖し、小球性かつ低色素性の赤血球がますます蔓延する(Adamson、2008年、Harrison's Principles of Internal Medicine、第17版;McGraw Hill、New York、628〜634頁)。鉄欠損貧血に対する適切な療法は、その原因および重症度に左右され、主要な従来の選択肢は、経口用鉄剤、非経口用鉄製剤、および赤血球の輸血である。任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドを、単独で、または従来の治療的手法と組み合わせて使用して、慢性鉄欠損貧血、特に多因子起源の貧血を処置することができる。
任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドは、典型的には、赤血球形態のわずかな変化に関連する低増殖性骨髄に関する貧血を処置するために適し得る。低増殖性貧血としては、1)慢性疾患に関する貧血、2)腎疾患に関する貧血、および3)低代謝の状態に関連する貧血が挙げられる。これらの型の各々では、内在性EPOレベルは、観察される貧血の程度に対して不適切に低い。他の低増殖性貧血としては、4)初期の鉄欠損貧血、および5)骨髄の損傷によって引き起こされる貧血が挙げられる。これらの型では、内在性EPOレベルは、観察される貧血の程度に対して適切に上昇する。低増殖性貧血はまた、がんの化学療法薬またはがんの放射線療法によって引き起こされる骨髄抑制の結果として生じる。臨床試験についての広範な総説により、軽度の貧血は化学療法後の患者の100%で起こり得、一方、より重症の貧血は、このような患者の最大で80%に起こり得ることが見いだされた(Groopmanら、1999年、J Natl Cancer Inst、91巻:1616〜1634頁)。骨髄抑制薬としては、1)ナイトロジェンマスタード(例えば、メルファラン)およびニトロソ尿素(例えば、ストレプトゾシン)などのアルキル化剤;2)葉酸アンタゴニスト(例えば、メトトレキサート)、プリン類似体(例えば、チオグアニン)、およびピリミジン類似体(例えば、ゲムシタビン)などの代謝拮抗薬;3)アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン)などの細胞傷害性抗生物質;4)キナーゼ阻害剤(例えば、ゲフィチニブ);5)タキサン(例えば、パクリタキセル)およびビンカアルカロイド(例えば、ビノレルビン)などの有糸分裂阻害剤;6)モノクローナル抗体(例えば、リツキシマブ);および7)トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、トポテカンおよびエトポシド)が挙げられる。任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドを使用して、化学療法剤および/または放射線療法によって引き起こされる貧血を処置することができる。
一部の実施形態では、任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドは、過小な(小球性)、過大な(大球性)、形の悪い、または異常な色をした(低色素性)赤血球によって一部特徴付けられる、不規則な赤血球成熟化に関する貧血を処置するためにも適し得る。
ある特定の実施形態では、任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドは、無効赤血球生成を処置するために有用であり得る。鉄動態研究に基づき、再生不良性貧血、出血、または末梢溶血とは元来識別される(Rickettsら、1978年、Clin Nucl Med、3巻:159〜164頁)、無効赤血球生成は、成熟RBCの生成が、骨髄中に存在する赤血球系前駆体(赤芽球)の数が与えられたときに予測されるより少ない、多様な貧血群を説明している(Tannoら、2010年、Adv Hematol、2010巻:358283頁)。このような貧血では、エリスロポエチンレベルの上昇にもかかわらず、成熟RBC生成の無効に起因して、組織低酸素症が遷延する。最終的には、エリスロポエチンレベルの上昇が赤芽球の大規模な増殖を駆動する悪循環が発生し、これは、髄外赤血球生成に起因する脾腫(脾臓の腫大)(Aizawaら、2003年、Am J Hematol、74巻:68〜72頁)、赤芽球誘導性骨病態(Di Matteoら、2008年、J Biol Regul Homeost Agents、22巻:211〜216頁)を潜在的にもたらし、治療的RBC輸血の非存在下においてもなお、組織鉄過負荷(Pippardら、1979年、Lancet、2巻:819〜821頁)を潜在的にもたらす。したがって、赤血球生成の有効性を促進することにより、GDF15ポリペプチドは、前述の悪循環を打破し、根底にある貧血だけでなく、エリスロポエチンレベルの上昇、脾腫、骨病態、および組織鉄過負荷といった関連する合併症も緩和することができる。GDF15ポリペプチドは、貧血およびEPOレベルの上昇のほか、脾腫、赤芽球誘導性骨病態、および鉄過負荷ならびにそれらの付随する病態などの合併症を含む、無効赤血球生成を処置することができる。脾腫に関して、このような病態は、胸痛または腹痛および網内系過形成を含む。髄外造血は、脾臓内だけでなく、潜在的には他の組織内でも、髄外造血性偽腫瘍の形態で生じる場合がある(Musallamら、2012年、Cold Spring Harb Perspect Med、2巻:a013482頁)。赤芽球誘導性骨病態に関して、付随する病態は、低骨塩密度、骨粗鬆症、および骨疼痛を含む(Haidarら、2011年、Bone、48巻:425〜432頁)。鉄過負荷に関して、付随する病態は、ヘプシジン抑制および食餌中の鉄の過剰吸収(Musallamら、2012年、Blood Rev、26巻(補遺1号):S16〜S19頁)、複数の内分泌障害および肝線維症/肝硬変(Galanelloら、2010年、Orphanet J Rare Dis、5巻:11頁)、ならびに鉄過剰性心筋症(Lekawanvijitら、2009年、Can J Cardiol、25巻:213〜218頁)を含む。
無効赤血球生成の最も一般的な原因は、完全アルファヘモグロビン鎖の生成と完全ベータヘモグロビン鎖の生成との不均衡が赤芽球の成熟時におけるアポトーシスの増大をもたらす遺伝性異常ヘモグロビン症である、サラセミア症候群である(Schrier、2002年、Curr Opin Hematol、9巻:123〜126)。サラセミアは総体として、世界中で最も高頻度の遺伝子障害であり、疫学的パターンを変化させながら、米国および全世界のいずれにおいても増大しつつある公衆衛生問題に寄与することが予測されている(Vichinsky、2005年、Ann NY Acad Sci、1054巻:18〜24頁)。サラセミア症候群は、それらの重症度に応じて命名される。したがって、αサラセミアは、軽症型αサラセミア(αサラセミア形質としてもまた公知であり、2つのα−グロビン遺伝子が影響を受ける)、ヘモグロビンH症(3つのα−グロビン遺伝子が影響を受ける)、および重症型αサラセミア(胎児水腫としてもまた公知であり、4つのα−グロビン遺伝子が影響を受ける)を含む。βサラセミアは、軽症型βサラセミア(βサラセミア形質としてもまた公知であり、1つのβ−グロビン遺伝子が影響を受ける)、中間型βサラセミア(2つのβ−グロビン遺伝子が影響を受ける)、ヘモグロビンEサラセミア(2つのβ−グロビン遺伝子が影響を受ける)、および重症型βサラセミア(クーリー貧血としてもまた公知であり、2つのβ−グロビン遺伝子が影響を受ける結果として、β−グロビンタンパク質の完全な非存在がもたらされる)を含む。βサラセミアは、複数の機関に影響を及ぼし、無視できない罹患率および死亡率と関連し、現在のところ一生にわたるケアを必要とする。近年では、鉄のキレート化と組み合わせた定期的な輸血の使用に起因して、βサラセミアを有する患者の平均余命が延長されているが、輸血および消化管による鉄の吸収過剰の両方から生じる鉄過負荷は、心疾患、血栓症、性腺機能低下症、甲状腺機能低下症、糖尿病、骨粗鬆症、および骨減少症など、重篤な合併症を引き起こし得る(Rundら、2005年、N Engl J Med、353巻:1135〜1146頁)。βサラセミアのマウスモデルに関して本明細書で実証される通り、任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドを使用して、本明細書に記載されているものなどのサラセミア症候群を処置することができる。
一部の実施形態において、任意選択で、EPO受容体活性化因子と組み合わせた、GDF15ポリペプチドは、サラセミア症候群に加えて、無効赤血球生成による障害を処置するために使用することができる。このような障害として、鉄芽球性貧血(遺伝性または後天性);赤血球生成異常性貧血(I型およびII型);鎌状赤血球貧血;遺伝性球状赤血球症;ピルビン酸キナーゼ欠損症;葉酸欠損症(先天性疾患、摂取量の減少、または要求量の増加に起因する)、コバラミン欠損症(先天性疾患、悪性貧血、吸収障害、膵臓機能不全、または摂取量の減少に起因する)、ある特定の薬物、または説明されていない原因などの状態により潜在的に引き起こされる巨赤芽球性貧血(先天性赤血球生成異常性貧血、不応性巨赤芽球性貧血、または赤白血病);骨髄線維症(骨髄化生)および骨髄ろうを含む骨髄ろう性貧血;先天性赤芽球性ポルフィリン症;ならびに鉛中毒が挙げられる。
ある特定の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、無効赤血球生成に対する支持療法と組み合わせて使用することができる(例えば、同時にまたは異なる時間に投与するが、一般に、薬理的効果の重複が達成されるような方法で投与する)。そのような療法は、貧血を処置する、赤血球または全血液のいずれかを用いた輸血を含む。慢性貧血または遺伝性貧血では、鉄ホメオスタシスの正常な機構が、繰り返される輸血により圧倒され、鉄の、心臓、肝臓、および内分泌腺などの生体組織内の、毒性であり、潜在的に致死性である蓄積を最終的にもたらす。したがって、無効赤血球生成を長期にわたって患っている患者のための支持療法はまた、1種または複数種の鉄キレート化分子による処置であって、尿および/または糞便中の鉄排出を促進し、これにより、組織鉄過剰負荷を予防または逆転する処置も含む(Hershko、2006年、Haematologica、91巻:1307〜1312頁;Caoら、2011年、Pediatr Rep 3巻(2号):e17頁)。有効な鉄キレート化剤は、ヒドロキシルラジカルおよび酸化生成物の触媒による生成を通じた大部分の鉄毒性をもたらす可能性がある、非トランスフェリン結合鉄の酸化された形態である三価鉄に選択的に結合し、それを中和することができるものでなければならない(Espositoら、2003年、Blood、102巻:2670〜2677頁)。これらの剤は、構造的に多様であるが、全て、個々の鉄原子の化学量が1:1(六座剤(hexadentate agent))、2:1(三座)、または3:1(二座)である中和性八面体配位錯体を形成することができる酸素または窒素ドナー原子を保有する(Kalinowskiら、2005年、Pharmacol Rev、57巻:547〜583頁)。有効な鉄キレート化剤はまた、比較的低分子量であり(700ダルトン未満)、患部組織にアクセス可能なように水および脂質のどちらにも可溶性である。鉄キレート化分子の特定の例は、毎日の非経口投与が必要な細菌起源の六座剤であるデフェロキサミン、ならびに経口で活性な合成剤であるデフェリプロン(二座)およびデフェラシロクス(三座)である。2種の鉄キレート化剤の同日投与からなる併用療法には、キレート化単独療法に対して無反応性の患者における、およびデフェロキサミン(dereroxamine)単独での患者の服薬遵守が不十分である問題の克服において有望である(Caoら、2011年、Pediatr Rep 3巻(2号):e17頁;Galanelloら、2010年、Ann NY Acad Sci、1202巻:79〜86頁)。
ある特定の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、無効赤血球生成に対するヘプシジンアゴニストと組み合わせて使用することができる。主に肝臓で産生される循環ポリペプチドであるヘプシジンは、吸収性腸細胞、肝細胞、およびマクロファージ上に局在する鉄輸送タンパク質であるフェロポーチンの分解を誘導する能力により、鉄代謝の主要な調節因子と考えられる。概して、ヘプシジンは細胞外鉄の利用可能性を低下させ、したがって、ヘプシジンアゴニストは、無効赤血球生成の処置において有益であり得る(Nemeth、2010年、Adv Hematol、2010巻:750643頁)。この見解は、βサラセミアのマウスモデルにおけるヘプシジン発現の増大による有益な効果によって裏付けられる(Gardenghiら、2010年、J Clin Invest、120巻:4466〜4477頁)。
一部の実施形態では、GD15ポリペプチドは、EPOの有害作用を受けやすい患者においてEPO受容体活性化因子の必要用量を減らすために、これらの活性化因子と組み合わせて使用することができる。EPOの主要な有害作用は、ヘマトクリットレベルまたはヘモグロビンレベルの過剰な上昇および多血症である。ヘマトクリットレベルの上昇は、高血圧症(より特定すれば、高血圧症の悪化)および血管内血栓症をもたらし得る。報告されている他のEPOの有害作用であって、それらの一部が高血圧症と関連する有害作用は、頭痛、インフルエンザ様症候群、シャントの閉塞、心筋梗塞、および血栓症に起因する脳痙攣、高血圧性脳症、および赤血球無形成である。(Singibarti(1994年)、J. Clin Investig、72巻(補遺6号):S36〜S43頁;Horlら(2000年)、Nephrol Dial Transplant、15巻(補遺4号):51〜56頁;Delantyら(1997年)、Neurology、49巻、686〜689頁;およびBunn(2002年)、N Engl J Med、346巻(7号)、522〜523頁を参照されたい。)
本明細書で開示されるGDF15ポリペプチドの赤血球レベルに対する迅速な効果は、これらの因子がEPOとは異なる機構で作用することを示す。したがって、これらのアンタゴニストは、EPOに十分に応答しない患者において赤血球レベルおよびヘモグロビンレベルを高めるために有用であり得る。例えば、GDF15ポリペプチドは、通常〜増加させた(>300IU/kg/週)用量のEPOの投与によってヘモグロビンレベルが目標のレベルまで上昇しない患者に有益であり得る。EPO応答が不十分な患者は、貧血の全ての型で見られるが、がんの患者および末期腎疾患の患者において、より多くの非応答者数が特に頻繁に観察されている。EPOに対する不十分な応答は、構成的なもの(すなわち、EPOによる最初の処置時に観察される)であるか、または後天的なもの(例えば、EPOによる処置を繰り返すと観察される)であり得る。
古典的な鎌状赤血球症(SCD;sickle−cell disease、drepanocytosis)には多数の遺伝子が寄与する。主に、鎌状赤血球症は、β−グロビン遺伝子の変異(コドン6におけるグルタミン酸からバリンへの変異)によって引き起こされる遺伝性障害である。例えば、Kassimら(2013年)Annu Rev Med、64巻:451〜466頁を参照されたい。鎌状赤血球貧血とは、鎌状赤血球症の最も一般的な形態を指し、βS対立遺伝子(HbSS)にホモ接合性変異を有し、鎌状赤血球症の人の60〜70%に影響を及ぼしている。β−グロビン遺伝子の変異が原因で、脱酸素された状態になると露出する疎水性モチーフを伴って異常なヘモグロビン分子が産生される[例えば、Eatonら(1990年)Adv Protein Chem、40巻:63〜279頁;Steinberg、MH(1999年)N Engl J Med、340巻(13号):1021〜1030頁;およびBallasら(1992年)Blood、79巻(8号):2154〜63頁を参照されたい]。露出すると、別々のヘモグロビン分子の鎖が重合し、これにより、赤血球膜の損傷および細胞の脱水が起こる。膜損傷は、一部において、エリスロサイト膜の外葉におけるホスファチジルセリンの発現をもたらす膜脂質の再分布によって顕在化する[例えば、(2002年)Blood、99巻(5号):1564〜1571頁を参照されたい]。外面化したホスファチジルセリンは、マクロファージおよび活性化された内皮細胞の両方への接着を促進し、これは血管(vaso)閉塞に寄与する。したがって、低酸素の状態では、赤血球のヘモグロビンが長い結晶状に沈殿し、これにより、細長く伸び、形態学的に切り換わって「鎌状」赤血球になる。遺伝子型と脱酸素の大きさおよび程度がヘモグロビン重合の重症度に寄与する。胎児性ヘモグロビンが存在すると、比例して病理学的なヘモグロビンポリマーの量が減少し、血管閉塞性クリーゼから保護されることが実証されている。
一部の実施形態では、GDF15ポリペプチドは、それを投与することを必要とする被験体に、鎌状赤血球症を処置するため、特に、鎌状赤血球症の1つまたは複数の合併症(例えば、貧血、貧血クリーゼ、脾腫、疼痛クリーゼ、胸部症候群、急性胸部症候群、輸血要求、臓器損傷、疼痛薬(管理)必要性、脾臓血球貯留クリーゼ(splenic sequestration crises)、高溶血クリーゼ(hyperhemolytic crisis)、血管閉塞、血管閉塞クリーゼ、急性心筋梗塞、鎌状赤血球慢性肺疾患、血栓塞栓、肝不全、肝腫大、肝臓血球貯留(hepatic sequestration)、鉄過剰負荷、脾臓梗塞、急性のおよび/または慢性腎不全、腎盂腎炎、動脈瘤、虚血性脳卒中、実質内出血、くも膜下出血、室内出血、周辺網膜の虚血、増殖性鎌状網膜症(proliferative sickle retinopathy)、硝子体出血、および/または持続勃起症)を処置または予防するために使用することができる。
ある特定の態様では、GDF15ポリペプチドは、それを投与することを必要とする被験体に、鎌状赤血球症または鎌状赤血球症の1つもしくは複数の合併症を処置するために、1つまたは複数のさらなる薬剤(例えば、ヒドロキシウレア、EPOアンタゴニスト、EPO、オピオイド鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイド、鉄キレート化剤)または支持療法(例えば、赤血球輸血)と組み合わせて投与することができる。
鎌状赤血球症の患者の大多数にとって処置の頼みの綱は支持的なものである。鎌状赤血球症の患者に対する現行の処置の選択肢としては、抗生物質、疼痛管理、静脈内輸液(intravenous fluid)、輸血、外科手術、およびヒドロキシウレアなどの化合物が挙げられる。
ヒドロキシウレア(例えば、Droxia(登録商標))は、鎌状赤血球症の処置に関して承認された薬物である。ヒドロキシウレアは、S期細胞傷害性薬物であり、長期間療法のために使用される。ヒドロキシウレアは、ヘモグロビンFのレベルを上昇させ、それによりS−ポリマーの形成および赤血球の鎌状赤血球化が予防されると考えられる。ヒドロキシウレアはまた、NO産生を増大させると考えられる。鎌状赤血球症の成人におけるヒドロキシウレアの多施設試験から、ヒドロキシウレアが、有痛性エピソードの発生率をほぼ半分に低減することが示された。しかし、現在、ヒドロキシウレアは、鎌状赤血球症の重症合併症に罹患しており、毎日の投薬レジメンに従うことができる患者においてのみ使用される。一般的に、ヒドロキシウレア療法は、服薬遵守の潜在性が高い構造化された環境で与えられる場合にのみ有効であると考えられている。残念ながら、多くの鎌状赤血球症の患者はヒドロキシウレアに対して不応性である。一部の実施形態では、本開示の方法は、鎌状赤血球症を処置することを必要とする被験体において、本開示のGDF15ポリペプチドとヒドロキシウレアの組合せを投与することにより、鎌状赤血球症を処置することに関する。一部の実施形態では、本開示の方法は、鎌状赤血球症の1つまたは複数の合併症を処置または予防することを必要とする被験体において、本開示のGDF15ポリペプチドとヒドロキシウレアの組合せを投与することにより、鎌状赤血球症の1つまたは複数の合併症を処置または予防することに関する。
ある特定の実施形態では、任意選択で、EPO受容体活性化因子および/または1つもしくは複数のさらなる療法(例えば、ヒドロキシウレアによる処置)と組み合わせた、本開示のGDF15ポリペプチドを、赤血球または全血液のいずれかによる輸血と組み合わせて使用して、鎌状赤血球症または鎌状赤血球症の1つもしくは複数の合併症を有する患者において貧血を処置することができる。全血液または赤血球の輸血を頻繁に受ける患者では、鉄ホメオスタシスの正常な機構が圧倒され、鉄の、心臓、肝臓、および内分泌腺などの生体組織内の、毒性であり、潜在的に致死性である蓄積を最終的にもたらす可能性がある。定期的な赤血球輸血は、種々の血液ドナー単位への曝露を必要とし、よって、同種免疫の危険性が高い。血管アクセスの困難、鉄キレート化の利用可能性および服薬遵守、ならびに高額な費用は、なぜ赤血球輸血の数を限定することが有益であり得るかという理由の一部である]。一部の実施形態では、本開示の方法は、鎌状赤血球症を処置することを必要とする被験体において、GDF15ポリペプチドと1つまたは複数の血液細胞輸血の組合せを施すことにより、鎌状赤血球症を処置することに関する。一部の実施形態では、本開示の方法は、鎌状赤血球症の1つまたは複数の合併症を処置または予防することを必要とする被験体において、本開示のGDF15アンタゴニストと1つまたは複数の赤血球輸血の組合せを施すことにより、鎌状赤血球症の1つまたは複数の合併症を処置または予防することに関する。一部の実施形態では、GDF15ポリペプチドによる処置は、鎌状赤血球症の患者における輸血要求を減少させること、例えば、鎌状赤血球症または鎌状赤血球症の1つもしくは複数の合併症を有効に処置するために必要な輸血の頻度および/または量を減少させることにおいて有効である。
ある特定の実施形態では、任意選択で、EPO受容体活性化因子および/または1つもしくは複数のさらなる療法(例えば、ヒドロキシウレアによる処置)と組み合わせたGDF15ポリペプチドを、1種または複数種の鉄キレート化分子と組み合わせて使用して、SCD患者において尿および/または糞便中の鉄排出を促進し、これにより、組織鉄過剰負荷を予防または逆転することができる。有効な鉄キレート化剤は、ヒドロキシルラジカルおよび酸化生成物の触媒による生成を通じた大部分の鉄毒性をもたらす可能性がある、非トランスフェリン結合鉄の酸化された形態である三価鉄に選択的に結合し、それを中和することができるものであるべきである[例えば、Espositoら(2003年)Blood、102巻:2670〜2677頁を参照されたい]。これらの剤は、構造的に多様であるが、全て、個々の鉄原子の化学量が1:1(六座剤)、2:1(三座)、または3:1(二座)である中和性八面体配位錯体を形成することができる酸素または窒素ドナー原子を保有する[Kalinowskiら(2005年)Pharmacol Rev、57巻:547〜583頁]。一般に、有効な鉄キレート化剤はまた、比較的低分子量であり(例えば、700ダルトン未満)、患部組織にアクセス可能なように水および脂質のどちらにも可溶性である。鉄キレート化分子の特定の例としては、デフェロキサミン(デスフェリオキサミンB、デスフェロキサミンB、DFO−B、DFOA、DFB、またはデスフェラールとしても公知)、毎日の非経口投与が必要な細菌起源の六座剤、ならびに経口で活性な合成剤であるデフェリプロン(二座;Ferriprox(商標)としても公知)およびデフェラシロクス(三座;ビス−ヒドロキシフェニル−トリアゾール、ICL670、またはExjade(商標)としても公知)が挙げられる。2種の鉄キレート化剤の同日投与からなる併用療法には、キレート化単独療法に対して無反応性の患者における、およびデフェロキサミン単独での患者の服薬遵守が不十分である問題の克服において有望である[Caoら(2011年)Pediatr Rep 3巻(2号):e17頁;およびGalanelloら(2010年)Ann NY Acad Sci、1202巻:79〜86頁]。
ある特定の態様では、本開示は、環状鉄芽球および/または遺伝子SF3B1の1つもしくは複数の変異が存在することによって特徴付けられるMDSを有する患者の処置を含め、GDF15ポリペプチドを用いて、MDSおよび鉄芽球性貧血を処置する方法、特に、MDSの1つまたは複数の亜型または合併症を処置または予防する方法を提供する。特に、本開示は、GDF15ポリペプチドを使用して、例えば、貧血、好中球減少、脾腫、輸血要求、急性骨髄性白血病の発生、鉄過剰負荷、および鉄過剰負荷の合併症、その中でも、うっ血性心不全、心不整脈、心筋梗塞、他の形態の心疾患、糖尿病、呼吸困難、肝疾患、および鉄キレート化療法の有害作用を含めた、MDSおよび鉄芽球性貧血の1つまたは複数の合併症を処置または予防するための方法を提供する。
特に、本開示は、骨髄中の赤芽球の数が増加している(細胞過形成)MDS患者において;骨髄中の鉄芽球が1%超、2%超、3%超、4%超、5%超、6%超、7%超、8%超、9%超、10%超、11%超、12%超、13%超、14%超、15%超、16%超、17%超、18%超、19%超、20%超、25%超、30%超、35%超、40%超、45%超、50%超、55%超、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、または95%超のMDS患者において;環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)のMDS患者において;環状鉄芽球および血小板増加症を伴う不応性貧血(RARS−T)のMDS患者において;単一系統異形成(unilineage dysplasia)を伴う不応性血球減少症(RCUD)のMDS患者において;多系統異形成および環状鉄芽球を伴う不応性血球減少症(RCMD−RS)のMDS患者において;SF3B1、SRSF2、DNMT3A、またはTET2の体細胞変異のあるMDS患者において;ASXL1またはZRSR2の体細胞変異のないMDS患者において;鉄過剰負荷を伴うMDS患者において;および好中球減少のMDS患者においてなど、GDF15ポリペプチドを使用して、貧血またはMDSの亜型における他の合併症を処置または予防するための方法を提供する。
また、特に、本開示は、GDF15ポリペプチドを使用して、これだけに限定されないが、環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS);環状鉄芽球および血小板増加症を伴う不応性貧血(RARS−T);多系統異形成および環状鉄芽球を伴う不応性血球減少症(RCMD−RS);アルコール依存症と関連する鉄芽球性貧血;薬物誘発鉄芽球性貧血;銅欠乏(亜鉛毒性)に起因する鉄芽球性貧血;低体温に起因する鉄芽球性貧血;X連鎖鉄芽球性貧血(XLSA);SLC25A38欠損症;グルタレドキシン5欠損症;赤芽球増殖性プロトポルフィリン症;運動失調を伴うX連鎖鉄芽球性貧血(XLSA/A);B細胞免疫不全、発熱、および発育遅延を伴う鉄芽球性貧血(SIFD);ピアソン骨髄−膵臓症候群;ミオパチー、乳酸アシドーシス、および鉄芽球性貧血(MLASA);チアミン応答性巨赤芽球性貧血(TRMA);ならびに原因不明の症候性/非症候性鉄芽球性貧血を含めた、貧血または鉄芽球性貧血の他の合併症を処置または予防するための方法を提供する。
ある特定の態様では、本開示は、骨髄異形成症候群、慢性リンパ球性白血病(CLL)、および急性骨髄性白血病(AML)、ならびに、乳がん、膵がん、胃がん、前立腺がん、およびぶどう膜黒色腫などの、SF3B1の生殖細胞系列変異または体細胞変異と関連する障害または障害の合併症を処置または予防するための方法を提供する。ある特定の態様では、障害は、SF3B1変異について検査陽性である骨髄細胞を有する被験体、特に、骨髄異形成症候群、CLLおよびAMLの被験体におけるものであり得る。任意選択で、SF3B1遺伝子の変異は、エクソン、イントロンまたは5’または3’非翻訳領域におけるものである。任意選択で、SF3B1の変異は、アミノ酸配列の変化を引き起こすか、または当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列の変化を引き起こさない。任意選択で、SF3B1遺伝子の変異は、以下の変化から選択される、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸の変化を引き起こす:K182E、E491G、R590K、E592K、R625C、R625G、N626D、N626S、H662Y、T663A、K666M、K666Q、K666R、Q670E、G676D、V701I、I704N、I704V、G740R、A744P、D781G、A1188V、N619K、N626H、N626Y、R630S、I704T、G740E、K741N、G742D、D894G、Q903R、R1041H、I1241T、G347V、E622D、Y623C、R625H、R625L、H662D、H662Q、T663I、K666E、K666N、K666T、K700E、およびV701F。
患者は、患者を、通常は約10g/dlから約12.5g/dlの間、典型的には約11.0g/dlである目標のヘモグロビンレベル(Jacobsら、2000年、Nephrol Dial Transplant、15巻、15〜19頁も参照されたい)まで回復させることが意図された投薬レジメンにより処置することができるが、目標のレベルが低いほど、引き起こされる心血管の副作用が少なくなる。あるいは、ヘマトクリットレベル(細胞によって占有される血液試料の体積の百分率)を赤血球の状態の尺度として使用することができる。健康な個体のヘマトクリットレベルは、成人男性では41〜51%であり、成人女性では35〜45%である。目標ヘマトクリットレベルは、通常、およそ30〜33%である。さらに、ヘモグロビン/ヘマトクリットレベルは、人によって変動する。したがって、最適に、目標ヘモグロビン/ヘマトクリットレベルは、各患者について個別化することができる。
ある特定の実施形態では、本発明は、GDF15ポリペプチドにより処置されているか、またはGDF15ポリペプチドによる処置を受ける候補である患者を、該患者における1つまたは複数の血液パラメーターを測定することによって管理するための方法を提供する。血液パラメーターは、GDF15ポリペプチドによる処置を受ける候補である患者に対する適切な投薬を評価するため、GDF15ポリペプチドによる処置中に血液パラメーターをモニターするため、GDF15ポリペプチドによる処置中に投薬量を調整するかどうかを評価するため、および/または、GDF15ポリペプチドの適切な維持用量を評価するために使用することができる。血液パラメーターのうちの1つまたは複数が正常レベル外である場合、GDF15ポリペプチドの投薬を減少させるか、遅らせるか、または終了することができる。
本明細書中で提供される方法に従って測定され得る血液学的パラメータとしては、例えば、赤血球レベル、血圧、貯蔵鉄、および、当該分野で認識されている方法を使用する、赤血球レベルの増加と相関する体液中に見出される他の作用因子が挙げられる。そのようなパラメータは、患者からの血液試料を使用して決定され得る。赤血球レベル、ヘモグロビンレベル、および/またはヘマトクリットレベルの増加により、血圧の上昇が引き起こされ得る。
一実施形態では、GDF15ポリペプチドによる処置を受ける候補である患者において、1つまたは複数の血液パラメーターが、正常範囲外であるか、または正常の高値側である場合には、血液パラメーターが自然にまたは治療的介入によって正常または許容されるレベルに戻るまで、ポリペプチドの投与の開始を遅らせることができる。例えば、候補患者が高血圧または前高血圧である場合には、患者の血圧を降下させるために、患者を降圧剤で処置することができる。例えば、利尿薬、アドレナリン作用阻害剤(アルファ遮断薬およびベータ遮断薬を含む)、血管拡張薬、カルシウムチャネル遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、またはアンジオテンシンII受容体遮断薬を含めた、個々の患者の状態に適する任意の降圧剤を使用することができる。あるいは、血圧は、食事および運動レジメンを使用して処置することができる。同様に、候補患者の鉄貯蔵が正常よりも低いか、または正常の低値側である場合には、患者の鉄貯蔵が正常または許容されるレベルに戻るまで、患者を、適切な食事および/または鉄補給剤のレジメンで処置することができる。赤血球レベルおよび/またはヘモグロビンレベルが正常よりも高い患者については、レベルが正常または許容されるレベルに戻るまでGDF15ポリペプチドの投与を遅らせることができる。
ある特定の実施形態では、GDF15ポリペプチドによる処置を受ける候補である患者において、1つまたは複数の血液パラメーターが、正常範囲外であるか、または正常の高値側である場合には、投与の開始を遅らせることができる。しかし、GDF15ポリペプチドの投薬の投薬量または頻度は、GDF15ポリペプチドを投与した際に血液パラメーターの許容されない上昇が生じる危険性を低下させる量に設定することができる。あるいは、GDF15ポリペプチドと血液パラメーターの望ましくないレベルに対処する治療剤とを組み合わせる治療レジメンを患者のために開発することができる。例えば、患者の血圧が上昇しているか、またはGDF15ポリペプチドにより血圧の上昇が引き起こされると思われる場合には、GDF15ポリペプチドおよび降圧剤の投与を含む治療レジメンをデザインすることができる。鉄貯蔵が所望よりも低い患者については、GDF15ポリペプチドおよび鉄補給の治療レジメンを開発することができる。
一実施形態では、GDF15ポリペプチドによる処置を受ける候補である患者について、1つまたは複数の血液パラメーターについてのベースラインパラメーター(複数可)を確立することができ、ベースライン値(複数可)に基づいて、その患者に対する適切な投薬レジメンを確立することができる。あるいは、患者の病歴に基づいて確立されたベースラインパラメーターを使用して、患者に対するGDF15ポリペプチドの適切な投薬レジメンを通知することができる。例えば、健康な患者の確立されたベースライン血圧読み取りが定義された正常範囲を超えている場合、GDF15ポリペプチドによる処置の前に患者の血圧を、一般的な集団について正常と考えられる範囲内にもってくる必要はない場合がある。GDF15ポリペプチドによる処置前の1つまたは複数の血液パラメーターについての患者のベースライン値を、GDF15ポリペプチドによる処置中の血液パラメーターのあらゆる変化をモニターするための関連する比較値として使用することもできる。
ある特定の実施形態では、GDF15ポリペプチドによる治療を受ける患者において1つまたは複数の血液パラメーターを測定する。血液パラメーターは、処置中に患者をモニターするために使用することができ、GDF15ポリペプチドの投薬の調整もしくは終了または別の治療剤のさらなる投薬を可能にする。例えば、GDF15ポリペプチドの投与により、血圧、赤血球レベル、もしくはヘモグロビンレベルの上昇、または鉄貯蔵の減少が生じた場合には、GDF15ポリペプチドの1つまたは複数の血液パラメーターに対する影響を低減するために、GDF15ポリペプチドの用量について、量または頻度を減少させることができる。GDF15ポリペプチドの投与により患者にとって有害な1つまたは複数の血液パラメーターの変化が生じた場合には、GDF15ポリペプチドの投薬を、血液パラメーター(複数可)が許容されるレベルに戻るまで、一時的にまたは恒久的に終了することができる。同様に、GDF15ポリペプチドの投与の用量または頻度を減らした後に1つまたは複数の血液パラメーターが許容される範囲内に入らなかった場合には、投薬を終了することができる。GDF15ポリペプチドの投薬の減少または終了の代わりに、またはそれに加えて、患者に、血液パラメーター(複数可)の望ましくないレベルに対処するさらなる治療剤、例えば、降圧剤または鉄補給剤などを投薬することができる。例えば、GDF15ポリペプチドによる処置を受けている患者の血圧が上昇している場合には、GDF15ポリペプチドの投薬を同じレベルで継続することができ、かつ、降圧剤を治療レジメンに追加することができる;GDF15ポリペプチドの投薬(例えば、量および/または頻度)を減らすことができ、かつ、降圧剤を治療レジメンに追加することができる;またはGDF15ポリペプチドの投薬を終了することができ、かつ、患者を降圧剤で処置することができる。
4.医薬調製物
ある特定の実施形態では、本発明のGDF15ポリペプチドは、薬学的に許容されるキャリアと共に製剤化する。例えば、GDF15ポリペプチドは、単独でまたは医薬調製物の成分として投与することができる。対象の化合物は、ヒト医学または獣医学において使用するための、任意の都合のよいやり方での投与用に製剤化することができる。上記の通り、GDF15ポリペプチドは、プロドメインポリペプチドを含む製剤として調製することが望ましい場合がある。
ある特定の実施形態では、本発明の治療方法は、調製物を、全身にまたは局部的に、埋没物またはデバイスとして投与することを含む。投与する場合、本発明において使用するための医薬調製物は、当然、パイロジェンフリーの、生理的に許容される形態である。上記の通り任意選択で調製物に同様に含めることができるGDF15ポリペプチド以外の治療的に有用な薬剤は、主題のGDF15ポリペプチドと同時にまたは逐次的に投与することができる。
典型的には、化合物は、非経口的に投与される。非経口投与に適した医薬調製物は、1種または複数種のGDF15ポリペプチドを、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、意図されたレシピエントの血液との等張性を製剤に与える溶質または懸濁剤または増粘剤を含有し得る、1種または複数種の薬学的に許容される滅菌等張性水溶液もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液もしくはエマルション、または、使用する直前に滅菌注射用溶液もしくは分散液中に再構成することができる滅菌粉末(例えば、凍結乾燥物)と組み合わせて含み得る。本発明の医薬組成物に利用することができる適切な水性キャリアおよび非水性キャリアの例としては、水、糖、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、および適切なそれらの混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。
さらに、調製物は、封入または注入して、標的組織部位に送達するための形態にすることができる。ある特定の実施形態では、本発明の調製物は、1つまたは複数の治療用化合物(例えば、GDF15ポリペプチド)を標的組織部位送達すること、発達している組織のための構造をもたらすことが可能であり、最適には体内への再吸収が可能であるマトリックスを含み得る。例えば、マトリックスにより、GDF15ポリペプチドの緩慢な放出をもたらすことができる。そのようなマトリックスは、他の埋め込みでの医学的適用に現在使用されている材料で形成されたものであり得る。
マトリックス材料の選択は、生体適合性、生分解性、機械的特性、美容的外観および界面特性に基づく。主題の組成物の特定の適用により、適切な製剤が定義される。組成物のための潜在的なマトリックスは、生分解性であり、化学的に定義された硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ポリ乳酸およびポリ酸無水物であり得る。他の潜在的な材料は、骨または皮膚のコラーゲンなど、生分解性であり、かつ生物学的に明確に定義される。別のマトリックスは、純粋なタンパク質または細胞外マトリックス成分で構成される。他の潜在的なマトリックスは、焼結したヒドロキシアパタイト、バイオガラス、アルミネート、または他のセラミックスなど、非生分解性であり、化学的に定義される。マトリックスは、ポリ乳酸とヒドロキシアパタイトまたはコラーゲンとリン酸三カルシウムなど、上記の型の材料のいずれかの組合せで構成され得る。バイオセラミックスは、カルシウム−アルミネート−ホスフェートなどの組成を変更し、また、孔径、粒子サイズ、粒子の形状、および生分解性を変更するために加工することができる。
投薬レジメンは、主治医により、GDF15ポリペプチドの作用を改変する様々な因子を考慮して決定されることが理解される。様々な因子としては、これだけに限定されないが、患者の赤血球計数、ヘモグロビンレベル、収縮期血圧もしくは拡張期血圧または他の診断的評価、所望の目標の赤血球計数、患者の年齢、性別、および食事、赤血球レベルの低下に寄与し得るあらゆる疾患の重症度、投与時間、ならびに他の臨床的因子が挙げられる。最終組成物への他の公知の成長因子の添加も、投薬量に影響を及ぼし得る。進行は、赤血球レベルおよびヘモグロビンレベルの周期的な評価、ならびに網状赤血球レベルおよび造血プロセスの他の指標の評価によってモニターすることができる。
ある特定の実施形態では、本発明は、GDF15ポリペプチドをインビボにおいて産生させるための遺伝子療法も提供する。そのような療法では、上で列挙した障害を有する細胞または組織内にGDF15ポリヌクレオチド配列を導入することによってその治療効果を達成する。GDF15ポリヌクレオチド配列の送達は、キメラウイルスなどの組換え発現ベクターまたはコロイド分散系を使用して達成することができる。治療用GDF15ポリヌクレオチド配列の送達に好ましいのは、標的化リポソームの使用である。
本明細書中で教示されるような遺伝子治療に利用され得る種々のウイルスベクターとしては、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、または、RNAウイルス、例えば、レトロウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、マウスもしくはトリのレトロウイルスの誘導体であり得る。単一の外来遺伝子が挿入され得るレトロウイルスベクターの例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、ハーベーマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺癌ウイルス(MuMTV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)。多数のさらなるレトロウイルスベクターが多数の遺伝子を組み込み得る。これらのベクターは全て、形質導入された細胞が同定および生成され得るように、選択マーカーについての遺伝子を移送または組み込み得る。レトロウイルスベクターは、例えば、糖、糖脂質またはタンパク質を付着させることによって、標的特異的とされ得る。好ましい標的化は、抗体を用いて達成される。当業者は、GDF15ポリペプチドを含むレトロウイルスベクターの標的特異的な送達を可能にするために、特定のポリヌクレオチド配列がレトロウイルスゲノム中に挿入され得るか、または、ウイルスエンベロープに付着され得ることを認識する。
本発明は、ここで、一般的に記載されるが、単に特定の実施形態および本発明の実施形態を例示する目的のために含められ、本発明を限定することは意図されない以下の実施例を参照するとより容易に理解される。
(実施例1)
生物活性のあるGDF15ポリペプチドの生成
本出願者らは、生物活性のあるネイティブな組換えGDF15を生成するための方法体系を以前に開示し、このタンパク質を使用して、GDF15がそれを通じてシグナル伝達を行うI型受容体およびII型受容体を同定した(米国特許出願第14/465,182号)。
CHO細胞におけるGDF15の安定発現
本出願者らは、さらなる試験のために、CHO細胞を使用して成熟ヒトGDF15(hGDF15)およびマウスGDF15(mGDF15)を発現させた。ヒトGDF15前駆体タンパク質(配列番号13)またはマウスGDF15前駆体タンパク質(配列番号14)をコードする、UCOE(商標)ベースの構築物をCHO−PACE細胞株に安定にトランスフェクトした。10nM、20nM、および50nMのメトトレキサートレベルでクローンを選択し、次いで、コロニーを形成した任意のクローン(メトトレキサート濃度ごとに1つまたは2つ)をプールした。UCOE(商標)プールは、発現の安定性を維持しながら増幅するのは難しいので遺伝子増幅は実施しなかった。希釈クローニングの代わりに、高発現プールを同定し、hGDF15およびmGDF15を生成するために使用した。
ヒトGDF15の精製
精製を開始するために、hGDF15を安定に発現するCHO細胞からの馴化培地を酢酸によりpH4.7に調整した。培地を周囲温度で10分間インキュベートした後、遠心分離によって沈殿物を除去した。上清を0.8μmの使い捨てフィルターにより濾過した。SP Sepharose(商標)Fast Flow column(GE Healthcare)を緩衝液A(20mMの酢酸ナトリウム、pH4.7)および緩衝液B(20mMの酢酸ナトリウム、1MのNaCl、pH4.7)により平衡化した。ローディングを100cm/時間で実施した。カラムからタンパク質が溶出しなくなるまで、カラムを20%B(200mMのNaCl)で洗浄し、次いで、0%Bに戻して洗浄していかなる残留塩も除去した。タンパク質を、50mMのトリス、6Mの尿素、pH8.0を用いてカラムからタンパク質が溶出しなくなるまで溶出し(トリス−尿素プール)、その後、50mMのトリス、6Mの尿素、1MのNaCl、pH8.0を用いて溶出した(トリス−尿素−塩プール)。各プールを50mMの4−モルホリノエタンスルホン酸(morpholineethanesulfonic acid)(MES、pH6.5)中、4℃で一晩透析した。
トリス−尿素−塩プール中に見いだされたGDF15は、ウエスタンブロット分析に基づくと分解しており、したがって、このプールは廃棄した。トリス−尿素プールを、緩衝液A(50mMのMES、pH6.5)および緩衝液B(50mMのMES、1MのNaCl、pH6.5)で予め平衡化したQ Sepharose(商標)Fast Flowカラム(GE Healthcare)にローディングした。フロースルーを回収し、カラムを10%B(100mMのNaCl)、その後、10〜50%B勾配(100〜500mMのNaCl)を用い、5カラム体積にわたって120cm/時間で洗浄した。フロースルーおよび洗浄画分をウエスタンブロットによって評価した後、タンパク質は、主にフロースルー中に見いだされた。フロースルーを、HPLCに接続した逆相分取C4カラム(Vydac)に注入し、緩衝液A(水/0.1%TFA)および緩衝液B(アセトニトリル/0.1%TFA)で洗浄した。毎分4.5mLで1時間にわたる25〜40%B勾配で最良の分解能がもたらされた。回収した画分をSDS−PAGEゲル(Sypro Ruby)およびウエスタンブロットにより評価して、遠心エバポレーターで濃縮する画分を選択した。
マウスGDF15の精製
馴化培地を酢酸によりpH4.7に調整した。培地を周囲温度で10分間インキュベートした後、遠心分離によって沈殿物を除去した。上清を0.8μmの使い捨てフィルターにより濾過した。SP Sepharose(商標)Fast Flow column(GE Healthcare)を緩衝液A(20mMの酢酸ナトリウム、pH4.7)および緩衝液B(20mMの酢酸ナトリウム、1MのNaCl、pH4.7)により平衡化した。ローディングを100〜150cm/時間で実施し、カラムからタンパク質が溶出しなくなるまで、カラムを緩衝液Aで洗浄した。UVトレースに基づいて、カラムからタンパク質が溶出しなくなるまで、カラムを50mMのMES、pH6.0で洗浄した。次いで、50mMのMES、600mMのNaCl、pH6.0を用い、5〜6カラム体積にわたってタンパク質を溶出した。カラムを50mMのMES、1MのNaCl、pH6.0で洗浄し、次いで、50mMのトリス、1MのNaCl、pH8.0で洗浄した。ウエスタンブロットにより、トリス−溶出画分中に一部のタンパク質が見いだされたが、以前の実験からこれらの画分中に見出されるmGDF15は基本的に不活性であることが示されているので、さらなる精製には使用しなかった。その代わりに、600mMのNaCl、pH6.0を用いて溶出されたタンパク質を使用して精製を継続した。このプールをHPLCに接続した逆相分取C4カラム(Vydac)に注入した。緩衝液Aは水/0.1%TFA、緩衝液Bはアセトニトリル/0.1%TFAであった。タンパク質を、25〜40%B勾配を用い、毎分4.5mLで1時間にわたって溶出した。逆相カラム画分をSDS−PAGEゲル(Sypro Ruby)およびウエスタンブロットによって評価した後、純粋なmGDF15を含有する画分をプールし、遠心エバポレーターで濃縮した。
配列確認および生物活性
精製された組換えGDF15ポリペプチドの同一性をN末端配列決定によって確認した。成熟組換えmGDF15は、全長形態(配列番号11)およびN’Δ4短縮形態(配列番号12)として精製され得る。成熟組換えhGDF15は全長形態(配列番号3)ならびにN’Δ2短縮形態(配列番号4)で精製されており、本出願者らは、mGDF15のN’Δ4短縮形態と類似したhGDF15のN’Δ4短縮形態(例えば、配列番号8)を想定する。
(実施例2)
野生型マウスにおける組換えGDF15投与の赤血球指標に対する効果
GDF15の循環レベルは、βサラセミアにおいてなど、無効赤血球生成によって特徴付けられるヒト貧血において著しく上昇する(Tannoら、2007年、Nat Med、13巻:1096〜1101頁)。しかし、研究試験のための生物活性のあるGDF15の利用可能性が限られていること、およびGDF15シグナル伝達経路に関する不確実性に起因して、そのような疾患における内在性GDF15の役割は不明なままである。実施例1に記載の通り生成および精製した生物活性のあるネイティブなGDF15を用いて、本出願者らは、野生型マウスにおける定常状態の赤血球生成条件の間の、GDF15による処置の赤血球数、ヘモグロビン濃度、およびヘマトクリットに対する効果を調査した。本実験では、成体C57BL/6マウスを、組換えマウスGDF15(0.3mg/kg)またはビヒクル(トリス緩衝食塩水)を腹腔内に用いて1日おきに3週間にわたって処置し、その時点で、全血球計算(CBC)による分析のために尾静脈を介して血液試料を取得した。ビヒクルと比較して、この用量レベルおよび頻度でのGDF15による処置により、赤血球数、ヘモグロビン濃度、およびヘマトクリットの、およそ6%から9.5%の間の統計的に有意な増大が引き起こされた(図2)。GDF15による処置の白血球または他の血液パラメーターに対する実質的な効果はなく、したがって、赤血球系系列(erythroid lineage)の細胞に対する選択的効果の証拠がもたらされた。これらの結果は、組換えのネイティブなGDF15の持続的投与により、エリスロサイト数、ヘモグロビン濃度、およびヘマトクリットによって測定される、インビボにおける赤血球の循環レベルを上昇させることができることを示すものである。
(実施例3)
GDF15による処置は、エクスビボにおける赤血球系前駆体からの赤血球の形成を急速に促進する
実施例2に記載の持続的なGDF15による処置の赤血球指標に対する効果は、理論的に、赤血球の形成の増大以外の因子によって、例えば、既に循環している赤血球の寿命が増すことによって、または、血漿体積の減少によって媒介される可能性がある。したがって、本出願者らは、組換えのネイティブなGDF15により直接赤血球の形成を増大させることができるかどうかを調査した。
赤血球系前駆細胞を、Jackson Labsから入手した野生型マウス胚(胚齢12日)の肝臓から単離した。肝組織を機械的粉砕に供し、得られた細胞懸濁液を、300μmのメッシュを通過させた。次いで、肝臓細胞を、Ter119、CD3e、CD11b、CD45R、Ly−6C、およびLy−6Gに対するビオチン化抗体のパネル(Biotin Mouse Lineage Panel、BD Pharmingen、#559971)と共にインキュベートして、Easy Sep Cell Isolation kit(Stem Cell Technologies)を用いた成熟赤血球系細胞(Ter119+)ならびに赤血球系系列でない細胞(CD3e+など)の選択的な排除を可能にした。次いで、残りの初期の赤血球系前駆細胞[主にコロニー形成単位、赤血球系(CFU−E)の段階にあるもの]を、分化を可能にするが促進はしない最適以下の増殖培地:2U/mlのEPO、10ng/mlのSCF、40ng/mlのIGF−1、200μg/mlのホロトランスフェリン、および100μMのβ−メルカプトエタノールを補充したStemPro34培地(Life Technologies)で培養した。
精製した赤血球系前駆体をこの増殖培地中、組換えマウスGDF15を伴って、または伴わずに培養した。24時間処置した前駆体を検査したところ、GDF15(50ng/ml)で処置した前駆体は、増殖培地のみに曝露した同じ数の前駆体細胞から形成された細胞ペレットよりもはるかに明るい赤色の細胞ペレットを形成したことが明らかであった(図3)。赤色の強度は、エリスロサイト成熟度の機能的なマーカーである細胞のヘモグロビンレベルに対応する。その後の、24時間または48時間の処置後のフローサイトメトリーによるこれらの細胞の分析から、Ter119免疫染色の強度の増大によって、および細胞サイズの縮小によって決定される通り(データは示していない)、GDF15が成熟赤芽球の数を有意に増加させることが確認された。赤芽球分化が進行するにしたがい、Ter119レベルが進行性に上昇し、赤芽球サイズが進行性に縮小することが十分に確立された。まとめると、これらの所見は、組換えGDF15が、エクスビボにおいて赤血球系前駆細胞からの赤血球の形成を急速にかつ直接促進できることを示す。
(実施例4)
ストレスによる赤血球生成のマウスモデルにおけるGDF15とEPOの相乗効果
貧血によって生じる組織低酸素症は、組織への酸素送達を増大させる生理的ストレス応答の活性化を引き起こす。この応答はEPOに依存するが、定常状態の赤血球生成とは機構が異なると考えられ、したがって、「ストレスによる赤血球生成」と称される(Paulsonら、2011年、Curr Opin Hematol、18巻:139〜145頁)。マウスモデルにおけるGDF15の赤血球指標に対する効果を調査するために、成体C57BL/6野生型マウスを、1日目にEPO(1800U/kg、i.v.)またはビヒクル(TBS)を用いて前処置してストレスによる赤血球生成を誘導した。次いで、これらのマウスを組換えマウスGDF15(1mg/kg、i.v.)またはビヒクル(TBS)を用いて、2日目および3日目に日ごと処置し、4日目に、全血球計算による分析のために血液を回収した。この実験の3日間の時間枠の中で、EPOもGDF15も単独ではヘモグロビン濃度をビヒクルと比較して有意に上昇させなかったが、この2つの剤を用いた併用処置ではヘモグロビン濃度の有意な上昇がもたらされ、これは予想外に相乗的であった、すなわち、それらの個々の効果の合計よりも大きかった(図4)。この型の相乗作用は、一般に、個々の剤が異なる細胞機構によって作用することの証拠とみなされる。特に、野生型マウスをEPO単独で24時間処置すると、赤血球生成組織(骨髄)において、ビヒクルと比較して10倍を超えるGDF15 mRNAレベルの一過性の上昇が引き起こされた(データは示していない)。他の所見(以下を参照されたい)と合わせて、これらの結果は、GDF15が、EPOによる赤血球生成刺激の内在性メディエーターであり、したがって、外因性GDF15ポリペプチドの赤血球形成を促進する能力の根本的な基礎を提供することを示唆する。
(実施例5)
内在性GDF15は、マウスにおける失血による貧血からの回復に関与した
本出願者らは、EPO受容体活性化因子の投与を必要としない、ストレスによる赤血球生成の生理的形態である急性失血による貧血の条件下で赤血球生成組織におけるGDF15発現を調査した。失血による貧血を誘導するために、成体C57BL/6野生型マウスに、3日連続して、等体積の食塩水による置き換え(i.p)を伴って瀉血した(毎日400μl)(Ramosら、2011年、Blood、117巻:1379〜1389頁)。試験終了時に骨髄、脾臓、全血、および血清を回収した。Life Technologies製のRiboPure Kitを使用して骨髄および脾臓からRNAを単離した。RT−PCR反応物は、iScript cDNA合成キットにより生成されたインプットcDNAを100ng含有し、RT−PCRは、Bio−Radから購入したiTaq Universal Probes Supermixを使用して実施した。対照(出血させていないマウス)と比較して、血液除去は、瀉血の完了後12時間および24時間の時点で(骨髄と脾臓の両方)、および48時間の時点で(脾臓のみ)、GDF15 mRNAの有意なレベルの上昇を引き起こした(図5A〜B)。これらの結果は、ストレスによる赤血球生成の生理的に関連するモデルにおいて、失血により、赤血球生成組織におけるGDF15 mRNAレベルが一過性に上方制御されることを示すものである。
次に、インビボにおいて、瀉血したマウスにおけるGDF15発現の前述の変化に赤血球系前駆体の数の変更が伴うかどうかを決定した。標準の方法に従って実施したフローサイトメトリーによって決定された通り、失血による貧血を有するマウスの脾臓におけるTer119+赤血球前駆体の数が、瀉血の24時間後に、出血させていない対照と比較して有意に増加し、したがって、失血により、より成熟した細胞への集団シフトが誘発されることが確認された(図5C)。予測通り、脾臓重量もまた、瀉血の24時間後までに2倍超になり(データは示していない)、これは、ストレスによる赤血球生成の間に赤血球系前駆体の数が増加したことを反映していた。これらの結果は、マウスにおける失血に応答した赤血球前駆体集団の増大および分化の前および/またはその間に、赤血球系組織においてGDF15 mRNAレベルのスパイクが起こることを示す。外因性GDF15の、エクスビボにおいて赤血球形成を促進する能力を考慮すると、これらの結果は、GDF15が、インビボにおいて低酸素条件下で赤血球の形成を促進する誘導性赤血球系シグナル(erythroid signal)であることを強力に示唆する。
要約すると、前述の結果は、GDF15ポリペプチドによる処置により、エクスビボにおいて赤血球形成を促進できること(実施例3)、およびインビボにおいて、定常状態の赤血球生成の条件下(実施例2)またはストレスによる赤血球生成の条件下(実施例4)で赤血球指標を増大できることを示す。さらに、本明細書で開示される結果は、GDF15を、急性失血による貧血によって誘発される、赤血球産生を促進する内在性赤血球生成シグナルとして関連づける(実施例5)。したがって、GDF15ポリペプチドは、種々の型の貧血および赤血球およびヘモグロビンの増大を必要とする他の状態を有する患者における赤血球数、ヘモグロビン濃度、および/またはヘマトクリットを増大させるために有用であり得る。GDF15ポリペプチドとEPO受容体活性化因子を用いた併用処置の効果は、GDF15ポリペプチドとEPO受容体活性化因子とをそれらのそれぞれの用量で別々に投与した場合の効果の合計よりも大きくなり得る。ある特定の実施形態では、この相乗作用は、EPO受容体活性化因子のより低い用量で目標の赤血球レベルまたはヘモグロビン濃度を達成することを可能にし、それにより、EPO受容体活性化のレベルが高いことと関連する潜在的な有害作用または他の問題が回避されるので、有利であり得る。
参照による組み込み
本明細書において言及されている全ての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許のそれぞれが、具体的にかつ個別に、参照により組み込まれることが示されたかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
主題の特定の実施形態が考察されているが、上記の明細書は例示的なものであり、限定的なものではない。本明細書および以下の特許請求の範囲を精査すれば、多くの変形が当業者には明らかになると予想される。本発明の全範囲は、特許請求の範囲を均等物の全範囲と共に、明細書をそのような変形と共に参照することによって決定されるものとする。