JP2017500590A - 乳がんの予後診断方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本出願は、それぞれ参照により本明細書に組み込んだ2014年9月29日出願の米国特許出願第14/501020号および2013年12月6日出願の米国特許出願第14/099529号のパリ条約に基づく優先権を主張する。本出願はまた、米国特許法第119条の下で2010年5月4日に出願された米国特許出願第61/330966号および2010年5月7日に出願された米国特許仮出願第61/332358号の優先権の利益を主張する2011年5月4日に出願された米国特許出願第13/100949号の一部継続出願である2013年12月6日に出願された米国特許出願第14/099529号の一部継続出願である2014年9月29日に出願された米国特許出願第14/501020号の継続出願である。前記出願はそれぞれ、その全体が記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる。
本発明の記載は一般的に、がんを予後診断する分野に関する。より詳細には、本記載は乳がんを予後診断するための方法およびキットに関する。
乳がんの予後診断で使用するための方法およびキットが所望される。
第1の態様の1実施形態では、対照が非進行性乳がん試料中の核Ep−ICDの量であるならば、核Ep−ICDの測定量がより高いことは予後不良であることを示し、核Ep−ICDの測定量が等しいかもしくはより低いことは予後良好であることを示し、または対照が進行性乳がん試料中の核Ep−ICDの量であるならば、核Ep−ICDの測定量が等しいかもしくはより高いことは予後不良であることを示す。
1つの好ましい実施形態では、非進行性乳がん試料は、核Ep−ICD量の測定後少なくとも40カ月間疾患の進行がないことが知られている。1つの好ましい実施形態では、進行性乳がん試料は、核Ep−ICD量の測定後約5年未満疾患が進行することが知られている。1つの好ましい実施形態では、予後不良は、5年未満の無病生存期間を含む。1つの好ましい実施形態では、無病生存期間は、約41カ月以下である。1つの好ましい実施形態では、予後良好は、少なくとも約5年の無病生存期間を含む。
第1の態様の1実施形態では、予後診断される乳がんは、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、浸潤性粘液性癌、腺管上皮内癌または上皮内小葉癌である。
第1の態様の1実施形態では、核Ep−ICDの測定量は、定量的および定性的量の1つまたは複数である。1つの好ましい実施形態では、定量的量は、生体試料中の核Ep−ICD陽性である細胞の割合(percent)または核Ep−ICDの絶対量である。1つの好ましい実施形態では、定性的量は、核Ep−ICDを示す表示によって放出されるシグナルの強度である。
第1の態様の1実施形態では、方法は、核Ep−ICDおよび細胞質Ep−ICDの定量的および定性的スコアを決定することをさらに含み、定量的および定性的な核および細胞質Ep−ICDスコアの増加は乳がんの予後不良と関連する。
第1の態様の好ましい1実施形態では、方法は、試料のEp−ICD細胞内局在係数(ESLI)値を計算することであって、ESLI値が核Ep−ICD全スコアおよび細胞質Ep−ICD全スコアの合計を2で除したものであること、計算したESLI値を参考値と比較することであって、参考値は(i)非進行性乳がんを示すESLI値または(ii)進行性乳がんを示すESLI値であること、ならびに試料の計算したESLI値が(i)の参考値を上回るか、または(ii)の参考値を上回るか等しいとき、対象の乳がんは予後不良であることを決定することをさらに含む。
第1の態様の好ましい1実施形態では、定量的量は免疫組織化学的(IHC)分析を使用して得られる。好ましい1実施形態では、定性的量は免疫組織化学的(IHC)分析を使用して得られる。
第1の態様の好ましい1実施形態では、第1のスケールは、以下のスコアを含む:スコア0は10%未満の細胞が陽性のとき割り当てられ、スコア1は細胞の10〜30%が陽性のとき割り当てられ、スコア2は31〜50%の細胞が陽性のとき割り当てられ、スコア3は51〜70%の細胞が陽性のとき割り当てられ、スコア4は細胞の70%超が陽性のとき割り当てられ、第2のスケールは、以下のスコアを含む:スコア0はシグナルが検出されないときに割り当てられ、スコア1は軽度のシグナルが検出されるとき割り当てられ、スコア2は中程度のシグナルが検出されるとき割り当てられ、スコア3は強いシグナルが検出されるときに割り当てられる。1つの好ましい実施形態では、非進行性乳がんを示すESLI値は3未満で、進行性乳がんを示すESLI値は3以上である。
本発明のその他の目的、特性および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかし、本発明の精神および範囲内の様々な変化および改変がこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すが例示のためのみに挙げられていることを理解されたい。
本発明はここで、図面に関連して説明する。
定義
本明細書では「EpCAM」という用語は、配列番号1(配列番号1はジェンバンク受け入れ番号NP_002345に対応する)で記載したアミノ酸配列を有する上皮細胞接着分子を意味する。EpCAMは、アミノ酸265個の長さ(配列番号1のアミノ酸1〜265)の本明細書で「EpEx」と称する細胞外ドメイン、アミノ酸23個の長さ(配列番号1のアミノ酸266〜288)の1個の膜貫通ドメインおよびアミノ酸26個の長さ(配列番号1のアミノ酸289〜314)の本明細書で「Ep−ICD」と称する細胞内ドメインを含む。
本明細書では「スコア」という用語は、結果に対して与えられた評点または等級を意味し、この評点または等級は結果の最小および最大の可能性のあるスコアを含むスケールで測定される。
本明細書では「アルゴリズム」および「ESLIアルゴリズム」という用語は、値(すなわち、Ep−ICD細胞内局在係数「ESLI」値)を決定することによってEp−ICD細胞内発現を数値的に特徴付けるための数学式を意味する。アルゴリズムは本明細書でさらに定義する。
本明細書で説明したように、本発明者らは、予後不良の乳がん患者は予後良好な乳がん患者よりもEp−ICDの量が増加した、特に核Ep−ICDが増加した乳房組織を有することを発見した。Ep−ICDの細胞内局在を検出、測定、採点および評価することの1つまたは複数を含む乳がんを予後診断する方法を以下にさらに論じる。1態様では、本発明は、予後を定量するための数値評点法を提供し、このような評点法は本明細書ではEp−ICD細胞内局在係数(ESLI)と称する。乳がんを予後診断する上でのESLI値の使用を以下にさらに論じる。
本開示は一般的に、対象におけるがん、特に乳がんを予後診断する方法を対象とする。本明細書で患者とも呼ばれる対象は、乳がんに罹患した、乳がんを有することが疑われる、乳がんに罹患しやすいリスクがある、または乳がん検査を受けたほ乳類であってもよい。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
1実施形態では、核および/または細胞質Ep−ICDの量は、対象の生体試料において測定する。生体試料は、乳房上皮細胞を含む。好ましい実施形態では、生体試料は乳房組織を含む。特に好ましい実施形態では、生体試料は、乳がん腫瘍細胞、例えば、病期Iおよび/またはIIの乳がん腫瘍細胞を含む。
前記で論じた抗体を複合体化または標識する方法は、当業者によって容易に遂行することができる。
Ep−ICDおよび/またはEpExの定量的および/または定性的測定は自動であってもよく、または手動で実施してもよい。
スコアを核および細胞質Ep−ICDの定量的および定性的測定に割り当てるEp−ICDの手動による定量的および定性的測定の一例を以下にさらに説明する。
1実施形態では、対照は、非進行性がん性生体試料、例えば、非進行性がん性乳房組織または非進行性がん性乳房上皮細胞を含む試料における核Ep−ICDの量である。この場合、生体試料中で検出された核Ep−ICDの量が対照よりも高いことは乳がんが予後不良であることを示し、生体試料中で検出された核Ep−ICDの量が対照と等しいかまたはより低いことは予後良好であることを示す。例えば、1つの好ましい実施形態では、対照は対照量の測定後少なくとも40カ月間乳がんは進行しないことが知られている生体試料中の核Ep−ICDの量である。この実施形態では、生体試料中で検出された核Ep−ICDの量が対照よりも高いことは予後不良であることを示し、生体試料中で検出された核Ep−ICDの量が対照と等しいかより低いことは予後良好であることを示す。
1実施形態では、本明細書で提供した方法を使用して予後診断される乳がんは、浸潤性乳管癌(IDC)、浸潤性小葉癌(ILC)、浸潤性粘液性癌(IMC)、腺管上皮内癌(DCIS)または上皮内小葉癌(LCIS)である。
実施形態の1態様では、この方法は対象から得られた試料のEp−ICD細胞内局在係数(ESLI)値を計算するステップをさらに含んでいてもよい。以下でさらに論じるように、ESLI値は対象における乳がんを予後診断する特有な定量的手段となる。
本発明者らは、i)健康な乳房および様々な病期の乳がんを有する対象の試料中のEp−ICDの細胞内局在を調べること、ii)乳がん患者におけるEp−ICD細胞内局在とDFS時間との間の関連を決定すること、iii)Ep−ICDの細胞内局在の定量的および定性的測定の両方が有用な予後診断情報を提供したと決定すること、iv)予後診断的に重要な値を計算するために定量的および定性的データを使用するアルゴリズムを作製すること、ならびにv)アルゴリズムで使用するためのスケールおよび式を作製することであって、このスケールは、定量的および定性的データを採点し、定量的および定性的データに互いに重み付けするために適切であることによってESLIアルゴリズムを開発した。特に好ましい実施形態では、乳房組織試料中のEp−ICD細胞内局在に関する定量的および定性的データを収集すること、ESLIアルゴリズムを収集したデータに適用して試料のESLI値を生成すること、試料のESLI値を参考値と比較することを組み合わせると、対象における乳がんの予後診断が容易になる。特に好ましい実施形態では、定量的および定性的データはIHC用に調製した組織試料から収集する。
ESLI値を計算するために、定量的および定性的な核Ep−ICDおよび細胞質Ep−ICDスコアを対象から得られた乳房組織試料について決定する。乳房組織試料は細胞(例えば、上皮細胞)を含み、このような細胞はそれぞれ核および細胞質を有する。
1実施形態では、定量的および定性的な核Ep−ICDおよび細胞質Ep−ICDスコアの決定は手動で行い、以下の4つのステップを含む。
(ii)Ep−ICDの細胞内局在は定量的に測定し、(a)核および(b)細胞質中のEp−ICDが陽性である細胞の組織試料中の割合に基づいて採点する。核Ep−ICD発現が陽性である細胞の組織試料中の割合を「第1の割合」と称する。次に、割合の範囲と整数値を関連づけるスケールに従って第1の割合にスコアを割り当てる。このようなスコアおよびスケールは、「第1の定量的スコア」および「第1のスケール」と称する。細胞質Ep−ICD発現が陽性である細胞の測定した組織試料中の割合を「第2の割合」と称する。次に、第1のスケールに従って第2の割合に「第2の定量的スコア」を割り当てる。
1実施形態では、第1および第2の割合はIHCを使用して獲得し、核および/または細胞質Ep−ICDが陽性の細胞は免疫陽性の細胞(すなわち、顕微鏡検査で検出可能で、試料のIHCで使用したEp−ICD特異的抗体を示す染色または蛍光を含む細胞)である。
第1の態様では、第1の強度(すなわち、核Ep−ICD結合剤シグナル放出の分類評価)および第2の強度(すなわち、細胞質Ep−ICD結合剤シグナル放射の分類評価)は、以下の第2のスケールに従って採点する:シグナルがないときはスコア0を割り当て、軽度のシグナルが検出されたときはスコア1を割り当て、中程度のシグナルが検出されたときはスコア2を割り当て、強いシグナルが検出されたときはスコア3を割り当てる。その他の様々な尺度法も使用してもよい。
(iv)核Ep−ICD全スコアおよび細胞質Ep−ICD全スコアは、核Ep−ICD全スコアを生成するために第1の定量的および定性的スコアを加算すること、および細胞質Ep−ICD全スコアを生成するために第2の定量的および定性的スコアを加算することによって計算する。
次に、対象における乳がんの予後を決定するために、計算したESLI値を参考値と比較する。参考値は、予め決定されたカットオフ値で、カットオフ値の片側の値は乳がんの予後不良を示し、カットオフ値のもう一方の側の値は乳がんの予後良好を示す。
1実施形態では、参考値は進行性乳がんを示すESLI値である。例えば、試料は進行性乳房腫瘍組織から得ることができる。この実施形態では、試料のESLI計算値が参考値を上回るかまたは等しいときに、対象における乳がんの予後不良を決定する。
好ましい実施形態では、参考値は複数の乳がん患者の組織試料を遡及的に分析し、DFSの時間に関する患者の臨床データを対応させることによって決定する。
1実施形態では、対象から得られた乳房組織試料中のEp−ICDの異常な細胞内局在の検出方法を提供する。1態様では、この方法は、対象の生体試料中の核Ep−ICDの量を測定すること、生体試料中で検出された量と対照とを比較することを含み、乳房組織試料中のEp−ICDの異常な細胞内局在の検出は核Ep−ICDの検出量と対照との間の比較に基づいて行われる。測定は、本明細書で記載したように定量的および/または定性的であってもよい。対照は、本明細書で記載したように非進行性または進行性乳がんであってもよい。乳房組織試料中のEp−ICDの異常な細胞内局在の検出は、Ep−ICDの測定量が非進行性対照を上回るか、または進行性対照の量を上回るかもしくは等しいときに見出される。
別の実施形態では、対象から得られた乳房組織試料中のEp−ICDの異常な細胞内局在の検出方法は、(A)試料の核および細胞質Ep−ICDスコアを測定するステップ、(B)試料のESLI値を計算するステップ、および(C)計算したESLI値を参考値と比較するステップを含む。測定ステップおよび計算ステップは、乳がん予後診断に関して前記で記載したように実施することができる。この実施形態では、乳房組織試料中のEp−ICDの異常な細胞内局在は、試料のESLI計算値が非進行性がん性乳房組織を示すESLI値に対応する参考値を上回るとき、あるいは試料のESLI計算値が進行性乳がんを示すESLI値に対応する参考値を上回るかまたは等しいときに検出される。
キット
本開示は、本明細書で開示した方法を実施するためのキットを企図する。このようなキットは一般的に乳がん予後診断アッセイを実施するために必要な2つ以上の成分を含む。成分は、限定はしないが、化合物、試薬、容器、装置およびキットを使用するための指示書の1つまたは複数を含む。したがって、本明細書で記載した方法は、本明細書で提供した予め包装された予後診断キットを利用することによって実施することができる。1実施形態では、キットは、結合剤、標準物、染色剤、固定剤および指示書の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、指示書は対照として使用するための1つまたは複数の参考値を含む。
1実施形態では、キットは生体試料(例えば、乳房組織試料)を収集するために有用な器具をさらに含んでいてもよい。
本開示を例示する以下の非限定的な実施例を提供する。
臨床病理学部の保管所に保存された乳がん患者組織ブロックおよびそれらの匿名の臨床データを使用したこのバイオマーカーの遡及研究は、カナダ、トロントのマウントサイナイ病院研究倫理委員会によって承認された。
患者および腫瘍標本
患者コホートは2000年から2007年の間にマウントサイナイ病院(MSH)で処置を受けた266人の乳がん患者から構成される。コホートは、乳房切除または腫瘤摘除を受けた患者から構成される。
除外基準:患者の追跡データが臨床データベースで利用可能でないならば、乳がん組織はこの研究に用いないこととした。
正常な乳房組織は、乳房縮小手術、良性病変に隣接した正常組織および予防的乳房切除術から選択した。隣接するがんの正常な乳房組織はこの研究には含めなかった。患者コホートは、浸潤性乳管癌(IDC)(n=180)、浸潤性小葉癌(ILC)(n=15)、浸潤性粘液性癌(IMC)(n=9)、腺管上皮内癌(DCIS)(n=61)、上皮内小葉癌(LCIS)(n=1)および正常な乳房組織を有する45人の個体から構成された。乳がん診断は、患者組織標本の組織病理学的分析に基づいた。研究中のIDC症例を含む全患者の追跡時間は60カ月であった。記録された臨床病理学的パラメータは、手術時の年齢、腫瘍の組織型、腫瘍サイズ、AJCC pTNM病期、リンパ節状態、腫瘍悪性度、疾患の再発、ER/PR状態、ホルモン処置、放射線療法および/または化学療法を含む。本研究に含めた全患者のホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックは、MSH腫瘍バンクから取得し、病理学者が再調査し、以下に記載するようにEp−ICDおよびEpEx特異的抗体による免疫組織化学的染色のための組織切片を切断するために使用した。
乳癌のホルマリン固定パラフィン包埋切片(厚さ4μm)を以前に記載したようにEp−ICDおよびEpEx免疫染色のために使用した(Ralhan et al., BMC Cancer 2010, 10(1):331)。簡単に説明すると、脱パラフィン化および再水和後のEpExについては、抗原賦活化をクエン酸緩衝液0.01M、pH3.0中でマイクロウェーブオーブンを使用して実施し、組織切片を過酸化水素(0.3%、v/v)中で20分間インキュベートすることによって内在性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。Ep−ICDについては、組織切片を垂直方向に62℃で1時間加熱することによって脱パラフィンし、キシレンおよび段階的アルコール系列で処理し、非特異的結合は正常ウマまたはヤギ血清でブロックした。Epitomics Inc.(Burlingame、CA)製のウサギ抗ヒトEp−ICDモノクローナル抗体をこの研究に使用した。α−Ep−ICD抗体1144は、ヒトEpCAMの細胞質ドメインを認識し、甲状腺癌およびその他の上皮がんにおけるEp−ICD発現の以前の研究で使用したことがある(Ralhan et al., BMC Cancer 2010)。抗EpCAMモノクローナル抗体EpEx(MOC−31、AbD Serotec、Oxford、UK)は、アミノ末端領域における細胞外成分(EGF1ドメイン−aa27〜59)を認識する(Chaudry et al., Br J Cancer 2007, 96(7):1013-1019)。切片をα−Ep−ICDウサギモノクローナル抗体1144(1:1500に希釈)またはマウスモノクローナル抗体MOC−31(1:200に希釈)のいずれかで60分間インキュベートし、その後ビオチニル化した第2抗体(ヤギ抗ウサギまたはヤギ抗マウス)で20分間インキュベートした。切片を最後にVECTASTAIN Elite ABC試薬(Vector Laboratories、Burlington、ON、Canada)でインキュベートし、ジアミノベンジジンを色素原として使用した。次に、組織切片をヘマトキシリンで対比染色した。陰性対照は、1次抗体の代わりにアイソタイプ特異的IgGでインキュベートした乳房組織切片からなり、陽性対照(Ep−ICDを発現することが知られている結腸がん組織切片)は、Ep−ICDおよびEpExの両方のための各染色バッチそれぞれでインキュベートした。
免疫陽性染色は、最終転帰について知らされていない2人の研究者が組織切片の病理学的に最も進行した5つの領域において手動で評価し、これら5つのスコアの平均は以前に記載されたように計算した(Ralhan et al., BMC Cancer 2010)。切片は免疫陽性細胞の割合および染色の強度の両方に基づいて採点した。
陽性の割合については、以下のスケール:0、免疫反応性を示す細胞<10%細胞、;1、10〜30%細胞;2、31〜50%細胞;3、51〜70%細胞;4、>70%細胞、に基づいて細胞にスコアを割り当てた。
各組織切片の全スコア(0から7の範囲)は、乳がん組織切片それぞれについて陽性の割合と強度のスコアを加算することによって得られた。5つの領域の全スコア平均をさらなる統計解析のために使用した。各組織切片は、前述の陽性割合および強度のスケールに従って細胞質および核Ep−ICDならびに膜EpExについて採点した。
IHCデータはSPSS 21.0ソフトウェア(SPSS、Chicago、IL)およびGraphPad Prism 6.02ソフトウェア(GraphPad Software、La Jolla、CA)を用いて以前に記載されたように統計学的解析を行った(Ralhan et al., Mol Cell Proteomics 2008, 7(6):1162-1173)。両側検定p値を全解析において取得し、p値<0.05を統計学的に有意と見なした。カイ二乗分析を使用してEp−ICDおよびEpEx発現と臨床病理学的パラメータとの間の関係を決定した。無病生存期間(DFS)は、カプランマイヤー法および多変数Cox回帰によって分析した。ハザード比(HR)、95%信頼区間(95%CI)およびp値は、ログランク検定を使用して推定した。無病生存期間または有害な臨床事象(臨床的再発、遠位転移および/または死亡として定義される)は、研究の評価項目であると考えられた。IHC統計学的解析のカットオフは、以前に記載したような受信者動作曲線から得られた最適感度および特異性に基づいた(Ralhan et al., PLoS One 2010, 5(11):e14130)。核Ep−ICDについては、IHCスコア≧2は、分析した組織全てについて免疫陽性であると見なした。細胞質Ep−ICDについては、IHCスコア≧4は、分析した組織全てについて免疫陽性であると見なした。膜EpExについては、IHCスコア≧3は、分析した組織全てについて免疫陽性であると見なした。
IHCデータを評価および採点した後、ESLIの計算を行った。ESLIは、以下の式ESLI=1/2×(核Ep−ICDの%陽性スコア+核Ep−ICDの強度スコア+細胞質Ep−ICDの%陽性スコア+細胞質Ep−ICDの強度スコア)に従って計算した。前記で示したように、%陽性スコアはスケール0から4のスコアを含み、強度スコアはスケール0から3のスコアを含む。ESLIカットオフ値3は、予後良好患者および予後不良患者の試料を区別するために有用であることが見出された。例えば、ESLI値≧3は、「陽性」結果と見なされ、乳がんの予後不良を示し、ESLI値<3は「陰性結果」と見なされ、乳がんの予後良好を示した。
IDC180症例および正常対照45人を含む266人の乳癌の臨床病理学的パラメータおよび処置の詳細を表1にまとめて示す。患者の年齢中央値は59.9歳であった30.6〜89.8歳の範囲)。AJCCpTNM病期I(35.3%)およびII(32.7%)は、このコホートの腫瘍の大部分を占めた。腫瘍悪性度分布は、悪性度I−21.1%;II−39.8%およびIII−32.0%であった。IDC症例の中でも、大部分はまたAJCCpTNM病期I(62.8%)およびII(32.2%)であった。IDC症例は、悪性度I−23.3%;悪性度II−36.7%および悪性度III−36.1%腫瘍から構成された。
IDC患者における核および細胞質Ep−ICD発現と臨床病理学的特性との関連を表3に示す。核Ep−ICD蓄積は、臨床的に再発したIDC患者全てにおいて有意に関連して認められた(25人の患者のうち25人、100%;p<0.001、オッズ比(OR)=1.50、95%信頼区間(CI)=1.28〜1.76)。核Ep−ICD過剰発現は、初期腫瘍悪性度(悪性度IおよびII)(108人の患者のうち53人、49%;p=0.018、OR=0.46、95%CI=0.24〜0.89)および手術時のリンパ節転移無し(123人の患者のうち58人、47%;p=0.028、OR=0.48、95%CI=0.24〜0.98)と有意に関連した。細胞質Ep−ICD蓄積はまた、臨床的に再発した患者1人以外の全患者において認められた(25人の患者中24人、96%;p=0.035、OR=6.75、95%CI=0.88〜51.67)。核または細胞質Ep−ICDとER/PR状態、AJCCpTNM病期、T期、腫瘍サイズまたは診断時の患者の年齢の間には関連は認められなかった(表3)。膜性EpExまたは膜性EpExの損失は、乳がん患者のこのコホートにおける臨床病理学的パラメータのいずれとも有意な相関を示さなかった(データは示さず)。
核Ep−ICD蓄積、臨床病理学的パラメータと無病生存期間との間の関連を評価した(表4)。有意な関連は、核Ep−ICD発現と無病生存期間の間で認められ(p<0.001)、第3四分位生存期間は40.9カ月に減少した(図2A)。対照的に、核Ep−ICD陽性を示さない患者は全て、処置後5年経ても生存し、発病しなかった。Cox多変数回帰分析によって、有害な臨床事象のための最も重要な予後マーカーとして核Ep−ICDが同定された(p=0.008、ハザード比(HR)=70.47、95%C.I.=3.00〜1656.24;表4)。IDC患者の小集団分析によってまた、核Ep−ICD発現と無病生存期間の間で有意な関連が示され(p<0.001)、第3四分位生存期間は39.5カ月に減少した(図2B)。対照的に、核Ep−ICD陽性を有さない患者は全て、手術後5年の時点で生存しており発病していなかった。IDC症例の中で、Cox多変数回帰分析によって、核Ep−ICDが有害な臨床事象のための最も重要な予後マーカーとなることが示された(p=0.011、HR=80.18、95%C.I.=2.73〜2352.2)。核Ep−ICD陽性IDC患者75人中50人は5年の追跡期間中再発しなかった。
乳がん患者全てにおいてESLI値≧3と無病生存期間減少の間に有意な関連が認められ(p<0.001;図3A);ESLI陽性症例(すなわち、ESLI値≧3)の生存中央値は139.3カ月で、ESLI陰性症例(すなわち、ESLI値≦3)では115.5カ月であった。浸潤性乳管癌(IDC)患者においてESLI値≧3と無病生存期間減少の間に有意な関連が認められ(p<0.001;図3B);ESLI陽性症例の生存中央値は141.3カ月で、ESLI陰性症例では115.5カ月であった(p<0.001)。
前述したように、本発明者らは以前に乳がんを含む10種の様々な上皮がんにおける核および細胞質Ep−ICD発現を報告した(Ralhan et al., BMC Cancer 2010;米国特許出願公開第2011/0275530号)。しかし、以前の報告では、乳がんを含む10種の上皮がんにおける核Ep−ICD発現と臨床パラメータの相関またはその予後診断上の有用性については調べなかった。本研究では、乳がんの予後を予測するためのマーカーとしてのEp−ICDの適切性を評価した。完全長EpCAMタンパク質の発現はヒト悪性腫瘍において広く調べられたことがあるが、細胞内ドメイン、Ep−ICDの発現および細胞内局在は臨床標本で十分に特徴付けられたことはなかった。本発明のデータによって、悪性乳房組織に対して正常乳房組織において、および進行性乳がんに対して非進行性乳がんにおいて、Ep−ICD発現に有意な差があることが示される。
腫瘍病期またはその他のいかなる臨床変化にも関係なく、核Ep−ICDの存在は治療的処置後5年以内の疾患再発の高いリスクを予測した。多変数Cox回帰分析によって、IDC患者における再発予測ための最も重要な予測因子として核Ep−ICD蓄積が同定された。
治療的処置後に核Ep−ICD陽性の乳房組織を有する患者は、核Ep−ICDを欠如した乳房組織を有する患者よりも予後不良であった。核Ep−ICD陽性患者、特に初期腫瘍病期の患者における疾患の高い再発は、初期進行性乳がんを含む進行性乳がんを同定するために核Ep−ICDの存在および蓄積を使用することができることを示唆しており、これらのがんはより厳密な術後調査および/または処置によっておそらく恩恵を受けるだろう。本発明者らによって開発されたESLIアルゴリズムは、乳がんの予後診断において使用するための特有の手段となる。
Claims (24)
- 対象における乳がんを予後診断する方法であって、
(a)対象の生体試料中の核Ep−ICDの量を測定すること、
(b)生体試料中で測定された量を対照と比較すること、および
(c)核Ep−ICDの測定量と対照との間の比較に基づいて乳がんを予後診断することを含む方法。 - 対照が、
非進行性乳がん試料中の核Ep−ICDの量であるならば、核Ep−ICDの測定量がより高いことは予後不良であることを示し、核Ep−ICDの測定量が等しいかもしくはより低いことは予後良好であることを示し、または
進行性乳がん試料中の核Ep−ICDの量であるならば、核Ep−ICDの測定量が等しいかもしくはより高いことは予後不良であることを示す、請求項1に記載の方法。 - 非進行性乳がん試料が、核Ep−ICD量の測定後少なくとも40カ月間疾患の進行がないことが知られている、請求項2に記載の方法。
- 進行性乳がん試料が、核Ep−ICD量の測定後約5年未満疾患が進行することが知られている、請求項2または3に記載の方法。
- 予後不良が、5年未満の無病生存期間を含む、請求項2から4のいずれか1項に記載の方法。
- 無病生存期間が、約41カ月以下である、請求項5に記載の方法。
- 予後良好が、少なくとも約5年の無病生存期間を含む、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
- 対象の生体試料が、治療的処置後に得られる、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
- 対象の生体試料が、乳房上皮細胞、乳房組織、乳腺腫瘍組織および病期IもしくはIIの乳がん腫瘍細胞の1つまたは複数を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
- 予後診断される乳がんが、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、浸潤性粘液性癌、腺管上皮内癌または上皮内小葉癌である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
- 核Ep−ICDの測定量が、定量的および定性的量の1つまたは複数である、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
- 定量的量が、生体試料中の核Ep−ICD陽性である細胞の割合または核Ep−ICDの絶対量である、請求項11に記載の方法。
- 定性的量が、核Ep−ICDを示す標識によって放出されるシグナルの強度である、請求項11または12に記載の方法。
- 核Ep−ICDおよび細胞質Ep−ICDの定量的および定性的スコアを決定することをさらに含み、定量的および定性的な核および細胞質Ep−ICDスコアの増加は乳がんの予後不良と関連する、請求項13に記載の方法。
- 定量的および定性的な核Ep−ICDおよび細胞質Ep−ICDスコアの決定が、
(i)試料を、Ep−ICDまたはその一部に特異的に結合する結合剤および第1の結合剤のEp−ICDへの結合を検出するための検出可能な標識と接触させることであって、検出可能な標識は、結合剤がEp−ICDに結合すると検出可能なシグナルを放出すること、
(ii)(a)結合剤に結合した核内のEp−ICDを有する細胞の試料中の割合を含む第1の割合を測定し、第1のスケールに従って第1の定量的スコアを第1の割合に割り当てること、
(b)結合剤に結合した細胞質中のEp−ICDを有する細胞の試料中の割合を含む第2の割合を測定し、第1のスケールに従って第2の定量的スコアを第2の割合に割り当てること、
(iii)(a)標識によって核内に放出されたシグナルの強度を含む第1の強度を測定し、第2のスケールに従って第1の定性的スコアを第1の強度に割り当てること、
(b)標識によって細胞質内に放出されたシグナルの強度を含む第2の強度を測定し、第2のスケールに従って第2の定性的スコアを第2の強度に割り当てること
を含む、請求項14に記載の方法。 - 核Ep−ICDおよび細胞質Ep−ICDの全スコアを計算することをさらに含み、計算が、
(a)核Ep−ICD全スコアを生成するために第1の定量的および定性的スコアを加算すること、
(b)細胞質Ep−ICD全スコアを生成するために第2の定量的および定性的スコアを加算すること
を含む、請求項15に記載の方法。 - 試料のEp−ICD細胞内局在係数(ESLI)値を計算することであって、ESLI値が、核Ep−ICD全スコアおよび細胞質Ep−ICD全スコアの合計を2で除したものであること、
計算したESLI値を参考値と比較することであって、参考値が、
(i)非進行性乳がんを示すESLI値、または
(ii)進行性乳がんを示すESLI値であること、ならびに
試料の計算したESLI値が(i)の参考値を上回るか、または(ii)の参考値を上回るか等しいとき、対象の乳がんは予後不良であることを決定することをさらに含む、請求項16に記載の方法。 - 前記結合剤が抗体である、請求項15から17のいずれか1項に記載の方法。
- 標識が、検出可能な放射性同位元素、発光化合物、蛍光化合物、酵素標識、ビオチニル基および第2のレポーターによって認識可能な予め決定されたポリペプチドエピトープから選択する、請求項15から18のいずれか1項に記載の方法。
- 定量的量が、免疫組織化学的(IHC)分析を使用して得られる、請求項11から19のいずれか1項に記載の方法。
- 定性的量が、免疫組織化学的(IHC)分析を使用して得られる、請求項11から20のいずれか1項に記載の方法。
- 第1のスケールが、以下のスコアを含み、
スコア0は10%未満の細胞が陽性のとき割り当てられ、
スコア1は10〜30%の細胞が陽性のとき割り当てられ、
スコア2は31〜50%の細胞が陽性のとき割り当てられ、
スコア3は51〜70%の細胞が陽性のとき割り当てられ、
スコア4は70%超の細胞が陽性のとき割り当てられ、
第2のスケールが、以下のスコアを含み、
スコア0はシグナルが検出されないときに割り当てられ、
スコア1は軽度のシグナルが検出されるとき割り当てられ、
スコア2は中程度のシグナルが検出さるたとき割り当てられ、
スコア3は強いシグナルが検出されるときに割り当てられる、請求項15から21のいずれか1項に記載の方法。 - 非進行性乳がんを示すESLI値は3未満で、進行性乳がんを示すESLI値は3以上である、請求項17から22のいずれか1項に記載の方法。
- 核Ep−ICDの量の測定が、手動または自動である、請求項1から23のいずれか1項に記載の方法。
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