JP2017226870A - 真空アーク蒸着装置および被膜の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数の突起状陰極を用いた場合でも、アーク放電中にアークスポットが他の突起状陰極に移動することを抑制する真空アーク蒸着装置を提供する。
【解決手段】アーク放電によって被膜を基材8上に形成する真空アーク蒸着装置100であって、前記基材8に向かって配置される複数の突起状陰極20a,20b,20cと、前記複数の突起状陰極20a,20b,20cの1つに接続されるアーク電源4と、前記アーク電源4に接続されない前記突起状陰極20b,20cに接続される抵抗22とを備える。
【選択図】図1
【解決手段】アーク放電によって被膜を基材8上に形成する真空アーク蒸着装置100であって、前記基材8に向かって配置される複数の突起状陰極20a,20b,20cと、前記複数の突起状陰極20a,20b,20cの1つに接続されるアーク電源4と、前記アーク電源4に接続されない前記突起状陰極20b,20cに接続される抵抗22とを備える。
【選択図】図1
Description
本発明は、工具、金型、摺動材等の基材上に被膜を形成する真空アーク蒸着装置および被膜の形成方法の技術に関する。
プラズマCVD法、スパッタリング法、真空アーク蒸着法等、プラズマを用いた表面処理法は、工具、金型、摺動材等の表面に耐磨耗性を有する被膜を形成する手法として広く用いられており、機械部品や自動車部品等の分野で広く利用されている。
中でも真空アーク蒸着法は、陽極と陰極との間にアーク放電を生じさせ、陰極材料を蒸発させて基材上に被膜を形成する方法であり、プラズマ密度が高いだけでなく、イオン化率も他のスパッタリング法等の場合には1%以下であるのに対して、60〜70%と遥かに高い。このため、基材に負電位を印加することにより、プラズマ中のイオンを効率的に引き込むことが可能である。この作用により、基材と所望の膜との界面に混合層を有効に形成して極めて密着性の高い被膜を形成することができるという特徴があり、また、生産性にも優れているため、切削工具、摺動部品等への利用が多くなっている。
従来の真空アーク蒸着装置の基本的な構成を図5に示す。図5に示すように、従来の真空アーク蒸着装置10は、真空チャンバー1、陰極2、バッキングプレート3、アーク電源4、トリガー制御装置5、バイアス電源6、基材ホルダー7、基材8を備えている。ここでアーク電源4は、バッキングプレート3を介して陰極2に負電位を印加する電源であり、バイアス電源6は、基材ホルダー7を介して基材8に負電位を印加する電源である。また、真空チャンバー1は、陽極を兼ねており、接地電位に電気的に固定されている。
上記構成の真空アーク蒸着装置を用いての被膜の形成は、以下のように行われる。真空チャンバー1内を排気装置(図示せず)により所定の真空度まで真空排気する。次いで、基材8と陰極2に負電位を印加し、真空チャンバー1と陰極2との間にアーク放電を生じさせ、プラズマ9を生成する。アーク放電の点弧は、トリガー制御装置5によって制御されるトリガー(図示せず)によって行われる。アーク放電が開始すると、アークスポットが陰極2の表面に現れる。このアークスポットは、陰極2の溶融部であり、強く発光している。アークスポットから陰極材料が蒸発し、基材8上に被膜が形成される。
この真空アーク蒸着装置の陰極2として、円板状に成形されたガラス状炭素を用いる場合、アーク放電中に陰極の半径方向に大きな熱応力の歪み(熱歪み)が生じて割れるという問題があった(例えば、特許文献1の図67参照)。
このような熱歪みによる陰極割れを防止するために、複数の柱状の突起部を台座部から突出させた陰極が用いられている。このような突起状陰極からプラズマを発生させることにより、陰極の径方向における熱歪みが大きくなることが抑制されて、陰極割れの発生が防止される(例えば、特許文献1の図7参照)。
しかしながら、複数の突起状陰極を用いた場合、アーク放電中にアークスポットが他の突起状陰極に移動することがある。その結果、アークスポットが移動した後の元の突起状陰極は、アーク放電に関与しないことになるため、陰極の使用効率が低下して成膜コストの上昇を招くという問題があった。
このようにアークスポットが他の突起状陰極に移動することは、アーク電源4による負電位が全ての突起状陰極に同時に印加されることに起因すると考えられる。
そこで本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、複数の突起状陰極を用いた場合でも、アーク放電中にアークスポットが他の突起状陰極に移動することを抑制することをその主たる課題とするものである。
本発明の真空アーク蒸着装置は、アーク放電によって被膜を基材上に形成する真空アーク蒸着装置であって、前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源と、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極に接続される抵抗とを備える。
また、前記抵抗は、アーク放電時の放電電流と放電電圧から求められる放電抵抗の抵抗値よりも大きい抵抗値を有していてもよい。
本発明の真空アーク蒸発装置は、アーク放電によって被膜を基材上に形成する真空アーク蒸着装置であって、前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、
前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源とを備え、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極は、電気的にフローティング状態である。
前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源とを備え、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極は、電気的にフローティング状態である。
また、前記突起状陰極と前記アーク電源との接続と前記突起状陰極と前記抵抗もしくは前記突起状陰極が電気的にフローティング状態であることのいずれかとの接続とを切り替える切り換えスイッチ部を更に備えていてもよい。
また、前記アーク放電における放電電圧から前記切り替えスイッチ部による切り換えのタイミングを制御する演算制御装置を更に備えていてもよい。
また、前記突起状陰極は、中実または中空の柱状であり、かつ、その軸方向に垂直な断面形状が、円形状、楕円形状、多角形状、または角部に丸みを帯びた多角形状のいずれかであってもよい。
また、前記突起状陰極を構成する材料は、炭素であってもよい。
また、前記炭素は、ガラス状炭素または積層状炭素であってもよい。
本発明の被膜の形成方法は、アーク放電によって被膜を形成する基材と、前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源と、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極に接続される抵抗とを備え、前記抵抗は、アーク放電時の放電電流と放電電圧から求められる放電抵抗の抵抗値よりも大きい抵抗値を有する真空アーク蒸着装置を用いた被膜の形成方法であって、前記アーク電源に接続される突起状陰極でアーク放電を生じさせ、前記アーク放電を生じる突起状陰極の消耗状態をモニターし、前記消耗状態が所定の消耗状態となるタイミングで前記アーク放電を消弧するとともに、前記突起状陰極と前記アーク電源との接続と前記突起状陰極と前記抵抗との接続とを切り替えて、前記アーク電源に接続されない1つの前記突起状陰極に前記アーク電源を接続し直し、前記アーク電源に接続し直した突起状陰極でアーク放電を再度生じさせる。
本発明の被膜の形成方法は、アーク放電によって被膜を形成する基材と、前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源とを備え、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極は、電気的にフローティング状態である真空アーク蒸着装置を用いた被膜の形成方法であって、前記アーク電源に接続される突起状陰極でアーク放電を生じさせ、前記アーク放電を生じる突起状陰極の消耗状態をモニターし、前記消耗状態が所定の消耗状態となるタイミングで前記アーク放電を消弧するとともに、前記突起状陰極と前記アーク電源との接続と前記突起状陰極が電気的にフローティング状態であることとを切り替えて、前記アーク電源に接続されない1つの前記突起状陰極に前記アーク電源を接続し直し、
前記アーク電源に接続し直した突起状陰極でアーク放電を再度発生させる。
前記アーク電源に接続し直した突起状陰極でアーク放電を再度発生させる。
本発明によれば、複数の突起状陰極を用いた場合でも、アーク放電中にアークスポットが他の突起状陰極に移動することを抑制することができる。その結果、陰極の使用効率を向上させることができ、成膜コストの低減を図ることができる。
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は、繰り返さない。
1.真空アーク蒸着装置
図1は、本発明の実施形態に係る真空アーク蒸着装置の一例を示す概略図である。
図1は、本発明の実施形態に係る真空アーク蒸着装置の一例を示す概略図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る真空アーク蒸着装置100は、真空チャンバー1、アーク電源4、トリガー制御装置5、バイアス電源6、基材ホルダー7、基材8、突起状陰極20a,20b,20c,20d、絶縁物製台座21、抵抗22、演算制御装置23、切り替えスイッチ部24を備えている。
真空アーク蒸着装置100は、真空チャンバー1、アーク電源4、トリガー制御装置5、バイアス電源6、基材ホルダー7、基材8を備えている点で、図5に示した従来の真空アーク蒸着装置と基本的に同じ構成である。
一方、陰極2が4本の突起状陰極20a,20b,20c,20dに変更されている点、およびバッキングプレート3が絶縁物製台座21に変更されている点で、図5に示した従来の真空アーク蒸着装置と異なっている。
4本の突起状陰極20a,20b,20c,20dは、絶縁物製台座21にそれぞれ電気的に絶縁された状態で取り付けられる。4本の突起状陰極20a,20b,20c,20dは、お互いに同一形状、同一寸法、同一材質にするのが好ましい。そのようにすれば、突起状陰極の製造コストの低減を図ることができ、また絶縁物製台座21への取り付けも容易になる。
4本の突起状陰極20a,20b,20c,20dは、この例ではいずれも直径3mm、長さ60mmの中実円柱状である。なお、突起状陰極の個数は、4本に限定されず、2本や3本であってもよいし、あるいは5本以上であってもよい。
突起状陰極の形状は、中実の柱状だけでなく、パイプ等の中空の柱状(筒状)を含む概念であり、ここで、中実の柱状とは、例えば、突起状陰極の軸方向に垂直な断面が円形状、楕円形状、多角形状、または角部に丸み(R取り)を帯びた多角形状をなす形状をいう。そして、中空の柱状には、円環状、楕円環状、多角環状、または角部に丸み(R取り)を帯びた多角環状が含まれる。よって、突起状陰極の形状は、円柱状の他、例えば、楕円柱状、多角柱状、または角部に丸み(R取り)を帯びた多角柱状とすることもできるし、円筒状、楕円筒状、多角筒状、または角部に丸み(R取り)を帯びた多角筒状とすることもできる。
突起状陰極を構成する材料は、金属でも炭素であってもよい。例えば、突起状陰極を構成する材料が炭素である場合、基材上には硬質炭素被膜が形成される。
また、炭素からなる突起状陰極として、ガラス状炭素または積層状炭素を用いることが好ましく、この例ではガラス状炭素を用いている。
突起状陰極がガラス状炭素または積層状炭素からなることに起因して、原子状の炭素が放出される一方で、マクロパーティクル(サイズが10nm〜数μmである炭素の粒子)が発生しない、いわゆるスパークレス放電を発生させることができる。マクロパーティクルが発生すると基材表面を傷付けたり、形成した被膜の表面粗度を悪化させたりすることがあるので、ガラス状炭素または積層状炭素を用いる意義は、非常に大きい。
ガラス状炭素には、グラッシーカーボン(glassy carbon)、ガラス質炭素(vitreous carbon)、アモルファスカーボン、非晶質カーボン、非定形炭素、無定形炭素、および非黒鉛化炭素が含まれる。
また、積層状炭素には、熱CVD法により作製される熱分解性カーボンおよびパイロリティックカーボンが含まれる。
絶縁物製台座21は、酸化アルミニウム、窒化ケイ素等の絶縁物で構成される。
さらに、抵抗22、演算制御装置23、および切り替えスイッチ部24が追加されている点で、図5に示した従来の真空アーク蒸着装置と異なっている。
さらに、抵抗22、演算制御装置23、および切り替えスイッチ部24が追加されている点で、図5に示した従来の真空アーク蒸着装置と異なっている。
アーク放電に使用する突起状陰極20aは、アーク電源4の負極に接続される。一方、それ以外のアーク放電に使用しない突起状陰極20b,20c,20dは、アーク電源4に接続されない。
このような構成とすることにより、突起状陰極20aのみにアーク電源4による負電位が印加される。その結果、陽極を兼ねる真空チャンバー1との間で、突起状陰極20aのみにアーク放電が発生し、アーク電源4に接続されない突起状陰極20b,20c,20dにアーク放電が発生することはない。従って、アーク放電中の突起状陰極20aにおけるアークスポットが、アーク電源4に接続されない突起状陰極20b,20c,20dに移動することが抑制される。
また、アーク放電に使用しない突起状陰極20b,20c,20dは、抵抗22を介して接地電位に電気的に接続される。従って、突起状陰極20b,20c,20dが陽極となることが抑制され、陽極を兼ねる真空チャンバー1と突起状陰極20aとの間でのアーク放電が、安定的に維持される。その結果、複数の突起状陰極20a,20b,20c,20d間での局所的なプラズマの発生を防止し、プラズマを真空チャンバー1内で広範囲に発生させることができる。
ここで、抵抗22は、アーク放電時の放電電流と放電電圧から求められる放電抵抗値(=放電電圧/放電電流)よりも大きな抵抗値を有することが好ましい。その結果、相対的に放電抵抗値の小さな突起状陰極20aと真空チャンバー1を介した回路でアーク放電が発生することになる。
例えば、突起状陰極20aにガラス状炭素、Ti、Crのいずれかを用いて、放電電圧を30V、放電電流を80Aとしてアーク放電を行った場合、その放電抵抗値は0.375Ωとなる。従って、抵抗22には0.375Ωよりも大きな抵抗値を有するものを用いればよい。このように、一般に放電抵抗値は1Ω未満であるので、抵抗22の抵抗値は1Ω以上とすることが好ましい。
この放電抵抗値は、厳密には放電回路内における配線の抵抗、バッキングプレートや突起状陰極自身の抵抗を含むことになる。しかし、これらの抵抗値は放電抵抗値に比べれば十分に小さいと考えられるので、上述したようなプラズマ部での放電電圧と放電電流で求められる抵抗値に近似することができる。
なお、アーク放電に使用しない突起状陰極20b,20c,20dは、接地電位に電気的に接続しないで、電気的にフローティング状態としてもよい。この場合であっても、突起状陰極20b,20c,20dを介した放電抵抗値が無限に大きくなるため、相対的に放電抵抗値の小さな突起状陰極20aと真空チャンバー1を介した回路でアーク放電が発生することになる。
ここで、「電気的にフローティング状態」とは、電位を固定しない、あるいは結果的に電位が固定されるにしても、その固定される電位はアーク放電の条件や環境によって決まる状態にすること、もしくは電気的接続を行うことをいう。
演算制御装置23は、アーク電源4から突起状陰極の消耗状態に関する信号をリアルタイムで受信し、所望の消耗状態となったタイミングで、アーク電源4へ停止信号を送信し、次いで切り替えスイッチ部24へ切り替え信号を送信する。そして、図3を参照して、切り換えスイッチ部24は、消耗した突起状陰極20aとアーク電源4との接続と未使用の突起状陰極20bと抵抗22との接続とを切り替える。その結果、消耗した突起状陰極20aは抵抗22に接続され、未使用の突起状陰極20bはアーク電源4に接続される。
このとき、切り換えスイッチ部24は、突起状陰極20bと抵抗22との接続に代えて、突起状陰極20bが電気的にフローティング状態であることとを切り替えてもよい。
そして、演算制御装置23は、アーク電源4へ起動信号を送信し、さらにはトリガー制御装置5へ点弧信号を送信する。
点弧信号を受信したトリガー制御装置5は、図示しないトリガーを制御して突起状陰極20bに接触させる。その結果、突起状陰極20bにおいてアーク放電が再度発生し、基材8上に硬質炭素被膜が形成される。
2.被膜の形成方法
次に、本発明の実施形態に係る被膜の形成方法について、図1を参照して説明する。
次に、本発明の実施形態に係る被膜の形成方法について、図1を参照して説明する。
まず、ターボ分子ポンプやロータリーポンプ等の排気装置(図示せず)を用いて、陽極を兼ねる真空チャンバー1内を所定の真空度まで真空排気する。その後アーク電源4により突起状陰極20aに負電位を印加し、バイアス電源6により基材8に負電位を印加する。そして、真空チャンバー1と突起状陰極20aとの間にアーク放電を生じさせ、プラズマ9を生成する。そして突起状陰極20aから陰極材料を蒸発させ、基材8上に被膜を形成する。アーク放電の点弧は、トリガー制御装置5によって制御されるトリガー(図示せず)によって行われる。
アーク放電の開始と同時にアーク電源4から演算制御装置23へとリアルタイムで放電電圧Vaが送信される。演算制御装置23は、予め設定されたしきい値VthとVaが等しくなると、突起状陰極20aが所望の消耗状態となったと判断し、以下に示した一連の動作を自動で行う。
(S1)アーク電源4へ停止信号を送信し、アーク電源4を停止し、アーク放電を消弧する。
(S2)切り替えスイッチ部24へ切り替え信号を送信し、突起状陰極20aの電気配線をアーク電源4側から抵抗22側へと切り替える。
(S3)突起状陰極20bの電気配線を抵抗22側からアーク電源4側へと切り替える。
(S4)アーク電源4へ起動信号を送信し、アーク電源4を起動し、突起状陰極20bに負電位を印加する。
(S5)トリガー制御装置5に点弧信号を送信し、図示しないトリガーによって突起状陰極20bと真空チャンバー1との間で再度アーク放電を生じさせる。
(S1)アーク電源4へ停止信号を送信し、アーク電源4を停止し、アーク放電を消弧する。
(S2)切り替えスイッチ部24へ切り替え信号を送信し、突起状陰極20aの電気配線をアーク電源4側から抵抗22側へと切り替える。
(S3)突起状陰極20bの電気配線を抵抗22側からアーク電源4側へと切り替える。
(S4)アーク電源4へ起動信号を送信し、アーク電源4を起動し、突起状陰極20bに負電位を印加する。
(S5)トリガー制御装置5に点弧信号を送信し、図示しないトリガーによって突起状陰極20bと真空チャンバー1との間で再度アーク放電を生じさせる。
この時の状態を図3に示す。突起状陰極20aは、根元(絶縁物製台座21側)近くまで消耗しており、効率よく使用できていることがわかる。アーク放電への使用が終了した突起状陰極20aの電気配線は、アーク電源4側から抵抗22側へと切り替えられている。また、アーク放電に使用している突起状陰極20bの電気配線は、抵抗22側からアーク電源4側へと切り替えられている。換言すれば、消耗した突起状陰極20aとアーク電源4との接続と未使用の突起状陰極20bと抵抗22との接続とを切り替えて、アーク電源4に接続されない1つの突起状陰極20bにアーク電源4を接続し直している。
このとき、突起状陰極20aとアーク電源4との接続は、突起状陰極20bと抵抗22との接続に代えて、突起状陰極20bが電気的にフローティング状態であることとに切り替えられてもよい。
上記した一連の切り替え動作を、さらに残りの突起状陰極20c,20dで繰り返し行って膜厚の厚い被膜を形成してもよいし、あるいは途中で停止して膜厚の薄い被膜を形成してもよい。
重要な点は、アーク放電中の突起状陰極が所望の消耗状態となった時点で、即座に次の突起状陰極へと切り替えることにある。切り替えを行うタイミングが早すぎれば陰極の使用効率が低下するし、遅すぎれば絶縁物製台座21が損傷する可能性がある。
上記したアーク電源4から演算制御装置23へとリアルタイムで送信される放電電圧Vaにより突起状陰極の消耗状態をモニターする手段について以下に説明する。
図4に直径3mm、長さ60mmの中実円柱状のガラス状炭素を陰極に用い、放電電流を80A一定とした条件での放電電圧Vaの時間経過を示す。
図4から、放電開始直後の放電電圧Vaは、絶対値で35V程度であるが、時間経過とともに減少し、300秒を超えた辺りでは、絶対値で22V程度となっていることがわかる。放電開始時に長さ60mmであったガラス状炭素陰極は、300秒を超えた辺りでは、長さ3mmになっていた。
陰極が消耗するにつれて放電電圧Vaは、絶対値で見ると減少するため、放電電圧Vaをモニターすることにより陰極の残りの長さをモニターすることができる。従って、この場合には、Vthを22Vに設定することにより、効率よく残り3mmまで陰極を使用することができる。
図4に示す通り、放電電圧Vaは、一定の電圧範囲内で時間と共に減少していく。放電電圧Vaが22V程度と言っても、放電開始後100秒程度から放電電圧Vaが瞬間的に22V程度になることがあり、この時点で切り替えると陰極の使用効率が低下する。従って、このような場合は、演算制御装置23により、例えば、放電電圧Vaの時間平均値を求め、その平均値をVthと比較することによって陰極を切り替えればよい。
次に、アーク電源4から演算制御装置23へとリアルタイムで送信される放電電流Iaと通電時間tから計算される放電電荷量Qaにより突起状陰極の消耗状態をモニターする手段について以下に説明する。
アーク放電の開始と同時にアーク電源4から演算制御装置23へとリアルタイムで放電電流Iaと通電時間tが送信される。演算制御装置23は、放電電荷量Qa(=Ia×t)を計算する。そして、予め設定されたしきい値QthとQaが等しくなると、突起状陰極20aが所望の消耗状態となったと判断し、上記S1〜S5に示した一連の動作を自動で行う。
演算制御装置23で計算される放電電荷量Qaは、そのときに使用している突起状陰極の消耗状態に比例しているので、上記構成を採用することにより、使用している突起状陰極が所望の消耗状態に達する度ごとに、アーク放電に使用する突起状陰極を切り替えることができる。
上記S1〜S5に示した一連の動作を行うタイミングは、演算制御装置23に予め設定されるしきい値VthやQthを変更することにより任意に変更することができる。例えば、突起状陰極20aを消耗し切ったタイミングとすれば、4つの突起状陰極20a,20b,20c,20dをそれぞれ全て消耗し切るまで被膜の形成を継続することができる。
これとは別に突起状陰極の長さや配置間隔によっては、突起状陰極から蒸発した陰極材料が他の突起状陰極によって遮蔽され基材8に到達できないことがある。このような場合には、1本の突起状陰極を完全に使用し切ってから、新たな突起状陰極へと切り替えるのではなく、途中までの消耗、例えば半分の長さを消耗した時点で切り替えを行い、他の突起状陰極も一通り半分の長さを消耗するまで使用してから、また残りの半分を使用するようにしてもよい。
また、上述した放電電圧Vaにより突起状陰極の消耗状態をモニターする手段と、放電電荷量Qaにより突起状陰極の消耗状態をモニターする手段とを併用してもよい。
以上説明した本発明の実施形態に係る真空アーク蒸着装置および被膜の形成方法によれば、アーク放電中に未使用の突起状陰極を抵抗を介して接地電位に電気的に接続することにより、アーク放電に使用中の突起状陰極から未使用の突起状陰極にアークスポットが移動することが抑制される。従って、突起状陰極の使用効率が向上し、成膜コストの低減を図ることができる。
また、アーク放電に使用中の突起状陰極の消耗状態をモニターし、所望の消耗状態となった時点で、アーク放電を消弧し、アーク放電に使用していた突起状陰極とアーク放電に未使用の突起状陰極の電気配線を切り替え、未使用の突起状陰極と陽極との間で再度アーク放電を生じさせる。従って、複数の突起状陰極のそれぞれを効率よく使用することが可能となり、成膜コストの低減を図ることができる。
さらに、複数の突起状陰極を電気配線を切り替えながら順次アーク放電に使用することで、膜厚の厚い被膜を形成することもできる。
またさらに、電気配線を切り替える作業を自動で行えるようにすれば、ほぼ連続した被膜の形成が可能となり、作業時間の短縮を図ることもできる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記の実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明により形成された被膜を備えた機械部品、自動車部品、金型等の物品を安価に製造することができる。さらに、これらの物品が使用されている機械、自動車、その他のシステム等の製品を安価に提供することができる。
1 真空チャンバー
2 陰極
3 バッキングプレート
4 アーク電源
5 トリガー制御装置
6 バイアス電源
7 基材ホルダー
8 基材
9 プラズマ
20a 突起状陰極
20b 突起状陰極
20c 突起状陰極
20d 突起状陰極
21 絶縁物製台座
22 抵抗
23 演算制御装置
24 切り替えスイッチ部
2 陰極
3 バッキングプレート
4 アーク電源
5 トリガー制御装置
6 バイアス電源
7 基材ホルダー
8 基材
9 プラズマ
20a 突起状陰極
20b 突起状陰極
20c 突起状陰極
20d 突起状陰極
21 絶縁物製台座
22 抵抗
23 演算制御装置
24 切り替えスイッチ部
Claims (10)
- アーク放電によって被膜を基材上に形成する真空アーク蒸着装置であって、
前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、
前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源と、
前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極に接続される抵抗とを備える、真空アーク蒸着装置。 - 前記抵抗は、アーク放電時の放電電流と放電電圧から求められる放電抵抗の抵抗値よりも大きい抵抗値を有する、請求項1に記載の真空アーク蒸着装置。
- アーク放電によって被膜を基材上に形成する真空アーク蒸着装置であって、
前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、
前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源とを備え、
前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極は、電気的にフローティング状態である、真空アーク蒸着装置。 - 前記突起状陰極と前記アーク電源との接続と、前記突起状陰極と前記抵抗との接続もしくは前記突起状陰極が電気的にフローティング状態であることのいずれかとを切り替える切り換えスイッチ部を更に備える、請求項1〜3に記載の真空アーク蒸着装置。
- 前記アーク放電における放電電圧から前記切り替えスイッチ部による切り換えのタイミングを制御する演算制御装置を更に備える、請求項4に記載の真空アーク蒸着装置。
- 前記突起状陰極は、中実または中空の柱状であり、かつ、その軸方向に垂直な断面形状が、円形状、楕円形状、多角形状、または角部に丸みを帯びた多角形状のいずれかである、請求項1〜5に記載の真空アーク蒸着装置。
- 前記突起状陰極を構成する材料は、炭素である、請求項1〜6に記載の真空アーク蒸着装置。
- 前記炭素は、ガラス状炭素または積層状炭素である、請求項7に記載の真空アーク蒸着装置。
- アーク放電によって被膜を形成する基材と、前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源と、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極に接続される抵抗とを備える真空アーク蒸着装置を用いた被膜の形成方法であって、
前記アーク電源に接続される突起状陰極でアーク放電を生じさせ、
前記アーク放電を生じる突起状陰極の消耗状態をモニターし、
前記消耗状態が所定の消耗状態となるタイミングで前記アーク放電を消弧するとともに、前記突起状陰極と前記アーク電源との接続と前記突起状陰極と前記抵抗との接続とを切り替えて、前記アーク電源に接続されない1つの前記突起状陰極に前記アーク電源を接続し直し、
前記アーク電源に接続し直した突起状陰極でアーク放電を再度発生させる、被膜の形成方法。 - アーク放電によって被膜を形成する基材と、前記基材に向かって配置される複数の突起状陰極と、前記複数の突起状陰極の1つに接続されるアーク電源とを備え、前記アーク電源に接続されない前記突起状陰極は、電気的にフローティング状態である真空アーク蒸着装置を用いた被膜の形成方法であって、
前記アーク電源に接続される突起状陰極でアーク放電を生じさせ、
前記アーク放電を生じる突起状陰極の消耗状態をモニターし、
前記消耗状態が所定の消耗状態となるタイミングで前記アーク放電を消弧するとともに、前記突起状陰極と前記アーク電源との接続と前記突起状陰極が電気的にフローティング状態であることとを切り替えて、前記アーク電源に接続されない1つの前記突起状陰極に前記アーク電源を接続し直し、
前記アーク電源に接続し直した突起状陰極でアーク放電を再度発生させる、被膜の形成方法。
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JP2016122907A JP2017226870A (ja) | 2016-06-21 | 2016-06-21 | 真空アーク蒸着装置および被膜の形成方法 |
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JP2018006260A (ja) * | 2016-07-07 | 2018-01-11 | トヨタ自動車株式会社 | アーク放電発生装置及び成膜方法 |
JP2022021740A (ja) * | 2020-07-22 | 2022-02-03 | 株式会社神戸製鋼所 | アーク蒸発源 |
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2016
- 2016-06-21 JP JP2016122907A patent/JP2017226870A/ja active Pending
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