JP2017221118A - 食品中の微生物の増殖時間を予測する方法 - Google Patents

食品中の微生物の増殖時間を予測する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】食品の日持ち時間等を容易に予測することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法では、食品の静菌成分の添加量に基づいて、食品中の菌数が所定数に増殖するまでの時間を予測する。
【選択図】なし

Description

本発明は、食品中の微生物の増殖時間を予測する方法に関し、特に、食品の日持ち時間を予測する方法に関する。
食品の日持ち時間を予測して、食品の消費期限を設定するためには、食品中の有害な微生物が、安全に摂取可能な菌数の上限(例えば、10cfu/g)に増殖するまでの時間を把握する必要がある。しかし、微生物の増殖は、食品の種類、保存温度等の影響を受ける。そのため、一般には、食品の試料に微生物を接種して、微生物の種類毎、保存温度毎に菌数を計測する保存試験を実施することにより、食品の消費期限を設定している。
しかし、新製品の開発や配合成分の変更のたびに保存試験を実施すると、多大な時間、労力、費用がかかる。保存試験は、変更前の配合と類似した食品にしか適用することができず、さらに、希望する日持が期待できる様な配合を設計するには、保存試験の実施担当者に経験と勘が要求される。
これに対し、予測微生物学を活用することにより、食品中での微生物の増殖、死滅などの挙動を、数学モデルを用いて予測する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。食品の製造から流通、消費に至る全過程で有害微生物の挙動を定量的に解析・予測することによって、食品の微生物学的安全性を確保することができる。
非特許文献1に開示の方法では、温度、pH値および塩分濃度の関数を用いて、セレウス菌の増殖を予測している。具体的には、下記式を用いて、セレウス菌の増殖を予測している。
上記式において、μmax、Temp、pHおよびNaClはそれぞれ、最大増殖速度、温度、pH値および塩分濃度である。これにより、保存試験を行わずに、微生物の増殖を予測することができる。
Shige Koseki、外1名、「Alternative Approach To Modeling Bacterial Lag Time, Using Logistic Regression as a Function of Time, Temperature, pH, and Sodium Chloride Concentration」、Applied and Environmental Microbiology、第78巻、第17号、2012年9月、p.6103−6112
しかし、非特許文献1に記載の上記式では、保存料などの静菌成分の添加量が考慮されていない。そのため、上記式を用いて食品の腐敗時間を算出した場合、算出結果は、実際の腐敗時間よりもかなり短くなる。そのため、非特許文献1に開示の方法では、食品の日持ち時間を正確に予測することはできない。
本発明は、食品の日持ち時間等を正確に予測することができる方法を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、食品の温度、pH値、水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、食品中の菌数が所定数に増殖するまでの時間を予測できることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を有する。
項1.
食品中の菌数の増殖に影響を与えるパラメータに基づいて、前記菌数が所定数に増殖するまでの時間を予測する方法であって、
前記パラメータは、前記食品の静菌成分の添加量を含むことを特徴とする方法。
項2.
前記パラメータは、前記食品の保存温度、pH値および水分活性の少なくともいずれかをさらに含むことを特徴とする項1に記載の方法。
項3.
下記式(1)に基づいて前記時間を予測することを特徴とする項2に記載の方法。
t=exp(a×T+b×pH+c×Aw+d×Q+e)…(1)
t:時間
T:保存温度
pH:pH値
Aw:水分活性
Q:添加量
a〜e:係数
項4.
前記静菌成分がn種類(nは2以上の整数)の静菌成分を含み、
下記式(2)に基づいて前記時間を予測することを特徴とする項2に記載の方法。
t:時間
T:保存温度
pH:pH値
Aw:水分活性
:第k静菌成分(kは1〜nの整数)の添加量
a〜c、d、e:係数
本方法によれば、食品の日持ち時間等を正確に予測することができる。
本発明に係る方法は、食品中の菌数の増殖に影響を与えるパラメータに基づいて、前記菌数が所定数に増殖するまでの時間を予測する方法であって、前記パラメータは、前記食品の静菌成分の添加量を含むことを特徴とする。好ましくは、本発明に係る方法では、前記パラメータは、前記食品の保存温度、pH値および水分活性の少なくともいずれかをさらに含む。本発明に係る方法では、特に静菌成分の添加量を考慮して菌数の増殖時間を予測しているので、静菌成分の添加量が考慮されていない非特許文献1に開示の方法よりも、正確に食品の日持ち時間等を予測することができる。
好ましくは、本発明に係る方法は、下記式(1)に基づいて前記時間を予測する。
t=exp(a×T+b×pH+c×Aw+d×Q+e)…(1)
t:時間
T:保存温度
pH:pH値
Aw:水分活性
Q:添加量
a〜e:係数
前記静菌成分がn種類(nは2以上の整数)の静菌成分を含む場合、好ましくは、本発明に係る方法は、下記式(2)に基づいて前記時間を予測する。
t:時間
T:保存温度
pH:pH値
Aw:水分活性
:第k静菌成分(kは1〜nの整数)の添加量
a〜c、d、e:係数
式(1)および(2)は、非特許文献1に記載の式よりも簡単であるため、食品の日持ち時間等を容易かつ正確に予測することができる。
本発明において、食品には、人が食物として摂取するあらゆる飲食物が含まれる。例えば、食品には調味料も含まれる。
また、食品の消費期限とは、「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日」を意味する。すなわち、消費期限は、定められた方法により保存した場合に食品を安全に摂取可能な期限である。本明細書では、食品の製造時から消費期限までの時間を日持ち時間とも称する。
菌数とは、食品に含まれる微生物の単位量あたりの菌の数を意味し、例えば、食品1gあたりの菌数(cfu/g)を意味する。特に、本発明を食品の消費期限の設定に適用する場合、菌数の「所定数」は、食品の種類や微生物の種類によって異なるが、安全に摂取可能な菌数の上限とする。
式(1)および(2)における温度(T)の範囲は、食品の種類によって異なるが、通常、当該食品が保存される温度を想定しており、概ね0℃〜35℃である。本発明において、食品は一定の温度で保存されると仮定する。
式(1)および(2)におけるpH値(pH)は、食品中の水素イオンモル濃度の逆数を常用対数で示したものである。また、水分活性(Aw)とは、純水の水蒸気圧をPとし、食品中に包含される水の水蒸気圧をPとしたとき、P/Pで表される数値をいう。
静菌成分は、食品等の保存、静菌、日持ち向上に効果のある成分であれば特に限定されず、従来使用される代表的なものとしては、例えばε‐ポリリシン、ナイシン、酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、エタノール等が挙げられる。また、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤や、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム等の発色剤、醸造酢、みりん、酒等の食品素材、二酸化炭素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガスと窒素ガスの混合ガス等の不活性ガス等も、静菌成分として挙げることができる。
式(1)および(2)における係数は、食品の種類、微生物の種類、静菌成分の種類、設定された「所定数」に応じて決定される。係数の決定方法は特に限定されないが、本実施形態では、以下のように決定される。
まず、食品の試料、微生物、静菌成分を用意し、試料のパラメータの中で、温度、pH値および水分活性の少なくともいずれか、並びに静菌成分の添加量が異なる複数の試料毎に保存試験を行い、経時的に実際の菌数を測定する。そして、周知の微生物の増殖モデルである、Baranyi and Roberts modelを用いて、各試料について、菌数が所定数に増殖するまでの時間を算出する。具体的には、下記式(3)を用いる。
式(3)において、
t:時間
N:菌数(cfu/g)
max:最大菌数(cfu/g)
:t=0における微生物の状態を示す変数
μmax:最大増殖速度(1/h)
である。
各試料について、微生物の増殖を式(3)にフィッティングさせ、q、μmaxおよびNmaxを決定し微生物が上記所定数に増殖するまでの時間を算出する。この算出結果に基づき、式(1)における係数(複数の静菌成分を用いた場合は式(2)における係数)を回帰分析法により決定する。また、保存試験において、温度、pH値および水分活性のいずれかのパラメータが全ての試料で同一である場合は、当該同一のパラメータに対応する係数を0と決定する。これにより、式(1)または式(2)における係数が決定され、微生物の増殖時間を予測するための予測式が得られる。
なお、予測式に係数が0のパラメータが含まれる場合、係数0のパラメータが、当該予測式を得るための保存試験における試料と同一である食品のみに、当該予測式を適用できる。
特に、上記所定数を安全に摂取可能な菌数の上限に設定して得られた予測式は、菌数が当該上限に増殖するまでの時間を予測することができるので、食品の消費期限の設定に適用することができる。よって、一旦、予測式が得られると、その後、同じ種類の食品について、新製品が開発されたり配合が変更された場合に、保存試験を行うことなく、温度、pH値、水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、日持ち時間を予測することができる。
なお、上記所定数は、安全に摂取可能な菌数の上限に限定されない。例えば、予測式を食品の賞味期限の設定に適用してもよい。賞味期限とは、「定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日」を意味する。食品の賞味期限を設定する場合、上記所定数は安全に摂取可能な菌数の上限よりも小さく設定される。
以上のように、本発明に係る方法では、静菌成分の添加量を考慮して菌数の増殖時間を予測しているので、非特許文献1に開示の方法よりも、正確に食品の日持ち時間等を予測することができる。また、本発明に係る方法では、非特許文献1に記載の方法に比べ、非常に単純な予測式を用いて、食品の日持ち時間等を正確に予測することができる。これにより、新製品の開発時や、成分の変更時において、消費期限等の設定の時間を短縮することができる。また、製品開発者が経験したことのない新しい配合の製品についても、食品の日持ち時間等を正確に予測することができる。
なお、本発明に係る方法で用いられる予測式は、上記式(1)および(2)に限定されない。食品の保存温度、pH値、水分活性および静菌成分の添加量を変数に含み、かつ、上記式(1)および/または(2)の演算結果に近似する演算結果が得られる式であれば、予測式として用いることができる。例えば、上記式(1)または(2)において、底をネイピア数に近似する数(例えば2.72)に置き換えた式を予測式として用いてもよい。また、食品の保存温度、pH値、水分活性および静菌成分の添加量を変数に含み、かつ、上記式(1)および/または(2)の演算結果に近似する演算結果が得られる式であれば、予測式は指数関数を含まない式であってもよい。このような式を用いることにより、食品の保存温度、pH値、水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、食品中の菌数が所定数に増殖するまでの時間を正確に予測することができる。
以下に実施例をあげて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。また、特に記載のない限り「%」とは「質量%」を、「部」とは、「質量部」を意味するものとする。また、文中の「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
実施例1(豆腐の白和え)
1−1.試料の作製手順
以下の1)〜5)の手順で、豆腐の白和えの試料を作製した。
1)木綿豆腐1丁を沸騰水に入れ、再沸騰後に取り出して、網上で室温にて放置し、10%脱水した。
2)上砂糖10部、練りゴマ10部、薄口醤油3部の各製剤を混合した。
3)混合物に、脱水後の木綿豆腐77部を加えて総量を100部にし、さらに、成分が均一になるよう充分に混合した。
4)混合物に、乳酸菌 Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides NBRC3426(10個/g)を接種し、複数の試料に分割した。
1−2.保存試験による菌数の測定
静菌成分(サンキーパー※S−3)を試料に選択的に添加し、試験区毎に、10℃、15℃、20℃の各温度で保存した。サンキーパー※S−3は、グリシン、酢酸Na、グルタミン酸を含有する日持ち向上剤である。クエン酸を添加し試料のpH値を5.5または6.0に調整した。そして、各試料の菌数を経時的に測定した。菌の測定は、食品衛生検査指針に基づき、菌を30℃にて2日間培養することにより行った。菌数の測定結果を表1〜3に示す。
なお、表1〜3において、保存時間毎の菌数の単位はcfu/gである。また、本明細書において、表中の「NT」の記載は、測定を行わなかった(Not Tested)ことを意味する。
1−3.予測式の決定
表1〜3の測定結果を、上述の式(3)にフィッティングさせることにより、試料の菌数が安全に摂取可能な数の上限(10cfu/g)に達する時間(日持ち時間)を算出した。算出結果を表4に示す。
表4の結果に基づき、上述の式(1)における係数を回帰分析法によって演算し、a=−0.12598、b=−0.21193、d=0.22032、e=6.8155と決定した。なお、試験例1〜8では、全ての試料の水分活性が同一であったため、水分活性に対応する係数cを0と決定した。これにより、試料の日持ち時間tを予測するための下記式(4)を決定した。
t=exp(−0.12598×T+0.22032×Q−0.21193×pH+6.8155)…(4)
t:日持ち時間(hr.)
T:保存温度(℃)
Q:添加量(%)
pH:pH値
1−4.検証
式(4)によって、豆腐の白和えの日持ち時間を正確に予測できることを検証するため、上記「1−1.試料の作製手順」に従って、検証用試料を作製した。そして、検証用試料に上記「1−2.保存試験による菌数の測定」におけるものと同一の静菌成分を添加し、10℃、15℃、20℃の温度で保存し、検証用試料の菌数(cfu/g)を経時的に測定した。検証用試料の水分活性は、試験例1〜8と同一であった。菌の測定は、食品衛生検査指針に基づき、菌を30℃にて2日間培養することにより行った。検証用試料の菌数の測定結果(試験例9〜12)を表5および表6に示す。
続いて、試験例9〜12の測定結果を、上述の式(3)にフィッティングさせることにより、検証用試料の日持ち時間を実測値として算出した。また、各検証用試料について、式(4)を用いて、日持ち時間を予測した。各検証用試料の試験条件、実測値として算出した日持ち時間(実測時間)、および式(4)によって予測した日持ち時間(予測時間)を表7に示す。
表7から、実測日数と予測日数との間に非常に高い相関があることが分かった。よって、式(4)を用いることにより、豆腐の白和えの日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
本実施例1により、予測対象となる食品の水分活性が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品の保存温度、pH値および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
実施例2(チーズ蒸しパン)
2−1.試料の作製手順
以下の1)〜5)の手順で、チーズ蒸しパンの試料を作製した。
1)加温したクリームチーズ70gに、牛乳70gを加えて混ぜ合わせ、裏ごしした。
2)卵110g、砂糖70g、サラダ油24gを混ぜ合わせた。
3)手順2)で作製した混合物に薄力粉150g、ベーキングパウダー5gを加え、さらに、水分活性を調整するためD−ソルビトールを加え、さらに混合した。なお、D−ソルビトールの添加量は、あらかじめソルビトールの添加量と水分活性の関係を調べておき、所望の水分活性となるように調整した。
4)手順3)で作製した混合物に、静菌成分(日持向上剤)としてアートフレッシュ※NO.101を選択的に添加し、手順1)で作製した混合物を加え、さらに混合した。アートフレッシュ※NO.101は、酢酸Na、グリシンおよびリゾチームを含有する粉末製剤であり、アートフレッシュ※NO.101の添加量は、下記の表8の通りであった。なお、静菌成分以外のpH値を調製するものは添加しなかった。
5)手順4)で作製した混合物をオーブンにて160℃、30分焼成した後、放冷した。
2−2.保存試験による日持ち時間の測定
試料の生地のカット面の複数箇所に、Aspergillus niger NBRC4407(黒こうじカビ)の胞子を約6個ずつ接種した。その後、試料を滅菌袋に封入して30℃で保存し、41時間後から89時間後までほぼ3時間毎にカビの生育観察を実施し、カビの発生が目視で確認できるまでの時間(日持ち時間)を測定した。測定結果を表8に示す。
2−3.予測式の決定
表8の結果に基づき、上述の式(1)における係数を回帰分析法によって演算し、c=−19.1342、d=0.1438、e=21.6348と決定した。なお、試験例13〜24では、全ての試料の保存温度が同一であり、静菌成分以外のpH値を調製するものは添加しなかったため、温度およびpH値に対応する係数aおよびbを0と決定した。これにより、試料の日持ち時間を予測するための下記式(5)を決定した。
t=exp(−19.1342×Aw+0.1438×Q+21.6348)…(5)
t:日持ち時間(hr.)
Aw:水分活性(Aw)
Q:添加量(%)
2−4.検証
式(5)によって、チーズ蒸しパンの日持ち時間を正確に予測できることを検証するため、上記「2−1.試料の作製手順」に従って、2つの検証用試料を作製した。このとき、両方の検証用試料に、水分活性が0.92AwとなるようにD−ソルビトールを加えた。また、一方の検証用試料には、静菌成分を0.6%添加し、他方の検証用試料には、静菌成分を0.3%添加した。なお、2つの検証用試料のpH値は、試験例13〜24と同一であった。そして、上記「2−2.保存試験による日持ち時間の測定」に従って、検証用試料にカビを接種して、カビの生育観察を実施した。観察結果を表9に示す。
表9において、「−」はカビの発生が確認できなかったことを意味し、「±」は注視することによりカビの発生が確認できたことを意味し、「+」は一見してカビの発生が確認できたことを意味する。本実施例2では、「±」の状態になるまでの保存時間を日持ち時間とした。表9から、試験例25の日持ち時間は63時間であり、試験例26の日持ち時間は60時間であることが分かった。
一方、試料の日持ち時間を予測するための式(5)に、検証用試料のパラメータを当てはめると、試験例25ではt=61.4となり、試験例26では、t=58.8となる。よって、式(5)を用いることにより、チーズ蒸しパンの日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
本実施例2により、予測対象となる食品の保存温度が同一であり、静菌成分以外のpH値を調製するものを添加しないという条件で、食品の水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
実施例3(フラワーペースト)
3−1.試料の作製手順
以下の1)〜5)の手順で、フラワーペーストの試料を作製した。
1)あらかじめ粉体原料(グラニュー糖、コーンスターチ、薄力粉、ゲルアップ※PI(ゲル化剤)、全脂粉乳)、D−ソルビトール、および2種類の静菌成分(グリシン、アートフレッシュ※50/50)の少なくとも一方を、計量し混合した。なお、D−ソルビトールは、水分活性を調整するための高保水性の粉末素材であり、アートフレッシュ※50/50は、ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームを含む日持ち向上剤である。
2)鍋に液体原料(水飴、全卵(裏ごし))および水を計量し、手順1)で作製した混合物の粉体を少しずつ加えながら撹拌混合した。
3)無塩バターを加えてから鍋を火にかけ、ヘラでよくかき混ぜた。
4)焦げ付かないようにヘラでかき混ぜながら、弱火で長時間加熱し、歩留まり100%とした。
5)加熱終了後、pH調整のためフィチン酸を添加し、混合した。
なお、原料の混合比率は表10の通りであった。
また、D−ソルビトールの添加量は、例えば水分活性を0.92に調整する場合5.0(%)であり、水分活性を0.95に調整する場合10.0(%)であった。また、D−ソルビトールの添加量が異なる試料同士で、各原料の比率が等しくなるように、水分量を調整した。
3−2.保存試験による腐敗日数の測定
試料を室温にて冷却後、Bacillus subtilis(枯草菌)を10cfu/gとなるように接種した。そして、各試料の菌数を経時的に測定した。菌の測定は、食品衛生検査指針に基づき、菌を35℃にて2日間培養することにより行った。菌数が1,000,000cfu/gとなった日を腐敗日とし、各試料の作製から腐敗日までの腐敗日数を算出した。算出結果を表11に示す。
3−3.予測式の決定
表11の結果に基づき、上述の式(2)における係数を回帰分析法によって演算し、b=−1.65、c=−19.62、d=1.88、d=、20.04、e=29.30と決定した。なお、試験例27〜36では、全ての試料の保存温度が同一であったため、温度に対応する係数aを0とした。これにより、試料の日持ち日数を予測するための下記式(6)を決定した。
t=exp(−1.65×pH−19.62×Aw+1.88×Q+20.04×Q+29.30)…(6)
t:日持ち日数(日)
pH:pH値
Aw:水分活性(Aw)
:グリシンの添加量(%)
:アートフレッシュ※50/50の添加量(%)
3−4.検証
式(6)によって、フラワーペーストの日持ち日数を正確に予測できることを検証するため、上記「3−1.試料の作製手順」に従って、2つの検証用試料を作製した。このとき、一方の検証用試料には、静菌成分としてグリシンを0.75%、アートフレッシュ※50/50を0.05%添加し、水分活性が0.97Aw、pH値が6.8となるように、D−ソルビトールおよびフィチン酸を添加した。また、他方の検証用試料には、静菌成分としてグリシンを1.0%、アートフレッシュ※50/50を0.05%添加し、水分活性が0.95Aw、pH値が7.0となるように、D−ソルビトールおよびフィチン酸を添加した。そして、上記「3−2.保存試験による腐敗日数の測定」に従って、検証用試料に枯草菌を接種して、検証用試料の腐敗日数を測定した。測定結果を表12に示す。
一方、試料の日持ち時間を予測するための式(6)に、検証用試料のパラメータを当てはめると、試験例37ではt=4.3となり、試験例38では、t=7.3となる。よって、式(6)を用いることにより、フラワーペーストの腐敗日数を正確に予測できることが分かった。
本実施例3により、予測対象となる食品の保存温度が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品のpH値、水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測できることが分かった。また、複数種類の静菌成分を添加する場合であっても、式(3)に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
実施例4(ホワイトソース)
4−1.試料の作製手順
以下の1)〜3)の手順で、ホワイトソースの試料を作製した。
1)市販のホワイトソース缶詰と牛乳を1:1で混合した。
2)静菌成分としてアートフレッシュ※NO.101を選択的に添加した。
3)塩酸および水酸化ナトリウムを添加して、所望のpH値(6.0または6.5)に調整した。
4−2.保存試験による日持ち時間の測定
試料にBacillus cereus(セレウス菌)を10cfu/g(=2Log cfu/g)となるように接種し、90℃で20分加熱殺菌して、直ちに冷却した。その後、試験区毎に、15℃、25℃、30℃の各温度で保存した。そして、各試料の菌数を経時的に測定した。菌の測定は、食品衛生検査指針に基づき、菌を30℃にて2日間培養することにより行った。菌数の測定結果を表13〜17に示す。
なお、表13〜17において、保存時間毎の菌数の単位はLog cfu/gである。
4−3.予測式の決定
表13〜17の測定結果を、上述の式(3)にフィッティングさせることにより、試料の菌数が2Log cfu/gから安全に摂取可能な数の上限(6Log cfu/g)に達するまでの時間(日持ち時間)を算出した。算出結果を表18に示す。
表18の結果に基づき、上述の式(1)における係数を回帰分析法によって演算し、a=−0.133、b=−0.714、d=0.975、e=10.251と決定した。なお、試験例39〜49では、水分活性が一定であったため、水分活性に対応する係数cは0とした。これにより、試料の日持ち時間を予測するための下記式(7)を決定した。
t=exp(−0.133×T−0.714×pH+0.975×Q+10.251)…(7)
t:日持ち時間(hr.)
T:保存温度(℃)
pH:pH値
Q:添加量(%)
4−4.検証
式(7)によって、ホワイトソースの日持ち時間を正確に予測できることを検証するため、上記「4−1.試料の作製手順」に従って、14個の検証用試料を作製した。そして、上記「4−2.保存試験による日持ち時間の測定」および「4−3.予測式の決定」に従い、各検証用試料について、菌数が2Log cfu/gから6Log cfu/gに達するまでの時間(日持ち時間)を実測値として算出した。また、各検証用試料について、式(7)を用いて、日持ち時間を予測した。各検証用試料の試験条件、実測値として算出した日持ち時間(実測時間)、および式(7)によって予測した日持ち時間(予測時間)を表19に示す。
表19から、実測日数と予測日数との間に非常に高い相関があることが分かった。よって、式(7)を用いることにより、ホワイトソースの日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
本実施例4により、予測対象となる食品の水分活性が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品の保存温度、pH値および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
実施例5(ソーセージ)
5−1.試料の作製手順
以下の1)〜3)の手順で、ソーセージの試料を作製した。
1)豚肉65部、食塩1.5部、砂糖0.5部、でん粉5部、ピロリン酸ナトリウム0.2部、フマル酸、及び表20に示す量の静菌成分(乳酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム)に、氷水を加えて全量100部とした。なお、フマル酸はソーセージのpHが5.7になる量を加えた。
2)フードカッターで90秒間混合した。
3)混合した生地を、塩化ビニリデンケーシング(直径50mm)に充填し、両端を結束した。これを80℃の温浴中で40分間加熱後、氷水で急冷し、0℃で12時間静置した。
5−2.保存試験による日持ち時間の測定
調製したソーセージにLactobacillus viridescensを10cfu/g(=1Log cfu/g)となるように接種し、真空包装したものを10℃で保存した。そして、各試料の菌数を経時的に測定した。菌の測定は、食品衛生検査指針に基づき、菌を30℃にて2日間培養することにより行った。菌数の測定結果を表21に示す。
なお、表21において、保存日数毎の菌数の単位はLog cfu/gである。
表21の測定結果を、上述の式(3)にフィッティングさせることにより、試料の菌数が1Log cfu/gから安全に摂取可能な数の上限(5Log cfu/g)に達する時間(日持ち時間)を算出した。算出結果を表22に示す。
5−3.予測式の決定
表22の結果に基づき、上述の式(2)における係数を回帰分析法によって演算し、d=0.3953、d=35.7094、e=2.1524と決定した。なお、試験例64〜68では、全ての試料の保存温度、pHおよび水分活性が同一であったため、保存温度、pHおよび水分活性に対応する係数a、bおよびcを0と決定した。これにより、試料の日持ち時間tを予測するための下記式(8)を決定した。
t=exp(0.3953×Q+35.7094×Q+2.1524)…(8)
t:日持ち時間(日)
:乳酸ナトリウムの添加量(%)
:亜硝酸ナトリウムの添加量(%)
5−4.検証
式(8)によって、ソーセージの日持ち時間を正確に予測できることを検証するため、検証用試料を作製した。前記検証用試料は、静菌成分として亜硝酸ナトリウムを0.02%使用したことを除き、上記「5−1.試料の作製手順」に従って作製した。そして、上記「5−2.保存試験による菌数の測定」に従って、検証用試料にLactobacillus viridescensを接種し、真空包装したものを10℃で保存した。そして、各試料の菌数を経時的に測定した。検証用試料のpH及び水分活性は、試験例64〜68と同一であった。菌の測定は、食品衛生検査指針に基づき、菌を30℃にて2日間培養することにより行った。検証用試料の菌数の測定結果(試験例69)を表23に示す。
続いて、試験例69の測定結果を、上述の式(3)にフィッティングさせることにより、検証用試料の日持ち時間を実測値として算出すると17.0日であった。一方、試料の日持ち時間を予測するための式(8)に、検証用試料のパラメータを当てはめると、試験例69ではt=17.6となった。よって、式(8)を用いることにより、ソーセージの腐敗日数を正確に予測できることが分かった。
実施例6(培地上の菌数)
6−1.試料の作成手順
以下の1)〜2)の手順で、培地の試料を作製した。
1)121℃、15分間加熱殺菌し、50℃に保温した標準寒天培地に0.1規定の希塩酸を加え、培地のpHを6.0、6.5又は6.8に調整した。
2)pH調整した培地にBacillus cereus(セレウス菌)を3Log cfu/gとなるように接種し、25℃に冷却してセレウス菌接種寒天平板を調製した。
6−2.保存試験による培養時間の測定
嫌気ジャーにO吸収・CO発生剤と試料を入れ、嫌気ジャーの炭酸ガス濃度を0%、10%、30%又は50%に調整し、25℃で培養した。そして、各試料の菌数を経時的に測定し、6Log cfu/gとなる時間を求めた。結果を表24に示す。
6−3.予測式の決定
表24の結果に基づき上述の式(1)における係数を回帰分析法によって演算し、b=−0.33607、d=0.008339、e=4.750628と決定した。なお、試験例70〜81では、全ての試料の保存温度と水分活性が同一であるため、保存温度と水分活性に対応する係数aおよびcは0とした。これにより、試料の菌数が3Log cfu/gから6Log cfu/gに増殖するまでの時間を予測するための下記式(9)を決定した。
t=exp(−0.33607×pH+0.008339×Q+4.750628)…(9)
t:日持ち時間(hr.)
pH:pH値
Q:添加量(炭酸ガス濃度)(%)
6−4.検証
式(9)によって、培地上でBacillus cereusが3Log cfu/gから6Log cfu/gに増殖するまでの時間を予測するため、上記「6−1.試料作成手順」に従って、4個の検証用試料を作成した。そして、上記「6−2.保存試験による日持ち時間の測定」および「6−3.予測式の決定」に従い、各検証用試料について、菌数が3Log cfu/gから6Log cfu/gに達するまでの時間(日持ち時間)を実測値として算出した。また、各検証用試料について、式(9)を用いて、日持ち時間を予測した。各検証用試料の試験条件、実測値として算出した日持ち時間(実測時間)、および式(9)によって予測した日持ち時間(予測時間)を表25に示す。
表25から実測時間と予測時間との間に非常に高い相関があることが分かった。よって、式(9)を用いることにより、培地の日持ち時間を正確に予測できることが分かった。
7.総括
実施例1では、予測対象となる食品の水分活性が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品の保存温度および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測することができた。実施例2では、予測対象となる食品の保存温度が同一であり、pH値を調製するものを添加しないという条件で、食品の水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測することができた。実施例3では、予測対象となる食品の保存温度が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品のpH値、水分活性および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測することができた。実施例4では、予測対象となる食品の水分活性が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品の保存温度、pH値および静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測することができた。実施例5では、予測対象となる食品の保存温度、pHおよび水分活性が保存試験における試料と同一であるという条件で、食品の静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測することができた。実施例6では、予測対象となる培地の保存温度および水分活性が保存試験における試料と同一であるという条件で、培地のpHおよび静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間を正確に予測することができた。
これらの実施例から、少なくとも食品の静菌成分の添加量に基づいて、食品の日持ち時間等を正確に予測することができることが分かった。
本発明に係る方法は、食品の消費期限の設定だけでなく、消費期限の設定にも適用することができる。

Claims (4)

  1. 食品中の菌数の増殖に影響を与えるパラメータに基づいて、前記菌数が所定数に増殖するまでの時間を予測する方法であって、
    前記パラメータは、前記食品の静菌成分の添加量を含むことを特徴とする方法。
  2. 前記パラメータは、前記食品の保存温度、pH値および水分活性の少なくともいずれかをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 下記式(1)に基づいて前記時間を予測することを特徴とする請求項2に記載の方法。
    t=exp(a×T+b×pH+c×Aw+d×Q+e)…(1)
    t:時間
    T:保存温度
    pH:pH値
    Aw:水分活性
    Q:添加量
    a〜e:係数
  4. 前記静菌成分がn種類(nは2以上の整数)の静菌成分を含み、
    下記式(2)に基づいて前記時間を予測することを特徴とする請求項2に記載の方法。
    t:時間
    T:保存温度
    pH:pH値
    Aw:水分活性
    :第k静菌成分(kは1〜nの整数)の添加量
    a〜c、d、e:係数
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