ところが、前記特許文献1に記載された構成では、EGRガスを還流させないときには、ブローバイガス中の水の氷結を防止することができない、言い換えると、EGRガスを還流させているエンジンの運転状態でしか、ブローバイガス中の水の氷結を防止する効果を得ることができない。
また、前記特許文献2に記載された発明では、電気ヒータが別途必要になる上に、燃費が低下してしまうという不都合がある。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ブローバイガス中の水の氷結を、エンジンの運転状態に関わらず、かつ、燃費を低下させずに防止することにある。
本願発明者らの検討によると、ブローバイガスの導入路の接続口の付近において水が氷結してしまうメカニズムは、以下のように推測される。すなわち、コンプレッサよりも上流側の吸気管内においては、コンプレッサの回転に起因する圧力波が生じ、圧力波の節が、ブローバイガスの導入路の接続口付近に位置する場合がある。その場合、接続口辺りに付着した水は、吸気の流れに浚われずに留まるようになる。外気温が低い(つまり、吸気の温度が低い)と、接続口辺りに留まった水が氷結してしまうと共に、氷が次第に成長するようになる。そうして、大きくなった氷が、吸気の流れによって、吸気管の内壁から離脱してしまうことになる。
本願発明者らは、このメカニズムに基づき、コンプレッサよりも上流側の吸気管内に生じる圧力波の節の位置を変更させれば、接続口辺りに付着したブローバイガス中の水が留まってしまうことが防止され、水の氷結も防止することができる点に着目して、ここに開示する技術を完成するに至った。
具体的に、ここに開示する技術は、過給機付きエンジンの制御装置に係る。この制御装置は、エンジン本体に接続されるよう構成された吸気管と、前記吸気管に介設されたコンプレッサを有するよう構成されたターボ過給機と、前記コンプレッサよりも上流で前記吸気管に接続されるよう構成されたブローバイガスの導入路と、前記ターボ過給機の目標過給圧を設定するよう構成された目標設定部と、過給圧が目標過給圧となるようにエンジンを制御するよう構成された制御部と、外気温を検知するよう構成された外気温検知部と、前記外気温検知部が検知した外気温が所定温度未満でかつ、前記目標設定部が設定した前記目標過給圧において前記コンプレッサよりも上流の前記吸気管内に形成される圧力波の節が、前記導入路の接続口に位置するときに、前記目標過給圧を補正するよう構成された目標補正部と、を備えている。
この構成のエンジンにおいては、目標設定部が設定した目標過給圧に基づいて、制御部は、過給圧が目標過給圧となるようにエンジンを制御する。
目標補正部は、外気温検知部が検知した外気温が所定温度未満でかつ、目標設定部が設定した目標過給圧においてコンプレッサよりも上流の吸気管内に形成される圧力波の節が、ブローバイガスの導入路の接続口に位置するときには、目標過給圧を補正する。目標過給圧を補正することによって、コンプレッサの動作状態が変更されるから、コンプレッサよりも上流の吸気管内における圧力状態が変化する。その結果、圧力波の節が、導入路の接続口の位置からずれる。
圧力波の節が、ブローバイガスの導入路の接続口の位置からずれると、接続口を通じて吸気管内に導入されるブローバイガス中の水が接続口の付近で吸気管の内壁に付着したとしても、水は、氷結する前に吸気の流れによって浚われるから氷結しなくなる。
この構成では、目標過給圧を変更するだけであるから、エンジンの運転状態に関わらず、ブローバイガス中の水の氷結を防止することが可能であると共に、電気ヒータも用いないため、燃費の悪化を回避することができる。
前記目標設定部は、車両の走行状態に基づいてベース目標過給圧を決定すると共に、前記ベース目標過給圧に、前記エンジンの運転状態に応じて設定した上乗せ分を加えて前記目標過給圧を設定し、前記ターボ過給機付きエンジンの制御装置は、前記目標設定部が前記ベース目標過給圧に加える上乗せ分に応じて、スロットルバルブの目標開度を低下させる補正を行うよう構成されたスロットルバルブ開度補正部を備え、前記目標補正部は、前記上乗せ分を加えた前記目標過給圧よりも低くなるように前記目標過給圧を補正し、前記スロットルバルブ開度補正部は、前記目標補正部が前記目標過給圧を低下させる補正をしたときには、前記目標過給圧の低下量に応じて、低下補正をした前記スロットルバルブの目標開度を大きくする補正を行う、としてもよい。
目標設定部が、車両の走行状態に基づいて決定したベース目標過給圧に、エンジンの運転状態に応じて設定した上乗せ分を加えて目標過給圧を設定すると共に、スロットルバルブ開度補正部が、ベース目標過給圧に加える上乗せ分に応じて、スロットルバルブの目標開度を低下させることによって、運転者の加速要求に対するレスポンスを良好にすることが可能になる。
つまり、ベース目標過給圧よりも過給圧を予め高めておく一方で、スロットルバルブの開度を閉じ側にすることによって、運転者の要求に応じた走行トルクを得ることができると共に、スロットルバルブの開き代(しろ)が大きくなるため、運転者がアクセルペダルを踏み込み方向に操作したときに、スロットルバルブの開度を速やかに大きくして、それに応じた加速を行うことが可能になる。
そして、前記の構成では、目標過給圧の補正を行う場合に、目標補正部は、上乗せ分を加えた目標過給圧よりも低くなるように、目標過給圧を補正する。こうすることで、コンプレッサよりも上流側における吸気管内の圧力状態が変更され、前述したように、ブローバイガス中の水の氷結を防止することが可能になる。また、目標過給圧を下げる分、スロットルバルブ開度補正部が、スロットルバルブの目標開度を大きくする補正を行うことによって、運転者の要求に応じた走行トルクが得られる。
また、コンプレッサよりも上流側における吸気管内の圧力状態を変更する上で、目標過給圧を高めるよう補正するのではなく、目標過給圧を下げるよう補正することによって、燃費の悪化を防止することが可能になる。
前記過給機付きエンジンの制御装置は、スロットルバルブよりも下流で前記吸気管に接続されるよう構成されたブローバイガスの第2導入路を備え、前記目標補正部は、前記エンジンの目標充填効率が所定以上のときに、前記目標過給圧を補正する、としてもよい。
第2導入路は、スロットルバルブよりも下流の吸気管内における負圧を利用して、ブローバイガスを吸気管に導入する。従って、第2導入路は、エンジンの目標充填効率が所定よりも低いとき、換言するとスロットルバルブを閉じ気味にしてスロットルバルブよりも下流の吸気管内が負圧状態となるときには、第2導入路を通じてブローバイガスを吸気管に導入する。第2導入路は、コンプレッサよりも下流で吸気管に接続されるため、第2導入路を通じて吸気管内に導入されるブローバイガス中の水が氷結しても、コンプレッサにダメージを与えるという問題は生じない。従って、目標補正部が目標過給圧を補正する必要がない。
一方、エンジンの目標充填効率が所定以上のときには、スロットルバルブを開き気味にしてスロットルバルブよりも下流の吸気管内が負圧になり難いため、第2導入路を通じてではなく、コンプレッサの上流に接続された導入路を通じて、ブローバイガスを吸気管に導入する。そのため、目標補正部は、前述したように、必要に応じて目標過給圧の補正を行うことにより、ブローバイガス中の水の氷結を防止する。
前記目標補正部は、前記エンジンの目標充填効率が低いときは、目標充填効率が高いときよりも前記目標過給圧の低下量が小さくなるように、前記目標過給圧を補正する、としてもよい。
エンジンの目標充填効率が低いときは、目標過給圧が元々低く設定されるため、目標過給圧を大きく低下するように補正してしまうと、目標過給圧が低くなりすぎてしまう。
そこで、エンジンの目標充填効率が低いときは、前記目標過給圧の低下量が相対的に小さくなるように補正することにより、エンジンが低負荷の運転状態にあるときに、目標過給圧が低くなり過ぎることが防止される。
前記ブローバイガスの導入路は、前記吸気管において前記コンプレッサの近傍に接続され、前記目標補正部は、前記エンジンの回転数が所定回転数未満のときに、前記目標過給圧を補正する、としてもよい。
ブローバイガスの導入路を、コンプレッサの近傍に接続することにより、ターボ過給機のタービンの熱が、ハウジングを通じて、コンプレッサ上流のブローバイガスの導入路の接続口付近に伝わる。この熱によって、接続口付近に付着した水の氷結を防止することができる。
ここで、エンジンの回転数が所定回転数を超えるときには、タービンの温度が高くなるため、タービンの熱によって、水の氷結を効果的に防止することができる。従って、目標補正部が目標過給圧を補正する必要がない。
一方、エンジンの回転数が所定回転数以下のときには、タービンの温度が相対的に低くなり、タービンの熱によって水の氷結を防止することが難しくなる。そこで、目標補正部が目標過給圧を補正することにより、前述したように、ブローバイガス中の水の氷結を効果的に防止することが可能になる。
前記目標補正部は、前記エンジンの回転数が高いときは、回転数が低いときよりも前記目標過給圧の低下量が小さくなるように、前記目標過給圧を補正する、としてもよい。
前述したように、エンジンの回転数が所定回転数以上のときには、目標過給圧の補正を行わないため、目標過給圧は相対的に高く設定される。ここで、エンジンの回転数が次第に高くなって、目標過給圧の補正により目標過給圧を低下させている状態から目標過給圧を補正しない状態へと移行するときに、目標過給圧が急変しないことが望ましい。
そこで、前記の構成のように、目標過給圧の補正を行うときに、エンジンの回転数が高いときは、回転数が低いときよりも目標過給圧の低下量が小さくなるように補正する。こうすることで、エンジンの回転数が高いときは、補正された目標過給圧が比較的高くなるため、目標過給圧を補正しない状態へと移行したときに、目標過給圧が急変することが回避される。
前記ターボ過給機付きエンジンの制御装置は、エンジンオイル中に蓄積された水分量を推定する蓄積水分量推定部をさらに備え、前記目標補正部は、前記蓄積水分量推定部が推定した水分量が所定量以上であるときに、前記目標過給圧を補正する、としてもよい。
エンジンオイル中に蓄積された水分量が多いときには、ブローバイガス中の水分が多くなって、氷結を招く可能性が高まる。そこで、エンジンオイル中に蓄積された水分量が多いときに、目標過給圧を補正することにより、ブローバイガス中の水の氷結を効果的に防止することが可能になる。換言すれば、エンジンオイル中に蓄積された水分量が多いときに限って、目標過給圧を補正することにより、目標過給圧の補正を必要最小限に制限することが可能になる。目標過給圧の補正をしないときには、前述したように、ベース目標過給圧に上乗せ分を加えて目標過給圧を設定することになるから、運転者の加速要求に対するレスポンスを良好にすることが可能になる。
ここに開示する技術はまた、エンジン本体に接続される吸気管と、前記吸気管に介設されたコンプレッサを有するターボ過給機と、前記コンプレッサよりも上流で前記吸気管に接続されたブローバイガスの導入路と、前記ターボ過給機の目標過給圧を設定する目標設定部と、過給圧が目標過給圧となるようにエンジンを制御する制御部と、外気温を検知する外気温検知部と、前記外気温検知部が検知した外気温が所定温度未満でかつ、前記目標設定部が設定した前記目標過給圧において前記コンプレッサよりも上流の前記吸気管内に形成される圧力波の節が、前記導入路の接続口に位置するときに、前記接続口の位置を変更する変更部と、を備える。
そして、前記変更部は、前記導入路の接続口として、前記吸気管に対する接続位置が異なる第1及び第2接続口を有し、前記ブローバイガスを導入する接続口を、第1接続口と第2接続口との間で切り替えるよう構成されている。
こうすることで、コンプレッサよりも上流の吸気管内に形成される圧力波の節が、導入路の第1接続口に位置するときに、第2接続口は第1接続口とは位置が異なるため、圧力波の節は、第2接続口に位置しない。そこで、変更部は、圧力波の節が第1接続口に位置するときには、ブローバイガスを、第2接続口を通じて吸気管内に導入する。また、変更部は、圧力波の節が第2接続口に位置するときには、ブローバイガスを、第1接続口を通じて吸気管内に導入する。こうすることで、圧力波の節が、ブローバイガスが導入される接続口に位置しなくなるから、前記と同様に、ブローバイガス中の水の氷結が防止される。
以上説明したように、前記の過給機付きエンジンの制御装置によると、圧力波の節が、吸気管内にブローバイガスを導入する接続口に位置しなくなるから、ブローバイガス中の水の氷結を防止することができる。
以下、ここに開示する過給機付きエンジンの制御装置について、図面を参照しながら詳細に説明をする。尚、以下の説明は例示である。
〈エンジンの構成〉
図1は、実施形態による過給機付きエンジンの制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。エンジンは、4輪自動車に搭載されるエンジンである。エンジン100(例えばガソリンエンジン)は、主に、外部から導入された吸気(空気)が通過する吸気管10と、吸気管10から供給された吸気と燃料噴射弁23から供給された燃料との混合気を、吸気管10に接続された複数の気筒(1つのみ図示)21各々の内部で燃焼させて自動車の動力を発生するエンジン本体20と、このエンジン本体20内の燃焼により発生した排気を排出する排気通路30と、エンジン100全体を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを有する。
吸気管10には、上流側から順に、外部から導入された吸気を浄化するエアクリーナ2と、通過する吸気を昇圧させる、ターボ過給機4のコンプレッサ4aと、通過する吸気を冷却するインタークーラ9と、通過する吸気の流量を調整するスロットルバルブ11と、エンジン本体20に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク13aを有し、吸気ポート14に接続された吸気マニホールド13とが設けられている。
また、吸気管10には、コンプレッサ4aによって過給された吸気の一部を、コンプレッサ4aの上流側に還流するためのエアバイパス通路6が設けられている。エアバイパス通路6は、一端がコンプレッサ4aの下流側で且つスロットルバルブ11の上流側の吸気管10に接続され、他端がコンプレッサ4aの上流側の吸気管10に接続されている。また、このエアバイパス通路6には、エアバイパス通路6を流れる吸気の流量を制御するエアバイパスバルブ7が設けられている。
エンジン本体20は、主に、吸気ポート14を開閉する吸気バルブ22と、気筒21内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁23と、気筒21内に供給された吸気と燃料との混合気に点火する点火プラグ24と、気筒21内での混合気の燃焼により往復運動するピストン27と、ピストン27の往復運動により回転されるクランクシャフト28と、排気ポート31を開閉する排気バルブ29とを有する。
クランクシャフト28には、不図示の吸気カムシャフトと排気カムシャフトとが駆動連結されている。吸気カムシャフトは、クランクシャフト28に連動して回転することにより、吸気バルブ22を駆動する。この駆動によって、吸気バルブ22は、吸気ポート14を所定のタイミングで開閉するように往復運動する。同様に、排気カムシャフトは、クランクシャフト28に連動して回転することにより、排気バルブ29を駆動する。この駆動によって、排気バルブ29は、排気ポート31を所定のタイミングで開閉するように往復運動する。
エンジン本体20は、吸気カムシャフトの位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(吸気VVT)25と、排気カムシャフトの位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(排気VVT)26とを備えている。
吸気VVT25は、吸気カムシャフトの位相を進角又は遅角させることによって、吸気バルブ22の開時期及び閉時期を連続的に変更する。同様に、排気VVT26は、排気カムシャフトの位相を進角又は遅角させることによって、排気バルブ29の開時期及び閉時期を連続的に変更する。
排気通路30には、上流側から順に、通過する排気によって回転させられ、この回転によってコンプレッサ4aを回転駆動する、ターボ過給機4のタービン4bと、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などの、排気の浄化機能を有する排気浄化触媒37、38とが設けられている。
また、排気通路30には、排気を吸気管10に還流するEGR通路32が接続されている。このEGR通路32は、一端がタービン4bの上流側の排気通路30に接続され、他端がスロットルバルブ11の下流側の吸気管10に接続されている。加えて、EGR通路32には、還流させる排気を冷却するEGRクーラ33と、EGR通路32を流れる排気の流量を制御するEGRバルブ34とが設けられている。
さらに、排気通路30には、ターボ過給機4のタービン4bを迂回させるタービンバイパス通路35が設けられている。このタービンバイパス通路35には、タービンバイパス通路35を流れる排気の流量を制御するウェイストゲートバルブ(以下、「WGバルブ」と称する)36が設けられている。
また、このエンジン100は、燃焼室から漏出したブローバイガスを吸気管10に還流するブローバイガス還流装置を有している。ブローバイガス還流装置は、エンジン100のシリンダヘッドに接続されかつ、燃焼室からクランクケースやシリンダヘッド等に漏出したブローバイガスを吸気管10内に導入するための第1導入路81と、シリンダブロックに接続されかつ、ブローバイガスを吸気管10内に導入するための第2導入路82とを有している。
第1導入路81は、図2に示すように、吸気管10におけるコンプレッサ4aの上流側近傍に接続される。具体的には、コンプレッサ4aのハウジング41に接続される吸気管10に、第1導入路81が接続されている。第1導入路81は、コンプレッサ4aの近傍であるため、排気通路30に介設されたタービン4bの近傍でもある。
第2導入路82は、サージタンク13aに接続される。第2導入路82のPCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブ83は、サージタンク13aとクランクケースとの差圧に応じて開閉する。具体的には、スロットルバルブ11が閉じ気味になって、サージタンク13aが負圧状態にあるときにPCVバルブ83が開いて、ブローバイガスが、第2導入路82を通じて、吸気管10に導入される。
図1に示すエンジン100には、各種のセンサが設けられている。具体的には、エンジン100の吸気系においては、エアクリーナ2の下流側の吸気管10(詳しくは、エアクリーナ2とコンプレッサ4aとの間の吸気管10)に、吸気流量を検出するエアフロセンサ61と吸気温度を検出する第1温度センサ62とが設けられ、コンプレッサ4aとスロットルバルブ11との間の吸気管10に、過給圧を検出する第1圧力センサ63が設けられ、スロットルバルブ11の下流側の吸気管10(詳しくは、サージタンク13a内)に、サージタンク13a内の圧力であるインマニ圧力を検出する第2圧力センサ64が設けられている。この第2圧力センサ64には、サージタンク13a内の温度であるインマニ温度を検出する温度センサが内蔵されている。
そして、エンジン本体20においては、クランクシャフト28のクランク角を検出するクランク角センサ69、吸気カムシャフトのカム角を検出する吸気側カム角センサ70、及び、排気カムシャフトのカム角を検出する排気側カム角センサ71が設けられている。
さらに、エンジン100の排気系においては、EGRバルブ34の開度であるEGR開度を検出するEGR開度センサ65、及び、WGバルブ36の開度であるWG開度を検出するWG開度センサ66が設けられ、タービン4bの下流側の排気通路30(詳しくは、タービン4bと排気浄化触媒37との間の排気通路30)に、排気中の酸素濃度を検出するO2センサ67と排気温度を検出する排気温度センサ68とが設けられている。
エアフロセンサ61は、検出した吸気流量に対応する検出信号S61をECU50に供給し、第1温度センサ62は、検出した吸気温度に対応する検出信号S62をECU50に供給し、第1圧力センサ63は、検出した過給圧に対応する検出信号S63をECU50に供給し、第2圧力センサ64は、検出したインマニ圧力とインマニ温度に対応する検出信号S64をECU50に供給し、EGR開度センサ65は、検出したEGR開度に対応する検出信号S65をECU50に供給し、WG開度センサ66は、検出したWG開度に対応する検出信号S66をECU50に供給し、O2センサ67は、検出した酸素濃度に対応する検出信号S67をECU50に供給し、排気温度センサ68は、検出した排気温度に対応する検出信号S68をECU50に供給する。クランク角センサ69は、検出したクランク角に対応する検出信号S69をECU50に供給する。吸気側カム角センサ70及び排気側カム角センサ71は、それぞれ、検出したカム角に対応する検出信号S70,S71をECU50に供給する。また、エンジン100には、大気圧を検出する大気圧センサ60が設けられており、この大気圧センサ60は、検出した大気圧に対応する検出信号S60をECU50に供給する。エンジン100にはさらに、外気温を検知する外気温センサ72が設けられており、この外気温センサ72は、検知した外気温に対応する検知信号S72をECU50に供給する。
ECU50は、CPUと、CPU上で実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを格納するためのROMやRAMの如き内部メモリと、を備えるコンピュータにより構成される。ECU50は、上述した各種センサから供給された検出信号に基づいて、種々の制御や処理を行う。なお、ECU50は、「制御部」の一例である。
ECU50は、エンジン100に要求される出力トルク(以下、「目標トルク」と称する)を基準として、スロットルバルブ11及びWGバルブ36の開度や点火プラグ24による点火時期、吸気バルブ22及び排気バルブ29の開閉時期、並びに、燃料噴射弁23からの燃料噴射量などを制御する、いわゆるトルクベース制御を実行する。トルクベース制御では、自動車の走行状態に基づいて目標トルクを取得して、各アクチュエータの制御値を、この目標トルクが得られるような基本値に設定する。
ECU50によるトルクベース制御において、主に、スロットルバルブ11及びWGバルブ36の制御について図3を参照しながら説明する。図3は、トルクベース制御に係る処理のフローチャートである。
トルクベース制御では、まず、ステップS1において、ECU50が自動車の走行状態を読み込む。具体的には、クランク角センサ69に基づいて算出されたエンジン本体20の回転速度(以下、「エンジン回転数」と称する)、車速、アクセル開度、及び、変速比等の、エンジン100の運転状態を含む自動車の走行状態を読み込む。
ステップS2において、ECU50は、検知された走行状態に応じた目標加速度を取得する。
ステップS3において、ECU50は、設定された目標加速度を実現するために必要な目標トルクを取得する。
ステップS4において、ECU50は、取得された目標トルクを実現するために必要なエンジン100の充填効率の目標値(以下、「目標充填効率」と称する)を設定する。詳しくは、目標充填効率は、目標トルク、エンジン回転数、及び、図示平均有効圧力の目標値(以下、「目標図示平均有効圧力」と称する)に基づいて求められる。目標図示平均有効圧力は、目標トルク、並びに、トルク損失となる機械抵抗及びポンプ損失(ポンピングロス)に基づいて求められる。
このステップS4の後には、ステップS5〜S8とステップS9〜S12とが並行して行われる。
ステップS5において、ECU50は、設定された目標充填効率を実現するために必要な吸気マニホールド13内の吸気の量の目標値(以下、「目標インマニ空気量」と称する)を取得する。目標インマニ空気量は、吸気マニホールド13内の吸気密度を基準とした体積効率、所謂インマニ基準の体積効率と、吸気マニホールド13の容積(以下、「インマニ容積」と称する)Viと、気筒21の容積(以下、「シリンダ容積」と称する)Vcと、気筒21内に吸入される1行程あたりの吸気の質量であるシリンダ吸入空気量Qcrの目標値(以下、「目標シリンダ空気量」と称する)とに基づいて求められる。インマニ容積Viは、予め規定されており、ECU50の内部メモリに記憶されている。シリンダ容積Vcは、予め規定されており、ECU50の内部メモリに記憶されている。目標シリンダ空気量は、ステップS4で設定された目標充填効率と、シリンダ容積Vcと、標準大気密度ρ0とに基づいて求められる。標準大気密度ρ0は、標準状態における大気の密度(約1.2kg[kg/m3])である。
ステップS6において、ECU50は、目標インマニ空気量を実現するために必要となる、スロットルバルブ11を通過する吸気の流量の目標値(以下、「目標スロットル通過流量」と称する)を取得する。この目標スロットル通過流量は、ステップS4で取得された目標充填効率と、ステップS5で取得された目標インマニ空気量と、現在のインマニ空気量の推定値(以下、「実インマニ空気量」と称する)とに基づいて求められる。実インマニ空気量は、第2圧力センサ64により検出されたインマニ圧力及びインマニ温度に基づいて推定される。なお、この実インマニ空気量は、吸気マニホールド13に流入する空気量と吸気マニホールド13から気筒21内へ流出する空気量との間の収支を計算することにより推定してもよい。
ステップS7において、ECU50は、取得された目標スロットル通過流量を実現するために必要となる、スロットルバルブ11のバルブ開度の目標値(以下、「目標スロットル開度」と称する)を設定する。この目標スロットル開度は、目標スロットル通過流量と、第1圧力センサ63により検出された、スロットルバルブ11上流側の吸気圧力(過給圧)と、第2圧力センサ64により検出された、スロットルバルブ11下流側の吸気圧力とに基づいて設定される。尚、後述するように、目標過給圧の設定に際し、スロットルバルブ11のバルブ開度は補正される場合がある。
そして、ステップS8において、ECU50は、スロットルバルブ11のバルブ開度が目標スロットル開度となるようにスロットルバルブ11を駆動するための制御信号を出力すると共に、目標トルクを実現するように、点火プラグ24、吸気VVT25、吸気VVT26及び燃料噴射弁23に対して各々の制御値に対応する制御信号を出力する。
一方で、ステップS9において、ECU50は、目標充填効率を実現するために必要となる、過給圧の目標値である目標過給圧を取得する。目標過給圧の設定に関しては、後で詳述する。
ステップS10において、ECU50は、設定された目標過給圧に基づいて、タービン4bを通過する流量の目標値である目標タービン流量を取得する。詳しくは、目標タービン流量は、コンプレッサ駆動力の目標値である目標コンプレッサ駆動力、及び、エンジン回転数等に基づいて求められる。目標コンプレッサ駆動力は、目標過給圧に基づいて求められる。
ステップS11において、ECU50は、算出された目標タービン流量を実現するために必要な、WGバルブ36のバルブ開度の目標値(以下、「目標WG開度」と称する)を設定する。目標WG開度は、目標タービン流量と排気の総流量とに基づいて求められる。
そして、ステップS12において、ECU50は、WGバルブ36のバルブ開度が目標WG開度となるようにWGバルブ36を駆動するための制御信号を出力する。
なお、これらのステップの順番は一例であり、ステップの順番を可能な範囲で適宜入れ替えたり、複数のステップを並行して処理したりしてもよい。例えば、ステップS5からステップS8まで続くステップと、ステップS9からステップS12まで続くステップとを並行に処理せずに、一つずつ順番に処理してもよい。
〈目標過給圧の設定〉
図4は、ここに開示するターボ過給機付きエンジンの制御装置に関連するECU50の機能構成図を示す。ECU50は、目標過給圧を設定する目標過給圧設定部53と、目標過給圧の設定に必要となる、走行環境取得部51及び蓄積水分量推定部52と、を備えている。
走行環境取得部51は、自動車の走行環境を取得する。具体的に走行環境取得部51は、外気温センサ72が検知した外気温の情報を、自動車の走行環境として取得する。
蓄積水分量推定部52は、エンジンオイル中に蓄積された水分量を推定する。蓄積水分量推定部52は、具体的には、ワンドライブ(つまり、イグニッションオンからイグニッションオフまでの期間)のエンジン冷間運転毎に発生する蓄積水分量を推定する。ここで、「エンジン冷間運転」とは、例えば低外気温(例えば−10℃以下)で且つ低エンジン温度においてエンジン100を始動すると共に、エンジン温度が、蓄積水分が気化を開始して急激に蒸気が発生する所定温度(例えば冷却水温が70℃)に達する前にエンジン100を停止する運転と定義してもよい。
また、蓄積水分量は、エンジン100の内部に発生したブローバイガス量から算出することができる。つまり、エンジン100の内部に発生するブローバイガス量は燃焼した空気(吸気量)により決定されるため、イグニッションオン後、吸入吸気量を検出することで蓄積水分量を算出することができる。そこで、蓄積水分量推定部52は、エアフロセンサ61により検出されたエンジン冷間運転時毎の吸気量を積算して総吸気量を求め、総吸気量に基づいてオイルパン内部に蓄積された蓄積水分量を推定する。
さらに、エンジン100の温度が高くなった状態(例えば水温が70℃、又は、油温が50℃)で、所定時間(例えば10分)以上の運転が継続すると、オイルパン内部に蓄積された水分が全て蒸発をする。蓄積水分量推定部52は、その場合、蓄積水分量をリセットして、ゼロにする。
目標過給圧設定部53は、基本となる目標過給圧を設定する目標設定部54と、第1導入路81を通じて吸気管10内に導入されたブローバイガス中の水分が氷結してしまうことを防止するために、目標過給圧を補正する目標補正部55とを有している。
図5は、目標過給圧設定部53が行う、目標過給圧の設定の概念を説明する図である。図3のフローのステップS9における目標過給圧の設定は、図5に示すように、ベース過給圧マップM1と、レスポンス要求マップM2又はアイシング要求マップM3と、に基づいて行われる。ベース過給圧マップM1、レスポンス要求マップM2、及びアイシング要求マップM3はそれぞれ、ECU50の内部メモリに予め記憶されている。
先ず、ベース過給圧マップM1は、エンジン回転数及び目標充填効率とベース目標過給圧とを関連付けて規定されている。目標設定部54は、図3のフローのステップS4で取得した目標充填効率、エンジン回転数、及び、ベース過給圧マップM1に基づいて、ベース目標過給圧を決定する。
レスポンス要求マップM2は、ベース過給圧マップM1に基づいて決定したベース目標過給圧に上乗せ分を加えて目標過給圧を設定するためのマップである。目標設定部54が、ベース過給圧マップM1とレスポンス要求マップM2とを用いて目標過給圧を設定することにより、運転者の加速要求に対するレスポンスを良好にする。目標設定部54は、ベース目標過給圧を変更するという意味で、ベース目標過給圧を、レスポンス要求マップM2を用いて補正することによって、目標過給圧を設定する、ということができる。
具体的には、レスポンス要求マップM2には、ベース目標過給圧に加える上乗せ分の過給圧が、エンジン回転数及び目標充填効率に関連づけて規定されている。レスポンス要求マップM2を用いて設定される目標過給圧は、ベース目標過給圧よりも高くなる。レスポンス要求マップM2は、低負荷側(つまり、目標充填効率が低い側)において、上乗せ分が大きくなるよう規定されていると共に、低回転側においては、低中負荷において上乗せ分が大きくなるよう規定されている。
レスポンス要求マップM2を用いて目標過給圧を高くすることに伴い、エンジントルクが高くなりすぎることを防止するために、その上乗せ分に応じてスロットルバルブ11の目標開度は、閉じ側に補正される。こうすることで、スロットルバルブ11の開き代が大きくなり、運転者がアクセルペダルを踏み込み方向に操作したときに、スロットルバルブ11の開度を、速やかに大きくして、それに応じた加速をすることが可能になる。こうして、目標設定部54が、レスポンス要求マップM2を用いて目標過給圧を設定することにより、運転者の要求に応じた走行トルクを得ることができると共に、運転者の加速要求があったときには速やかに対応することが可能になる。
アイシング要求マップM3は、前述したように、第1導入路81を通じて吸気管10内に導入されるブローバイガス中の水が、吸気管10内において氷結してしまうことを防止するために用いるマップである。アイシング要求マップM3は、目標補正部55が目標過給圧を補正する際に用いる。アイシング要求マップM3を用いる場合、目標補正部55は、ベース目標過給圧に、アイシング要求マップM3に規定されている上乗せ分を加える。つまり、目標補正部55は、レスポンス要求マップM2を用いずに、アイシング要求マップM3を用いてベース目標過給圧を補正することによって、目標過給圧を設定する、ということができる。
ここで、目標過給圧の補正による氷結防止のメカニズムについて簡単に説明をする。本願発明者らの検討によると、コンプレッサ4aよりも上流側の吸気管10内においては、コンプレッサ4aの回転に起因する圧力波が生じ、圧力波の節が、ブローバイガスの第1導入路81接続口811付近に位置する場合がある。その場合、図2に仮想的に示すように、接続口811の周囲、具体的には、第1導入路81接続口811の開口側の吸気管10の内壁や、接続口811に対向する吸気管10の内壁等に付着した水は、吸気の流れに浚われずに留まるようになる。外気温が低いと、接続口811の辺りに留まった水が氷結してしまうと共に、氷が次第に成長するようになる。そうして、大きくなった氷が、吸気の流れによって、吸気管10の内壁から離脱して、コンプレッサ4aに入り、コンプレッサ4aにダメージを与える恐れがある。
そこで、レスポンス要求マップM2を用いて設定した目標過給圧では、第1導入路81の接続口付近に、圧力波の節が位置するような場合には、目標補正部55が、アイシング要求マップM3を用いて目標過給圧を設定(補正)することにより、コンプレッサ4aよりも上流側の吸気管10内における圧力状態を変更し、圧力波の節が、第1導入路81接続口811付近の位置からずれるようにする。
アイシング要求マップM3は、前述したように、ブローバイガス中の水が氷結する恐れがあるときに用いるマップである。具体的に、アイシング要求マップM3は、外気温が所定温度以下(例えば、−20℃以下)でかつ、エンジンオイル中の蓄積水分量が所定量以上であるときに用いる。
次に、図6を参照しながら、アイシング要求マップM3について説明をする。アイシング要求マップM3も、レスポンス要求マップM2と同様に、ベース目標過給圧に加える上乗せ分の過給圧が、エンジン回転数及び目標充填効率に関連づけて規定されている。ここで、アイシング要求マップM3に規定される上乗せ分の値は、エンジン100の全運転領域において、レスポンス要求マップM2に規定される上乗せ分の値と相違するのではなく、図6に太線で囲んだ特定領域R内においてのみ、上乗せ分の値が、レスポンス要求マップM2に規定される上乗せ分の値と相違する。
つまり、エンジン100の回転数が所定回転数N1以上のときには、アイシング要求マップM3による補正は実質的に行わず、レスポンス要求マップM2を用いた補正と同じ補正が行われる。これは、エンジン100の回転数が高いときには、タービン4bの温度が高くなり、タービン4bの熱が、ハウジング41を通じて、コンプレッサ4aの上流の第1導入路81接続口811付近に伝わり、この熱によって、接続口811付近に付着した水の氷結を防止することができるからである。このため、目標過給圧を補正する必要がない。一方、エンジン100の回転数が所定回転数N1未満のときには、タービン4bの温度が相対的に低いため、タービン4bの熱によって、接続口811付近に付着した水の氷結を防止することが困難になる。そのため、アイシング要求マップM3を用いた目標過給圧の補正が行われる。
また、エンジン100の目標充填効率が所定Ce1未満のときには、アイシング要求マップM3による補正は実質的に行わず、レスポンス要求マップM2を用いた補正と同じ補正が行われる。これは、エンジン100の目標充填効率が低いときには、スロットルバルブ11が閉じ気味になってサージタンク13a内が負圧になるためである。つまり、第2導入路82を通じて、ブローバイガスが吸気管10に導入されるため、コンプレッサ4aの上流における水の氷結を回避することができる。一方、エンジン100の、目標充填効率が高いときには、スロットルバルブ11が開き気味になってサージタンク13a内の負圧が得られなくなる。そのため、第1導入路81を通じて、ブローバイガスを吸気管10に導入することになるから、アイシング要求マップM3を用いた目標過給圧の補正が行われる。
さらに、エンジン100の回転数が所定回転数N1未満のときであっても、目標充填効率が高いときには、タービン4bの温度が高くなり、タービン4bの熱が、ハウジング41を通じて、コンプレッサ4a上流の第1導入路81接続口811付近に伝わる。この熱によって、接続口811付近に付着した水の氷結を防止することができるため、目標過給圧を補正する必要がなくなる。つまり、アイシング要求マップM3による補正は実質的に行わず、レスポンス要求マップM2を用いた補正と同じ補正が行われる。図6に示すように、アイシング要求マップM3による補正を行う領域Rは、回転数が低いときには、目標充填効率の方向に狭く、回転数が高くなるに従い、目標充填効率の方向に広くなる。
アイシング要求マップM3における、特定領域R内の上乗せ分の値は、レスポンス要求マップM2の当該領域における値よりも小さい値に規定されている。つまり、アイシング要求マップM3を用いてベース目標過給圧を補正すると、レスポンス要求マップM2を用いてベース目標過給圧を補正したときよりも、目標過給圧は低く設定される。尚、ここでいう「小さい値」には、ゼロも含まれる。アイシング要求マップM3に規定される値がゼロのときには、ベース目標過給圧に対して上乗せがゼロであることを意味するため、目標過給圧は、ベース目標過給圧と同じになる。
アイシング要求マップM3の特定領域R内において上乗せ分の値は一定ではなく、回転数の高低、及び、目標充填効率の高低に応じて、値は変化する。具体的に、特定領域R内において、目標充填効率が相対的に低い領域R1は、目標充填効率が相対的に高い領域R2よりも、上乗せ分の値は大きい。つまり当該領域R1の値と、レスポンス要求マップM2における当該領域の値との差(つまり、低下量)は、領域R2の値と、レスポンス要求マップM2における当該領域の値との差よりも小さい。これにより、領域R1においては、目標過給圧は、比較的高い値に設定される。これは、目標充填効率の低い領域R1では、ベース目標過給圧が元々低く設定されるため、アイシング要求マップM3を用いて、目標過給圧を大きく低下するよう補正してしまうと、目標過給圧が低くなりすぎてしまうためである。
また、特定領域R内において、回転数が相対的に高い領域R3は、回転数が相対的に低い領域R2よりも、上乗せ分の値は大きい。つまり当該領域R3の値と、レスポンス要求マップM2における当該領域の値との差(つまり、低下量)は、領域R2の値と、レスポンス要求マップM2における当該領域の値との差よりも小さい。これにより、領域R3においては、目標過給圧は、比較的高い値に設定される。これは、エンジン100の回転数がN1以上になれば、実質的にレスポンス要求マップM2を用いてベース目標過給圧が補正されるため、設定される目標過給圧が比較的高くなる一方で、エンジン100の回転数がN1未満で隣接する領域R3において、目標過給圧が低くなるようにアイシング要求マップM3を規定してしまうと、エンジンの回転数が次第に高くなったときに、目標過給圧の急変が起きてしまうためである。
次に、図7に示すフローチャートを参照しながら、目標過給圧設定部53が行う目標過給圧の設定について説明をする。先ず、スタート後のステップS21では、自動車の走行状態の読み込みを行う。前述したように、エンジン本体20の回転速度(以下、「エンジン回転数」と称する)、車速、アクセル開度、及び、変速比等の、エンジン100の運転状態を含む自動車の走行状態を読み込む。また、外気温センサ72が検知した外気温の情報(つまり、走行環境取得部51が取得した自動車の走行環境)、及び、蓄積水分量推定部52が推定したエンジンオイル中の蓄積水分量も読み込む。
続くステップS22では、基本値の設定を行う。具体的には、前述したように、目標充填効率と、エンジン回転数とに基づいて、ベース目標過給圧マップM1から、ベース目標過給圧を決定する。
ステップS23では、外気温が所定温度Tc未満であるか否かを判定する。外気温が所定温度Tc未満のときには、ステップS24に移行する。外気温が所定温度Tc以上のときには、ステップS27に移行する。
ステップS27では、外気温が高いため氷結の恐れがなく、アイシング要求マップM3ではなく、レスポンス要求マップM2を用いて、ベース目標過給圧を補正する。レスポンス要求マップM2を用いて補正を行うことにより、目標過給圧は高めに設定されるため、続くステップS28において、スロットルバルブ11の目標開度を、目標過給圧の上乗せ分に応じて閉弁側に変更する。こうして、スロットルバルブ11の開き代を確保して、運転者の加速要求に対するレスポンスを良好にする。
一方、ステップS23から移行をしたステップS24では、蓄積水分量が、予め設定した所定量Th以上であるか否かを判定する。所定量Th以上であるときには、ステップS25に移行する一方、所定量Th未満であるときには、ステップS27に移行する。蓄積水分量が比較的少ないときには、ブローバイガス中の水分が少なく、氷結が抑制可能であることから、レスポンス要求マップM2を用いて、ベース目標過給圧を補正する。また、それに伴い、スロットルバルブの開度を閉弁側に変更する(ステップS28)。
ステップS24から移行をしたステップS25では、アイシング要求マップM3を用いて、ベース目標過給圧を補正する。これにより、特定領域Rにおいて、換言すると、吸気管10内の圧力波の節が、第1導入路81の接続口811の位置となるようなときには、目標過給圧が下げられるようになり、吸気管10内の圧力状態が変化する結果、節の位置が、第1導入路81の接続口811の位置からずれる。そうして、接続口811の付近に付着した水は、氷結する前に、吸気の流れに浚われるようになり、ブローバイガス中の水が吸気管10内において氷結してしまうことが防止される。
また、ステップS26では、アイシング要求マップM3によってベース目標過給圧が補正されることに対応して、スロットルバルブ11の目標開度を変更する。具体的に、特定領域Rにおいては、レスポンス要求マップM2を用いてベース目標過給圧を補正する場合と比較して、目標過給圧が低く設定されるため、スロットルバルブ11の目標開度は、開弁側に設定される。こうして、運転者の要求に応じた走行トルクを得ることが可能になる。
このようにして、前記の構成の過給機付きエンジンの制御装置では、目標補正部55は、外気温センサ72が検知した外気温が所定温度Tc未満でかつ、目標設定部54がレスポンス要求マップM2を用いて設定した目標過給圧においてコンプレッサ4aよりも上流の吸気管10内に形成される圧力波の節が、ブローバイガスの第1導入路81接続口811に位置するときには、目標過給圧が相対的に低くなるように、アイシング要求マップM3を用いてベース目標過給圧を補正する。これにより、コンプレッサ4aの動作状態が変更され、コンプレッサ4aよりも上流の吸気管10内における圧力状態が変化するから、圧力波の節が、接続口811の位置からずれるようになる。こうして、ブローバイガス中の水が接続口811の付近で吸気管10の内壁に付着したとしても、氷結する前に、吸気の流れによって水が浚われるから、水が氷結しなくなる。
この構成では、目標過給圧を変更するだけであるから、エンジン100の運転状態に関わらず、ブローバイガス中の水の氷結を防止することが可能であると共に、電気ヒータ等の加熱デバイスを用いないため、燃費の悪化を回避することができる。また、目標過給圧を低下する方向に変更するため、燃費の悪化を防止することが可能になる。
また、目標設定部54は、自動車の走行状態に基づいてベース目標過給圧を決定すると共に、ベース目標過給圧に、エンジン100の運転状態に応じて、レスポンス要求マップM2を用いて設定した上乗せ分を加えて目標過給圧を設定する一方で、ベース目標過給圧に加える上乗せ分に応じて、スロットルバルブ11の目標開度を低下させる補正を行うことにより、スロットルバルブ11の開き代を確保して、運転者の加速要求に対するレスポンスを良好にすることが可能になる。
そして、目標補正部55が、アイシング要求マップM3を用いることによって、レスポンス要求マップM2を用いて設定する目標過給圧よりも、目標過給圧を低くすることに対応して、スロットルバルブ11の目標開度を開き側に設定することにより、運転者の要求に応じたトルクで、自動車を走行させることができる。
また、アイシング要求マップM3において、レスポンス要求マップM2とは異なる値が設定される領域を、図6に示す特定領域Rに限定することによって、運転者の加速要求に対するレスポンスの低下をできるだけ抑制することが可能になる。一方で、特定領域Rに限定をしても、この特定領域R以外の領域では、タービン4bの熱によって氷結を防止したり、第2導入路82によって氷結が問題とならない状態で、ブローバイガスを吸気管10内に導入したりすることで、コンプレッサ4aよりも上流における、ブローバイガス中の水の氷結を防止することができる。
さらに、特定領域Rにおいて、エンジン100の回転数の高低、及び、エンジン100の目標充填効率の高低に応じて、上乗せ分の値を設定することにより、目標過給圧を適切に設定することが可能になる。
さらに、エンジンオイル中に蓄積された水分量が所定量以上であるときにのみ、アイシング要求マップM3を用いることで、運転者の加速要求に対するレスポンスの低下をできるだけ抑制することが可能になる一方で、ブローバイガス中の水の氷結を効率的に防止することができる。
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係る吸気管10とブローバイガスの第1導入路81との接続構成を示す図である。第2実施形態では、アイシング要求マップM3を用いて目標過給圧の補正を行うのではなく、コンプレッサ4aよりも上流側の吸気管10内において、変更部56(図9参照)が、接続口の位置を変更することによって、圧力波の節の位置と、ブローバイガスが導入される接続口の位置とが一致してしまうことを防止する。
具体的に、第1導入路81の下流端は、導入路81aと、導入路81bとの2つに分岐しており、その分岐位置には、ブローバイガスを、導入路81aと導入路81bとに対し、選択的に流すよう構成された方向切換弁84が介設している。
導入路81a及び導入路81bはそれぞれ、吸気管10に接続されているが、第1接続口811は、前記と同様に、コンプレッサ4aの近傍に設けられている。一方、第2接続口812は、第1接続口811よりもコンプレッサ4aから離れた位置に設けられている。第1接続口811と第2接続口812との間隔は、圧力波の節が、第1接続口811及び第2接続口812の双方に位置しないような間隔として、吸気管10の径の大きさ等に基づいて、設定すればよい。
図9は、第2実施形態に係るECU50の機能構成図である。ECU50は、前述した走行環境取得部51と、蓄積水分量推定部52と、目標過給圧設定部53とに加えて、変更部56を備えている。この内、目標過給圧設定部53は、ベース目標過給圧を、レスポンス要求マップM2を用いて補正するよう構成されている。
変更部56は、走行環境取得部51が取得した外気温と、蓄積水分量推定部52が推定した蓄積水分量とに基づいて、方向切換弁84を制御する。具体的に、変更部56は、外気温が所定温度Tc以上のとき、又は、エンジンオイル中の蓄積水分量が所定量Th未満のときには、第1接続口811を通じて吸気管10内にブローバイガスを導入するように、方向切換弁84を制御する。一方、外気温が所定温度Tc未満であってかつ、エンジンオイル中の蓄積水分量が所定量Th以上であるときには、第2接続口812を通じて吸気管10内にブローバイガスを導入するように、方向切換弁84を制御する。ここで、外気温が所定温度Tc未満であってかつ、エンジンオイル中の蓄積水分量が所定量Th以上であり、さらに、エンジン100の運転状態が、図6のアイシング要求マップM3における特定領域Rに相当する運転状態にあるときに、第2接続口812を通じて吸気管10内にブローバイガスを導入するように、方向切換弁84を制御してもよい。
こうすることで、コンプレッサ4aよりも上流の吸気管10内に形成される圧力波の節が、第1導入路の第1接続口811に位置するときに、ブローバイガスを、第2接続口812を通じて吸気管10内に導入することで、圧力波の節が、ブローバイガスが導入される接続口に位置しなくなるから、前記と同様に、ブローバイガス中の水の氷結が防止される。
尚、ここに開示する技術は、前述した構成の過給機付きエンジンに適用することに限定されず、様々な構成のエンジンに、広く適用することが可能である。