JP2017166011A - 被膜、切削工具および被膜の製造方法 - Google Patents

被膜、切削工具および被膜の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高い硬度、高い耐摩耗性を備え、かつ高い潤滑性を有する被膜を提供する。【解決手段】被膜は、第1材料と第2材料とを含み、第1材料は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよびケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、ホウ素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物であり、第2材料は、ホウ素、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびタングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属またはこの少なくとも1種の金属を含んでなる合金であり、第2材料は、第1材料中に粒子状に分散している。【選択図】なし

Description

本発明は、被膜、切削工具および被膜の製造方法に関する。
従来より、切削工具、耐摩耗工具、金型、電子部品などの工業製品における各種特性を向上させるため、蒸着法を用いてこれらの基材の表面に特徴的な物性を有する被膜を設けることが行われている。
上記蒸着法としては、物理蒸着(PVD:physical vapor deposition)法または化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)法がある。特にPVD法により形成された被膜は、基材の強度の劣化を招き難いことから、ドリル、エンドミル、フライス用スローアウェイチップといった高い強度が要求される切削工具、耐摩耗工具および金型に広く用いられている。PVD法の具体例としては、スパッタリング法、アーク蒸着法などが知られる。しかし、アーク蒸着法を用いた場合、ターゲットの金属が粒子状で被膜に含まれるという所謂ドロプレットが発生し、被膜の潤滑性が悪化する傾向がある。スパッタリング法は、アーク蒸着法に比べて成膜速度が遅く、プラズマ中のイオン化率も低いので、形成する被膜の密度および密着性が劣る傾向がある。
特開2007−009303号公報(特許文献1)および特表2011−504545号公報(特許文献2)では、アーク蒸着法に係る技術を用いながらも、ドロップレットの発生を防止して被処理物の表面を処理することにより、被膜に高い硬度、高い耐摩耗性を具備させるプラズマ表面処理方法が提案されている。下記非特許文献1では、スパッタリング法の一種で、プラズマ中のイオン化率を高めた高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)に関する開示がある。このような状況下、切削工具などの工具に対しては、加工油剤を用いないドライ加工の実施、加工速度のさらなる高速化といった要求がある。
特開2007−009303号公報 特表2011−504545号公報
D. Lundin et al, An introduction to thin film processing using high-power impulse magnetron sputtering, J. Mater. Res., vol.27, No.5(2012), 780-792
上記要求に応じるべく、基材の表面に設けられる被膜には、高い硬度、高い耐摩耗性とともに高い潤滑性(以下、本明細書において「摺動特性」とも称する)を具備することが求められている。しかしながら、この要求に応えられるような硬度、耐摩耗性および潤滑性をすべて具備する被膜、およびこれを備えた切削工具は、未だ知られていない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、高い硬度、高い耐摩耗性を備え、かつ高い潤滑性を有することができる被膜、切削工具および被膜の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る被膜は、第1材料と第2材料とを含む被膜であって、前記第1材料は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよびケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、ホウ素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物であり、前記第2材料は、ホウ素、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびタングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該少なくとも1種の金属を含んでなる合金であり、前記第2材料は、前記第1材料中に粒子状に分散している。
上記によれば、高い硬度、高い耐摩耗性を備え、かつ高い潤滑性を有することができる。
本実施形態における被膜の製造装置を、透視しつつ平面で模式的に示して説明する説明図である。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
[1]本発明の一態様に係る被膜は、第1材料と第2材料とを含む被膜である。第1材料は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよびケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、ホウ素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物である。第2材料は、ホウ素、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびタングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該少なくとも1種の金属を含んでなる合金である。第2材料は、第1材料中に粒子状に分散している。このような構成の被膜は、高い硬度、高い耐摩耗性を備え、かつ高い潤滑性を有することができる。
[2]上記第2材料は、上記被膜の1〜10体積%を占めることが好ましい。これにより、上記被膜が上記の性能をより効果的に発揮することができる。
[3]上記第2材料は、上記被膜の厚みtに対し0.03〜0.8tとなる粒径を有することが好ましい。これにより、上記被膜が上記の性能をより効果的に発揮することができる。
[4]上記第2材料は、モリブデンまたはバナジウムであることが好ましい。これにより、上記被膜がより高い潤滑性を有することができる。
[5]本発明の一態様に係る切削工具は、基材と、上記被膜とを含み、上記被膜は、基材を被覆している。このような構成により切削工具は、被膜が上記の性能を発揮することにより、高い硬度、高い耐摩耗性を備え、かつ高い潤滑性を有することができる。
[6]本発明の一態様は上記被膜の製造方法であって、上記製造方法は、上記被膜を製造する工程を含む。上記工程において、上記第1材料は、スパッタリング法により成膜され、上記第2材料は、アーク蒸着法により蒸着され、上記第1材料の成膜および上記第2材料の蒸着が1Pa未満の圧力条件下で同時に実行される。このような構成により、上記の性能を発揮する被膜を製造することができる。
通常のアーク蒸着法では成膜した被膜自体にドロプレットが存在してしまう。一方、本発明の一態様に係る被膜では、膜の大部分をスパッタリング法により成膜したためにドロプレットの数が減り、かつ存在するドロプレットである第2材料は切削中に酸化し、溶融するので、上述したようなドロプレットに基づく影響が小さいと考えられる。このため、本発明の一態様に係る被膜は、その表面が通常のアーク蒸着法で成膜した被膜よりも格段に潤滑性を向上させることができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)についてさらに詳細に説明する。
ここで、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味しており、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。また、本明細書において化合物を化学式で表す場合において、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば「TiAlN」と記載されている場合、TiAlNを構成する原子数の比はTi:Al:N=0.5:0.5:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「TiAlN」以外の化合物の記載についても同様である。本実施形態において、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)などの金属元素と、窒素(N)、酸素(O)または炭素(C)などの非金属元素とは、必ずしも化学量論的な組成を構成している必要がない。
<被膜>
本実施形態に係る被膜は、第1材料と第2材料とを含む。第2材料は、第1材料中に粒子状に分散している。本実施形態に係る被膜は、いわば第1材料からなる膜(マトリクス)に第2材料の粒子が点在している形態を有している。ここで後述するように第2材料は、その酸化物が融点の低い金属からなる。このため、切削中の被膜の摩耗などによって、第1材料中に埋設されていた第2材料の金属粒子は、被膜表面に露出すると酸化して酸化物となり、さらに摩耗時の熱で溶融することになる。溶融した酸化物は、被膜表面で薄く潤滑性のよい層を形成する。これにより、被膜は高い潤滑性を有することができる。
したがって、本実施形態に係る被膜は、切削工具、耐摩耗工具、金型、電子部品などの基材の表面に高い潤滑性を付与する被膜として好適である。
本実施形態に係る被膜は、第1材料と第2材料とを含んだ1以上の層を含むものの、その層数は特に限定されない。また被膜は、たとえば基材が工具の基体である場合、基材そのものに対して形成することができるだけでなく、被膜と基材との間に設けられる下地層に対しても形成することができる。さらに、表面を保護する表面保護層などを被膜上に形成することもできる。
下地層として、基材を構成する元素と、被膜を構成する元素とをあわせもつ組成からなるバッファー層を挙げることができる。バッファー層を有することにより、被膜と基材との密着性を向上させることができる。また下地層として、被膜を構成する元素を含む固溶体層を有することもできる。固溶体層を有することにより、被膜の均一性がより担保できるようになる。被膜と固溶体層との密着性も向上する。なお、これらの層の形成方法は、公知の方法を用いることができる。
また、被膜の厚みも特に限定されないが、たとえば基材が工具の基体である場合、被膜の厚みは0.5〜10μmとすることが好ましい。被膜の厚みが0.5μm未満であると、潤滑性を得ることが不十分となる。被膜の厚みが10μmを超えると、たとえば切削工具の被膜とした場合に膜内の応力によってチッピングが発生する傾向が高まるので好ましくない。被膜の厚みは、1〜6μmとすることがより好ましく、2〜4μmとすることがさらに好ましい。
なお被膜の厚みは、成膜時間を適宜調節することにより調整することができる。また、本明細書において「被膜の厚み」といったとき、その厚みは平均膜厚を意味する。被膜の厚みは、たとえば、被膜を任意の基材上に形成し、これを任意の位置で切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)で観察することにより測定することができる。断面観察用のサンプルは、たとえば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)などを用いて作製することができる。そして、たとえば、被膜の10箇所において断面を得て、それぞれの断面における厚みを測定し、その測定値の平均値を「被膜の厚み」とすることができる。
(第1材料)
本実施形態に係る被膜において、第1材料は、周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、炭素(C)、窒素(N)、ホウ素(B)および酸素(O)からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物である。第1材料としてこのような化合物を選択することにより、被膜は高い硬度、高い耐摩耗性を備えることができる。また、高温安定性などにも優れる。
周期表の第4族元素には、Ti、Zr、Hfなどが含まれる。周期表の第5族元素には、V、Nb、Taなどが含まれる。周期表の第6族元素には、Cr、Mo、Wなどが含まれる。ただし、第1材料の化合物を構成する元素としては、第5族元素のVおよび第6族元素のMoを使用することが可能であるが、TiAlN、AlCrNなどの高硬度膜に添加することにより、その硬度が低下する恐れがある。しかしながら、後述するように、第5族元素のV、第6族元素のMoなどを第2材料を構成する元素として使用することにより、被膜の硬度を低下させずに潤滑性を向上させることができるので、より好ましい。
被膜における第1材料としては、具体的にはTiAlN、TiSiN、AlCrN、TiAlSiN、TiAlNO、AlCrSiCN、TiCN、TiSiC、CrSiN、AlTiSiCO、TiSiCN、TiTaN、TiNbN、AlCrBN、TiAlWNなどの化合物を挙げることができる。なお、上述のとおり本明細書において、これらの化合物の原子数の比には限定がなく、従来公知のあらゆる原子比を含む。
この中でTiAlNは、硬度が非常に高い。このため、第1材料としてTiAlNを含む場合、被膜は高硬度であって、耐摩耗性に優れる傾向にある。
TiSiNは、高硬度であって耐熱性に優れる上に、非常に微細な組織を有して酸素の透過を抑制する。このため、第1材料としてTiSiNを含む場合、被膜は高硬度であって、耐摩耗性および耐熱性に優れるとともに被膜が形成される基材の酸化を抑制することができる。
AlCrNは、高硬度であってTiを含まないことからTiAlNおよびTiSiNよりも耐酸化性に優れる。さらに高い耐熱性を有する。このことから、第1材料としてAlCrNを含む場合、被膜は高硬度であって、耐摩耗性、耐熱性および化学的安定性が向上する傾向にある。また、AlCrNは、表面保護層などとして用いられるアルミナからなる層との密着性にも優れている。
被膜における第1材料の組成の特定は、被膜の厚みの測定と同様に被膜の断面を得て、この断面に対してSEM、TEM、STEM、SEMあるいはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置などを用いること、または3次元アトムプローブ法により測定することができる。なお、第1材料の成膜方法については後述する。
さらに、第1材料により形成される膜(マトリクス)は、第1材料が1種以上の化合物からなることから、2種以上の化合物を含む場合がある。この場合、各々の化合物からなる層が積層されて膜が形成されていてもよいし、同一の層内に各々の化合物が共存して膜が形成されていてもよい。
(第2材料)
第2材料は、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)およびタングステン(W)からなる群より選択される少なくとも1種の金属または該少なくとも1種の金属を含んでなる合金である。第2材料は、第1材料中に粒子状に分散して存在している。第2材料としてこのような金属または合金を選択することにより、被膜は高い潤滑性を有することができる。その理由は、次のとおりである。
B、Mo、Nb、VおよびWは、いずれも下記表1に示すようにその酸化物の融点が低い金属である。さらに第2材料は、上述のとおり第1材料中に粒子状に分散している。このため切削中の被膜の摩耗などによって、第1材料中に埋設されていた第2材料の金属粒子は、被膜表面に露出すると酸化して酸化物となり、さらに摩耗時の熱で溶融する。この溶融した酸化物が、被膜表面で薄く潤滑性のよい層を形成するため、被膜表面が高い潤滑性を具備するようになるからである。
Figure 2017166011
なお、ホウ素は通常、金属元素と非金属元素との中間の性質を示す半金属として捉えられるが、本実施形態においては、自由電子を有する元素を金属であるとみなしてホウ素を金属の範囲に含むものとする。
第2材料として好ましくは、B、MoおよびVのいずれかの金属または該金属を含む合金を選択する。これらは、その酸化物の融点がより低い金属であるからである。さらに、鉄との反応性を考慮することにより、第2材料としてMoまたはVのいずれかの金属、または該金属を含む合金を選択することがより好ましい。鉄を含む鋼などの加工において被膜に鋼が焼付くことを防ぐ耐凝着性が良好となるからである。
第2材料は、被膜の1〜10体積%を占めることが好ましい。第2材料が被膜の1体積%未満である場合、被膜が潤滑性を得ることが不十分となる。第2材料が被膜の10体積%を超える場合、被膜は、その硬度が不十分となって、たとえば切削工具の被膜とした場合に切削性能に悪影響を及ぼす可能性がある。第2材料は、被膜の3〜10体積%を占めることがより好ましい。第2材料の被膜に占める体積%は、被膜の厚みの測定と同様に被膜の断面を得て、この断面に対してSEM、TEM、STEM、またはSEMあるいはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置などを用いることにより、測定することができる。
第2材料は、被膜の厚みtに対し0.03〜0.8tとなる粒径を有することが好ましい。第2材料の粒径がこの範囲であることにより、その酸化物の溶融がより起こりやすく、かつ酸化物が溶融したときに被膜表面で薄く潤滑性のよい層を形成することができる。たとえば、被膜の厚みtが3μmである場合、第2材料は、0.09〜2.4μmの粒径を有することが好ましい。第2材料の粒径が0.8tを超えると、第2材料が存在している被膜の箇所は、厚み方向においてほとんどが第2材料で占められることとなるので使用時に異常摩耗が起こる可能性が高まる。また、後述する製造方法によれば、第2材料の粒径を0.03t未満とすることは技術的に困難である。第2材料は、被膜の厚みtに対し0.2〜0.6tとなる粒径を有することが好ましい。第2材料の粒径は、被膜の厚みおよび第2材料の被膜に占める体積%の測定と同様に被膜の断面を得て、この断面に対してSEM、TEM、STEM、またはSEMあるいはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置などを用いることにより、測定することができる。
第2材料は、後述する製造方法によれば、球状または略球状の粒子状で第1材料中に分散している。また、基材に衝突したときに上記球状または略球状が押し潰されて扁平な円盤型形状または略円柱状として第1材料中に分散している場合もある。よって、「粒子状」という場合、その形状は特に限定されない。
<切削工具>
本実施形態に係る切削工具は、基材と上記被膜とを含み、上記被膜が基材を被覆している。本実施形態に係る切削工具は、高い硬度と高い耐摩耗性とを備え、かつ高い潤滑性を有する被膜を含むため、その硬度、耐摩耗性および潤滑性が飛躍的に向上し、もって優れた切削性能を有することができる。被膜は、基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、基材の一部がこの被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
本実施形態に係る切削工具は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具として好適に使用することができる。
(基材)
基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれも使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえば、WC基超硬合金、WCのほか、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nbなどの炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCNなどを主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化ホウ素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
これらの各種基材の中でも超硬合金、特にWC基超硬合金を選択すること、またはサーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これらの基材は、特に高温における硬度と強度のバランスに優れ、上記用途の表面切削工具の基材として優れた特性を有している。
なお、切削工具が刃先交換型切削チップなどである場合、基材はチップブレーカーを有するものも、有さないものも含まれる。また、刃先稜線部は、その形状がシャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)、ネガランド(面取りをしたもの)、ホーニングとネガランドを組み合わせたものなど、いずれのものも含まれる。
<被膜の製造方法>
本実施形態に係る被膜の製造方法は、上記被膜の製造方法であって、上記被膜を製造する工程を含む。この工程において、第1材料は、スパッタリング法により成膜され、第2材料は、アーク蒸着法により蒸着される。特に、第1材料の成膜および第2材料の蒸着は、1Pa未満の圧力条件下で同時に実行される。ここで、スパッタリング法およびアーク蒸着法はいずれもPVD法に含まれる。PVD法を用いて製造された被膜は、CVD法を用いて製造された被膜よりも緻密で高強度であるので、耐摩耗性および密着性に優れる点で有利である。
ここで本実施形態では例示すれば、図1に示すような装置を用いて被膜を製造する。この装置は、図1に示すように、チャンバー1と、このチャンバー1に原料ガスを導入するガス導入口11と、原料ガスを外部に排出するガス排出口12とを備える。チャンバー1は真空ポンプに接続され、この真空ポンプによりガス排出口12を通じてチャンバー1内の圧力を調整することができる。チャンバー1内には、回転テーブル21が設置され、この回転テーブル21に基材を保持する基材保持具22が取り付けられている。基材保持具22は、後述する基板バイアス電圧を印加するためにバイアス電源31に電気的に接続されている。チャンバー1の側壁には、被膜の原料となるターゲット(蒸発源)が複数、基材保持具22を中心にして等距離となるように取り付けられている。これらの蒸発源は、図1において、スパッタリング法を実行するのに用いる3つの蒸発源41と、アーク蒸着法を実行するのに用いる一対の蒸発源42との合計5つが備えられている。スパッタリング法を実行するのに用いる3つの蒸発源41は、パルス電源32に接続されている。アーク蒸着法を実行するのに用いる一対の蒸発源42は、可変電源33に接続されている。チャンバー1は基材を加熱するヒーター5を備えている。アルゴンガスをイオン化するエッチング用フィラメント6も備えている。これにより、1つの装置内でスパッタリング法とアーク蒸着法とを同時に行なうことができる。すなわち第1材料の成膜および第2材料の蒸着を同時に実行することができる。なお、本実施形態に係る被膜を製造するに際し、ターゲット(蒸発源)は、スパッタリング法を実行するのに用いる蒸発源と、アーク蒸着法を実行するのに用いる蒸発源とを備えていれば、その数には限定されず、成膜条件などに応じて適宜変更することができる。ただし、成膜速度および被膜に含まれる第1材料、第2材料の割合を考慮すれば、スパッタリング法を実行するのに用いる蒸発源の数が、アーク蒸着法を実行するのに用いる蒸発源の数よりも多いことが好ましい。
(第1材料の成膜方法)
被膜を製造する工程において第1材料は、スパッタリング法により成膜される。特に、スパッタリング法として具体的には、マグネトロンスパッタリング、UBMスパッタリング(Unbalanced Magnetron Sputtering)、閉磁場スパッタリング、デュアルマグネトロンスパッタリング、HiPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)などを用いることができる。なかでも、HiPIMSは、1つのパルスで供給できるイオンおよび原子の供給量の制御が容易であり、緻密で高硬度、耐摩耗性および密着性に優れ、かつ平滑な表面を有するように成膜できるため、本実施形態に係る被膜の製造方法として好適である。
以下、たとえば、HiPIMSを用い、第1材料がTiAlNである場合の成膜方法を例示して説明する。まず、図1に示すような装置を準備する。この装置は、上述のとおり1つの装置内でスパッタリング法とアーク蒸着法とを同時に行なうことができる。
装置のチャンバー内の基材保持具に基材を設置し、この基材と対向させて蒸発源を設置する。蒸発源としては、たとえばTiからなるターゲット(Tiターゲット)およびAlからなるターゲット(Alターゲット)を用いる。
さらに、チャンバー内を真空引きしながら、ヒーターにより基材を加熱する。続いて、チャンバー内へアルゴンガスなどの不活性ガスと、反応ガスとしての窒素ガスとを導入し、上記ターゲットにアルゴンイオンを衝突させるとともに、交互にパルス電圧を連続的に印加する。これによりターゲットからTiのイオンまたは原子、およびAlのイオンまたは原子が交互に飛び出し、その状態で基材上に到達するので、窒素とともに化合物として堆積し、TiAlNからなる膜が成膜されることになる。
HiPIMSでは、蒸発源(ターゲット)として元素(たとえば金属)単独からなるもの、および化合物(たとえば合金)からなるものをいずれも用いることができる。このターゲットとなる元素または化合物の選択、ターゲットが化合物からなる場合の組成比の選択、成膜条件の調節などにより、成膜する膜の原子比を適宜設定することが可能である。
上記したHiPIMSにおいて、他の条件は特に限定されないが、たとえば、以下の成膜条件を満たすことが好ましい。
パルス幅(1パルスのパルス時間):0.1〜10ms
パルス電力(パルス中の電力) :30〜100kW
平均電力 :4〜10kW
基板バイアス電圧 :−30〜−100V
チャンバー内圧力 :0.4〜0.9Pa。
ここで上記の「基板バイアス電圧」とは、これを基材に印加してイオン衝撃を強めることにより、第1材料からなる膜内に圧縮残留応力を導入するための電圧をいう。第1材料からなる膜内に圧縮残留応力が導入された被膜で基材を被覆することにより、基材の欠損、たとえば切削工具の基材であれば刃先の欠損を抑制することができる。また、基板バイアス電圧は、被膜の硬度、緻密性にも影響する。通常、基材へは負の基板バイアス電圧が印加される。
基板バイアス電圧の値は、−30〜−100Vが望ましい。この範囲よりも小さいと、被膜の緻密性の低下によって耐摩耗性が低下しやすくなり、この範囲よりも大きいと、圧縮残留応力が高くなりすぎることによって基材から被膜が剥離し、切削工具に適用した場合に刃先で被膜が剥離しやすくなる。より好ましい基板バイアス電圧の範囲は、−30〜−60Vである。
また、「圧縮残留応力」とは、被膜に存在する内部応力(歪エネルギー)の一種であって、「−」(マイナス)の数値で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを意味し、また圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを意味する。
本実施形態に係る被膜に蓄積される圧縮残留応力は、−0.5〜−5GPaであることが好ましい。圧縮残留応力の値がこの範囲よりも小さいと、切削工具に適用した場合に刃先の靱性が足りず欠損しやすくなり、この範囲を超えると圧縮残留応力が高すぎ、刃先で被膜が微小剥離を起こす傾向がある。より好ましい圧縮残留応力の値は、−1〜−2.5GPaである。圧縮残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法、ラマン分光法を用いた方法、放射光を用いた方法または成膜前と成膜後とで基材のそり量を比較し、かつ膜厚を測定し、これらの値に基づいてストーニー式で計算する方法により測定することができる。
(第2材料の蒸着と、第1材料の成膜および第2材料の蒸着の同時実行)
被膜を製造する工程において第2材料は、アーク蒸着法により蒸着される。特に本実施形態では、アーク蒸着法における所謂ドロプレットが発生する現象を積極的に活用し、これを第1材料が成膜される場面に適用すること(HiPIMSの実行中にアーク蒸着法を行なうこと)により、第2材料を粒子状(ドロプレット状)に第1材料中に分散させて成膜し、被膜を作製する。具体的には、HiPIMSの実行中に、アーク蒸着法では通常避けられるべき低圧下(1Pa未満)の条件で第2材料の蒸着を実行する。すなわち、第1材料の成膜および第2材料の蒸着を1Pa未満の圧力条件下で同時に実行することにより、本実施形態に係る被膜を製造するのである。第1材料の成膜および第2材料の蒸着を同時に実行する際の圧力条件は、好ましくは0.5〜0.8Paであり、下限は0.3Paである。
なお、アーク蒸着法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。本実施形態では、たとえばアーク式イオンプレーティング法を用いることができる。
アーク式イオンプレーティング法は、装置のチャンバー内に設置された蒸発源となるターゲット(第2材料としての金属ターゲットまたは合金ターゲット)に対し、電圧を印加し、アーク放電を生じさせて上記ターゲットを溶融し、上記ターゲットを構成する原子を放出させる。これにより、該原子をチャンバー内に設置された基材上に堆積させる蒸着法である。
第1材料の成膜および第2材料の蒸着の同時実行に際し、第1材料の成膜方法であるスパッタリング法(たとえば、HiPIMS)と、第2材料の蒸着法であるアーク蒸着法(たとえば、アーク式イオンプレーティング法)とでは成膜速度が異なるため、ターゲットの枚数または成膜時間を調整することが必要となる。たとえば、HiPIMSの成膜速度がアーク式イオンプレーティング法の0.5倍であり、HiPIMSの成膜時間が180分であり、被膜における第2材料が占める体積%が10%であるとき、アーク式イオンプレーティング法による第2材料の蒸着時間は9分(180分×0.5倍×0.1)にする必要がある。
具体的には、第2材料の蒸着は、1分間の蒸着を9回または30秒間の蒸着を18回とし、合計で9分間の蒸着時間とする。時間の精密な制御のために、シャッターを用いて蒸着時間を管理することが好ましい。均一な膜を得るためには、アーク式イオンプレーティング法で連続的に蒸着することが理想的であるが、非連続的に蒸着してもよい。その場合、HiPIMSの成膜時間内で可能な限り細かな時間帯(1分間、30秒間、15秒間など)に分割し、その時間帯で均一な蒸着を行ない、第2材料が第1材料中に均一に分散するように制御する。
以下、切削工具用チップを基材として用い、その基材上に、第1材料(たとえばTiAlN)をHiPIMSにより成膜し、第2材料(たとえばV)をアーク式イオンプレーティング法により蒸着し、これらを1Pa未満の圧力条件下で同時に実行して被膜を製造する被膜の製造方法について具体例で説明する。
まず、上述した装置に第1アーク蒸発源および第2アーク蒸発源、ならびに第1HiPIMS蒸発源、第2HiPIMS蒸発源および第3HiPIMS蒸発源という合計5つの蒸発源をセットする。次に、第1アーク蒸発源および第2アーク蒸発源、ならびに第1HiPIMS蒸発源、第2HiPIMS蒸発源および第3HiPIMS蒸発源から等距離の点を中心として回転する基材保持具に基材をセットする。上記装置には、基材保持具にセットされた基材を加熱するヒーターも備えられている。また、3つのHiPIMS蒸発源は、パルス電圧を交互に連続的に印加することを可能とするため、HiPIMS専用のパルス電源に接続されている。
この具体例では、第1HiPIMS蒸発源、第2HiPIMS蒸発源および第3HiPIMS蒸発源として、それぞれTi0.5Al0.5ターゲットを用いる。また、第1アーク蒸発源および第2アーク蒸発源としてそれぞれVターゲットを用いる。装置内を真空引きしながら、基材をヒーターで30〜90分かけて、400〜450℃まで加熱する。
その後、装置内を真空度を0.005Pa以下に真空引きした後、アルゴンを装置のガス導入口から導入し、その真空度を0.7〜0.9Paで維持しながら、基材に−150〜−600Vの電圧をかけてエッチング用フィラメントに電流を流すことによってアルゴン中でグロー放電を発生させる。これにより、アルゴンイオンによる基材表面のクリーニング処理を15〜120分間行なう。上記クリーニング処理後に装置からアルゴンを排気する。
続いて、装置のガス導入口から再びアルゴンを導入し、併せて窒素を導入する。さらに、真空度を1Pa未満(たとえば、0.55Pa)で維持しながら、第1HiPIMS蒸発源、第2HiPIMS蒸発源および第3HiPIMS蒸発源の電極間に交互にパルス幅0.5〜10ms、パルス電力30〜100kWを印加して放電させる。HiPIMS蒸発源の平均電力は4〜10kWである。このようなHiPIMSにより、たとえばTi0.5Al0.5x(ただし、0.8≦x≦1.2)からなる膜を成膜する。
これと同時に、基材に−30〜−100Vの電圧を印加した状態でVターゲットに対して50〜200Aの放電電流で放電させることにより、アーク式イオンプレーティング法により基材上に成膜されたTi0.5Al0.5x(第1材料)中にV(第2材料)を堆積させる。このとき、たとえばHiPIMSの成膜速度がアーク式イオンプレーティング法の0.5倍であり、HiPIMSの成膜時間が180分であり、被膜における第2材料が占める体積%が10%であれば、アーク式イオンプレーティング法による第2材料の蒸着時間を9分(180分×0.5倍×0.1)とし、シャッターで時間を管理しながら間欠的に蒸着を行なう。チャンバー内の真空度は1Pa未満であるので、Vは粒子(ドロプレット)状で第1材料中に分散する。Ti0.5Al0.5xからなる膜中にVが粒子状に分散している被膜を形成した後、装置内のガスを排気する。これにより、本実施形態に係る被膜を製造することができる。
ここで本実施形態に係る被膜の製造方法では、被膜の製造前に、基材上に下地層を設けてもよい。たとえば基材が超硬合金からなる場合、超硬合金の表面に、下地層として固溶体からなる固溶体層を作製することが好ましい。被膜は、組成の異なる複数の物質からなる焼結体である超硬合金の表面よりも、単一の組成からなる固溶体層の表面のほうが所望の構成に均一に作製され易いためである。
上記固溶体層の組成は特に限定されないが、被膜の構成に用いられる元素からなる組成であることが好ましい。具体的には、上述した例においてはTiNまたはCrNからなる固溶体層であることが好ましい。この場合、固溶体層と被膜とが高い密着性を発揮することができる。
以上より、本実施形態に係る製造方法により製造される被膜は、基材の表面に設けられることにより、基材に対し、高い硬度、高い耐摩耗性を備え、かつ高い潤滑性を有する特徴を付与することができる。このような被膜は、工具および金型の表面被膜として好適に利用することができる。なかでも、さらに耐酸化性に優れた表面保護層を有する被膜であれば、特に厳しい環境下に曝される切削工具、耐摩耗工具などへの適用も有用となる。
<被膜の作製>
(試料No.1)
まず、摺動試験用の基材Aと耐摩耗試験用の基材Bとの2種類の基材を準備した。摺動試験用の基材Aは、組成がG10E(住友電気工業株式会社製)、形状がISO規格SNMN120408の超硬合金製切削チップである。耐摩耗試験用の基材Bは、組成がA30N(住友電気工業株式会社製)、形状がISO規格SEET13T3AGSN−Gの超硬合金製切削チップである。その基材上に、第1材料としてのTi0.5Al0.5NをHiPIMSにより成膜し、この成膜と同時実行するアーク式イオンプレーティング法により、第2材料としてのホウ素(B)を蒸着し、これにより被膜を形成して切削工具を作製した。以下、試料No.1の切削工具の被膜の形成方法について具体的に説明する。
まず、図1に示すような装置に、第1アーク蒸発源、第2アーク蒸発源にそれぞれホウ素ターゲットをセットするとともに、第1HiPIMS蒸発源、第2HiPIMS蒸発源および第3HiPIMS蒸発源にそれぞれTi0.5Al0.5ターゲットをセットした。次に、2つのホウ素ターゲットおよび3つのTi0.5Al0.5ターゲットから等距離となる点を中心として回転する基材保持具に超硬合金製切削チップをセットした。装置には、基材保持具および超硬合金製切削チップを加熱するヒーターも備えられている。
さらに、装置内を真空引きしながら、基材をヒーターで30分かけて430℃まで加熱した。
その後、装置内の真空度を0.005Pa以下に真空引きした後、アルゴンを装置のガス導入口から導入し、その真空度を0.8Paで維持しながら、超硬合金製切削チップに−170Vの電圧をかけてアルゴン中でグロー放電を発生させることにより、超硬合金製切削チップの表面のクリーニング処理を30分間行なった。上記クリーニング処理後に装置からアルゴンを排気した。
続いて、装置のガス導入口から再びアルゴンを導入し、併せて窒素を導入し、真空度を0.57Paで維持しながら、3つのTi0.5Al0.5ターゲットの電極間に交互にパルス幅0.5ms、パルス電力45kWを印加して放電させた。このとき平均電力は7kWとした。このようなHiPIMSにより、Ti0.5Al0.5Nからなる膜を成膜した。
これと同時に、基材に−45Vの電圧を印加した状態でホウ素ターゲットに対し150Aの放電電流で放電させることによって、アーク式イオンプレーティング法により基材上に成膜されたTi0.5Al0.5N中にホウ素(B)を堆積させた。本実施例は、HiPIMSの成膜速度がアーク式イオンプレーティング法の0.4倍(ターゲットの個数を考慮した)であり、HiPIMSの成膜時間が300分であり、被膜におけるホウ素(B)が占める体積%が5%である。このため、アーク式イオンプレーティング法によるホウ素(B)の蒸着時間を6分(300分×0.4倍×0.05)とし、シャッターで時間を管理しながら間欠的に蒸着を行なった。チャンバー内の真空度は1Pa未満(0.57Pa)であるので、ホウ素(B)は粒子(ドロプレット)状でTi0.5Al0.5N中に分散する。これによりTi0.5Al0.5N(第1材料)からなる膜(マトリクス)中にホウ素(B)(第2材料)が粒子状で分散した被膜を形成した。その後、装置内のガスを排気した。
上記した成膜中の装置内の各ガス分圧、平均電力、パルス電力、パルス時間、基板バイアス電圧は、下記表2、表3に示すとおりである。また、下記表4に示すとおり、試料No.1の切削工具の被膜中に、ホウ素(B)は5体積%を占める。下記表2、表3中、PArはアルゴン分圧を意味し、PN2は窒素分圧を意味し、PO2は酸素分圧を意味し、PTOTはチャンバー内圧力を意味する。Wavgは平均電力を意味し、Wpulseはパルス電力を意味し、tpulseはパルス時間を意味し、Ubiasは基板バイアス電圧を意味する。Iarcはアーク電流を意味する。
Figure 2017166011
Figure 2017166011
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(試料No.2〜22)
試料No.2〜5の切削工具の被膜は、第2材料のターゲットを表2に記載のとおりに変更するとともに、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりとし、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。試料No.6〜11の切削工具の被膜は、第2材料のターゲットをVターゲットとし、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりにとするとともに、被膜中にVが占める体積%を表4に記載のとおりにそれぞれ変更し、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。試料No.12の切削工具の被膜は、第2材料のターゲットをVターゲットとするとともに、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりとし、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。試料No.13〜20の切削工具の被膜は、第2材料のターゲットをVターゲットとし、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりとするとともに、被膜の厚みtを表4に記載のとおりに変更し、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。
試料No.21の切削工具の被膜は、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりにとするとともに、第2材料のターゲットを表2に記載のとおりにMoとVとに変更し、一対のアーク蒸発源を別々の元素からなるターゲット(Moターゲット、Vターゲット)で構成した。その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。試料No.22の切削工具の被膜は、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりにとするとともに、アーク蒸発源を表2に記載のとおりにNbWの合金に変更し、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。
(試料No.23〜26)
試料No.23〜25の切削工具の被膜は、第1材料のターゲットおよび第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりとするとともに、第2材料のターゲットをMoとし、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。試料No.26の切削工具の被膜は、第1材料のターゲットをAlとし、第1材料の成膜条件を表2に記載のとおりとするとともに、第2材料のターゲットをMoとした。さらに、導入するガスを窒素から酸素に変更し、その他は試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。
(試料No.27〜32)
試料No.27〜32の切削工具の被膜は、表3に示すように、第2材料をアーク蒸着法(アーク式イオンプレーティング法)で蒸着することなく形成した。特に、試料No.28、31、32の切削工具の被膜は、第1材料を、アーク式イオンプレーティング法により基材上に成膜した。試料No.29の切削工具の被膜は、Ti0.45Al0.450.1Nをアーク式イオンプレーティング法により基材上に成膜した。なお、試料No.27の切削工具の被膜は、第2材料をアーク蒸着法で蒸着することなく形成した以外は、試料No.1の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。試料No.30の切削工具の被膜は、第2材料をアーク蒸着法で蒸着することなく形成した以外は、試料No.23の切削工具の被膜の形成方法と同様として形成した。
本実施例において、試料No.1〜26が実施例であり、試料No.27〜32が比較例である。
<評価試験>
(摺動試験)
上述のようにして得た試料No.1〜12、21〜32の切削工具に対し、以下の条件(ボールオンディスク条件)で被膜の摩耗量(単位は、10-6mm3)を測定し、潤滑性を評価する摺動試験を行なった。被膜の摩耗量は、相手材(ボール)を被膜表面で回転させ、これにより生じたボール痕の凹み(摩耗)もしくは凸(凝着)を測定することにより特定することができる。凹み(摩耗)もしくは凸(凝着)を測定する方法はいくつか存在する。面粗さ計を用い、被膜表面の少なくとも4か所でその凹凸を測定し、その平均値から摩耗量もしくは凝着量を計算する方法、またはレーザー顕微鏡およびその他の三次元形状を測定できる測定機器で直接測定する方法などがある。本実施例では、面粗さ計(商品名「Surfcom 480A」、株式会社東京精密製)を用い、各試料についてそれぞれ被膜表面4か所の凹凸を測定してその平均値を算出し、各試料の摩耗量もしくは凝着量として表した。
摺動試験/ボールオンディスク条件:
工具 : SNMN120408
相手材(ボール) : SUJ2
温度 : 400℃
雰囲気 : 大気
荷重(N) : 1
摺動半径(mm) : 1
回転数(rpm) : 500
摺動速度(mm/s): 52.3
総回転数(回) : 5000
摺動距離(m) : 31.4。
(耐摩耗試験)
上述のようにして得た試料No.1〜20、27〜29の切削工具に対し、以下の条件(フライス耐摩耗性試験条件)で寿命までのパス数(単位は、回)を測定し、耐摩耗性を評価する耐摩耗試験を行なった。1パスは300mmである。Vbは刃先の逃げ面摩耗幅(単位:mm)であり、Vbが0.2mmを超えるパス数となったとき寿命に到達したと判断した。Vbの測定は光学顕微鏡(商品名「MC120 HD(レンズMZ16)」、ライカマイクロシステムズ社製)により行なうことができる。本実施例では、39パスまでは3パスごとに測定し、40パス以降は2パスごとに測定した。
フライス耐摩耗性試験条件:
切削材 : SCM435ブロック(幅85mm、長さ300mm)
工具 : SEET13T3AGSN−G
切削速度v(m/min): 230
送りf(mm/刃) : 0.3
切り込みap(mm) : 2
切削液 : DRY
基準 : Vb<0.2mm。
<考察>
各試験の結果を、上記表4、表5に示す。なお、表4、表5には、各試料において準備した基材の種別(基材A、基材B、または基材AおよびB)も表した。
表4から明らかなように、試料No.1〜12、21〜26の切削工具は、摺動試験において摩耗量が少ない(潤滑性に優れている)という良好な結果を得た。さらに、試料No.1〜20の切削工具では、耐摩耗試験において寿命までのパス数が多く、良好な結果を得た。これらの切削工具では、耐摩耗性と併せて潤滑性が優れていることが理解される。
一方で、表5から明らかなように、試料No.27〜32の切削工具は、試料No.29を除いて摩耗よりも、被切削材の成分が切削工具の被膜に付着して固まる「凝着」という現象が起こり、切削機能が劣ることとなる結果となった(表5において摺動試験における摩耗量が「−(マイナス)」で示されている)。試料No.29の切削工具の摺動試験における被膜の摩耗量は、試料No.1〜12、21〜26の切削工具に比べ多かった。さらに、試料No.27〜29の切削工具は、耐摩耗試験においても寿命までのパス数が試料No.1〜20の切削工具に比べ少なかった。したがって、試料No.1〜26の切削工具の被膜が、耐摩耗性および潤滑性に優れていることが確認された。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 チャンバー、11 ガス導入口、12 ガス排出口、21 回転テーブル、22 基材保持具、31 バイアス電源、32 パルス電源、33 可変電源、41 スパッタリング法の蒸発源、42 アークイオンプレーティングの蒸発源、5 ヒーター、6 エッチング用フィラメント。

Claims (6)

  1. 第1材料と第2材料とを含む被膜であって、
    前記第1材料は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよびケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、ホウ素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物であり、
    前記第2材料は、ホウ素、モリブデン、ニオブ、バナジウムおよびタングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属または該少なくとも1種の金属を含んでなる合金であり、
    前記第2材料は、前記第1材料中に粒子状に分散している、被膜。
  2. 前記第2材料は、前記被膜の1〜10体積%を占める、請求項1に記載の被膜。
  3. 前記第2材料は、前記被膜の厚みtに対し0.03〜0.8tとなる粒径を有する、請求項1または請求項2に記載の被膜。
  4. 前記第2材料は、モリブデンまたはバナジウムである、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の被膜。
  5. 基材と、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の被膜とを含み、
    前記被膜は、前記基材を被覆している、切削工具。
  6. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の被膜の製造方法であって、
    前記製造方法は、前記被膜を製造する工程を含み、
    前記工程において、
    前記第1材料は、スパッタリング法により成膜され、
    前記第2材料は、アーク蒸着法により蒸着され、
    前記第1材料の成膜および前記第2材料の蒸着が1Pa未満の圧力条件下で同時に実行される、被膜の製造方法。
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