以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をするものとして、重複する説明を適宜省略する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、寝台500、制御キャビネット300、コンソール400、及びRF(Radio Frequency)コイル20を備える。
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、及びWB(Whole Body)コイル12を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。
制御キャビネット300は、静磁場用電源30、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、及び入力デバイス43を備えている。コンソール400は、ホスト計算機として機能する。
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体、例えば患者、が搬送されるボア内に静磁場を発生させる。ボアとは、磁石架台100の円筒内部の空間のことである。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源30から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生する。その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源30は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。被検体の胸部にある黒丸は、磁場中心を示している。
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向及び水平方向に移動することができる。撮像前に天板51に載置された被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
WBコイル12は全身用コイルとも呼ばれ、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、また、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号、即ちMR(Magnetic Resonance)信号を受信する。
磁気共鳴イメージング装置1は、WBコイル12の他、図1に示すようにRFコイル20を備える。RFコイル20は、被検体の体表面に近接して載置されるコイルである。RFコイル20は、複数のコイル要素200を備えている。これら複数のコイル要素200は、RFコイル20の内部でアレイ状に配列されるため、PAC(Phased Array Coil)と呼ばれることもある。
パラレルイメージングと呼ばれる高速撮像法では、位相エンコード方向に間引いた撮像を行うことで撮像の高速化を図ると共に、間引きによって生じるエリアシングを、各要素コイル200の感度マップを用いて除去する展開処理が行われている。また、非特許文献1に開示されているk−tSENSEと呼ばれる撮像法や、後述する第2の実施形態の撮像においても、各要素コイル200の感度マップを用いてエリアシングを除去する展開処理を行っている。
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいてRFパルスを生成する。生成したRFパルスはWBコイル12に伝送され、被検体に印加される。RFパルスの印加によって被検体からMR信号が発生する。このMR信号をRFコイル20又はWBコイル11が受信する。
RFコイル20で受信したMR信号、より具体的には、RFコイル20内の各コイル要素で受信したMR信号は、天板51及び寝台本体50に設けられたケーブルを介してRF受信器32に入力される。RF受信器32は、MR信号をAD(Analog to Digital)変換して、シーケンスコントローラ34に出力する。デジタルに変化されたMR信号は、生データ(Raw Data)と呼ばれることもある。なお、AD変換は、RFコイル20の内部やコイル選択回路36で行ってもよい。
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33及びRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。スキャンによってRF受信器32から生データを受信すると、シーケンスコントローラ34は、その生データをコンソール400に送信する。
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、記憶回路41、ディスプレイ42、入力デバイス43、及び処理回路40を備える。記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGAやASIC等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプリグラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組わせて、各種の機能を実現することもできる。
図2は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1のうち、特にコンソール400で実現される機能を示すブロック図である。図2に示すように、コンソール400の処理回路40は、歪推定データ収集機能402、間引きデータ収集機能403、展開用データ収集機能404、歪み推定機能405、補正付き展開処理機能406、表示制御機能407を実現する。これらの各機能は、例えば、処理回路40が具備するプロセッサが、記憶回路41に記憶される所定のプログラムを実行することによって実現される。
歪推定データ収集機能402は、MPG(Motion Probing Gradient)の印加に起因して生じる拡散強調画像の歪みを推定するための歪み推定用データを収集する。歪み推定用データは、例えば、装置の据え付け時等に行われる事前スキャンによって収集される。事前スキャンは、患者以外の撮像対象物、例えば、所定の形状を有するファントムに対して行われる。歪推定データ収集機能402は、事前スキャンのための撮像条件をシーケンスコントローラ402に対して設定し、事前スキャンを実行する。そして、歪推定データ収集機能402は、事前スキャンによって収集されたMR信号を収集し、収集されたMR信号を歪み推定用データとして歪み推定機能405に送る。
歪み推定機能405は、歪み推定用データからMPGの印加に起因する拡散強調画像の歪みを推定し、推定した歪みに関する情報を歪データとして記憶回路41に保存する。
間引きデータ収集機能403は、被検体(例えば患者)に対して、本スキャンとトレーニングスキャンを行って、複数の異なるb値に対応する複数の拡散強調画像を生成するためのデータを収集する。本スキャンで収集されたデータは、間引きデータとして補正付き展開処理機能406に送られる。
展開用データ収集機能404は、間引きデータ収集機能403で収集されたデータの中からトレーニングスキャンで収集されたデータを抽出し、展開用データとして展開処理機能406に送る。なお、後述するように、トレーニングスキャンで収集すべきデータを本スキャンの中で収集するように本スキャンを構成することもできる。このような本スキャンを、トレーニングスキャンレス型の本スキャンと呼ぶ。
補正付き展開処理機能406は、前述した展開用データと、歪みデータとを用いた展開処理によって、エリアシングが除去され、かつ歪みが補正された拡散強調画像を、間引きデータからb値毎に生成する。
表示制御機能407は、補正付き展開処理機能406で生成された拡散強調画像をディスプレイ42に表示させるための制御や処理を行う。
上述した各機能の詳細な説明をする前に、第1の実施形態で使用するパルスシーケンスや撮像方法について説明しておく。なお、他の実施形態においても同様のパルスシーケンスと撮像方法を使用する。
図3は、各実施形態で共通して使用される拡散強調イメージングのパルスシーケンスの一例として、SE(spin echo)型のEPI(echo planer imaging)シーケンスに拡散強調用のMPGパルスを組み込んだシーケンスを例示する図である。このシーケンスでは、90°のフリップ角を有する励起パルスからTE/2後に180°のフリップ角を有するリフォーカスパルスが印加され、リフォーカスパルスから概ねTE/2後にEPIシーケンスのデータの収集が開始される。ここで、TEは実効エコー時間を表わしており、厳密には、励起パルスから、EPIシーケンスのk空間中心(位相エンコード方向)のデータを収集するまでの時間を実効エコー時間TEとしている。
MPGパルスは拡散を強調するために印加される傾斜磁場パルスであり、励起パルスからリフォーカスパルスの間、及びリフォーカスパルスからデータ収集までの間に、それぞれ1つずつMPGパルスが印加される。
MPGパルスが、組織のADC(見かけの拡散係数)に与える影響の大きさを表す指標として、通常b値(b-factor)が用いられる。b値の値は次の(式1)で表される。
b=γG2τ2(T−(τ/3)) (式1)
ここで、γは磁気回転比(magnetogyric ratio)、GはMPGパルスの傾斜磁場の大きさ、τはMPGパルスのパルス長、Tは最初のMPGパルスの前縁から後のMPGパルスの前縁までの間隔である。
シングルショットのSE−EPIでは、1つの励起パルスに伴う1つのデータ収集で、1スライス分の総てのk空間データを収集する。これに対して、マルチショットのSE−EPIシーケンスでは、1スライス分のk空間データを複数回に分けて収集する。図2のパルスシーケンスによって収集されるMR信号の信号強度S(k空間中心の信号強度S)は、次の(式2)で表される。
S(b)=S0*exp[−b*ADC] (式2)
ここで、S0は定数、bは(式1)のb値、ADCは拡散係数ADCを表わしている。
(式2)は、信号強度が1つの指数関数で表現できるモデル(Mono-Exponential Model)である。このモデルでは、信号強度の対数は、次の(式3)のように、b値に対して線形に変化する。
ln(S/S0)=−b*ADC (式3)
(式3)から判るように、最低2つのb値と、夫々のb値に対応する信号強度が得られれば、拡散係数ADCを算出することができるが、b値の数を増やすことによって、拡散係数ADCの算出精度を上げることができる。
他方、b値が高い場合や低い場合には、b値に応じた信号強度の変化が、Mono-Exponential Modelから逸脱し、Bi-Exponential Modelに近くなることが知られている。
図4は、Mono-Exponential ModelとBi-Exponential Modelとを対比して示した図である。肝臓検査などでは、IVIM(Intra Voxel Incoherent Motion)と呼ばれる解析が行われている。IVIMでは、組織の灌流(perfusion)成分と拡散(diffusion)成分の両方を解析するために、灌流(perfusion)による拡散係数(ADC)Pと、拡散(diffusion)による拡散係数(ADC)Dを、例えば、次の(式4)で表されるBi-Exponential Modelに基づいて算出する。
S(b)=S0*[f*exp(−b*(ADC)P)+(1-f)*exp(−b*(ADC)D] (式4)
(式4)におけるfは、全体に占める灌流(perfusion)成分の比率を表わしている。
図4に示すBi-Exponential Modelのグラフから判るように、対数で表した信号強度の変化は、b値が大きい領域では直線的に変化するものの、b値が小さい領域では、曲線的に大きな変化率で変化する。IVIMでは、複数の種類のb値を用いた複数回の撮像で得られる信号値を、Bi-Exponential Modelでカーブフィッティングすることによって、拡散係数(ADC)Pと、拡散(diffusion)による拡散係数(ADC)Dを求めている。拡散係数(ADC)Pと、拡散(diffusion)による拡散係数(ADC)Dを高精度で求めようとすると、多数種類、例えば、10種類以上のb値で撮像するのが望ましく、撮像時間が長くなる。
また、複数の方向の拡散係数を求める場合、方向の数に応じて撮像時間はさらに長くなる。そこで、以下に説明する各実施形態では、複数のb値で撮像する場合でも、撮像時間を短縮することができる技術を提供する。
複数のb値で撮像する場合、撮像時間が長くなることに加えて、渦電流磁場等に起因する画像歪の問題を考慮する必要がある。図5は、b値を異なる種類、即ち、異なる値に設定する拡散強調イメージングのパルスシーケンスの例を示している。図5に示す例では、τはMPGパルスのパルス長τとパルス間隔Tを異なる値に設定して、異なるb値を得ている。MPGパルスの印加によって渦電流磁場が発生し、渦電流磁場によってMR信号に位相誤差が発生する。そしてこの位相誤差が、再構成画像における位置誤差の原因となる。複数のb値で撮像する場合、図5に示すように、夫々のb値でMPGパルスの位置や形状が異なるため、夫々のb値で渦電流磁場の発生状況も異なる。その結果、夫々のb値で、再構成画像における位置誤差も異なる値を示すことになる。そこで、以下に説明する各実施形態では、撮像時間を短縮する技術に加えて、複数のb値で撮像する場合でも位置誤差を補正することができる技術を提供する。
図6(a)、(b)は、b値を横軸とし、k空間上の位相エンコードの位置を縦軸として示した図である。位相エンコード方向とリードアウト方向は、互いに直交する任意の2方向に取り得るが、以下の説明では、位相エンコード方向をy方向(k空間ではky方向)とし、リードアウト方向をx方向として説明する。図6(a)、(b)では、リードアウト方向は、紙面に垂直な方向となる。
図6(a)は、間引きなしの従来のスキャン方法を示す図であり、位相エンコードの間隔は、夫々のb値においてナイキスト間隔となっている。ナイキスト間隔とは、位相エンコード方向にエリアシングが生じない間隔、即ち、ナイキスト定理を満たす間隔の意味である。また、位相エンコード方向の幅は、所望の解像度が得られる幅となっている。一方、図6(b)は、位相エンコードを所定の高速化率で間引いたスキャン方法を示す図である。図6(b)の例では、高速化率を4としており、位相エンコードの間隔はナイキスト間隔の4倍となっている。なお、b値の数に関しては、図6(a)及び(b)では、同じ数の10としている。
図6(b)に示すスキャン方法は、位相エンコードの数が図6(a)のスキャン方法に対して1/4となっているため、撮像時間も1/4に短縮される。しかしながら、図6(b)に示すスキャン方法では、ナイキスト定理を満たしていないため、位相エンコード方向にエリアシングが発生する。
図7は、エリアシングが発生する様子を模式的に示した図である。図7の2つの図は、いずれも縦軸が実空間yであり、ky空間を逆フーリエ変換したものである。また、2つの図の横軸は、b値の空間を同じく逆フーリエ変換したものであり、以下、この空間をFb空間と呼ぶ。また、y空間とFb空間で表される2次元空間を、y−Fb空間と呼ぶものとする。
図7の左側の図は、間引きなしのスキャンに対応する信号を示す図であり、エリアシングは生じていない。これに対して、図7の右側の図は、間引き有りのスキャンに対応する信号を示す図である。左側の図の中央近傍にあるハッチングされた信号領域が複数折り重なり、エリアシングが生じていることを示している。例えば、左側の図の4つの画素位置にある4つの画素値ρ1〜ρ4が、右側の図では、ρaliasの位置に重なっている。なお、ここでの画素位置、或いは画素値とは、y−Fb空間での位置、或いは信号値を意味している。
後述する展開処理は、右側の図のある1つの画素位置にある画素値ρaliasから4つの画素値ρ1〜ρ4を求め、左側の図の対応する各画素位値に配置する処理、即ち、図7の4つの矢印の逆向きの処理を、右側の図の各画素に対して行ってエリアシングを除去する処理である。
この展開処理では、本スキャンとは別にトレーニングスキャンと呼ばれるスキャンを行い、トレーニングスキャンで収集した展開用データを用いて上記のエリアシング除去処理を行う。
図8(a)は、トレーニングスキャンと本スキャンとの関係を示す図である。トレーニングスキャンも本スキャンと同様に複数のb値に対して行われ、トレーニングスキャンの各b値は、本スキャンの各b値に対応する。しかしながら、位相エンコード方向に関しては、トレーニングスキャンと本スキャンとで異なる。トレーニングスキャンでの位相エンコード間隔はナイキスト間隔であり、トレーニングスキャンで収集されたデータから生成される画像にはエリアシングが発生しない。
一方、トレーニングスキャンでの位相エンコードの全体の範囲は、本スキャンの全体の範囲よりも狭い。具体的には、トレーニングスキャンでは、ky空間の低周波領域のみが収集され、高周波領域は収集されない。このため、トレーニングスキャンから生成される画像は、本スキャンから生成される画像に比べて解像度が低くなる。
しかしながら、トレーニングスキャンから生成される展開用データは、あくまでも展開処理に利用されるだけであり、最終的に生成される画像は、本スキャンから生成される画像の解像度に依存する。したがって、トレーニングスキャンから生成される画像の解像度が低くてもそれ程問題とはならない。
トレーニングスキャンは、本スキャンの前に実行してもよいし、本スキャンの後に実行してもよい。但し、トレーニングスキャンと本スキャンは、同じ被検体に対して行う必要がある。
本スキャンとトレーニングスキャンとの合計の撮像時間は、本スキャン単独(図6(b))に比べると少し長くなるものの、従来の間引きなしのスキャン(図6(a))の撮像時間に比べると、大幅に短縮される。
図8(b)は、撮像時間をさらに短縮することができるスキャン方法を示す図である。図8(b)に示すスキャンでは、展開用データを本スキャンの中で収集する。このため、トレーニングスキャンを本スキャンと別に行う必要がない。つまり、図8(b)に示すスキャンは、トレーニングスキャンレス型の本スキャンと呼ぶことができる。トレーニングスキャンレス型の本スキャンでは、位相エンコード間隔を、ky空間の低周波領域のみナイキスト間隔にし、それ以外の領域では間引きした間隔でデータを収集する。つまり、ky空間の低周波領域では、本スキャンとトレーニングスキャンとを兼用したスキャンとなっている。
次に、事前スキャン、トレーニングスキャンレス型の本スキャン、及び、展開処理の、より具体的な方法について、順次説明する。
図9は、事前スキャンの処理例を示すフローチャートである。前述したように、事前スキャンは、MPGパルスの印加に起因して生じる拡散強調画像の歪みを推定するための歪み推定用データを収集するためのスキャンである。事前スキャンは、例えば装置の据え付け時等に行われる。また、事前スキャンの撮像対象は、例えば、所定の形状を有するファントムである。
ステップST100〜ステップST104は、歪推定データ収集機能402に対応するステップである。また、ステップST105〜ステップST108は、歪み推定機能405に対応するステップである。
ステップST100では、拡散強調イメージングに基づく事前スキャンの撮像条件が、シーケンスコントローラ34に対して設定される。事前スキャンにおけるb値は、必ずしも本スキャンで使用するb値と同じである必要はない。ただし、本スキャンで使用されると想定されるb値の範囲をカバーしているのが好ましく、その範囲の中で複数のb値に対して事前スキャンを行うのが好ましい。
ステップST101で、b値の初期値を設定し、その後、設定された撮像条件に従って、ファントムに対する拡散強調イメージングが実行される(ステップST102)。1つのb値に対する撮像が終了すると、b値が異なる値に更新され、全てのb値に対する拡散強調イメージングが終了するまで同じ撮像を繰り返される(ステップST103、104)。事前スキャンで収集されたMR信号は歪み推定機能405に送られる。
歪み推定機能405はb値毎の再構成画像を生成する(ステップST105)。その後、歪み推定機能405は、再構成画像状のファントム形状と、実際のファントムの形状、即ち、歪みのない形状とを比較して、b値毎の歪みを算出する(ステップST106)。そして、歪みから補正データを算出し(ステップST107)、算出した補正データ、即ち、歪み推定用データを記憶回路41に保存する(ステップST108)。
図10は、再構成画像から補正データを求める処理の概念を説明する図である。今、実際のファントムの形状が、x−y面で図10の破線で示す長方形であると仮定する。そして、再構成画像上のファントムの形状が図10の実線で示す形状であったとする。このような場合において、ステップST106では、歪み推定機能405は、ファントム形状の所定の複数個所において、実際のファントムの位置(図10において小さな破線の円で示す位置)と、これに対応する再構成画像上のファントムの位置(図10において小さな実線の円で示す位置)とを比較し、両者の差を、各位置(x, y)におけるy方向の歪みΔyx, yとして求める。
図10では、歪みΔyx, yをファントムの端部の6カ所で求めているが、歪みを求める位置や数はこれに限定されるものではなく、より広い範囲で、より多くの位置で歪みを求めても良い。また、歪みΔyx, yは、各b値に対応する再構成画像から、b値毎に求められる。
歪みΔyx, yをそのまま補正データとして保存してもよいが、b値の関数として求めておく方法も考えられる。例えば、歪みΔyx, yを次の(式5)のような2次関数で表し、その各次数の係数(αx, y, βx, y,γx, y)を補正データとして算出する方法が考えられる。
Δyx, y=αx, y*b2+βx, y*b+γx, y (式5)
係数(αx, y, βx, y,γx, y)は、歪みΔyx, yを求めた各位置(x, y)における歪みΔyx, yと、事前スキャンで用いた複数のb値のプロット点を2次関数でカーブフィッティングする等の手法によって算出することができる。
補正データを上記のような係数(αx, y, βx, y,γx, y)として記憶回路41に保存しておけば、本スキャンで使用する任意のb値に対して歪みΔyx, yを求めることができる。また、歪みΔyx, y求めた位置、即ち、歪みΔyx, yの測定位置と、本スキャンで補正すべき位置が異なっている場合には、複数の測定位置における歪みΔyx, yから、補正すべき位置における歪みを補間処理等で求めればよい。
また、上述した歪みΔyx, yは実空間での歪みであるが、これに換えて、k空間での位相歪みとして算出してもよい。
なお、歪みは主に位相エンコード方向(今の例ではy方向)に発生するため、リードアウト方向(x方向)の歪みはそれ程気にする必要はない。
事前スキャンでは、位相エンコード方向を間引きなしでスキャンするため、次に説明する本スキャンよりも撮像時間が長くなる場合がある。しかしながら、事前スキャンは、据え付け時等に行えばよく、撮像時間が多少長くとも問題にならない。また、事前スキャンは、例えばファントムに対して行われるため、患者への肉体的、精神的な負担を考慮する必要もない。
次に、トレーニングスキャンレス型の本スキャンについて具体的に説明する。本スキャンは、被検体、例えば患者に対して行われるスキャンである。
図11は、トレーニングスキャンレス型の本スキャンの処理例を示すフローチャートである。ステップST200〜ステップST205は、間引きデータ収集機能403に対応するステップであり、ステップST206は、展開用データ収集機能404に対応するステップである。
ステップST200では、拡散強調イメージングに基づく本スキャンの撮像条件が、シーケンスコントローラ34に対して設定される。本スキャンでは、図8(b)に示すように、位相エンコード間隔を、ky空間の低周波領域のみナイキスト間隔にし、それ以外の領域では間引きした間隔でデータを収集するための撮像条件が設定される。
ステップST201で、b値の初期値を設定し、その後、設定された撮像条件に従って、被検体に対する拡散強調イメージングが実行される(ステップST202)。1つのb値に対する撮像が終了すると、b値が異なる値に更新され、全てのb値に対する拡散強調イメージングが終了するまで同じ撮像を繰り返される(ステップST203、204)。
図12は、ステップST205、ステップST206の処理の概念を示す図である。ステップST205では、収集されたデータ(図12の左側に示す)から、k空間全領域の間引きデータを抽出し、再構成画像の生成のためのk空間データとして、b値毎に記憶回路41に保存する。ここでの再構成画像とは、例えば、被検体を診断するための再構成画像という意味である。
一方、ステップST206では、収集されたデータから、k空間低周波領域の非間引きデータを抽出し、展開用データ生成のためのk空間データとして、b値毎に記憶回路41に保存する。
次に、展開処理の具体的な手順について説明する。展開処理は、展開用データを生成するフェーズと、展開処理を含む再構成処理のフェーズの2つのフェーズからなる。
図13は、展開用データを生成するフェーズの処理例を示すフローチャートである。また、図14は、展開用データを生成するフェーズの処理の概念を示す図である。
ステップST300〜ステップST305は、補正付き展開処理機能406に対応するステップである。
ステップST300で、補正付き展開処理機能406は、全てのb値に対応する展開用データ生成のためのk空間データ(間引き無し)を、記憶回路41から取得する。このデータは、図14(a)に示すように、kx−ky空間のデータである。但し、ky方向は低周波領域のみのデータとなっている(図12の右下の図参照)。
ステップST301で、k空間で逆フーリエを行って、図14(b)に例示するように、b値毎の実空間データ(x−y空間データ)を生成する。図14(b)では、被検体の形状を円で模擬している。展開用データ生成のためのk空間データは、位相エンコード方向に間引きされていないため、エリアシングは発生していない。
次に、補正付き展開処理機能406は、記憶回路41に保存されている補正データ(αx, y, βx, y,γx, y)を読み出し、(式5)に基づいて、b値ごとに実空間データ(x−y空間データ)の歪みを補正する。補正データ(αx, y, βx, y,γx, y)は、実空間データの全ての位置に対応しているわけではないので、必要に応じて補正データの補間処理を行って、歪み補正を行う。
ステップST303では、y方向データとb方向データを2次元配列して、図14(c)に例示するようなy−b空間データを生成する。具体的には、各x−y空間データの特定のx位置に対応するy方向データをx−y空間データから抽出し、b方向に配列する。したがって、y−b空間データは、実際には、各x位置に対応して複数生成されることになるが、図14(c)では、煩雑さを避けるため、1つのx位置に対応するy−b空間データのみを示している。
次に、ステップST304では、y−b空間データをb方向に逆フーリエ変換して、図14(d)に例示するようなy−Fb空間データを生成する。
ステップST305では、生成されたy−Fb空間データから、y−Fb空間で規定される展開用データを生成する。ここで生成される展開用データは、例えば、非特許文献1で定義されている共分散行列Mに相当するデータである。
なお、上述の説明では、補正データを用いた歪み補正を、b値毎にx−y空間データに対して行うものとしている(ステップST302)。これに換えて、補正データを用いた歪み補正を、ステップST303でy−b空間を生成した後に行っても良い。
次に、展開処理を含む再構成処理のフェーズについて説明する。図15は、展開処理を含む再構成処理のフェーズの処理例を示すフローチャートである。また、図16及び図17は、展開処理を含む再構成処理のフェーズの処理の概念を示す図である。
図15のステップST400〜ステップST405は、補正付き展開処理機能406に対応するステップである。
ステップST400で、補正付き展開処理機能406は、全てのb値に対応する再構成画像生成のためのk空間データ(間引き有り)を、記憶回路41から取得する。このデータは、図16(a)に示すように、kx−ky空間のデータである。このkx−ky空間のデータは、ky方向の全領域を含むものである(図12の右上の図参照)。
ステップST401で、k空間で逆フーリエを行って、図16(b)に例示するように、b値毎の実空間データ(x−y空間データ)を生成する。図16(b)でも、被検体の形状を円で模擬している。しかしながら、再構成画像生成のためのk空間データは、位相エンコード方向に間引きされているため、y方向にエリアシングが発生し、y方向に円が折り重なっている。
ステップST402では、y方向データとb方向データを2次元配列して、図16(c)に例示するようなy−b空間データを生成する。具体的には、ステップST303と同様に、各x−y空間データの特定のx位置に対応するy方向データをx−y空間データから抽出し、b方向に配列する。したがって、y−b空間データは、実際には、各x位置に対応して複数生成されることになるが、図16(c)では、煩雑さを避けるため、1つのx位置に対応するy−b空間データのみを示している。
次に、ステップST403では、y−b空間データをb方向に逆フーリエ変換して、図16(d)及び図17(a)に例示するようなy−Fb空間データを生成する。図16(d)及び図17(a)は同じ図である。このy−Fb空間データも、各x位置に対応して複数存在する。
ステップST404では、y−Fb空間データに展開用データを適用して展開演算を実施し、エリアシングが除去されたy−Fb空間データを生成する。図17(b)は、エリアシングが除去されたy−Fb空間データを例示するものである。ここでの展開演算は、例えば、非特許文献1の式[5]等に相当する演算である。
次に、ステップST405では、y−Fb空間データをb方向にフーリエ変換して、y−b空間データを生成する。図17(c)は、ステップST405で生成されたy−b空間データを例示する図である。
ステップST406で、記憶回路41に保存されている補正データ(αx, y, βx, y,γx, y)を読み出し、(式5)に基づいて、y−b空間データにおけるy方向の歪を補正する。ステップST302と同様に、必要に応じて補正データの補間処理を行って、歪み補正を行う。
なお、図17(a)、(b)に例示するy−Fb空間データや、図17(c)に例示するy−b空間データも、各x位置に対応して複数存在する。
最後に、ステップST407で、b値毎にx方向データを合成し、図17(d)に例示するような、b値毎のx−y空間データを生成する。これらのb値毎のx−y空間データが、エリアシングが除去されたb値毎の再構成画像である。
なお、上記では、歪み補正をy−b空間データに対して行うものとしている(ステップST406)。これに換えて、ステップST407の後に、b値毎のx−y空間データに対して、歪み補正を行ってもよい。
上述したように、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1では、多数のb値を用いて拡散強調イメージングを行う場合であっても、各本スキャンの位相エンコード方向を間引きすることによって撮像時間を短縮することができ、被検体に対する肉体的な負担や精神的な負担を軽減することができる。また、間引きによって生じるエリアシングは、展開処理によって適切に除去することができる。展開処理は撮像後に行えばよく、被検体の撮像時間に影響を与えない。
また、MPGパルスの印加によって生じる画像歪は、b値の値によって異なってくる。これに対して、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1では、異なる複数のb値に対しても画像歪を適切に補正することができるため、画質の劣化を抑制することができる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1について説明する。第2の実施形態では、複数のRFコイル或いは複数の要素コイルで収集した複数チャネルのデータを、第1の実施形態で用いた展開用データに加えて、複数のRFコイル或いは複数の要素コイルに対応する複数の感度マップを用いて展開処理する。
図18は、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の機能ブロック図である。第1の実施形態(図2)との主な相違は、感度マップ収集機能408を備えている点である。
感度マップ収集機能408も処理回路40によって実現される機能である。感度マップ収集機能408によって、感度マップ収集用のスキャンが実行され、そのスキャンで収集されたデータから、複数のRFコイル或いは複数の要素コイルに対応する複数の感度マップが生成される。感度マップ収集用のスキャンは、本スキャンと同じ被検体に対して行われる。感度マップ収集用のスキャンは、本スキャンの前に行ってもよいし、本スキャンの後に行ってもよい。生成された感度マップのデータは、補正機能付き展開処理機能406に送られる。
図19は、第2の実施形態における、感度マップを用いた展開処理を含む再構成画像の生成処理例を示すフローチャートである。
ステップST500〜ステップST503の処理は、基本的には第1の実施形態におけるステップST400〜ステップST403の処理と同じである。但し、第2の実施形態では、複数のRFコイル或いは複数の要素コイルで収集した複数チャネルのデータに対して、ステップST500〜ステップST503の処理が行われる点が異なる。
したがって、ステップST503で生成されるy−Fb空間データは、複数チャネル分のデータとなる。
ステップST504では、複数チャネル分のy−Fb空間データに対して、展開用データと感度マップとを適用して展開演算を実施して、エリアシングが除去されたy−Fb空間データを生成する。ここでの展開演算は、例えば、非特許文献1の式[7]等に相当する演算である。
ステップST505〜ステップST507の処理は第1の実施形態におけるステップST405〜ステップST407の処理と実質的に同じであり、説明を省略する。
第2の実施形態では、複数RFコイル或いは複数の要素コイルで収集したデータを利用している。つまり、最終的に得られる画像の数は同じであっても、この画像を生成するために、より多くのデータを利用している。このため、第1の実施形態で得られる効果に加えて、より高いSNRや、より大きな高速化率を実現できることが期待される。
(その他の実施形態)
ここまでの実施形態では、図4等に例示したように、b値の間隔が等間隔であるものとした。しかしながら、b値の間隔が不等間隔であっても、再構成画像を生成することができる。例えば、図20に示すように、信号強度の変化が急峻な領域ではb値の間隔を短く設定し、信号強度の変化が少ない領域では、b値の間隔を長くするといったことが考えられる。また、画質の観点からは、b値の対数が等間隔になるようにb値を設定した方が良い。
また、前述した実施形態では、歪み補正を実空間(例えば、y空間)で行うものとしていたが、これに限定されない。事前スキャンの収集データから生成した実空間での歪みの補正データを、位相歪みの補正データに変換し、本スキャンの画像再構成処理において、k空間で位相歪みを補正するようにしてもよい。
上述した少なくとも1つの実施形態の磁気共鳴イメージング装置によれば、複数のb値に対応する拡散強調画像の撮像時間を短縮すると共に、歪みの少ない拡散強調画像を取得することができる。
(特許請求の範囲の記載との対応)
実施形態の記載における歪み推定データ収集機能、及び歪み推定機能は、特許請求の範囲の記載における推定部の一例である。実施形態の記載における間引きデータ収集機能、及び展開用データ収集機能は、特許請求の範囲の記載における収集部の一例である。実施形態の記載における補正付き展開処理機能は、特許請求の範囲の記載における生成部の一例である。実施形態の記載における間引きデータは、特許請求の範囲の記載における再構成用データの一例である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。