以下に、図面に基づいて、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態では、磁気共鳴イメージング装置をMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置と呼ぶ。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るMRI装置の構成を示す図である。図1に示すように、このMRI装置100は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、送信RFコイル6、送信部7、受信RFコイル8、受信部9、シーケンス制御部10及び計算機システム20を備える。
静磁場磁石1は、中空の円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石1としては、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。
傾斜磁場コイル2は、中空の円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石1の内側に配置される。この傾斜磁場コイル2は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、後述する傾斜磁場電源3から個別に電流供給を受けて、X,Y,Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。なお、Z軸方向は、静磁場と同方向とする。傾斜磁場電源3は、傾斜磁場コイル2に電流を供給する。
ここで、傾斜磁場コイル2によって発生するX,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。
寝台4は、被検体Pが載置される天板4aを備え、後述する寝台制御部5による制御のもと、被検体Pが載置された状態で天板4aを傾斜磁場コイル2の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、この寝台4は、長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御部5は、制御部26による制御のもと、寝台4を制御する装置であり、寝台4を駆動して、天板4aを長手方向及び上下方向へ移動する。
送信RFコイル6は、傾斜磁場コイル2の内側に配置され、送信部7から高周波パルスの供給を受けて高周波磁場を発生する。送信部7は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信RFコイル6に送信する。受信RFコイル8は、傾斜磁場コイル2の内側に配置され、上記の高周波磁場の影響によって被検体Pから放射される磁気共鳴信号を受信する。この受信RFコイル8は、磁気共鳴信号を受信すると、その磁気共鳴信号を受信部9へ出力する。
受信部9は、受信RFコイル8から出力される磁気共鳴信号に基づいて磁気共鳴(Magnetic Resonance:MR)信号データを生成する。この受信部9は、受信RFコイル8から出力される磁気共鳴信号をデジタル変換することによってMR信号データを生成する。このMR信号データには、前述したスライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grによって、位相エンコード方向、リードアウト方向、スライスエンコード方向の空間周波数の情報が対応付けられてk空間に配置される。そして、MR信号データを生成すると、受信部9は、そのMR信号データをシーケンス制御部10へ送信する。
シーケンス制御部10は、計算機システム20から送信されるシーケンス実行データに基づいて、傾斜磁場電源3、送信部7及び受信部9を駆動することによって、被検体Pのスキャンを実行する。ここで、シーケンス実行データとは、傾斜磁場電源3が傾斜磁場コイル2に供給する電源の強さや電源を供給するタイミング、送信部7が送信RFコイル6に送信するRF信号の強さやRF信号を送信するタイミング、受信部9が磁気共鳴信号を検出するタイミングなど、被検体Pのスキャンを実行するための手順を示すパルスシーケンスを定義した情報である。なお、シーケンス制御部10は、シーケンス実行データに基づいて傾斜磁場電源3、送信部7及び受信部9を駆動した後に、受信部9からMR信号データが送信されると、そのMR信号データを計算機システム20へ転送する。
計算機システム20は、MRI装置100の全体制御を行う。例えば、計算機システム20は、MRI装置100が有する各部を駆動することで、被検体Pのスキャンや画像再構成などを行う。この計算機システム20は、インタフェース部21、画像再構成部22、記憶部23、入力部24、表示部25及び制御部26を有する。
インタフェース部21は、シーケンス制御部10との間で授受される各種信号の入出力を制御する。例えば、このインタフェース部21は、シーケンス制御部10に対してシーケンス実行データを送信し、シーケンス制御部10からMR信号データを受信する。MR信号データを受信すると、インタフェース部21は、各MR信号データを被検体Pごとに記憶部23に格納する。
画像再構成部22は、記憶部23によって記憶されたMR信号データに対して、後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成処理を施すことによって、被検体P内における所望核スピンのスペクトラムデータあるいは画像データを生成する。
記憶部23は、後述する制御部26によって実行される処理に必要な各種データや各種プログラムなどを記憶する。例えば、記憶部23は、インタフェース部21によって受信されたMR信号データや、画像再構成部22によって生成されたスペクトラムデータや画像データなどを、被検体Pごとに記憶する。
入力部24は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。この入力部24としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。
表示部25は、制御部26による制御のもと、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を表示する。この表示部25としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
制御部26は、図示していないCPU(Central Processing Unit)やメモリ等を有し、MRI装置100の全体制御を行う。この制御部26は、例えば、入力部24を介して操作者から入力される撮像条件に基づいて各種のシーケンス実行データを生成し、生成したシーケンス実行データをシーケンス制御部10に送信することによってスキャンを制御する。また、制御部26は、スキャンの結果としてシーケンス制御部10からMR信号データが送られた場合に、そのMR信号データに基づいて画像を再構成するよう画像再構成部22を制御する。
以上、第1の実施形態に係るMRI装置100の構成について説明した。このような構成のもと、MRI装置100は、プリスキャンを実行する。ここで、プリスキャンは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス方向傾斜磁場を印加し、補正量を算出するエコーの手前まで、本スキャン用のパルスシーケンスと同様に位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。そして、MRI装置100は、プリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から位相ずれの量を補正量として算出する。また、MRI装置100は、後述する補正量算出部26cにより算出された補正量に基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。
すなわち、第1の実施形態に係るMRI装置100は、位相エンコード用傾斜磁場を印加するプリスキャンを実行し、プリスキャンにより得られたエコー信号との間の位相ずれに基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスの補正量を算出する。したがって、第1の実施形態によれば、リードアウト方向、スライス方向のずれに加えて、位相エンコード用傾斜磁場による0次の位相ずれによって生じる画像劣化を防ぐことができる。以下では、かかるMRI装置100が有する機能について詳細に説明する。
図2は、図1に示した計算機システム20の詳細な構成を示す機能ブロック図である。図2では、計算機システム20が有する機能部のうち、インタフェース部21、記憶部23、及び制御部26を示している。
記憶部23は、シーケンス実行データ記憶部23aと、MR信号データ記憶部23bとを有する。シーケンス実行データ記憶部23aは、後述する撮像条件設定部26aにより生成されるシーケンス実行データを記憶する。MR信号データ記憶部23bは、インタフェース部21によって受信されたMR信号データを記憶する。
制御部26は、撮像条件設定部26a、プリスキャン実行部26b、補正量算出部26c、シーケンス補正部26d、及び本スキャン実行部26eを有する。
撮像条件設定部26aは、操作者によって入力部24を介して入力された撮像条件に基づいて、撮像で用いられるパルスシーケンスを定義したシーケンス実行データを生成する。例えば、撮像条件設定部26aは、操作者によってFSE法の撮像条件が入力された場合には、以下で説明する本スキャン用のパルスシーケンス、プリスキャン用のパルスシーケンスそれぞれについて、シーケンス実行データを生成する。
図3は、第1の実施形態に係る本スキャン用のパルスシーケンスを示す図である。図3において、「RF」は、励起用のフリップパルス及びリフォーカス用のフロップパルスが印加されるタイミングを示している。また、「Gss」はスライス選択用傾斜磁場の印加タイミング及び強度を示しており、「Gro」はリードアウト用傾斜磁場の印加タイミング及び強度を示しており、「Gpe」は位相エンコード用傾斜磁場の印加タイミング及び強度を示している。なお、図3では、1つのスライス選択に関するパルスシーケンスのみを示し、スライスエンコードについては図示を省略している。また、「ETS(Echo Train Spacing)」は、エコー間隔を示している。
図3に示すように、本スキャン用のパルスシーケンスは、一般的なFSE法のパルスシーケンスである。図3に示すように、本スキャン用のパルスシーケンスは、フリップパルスfliが印加された後に、複数のフロップパルスflo1、flo2・・・flo9、flo10、flo11・・・を順次印加することで、複数のエコー信号Echo1、Echo2・・・Echo9、Echo10、Echo11・・・を収集する。なお、図3に示すパルスシーケンスは、10番目に収集されるエコー信号Echo10で位相エンコード用傾斜磁場がゼロになるように設定された場合の例である。
図4は、第1の実施形態に係るプリスキャン用のパルスシーケンスを示す図である。プリスキャン用のパルスシーケンスは、図3に示した本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス方向傾斜磁場を印加し、補正量を算出するエコーの手前まで、本スキャン用のパルスシーケンスと同様に位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。
例えば、図4に示すように、プリスキャン用のパルスシーケンスは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場を印加し、本スキャン用のパルスシーケンスで印加される位相エンコード用傾斜磁場のうちの少なくとも一つをk空間中心近傍のエコーまで印加するものである。言い換えると、このパルスシーケンスは、本スキャン用のパルスシーケンスにおいて、コントラストTEの近傍まで位相エンコード用傾斜磁場を印加し、コントラストTE以降は位相エンコード用傾斜磁場を抜いたものである。なお、図4では、Echo10がk空間の中心に対応する場合の例を示している。
例えば、プリスキャン用のパルスシーケンスは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場を印加し、本スキャン用のパルスシーケンスで使用する複数の位相エンコードのうちで、平均強度近傍の位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。
さらに、このパルスシーケンスでは、スティミュレイテッドエコーがキャンセルされ、スピンエコーのみが収集されるように設定される。例えば、米国特許第5818229に記載された方法を用いることができる。この方法では、リフォーカス用のフロップパルスの位相をπ,π,π,π・・・と変えながら収集された1ショット目のエコー信号と、π,−π,π,−π・・・と変えながら収集された2ショット目のエコー信号とを加算することで、スピンエコー成分のみが取り出される。または、1ショット目のエコー信号から2ショット目のエコー信号を減算することで、スティミュレイテッドエコー成分のみを取り出し、取り出したスティミュレイテッドエコー成分がスピンエコー成分の代わりに用いられてもよい。
ここで、プリスキャン用のパルスシーケンスは、例えば、位相エンコードMatrixが256で19エコー収集の場合、k空間を埋めるために256/19=13ショットが必要になる。この場合には、プリスキャン用のパルスシーケンスは、平均の位相エンコード用傾斜磁場強度を持つショット(シーケンシャルに位相エンコードを埋める場合は中心ショット(7ショット))で印加される位相エンコード用傾斜磁場を印加するように設定される。
図2の説明にもどって、プリスキャン実行部26bは、プリスキャン用のパルスシーケンスを実行する。
具体的には、プリスキャン実行部26bは、撮像条件設定部26aによってプリスキャン用のシーケンス実行データが生成されると、まず、シーケンス実行データをシーケンス実行データ記憶部23aから読み出す。そして、プリスキャン実行部26bは、読み出したシーケンス実行データをインタフェース部21経由でシーケンス制御部10に送信することで、プリスキャンを実行する。例えば、プリスキャン実行部26bは、図4に示したパルスシーケンスを定義したシーケンス実行データをシーケンス制御部10に送信することで、プリスキャンを実行する。
補正量算出部26cは、プリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から位相ずれの量を補正量として算出する。この補正量算出部26cは、プリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から、リードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場によって生じる位相ずれ(0次および1次)、位相エンコード用傾斜磁場によって生じる0次の位相ずれの量を補正量として算出する。
具体的には、補正量算出部26cは、プリスキャン実行部26bによってプリスキャンが実行された後に、プリスキャンにより収集されたエコー信号に関するMR信号データをMR信号データ記憶部23bから読み出す。その後、補正量算出部26cは、読み出した各MR信号データをリードアウト方向にフーリエ変換した後に、1次の位相差を算出する。この1次の位相差は、リードアウト用傾斜磁場の1次位相差である。
FSE法で発生する各エコーごとの位相差には、場所の1次関数となる1次の位相差と、コイル配置の不整合などによって生じる場所依存性のない位相差がある。場所依存性のない位相差は0次の位相差と呼ばれる。各MR信号データに対して算出した1次の位相を補正し、位相平均を求めることで0次の位相差を算出する。この0次の位相差には、リードアウト用傾斜磁場の0次の位相差、スライス選択用傾斜磁場の0次および1次の位相差に加えて、位相エンコード用傾斜磁場の0次の位相差の影響も含まれる。
ここで、補正量算出部26cは、プリスキャンにより収集されたエコー信号における1次および0次の位相差を算出する。この差分が、リードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場、位相エンコード用傾斜磁場により生じる位相ずれとなる。
例えば、図4に示したパルスシーケンスが実行されたとする。その場合には、補正量算出部26cは、図4に示した10番目のエコー信号Echo10と11番目のエコー信号Echo11との間の位相差p1を算出する。そして、補正量算出部26cは、算出した位相差から位相ずれp1を補正量として算出する。
なお、ここでは、補正量算出部26cは、10番目のエコー信号と11番目のエコー信号とを補正量の算出に使用したが、さらに12番目以降の複数のエコーを使用してもよい。例えば、補正量算出部26cは、プリスキャンのパルスシーケンスの10番目と11番目の位相差をp1、12番目と11番目の位相差をp1_2、12番目と13番目の位相差をp1_3として、位相エンコード用傾斜磁場によって位相エンコード方向に生じる位相ずれを(p1+p1_2+p1_3)/3としてもよい。
シーケンス補正部26dは、補正量算出部26cにより算出された位相ずれに基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。具体的には、シーケンス補正部26dは、補正量算出部26cによって位相ずれが算出されると、算出された位相ずれに基づいて、シーケンス実行データ記憶部23aに記憶されている本スキャン用のシーケンス実行データを補正する。
ここで、シーケンス補正部26dは、補正量算出部26cによって算出された位相ずれがゼロになるように、本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。このとき、例えば、シーケンス補正部26dは、1次の位相差に関しては、フリップパルスとフロップパルスとの間に補正傾斜磁場を印加するように、本スキャン用のパルスシーケンスを変更する。なお、シーケンス補正部26dは、本スキャン用のパルスシーケンスにおけるリードアウト用傾斜磁場の前後に、補正傾斜磁場を加えてもよい。また、例えば、シーケンス補正部26dは、0次の位相差に関しては、フロップパルスの位相を変更することで、位相ずれがゼロになるようにする。
このように、シーケンス補正部26dが、プリスキャンで観測された位相ずれがゼロになるように本スキャン用のパルスシーケンスを補正することによって、リードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場の0次および1次の渦電流、位相エンコード用傾斜磁場の0次の渦電流の影響を受けない画像が得られるようになる。
図5及び6は、シーケンス補正部26dによって行われる位相ずれの補正を説明するための図である。図5は、位相エンコード方向の位相ずれの一例を示している。図5において、実線61は、エコー信号ごとの位相エンコード方向の0次の位相ずれを表しており、破線62は、位相エンコード用傾斜磁場の強度を表している。また、図6は、図5に示したエコー信号が配置されるk空間を示している。図6において、横軸は位相エンコード方向を示している。
ここで、位相エンコード方向の0次の位相ずれは、k空間へのエコー信号の配置の仕方に依存する。図5に示す例は、k空間に対して、収集されたエコー信号を位相エンコード方向に順番に配置していく場合を示している。図6に示す番号は、収集されたエコー信号の順番を表している。図4に示したパルスシーケンスを用いてプリスキャンを行った場合には、10番目に収集されるエコー信号Echo10に対応する位置(図6に示す矢印の位置)、すなわち、k空間の中心近傍に配置されるエコー信号の0次の位相ずれが補正される。なお、ここでは、10番目に収集されるエコー信号Echo10を基準にして補正を行う場合について説明するが、基準となるエコー信号は、任意のエコー信号でよい。
本スキャン実行部26eは、シーケンス補正部26dにより補正された本スキャン用のパルスシーケンスを用いて、本スキャンを実行する。具体的には、プリスキャン実行部26bは、シーケンス補正部26dによって本スキャン用のシーケンス実行データが補正されると、補正後のシーケンス実行データをシーケンス実行データ記憶部23aから読み出す。そして、本スキャン実行部26eは、読み出したシーケンス実行データをインタフェース部21経由でシーケンス制御部10に送信することで、本スキャンを実行する。
次に、第1の実施形態に係るMRI装置100によって行われる位相ずれ補正の処理手順について説明する。図7は、第1の実施形態に係るMRI装置100によって行われる位相ずれ補正の処理手順を示すフローチャートである。
図7に示すように、第1の実施形態に係るMRI装置100では、操作者によって撮像を開始するよう指示された場合に(ステップS101,Yes)、撮像条件設定部26aが、入力部24を介して操作者から撮像条件の入力を受け付ける(ステップS102)。
続いて、撮像条件設定部26aは、操作者によって入力された撮像条件に基づいて、本スキャン用及びプリスキャン用のシーケンス実行データをそれぞれ生成する(ステップS103)。
例えば、撮像条件設定部26aは、図3に示したパルスシーケンスを定義したシーケンス実行データを、本スキャン用のシーケンス実行データとして生成する。また、例えば、撮像条件設定部26aは、図4に示したパルスシーケンスを定義したシーケンス実行データを生成する。
続いて、プリスキャン実行部26bが、撮像条件設定部26aによって生成されたパルスシーケンスのシーケンス実行データに基づいて、プリスキャンを実行する(ステップS104)。
続いて、補正量算出部26cが、各プリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から位相ずれの量を補正量として算出する(ステップS106)。その後、シーケンス補正部26dが、補正量算出部26cにより算出された補正量に基づいて本スキャン用のシーケンス実行データを補正する(ステップS106)。
続いて、本スキャン実行部26eが、シーケンス補正部26dにより補正された本スキャン用のシーケンス実行データに基づいて、本スキャンを実行する(ステップS107)。そして、画像再構成部22が、本スキャンによって収集されたMR信号データから画像を再構成する(ステップS108)。
上述したように、第1の実施形態では、プリスキャン実行部26bが、プリスキャンを実行する。ここで、プリスキャンは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス方向傾斜磁場を印加し、補正量を算出するエコーの手前まで、本スキャン用のパルスシーケンスと同様に位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。例えば、プリスキャンは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場を印加し、本スキャン用のパルスシーケンスで印加される位相エンコード用傾斜磁場のうちの少なくとも一つをk空間中心近傍のエコーまで印加するものである。そして、補正量算出部26cが、プリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から、リードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場によって生じる位相ずれ(0次および1次)、位相エンコード用傾斜磁場によって生じる0次の位相ずれの量を補正量として算出する。また、シーケンス補正部26dが、補正量算出部26cにより算出された補正量に基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。したがって、第1の実施形態によればリードアウト用傾斜磁場、スライス選択用傾斜磁場の0次および1次の渦電流、位相エンコード用傾斜磁場の0次の渦電流によって生じる画質劣化を防ぐことができる。
また、第1の実施形態では、プリスキャン用のパルスシーケンスは、本スキャンにおいて位相エンコード用傾斜磁場がゼロになる期間と同じ期間又は該期間の近傍で収集されるエコー信号の手前まで、本スキャン用のパルスシーケンスと同様に位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。したがって、第1の実施形態によれば、画質に最も寄与するk空間の中心近傍に配置されるエコー信号の位相ずれが補正されるので、MRI装置100によって生成される画像の画質をより向上させることができる。
また、第1の実施形態の変形例として、プリスキャン実行部26bが、プリスキャンを複数回行うようにしてもよい。例えば、プリスキャン実行部26bは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様にリードアウト用傾斜磁場、スライス方向傾斜磁場を印加し、補正量を算出するエコーの手前まで、本スキャン用のパルスシーケンスと同様に位相エンコード用傾斜磁場を印加する第1のプリスキャンと、第1のプリスキャンで印加される位相エンコード用傾斜磁場と異なる位相エンコード用傾斜磁場を印加する第2のパルスシーケンスを用いた第2のプリスキャンとを実行する。
例えば、プリスキャン実行部26bは、第1のプリスキャンとして、複数ショットのうち、先頭エコーにおいて最大の位相エンコード用傾斜磁場を印加するショットの位相エンコード用傾斜磁場を印加し、第2のプリスキャンとして、先頭エコーにおいて最小の位相エンコード用傾斜磁場を印加するショットの位相エンコード用傾斜磁場を印加する。
図8は、第1の実施形態の変形例を説明するための図である。図8は、図5に示した位相エンコード方向の位相ずれのうち、1番目のエコー信号(Echo1)から4番目のエコー信号(Echo4)までの位相ずれを示している。図5と同様に、実線61は、エコー信号ごとの位相エンコード方向の0次の位相ずれを表しており、破線62は、位相エンコード用傾斜磁場の強度を表している。
例えば、図8に示す例では、複数のショットa,b,c,・・・,k,l,mが用いられる場合を示している。また、例えば、図8に示すように、複数のショットa,b,c,・・・,k,l,mのうち、1番目のエコー信号(Echo1)において、最大の位相エンコード用傾斜磁場を印加するショットはショットaであり、最小の位相エンコード用傾斜磁場を印加するショットはショットmであったとする。この場合には、プリスキャン実行部26bは、第1のプリスキャンとして、ショットaの位相エンコード(図8に示す三角の印を参照)を印加し、第2のプリスキャンとして、ショットmの位相エンコード(図8に示す黒い三角の印を参照)を印加する。
この場合には、補正量算出部26cは、例えば、第1のプリスキャンの位相差をp1、第2のプリスキャンの位相差をp2として、p1をショットaに対する補正量とし、p2をショットmに対する補正量とし、途中のショットに対する補正量は補間により求めてもよい。具体的には、ショット数をNとすると、i番目に位相エンコード用傾斜磁場が大きいショットに対する補正量は、p1+(p2−p1)*(i−1)/(N−1)となる。
図9Aは、従来のプリスキャンにより得られた画像の一例を示す図である。図9Bは、第1の実施形態におけるプリスキャンにより得られた画像の一例を示す図である。図9Aは、従来の位相エンコードを抜いたプリスキャンにより収集した画像の一例である。また、図9Bは、第1の実施形態のプリスキャンにより収集された画像の一例である。これらの図に示すように、第1の実施形態では、位相エンコード用傾斜磁場による0次の位相ずれによる信号低下が改善していることが分かる。
(第2の実施形態)
なお、第1の実施形態では、k空間の中心近傍に配置されるエコー信号の位相ずれを補正する場合について説明したが、MRI装置100の実施形態はこれに限られるものではない。そこで、以下では第2の実施形態として、複数のエコー信号の位相ずれを補正する場合について説明する。第2の実施形態に係るMRI装置の構成は、基本的には図1及び2に示したものと同じであるが、撮像条件設定部26a、プリスキャン実行部26b、補正量算出部26c、及びシーケンス補正部26dによって行われる処理が第1の実施形態と異なる。
第2の実施形態では、撮像条件設定部26aは、本スキャン用のパルスシーケンス、第1のプリスキャン用の第1のパルスシーケンス(図4に示したパルスシーケンス)に加えて、以下で説明する第2のプリスキャン用のパルスシーケンスについて、さらにシーケンス実行データを作成する。
図10は、第2の実施形態に係る第2のプリスキャン用の第2のパルスシーケンスを示す図である。第2のパルスシーケンスは、第1のプリスキャンで印加される位相エンコード用傾斜磁場と異なるエコー数分の位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。例えば、図10に示すように、第2のパルスシーケンスは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様の位相エンコード用傾斜磁場を、第1のプリスキャンより少ないエコー数分、印加するものである。なお、リードアウト用傾斜磁場及びスライス選択用傾斜磁場は、第1のプリスキャンと同じである。
例えば、図10に示すように、第2のパルスシーケンスは、3番目のエコー信号まで位相エンコード用傾斜磁場を印加するように設定される。
また、第2の実施形態では、プリスキャン実行部26bは、第1のプリスキャンに加えて、図10に示した第2のパルスシーケンスを用いた第2のプリスキャンをさらに実行する。
また、第2の実施形態では、補正量算出部26cは、第1のプリスキャンにより収集された複数のエコー信号から第1の位相ずれを算出する。また、補正量算出部26cは、第2のプリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から第2の位相ずれを算出する。そして、補正量算出部26cは、算出した第1の位相ずれと第2の位相ずれとから、複数のエコー信号に関する補正量を算出する。
例えば、図4に示した第1のパルスシーケンスと、図10に示した第2のパルスシーケンスとがそれぞれ実行されたとする。その場合には、補正量算出部26cは、図4に示した10番目のエコー信号Echo10と11番目のエコー信号Echo11との間の位相差p1と、図10に示した5番目のエコー信号Echo5と4番目のエコー信号Echo4との間の位相差p2とをそれぞれ算出する。
さらに、補正量算出部26cは、第1の位相ずれとしてp1を算出する。また、補正量算出部26cは、第2の位相ずれとしてp2を算出する。ここで、第1の位相ずれであるp1は、10番目のエコー信号Echo10における位相ずれdif10となる。また、第2の位相ずれであるp2は、4番目のエコー信号Echo4における位相ずれdif4となる。
そして、補正量算出部26cは、第1の位相ずれと第2の位相ずれとから、4番目及び10番目のエコー信号以外のエコー信号に関する補正量を算出する。例えば、本スキャンにおいて、10番目に収集されるエコー信号Echo10で位相エンコード用傾斜磁場がゼロになる場合には、エコー信号における位相ずれは、Echo10までは徐々に増加し、Echo10を超えると徐々に減少する。このことから、例えば、16番目のエコー信号における位相ずれdif16は、4番目のエコー信号Echo4における位相ずれdif4に等しいと仮定することができる。
そこで、補正量算出部26cは、本スキャンにおいて位相エンコード用傾斜磁場がゼロになるエコー信号を基準にして、そのエコー信号より前半に収集されたエコー信号における位相ずれから、後半に収集されるエコー信号における位相ずれを推計する。さらに、補正量算出部26cは、算出した各エコー信号における位相ずれを線形補間することで、複数のエコー信号における位相ずれを算出する。
図11は、第2の実施形態に係るシーケンス補正部26dによって行われる位相ずれの算出を説明するための図である。図11に示すように、例えば、シーケンス補正部26dは、10番目のエコー信号Echo10を基準にして、4番目のエコー信号Echo4における位相ずれdif4から16番目のエコー信号Echo16における位相ずれdif16を推計する。その後、補正量算出部26cは、エコー信号Echo4における位相ずれdif4、エコー信号Echo10における位相ずれdif10、エコー信号Echo16におけるdif16を線形補間することで、複数のエコー信号における位相ずれを算出する。
また、第2の実施形態では、シーケンス補正部26dは、補正量算出部26cにより算出された位相ずれに基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスにおいて各エコー信号に印加される位相エンコード方向の傾斜磁場の強度を補正する。このとき、例えば、シーケンス補正部26dは、各エコー信号における位相ずれがゼロになるように、各エコー信号で印加される位相エンコード用傾斜磁場の強度を変更する。または、シーケンス補正部26dは、リワインド用傾斜磁場の強度を変更することで、各エコー信号における位相ずれがゼロになるようにしてもよい。
上述してきたように、第2の実施形態では、プリスキャン実行部26bが、第2のプリスキャンをさらに実行する。ここで、第2のプリスキャンは、第1のプリスキャンで印加される位相エンコード用傾斜磁場と異なるエコー数分の位相エンコード用傾斜磁場を印加するものである。例えば、第2のプリスキャンは、本スキャン用のパルスシーケンスと同様の位相エンコード用傾斜磁場を、第1のプリスキャンより少ないエコー数分、印加するものである。また、補正量算出部26cが、第1のプリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差と第2のプリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差から第2の位相ずれを算出し、算出した第1の位相ずれと第2の位相ずれとから複数のエコー信号に関する位相ずれを算出する。そして、シーケンス補正部26dが、補正量算出部26cによりエコー信号ごとに算出された位相ずれに基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。したがって、第2の実施形態によれば、本スキャンによって収集される各エコー信号の位相ずれが補正されるので、画像劣化をより精度よく防ぐことができる。
なお、第2の実施形態では、本スキャンにおいて位相エンコード用傾斜磁場がゼロになるエコー信号を基準にして、そのエコー信号より前半に収集されたエコー信号における位相ずれから、後半に収集されるエコー信号における位相ずれを推計することとした。これに対し、さらに1回プリスキャンを行うことで、本スキャンにおいて位相エンコード用傾斜磁場がゼロになるエコー信号より後半に収集されるエコー信号における位相ずれを計測するようにしてもよい。これにより、位相エンコード方向の位相ずれによって生じる画像劣化をさらに精度よく防ぐことができるようになる。
なお、上記第1及び第2の実施形態では、1回の収集でk空間の全ての領域にエコー信号を配置する場合について説明した。これに対し、例えば、k空間が位相エンコード方向に複数の領域に分割され、複数回の収集によって複数のエコー信号がグループ分けされて収集される場合もある。そのような場合には、グループごとに位相ずれを算出し、グループごとに本スキャン用のパルスシーケンスを補正してもよい。
図12は、第1及び第2の実施形態の変形例を説明するための図である。図12は、位相エンコード方向に沿ったk空間を示しており、k空間が3つの領域に分割される場合の一例を示している。なお、図12に示す矢印は、k空間の中心を示している。ここで、例えば、エコー信号が2つのグループGr1及びGr2にグループ分けされて収集されるとする。その場合には、例えば、図12に示すように、真ん中の領域に対して、グループGr1のエコー信号が位相エンコード方向に順番に配置される。また、両側の領域のうち一方の側の領域に対して、グループGr2のエコー信号のうち前半に収集されたエコー信号が順番に配置され、他方の側の領域に対して、グループGr2のエコー信号のうち後半に収集されたエコー信号が順番に配置される。
このような場合には、例えば、補正量算出部26cが、グループごとに補正量を算出してもよい。また、その場合には、シーケンス補正部26dが、グループごとに本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。なお、例えば、補正量算出部26cがいずれか1つのグループについて補正量を算出し、シーケンス補正部26dが、全てのグループについて、同じ補正量に基づいて本スキャン用のパルスシーケンスを補正するようにしてもよい。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、k空間の中心が先頭エコーである場合のエコー信号の収集及び補正の例を説明する。第3の実施形態では、プリスキャン実行部26bが、プリスキャンとして、少なくとも1つの位相エンコード用傾斜磁場を印加する。図13は、第3の実施形態に係るプリスキャン用のパルスシーケンスを示す図である。図13に示すように、例えば、プリスキャン実行部26bは、2番目のエコー信号まで位相エンコード用傾斜磁場を印加し、3番目以降のエコー信号を補正量の算出に用いる。
図14は、第3の実施形態に係るエコー信号の収集を説明するための図である。図14に示すように、通常、k空間の中心が先頭エコーの場合には、k空間を2つのGrに分割してエコー信号が収集される。このような場合には、プリスキャン実行部26bは、第1のプリスキャンとして、Gr1の代表的な位相エンコード用傾斜磁場を印加し、第2のプリスキャンとして、Gr2の代表的な位相エンコード用傾斜磁場を印加する。そして、補正量算出部26cが、第1及び第2の実施形態と同様に、各プリスキャンの複数エコーの位相差から補正量を算出する。
なお、プリスキャンで使用するパルスシーケンスは、本スキャンで使用するプリパルスなどの傾斜磁場を同様に印加する。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態として、第1〜第3の実施形態を3D収集シーケンスのスライスエンコードによる位相ずれを考慮したプリスキャンと併用する場合の例を説明する。図15は、第4の実施形態に係る第2のプリスキャン用の第2のパルスシーケンスを示す図である。第4の実施形態では、プリスキャン実行部26bが、図4に示した第1のパルスシーケンスを用いた第1のプリスキャンと、図15に示す第2のパルスシーケンスを用いた第2のプリスキャンを実行する。
ここで、例えば、第1のパルスシーケンスは、第1の実施形態と同様に、本スキャンの代表的な位相エンコード用傾斜磁場をk空間中心の近傍のエコーの手前まで印加するものである。また、第2のパルスシーケンスは、第1のプリスキャンで印加される位相エンコード用傾斜磁場に加えて、本スキャン用の少なくとも一つのスライスエンコード用傾斜磁場を印加するものである。例えば、第2のパルスシーケンスは、本スキャン用のパルスシーケンスで印加されるスライスエンコード用傾斜磁場の中で、代表的なスライスエンコード用傾斜磁場を印加するものである。
そして、第4の実施形態では、補正量算出部26cが、第1のプリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差と第2のプリスキャンにより収集された複数のエコー信号における位相差とから、スライスエンコード用傾斜磁場によってスライスエンコード方向に生じる位相ずれを補正量として算出する。また、シーケンス補正部26dが、補正量算出部26cにより算出された補正量に基づいて、本スキャン用のパルスシーケンスを補正する。したがって、第4の実施形態によれば、スライスエンコード方向の位相ずれによって生じる画像劣化も防ぐことができる。
例えば、スライスエンコード数(スライス枚数)が64の場合、スライスエンコードステップは−32〜31となるが、例えば、第2のパルスシーケンスで、−32のスライスエンコードを印加し、第1のプリスキャンのEcho10とEcho11の位相差(1次または0次)をs1、第2のプリスキャンのEcho10とEcho11の位相差をs2とすると、i番目のスライスエンコードによる位相差は(s2−s1)*(−i)/32で求められる。180度パルスの位相を補正することで、スライスエンコードによる位相ずれを補正することができる。また、上記でプリスキャンの数を増やすことで(例えば+31のスライスエンコードを印加する)、精度を向上させることができる。
以上説明したとおり、第1〜第4の実施形態によれば、位相エンコード傾斜磁場の0次の位相ずれによって生じる画像劣化を防ぐことができる。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。上記第1〜第4の実施形態によれば、位相エンコード傾斜磁場の0次の位相ずれによって生じる画像劣化を防ぐことができるが、プリスキャンで位相エンコード傾斜磁場を印可することによって、撮像に用いられるRFコイルや撮像領域に依存して位相補正量が正しく求められず、画質を悪化させる場合もあり得る。
図16は、第5の実施形態に係るMRI装置を説明するための図である。図16は、Z軸方向を位相エンコード方向として腰椎のサジタル断面を撮像する場合の例を示している。また、図16に示す例では、RFコイルとしてフェイズドアレイコイル(Phased Array Coil:PAC)が用いられ、PACコイルに含まれる4つのコイルエレメントがZ軸方向に並べられている。この例において、上記実施形態のように、位相エンコード傾斜磁場を印可すると、Z方向に1次の位相ずれが発生する。しかし、上記実施形態では、位相エンコード方向にサンプリングを行っていないため、位相エンコード方向の1次位相ずれを算出及び補正することはできない。
ここで、従来の方法によって、RFコイルごとに位相補正量を求めると、図16に示すように、4つのコイルエレメントに接続されたチャンネルch1〜ch4で、0次の位相ずれp1〜p4がそれぞれ求められる。この場合には、例えば、補正対象となる0次の位相ずれ量は、p1〜p4の平均で求めたり、コイルエレメントの信号強度で重み付けをした平均を採用したりするなどの方法がある。しかし、例えば、p1が−170度となり、p3が180度近傍で178度となる場合やー182度となる場合には、Unwrap処理を適切に行うことができない。また、RFコイルの種類によっては、位相を正しく算出することができないものもあり、コイルエレメントごとに位相を求める方法は、必ずしも適切に行われない場合がある。
一方、コイルエレメントごとに位相を求める代わりに、最大信号を検出したコイルエレメントのデータを使うという方法もある。しかし、この方法では、ch1又はch4が最大信号検出した場合には、そのコイルエレメント近傍の画質は改善されるが、そのコイルエレメントから離れると、極端に画質劣化が引き起こされる。
このような課題を解決するため、第5の実施形態では、MRI装置100は、全てのコイルエレメントのデータを加算して一つの位相補正量を算出する。具体的には、補正量算出部26cが、以下のように、プリスキャンにより複数のエレメントを介して収集された複数のエコー信号を加算して、本スキャンで収集される複数のエコー信号における位相差を補正するための一つの位相補正量を算出する。
例えば、算出する位相補正量として、1次(傾斜)位相角(rad)をθ1とし、i番目のスライスの0次(オフセット)位相角(rad)をθ0,iとする。そして、リードアウトのポイント数をN、エコー数をM、スライス枚数をNS(0≦i<NS)、PACチャンネル数をL(0≦l<L)、プリスキャンデータをP(x,i,l)(ただし、1Dフーリエ変換後の複素データ:0≦x<N)、1次位相を求めるための点数(例えば、4点)をdxxとすると、θ1及びθ0,iは、以下に示す式(1)及び式(2)で求められる。
補正量算出部26cは、上記の式(1)及び式(2)を用いて、位相補正量としてθ1及びθ0,iを算出する。この方法によれば、コイルエレメントごとのSNR(Signal-to-Noise Ratio)の差、及び、位相の差の影響を受けない、撮像対象内で平均的な補正量を求めることが可能になる。なお、この方法は、位相エンコード傾斜磁場を印可しない、従来のプリスキャンに対しても有効である。
上記第5の実施形態によれば、コイルエレメントによらずに安定して位相補正量を得ることができ、画質劣化を防ぐことができる。
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。上記第5の実施形態では、位相算出の際に、リードアウト方向の全てのデータを使用した。しかし、例えば、位相算出に用いるデータを操作者が指定したFOV(Field Of View:撮像領域)内のデータに絞ってもよい。
図17は、第6の実施形態に係るMRI装置を説明するための図である。図17は、X軸方向をリードアウト方向として手首のアキシャル断面を撮像する場合の例を示している。図17において、実線で示す範囲は、操作者によって指定されたFOVを示しており、点線で示す範囲は、NoWrapを加味したFOVである。
ここで、NoWrapとは、撮影プラン時に操作者によって設定されたFOVよりも広いFOVを展開FOVとして設定し、アンフォールド処理によって展開FOVの画像を生成した後に、操作者によって設定されたFOVの画像を展開FOVの画像から切り出して表示することで、折り返しアーチファクトを低減させる機能である。
図17に示すように、例えば、X軸方向の中心から離れた位置では非線形な位相ずれが発生する場合がある(図17下側の図を参照)。このような場合に、リードアウト方向の全てのデータを使用すると、操作者によって指定されたFOV外のデータも位相算出時に寄与してしまい、位相補正量が正確に求められない。
このような課題を解決するため、第6の実施形態では、MRI装置100は、リードアウト方向の計算対象領域を、操作者によって指定されたFOV内に限定する。具体的には、補正量算出部26cが、以下のように、プリスキャンにより収集された複数のエコー信号のうち、操作者によってリードアウト方向に指定されたFOV内のデータを用いて、本スキャンで収集される複数のエコー信号における位相差を補正するための位相補正量を算出する。
例えば、操作者によって指定されたFOVをFu、NoWrapを加味したFOVをFn、リードアウトの計算開始ポイント数をNstart、リードアウトの計算終了ポイント数をNendとすると、Nstartは、以下に示す式(3)及び式(4)で求められる。
Nstart=N*(1−Nu/Nf)/2 ・・・式(3)
Nend=N−Nstart ・・・式(4)
補正量算出部26cは、式(3)及び式(4)を用いてNstart及びNend−1を算出した後に、式(1)及び式(2)におけるxの加算を、NstartからNend−1まで行う。この方法によれば、操作者によって指定されたFOVの内側と外側とで位相が異なる振る舞いをする場合に、位相補正量算出におけるFOV外のデータの影響を取り除くことができる。なお、この方法は、従来のプリスキャンに対しても有効である。
上記第6の実施形態によれば、撮像領域によらずに安定して位相補正量を得ることができ、画質劣化を防ぐことができる。
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態について説明する。上記第6の実施形態では、位相算出の際に、リードアウト方向のデータを操作者が指定したFOV内のデータに絞った。しかし、例えば、リードアウト方向がZ軸方向であった場合には、静磁場不均一の影響を受けることもある。そこで、位相算出の際に、リードアウト方向のデータを静磁場不均一の影響が小さい範囲内のデータに絞ってもよい。
図18は、第7の実施形態に係るMRI装置を説明するための図である。図18は、Z軸方向をリードアウト方向として腹部を撮像する場合の例を示している。Z軸方向の中心から離れた位置では非線形の位相ずれが発生し(図18中段の図を参照)、かつ、磁場不均一性の影響で信号強度が強くなる場合がある(図18下段の図を参照)。このような場合に、リードアウト方向の全てのデータを使用すると、Z軸方向の中心から離れた位置のデータが位相算出時に強く影響してしまい、補正量が正確に求められない。
このような課題を解決するため、第7の実施形態では、MRI装置100は、リード方向の計算対象領域を、少なくともシステムが補償するZ軸方向のFOVに限定する。具体的には、補正量算出部26cが、プリスキャンにより収集された複数のエコー信号のうち、少なくとも静磁場均一性が補償された範囲内のデータを用いて、本スキャンで収集される複数のエコー信号における位相差を補正するための位相補正量を算出する。例えば、補正量算出部26cは、システムが補償するZ軸方向のFOVの半分の領域(図18の点線で囲んだ領域)のデータを用いて、位相補正量を算出する。この方法によれば、位相補正量算出における静磁場不均一の影響を取り除くことができる。なお、この方法は、従来のプリスキャンに対しても有効である。
上記第7の実施形態によれば、静磁場不均一によらずに安定して位相補正量を得ることができ、画質劣化を防ぐことができる。
以上説明したとおり、第1〜第7の実施形態によれば、エコー信号の位相ずれによって生じる画像劣化を防ぐことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。